特許第6568905号(P6568905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568905
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】レンズおよびカメラ
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20190819BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   G02B13/00
   G02B13/18
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-148170(P2017-148170)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-28294(P2019-28294A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】由利 宗大
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−137540(JP,A)
【文献】 特開平5−113537(JP,A)
【文献】 特開2010−256608(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/027690(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/004467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 − 17/08
G02B 21/02 − 21/04
G02B 25/00 − 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体から撮像素子に向けて順に配置された、
正の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第1面が凸面であり前記撮像素子に向かい合う第2面が平面である第1レンズ素子と、
開口を有する開口絞りと、
負の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第3面および前記撮像素子に向かい合う第4面はそれぞれ凹面である第2レンズ素子と、
正の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第5面および前記撮像素子に向かい合う第6面はそれぞれ凸面である第3レンズ素子と、
正の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第7面が凸面であり前記撮像素子に向かい合う第8面が凹面である第4レンズ素子と、
負の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第9面が凸面であり前記撮像素子に向かい合う第10面が凹面である第5レンズ素子と、からなり、
前記第1レンズ素子の前記第1面の第1曲率半径の絶対値が8.418965(mm)、前記第2面の第2曲率半径の絶対値が∞であり、
前記第2レンズ素子の前記第3面の第3曲率半径の絶対値が4.1556(mm)、前記第4面の第4曲率半径の絶対値が5.876304(mm)であり、
前記第3レンズ素子の前記第5面の第5曲率半径の絶対値が5.876304(mm)、前記第6面の第6曲率半径の絶対値が3.9075(mm)であり、
前記第4レンズ素子の前記第7面の第7曲率半径の絶対値が4.6(mm)、前記第8面の第8曲率半径の絶対値が36(mm)であり、
前記第5レンズ素子の前記第9面の第9曲率半径の絶対値が51.51849(mm)、前記第10面の第10曲率半径の絶対値が5.7(mm)であり、
前記第3レンズ素子の前記撮像素子に向かい合う前記第6面の絶対値で表した曲率半径R1とレンズ全系の焦点距離fとが、R1/f≦0.74を満たす、
レンズ。
【請求項2】
前記第5レンズ素子の前記撮像素子に向かい合う前記第10面の絶対値で表した曲率半径R2が、R2/f≧0.81を満たす、
請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記第4レンズ素子および前記第5レンズ素子が、樹脂から構成され、
前記第4レンズ素子の両面又は片面が、非球面で構成され、
前記第5レンズ素子の両面又は片面が、非球面で構成される、
請求項1または2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記第2レンズ素子は、前記第3レンズ素子に接合され、
前記第3レンズ素子は、前記第2レンズ素子を構成するガラスよりアッベ数が大きいガラスから構成される、
請求項1から3の何れか1項に記載のレンズ。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のレンズと、
前記レンズにより撮像面に被写体像が結像される撮像素子と、
を備えるカメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズおよびカメラに関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のカメラを用いた運転支援システムの開発が進められている。運転支援システムの一例として、特許文献1は、車載用のカメラによって撮像された画像から車線位置を検出する車線認識装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−264714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載用カメラが撮像した画像にモアレなどの偽解像が発生すると、特許文献1が開示する車線認識装置では、車線位置を正確に検出できない虞がある。車線位置以外のものを検出する運転支援システムであっても、カメラで撮像した画像にモアレが発生すると、正常に動作しない虞がある。このため、撮像した画像にモアレなどの偽解像が発生しにくいレンズおよびカメラが求められている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、偽解像の発生が少ないレンズおよびカメラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るレンズは、
被写体から撮像素子に向けて順に配置された、
正の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第1面が凸面であり前記撮像素子に向かい合う第2面が平面である第1レンズ素子と、
開口を有する開口絞りと、
負の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第3面および前記撮像素子に向かい合う第4面はそれぞれ凹面である第2レンズ素子と、
正の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第5面および前記撮像素子に向かい合う第6面はそれぞれ凸面である第3レンズ素子と、
正の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第7面が凸面であり前記撮像素子に向かい合う第8面が凹面である第4レンズ素子と、
負の屈折力を有し、前記被写体に向かい合う第9面が凸面であり前記撮像素子に向かい合う第10面が凹面である第5レンズ素子と、からなり、
前記第1レンズ素子の前記第1面の第1曲率半径の絶対値が8.418965(mm)、前記第2面の第2曲率半径の絶対値が∞であり、
前記第2レンズ素子の前記第3面の第3曲率半径の絶対値が4.1556(mm)、前記第4面の第4曲率半径の絶対値が5.876304(mm)であり、
前記第3レンズ素子の前記第5面の第5曲率半径の絶対値が5.876304(mm)、前記第6面の第6曲率半径の絶対値が3.9075(mm)であり、
前記第4レンズ素子の前記第7面の第7曲率半径の絶対値が4.6(mm)、前記第8面の第8曲率半径の絶対値が36(mm)であり、
前記第5レンズ素子の前記第9面の第9曲率半径の絶対値が51.51849(mm)、前記第10面の第10曲率半径の絶対値が5.7(mm)であり、
前記第3レンズ素子の前記撮像素子に向かい合う前記第6面の絶対値で表した曲率半径R1とレンズ全系の焦点距離fとが、R1/f≦0.74を満たす。
【0007】
このようにすることで、レンズの球面収差が大きくなり、撮像した画像に発生するモアレなどの偽解像を抑制することができる。
【0008】
前記第5レンズ素子の前記撮像素子に向かい合う前記第10面の絶対値で表した曲率半径R2が、R2/f≧0.81を満たすとよい。
このようにすることで、第5レンズ素子の撮像素子に向かい合う面による乱反射が少なくなり、撮像した画像にゴーストが発生しにくくなる。
【0009】
前記第4レンズ素子および前記第5レンズ素子が、樹脂から構成され、
前記第4レンズ素子の両面又は片面が、非球面で構成され、
前記第5レンズ素子の両面又は片面が、非球面で構成されるとよい。
このようにすることで、少ないレンズ枚数で良好な画像を得ることができる。
【0010】
前記第2レンズ素子は、前記第3レンズ素子に接合され、
前記第3レンズ素子は、前記第2レンズ素子を構成するガラスよりアッベ数が大きいガラスから構成されるとよい。
このようにすることで、色収差を補正することができる。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係るカメラは、
前記レンズと、
前記レンズにより撮像面に被写体像が結像される撮像素子と、
を備える。
このようにすることで、偽解像の発生が少ないカメラが得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レンズの球面収差が大きくなり、撮像した画像に発生するモアレなどの偽解像を抑制することができる。従って、偽解像の発生が少ないレンズおよびカメラを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係るカメラを示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るレンズの球面収差を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係るレンズのナイキスト周波数におけるMTFを示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係るレンズのハーフナイキスト周波数におけるMTFを示す図である。
図5】比較例に係るカメラを示す断面図である。
図6】比較例に係るレンズの球面収差を示す図である。
図7】比較例に係るレンズのナイキスト周波数におけるMTFを示す図である。
図8】比較例に係るレンズのハーフナイキスト周波数におけるMTFを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態に係るレンズを、車載用のカメラに備えられるレンズを例に図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本発明の実施の形態に係るカメラ100は、図1に示すように、第1〜第5レンズ素子10〜50からなるレンズ110と、レンズ110により撮像面に被写体像が結像される撮像素子120と、絞り70と、レンズ110と撮像素子120と絞り70とを収容するハウジング130と、を備える。カメラ100は、車載カメラとして用いられるものである。カメラ100が撮像した画像は、車線位置を検出する運転支援システムなどで用いられる。なお、レンズ110は、レンズ全系の焦点距離fを有する。
【0016】
撮像素子120は、レンズ110により撮像面に結像された被写体像を電気信号に変換する。撮像素子120は、被写体像を電気信号に変換するものであれば特に限定されず、例えばCCD(Charge-Coupled Device)型イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型イメージセンサ等から構成される。撮像素子120の撮像面には、平板状のガラスフィルタ60が配置されている。ガラスフィルタ60は、ローパスフィルタ、赤外線カットフィルタなどから構成される。
【0017】
ハウジング130内には、被写体から撮像素子120に向けて順に、第1レンズ素子10、絞り70、第2レンズ素子20、第3レンズ素子30、第4レンズ素子40、第5レンズ素子50が、配置されている。
【0018】
第1レンズ素子10は、ガラスから構成され、正の屈折力を有する。第1レンズ素子10の被写体に向かい合う面11が凸面であり、撮像素子120に向かい合う面12が平面である。面11は、球面として成形される。
【0019】
絞り70は、開口部71を有する非透光性の樹脂から構成され、第1レンズ素子10と第2レンズ素子20の間に配置される。絞り70は、レンズ110のF値を決定するものである。なお、F値はレンズの明るさを示す指標である。
【0020】
第2レンズ素子20は、ガラスから構成され、負の屈折力を有する。第2レンズ素子20の被写体の向かい合う面21および撮像素子120に向かい合う面22は、それぞれ凹面である。面21および面22は、球面として成形される。
【0021】
第3レンズ素子30は、ガラスから構成され、正の屈折力を有する。第3レンズ素子30の被写体に向かい合う面31および撮像素子120に向かい合う面32は、それぞれ凸面である。面31および面32は、球面として形成される。第3レンズ素子30の面32の曲率半径R1は、R1/f≦0.74を満たす。好ましくは、曲率半径R1/f≦0.70である。第3レンズ素子30の面31は、第2レンズ素子20の面22に接合される。第3レンズ素子30には、色収差を補正するため、第2レンズ素子20に用いられるガラスより分散が小さい(アッベ数が大きい)ガラスが用いられる。第3レンズ素子のアッベ数vd3は、第2レンズ素子のアッベ数vd2より15以上大きいことが好ましい。
【0022】
第4レンズ素子40は、樹脂から構成され、正の屈折力を有する凸メニスカスレンズである。第4レンズ素子40の被写体に向かい合う面41は、凸面であり、撮像素子120に向かい合う面42は、凹面である。面41および面42は、非球面として形成される。
【0023】
第5レンズ素子50は、樹脂から構成され、負の屈折力を有する凹メニスカスレンズである。第5レンズ素子50の被写体に向かい合う面51は、凸面であり、撮像素子120に向かい合う面52は、凹面である。面51および面52は、非球面として形成される。第5レンズ素子50は、温度変化により収縮膨張による焦点のずれを打ち消すために、第4レンズ素子40が正の屈折力を有するのに対し、負の屈折力を有する構成とした。第5レンズ素子の面52の曲率半径R2は、R2/f≧0.81を満たす。
【0024】
次に、上記構成を有するレンズ110の具体的な数値による実施例をカメラ100に用いた例を以下に示す。
【0025】
物体距離:∞
レンズ全系の焦点距離f:5.6775(mm)
F値:2.5
画角:60°
バックフォーカス:2.354(mm)
第1レンズ素子10の面11から撮像素子120の撮像面までの光軸L上における距離TL:11.804(mm)
レンズの光線通過高さ
第1レンズ素子10の面11:2.838937(mm)
第1レンズ素子10の面12:2.122587(mm)
絞り70:2.122587(mm)
第2レンズ素子20の面21:2.494089(mm)
第2レンズ素子20の面22および第3レンズ素子30の面31:3.280028(mm)
第3レンズ素子30の面32:5.094437(mm)
第4レンズ素子40の面41:5.570987(mm)
第4レンズ素子40の面42:5.402969(mm)
第5レンズ素子50の面51:5.55459(mm)
第5レンズ素子50の面52:5.333573(mm)
カメラ100の撮像素子120の1mmあたりの画素数:238画素
撮像素子120の撮像面の縦の長さ:5.376(mm)、横の長さ:3.024(mm)
【0026】
第1レンズ素子10の屈折率nd1=2.000704、アッベ数vd1=25.45838、面11の曲率半径R11=8.418965(mm)、面12の曲率半径R12=∞、直径=3.239197(mm)、面11と面12との光軸L上の距離D1=1.1(mm)
【0027】
絞り70の開口部71の直径R71=2.122587(mm)
【0028】
第2レンズ素子20の屈折率nd2=2.000704、アッベ数vd2=25.45838、面21の曲率半径R21=4.1556(mm)、面22の曲率半径R22=5.876304(mm)、直径=5.094437、面12と面21との光軸L上の距離D2=0.9(mm)、面21と面22との光軸L上の距離D3=0.9(mm)
【0029】
第3レンズ素子30の屈折率nd3=1.83482、アッベ数vd3=42.72179、面31の曲率半径R31=5.876304(mm)、面32の曲率半径R1=3.9075(mm)、直径=5.384144(mm)、面31と面32との光軸L上の距離D4=2.75(mm)、R1/f=0.68824
【0030】
第4レンズ素子40の屈折率nd4=1.525338、アッベ数vd4=56.28929、面41の曲率半径R41=4.6(mm)(非球面)、面42の曲率半径R42=36(mm)(非球面)、直径=5.861712、面32と面41との光軸L上の距離D5=0.2(mm)、面41と面42との光軸L上の距離D6=1.5(mm)
【0031】
第5レンズ素子50の屈折率nd5=1.63518、アッベ数vd5=23.96382、面51の曲率半径R51=51.51849(mm)(非球面)、面52の曲率半径R2=5.7(mm)(非球面)、直径=5.878445(mm)、面42と面51との光軸L上の距離D7=0.8(mm)、面51と面52との光軸L上の距離D8=1.3(mm)、R2/f=1.00
【0032】
ガラスフィルタ70の屈折率nd6=1.516798、アッベ数vd6=64.19826、面61の曲率半径R61=∞、面62の曲率半径R62=∞、面52と面61との光軸L上の距離D9=2.045(mm)、面61と面62との光軸L上の距離D10=0.5(mm)
【0033】
非球面係数の数値データ
第4レンズ素子40の面41:
ε=1.0000000、D=−0.000640、E=0、F=0、G=0
第4レンズ素子40の面42:
ε=1.0000000、D=0.00469、E=0、F=0、G=0
第5レンズ素子50の面51:
ε=1.0000000、D=0.005338、E=−0.00027、F=8.71×10−6、G=0
第5レンズ素子50の面52:
ε=1.0000000、D=0.002944、E=−0.00047、F=2.33×10−5、G=0
【0034】
上記実施例のレンズ110における球面収差を図2に示す。ナイキスト周波数におけるレンズ110のMTF(Modulation Transfer Function)を図3、ハーフナイキスト周波数におけるMTFを図4に示す。画素ピッチaとすると、ナイキスト周波数は、1/(a×2)で得られる。撮像素子120の1mmあたりの画素数は238画素であるので、画素ピッチaは、1mm/238=0.0042mm=4.2μmである。ナイキスト周波数は、1/(a×2)=119mm−1となる。ハーフナイキスト周波数は、ナイキスト周波数の半分の値であり、59.5mm−1である。球面収差は、436nm、588nm、546nm、486nm、656nmの波長の光それぞれについて示している。レンズ110の球面収差は、−0.06から0.06の間に分布しており、後述する比較例に比べて、球面収差が大きいことが示されている。MTFは、レンズ110の結像性能を知るために、被写体の持つコントラストをどの程度忠実に再現できるかを空間周波数特性として表現したものである。ナイキスト周波数でMTFの最大値が0.4を超えると、モアレなどの偽解像の発生原因となるが、ハーフナイキスト周波数でのMTFの値は大きくても、モアレなどの偽解像の発生原因となりにくい。レンズ110の球面収差が大きいため、実施例のレンズ110では、ナイキスト周波数においてMTFの値の最大値は、0.4となる。ハーフナイキスト周波数では、MTFは0.6を超えており、結像性能が保たれていることがわかる。
【0035】
つぎに、実施例のレンズ110における、それぞれの面での球面収差を以下に示す。
第1レンズ素子10の面11による球面収差は、0.000697であり、面12による球面収差は、0.001956である。第2レンズ素子20の面21による球面収差は、−0.019333であり、面22による球面収差は、−0.002226である。第3レンズ素子30の面31による球面収差は、−0.002226であり、面32による球面収差は、0.034403である。第4レンズ素子40の面41の球面収差は、−0.004751であり、面42の球面収差は、−0.006053である。第5レンズ素子50の面51の球面収差は、0.000394であり、面52の球面収差は、−0.000133である。なお、ここでの球面収差は、波長0.5876の光によるものである。以上から、実施例のレンズ110では、第3レンズ素子の面32による球面収差が最も大きいことがわかる。これは、面32の曲率半径R1が、R1/f=0.68824≦0.74を満たすためであると考えられる。従って、面32による球面収差が大きいことが、レンズ110全体での球面収差が大きいことに寄与していると考えられる。
【0036】
以上のように、本実施の形態のレンズ110によれば、第3レンズ素子30の面32の曲率半径R1が、R1/f≦0.74を満たすことで、レンズ全系による球面収差を大きくし、ナイキスト周波数においてMTFの値を0.4以下にしつつ、ハーフナイキスト周波数ではMTFの値が0.6を超える。レンズ110は、ハーフナイキスト周波数では、MTFの値が0.6を超えており、結像性能が保たれている。また、ナイキスト周波数においてMTFの値を0.4以下にできるため、レンズ110を備えるカメラ100は、モアレなどの偽解像の発生が少ない画像を撮像できる。また、正の屈折力を有する第3レンズ素子30には、負の屈折力を有する第2レンズ素子20に用いられるガラスよりアッベ数が大きいガラスが用いられる。これにより、色収差(軸上色収差と倍率色収差)を補正できる。また、第4レンズ素子40と第5レンズ素子50とが樹脂製の非球面レンズで構成されるため、レンズ110の大きさを小さくでき、レンズ110を低コストで作成できる。また、第4レンズ素子40が正の屈折力を有し、第5レンズ素子50が負の屈折力を有することで、温度変化により収縮膨張による焦点のずれを打ち消す構成とした。これにより、温度変化による焦点のずれを少なくできる。また、第5レンズ素子50の面52の曲率半径R2が、R2/f=1.00≧0.81を満たすことで、ゴーストの発生を防ぐことができる。従って、偽解像の発生が少ないレンズ110およびカメラ100を提供することができる。従って、カメラ100が撮像した画像を運転支援システムなどで用いたとしても、運転支援システムの認識に悪影響を及ぼしにくい。
【0037】
つぎに、第3レンズ素子30の面32の曲率半径R1が、R1/f≦0.74を満たさない比較例について説明する。比較例に係るレンズ110’は、図5に示すように、第1〜第5レンズ素子10’〜50’を備える。レンズ110’の具体的な数値を以下に示す。なお、面11’および面12’は、凸面である。面21’および面22’は、凹面である。面31’および面32’は凸面である。面41’および面42’は、凸面である。面51’および面52’は、凹面である。
【0038】
レンズ全系の焦点距離f’=5.6779(mm)
バックフォーカス=2.513(mm)
レンズの光線通過高さ
第1レンズ素子10’の面11’:3.64(mm)
第1レンズ素子10’の面12’:2.89(mm)
絞り70:2.28(mm)
第2レンズ素子20’の面21’:2.80(mm)
第2レンズ素子20’の面22’および第3レンズ素子30’の面31’:5.06(mm)
第3レンズ素子30’の面32’:5.06(mm)
第4レンズ素子40’の面41’:5.86(mm)
第4レンズ素子40’の面42’:5.56(mm)
第5レンズ素子50’の面51’:5.56(mm)
第5レンズ素子50’の面52’:5.53(mm)
第1レンズ素子10’の面11’から撮像素子120の撮像面までの光軸L上における距離TL’=12.143(mm)
【0039】
第1レンズ素子10’面11’の曲率半径R11’=8.773973(mm)、面12’の曲率半径R12’=21.8172、直径=3.639264(mm)、面11’と面12’との光軸L上の距離D1’=1.2(mm)
【0040】
第2レンズ素子20’の面21’の曲率半径R21’=4.91556(mm)、面22’の曲率半径R22’=4.163448(mm)、直径=5.064、面12’と面21’との光軸L上の距離D2’=0.16(mm)、面21’と面22’との光軸L上の距離D3’=0.47(mm)
【0041】
第3レンズ素子30’の面31’の曲率半径R31’=4.163448(mm)、面32’の曲率半径R1’=4.49221(mm)、直径=5.064(mm)、面31’と面32’との光軸L上の距離D4’=4.53(mm)、R1’/f’=0.79123
【0042】
第4レンズ素子40’の面41’の曲率半径R41’=4.548263(mm)(非球面)、面42’の曲率半径R42’=29.4906(mm)(非球面)、直径=5.856791、面32’と面41’との光軸L上の距離D5’=0.1(mm)、面41’と面42’との光軸L上の距離D6’=1.4(mm)
【0043】
第5レンズ素子50’の面51’の曲率半径R51’=13.6791(mm)(非球面)、面52’の曲率半径R2’=5.211373(mm)(非球面)、直径=5.562205(mm)、面42’と面51’との光軸L上の距離D7’=0.8(mm)、面51’と面52’との光軸L上の距離D8’=0.52(mm)
【0044】
ガラスフィルタ60の面61の曲率半径R61=∞、面62の曲率半径R62=∞、面52と面61との光軸L上の距離D9’=2.193(mm)、面61と面62との光軸L上の距離D10’=0.4(mm)
【0045】
非球面係数の数値データ
第4レンズ素子40’の面41’:
ε=1.0000000、D=−0.00057、E=5.04×10−5、F=4.03×10−5、G=0
第4レンズ素子40’の面42’:
ε=1.0000000、D=0.005623、E=−0.0001、F=7.95×10−5、G=0
第5レンズ素子50’の面51’:
ε=1.0000000、D=0.004226、E=−0.00034、F=2.86×10−5、G=0
第5レンズ素子50’の面52’:
ε=1.0000000、D=−0.00125、E=−0.00059、F=6.25×10−5、G=0
【0046】
比較例におけるレンズ110’の物体距離、F値、画角、絞り70の開口部71の直径R71、および第1から第5レンズ素子10’〜50’の屈折率およびアッベ数、は、実施例のレンズ110と同じである。比較例のカメラ100’の撮像素子120の1mmあたりの画素数は、実施例のカメラ100の撮像素子の1mmあたりの画素数と同じである。
【0047】
比較例のレンズ110’における球面収差を図6に示す。ナイキスト周波数におけるMTFを図7に示し、ハーフナイキスト周波数におけるMTFを図8に示す。比較例のレンズ110’の面32’の曲率半径R1’は、4.49221mmである。このため、R1’/f’=0.79123であり、R1’/f’≦0.74を満たしていない。比較例のレンズ110’の球面収差は、−0.005から0.04の間に分布しており球面収差が小さいことが示されている。比較例のレンズ110’のナイキスト周波数におけるMTFの最大値は、0.6である。ハーフナイキスト周波数におけるMTFの最大値は、ほぼ0.8である。このレンズ110’をカメラ100’に用いると、MTFの最大値がナイキスト周波数において、0.4を超えるので、偽解像が発生する虞がある。
【0048】
(変形例)
上述の実施の形態において、レンズ110が、第1から第3レンズ素子10〜30がガラスから構成される球面レンズを有し、第4および第5レンズ素子40、50が樹脂から構成される非球面レンズを有する例について説明した。レンズ110が備える第1〜第5レンズ素子で用いられるレンズの面は、球面、平面、あるいは非球面で形成されてもよい。また、第4および第5レンズ素子40、50は、片面が非球面レンズから構成されてもよい。レンズの面が球面又は平面の場合、レンズの加工及び組立調整が容易になり、加工及び組立調整の誤差による光学性能の劣化を防げるので好ましい。レンズの面が非球面の場合、研削加工による非球面、ガラスまたは樹脂を型で非球面形状に形成したモールド非球面、ガラスの表面に樹脂を非球面形状に形成した複合型非球面のいずれの非球面でも構わない。また、必要に応じて、レンズの面は回折面としてもよく、レンズを屈折率分布型レンズ等としてもよい。また、レンズ全系において、使用時等に外部に晒される面には、必要に応じて様々な加工を施すことも可能である。この加工の例としては、レンズ本体の曇り防止や水滴形成防止のために表面部を光触媒等により親水化すること等が挙げられる。また、第1から第5レンズ素子10〜50は、それぞれ1枚のレンズから構成されてもよく、複数のレンズを組み合わせて一つのレンズ素子としてもよい。
【0049】
上述の実施の形態において、レンズ110が有する第2レンズ素子20と第3レンズ素子30とが接合レンズである例について説明した。第2レンズ素子20と第3レンズ素子30とは、離間して配置されてもよい。また、上述の実施の形態において、第2レンズ素子20と第3レンズ素子30が色収差を補正する例について説明したが、色収差の補正は、第2レンズ素子20と第3レンズ素子30によらなくてもよく、第2レンズ素子20と第3レンズ素子30との組み合わせ以外の組み合わせのレンズで色収差を補正してもよい。
【0050】
上述の実施の形態において、レンズ110が、絞り70を有する例について説明した。レンズ110は、絞り70に加えて、第3レンズ素子30と第4レンズ素子40との間に副絞りを有してもよい。これにより、コマ収差を少なくすることができる。
【0051】
上述の実施の形態において、カメラ100が、車載カメラとして用いられるものである例について説明した。カメラ100は、車載カメラとして用いられる物に限定されず、デジタルカメラなどの民生用カメラ、監視カメラ、ロボットに搭載されるロボット用カメラなどに用いられてもよい。
【0052】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、車載カメラとして、好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0054】
10、10’ 第1レンズ素子
11、11’、12、12’ 面
20、20’ 第2レンズ素子
21、21’、22、22’ 面
30、30’ 第3レンズ素子
31、31’、32、32’ 面
40、40’ 第4レンズ素子
41、41’、42、42’ 面
50、50’ 第5レンズ素子
51、51’、52、52’ 面
60、60’ ガラスフィルタ
70 絞り
71 開口部
100、100’ カメラ
110、110’ レンズ
120 撮像素子
130 ハウジング
f 焦点距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8