特許第6568960号(P6568960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6568960繊維強化積層体、シャッタ装置および光学機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568960
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】繊維強化積層体、シャッタ装置および光学機器
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20190819BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20190819BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20190819BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20190819BHJP
   G03B 9/36 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   B32B5/02 Z
   B32B3/30
   B32B27/20 A
   B32B27/18 Z
   G03B9/36 A
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-2923(P2018-2923)
(22)【出願日】2018年1月11日
(62)【分割の表示】特願2017-552116(P2017-552116)の分割
【原出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-83426(P2018-83426A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2018年1月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-98127(P2016-98127)
(32)【優先日】2016年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-123881(P2016-123881)
(32)【優先日】2016年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】吉川 宗利
(72)【発明者】
【氏名】井川 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】島田 文夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 実
(72)【発明者】
【氏名】塙 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小野坂 純一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直昭
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5411841(JP,B2)
【文献】 特許第3215815(JP,B2)
【文献】 特開平09−258297(JP,A)
【文献】 特開平09−254265(JP,A)
【文献】 特開平07−214713(JP,A)
【文献】 特開平04−123028(JP,A)
【文献】 特開平10−301158(JP,A)
【文献】 特開2002−214672(JP,A)
【文献】 特開昭63−017435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G03B 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の両面にそれぞれ設けられた繊維強化層と、を備え、
前記繊維強化層の表面には、面方向に沿って複数の凸部が形成され、
前記複数の凸部の上面は、凹形状面であることを特徴とする繊維強化積層体。
【請求項2】
前記複数の凸部の凹形状は、その厚さが一方向に沿って段階的変化する凹形状であり、
前記複数の凸部のうち、隣り合う複数の凸部の凹形状の段階的な変化は、互いに交差す
ように形成されていることを特徴とする請求項に記載の繊維強化積層体。
【請求項3】
前記複数の凸部には前記繊維強化層に用いられる炭素繊維が含まれていることを特徴と
する請求項1又は2に記載の繊維強化積層体。
【請求項4】
前記基板と前記繊維強化層との間には、黒色被膜が設けられ、
前記黒色被膜は、バインダー樹脂と、黒色粒子と、前記黒色粒子とは別のフィラーとを含有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の繊維強化積層体。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の繊維強化積層体により構成されるシャッタ羽根と、前記シャッタ羽根を駆動する駆動部を備えることを特徴とするシャッタ装置。
【請求項6】
請求項に記載のシャッタ装置を備えることを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化層を積層して構成する繊維強化積層体、繊維強化積層体を用いたシャッタ羽根、シャッタ羽根を用いたシャッタ装置および光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化積層体として、炭素繊維強化樹脂(以下、CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を交互に積層して強度を向上させることが知られている。このような繊維強化積層体は、軽量かつ高剛性であるので、光学機器の一例として一眼レフカメラに使用されるフォーカルプレーンシャッタなどの極めて短い時間で光路を横切るように移動と停止を行なうシャッタ羽根に好んで利用される。
【0003】
CFRP等の繊維を積層した繊維強化積層体は、軽量で強度も高く優れた特性を有するものであるが、CFRPプリプレグを積層する段階で炭素繊維が曲がり、いわゆる目開きという現象が発生することがある。そして、この目開きした場所の遮光性は低下することもある。
【0004】
特許文献1では、遮光性を向上させるために、プラスチックフィルムを基材とし、その両面に遮光性を有する遮光塗膜を形成すると共に、遮光塗膜の上に炭素繊維が引き揃えられた補強部材を積層し、各補強部材の上に潤滑黒色塗膜を形成したラミネート構造を有する光学機器用遮光羽根材が開示されている。
【0005】
特許文献1では、羽根材を構成する積層体中の炭素繊維強化樹脂層との間に遮光塗膜を介在させることにより、シャッタ羽根として必要な遮光性が得られるようになっている。
【0006】
特許文献2では、反りを低減するために、強化繊維の繊維が入り込んでいないド−ムの凸部を表面に形成した光学機器用遮光羽根材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3215815号
【特許文献2】特許第5411841号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載されているように、強化繊維に樹脂を含浸させたプリプレグは反りの低減が求められている。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で反りの少ない繊維強化積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の繊維強化積層体は、例えば、以下の構成を備える。
基板と、
前記基板の両面にそれぞれ設けられた繊維強化層と、を備え、
前記繊維強化層の表面には、面方向に沿って複数の凸部が形成され、
前記複数の凸部の上面は、凹形状面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維強化積層体によれば、簡単な構成で反りの少ない繊維強化積層体を実現できる。本発明の繊維強化積層体をシャッタ羽根に用いる場合には、反りの少ないシャッタ羽根を提供することができる。このシャッタ羽根を用いたシャッタ装置は耐久性に優れ、カメラの耐久性向上に寄与する。
【0012】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付図面は明細書に含まれ、その一部を構成し、本発明の実施の形態を示し、その記述と共に本発明の原理を説明するために用いられる。
図1A】本発明の一実施形態に係る繊維強化積層体の繊維強化層の断面を表す図。
図1B】本発明の一実施形態に係る繊維強化積層体の繊維強化層の他の断面を表す図。
図2A】離型シートとの接着状態を表す図。
図2B】離型シートの一例を示す光学顕微鏡写真。
図3A】本発明の一実施形態に係る繊維強化積層体の電子顕微鏡による表面写真。
図3B】本発明の一実施形態に係る繊維強化積層体の表面凹凸説明図。
図4A】凸部の電子顕微鏡による部分拡大図。
図4B図4Aの模式図。
図5A】一実施形態に係る繊維強化積層体の断面図。
図5B】一実施形態に係る繊維強化積層体の断面図。
図6】一実施形態に係るシャッタ装置を表す図。
図7図6のII−II’における矢視断面図。
図8】実施例の評価結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、後述する実施形態において説明されるが、基板と、黒色被膜と、炭素繊維強化樹脂層とを備え、黒色被膜は、基板と炭素繊維強化樹脂層との間に設けられ、バインダー樹脂と、黒色粒子と、フィラーとを含有する繊維強化積層体である。このような繊維強化積層体は、高い曲げ強度を有しながら、十分な遮光性を有しており、シャッタ羽根などの材料として好適に使用できる。
【0015】
特に、黒色被膜に含有されるフィラーは、黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との界面に微細な凹凸の構造をもたらす。黒色被膜のこの界面の凹凸は、黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との接着表面積を増加させ、両者の接着性をより強固にする。さらに、この凹凸に対して、炭素繊維強化樹脂に含まれる熱硬化性樹脂などのマトリックス樹脂が加熱成形中に流れ込み、炭素繊維強化樹脂層と黒色被膜との界面において、マトリックス樹脂の体積分率が相対的に増加する。一方、この黒色被膜の界面から離れた炭素繊維強化樹脂層の表層付近(繊維強化積層体表層付近)では、マトリックス樹脂の減少に伴い、炭素繊維の体積分率が相対的に増加する。
【0016】
黒色被膜のこの界面の凹凸によって、基板と反対方向に位置する炭素繊維強化樹脂層の表層付近における炭素繊維の体積分率が、基板に近い黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との界面付近における炭素繊維の体積分率よりも相対的に高くなる。炭素繊維強化樹脂層の表層付近における炭素繊維の存在割合の相対的な増加は、繊維強化積層体としての曲げ抵抗強度を高くすること、および、剛性を向上することを可能とする。
【0017】
以下に、図を参照して、本発明の繊維強化積層体の一例が説明される。
なお、本発明の理解を助けるために、本発明の繊維強化積層体がシャッタ装置のシャッタ羽根として用いられる一実施形態が説明されるが、本発明の繊維強化積層体は、ブラインドや各種構造材にも適用されることはいうまでもない。
【0018】
図6は、一実施形態に係るシャッタ装置の正面形状を表す。図6に表すシャッタ装置10は、フォーカルプレーンシャッタユニットである。また、図7は、図6のII−II’における矢視断面図である。本実施形態に係るフォーカルプレーンシャッタユニット10は、いわゆる縦走りタイプと呼称されているものである。すなわち、フォーカルプレーンシャッタユニット10は上下方向に走行する先幕11および後幕12を有し、これら先幕11および後幕12を用いてシャッタ地板24の開口部が開閉される。先幕11および後幕12は1枚以上のシャッタ羽根で構成される。具体的には、先幕11は相互に重なり合う5枚のシャッタ羽根13、14、15、16、17で構成され、後幕12は相互に重なり合う4枚のシャッタ羽根18、19、20、21で構成される。それぞれのシャッタ羽根13〜21の長手方向は、移動方向に対して略直交している。
【0019】
枠状のシャッタ地板24には、複数のスペーサー22を介して、枠状のカバー板23が平行に取り付けられており、先幕11のシャッタ羽根13〜17が羽根走行方向と直交する方向に広がるのを防止する。また、カバー板23とシャッタ地板24との間には、先幕11の走行スペースと後幕12の走行スペースとを仕切る枠状の仕切り板25が、シャッタ地板24に対して傾斜して取り付けられている。先幕11はカバー板23と仕切り板25との間に配置され、後幕12は仕切り板25とシャッタ地板24との間に配置されている。
【0020】
先幕11を構成するシャッタ羽根13〜17の長手方向における一端(図6中、左側)が、先幕支持アーム26と先幕駆動アーム27にカシメダボを介してそれぞれ取り付けられており、シャッタ羽根13〜17は上下方向に連なって走行するように構成されている。先幕支持アーム26と先幕駆動アーム27は、それぞれの基端部において、シャッタ地板24に回転可能に取り付けられている。
【0021】
同様に、後幕12を構成するシャッタ羽根18〜21の長手方向における一端が、後幕支持アーム28と後幕駆動アーム29にカシメダボを介してそれぞれ取り付けられており、シャッタ羽根18〜21は上下方向に連なって走行するように構成されている。後幕支持アーム28と後幕駆動アーム29は、それぞれの基端部において、シャッタ地板24に回転可能に取り付けられている。
【0022】
これらの先幕駆動アーム27および後幕駆動アーム29は、カバー板23およびシャッタ地板24に形成された円弧状の案内溝30、31に対して、それぞれ摺動可能に係合している。また、先幕駆動アーム27および後幕駆動アーム29が駆動部(不図示)からの駆動力を受けて回転すると、連動して先幕支持アーム26および後幕支持アーム28も動き、シャッタ羽根13〜17および18〜21が重畳したり展開したりする。
【0023】
すなわち、撮影待機状態において、先幕11のシャッタ羽根13〜17は展開状態にあり、後幕12のシャッタ羽根18〜21は重畳状態にある。そして、撮影を行なう際には、先幕11のシャッタ羽根13〜17の重畳動作が開始されるとともに、この動作が開始されてから所定時間経過後に、後幕12のシャッタ羽根18〜21の展開動作が開始される。撮影が終了すると、先幕11のシャッタ羽根13〜17および後幕12のシャッタ羽根18〜21は、撮影待機状態となる。
【0024】
そして、先幕11のシャッタ羽根13〜17および後幕12のシャッタ羽根18〜21が走行することにより、仕切り板25、シャッタ地板24およびカバー板23の中央に、撮影光束を通過させる枠状の光通過口が形成され、レンズ(不図示)から入射した撮影光束が上述した光通過口を通過して、CCDなどの撮像素子あるいはフィルムが露光される。
【0025】
以上のようなフォーカルプレーンシャッタユニット10の構成は一例にすぎず、特開平10−186448号公報、特開2002−229097号公報、特開2003−280065号公報などに記載されている周知の構成を用いることができる。
【0026】
また、本実施形態のシャッタ装置は、例えばカメラなどの光学機器に設置して用いることができる。すなわち、筐体と、レンズのような光学系と、撮像素子のような撮像部とを備えるカメラにおいて、光学系を通って撮像素子に入射する光路をふさぐように、シャッタ装置を配置することができる。
【0027】
次に、シャッタ羽根13〜21の構成について説明する。シャッタ羽根13〜21のうちの少なくとも1つは、本発明の繊維強化積層体からなるシャッタ羽根とすることができる。
【0028】
この繊維強化積層体からなるシャッタ羽根を、以下、本実施形態に係るシャッタ羽根と呼ぶ。シャッタ羽根13〜21の全てが本実施形態に係るシャッタ羽根であることは、耐久性および遮光性の点で好ましい。しかしながら、コストを減らすために、本実施形態に係るシャッタ羽根と、他のシャッタ羽根とを併用してもよい。本実施形態に係るシャッタ羽根は強度が高いため、より衝撃を受けやすいシャッタ羽根として用いることが好適である。具体的には、本実施形態に係るシャッタ羽根を、シャッタ開閉時の移動量がより大きいシャッタ羽根として用いることができる。図6の例においては、より移動量が大きく衝撃を受けやすいシャッタ羽根13、14、20、21として本実施形態に係るシャッタ羽根を用いることができる。併用しうるシャッタ羽根としては特に限定されないが、例えばアルミニウム合金の板材からなるシャッタ羽根等が挙げられる。特に、移動量の2番目に大きいシャッタ羽根14、21に用いると、移動量の3番目に大きいシャッタ羽根15、22のたわみを抑えることができる。そして、本実施形態に係るシャッタ羽根を14、21に用いる場合には、上下に配置される移動量の1番目に大きいシャッタ羽根14、21、移動量の3番目に大きいシャッタ羽根15、22を平坦な面の羽根を用いると上下の羽根との接触面積を減らし、優れた摺動性を得ることができる。平坦な面は、黒色化塗装を行って形成してもよく、黒色化塗装の対象が金属製の羽根であっても、樹脂製のシャッタ羽根であってもよい。特に、後幕を撮像素子に近いように配置した場合には、後幕の移動量の2番目に大きいシャッタ羽根20に本実施形態に係るシャッタ羽根を用いるとシャッタ羽根22の撮像素子側への飛び出しを効果的に抑制できる。
【0029】
図5Aは、一実施形態に係る繊維強化積層体の一例の断面図を表す。繊維強化積層体は、炭素繊維強化樹脂層41と、基板42と、黒色被膜43とを有する。黒色被膜43は、炭素繊維強化樹脂層41と基板42の間に設けられている。また、黒色被膜43は、バインダー樹脂46と、黒色粒子47と、フィラー48とを含んでいる。炭素繊維強化樹脂層41は、炭素繊維44を保持する樹脂組成物であるマトリックス樹脂45を含んでいる。
【0030】
繊維強化積層体は、2層以上の炭素繊維強化樹脂層41が積層されていてもよいし、2層以上の黒色被膜43を有していてもよい。図5Aの繊維強化積層体は、黒色被膜43と炭素繊維強化樹脂層41が基板42の両面に設けられている。
【0031】
黒色被膜43と炭素繊維強化樹脂層41との界面は凹凸構造を有し、この凹凸構造に炭素繊維強化樹脂層41のマトリックス樹脂45が入り込み、炭素繊維強化樹脂層41と黒色被膜43との接着性が向上する。また、黒色被膜43と基板42との界面は凹凸構造を有し、黒色被膜43の炭素繊維強化樹脂層側の界面の凹凸は、基板側の界面の凹凸より大きいものとしてもよい。このように炭素繊維強化樹脂層側の界面の凹凸を基板側の界面の凹凸より大きくなるように、積極的に形成することで、黒色被膜43と炭素繊維強化樹脂層41との接触面積が増加し、炭素繊維強化樹脂層41に含まれるマトリックス樹脂45が、黒色被膜43の炭素繊維強化樹脂層側の表面の凹凸に好適に接触することで接着性が向上する。
【0032】
(黒色被膜)
黒色被膜は、フィラーと、バインダー樹脂と、黒色粒子とを含んでおり、以下、順次説明される。
【0033】
黒色被膜に含有されるフィラーは、粒状、繊維状、板状または無定形状の無機化合物または有機化合物で、常温で固体粒子のものである。フィラーは、黒色被膜の界面に微細な凹凸をもたらし、黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層の接着性をより強固にするものであるとともに、繊維強化積層体表層付近の炭素繊維の相対的な体積分率の増加をもたらし、繊維強化積層体の曲げ抵抗強度を高くし、剛性を向上させるものである。
【0034】
フィラーとしては、架橋アクリル樹脂ビーズなどの有機系や、シリカ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、マグネシウムなどの無機系のいずれのものも用いることができ、これらの1種または2種以上を混合して用いることもできる。その中でも、分散性・低コストなどの観点から、無機系フィラー、特に、シリカが好適に用いられる。無機系のフィラーは、加熱される場合に形状の変形が少なく扱いやすい。
【0035】
粒状のフィラーであれば平均粒径、また、繊維状のフィラーであれば短手方向の平均径は、炭素繊維強化樹脂層の炭素繊維の短手方向の平均径よりも小さいものとすることができる。フィラーの平均粒径(短手方向の平均径)は、炭素繊維強化樹脂層の炭素繊維の短手方向の平均径よりも小さい場合に、炭素繊維が界面凹部に侵入することなく、強度が向上する。また、フィラーの平均粒径(短手方向の平均径)は、黒色被膜層に含まれる黒色粒子の平均粒径よりも大きいものとすることができる。
【0036】
フィラーの平均粒径(短手方向の平均径)は、黒色被膜の界面に凹凸構造を形成するために、一実施形態では0.5μm以上、別の実施形態では1.0μm以上、さらに別の実施形態では2.0μm以上とすることができる。フィラーの平均粒径(短手方向の平均径)は、黒色被膜の接合性を向上させるために、一実施形態では10.0μm以下、別の実施形態では8.0μm以下、さらに別の実施形態では6.0μm以下とすることができる。
【0037】
フィラーの平均粒径(短手方向の平均径)および炭素繊維の短手方向の平均径は、電子顕微鏡を用いて求めた粒径の値を算術平均したものである。「平均」とは、統計学上の信頼性のある個数のフィラーまたは炭素繊維を測定して得られた平均値を意味し、その個数としては通常は10個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは100個以上である。
【0038】
黒色被膜中におけるフィラーの含有率は、黒色被膜の界面に凹凸構造を形成するために、一実施形態では0.5質量%以上、別の実施形態では1.0質量%以上、さらに別の実施形態では2.0質量%以上とすることができる。フィラーの含有率は、黒色被膜の接合性を向上させるために、一実施形態では10.0質量%以下、別の実施形態では8.0質量%以下、さらに別の実施形態では5.0質量%以下とすることができる。
【0039】
黒色被膜に含有するバインダー樹脂は、フィラーおよび黒色粒子を分散・保持させる常温で液体状または固体状の樹脂である。一実施形態では、好ましい表面形態を得るために、バインダー樹脂は、黒色粒子およびフィラーを均一に分散した黒色被膜塗布液を形成できる液体状の樹脂とすることができる。
【0040】
バインダー樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン/ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることもできる。
【0041】
黒色被膜中におけるバインダー樹脂の含有率は、基板と黒色被膜との接着性を向上させるために、一実施形態では60質量%以上、別の実施形態では65質量%以上、さらに別の実施形態では70質量%以上とすることができる。バインダー樹脂の含有率は、十分な遮光性を得るために、一実施形態では85質量%以下、別の実施形態では80質量%以下、さらに別の実施形態では75質量%以下とすることができる。
【0042】
なお、バインダー樹脂と炭素繊維強化樹脂層のマトリックス樹脂が同系統の樹脂であると、良好な接着性が得られうる。また、アクリル樹脂とエポキシ樹脂は比較的良好な接着性を示すため、バインダーがアクリル樹脂で、炭素繊維強化樹脂層のマトリックス樹脂がエポキシ樹脂であると、加熱による接着性が良好となりうる。または、バインダー樹脂がエポキシ樹脂で、マトリックス樹脂がアクリル樹脂であってもよい。
【0043】
黒色被膜に含有される黒色粒子は、粒状、繊維状、板状または無定形状の無機化合物または有機化合物で、常温で固体粒子のものであり、バインダー樹脂を黒色に着色させ、好適に遮光性を付与させることができるものである。黒色粒子の平均粒径は、黒色被膜への分散性を向上させるために、一実施形態では0.01μm以上、別の実施形態では0.05μm以上、さらに別の実施形態では0.1μm以上とすることができる。黒色粒子の平均粒径は、黒色被膜の遮光性を向上させるために、一実施形態では2.0μm以下、別の実施形態では1.0μm以下、さらに別の実施形態では0.5μm以下とすることができる。
【0044】
一実施形態では、黒色粒子としては、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックの平均粒径は、充分な遮光性を得るため1μm未満とすることが好ましく、0.5μm以下とすることがより好ましい。黒色粒子の平均粒径は、体積基準の粒子径分布の50%累積値として、動的光散乱方式の粒度分布測定装置などにより測定されるものである。
【0045】
また、黒色被膜中における黒色粒子の含有率は、黒色被膜の遮光性を向上させるために、一実施形態では5質量%以上、別の実施形態では10質量%以上、さらに別の実施形態では15質量%以上とすることができる。黒色粒子の含有率は、基板および炭素繊維強化樹脂層との接着性および被膜強度を向上させるために、一実施形態では30質量%以下、別の実施形態では20質量%以下、さらに別の実施形態では18質量%以下とすることができる。
【0046】
黒色被膜の厚さは、黒色被膜の遮光性および黒色被膜自体の強度を向上させるために、一実施形態では0.5μm以上、別の実施形態では1.0μm以上、さらに別の実施形態では3.0μm以上とすることができる。黒色被膜の厚さは、基板および炭素繊維強化樹脂層との密着性を向上させるために、一実施形態では15.0μm以下、別の実施形態では10.0μm以下、さらに別の実施形態では7.0μm以下とすることができる。
【0047】
基板として、10μm以上、15μm以下のプラスチック材を用いる場合には、プラスチック材の反りを防止するために、プラスチック材に設けられた黒色被膜の合計の膜厚がプラスチック材の厚さを超えないようにすることが好ましい。黒色被膜は、プラスチック材の両面に設けられてもよい。
【0048】
さらに、黒色被膜は、黒色被膜の上に配置される炭素繊維強化樹脂層との界面、および、黒色被膜と基板との界面に凹凸構造を有している。炭素繊維強化樹脂層と黒色被膜との界面の凹凸の平均高低差は、黒色被膜と基板との界面の凹凸の平均高低差より大きくなっている。このように黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との界面に凹凸を、フィラーを含有させて積極的に形成することで、黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との界面の面積が増加し、積層する炭素繊維強化樹脂層に含まれるマトリックス樹脂が、面積が増加した黒色被膜の凹凸面に好適に接触することで接着性の向上が得られる。結果として、基板と炭素繊維強化樹脂層との接着性が黒色被膜を介してより強固なものとなり、積層した各層の密着が良好な繊維強化積層体とすることが可能となる。基板との界面の凹凸の平均高低差に対する炭素繊維強化樹脂層との界面の凹凸の平均高低差の比は、接着性を向上させるために、一実施形態では1.5以上、別の実施形態では2以上、さらに別の実施形態では5以上とすることができる。
【0049】
凹凸の平均高低差は、繊維強化積層体の厚さ方向の界面を含む10μm×10μmの視野の断面において、凹凸を横切る基板表面に平行な基準線を設け、各凹凸に対して、基準線から凸側の距離の平均と基準線から凹側の距離の平均とを求め、これの和から求められる。なお、繊維強化積層体の断面は、電子顕微鏡により観察される。
【0050】
黒色被膜は、以下のように形成することができる。上述のバインダー樹脂、黒色粒子(カーボンブラックなど)、フィラーを含む黒色被膜塗布液が予め準備される。黒色被膜塗布液が、ディップコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート等の従来公知の塗布方法により、基板(プラスチック材など)の表面に塗布され、乾燥させた後、必要に応じて加熱・加圧などが施される。なお、黒色被膜塗布液の溶媒は、水や有機溶剤、水と有機溶剤との混合物などを用いることができる。
【0051】
黒色被膜塗布液中に添加するフィラーの含有率および粒径が適切に調整されることで、黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との界面の凹凸の状態が制御される。それにより、この凹凸の隣り合う凸部あるいは凹部の間隔の長さが、炭素繊維強化樹脂を構成する炭素繊維の単繊維直径よりも小さくなるように、この凹凸表面が形成されるとよい。
【0052】
凹凸を黒色被膜の界面に形成することで、炭素繊維自体は凹部に流入することが無く、炭素繊維強化樹脂層に含まれるマトリックス樹脂が加熱成形中に黒色被膜の凹部に優先的に流動する。そのため、黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との界面付近におけるマトリックス樹脂の体積分率がより好適な形で相対的に増加する。その結果、炭素繊維強化樹脂層の表面部分における炭素繊維の体積分率が高い繊維強化積層体を安定的に形成することが可能となる。
【0053】
なお、図5Aでは、黒色被膜43のバインダー樹脂46がフィラー48を覆っており、バインダー樹脂46と炭素繊維強化樹脂層41のマトリクス樹脂45とが接着している。しかしながら、黒色被膜のうち、黒色被膜と炭素繊維強化樹脂層との界面は、フィラーおよびバインダー樹脂の少なくとも一方によって構成されればよい。少なくとも黒色被膜のバインダー樹脂46が全部または部分的にその凹凸を含む界面を構成することで、同じ有機物である炭素繊維強化樹脂層に含まれるマトリックス樹脂との接着強度が向上する。
【0054】
(炭素繊維強化樹脂層)
炭素繊維強化樹脂層は、炭素強化繊維に熱可塑性樹脂などを含浸させて形成された炭素繊維強化樹脂プリプレグシート(以下、CFRPプリプレグシートとする)とすることができる。CFRPプリプレグシートの厚さは、マトリックス樹脂に均一に分布させ、強度を向上させるために、一実施形態では10μm以上、別の実施形態では15μm以上、さらに別の実施形態では20μm以上とすることができる。CFRPプリプレグシートの厚さは、シャッタ羽根としたときに、シャッタ駆動を高速にするためや、シャッタユニットの薄型化を達成するために、一実施形態では80μm以下、別の実施形態では60μm以下、さらに別の実施形態では40μm以下とすることができる。
【0055】
また、各層で曲げ強度の異なる材質によって繊維強化積層体を形成する場合は、外側の層の曲げ強度が繊維強化積層体の曲げ強度に占める貢献が大きいため、外側の層が強度の高い炭素繊維であるとよい。そのため、基板の厚さの倍以上の厚さのCFRPプリプレグシートを用いると曲げ強度の大きな繊維強化積層体が得られる。
【0056】
また、炭素繊維強化樹脂層の厚さ方向において、基板と反対方向の炭素繊維強化樹脂層の表層付近における炭素繊維の体積分率が、基板に近い黒色被膜界面付近における炭素繊維の体積分率よりも相対的に増加している。炭素繊維強化樹脂層の厚さ方向における、炭素繊維の体積分率の連続的または断続的な変化は、繊維強化積層体の厚さ方向の断面を電子顕微鏡などで観察することにより確認される。
【0057】
(基板)
基板は、黒色被膜および炭素繊維強化樹脂層を設けることができる有機化合物、無機化合物または金属で構成される板状部材である。一実施形態では、基板は、プラスチック材からなるものにより構成することができる。使用可能なプラスチック材としては、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等の合成樹脂フィルムが挙げられる。一実施形態では、ポリエステルフィルムが用いられ、機械的強度、寸法安定性の向上のために、延伸加工、特に二軸延伸加工された二軸延伸ポリエステルフィルム(二軸延伸PETフィルムなど)が用いられる。炭素繊維等を用いた繊維強化層であってもよい。耐熱性、耐久性を考えるとPEN等ガラス転移温度が120℃以上のものが好ましい。PEEK、ポリイミドフィルム等ガラス転移温度が200℃以上であれば、レンズによる日光の集光でも樹脂の劣化等を少なくすることができる。なお、本発明の実施例では、透明樹脂のPETを用いたが、有色のポリイミドフィルム等を用いた場合、黒色塗装膜をより薄くすることができる。なお、ポリイミドフィルムは褐色であるが、その他の透明無色の樹脂フィルムにカーボンブラックを混合して、黒色樹脂基板と用いてもよい。
【0058】
また、プラスチック材として、可視光に透明なものはもちろん、発泡ポリエステルフィルムや、カーボン黒色顔料や他の顔料を含有させた合成樹脂フィルムを使用することもでき、それぞれの用途により適切なものが選択される。
【0059】
プラスチック材の厚さは、プラスチック材自体の強度を向上させ、繊維強化積層体をシャッタ羽根としたとき、シャッタ駆動を高速にするために、一実施形態では5μm以上、別の実施形態では10μm以上、さらに別の実施形態では20μm以上とすることができる。プラスチック材の厚さは、繊維強化積層体をシャッタ羽根としたとき、シャッタユニットの薄型化を達成するために、一実施形態では100μm以下、別の実施形態では60μm以下、さらに別の実施形態では30μm以下とすることができる。
【0060】
なお、プラスチック材の表面に黒色被膜が形成される際、プラスチック材と黒色被膜との接着性を向上させる観点から、プラスチック材に対して、必要に応じてUVオゾン処理、またはコロナ処理を行なうこともできる。なお、カーボン黒色顔料や他の顔料を含有させた合成樹脂フィルムは、内部に微細な有色粒子を含むため、基板の厚さが薄くなっていくと微細な有色粒子の大きさが基板の平面性に与える影響が相対的に大きくなる。そのため、10μm以上、15μm以下のプラスチック材を用いる場合には、良好な平面性を得るために微細な有色粒子を含まない透明なプラスチック材を用いることが好ましい。
【0061】
シャッタ羽根全体の厚さは、強度を向上させ、シャッタ駆動を高速にするために、一実施形態では60μm以上、別の実施形態では80μm以上、さらに別の実施形態では90μm以上とすることができる。シャッタ羽根全体の厚さは、シャッタユニットの薄型化を達成するために、一実施形態では140μm以下、別の実施形態では120μm以下、さらに別の実施形態では100μm以下とすることができる。
【0062】
曲げ強度の大きいシャッタ羽根を得るためには、プラスチック材とプラスチック材の両面に形成された黒色被膜の合計の厚さよりも厚い炭素繊維強化樹脂層を用いることが好ましい。
【0063】
基板として、10μm以上、15μm以下のプラスチック材を用いる場合、作りやすく、かつ、高強度なシャッタ羽根を得るためには、熱処理前の状態の各層の厚さについて黒色被膜の厚さをa(μm)、プラスチック材の厚さをb(μm)、プリプレグシートの厚さをc(μm)とすると、各層の厚さが、下記不等式(1)を満たすようにするとよい。
a<2a<b<(b+2a)<2b<c<(2a+b+2c) ・・・(1)
【0064】
次に、図5Bは、別の実施形態に係る繊維強化積層体の一例の断面図を表す。炭素繊維強化樹脂層41には、さらに、凹部41aに隣接する凸部41b、凸部41cが形成されている。繊維強化積層体は、繊維自体が周囲の繊維との密着性がよくないため、炭素繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを積層し加熱硬化することによって積層体を形成するが、プリプレグの反りの低減が求められていた。この実施形態によれば、反りの少ない繊維強化積層体を実現でき、繊維強化積層体をシャッタ羽根に用いる場合には、反りの少ないシャッタ羽根を提供することができる。
【0065】
特許第5411841公報では、反りを低減するために、強化繊維の繊維が入り込んでいないド−ムの凸部を表面に形成した光学機器用遮光羽根材が開示されているが、基板と、前記基板の両面にそれぞれ設けられた繊維強化層と、を備え、前記繊維強化層の表面には、面方向に沿って複数の凸部が形成され、前記複数の凸部の上面は、凹形状面であることを特徴とする繊維強化積層体を用いることで簡単な構成で反りの少ない繊維強化積層体を提供することができる。
【0066】
図1Aは、繊維強化層1の凸部1bのみを切り出した断面である。図1Bにおいて、繊維強化積層体は、基板2の両面にそれぞれ設けられた繊維強化層1と、を備え、繊維強化層1の表面に、面方向に沿って複数の凸部1b、1cが形成され、複数の凸部1b、1cの上面は、凹形状面になっている。
【0067】
言い換えれば、繊維強化層1には、凹部1aを基準として積層体の厚み方向に凸となる凸部1bが設けられ、凸部1bは、凸部1aの中央部分から凹部1bに向かって厚みが厚くなっている。図1Aと異なる他の断面の図1Bにおいて、繊維強化積層体は、凹部1aを基準として、凸部1bと凸部1bよりも幅の小さな凸部1cが交互に設けられている。
【0068】
このような、強化繊維層においては、図2Aに示すように、凸部1bは、離型シート1Aの繊維束1Bの先端に対して繊維強化層1が部分的に接触した状態で、繊維強化層のマトリックス樹脂を軟化させた後に硬化することによって形成される。図1Bに示した凸部1cは離型シート1Aの繊維束1Bと交差する方向に折りこまれた繊維束1Cの先端に接触して形成される。このときの凸部1b、1cの基板2とは反対側の面の形状は凹形状面となる。繊維強化層1の離型シート側では、軟化したマトリックス樹脂が離型シートの繊維に接触している部分から毛細管現象によって、強化繊維層に対して接触端から徐々に離れている繊維の方へ吸い上げられた状態で硬化する。このとき、凹部は、離型シートに接触することなく、自由に膨張または収縮できる状態が維持される。そのため、凹部は、離型シートを挟み込む部材(ホットプレスの加圧板や加熱された金型等の平面)の形状に準じた形状が維持される。その結果、凹部を基準にして厚み方向へ突出する凸部も凹部に準じた形状となるため繊維強化積層体として反りが少なくなる。一実施形態においては、熱硬化性樹脂を用いて説明しているが熱可塑性樹脂を用いて軟化と硬化の状態を調整して凹凸を形成してもよい。
【0069】
このときの離型シート1Aは、織物状の繊維に離型性の粒子を付着させ、織物状の繊維の間に規則的に空孔を有する離型シートを用いることが好ましい。離型シートの一例として図2Bに離型シートの光学顕微鏡写真を示す。従って、凸部1bと凸部1cは、接触端を中心に放射状に凹部1aに向かって厚くなるものの、凸部全体をみると段階的に厚みが厚くなる傾向を示す方向は直交する関係にある。つまり、凸部1bと凸部1cの凹形状面の段階的な変化は、互いに交差する方向である。なお、凸部1bまたは凸部1cは、凹部に対して厚くなることで凸となるように形成されるためマトリックス樹脂は、炭素繊維が敷き並べてられている平面に対して直交する方向に盛り上がり、炭素繊維同士の間が開く、いわゆる目開きの発生を低減することができる。目開き低減のためには、凸部の面積がシャッタ羽根の一方面の面積に対して多い方が好ましく30%以上が好ましい。一方で凸部が、多すぎてもマトリックス樹脂が不足することになるため、凸部の面積がシャッタ羽根の一方面に対して90%以下であることが好ましい。より好ましくは、凸部の面積がシャッタ羽根の一方面に対して40%以上80%以下であることが好ましい。なお、凸部の表面を黒色被膜等で塗装してもよい。黒色被膜で凸部を被覆したとしても、既に反りが少なくなっているため、表面に凸部の形状が表出していても、塗膜によって平滑化されて、凸部が目立たなくなっていてもよい。
【0070】
図3Aに、一実施形態に係る繊維強化積層体の電子顕微鏡による表面写真を示す。図3Bは、図3Aの模式図であり、凹部1aを基準に、凸部1bと凸部1cとが交互に形成される。また、シャッタ羽根として用いる場合には、シャッタ羽根の走行方向に沿って、凸部1bと凸部1cとを接続し、凹部1aに向かって厚くなるレールを形成するとより摺動抵抗を少なくすることができる。このときの凸部1bと凸部1cと接続されている部分は、凸部1dとして図示し、凸部1dは、繊維強化層1の繊維方向に交差する方向に向かって蛇行しながら伸びている。凸部1dの稜線は、シャッタ羽根の短手方向に部分的に蛇行しながら伸びていても、シャッタ羽根の短手方向全体に渡って蛇行しながら伸びていてもよい。
【0071】
図4Aは、シャッタ羽根先端部の拡大写真であり、凸部に複数本の繊維が入り込んでいる。図4Aを模式図として表すと図4Bのように、凸部1bには、凹部1aと同一の厚みの部分には円筒形の繊維の断面が存在する。凸部は端部に向かって厚くなっているため、凸部に隣接する凹部に向かって凸部に入り込んでいる繊維の直径の長さは長くなり、凸部は、凹部に向かって弾性が強くなっている。凸部は、繊維が入り込むことで強化され、厚さ方向の表層側に曲げ弾性の高い材料が配置されるので、軽量かつ曲げ弾性の強い繊維強化積層体とすることができる。図4Aに示されるように凹部は、強化繊維層として、マトリックス樹脂が少なくなるため、繊維の形状が表出し、繊維の直径と周期が一致する凹凸表面を形成する。従って、シャッタ羽根において、凹部は、シャッタ羽根の短手方向に沿って、繊維の直径に周期が一致する微小な凹凸表面を形成し、同一面となる部分が減少するためより反りを少なくすることができる。
【0072】
本実施形態において、基板と、基板の両面に一対の繊維強化層と、を備え、一対の繊維強化層は、基板側の面とは反対側の面側に凸部と、凸部に隣接して凸部の厚みの基準となる凹部とを有し、凸部は、凹部に向かって厚みが厚くなっている繊維強化積層体としてもよい。なお、凸部は、凹部に対して繊維1.5本分以上厚くなると強度が少なくなりやすく、繊維1本の半分よりも薄いと繊維が入り込みにくくなり強度が小さくなりやすい。そのため、PAN系炭素繊維の単繊維直径が7μmであることを考慮するともっとも厚い部分が3〜10μm程度の厚みであることが好ましい。このような繊維強化積層体は、簡単な構成で反りの少ないシャッタ羽根などの材料として好適に使用できる。なお、一実施形態においては、羽根自体のシャッタ羽根の長手方向に渡って連続する長繊維を用いたが、短繊維を用いてもよく、凸部に入り込むような大きさの短繊維を用いて、凸部を強化しやすくすることもできる。本実施例では、PAN系炭素繊維を用いたが、その他の炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、セルロースナノファイバー(CNF)が軽量、高剛性な繊維として好ましい。また、ガラス繊維、ボロン繊維、金属繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維で繊維強化層を形成してもよい。
【0073】
一対の繊維強化層の基板側の面とは反対側の面側に、凸部1bよりも表面積の大きな他の凸部1c(凸部1d)を有してもよく、他の凸部1c(凸部1d)は、凹部1aに向かって厚みが厚くなることによって、繊維強化積層体は、簡単な構成で反りの少ないシートとなる。また、凸部1b及び他の凸部1cは、離型シートの繊維の隙間を利用して形成されるため、隣接する凹部1aに向かって段階的に厚みが厚くなっている。そして、他の凸部1cの段階的に厚みが厚くなる方向は、凸部1bの段階的に厚みが厚くなる方向と交差する方向であることによって、同一面となる面の面積を減らすことができ、さらに、反りの発生しにくい繊維強化積層体とすることができる。
【0074】
本実施形態において、基板と繊維強化層の間には、黒色被膜を有しても、基板と繊維強化層とは、直接接着してもよく、間接的に接着してもよい。繊維強化層と隣接する基板または黒色被膜は、繊維強化層と平面で接着してもよいが粗面で接着してもよい。そして、略平面で接着する場合であっても、粗面で接着する場合であっても、繊維強化層に設けられる基板側の面とは反対側の面側の凹凸(凹部1a、凸部1b、凸部1c、凸部1d等)は、基板側の面側の凹凸よりも大きな凹凸を有するとよい。なお、表面形状に関わらず凸部1b、1c等があると表面にさらに樹脂による黒色被膜を形成する塗装を行う場合に黒色塗装の接着性を高めることができる。
【0075】
(繊維強化積層体の硬化成形方法)
次に、本実施形態の繊維強化積層体を好適に形成するための硬化成形方法が説明される。本実施形態の硬化成形方法は、特に、図5A、5Bに示すような、黒色被膜が設けられた基板を中間層として2枚の炭素繊維強化樹脂で両側から挟み積層された構成の繊維強化積層体の硬化成型方法である。硬化成形方法としては、例えばホットプレス法やオートクレーブ法が適用可能である。本実施形態では、特にホットプレス法を適用した場合が説明される。
【0076】
まず、炭素繊維強化樹脂層の前駆体として、例えば一実施形態ではエポキシ樹脂をマトリックス樹脂とするCFRPプリプレグシートが2枚用いられる。次に、中間層であるプラスチック材(プラスチックシート)の両面に、バインダー樹脂、黒色粒子としてカーボンブラック、および、フィラーを所定の配合比で混合した黒色被膜用塗布液が上記に示した塗布方法により塗布され、乾燥されて黒色被膜が形成される。
【0077】
黒色被膜が設けられたプラスチックシートは、準備したCFRPプリプレグシートで挟んだ状態で重ね合わされて積層シートにされる。その後、この積層シートを繊維強化積層体とするために、CFRPプリプレグシートの表面に対してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートなどからなる離型性フィルムが重ね合わされる。繊維強化積層体に凸部を形成する実施態様においては、CFRPプリプレグシ−トの表面に対して織物状の繊維にPTFEを付着させ、織物状の繊維の間に規則的に空孔を有するPTFEシ−トなどからなる離型性フィルムが重ね合わされる。
【0078】
離型性フィルムが重ね合わされた積層シートは、ホットプレス機の加圧板の間に配置され、120℃以上、140℃以下の温度で、1時間以上、2時間以下、0.1MPa以上、0.5MPa以下の圧力となるように条件を設定して加熱硬化成形される。この加熱硬化成形によってCFRPプリプレグシート中における未硬化マトリックス樹脂の粘度が低下して、黒色被膜表面に形成された凹部にマトリックス樹脂が流入し、その後マトリックス樹脂が重合して三次元状に架橋することにより、マトリックス樹脂の硬化反応が進行し、積層して各層が密着した積層体からなる繊維強化積層体が形成される。
【0079】
織物状の繊維の間に規則的に空孔を有するPTFEシ−トなどからなる離型性フィルムが用いられたときは、離型シート側では、離型性フィルムに接触していない部分が、凸部41b、41cの厚さに対する基準となる凹部41aとなる。そして、加熱して軟化した状態のマトリックス樹脂が、マトリックス樹脂が離型シートの繊維に接触している部分から毛細管現象によって、炭素繊維とともに、離型性フィルムとマトリックス樹脂の接触先端から周囲の繊維の隙間に吸い上げられる。その結果、繊維強化樹脂層としての炭素繊維強化樹脂層には、凹部41aに向かって厚さが厚くなる凸部41b、41cが形成される。凸部41b、41cには、それぞれ上述した関係で凹形状面が形成されている。
【0080】
その後、ホットプレス機の加熱が停止され、徐冷される。ホットプレス機の加圧板から積層シートを取り出す温度としては、一実施形態では50℃以下とすることができる。取り出した繊維強化積層体の両面に配置した離型シートが取り除かれ、シャッタ羽根を形成するための繊維強化積層体が得られる。また、繊維強化積層体に凸部を有する実施態様においては、繊維強化積層体は、離型シートに対して部分的に接しているため、離型シートとの分離も簡単に行うことができる。
【0081】
硬化成形後の繊維強化積層体は、所望の輪郭形状となるように打ち抜き加工され、シャッタ羽根に仕上げられる。また、凸部を有する硬化成形後の繊維強化積層体は、反りの少ないシート形状を有し、所望の輪郭形状となるように打ち抜き加工され、反りの少ないシャッタ羽根に仕上げられる。打ち抜き方法としては、ワイヤーカット、プレス抜きなどの方法があるが、一実施形態では、打ち抜き方法は、低コスト性を考慮し、プレス抜きである。
【0082】
以上のように、本実施形態となる繊維強化積層体がシャッタ羽根として使用された場合、シャッタ羽根として必要な剛性、遮光性が実現されると共に、異種材料からなる繊維強化積層体の各層の界面の密着性を向上させることが可能となる。結果として、超高速シャッタとして使用された場合の駆動耐久特性が向上するシャッタ羽根用繊維強化積層体を提供することが可能となる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例により本発明の実施形態をさらに説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0084】
まず、シャッタ羽根材を構成する炭素繊維強化樹脂層として、炭素繊維が連続で一方向に揃えられており、エポキシ樹脂を主成分とするCFRPプリプレグシート(三菱レイヨン製、商品名パイロフィルプリプレグCFRP、厚さが32μm、硬化推奨温度130℃)が用いられた。このCFRPプリプレグシートに使用されている炭素繊維の単繊維の直径(短手方向の直径)は7μmであった。
【0085】
次に、基板を構成するプラスチック材として、二軸延伸加工された透明PETシート(厚さ12μm)が用いられた。また、PETシートの表面に黒色被膜を形成するため、アクリル系樹脂からなるバインダー樹脂を72質量%、カーボンブラック(平均粒径0.1μm)を13質量%、フィラーとなるシリカ粒子(平均粒径3μm)を4質量%含む遮光膜用塗布液が準備された。PETシートの両面に遮光膜用塗布液が、それぞれバーコート法により、乾燥時の平均厚さが5μmとなるように塗布され、乾燥されて黒色被膜が形成され、本実験例で使用する黒色被膜を設けたPETシートが作製された。
【0086】
次に、上記のPETシートとCFRPプリプレグシート(CFRP)とが、CFRP/PET/CFRPの層構成となるように重ね合わされて積層シートが形成された。また、CFRPプリプレグシートは互いの繊維方向が平行になるように、面対称に配置された。さらに、離型シートとして厚さ50μmのPTFEシートが上記積層シートの両面に重ね合わされた。
【0087】
離型シートを重ね合わされた積層シートがホットプレス機にセットされ、圧力0.3MPaとなるように圧力が調整された。その後、上記の加圧成形条件下において、室温から毎分1.5℃の昇温速度で130℃になるまで昇温され、130℃において2時間保持された。その後、ホットプレス機の加熱が停止され、徐冷されて、積層体である積層シートの温度が50℃以下であることを確認して積層シートは取り出された。
【0088】
その後、積層シート表層に配置した離型シートが取り除かれ、カメラ用シャッタ羽根を得るための繊維強化積層体が得られた。所定の枚数のカメラ用シャッタ羽根を得るために、同様の方法で繊維強化積層体が作製された。この繊維強化積層体は、所定の形状のシャッタ羽根となるようにプレスによる打ち抜き加工を所定の取り個数相当分行なわれ、カメラ用シャッタ羽根が得られた。
【0089】
なお、このときの凸部41bは、長手方向が約400μm、短手方向が約150μmであり、一方の長手部分と凹部との稜線から中央部分に向かって段階的に厚さが薄くなって、中央部分から他方の長手部分に向かって段階的に厚さが厚くなる傾向があった。また、凸部41cは、長手方向が約300μm、短手方向が約200μmであり、一方の長手部分と凹部との稜線から中央部分に向かって段階的に厚さが薄くなって、中央部分から他方の長手部分に向かって段階的に厚さが厚くなる傾向があった。そして、凸部41bの長手方向と凸部41cの長手方向は実質的に直交する方向に配置されていた。羽根全体としては、凸部41bと凸部41cが短手方向に沿って部分的に接続され、凸部の方が凹部に対して割合が多く、羽根全体に対して凸部がおよそ60%の面積を占めていた。
【0090】
得られた各々のシャッタ羽根について、諸特性の評価が行われた。まず作製した繊維強化積層体からなるシャッタ羽根の断面が観察され、界面の凹凸の状態が確認された。PETシートと黒色被膜の凹凸の平均高低差は0.3μm未満、炭素繊維強化樹脂と黒色被膜の凹凸の平均高低差は1.9μmとなっていた。図3A、3Bに示すように、炭素繊維強化樹脂表面の凹凸は、凹部から5〜8μm厚い凸部の稜線が形成され、凸部の中央付近では凹部から1〜3μmとなる厚みの凸部の中央部が形成されていた。
【0091】
また、本実施例で作製されたシャッタ羽根の遮光性に関する評価を行なうため、作製したシャッタ羽根は、ライトボックス上に設置され、光を透過するピンホールの有無が顕微鏡観察された。シャッタ羽根中にピンホールが全く無いものを遮光性良品とし、1つ以上存在するものを遮光性不良品とした。その結果、本実施例で作製されたシャッタ羽根の遮光性良品率は99.7%であり、遮光性が良好であることが確認された。
【0092】
さらに、本実施例で作製したシャッタ羽根は、先幕シャッタ羽根、後幕シャッタ羽根として、それぞれに複数枚用意され、図6に示されるようなシャッタ装置(フォーカルプレーンシャッタ)に組み込まれ、このシャッタ装置がカメラに搭載され、シャッタ装置1/8000秒のシャッタ速度で駆動耐久試験が行われた。
【0093】
シャッタ羽根の耐久性を検証した結果、いずれも30万回開閉を行なっても問題なく、本発明におけるシャッタ羽根はカメラ用シャッタ羽根として十分な耐久性を有していることが確認された。さらに上記耐久性評価後のカメラについてシャッタ装置近傍に配置される撮像素子の表面が観察され、撮像素子の表面に著しい摺動痕等に起因する傷の発生は見られなかった。結果として、本実施例で作製したシャッタ羽根は、駆動時において撮像素子と接触することが無く、たわみが少なく充分な曲げ剛性を有していることが確認された。
【0094】
以上、本発明の一例として各実施例を挙げて具体的に説明したが、本発明は上述した形態に限定されるものではない。
【0095】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。
【0096】
本願は、2016年5月16日提出の日本国特許出願特願2016−098127および2016年6月22日提出の日本国特許出願特願2016−123881を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。
【符号の説明】
【0097】
1:強化繊維層
1a、41a:凹部
1b、1c、1d、41b、41c:凸部
2、42:基板(中間層)
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8