特許第6568997号(P6568997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6568997
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】ベルト式研削工具
(51)【国際特許分類】
   B24B 23/06 20060101AFI20190819BHJP
   B24B 55/05 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   B24B23/06
   B24B55/05
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-504616(P2018-504616)
(86)(22)【出願日】2017年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2017009775
(87)【国際公開番号】WO2017155107
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2018年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-48008(P2016-48008)
(32)【優先日】2016年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227386
【氏名又は名称】日東工器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保全
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/208589(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102014107348(DE,A1)
【文献】 特開2014−166668(JP,A)
【文献】 特開平03−154765(JP,A)
【文献】 実開昭48−052992(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B23/06
B24B21/00
B24B55/05
B28D1/00−7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体と、
該工具本体に設けられ,モータにより回転駆動されるドライブプーリと、
該ドライブプーリから前方に離された位置に設定されて、無端研削ベルトをドライブプーリとの間に張設するアイドルプーリと、
該アイドルプーリを回転自在に支持する前端部を有し、該前端部から後方に延びて該工具本体に摺動可能に支持されるプーリ支持バーと、
該プーリ支持バーを該工具本体に対して前方に付勢し、該プーリ支持バーに支持されているアイドルプーリが該無端研削ベルトを前方に押圧して該無端研削ベルトに張力をかけるようにされたスプリングと、
該スプリングの後端部に係合されたスプリング座と、
該工具本体に枢動軸線の周りで枢動可能に取り付けられ、該スプリング座の係合部と接触する押圧支持面を有するスプリング支持部材であって、該押圧支持面が該係合部を押圧し該スプリングを該プーリ支持バーとの間で圧縮して支持して該アイドルプーリが該無端研削ベルトに張力を加えている状態とする張力付加位置と、該張力付加位置から該押圧支持面が後方に変位するように第1枢動方向に枢動して該スプリングの圧縮量を小さくし該無端研削ベルトに加わる張力が小さくなるようにする張力解除位置との間で枢動可能とされたスプリング支持部材と、
を備え、
該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときの該押圧支持面上での該係合部との何れの接触点における法線も該枢動軸線に対して該プーリ支持バーの長手軸線とは反対側を通過するように、該押圧支持面と該係合部とが形状付けられており、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときに該スプリング支持部材の該押圧支持面が該スプリング座の該係合部から受ける力の作用線が、該枢動軸線に対して該スプリング支持部材を該第1枢動方向とは反対の第2枢動方向に枢動させるモーメントを生じさせる側を通るようにされた、ベルト式研削工具。
【請求項2】
該スプリング支持部材の該枢動軸線が該長手軸線からずれた位置にあ、請求項1に記載のベルト式研削工具。
【請求項3】
該押圧支持面が、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときに、該長手軸線に対して傾斜する傾斜平面を有し、
該スプリング座の該係合部が、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときの該傾斜平面と略同一の傾斜角を有する傾斜部を有する、請求項に記載のベルト式研削工具。
【請求項4】
該係合部が該長手軸線を中心とする円錐面であり、該傾斜部が該円錐面の一部を構成するようにされた、請求項に記載のベルト式研削工具。
【請求項5】
該工具本体が、該スプリング支持部材の少なくとも一部を収容するスプリング支持部材収容空間と、該スプリング支持部材収容空間に連通し、該プーリ支持バー及び該スプリング座を該プーリ支持バーの長手軸線の方向で摺動可能に保持するとともに、該スプリング支持部材と該スプリング座との間に設定された該スプリングを収容する摺動収容孔と、を有し、
該スプリング支持部材が該張力付加位置と該張力解除位置との間で枢動するときに、該スプリング座の少なくとも一部が該摺動収容孔内に常に収容されている状態で該摺動収容孔に対して摺動するようにされた、請求項1乃至の何れか一項に記載のベルト式研削工具。
【請求項6】
該スプリング座が該摺動収容孔に対して摺動する側面を有し、該側面に異物捕捉溝が形成されている、請求項5に記載のベルト式研削工具。
【請求項7】
該スプリング支持部材に取り付けられたカバーをさらに備えており、
該工具本体が、該ドライブプーリと該アイドルプーリとの間に掛け回される該無端研削ベルトの上側走行部分が通過する上部前面開口部と、該無端研削ベルトの下側走行部分が通過する下部前面開口部と、該上部前面開口部及び該下部前面開口部に連接し該ドライブプーリの側面部を露呈させるように開口した側面開口部と、をさらに有しており、
該カバーは、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときには、該側面開口部を覆うようにされ、該スプリング支持部材が該張力解除位置にあるときには、該側面開口部を露呈させて該ドライブプーリにアクセス可能とし、該側面開口部を介して該無端研削ベルトを該ドライブプーリに取り付け又は取り外しできるようにされた、請求項1乃至6の何れか一項に記載のベルト式研削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削工具に関し、特に、無端研削ベルトを回転駆動して対象物に当接させることにより、該対象物の研削を行うようにしたベルト式研削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式研削工具は、モータにより回転駆動されるドライブプーリと、回転自在に取り付けられたアイドルプーリと、これらドライブプーリとアイドルプーリとに掛け回される無端研削ベルトと、を備えており、ドライブプーリの回転に伴って回転駆動される無端研削ベルトを対象物に当接させることにより、該対象物の研削を行うようにした研削工具である。アイドルプーリを支持するプーリ支持バーは、ドライブプーリが設けられた工具本体に前後方向で摺動可能に保持され、工具本体内に設けられたスプリングにより前方に付勢される。このスプリングの付勢力によりドライブプーリとアイドルプーリとに掛け回された無端研削ベルトに適度な張力を加えるようになっている。
【0003】
無端研削ベルトは、消耗品であり、研削作業を行ってある程度摩耗した段階で交換する必要がある。交換作業をするときには、通常は、プーリ支持バーをスプリングの付勢力に抗して後方に押し込み、ロック機構によりプーリ支持バーを後退した位置に維持しておいて、ドライブプーリを覆っているカバーを外して無端研削ベルトの取り外し・取り付け作業を行うようにしている。(特許文献1)
【0004】
しかしながら、上述のような無端研削ベルトの交換作業においては、無端研削ベルトに張力を加えるために既に圧縮されて付勢力を発生させているスプリングを更に圧縮するようにプーリ支持バーを押し込まなければならないので、その操作には比較的に大きな力が必要であった。そこで、このような大きな力を必要としないようにしたベルト式研削工具が開発されている(特許文献2)。このベルト式研削工具においては、無端研削ベルトに張力を加えるようにスプリングを支持するスプリング支持部材を、スプリングを支持している支持面が後退するように枢動可能となっていて、支持面を後退させることによってスプリングの圧縮量を小さくしてアイドルプーリをプーリ支持バーとともに容易に後退させることができるようになっている。これにより、特許文献1に開示のものに比べて小さな力でプーリ支持バーを押し込むことが可能となり、容易に無端研削ベルトの交換を行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−58216号
【特許文献2】特開2014−166668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献2に示すようなベルト式研削工具においては、スプリングを支持するスプリング支持部材は、スプリングを圧縮させている状態においてはスプリングから付勢力を受けて、押圧支持面が後退する方向に枢動するような回転モーメントを受ける。そのため、スプリングを圧縮している状態を維持するためには、スプリング支持部材を工具本体に対して固定するためのフックなどの機構を別途設ける必要があった。
【0007】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、スプリング支持部材が、スプリングから受ける付勢力によってスプリングの圧縮が解除される方向に枢動しないようにしたベルト式研削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
工具本体と、
該工具本体に設けられ,モータにより回転駆動されるドライブプーリと、
該ドライブプーリから前方に離された位置に設定されて、無端研削ベルトをドライブプーリとの間に張設するアイドルプーリと、
該アイドルプーリを回転自在に支持する前端部を有し、該前端部から後方に延びて該工具本体に摺動可能に支持されるプーリ支持バーと、
該プーリ支持バーを該工具本体に対して前方に付勢し、該プーリ支持バーに支持されているアイドルプーリが該無端研削ベルトを前方に押圧して該無端研削ベルトに張力をかけるようにされたスプリングと、
該スプリングの後端部に係合されたスプリング座と、
該工具本体に枢動軸線の周りで枢動可能に取り付けられ、該スプリング座の係合部と接触する押圧支持面を有するスプリング支持部材であって、該押圧支持面が該係合部を押圧し該スプリングを該プーリ支持バーとの間で圧縮して支持して該アイドルプーリが該無端研削ベルトに張力を加えている状態とする張力付加位置と、該張力付加位置から該押圧支持面が後方に変位するように第1枢動方向に枢動して該スプリングの圧縮量を小さくし該無端研削ベルトに加わる張力が小さくなるようにする張力解除位置との間で枢動可能とされたスプリング支持部材と、
を備え、
該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときに該スプリング支持部材の該押圧支持面が該スプリング座の該係合部から受ける力の作用線が、該枢動軸線に対して該スプリング支持部材を該第1枢動方向とは反対の第2枢動方向に枢動させるモーメントを生じさせる側または該枢動軸線上を通るように、該押圧支持面と該係合部とが形状付けられた、ベルト式研削工具を提供する。
【0009】
当該ベルト式研削工具においては、スプリング支持部材が張力付加位置にあるときに、スプリング支持部材がスプリング座から受ける力の作用線が、第2枢動方向(すなわち張力付加位置に向かう方向)に枢動させるモーメントが生じる側または枢動軸線上を通るようになっており、第1枢動方向(すなわち張力解除位置に向かう方向)にはモーメントを生じさせないようになっている。したがって、スプリングの付勢力によってスプリング支持部材が張力付加位置から張力解除位置に向かって枢動してしまうことを防止することができ、スプリングを圧縮した状態に維持することが可能となる。なお、ここでの「張力解除位置」とは、スプリングの圧縮が完全に無くなって無端研削ベルトに張力が全くかかっていない状態だけを意味するのではなく、スプリングの圧縮の量が小さくはなったが圧縮がまだ残っていて無端研削ベルトに弱い張力が付加されている状態も含むものとする。
【0010】
好ましくは、
該スプリング支持部材の該枢動軸線が該プーリ支持バーの長手軸線からずれた位置にあり、
該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときに該スプリング座の該係合部が接触する該押圧支持面上の接触点における法線が該枢動軸線に対して該長手軸線とは反対側を通過するように、該押圧支持面と該係合部とが形状付けられるようにすることができる。
【0011】
さらに好ましくは、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときに該押圧支持面と該係合部とが該接触点とは別の接触点においても接触し、該別の接触点における該押圧支持面に対する法線が該枢動軸線に対して該長手軸線と同じ側を通るように、該押圧支持面と該係合部とが形状付けられるようにすることができる。
【0012】
このような構成とすることにより、スプリングから受ける力のみによってスプリング支持部材を張力付加位置に保持することが可能となる。
【0013】
好ましくは、
該押圧支持面が、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときに該長手軸線に対して傾斜する傾斜平面を有し、
該スプリング座の該係合部が、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときの該傾斜平面と略同一の傾斜角を有する傾斜部を有するようにすることができる。
【0014】
このような構成により、同一傾斜角を有する部分同士が接触するようになるため、スプリング支持部材を張力付加位置においてより安定した状態で保持することが可能となる。
【0015】
さらに好ましくは、該係合部が該長手軸線を中心とする円錐面であり、該傾斜部が該円錐面の一部を構成するようにすることができる。
【0016】
このような構成により、スプリング座の長手軸線周りでの回転位置に関わらず、常にスプリング座の係合部がスプリング支持部材の押圧支持面に適切に接触するようにすることが可能となる。
【0017】
好ましくは、
該工具本体が、該スプリング支持部材の少なくとも一部を収容するスプリング支持部材収容空間と、該スプリング支持部材収容空間に連通し、該プーリ支持バー及び該スプリング座を該プーリ支持バーの長手軸線の方向で摺動可能に保持するとともに、該スプリング支持部材と該スプリング座との間に設定された該スプリングを収容する摺動収容孔と、を有し、
該スプリング支持部材が該張力付加位置と該張力解除位置との間で枢動するときに、該スプリング座の少なくとも一部が該摺動収容孔内に常に収容されている状態で該摺動収容孔に対して摺動するようにすることができる。
【0018】
このような構成により、スプリング支持部材収容空間と摺動収容孔との間がスプリング座により遮断されるため、スプリング支持部材収容空間の側から摺動収容孔内に塵や埃などの異物が侵入することを抑制できる。
【0019】
好ましくは、
該スプリング支持部材に取り付けられたカバーをさらに備えており、
該工具本体が、該ドライブプーリと該アイドルプーリとの間に掛け回される該無端研削ベルトの上側走行部分が通過する上部前面開口部と、該無端研削ベルトの下側走行部分が通過する下部前面開口部と、該上部前面開口部及び該下部前面開口部に連接し該ドライブプーリの側面部を露呈させるように開口した側面開口部と、をさらに有しており、
該カバーは、該スプリング支持部材が該張力付加位置にあるときには、該側面開口部を覆うようにされ、該スプリング支持部材が該張力解除位置にあるときには、該側面開口部を露呈させて該ドライブプーリにアクセス可能とし、該側面開口部を介して該無端研削ベルトを該ドライブプーリに取り付け又は取り外しできるようにすることができる。
【0020】
スプリング支持部材とカバーとが一体とされていて、無端研削ベルトの張力を解除する操作とカバーを開けてドライブプーリにアクセス可能とする操作が一つの操作で完結するので、無端研削ベルトの交換作業をより簡潔に行うことが可能となる。また、無端研削ベルトを回転駆動可能とするためにはスプリング支持部材を張力付加位置としなければならないが、このときドライブプーリはカバーにより覆われることになるので、ドライブプーリが露呈された状態で無端研削ベルトが回転駆動されることがなく、作業者の手などが回転駆動された無端研削ベルトとドライブプーリとの間に誤って巻き込まれる危険性が低減される。
【0021】
以下、本発明に係るベルト式研削工具の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るベルト式研削工具の主要部分を断面で示す平面部分断面図である。
図2図1の部分拡大図であり、ベルト式研削工具のスプリング支持部材が張力付加位置にある状態を示す図である。
図3図1の部分拡大図であり、スプリング支持部材が中間位置にある状態を示す図である。
図4図1の部分拡大図であり、スプリング支持部材が張力解除位置にある状態を示す図である。
図5図1のベルト式研削工具の側面図であり、スプリング支持部材が張力付加位置にあってカバーが閉じている状態を示す図である。
図6図1のベルト式研削工具の側面図であり、スプリング支持部材が張力解除位置にあってカバーが開いている状態を示す図である。
図7】スプリング支持部材が受ける力を示す図である。
図8】第二の実施形態に係るベルト式研削工具の、スプリング支持部材が受ける力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係るベルト式研削工具1は、図1に示すように、エアモータ12及びドライブプーリ14を収容する工具本体10と、工具本体10から前方(図で見て上方)に延在するプーリ支持バー16と、該プーリ支持バー16の前端部16aにおいてベアリングによって回転自在に取り付けられたアイドルプーリ18とを備えていて、ドライブプーリ14とアイドルプーリ18との間には無端研削ベルト20が掛け回されるようになっている。エアモータ12は、工具本体10のグリップ部22の後端に設けられた継手24から供給される圧縮空気により回転駆動され、該エアモータ12の出力軸12aに接続されたドライブプーリ14を回転駆動して無端研削ベルト20を駆動するようになっている。当該ベルト式研削工具1は、このようにして回転される無端研削ベルト20を被削材に押し当てることにより該被削材の研削作業を行うようにされた工具である。
【0024】
工具本体10は、プーリ支持バー16の長手軸線Lの方向に延在する摺動収容孔26を有し、この摺動収容孔26には摺動ガイド部材28が挿入されている。プーリ支持バー16は、摺動ガイド部材28の内孔に挿入されて、工具本体10に対して長手軸線Lの方向での前後方向(図で見て上下方向)に摺動可能に保持される。摺動収容孔26にはさらにスプリング座30と、プーリ支持バー16とスプリング座30との間に設定されたスプリング32とが挿入されている。プーリ支持バー16には、その後端面16bから前方に向かって延びる前方スプリング収容孔34が形成され、またスプリング座30にはその前端面30aから後方に向かって延びる後方スプリング収容孔36が形成されている。スプリング32は、その前端部32aが前方スプリング収容孔34内に収容され、その後端部32bが後方スプリング収容孔36内に収容されるようにして、摺動収容孔26内に保持されている。摺動収容孔26の後方には、スプリング座30をその後方位置から支持するためのスプリング支持部材38を収容するスプリング支持部材収容空間40が設けられている。スプリング支持部材38は、以下に述べるように、工具本体10上の枢動軸42を中心に枢動可能に取り付けられている。
【0025】
図2−4に示すように、スプリング支持部材38は長手軸線Lから側方(図で見て左方)にずれた位置にある枢動軸42を中心に張力付加位置(図2)と張力解放位置(図4)との間で枢動可能なように工具本体10に取り付けられている。スプリング支持部材38は、スプリング座30の係合部44と係合するようにされた押圧支持面46を有しており、スプリング支持部材38が張力付加位置(図2)にあるときには、押圧支持面46がスプリング座30の係合部44と係合し、スプリング座30を前方に押圧して支持した状態となる。スプリング32は、プーリ支持バー16とスプリング支持部材38との間でスプリング座30を介して圧縮され、プーリ支持バー16を工具本体10に対して前方に付勢する。このスプリング32の付勢力によりプーリ支持バー16の前端部16aに設けられたアイドルプーリ18が無端研削ベルト20の内周面に押しつけられて該無端研削ベルト20に所定の張力が付与される。この状態でドライブプーリ14を回転駆動すると、無端研削ベルト20は適正に駆動される。
【0026】
スプリング支持部材38を張力付加位置(図2)から中間位置(図3)にまで図で見て時計回り(第1枢動方向)に枢動させる過程においては、押圧支持面46がカムのように作用してスプリング座30をさらに前方に押圧してスプリング32をさらに圧縮させていく。したがって、スプリング支持部材38を張力付加位置から中間位置にまで枢動させる際には、スプリング32をさらに圧縮させるのに必要なだけの力をスプリング支持部材38に対して加える必要がある。
【0027】
中間位置(図3)からさらにスプリング支持部材38を枢動させると、押圧支持面46は徐々に後方に変位していき、それに伴って圧縮されていたスプリング32が徐々に伸張していく。スプリング支持部材38を張力解除位置(図4)にまで枢動させると、スプリング32は自然長となって、もはや圧縮されていない状態となり、プーリ支持バー16は前方に押圧されなくなる。したがって、無端研削ベルト20に加えられていた張力は完全に解除される。このとき、自然長となったスプリング32の後端部32bとスプリング座30の後方スプリング収容孔36との間には長手軸線Lの方向で一定の隙間が形成される。これにより、プーリ支持バー16はこの余裕の分だけ後方に向かってスプリング32を圧縮させることなく、すなわちスプリング32からの付勢力を受けることなく、その後端面16bが摺動ガイド部材28の段部48に当たる位置にまで後退可能となる。図4に示すようにプーリ支持バー16が後退すると、無端研削ベルト20とアイドルプーリ18又はドライブプーリ14との間に隙間ができて、該無端研削ベルト20を取り外すことが可能な状態となる。
【0028】
無端研削ベルト20に再び張力を付与する際には、スプリング支持部材38を張力解放位置(図4)から図で見て反時計方向(第2枢動方向)に枢動させて、押圧支持面46によりスプリング座30を前方に押圧しながら張力付加位置(図2)にまで枢動させる。スプリング32がスプリング座30を介して圧縮され、プーリ支持バー16がスプリング32の付勢力により前方に押圧される。無端研削ベルト20はアイドルプーリ18により押圧されて張力が付与された状態となる。
【0029】
図2−4に示すように、スプリング支持部材38が張力付加位置と張力解除位置との間で枢動する間、スプリング座30は、その少なくとも一部が摺動収容孔26内に収容されている状態に維持される。これにより、プーリ支持バー16とスプリング座30との間のスプリング32が配置されている空間は外部とは直接的には連通しないようになるため、内部に塵や埃などの異物が侵入することを防止することができる。また、スプリング座30の側面には異物捕捉溝50が形成されており、スプリング座30と摺動ガイド部材28との間に異物が侵入してきたとしても、この異物捕捉溝50においてその異物を捕捉して、異物がそれ以上中には侵入しないようになっている。
【0030】
図6に示すように、工具本体10には、ドライブプーリ14とアイドルプーリ18とに掛け回された無端研削ベルト20の上側走行部分20aが通過する上部前面開口部52と、無端研削ベルト20の下側走行部分20bが通過する下部前面開口部54と、上部前面開口部52と下部前面開口部54とに連接しドライブプーリ14の側面部14aを露呈させるように開口する側面開口部56とが設けられている。スプリング支持部材38には、カバー58が固定ネジ60により取り付けられており、スプリング支持部材38の枢動に伴ってカバー58も一緒に枢動して側面開口部56を開閉するようになっている。図5に示すように、カバー58は、スプリング支持部材38が張力付加位置にあるときには、工具本体10の側面開口部56を覆うように閉じてドライブプーリ14へのアクセスを制限するようになっている。また、図6に示すように、スプリング支持部材38が張力解放位置にあるときには、カバー58は側方に向かって開いた状態となり、側面開口部56が露呈してドライブプーリ14にアクセス可能となる。これにより、無端研削ベルト20を側面開口部56を介してドライブプーリ14から取り外したり、取り付けたりすることが可能となって、無端研削ベルト20の交換作業を行うことが可能な状態となる。なお、カバー58は、必ずしもスプリング支持部材38に取り付けて一緒に枢動するようにしなくてもよく、スプリング支持部材38とは別に工具本体10に取り付けるようにしてもよい。
【0031】
図7に示すように、スプリング支持部材38の押圧支持面46は、スプリング支持部材38が張力付加位置にある状態において長手軸線Lに対して傾斜する傾斜平面となっている。また、押圧支持面46に接触するスプリング座30の係合部44は、長手軸線Lを中心とする円錐面62の一部である傾斜部となっている。係合部44は、その傾斜角が押圧支持面46の傾斜角と同一となるように形状付けられている。スプリング座30の係合部44が円錐面62からなるようにすることにより、スプリング座30の長手軸線Lの周りでの回転位置に関わらず、係合部44の傾斜角は押圧支持面46の傾斜角と同一となる。スプリング支持部材38の押圧支持面46とスプリング座30の係合部44は、押圧支持面46上のスプリング座30との何れの接触点(例えば接触点A、B)における法線(例えば法線X、Y)も枢動軸線Rに対して長手軸線Lとは反対側(図で見て枢動軸線Rの左側)を通過するように、形状付けられている。したがって、スプリング支持部材38の押圧支持面46がスプリング座30の係合部44から受ける力の作用線Fは、枢動軸線Rに対してスプリング支持部材38を反時計回り(第2枢動方向)に枢動させるモーメントをスプリング支持部材38に生じさせる側を通過するようになる。これにより、スプリング支持部材38は、張力付加位置(図2)にあるときには、張力解除位置(図4)から遠ざかる方向(第2枢動方向)への回転モーメントを受けることになる。このときスプリング支持部材38に固定されたカバー58が工具本体10に当接しているため、スプリング支持部材38は張力付加位置に保持される。
【0032】
本発明の第二の実施形態においては、図8に示すように、スプリング支持部材138の押圧支持面146とスプリング座130の係合部144の構成が、第一の実施形態に係るベルト式研削工具1と異なる。具体的には、接触点A’における法線X’が枢動軸線Rに対して長手軸線Lとは反対側を通過する一方で、接触点B’における法線Y’は枢動軸線Rに対して長手軸線Lと同じ側を通過するように、スプリング支持部材138の押圧支持面146とスプリング座130の係合部144とが形状付けられている。このときスプリング支持部材138には、接触点A’において受ける力により反時計回り(第2枢動方向)に枢動するモーメントが作用するとともに、接触点B’において受ける力により時計回り(第1枢動方向)に枢動するモーメントも作用することになる。したがって、スプリング支持部材138は、これらの対抗するモーメントが拮抗して、スプリング支持部材138の押圧支持面146がスプリング座130の係合部144から受ける力の作用線F’が枢動軸線R上を通るようになり、押圧支持面146と係合部144とが少なくとも接触点A’及びB’において接触した状態で張力付加位置に保持される。スプリング支持部材138は、カバー158を工具本体110に当接させるなどしてスプリング支持部材138の枢動範囲を拘束しなくても、スプリング座130から受けるスプリング132の付勢力により張力付加位置に保持される。
【0033】
本発明に係るベルト式研削工具においては、無端研削ベルト20に張力を付与した状態とするためのスプリング支持部材38、138が、スプリング座30、130を介して受けるスプリング32、132の付勢力によって張力付加位置に保持されるようになっている。したがって、スプリング支持部材38、138を張力付加位置に保持しておくために、スプリング支持部材38、138またはカバー58、158を工具本体10、110に対して固定するフックなどの機構を別途設ける必要がなくなる。
【0034】
なお、上記実施形態では、スプリング支持部材38、138の押圧支持面46、146とスプリング座30、130の係合部44、144が長手軸線Lに対して直線状に傾斜するように形状付けられているが、偏心した円弧などの他の形状とすることもできる。また、スプリング支持部材38、138の枢動軸線Rを長手軸線L上または長手軸線Lに対して図で見て右方側に設定することも可能である。上記実施形態においてはスプリング支持部材38、138が張力解除位置となったときにスプリング32、132が自然長にまで伸長するようになっているが、多少の圧縮が残っているようにしてもよい。また、駆動源としてエアモータではなく電気モータを使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
ベルト式研削工具1;工具本体10;エアモータ12;出力軸12a;ドライブプーリ14;側面部14a;プーリ支持バー16;前端部16a;後端面16b;アイドルプーリ18;無端研削ベルト20;上側走行部分20a;下側走行部分20b;グリップ部22;継手24;摺動収容孔26;摺動ガイド部材28;スプリング座30;前端面30a;スプリング32;前端部32a;後端部32b;前方スプリング収容孔34;後方スプリング収容孔36;スプリング支持部材38;スプリング支持部材収容空間40;枢動軸42;係合部44;押圧支持面46;段部48;異物捕捉溝50;上部前面開口部52;下部前面開口部54;側面開口部56;カバー58;固定ネジ60;円錐面62;
工具本体110;スプリング座130;スプリング支持部材138;係合部144;押圧支持面146;カバー158;
長手軸線L;枢動軸線R;
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8