(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
流体を導入する導入ポートと、流体を導出する導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとをつなぐ流体通路に設けられた弁孔と、隔壁により前記流体通路と離隔された圧力室と、を有するボディと、
前記流体通路に配置され、前記弁孔に接離して弁部の開度を調整可能な弁体と、
前記ボディとの間に前記圧力室を形成するように設けられたハウジングと、前記ハウジングに外周部が支持され、前記ハウジング内を前記圧力室と離隔される閉空間と前記圧力室に開放される開放空間とに仕切るダイヤフラムと、を有するパワーエレメントと、
前記開放空間に配置され、前記ダイヤフラムに同軸状に当接するディスクと、
前記隔壁を貫通して軸線方向に摺動可能に支持され、一端側が前記ディスクを介して前記ダイヤフラムに接続され、他端側が前記弁体に接続され、前記ダイヤフラムの変位による軸線方向の駆動力を前記弁体に伝達するシャフトと、
を備え、
前記ダイヤフラムは、前記ディスクが当接する当接面を含む平坦部と前記外周部との間に、平面視同心円環状で断面視波形状のコルゲート部を有し、
前記コルゲート部は、前記外周部の前記圧力室側の面を基準面として前記圧力室側へ突出する山が、前記外周部から前記平坦部に向けて実質的にN+0.5個設けられることにより形成され(Nは自然数)、
前記ダイヤフラムとして、前記ダイヤフラムが軸線方向の差圧を受けない無負荷状態における前記基準面を基準とした前記圧力室側への高さに関し、前記外周部と前記平坦部との間にある前記コルゲート部の山の高さが、前記平坦部の高さよりも小さくなるように構成されたものが、前記ハウジングに組み付けられていることを特徴とする制御弁。
冷凍サイクルに設けられ、熱交換器を経て流入した冷媒を前記弁部を通過させることにより絞り膨張させて蒸発器へ供給する膨張弁として機能することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の制御弁。
前記ボディは、前記導入ポートとして前記熱交換器からの冷媒を導入する第1導入ポートと、前記導出ポートとして冷媒を前記蒸発器へ導出する第1導出ポートと、前記流体通路として前記第1導入ポートと第1導出ポートとをつなぐ第1の通路と、前記蒸発器から戻ってきた冷媒を導入する第2導入ポートと、冷媒を圧縮機へ向けて導出する第2導出ポートと、前記第2導入ポートと第2導出ポートとの間に前記圧力室を含む第2の通路と、を有し、
前記隔壁が、前記第1の通路と前記第2の通路とを離隔し、
前記パワーエレメントは、前記ボディの前記第2の通路に対して前記第1の通路とは反対側に設けられ、前記第2の通路を流れる冷媒の温度と圧力を感知して動作し、
前記シャフトが、前記隔壁に形成された挿通孔を貫通するように設けられていることを特徴とする請求項4に記載の制御弁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らの検証により、上述の提案構成には、弁開度の確保およびダイヤフラムの耐久性の観点から改善の余地があることが分かった。
【0007】
本発明の目的の一つは、ダイヤフラムを感圧部材として備える制御弁において、弁開度を大きく確保するとともに、ダイヤフラムの耐久性向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は制御弁である。この制御弁は、流体を導入する導入ポートと、流体を導出する導出ポートと、導入ポートと導出ポートとをつなぐ流体通路に設けられた弁孔と、隔壁により流体通路と離隔された圧力室と、を有するボディと、流体通路に配置され、弁孔に接離して弁部の開度を調整可能な弁体と、ボディとの間に圧力室を形成するように設けられたハウジングと、ハウジングに外周部が支持され、ハウジング内を圧力室と離隔される閉空間と圧力室に開放される開放空間とに仕切るダイヤフラムと、を有するパワーエレメントと、開放空間に配置され、ダイヤフラムに同軸状に当接するディスクと、隔壁を貫通して軸線方向に摺動可能に支持され、一端側がディスクを介してダイヤフラムに接続され、他端側が弁体に接続され、ダイヤフラムの変位による軸線方向の駆動力を弁体に伝達するシャフトと、を備える。
【0009】
ダイヤフラムは、ディスクが当接する当接面を含む平坦部と外周部との間に、平面視同心円環状で断面視波形状のコルゲート部を有する。コルゲート部は、外周部の圧力室側の面を基準面として圧力室側へ突出する山が、外周部から平坦部に向けて実質的にN+0.5個設けられることにより形成される(Nは自然数)。ダイヤフラムとして、無負荷状態における基準面を基準とした圧力室側への高さに関し、外周部と平坦部との間にあるコルゲート部の山の高さが平坦部の高さよりも小さくなるように構成されたものが、ハウジングに組み付けられている。
【0010】
この態様によると、コルゲート部を形成する山数が端数を有するように設定されたうえで、ダイヤフラムの外周部と平坦部との間にある山の高さが、その平坦部の高さよりも小さく設定される。それにより、ダイヤフラムのストロークを大きく確保でき、そのストローク時にダイヤフラムに作用する最大応力を抑えることができる。その結果、弁体のリフト量を大きく確保できるとともに、ダイヤフラムの耐久性向上を図ることができる。
【0011】
本発明の別の態様は、弁部を内蔵するボディと、ダイヤフラムを感圧部材として弁部の駆動力を発生するパワーエレメントとを備える制御弁の製造方法である。この製造方法は、ダイヤフラムを成形する工程と、ダイヤフラムがその外周部を支点として軸線方向に変位可能に支持されるようパワーエレメントを組み立てる工程と、パワーエレメントをボディに組み付ける工程と、を備える。
【0012】
ダイヤフラムを成形する工程は、ダイヤフラムが軸線方向の差圧を受けない無負荷状態において、ダイヤフラムの中央寄りの平坦部と外周部との間に、平面視同心円環状で断面視波形状のコルゲート部を形成する工程を含む。コルゲート部を形成する工程は、外周部の片側面を基準面として片側へ突出する山が、外周部から平坦部に向けて実質的にN+0.5個設けられるようになされ(Nは自然数)、基準面を基準とした片側への高さに関し、外周部と平坦部との間にあるコルゲート部の山の高さが、平坦部の高さよりも小さくなるようになされる。
【0013】
この態様によると、ダイヤフラムが、コルゲート部の山数が端数を有するように形成され、また、そのダイヤフラムの外周部と平坦部との間にある山の高さが、その平坦部の高さよりも小さくなるように形成される。それにより、弁開度を大きく確保でき、ダイヤフラムの耐久性向上を図ることが可能な制御弁を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ダイヤフラムを感圧部材として備える制御弁において、弁開度を大きく確保するとともに、ダイヤフラムの耐久性向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略することがある。
【0017】
本実施形態は、本発明の制御弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される温度式膨張弁として具体化している。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を気液に分離する受液器、分離された液冷媒を絞り膨張させて霧状にして送出する膨張弁、その霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器が設けられている。ここでは便宜上、膨張弁以外については詳細な説明を省略する。
【0018】
図1は、実施形態に係る膨張弁の断面図である。
膨張弁1は、アルミニウム合金からなる素材を押出成形して得た部材に所定の切削加工を施して得られたボディ2を有する。このボディ2は角柱状をなし、その内部には冷媒の絞り膨張を行う弁部が設けられている。ボディ2の長手方向の端部には、「駆動部」として機能するパワーエレメント3が設けられている。
【0019】
ボディ2の側部には、受液器側(凝縮器側)から高温・高圧の液冷媒を導入する導入ポート6、膨張弁1にて絞り膨張された低温・低圧の冷媒を蒸発器へ向けて導出する導出ポート7、蒸発器にて蒸発された冷媒を導入する導入ポート8、膨張弁1を通過した冷媒を圧縮機側へ導出する導出ポート9が設けられている。導入ポート6と導出ポート9との間には、図示しない配管取付用のスタッドボルトを植設可能とするためのねじ穴10が形成されている。各ポートには、配管の継手が接続される。
【0020】
膨張弁1においては、導入ポート6、導出ポート7およびこれらをつなぐ冷媒通路(流体通路)により第1の通路13が構成されている。第1の通路13の中間部には、弁部が設けられている。導入ポート6から導入された冷媒は、その弁部にて絞り膨張されて霧状となり、導出ポート7から蒸発器へ向けて導出される。一方、導入ポート8、導出ポート9およびこれらをつなぐ冷媒通路により第2の通路14が構成されている。第2の通路14は、ストレートに延びており、その中間部がパワーエレメント3の内部と連通している。導入ポート8から導入された冷媒の一部は、パワーエレメント3に供給されて感温される。第2の通路14を通過した冷媒は、導出ポート9から圧縮機へ向けて導出される。
【0021】
第1の通路13の中間部には弁孔16が設けられ、その弁孔16の導入ポート6側の開口端縁により弁座17が形成されている。弁座17に導入ポート6側から対向するように弁体18が配置されている。弁体18は、弁座17に着脱して弁部を開閉する球状のボール弁体41と、そのボール弁体41を下方から支持する弁体受け43とを接合して構成されている。
【0022】
ボディ2の下端部には、内外を連通させる連通孔19が形成されており、その上半部により弁体18を収容する弁室40が形成されている。弁室40は、弁孔16に連通し、弁孔16と同軸状に形成されている。弁室40は、また、側部にて上流側通路37を介して導入ポート6に連通している。上流側通路37は、弁室40に向けて開口する小孔42を含む。小孔42は、第1の通路13の通路断面が局部的に狭小化されて形成されている。
【0023】
弁孔16は、下流側通路39を介して導出ポート7に連通している。すなわち、上流側通路37、弁室40、弁孔16および下流側通路39が、第1の通路13を構成している。上流側通路37と下流側通路39とは互いに平行であり、それぞれ弁孔16の軸線に対して直角方向に延在している。なお、変形例においては、上流側通路37と下流側通路39との互いの投影が直角をなすように(互いにねじれの位置となるように)導入ポート6又は導出ポート7の位置を設定してもよい。
【0024】
連通孔19の下半部には、その連通孔19を外部から封止するようにアジャストねじ20が螺着されている。弁体18(正確には弁体受け43)とアジャストねじ20との間には、弁体18を閉弁方向に付勢するスプリング23が介装されている。アジャストねじ20のボディ2への螺入量を調整することで、スプリング23の荷重を調整することができる。アジャストねじ20とボディ2との間には、冷媒の漏洩を防止するためのOリング24が介装されている。
【0025】
一方、ボディ2の上端部には凹部50が設けられ、凹部50の底部に内外を連通させる開口部52が設けられている。パワーエレメント3は、その下部が凹部50に螺着され、開口部52を封止するようにボディ2に組み付けられている。凹部50とパワーエレメント3との間の空間により、感温室54(「圧力室」として機能する)が形成されている。
【0026】
パワーエレメント3は、ボディ2との間に感温室54を形成するように設けられたハウジング25と、そのハウジング25内を軸線方向に仕切るダイヤフラム28とを備える。ハウジング25は、アッパーハウジング26とロアハウジング27とを軸線方向に組み付けて構成される。ダイヤフラム28は、「感圧部材」として機能する。
【0027】
すなわち、パワーエレメント3は、アッパーハウジング26とロアハウジング27との間にダイヤフラム28を挟むように介装し、そのロアハウジング27側にディスク29を配置して構成されている。アッパーハウジング26はステンレス材を有蓋状にプレス成形して得られる。ロアハウジング27は、ステンレス材を段付円筒状にプレス成形して得られる。ディスク29は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、両ハウジングよりも熱伝導率が大きい。ダイヤフラム28は、本実施形態ではステンレス鋼板等の金属薄板からなる。
【0028】
パワーエレメント3は、アッパーハウジング26とロアハウジング27との互いの開口部を突き合わせ、その外縁部にダイヤフラム28の外周部を挟むようにして組み付け、両ハウジングの接合部に沿って外周溶接が施されることにより容器状に形成されている。パワーエレメント3の内部は、ダイヤフラム28により密閉空間S1と開放空間S2とに仕切られる。密閉空間S1は、感温室54と離隔され、感温用のガスが封入されている。開放空間S2は、感温室54に開放され、開口部52を介して第2の通路14に連通する。
ディスク29は、開放空間S2に配置され、ダイヤフラム28と同軸状に当接する。なお、ダイヤフラム28およびその周辺の構成については、後に詳述する。
【0029】
パワーエレメント3とボディ2との間には、冷媒の漏洩を防止するためのOリング30が介装されている。第2の通路14を通過する冷媒の一部は、開口部52を介して感温室54に導入され、ディスク29に設けられた溝部53を通ってダイヤフラム28の下面に導かれる。それにより、その冷媒の温度および圧力が、ダイヤフラム28に伝達される。また、その冷媒の温度は、熱伝導率が大きいディスク29を介した熱伝導によってもダイヤフラム28に伝達される。
【0030】
ボディ2の中央部には、第1の通路13と第2の通路14との間の隔壁35を貫通するように挿通孔34が設けられている。この挿通孔34は、小径部44と大径部46とを有する段付孔となっており、小径部44には長尺状のシャフト33が摺動可能に挿通されている。シャフト33は、金属製(例えばステンレス製)のロッドであり、ディスク29と弁体18との間に介装されている。これにより、ダイヤフラム28の変位よる軸線方向の駆動力が、ディスク29およびシャフト33を介して弁体18へ伝達され、弁部が開閉される。なお、ディスク29は、ロアハウジング27に係止されることにより、その下方への変位が規制される。それにより、ダイヤフラム28の開弁方向への過度な変位が防止されている。
【0031】
シャフト33の上半部は第2の通路14を横断し、下半部は挿通孔34の小径部44に摺動可能に支持されている。大径部46(「取付孔」として機能する)には、シャフト33に軸線方向と直角な方向の付勢力、つまり横荷重(摺動荷重)を付与するための防振ばね48が収容されている。シャフト33がその防振ばね48の横荷重を受けることにより、冷媒圧力の変動によるシャフト33や弁体18の振動が抑制される。なお、防振ばね48の具体的構造については、例えば特開2013−242129号公報に記載の構成を採用することができるため、その詳細な説明については省略する。
【0032】
なお、本実施形態では、挿通孔34とシャフト33との間にOリング等のシール部材は設けられていないが、シャフト33と小径部44とのクリアランスが十分に小さいため、第1の通路13から第2の通路14への冷媒の漏れは抑制される。すなわち、いわゆるクリアランスシールが実現されている。
【0033】
以上のように構成された膨張弁1は、概略以下のように製造される。まず、ボディ2、パワーエレメント3、シャフト33、防振ばね48、弁体18、およびアジャストねじ20のそれぞれが、個別に作製される。ボディ2は、押出加工により得られたブロック状のベース部材にドリルによる切削加工(穴あけ加工)がなされることで得られる。この穴あけ加工の二次加工として、凹部50にはパワーエレメント3を螺合させるためのねじ穴が成形され、連通孔19にはアジャストねじ20を螺合させるためのねじ穴が成形される。
【0034】
パワーエレメント3の作製においては、アッパーハウジング26およびロアハウジング27のそれぞれを、上述のようにプレス成形により得る。その一方で、薄膜円板状のステンレス鋼板をプレス成形し、後述のコルゲート部を有するダイヤフラム28を得る。そして、ロアハウジング27にディスク29を載置し、アッパーハウジング26とロアハウジング27とによりダイヤフラム28を挟持させた状態で両ハウジングを溶接する。それにより、ダイヤフラム28がその外周部を支点として軸線方向に変位可能に支持される態様でパワーエレメント3が組み立てられる。
【0035】
そして、ボディ2に対して弁体18、アジャストねじ20、防振ばね48、シャフト33およびパワーエレメント3を順次組み付けることにより、膨張弁1が得られる。なお、ダイヤフラム28の構成およびその成形の詳細については後述する。
【0036】
以上のように構成された膨張弁1は、蒸発器から導入ポート8を介して戻ってきた冷媒の圧力及び温度をパワーエレメント3が感知してダイヤフラム28が変位する。すなわち、ダイヤフラム28は、蒸発器の出口側冷媒温度の変化に伴う密閉空間S1の圧力と開放空間S2の圧力との差圧に応じて軸線方向に変位する。このダイヤフラム28の変位が駆動力となり、ディスク29およびシャフト33を介して弁体18に伝達されて弁部を開閉させる。一方、受液器から供給された液冷媒は、導入ポート6から導入され、弁部を通過することにより絞り膨張されて、低温・低圧の霧状の冷媒になる。その冷媒は導出ポート7から蒸発器へ向けて導出される。
【0037】
次に、ダイヤフラム28の構成およびその効果について詳細に説明する。
本実施形態では、ダイヤフラム28のコルゲート部の形状を工夫することにより、開弁性能の向上およびダイヤフラム28の耐久性向上を実現している。
図2は、ダイヤフラムの単体構造を表す図である。
図2(A)は、ダイヤフラム28がパワーエレメント3として組み付けられる前の単品の状態、つまりダイヤフラム28の無負荷状態を示す断面図である。なお、説明の便宜上、ディスク29の位置関係を二点鎖線にて示している。
図2(B)は
図2(A)のA部拡大図である。
【0038】
図2(A)に示すように、ダイヤフラム28は、薄膜円板状の本体60を有する。平面図については省略するが、本体60には、平面視同心円環状で断面視波形状のコルゲート部62が設けられている(中心線L参照)。本体60の中央部寄りには、ディスク29が当接する当接面を有する平坦部64が設けられている。そして、その平坦部64と外周部66との間にコルゲート部62が形成されている。平坦部64と外周部66とは平行であるが、同一平面上にはなく、軸線方向にややずれた位置関係にある。本体60の中心にはディスク29とは反対側に突出する膨出部68が設けられている。この膨出部68は、パワーエレメント3に対してダイヤフラム28を組み付ける際にその上面と下面とを容易に識別するために設けられている。変形例においては、膨出部68を省略してもよい。
【0039】
図2(B)にも示すように、コルゲート部62は、外周部66の下面(感温室54側の面)を基準面70として下側へ突出する山が、半径方向に連設されることにより形成されている。図示の例では、外周部66から平坦部64に向けて山72,74が設けられており、山74は半山(0.5山)とされている。すなわち、一山半による波形状が形成されているが、例えば二山半でもよく、実質的にN+0.5個(Nは自然数)の山が形成されるように波形状が設定されればよい(図示の例ではN=1)。特許文献1の構成と同様に、Nを3以下の自然数としてもよい。
【0040】
そして、ダイヤフラム28は、無負荷状態における基準面70を基準とした下側への高さに関し、外周部66と平坦部64との間にあるコルゲート部62の山72の高さH2が、平坦部64の高さH1よりも小さくなるように構成されている(H2<H1)。なお、図示の例における山74は、その頂点が平坦部64に含まれるため、「外周部66と平坦部64との間にある山」の概念には含まれない。すなわち、本実施形態ではコルゲート部62の波形状が一山半からなるため、一山分の高さH2が平坦部64の高さH1よりも小さくされるが、コルゲート部62の波形状が二山半からなる場合、二山分の高さが平坦部64の高さH1よりもそれぞれ小さくされる。
【0041】
以上のようなダイヤフラム28の構造による効果を確認するため、CAE(Computer Aided Engineering)による数値解析を行った。この解析は、コルゲート部62の形状に基づく開弁性能とダイヤフラム28の耐久性を評価するものである。「開弁性能」については、ダイヤフラム28の上面側圧力と下面側圧力との差圧の変化に対する弁体18のリフト量の変化に基づいて評価している。上述のように、密閉空間S1には感温用のガスが封入されており、ダイヤフラム28の上面側圧力はそのガス圧となる。ここでは、ダイヤフラム28の下面側圧力が大気圧である場合に、その上面側圧力による開弁方向の荷重が、スプリング23による閉弁方向の荷重に打ち勝ち、ディスク29がロアハウジング27に係止されるように上面側圧力を設定する。そして、下面側圧力の上昇に伴う差圧変化に対してリフト量変化が大きいほど、開弁特性に優れていると評価する。以下、その解析結果について説明する。
【0042】
図3は、開弁性能の解析結果を表す図である。この解析は、ダイヤフラムに作用する差圧の変化に対する弁体のリフト量の変化を有限要素解析により演算したものである。同図の横軸はダイヤフラム28の下面側圧力(MPaG)をゲージ圧にて示し、縦軸は弁体18の弁座17からのリフト量(mm)を示す。この解析では、その上面側圧力を一定とし、下面側圧力を0〜0.4(MPaG)の間で変化させたときのリフト量(mm)を演算した。そして、このような演算を、ダイヤフラム28の外周部と平坦部との間にある山の高さを複数種類設定して行った。すなわち、
図2(B)に示したダイヤフラム28の構成において、基準面70を基準とする平坦部64の高さH1に対する山72の高さH2の割合(高さ割合)を変化させたものに対し、それぞれ演算を行った。
【0043】
図3には、その高さ割合が異なる8種類のダイヤフラムについて解析結果が示されている。図中の太線について、点線が0%、破線が12%、二点鎖線が29%、一点鎖線が41%、実線が59%の高さ割合にそれぞれ対応している。また、図中の細線について、一点鎖線が71%、二点鎖線が88%、破線が100%の高さ割合にそれぞれ対応している。なお、高さ割合0%は、コルゲート部62として半山(0.5山)しか形成されない場合に対応する。高さ割合100%は、山72の高さH2が、平坦部64の高さH1と等しくなる場合を示し(H2=H1)、特許文献1の構成に対応する。
【0044】
通常の弁開度制御領域(「常用領域」ともいう)がリフト量で0〜0.3(mm)であることから、当該範囲の傾向を開弁特性と評価する。本解析結果によれば、高さ割合が小さくなるほど、ダイヤフラム28に作用する差圧変化に対する弁体18のリフト量変化を大きくできることが分かる。すなわち、平坦部64の高さH1よりも山72の高さH2を小さくすることで、開弁特性を向上できることが分かる。特に、ダイヤフラム28の下面側圧力が高い状態、つまりダイヤフラム28の上面側圧力と下面側圧力との差圧が小さい領域(低温域)において、開弁特性が顕著に向上することが分かる。
【0045】
図4は、ダイヤフラムの耐久性を評価するための解析結果を示す図である。この解析は、ダイヤフラムに対して所定の繰り返し荷重を作用させたときにその表面に発生する応力を有限要素解析により演算したものである。具体的には、ダイヤフラムの上面側圧力を一定とし、下面側圧力を0〜0.4(MPaG)の間で繰り返し変化させることによる変動荷重を与え、ダイヤフラムの表面の応力を演算した。なお、下面側圧力を最大の0.4(MPaG)としても、ダイヤフラム28がその支点よりも内側でアッパーハウジング26に接触しないことを前提としている(
図4(A)の支点P参照)。
【0046】
図4(A)は、繰り返し荷重を作用させたときにダイヤフラムに作用する応力分布を示す。同図の横軸はダイヤフラム28における中心からの距離を示し、縦軸は応力振幅(MPa)を示す。説明の便宜上、図中上段にダイヤフラム28およびその周辺構造の位置関係を中心からの距離に対応させるように示している(二点鎖線参照)。
図4(B)は、
図4(A)において応力振幅が最大となる箇所近傍を示すB部拡大図である。なお、同図では便宜上、上述した高さ割合が100%に対応する結果を細い破線にて示し、59%に対応する結果を太い実線にて示している。
【0047】
図4(A)に示すように、いずれの高さ割合の場合も、アッパーハウジング26とロアハウジング27とによって挟持されるダイヤフラム28の支点Pの近傍において最大応力が発生している。いずれの高さ割合の場合も、中心からの距離に対する応力の分布が近似した傾向を示している。ただし、
図4(B)に示すように、支点Pの近傍の部分において、高さ割合が59%の場合のほうが、100%の場合に比べて応力振幅が抑えられている。一方、支点Pの近傍とは異なる部分でその応力振幅の大小関係が逆転している箇所もある。このことから、高さ割合を小さくすることで、局所的に高まる応力が半径方向に分散され、最大応力が引き下げられるものと推察される。なお、他の高さ割合については、
図5に関連して説明する。
【0048】
図5は、コルゲート部の山の高さ割合と、ダイヤフラムの耐久性および開弁特性との関係を表す図である。同図の横軸は高さ割合(%)を示す。図中の実線は最大応力の応力振幅(MPa)を示し、破線は常用領域における開弁特性を示す。前者は、
図4に示した支点P近傍の応力振幅を、
図3に示した各高さ割合についてプロットしたものである。後者は、
図3に示した常用領域について、下面側圧力変化に対するリフト量の変化を開弁特性としてプロットしたものである。ここでは簡単のため、各高さ割合について、常用領域の端点を直線で結んだ傾きにて表される平均変化量を開弁特性としている。
【0049】
同図によれば、開弁特性については、高さ割合が小さいほど良好に得られることが分かる。一方、最大応力の応力振幅については、高さ割合が60%付近において最も抑制できることが分かる。これらより、特に開弁特性に着目した場合、コルゲート部62の山72の高さH2を、平坦部64の高さH1よりも可能な限り小さくすることが好ましいことが分かる(H2<H1)。一方、特にダイヤフラム28の耐久性に着目する場合には、高さ割合を25%以上100%未満とするのが好ましいことが分かる。そしてさらに、高さ割合を25%以上60%以下とすることで、ダイヤフラム28の耐久性を良好に維持するとともに、良好な開弁特性が得られることが分かる。
【0050】
以上に説明したように、本実施形態によれば、コルゲート部62を形成する山数が端数を有するように設定されたうえで、ダイヤフラム28の外周部66と平坦部64との間にある山の高さが、その平坦部64の高さよりも小さく設定される。それにより、ダイヤフラム28のストロークを大きく確保でき、ダイヤフラム28に作用する最大応力を抑えることができる。その結果、弁体18のリフト量を大きく確保できるとともに、ダイヤフラム28の耐久性向上を図ることができる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0052】
上記実施形態の膨張弁は、冷媒として代替フロン(HFC−134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0053】
上記実施形態では、上記膨張弁を、外部熱交換器を経て流入した冷媒を絞り膨張させて蒸発器(室内蒸発器)へ供給するものとして構成する例を示した。変形例においては、上記膨張弁を、ヒートポンプ式の車両用冷暖房装置に適用し、内部熱交換器の下流側に設置してもよい。すなわち、上記膨張弁を、内部熱交換器を経て流入した冷媒を絞り膨張させて外部熱交換器(室外蒸発器)へ供給するものとして構成してもよい。
【0054】
上記実施形態では、膨張弁の一態様を例示したが、例えば特許文献1の
図1に示されるような膨張弁、つまりパワーエレメントの密閉空間にキャピラリチューブの一端を接続する態様の膨張弁として構成してもよい。キャピラリチューブの他端には、蒸発器出口側の冷媒温度を感知する感温筒が接続される。
【0055】
上記実施形態では、制御弁として膨張弁を例示したが、ダイヤフラムを感圧部材として備える制御弁であれば、上記構造のダイヤフラムを適用することができる。その場合、その制御弁は、冷媒以外を作動流体とするものでもよい。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。