特許第6569152号(P6569152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569152
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】棒状試験片の表面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 31/00 20060101AFI20190826BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20190826BHJP
【FI】
   B24B31/00 C
   B24B37/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-132039(P2017-132039)
(22)【出願日】2017年7月5日
(65)【公開番号】特開2019-14001(P2019-14001A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2017年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517237698
【氏名又は名称】大阪精機工作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】近藤 桂一
(72)【発明者】
【氏名】神谷 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】餅月 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】金谷 紀代和
(72)【発明者】
【氏名】森川 隆
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−031488(JP,A)
【文献】 特開2006−068835(JP,A)
【文献】 特開平07−266216(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/110027(WO,A1)
【文献】 特開2015−187304(JP,A)
【文献】 特開2001−150327(JP,A)
【文献】 特公昭56−045749(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00−3/60
B24B21/00−39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐硫化物応力腐食割れ性試験に供される棒状試験片の表面を研磨する方法であって、
キャリアに砥粒を分散させた研磨メディア中に前記棒状試験片を配置し、前記研磨メディアを流動させることによって前記棒状試験片の表面を研磨する砥粒流動研磨工程を備え、
前記砥粒流動研磨工程では、前記研磨メディアの温度が40℃以上にならないように、前記棒状試験片の表面を研磨する、棒状試験片の表面研磨方法。
【請求項2】
前記砥粒流動研磨工程前の前記棒状試験片の平行部の直径をD1とし、前記砥粒流動研磨工程前の前記平行部の表面の最大断面高さをRt1とし、前記砥粒流動研磨工程後の前記平行部の直径をD2とした場合、前記砥粒流動研磨工程では、下記式(i)を満足するように前記棒状試験片の表面を研磨する、請求項1に記載の棒状試験片の表面研磨方法。
D1−D2≧2×Rt1 ・・・(i)
【請求項3】
前記砥粒流動研磨工程前に、JIS R6001−2 2017で規定される粒度が♯600〜1500の乾式研磨紙を用いて、前記棒状試験片の表面を研磨する粗研磨工程をさらに備える、請求項1または2に記載の棒状試験片の表面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状試験片の表面研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油および天然ガスなどの資源の枯渇が懸念されている。このため、従来は資源開発が行われていなかったような高深度かつ硫化水素を含む環境下において、油井およびガス井の開発が進められている。このような過酷な環境下において掘削および輸送に用いられる油井管およびラインパイプに対しては、降伏強さで758MPa(110ksi)級以上でかつ優れた耐SSC性を備えることが要求されている。
【0003】
油井管等において使用される鋼材の耐SSC性は、例えば、NACE−TM0177−2005 method Aに準拠した試験によって評価される。同試験では、具体的には、鋼材から採取された所定寸法の棒状試験片の平行部に所定の引張応力を付加した状態で、該試験片を試験液中に720時間浸漬する。そして、棒状試験片が破断するか否かによって、耐硫化物応力腐食割れ性(以下、耐SSC性と記載する。)が評価される。
【0004】
耐SSC性に影響する因子としては、鋼材特有の機械的特性、組織、および介在物などに加えて、耐SSC試験に供される棒状試験片の表面粗さなどの研磨状態が考えられる。このため、鋼材の耐SSC性を適切に評価するためには、棒状試験片の表面粗さを極力低減するとともに、該表面粗さの試験片周方向におけるばらつきを低減することが望ましい。
【0005】
従来、棒状の部材の表面を研磨するための種々の装置および方法が提案されている。例えば、特許文献1には、砥粒流動加工装置が開示されている。この装置を用いて被加工物の表面を研磨する際には、粘弾性材料からなる加工媒体が収容された加工室内に、被加工物が固定される。そして、被加工物の表面に沿って加工媒体を移動させることによって、被加工物の表面が研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭56−45749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に開示された上記のような研磨方法によって、棒状試験片の表面粗さを低減することを検討した。その結果、研磨時間を十分に確保することによって、棒状試験片の表面粗さを、耐SSC試験に適した値まで低下させることができることが分かった。一方で、研磨時間が長くなり過ぎると偏摩耗が発生し、棒状試験片の周方向において表面粗さのばらつきが大きくなる場合があることが分かった。
【0008】
そこで、本発明は、偏摩耗が生じることを抑制しつつ表面粗さを適切に低減できる、棒状試験片の表面研磨方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の棒状試験片の表面研磨方法を要旨とする。
【0010】
(1)棒状試験片の表面を研磨する方法であって、
キャリアに砥粒を分散させた研磨メディア中に前記棒状試験片を配置し、前記研磨メディアを流動させることによって前記棒状試験片の表面を研磨する砥粒流動研磨工程を備え、
前記砥粒流動研磨工程では、前記研磨メディアの温度が40℃以上にならないように、前記棒状試験片の表面を研磨する、棒状試験片の表面研磨方法。
【0011】
(2)前記砥粒流動研磨工程前の前記棒状試験片の平行部の直径をD1とし、前記砥粒流動研磨工程前の前記平行部の表面の最大断面高さをRt1とし、前記砥粒流動研磨工程後の前記平行部の直径をD2とした場合、前記砥粒流動研磨工程では、下記式(i)を満足するように前記棒状試験片の表面を研磨する、上記(1)に記載の棒状試験片の表面研磨方法。
D1−D2≧2×Rt1 ・・・(i)
【0012】
(3)前記砥粒流動研磨工程前に、JIS R6001−2 2017で規定される粒度が♯600〜1500の乾式研磨紙を用いて、前記棒状試験片の表面を研磨する粗研磨工程をさらに備える、上記(1)または(2)に記載の棒状試験片の表面研磨方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、偏摩耗が生じることを抑制しつつ棒状試験片の表面粗さを適切に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、棒状試験片を示す図である。
図2図2は、棒状試験片の加工方法の一例を示すフロー図である。
図3図3は、砥粒流動加工装置の一例を示す概略図である。
図4図4は、偏摩耗が生じた平行部の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る棒状試験片の表面研磨方法について説明する。図1は、本実施形態に係る表面研磨方法によって、表面が研磨される棒状試験片を示す図である。図1に示すように、棒状試験片10は、平行部12、一対の肩部14および一対のつかみ部16を有している。本実施形態では、棒状試験片10は、例えば、コルテスト試験に供される引張試験片であり、平行部12の直径Dは、例えば、6.35mmであり、平行部12の長さLは、例えば、25.4mmである。
【0016】
図2は、本実施形態に係る表面研磨方法を利用した、棒状試験片の加工方法の一例を示すフロー図である。図2に示すように、本実施形態では、まず、機械加工によって、鋼材(例えば、評価対象となる鋼管)から、所定寸法の角材が切り出される(ステップS1)。
【0017】
次に、ステップS1で切り出された角材を切削することによって、図1に示した形状の棒状試験片10を得る(ステップS2)。ステップS2では、例えば、NC旋盤によって角材が切削される。NC旋盤の送り速度は、例えば、0.05〜0.08mm/revに設定される。
【0018】
なお、鋼材からの角材の切り出し、および角材から棒状試験片への切削は、棒状試験片の公知の製造方法と同様に行なうことができる。したがって、ステップS1,S2の処理内容は特に限定されない。
【0019】
次に、ステップS2で得られた棒状試験片に対して、粗研磨を施す(ステップS3)。ステップS3では、例えば、JIS R6001−2 2017で規定される粒度が♯600〜1500の乾式研磨紙を用いて、棒状試験片10の表面を研磨する。なお、粗研磨は、手動で行なってもよく、研磨装置を用いて自動で行なってもよい。また、後述するステップS4の処理時間を十分に確保できる場合には、ステップS3の粗研磨は行わなくてもよい。
【0020】
次に、粗研磨後の棒状試験片10に対して、砥粒流動研磨を施す(ステップS4)。図3は、砥粒流動研磨を行なう際に利用される砥粒流動加工装置の一例を示す概略図である。なお、ステップS4においては、公知の砥粒流動加工装置を利用できる。具体的には、例えば、特許文献1に開示された砥粒流動加工装置を利用することができる。したがって、以下においては、本実施形態において利用できる砥粒流動加工装置の構成の一例を簡単に説明する。
【0021】
図3に示すように、砥粒流動加工装置20は、円筒状の治具22,24,26,28a,28bと、円板状の治具29a,29bと、治具28a内に設けられる固定部材30aと、治具28b内に設けられる固定部材30bと、治具22内において治具22の軸方向に移動可能に設けられるピストン32と、治具26内において治具26の軸方向に移動可能に設けられるピストン34とを備えている。治具29aは、板厚方向に貫通する複数の貫通孔を有している。この貫通孔によって、治具22内の空間と治具28a内の空間とが連通している。同様に、治具29bは、板厚方向に貫通する複数の貫通孔を有している。この貫通孔によって、治具26内の空間と治具28b内の空間とが連通している。治具24,28a,28b,29a,29bは、治具22,26の間に固定されている。
【0022】
砥粒流動加工装置20内において、ピストン32とピストン34との間の空間に、研磨メディア40が充填されている。研磨メディア40は、キャリアと、該キャリアに分散された砥粒とを含む。キャリアとしては、粘弾性樹脂を用いることができる。砥粒としては、例えば、炭化ケイ素またはダイヤモンドを用いることができる。なお、キャリアとしては、砥粒流動加工を行う際に従来利用されている公知の粘弾性樹脂を用いることができる。また、砥粒としても、砥粒流動加工を行う際に従来利用されている公知の砥粒を用いることができる。
【0023】
棒状試験片10は、研磨メディア40中に配置される。図3の例では、棒状試験片10は治具24,28a,28b内に設けられ、かつ固定部材30a,30bを介して治具29a,29bに固定されている。ステップS4においては、図示しない駆動機構によってピストン32,34を治具22,26の軸方向に繰り返し往復運動させる。これにより、研磨メディア40が、棒状試験片10の周囲において、棒状試験片10の軸方向に繰り返し往復運動(流動)する。その結果、棒状試験片10の外周面が、研磨メディア40によって研磨される。
【0024】
本実施形態では、砥粒流動研磨中に研磨メディア40の温度が40℃以上にならないように、研磨メディア40の温度が管理される。なお、砥粒流動研磨中の研磨メディア40の温度は、35℃以上にならないように管理されることが好ましく、30℃を超えないように管理されることがより好ましい。また、ステップS4の処理時間(砥粒流動研磨時間)は、例えば、30分未満であることが好ましく、砥粒流動研磨中の研磨メディア40の圧力は、例えば、4MPa以上であることが好ましく、10MPa未満であることが好ましい。
【0025】
また、本実施形態では、砥粒流動研磨前の棒状試験片10の平行部12の直径をD1とし、砥粒流動研磨前の平行部12の表面の最大断面高さ(JIS B 0601 2013)をRt1とし、砥粒流動研磨後の平行部12の直径をD2とした場合、ステップS4では、下記式(i)を満足するように棒状試験片10の表面が研磨されることが好ましい。下記式(i)を満たす場合、ステップS4において棒状試験片10の表面が十分に研磨されているので、平行部12の表面粗さを十分に低減できる。
D1−D2≧2×Rt1 ・・・(i)
【0026】
なお、本実施形態では、上述の最大断面高さRt1は、例えば、平行部12の軸方向における任意の位置の外周面を測定対象とし、平行部12の全周長さを評価長さとして求められる。
【実施例】
【0027】
下記の表1に化学組成を示す鋼A(炭素鋼)および鋼B(ステンレス鋼)からなる鋼材から角材を切り出し、NC旋盤を用いて棒状試験片10を作製した。なお、鋼材はいずれも、焼入れ焼戻し処理により製造されており、降伏強度で758MPa級の鋼材である。
【0028】
【表1】
【0029】
各鋼材から、棒状試験片10を6本ずつ作製し、粗研磨および砥粒流動研磨を行い、研磨後の平行部12の表面の状態を調査した。本実施例では、砥粒流動研磨を行うに際して、砥粒として炭化ケイ素を用いた。研磨条件および調査結果を、下記の表2に示す。なお、表2には示していないが、粗研磨後に、顕微鏡で50倍の倍率で平行部12の表面観察を行った結果、試験No.4の棒状試験片10では、微細(5μm以下)な介在物が確認され、試験No.10の棒状試験片10では、微細(5μm以下)な加工疵が確認された。下記の表2において、表面粗さRt2は、平行部12の周方向における5箇所(それぞれ、所定の長さを有する領域)で最大断面高さを求め、求められた5箇所の最大断面高さの平均値である。また、表2において、表面粗さΔRt2は、上記5箇所の最大断面高さのうち、最大値と最小値との差である。表面粗さΔRt2が小さいほど、平行部12の周方向における表面粗さのばらつきが小さいと考えることができる。また、偏摩耗の有無は、顕微鏡により50倍の倍率で平行部12の表面を観察した。
【0030】
【表2】
【0031】
表2に示したように、全ての棒状試験片10において、砥粒流動研磨後の平行部12の表面粗さ(最大断面高さRt2)が0.60μm以下となっており、砥粒流動研磨によって、平行部12の表面粗さを十分に低減できたことが分かる。
【0032】
また、本発明の要件を満たした試験No.1〜4および7〜10の棒状試験片10では、平行部12の表面に偏摩耗が生じていない。このため、表面粗さΔRt2の値も0.20μm以下となっており、表面粗さのばらつきを小さくできたことが分かる。
【0033】
一方、砥粒流動研磨中における研磨メディア40の温度が本発明の要件を満たしていない試験No.5、6、11および12では、平行部12の表面に、図4に示すような偏摩耗が生じていた。これにより、表面粗さΔRt2の値も、0.20μmを超えており、表面粗さのばらつきが大きくなったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、偏摩耗が生じることを抑制しつつ棒状試験片の表面粗さを適切に低減できる。
【符号の説明】
【0035】
10 棒状試験片
12 平行部
20 砥粒流動加工装置
40 研磨メディア
図1
図2
図3
図4