(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される作業装置と、機械伝動部を含む変速装置を介して前記エンジンの駆動力を車輪に伝達する走行駆動装置と、を備えた作業車両であって、
係合状態にあるときに前記作業車両を前進方向に走行させる前進用のクラッチ、および、係合状態にあるときに前記作業車両を後進方向に走行させる後進用のクラッチを有するクラッチ装置と、
前記作業車両を前進方向または後進方向に走行させる指示を行う前後進指示装置と、
前記前進用のクラッチおよび前記後進用のクラッチが係合状態にあるか否かを検出するクラッチ状態検出装置と、
前記クラッチ装置の係合状態に対応する前記作業車両の進行方向と、前記前後進指示装置により指示された前記作業車両の進行方向とが逆の方向であることを含む制限条件が成立した場合に、前記油圧ポンプの最大吸収トルクを低く制限するトルク制限部と、を備えていることを特徴とする作業車両。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明による作業車両の一実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダは、アーム(リフトアームとも呼ばれる)111、バケット112、および、車輪113(前輪)等を有する前部車体110と、運転室121、機械室122、および、車輪113(後輪)等を有する後部車体120とで構成される。
【0011】
アーム111はアームシリンダ117の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。掘削や荷役等の作業を行うフロント作業装置(作業系)119は、アーム111およびアームシリンダ117、バケット112およびバケットシリンダ115を含んで構成される。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ116の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0012】
機械室122の内部にはエンジンが設けられ、運転室121の内部にはアクセルペダルやアーム操作レバー、バケット操作レバー、後述する前後進切換レバー17などの各種操作部材が設けられている。
【0013】
図2は、ホイールローダの概略構成を示す図である。ホイールローダは、コントローラ100およびエンジンコントローラ15などの制御装置を備えている。コントローラ100およびエンジンコントローラ15は、CPUや、ROM,RAMなどの記憶装置、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成され、ホイールローダの各部(油圧ポンプや弁装置、エンジン等)を制御する。
【0014】
ホイールローダは、エンジン190の駆動力を車輪113に伝達する走行駆動装置(走行系)30を備えている。走行駆動装置30は、HMT(Hydro-Mechanical Transmission:油圧−機械式変速装置)3と、プロペラシャフト4と、アクスル装置5と、アクスル6と、を備えている。エンジン190の出力軸は、HMT3に連結されている。
図3は、HMT3の概略構成を示す図である。HMT3は、HST(Hydro Static Transmission)31と、機械伝動部32とを備え、エンジン190の駆動力をHST3と機械伝動部32へパラレルに伝達する。エンジン190の出力軸の回転はHMT3で変速される。変速後の回転は、プロペラシャフト4、アクスル装置5、アクスル6を介して車輪113に伝達されて、ホイールローダが走行する。
【0015】
HMT3は、前進用の油圧クラッチ(以下、前進クラッチ18と記す)と、後進用の油圧クラッチ(後進クラッチ19と記す)を有するクラッチ装置16を備えている。前進クラッチ18および後進クラッチ19は、トランスミッション制御装置20(
図2参照)を介して供給される圧油の圧力(クラッチ圧)が増加すると係合(接続)動作を行い、クラッチ圧が減少すると解放(切断)動作を行う。
【0016】
エンジン190の出力軸は、クラッチシャフト22に連結されている。前進クラッチ18が係合状態の場合、後進クラッチ19は解放状態であり、クラッチシャフト22は前進クラッチ18と一体に回転し、ホイールローダを前進方向に走行させる。後進クラッチ19が係合状態の場合、前進クラッチ18は解放状態であり、クラッチシャフト22は後進クラッチ19と一体に回転し、ホイールローダを後進方向に走行させる。
【0017】
クラッチシャフト22の回転力は、ギアを介して入力軸23に伝達される。入力軸23には、遊星歯車機構140のサンギア147が固定されている。サンギア147の外周には、複数のプラネタリギア148が歯合されている。各プラネタリギア148は、遊星キャリア149に軸支され、遊星キャリア149は出力軸150に固定されている。出力軸150は、上述のプロペラシャフト4に接続されている。プラネタリギア群の外周にはリングギア141が歯合され、リングギア141の外周にポンプ入力ギア142が歯合されている。ポンプ入力ギア142は、走行用の油圧ポンプ(以下、HSTポンプ40と記す)の回転軸に固定されている。HSTポンプ40には、走行用の油圧モータ(以下、HSTモータ50と記す)が閉回路接続されている。HSTモータ50の回転軸には、モータ出力ギア154が固定されており、モータ出力ギア154が出力軸150のギア143に歯合されている。
【0018】
HSTポンプ40は、傾転角に応じて押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧ポンプである。押しのけ容積はレギュレータ41により制御される。図示しないが、レギュレータ41は傾転シリンダと、コントローラ100からの前後進切換信号に応じて切り換わる前後進切換弁とを有する。傾転シリンダには、前後進切換弁を介して制御圧力が供給され、制御圧力に応じて押しのけ容積が制御されるとともに、前後進切換弁の切換に応じて傾転シリンダの動作方向が制御され、HSTポンプ40の傾転方向が制御される。
【0019】
HSTモータ50は、傾転角に応じて押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧モータである。コントローラ100から図示しないモータ用のレギュレータ51に制御信号が出力されることで、HSTモータ50の押しのけ容積(モータ容量)が制御される。コントローラ100は、エンジンストールが発生することを防止するために、エンジン190の要求回転速度(以下、要求エンジン回転速度Nrと記す)に対して、エンジン190の実回転速度(以下、実エンジン回転速度Naと記す)が低く、その差が大きい場合、その差が小さい場合に比べて押しのけ容積を小さく制御する。
【0020】
このように、本実施の形態では、入力分割型のHMT3を採用している。入力分割型のHMT3では、遊星歯車機構140に連結したHSTポンプ40と油圧回路により接続されたHSTモータ50を、変速装置の出力軸150と回転比一定で連結する構成とされている。エンジン190の出力トルクは、遊星歯車機構140を経由して、HST31と機械伝動部42にパラレルに伝達され、車輪113が駆動される。
【0021】
図2に示すように、ホイールローダは、作業装置駆動用のメインポンプ11、コントロールバルブ21、および、油圧シリンダ22を備えている。油圧シリンダ22は、アーム111を駆動させるアームシリンダ117、およびバケット112を駆動させるバケットシリンダ115を含む。メインポンプ11は、エンジン190により駆動され、作動油タンク199内の作動油を吸い込み、圧油として吐出する。
【0022】
メインポンプ11は、押しのけ容積が変更される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型の油圧ポンプである。メインポンプ11の吐出流量は、押しのけ容積とメインポンプ11の回転速度に応じて決定される。メインポンプ11の押しのけ容積は、容量制御アクチュエータ13aと電磁弁13bを含むレギュレータ13により制御される。電磁弁13bは、コントローラ100からの制御信号(励磁電流)により動作し、コントローラ100からの制御信号に応じたパイロット2次圧(指令圧力)を生成し、容量制御アクチュエータ13aに出力する。コントローラ100からの励磁電流が大きくなるほど、指令圧力は高くなり、押しのけ容積が小さくなる(すなわち、最大吸収トルクが小さくなる)。レギュレータ13は、メインポンプ11の吸収トルク(入力トルク)が、コントローラ100によって設定された最大ポンプ吸収トルクを超えないように、押しのけ容積を調節する。後述するように、最大ポンプ吸収トルクの設定値は、クラッチ装置16の係合状態、車速、および、実エンジン回転速度と要求エンジン回転速度との差に応じて変更される。
【0023】
メインポンプ11から吐出された圧油はコントロールバルブ21を介して油圧シリンダ22に供給され、油圧シリンダ22によってアーム111やバケット112が駆動される。コントロールバルブ21は操作レバー31のパイロット弁31vから出力されるパイロット圧により操作され、メインポンプ11から油圧シリンダ22への圧油の流れを制御する。操作レバー31は、アーム111の上昇/下降指令を出力するアーム操作レバーと、バケット112のクラウド/ダンプ指令を出力するバケット操作レバーを含む。
【0024】
パイロットポンプ12は、エンジン190により駆動され、作動油タンク199内の作動油を吸い込み、圧油を吐出する固定容量型の油圧ポンプである。パイロットポンプ12は、操作レバー31のパイロット弁31vに圧油を供給する。パイロット弁31vは、パイロットポンプ12から吐出される圧油を減圧して、操作レバー31の操作量に応じたパイロット圧をコントロールバルブ21に出力する。
【0025】
コントローラ100には、車両の前進方向または後進方向に走行させる指示、すなわちホイールローダの進行方向を指示する前後進切換レバー17が接続されている。前後進切換レバー17の操作位置(前進(F)/中立(N)/後進(R))を表す指示信号(すなわち前進信号/中立信号/後進信号)は、コントローラ100によって検出される。コントローラ100は、前後進切換レバー17が前進(F)位置に切り換えられると、HMT3の前進クラッチ18を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。コントローラ100は、前後進切換レバー17が後進(R)位置に切り換えられると、HMT3の後進クラッチ19を係合状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。
【0026】
トランスミッション制御装置20では、前進クラッチ18または後進クラッチ19を係合状態とするための制御信号を受信すると、トランスミッション制御装置20に設けられているクラッチ制御弁(不図示)が動作して、前進クラッチ18または後進クラッチ19が係合状態とされ、作業車両の進行方向が前進側または後進側に切り換えられる。コントローラ100は、前後進切換レバー17が中立(N)位置に切り換えられると、前進クラッチ18および後進クラッチ19を解放状態とするための制御信号をトランスミッション制御装置20に出力する。これにより、前進クラッチ18および後進クラッチ19は解放状態とされ、HMT3は中立状態となる。
【0027】
図3に示すように、コントローラ100には、クラッチセンサ131および車速センサ132が接続されている。クラッチセンサ131は、前進クラッチ18および後進クラッチ19が係合状態にあるか否かを検出し、係合状態であればオン信号、解放状態であればオフ信号をコントローラ100に出力する。車速センサ132は、車速に相当する物理量であるプロペラシャフト4の回転速度を検出して、検出信号をコントローラ100に出力する。
【0028】
図4は、ホイールローダのトルク線図であり、エンジン出力トルク特性E、ポンプ吸収トルク特性A1,A2を示している。コントローラ100の記憶装置には、エンジン出力トルク特性Eと、複数のポンプ吸収トルク特性A1,A2がルックアップテーブル形式で記憶されている。後述するように、特性A1は制限条件が成立していないときに用いられ、特性A2は制限条件が成立しているときに用いられる。
【0029】
エンジン出力トルク特性Eは、実エンジン回転速度Naと最大エンジン出力トルクとの関係を示している。なお、最大エンジン出力トルクとは、各回転速度において、エンジン190が出力可能な最大のトルクを意味する。エンジン出力トルク特性(最大トルク線)で規定される領域が、エンジン190が出し得る性能を示している。ホイールローダに搭載されるエンジンは、定格点(定格最高トルク)Peを超える回転速度領域では、急激にトルクが低減するドループ特性を有している。図中、ドループ線は、定格点Peとポンプ無負荷状態におけるエンジン最高回転速度とを結ぶ直線により定義される。
【0030】
図4に示すように、エンジン出力トルク特性Eでは、実エンジン回転速度Naがローアイドル回転速度(最低回転速度)Ns以上Nv以下の範囲において実エンジン回転速度Naの上昇に応じてトルクが増加し、実エンジン回転速度NaがNvのときに、特性Eにおけるトルクの最大値Temaxとなる(最大トルク点Tm)。なお、ローアイドル回転速度とは、アクセルペダル134の非操作時のエンジン回転速度である。エンジン出力トルク特性Eでは、実エンジン回転速度NaがNvよりも大きくなると、実エンジン回転速度Naの上昇に応じてトルクが減少し、定格点Peに達すると、定格出力が得られる。実エンジン回転速度Naが定格点Peにおける定格回転速度を超えて上昇すると、急激にトルクが減少する。
【0031】
ポンプ吸収トルク特性A1,A2は、それぞれ実エンジン回転速度Naと最大ポンプ吸収トルク(最大ポンプ入力トルク)の関係を示している。ポンプ吸収トルク特性A1では、実エンジン回転速度NaがNd1以下では、実エンジン回転速度Naにかかわらず特性A1におけるトルクの最小値Tpminとなる。実エンジン回転速度NaがNu1以上では、実エンジン回転速度Naにかかわらず特性A1におけるトルクの最大値Tpmaxとなる。特性A1では、実エンジン回転速度NaがNd1〜Nu1の範囲では実エンジン回転速度Naの上昇に応じてトルクが増加する。すなわち、図示するように、特性A1で設定される最大ポンプ吸収トルクは、低速度域で最小値Tpminから最大値Tpmaxにかけて実エンジン回転速度Naの上昇にしたがって増加し、中速度域および高速度域で最大値Tpmaxとされる。これに対し、特性A2で設定される最大ポンプ吸収トルクは、実エンジン回転速度Naにかかわらず、最小値Tpminとされる。
【0032】
図2に示すように、コントローラ100は、目標速度設定部100aと、要求速度決定部100bと、制限条件判定部100cと、解除条件判定部100dと、トルク特性設定部100eと、クラッチ切換条件判定部100fと、クラッチ制御部100gと、クラッチ状態判定部100hと、を機能的に備えている。
【0033】
コントローラ100には、操作量センサ134aが接続されている。操作量センサ134aは、アクセルペダル134の踏み込み操作量(操作角)を検出し、検出信号をコントローラ100に出力する。目標速度設定部100aは、操作量センサ134aで検出したアクセルペダル134の操作量に応じてエンジン190の目標回転速度(以下、目標エンジン回転速度Ntと記す)を設定する。
【0034】
図5は、アクセルペダル134の操作量Lと目標エンジン回転速度Ntの関係を示す図である。コントローラ100の記憶装置には、
図5に示す目標エンジン回転速度特性Tnのテーブルが記憶されており、目標速度設定部100aは特性Tnのテーブルを参照し、操作量センサ134aで検出された操作量Lに基づいて目標エンジン回転速度Ntを設定する。アクセルペダル134の非操作時(0%)の目標エンジン回転速度Ntはローアイドル回転速度Nsに設定される。アクセルペダル134のペダル操作量Lの増加に伴い目標エンジン回転速度Ntは増加する。ペダル最大踏み込み時(100%)の目標エンジン回転速度Ntは定格点における定格回転速度Nmaxとなる。
【0035】
図2に示す要求速度決定部100bは、燃料の消費を抑制することなどを目的として、ホイールローダの運転状態に応じて、目標速度設定部100aで設定された目標エンジン回転速度Ntを補正し、補正後の目標エンジン回転速度Ntを要求エンジン回転速度Nrとして決定する。なお、補正量を0として、目標エンジン回転速度Ntをそのまま要求エンジン回転速度Nrとして決定する場合もある。
【0036】
コントローラ100は、要求エンジン回転速度Nrに対応した制御信号をエンジンコントローラ15に出力する。エンジンコントローラ15には、回転速度センサ136が接続されている。回転速度センサ136は、実エンジン回転速度Naを検出し、検出信号をエンジンコントローラ15に出力する。なお、エンジンコントローラ15は、実エンジン回転速度Naの情報をコントローラ100に出力する。エンジンコントローラ15は、特性テーブルE(
図4参照)を参照して、コントローラ100からの要求エンジン回転速度Nrと、回転速度センサ136で検出された実エンジン回転速度Naとを比較して、実エンジン回転速度Naが要求エンジン回転速度Nrとなるように燃料噴射装置190aを制御する。
【0037】
クラッチ状態判定部100hは、クラッチセンサ131(
図3参照)からの検出信号に基づき、前進クラッチ18が係合状態にあるか否か、および、後進クラッチ19が係合状態にあるか否かを判定する。
【0038】
制限条件判定部100cは、次の(条件1a)および(条件1b)のいずれかが満たされ、かつ、(条件2)が満たされた場合に、制限条件が成立していると判定する。
(条件1a)前進クラッチ18が係合状態であり、かつ、前後進切換レバー17が後進(R)位置に切り換えられていること
(条件1b)後進クラッチ19が係合状態であり、かつ、前後進切換レバー17が前進(F)位置に切り換えられていること
(条件2)ホイールローダの車速Vがトルク制限用閾値Vt以下であること
なお、トルク制限用閾値Vtは、前進クラッチ18と後進クラッチ19の切り換え動作が行われる直前の車速に相当し、後述のクラッチ切換用閾値Vcに比べて高い(Vt>Vc)。トルク制限用閾値Vtは、予めコントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0039】
(条件1a)および(条件1b)は、クラッチ装置16の係合状態に対応するホイールローダの進行方向と、前後進切換レバー17により指示されたホイールローダの進行方向とが逆の方向であることを判定する条件である。
【0040】
解除条件判定部100dは、次の(条件3a)および(条件3b)のいずれかが満たされ、かつ、(条件4)が満たされた場合、解除条件が成立していると判定する。
(条件3a)前進クラッチ18が係合状態であり、かつ、前後進切換レバー17が前進(F)位置に切り換えられていること
(条件3b)後進クラッチ19が係合状態であり、かつ、前後進切換レバー17が後進(R)位置に切り換えられていること
(条件4)要求エンジン回転速度Nrから実エンジン回転速度Naを差し引いたときの値(速度差)が閾値ΔN0よりも小さいこと(Nr−Na<ΔN0)
なお、閾値ΔN0は、正の値であり、ラグダウンが十分に解消していることを判定するために設定される。閾値ΔN0は、予め実機試験等により定められ、コントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0041】
(条件3a)および(条件3b)は、クラッチ装置16の係合状態に対応するホイールローダの進行方向と、前後進切換レバー17により指示されたホイールローダの進行方向とが同じ方向(順方向)であることを判定する条件である。
【0042】
トルク特性設定部100eは、制限条件判定部100cおよび解除条件判定部100dの判定結果に基づいて、ポンプ吸収トルク特性を選択する。コントローラ100は、初期設定において、ポンプ吸収トルク特性A1を設定する。ポンプ吸収トルク特性A1が設定されている状態(非制限状態とも呼ぶ)において、制限条件判定部100cにより制限条件が成立していると判定されると、トルク特性設定部100eは、ポンプ吸収トルク特性A2を設定し、メインポンプ11の最大吸収トルクを低く制限する。
【0043】
ポンプ吸収トルク特性A2が設定されている状態(制限状態とも呼ぶ)において、解除条件判定部100dにより解除条件が成立していると判定されると、コントローラ100に内蔵されているタイマにより、解除条件の成立が維持されている時間(以下、継続時間tと記す)の計測を開始する。トルク特性設定部100eは、解除条件の継続時間tが閾値t0以上になると、ポンプ吸収トルク特性A1を設定し、メインポンプ11の最大吸収トルクの制限を解除する。
なお、閾値t0は、ラグダウンが解消した後、走行系を優先して加速性を向上させるための時間であり、予めコントローラ100の記憶装置に記憶されている。閾値t0は、実機試験等により適正な値が定められる。閾値t0は、たとえば、0.1秒以上1.0秒以下の範囲で定められる。
【0044】
コントローラ100は、選択された特性テーブル(A1,A2)を参照して、回転速度センサ136で検出された実エンジン回転速度Naに基づいて最大ポンプ吸収トルクを演算する。コントローラ100は、吐出圧センサ(不図示)で検出されたメインポンプ11の吐出圧(負荷圧)と回転速度センサ13で検出された実エンジン回転速度Naに基づいて、この最大ポンプ吸収トルクを超えないように、レギュレータ13を介してメインポンプ11の押しのけ容積、すなわち傾転角を制御する。
【0045】
クラッチ切換条件判定部100fは、上述の(条件1a)および(条件1b)のいずれかが満たされ、かつ、次の(条件5)が満たされた場合に、クラッチ切換条件が成立していると判定する。
(条件5)ホイールローダの車速Vがクラッチ切換用閾値Vc以下であること
なお、クラッチ切換用閾値Vcは、アクセルペダル134を戻し操作した後、エンジンブレーキにより、実エンジン回転速度Naと要求エンジン回転速度Nrとの差がほぼ0になったときの車速に相当する。クラッチ切換用閾値Vcは、予め実機試験等により定められ、コントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0046】
クラッチ制御部100gは、クラッチ切換条件判定部100fによりクラッチ切換条件が成立していると判定されると、クラッチの切換制御を実行する。(条件1a)および(条件5)が満たされた場合、クラッチ制御部100gは、トランスミッション制御装置20に制御信号を出力し、前進クラッチ18を解放状態とし、後進クラッチ19を係合状態とする。(条件1b)および(条件5)が満たされた場合、クラッチ制御部100gは、トランスミッション制御装置20に制御信号を出力し、後進クラッチ19を解放状態とし、前進クラッチ18を係合状態とする。
【0047】
図6は、土砂等をダンプトラックへ積み込む方法の1つであるVシェープローディングについて示す図である。
図7は、ホイールローダによる掘削作業を示す図である。
図6に示すように、Vシェープローディングでは、矢印aで示すように、ホイールローダを土砂等の地山130に向かって前進させる。
【0048】
図7に示すように、地山130にバケット112を突入し、バケット112を操作してからアーム111を上げ操作する、あるいはバケット112とアーム111を同時に操作しながら最後にアーム111のみを上げ操作して掘削作業を行う。
【0049】
掘削作業が終了すると、
図6の矢印bで示すように、ホイールローダを一旦後退させる。矢印cで示すように、ダンプトラックに向けてホイールローダを前進させて、ダンプトラックの手前で停止し、すくい込んだ土砂等をダンプトラックに積み込み、矢印dで示すように、ホイールローダを元の位置に後退させる。以上が、Vシェープローディングによる掘削、積み込み作業の基本的な動作である。
【0050】
上記した掘削、積み込み作業中、たとえば、
図6の矢印bで示すように、後進中のホイールローダを矢印cで示すように前進させる際に、運転者はアクセルペダル134を戻し操作し、前後進切換レバー17を後進から前進に切り換え操作する。このため、後進から前進への移行の際には、後方への車体の慣性エネルギーが、機械伝動部32を介してエンジン190に負荷として作用する。さらに、運転者は、ダンプトラックでの積み込み作業を考え、後進から前進への移行の際にアーム操作レバーを上げ側に操作してアーム111を上昇させる。このため、アーム111を駆動させるためのメインポンプ11の負荷がエンジン190に作用する。このように、後進から前進へ進行方向を切り換えるとともにフロント作業装置119を駆動する動作(以下、進行切換複合動作と記す)が行われると、走行系および作業系を駆動させるために必要なエンジン出力トルクが不足してラグダウンが発生する。進行切換複合動作が行われると、フロント作業装置119を駆動させずに、後進走行から前進走行へ移行する場合に比べて実エンジン回転速度Naの低下が大きい。
【0051】
本実施の形態では、進行切換複合動作の際に、ポンプ吸収トルク特性A1に代えてポンプ吸収トルク特性A2が設定される(すなわち、メインポンプ11の最大吸収トルクが低く制限される)ので、エンジン190に作用するメインポンプ11の負荷を抑制できる。その結果、実エンジン回転速度Naの低下が抑制される。
【0052】
以下、ポンプ吸収トルク特性の選択制御を、
図8および
図9のフローチャートを用いて説明する。
図8および
図9は、コントローラ100によるポンプ吸収トルク特性の選択制御処理の動作を示したフローチャートである。
図8は、特性A1が選択されている非制限状態から特性A2が選択される処理の内容を示し、
図9は、特性A2が選択されている制限状態から特性A1が選択される処理の内容を示している。なお、
図8では、クラッチの切換処理についても図示している。
【0053】
イグニッションスイッチ(不図示)がオンされると、図示しない初期設定を行った後、
図8に示す処理を行うプログラムが起動され、所定の制御周期で、コントローラ100により繰り返し実行される。なお、初期設定では、ポンプ吸収トルク特性として特性A1が選択され、コントローラ100に内蔵されるタイマがリセットされる(t=0)。また、後述する
図9のフローチャートに示す選択処理により特性A1が選択されると、
図8に示す処理を行うプログラムが起動され、所定の制御周期で、コントローラ100により繰り返し実行される。なお、図示しないが、コントローラ100は、所定の制御周期毎に車速センサ132やクラッチセンサ131、操作量センサ134a、回転速度センサ136、前後進切換レバー17などの各種センサからの検出信号や各種操作部材からの操作信号が入力される。
【0054】
ステップS110において、コントローラ100は、クラッチセンサ131で検出された係合状態のクラッチの情報と、前後進切換レバー17による指示方向の情報とを比較して、(条件1a)または(条件1b)が成立しているか否かを判定する。すなわち、コントローラ100は、クラッチ装置16の係合状態に対応するホイールローダの進行方向と、前後進切換レバー17により指示されたホイールローダの進行方向とが逆の方向であるか否かを判定する。コントローラ100は、ステップS110の処理を肯定判定されるまで繰り返し実行し、肯定判定されるとステップS120へ進む。
【0055】
ステップS120において、コントローラ100は、車速センサ132で検出された車速Vがトルク制限用閾値Vt以下であるか否かを判定する。すなわち、コントローラ100は、(条件2)が成立しているか否かを判定する。ステップS120で肯定判定されるとステップS130へ進み、ステップS120で否定判定されるとステップS110へ戻る。
【0056】
ステップS130において、コントローラ100は、記憶装置からポンプ吸収トルク特性A2のテーブル(
図4参照)を選択し、ステップS140へ進む。ステップS140において、コントローラ100は、車速センサ132で検出された車速Vがクラッチ切換用閾値Vc以下であるか否かを判定する。すなわち、コントローラ100は、(条件5)が成立しているか否かを判定する。ステップS140で肯定判定されるとステップS150へ進み、ステップS140で否定判定されるとステップS110へ戻る
【0057】
ステップS150において、コントローラ100は、前後進切換レバー17の操作位置に対応する油圧クラッチ(前進クラッチ18または後進クラッチ19)を接続し、他方の油圧クラッチ(後進クラッチ19または前進クラッチ18)を解放して、
図8に示す特性選択処理を終了する。なお、油圧クラッチは、完全に密着させた係合状態とするための押付け力を100%としたとき、30%程度の押付け力で油圧クラッチを接続させ、その後、徐々に押付け力を増加させる。
【0058】
図8のフローチャートに示す選択処理により特性A2が選択されると、
図9に示す処理を行うプログラムが起動され、所定の制御周期で、コントローラ100により繰り返し実行される。
【0059】
ステップS210において、コントローラ100は、クラッチセンサ131で検出された係合状態のクラッチの情報と、前後進切換レバー17による指示方向の情報とを比較して、(条件3a)または(条件3b)が成立しているか否かを判定する。すなわち、コントローラ100は、クラッチ装置16の係合状態に対応するホイールローダの進行方向と、前後進切換レバー17により指示されたホイールローダの進行方向とが同じ方向であるか否かを判定する。ステップS210で肯定判定されるとステップS220へ進み、ステップS210で否定判定されるとステップS235へ進む。
【0060】
ステップS220において、コントローラ100は、(条件4)が成立しているか否か、すなわち要求エンジン回転速度Nrから実エンジン回転速度Naを差し引いたときの値(速度差)が閾値ΔN0未満であるか否かを判定する。ステップS220で肯定判定されるとステップS230へ進み、ステップS220で否定判定されるとステップS235へ進む。
【0061】
ステップS235において、コントローラ100は、内蔵するタイマをリセット、すなわち継続時間tを0に設定し、ステップS210へ戻る。
【0062】
ステップS230において、コントローラ100は、内蔵するタイマをカウント、すなわち継続時間tに制御周期に相当する時間Δtを加算し(t=t+Δt)、ステップS240へ進む。ステップS240において、コントローラ100は、タイマカウント値である継続時間tが閾値t0以上であるか否かを判定する。ステップS240で肯定判定されるとステップS250へ進み、ステップS240で否定判定されるとステップS210へ戻る。
【0063】
ステップS250において、コントローラ100は、記憶装置からポンプ吸収トルク特性A1のテーブル(
図4参照)を選択し、
図9に示す特性選択処理を終了する。
【0064】
このように、本実施の形態では、クラッチ装置16の係合状態に対応する進行方向と、前後進切換レバー17により指示された進行方向とが逆の方向である場合に、車速Vがトルク制限用閾値Vtまで低下したときに、最大ポンプ吸収トルクを低く制限する。これにより、進行切換複合動作を行った際における実エンジン回転速度Naの低下を抑制することができる。以下、比較例と比較して、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0065】
図10は、ポンプ吸収トルク特性A1のみでメインポンプ11の押しのけ容積を制御する比較例での進行切換複合動作時の挙動を説明する図である。比較例に係るホイールローダに進行切換複合動作を行わせた場合について説明する。
【0066】
上述したように、後進中のホイールローダを前進させる際、運転者はアクセルペダル134を戻し操作し、前後進切換レバー17を後進から前進に切り換え操作する。戻し操作後、アクセルペダル134は、所定の操作量で維持され、要求エンジン回転速度Nrが一定に保たれる。
図10に示すように、アクセルペダル134を戻し操作した直後は、要求エンジン回転速度Nrに対して、実エンジン回転速度Naが高いので、エンジンブレーキが作用する。なお、このエンジンブレーキが作用しているエンジンブレーキフェーズでは、前後進切換レバー17は、既に前進(F)位置に切り換えられているが、後進クラッチ19が接続されている状態である。
【0067】
エンジンブレーキによりホイールローダが減速し、クラッチ切換用閾値Vcまで車速が低下すると、後進クラッチ19が解放され、前進クラッチ18が接続される。
【0068】
前進クラッチ18が接続されると、エンジン190は、車体の走行方向とは逆の力(走行駆動力)を発生させ、車体を積極的に制動させる。この積極的な制動力を発生させるフェーズでは、実エンジン回転速度Naが要求エンジン回転速度Nrよりも低下することになる。
【0069】
積極的な制動力発生フェーズにおいて、運転手がアーム操作レバーを上げ側に操作すると、アーム111が上昇を開始する。ホイールローダが後進走行から前進走行に移行する際、走行系および作業系が複合的に駆動されるため、必要なエンジン出力トルクが不足してラグダウンが生じ、実エンジン回転速度Naが大きく低下している。実エンジン回転速度Naが要求エンジン回転速度Nrに対して大きく低下すると、コントローラ100は、エンジンストールを防止するためにHSTモータ50の押しのけ容積を小さくするため、走行駆動力が一時的に落ち込む「抜け」が発生し、その結果、車速Vの上昇率が一時的に低下する。この結果、後進走行から前進走行へ移行した後の加速のもたつき感などの違和感を運転者に与えてしまうおそれがある。
【0070】
図11は、本実施の形態での進行切換複合動作時の挙動を説明する図である。本実施の形態では、エンジンブレーキフェーズにおいて、エンジンブレーキによりホイールローダが減速し、トルク制限用閾値Vtまで車速Vが低下すると、制限条件が成立し、ポンプ吸収トルク特性A2が設定される(S110でYes,S120でYes,S130)。その後、クラッチ切換用閾値Vcまで車速Vが低下すると、クラッチ切換条件が成立し、後進クラッチ19が解放され、前進クラッチ18が接続される(S110でYes,S140でYes,S150)。
【0071】
本実施の形態では、積極的な制動力発生フェーズにおいて、ポンプ吸収トルク特性A2が設定されているため、作業系の動作に制限がかかり、エンジン190の駆動力は走行系に優先して分配される。このため、比較例に比べて、実エンジン回転速度Naの低下量を抑えることができる。この結果、走行駆動力の一時的な落ち込みや、車速Vの上昇率が一時的に低下することを抑制乃至防止することができる。この結果、運転者に対する加速のもたつき感などの違和感を低減することができる。
【0072】
なお、アーム111の上げ操作は、前後進切換レバー17を後進から前進へ切り換える前の段階で行われる場合もある。この場合も実エンジン回転速度の低下量を抑えることができ、加速のもたつき感などの違和感を低減することができる。
【0073】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)ホイールローダは、エンジン190により駆動される可変容量型のメインポンプ11と、メインポンプ11から吐出される圧油により駆動されるフロント作業装置119と、機械伝動部32を含むHMT3を介してエンジン190の駆動力を車輪113に伝達する走行駆動装置30と、を備えている。ホイールローダは、係合状態にあるときにホイールローダを前進方向に走行させる前進クラッチ18、および、係合状態にあるときにホイールローダを後進方向に走行させる後進クラッチ19を有するクラッチ装置16と、ホイールローダを前進方向または後進方向に走行させる指示を行う前後進切換レバー17と、前進クラッチ18および後進クラッチ19が係合状態にあるか否かを検出するクラッチセンサ131と、を備えている。コントローラ100は、クラッチ装置16の係合状態に対応するホイールローダの進行方向と、前後進切換レバー17により指示されたホイールローダの進行方向とが逆の方向であることを含む制限条件が成立した場合に、メインポンプ11の最大吸収トルクを低く制限する。
【0074】
これにより、後進から前進走行へ移行する際において、フロント作業装置119を操作した場合に発生するラグダウンを抑制することができる。この結果、後進走行から前進走行へ移行した後の運転者に対する加速のもたつき感などの違和感を低減することができる。
【0075】
(2)コントローラ100は、前進クラッチ18および後進クラッチ19のうちの一方が係合状態であるときに、前後進切換レバー17により前進クラッチ18および後進クラッチ19のうちの他方を係合状態とする指示信号を検出すると、車速センサ132で検出された車速Vがクラッチ切換用閾値Vc以下であるときにトランスミッション制御装置20に制御信号(クラッチ切換信号)を出力する。トランスミッション制御装置21は、コントローラ100からの制御信号(クラッチ切換信号)に基づいて、前進クラッチ18および後進クラッチ19のうちの他方を係合状態とするクラッチの切換制御を実行する。
【0076】
本実施の形態では、上述の制限条件に、車速Vがクラッチ切換用閾値Vcよりも高い速度であってクラッチ切換用閾値Vcよりも高く設定されたトルク制限用閾値Vt以下の速度であることが含まれる。これにより、車速Vに基づいて、クラッチの切換制御の前の段階で、メインポンプ11の最大吸収トルクを低く制限することができる。適切なタイミングでポンプトルクの制限制御を実行することができ、走行駆動力に対して、メインポンプ11の負荷の影響を最小限に抑えることができる。なお、
図11に示すように、クラッチの切換制御の直前でメインポンプ11の最大吸収トルクを低く制限することで、クラッチの切換制御の直前まではフロント作業装置を非制限状態で動作させることができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0077】
(3)コントローラ100は、要求エンジン回転速度Nrを決定し、エンジンコントローラ15に出力する。エンジンコントローラ15は、回転速度センサ136で検出された実エンジン回転速度Naが要求エンジン回転速度Nrとなるようにエンジン190の燃料噴射装置190aを制御する。コントローラ100は、クラッチ装置16の係合状態に対応するホイールローダの進行方向と、前後進切換レバー17により指示されたホイールローダの進行方向とが同じ方向であること、および、要求エンジン回転速度Nrと実エンジン回転速度Naとの差が所定値よりも小さいことを含む解除条件が成立した場合に、メインポンプ11の最大吸収トルクの制限を解除する。
【0078】
実エンジン回転速度Naと要求エンジン回転速度Nrとの差が十分に小さくなってから、ポンプトルクの制限を解除することで、実エンジン回転速度Naと要求エンジン回転速度Nrとの差が十分に小さくなる前に解除する場合に比べて、加速性を向上できる。
【0079】
(4)さらに、本実施の形態では、上記解除条件の成立が維持されている継続時間tが所定時間(閾値t0)を経過したときに、メインポンプ11の最大吸収トルクの制限を解除する。後進走行から前進走行へ移行した後、所定時間(閾値t0)だけ、走行系に優先してエンジン190の動力を分配できるので、より加速性を向上できる。
【0080】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
制限条件は、上述した実施の形態に限定されない。たとえば、以下のような制限条件を設定できる。
(変形例1−1)
上述の(条件2)に代えて、次の(条件2A)を加えてもよい。
(条件2A)実エンジン回転速度Naから要求エンジン回転速度Nrを差し引いたときの回転速度差ΔNが閾値ΔN1(
図11参照)よりも小さいこと
なお、閾値ΔN1は、上述の(条件2)が満たされる速度差であり、予め実機試験等により定められ、コントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0081】
(変形例1−2)
上述の(条件2)を省略してもよい。換言すれば、上述の(条件1a)および(条件1b)のいずれかが満たされた場合に、制限条件が成立していると判定してもよい。
【0082】
(変形例2)
解除条件は、上述した実施の形態に限定されない。たとえば、以下のような解除条件を設定できる。
(変形例2−1)
上述の(条件4)に代えて、次の(条件4A)を加えてもよい。
(条件4A)ホイールローダの車速Vが制限解除用閾値Vta以上であること
なお、制限解除用閾値Vtaは、上述の(条件4)が満たされる車速Vであり、予め実機試験等により定められ、コントローラ100の記憶装置に記憶されている。
【0083】
(変形例2−2)
上述の(条件4)を省略してもよい。換言すれば、上述の(条件3a)および(条件3b)のいずれかが満たされた場合に、解除条件が成立していると判定してもよい。この場合、解除条件の成立が維持されている継続時間tが、上述の閾値t0よりも大きい閾値t1を経過してからメインポンプ11の最大吸収トルクの制限を解除することが好ましい(t1>t0)。
【0084】
(変形例2−3)
上述の(条件4)に代えて、アーム111やバケット112を操作する操作レバーに解除スイッチ(不図示)を設け、解除スイッチの操作により解除条件が成立していると判定してもよい。
【0085】
(変形例3)
上述した実施の形態では、解除条件の成立(条件3aまたは条件3bが成立、かつ条件4が成立)が維持されている継続時間tが所定時間(閾値t0)を経過したときに、コントローラ100によるメインポンプ11の最大吸収トルクの制限を解除する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。解除条件が成立した場合、直ちにメインポンプ11の最大吸収トルクの制限を解除してもよい。
【0086】
(変形例4)
駐車時における解除条件を以下のように定め、上述の解除条件に加え、あるいは、上述の解除条件に代えて、次の駐車時解除条件が成立した場合に、ポンプ吸収トルク特性A1を選択する構成としてもよい。
【0087】
解除条件判定部100dは、駐車状態であることを判定する(条件6)、(条件7)および(条件8)のいずれかが満たされた場合、駐車時解除条件が成立していると判定する。
(条件6)前進クラッチ18が解放状態であり、かつ、後進クラッチ19が解放状態である状態が、予め定めた設定時間を超えたこと
(条件7)前後進切換レバー17が中立(N)位置に切り換えられている状態が、予め定めた設定時間を超えたこと
(条件8)駐車ブレーキ装置が作動していること
【0088】
上記駐車時解除条件が成立していると判定されると、トルク特性設定部100eは、ポンプ吸収トルク特性A1を設定する。このような変形例によれば、ホイールローダを駐車して、運転者が降車する前に行われる土を落とす作業を効率よく行うことができる。なお、土を落とす作業は、バケット112をストロークエンドまでダンプさせることで、意図的にショックを発生させ、バケット112にこびりついた土を振るい落す作業である。このため、バケット112の回動速度は速い方が大きなショックを発生させることができ、作業性がよい。
【0089】
(変形例5)
上述した実施の形態では、進行切換複合動作として、後進走行から前進走行へ移行する際に、アーム111を上げ動作させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、前進走行から後進走行へ移行する際に、アーム111を上げ動作させる場合にも上述と同様の作用効果を奏する。
また、メインポンプ11から吐出した圧油をステアリングシリンダ116に導く場合、後進走行から前進走行へ移行する際に、左右への操舵操作が行われた場合にも上述と同様の作用効果を奏する。
【0090】
(変形例6)
上述では、前進走行から後進走行への移行動作、および、後進走行から前進走行への移行動作の双方について、本発明を適用する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。少なくとも、後進クラッチ19が係合状態であるときに前後進切換レバー17により前進指示が行われた場合に、メインポンプ11の最大吸収トルクを低く制限するように構成してもよい。
【0091】
(変形例7)
上述した実施の形態では、車速Vのトルク制限用閾値Vtをクラッチ切換用閾値Vcよりも高い車速として設定した例について説明したが、本発明はこれに限定されない。クラッチ切換用閾値Vcとトルク制限用閾値Vtとは同じ値としてもよい。
【0092】
(変形例8)
上述した実施の形態では、入力分割型のHMT3(
図3参照)を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。入力分割型のHMT3に代えて、
図12に示すように、出力分割型のHMT203を採用してもよい。出力分割型のHMT203では、遊星歯車機構240に連結したHSTモータ50と油圧回路により接続されたHSTポンプ40を、変速装置の入力軸23と回転比一定で連結する構成とされている。本変形例では、エンジン190の出力トルクがHST31と機械伝動部32にパラレルに伝達され、遊星歯車機構240を経由して、車輪113が駆動される。
【0093】
図12に示すように、出力分割型のHMT203では、入力軸23の回転力は、入力軸23のギア243およびポンプ入力ギア142を介してHST31に伝達される。また、入力軸23には、遊星歯車機構240のサンギア147が固定されている。サンギア147の外周には、複数のプラネタリギア148が歯合されている。各プラネタリギア148は、遊星キャリア149に軸支され、遊星キャリア149は出力軸150に固定されている。出力軸150は、上述のプロペラシャフト4に接続されている。プラネタリギア群の外周にはリングギア141が歯合され、リングギア141の外周にモータ出力ギア154が歯合されている。モータ出力ギア154はHSTモータ50の回転軸に固定されている。
【0094】
(変形例9)
上述した実施の形態では、HMTを備えたホイールローダを例に説明したが、本発明はこれに限定されない。
図3や
図12に示すHMT3,203に代えて、EMT(Electro-Mechanical Transmission:電気−機械式変速装置)303を備えたホイールローダに本発明を適用してもよい。この場合、HSTポンプ40に代えて発電機340が設けられ、HSTモータ50に代えて電動モータ350が設けられる。
【0095】
本変形例では、
図13に示すように、エンジン190の出力トルクを、遊星歯車機構140を経由して、発電機340と電動モータ350による電動トルク伝達と、機械伝動部32による機械的なダイレクト駆動のトルク伝達とにパラレルに伝達することにより、車輪113を駆動する。または、図示しないが、エンジン190の出力トルクを発電機340と電動モータ350による電動トルク伝達と、機械伝動部32による機械的なダイレクト駆動のトルク伝達とにパラレルに伝達し、遊星歯車機構を経由して車輪113を駆動する構成としてもよい。
【0096】
EMT303では、進行切換複合動作が行われると、コントローラ100により電動モータ350の出力が落とされ、エンジン190の負荷を下げることでエンジンストールを防止する。したがって、上述した比較例のように、ポンプ吸収トルクを制限しない場合、電動モータ350の出力が落とされると、上述した走行駆動力の「抜け」が発生し、その結果、車速の上昇率が一時的に低下する。このため、EMT303を備えるホイールローダにおいても、進行切換複合動作が行われたときに、メインポンプ11の最大吸収トルクを低く制限することで、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0097】
(変形例10)
コントロールバルブ21を操作する操作レバー31は、油圧パイロット式レバーに代えて電気式レバーとしてもよい。前後進切換指示装置として、前後進切換レバー17を採用する例について説明したが、前後進切換スイッチとしてもよい。
【0098】
(変形例11)
上述した実施の形態では、作業車両の一例としてホイールローダを例に説明したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、ホイールショベル、フォークリフト、テレハンドラー、リフトトラック等、他の作業車両であってもよい。
【0099】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。