(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記顔料が、染付けレーキ系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、および縮合多環系顔料からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の顔料組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本明細書において「任意の数A〜任意の数B」なる記載は、当該範囲に数Aが下限値として、数Bが上限値として含まれる。
【0017】
本発明の顔料組成物は、
図1に示す以下の工程(a)〜(e)、(a)〜(c)および(e)を少なくとも実施することにより得られる。
【0018】
<工程(a)>工程(a)において、顔料に、少なくとも水溶性無機塩、水溶性有機溶剤および分散剤を加えて摩砕混練により顔料を微細化する。摩砕混練による顔料の微細化方法は、特に限定されず任意の方法を適用できるが、いわゆるソルトミリング処理による摩砕混練工程等が好適である。微細化する顔料の平均一次粒子径は、用途により変動し得るが、通常5〜1,000nmである。ここで用いる顔料は、通常、未処理の粗顔料が用いられるが、何らかの処理工程を経た顔料を用いてもよい。また、用いる顔料は、単一種類でも複数種類でもよい。
【0019】
摩砕混練方法は、顔料と水溶性無機塩と水溶性有機溶剤とを少なくとも含む混合物を、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、アトライター、横型サンドミル、縦型サンドミルまたは/およびアニューラ型ビーズミル等の混練機を用いて行うことができる。顔料の種類や、求められている微細化の程度等に応じて、処理条件等を適宜調整すればよい。機械的に混練する際に加熱を行うことが好ましい。水溶性無機塩は、破砕助剤として働くものであり、ソルトミリング時に水溶性無機塩の硬度の高さを利用して顔料を破砕する。ソルトミリング処理する際の条件を最適化することにより、一次粒子径が非常に微細であり、また、分布の幅が狭く、シャープな粒度分布をもつ顔料を得ることができる。
【0020】
顔料は、本発明の趣旨に逸脱しない範囲であれば特に限定されず、有機顔料および無機顔料を適用できる。好ましい顔料としては、染付けレーキ系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料および縮合多環系顔料から選択される少なくとも一種の有機顔料を例示できる。アゾ系顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料のいずれでもよい。上記顔料の好適な具体例としては、以下の顔料が挙げられる。
染付けレーキ顔料としては、ピグメントイエロー(以下PYと略す)18、PY100、PY104、ピグメントオレンジ(以下POと略す)39、ピグメントレッド(以下PRと略す)PR81、PR83、PR90、PR169、PR172、PR173、PR174、PR193、ピグメントバイオレット(以下PVと略す)1、PV2、PV3、PV4、PV12、PV27、PV39、ピグメントブルー(以下PBと略す)1、PB2、PB14、PB62、ピグメントグリーン(以下PGと略す)PG1、PG2、PG3、PG4、PG45、等が挙げられる。
アゾ系顔料では、PR53、PR50、PR49、PR57:1、PR48:1、PR52:1等の溶性アゾ顔料、PR1、PR3、PO5、PR21、PR114、PR5、PR146、PR170、PO38、PR187、PY1、PY3、PY167、PY154、PO36、PY12、PY13、PY14等の不溶性アゾ顔料、PR144、PR166、PR214、PR242、PY93、PY94、PY95等の縮合アゾ顔料等が挙げられる。
フタロシアニン系顔料としては、PB16、PB15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:5、PB15:6、PG7、PG36、PG58、アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
縮合多環系顔料としては、PY24、PY108、PO51、PR168、PR177、PB60等、PY38、PR88、PO43、PR194、PR178、PR179、PY138、PV23、PV19、PR122、PY109、PY110、PY150、PY139、PR254、PR255、PR272、PO71、ジブロモジケトピロロピロール等が挙げられる。
【0021】
水溶性有機溶剤は、顔料および水溶性無機塩を湿潤する働きをするものであり、水に溶解(混和)し、且つ用いる水溶性無機塩を実質的に溶解しないものである必要がある。更に、本発明の水溶性有機溶剤は、以下の(i)〜(iv)を満足するものである。即ち、
(i)分子量130〜350であり、
(ii)ヒドロキシル基(OH基)および/またはエステル基(−COO−基)からなる官能基(F)を合計で2以上有し、且つ
(iii)60℃における粘度が2〜140mPa・sであり、
(iv)エーテル結合を含まない、
という条件をすべて満たすものである。本発明の水溶性有機溶剤は、単一種類でも複数種類を併用して用いてもよい。これらの(i)〜(iv)を満たす水溶性有機溶剤(以下、本発明の水溶性有機溶剤ともいう)は、摩砕混練用の溶媒として好適である。なお、本発明の水溶性有機溶剤以外の溶剤(上記(i)〜(iv)のいずれか一つ以上を満たさない水溶性有機溶剤を含む)の使用は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において排除するものではない。但し、微細化された顔料の分散性を効果的に高める観点からは、実質的に本発明の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。以下、本発明の水溶性有機溶剤について説明する。
【0022】
(ii)のヒドロキシル基および/またはエステル基からなる官能基(F)を合計で2以上有するとは、a)ヒドロキシル基を2以上含み、且つエステル基を含まない溶剤、b)エステル基を2以上含み、且つヒドロキシル基を含まない溶剤、c)ヒドロキシル基とエステル基の両方を含み、且つ両者の合計が2以上となる場合の3態様が含まれる。(iii)の粘度は、水溶性有機溶剤を単独で60℃の温度で測定した時の粘度である。本願明細書の水溶性有機溶剤の粘度は、JIS Z 8803の規定に従い、円錐平板型回転粘度計(東機産業社製粘度測定器:TVE-20L)を用いて測定した値である。また、(iv)に特定するように、水溶性有機溶剤は、その分子中にエーテル結合を含まないものである。
【0023】
(i)〜(iv)の全てを満たす水溶性有機溶剤を用いることにより、微細化された顔料の分散性を改善できる。その理由は推測の域を出ないが、本発明の水溶性有機溶剤が顔料との相互作用においてよい結果をもたらしていると考える。また、顔料に対して、本発明の水溶性有機溶剤が特定の範囲で残留することにより、微細化した顔料の凝集を抑制できる効果があると考える。
【0024】
工程(a)で用いる水溶性有機溶剤は、上記(i)〜(iv)の全てを満たすものであれば特に限定されないが、好ましい例として、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(16.6mPa・s)、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール(67.2mPa・s)、モノアセチン(13.7mPa・s)、ジアセチン(8.2mPa・s)、トリアセチン(4.1mPa・s)、トリプロピオニン(2.7mPa・s)、トリブチリン(3.3mPa・s)および2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(43.7mPa・s)から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0025】
本発明の水溶性有機溶剤の加える量は特に限定されないが、顔料100質量部に対し、5〜1,000質量部用いることが好ましく、50〜500質量部用いることがより好ましい。水溶性有機溶剤は、1種類でも複数種類を併用してもよい。
【0026】
工程(a)で用いる水溶性無機塩は、その名称の如く水溶性を示す無機塩であればよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で限定されない。好ましい例として、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。価格の点から塩化ナトリウム(食塩)を用いることが好ましい。水溶性無機塩は、処理効率と生産効率の両面から、顔料100質量部に対し、50〜2,000質量部用いることが好ましく、300〜1,000質量部用いることがより好ましい。
【0027】
工程(a)で用いる分散剤は、カルボキシル基に基づく酸価が30〜400mgKOH/gの範囲にある樹脂で有れば、特に制限なく使用できる。そのような樹脂としては、例えば、ビニル系共重合体、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ロジン変性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基の導入の容易さ、被膜の強靭性などの面から、ビニル系共重合体、ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂が好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において使用するビニル系共重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体樹脂、スチレン−(無水)マレイン酸共重合体樹脂、含フッ素ビニル系共重合体樹脂などが挙げられる。また、本発明の製造方法において使用するポリエステル樹脂としては、例えば、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、適度な水溶性または水分散性を付与するための親水性基としてカルボキシル基を含有することが必須である。
【0029】
カルボキシル基を有するビニル系共重合体は、カルボキシル基を有する重合性モノマーを含有する重合性モノマー組成物を共重合する方法によって容易に製造することができる。カルボキシル基を有する重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)マレイン酸、マレイン酸モノブチルの如きマレイン酸モノアルキル類、イタコン酸モノブチルの如きイタコン酸モノアルキル類などが挙げられる。
【0030】
重合性モノマー組成物中に含まれるカルボキシル基を有する重合性ビニルモノマー以外の重合性ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンの如き芳香族ビニルモノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートの如き(メタ)アクリル酸エステル類;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、プロピオン酸ビニルの如きビニルエステル類;(メタ)アクリロニトリルの如き重合性ニトリル類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンまたはクロロトリフルオロエチレンの如きフッ素原子を有するビニルモノマー類;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾールの如き第3級アミノ基を有するモノマー類;2−(2
’−ヒドロキシ−5−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロシ−4−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレートの如き紫外線吸収性または酸化防止性を有するモノマー類;N−ビニルピロリドン、グリシジル(メタ)アクリレート、1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イルメチル(メタ)アクリレート、1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イルメチルビニルエーテル、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドの如きN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド類などの官能基を有するモノマー類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランの如き加水分解性アルコキシシラン基を有するモノマー類;2−ホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、4−ホスホオキシブチル(メタ)アクリレートの如き燐酸基を有するモノマー類;分子末端に重合性不飽和基を1個有するマクロモノマー類などが挙げられる。
【0031】
重合性ビニルモノマー組成物の重合方法は、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合など公知の各種重合方法が利用できるが、溶液重合が簡便なので好ましい。重合開始剤としては、公知の過酸化物やアゾ系化合物が使用できる。
【0032】
本発明で使用するカルボキシル基を有するポリエステル樹脂は、カルボキシル基を有する化合物と水酸基を有する化合物とを、カルボキシル基が残存するように、溶融法、溶剤法などの公知の方法によって脱水縮合反応を行って製造することができる。
【0033】
ポリエステル樹脂は、一塩基酸、二塩基酸、多塩基酸の如きカルボキシル基を有する化合物と、ジオール、ポリオールの如き水酸基を有する化合物とを適宜選択して脱水縮合させて得られるものであり、さらに、油脂類または脂肪酸類を使用したものがアルキッド樹脂となる。
【0034】
本発明の製造方法で使用するポリエステル樹脂が有するカルボキシル基は、主に、ポリエステル樹脂を構成する二塩基酸または多塩基酸に由来する未反応のカルボキシル基である。
【0035】
二塩基酸または多塩基酸としては、例えば、アジピン酸、(無水)コハク酸、セバシン酸、ダイマー酸、(無水)マレイン酸、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸などが挙げられる。
【0036】
二塩基酸または多塩基酸以外に使用可能なカルボキシル基を有する化合物としては、例えば、テレフタル酸ジメチルの如き酸の低級アルキルエステル類;安息香酸、p−ターシャリブチル安息香酸、ロジン、水添ロジンの如き一塩基酸類;脂肪酸および油脂類;分子末端に1または2個のカルボキシル基を有するマクロモノマー類;5−ソジウムスルフォイソフタル酸およびそのジメチルエステル類などが挙げられる。
【0037】
水酸基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル
−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,5−ペンタンジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの如きジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートの如きポリオール類;「カージュラ E−10」(シェル化学工業株式会社製の合成脂肪酸のグリシジルエステル)などのモノグリシジル化合物類、分子片末端に水酸基を2個有するマクロモノマー類などが挙げられる。
【0038】
また、ポリエステル樹脂を合成する際に、ひまし油、12−ヒドロキシステアリン酸などの水酸基を有する脂肪酸または油脂類;ジメチロールプロピオン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンの如きカルボキシル基と水酸基とを有する化合物なども使用できる。
【0039】
さらに、二塩基酸の一部をジイソシアネート化合物に代えることもできる。
【0040】
本発明の製造方法で使用するカルボキシル基を有するポリエステル樹脂として、カルボキシル基を有する重合性モノマーをポリエステル樹脂にグラフトした変性ポリエステル樹脂も使用することができる。
【0041】
カルボキシル基を有するポリウレタンは、水酸基を有するセグメントとして、ジメチロールプロピオン酸の如きカルボキシル基および水酸基を有する化合物を使用することにより、容易に製造することができる。
【0042】
本発明の製造方法で使用するカルボキシル基を有するポリウレタン樹脂は、カルボキシル基を導入する成分として、ジメチロールプロピオン酸の如きカルボキシル基および水酸基を有する化合物を含有するポリオール成分と、ポリイソシアネート成分とを反応させることによって、容易に製造することができる。
【0043】
ポリオール成分としては、ポリエステルの製造方法において掲げたジオール成分のほか、必要に応じて、3官能以上のポリオール化合物を使用することもできる。
【0044】
ポリイソシアネート成分には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添メタキシリレンジイソシアネート、粗製4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの如きジイソシアネート化合物のほか、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートの如きポリイソシアネート化合物も使用できる。
【0045】
ポリウレタン樹脂の製造は、常法に従えばよい。例えば、イソシアネート基と反応しない不活性な有機溶剤溶液中で、室温または40〜100℃程度の温度で付加反応を行なうことが好ましい。その際、ジブチル錫ジラウレート等の公知の触媒を使用しても良い。
【0046】
ポリウレタン樹脂を製造する際の反応系には、ジアミン、ポリアミン、N−メチルジエタノールアミンの如きN−アルキルジアルカノールアミン;ジヒドラジド化合物などの公知の鎖伸長剤も使用できる。
【0047】
また、本発明の製造方法で使用するカルボキシル基を有する樹脂(A)として、水酸基を有するビニル系共重合体またはポリエステル樹脂に、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸の如き無水多塩基酸を付加反応せしめる方法によって得られるカルボキシル基を有する樹脂も使用することができる。
【0048】
本発明で使用するカルボキシル基を有する樹脂(A)中のカルボキシル基の量は、酸価が30〜400mgKOH/gとなる範囲が好ましく、150〜350mgKOH/gとなる範囲がより好ましい。
【0049】
本発明の製造方法で使用するカルボキシル基を有する樹脂(A)は、カルボキシル基に加えて、水酸基を有するものが、より好ましい。樹脂(A)に結合した水酸基は、焼き付け塗料、焼き付けインキ、捺染剤などに使用するとき、硬化剤と反応して、より強固な膜を形成することができる。
【0050】
カルボキシル基および水酸基を有するビニル系共重合体は、カルボキシル基を有するビニル系共重合体を製造する際に使用した重合性モノマーと水酸基を有する重合性モノマーとを共重合する方法により、容易に製造することができる。
【0051】
水酸基を有する重合性モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの如き水酸基を有するアルキル(メタ)アクリレート;「プラクセル FM−2」、「プラクセル FA−2」(ダイセル化学工業株式会社製)に代表されるラクトン化合物を付加した(メタ)アクリルモノマー類;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノマー類;ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノマー類;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテルの如き水酸基を有するアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0052】
カルボキシル基および水酸基を有するポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の脱水縮合反応において、公知の方法に従って、水酸基が残存するように反応すればよい。残存する水酸基は、ジオール化合物、ポリオール化合物またはカルボン酸ポリオール化合物などに由来する未反応基である。
【0053】
本発明の製造方法で使用するカルボキシル基を有するビニル系共重合体およびポリウレタン樹脂は、数平均分子量が5,000〜20,000の範囲にあるものが好ましい。
【0054】
本発明の製造方法で使用するポリエステル樹脂は、分岐型であることがほとんどなので、線状のビニル系共重合体などの場合とは異なり、数平均分子量が小さい場合であっても質量平均分子量が大きいので、塗膜として充分なる強靭性を有する。従って、当該ポリエステル樹脂は、数平均分子量が1,000〜20,000の範囲にあるものが好ましく、質量平均分子量では、5,000〜100,000の範囲にあるものが好ましい。
【0055】
以下は、インクジェットインキ用の顔料組成物として好ましい分散剤に関して説明する。インキの分散性や保存安定性向上の観点から、下記の単量体A、単量体Bおよび単量体Cを共重合組成に含むコポリマー(共重合体)を分散剤として使用する事が好ましい。
単量体A:炭素数が10以上24以下のアルキル基の(メタ)アクリレートエステル
単量体B:スチレン、α−メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレート
単量体C:(メタ)アクリル酸
【0056】
前記単量体Aの好ましい具体例としては、例えば、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。保存安定性の向上をより高度に図るためには、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートを選択する事が特に好ましい。
【0057】
前記単量体Bは、スチレン、α−メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレートであるが、保存安定性の向上をより高度に図るためには、スチレンを選択することが好ましい。また、単量体B以外の芳香族基を有する単量体を併用してもよい。
【0058】
前記単量体Cは、(メタ)アクリル酸であるが、更に(メタ)アクリル酸以外の酸性官能基を有する単量体を併用してもよい。この場合に使用できる酸性官能基を有する単量体としては、例えば、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、フマール酸、フマール酸ハーフエステル、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸等が挙げられる。
【0059】
さらに、前記単量体Aおよび単量体Bの質量比は、単量体A/単量体B=1/9〜9/1であることが好ましく、単量体A/単量体B=1/4〜4/1であることがさらに好ましい。また、コポリマー全量中の単量体A、B、Cの合計量の比率は、70〜100質量%が好ましい。
【0060】
前記分散剤がインクジェットインキ用顔料組成物として好ましい理由としては、インクジェットインキとしてインクジェットヘッドノズル上での保湿性を確保しつつ、印刷基材上での速乾性や印字ムラを解消させるために、基材への浸透性が強く、且つ濡れ性の良好な(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、炭素数3〜6のアルカンジオール類が含有しても、安定な分散系が得られるためである。(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルや炭素数3〜6のアルカンジオール類は比較的疎水性が高いため、分散剤を溶解しやすく、顔料から分散剤を脱着させて分散性を低下させる懸念があるが、前記単量体A、B、Cを共重合組成に含むコポリマーである分散剤であれば、顔料に対して非常に強い相互作用を形成する事が出来るため、分散性を保持する事が可能である。
【0061】
以下に単量体A、B、Cの効果について説明する。単量体A中にある、炭素数が10以上24以下のアルキル基は疎水性の高い構造であるため、分散剤の疎水性を高め、顔料との強い疎水性相互作用を形成する事が可能になる。また、単量体Bは芳香環を持つ構造であり、顔料へのπ電子相互作用による親和性が確保でき、分散性をよりいっそう高めることができる。単量体Cとして(メタ)アクリル酸を用いるのは、通常の分散剤と同様、イオン化した際の電荷反発のためである。顔料に吸着した分散剤が、(メタ)アクリル酸をイオン化した状態で有し、水性溶媒中で、顔料どうしの電荷反発が起こり、分散性が保たれるものと考えられる。これらの効果から、単量体A、B、Cを共重合組成に含むコポリマーである分散剤は、インクジェットインキにおいて特に良好な分散性、保存安定性を発現させる事ができる。
【0062】
工程(a)において、更に、色素誘導体などの添加剤を含めてもよい。色素誘導体としては、有機顔料を基本骨格とし、分子内に酸性を付与する置換基や、塩基性を付与する置換基を導入した化合物が好適である。有機顔料の誘導体を添加することにより、分散対象となる顔料に吸着して極性を与えることで、分散剤や樹脂との相互作用から分散効果を与えると考えられる。また、顔料の結晶安定化や、分散安定化に寄与する効果が期待できる。
具体的には、市販品の例として、EFKA-6745、6750(EFKA Additive社製)、BYK-Synergist2100(ビックケミー・ジャパン社製)、ソルスパース5000、12000、22000(以上、日本ルーブリゾール社製)などが挙げられる。
また、繊維素誘導体、ゴム誘導体または/およびタンパク誘導体も、合成樹脂に準じて同様の性能を有するものを選択して使用することができる。これらの合成樹脂は、特にエポキシ樹脂および(メタ)アクリル樹脂が好適に使用される。
上記エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を1個以上含むエポキサイドをいい、本発明では硬化剤で架橋されていない、溶解性のあるものが好ましい。エポキサイドとしてはビスフェノール系、ノボラック系、アルキルフェノール系、レゾルシン系、ポリグリコール系、エステル系、N−グリシジルアミンなどのグリシジル型や、環状脂肪族エポキサイド等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらのエステルのモノマーから選ばれる単体あるいは混合物の共重合体であり、これらは、更にスチレン、酢酸ビニル、無水マレイン酸等のラジカル重合性のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0063】
顔料に加える水溶性有機溶剤、水溶性無機塩、分散剤等の各使用量は、顔料の微細化処理ができる範囲において限定されないが、水溶性無機塩により効果的に顔料を摩砕するせん断力が与えられる粘度・硬さを有することが微細化処理に重要である。
【0064】
<工程(b)>工程(a)を行った後、それに水を投入して懸濁液を得る(
図1)。好適には、工程(a)の終了後、摩砕混練機から顔料分散体を取り出し、水を投入して撹拌を行い、懸濁液を得る。加える水の分量は、懸濁液を得るのに充分な量であればよく、特に限定されない。必要に応じて加温してもよい。例えば、工程(a)の質量の10〜10,000倍の質量の水を加えて混合撹拌する。このときの混合撹拌条件は特に限定されないが、例えば、温度25〜90℃で行うことができる。
【0065】
<工程(c)>工程(b)の処理後、水溶性無機塩を除去し、且つ以下の(A)を満たす水溶性有機溶剤を除去する(
図1)。
(A)水溶性有機溶剤を、顔料組成物中に含まれる顔料100質量部当たりに、0.005〜0.5質量部の範囲で残留する。
水溶性有機溶剤を上記特定の範囲に残留させる方法は、除去条件(例えば、洗浄条件、乾燥条件、濾過条件)を制御することにより容易に調整できる。上記目的を達成できれば処理工程は問わないが、濾過により濾液を除去する方法が簡便である。
顔料組成物中に含まれる顔料100質量部当たりの残留溶剤は、顔料組成物中の全固形分における本発明の水溶性有機溶剤の残留溶剤を測定により求め、固形分中の顔料の割合から算出できる。ここで、固形分中の顔料の割合とは、最終的に得られる顔料組成物中の全固形分量に対する顔料の仕込み量の割合とする。なお、実際には、工程(b)等において僅かに顔料をロスする場合があるが、本明細書における固形分中の顔料の割合は、前記の通りとする。
【0066】
<工程(d)>工程(c)の後、水を除去する(
図1)。水を除去する方法であれば限定されないが、好適な方法としては、乾燥処理を行う方法を挙げることができる。工程(d)の乾燥条件は、例えば、常圧下、80〜120℃の範囲で12〜48時間程度の乾燥を行う方法、減圧下、25〜80℃の範囲で12〜60時間程度の乾燥を行う方法、−60〜−5℃の範囲で凍結させた後、減圧下、25〜80℃の範囲で12〜60時間程度の乾燥を行う方法を例示できる。乾燥処理は特に限定されないが、スプレードライ装置を利用する方法が例示できる。乾燥処理と同時もしくは乾燥処理後に粉砕処理を行ってもよい。
【0067】
工程(d)で用いる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0068】
<工程(e)>工程(d)の後、水および塩基性化合物を加えて混合撹拌する。(
図1参照)混合撹拌方法としては、均一に分散できる方法であれば特に制限はない。例えば、撹拌翼、ディゾルバー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザーなどが挙げられる。このような処理は、2つ以上を組み合わせて行ってもよい。工程(e)において、水の他に、水と混和可能な水性溶剤やその他の添加剤を加えてもよい。例えば、界面活性剤、色素誘導体、その他の色素等を加えることができる。これらは、顔料の分散性を妨げないものであればよく特に限定されないが、水に溶解するものであることが好ましい。分散助剤を用いることにより、顔料の分散性を高め、分散後の顔料の再凝集をより効果的に防止することができる。
【0069】
工程(e)で用いる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0070】
(塩基性化合物)
塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミンメチルプロパノール、ジイソプロパノールアミン、モルホリン等の有機アミンなどが挙げられる。
【0071】
(水性溶剤)
水性溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ケトンアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール、N−メチル−2−ピロリドン、2,4,6−ヘキサントリオール、テトラフルフリルアルコール、4−メトキシ−4メチルペンタノンなどが挙げられる。
【0072】
(界面活性剤)
界面活性剤には、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤や高分子界面活性剤を用いることができる。必要に応じて2種以上を併用しても良い。
【0073】
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0074】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0075】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0076】
両性の界面活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。
【0077】
高分子界面活性剤としては、アクリル系水溶性樹脂、スチレン/アクリル系水溶性樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0078】
界面活性剤を添加する場合の配合量は、添加顔料の全量を基準(100質量%)として、好ましくは0.1〜55質量%、更に好ましくは0.1〜45質量%である。
【0079】
(色素誘導体)
色素誘導体としては、有機顔料、アントラキノン、アクリドンまたはトリアジンに、塩基性置換基、酸性置換基または置換基を有していてもよいフタルイミドメチル基を導入した化合物が挙げられ、例えば、特開昭63−305173号公報、特公昭57−15620号公報、特公昭59−40172号公報、特公昭63−17102号公報、特公平5−9469号公報等に記載されているものを使用でき、これらは単独または2種類以上を混合して用いることができる。色素誘導体を使用する場合、アゾ骨格、ナフトールアゾ骨格、ジケトピロロピロール骨格、アントラキノン骨格、キノフタロン骨格、およびペリレン骨格を有するものが明度、分散性の観点から好ましい。
【0080】
色素誘導体の配合量は、添加顔料の分散性向上の観点から、添加顔料の全量を基準(100質量%)として、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。また、耐熱性、耐光性の観点から、添加顔料の全量を基準(100質量%)として、好ましくは40質量%以下、より好ましい。
【0081】
上記工程を経て、本発明に係る顔料組成物が得られる。本発明の顔料組成物の製造方法によれば、(i)〜(iv)を満たす水溶性有機溶剤を用いることにより、得られる顔料組成物の分散性が優れたものとなる。これは、水溶性有機溶剤を用いて工程(a)〜(e)を行うことにより、従来製法に比べ顔料への樹脂吸着率が向上していることに起因していると考察している。
【0082】
図1に、本発明の顔料組成物の製造方法の好ましい実施態様の一例について説明する。好ましい態様として、
図1に示すルートr1、r2の工程を例示できる。
工程(a)〜工程(e)を行って、粉体を得るルートr1の他、工程(c)の後に工程(e)を行うルートr2が挙げられる。ルートr1によって得られる顔料組成物は、粉末状であり、ルートr2によって得られる顔料組成物は、水に分散された、例えばワニス状のものである。なお、本発明の顔料組成物は、工程(a)〜工程(c)、(e)を含んでいればよく、工程(d)は任意に加えることができる。また、その他の工程も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に加えることができる。
【0083】
好ましい製造方法は、製品の種類によりまたはニーズにより変動し得るが、製造工程の簡便性の観点からは、
図1のルートr2のように直接的に水を加える方法が好ましい。また、粉体として取り出す方法としては、製造工程の簡便性の観点からは、ルートr1が好ましい。また、得られる顔料組成物の分散性をより高める観点からは、ルートr1の工程(d)において、水を除去する際に乾燥粉砕処理を行うことが好ましい。
【0084】
(インクジェットインキ)
次に、本発明の顔料組成物をインクジェットインキに適用する場合について説明する。インクジェットインキは、上記説明の顔料組成物に、インクジェットインキとしての適性を保持するために、浸透剤、防腐剤およびキレート剤を混合することにより、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックインキを製造できる。
【0085】
浸透剤は、被印刷体が紙のような浸透性のある材料の場合に、紙へのインキの浸透を早め見掛けの乾燥性を早くする目的で添加し、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、アルキレングリコール、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、記録液の0〜5質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で用いられる。浸透剤は上記使用量で十分な効果があり、これよりも多いと印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こし好ましくない。
【0086】
防腐剤は、記録液への黴や細菌の発生を防止する目的で添加し、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩等が用いられる。これらは、記録液中に0.05〜1.0質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0087】
キレート剤は、記録液中の金属イオンを封鎖するものであり、ノズル部での金属の析出や記録液中での不溶解性物の析出等を防止するものであり、エチレンジアミンテトラアセティックアシド、エチレンジアミンテトラアセティックアシドのナトリウム塩、エチレンジアミンテトラアセティックアシドのジアンモニウム塩、エチレンジアミンテトラアセティックアシドのテトラアンモニウム塩等が用いられる。これらは、記録液中に0.005〜0.5質量%の範囲で用いられる。
【0088】
本発明の製造方法で製造されるシアンインクに使用することのできるシアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue1、2、3、15:3、15:4、16、22、C.I.Vat Blue4、6等が挙げられる。
【0089】
本発明の製造方法で製造されるマゼンタインクに使用することのできるマゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red5、7、9、12、31、48、49、52、53、57、97、112、122、146、147、149、150、168、177、178、179、202、206、207、209、238、242、254、255、269、C.I.Pigment Violet 19、23、29、30、37、40、50等が挙げられる。
【0090】
本発明の製造方法で製造されるイエローインクに使用することのできるイエロー顔料としては、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213等が挙げられる。
【0091】
本発明の製造方法で製造されるブラックインクに使用することのできるブラック顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m
2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2乃至10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビアンカーボン製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L、ELFTEX415(以上、キャボット製)、Nipex90、Nipex150T、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、エボニックデグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0092】
上記以外の色の顔料を用いることもでき、その場合も含め、何れの顔料も各色インクにおいて単独でも、2つ以上の顔料を混合してもよい。勿論、本発明は、これらに限られるものではない。また、新たに製造された顔料も使用することが可能である。
【0093】
本発明の製造方法で得られた顔料組成物を使用してインクジェットインキを形成する場合に好適な水性媒体は、水及び水溶性溶剤の混合溶媒であるが、水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0094】
水と混合して使用される水溶性溶剤としては、グリコールエーテル類、ジオール類が良く、中でも(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、炭素数3〜6のアルカンジオールが効果的である。これらの溶剤は基材への浸透が非常に速い。コート紙、アート紙や塩化ビニルシートといった溶媒の吸収性の低い基材に対しても、浸透が速い。そのため、印字の際の乾燥が速く、正確な印字を実現することができる。また、沸点が高いため、保湿剤としての働きは十分である。
【0095】
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0096】
ジオール類の具体例としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0097】
この中でも効果が高いのは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールである。これらの溶剤は単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできる。
【0098】
さらに印刷する基材の種類によっては、その溶解性の向上を目的に、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチルオキサゾリジノン、N−エチルオキサゾリジノンなどの水溶性の含窒素複素環化合物を添加することもできる。上記したような水溶性溶剤のインク中における含有量は、一般的には、インクの全質量の3質量%以上60質量%以下の範囲であり、より好ましくは3質量%以上50質量%以下の範囲である。また、水の含有量としては、インクの全重量の10質量%以上90質量以下、更に好ましくは、30質量%以上80質量%以下の範囲である。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例および比較例中、「部」とは「質量部」を意味する。最初に、実施例および比較例で用いた分散剤としての樹脂、顔料、色素誘導体およびインクジェットインキ作製に使用した水溶性溶剤について説明する。
【0100】
[樹脂]
(合成例1:樹脂A)
滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、撹拌装置および還流冷却管を備えた容量3リットルの四つ口フラスコに、メチルエチルケトン1,000部を仕込み、液温を78℃まで昇温させた後、n−ブチルメタクリレート700部、n−ブチルアクリレート42部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート150部、メタクリル酸108部およびターシャリブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート80部とから成る混合液を4時間掛けて滴下した。更に、同温度で8時間反応を続けた。反応混合物を室温まで放冷した後、不揮発分が50%となるようにメチルエチルケトンを加えて希釈して、酸価が70mgKOH/g、数平均分子量が6,000の樹脂Aの溶液を得た。
【0101】
(合成例2:樹脂B)
滴下装置、温度計、窒素ガス導入管、撹拌装置および還流冷却管を備えた容量3リットルの四つ口フラスコに、メチルエチルケトン1,000部を仕込み、液温を78℃まで昇温させた後、スチレン146部、n−ブチルメタクリレート551部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート150部、メタクリル酸153部およびターシャリブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート20部とから成る混合液を4時間掛けて滴下した。更に、同温度で8時間反応を続けた。反応混合物を室温まで放冷した後、不揮発分が50%となるようにメチルエチルケトンを加えて希釈して、酸価が100mgKOH/g、数平均分子量が16,000の樹脂Bの溶液を得た。
【0102】
(合成例3:樹脂C)
脱水管、温度計、窒素ガス導入管および撹拌装置を備えた容量2リットルの四つ口フラスコに、「カージュラ E−10」(シェル化学工業株式会社製の合成脂肪酸のグリシジルエステル)100部、アジピン酸241部、ヘキサヒドロ無水フタル酸376部、ネオペンチルグリコール195部、トリメチロールプロパン165部およびジブチル錫ジオキサイド0.5部とを仕込み、脱水しながら5時間を掛けて190℃まで昇温し、同温度にて脱水縮合反応を行った。サンプリングを行って酸価を測定し、目標酸価が60となるように反応を終了した。反応混合物を放冷した後、不揮発分が65%と成るようにメチルエチルケトンを加えて希釈して、酸価が61、数平均分子量が2,200、質量平均分子量が30,000、樹脂固形分当たりの水酸基価が60mgKOH/gである樹脂Cの溶液を得た。
【0103】
(合成例4:樹脂D)
攪拌機、温度計、ジムロート型還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた、四ツ口フラスコに分子量2,000のネオペンチルグリコールとアジピン酸との縮合物171部と分子量2,000のポリテトラメチレングリコールとポリプロピレングリコールの混合を151部、ジメチロールプロピオン酸20部仕込み、窒素ガスを流し、撹拌しながら70℃に昇温した。続いてイソホロンジイソシアネート77部を加え、イソシアネート基の残存率であるNCO%が3.4に達するまで90℃で反応し、両末端にイソシアネート基を有する線状ウレタンプレポリマーを得た。続いて攪拌機、温度計、ジムロート型還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた四ッ口フラスコに酢酸エチル157部、イソプロピルアルコール400部、アセトン496部、次にイソホロンジアミン30部、ジノルマルブチルアミン1.6部を加え、40℃迄昇温した。次に、線状プレポリマー419部を加え、40℃で4時間反応して、固形分30%のポリウレタン樹脂Dの溶液を得た。
【0104】
(合成例5:樹脂E)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ラウリルメタクリレート35.0部、スチレン35.0部、アクリル酸30.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、樹脂Eの溶液を得た。樹脂Eの質量平均分子量は約16000であった。
【0105】
(合成例6:樹脂F)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ペンタデシルメタクリレート35.0部、スチレン35.0部、アクリル酸30.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、樹脂Fの溶液を得た。樹脂Fの質量平均分子量は約16000であった。
【0106】
(合成例7:樹脂G)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ステアリルアクリレート50.0部、スチレン20.0部、アクリル酸30.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、樹脂Gの溶液を得た。樹脂Gの質量平均分子量は約16000であった。
【0107】
(合成例8:樹脂H)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器にメチルエチルケトン93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ベヘニルアクリレート40.0部、スチレン20.0部、アクリル酸40.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、樹脂Hの溶液を得た。樹脂Hの質量平均分子量は約16000であった。
【0108】
分散剤としての樹脂I〜Kは、以下の製品を用いた。
樹脂I:DIC社製「ウォーターゾール S−212」
樹脂J:DIC社製「ウォーターゾール S−751」
樹脂K:日本サイテック インダストリーズ社製「サイメル 303」
【0109】
[顔料]
以下、実施例または比較例に用いた顔料を列挙する。
・PB15:3(1):トーヨーカラー社製「LIONOL BLUE FG-7358G」
・PB15:3(2):トーヨーカラー社製「LIONOL BLUE 7919」
・PR122(1):DIC社製「FASTOGEN Super Magenta RGT」
・PR122(2):BASF社製「CINQUASIA PINK D 4450」
・PR146:クラリアント社製「パーマネントカーミン FBB02JP」
・PR150:東京色材工業社製「トーシキレッド150」
・PR269:東京色材工業社製「トーシキレッド269」
・PR269:山陽色素社製「Permanent Carmine 3810」
・PY14:DIC社製「SYMULER FAST YELLOW 4400」
・PY74:山陽色素社製「FAST YELLOW 7413」
・PY120:クラリアント社製「INKJET YELLOW H2G」
・PY150:ランクセス社製「BAYSCRIPT YELLOW G01」
・PY155:クラリアント社製「TONER YELLOW4G」
・PY185:BASF社製「Paliotol Yellow D1155」
・PV19:クラリアント社製「INKJET MAGENTA E5B02」
・PBk07:オリオン・エンジニアドカーボンズ社製「Printex85」
【0110】
[色素誘導体]
以下、実施例または比較例に用いた色素誘導体を表1に列挙する。
【表1】
[水溶性溶剤]
インクジェットインキ作製時の実施例および比較例で用いた水溶性溶剤およびその記号を列挙する。
・1,2−HD:1,2−ヘキサンジオール
・PG:プロピレングリコール
・1,3−PD:1,3−プロパンジオール
【0111】
塗料に好適な顔料組成物の製造例について説明する。なお、塗料以外の用途にも好適に適用できる。
≪塗料≫
<混練による顔料組成物の作製>
[実施例1−1]
(顔料組成物101の作製)
顔料としてPR122(1)(DIC社製「FASTOGEN Super Magenta RGT」)123.5部、色素誘導体a 6.5部、水溶性無機塩として塩化ナトリウム400部、分散剤として樹脂A130部およびトリアセチン350部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、80℃で3時間混練した。この混合物を水10,000部に投入し、約40℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウムおよび水溶性有機溶剤を除き、減圧下40℃で乾燥して顔料組成物101を得た。
【0112】
[実施例1−2、3比較例1−1〜3]
(顔料組成物102〜106の作製)
表2に示す混練組成、混練条件を変更する以外は、実施例1−1と同様にして顔料組成物102〜106を得た。但し、溶剤を含む樹脂溶液に関しては、適宜混練溶剤に置換して使用するか、減圧下80℃で乾燥させた固形樹脂を使用して表2の組成となるようにした。
【0113】
(平均一次粒子径の測定)
得られた顔料組成物の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製「JEM-1200EX」)を用い、10万倍での観察試料中の全顔料粒子の一次粒子径を計測してその平均値を用いた。なお、粒子形状が球状でない場合は、長径と短径を計測し、(長径+短径)/2により求められる値を粒子径とした。なお、以降の実施例および比較例の平均一次粒子径も上記方法により測定した。
【0114】
(残留溶剤の測定)
残留溶剤は、顔料組成物の固形分に対する本発明の水溶性有機溶剤の残留溶剤量をガスクロマトグラフィーにより定量し、固形分中の顔料の割合から、顔料100質量部当たりの水溶性有機溶剤の残留溶剤量を算出することにより求めた。
ガスクロマトグラフィーの条件を以下に示す。
分離機器:島津製作所社製 GC2010
カラム:DM-5MS (30ミリ x 0.25mm x 0.25マイクロm Film、Agilent Technologies)
キャリアガス:He
圧力:120.0kPa
全流量:50.0ml/min
カラム流量:1.77ml/min
線速度:49.0cm/sec
パージ流量:3.0ml/min
カラム温度:80℃で4分保持した後、16分で昇温し、320℃で5分保持
注入モード:Split−less Mode
注入量:1μl
【0115】
質量分析計の条件を以下に示す。
測定機器:島津製作所社製 GCMS-GP2010
インターフェイス温度:250℃
イオン源温度:200℃
測定モード:Scan Mode
測定範囲:m/z=30−500
測定時間:5〜20min
イベント時間:0.5sec
【0116】
(試料の調製方法)
50mlのメスフラスコにサンプルを0.1g精秤し、テトラヒドロフランを加えて50mlに調整する。その後、超音波処理を15分間行い、0.20μmのメンブランフィルターにて濾過し、濾液を測定用試料とした。なお、以降の実施例および比較例の残留溶剤の測定も上記方法により測定した。
【0117】
実施例1−1〜3、比較例1−1〜3で得られた顔料組成物101〜106の平均一次粒子径および残留溶剤の結果を表2に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
<r1経由の顔料組成物の作製>
[実施例2−1]
(顔料組成物201の作製)
顔料組成物101(20部)に水(50部)を加えた後、直径4cmの歯付ディスクを備えたディソルバー中で撹拌しながら、溶液のpHが8.5〜9.5になるまで10%ジメチルエタノールアミン水溶液を加えた。さらに70℃、3000rpmで60分間撹拌し、水を加えて不揮発分が20%となるように調整して、顔料組成物201を作製した。顔料組成物201中の顔料100質量部当たりのトリアセチン濃度は、0.13%であった。
【0120】
[実施例2−2、3、比較例2−1〜3]
(顔料組成物202〜206の作製)
表3に示す配合組成を変更した以外は、実施例2−1と同様にして顔料組成物202〜206を作製した。
【0121】
(顔料組成物の評価)
本発明の顔料組成物の性能を評価するために、得られた組成物の体積平均粒子径を「マイクロトラック UPA モデル9230」(日機装社製のレーザーによる動的光散乱法の粒度分布計)で評価した。分散後1日室温で放置後に初期評価を、さらに室温で30日放置後に経時評価を行った。結果を表3に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
<塗料の作製方法>
[実施例3−1]
(顔料組成物301の作製)
「ウォーターゾール S−751」(DIC株式会社製の焼き付け塗料用アクリル樹脂;不揮発分=50%、樹脂J)、「サイメル 303」(日本サイテック インダストリーズ社製のメラミン樹脂;有効成分含有率=98%、樹脂K)および実施例3−1で得られた顔料組成物201を固形分量で、下記組成となるように配合し、水を加えて希釈して不揮発成分が24%の顔料組成物301を作成した。
・顔料組成物201:20部
・ウォーターゾール S−751:28部
・サイメル 303:12部
【0124】
[実施例3−2、3、比較例3−1〜3]
(顔料組成物302〜306の作製)
表4に示す顔料組成物を変更した以外は、実施例3−1と同様にして顔料組成物302〜306を作製した。
【0125】
このようにして得た塗料を、「BT−144処理鋼板」(日本パーカーライジング社製の燐酸亜鉛処理鋼板)上に膜厚が20±2μmになるようにバーコーターを用いて塗装し、10分セッティング後、150℃にて20分間焼き付けを行って、実施例の試験片を作製した。また、各塗料を、コロナ放電処理PETフィルム上に膜厚が10±1μmになるように、バーコーターにて塗装し、10分セッティング後、150℃にて20分間焼き付けを行って、各顔料組成物の試験片を作製した。
【0126】
(焼き付け塗料における評価)
実施3−1〜3および比較例3−1〜3で得た顔料組成物について、以下の評価を行なった。その結果を表4に示した。
【0127】
・光沢:「BT−144処理鋼板」に塗装したものを、60°鏡面光沢で測定した。
【0128】
・発色性:PETフィルムに塗装したものを、目視で判定した。
評価基準
◎:色の濃度、隠蔽性が高い。
○:色の濃度、隠蔽性がやや劣る。
△:色の濃度、隠蔽性がかなり劣る。
×:色の濃度、隠蔽性がかなり劣り、鮮鋭性も低い。
【0129】
・耐水性:「BT−144処理鋼板」に塗装したものを、温度50℃の水に浸漬し、48時間後にブリスターの発生具合を目視にて判定した。
評価基準
◎:全く異常なし。
○:わずかにブリスターの発生が認められた。
△:かなりのブリスターの発生が認められた。
×:試験片の全面にブリスターが発生した。
【0130】
【表4】
【0131】
表4に示した結果から、本発明の製造方法で得た顔料組成物は、光沢、発色性、および耐水性に優れていることが理解できる。
【0132】
≪グラビア/フレキソインキ≫
次に、グラビア/フレキソインキに好適な顔料組成物の製造例について説明する。なお、グラビア/フレキソインキ以外の用途にも好適に適用できる。
【0133】
<混練による顔料組成物の作製>
[実施例4−1]
(顔料組成物401の作製)
PB15:3(1)(トーヨーカラー社製「LIONOL BLUE 7358G」)130部、塩化ナトリウム400部、樹脂D120部および2−エチル−1,3−ヘキサンジオール350部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、120℃で3時間混練した。この混合物を水10,000部に投入し、約40℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウムおよび水溶性有機溶剤を除き、減圧下40℃で乾燥して顔料組成物401を得た。
【0134】
[実施例4−2、比較例4−1、2]
(顔料組成物402〜404の作製)
表5に示す混練組成、混練条件を変更する以外は、実施例4−1と同様にして顔料組成物402〜404を得た。但し、溶剤を含む樹脂溶液に関しては、適宜混練溶剤に置換して使用するか、減圧下80℃で乾燥させた固形樹脂を使用して表5の組成となるようにした。
【0135】
実施例4−1、2、比較例4−1、2で得られた顔料組成物401〜404の平均一次粒子径および残留溶剤の結果を表5に示す。
【0136】
【表5】
【0137】
<r1経由の顔料組成物の作製>
[実施例5−1]
(顔料組成物501の作製)
以下に示す化合物を配合し、直径4cmの歯付ディスクを備えたディソルバー中で、50℃、3,000rpmで60分間撹拌した後、メンブランフィルターで加圧濾過し、固形分濃度26%の顔料組成物501を得た。顔料組成物501中の顔料100質量部当たりの2−エチル−1,3−ヘキサンジオール濃度は、0.32%であった。
・顔料組成物401: 25.5部
・28%アンモニア水溶液: 0.8部
・ポリエチレンワックス:0.5部
・イソプロピルアルコール:25部
・水:48.2部
【0138】
[実施例5−2、比較例5−1、2]
(顔料組成物502〜504の作製)
表6に示す配合組成を変更した以外は、実施例5−1と同様にして顔料組成物502〜504を作製した。
【0139】
フィルムは、コロナ処理二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製P−2161を使用、以下OPPと記す)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績社製E5100、以下PETと記す)、ナイロンフィルム(東洋紡績社製N−1102、以下Nyと記す)を使用した。
【0140】
評価は、インキの流動安定性、インキのテープ接着性、耐ブロッキング性、耐ボイル性および耐レトルト性を評価した。結果を表6に示す。
【0141】
(インキの流動安定性)
A:流動性が良く、乾燥インキ皮膜の光沢も良好
B:流動性が悪く、乾燥インキ皮膜の光沢も低下
【0142】
(テープ接着性)
OPP、PETにインキを塗布、乾燥後、セロハンテープを圧着し、その後テープを剥がす。インキ面の剥離状態を観察した。
【0143】
(耐ブロッキング性)
OPPフィルム印刷物の印刷面と、OPPフィルムのコロナ放電処理面とを重ね合わせ、3kg/cm
2 の荷重をかけて、温度40℃で1日放置した。その後、インキ面とフィルム面をはがし、インキ被膜のフィルム面への移行を評価した。
【0144】
(耐ボイル適性)
PET印刷物に、イソシアネート系のアンカーコート剤を塗布後、押出ラミネート機により溶融ポリエチレンを厚さ30μmで積層し、ラミネート加工物を得た。ラミネート加工物を製袋し、内部に水/油/酢=1/1/1の混合物を入れて密封後、90℃/30分間、熱水中で加熱し、外観のラミ浮きの有無から耐ボイル適性を判断した。
A:全くラミ浮きのないもの。(良好)
B:一部もしくは全面にデラミネーションが生じたもの。(不良)
【0145】
(耐レトルト適性)
PET印刷物に、イソシアネート系の接着剤を3g/m
2塗布した後、ドライラミネート機によって厚さ60μmのポリエチレンフィルムを積層し、ラミネート加工物を得た。このラミネート加工物を製袋し、内部に水/油の混合物を入れて密封後、120℃/30分間のレトルト処理を行い、外観のラミ浮きの有無から耐レトルト適性を判断した。
A:全くラミ浮きのないもの。(良好)
B:一部もしくは全面にデラミネーションが生じたもの。(不良)
【0146】
【表6】
【0147】
表6から明らかなように、本発明の顔料組成物は、各特性において優れていることが明らかとなった。
【0148】
≪インクジェットインキ≫
次に、インクジェットインキに好適な顔料組成物の製造例について説明する。なお、インクジェット用インキ以外の用途にも好適に適用できる。
【0149】
<混練による顔料組成物の作製>
[実施例6−1]
(顔料組成物601の作製)
PB15:3(2)(トーヨーカラー社製「LIONOL BLUE 7919」)100部、塩化ナトリウム500部、樹脂E30部および2−エチル−1,3−ヘキサンジオール250部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、100℃で2時間混練した。この混合物を水10,000部に投入し、約40℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウムおよび水溶性有機溶剤を除き、減圧下40℃で乾燥して顔料組成物601を得た。
【0150】
[実施例6−2〜15、比較例6−1〜15]
(顔料組成物602〜630の作製)
表7に示す混練組成、混練条件を変更する以外は、実施例6−1と同様にして顔料組成物602〜630得た。但し、溶剤を含む樹脂溶液に関しては、適宜混練溶剤に置換して使用するか、減圧下80℃で乾燥させた固形樹脂を使用し表7の組成となるようにした。
【0151】
実施例6−1〜15、比較例6−1〜15で得られた顔料組成物601〜630の平均一次粒子径および残留溶剤の結果を表7に示す。
【0152】
【表7】
【0153】
<r1経由の顔料組成物の作製>
[実施例7−1]
(顔料組成物701の作製)
以下に示す化合物を配合し、直径4cmの歯付ディスクを備えたディソルバー中で、70℃、3,000rpmで60分間撹拌した後、メンブランフィルターで加圧濾過し、顔料濃度13%の顔料組成物701を得た。顔料組成物701中の顔料100質量部当たりの2−エチル−1,3−ヘキサンジオール濃度は、0.45%であった。
・顔料組成物601: 26部
・ジメチルアミノエタノール: 1.1部
・水: 72.9部
【0154】
[実施例7−2〜15、比較例7−1〜15]
(顔料組成物702〜730の作製)
表8に示す配合組成を変更した以外は、実施例7−1と同様にして顔料組成物702〜730を作製した。
【0155】
<r2経由の顔料組成物の作製>
[実施例7−16]
(顔料組成物731の作製)
PB15:3(2)(トーヨーカラー社製「LIONOL BLUE 7919」)100部、塩化ナトリウム500部、樹脂E30部および2−エチル−1,3−ヘキサンジオール250部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、100℃で2時間混練した。この混合物をイオン交換水10,000部に投入し、40±5℃に加熱しながらハイスピードミキサーで1時間攪拌してスラリー状とし、濾過後、40±5℃のイオン交換水20,000部で洗浄した。ウェットケーキ(固形分濃度35%)74.3部をイオン交換水24.6部、ジメチルアミノエタノール1.1部に投入し、50℃で1時間混合撹拌させた。メンブランフィルターで加圧濾過し、顔料濃度13%の顔料組成物725を得た。顔料組成物725中の顔料100質量部当たりの2−エチル−1,3−ヘキサンジオール濃度は、0.45%であった。
【0156】
[実施例7−17〜27、比較例7−16〜27]
(顔料組成物732〜754の作製)
表9に示す配合組成を変更した以外は、実施例7−16と同様にして顔料組成物732〜754を作製した。
【0157】
実施例7−1〜15および比較例7−1〜15で得られた顔料組成物の粘度、保存安定性、ヘイズ、樹脂吸着率を以下の方法で評価した。表8に評価結果を示す。
【0158】
実施例7−16〜27および比較例7−16〜27で得られた顔料組成物の粘度、保存安定性、ヘイズ、樹脂吸着率を以下の方法で評価した。表9に評価結果を示す。
【0159】
(粘度)
顔料組成物の粘度をE型粘度計(東機産業社製「ELD型粘度計」)を用いて、25℃において回転数20rpmという条件で測定した。
【0160】
(保存安定性)
45℃のオーブンで、7日間加熱した後の粘度を測定し、経時粘度とした。加熱前に測定した初期粘度および経時粘度の値から、以下の式で経時粘度変化率を算出した。
[経時粘度変化率]=|([初期粘度]−[経時粘度])/[初期粘度]|×100(%)
また、以下の基準で経時粘度変化率を評価した。
○:経時粘度変化率が10%未満(良好)
△:経時粘度変化率が10%以上30%未満(実施可能)
×:経時粘度変化率が30%以上(不良)
(ヘイズ値)
スピンコーターを用い、1500rpmにてガラスに塗工した基板を、ホットプレートにて100℃3分間乾燥し、塗工面のヘイズをヘイズメーター(日本電色工業社製)にて測定し、以下の基準で評価した。
○:[ヘイズ値]<3(良好)
△:3≦[ヘイズ値]<4.5(実施可能)
×:[ヘイズ値]≧4.5(不良)
【0161】
(樹脂吸着率)
作成した顔料組成物5部に対して、水を15部を加え、よく振とうした後、超遠心分離機で30,000rpmで4時間まわした。その後上澄みを採取し、固形分を測定して、上澄み中の樹脂量を算出した。樹脂吸着率は以下の式に従い算出した。
樹脂吸着率=[(初期の仕込樹脂量−上澄み中の樹脂量)/初期の仕込樹脂量]×100(%)
顔料組成物中の顔料の樹脂吸着率が20%以上のものを○(良好)、15%以上20%未満のものを△(実施可能)、10%未満のものを×(不良)とした。
【0162】
【表8】
【0163】
【表9】
【0164】
表8、表9から明らかなように、本発明の顔料組成物は、粘度、保存安定性およびヘイズ値に優れることがわかる。これは、比較例の顔料組成物に比べ、実施例の顔料組成物における顔料に対する樹脂吸着率が高いことに起因している。
【0165】
<インクジェットインキの作製>
[実施例8−1]
(顔料組成物801)
以下に示す化合物を均一になるようにディスパーで攪拌混合し、顔料組成物801を得た。
・顔料組成物701: 25.0部
・1,2−ヘキサンジオ−ル 15.0部
・水: 60.0部
【0166】
[実施例8−2〜27、比較例8−1〜27]
(顔料組成物802〜854の製造)
顔料組成物の種類と配合量を表10に記載したように変更する以外は、実施例8−1と同様にして、顔料組成物802〜854を得た。
【0167】
<インクジェットインキの評価>
得られた顔料組成物(801〜854)の経時安定性、印字性、吐出性を以下の方法で評価した。表10に評価結果を示す。
【0168】
(経時保存安定性)
顔料組成物を70℃の恒温機に1週間保存、経時促進させた後、経時前後での顔料組成物の粘度変化について測定した。70℃1週間保存前後の粘度の変化率の絶対値が3%未満なら6(極めて良好)、3%以上5%未満であれば5(良好)、5%以上10%未満であれば4(実用上問題なし)、10%以上15%未満であれば3(やや不良)、15%以上20%未満であれば2(不良)、20%以上であれば1(極めて不良)とした。評価が4、5、6のものは実用上問題ない。 顔料組成物の粘度はE型粘度計(東機産業社製「ELD型粘度計」)を用いて、25℃において回転数50rpmという条件で測定した。
【0169】
(印字性)
顔料組成物をインクジェットプリンター(エプソン社製「PM−750C」)のカートリッジに詰めて、コート紙(王子製紙製OKトップコート+、米坪104.7g/m
2)に印刷した。印刷したサンプルをルーペで観察し、ドットのつながりや色のムラなどを評価した。印刷品質が非常に良好なものは◎、良好なものは○、ある程度良好なものは△、良好でないものは×とした。
【0170】
(吐出性)
顔料組成粒を連続吐出させ、打ち出された液滴の状態を観察した。吐出不良がないものは◎、ほとんど見られないものは○、やや見られるものは△、多いものは×とした。
【0171】
【表10】
【0172】
表10の結果から明らかなように、比較例に比べ実施例のいずれもが経時安定性、印字性、吐出性の面で良好であった。