(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の条件成立により実行されるエンジン自動停止手段と、所定の条件成立により実行されるエンジン再始動手段と、摩擦締結要素を有する自動変速機と、ホイールブレーキと、を備えた車両の制御装置において、
前記ホイールブレーキの液圧によってブレーキ力を付与するホイールブレーキ制御部と、
前記摩擦係合要素に締付力を付与し車軸の回転を抑制する自動変速機のインターロック制御部と、
路面勾配検知センサーからの信号を基に路面勾配を判定する路面勾配判定部と、
前記摩擦係合要素の締結力の解放を制御するインターロック解放制御部と、
前記ホイールブレーキの液圧の解放を制御するホイールブレーキ解放制御部と、を備え、
前記エンジン再始動の際、前記ホイールブレーキ制御部は前記液圧を付与するとともに前記インターロック制御部は前記摩擦係合要素を締結し、前記路面勾配判定部により路面が平坦または下りであると判定した場合、前記インターロック解放制御部及び前記ホイールブレーキ解放制御部は、前記エンジン再始動後、前記ホイールブレーキの液圧解放と前記摩擦係合要素の締結力の解放とを開始し、前記ホイールブレーキの液圧解放完了の後に、前記摩擦係合要素の締結力の解放を完了するように構成したことを特徴とする車両の制御装置。
前記インターロック解放制御部及び前記ホイールブレーキ解放制御部は、前記エンジン再始動後、前記ホイールブレーキの液圧解放を開始した後に前記摩擦係合要素の締結力の解放を開始することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
前記ホイールブレーキの液圧解放を開始した後、前記摩擦係合要素の締結力を一定に保持し、その一定の保持後に前記摩擦係合要素の締結力の解放を開始することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
前記エンジン再始動の際に、前記路面勾配判定部により路面が上りであると判定した場合、前記インターロック解放制御部及び前記ホイールブレーキ解放制御部は、前記エンジン再始動後、前記ホイールブレーキの液圧解放と前記摩擦係合要素の締結力の解放とを開始し、前記摩擦係合要素の締結力の解放を完了した後に前記ホイールブレーキの液圧解放を完了するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【背景技術】
【0002】
近年、アイドルストップ装置装着車が増加傾向にあり、それに伴い、運転手が負担なくアイドルストップできるように、低踏力のブレーキ操作でアイドルストップすることが求められている。
アイドルストップ装置は、エンジンを自動停止させるときのエンジン自動停止条件として、少なくともブレーキ操作によるブレーキ液圧が所定の閾値に達したことが要求されるため、この閾値を低く設定することが求められている。
【0003】
一般的に、アイドルストップのエンジン再始動の際には、停車時にブレーキペダルにより踏み込まれたブレーキ力を保持し、発進時に前記ブレーキ力を減圧している。
しかし、アイドルストップから再始動にかけて、ブレーキペダルの踏み込み力が弱い場合、上記のブレーキの保持力が不足し、エンジン再始動の際、特に下り坂の場合には、押し出し感または飛び出し感が発生する。
そこで、従来のブレーキペダルにより踏み込まれたブレーキ力を保持するブレーキ制御に加えて、自動変速機の複数の摩擦締結要素に締結力を付与するインターロック手段によって車軸の回転を抑制することによる制動力を組み合わせて、押し出し感または飛び出し感を抑制する技術が提案されている。例えば特許文献1に示されている。
【0004】
この特許文献1には、車両停止時且つホイールブレーキの液圧が所定のしきい値以上であるときにエンジンを自動停止させ、また、所定の条件下でエンジンを自動始動するエンジン自動停止始動制御手段と、エンジンが自動停止しているとき、ホイールブレーキの液圧を保持するようになっているブレーキ自動制御手段と、エンジンを自動始動させるとき、エンジンが自動停止しているときの変速段を形成するのに必要な所定の摩擦締結要素及び所定の摩擦締結要素以外の摩擦締結要素に締結トルク容量を付加することにより自動変速機をインターロックさせるインターロック手段と、を有する構成が開示されている。
【0005】
また、下り坂でエンジンを自動始動するときに、インターロック手段によって制動力を付与することで、エンジン始動時に前方への飛び出しを防止することが開示されている。
さらに、エンジンの自動始動完了から所定時間後にホイールブレーキを解放するようになっており、このホイールブレーキが解放される前に前記インターロック手段による制動力を解放して、車両を滑らかに発進時させることも開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、前述のように、エンジンの自動始動完了から所定時間後にホイールブレーキを解放するようになっており、このホイールブレーキが解放される前に前記インターロック手段による制動力を解放して、車両を滑らかに発進時させることが開示されている。すなわち、ブレーキ液圧がゼロとなる前に、先に自動変速機のインターロックを解除して終了させているものである。そのため、インターロック手段による摩擦締結要素によって得られる滑らかに制動解放作用が得られ難い。
【0008】
ホイールブレーキにおける制動の解放は、ドラムブレーキにおいてはドラム内周面に対するブレーキシューの押圧からの解放であり、またはディスクブレーキにおいてはディスクロータに対するブレーキパッドの締め付け解放である。これに対して、インターロック手段による摩擦締結要素は、多板クラッチ構造であるため、制動の解放が、前記ドラムブレーキやディスクブレーキによるブレーキシューやブレークパッドの解放よりも、開放する最後の瞬間において滑らかに解放することが可能となる。
従って、インターロック手段を構成する多板クラッチからなる摩擦締結要素の締結トルク容量を漸減させてインターロックを解除する最後の瞬間においては、ホイールブレーキの解放時よりも滑らかな開放が期待できる。
【0009】
これら課題に鑑み、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、車両が一時停止した時に、エンジンを自動停止、及び自動始動するアイドルストップ装置と、自動変速機の複数の摩擦締結要素に締結力を付与するインターロック手段と、ホイールブレーキとを備えた車両の制御装置において、エンジンが自動始動して車両を発進させる際の発進性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態に係る車両の制御装置は、所定の条件成立により実行されるエンジン自動停止手段と、所定の条件成立により実行されるエンジン再始動手段と、摩擦締結要素を有する自動変速機と、ホイールブレーキと、を備えた車両の制御装置において、
ホイールブレーキの液圧によってブレーキ力を付与するホイールブレーキ制御部と、前記摩擦係合要素に締付力を付与し車軸の回転を抑制する自動変速機のインターロック制御部と、路面勾配検知センサーからの信号を基に路面勾配を判定する路面勾配判定部と、前記摩擦係合要素の締結力の解放を制御するインターロック解放制御部と、前記ホイールブレーキの液圧の解放を制御するホイールブレーキ解放制御部と、を備え、前記エンジン再始動の際、前記ホイールブレーキ制御部は前記液圧を付与するとともに前記インターロック制御部は前記摩擦係合要素を締結し、前記路面勾配判定部により路面が平坦または下りであると判定した場合、前記インターロック解放制御部及び前記ホイールブレーキ解放制御部は、前記エンジン再始動後、前記ホイールブレーキの液圧解放と前記摩擦係合要素の締結力の解放とを開始し、前記ホイールブレーキの液圧解放完了の後に、前記摩擦係合要素の締結力の解放を完了するように構成したことを特徴とする。
【0011】
このような構成によると、平坦または下り坂の状況で、ブレーキペダルの踏み方が弱い状態でブレーキ力が保持された時であっても、再始動時の車両の押し出しまたは飛び出しの抑制に必要なブレーキ力の不足分を、自動変速機のインターロックによって制動力を補うことが可能になる。
【0012】
また、自動変速機のインターロックを行う摩擦係合要素は、多板クラッチによって形成されていることから、制動力の解放が、ドラムブレーキやディスクブレーキによるブレーキシューやブレークパッドの解放よりも、解放する最後の瞬間において滑らかに解放することが可能となる特性を有する。
【0013】
従って、インターロックを構成する多板クラッチからなる摩擦締結要素の締結トルク容量を漸減させてインターロックを解除する最後の瞬間においては、ホイールブレーキの解放時よりも滑らかな開放が期待できる。
【0014】
この特性を生かして、平坦または下り路では、前記ホイールブレーキの液圧解放完了の後に、前記摩擦係合要素の締結力の解放を完了するように構成することによって、引きずり感を無くして、滑らかな発進を可能にする。
先行技術文献で示したような、ホイールブレーキが解放される前にインターロックによる制動力を解放してしまい、最終的な制動力の開放をホイールブレーキの解放に委ねる構成に比べて、摩擦係合要素の構造上の特性を生かしたより滑らかな発進が可能になる。
【0015】
幾つかの実施形態では、前記インターロック解放制御部及び前記ホイールブレーキ解放制御部は、前記エンジン再始動後、前記ホイールブレーキの液圧解放を開始した後に前記摩擦係合要素の締結力の解放を開始することを特徴とする。
【0016】
このような構成によると、ホイールブレーキの液圧解放を開始した後に摩擦係合要素の締結力の解放を開始するので、ホイールブレーキの液圧解放完了の後に、摩擦係合要素の締結力の解放が完了されるようになるため、前述のように制動力の最終的な解放を摩擦係合要素の解放に委ねることが可能になる。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記ホイールブレーキの液圧解放を開始した後、前記摩擦係合要素の締結力を一定に保持し、その一定の保持後に前記摩擦係合要素の締結力の解放を開始することを特徴とする。
このような構成によると、ホイールブレーキの液圧解放を開始した後、摩擦係合要素の締結力を一定に保持することで、ホイールブレーキによる制動力と摩擦係合要素とによる合計の制動力の低減量が、摩擦係合要素の低減量が加わるよりも緩やかに変化するため、制動力の低減量の変化が安定化するので、より滑らかに制動力の解放が可能となる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記エンジン再始動の際に、前記路面勾配判定部により路面が上りであると判定した場合、前記インターロック解放制御部及び前記ホイールブレーキ解放制御部は、前記エンジン再始動後、前記ホイールブレーキの液圧解放と前記摩擦係合要素の締結力の解放とを開始し、前記摩擦係合要素の締結力の解放を完了した後に前記ホイールブレーキの液圧解放を完了するように構成したことを特徴とする。
【0019】
このような構成によると、上り坂の状況で、ブレーキペダルの踏み方が弱い状態でブレーキ力が保持された時に、再始動時のずり下がりの抑制に必要なブレーキ力の不足分を、自動変速機のインターロック手段によって制動力を補うことが可能になる。
【0020】
また、前述のように自動変速機のインターロックを行う摩擦係合要素は、多板クラッチによって構成されていることから、制動の解放が、ドラムブレーキやディスクブレーキによるブレーキシューやブレークパッドの解放よりも、解放する最後の瞬間において滑らかに解放することが可能となる特性を有する。
【0021】
しかし、上り坂の状況で、制動力の解放の最後を、インターロックを行う摩擦係合要素に委ねると、所謂ヒルスタートアシスト機能を備えた車両では、ホイールブレーキの制動力制御によって車両のずり下がりなく適切な坂道発進が行われるように制御されているため、このヒルスタートアシスト機能が適切に得られない恐れがある。
【0022】
このため、インターロックを行う摩擦係合要素の締結力の解放を完了した後に前記ホイールブレーキの液圧解放を完了するように構成することで、このようなヒルスタートアシスト制御が適切に作動しない問題を防止できる。
【0023】
さらに、いくつかの実施形態では、前記摩擦係合要素の締結力の解放を完了した後に前記ホイールブレーキの液圧解放を開始することを特徴とする。
【0024】
このように構成することによって、エンジンを自動停止、自動始動するアイドルストップ装置、および自動変速機の摩擦締結要素によるインターロックを作用させる機構を備えた車両で、さらに、ヒルスタートアシスト機能を備えた車両であっても、自動変速機の摩擦締結要素によるインターロック機能によるずり下がり防止機能を得ることができるとともに、前述したヒルスタートアシスト機能が得られない恐れを確実に防止でき、ヒルスタートアシスト制御による坂道発進を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、車両が一時停止した時に、エンジンを自動停止、及び自動始動するアイドルストップ装置と、自動変速機の複数の摩擦締結要素に締結力を付与するインターロック手段と、ホイールブレーキとを備えた車両の制御装置において、エンジンが自動始動して車両を発進させる際に、平坦または下り坂においては、押し出し感や飛び出し感を防止して、滑らかな発進を可能にして、発進性を向上させることができる。
【0026】
また、少なくとも一実施形態によれば、前述の効果に加えて、上り坂においては、ずり落ち感を防止して滑らかな発進を可能にして、発進性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置の全体構成を示す概略図である。同図に示すように、車両は、エンジン1の出力軸3に取り付けられた自動変速機5を備え、この例では、自動変速機5は、流体伝動装置としてのトルクコンバータ7と、複数のプラネタリギア機構を有する主変速部9と、主変速部9からの出力を2つの摩擦係合要素11、13が設けられて2段階に切り替え可能な副変速部15とを備える。
【0030】
複数のプラネタリギア機構を有する主変速部9によって複数の変速段が形成され、その出力が副変速部15によって、さらに2段階に変速されるようになっている。2つの摩擦係合要素である第1クラッチ11と第2クラッチ13とは、それぞれ多板クラッチ構造によって形成されており、エンジン1によって駆動される油圧ポンプにより発生する作動油圧を、これら第1クラッチ11および第2クラッチ13へ供給と排出とを制御することによって、2つの第1クラッチ11および第2クラッチ13に対して接合と解放とを制御するようになっている。
【0031】
例えば、第1クラッチ11を接合することで、1速の変速段を保持し、第2クラッチ13を接合することで、2速の変速段を保持するようになっている。そして、車両の発進時には第1クラッチ11を接合することで、1速の変速段が保持されるが、その際に、第2クラッチ13を接合すると、1速の変速段を形成する歯車の変速比と、2速の変速段を形成する歯車の変速比とによって、出力軸17の回転は抑制されてロック状態になり、これによって、自動変速機5は、インターロックを行う。
【0032】
なお、本実施形態では、自動変速機5として主変速部9と、副変速部15とを備えた所謂自動変速機(オートマチックトランスミッション、AT)について説明したが、副変速部15が設けられず、主変速部9だけの自動変速機、CVTやトロイダル式などの無段変速機なども含まれ、これら変速機に設けられる摩擦係合要素の接合と解放でインターロックを実行する構造のものであればよく、本実施形態の制御装置を適用することができる。
【0033】
自動変速機5からの駆動出力は、出力軸17等の動力伝達機構を介して駆動ホイール19に伝達される。駆動ホイール19には、ホイールブレーキ21が装着されており、例えば、ホイールブレーキ21がディスクブレーキの場合においては、ディスクロータ23に対するブレーキパッド25が、締め付け、締め付け状態の保持、及び解放が行うように制御される。
【0034】
ブレーキパッド25を可動するためのホイールシリンダ27にホイールシリンダ液圧(W/C液圧)が供給される配管29がブレーキ制御バルブ31との間に接続されている。
また、ブレーキ制御バルブ31は、配管33によって、マスターシリンダ35の出力部と接続されている。ブレーキブースター37の倍力装置によってブレーキペダル39の踏込によって発生した踏込圧力を増幅させて、踏込に応じた液圧がマスターシリンダ液圧(M/C液圧)として出力される。
ブレーキ制御バルブ31によって制御された液圧は、ブレーキパッド25を可動するためにホイールシリンダ27に供給されるようになっている。
【0035】
次に、制御装置41について説明する。
制御装置41には、主に、エンジン1の運転状態を制御するエンジン制御ECU(Electronic Control Unit)43と、自動変速機5の変速制御及びインターロックの開始や解放を制御する変速機制御ECU45と、ブレーキペダル39の操作によるブレーキ力の保持や解放を制御するブレーキ制御ECU47と、車両が走行している路面の勾配を路面勾配検知センサー49からの信号で判定する路面勾配判定部51とを有している。
【0036】
このエンジン制御ECU43には、ブレーキペダル39によるブレーキ力が所定値以上、車速がゼロ、エンジン回転数がアイドル状態等を条件として実行されるエンジン自動停止手段53と、エンジン自動停止状態から、前記ブレーキ力が所定値未満、車速がゼロ、エンジン回転数がアイドル状態等を条件として実行されるエンジン再始動手段55とを有している。
【0037】
ブレーキペダル39のブレーキ力としては、マスターバック液圧を圧力センサー57で検出して、検出値をブレーキ力判定閾値Pa、Pb(
図2、3参照)と比較して判定するようになっている。また、車速、エンジン回転数、エンジン負荷はそれぞれ、車速センサー59、エンジン回転センサー61、エンジン負荷センサー63によって検出された信号が制御装置41の各制御ECUに入力される。
【0038】
また、変速機制御ECU45には、エンジン回転数、エンジン負荷、車速等に応じて適切な変速段に設定されるように、主変速部9及び副変速部15を変速制御する。さらに、摩擦係合要素である第1クラッチ11と第2クラッチ13に締付力を付与し車軸の回転を抑制するインターロックを実行するインターロック制御部65、そのインターロックの解放を制御するインターロック解放制御部67を有している。
【0039】
また、ブレーキ制御ECU47には、ブレーキペダル39の操作によって発生したブレーキ液圧によってブレーキ力を付与するとともに、自動停止中(アイドルストップ中)ブレーキ液圧を、一定に保持するように、ブレーキ制御バルブ31を制御して一定のホイールブレーキ力を付与するホイールブレーキ制御部69、その保持された液圧をブレーキペダル39の解放後に解放制御するホイールブレーキ解放制御部71を有している。
【0040】
また、ホイールブレーキ制御部69及びホイールブレーキ解放制御部71は、路面が上り状況の時に、車両がずり下がりなく発進するように、ホイールブレーキ力の保持及び解放を制御するヒルスタートアシスト制御手段73からの制御信号で作動するようにもなっている。
【0041】
以上の構成からなる制御装置41の作動について、
図4〜6のフローチャートを基に、
図2、3のタイムチャートを参照して説明する。
【0042】
図4において、ステップS1で、エンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定する。この判定条件はブレーキペダル39の操作によってブレーキ力が所定値以上、車速がゼロ、エンジン回転数がアイドル状態等の条件が成立しているか否かを基に判定する。
【0043】
図2のタイムチャートにおいては、時刻t1〜t2において、車速がゼロで停車状態であり、ホイールブレーキの制動力がブレーキ力判定閾値Paに達し、エンジン回転数がアイドル状態であり、その状態で一定時間(t1〜t2)経過しているかを判定して、自動停止条件(アイドルストップ)の条件が成立していることを判定する。
【0044】
ステップS1で自動停止条件が成立した場合には、ステップS2で、ブレーキ液圧をPaに保持し、ステップS3でエンジンの自動停止を行い、エンジン回転数をゼロにする。
図2のタイムチャートにおいては、時刻t2以降に、ホイールブレーキ液圧(W/C液圧)がPaに保持され、エンジン回転数がゼロに低下されることが示される。そして時刻t2〜t3でアイドルストップ中となる。
以上のステップS1〜S3は、エンジン制御ECU43のエンジン自動停止手段53及びブレーキ制御ECU47のホイールブレーキ制御部69で行われる。
【0045】
次に、ステップS4で、エンジンの再始動条件が成立したか否かを判定する。この判定条件は、ブレーキペダル39の操作によってブレーキ力(マスターシリンダ液圧(M/C液圧))がブレーキ力判定閾値Pb以下に低下、車速がゼロ、エンジン回転数がアイドル状態等の条件が成立しているか否かを判定する。なお、ブレーキ力判定閾値Pa>Pbとして差が設けられている。
タイムチャートの時刻t3において、エンジンの再始動の条件が成立する例を示している。
【0046】
ステップS4でエンジンの再始動条件が成立した場合には、ステップS5で、インターロックを実行し、ステップS6でエンジン再始動する。
図2のタイムチャートにおいては、時刻t3で再始動条件が成立すると、インターロックの実行が開始されて、時間の経過に伴って、時刻t3〜t4でインターロックの制動力が増加していく。トータルの制動力のピークはt4、トータルの制動力はt4から減少が始まる。
【0047】
インターロックの実行は、本実施形態では、2速の変速段を形成する副変速部15の第2クラッチ13を係合状態にすることで実行される。1速の変速段を形成する第1クラッチ11は、ステップS1〜S6のエンジンの自動停止時から再始動時において、発進可能なように係合状態となっているため、第2クラッチ13を接合すると、副変速部15の1速の変速段を形成する歯車の変速比と、2速の変速段を形成する歯車の変速比とによって、出力軸17の回転は抑制されてロック状態になり、これによって、自動変速機5によってインターロックが掛かる。
【0048】
また、時刻t3〜t4でホイールブレーキは、踏込みが解除されて、マスターシリンダ液圧(M/C液圧)はゼロに低下するが、ステップS2でのブレーキ液圧保持によって、ホイールシリンダ液圧(W/C液圧)は、一定値に保持されている。
従って、時刻t3〜t4のエンジン再始動中、ホイールブレーキ制御部69は液圧を付与するとともに、インターロック制御部65はインターロックの制動力を増加し、ホイールブレーキとインターロックの両方のブレーキ力が付与される。
【0049】
次に、ステップS7に進んで、走行路面の勾配を判定する。勾配判定は、路面勾配検知センサー49からの信号を基に、閾勾配値と比較して路面勾配が平坦路もしくは下り勾配か、上り勾配かを判定する。例えば略5°の傾斜を基準に、上り勾配か、平坦路もしくは下り勾配かを判定している。
【0050】
平坦もしくは下り勾配の場合には、ステップS8に進み、平坦もしくは下り勾配の場合のホイールブレーキの解放(ステップS2で保持したブレーキ液圧の解放)、及びインターロックの解放(ステップS5で実行したインターロックの解放)のサブルーチンを実行する。この平坦もしくは下り勾配の場合のサブルーチンを
図5に示し、タイムチャートは
図2に示す。
【0051】
また、上り勾配の場合には、ステップS9に進み、上り勾配の場合のホイールブレーキの解放(ステップS2で保持したブレーキ液圧の解放)、及びインターロックの解放(ステップS5で実行したインターロックの解放)のサブルーチンを実行する。この上り勾配の場合のサブルーチンを
図6に示し、タイムチャートは
図3に示す。
【0052】
(平坦または下り勾配の場合)
平坦または下り勾配の場合のホイールブレーキ及びインターロックの解放について説明する。
図4のステップS6でエンジンの再始動が実行されると、
図5のステップS81で、エンジン回転数が第1閾値Ra以上かを判定して、Raに達した場合にはエンジンが完爆したと判定し、ステップS82でホイールブレーキのブレーキ圧の低減を開始する。
図2のタイムチャートで時刻t4において、ホイールシリンダ液圧(W/C液圧)の減圧を開始する。なお、t4の時点ではインターロックは保持状態を維持する。
【0053】
時刻t4において、エンジンが完爆した際には、インターロックの制動力は付加されているため、平坦または下り坂の状況で、ブレーキペダル39の踏み方が弱い状態でブレーキ力が保持された時であっても、再始動時のエンジンの完爆によって車両の押し出しまたは飛び出しの抑制に必要なブレーキ力の不足分を、自動変速機5のインターロックによって制動力を補うことが可能になる。
【0054】
次に、ステップS83で、エンジン回転数がさらに上昇して、エンジン回転数が第2閾値Rb以上かを判定して、Rbに達した場合には完爆後の吹け上がりと判定して、ステップS84でインターロックの解放を開始する。
図2のタイムチャートで、時刻t5でインターロックは保持状態が解放されてインターロックによる制動力の低下が開始する。
【0055】
次に、ステップS85で、ブレーキ解放が完了したかを判定する。すなわちホイールブレーキのホイールシリンダ液圧(W/C液圧)をホイールシリンダ液圧センサー64で検出して、該液圧値がゼロになったか否かで判定する。
そして、ステップS86では、ブレーキ解放が完了したと判定した場合に、その後に、インターロックの解放を終了させるようにしている。
【0056】
すなわち、
図2の時刻t6で、ブレーキ解放が完了して、完全にホイールブレーキが解除された後に、時刻t7で、インターロックの解放を完了させるようにしている。
【0057】
以上のように時刻t4〜t5でインターロックを一定制動力で保持状態(
図2A部)にすることで、ホイールブレーキのよる制動力とインターロックによる制動力とのトータル制動力は、
図2B部に示すように制動力の低減変化の傾きを緩やかにすることができる。
これによって、ホイールブレーキの液圧解除を開始した後、インターロックの摩擦係合要素の締結力を一定に保持することで、ホイールブレーキによる制動力とインターロックとによる合計の制動力の低減量が、インターロックの低減量が加わるよりも緩やかに変化するため、制動力の低減量の変化が安定化するので、滑らかに制動力の解除が可能となる。
【0058】
さらに、ブレーキ解放が完了した後に、インターロックの制動の解放を終了させるようにしているため、時刻t6〜t7においては、インターロックによる制動の解放だけによるため、
図2C部に示すように制動力の低減変化の傾きを緩やかにすることができる。
これによって、制動力の最終的な解放をインターロックの摩擦係合要素の解放に委ねることが可能になるため、摩擦係合要素の構造上の特性を生かした滑らかな発進ができる。
【0059】
すなわち、自動変速機5のインターロックを行う第1クラッチ11、第2クラッチ13の摩擦係合要素は、多板クラッチ構造によって形成されていることから、制動力の解放が、ドラムブレーキやディスクブレーキによるブレーキシューやブレークパッドの解放よりも、解放する最後の瞬間において滑らかに解放することが可能となる特性を有する。
このため、インターロックを実行する多板クラッチからなる摩擦締結要素の締結トルク容量を漸減させてインターロックを解除する最後の瞬間においては、ホイールブレーキの解放時よりも滑らかな解放が得られる。
【0060】
また、ホイールブレーキの解除とインターロックの解除との場合にトータル制動力の変化が、
図2のA部及びB部に示すように、全体として緩やかな安定した変化となるように制御されることで、平坦または下り坂においては、押し出し感や飛び出し感を防止して、滑らかな発進を可能にして、発進性を向上させることができる。
【0061】
(上り勾配の場合)
上り勾配の場合のブレーキ及びインターロックの解放について説明する。
前述の平坦または下り坂においては、エンジン再始動時の制動力の最終的な解放を、インターロックの摩擦係合要素の解放に委ねることを特徴としていたが、上り坂の場合には、車両のずり下がりを防止する観点から、エンジン再始動時の制動力の最終的な解放を、ヒルスタートアシスト機能による、ホイールブレーキによる解放に委ねることを特徴としている。
【0062】
図4のステップS6でエンジンの再始動が実行されると、
図6(A)のステップS91で、エンジン回転数が第1閾値Ra以上かを判定して、Raに達した場合にはエンジンが完爆したと判定し、ステップS92でインターロックが一定値に保持される。ホイールブレーキのブレーキ圧は、既にステップS2で一定値に保持されている。
図3のタイムチャートで、時刻t4において、ホイールシリンダ液圧(W/C液圧)は保持状態であり、インターロックも上昇した制動力の保持を開始する。
従って、ブレーキペダル39の踏み方が弱い状態でホイールブレーキ力が保持された時であっても、自動変速機5のインターロックによって制動力を補うことが可能になり、自動変速機5のインターロック機能によって車両のずり下がり防止機能を確実に得られる。
【0063】
次に、ステップS93で、エンジン回転数がさらに上昇して、エンジン回転数が第2閾値Rb以上かを判定して、Rbに達した場合には完爆後の吹け上がりと判定して、ステップS94でインターロックの解放を開始する。
図3のタイムチャートで、時刻t5でインターロックは保持状態(
図3A部)が解放されてインターロックによる制動力の低下が開始する。
【0064】
次に、ステップS95で、インターロックの解放が完了したかを判定する。すなわちインターロックを作動させる液圧を図示しない液圧センサーで検出して、該液圧値がゼロになったか否かで判定する。
図3のタイムチャートで、時刻t6でインターロックの解放が完了する。
【0065】
そして、インターロックが完全に解放された後(解放が完了した後)、ステップS96で、エンジントルクが勾配負荷より大きいかを判定して、ずり下がりが生じるかを判定して、エンジントルクが大きい場合には、ステップS97でホイールブレーキの液圧の解放を開始する。その後は、ステップS98で、ホイールブレーキの解放を完了させる。
図3のタイムチャートで、時刻t7でホイールブレーキの制動力の解放が開始され時刻t8で完了する。
【0066】
以上のステップS96〜98は、ヒルスタートアシスト制御手段73による制御によって、最終的にはホイールブレーキの解放が行われて車両のずり下がりが防止される。
上り坂の状況では、制動力の解放の最後を、インターロックを行う摩擦係合要素に委ねると、所謂ヒルスタートアシスト機能を備えた車両で、ホイールブレーキの制動力制御によって車両のずり下がりなく適切な坂道発進が行われるように制御されるため、ヒルスタートアシスト機能が適切に得られない恐れがあるが、本実施形態ではこのような問題をなくして、ホイールブレーキの解放制御によって、車両のずり下がりが確実に防止される。
【0067】
なお、
図6(A)のステップS96を、
図6(B)のステップS96'のような変形例としてもよい。このステップS96'は、エンジン回転数が、第1閾値Raに達してから所定時間経過したかを判定して、所定時間後に、ホイールブレーキの解放が開始されるものである。このように所定時間後にホイールブレーキの解放が行われるようにすることで、エンジン再始動時の迅速で確実な制動力解除が行われ、迅速な発進が可能になる。
また、インターロックの解放を時刻t5〜t6にかけて解除しているが、この時刻t5〜t6は、アクセルが踏み込まれた場合には、短く設定して短時間で解除して、ホイールブレーキの解放を早めてもよい。
【0068】
以上のように、上り勾配の場合には、エンジンを自動停止、自動始動するアイドルストップ装置、および自動変速機の摩擦締結要素によるインターロックを作用させる機構を備えた車両で、さらに、ヒルスタートアシスト機能を備えた車両であっても、自動変速機の摩擦締結要素によるインターロック機能によるずり下がり防止とともに、ヒルスタートアシスト制御手段73によるホイールブレーキの制動力の解放が制御されて、車両のずり下がりを確実に防止した坂道発進を得ることができる。