特許第6569482号(P6569482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6569482地下層処理用組成物、地下層処理用流体、地下層処理用流体の製造方法及び地下層の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569482
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】地下層処理用組成物、地下層処理用流体、地下層処理用流体の製造方法及び地下層の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/10 20060101AFI20190826BHJP
   C08B 15/08 20060101ALI20190826BHJP
   C08B 5/00 20060101ALI20190826BHJP
   C08B 3/12 20060101ALI20190826BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20190826BHJP
   C09K 8/12 20060101ALI20190826BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20190826BHJP
   C08L 1/16 20060101ALI20190826BHJP
   C08L 1/10 20060101ALI20190826BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20190826BHJP
   E21B 21/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C09K8/10
   C08B15/08
   C08B5/00
   C08B3/12
   C08B37/00 Z
   C09K8/12
   C08L1/02
   C08L1/16
   C08L1/10
   C08L101/14
   E21B21/00 A
【請求項の数】19
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-218195(P2015-218195)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-88693(P2017-88693A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 拓里
(72)【発明者】
【氏名】本間 郁絵
(72)【発明者】
【氏名】相澤 絵美
(72)【発明者】
【氏名】水上 萌
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0274149(US,A1)
【文献】 特開2013−177540(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/029960(WO,A1)
【文献】 特開2014−224254(JP,A)
【文献】 特開昭61−106689(JP,A)
【文献】 特開昭62−033995(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/029959(WO,A1)
【文献】 米国特許第04610795(US,A)
【文献】 特開2012−126788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/00− 8/94
C08L 1/00−101/14
C09K 3/00− 13/08
E21B 1/00− 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、を含み、
前記微細繊維状セルロースはリン酸化セルロース又はマレイン酸化セルロースである、地下層処理用組成物。
【請求項2】
前記非イオン性水溶性高分子の含有量が、前記微細繊維状セルロース100質量部に対して1質量部以上100質量部以下含まれる請求項1に記載の地下層処理用組成物。
【請求項3】
前記非イオン性水溶性高分子はグアーガムである請求項1又は2に記載の地下層処理用組成物。
【請求項4】
前記微細繊維状セルロースはアニオン性置換基を有するものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の地下層処理用組成物。
【請求項5】
前記微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース1gあたりアニオン性置換基を0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下有する請求項1〜のいずれか1項に記載の地下層処理用組成物。
【請求項6】
さらにイオン性水溶性高分子を含む請求項1〜のいずれか1項に記載の地下層処理用組成物。
【請求項7】
前記微細繊維状セルロースの含有量は、前記地下層処理用組成物の全質量に対して3質量%以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の地下層処理用組成物。
【請求項8】
繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、流体と、を含み、
前記微細繊維状セルロースはリン酸化セルロース又はマレイン酸化セルロースである、地下層処理用流体。
【請求項9】
さらに分解剤を含む請求項に記載の地下層処理用流体。
【請求項10】
前記分解剤は、酸化剤である請求項又はに記載の地下層処理用流体。
【請求項11】
さらに平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を含む請求項10のいずれか1項に記載の地下層処理用流体。
【請求項12】
液温25℃においてB型粘度計を用いて測定される回転数3rpm、測定時間3分での粘度が3000mPa・s以上である請求項11のいずれか1項に記載の地下層処理用流体。
【請求項13】
前記地下層処理用流体にペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.06質量%となるように添加し、70℃で6時間静置した後の上澄み液の粘度であって、液温25℃においてB型粘度計を用いて測定される回転数3rpm、測定時間3分での粘度が800mPa・s以下である請求項12のいずれか1項に記載の地下層処理用流体。
【請求項14】
繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子を混合し、地下層処理用組成物を得る工程と、
前記地下層処理用組成物と流体を混合する工程と、を含む地下層処理用流体の製造方法であって、
前記微細繊維状セルロースはリン酸化セルロース又はマレイン酸化セルロースである、地下層処理用流体の製造方法。
【請求項15】
前記地下層処理用組成物を得る工程の後に、分解剤を添加する工程をさらに含む請求項14に記載の地下層処理用流体の製造方法。
【請求項16】
前記地下層処理用組成物を得る工程の後に、平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を添加する工程をさらに含む請求項14又は15に記載の地下層処理用流体の製造方法。
【請求項17】
請求項13のいずれか1項に記載の地下層処理用流体を地下層に流入させる工程を含む地下層の処理方法。
【請求項18】
前記地下層処理用流体を地下層に流入させる工程の後に、前記微細繊維状セルロースと、前記非イオン性水溶性高分子と、前記流体とを少なくとも含む処理後流体を回収する工程をさらに含む請求項17に記載の地下層の処理方法。
【請求項19】
前記地下層処理用流体を地下層に流入させる工程と、前記処理後流体を回収する工程の間には、前記平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を沈降させる工程を含む請求項17又は18に記載の地下層の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下層処理用組成物、地下層処理用流体、地下層処理用流体の製造方法及び地下層の処理方法に関する。具体的には、本発明は、微細繊維状セルロースと非イオン性水溶性高分子を含む地下層処理用組成物、該地下層処理用組成物と流体を含む地下層処理用流体及び地下層処理用流体の製造方法に関する。該地下層処理用流体は地下層の処理方法に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
【0003】
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースを含有するシートや複合体は、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度が大きく向上する。また、繊維幅が可視光の波長より短くなることで、透明度が大きく向上する。このような微細繊維状セルロースは、増粘剤などの用途へ使用できることも知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、微細繊維状セルロースを含有する粘性水系組成物が開示されている。また、特許文献2及び3には、微細繊維状セルロースと他の増粘剤を組み合わせた粘性水系組成物が開示されている。特許文献2では微細繊維状セルロース以外の増粘剤として、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、デキストリン等が挙げられている。特許文献3では、微細繊維状セルロース以外の増粘剤として、非イオン性の増粘多糖類が挙げられている。特許文献1〜3では、粘性水系組成物を化粧品や医薬品、食品等に添加することが検討されている。
【0005】
ところで、地下層や地下区域に存在しているガス、石油又は水のような天然資源は、通常は掘削孔中に掘削流体を循環させながら地下層まで掘削孔を掘ることで回収される。掘削流体としては、例えばフラクチャリング流体や、泥水、セメンチング流体等の地下層の処理のための流体が使用される。これらの流体の多くには増粘剤が含有されており、例えばキサンタンガムなどの天然多糖、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの合成高分子が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−037348号公報
【特許文献2】特開2008−106178号公報
【特許文献3】特開2012−126788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように微細繊維状セルロースを増粘剤として用いることが検討されている。また、微細繊維状セルロースと他の増粘剤を組み合わせて粘性水系組成物とすることも検討されている。しかしながら、特許文献1〜3では、このような粘性水系組成物を地下層処理用流体として用いることは検討されておらず、地下層処理用流体として必要な物性を備えているものであるか否かは未知であった。
【0008】
シェールガスやシェールオイルといった天然資源を回収するための地下層処理用流体には、適切な粘性を有することに加えて、適切な粘性を地下層においても維持できる耐熱性や、必要に応じて粘性を低下させ得る分解性、地下層処理後の回収性等が求められる。このように、地下層処理用流体には多様な特性が必要であり、これらの要求を満たすような地下層処理用流体の開発が求められていた。
【0009】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、適切な粘性を有することに加えて、適切な粘性を地下層においても維持できる耐熱性、必要時に粘性が低下する分解性、及び良好な回収性を兼ね備えた地下層処理用流体となり得る地下層処理用組成物を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、地下層処理用組成物において、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと非イオン性水溶性高分子を組み合わせて用いることにより、適切な粘性、適切な粘性を地下層においても維持できる耐熱性、必要時に粘性が低下する分解性、及び良好な回収性を兼ね備えた地下層処理用流体が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0011】
[1] 繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、を含む地下層処理用組成物。
[2] 非イオン性水溶性高分子の含有量が、微細繊維状セルロース100質量部に対して1質量部以上100質量部以下含まれる[1]に記載の地下層処理用組成物。
[3] 非イオン性水溶性高分子はグアーガムである[1]又は[2]に記載の地下層処理用組成物。
[4] 微細繊維状セルロースはアニオン性置換基を有するものである[1]〜[3]のいずれかに記載の地下層処理用組成物。
[5] 微細繊維状セルロースはリン酸化セルロース又はマレイン酸化セルロースである[1]〜[4]のいずれかに記載の地下層処理用組成物。
[6] 微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース1gあたりアニオン性置換基を0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下有する[1]〜[5]のいずれかに記載の地下層処理用組成物。
[7] さらにイオン性水溶性高分子を含む[1]〜[6]のいずれかに記載の地下層処理用組成物。
[8] 微細繊維状セルロースの含有量は、地下層処理用組成物の全質量に対して3質量%以上である[1]〜[7]のいずれかに記載の地下層処理用組成物。
[9] 繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、流体と、を含む地下層処理用流体。
[10] さらに分解剤を含む[9]に記載の地下層処理用流体。
[11] 分解剤は、酸化剤である[9]又は[10]に記載の地下層処理用流体。
[12] さらに平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を含む[9]〜[11]のいずれかに記載の地下層処理用流体。
[13] 液温25℃においてB型粘度計を用いて測定される回転数3rpm、測定時間3分での粘度が3000mPa・s以上である[9]〜[12]のいずれかに記載の地下層処理用流体。
[14] 地下層処理用流体にペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.06質量%となるように添加し、70℃で6時間静置した後の上澄み液の粘度であって、液温25℃においてB型粘度計を用いて測定される回転数3rpm、測定時間3分での粘度が800mPa・s以下である[9]〜[13]のいずれかに記載の地下層処理用流体。
[15] 繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子を混合し、地下層処理用組成物を得る工程と、地下層処理用組成物と流体を混合する工程と、を含む地下層処理用流体の製造方法。
[16] 地下層処理用組成物を得る工程の後に、分解剤を添加する工程をさらに含む[15]に記載の地下層処理用流体の製造方法。
[17]地下層処理用組成物を得る工程の後に、平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を添加する工程をさらに含む[15]又は[16]に記載の地下層処理用流体の製造方法。
[18] [9]〜[14]のいずれかに記載の地下層処理用流体を地下層に流入させる工程を含む地下層の処理方法。
[19] 地下層処理用流体を地下層に流入させる工程の後に、微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、流体とを少なくとも含む処理後流体を回収する工程をさらに含む[18]に記載の地下層の処理方法。
[20] 地下層処理用流体を地下層に流入させる工程と、処理後流体を回収する工程の間には、平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を沈降させる工程を含む[18]又は[19]に記載の地下層の処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、適切な粘性、適切な粘性を地下層においても維持できる耐熱性、必要時に粘性が低下する分解性、及び良好な回収性を兼ね備えた地下層処理用流体となり得る地下層処理用組成物を得ることができる。本発明で得られる地下層処理用流体は上記の特性を備えているため、混合時にはプロパントに代表される地下層処理に用いられる粒状物の分散性(支持性)に優れているが、必要時に粒状物を容易に沈降させることができ、さらに、地下層処理後には粘性が低い状態で流体を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシル基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(地下層処理用組成物)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子とを含む地下層処理用組成物に関する。本発明の地下層処理用組成物は、地下層の処理用途に応じた適切な粘性を有する組成物であるから、地下層処理用増粘剤として使用することもできる。
【0016】
本発明の地下層処理用組成物にさらに、水等の流体を混合することにより地下層処理用流体が作製される。このような地下層処理用流体は、適切な粘性を有する。このため、地下層処理用流体は、地下層に運搬されるプロパント等の粒状物を均一に分散し得る分散性(支持性)を有する。また、地下層領域はマグマ等の熱により高温であるが、本発明で得られる地下層処理用流体は、適切な粘性を地下層においても維持することができる。すなわち、地下層処理用流体は耐熱性を有している。さらに、本発明で得られる地下層処理用流体は、分解剤等により必要時に粘性が低下する性質を有する。地下層処理用流体の粘性が低下した場合は、運搬されたプロパント等の粒状物が沈降し、その場に留まることができる。そして、粘性が低下した処理後流体は回収が容易であるという利点を有する。本発明で得られる地下層処理用流体は処理後の粘性が低いことに加え、時間経過時であってもゲル化することが抑制されているため、良好な回収性を有している。以上のように、本発明の地下層処理用組成物から得られる地下層処理用流体は、適切な粘性、適切な粘性を地下層においても維持できる耐熱性、必要時に粘性が低下する分解性、及び良好な回収性を兼ね備えている。
従来の微細繊維状セルロースを含有する組成物においては増粘性が得られることが知られているが、地下層処理用組成物においては、増粘性のみでは地下層処理の目的を達成することができない。地下層処理用組成物は、処理前の増粘性(プロパント等の粒状物を均一に分散し得る分散性)に加えて、耐熱性、分解性及び回収性の全ての特性を有することによってはじめてその目的を達成し得るものである。本発明は、従来の組成物からは予測できない耐熱性、分解性及び回収性等の新たな特性を発見したものであり、地下層処理用の用途としては全く新規の組成物に関するものである。
【0017】
地下層処理用組成物はそれ自体が一定量以上の水分を含むものであるから、地下層処理用組成物そのものを地下層処理用流体として用いることができる。この場合、地下層処理用流体の項目で規定した各物性は地下層処理用組成物の各物性となる。
但し、地下層処理用流体は大半が水分であるため、輸送のコスト等を勘案した場合、処理直前に処理現場において調製されることが好ましい。このため、地下層処理用組成物はある程度濃縮されたものであることが好ましく、地下層処理用流体は、濃縮された地下層処理用組成物と流体とを混合した流体であることが好ましい。具体的には、地下層処理用組成物中の微細繊維状セルロースの含有量は、地下層処理用組成物の全質量に対して3質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよい。
【0018】
<非イオン性水溶性高分子>
本発明の地下層処理用組成物は非イオン性水溶性高分子を含む。非イオン性水溶性高分子は、地下層処理用組成物や地下層処理用流体において、膨潤作用による立体障害により、微細繊維状セルロースの凝集を防ぎ分散を安定化させていると考えられる。このような効果は、微細繊維状セルロースと非イオン性水溶性高分子を組み合わせて用いた場合に、相乗効果として現れるものと考えられる。また、非イオン性水溶性高分子は微細繊維状セルロースが分解された後に再凝集することも抑制することができ、このような再凝集抑制効果を長時間に亘って持続することができる。
【0019】
本発明の地下層処理用組成物における非イオン性水溶性高分子の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して1質量部以上100質量部以下であることが好ましい。非イオン性水溶性高分子の含有量は微細繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、非イオン性水溶性高分子の含有量は、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、50質量部以下であることがよりさらに好ましく、30質量部以下であることが特に好ましい。
【0020】
非イオン性水溶性高分子としては、タマリンドガム、グルコマンナン、グアーガム、ローカストビーンガム、プルランなどの水溶性多糖類、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース誘導体、生デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロースなどのデンプン類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリグリセリン等の合成高分子等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、非イオン性水溶性高分子は、タマリンドガム、グルコマンナン、グアーガム、ローカストビーンガム、プルランなどの水溶性多糖類から選択される少なくとも1種であることが好ましく、グアーガムであることがより好ましい。
なお、本願明細書において非イオン性とは、分子中にイオン的に解離するイオン性官能基を有しないことを意味する。
【0021】
<微細繊維状セルロース>
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
【0022】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0023】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0024】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0025】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0026】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0027】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0028】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0029】
<化学的処理>
微細繊維状セルロースは、セルロース原料を解繊処理することによって得られる。また、本発明では、解繊処理前にセルロース原料に化学的処理を施し微細繊維状セルロースに置換基を付加することが好ましい。微細繊維状セルロースに付加される置換基は、イオン性置換基であることが好ましく、アニオン性置換基であることがより好ましい。アニオン性置換基としては、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある。)、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種の置換基を挙げることができる。中でもアニオン性置換基は、リン酸基及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
本願明細書においては、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースをリン酸化セルロースと呼ぶことがある。また、カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースをカルボン酸化セルロースと呼ぶことがある。さらに、セルロースと、ジカルボン酸の有する一方のカルボキシル基がエステル結合している微細繊維状セルロースをジカルボン酸エステル化セルロースと呼ぶことがある。すなわち、本発明で用いる微細繊維状セルロースは、リン酸化セルロース及びカルボン酸化セルロースから選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸化セルロース及びジカルボン酸エステル化セルロースから選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸化セルロース及びマレイン酸化セルロースから選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸化セルロースであることがさらに好ましい。
【0031】
カルボン酸化セルロースにはTEMPOおよび次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤等で酸化することによって調製されるTEMPO酸化セルロースが含まれる。また、カルボン酸化セルロースには、ジカルボン酸エステル化セルロースが含まれ、ジカルボン酸エステル化セルロースとしては、無水マレイン酸への付加によって調製されるマレイン酸化セルロースが挙げられる。具体的には、TEMPO酸化セルロースの単糖構造は下記の構造aとして例示され、マレイン酸化セルロースの単糖構造としては下記の構造bが例示される。
【化1】
【0032】
本発明では、カルボン酸化セルロースは、マレイン酸化セルロースといったジカルボン酸エステル化セルロースであることが好ましい。ジカルボン酸エステル化セルロースは、無水マレイン酸やジカルボン酸が有する一方のカルボキシル基がセルロースとエステル結合したものである。このようなエステル結合を有することにより、微細繊維状セルロースが分解された後に再凝集することをより効果的に抑制することができるものと考えられる。
なお、上記構造は、例えば、NMR測定やMSのフラグメント解析、UV解析などを用いて分析することができる。
【0033】
本発明で使用する微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース1g(質量)あたりアニオン性置換基を0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下有することが好ましい。上述したようなアニオン性置換基を上記割合で有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により超微細化することができる点で好ましい。また、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により水中で凝集せず、増粘作用を安定的に発揮することができる。さらに、微細繊維状セルロースが分解された後に再凝集することを効果的に抑制することができる。
【0034】
<化学的処理一般>
セルロース原料の化学的処理の方法は、微細繊維を得ることができる方法である限り特に限定されない。化学的処理としては、例えば、酸処理、オゾン処理、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル)酸化処理、酵素処理、セルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられる。なお、本発明で用いる微細繊維状セルロースはリン酸基又はカルボキシル基を有することが好ましい。このため、化学的処理の方法としては、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物及び/又はその塩による処理を行うことが好ましい。
【0035】
酸処理の一例としては、Otto van den Berg; Jeffrey R. Capadona; Christoph Weder;Biomacromolecules 2007, 8, 1353-1357.に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、硫酸や塩酸等により微細繊維状セルロースを加水分解処理する。高濃度の酸処理により製造されるものは、非結晶領域がほとんど分解されており、繊維の短いもの(セルロースナノクリスタルとも呼ばれる)になるが、これらも微細繊維状セルロースに含まれる。
【0036】
オゾン処理の一例としては、特開2010−254726号公報に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0037】
TEMPO酸化の一例としては、Saito T & al. Homogeneous suspensions of individualized microfibrils from TEMPO-catalyzed oxidation of native cellulose. Biomacromolecules 2006, 7 (6), 1687-91に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、繊維をTEMPO酸化処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0038】
酵素処理の一例としては、WO2013/176033号公報(WO2013/176033号公報に記載の内容は全て本願明細書中に引用されるものとする)に記載の方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維原料を、少なくとも酵素のEG活性とCBHI活性の比が0.06以上の条件下で、酵素で処理する方法である。
【0039】
セルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理としては、国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物」を使用する方法を挙げることができる。
【0040】
<アニオン性置換基導入>
微細繊維状セルロースはアニオン性置換基を有することが好ましい。中でも、アニオン基は、リン酸基、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0041】
<置換基の導入量>
アニオン性置換基の導入量は特に限定されないが、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、アニオン性置換基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。アニオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、イオン性置換基を有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により水中で凝集せず、増粘作用を安定的に発揮することができる。さらに、微細繊維状セルロースが分解された後に再凝集することを効果的に抑制することができる。
【0042】
<リン酸基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースはリン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有していることが好ましい。
【0043】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「化合物A」という。)を反応させることにより行うことができる。このような化合物Aは、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aの粉末や水溶液を添加してもよい。
【0044】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0045】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0046】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0047】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0048】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0049】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を下記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0050】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0051】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料に対する化合物Bの添加量は1質量%以上300質量%以下であることが好ましい。
【0052】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0053】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、150℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0054】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0055】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0056】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0057】
<リン酸基の導入量>
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リン酸基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基を有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により水中で凝集せず、増粘作用を安定的に発揮することができる。さらに、微細繊維状セルロースが分解された後に再凝集することを効果的に抑制することができる。
【0058】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0059】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0060】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0061】
<カルボキシル基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、上述した<リン酸基導入工程>において、カルボン酸由来の基を有する化合物を用いることで、カルボキシル基を導入することができる。
【0062】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。中でも、カルボキシル基を有する化合物としてマレイン酸を用いることが好ましい。
【0063】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。中でも、無水マレイン酸を用いることが好ましい。
【0064】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0065】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0066】
<カルボキシル基の導入量>
カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。カルボキシル基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により水中で凝集せず、増粘作用を安定的に発揮することができる。さらに、微細繊維状セルロースが分解された後に再凝集することを効果的に抑制することができる。
【0067】
カルボキシル基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図2に示した曲線を与える。図2に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0068】
<カチオン性置換基導入>
本実施形態においては、イオン性置換基としてカチオン性置換基が微細繊維状セルロースに導入されていてもよい。例えば繊維原料にカチオン化剤およびアルカリ化合物を添加して反応させることにより、繊維原料にカチオン性置換基を導入することができる。
カチオン化剤としては、4級アンモニウム基を有し、かつセルロースのヒドロキシル基と反応する基を有するものを用いることができる。セルロースのヒドロキシル基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
アルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩などの無機アルカリ化合物であってもよいし、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物およびその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等の有機アルカリ化合物であってもよい。カチオン性置換基の導入量の測定は、たとえば元素分析等を用いて行うことができる。
【0069】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、置換基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0070】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0072】
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0073】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶媒を使用することができる。好ましい極性有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0074】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0075】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0076】
上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。
【0077】
<イオン性水溶性高分子>
本発明の地下層処理用組成物は、さらにイオン性水溶性高分子を含んでもよく、イオン性水溶性高分子と、非イオン性水溶性高分子と、をともに地下層処理用組成物中に含む場合を好ましい態様の一例としてあげることができる。イオン性水溶性高分子を含む地下層処理用組成物は、より優れた耐塩性を発揮することができる。このため、地下層処理用流体を調製するために塩水を用いることができ、処理を行う環境下において塩水が得られやすい場合は、塩水を活用することができる。
【0078】
イオン性水溶性高分子としては、例えば、キサンタンガム、アルギン酸等の天然水溶性高分子誘導体類、カルボキシメチルセルロース等の水溶性セルロース類、カチオン化デンプン、酸化デンプン等のデンプン類が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、イオン性水溶性高分子としてキサンタンガムを用いることが好ましい。
【0079】
地下層処理用組成物におけるイオン性水溶性高分子の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して1質量部以上300質量部以下であることが好ましい。イオン性水溶性高分子の含有量は微細繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、イオン性水溶性高分子の含有量は、300質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましい。
【0080】
(地下層処理用組成物の製造方法)
本発明の地下層処理用組成物の製造工程は、微細繊維状セルロースを得る工程と、微細繊維状セルロースと非イオン性水溶性高分子を混合する工程を含むことが好ましい。微細繊維状セルロースはスラリーであることが好ましく、水中で非イオン性水溶性高分子と混合されることが好ましい。
【0081】
微細繊維状セルロースと非イオン性水溶性高分子を混合する方法としては特に限定されず、公知の攪拌方法を採用することができる。
【0082】
地下層処理用組成物は、固形物、スラリー、乾燥物、濃縮物等の種々の形態とすることができる。使用される際には水系の分散媒に分散されることから、分散が容易なように、加工されていてもよい。運搬や作業現場でのハンドリング性の観点から、濃縮物、乾燥物の形態で提供されることが望ましい。
【0083】
濃縮や乾燥する際、その方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維を含有する液に濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。
【0084】
濃縮剤としては、酸、アルカリ、多価金属の塩、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、有機溶媒などが挙げられる。より詳しくは、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、 無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等)、有機酸(ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等)、カチオン性界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアンモニウム塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、アルキルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルピリジニウム硫酸塩、ステアラミドメチルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、脂肪酸ポリエチレンポリアミド、アシルアミノエチルピリジニウム塩、アシルコラミノホルミルメチルピリジニウム塩などの第4級アンモニウム塩、ステアロオキシメチルピリジニウム塩、脂肪酸トリエタノールアミン、脂肪酸トリエタノールアミンギ酸塩、トリオキシエチレン脂肪酸トリエタノールアミン、セチルオキシメチルピリジニウム塩、p−イソオクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩などのエステル結合アミンやエーテル結合第4級アンモニウム塩、アルキルイミダゾリン、1−ヒドロキシエチル−2−アルキルイミダゾリン、1−アセチルアミノエチル−2−アルキルイミダゾリン、2−アルキル−4−メチル−4−ヒドロキシメチルオキサゾリンなどの複素還アミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、N−アルキルプロピレンジアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミン、N−アルキルポリエチレンポリアミンジメチル硫酸塩、アルキルビグアニド、長鎖アミンオキシドなどのアミン誘導体等)、カチオン性高分子凝集剤(アクリルアミドとジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドまたはこれらの塩または四級化物等のカチオン性単量体との共重合物あるいはこれらカチオン性単量体の単独重合物または共重合物等)、アルカリ(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等)、アニオン性界面活性剤(オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル酸ナトリウム、トデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンジアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等)、アニオン性高分子凝集剤(ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸またはそれらのアルカリ金属塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミドの加水分解物、アクリロイルアミノ−2−メチルプロピルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸またはそれらの塩等のビニルスルホン酸類と(メタ)アクリル酸またはそれらのアルカリ金属塩と(メタ)アクリルアミドとの共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルスタ−チ、アルギン酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0085】
また有機溶媒の例としては、特に限定されないが、水と混和性を有するものが好ましく、さらに極性を有するものが好ましい。極性を有する有機溶媒の好ましい例としては、アルコール類、ジオキサン類(1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類の具体例は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等である。それら以外の極性を有する有機溶媒の好ましい例としては、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。有機溶媒を選択する際、溶解パラメータ値(SP値)を考慮してもよい。2つの成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大となることが経験的に知られているため、水との混和性がよいとの観点からは、水に近いSP値を有する有機溶媒を選択することができる。これらの濃縮剤は1種類でも良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
(地下層処理用流体)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、流体と、を含む地下層処理用流体に関するものでもある。本発明の地下層処理用流体は、上述した地下層処理用組成物と流体を含有するものである。なお、地下層処理用流体に含まれる流体は、地下層処理用組成物とは別に添加されたものであってもよいし、地下層処理用組成物に含まれる流体であってもよい。本発明の地下層処理用流体における流体は、地下層処理用組成物に含まれる流体、及び新たに添加した流体から選択される少なくとも一方である。
【0087】
地下層処理用流体に含まれる流体としては、例えば、水が挙げられる。水には、純粋の他に、海水等に代表される塩水が含まれる。また、流体としては有機溶媒や水と有機溶媒との混合物も用いることもできる。有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。流体としては、水または塩水を用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。
【0088】
地下層処理用流体における微細繊維状セルロースの含有量は、地下層処理用流体の全質量に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましく、0.4質量%以下であることがさらに好ましい。なお、地下層処理用流体における微細繊維状セルロースの含有量は、地下層処理用流体に含まれる非イオン性水溶性高分子の含有量等に応じて適宜調整することができる。
【0089】
地下層処理用流体における非イオン性水溶性高分子の含有量は、地下層処理用流体の全質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましい。また、非イオン性水溶性高分子の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましい。なお、地下層処理用流体における微細繊維状セルロースの含有量は、地下層処理用流体に含まれる微細繊維状セルロースの含有量等に応じて適宜調整することができる。
【0090】
地下層処理用流体は、さらに分解剤を含むことが好ましい。ここで分解剤とは、微細繊維状セルロースを分解する性質を有するものである。分解剤は、微細繊維状セルロースのセルロース鎖を切断し得るものであることが好ましく、分解剤としては、例えば酸化剤、酵素、酸等を挙げることができる。中でも、分解剤は酸化剤であることが好ましく、酸化剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、臭素酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0091】
分解剤は、地下層処理用流体を調製した段階では、まだその分解能を発揮せず、地下層に流入させた後にその分解能を発揮することが好ましい。このように分解能を発揮することで、地下層処理用流体を地下層に流入させる前段階では、地下層処理用流体は十分に高い粘性を有している。しかし、地下層処理用流体が地下層に流入した後に微細繊維状セルロースが分解されることによって、地下層処理用流体の粘性が低下する。このような分解剤による粘性の挙動は、後述する粒状物を地下層の目的とする場所で沈降させるために重要な役割を担う。
【0092】
分解剤の分解能を制御するためには、例えば分解剤をカプセル等に封入し、一定時間の経過後や、一定温度条件においてカプセルが溶解するような設計とすることで、分解剤が所定の場所で放出されるような態様としてもよい。また地下層処理用流体を地下層に流入させた後に、チューブ等を通して、所定場所に分解剤を注入することとしてもよい。
【0093】
分解剤の含有量は、使用する分散剤の種類や含有される微細繊維状セルロースの含有量によって変動するものであるが、例えば、地下層処理用流体の全質量に対して、0.01質量%以上1質量%以下含まれることが好ましい。分解剤の含有量を上記範囲内とすることにより、必要時に微細繊維状セルロースを分解することができ、地下層処理用流体の粘性を低下させることができる。
【0094】
地下層処理用流体は、さらに平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を含んでもよい。このような粒状物としては、例えばプロパントを挙げることができる。プロパントは、平均粒子径が0.5mm程度の固形物である。プロパントは、主に、シェールガスやシェールオイルといった天然資源の回収を行う際に、地下のシェール層(採取層)の亀裂に充填されるものである。シェール層の亀裂からは天然資源が流出するため、プロパントは天然資源のチャンネル(オイル・ガスの通り道)を形成する。プロパントとしては、例えば、砂、ガラスビーズ、セラミック粒子、樹脂被覆した砂等からなる粒状物を挙げることができる。
【0095】
なお、上記粒状物の平均粒子径は、顕微鏡観察等により拡大をした後の測定してもよいし、目視により測定をしてもよい。粒状物が球状ではない場合は、粒状物と同体積の球状であると仮定してその平均粒子径を算出する。
【0096】
粒状物の含有量は、処理対象である地下層の状態によっても異なるが、例えば、地下層処理用流体の全質量に対して、1質量%以上20質量%以下含まれることが好ましい。粒状物の含有量を上記範囲内とすることにより、地下のシェール層(採取層)の亀裂に適切に充填される。
【0097】
地下層処理用流体は、さらにイオン性水溶性高分子を含有してもよい。また、加重材、粘度調整剤、分散剤、凝集剤、逸泥防止剤、脱水調節剤、pH制御剤、摩擦低減剤、水和膨張制御剤、乳化剤、界面活性剤、殺生物剤、消泡剤、スケール防止剤、腐食防止剤、温度安定剤、樹脂コート剤、塩等を挙げることができる。添加される成分は、一種のみならず、二種以上であってもよい。
【0098】
地下層処理用流体の粘度は3000mPa・s以上であることが好ましく、3500mPa・s以上であることがより好ましく、4000mPa・s以上であることがさらに好ましい。ここで、地下層処理用流体の粘度は、液温25℃においてB型粘度計を用いて測定される回転数3rpm、測定時間3分での値である。なお、地下層処理用流体の粘度を測定する際には、355μmのメッシュを通過させ粗大固形物を除去した後に上記測定を行う。
【0099】
また、地下層処理用流体にペルオキソ二硫酸アンモニウムを0.06質量%(2.63mmol/L)となるように添加し、70℃で6時間静置した後の上澄み液の粘度は、800mPa・s以下であることが好ましく、700mPa・s以下であることがより好ましく、650mPa・s以下であることがさらに好ましい。上澄み液の粘度は、液温25℃においてB型粘度計を用いて測定される回転数3rpm、測定時間3分での値である。
【0100】
本発明では、地下層処理用流体には、非イオン性水溶性高分子が含まれているため、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の分解剤を添加し、微細繊維状セルロースを細分化した後の地下層処理用流体の粘性は低い状態のまま長時間に亘って保持される。すなわち、非イオン性水溶性高分子は、分解剤によって分解された微細繊維状セルロースが凝集することによって、ゲル状の凝集物となることを抑制している。このため、地下層処理用流体は処理後には低粘度な状態が維持されており、回収がし易い。
【0101】
本発明の地下層処理用流体は、地下層を処理するために用いられる。ここで、地下層処理とは、例えば、セメンチング、坑井調査、検層作業、天然資源の回収、坑井刺激、水系泥水、油系泥水、ケミカル・フルイドまたはブラインを用いた坑井仕上げ、浸透率の低いタイトな地下層に通り道(割れ目、フラクチャ)を作るための高圧のフラクチャリング流体を使用したフラクチャリング、坑井改修、廃坑処理等が挙げられる。地下層処理用流体には、フラクチャリング流体、泥水、セメンチング流体、ウェルコントロール流体(well control fluid)、ウェルキル流体(well kill fluid)、酸フラクチャリング流体(acid fracturing fluid)、酸分流流体(acid diverting fluid)、刺激流体(stimulation fluid)、サンドコントロール流体(sand control fluid)、仕上げ流体(completion fluid)、ウェルボーン石化流体(wellbore consolidation fluid)、レメディエーション処理流体(remediation treatment fluid)、スペーサー流体(spacer fluid)、掘削流体(drilling fluid)、フラクチャリングパッキング流体(frac-packing fluid)、水適合流体(water conformance fluid)、砂利パッキング流体(gravel packing fluid)等が含まれる。
【0102】
中でも、本発明の地下層処理用流体はフラクチャリング流体であることが好ましく、特に、天然資源の回収を目的とした地下層処理に用いられるフラクチャリング流体であることが好ましい。ここで、天然資源は、地下に存在する、固体、液体、気体のすべての鉱物性炭化水素を指す。具体的には、天然資源としては、一般的な区分である液体の石油(オイル)と気体の天然ガスがある。また天然資源には、在来型の石油、天然ガスのほか、タイトサンドガス、シェールオイル、タイトオイル、重質油、超重質油、シェールガス、炭層ガス、ビチュメン、ヘビーオイル、オイルサンド、オイルシェール、メタンハイドレートが含まれる。本発明の地下層処理用流体は、特に、シェールオイルやシェールガスの回収を目的とした地下層処理に用いられるフラクチャリング流体であることが好ましい。
【0103】
(地下層処理用流体の製造方法)
本発明の地下層処理用流体の製造工程は、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子を混合し、地下層処理用組成物を得る工程と、地下層処理用組成物と流体を混合する工程を含む。本発明の地下層処理用流体の製造工程においては、地下層処理用組成物を得る工程の後に、分解剤を添加する工程をさらに含むことが好ましい。また、地下層処理用組成物を得る工程の後に、平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を添加する工程をさらに含むことが好ましい。
【0104】
分解剤を添加する工程は、地下層を処理する直前に設けられることが好ましい。これは、分解剤は、地下層処理用流体を調製した段階では、まだその分解能を発揮せず、地下層に流入させた後にその分解能を発揮することが好ましいからである。このように分解能を発揮することで、地下層処理用流体を地下層に流入させる前段階では、地下層処理用流体は十分に高い粘性を有している。しかし、地下層処理用流体が地下層に流入した後に微細繊維状セルロースが分解されることによって、地下層処理用流体の粘性が低下する。
【0105】
分解剤を添加する工程や平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を添加する工程は、地下層処理用組成物と流体を混合する工程の後に設けられることが好ましいが、地下層処理用組成物と流体を混合する工程と同時に設けられてもよい。また、地下層処理用組成物と流体を混合し、地下層に流入させた後に、分解剤と粒状物を添加することとしてもよい。すなわち、本発明の地下層処理用流体は、分解剤と粒状物を添加するための流体であってもよい。
【0106】
(地下層の処理方法)
本発明は、上述した地下層処理用流体を地下層に流入させる工程を含む地下層の処理方法に関するものでもある。本発明の地下層の処理方法は、地下層処理用流体を地下層に流入させる工程の後に、微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、流体とを少なくとも含む処理後流体を回収する工程をさらに含むことが好ましい。さらに、本発明の地下層の処理方法は、地下層処理用流体を地下層に流入させる工程と、処理後流体を回収する工程の間に平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を沈降させる工程を含むことが好ましい。
【0107】
地下層処理用流体を地下層に流入させる工程では、地下層に設けられた坑井内に、高圧ポンプ等によって地下層処理用流体を流し込む。その後、平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を沈降させる工程を設けることが好ましい。粒状物を沈降させる工程では、坑井内に高い圧力を加えて採取層に亀裂(フラクチャ)を作り、その中に平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物などの支持材を充填する。粒状物は亀裂の閉塞を防ぎ、採取層内に非常に浸透性の高いチャンネル(オイル・ガスの通り道)を形成する。
【0108】
地下層処理用流体を地下層に流入させる工程においては、地下層処理用流体中に酸化剤や粒状物が均一に分散していることが好ましい。これにより、地下層処理用流体に含まれる微細繊維状セルロースの分解を均一に促進させることができ、さらに採取層内の亀裂に均一に粒状物を充填することができる。
平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を沈降させる工程は、地下層処理用流体に含まれる微細繊維状セルロースを分解する工程を含むことが好ましい。例えば、分解剤を作用させて、微細繊維状セルロースのセルロース鎖を切断する工程を含むことが好ましい。すなわち、平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を沈降させる工程では、地下層処理用流体の粘性を低下させることが好ましく、これにより、地下層処理用流体中に均一に分散していた粒状物が沈降することとなり、粒状物が採取層内の亀裂に充填される。
【0109】
粒状物が沈降した後には、処理後流体を回収する工程が設けられることが好ましい。処理後流体には、微細繊維状セルロースと、非イオン性水溶性高分子と、流体が少なくとも含まれる。なお、処理後流体には、沈降せずに残留した粒状物や、未反応の酸化剤等が含まれていてもよい。処理後流体を回収する工程では、粘性が低下した処理後流体はポンプ等の吸引力等を利用して回収される。本発明では、地下層処理用流体には、非イオン性水溶性高分子が含まれているため、微細繊維状セルロースを分解することで粘性が低下した処理後流体の粘性は低い状態のまま保持される。また、非イオン性水溶性高分子は、分解後の微細繊維状セルロースが再凝集することによって、ゲル状の凝集物となることも抑制している。このため、処理後流体の回収をスムーズに行うことができる。
【0110】
処理後流体を回収した後には、亀裂から天然資源が流出する。処理後流体を回収した後の坑井内には亀裂から流出した天然資源が存在するため、それを回収することで地下層処理の目的は達成される。
【0111】
(その他の態様)
本発明は、上述した地下層処理用組成物と、分解剤と、平均粒子径が0.1mm以上10mm以下の粒状物を有する地下層処理用キットであってもよい。このような地下層処理用キットにおいては、地下層処理用組成物と、分解剤と、粒状物は各々分別された状態で含まれており、必要時にこれらを混合して地下層処理に用いることができる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例5は、参考例5と読み替えるものとする。
【0113】
<製造例1>
乾燥質量100質量部の針葉樹クラフトパルプに、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウムが49質量部、尿素が130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0114】
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12以上13以下のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。
【0115】
得られた脱水シートに対し、先と同様にして、リン酸基を導入する工程、濾過脱水する工程を繰り返し、2回リン酸化セルロースの脱水シートを得た。得られた脱水シートをFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1230cm-1以上1290cm-1以下にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。従って、得られた脱水シート(2回リン酸化セルロース)は、セルロースのヒドロキシル基の一部が下記構造式(1)の官能基で置換されたものであった。
【0116】
【化2】
【0117】
式中、a,b,m及びnはそれぞれ独立に自然数を表す(ただし、a=b×mである。)。α1,α2,・・・,αnおよびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、およびこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0118】
得られた2回リン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロース1を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0119】
<製造例2>
リン酸化、洗浄工程を3回行った以外は、製造例1と同様にして、微細繊維状セルロース2を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0120】
<製造例3>
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプと、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル)1.25質量部と、臭化ナトリウム12.5質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が8.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上11以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0121】
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1730cm-1にカルボキシル基に基づく吸収が観察され、カルボキシル基の付加が確認された。この脱水シート(TEMPO酸化セルロース)を用いて、微細繊維状セルロースを調製した。
【0122】
得られたTEMPO酸化セルロースにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロース3を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0123】
<製造例4>
乾燥質量100質量部の乾燥針葉樹晒クラフトパルプと無水マレイン酸50質量部を混合した後、オートクレーブに充填し、150℃で2時間処理した。次いで、無水マレイン酸で処理されたパルプを500mLの水で3回洗浄した後、イオン交換水を添加して490mLのスラリーを調製した。 次いで、スラリーを攪拌しながら、4Nの水酸化ナトリウム水溶液10mLを少しずつ添加し、スラリーのpHを12以上13以下として、パルプをアルカリ処理した。その後、pHが8以下になるまで、アルカリ処理後のパルプを水で洗浄した。
【0124】
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1580cm-1以上1720cm-1以下にカルボキシル基に基づく吸収が観察され、マレイン酸の付加が確認された。この脱水シート(マレイン酸化セルロース)を用いて、微細繊維状セルロースを調製した。
【0125】
得られたマレイン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で245MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロース4を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。
【0126】
(置換基量の測定)
置換基量(置換基導入量)は、繊維原料へのリン酸基もしくはカルボキシル基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基もしくはカルボキシル基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で固形分濃度が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理及びアルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、固形分濃度が0.2質量%の繊維状セルロース含有スラリーに、体積で1/10量の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1(リン酸基)及び図2(カルボキシル基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。算出した結果は以下の表1に示した。
【0127】
【表1】
【0128】
なお、各微細繊維状セルロースの繊維幅は下記の方法で測定した。
繊維状セルロース含有スラリーの上澄み液を濃度0.01質量%以上0.1質量%以下に水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。微細繊維状セルロース1〜4は、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。
【0129】
<実施例1>
微細繊維状セルロース1の固形分濃度が0.2質量%、グアーガムの最終濃度が0.02質量%になるようにイオン交換水に添加した。ディスパーザーを用いて1500rpmで5分間攪拌し、分散液120gを作製した。
【0130】
<実施例2>
実施例1において、微細繊維状セルロース1の固形分濃度が0.3質量%、グアーガムの最終濃度が0.015質量%になるようにサンプルを調製した以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0131】
<実施例3>
実施例1において、微細繊維状セルロース1の代わりに微細繊維状セルロース2を用いた。それ以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0132】
<実施例4>
実施例2において、微細繊維状セルロース1の代わりに微細繊維状セルロース2を用いた。それ以外は全て実施例2と同様の方法で分散液120gを得た。
【0133】
<実施例5>
実施例1において、微細繊維状セルロース1の代わりに微細繊維状セルロース3を用いた。それ以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0134】
<実施例6>
実施例1において、微細繊維状セルロース1の代わりに微細繊維状セルロース4を用いた。それ以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0135】
<実施例7>
実施例1において、さらにキサンタンガムを0.2質量%になるように添加し、分散媒をイオン交換樹脂から2質量%の塩化カリウム水溶液に変更した以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0136】
<実施例8>
実施例1において、グアーガムの最終濃度が0.1質量%になるようにサンプルを調製した以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0137】
<実施例9>
実施例1において、微細繊維状セルロース1の濃度が0.35質量%、グアーガムの最終濃度が0.0175質量%になるようにサンプルを調製した以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0138】
<実施例10>
実施例1において、微細繊維状セルロース1の濃度が0.1質量%、グアーガムの最終濃度が0.3質量%になるようにサンプルを調製した以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0139】
<実施例11>
微細繊維状セルロース1の固形分濃度が0.4質量%、グアーガムの最終濃度が0.04質量%になるようにイオン交換水に添加した。このセルロース懸濁液60gにイソプロピルアルコール120gを加えて1000rpmで攪拌し、ろ過・圧縮によって1.2gまで濃縮した。これにより得られた濃縮物は、微細繊維状セルロースを20質量%含むものであった。この濃縮物をミキサーで粉砕して粉状とした。この粉状の粉砕物に、イオン交換水を添加し、全量を120gとし、ディスパーザーを用いて8000rpmで3分攪拌し、分散液120gを得た。
【0140】
<実施例12>
微細繊維状セルロース1の固形分濃度が0.4質量%、グアーガムの最終濃度が0.04質量%、キサンタンガムの最終濃度が0.4質量%になるようにイオン交換水に添加した。このセルロース懸濁液60gにイソプロピルアルコール120gを加えて1000rpmで攪拌し、ろ過・圧縮によって1.2gまで濃縮した。これにより得られた濃縮物は、微細繊維状セルロースを20質量%含むものであった。この濃縮物をミキサーで粉砕して粉状とした。この粉状の粉砕物に、2質量%の塩化カリウム水溶液を添加し、全量を120gとし、ディスパーザーを用いて8000rpmで3分攪拌し、分散液120gを得た。
【0141】
<比較例1>
実施例1において、グアーガムを添加しなかった以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0142】
<比較例2>
実施例2において、グアーガムを添加しなかった以外は全て実施例2と同様の方法で分散液120gを得た。
【0143】
<比較例3>
比較例1において、微細繊維状セルロース1の濃度が0.4質量%になるようにサンプルを調製した以外は全て比較例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0144】
<比較例4>
比較例1において、微細繊維状セルロース1の代わりに微細繊維状セルロース2を用いた以外は全て比較例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0145】
<比較例5>
比較例2において、微細繊維状セルロース1の代わりに微細繊維状セルロース2を用いた以外は全て比較例2と同様の方法で分散液120gを得た。
【0146】
<比較例6>
比較例3において、微細繊維状セルロース1の代わりに微細繊維状セルロース2を用いた以外は全て比較例3と同様の方法で分散液120gを得た。
【0147】
<比較例7>
実施例1において、グアーガムの代わりにキサンタンガムを用いた以外は全て実施例1と同様の方法で分散液120gを得た。
【0148】
<比較例8>
実施例2において、グアーガムの代わりにキサンタンガムを用いた以外は全て実施例2と同様の方法で分散液120gを得た。
【0149】
(評価)
実施例及び比較例で得られた分散液を60gずつ二つに分け、それぞれにプロパント6g(SINTEX社製、ボーキサイト20/40)を添加し、よく撹拌し分散液Aを得た。一方の分散液に、分解剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム0.036gを添加し、よく撹拌し分散液Bを得た。各評価については以下の通りに行った。
【0150】
<プロパント支持性の評価>
分散液Aを容器に入れた後1時間静置し、プロパント最上部が位置する高さと、分散液Aの高さの比でプロパント支持性を下記の評価基準で評価した。この値が大きいほどプロパント支持性が優れていると言える。
○:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.8以上
△:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.5以上0.8未満
×:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.5未満
【0151】
<耐熱性の評価>
分散液Aを透明な耐圧容器(アズワン製耐圧ボトル)に入れ、密閉して70℃の乾燥機に入れ、6時間加熱した。加熱後、15時間放冷した。その後、プロパント最上部が位置する高さと、分散液の高さの比で耐熱性を下記の評価基準で評価した。この値が大きいほど耐熱性が優れていると言える。
○:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.8以上
△:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.5以上0.8未満
×:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.5未満
【0152】
<分解性の評価>
分散液Bを透明な耐圧容器(アズワン製耐圧ボトル)に入れ、密閉して70℃の乾燥機に入れ、6時間加熱した。加熱後、15時間放冷した。その後、プロパントの最上部が位置する高さと、分散液の高さの比で分解性を下記の評価基準で評価した。この値が小さいほど分解性が優れていると言える。
○:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.4未満
△:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.4以上0.7未満
×:プロパント最上部が位置する高さ/分散液Aの高さの値が0.7以上
【0153】
<回収性の評価>
分解性の評価を行った後のサンプル中の、ゲル状の凝集物の有無を目視で確認し、下記の評価基準で評価した。
○:分解性Bの体積の100分の1未満がゲル状の凝集物になっている、もしくはゲル状の凝集物が全く確認されない
△:分解性Bの体積の100分の1以上10分の1未満がゲル状の凝集物になっている
×:分解性Bの体積の10分の1以上がゲル状の凝集物になっている
【0154】
<粘度の測定>
分散液A及び分解性の評価を行った後の分散液Bから、プロパント等の粗大固形物を除去した後、粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。具体的には、上記分散液を、355μmのメッシュを通過させた後に得られた濾液の粘度の測定を行った。分散液Aの粘度は分解前の粘度とし、分散液Bの粘度は分解後の粘度とした。なお、分散液Aの粘度は、プロパント支持性に関連する粘度であり、分散液Bの粘度は、分解性に関連する粘度である。
粘度の測定は、液温25℃においてロータ回転数3rpmで3分間回転させ測定した。なお、分散液Bにおいて回収性の評価が×の評価のものは分解後の粘度測定を行わなかった。
【0155】
【表2】
【0156】
実施例に示すように、微細繊維状セルロースと非イオン性水溶性高分子を含む地下層処理用組成物は、掘削流体に用いられる地下層処理用流体として不可欠な種々の特性を有していた。具体的には実施例で得られた地下層処理用流体は、プロパントを運搬するために必要であるプロパント支持性、高温条件下でもその特性を失わない耐熱性、かつ分解剤の添加によって流動する分解性、流体回収が再凝集したゲルによって妨げられない回収性の四つの特性を有していた。
実施例1〜4、6および8〜9は、微細繊維状リン酸化セルロースもしくは微細繊維状マレイン酸化セルロースとグアーガムの組合せであり、以上の四つの特性に特に優れていた。なお、実施例5は微細繊維状TEMPO酸化セルロースとグアーガムの組合せであり、概ね良好な特性を有しており、やや回収性が劣る傾向が見られたものの実用上問題のないレベルであった。実施例10は、非イオン性水溶性高分子の含有量が多いため、やや耐熱性に劣る傾向が見られたものの実用上問題のないレベルであった。また、実施例11及び12のように、地下層処理用組成物を濃縮した後に、流体と混合して地下層処理用流体としたものであっても、他の実施例と同様の特性が得られていた。
実施例7及び12は、キサンタンガムを添加したものであり、塩水中で分散させたにも関わらず、良好な結果を示しており、塩水中でも本発明が有効であることが示された。
比較例1〜6は、水溶性高分子を含まないものであり、微細繊維状セルロースが低濃度であればプロパント支持性が十分ではなく、微細繊維状セルロースが高濃度であれば分解後に再凝集し、回収性に劣っていた。
比較例7および8は、イオン性水溶性高分子のキサンタンガムを添加したものであるが、非イオン性水溶性高分子のグアーガムとは異なり、プロパント支持性に劣っていた。
図1
図2