(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼成工程において、前記リチウム化合物が、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩及びハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、前記ニッケル化合物中の全金属元素の合計量に対する前記リチウム化合物中のリチウム量がモル比で1.00〜1.10となるように前記ニッケル化合物と前記リチウム化合物とを混合する
ことを特徴とする請求項1〜6記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
下記一般式(2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、前記一次粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含むタングステンリチウム含有化合物を有し、一次粒子の表面に存在する前記タングステンリチウム含有化合物に含有されるリチウム量と該タングステンリチウム含有化合物以外のリチウム化合物に含有されるリチウム量の合計が前記正極活物質に対して0.08質量%を超え、0.40質量%以下であり、前記タングステンリチウム含有化合物以外のリチウム化合物に含有されるリチウム量が前記正極活物質に対して0.05質量%以上、0.30質量%以下である
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
一般式(2):LibNi1−x−yCoxMyO2
(式中、MはMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素、1.00≦b≦1.10、0<x≦0.2、0<y≦0.07、0<x+y≦0.2)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、まず本発明の正極活物質の製造方法について説明した後、本発明による正極活物質と該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池について説明する。
【0022】
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質という。)の製造方法を、
図1を参照しながら工程ごとに詳細に説明する。
本発明の正極活物質の製造方法は、以下に説明する(A)焼成工程と(B)タングステン添加工程と(C)熱処理工程を含むことを特徴とする。
【0023】
(A)焼成工程について
焼成工程は、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して得られたリチウムニッケル混合物を、酸化性雰囲気中において、650〜780℃の温度範囲で焼成して、下記一般式(1)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調製する工程である。
一般式(1)Li
aNi
1−x−yCo
xM
yO
2
(式中、MはMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素、1.00≦a≦1.10、0<x≦0.2、0<y≦0.07、0<x+y≦0.2)
【0024】
(ニッケル化合物)
焼成工程に用いられるニッケル化合物は、ニッケルおよびコバルトを含有し、かつ添加元素MとしてMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物である。ニッケル、コバルトおよび添加元素Mの組成比は、得られる正極活物質まで維持されるため、前記ニッケル化合物の該組成比を正極活物質の組成比に調整する。
【0025】
ニッケル化合物としては、下記a)〜e)のいずれかの化合物を用いることができる。
a)ニッケル複合水酸化物、
b)前記ニッケル複合水酸化物を酸化剤により酸化して得られるニッケルオキシ複合水酸化物、
c)前記ニッケルオキシ複合水酸化物を500〜750℃の温度で酸化焙焼して得られるニッケル複合酸化物、
d)前記ニッケル複合水酸化物を500〜750℃の温度で酸化焙焼して得られるニッケル複合酸化物、
e)前記ニッケル複合水酸化物及び前記ニッケルオキシ複合水酸化物の混合物を500〜750℃の温度で酸化焙焼して得られるニッケル複合酸化物
【0026】
上記のニッケル複合水酸化物やニッケルオキシ複合水酸化物を焙焼して得られるニッケル複合酸化物は、焼成工程における原料となるニッケル化合物として用いることも可能である。
このニッケル化合物として用いられるニッケル複合水酸化物は、とくに限定されない。例えば、共沈法、均一沈殿法などの晶析法で得られたニッケル複合水酸化物を使用することができる。
【0027】
上記a)〜e)のニッケル化合物は、粒子内の組織を均一化して高い結晶性を有するリチウムニッケル複合酸化物を得ることができるという利点がある。
以下、上記のa)〜e)のニッケル化合物の詳細を説明する。
【0028】
[a)ニッケル複合水酸化物]
晶析法では、種々の条件でニッケル複合水酸化物が得られ、その晶析条件はとくに限定されないが、以下の条件で得られたものが好ましい。
具体的には、40〜60℃に加温した反応槽中に、ニッケルおよびコバルトを含有し、かつ添加元素MとしてMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属化合物の水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、を滴下して、得られたニッケル複合水酸化物が好ましい。
とくに、反応溶液をアルカリ性、好ましくは液温25℃基準のpH値で10〜14に保持できるように、アルカリ金属水酸化物の水溶液を必要に応じて滴下して調製されたニッケル複合水酸化物が好ましい。
【0029】
なお添加元素Mは、ニッケルおよびコバルトとともに共沈殿させてもよいが、晶析によって水酸化物を得た後、添加元素Mを含む金属化合物で被覆するか、あるいは、その金属化合物を含む水溶液を含浸することによってニッケル複合水酸化物を得ることもできる。
【0030】
上記晶析法により得られたニッケル複合水酸化物は、高嵩密度の粉末となる。
さらに、このような高嵩密度の複合水酸化物は、焼成工程において、高嵩密度のリチウムニッケル複合酸化物粒子が得られるため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられるリチウムニッケル複合酸化物の原料として好適なニッケル複合水酸化物となる。
【0031】
反応溶液の温度が60℃を超えるか、またはpHが14を超えた状態でニッケル水酸化物を晶析すると、液中で核生成の優先度が高まり結晶成長が進まずに微細な粉末しか得られないことがある。一方、温度が40℃未満、またはpHが10未満の状態でニッケル複合水酸化物を晶析すれば、液中で核の発生が少なく、粒子の結晶成長が優先的となり、得られるニッケル複合水酸化物に、粗大粒子が混入することがある。また、反応液中の金属イオンの残存量が多くなり、組成ずれを生じることがある。
このような粗大粒子の混入や組成ずれを生じたニッケル複合水酸化物を原料として用いると、得られた正極活物質の電池特性が低下する。
したがって、焼成工程においてニッケル化合物として用いられるニッケル複合水酸化物を晶析法によって得る場合には、反応溶液が40〜60℃に維持され、かつ、反応溶液を液温25℃基準のpH値で10〜14に維持された状態で晶析することが好ましい。
【0032】
[b)ニッケルオキシ複合水酸化物]
焼成工程では、ニッケル化合物として、ニッケルオキシ複合水酸化物を用いることが可能である。ニッケルオキシ水酸化物を得る方法はとくに限定されないが、ニッケル複合水酸化物を、次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素水等の酸化剤により酸化して調製されたものが好ましい。この方法により得られたニッケルオキシ複合水酸化物は高嵩密度の粉末となる。
このような高嵩密度のニッケルオキシ複合水酸化物は、焼成工程において、高嵩密度のリチウムニッケル複合酸化物粒子が得られるため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられるリチウムニッケル複合酸化物の原料として好適なニッケルオキシ複合水酸化物となる。
【0033】
[c)、d)、e)のニッケル複合酸化物]
また、焼成工程では、ニッケル化合物として、ニッケル複合酸化物を使用することも可能である。
ニッケル複合酸化物を得る方法はとくに限定されないが、上記ニッケル複合水酸化物、または、ニッケルオキシ複合水酸化物を、酸化性雰囲気において、500〜750℃、より好ましくは550〜700℃の温度で酸化焙焼して得ることが好ましい。
このようにして得られたニッケル複合酸化物を用いると、リチウム化合物と混合した混合物を焼成してリチウムニッケル複合酸化物を得た際に、リチウムニッケル複合酸化物中のLiとLi以外の金属との組成比を安定させることが可能となる。すると、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として使用した際に高容量化及び高出力化が可能となるという利点が得られる。
【0034】
ここで、ニッケル複合水酸化物またはニッケルオキシ複合水酸化物を酸化焙焼する際において、酸化焙焼温度が500℃未満の場合、ニッケル複合水酸化物等の酸化物への転換が不完全となることがある。
酸化物への転換が不完全なニッケル複合酸化物を使用して得られるリチウムニッケル複合酸化物は、その組成を安定させることが難しく、焼成時に組成の不均一化が起こりやすい。
また、酸化焙焼後のニッケル複合酸化物中にニッケル複合水酸化物等が残留していると、焼成時に水蒸気が発生して、リチウム化合物とニッケル複合酸化物の反応が阻害され、結晶性が低下するという問題が生じることがある。
【0035】
一方、酸化焙焼温度が750℃を超えると、得られるニッケル複合酸化物の結晶性が高くなり、後工程の焼成におけるリチウム化合物とニッケル複合酸化物の反応性が低下するため、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶性が低下して、電池特性が低下する可能性がある。
また、ニッケル複合酸化物が急激に粒成長を起こし、粗大なニッケル複合酸化物粒子が形成されてしまい、リチウム化合物を混合して焼成して得られるリチウムニッケル複合酸化物の平均粒径が大きくなり過ぎる可能性がある。
【0036】
したがって、ニッケル複合水酸化物またはニッケルオキシ複合水酸化物を、酸化性雰囲気中において酸化焙焼してニッケル複合酸化物を得る場合には、好ましくは、500〜750℃、より好ましくは550〜700℃の温度で酸化焙焼する。
また、酸化焙焼温度での保持時間は、1〜10時間とすることが好ましく、2〜6時間とすることがより好ましい。1時間未満では酸化物への転換が不完全となることがあり、10時間を越えるとニッケル複合酸化物の結晶性が高くなり過ぎることがある。
【0037】
酸化焙焼の雰囲気は、酸化性雰囲気であればよいが、取扱い性やコストを考慮すると、大気雰囲気とすることが好ましい。
【0038】
ニッケル複合酸化物は、上記ニッケル複合水酸化物およびニッケルオキシ複合水酸化物の混合物を上記と同じ条件で酸化焙焼することでも得ることができる。
【0039】
(リチウム化合物)
ニッケル化合物と混合されるリチウム化合物は、とくに限定されないが、リチウムの水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩およびハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
このようなリチウム化合物を使用した場合には、焼成後に不純物が残留しないという利点が得られる。ニッケル化合物との反応性が良好なリチウムの水酸化物を用いることが、より好ましい。
【0040】
(ニッケル化合物とリチウム化合物の混合)
ニッケル化合物とリチウム化合物を混合する場合の混合比は、とくに限定されないが、焼成後のリチウムニッケル複合酸化物におけるリチウムとリチウム以外の金属元素の組成は、ニッケル化合物とリチウム化合物とを混合して得られたリチウム混合物中の組成がほぼ維持される。
したがって、ニッケル化合物中のニッケルとその他の金属元素の合計量に対して、リチウム化合物中のリチウム量がモル比で1.00〜1.10になるように調整することが好ましく、これにより高い結晶性を有するリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を得ることができる。
前記モル比が1.00未満では、得られる焼成粉末の結晶性が非常に悪くなることがある。一方、モル比が1.10を超えると、焼成が進みやすくなって過焼成となりやすい。
これに対し、モル比が1〜1.10であるとリチウムニッケル複合酸化物の化学量論比とほぼ同量で混合するので、焼成粉末の結晶性を良好に維持でき、また、焼成時の粒子同士の焼結の進行による粒子の粗大化を抑制することができる。
【0041】
ニッケル化合物とリチウム化合物を混合する装置や方法は、両者を均一に混合することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、Vブレンダー等の乾式混合機又は混合造粒装置等を使用することができる。
【0042】
[焼成]
ニッケル化合物とリチウム化合物を混合したリチウム混合物は、酸化性雰囲気中において650〜780℃の温度範囲、好ましくは700〜760℃の温度範囲で焼成される。
【0043】
500℃を超えるような温度で焼成すれば、リチウムニッケル複合酸化物が生成されるものの、650℃未満ではその結晶が未発達で構造的に不安定となる。このようなリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として使用すると、充放電による相転移などにより容易に正極活物質の結晶構造が破壊されてしまう。また、一次粒子の成長も不十分となり、比表面積や空隙率が大きくなり過ぎることがある。
【0044】
一方、780℃を超えるような温度で焼成すれば、カチオンミキシングが生じやすくなり、リチウムニッケル複合酸化物の結晶内の層状構造が崩れ、リチウムイオンの挿入、脱離が困難となる可能性がある。しかも、リチウムニッケル複合酸化物の結晶が分解してしまい、酸化ニッケルなどが生成されてしまう可能性がある。さらに、複合酸化物粒子が焼結を起こし、粗大な複合酸化物粒子が形成されてしまい、リチウムニッケル複合酸化物の平均粒径が大きくなり過ぎることがある。さらに、一次粒子が成長して、比表面積や空隙率が小さくなり過ぎることがある。
【0045】
したがって、リチウム混合物は、焼成温度が650〜780℃の温度範囲、好ましくは700〜760℃の温度範囲で焼成する。
【0046】
また、焼成温度での保持時間は、1〜6時間とすることが好ましく、2〜4時間とすることがより好ましい。保持時間が1時間未満では、結晶化が不十分になり、6時間を越えると焼成が進みすぎ、カチオンミキシングが生じる場合がある。
とくに、リチウム化合物中の結晶水などを取り除くことができ、さらに、リチウムニッケル複合酸化物の結晶成長が進む温度領域で均一に反応させるため、400〜600℃の温度で1〜5時間、続いて650〜780℃の温度で3時間以上の2段階で焼成することが特に好ましい。
【0047】
この焼成は、酸化性雰囲気であればリチウムニッケル複合酸化物の合成が可能であるが、18〜100容量%の酸素と不活性ガスの混合ガス雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度90容量%以上の混合ガス雰囲気とすることがより好ましい。また、除湿及び除炭酸処理された雰囲気とすることが好ましい。
酸素濃度18容量%以上、すなわち、大気雰囲気より酸素含有量が多い雰囲気で焼成すれば、リチウム化合物とニッケル化合物との反応性を上げることができる。
反応性をさらに上げて、結晶性に優れたリチウムニッケル複合酸化物を得るために、酸素濃度90容量%以上の混合ガス雰囲気とすることがより好ましく、酸素雰囲気(酸素濃度98%以上)とすることがさらに好ましい。
【0048】
リチウム混合物を焼成する装置や方法は特に限定されない。例えば、酸素雰囲気、除湿及び除炭酸処理を施した乾燥空気雰囲気等の酸素濃度18容量%以上のガス雰囲気に調整可能な電気炉、キルン、管状炉、プッシャー炉等の焼成炉を使用することができる。
【0049】
以上のようにして、前記一般式(1)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を調製する。
この焼成粉末から得られる正極活物質を電池の正極に用いた場合には、熱安定性等を維持でき、さらに、リチウムイオンの脱挿入が容易になることにより、高容量化や高出力化を実現することができる。
【0050】
リチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を得る方法として、晶析法により得られ、リチウム以外の金属元素を固溶または分散させたニッケル複合水酸化物もしくはニッケルオキシ複合水酸化物とリチウム化合物を原料としてこれらを混合し焼成した場合を説明した。
前記焼成粉末を得る方法は、特に限定されない。例えば、所望の金属元素を含有する水溶液を全て混合した液を噴霧熱分解処理する方法、およびボールミルなど機械粉砕により所望の金属元素の化合物を全て粉砕混合した後焼成する方法が挙げられる。しかし、比表面積が小さく熱安定性が良好な正極活物質を得るためには、上述した方法でリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を得ることが好ましい。
【0051】
(B)タングステン添加工程について
タングステン(W)添加工程は、前記焼成工程(A)で得られた焼成粉末にタングステン化合物粉末と水分を添加し、前記焼成粉末の一次粒子の表面においてタングステンとリチウムを分散させる工程である。
【0052】
(水分率)
タングステンおよびリチウムを分散させる際には、前記焼成粉末に対する水分率を1.5質量%以下に制御することが重要である。リチウムニッケル複合酸化物からなる前記焼成粉末は、水と混合されると、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面から容易にリチウムが溶出する。このリチウムの溶出は、タングステンやリチウムを含む低濃度水溶液、例えば0.05〜2mol/lのタングステンを含む水溶液に晒されても容易に生じるものであり、これにより一次粒子表面に変質層が形成される。このように、製造過程においてリチウム金属複合酸化物粉末が水や前記低濃度水溶液と混合されることにより、一次粒子表面の一部のLiが水溶液中に溶出して変質層を形成すると、電池容量や出力特性が悪化する原因となる。
【0053】
本発明においては、最小必要量の水により、前記変質層を形成させることなく、一次粒子の表面にタングステンとリチウムを分散させるようにしている。添加された水は、少量であるため前記変質層を形成させることはないものの、Liが溶出してアルカリ性となり、タングステン化合物粉末を溶解させ、リチウムとともに一次粒子の表面にタングステンを分散させる。すなわち、前記焼成粉末に対する水分率を1.5質量%以下に制御することで、前記焼成粉末を劣化させることなく、一次粒子の表面にタングステンとリチウムを分散させるものである。
【0054】
タングステンおよびリチウムを分散させる際に添加する水分は、タングステンとリチウムを分散させることができる最小必要量とすればよいが、リチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末に対して0.2質量%以上とすることが好ましい。0.2質量%以上とすることでタングステン化合物粉末の溶解を促進することができ、さらに分散させることができる。さらに、一次粒子表面に均一に分散させ、一次粒子表面からのリチウムの溶出によるリチウム金属複合酸化物の焼成粉末の劣化を抑制するためには、添加する水分を0.2〜1質量%とすることが好ましく、添加するタングステン化合物と比例した量を添加することがより好ましい。
【0055】
水分は、焼成粉末にタングステン化合物粉末を添加する前後のいずれで添加してもよく、同時に添加してもよい。また、予め、焼成粉末を水分の管理された環境下に置き、所定量吸湿させることで水分を添加することもできる。焼成粉末を高湿度雰囲気中に保持し、水を吸着させることにより前記水分を添加することで、吸水量を容易に正確かつ微量に制御でき、かつ水分率を焼成粉末中で均一にすることができる。
【0056】
(タングステン量)
焼成粉末に添加するタングステン化合物粉末の量は、タングステン化合物粉末に含有されるタングステン量が前記焼成粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜1.0原子%とする。これにより、後述するように一次粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含むタングステンリチウム含有化合物を形成させ、電池の正極に用いられた際に電解液との界面でリチウムの伝導パスを形成して、活物質の反応抵抗を低減し出力特性を向上させることが可能となる。タングステン量が多くなり過ぎると、タングステン化合物粉末が前記リチウムの伝導パス形成の妨げとなり、電池特性が低下する。特にLiを含有しないタングステン化合物粉末を添加した際に前記焼成粉末からLiが引き抜かれるため、Liが不足して電池特性の低下を招きやすい。
【0057】
添加するタングステン化合物粉末は、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸リチウムおよびこれらの水和物から選択される1種以上であることが好ましい。これらのタングステン化合物粉末は、適当量の水分を添加することにより、一次粒子表面に分散する。さらに、酸化タングステン、およびタングステン酸は、焼成粉末の一次粒子表面に存在するリチウム化合物と水を介して反応して溶解して、一次粒子表面に形成されるタングステンリチウム含有化合物以外のリチウム化合物に含有されるリチウムを減少させ、電池に用いられた際の特性をさらに向上させることから、より好ましく用いられる。
【0058】
(C)熱処理工程について
熱処理工程は、一次粒子の表面にタングステンとリチウムを分散させたリチウムニッケル複合酸化物の焼成粉末を熱処理することにより、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含むタングステンリチウム含有化合物を形成すると同時に余分の水分を除去する工程である。前記余分の水分には、タングステン添加工程において添加した水分以外にも、タングステン化合物粉末と焼成粉末の一次粒子表面に存在するリチウム化合物が反応し生成した水も含まれる。これにより、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に、タングステンリチウム含有化合物を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0059】
(熱処理方法)
その熱処理方法は特に限定されないが、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いたときの電池特性の劣化を防止するため、非還元性雰囲気中において100〜600℃の温度で熱処理することが好ましい。
熱処理温度が100℃未満では、水分の蒸発が十分ではなく、タングステンリチウム含有化合物が十分に形成されない場合がある。一方、熱処理温度が600℃を超えると、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子が焼結を起こすとともに一部のタングステンがリチウムニッケル複合酸化物の層状構造に固溶してしまうために、電池の充放電容量が低下することがある。
このような電池の充放電容量の低下を抑制するためには、熱処理温度を550℃以下とすることがより好ましく、500℃以下とすることがさらに好ましい。
【0060】
熱処理時の雰囲気は、リチウムニッケル複合酸化物が還元されて電池特性が低下することを防ぐため、非還元性雰囲気、好ましくは酸素雰囲気あるいは真空雰囲気とする。さらに、雰囲気中の水分や炭酸との反応を避けるため、湿及び除炭酸処理された酸素雰囲気あるいは真空雰囲気とすることが好ましい。
【0061】
熱処理時間は、特に限定されないが、タングステン添加工程で添加した水分を十分に蒸発させるために2〜15時間とすることが好ましい。
熱処理後に得られる正極活物質の水分率はとくに限定されないが、0.2質量%未満が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
正極活物質の水分率が0.2質量%以上になると、大気中の炭素、硫黄を含むガス成分を吸収して表面にリチウム化合物を生成し、電池特性が低下することがある。なお、上記水分率の測定値は、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定した場合の測定値である。
【0062】
熱処理後にリチウムニッケル複合酸化物に凝集が生じた際には、二次粒子の形骸が破壊されない程度に解砕してもよい。
【0063】
(2)非水系電解質二次電池用正極活物質
つぎに、本発明の正極活物質を説明する。
本発明の正極活物質は、下記一般式(2)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなる正極活物質であって、その一次粒子の表面にタングステンおよびリチウムを含むタングステンリチウム含有化合物を有することを特徴とするものである。
一般式(2):Li
bNi
1−x−yCo
xM
yO
2
(式中、MはMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素、1.00≦b≦1.10、0<x≦0.2、0<y≦0.07、0<x+y≦0.2)
ここで、リチウムニッケル複合酸化物は、一次粒子の表面に前記タングステンリチウム含有化合物を形成させる芯材であり、以下に記載する複合酸化物粒子は、表面に前記タングステンリチウム含有化合物を有する一次粒子と、その一次粒子が凝集して構成された二次粒子を合わせたものを意味する。
【0064】
[組成]
本発明の正極活物質は、六方晶系の層状化合物であるリチウムニッケル複合酸化物からなり、芯材であるリチウムニッケル複合酸化物の組成を示す上記一般式(1)において、ニッケル(Ni)の含有量を示す(1−x−y)が、0.80以上、1未満である。
本発明の正極活物質において、ニッケル含有量が多いほど、正極活物質として使用した場合に高容量化が可能となるが、ニッケルの含有量が多くなり過ぎると、熱安定性が十分得られなくなり、焼成時にカチオンミキシングが発生しやすくなる傾向にある。一方、ニッケルの含有量が少なくなると、容量が低下し、正極の充填性を高めても電池容積当たりの容量が十分に得られないなどの問題も生じる。
【0065】
したがって、本発明の正極活物質におけるリチウムニッケル複合酸化物のニッケル含有量は、0.80以上、1未満とし、0.84以上0.98以下とすることが好ましく、0.845以上0.950以下がより好ましく、0.85以上0.95以下がさらに好ましい。
【0066】
コバルト(Co)の含有量を示すxは、0<x≦0.2であり、好ましくは0.02≦x≦0.15、より好ましくは0.03≦x≦0.13である。
コバルト含有量が上記範囲であることにより、優れたサイクル特性、熱安定性が得られる。このコバルト含有量が増えることによって正極活物質のサイクル特性を改善することができるが、コバルト含有量が0.2を超えると、正極活物質の高容量化が困難となる。
【0067】
また、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素Mの含有量を示すyは、0<y≦0.07であり、好ましくは、0.01≦y≦0.05である。Mの含有量が上記範囲であることにより、優れたサイクル特性、熱安定性が得られる。
yが0.07を超えると、正極活物質の高容量化が困難となる。添加元素が添加されない場合、電池特性の改善する効果を得ることができない。電池特性の改善効果を十分に得るためには、yを0.01以上とすることが好ましい。
【0068】
リチウム(Li)の含有量を示すbは、1.00≦b≦1.10である。
bが1.00未満になると、層状化合物におけるリチウム層にNiなどの金属元素が混入してLiの挿抜性が低下するため、電池容量が低下するとともに出力特性が悪化する。また、前記タングステン添加工程において、水分を添加した際、特にLiを含有しないタングステン化合物粉末を添加した際に前記焼成粉末からLiが引き抜かれるため、bが1.00未満では層状化合物中のLiが不足して上述のような電池特性の低下を招きやすい。一方、bが1.10を超えると層状化合物におけるメタル層にLiが混入するため、電池容量が低下する。
【0069】
これに対し、bが1.00以上であると層状化合物のリチウム層におけるLiの挿抜性が低下しないので電池容量と出力特性を低下させることなく、またbが1.10以下であると層状化合物のメタル層にリチウムが混入しないので、電池容量を低下させることがない。
【0070】
したがって、本発明における正極活物質中のリチウムニッケル複合酸化物のリチウム含有量は、電池容量および出力特性を良好なものとするためには、1.01≦b≦1.07であり、1.02≦b≦1.05がより好ましい。
【0071】
さらに、本発明の正極活物質におけるリチウム量は下記二つの条件を満たすものとされる。
(1)一次粒子の表面に存在する前記タングステンリチウム含有化合物と該タングステンリチウム含有化合物以外のリチウム化合物に含有される合計のリチウム量が前記正極活物質に対して0.08質量%を超え、0.40質量%以下、であること
(2)前記タングステンリチウム含有化合物以外のリチウム化合物に含有されるリチウム量が前記正極活物質に対して0.05質量%以上、0.30質量%以下、であること
【0072】
前記タングステンリチウム含有化合物以外のリチウム化合物に含有されるリチウムは、リチウムニッケル複合酸化物の余剰リチウムを示すものである。
そして、前記タングステンリチウム含有化合物に含まれるリチウムとリチウムニッケル複合酸化物の余剰リチウムの合計を上記範囲とすることで、一次粒子表面に形成される前記タングステンリチウム含有化合物中のリチウム量を適正なものとし、前記タングステンリチウム含有化合物による効果を高めて高容量かつ高出力の正極活物質が得られる。
一方、前記余剰リチウムを上記範囲とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子中のLi量の不足を抑制して高容量かつ高出力の正極活物質が得られるとともに、熱安定性を良好なものとすることができる。
【0073】
[タングステンおよびリチウムを含むタングステンリチウム含有化合物]
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまう。
これに対して、本発明ではリチウムニッケル複合酸化物の一次粒子の表面にタングステン(W)およびリチウム(Li)を含むタングステンリチウム含有化合物を形成させているが、このタングステンリチウム含有化合物は、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、一次粒子の表面に、そのタングステンリチウム含有化合物を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、活物質の反応抵抗(以下、正極抵抗ということがある。)を低減して出力特性を向上させるものである。すなわち、正極抵抗が低減されることで、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量も向上するものである。
【0074】
ここで、複合酸化物粒子の表面を前記タングステンリチウム含有化合物で被覆した場合には、その被覆厚みが厚くなると、たとえ被覆物が高いリチウムイオン伝導性を持っていたとしても、電解液へのLiの移動が阻害され、それによって充放電容量の低下、反応抵抗の上昇を招きやすい。したがって、前記化合物で被覆した場合には、その被覆厚みを200nm以下とすることが好ましい。
一方、前記タングステンリチウム含有化合物を微粒子として形成させることで、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量の低下を抑制するとともに反応抵抗を低減させることができる。
【0075】
このような微粒子は、その粒子径が1〜200nmであることが好ましい。微粒子の粒子径を1〜200nmとすることで、微細すぎてリチウムイオン伝導性が低下することを抑制するとともに微粒子の不均一な形成による反応抵抗の低減効果の低下を抑制して、高い電池容量と出力特性を有する正極活物質とすることができる。
【0076】
本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
したがって、一次粒子表面に微粒子を形成させることで、リチウムイオンの移動をさらに促し、複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0077】
また、前記タングステンリチウム含有化合物の被覆や微粒子は完全に一次粒子の全表面において形成されている必要はなく、部分的な被覆や点在状態でもよく、このような状態においても、複合酸化物粒子の外面および内部の空隙に露出している一次粒子表面にタングステンリチウム含有化合物が形成されていれば、反応抵抗の低減効果が得られる。
【0078】
このような一次粒子の表面における前記タングステンリチウム含有化合物の性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡で観察することにより判断できる。本発明の正極活物質については、
図2に矢印で示すように、リチウムニッケル複合酸化物からなる一次粒子の表面にWおよびLiを含むタングステンリチウム含有化合物が形成されていることを確認している。
【0079】
一方、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子間で不均一にタングステンリチウム含有化合物が形成された場合は、粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定の複合酸化物粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。したがって、リチウムニッケル複合酸化の二次粒子間においても均一にタングステンリチウム含有化合物が形成されていることが好ましい。
【0080】
本発明における、このタングステンリチウム含有化合物は、WおよびLiを含むものであればよいが、WおよびLiがタングステン酸リチウムの形態となっていることが好ましく、Li
2WO
4、Li
4WO
5、Li
6WO
6、Li
2W
4O
13、Li
2W
2O
7、Li
6W
2O
9、Li
2W
2O
7、Li
2W
5O
16、Li
9W
19O
55、Li
3W
10O
30、Li
18W
5O
15またはこれらの水和物から選択される少なくとも1種の形態であることが好ましい。このタングステン酸リチウムが形成されることで、リチウムイオン伝導性がさらに高まり、反応抵抗の低減効果がより大きなものとなる。
【0081】
このタングステンリチウム含有化合物に含まれるタングステン量は、複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜1.0原子%とすることが好ましい。これにより、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
タングステン量が0.1原子%未満では、出力特性の改善効果が十分に得られない場合があり、タングステン量が1.0原子%を超えると、形成される上記タングステンリチウム含有化合物が多くなり過ぎて複合酸化物粒子と電解液のリチウム伝導が阻害され、充放電容量が低下することがある。
【0082】
また、タングステンリチウム含有化合物に含まれるリチウム量は、特に限定されるものではなく、タングステンリチウム含有化合物にリチウムが含まれればリチウムイオン伝導度の向上効果が得られるが、タングステン酸リチウムを形成させるのに十分な量とすることが好ましい。
【0083】
タングステン量を0.1〜1.0原子%とした場合、正極活物質、すなわち複合酸化物粒子は、下記一般式(3)で表わされることが好ましい。
一般式(3):Li
cNi
1−x−yCo
xM
yW
zO
2+α
(式中、MはMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Nb、ZrおよびMoから選ばれる少なくとも1種の元素、1.00≦c≦1.10、0<x≦0.2、0<y≦0.07、0<x+y≦0.20、0.001≦z≦0.01、0≦α≦0.2)
【0084】
リチウム(Li)の含有量を示すcは、1.00≦c≦1.10である。cが1.10を超えると、リチウムは一次粒子表面に形成されるタングステンリチウム含有化合物の生成に消費されても、リチウムニッケル複合酸化物中のリチウム含有量が多くなり過ぎ、層状化合物におけるメタル層にLiが混入することがある。
一方、cが1.00未満になると、リチウムがタングステンリチウム含有化合物の生成に消費される結果、リチウムニッケル複合酸化物中のリチウム含有量が不足し層状化合物におけるリチウム層にNiなどの金属元素が混入し易くなってしまうことがある。換言すれば、リチウムが1.10以下であると層状化合物のメタル層にLiが混入することなく、リチウムが1.00以上であると層状化合物のリチウム層にNiなどの金属元素が混入しにくくなって、電池容量および出力特性を向上させることができる。さらに、電池容量および出力特性を向上させるためには、1.03<b≦1.05がより好ましい。
【0085】
[平均粒径]
本発明の正極活物質は、これまでに示したリチウムニッケル複合酸化物粒子からなり、その複合酸化物粒子の平均粒径は3〜30μmであることが好ましい。
平均粒径が3μm未満になると、電池の正極活物質として用いた際の正極における充填性が低下して、体積当たりの電池容量が低下することがある。一方、平均粒径が30μmを超えると、正極活物質と電池の電解液との接触面積が減少して、電池容量や出力特性の低下が生じることがある。
【0086】
換言すれば、酸化物粒子の平均粒径が3μm以上であると正極における充填性が低下しないので体積当たりの電池容量が低下せず、また平均粒径が30μm以下であると正極活物質と電解液との接触面積が減少しないので、電池容量や出力特性をより良好なものにできる。
したがって、本発明の正極活物質は、電解液との接触による電池容量や出力特性を維持しつつ正極における充填性を高くするため、前記複合酸化物粒子の平均粒径を3〜30μmであることが好ましく、8〜20μmとすることがより好ましく、8〜17μmとすることがさらに好ましい。
【0087】
本発明の正極活物質は、一次粒子、および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなっている。このような粒子構造を採ることにより、上記電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには不完全な粒界でも生じることとなる。
【0088】
また、正極活物質のBET法測定による比表面積は、0.2〜1.2m
2/gの範囲であることが好ましく、0.3〜0.8m
2/gであることがより好ましい。
このような比表面積を有することにより、電解液との接触が適正な範囲となり、電池容量や出力特性をより高いものとすることができる。しかし、比表面積が0.3m
2/g未満になると、電解液との接触が少なくなり過ぎることがあり、1.2m
2/gを超えると、電解液との接触が多くなり過ぎて、熱安定性が低下することがある。
【0089】
(3)非水系電解質二次電池
つぎに、本発明の非水系電解質二次電池を説明する。
本発明の非水系電解質二次電池は、これまでに示したリチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質、とくに、上記製造方法により得られたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いて正極を作製し、この正極を使用して作製されたもので、高容量、高出力で安全性の高いものである。
【0090】
以下、本発明の非水系電解質二次電池の構造を詳細に説明する。
本発明の非水系電解質二次電池(以下、単に二次電池という)は、正極の材料に本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質という)を用いた以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質同等の構造を有している。
具体的には、本発明の二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有している。
【0091】
り具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間および、負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉することによって、本発明の二次電池は形成されている。
なお、本発明の二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、また、その外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0092】
(正極)
まず、本発明の二次電池の特徴である正極について説明する。
正極は、シート状の部材であり、本発明の正極活物質を含有する正極合剤を、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成することができるが、正極の作製方法はとくに限定されない。例えば、正極活物質粒子と結着剤とを含む正極合剤を、帯状の正極芯材(正極集電体)に担持させることによって正極を作製することも可能である。
なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。例えば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等が行われる。
【0093】
(正極合剤)
正極合剤は、粉末状になっている本発明の正極活物質と、導電材および結着剤とを混合して形成された正極剤に、溶剤を添加して混練して形成することができる。
以下、正極活物質以外の正極合剤を構成する材料について説明する。
【0094】
[結着剤]
正極合剤の結着剤としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよいが、熱可塑性樹脂が好ましい。
使用する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。
上記樹脂は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは、Na+イオンなどによる架橋体であってもよい。
【0095】
[導電材]
正極合剤の導電材としては、電池内で化学的に安定な電子伝導性材料であればよく、とくに限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、アルミニウム等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料、フッ化カーボン等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、正極合剤に導電材を添加する量は、とくに限定されないが、正極合剤に含まれる正極活物質粒子に対して、0.5〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。
【0096】
[溶剤]
溶剤は、結着剤を溶解して、正極活物質や導電材等を結着剤中に分散させるものである。この溶剤はとくに限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を使用することができる。
【0097】
[正極芯材]
正極芯材(正極集電体)としては、電池内で化学的に安定な電子伝導体であればよく、とくに限定されない。例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、炭素、導電性樹脂等からなる箔又はシートを用いることができ、この中でアルミニウム箔、アルミニウム合金箔等がより好ましい。
ここで、箔又はシートの表面には、カーボン又はチタンの層を付与したり、酸化物層を形成したりすることもできる。また、箔またはシートの表面に凹凸を付与することもでき、ネット、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群成形体等を用いることもできる。
正極芯材の厚みも、とくに限定されないが、例えば、1〜500μmが好ましい。
【0098】
[正極以外の構成要素]
次に、本発明の非水系電解質二次電池の構成要素のうち、正極以外の構成要素について説明する。
なお、本発明の非水系電解質二次電池は、上記正極活物質を用いる点に特徴を有するものであり、その他の構成要素は、その用途および要求される性能に応じて適宜選択することができ、後述するものに限定されない。
【0099】
[負極]
負極としては、リチウムを充放電することができるであればよく、特に限定されない。
例えば、負極活物質と結着剤を含み、任意成分として導電材や増粘剤を含む負極合剤を負極芯材に担持させたものを使用することができる。このような負極は、正極と同様の方法で作製することができる。
負極活物質としては、リチウムを電気化学的に充放電し得る材料であればよい。例えば、黒鉛類、難黒鉛化性炭素材料、リチウム合金等を用いることができる。
このリチウム合金はとくに限定されないが、ケイ素、スズ、アルミニウム、亜鉛およびマグネシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む合金が好ましい。
また、負極活物質の平均粒径はとくに限定されず、例えば、1〜30μmが好ましい。
【0100】
[結着剤]
負極合剤の結着剤としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれを用いてもよいが、熱可塑性樹脂が好ましい。
その熱可塑性樹脂には、とくに限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。
これらは単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらは、Na+イオンなどによる架橋体であってもよい。
【0101】
[導電材]
負極合剤の導電材としては、電池内で化学的に安定な電子伝導性材料であればよく、とくに限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等の黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
この導電材の添加量は、とくに限定されないが、負極合剤に含まれる負極活物質粒子に対して、1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0102】
[負極芯材]
負極芯材(負極集電体)としては、電池内で化学的に安定な電子伝導体であればよく、とくに限定されない。例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、炭素、導電性樹脂等からなる箔またはシートを用いることができ、銅および銅合金が好ましい。
この箔またはシートの表面には、カーボン、チタン、ニッケル等の層を付与したり、酸化物層を形成したりすることもできる。また、箔またはシートの表面に凹凸を付与することもでき、ネット、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群成形体等を使用することもできる。
負極芯材の厚みも、とくに限定されないが、例えば、1〜500μmが好ましい。
【0103】
[非水系電解液]
非水系電解液としては、リチウム塩を溶解した非水溶媒が好ましい。
使用する非水溶媒は、とくに限定されないが、エチレンカーボネ−ト(EC)、プロピレンカーボネ−ト(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
とくに、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒、または環状カーボネートと鎖状カーボネートと脂肪族カルボン酸エステルとの混合溶媒を使用することが好ましい。
【0104】
[リチウム塩]
非水系電解液に溶解するリチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミド塩等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、少なくともLiPF6を用いることが好ましい。
また、非水溶媒中のリチウム塩濃度はとくに限定されないが、0.2〜2mol/Lが好ましく、0.5〜1.5mol/Lがより好ましい。
【0105】
[他の添加剤]
非水系電解液には、電池の充放電特性を改良する目的で、リチウム塩以外にも種々の添加剤を添加してもよい。
その添加剤はとくに限定されないが、例えば、トリエチルフォスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n−グライム、ピリジン、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、クラウンエーテル類、第四級アンモニウム塩、エチレングリコールジアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0106】
[セパレータ]
正極と負極との間には、微細なセパレータが介在されている。
このセパレータはとくに限定されないが、大きなイオン透過度と所定の機械的強度を持ち、かつ絶縁性である微多孔性薄膜が好ましい。とくに、微多孔性薄膜は、一定温度以上で孔を閉塞し、抵抗を上昇させる機能を持つものが好ましい。
微多孔性薄膜の材質もとくに限定されないが、例えば、耐有機溶剤性に優れ、疎水性を有するポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンを使用することができる。また、ガラス繊維等から作製されたシート、不織布、織布等も使用することができる。
セパレータが微多孔性薄膜の場合、セパレータに形成されている孔の孔径はとくに限定されないが、例えば、0.01〜1μmが好ましい。セパレータの空孔率もとくに限定されないが、一般的には30〜80%が好ましい。また、セパレータの厚みもとくに限定されないが、一般的には10〜300μmが好ましい。
さらに、セパレータは、正極および負極と別体のものを使用してもよいが、非水系電解液およびこれを保持するポリマー材料からなるポリマー電解質を正極または負極と一体化させてセパレータとして使用することもできる。
このポリマー材料としては、非水系電解液を保持することができるものであれば良く、とくに限定されないが、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体が好ましい。
【実施例】
【0107】
以下に、本発明の実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0108】
[電池性能評価用二次電池の作製方法]
本発明のリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として採用した非水系電解質二次電池の電池性能の評価には、
図3に示す2032型コイン型電池(以下、コイン型電池1という)を使用した。
図3に示すように、コイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極3は、正極(評価用電極)3a、セパレータ3cおよび負極(リチウム金属負極)3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0109】
上記のコイン型電池1は、下記の製造方法により作製した。
まず、正極活物質粉末90質量部にアセチレンブラック5質量部及びポリ沸化ビニリデン5質量部を混合し、n−メチルピロリドンを加えてペースト化した。
この作製したペーストを、厚み20μmのアルミニウム箔に塗布した。なお、ペーストは、乾燥後の正極活物質の単位面積当たりの質量が0.05g/cm2となるように塗布した。
その後、ペーストが塗布されたアルミニウム箔について120℃で真空乾燥を行い、その後、直径1cmの円板状に打ち抜いて正極3aとした。
この正極3aと、負極3bと、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、上記コイン型電池1を、露点が−80℃に管理したAr雰囲気下にあるグローブボックス内で作製した。
なお、負極3bには、直径15mmの円板状に打ち抜かれたリチウム金属を用いた。
セパレータ3cには、膜厚20μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
電解液には1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(宇部興産社製)を用いた。
【0110】
作製したコイン型電池を用いて、電池特性を評価した。
電池特性は、初期放電容量および正極反応抵抗を測定した。
初期放電容量は、以下の方法で測定した。
まず、コイン型電池1を作製してから24時間程度放置する。
開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2とし、カットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電させる。そして、カットオフ電圧3.0Vまで放電させたときの容量を初期放電容量とした。
【0111】
次に、正極反応抵抗は、以下の方法で算出した。
まず、各実施例のコイン型電池を、充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン社製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により電気抵抗を測定する。測定した機構と周波数の関係をグラフにすると、
図4に示すナイキストプロットが得られる。
このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づく等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極反応抵抗の値を算出した。
【0112】
(実施例1)
まず、反応槽内の温度を50℃に設定し、20質量%水酸化ナトリウム溶液により反応槽内の反応溶液を液温25℃基準でpH13.0に保持しながら、反応溶液に硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液、アルミン酸ナトリウム水溶液、25質量%アンモニア水を添加し、オーバーフローにより回収した。さらに液温25℃基準のpHが12.5の45g/L水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、水洗し、乾燥させてニッケル複合水酸化物を得た(中和晶析法)。
【0113】
このニッケル複合水酸化物は、1μm以下の一次粒子が複数集合して球状となった二次粒子から成り、ICP法により分析したところ、Ni:Co:Alのモル比が82:15:3のニッケル複合水酸化物であることを確認した。
このニッケル複合水酸化物のレーザー回折散乱法測定による体積基準の平均粒径MVは13μmであった。
【0114】
次に、このニッケル複合水酸化物を、大気雰囲気下で、600℃の温度で酸化焙焼してニッケル複合酸化物とした後、モル比でNi:Co:Al:Li=0.82:0.15:0.03:1.025となるように、ニッケル複合酸化物と水酸化リチウム−水和物を秤量し混合して、リチウム混合物を得た。
得られたリチウム混合物は、電気炉を用いて酸素雰囲気下において、500℃の温度で3時間仮焼した後、745℃で3時間保持し、昇温開始から保持終了までを20時間として焼成した。その後、室温まで炉内で冷却し、解砕処理を行い、タングステン化合物粉末を添加する焼成粉末(以下、母材と称す)を得た。母材をICP法による分析を行ったところ、Ni:Co:Al:Liのモル比が0.82:0.15:0.03:1.024であることを確認した。また、母材の水分率は、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定したところ、0.03質量%であった。
【0115】
母材を30g秤量して容器に入れ、撹拌しながら0.15gのイオン交換水を10回に分けて添加し、さらに撹拌を続けながら酸化タングステン粉末を0.3g投入し、添加したイオン交換水に溶出したLiと酸化タングステン粉末を反応させて溶解し、母材の一次粒子表面にWおよびLiを分散させた。
得られたWおよびLiを分散させた母材を190℃に加温した真空乾燥機を用いて5時間、静置乾燥し、母材の一次粒子表面にタングステンリチウム含有化合物を析出させた。その後、目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にWおよびLiを含むタングステンリチウム含有化合物を有する
図2に示す正極活物質を得た。
得られた正極活物質の組成をICP法により分析したところ、Ni:Co:Al:Liのモル比は0.82:0.15:0.03:1.024、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.42原子%の組成であることを確認した。また、正極活物質の水分率は、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定したところ、0.05質量%であった。
【0116】
[電池評価]
得られた正極活物質の電池特性を評価した。なお、正極抵抗は比較例1を1.00とした相対値を評価値とした。
以下、実施例2〜7および比較例1〜4については、上記実施例1と変更した物質、条件のみを示す。また、実施例1〜7および比較例1〜4の放電容量および正極抵抗の評価値を表1に示す。
【0117】
(実施例2)
水分を添加する代わりに母材を相対湿度70%の恒湿槽内に保管して0.16gの水分を吸湿させた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(実施例3)
添加する酸化タングステン粉末量を0.1gとした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(実施例4)
添加する酸化タングステン粉末量を0.2gとした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(実施例5)
添加する酸化タングステン粉末量を0.6gとし、添加水分量を0.25gとした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(実施例6)
ニッケル複合水酸化物として、Ni:Co:Alのモル比が88:9:3となるように晶析したこと、焼成温度を745℃から730℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(実施例7)
ニッケル複合水酸化物として、Ni:Co:Mnのモル比が82:15:3となるように晶析したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
【0118】
(比較例1)
タングステン化合物と水分を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(比較例2)
水分を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(比較例3)
添加する酸化タングステン粉末量を0.05gとした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
(比較例4)
添加する酸化タングステン粉末量を1.0gとし添加水量を1gとした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【0119】
[評価]
表1から明らかなように、実施例1〜7の正極活物質は、本発明に従って製造されたため、基準となる比較例1に比べて正極抵抗が低いものとなっており、高容量かつ高出力な非水系電解質二次電池用正極活物質となっている。また、本発明範囲から外れる比較例2〜3では、正極抵抗が基準と同等であり、高出力化が期待できない。