特許第6569548号(P6569548)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6569548リチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569548
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20190826BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20190826BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/139
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-15879(P2016-15879)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-135062(P2017-135062A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青谷 優
(72)【発明者】
【氏名】尾内 良行
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−101615(JP,A)
【文献】 特開2013−37955(JP,A)
【文献】 特開2014−194001(JP,A)
【文献】 特開2013−89346(JP,A)
【文献】 特開2014−194927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、N−メチル−2−ピロリドン、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液の製造方法であって、カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10〜30質量部、分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1〜6質量部、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが、カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下、かつ、x=a/Mw(ただし、aは、11×105≦a≦22×106の範囲内である数、Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)であって、分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1〜3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる電池用カーボンブラック分散液の製造方法。
【請求項2】
33×105≦a≦11×106である請求項1に記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。
【請求項3】
分散剤が酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、変性ポリビニルアルコール、変性ポリビニルブチラールおよび変性ポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくともひとつである請求項1または2に記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。
【請求項4】
動的光散乱法により測定した分散液のD50値が300〜800nmである請求項1〜3いずれかに記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。
【請求項5】
カーボンブラックの比表面積が5〜300m2/gである請求項1〜4いずれかに記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造されたカーボンブラック分散液に、正極または負極活物質と、さらにポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび/またはN−メチル−2−ピロリドンと、を加えて混合する電池用スラリーの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により製造された電池用スラリーを用いた電極の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により製造された電極を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末や電気自動車、ハイブリッド自動車の高性能化と普及に伴い、これらの電源として好ましく用いられるリチウムイオン二次電池も益々出力や量産性、さらには安全性の向上が求められるようになっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極および負極は、電気を蓄える役割を果たす活物質と、導電性を付与する導電材、これらを結着させるバインダー、および分散媒から成るスラリー状の混合物を塗工、乾燥させて得られる。導電材としては、工業的に量産しやすく安価なカーボンブラックが主として用いられる他、カーボンナノチューブやカーボンファイバー、黒鉛、グラフェン等の導電性炭素材料が広く使用されている。バインダーとしては、電池セル内の電気的、熱的に過酷な環境下に対しても耐性が高いポリフッ化ビニリデン系ポリマーが主として用いられ、分散媒にはこの良溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンが用いられる。
【0004】
電池の出力は電池セル内における電子抵抗、リチウムイオンの拡散抵抗、リチウムイオンと活物質の反応抵抗をそれぞれ低減させることで向上し、これらの低減にはカーボンブラックの分散状態を適切にコントロールすることが効果的である。
【0005】
カーボンブラックは微細な粒子であるため凝集力が強いが、凝集が多い状態では効率的なネットワーク状の導電パスを形成することができないため電子抵抗が増大してしまう。しかし、凝集を解そうとして強力な外力をかけると、アグリゲートと言われる最小単位構造が破壊されて、かえって導電パスを途切れさせてしまう。
【0006】
アグリゲートは球状の粒子が数珠つなぎになった嵩高い形状をしており、適度に分散させると粒子間に空間を形成し、これがリチウムイオンの良好な拡散経路となって拡散抵抗を低減させる。さらに活物質に接触しながらも表面近傍に適度な空間が形成されるため、リチウムとの反応抵抗も低減される。逆に、アグリゲートが破壊されるほど過分散にしてしまうとカーボンブラックが密に充填され空間を塞ぐため、これらの抵抗が増大する。
【0007】
このようなカーボンブラックの分散状態をコントロールする方法として、予めカーボンブラックの分散液を製造して用いる方法が種々提案されている。
【0008】
特許文献1では、メディア型分散機を用いてせん断速度100〜1000/sに粘度の極小値を有するようにカーボンブラックの分散状態を制御することで、リチウムイオン二次電池の性能を向上させている。しかしながら、特許文献2でも述べられている通り、メディア型分散機を用いると、カーボンブラックと分散メディアとが激しく衝突して過分散になりベストな抵抗は得られない。
【0009】
適度に分散した高濃度のカーボンブラック分散液は、あるせん断速度で粘度の極小値を有するダイラタント流体として振る舞う。極小値のせん断速度は粒径が小さい程、すなわち分散度が高いほど大きくなる。
【0010】
また、リチウムイオン二次電池は内部に可燃性液体である電解液を使用しているため、過去に発火事故が複数報告されていることからもわかるように、本質的に火災のリスクを有している。火災が発生する原因の一つに、電池内に存在する金属微粒子の近傍で過充電が起こり、発熱して熱暴走に至る場合がある。特に自動車では命に係わる重大な事故となり得るため、リチウムイオン二次電池が身近になればなるほど、厳重に金属微粒子の混入を防ぐ、または排除する必要性が増していく。
【0011】
カーボンブラックには製造工程や原料に由来する金属微粒子が元々含まれているが、粉末から除去するよりも分散液の状態でろ過する方が精度良く効率的に除去でき、また、分散工程でも混入の可能性があるため、カーボンブラックの分散工程に続いてろ過工程を行うのが安全上、およびコスト上最も良い。
【0012】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載のようなカーボンブラック分散液はダイラタント流体であるため、ろ過工程で圧力がかかった際に高いせん断力がかかり、フィルター上で固体のように振る舞って詰まりが発生するという問題があった。カーボンブラック濃度が10質量部未満の場合はダイラタントにならず、ろ過詰まりは起こらないが、電極用スラリー組成物の濃度が低くなってしまい、分散媒の原料費や塗工乾燥にかかるコストが嵩むという別の問題が生じてしまう。
【0013】
さらに、前述のカーボンブラック分散液は粘性を付与するような樹脂成分を含まないため、貯蔵安定性が不十分であり、3か月程度保管するとカーボンブラックが凝集したり、ケーキ状の沈降が発生するという問題があった。
【0014】
一方、特許文献3のようにバインダーを多く含む場合は、バインダー自体の粘性の影響を受けてダイラタント流体にはならないため、ろ過詰まりや貯蔵安定性に問題はない。しかし、デバイスやリチウムイオン二次電池の設計によって種々異なるカーボンブラック種、バインダー種、これらの混合比に対応する多数の製品をそれぞれ製造、保管する必要が生じるため、ハンドリングが悪くコストが高くなるという問題があった。
【0015】
ところで、特許文献4では、炭素ベースの導電性充填材に対し質量比が0.04〜0.4のバインダーと混練し固形状のマスターバッチを経由して、希釈することで電池用スラリーを製造する方法が記述されている。しかし、固形状物質の混練工程は装置の摩耗が激しく、装置由来の金属微粒子の混入量が増えてしまう。また、希釈してからろ過をするとしても、工数が増えることによる混入リスクが高くなる。さらには、溶解、希釈工程に必要な製造コストと設備投資コストが増えるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2014/042266号
【特許文献2】特開2013−084397号公報
【特許文献3】特開2012−169059号公報
【特許文献4】特表2015−504577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上の背景から、本発明では、量産性、貯蔵安定性を有しながら出力に優れるリチウムイオン二次電池用カーボンブラック分散液を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10〜30質量部、分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1〜6質量部、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量がカーボンブラック100質量部に対して20質量部以下、かつ、x=a/Mw(ただし、aは、11×105≦a≦22×106の範囲内である数、Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)であって、分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1〜3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させることで、適度な分散度に制御しつつ、ダイラタントであってもポリフッ化ビニリデン系ポリマーがろ過材に対して潤滑剤として作用するためろ過詰まりを発生させず、さらに、xが20以下であれば種々のデバイスやリチウムイオン二次電池に適応可能であることを見出した。
【0019】
即ち、本発明は、カーボンブラック、N−メチル−2−ピロリドン、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび分散剤を含んでなる電池用カーボンブラック分散液の製造方法であって、カーボンブラックの含有量が分散液100質量部に対して10〜30質量部、分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対して1〜6質量部、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーの含有量xが、カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下、かつ、x=a/Mw(ただし、aは、11×105≦a≦22×106の範囲内である数、Mwはポリフッ化ビニリデン系ポリマーの重量平均分子量)であって、分散液の粘度がせん断速度1/s以上100/s未満の範囲内で0.1〜3Pa・sの粘度の極小値を示すようにせん断型分散機を用いて分散させる電池用カーボンブラック分散液の製造方法に関する。
【0020】
また、本発明は、33×105≦a≦11×106である前記電池用カーボンブラック分散液の製造方法に関する。
【0021】
また、本発明は、分散剤が酸性官能基を有する有機色素誘導体、酸性官能基を有するトリアジン誘導体、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、変性ポリビニルアルコール、変性ポリビニルブチラールおよび変性ポリビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくともひとつである前記電池用カーボンブラック分散液の製造方法に関する。
【0022】
また、本発明は、動的光散乱法により測定した分散液のD50値が300〜800nmである前記電池用カーボンブラック分散液の製造方法に関する。
【0023】
また、本発明は、カーボンブラックの比表面積が5〜300m2/gである請求項1〜4いずれかに記載の電池用カーボンブラック分散液の製造方法に関する。
【0024】
また、本発明は、前記方法により製造されたカーボンブラック分散液に、正極または負極活物質と、さらにポリフッ化ビニリデン系ポリマーおよび/またはN−メチル−2−ピロリドンと、を加えて混合する電池用スラリーの製造方法に関する。
【0025】
また、本発明は、前記方法により製造された電池用スラリーを用いた電極の製造方法に関する。
【0026】
また、本発明は、前記方法により製造された電極を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、出力、量産性、貯蔵安定性、ろ過性を向上させたリチウムイオン二次電池用カーボン分散液の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の詳細を説明する。尚、本明細書では、「ポリフッ化ビニリデン系ポリマー」をPVdF、「N−メチル−2−ピロリドン」を「NMP」、カーボンブラックを「CB」、「ポリビニルアルコール」をPVA、「ポリビニルブチラール」をPVB、「ポリビニルピロリドン」をPVP、「PVA、PVB、PVPと(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルと共重合させたもの、または変性させたもの」を変性PVA、変性PVB、変性PVPと略記することがある。また、カーボンブラック分散液を単に「分散液」と略記することがある。
【0029】
<カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバー、黒鉛や薄片状黒鉛、グラフェンなども使用できる。
【0030】
カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることによって、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基のような酸素含有極性官能基をカーボンブラック表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。
【0031】
分散液の製造に用いるカーボンブラックの平均一次粒子径としては、一般的な分散液や塗料に用いられるカーボンブラックの平均一次粒子径範囲と同様に0.01〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましく、0.01〜0.1μmがさらに好ましい。ここでいう平均一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された算術平均粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。
【0032】
カーボンブラックの物理的特性を表すその他の物性値としては、BET比表面積やpHが知られている。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積(以下、単に比表面積と記載)を指し、この比表面積はカーボンブラックの表面積に対応しており、比表面積が大きいほど分散剤を必要とする量も多くなる。pHはカーボンブラック表面の官能基や含有不純物の影響を受けて変化する。
【0033】
本発明で用いるカーボンブラックは、BET比表面積が5〜300m2/gのものが好ましく、30〜80m2/gのものが特に好ましい。
【0034】
本発明で用いるカーボンブラックは、特に限定されるものではないが、アセチレンブラックやファーネスブラックなど、高い導電性を有し、かつ工業的に生産されるカーボンブラックが好適に用いられる。
【0035】
<ポリフッ化ビニリデン系ポリマー>
本発明で用いるポリフッ化ビニリデン系ポリマーPVdFは、重量平均分子量が大きい方が潤滑剤としての効果が高いため添加量を少なくでき、設計の自由度が上がる。また、重量平均分子量が小さくなると、バインダーの耐性や密着性が低下することがあり、分子量が大きくなると耐性や密着性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働く場合がある。したがって、重量平均分子量が200,000〜1,500,000が好ましく、500,000〜1,200,000がより好ましい。
【0036】
PVdFは、高電位にさらされる電池内の過酷な環境下でも優れた耐性を有するが、接着性の弱い樹脂であるために、塗膜にした際の基材に対する密着性を高めるために酸性官能基を有する共重合体を用いることもある。本発明では、PVdFはホモポリマーであっても、酸性官能基を有する共重合体であってもよい。
【0037】
<N−メチル−2−ピロリドン>
NMPは、PVdFの好適な良溶媒であることから、リチウムイオン二次電池の電極製造に用いられている。本発明では、他の溶剤を1種類以上併用しても良いが、電極製造時に発生したNMP蒸気を回収して再利用することが環境上、コスト上好ましく、再生時に分留が難しくなることから、NMPを単独で用いることが好ましい。
【0038】
<分散剤>
本発明に用いる分散剤としては、カーボンブラックと活物質の一方または両方の分散性を向上させるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、特許4240157号公報に記載の酸性官能基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体、特許4420123号公報に記載の塩基性官能基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体、特許5454725号公報に記載のPVA、特許4235788号公報に記載のPVP、特開2011−184664に記載のPVBを用いることができる。
【0039】
分散剤の具体例として、表1に示す分散剤A:酸性官能基を有する有機色素誘導体、分散剤B、C:酸性官能基を有するトリアジン誘導体、分散剤D:塩基性官能基を有する有機色素誘導体、分散剤E:塩基性官能基を有するトリアジン誘導体や、樹脂型分散剤として、分散剤F:ゴーセノールKL−03(PVA、日本合成化学社製、けん化度78.5〜82.0mol%、平均重合度500以下)、分散剤G:KL−506(変性PVA、クラレ社製、けん化度74.0〜80.0mol%、平均重合度約600)、分散剤H:PVP K30(日本触媒社製、分子量約4万)、分散剤I:エスレックBL−1(PVB、積水化学社製、分子量約1.9万)が挙げられる。
【0040】
【表1】
【0041】
上記分散剤の中でも、とりわけ下記一般式(1)で示されるトリアジン誘導体の使用が好ましい。
【0042】
一般式(1)
【化1】

1は−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−または−X3−Y−X4−を表し、X2及びX4はそれぞれ独立に−NH−または−O−を表し、X3は−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表し、
Yは炭素数1〜20で構成された、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基または置換基を有してもよいアリーレン基を表し、
Zは−SO3Mまたは−COOM、または−P(O)(−OM)2を表し、Mは1〜3価のカチオンの一当量を表し、
1は有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基または下記一般式(2)で表される基を表し、
Qは−O−R2、−NH−R2、ハロゲン基、−X1−R1または−X2−Y−Zを表し、R2は水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアルケニル基を表す。
【0043】
一般式(2)
【化2】
5は−NH−または−O−を表し、X6及びX7はそれぞれ独立に−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−または−CH2NHCOCH2NH−を表し、
3及びR4はそれぞれ独立に、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基または−Y−Zを表し、Y及びZは一般式(1)と同じ意味を表す。
【0044】
一般式(1)の式中Mは、1〜3価のカチオンの一当量を表し、例えば、水素原子(プロトン)、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかを表す。また、分散剤構造中にMを2つ以上有する場合、Mはプロトン、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかひとつのみでも良いし、これらの組み合わせでも良い。金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、ニッケル、コバルト等が挙げられる。
【0045】
4級アンモニウムカチオンとしては、一般式(3)で示される構造を有する単一化合物
または、混合物である。
【0046】
一般式(3)
【化3】
5、R6、R7、R8は、水素、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、または置換基を有してもよいアリール基のいずれかを表す。
【0047】
一般式(3)のR5、R6、R7、R8は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。また、R5、R6、R7、R8が炭素原子を有する場合、炭素数は1〜40、好ましくは1〜30、更に好ましくは1〜20である。炭素数が40を超えると電極の導電性が低下する場合がある。
【0048】
4級アンモニウムの具体例としては、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ヒドロキシエチルアンモニウム、ジヒドロキシエチルアンモニウム、2−エチルヘキシルアンモニウム、ジメチルアミノプロピルアンモニウム、オクチルアンモニウム、ラウリルアンモニウム、ステアリルアンモニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
また、樹脂型分散剤の中では、PVAまたは変性PVAの使用が特に好ましい。PVAおよび変性PVAは、溶媒やカーボンブラックとの親和性の観点から、けん化度が50〜95mol%、平均重合度は2000以下が好ましく、けん化度が70〜85mol%、平均重合度は1000以下がより好ましい。変性PVAには4級アンモニウム塩を有するカチオン変性PVA、スルホン酸基やスルホン酸金属塩、カルボキシル基、カルボン酸金属塩を有するアニオン変性PVA等が使用できるが、特にカルボキシル基やカルボン酸金属塩を有する変性PVAが好ましい。
【0050】
カーボンブラック100質量部に対する分散剤の添加量は、1〜6質量部であり、2〜4質量部が好ましい。分散剤の最適添加量は作用するカーボンブラックの比表面積に相関があり、比表面積が大きいカーボンブラック程多く必要になる。また、酸化処理されたカーボンブラックは分散性が良いため、酸化処理されていない同じ比表面積のカーボンブラックよりも必要な分散剤量は少なくてよい。最適な分散剤添加量よりも少なすぎると、分散液の粘度が高くなる、もしくは、分散液の濃度が低くなってしまう。また、長期保管中に凝集や沈降が起こりやすいため、貯蔵安定性も悪くなる。分散剤添加量が多すぎると、電池内で抵抗成分となって出力低下を引き起こす。
【0051】
<カーボンブラック分散液の製造方法>
本発明の分散液は、分散剤とともにカーボンブラックをNMP中に分散したものである。この場合、分散剤とカーボンブラックを同時、または順次添加し混合することで、分散剤をカーボンブラックに作用(吸着)させつつ分散する。ただし、分散剤をNMP中に溶解、膨潤、または分散させ、その後、液中にカーボンブラックを添加し混合した方が、分散液の製造をより容易に行うことができる。また、分散剤がカーボンブラックにより均一に作用できるため、貯蔵安定性が増す。PVdFは粉末の状態で添加しても、予めNMPに溶解してワニスの状態で添加しても良いし、他の材料の添加のタイミングに係わらずどのタイミングで添加しても良い。ただし、PVdFは継粉になりやすく、一旦継粉になると溶解が非常に困難になるため、カーボンブラックと同時に粉末の状態で添加した方が容易に溶解でき、より好ましい。さらに、PVdFを単独で溶解させるには多くのNMPを要するため、カーボンブラックを分散させてからワニスを添加すると、電池用スラリーとして好適な濃度が達成できなくなる場合がある。
【0052】
混合、分散を行う装置としては、顔料分散等に通常用いられているせん断型分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」、「ハイシェアミキサー」等、シルバーソン社製「アブラミックス」、「ミキサー」等)類、ロールミル、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
比較として用いるメディア型分散機としては、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機が挙げられる。
【0054】
カーボンブラック分散液中のカーボンブラック濃度は、10〜30質量部であり、17〜24質量部が好ましい。カーボンブラック濃度が低いと活物質を加えたスラリー濃度も低くなり、塗工に好適な濃度が得られない場合がある。逆に高すぎると流動性を失い、作業性が低下するだけでなく、カーボンブラックやPVdFの凝集が発生して粗大粒子が残ってしまう。
【0055】
前述の通り、カーボンブラックは分散度が高すぎても低すぎても抵抗を増大させる。分散度を評価するひとつの方法として、動的光散乱方式の粒度分布測定がある。これより求められる平均粒子径D50は、抵抗低減のために、0.3〜0.8μmが好ましく、0.4〜0.6がより好ましい。
【0056】
分散液のレオロジーも分散度を評価する手法として用いられており、せん断速度1/s以上100/s未満において極小値を有し、極小の粘度が0.1〜3Pa・sとなるまでせん断型分散機により分散させると、抵抗が最も低くなる。
【0057】
<活物質>
本発明の分散液を電池電極に用いる場合は、さらに、正極活物質または負極活物質を含有させることができる。
【0058】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。
例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、金属Liやリチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V25、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0059】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2(0<x<2)、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0060】
本発明で用いる電極活物質は、リチウムおよびリチウム以外の金属元素を主要構成成分として含有する活物質であることが好ましく、正極活物質であることがより好ましい。
【0061】
本発明で用いる正極活物質は、Al、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物であることが好ましく、Al、Co、Ni、Mnのうちいずれかを含むリチウムとの複合酸化物であることがより好ましく、Ni、Mnを含むリチウムとの複合酸化物であることが特に好ましい。
【0062】
これらの活物質は、BET比表面積が0.1〜30m2/gのものが好ましく、0.2〜10m2/gのものがより好ましく、0.2〜5m2/gのものがさらに好ましい。
【0063】
これらの活物質は、平均粒子径が0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内である。本明細書でいう活物質の平均粒子径とは、活物質を電子顕微鏡で観察した粒子径の平均値である。
【0064】
<電池用スラリーの製造方法>
本発明の分散液に、正極活物質または負極活物質を加えて電池用スラリーを作製することができる。電池用スラリーには、分散液に含有のPVdFと同一もしくは異なる種類のPVdFを加えても良いし、さらにNMPを加えても良い。また、電池の耐久性を向上させる目的で、主要成分以外の公知の物質を添加して用いても良い。
【0065】
電池用スラリーを分散、混合する装置としては、カーボンブラックの分散度を維持するために、前述の「カーボンブラック分散液の製造方法」に記載のせん断型分散機を用いるのが好ましい。この際、カーボンブラック分散液と活物質粉末を混合、分散させても良いし、予め分散させた活物質をカーボンブラック分散液と混合しても良い。
【0066】
カーボンブラック分散液と活物質の粉末を混合、分散させる場合は、分散液に活物質粉末を加えても、活物質粉末に分散液を加えても良いが、分散液に活物質粉末を撹拌しながら少しずつ加えるのが特に好ましい。特に分散によってダメージを受けやすい活物質の場合は、ディスパー等の弱い分散機を用いて分散液に活物質粉末を撹拌しながら少しずつ加えることで、活物質本来の特性を引き出すことができる。
【0067】
予め分散させた活物質とカーボンブラック分散液を混合する場合は、どちらをどちらに加えても良いし、加えてから撹拌しても、撹拌しながら少しずつ加えても良い。2液の接触によっていずれかの分散状態が変化する場合には、撹拌しながら少しずつ加えるのが好ましい。また、活物質の分散に用いる分散機は、前述のせん断型分散機、メディア型分散機を用いることができるが、特に活物質同士の凝集や融着が激しい場合は、より強力なメディア型分散機を用いるのが好ましい。
【0068】
PVdFを加える場合は、いずれのタイミングで加えても良いが、比重の重い活物質の沈降を防ぐためには、活物質を添加する前または同時に加えるのが好ましい。PVdFは粉末で添加してから溶解させても、予めNMPに溶解させてから用いても良い。
【0069】
異なる種類のPVdFを用いる場合は、主成分としたいPVdF種の物性に一方のPVdF種の物性が影響を受けて、所望の物性が得られないことがある。本発明では、カーボンブラック100質量部に対して20質量部以下、かつx=a/Mw(x:PVdFのカーボンブラック100質量部に対する質量部、Mw:PVdFの重量平均分子量)においてa≦22×106とすることでこうした影響を抑えた。さらに、設計の自由度とハンドリングを上げるという観点から、x≦15、a≦11×106がより好ましい。
【0070】
また、a≧11×105のとき、PVdFはろ過材に対して潤滑剤として作用し、ダイラタントな分散液がろ過詰まりを発生するのを防ぐことができる。a≧22×105が好ましく、a≧33×105がより好ましい。
【0071】
NMPを加える場合は、いずれのタイミングで加えても良いが、活物質やPVdF等を加える工程の途中でNMPが不足すると、分散したカーボンブラックや活物質の凝集が起きたり、溶解したPVdFの析出が生じることがあるため、適宜加えるのが好ましい。工程の途中でNMPが多くなり粘度が低くなり過ぎる場合は、比重の重い活物質の沈降を防ぐために工程の最後に加えるのが好ましい。
【0072】
<電極>
本発明の電池用スラリーを集電体上に塗工・乾燥することで、電極を得ることができる。
【0073】
(集電体)
電極に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、白金、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。また、集電体には導電性の下地層形成用組成物を用いた下地層を設けても良い。
【0074】
集電体上に電池用スラリーや下地層形成用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0075】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0076】
<二次電池>
正極もしくは負極の少なくとも一方に上記の電極を用い、二次電池を得ることができる。二次電池としては、リチウムイオン二次電池の他、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルカリ二次電池、鉛蓄電池、ナトリウム硫黄二次電池、リチウム空気二次電池等が挙げられ、それぞれの二次電池において、従来から知られている電解液やセパレーター等を適宜用いることができる。また、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ、これらのハイブリッドキャパシタに用いても良い。
【0077】
(電解液)
リチウムイオン二次電池の場合を例にとって説明する。電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶媒に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、Li(CF3SO23C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4(ただし、Phはフェニル基を表す)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0079】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0080】
(電池構造・構成)
本発明の組成物を用いたリチウムイオン二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0081】
本発明では、上記課題に支障を及ぼさない範囲で、塗膜物性等の調整等の目的で、従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等を併用しても良い。
そのような分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール樹脂やポリビニルピロリドン樹脂、従来公知の色素誘導体、低分子量の界面活性剤等が挙げられる。また樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの各種ゴム、リグニン、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、キチン類、キトサン類、デンプン等が挙げられる。また添加剤としては、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物やアミド化合物、有機エステル、各種シラン系やチタン系、アルミニウム系のカップリング剤等が挙げられる。これらの従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等は、単独または2種類以上併用して用いることが出来る。
【実施例】
【0082】
実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
<カーボンブラック>
・デンカブラック粒状品(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径35nm、比表面積69m2/g、以下粒状品と略記する。
・デンカブラックHS−100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g、以下HS−100と略記する。
・FX−35(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径23nm、比表面積133m2/g。
・#30(三菱化学社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径30nm、比表面積74m2/g。
・EC−200L(ライオン社製):ケッチェンブラック、比表面積377m2/g、中空の多孔質カーボン。
【0084】
<ポリフッ化ビニリデン系ポリマー>
・W#7300(クレハ社製):重量平均分子量 100万、ホモポリマー
・W#1700(クレハ社製):重量平均分子量 50万、ホモポリマー
・W#1100(クレハ社製):重量平均分子量 28万、ホモポリマー
・HSV900(アルケマ社製):重量平均分子量 80万、ホモポリマー
・W#9300(クレハ社製):重量平均分子量 100万、酸性官能基入りコポリマー
・solef#5130(ソルベイ社製):重量平均分子量 100―120万、酸性官能基入りコポリマー、以下#5130と略記する。
【0085】
PVdFの分子量は、PVdF粉末を0.1質量%で溶解したNMP溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(日本分光株式会社製;GPC−900、shodex KD−806Mカラム、温度40℃)を用いることにより測定し、ポリスチレン換算の重量平均分子量として算出した。
【0086】
<分散剤>
前述に記載の分散剤A〜Iを用いた。
【0087】
<活物質>
正極活物質:
・LiNi0.33Mn0.33Co0.332、平均粒子径4.5μm、比表面積1.5m2/g、以下NMCと略記する。
・LiFePO4、平均粒子径8.0μm、比表面積18.7m2/g、以下LFPと略記する。
負極活物質:
・人造黒鉛、平均粒子径12μm、以下、黒鉛と略記する。
【0088】
<カーボンブラック分散液の評価>
実施例、比較例で得られたカーボンブラック分散液の評価は、レオロジー(粘度)、ろ過性、平均粒子径、貯蔵安定性を評価することにより行った。
【0089】
レオロジー(粘度)測定は、レオメーター(HAAKE社製「RS6000」)、直径35mm、角度2°のコーンプレートを用いて、シェアレート(せん断速度)0.01〜1000/sにおける粘度を測定した。分散液温度および測定部の温度は25℃とした。
【0090】
ろ過性評価は、減圧濾過用フィルターホルダーと濾過鐘(アドバンテック社製「KG−47」)、目開き48μmのナイロンメッシュを用い、ダイアフラム型真空ポンプにより減圧して行った。100mlの分散液をフィルターホルダーに注ぎ、真空ポンプを稼働してから、全量ろ過できた場合を「〇」とし、ろ過詰まりが発生し全量ろ過できなかった場合を「×」と判定した。
【0091】
平均粒子径は、カーボンブラック分散液をNMPにより適切な濃度に希釈した後に、超音波処理を施した液を測定サンプルとして用い、動的光散乱法方式の粒度分布計(マイクロトラック・ベル社製「ナノトラックUPA−EX」、光源波長780nm)を用いて平均粒子径(D50値)を測定することにより行った。各種測定条件は、上記方法によりNMP希釈した分散液のローディングインデックス値を0.7以上1.3以下に、粒子条件を、吸収性粒子、粒子形状非球形、密度1.80とし、溶媒条件を、溶媒屈折率1.47、液温20℃における溶媒粘度1.80mPa・s、液温25℃における溶媒粘度1.65mPa・sと設定し、得られたメジアン径をD50値として表記した。測定結果は、液温25℃のNMP溶剤についてバックグラウンド値を測定した後、上記方法にて調製した液温25℃のサンプルを測定容器に充填し、上記測定条件にて測定を行うことにより得た。同じカーボンブラックを使用して同じ分散処理をした場合、D50値が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良であることを示す。
【0092】
貯蔵安定性の評価は、カーボンブラック分散液を50℃にて7日間静置して保存した後の、液性状の変化から評価した。液性状の変化は、ヘラで撹拌した際の撹拌しやすさから判断し、○:問題なし(良好)、△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(可)、×:ゲル化しているまたは沈降がある(極めて不良)、とした。
【0093】
<カーボンブラック分散液の調製>
[実施例1〜実施例8]
表2に示す組成に従い、300mlのポリプロピレン製カップにNMPと分散剤Aを入れて、ホモミキサーにより撹拌して分散剤を溶解させた。撹拌翼はディスパー用の直径40mmを用い、回転数は500rpmとした。引き続き粒状品とPVdFの粉末を撹拌しながら同時に合計約7g/分の速度で添加した後、せん断型分散機であるハイシェアミキサーを用いて10m/秒で分散させた。目視による粗大粒子がなくなったところで分散を続けながらレオロジー測定を行い、せん断速度1/s以上100/s未満の範囲内において粘度の極小値を示し、極小の粘度が0.1〜3Pa・sの範囲内となったところで分散を終了し、カーボンブラック分散液をそれぞれ得た。ここで、分散液の質量は合計200gとした。
【0094】
【表2】
【0095】
[実施例9]
分散機をハイシェアミキサーの代わりにプラネタリーミキサーを用いた以外は、実施例1と同様にカーボンブラック分散液を作製した。プラネタリーミキサーは350mlのベッセルを用い、80rpmにて運転した。
【0096】
[実施例10〜実施例17]
分散剤Aの代わりに表3に示す分散剤種を用いた以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラック分散液をそれぞれ作製した。
【0097】
【表3】
【0098】
[実施例18〜実施例21]
粒状品の代わりに表4に示すカーボンブラック種とカーボンブラック濃度、分散剤添加量とした以外は実施例1と同様にしてカーボンブラック分散液をそれぞれ作製した。
【0099】
【表4】
【0100】
[比較例1〜比較例4]
表5に示すPVdF種と添加量を用いた以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラック分散液をそれぞれ作製した。
【0101】
【表5】
【0102】
[比較例5]
実施例1の組成に従い、300mlのガラス瓶に分散剤とNMPを仕込んで、実施例1と同様に分散剤を溶解させた。粒状品とPVdFの粉末、および直径1.25mmのジルコニアビーズを200g加え、ペイントコンディショナーにて分散させた。目視による粗大粒子がなくなるまでを終点として10分間毎に観察し、合計30分間分散させ、カーボンブラック分散液を得た。
【0103】
[比較例6]
比較例5の分散時間を60分に延長した以外は、比較例5と同様にしてカーボンブラック分散液を得た。
【0104】
[比較例7]
ハイシェアミキサーの周速を30m/sとし、実施例1と同じ分散時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラック分散液を得た。
【0105】
[比較例8]
ハイシェアミキサーの周速を5m/sとし、実施例1と同じ分散時間に変更した以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラック分散液を得た。
【0106】
<カーボンブラック分散液の評価結果>
各種カーボンブラック分散液の評価結果を表6に示す。実施例1〜実施例21の分散液はいずれも1/s以上100/s未満に極小値を有しており、極小における粘度は0.1〜3Pa・sであった。また、D50は0.3〜0.8μmの範囲で、すべてろ過性、貯蔵安定性が良好であった。一方、比較例1〜4も1/s以上100/s未満に極小値を有しており、極小における粘度は0.1〜3Pa・s、D50は0.3〜0.8μmの範囲であったが、PVdF添加量が低い比較例1、3ではろ過することが出来ず、さらに貯蔵安定性試験中に沈降が発生した。比較例2、4はろ過性に問題はなかったが、貯蔵安定性試験により増粘が起きた。
【0107】
ペイントコンディショナーにより分散した比較例5は100/s以上に極小値を有しており、極小値における粘度は0.2Pa・sであった。これより分散時間が長い比較例6は、極小値を有していなかった。比較例5および比較例6の分散体のD50は0.3μm以下であり、貯蔵安定性試験により沈降が発生した。比較例7は1/s以上100/s未満に極小値を有していたが、極小における粘度は0.09Pa・sであった。比較例8も同じく1/s以上100/s未満に極小値を有していたが、極小における粘度は3.1Pa・sであった。比較例7、比較例8のD50は0.3〜0.8μmの範囲であったが、比較例7は貯蔵安定性試験により増粘が起き、比較例8は粗大な粒子の沈降が見られた。
【0108】
【表6】
【0109】
<電池用スラリーの調整>
【0110】
[実施例1−1]
表7に示す組成に従い、200mlのポリプロピレン製カップに実施例1の分散液を入れて、ホモミキサーにより撹拌しながら予め5質量部に溶解しておいたW#7300(以下、溶解ワニスと略記することがある)を加えた。撹拌翼はディスパー用の直径40mmを用い、回転数は500rpmとした。引き続きNMCの粉末を撹拌しながら合計約10g/分の速度で添加した後、1500rpmにて5分間撹拌し、均一な電池用スラリーを得た。ここで、電池用スラリーの質量は合計200gとした。
【0111】
[実施例1−2]
W#7300の代わりに、予め5質量部に溶解しておいたW#9300を用いた以外は、実施例1−1と同様にして電池用スラリーを得た。
【0112】
[実施例1−3]
表7に示す組成に従い、200mlのポリプロピレン製カップに実施例1の分散液を入れて、ホモミキサーにより撹拌しながらW#7300の粉末とNMCの粉末を同時に合計約11g/分の速度で添加した。撹拌翼はディスパー用の直径40mmを用い、回転数は500rpmとした。添加終了後、1500rpmにて10分間撹拌し、均一な電池用スラリーを得た。ここで、電池用スラリーの質量は合計200gとした。
【0113】
[実施例1−4]
LFP50g、NMP50gを300mlのガラス瓶に仕込み、直径1.25mmのジルコニアビーズを200g加え、ペイントコンディショナーにて1時間分散させた。続いて、このLFP/NMP液とジルコニアビーズとを分離し、200mlのポリプロピレン製カップに所定量計り取った。ホモミキサーにより撹拌しながら、表7に示す組成に従い実施例1の分散液を滴下した後、W#7300の粉末を約1g/分の速度で添加した。撹拌翼はディスパー用の直径40mmを用い、回転数は500rpmとした。添加終了後、1500rpmにて10分間撹拌し、均一な電池用スラリーを得た。ここで、電池用スラリーの質量は合計200gとした。
【0114】
[実施例1−5]
表7に示す組成に従い、実施例1−1でNMCの代わりに黒鉛を用いた以外は同様の手順で電池用スラリーを得た。
【0115】
[比較例2−1]
比較例2の分散液を用いて、表7に示す組成に従い実施例1−2と同様にして電池用スラリーを得た。
【0116】
[比較例4−1]
比較例4の分散液を用いて、表7に示す組成に従い実施例1−1と同様にして電池用スラリーの作製を試みたが、比較例4の分散液には元々PVdFがカーボンブラック100質量部に対して80質量部も含まれていたため、所望の組成であるカーボンブラック/PVdF=7/2にすることができなかった。
【0117】
[比較例5−1、比較例7−1、比較例8−1]
比較例5、7、8の分散液を用いて、表7に示す組成に従い実施例1−1と同様にして電池用スラリーをそれぞれ得た。
【0118】
[比較例5−2]
比較例5の分散液を用いて、表7に示す組成に従い実施例1−5と同様にして電池用スラリーを得た。
【0119】
【表7】
【0120】
<二次電池用電極の作製>
上記の各実施例、比較例で得られた電池用スラリーを、活物質がNMCであれば厚さ20μmのアルミ箔上に、黒鉛であれば厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて塗工した後、減圧化120℃で30分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの電極を作製した。
【0121】
得られた電極の密着性評価は、剥離強度試験により行った。なお、剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×20mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ社製)をアクリル板上に貼り付け、作製した電池電極合材層を両面テープのもう一方の面に密着させ、一定速度(50mm/分)で上方に引っ張り、剥離する際のトルクを測定した。剥離強度試験の結果は、実施例1−1−1の実測値を1.0とし、それに対する比で表記した。
【0122】
[実施例1−1−1、実施例1−2−1][比較例2−1−1]
実施例1−1、1−2、比較例2−1で得られた電池用スラリーを用いて電極をそれぞれ作製し、剥離強度試験を行った。結果を表8に示す。W#9300は密着性向上効果がある酸性官能基を含む共重合体であるため、実施例1−2−1はW#7300単独の実施例1−1−1よりも剥離強度が高くなった。しかし、比較例2−1−1はカーボンブラック分散液としてW#7300を多く含む分、W#9300の量が少なくなったことにより、密着性向上効果が十分得られなかった。
【0123】
【表8】
【0124】
実施例1のように分散液に含まれるPVdFが少ない場合、電池用スラリー作製の際に添加するPVdF種および量が任意に設定できるため、所望の電極特性に必要な組成設計の自由度が高くなる。一方、比較例2のように分散液に多くのPVdFを含む場合、電池用スラリーの組成設計における自由度が少ないため、所望の電極特性の達成が困難となる。したがって、比較例2のようなPVdFを多く含む分散液を用いて所望の電極特性を達成するには、PVdF種および量の異なる分散液を各種製造する必要が生じる。
【0125】
[実施例1−3−1、1−5−1]
[比較例5−1−1、5−2−1、7−1−1、8−1−1]
実施例1−3、1−5、比較例5−1、5−2、7−1、8−1で得られた電池用スラリーを用いてそれぞれ電極を作製した。
【0126】
<リチウムイオン二次電池評価用セルの組み立て>
先に作製した電極を、ローラープレス機にて厚さ70μmとなるように圧延処理した。これを直径16mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(膜厚25μm、空孔率が50%、平均孔径30nm)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。活物質がNMCの場合は正極評価、活物質が黒鉛の場合は負極評価を行った。
【0127】
<リチウムイオン二次電池正極評価>
測定の前に、作製したセルを25℃で24時間放置した。充放電試験には充放電装置(北斗電工社製SM−8)を使用した。充電レート0.2Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V、下限電流0.02C)で満充電とし、10分間の休止時間を挟んで、放電レート0.2Cの定電流放電(下限電圧3.0V)を行う充放電を1サイクルとし、5サイクル繰り返した後、6サイクル目の放電レートを5Cとして、1〜5サイクル目と同様にして充放電した。1サイクル目の充電容量に対する5サイクル目の放電容量の比から「初期効率」を求めた。5サイクル目の放電容量に対する6サイクル目の放電容量の比から「レート特性」を求めた。
【0128】
<リチウムイオン二次電池負極評価>
下限電圧を0.01V、上限電圧を1.2Vとした以外は正極評価と同様にして、「初期効率」および「レート特性」を求めた。
【0129】
初期効率は、初回の充電の際に不可逆的な副反応が起きた場合、その反応に電流が消費された分見かけ上充電容量が大きくなることや、活物質の一部が不可逆的に変質して充放電容量そのものが小さくなることによって低下することがある。例えば、活物質として黒鉛を用いた場合には、初回の充電で粒子表面に被膜を形成するため、初期効率はNMCなどに比べて低くなることが知られている。レート特性は、低速放電に比べて高速放電では種々の抵抗の影響が大きくなり容量が低下することから、出力を評価する目安として有用である。
【0130】
[実施例22〜実施例25][比較例9〜比較例12]
表9に示す電極を用いて電池を作製し、初期効率およびレート特性を求めた。実施例22〜実施例25はいずれも初期効率およびレート特性ともに高いことがわかる。比較例9〜11の初期効率が低くなった理由として、分散強度が高いペイントコンディショナーや高速運転のハイシェアミキサーを用いたため、カーボンブラックが過分散になり、活性な表面の露出が増えて反応量が増えたことが考えられる。また、レート特性が大幅に低下したことから、出力が著しく悪いことがわかった。比較例12は初期効率は高いがレート特性が悪化したことから、逆に分散状態が悪かったため、良好な導電パスが形成できず出力が低下したと考えられる。
【0131】
【表9】