特許第6569669号(P6569669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6569669エチレン・α−オレフィン共重合体及びオレフィン系樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569669
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】エチレン・α−オレフィン共重合体及びオレフィン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 210/16 20060101AFI20190826BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20190826BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C08F210/16
   C08F4/6592
   C08L23/08
【請求項の数】18
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2016-511948(P2016-511948)
(86)(22)【出願日】2015年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2015060197
(87)【国際公開番号】WO2015152268
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2017年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-73332(P2014-73332)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】石濱 由之
(72)【発明者】
【氏名】原田 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 勝
(72)【発明者】
【氏名】飯場 顕司
(72)【発明者】
【氏名】小玉 和史
(72)【発明者】
【氏名】林 大翔
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133717(WO,A1)
【文献】 特開2013−227271(JP,A)
【文献】 特開2013−227482(JP,A)
【文献】 特開2011−137146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 210/16
C08F 4/6592
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の条件(1)〜(3)及び(5)〜(7)を満足するエチレン・α−オレフィン共重合体。
(1)MFRが0.001〜20g/10分以下である
(2)密度が0.895〜0.960g/cmである
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnが4.0〜10.0である
(5)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分岐指数g’の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が0.40〜0.85である
(6)昇温溶出分別(TREF)により85℃以上で溶出する成分の割合(X)が15重量%を超え、70重量%以下である
(7)クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められた溶出量が50wt%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50wt%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、45重量%を超え、80重量%未満である
【請求項2】
MFRは、0.1g/10分を超え10g/10分以下であることを特徴とする請求項1に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体。
【請求項3】
密度は、0.900〜0.940g/cmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体。
【請求項4】
α−オレフィンは、炭素数が3〜10であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体。
【請求項5】
更に、下記の条件(4)を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体。
(4)GPCにより測定される分子量分布Mz/Mwが2.0〜7.0である
【請求項6】
更に、下記の条件(8)を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体。
(8)前記W及びWの和(W+W)が、25重量%を超え、50重量%未満である
【請求項7】
更に、下記の条件(9)を満足することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体。
(9)前記W及びWの差(W−W)が、0重量%を超え、30重量%未満である
【請求項8】
エチレン・α−オレフィン共重合体は、下記の成分(A)、(B)及び(C)を含むオレフィン重合用触媒によって製造されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体の製造方法。
成分(A):遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物
成分(B):成分(A)の化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
成分(C):無機化合物担体
【請求項9】
成分(C)1gに対する成分(B)の金属のモル数の割合は、0.001〜0.006(モル/g)であることを特徴とする請求項8に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体の製造方法
【請求項10】
エチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレン及びα−オレフィンとの共重合を気相法又はスラリー法によって製造されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)と1種類以上の他のオレフィン系樹脂を含有することを特徴とするオレフィン系樹脂組成物。
【請求項12】
該樹脂組成物中のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量が1〜59重量%であることを特徴とする請求項11に記載のオレフィン系樹脂組成物
【請求項13】
前記1種類以上の他のオレフィン系樹脂が(A)以外のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)であることを特徴とする請求項11又は12に記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項14】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が、下記条件(B−1)および(B−2)を満足することを特徴とする請求項13に記載のオレフィン系樹脂組成物。
(B−1)MFRが0.01〜20g/10分である
(B−2)密度が0.880〜0.970g/cmである
【請求項15】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が、更に、下記条件(B−3)を満足することを特徴とする請求項14に記載のオレフィン系樹脂組成物。
(B−3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnが2.0〜4.0である
【請求項16】
前記エチレン・αーオレフィン共重合体(A)と前記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)とが、下記条件のいずれか1つ以上を満たすことを特徴とする請求項11〜15のいずれか一項に記載のオレフィン系樹脂組成物。
(AB−1)MFR>MFR
(AB−2)[Mw/Mn]<[Mw/Mn]
(式中、MFR及び[Mw/Mn]は、夫々、エチレン・αーオレフィン共重合体(A)のMFR及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnを表し、MFR及び[Mw/Mn]は、夫々、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)のMFR及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnを表す。)
【請求項17】
前記エチレン・αーオレフィン共重合体(B)が、MFRが0.1〜5.0未満のチーグラー触媒により製造された線状低密度ポリエチレン、又はMFRが0.1〜10以下のメタロセン系触媒により製造されたメタロセン系ポリエチレンであることを特徴とする請求項11〜16のいずれか一項に記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項18】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のエチレン・α−共重合体、又は請求項11〜17のいずれか一項に記載の樹脂組成物より得られるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエチレン・α−オレフィン共重合体及びオレフィン系樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、機械的強度に優れ、かつ成形加工特性にも優れたエチレン・α−オレフィン共重合体、当該共重合体を含有するオレフィン系樹脂組成物、及びこれを含有するオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業分野において、プラスチック製のフィルム、シート、射出成形体、パイプ、押出成形体、中空成形体等が盛んに用いられるようになった。特に安価・軽量であり、成形加工性、剛性、衝撃強度、透明性、耐薬品性、リサイクル性に優れる等の理由からポリエチレン系樹脂(エチレン系重合体)が広範に用いられている。一般に、ポリエチレン系樹脂の成形加工は、溶融状態において実施される。しかし、単独のエチレン系重合体の場合、その溶融特性は、例えば、流動性の面で不十分であったり、伸長粘度が不十分であったりして、成形加工性を十分に確保することが困難であったり、透明性や剛性等の固体物性が不足したりする場合が多い。
【0003】
例えば、ポリエチレン系樹脂では、エチレンとα−オレフィンを触媒重合して得られた線状の低密度ポリエチレン(L−LDPE)が、高強度を達成する樹脂として知られているが、単独では成形加工性を確保することは難しく、また、透明性や剛性等が低い欠点がある。これらを補うための対策として、成形性に優れる高圧法ポリエチレン(HPLD)をブレンドしたり、分子量や密度の異なるエチレン系重合体を改質材としてブレンドしたりして、溶融特性や固体物性の改良が行なわれてきた。
しかしながら、改質材としてHPLDを用いた場合、成形加工性は得られるものの衝撃強度の低下を招いたり、分子量や密度の異なるエチレン系重合体を用いた場合、十分な成形加工性が得られなかったり、分子量分布や共重合組成分布が広くなることによって透明性が悪化したりゲルが発生する問題があった。
【0004】
また、最近の容器リサイクル法施行や省資源化の流れにおいて原料樹脂使用量を削減する必要性の観点から、成形体の薄肉化の需要が高まっているが、このためには、衝撃強度とともに剛性(弾性率)の向上が必要となる。
衝撃強度等の機械的強度を向上する方法としては、エチレン系重合体の密度を低下させる方法がよく知られているが、剛性も一緒に低下してしまう(柔らかくなる)ので好ましくなく、薄肉化の目的のためには、例えば、密度の異なる二種類の特定のエチレン・α−オレフィン共重合体を組み合わせ、更に成形加工性や透明性を向上させるために更に特定のHPLDを加えた三成分系ブレンド組成物を使用する試みが知られている(特許文献1参照)。
この方法によれば、従来より衝撃強度と剛性のバランスに優れ、透明性にも優れたポリエチレン樹脂組成物が得られるものの、やはりHPLDブレンドに伴う衝撃強度の低下は避けられず、更に、三種類のエチレン系重合体のブレンドは、一定品質の製品を工業レベルで安定供給する上では従来よりも経済的に不利と考えられる。
【0005】
衝撃強度等の機械的強度を向上する別の方法としては、メタロセン触媒で製造された低密度かつ低MFRのエチレン系重合体と高密度高MFRのエチレン系重合体からなるブレンド系組成物を使用する試み(特許文献2参照)や、特定のメタロセン重合触媒により高分子量側により多くのα−オレフィンが共重合されたいわゆる逆コモノマー共重合組成分布を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を使用する試み(特許文献3参照)や、特定のハフノセン重合触媒で製造された多峰性のコモノマー共重合組成分布を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を使用する試み(特許文献4参照)が知られている。
これらの方法によれば、従来より剛性、衝撃強度、ESCRに優れたポリエチレン樹脂組成物が得られるものの、流動性や伸長粘度が低いために成形加工性が十分ではなく、やはりHPLDや高分子量ポリエチレンのブレンドが必要となり、それに伴う衝撃強度の低下や外観不良は避けられなかった。
【0006】
こうした状況下、従来のエチレン系重合体やポリエチレン系樹脂組成物のもつ問題点を解消し、機械的強度と成形加工特性の両方に優れたエチレン系重合体の開発に有用な長鎖分岐構造の制御が可能なメタロセン重合触媒およびそれを用いて得られるエチレン系重合体の研究が継続されている(特許文献5、6参照)。特許文献6では、近年、本発明者等により見出された、特定のシクロペンタジエニル化合物を配した遷移金属触媒が、触媒活性が高く、好ましい長鎖分岐を有するエチレン・α−オレフィン共重合体用触媒として提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−031270号公報
【特許文献2】特開平11−246714号公報
【特許文献3】特開2007−308718号公報
【特許文献4】特開2005−120385号公報
【特許文献5】特開2012−214781号公報
【特許文献6】特開2013−227271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記した従来技術の問題点に鑑み、成形加工特性に優れ、同時に、機械的強度にも優れるエチレン・α−オレフィン共重合体及びこれを含有するオレフィン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の長鎖分岐指数、MFR、及び密度を有し、かつ広い組成分布指数を有するエチレン・α−オレフィン共重合体が、溶融張力等の優れた成形加工特性と機械的強度を示すことを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の条件(1)〜(3)及び(5)〜(7)を満足することを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
(1)MFRが0.001〜20g/10分以下である。
(2)密度が0.895〜0.960g/cmである。
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnが4.0〜10.0である。
(5)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分岐指数g’の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が0.40〜0.85である。
(6)昇温溶出分別(TREF)により85℃以上で溶出する成分の割合(X)が15重量%を超え、70重量%以下である。
(7)クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められた溶出量が50wt%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50wt%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、45重量%を超え、80重量%未満である。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、更に、下記の条件(1’)を満足することを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
(1’)MFRが0.1g/10分を超え、10g/10分以下である。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、更に、下記の条件(2’)を満足することを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
(2’)密度が0.900〜0.940g/cmである。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、α−オレフィンは、炭素数が3〜10であることを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、更に、下記の条件(4)を満足することを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
(4)GPCにより測定される分子量分布Mz/Mwが2.0〜7.0である
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、更に、下記の条件(8)を満足することを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
(8)前記W及びWの和(W+W)が、25重量%を超え、50重量%未満である
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、更に、下記の条件(9)を満足することを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
(9)前記W及びWの差(W−W)が、0重量%を超え、30重量%未満である
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、下記の成分(A)、(B)及び(C)を含むオレフィン重合用触媒によって製造されることを特徴とする、第1〜7のいずれかの発明に係るエチレン・α−オレフィン共重合体の製造方法が提供される。
成分(A):遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物
成分(B):成分(A)の化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
成分(C):無機化合物担体
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、成分(C)1gに対する成分(B)の金属のモル数の割合が、0.001〜0.006(モル/g)であることを特徴とするエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、エチレン及びα−オレフィンの共重合は、気相法又はスラリー法によって行われることを特徴とする、第1〜7のいずれかの発明に係るエチレン・α−オレフィン共重合体が提供される。
【0020】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)と1種類以上の他のオレフィン系樹脂を含有することを特徴とするオレフィン系樹脂組成物が提供される。
【0021】
また、本発明の第12の発明によれば、第11の発明において、該樹脂組成物中のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量が1〜59重量%であることを特徴とするオレフィン系樹脂組成物が提供される。
【0022】
また、本発明の第13の発明によれば、第11又は12の発明において、前記1種類以上の他のオレフィン系樹脂が(A)以外のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)であることを特徴とするオレフィン系樹脂組成物が提供される。
【0023】
また、本発明の第14の発明によれば、第13の発明において、前記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が、下記条件(B−1)および(B−2)を満足することを特徴とするオレフィン系樹脂組成物が提供される。
(B−1)MFRが0.01〜20g/10分
(B−2)密度が0.880〜0.970g/cm
【0024】
また、本発明の第15の発明によれば、第14の発明において、前記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が、更に、下記条件(B−3)を満足することを特徴とするオレフィン系樹脂組成物が提供される。
(B−3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnが2.0〜4.0である
【0025】
また、本発明の第16の発明によれば、第11〜15のいずれかの発明において、前記エチレン・αーオレフィン共重合体(A)と前記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)とが、下記条件のいずれか1つ以上を満たすことを特徴とするオレフィン系樹脂組成物が提供される。
(AB−1)MFR>MFR
(AB−2)[Mw/Mn]<[Mw/Mn]
(式中、MFR及び[Mw/Mn]は、夫々、エチレン・αーオレフィン共重合体(A)のMFR及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnを表し、MFR及び[Mw/Mn]は、夫々、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)のMFR及びゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布Mw/Mnを表す。)
【0026】
また、本発明の第17の発明によれば、第11〜16のいずれかの発明において、前記エチレン・αーオレフィン共重合体(B)が、MFRが0.1〜5.0未満のチーグラー触媒により製造された線状低密度ポリエチレン、又はMFRが0.1〜10以下のメタロセン系触媒により製造されたメタロセン系ポリエチレンであることを特徴とするオレフィン系樹脂組成物が提供される。
【0027】
また、本発明の第18の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明のエチレン・α−共重合体、又は第11〜17のいずれかの発明の樹脂組成物より得られるフィルムが提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、溶融張力が大きく成形加工特性に優れ、同時に、衝撃強度や剛性といった機械的強度にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で用いられるクロマトグラムのベースラインと区間を示すグラフである。
図2】GPC−VIS測定(分岐構造解析)から算出する分子量分布曲線および分岐指数(g’)と分子量(M)との関係を示すグラフである。
図3】昇温溶出分別(TREF)による溶出温度分布を示すグラフである。
図4】クロス分別クロマトグラフィー(CFC)法で測定される溶出温度と分子量に関する溶出量を等高線図として示すグラフである。
図5】クロス分別クロマトグラフィー(CFC)法で測定される溶出温度と各溶出温度における溶出割合(wt%)との関係を示すグラフである。
図6】溶融張力(MT)とMFRとの関係を示すグラフである。
図7】W〜Wについての概略図である。当該において横軸が分子量の対数(logM)であり、横軸は溶出温度(Temp.)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、特定の長鎖分岐指数、MFR、及び密度を有し、かつ比較的広い組成分布指数を有するエチレン・α−オレフィン共重合体に係るものである。以下、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体、特に該エチレン・α−オレフィン共重合体を特徴付ける条件(1)〜(9)、および該エチレン・α−オレフィン共重合体の製法、特にその製法に用いられる重合用触媒の各成分やその調製方法、さらには重合方法について、項目毎に、詳細に説明する。
【0031】
1.本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、下記に説明する条件(1)〜(3)及び(5)〜(7)を全て満たすことを特徴とする。特に、特定のMFR及び密度(条件1及び2)において、適切な範囲の長鎖分岐(条件5)を有し、広い分子量分布(条件3)かつ広い逆コモノマー組成分布等(条件6及び7)を有するという新規な特徴を有する。
【0032】
なお、従来より、種々の触媒種により、いわゆる逆コモノマー組成分布を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を得た例が報告がされているが、本発明のように比較的広い逆コモノマー組成分布を有するエチレン・α−オレフィン共重合体が、特に溶融張力等の成形加工特性に優れ、同時に、衝撃強度や剛性といった機械的強度にも優れている点は、見出されていなかったものである。また、本発明においては、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体の製造方法として例示する後述の近年開発した特定の触媒種を用いて、かかるエチレンとα−オレフィン共重合体を好適に製造できることも見出したものである。
【0033】
1−1.条件(1)
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、0.001〜20g/10分、好ましくは0.01〜20g/10分、より好ましくは0.05〜20g/10分、更に好ましくは0.05〜10g/10分、、特に好ましくは0.10g/10分を超え、8.0g/10分以下である。
MFRがこの範囲にあると、成形加工性や機械的強度が優れる。一方、MFRが0.001g/10分未満では成形加工性、特に溶融流動性や延展性の点で好ましくない場合があり、一方、MFRが20g/10分より大きいと、成形体の衝撃強度等の効果が十分発現し難いので好ましくない。なお、本発明で、エチレン・α−オレフィン共重合体のMFRは、JIS K7210の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、190℃、21.18N(2.16kg)荷重の条件で測定したときの値をいう。
【0034】
1−2.条件(2)
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、0.895〜0.960g/cmであり、好ましく0.900〜0.940g/cm、より好ましくは0.910〜0.940g/cm、更に好ましくは0.910〜0.935g/cm、特に好ましくは0.915〜0.935g/cmである。
密度がこの範囲にあると、衝撃強度と剛性のバランスが優れる。一方、密度が0.895g/cm未満では剛性の点で好ましくない場合があり、また、密度が0.960g/cmより大きいと衝撃強度等の点で十分ではなく、より高温の成形加工温度を要したりする場合があり好ましくない。
なお、本発明で、エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、以下の方法で測定したときの値をいう。
【0035】
ペレットを熱プレスして2mm厚のプレスシートを作成し、該シートを1000ml容量のビーカーに入れ蒸留水を満たし、時計皿で蓋をしてマントルヒーターで加熱した。蒸留水が沸騰してから60分間煮沸後、ビーカーを木製台の上に置き放冷した。この時60分煮沸後の沸騰蒸留水は500mlとし室温になるまでの時間は60分以下にならないように調整した。また、試験シートは、ビーカー及び水面に接しないように水中のほぼ中央部に浸漬した。シートを23℃、湿度50%の条件で、16時間以上24時間以内でアニーリングを行った後、縦横2mmになるように打ち抜き、試験温度23℃で、JIS K7112の「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準拠して、測定した。
【0036】
1−3.条件(3)
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、4.0〜10.0、好ましくは4.0〜7.0、より好ましくは4.0〜6.5、更に好ましくは4.5〜6.0、特に好ましくは5.8未満である。Mw/Mnが4.0未満では、成形加工性、特に溶融流動性が劣ったり、他の重合体成分と混ざり難かったり、ESCRが低下したりするので避けるべきである。
Mw/Mnが10.0より大きいと耐衝撃性が悪化したり、透明性が悪化したり、ベトツキしやすくなるので好ましくない。Mw/Mnは、共重合体中の分子量分布を示す指標の一つであり、触媒上の重合反応が比較的均一なサイトで行われると数値が小さく、比較的マルチなサイトで行われていると数値が大きくなる。重合に用いる触媒種と触媒の調整条件を選定することにより概略、適宜制御できる。なお、本発明で、エチレン・α−オレフィン共重合体のMwやMnは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したものをいう。
【0037】
保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるように、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PE:K=3.92×10−4、α=0.733
【0038】
なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
試料の調製:試料は、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図1に例示されるように行う。
【0039】
1−4.条件(5)
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体は、上記条件(1)〜(3)に加えて更に、示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分岐指数g’の分子量10万から100万の間での最低値(gc)が、0.40〜0.85、好ましくは0.50を超え、0.80以下、より好ましくは0.52を超え、0.80以下、更に好ましくは0.53を超え、0.80以下、特に好ましくは0.53を超え、0.73未満である。g値が0.85より大きいと成形加工性が悪くなるので好ましくない。g値が0.40より小さいと、成形加工性は向上するが、衝撃強度が低下したり、透明性が悪化したりするので好ましくない。なお、本発明で、エチレン・α−オレフィン共重合体のg値は、共重合体に導入された長鎖分岐の発達度を指標する物性値であり、g値が大きいと、長鎖分岐が少なく、g値が小さいと長鎖分岐の導入量が多いことを示す。gの値は、重合に用いる触媒の選定により概略制御することができる。エチレン・α−オレフィン共重合体のg値は、下記のGPC−VIS測定から算出する分子量分布曲線や分岐指数(g’)を用いた長鎖分岐量の評価手法である。
【0040】
[GPC−VISによる分岐構造解析]
示差屈折計(RI)および粘度検出器(Viscometer)を装備したGPC装置として、Waters社のAlliance GPCV2000を用いた。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)Wyatt Technology社のDAWN−Eを用いた。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続した。移動相溶媒は、1,2,4−trichlorobenzene(酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。流量は1mL/分である。カラムは、東ソー社 GMHHR−H(S) HTを2本連結して用いた。
カラム、試料注入部および各検出器の温度は、140℃である。試料濃度は1mg/mLとした。注入量(サンプルループ容量)は0.2175mLである。MALLSから得られる絶対分子量(M)、慣性二乗半径(Rg)およびViscometerから得られる極限粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、以下の文献を参考にして計算を行った。
【0041】
参考文献:
1.Developments in polymer characterization,vol.4.Essex:Applied Science;1984.Chapter1.
2.Polymer,45,6495−6505(2004)
3.Macromolecules,33,2424−2436(2000)
4.Macromolecules,33,6945−6952(2000)
【0042】
[分岐指数(g)等の算出]
分岐指数(g’)は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる極限粘度(ηbranch)と、別途、線形ポリマーを測定して得られる極限粘度(ηlin)との比(ηbranch/ηlin)として算出する。
ポリマー分子に長鎖分岐が導入されると、同じ分子量の線形のポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなる。慣性半径が小さくなると極限粘度が小さくなることから、長鎖分岐が導入されるに従い同じ分子量の線形ポリマーの極限粘度(ηlin)に対する分岐ポリマーの極限粘度(ηbranch)の比(ηbranch/ηlin)は小さくなっていく。したがって分岐指数(g’=ηbranch/ηlin)が1より小さい値になる場合には分岐が導入されていることを意味し、その値が小さくなるに従い導入されている長鎖分岐が増大していくことを意味する。特に本発明では、MALLSから得られる絶対分子量として、分子量10万から100万における上記g’の最低値を、gとして算出する。図2に上記GPC−VISによる解析結果の一例を示した。図2の左は、MALLSから得られる分子量(M)とRIから得られる濃度を元に測定された分子量分布曲線を、図2の右は、分子量(M)における分岐指数(g’)を表す。ここで、線形ポリマーとしては、直鎖ポリエチレンStandard Reference Material
1475a(National Institute of Standards & Technology)を用いた。
【0043】
1−5.条件(6)
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体は、昇温溶出分別(TREF)により85℃以上で溶出する成分の割合(X)が15重量%を超え、70重量%以下、好ましくは15重量%を超え、50重量%未満、より好ましくは15重量%を超え、36重量%未満、更に好ましくは15重量%を超え、34重量%以下、特に好ましくは15重量%を超え、33重量%以下、最も好ましくは15重量%を超え、32重量%以下である。X値が70重量%より大きいと、エチレン・α−オレフィン共重合体に含まれる衝撃強度向上に効果的に作用する低密度成分の割合が減少し、衝撃強度が悪化するので好ましくない。X値が15重量%以下の場合、剛性が悪化したり、他のポリオレフィン系樹脂へのブレンド時の相容性が悪くなったりする場合があるので好ましくない場合がある。X値の量は、共重合体に含まれる比較的高分子量の成分の割合を指標する数値であり、触媒の調整方法と重合条件の制御により調整可能である。
【0044】
[TREFの測定条件]
試料を140℃でオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却し、更に続いて1℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、20分間保持する。その後、溶媒であるオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)を1mL/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のオルトジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。この時、85℃から140℃までの間に溶出する成分量をX(単位wt%)とする。
【0045】
使用装置は、下記のとおりである。
(TREF部)
TREFカラム:4.3mmφ×150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000
(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ、4方バルブ
(試料注入部)
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
(検出部)
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル、光路長1.5mm、窓形状2φ×4mm長丸、合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(ポンプ部)
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
測定条件
溶媒:オルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速:1mL/分
【0046】
1−6.条件(7)
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体は、クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から求められた溶出量が50wt%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合(W)及び積分溶出曲線から求められた溶出量が50wt%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合(W)の和(W+W)が、45重量%を超え、80重量%未満、好ましくは50重量%を超え、80重量%未満又は、50重量%を超え、70重量%未満、更に好ましくは51重量%を超え、65重量%未満、特に好ましくは52重量%を超え、60重量%未満である。
【0047】
クロス分別クロマトグラフィー(CFC)により測定される積分溶出曲線から得られる上記のW1等の数値は、共重合体全体中に含まれる個々のポリマーの、コモノマー量と分子量の分布を総合して指標する“コモノマー組成分布”を示すために用いられる手法である。すなわち、コモノマーの量が多く分子量が小さいポリマー(W)、コモノマーの量が多く分子量が大きいポリマー(W)、コモノマーの量が少なく分子量が小さいポリマー(W)、コモノマーの量が少なく分子量が大きいポリマー(W)が、共重合体全体中に占める割合を示している。
従来、一般的な触媒重合により得られるエチレン・α−オレフィン共重合体では、いわゆる順コモノマー組成、すなわち、W+Wが60重量%以上を占めてW+Wが40重量%以下であることが多いが、本発明の好適な一例として本願実施例1等で用いた特定の触媒により得られたエチレン・α−オレフィン共重合体では、その特徴の一つとして、得られる共重合体がいわゆる逆コモノマー組成、すなわちW+Wが45重量%を超え80重量%未満であることが挙げられる。
【0048】
+W値が45重量%以下であると、エチレン・α−オレフィン共重合体に含まれる衝撃強度向上やESCR向上に効果的に作用する低密度高分子量成分の割合が減少したり、剛性向上に効果的に作用する高密度低分子量成分が減少したりして、機械的強度が悪化するので好ましくない。一方、W+W値が80重量%以上であると、エチレン・α−オレフィン共重合体に含まれる該高密度低分子量成分と該低密度高分子量成分の含有量のバランスが崩れ、機械的強度が悪化したり、該低密度高分子量成分と該高密度低分子量成分の分散性が悪くなって、透明性の悪化やゲルが発生したりするので好ましくない。
【0049】
[CFCの測定条件]
クロス分別クロマトグラフ(CFC)は、結晶性分別を行う昇温溶出分別(TREF)部と分子量分別を行うゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)部とから成る。
このCFCを用いた分析は、次のようにして行われる。
まず、ポリマーサンプルを0.5mg/mLのBHTを含むオルトジクロロベンゼン(ODCB)に140℃で完全に溶解した後、この溶液を装置のサンプルループを経て140℃に保持されたTREFカラム(不活性ガラスビーズ担体が充填されたカラム)に注入し、所定の第1溶出温度まで徐々に冷却し、ポリマーサンプルを結晶化させる。所定の温度で30分保持した後、ODCBをTREFカラムに通液することにより、溶出成分がGPC部に注入されて分子量分別が行われ、赤外検出器(FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器、測定波長3.42μm)によりクロマトグラムが得られる。その間、TREF部では次の溶出温度に昇温され、第1溶出温度のクロマトグラムが得られた後、第2溶出温度での溶出成分がGPC部に注入される。以下、同様の操作を繰り返すことにより、各溶出温度での溶出成分のクロマトグラムが得られる。
【0050】
なお、CFCの測定条件は、以下の通りである。
装置:ダイヤインスツルメンツ社製CFC−T102L
GPCカラム:昭和電工社製AD−806MS(3本を直列に接続)
溶媒:ODCB
サンプル濃度:3mg/mL
注入量:0.4mL
結晶化速度:1℃/分
溶媒流速:1mL/分
GPC測定時間:34分
GPC測定後安定時間:5分
溶出温度:0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,49,52,55,58,61,64,67,70,73,76,79,82,85,88,91,94,97,100,102,120,140
【0051】
[データ解析]
測定によって得られた各溶出温度における溶出成分のクロマトグラムから、総和が100%となるように規格化された溶出量(クロマトグラムの面積に比例)が求められる。さらに、図5のような溶出温度に対する積分溶出曲線が計算される。この積分溶出曲線を温度で微分して、微分溶出曲線が求められる。また、各クロマトグラムから、次の手順により分子量分布が求められる。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。
較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際、使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PE:K=3.92×10−4、α=0.733
なお、第1溶出温度でのクロマトグラムでは、溶媒に添加したBHTによるピークと溶出成分の低分子量側とが重なる場合があるが、その際は、図1のようにベースラインを引き分子量分布を求める区間を定める。
さらに、下記の表1のように、各溶出温度における溶出割合(表中のwt%)と重量平均分子量(表中のMw)からwhole(全体)の重量平均分子量を求める。
【0052】
【表1】
【0053】
また、各溶出温度における分子量分布および溶出量から、文献(S.Nakano,Y.Goto,”Development of automatic Cross Fractionation:Combination of Crystallizability Fractionation and Molecular Weight Fractionation”,J.Appl.Polym.Sci.,vol.26,pp.4217−4231(1981))の方法に従って、図4のように溶出温度と分子量に関する溶出量を等高線として示すグラフ(等高線図)を得る。
上記の等高線図を用いて、以下の成分量を求める。
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50wt%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50wt%となる温度以下で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50wt%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量未満の成分の割合
:積分溶出曲線から求められる溶出量が50wt%となる温度より高い温度で溶出する成分のうち分子量が重量平均分子量以上の成分の割合
なお、W+W+W+W=100である。
【0054】
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体は、上記条件(1)〜(3)及び(5)〜(7)を満たすことを必須とするが、好ましい態様としては、更に下記(4)、(8)及び(9)のいずれかの要件を満たす共重合体が挙げられる。
【0055】
1−7.条件(4)
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体のZ重量平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)は、2.0〜7.0、好ましくは2.5〜5.5、より好ましくは2.8を超え、5.0未満、更に好ましくは3.0〜4.8、特に好ましくは3.2を超え、4.7未満である。Mz/Mwが2.0未満では、成形加工性、特に溶融流動性や溶融張力が劣ったり、他の重合体成分と混ざり難かったり、ESCRが低下したりするので避けるべきである。Mz/Mwが7.0より大きいと耐衝撃性が悪化したり、透明性が悪化したり、ベトツキしやすくなったり、過剰な高分子量成分によるゲルの発生や成形時の高配向による強度低下が生じたりするので好ましくない。
Mz/Mwは、共重合体中の分子量分布を示す他の指標の一つであり、分子量の高い成分があることを示し、高分子量成分が多いと数値が大きくなる。重合に用いる触媒種を選定することにより概略、適宜制御できる。なお、本発明で、エチレン・α−オレフィン共重合体のMzは、上述のゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したものをいう。なお、本発明で、エチレン・α−オレフィン共重合体のMzは、上述のゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したものをいう。
【0056】
1−8.条件(8)
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体は、(7)で前記したW及びWの和(W+W)が、25重量%を超え、50重量%未満、好ましくは27重量%を超え、50重量%未満、より好ましくは27重量%を超え、45重量%未満、更に好ましくは27重量%を超え、40重量%未満、特に好ましくは28重量%を超え、38重量%未満である。W+Wが25重量%以下であると、エチレン・α−オレフィン共重合体に含まれる衝撃強度向上に効果的に作用する高分子量成分が減少するので好ましくなかったり、成型加工性向上に特に効果的に作用する高分子量の長鎖分岐成分が減少するので好ましくない。一方、W+W値が50重量%以上であると、エチレン・α−オレフィン共重合体に含まれる高分子量成分や高分子量の長鎖分岐成分の割合が多いため、流動性や透明性が悪化したり、ゲルやシャークスキン、メルトフラクチャーが発生したりして外観不良となったりする場合があり好ましくない。
【0057】
1−9.条件(9)
本発明におけるエチレン・α−オレフィン共重合体は、(7)で前記したWとWの差(W−W)が、0重量%を超え、30重量%未満、好ましくは0重量%を超え、20重量%未満、より好ましくは1重量%を超え、20重量%未満、更に好ましくは2重量%を超え、20重量%未満、特に好ましくは2重量%を超え、15重量%未満である。W−Wが0重量%以下であると、エチレン・α−オレフィン共重合体に含まれる衝撃強度やESCRの向上に特に効果的に作用する低密度高分子量成分が減少するので好ましくない。一方、W−W値が30重量%以上であると、高密度高分子量成分と低密度高分子量成分の含有量のバランスが崩れ、衝撃強度やESCRが期待通り向上しなかったり、分散性が悪くなって、透明性の悪化やゲルが発生したりするので好ましくない。
【0058】
1−10.本発明のエチレン・α−オレフィンン共重合体の組成
本発明のエチレン・α−オレフィンン共重合体は、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体である。ここで用いられる共重合成分であるα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1等が挙げられる。また、これらα−オレフィンは1種のみでもよく、また2種以上が併用されていてもよい。これらのうち、より好ましいα−オレフィンは炭素数3〜8のものであり、具体的にはプロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等が挙げられる。更に好ましいα−オレフィンは炭素数4または炭素数6のものであり、具体的にはブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1が挙げられる。特に好ましいα−オレフィンは、ヘキセン−1である。
【0059】
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体中におけるエチレンとα−オレフィンの割合は、エチレン約70〜99.99重量%、α−オレフィン約0.01〜30重量%であり、好ましくはエチレン約80〜99.9重量%、α−オレフィン約0.1〜20重量%であり、より好ましくはエチレン約82〜99.2重量%、α−オレフィン約0.8〜18重量%であり、更に好ましくはエチレン約85〜99重量%、α−オレフィン約1〜15重量%であり、特に好ましくはエチレン約88〜98重量%、α−オレフィン約2〜12重量%である。エチレン含量がこの範囲内であれば、ポリエチレン系樹脂への改質効果が高い。
【0060】
共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであっても差し支えない。もちろん、エチレンやα―オレフィン以外のコモノマーを少量使用することも可能であり、この場合、スチレン、4−メチルスチレン、4−ジメチルアミノスチレン等のスチレン類、1,4−ブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等のジエン類、ノルボルネン、シクロペンテン等の環状化合物、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等の含酸素化合物類、等の重合性二重結合を有する化合物を挙げることができる。ただしジエン類を使用する場合は長鎖分岐構造や分子量分布が上記条件(3)〜(5)を満たす範囲内において使用しなくてはいけないことは言うまでもない。
【0061】
1−10.本発明のエチレン・α−オレフィンン共重合体の物性
本発明のエチレン・α−オレフィンン共重合体は、2〜50g、好ましくは4〜30g、より好ましくは5〜30g、更に好ましくは7〜20g、特に好ましくは8〜20gの溶融張力を有する。また、本発明のエチレン・α−オレフィンン共重合体は、110〜300g、好ましくは120〜300g、より好ましくは130〜300g、更に好ましくは130〜250gのダートドロップインパクト強度(DDI)を有する。ここで、当該「溶融張力」は、樹脂を加熱・溶融した際に発生する引張張力を表す弾性の指標であり、当該技術分野において公知の手法により測定することができる。また、「ダートドロップインパクト強度」は、樹脂の耐衝撃性を表す指標であり、当該技術分野において公知の手法により測定することができる。
【0062】
2.本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体の製法
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、少なくとも上記条件(1)〜(3)及び(5)〜(7)を全て満たすように製造して使用される。その製造は、オレフィン重合用触媒を用いてエチレンと上述のα−オレフィンとを共重合する方法によって実施される。
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体が有する上記の長鎖分岐構造、組成分布構造、MFR、密度に関する条件を同時に実現するための好適な製造方法例として、以下に説明する特定の触媒成分(A)、(B)及び(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いる方法を挙げることができる。
成分(A):遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物
成分(B):成分(A)の化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物
成分(C):無機化合物担体
【0063】
2−1.触媒成分(A)
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造するのに好ましい触媒成分(A)は、遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物であり、より好ましくは下記の一般式[1]で表されるメタロセン化合物であり、更に好ましくは下記の一般式[2]で表されるメタロセン化合物である。
【0064】
【化1】
【0065】
[但し、式[1]中、MはTi、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。Aはシクロペンタジエニル環(共役五員環)構造を有する配位子を、Aはインデニル環構造を有する配位子を、QはAとAを任意の位置で架橋する結合性基を示す。XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。]
【0066】
【化2】
【0067】
[但し、式[2]中、MはTi、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。Qはシクロペンタジエニル環とインデニル環を架橋する結合性基を示す。XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。10個のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示す。]
【0068】
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造するのに特に好ましい触媒成分(A)は、特開2013−227271号公報に記載された一般式(1c)で表されるメタロセン化合物である。
【0069】
【化3】
[但し、式(1c)中、、M1cは、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。X1cおよびX2cは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。Q1cとQ2cは、各々独立して、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示す。R1cは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示し、4つのR1cのうち少なくとも2つが結合してQ1cおよびQ2cと一緒に環を形成していてもよい。mは、0または1であり、mが0の場合、Q1cは、R2cを含む共役5員環と直接結合している。R2cおよびR4cは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示す。R3cは、下記一般式(1−ac)で示される置換アリール基を示す。]
【0070】
【化4】
【0071】
[但し、式(1−ac)中、Y1cは、周期表14族、15族または16族の原子を示す。R5c、R6c、R7c、R8cおよびR9cは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素若しくは窒素を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示し、R5c、R6c、R7c、R8cおよびR9cは隣接する基同士で結合して、それらに結合している原子と一緒に環を形成していてもよい。nは、0または1であり、nが0の場合、Y1cに置換基R5cが存在しない。pは、0または1であり、pが0の場合、R7cが結合する炭素原子とR9cが結合する炭素原子は直接結合している。Y1cが炭素原子の場合、R5c、R6c、R7c、R8c、R9cのうち少なくとも1つは水素原子ではない。]
【0072】
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造するのに最も好ましい触媒成分(A)は、特開2013−227271号公報に記載された一般式(2c)で表されるメタロセン化合物である。
【0073】
【化5】
【0074】
上記の一般式(2c)で示されるメタロセン化合物において、M1c、X1c、X2c、Q1c、R1c、R2cおよびR4cは、前述の一般式(1c)で示されるメタロセン化合物の説明で示した原子および基と同様な構造を選択することができる。また、R10cは前述の一般式(1c)で示されるメタロセン化合物の説明で示したR5c、R6c、R7c、R8c、R9cの原子および基と同様な構造を選択することができる。
【0075】
上記メタロセン化合物の具体例として、特開2013−227271号公報の一般式(4c)と表1c−1〜5、および一般式(5c)、(6c)と表1c−6〜9で記載された化合物を挙げることができるが、これらに限定するものではない。
【0076】
上記具体例の化合物はジルコニウム化合物またはハフニウム化合物であることが好ましく、ジルコニウム化合物であることが更に好ましい。
【0077】
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造するのに好ましい触媒成分(A)として、上述の架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物を2種以上用いることもできる。
【0078】
2−2.触媒成分(B)
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造するのに好ましい触媒成分(B)は、成分(A)の化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物であり、より好ましくは特開2013−227271号公報[0064]〜[0083]に記載された成分(B)であり、更に好ましくは同[0065]〜[0069]に記載された有機アルミニウムオキシ化合物である。
【0079】
2−3.触媒成分(C)
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造するのに好ましい触媒成分(C)は、無機化合物担体であり、より好ましくは特開2013−227271号公報[0084]〜[0088]に記載された無機化合物である。この時、無機化合物として好ましいのは該公報[0085]に記載された金属酸化物である。
【0080】
2−4.オレフィン重合用触媒の製法
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、上記触媒成分(A)〜(C)を含むオレフィン重合用触媒を用いてエチレンと上述のα−オレフィンとを共重合する方法によって好適に製造される。本発明の上記触媒成分(A)〜(C)からオレフィン重合用触媒を得る際の各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下に示す(I)〜(III)の方法が任意に採用可能である。
【0081】
(I)上記遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物である触媒成分(A)と、上記触媒成分(A)の化合物と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物である触媒成分(B)とを接触させた後、無機化合物担体である触媒成分(C)を接触させる。
(II)触媒成分(A)と触媒成分(C)とを接触させた後、触媒成分(B)を接触させ
る。
(III)触媒成分(B)と触媒成分(C)とを接触させた後、触媒成分(B)を接触させる。
【0082】
これらの接触方法の中で(I)と(III)が好ましく、さらに(I)が最も好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(通常炭素数は6〜12)、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族あるいは脂環族炭化水素(通常炭素数5〜12)等の液状不活性炭化水素の存在下、撹拌下または非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。この接触は、通常−100℃〜200℃、好ましくは−50℃〜100℃、さらに好ましくは0℃〜50℃の温度にて、5分〜50時間、好ましくは30分〜24時間、さらに好ましくは30分〜12時間で行うことが望ましい。
【0083】
また、触媒成分(A)、触媒成分(B)および触媒成分(C)の接触に際しては、上記した通り、ある種の成分が可溶ないしは難溶な芳香族炭化水素溶媒と、ある種の成分が不溶ないしは難溶な脂肪族または脂環族炭化水素溶媒とがいずれも使用可能である。
【0084】
各成分同士の接触反応を段階的に行う場合にあっては、前段で用いた溶媒などを除去することなく、これをそのまま後段の接触反応の溶媒に用いてもよい。また、可溶性溶媒を使用した前段の接触反応後、ある種の成分が不溶もしくは難溶な液状不活性炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素あるいは芳香族炭化水素)を添加して、所望生成物を固形物として回収した後に、あるいは一旦可溶性溶媒の一部または全部を、乾燥等の手段により除去して所望生成物を固形物として取り出した後に、この所望生成物の後段の接触反応を、上記した不活性炭化水素溶媒のいずれかを使用して実施することもできる。本発明では、各成分の接触反応を複数回行うことを妨げない。
【0085】
本発明において、触媒成分(A)、触媒成分(B)および触媒成分(C)の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
【0086】
触媒成分(B)として、有機アルミニウムオキシ化合物を用いる場合、触媒成分(A)中の遷移金属(M)に対する有機アルミニウムオキシ化合物のアルミニウムの原子比(Al/M)は、通常、1〜100,000、好ましくは100〜1000、さらに好ましくは210〜800、特に好ましくは250〜500の範囲が望ましく、また、ボラン化合物やボレート化合物を用いる場合、触媒成分(A)中の遷移金属(M)に対する、ホウ素の原子比(B/M)は、通常、0.01〜100、好ましくは0.1〜50、さらに好ましくは0.2〜10の範囲で選択することが望ましい。さらに、触媒成分(B)として、有機アルミニウムオキシ化合物と、ボラン化合物、ボレート化合物との混合物を用いる場合にあっては、混合物における各化合物について、遷移金属(M)に対して上記と同様な使用割合で選択することが望ましい。
【0087】
触媒成分(C)の使用量は、触媒成分(A)中の遷移金属0.0001〜5ミリモル当たり、好ましくは0.001〜0.5ミリモル当たり、より好ましくは0.01〜0.3ミリモル当たり、更に好ましくは0.02〜0.2ミリモル当たり、特に好ましくは0.026〜0.1ミリモル当たり1gである。
【0088】
また、本発明において、触媒成分(C)1gに対する触媒成分(B)の金属のモル数の割合は、好ましくは、0.0005〜0.01(モル/g)、より好ましくは、0.001〜0.008(モル/g)、更に好ましくは、0.001〜0.006(モル/g)、特に好ましくは、0.002〜0.005(モル/g)である。
【0089】
触媒成分(A)、触媒成分(B)および触媒成分(C)を、前記した接触方法(I)〜(III)を適宜選択して相互に接触させ、しかる後、溶媒を除去することで、オレフィン重合用触媒を固体触媒として得ることができる。溶媒の除去は、常圧下または減圧下、0〜200℃、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは20〜100℃で1分〜100時間、好ましくは10分〜50時間、更に好ましくは30分〜20時間で行うことが望ましい。
【0090】
なお、オレフィン重合用触媒は、以下に示す(IV)、(V)の方法によっても得ることができる。
(IV)触媒成分(A)と触媒成分(C)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物、ボレート化合物またはこれらの混合物と接触させる。
(V)触媒成分(B)である有機アルミニウムオキシ化合物、ボラン化合物、ボレート化合物またはこれらの混合物と触媒成分(C)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で触媒成分(A)と接触させる。
上記(IV)、(V)の接触方法の場合も、成分比、接触条件および溶媒除去条件は、前記と同様の条件が使用できる。
【0091】
また、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を得るのに好適なオレフィン重合用触媒として、触媒成分(A)と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる触媒成分(B)と触媒成分(C)とを兼ねる成分として、特開平05−301917号公報、同08−127613号公報等に記載されてよく知られている層状珪酸塩を用いることもできる。層状珪酸塩とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる珪酸塩化合物である。大部分の層状珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状珪酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0092】
これらの中では、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が好ましい。
【0093】
触媒成分(A)と層状珪酸塩担体の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。触媒成分(A)の担持量は、層状珪酸塩担体1gあたり、0.0001〜5ミリモル、好ましくは0.001〜0.5ミリモル、さらに好ましくは0.01〜0.1ミリモルである。
【0094】
こうして得られるオレフィン重合用触媒は、必要に応じてモノマーの予備重合を行った後に使用しても差し支えない。
【0095】
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を得るための特に好適なオレフィン重合用触媒として、成分(A)として遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物、成分(B)として有機アルミニウムオキシ化合物、、成分(C)として特定の金属酸化物担体を含み、成分(C)1gに対する成分(A)の遷移金属のモル数の割合が0.026〜0.1ミリモル、触媒成分(B)の金属のモル数の割合が0.002〜0.005(モル/g)を満たす場合であることを前述したが、これ以外の好適な触媒として、触媒成分(A)、(B)、(C)を含むオレフィン重合用触媒であって、固体触媒成分1重量部に対して、炭化水素化合物を0.04〜200重量部、好ましくは0.04〜100重量部、より好ましくは0.05〜60重量部、更に好ましくは0.2〜60重量部含有するオレフィン重合触媒を挙げることができる。
【0096】
ここで使用される炭化水素化合物としては、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素、ケイ素含有炭化水素が挙げられ、好ましくは、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素が挙げられ、炭化水素化合物の炭素数としては、1〜40が好ましく、具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、インデン、テトラヒドロインデン、テトラリン、ミネラルオイル、流動パラフィン、ポリブテンなどが挙げられる。
これらの中でも、好ましくは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラリン、ミネラルオイル、流動パラフィン、ポリブテンであり、さらに好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、テトラリン、ミネラルオイル、流動パラフィン、ポリブテンである。
【0097】
2−5.エチレン・α−オレフィン共重合体の重合方法
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、好適には上記2−4に記載された製法により準備されたオレフィン重合用触媒を用いて、エチレンと上述のα−オレフィンとを共重合して製造される。
【0098】
コモノマーであるα−オレフィンとしては、上述したように、炭素数3〜10のα−オレフィンが使用可能であり、2種類以上のα−オレフィンをエチレンと共重合させることも可能であり、該α−オレフィン以外のコモノマーを少量使用することも可能である。
【0099】
本発明において、上記共重合反応は、好ましくは気相法またはスラリー法にて、行うことができる。気相重合の場合、実質的に酸素、水等を断った状態で、エチレンやコモノマーのガス流を導入、流通、または循環した反応器内においてエチレン等を重合させる。また、スラリー重合の場合、イソブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下または不存在下で、エチレン等を重合させる。また、液状エチレンや液状プロピレン等の液体モノマーも溶媒として使用できることは言うまでもない。本発明において、更に好ましい重合は、気相重合である。重合条件は、温度が0〜250℃、好ましくは20〜110℃、更に好ましくは60〜100℃であり、圧力が常圧〜10MPa、好ましくは常圧〜4MPa、更に好ましくは0.5〜2MPaの範囲にあり、重合時間としては5分〜20時間、好ましくは30分〜10時間が採用されるのが普通である。
【0100】
本願発明の特徴の一つである、適切な範囲の長鎖分岐及び比較的広い逆コモノマー組成分布の共重合体を得るためには、用いる触媒成分(A)と触媒成分(B)の種類の選定のほか、更に触媒(A)(B)のモル比や、(A)と(C)のモル比、(B)と(C)のモル比、重合温度、エチレン分圧、H2/C2比、コモノマー/エチレン比等の重合条件を変えることによって、適宜調節することができる。
特に本発明の特徴である、適度な長鎖分岐構造と広い逆コモノマー組成分布等を示すための触媒成分の調整方法としては、下記の(1)、(2)又は(3)の方法が挙げられる。
【0101】
(1)触媒成分(C)に対する触媒成分(B)の量を小さく保つ(例えば、成分(C)1gに対する成分(B)の金属のモル数の割合を、0.001〜0.006(モル/g)とする)とともに、触媒成分(C)に対する触媒成分(A)の量を多く(例えば、(C)1gに対する成分(A)中の遷移金属が0.005〜0.1mmol)とする方法。
(2)水分含量の高いガス(露点の高い窒素、エチレン、水素、炭化水素化合物等)の存在下、重合を実施する方法。
(3)上記触媒成分(A)(B)(C)以外に上記炭化水素化合物を必須使用する方法。
【0102】
具体的には、例えば、本願実施例1記載の錯体を用いた場合、触媒の調整方法としては、錯体/シリカ=20〜200μmol/g、有機アルミニウムオキシ化合物/シリカ=0.5〜10mmol/g、調整剤(炭化水素化合物)の使用は任意であり、重合条件60〜90℃、エチレン分圧0.3〜2.0MPa、H2/C2%=0.005〜2.0%、C6/C2=0.005〜1.0%の範囲で適宜設定する方法、露点が−70℃〜−30℃の窒素やエチレンの存在下で重合を行う方法、又は、流動パラフィン等の炭化水素化合物である調整剤を必須使用とする方法が挙げられる。
また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。
なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、前記有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。
【0103】
本願発明の特徴の一つである生成共重合体の長鎖分岐構造(すなわちg)やコモノマー共重合組成分布(すなわちXやW〜W)は、触媒成分(A)や触媒成分(B)の種類によって概略その範囲が定まるが、、触媒のモル比、重合温度や圧力、時間等の重合条件や重合プロセスを変えることによって調節可能である。長鎖分岐構造を形成しやすい触媒成分種を選択しても、例えば重合温度を下げたりエチレン圧力を上げたりして長鎖分岐構造の少ない共重合体を製造することも可能である。また、分子量分布や共重合組成分布の広い触媒成分種を選択しても、例えば触媒成分モル比、重合条件や重合プロセスを変えることによって分子量分布や共重合組成分布の狭い共重合体が製造することがあるので注意を要する。
【0104】
水素濃度、モノマー量、重合圧力、重合温度等の重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式においても、重合条件を適切に設定するならば、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造することが可能であり得るだろうが、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、一段階重合反応により製造される場合、複雑な重合運転条件を設定することなく、より経済的に製造できるので好ましい。
【0105】
3−1.オレフィン系樹脂組成物
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、その優れた加工特性等のより、他のオレフィン系樹脂と共に含有して、オレフィン系樹脂組成物に用いることができる。他のオレフィン系樹脂としては、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(以下、「エチレン・α−オレフィン共重合体(A)」と称する)とは異なる他のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)などのエチレン系樹脂、その他オレフィン系樹脂が挙げられる。樹脂組成物中のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)の含有量は、樹脂組成物100重量%中1〜59重量%、更に好ましくは1〜49重量%、更に好ましくは3〜39重量%が好ましい。
【0106】
3−2 他のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)
他のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)としては、長鎖分岐構造を実質的には有さず、分子構造が線状であり、たとえばチーグラー系触媒により得られる線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、またはメタロセン系触媒により得られる、分子構造が線状であり分子量分布が更に狭いメタロセン系ポリエチレンが挙げられる。
特に好ましくは、下記物性(B−1)および(B−2)を満たすエチレン・α−オレフィン共重合体を用いると、最終的な組成物の物性の点で好ましい。
(B−1)MFR=0.01〜20g/10分
(B−2)密度=0.880〜0.970g/cm
更に、他のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)として下記物性(B−3)を満たすメタロセン系ポリエチレンを用いることが好ましい。
(B−3)Mw/Mn=2.0〜4.0
なお、MFR、密度、Mw/Mnの定義は上述の共重合体(A)の定義と同様である。
1−1.条件(B−1)
エチレン・α−オレフィン共重合体(B)のメルトフローレイト(MFR)は0.01〜20.0g/10分であり、0.1〜5.0g/10分が好ましい。さらに(B)として、チーグラー系触媒で得られる比較的分子量分布の広い(後述するQ値でいうと3.0超〜の値を示すことが多い)共重合体を用いる場合には、0.3〜3.0g/10分の範囲が、より好ましく、一方(B)として、メタロセン系触媒で得られる比較的分子量分布の狭い(後述するQ値でいうと2.0以上〜3.0以下の値を示すことが多い)共重合体を用いる場合には、0.3〜4.0g/10分の範囲が、より好ましい。MFRが低過ぎると、成形加工性が劣り、一方、MFRが高過ぎると、耐衝撃性、機械的強度等が低下する恐れがある。
【0107】
1−2.条件(B−2)
また、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の密度は、0.880〜0.970g/cmであり、0.880〜0.950g/cmが好ましく、0.890〜0.940g/cmがより好ましい。密度がこの範囲内にあると、耐衝撃性と剛性のバランスが優れる。また、密度が低過ぎると、剛性が低下し、自動製袋適性を損なう恐れがある。一方、密度が高過ぎると、耐衝撃性を損なう恐れがある。
【0108】
1−3.条件(B−3)
さらに、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比[Mw/Mn](以下、Q値ともいう。)は2.0〜10.0である。Q値が2.0未満の場合、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)と他の重合体成分が混ざり難い可能性がある。Q値が10.0を超えると、耐衝撃性の改良効果が充分でなく、耐衝撃性と剛性のバランスが損なわれる。耐衝撃性と剛性のバランス上、Q値の上限は、好ましくは7.5以下、より好ましくは5.0以下である。Q値の下限は、好ましくは2.3以上、より好ましくは2.5以上である。
なお、(B)として、チーグラー系触媒で得られる共重合体を用いる場合には、Q値が3.0超〜5.0g/10分、メタロセン系触媒で得られる共重合体を用いる場合には、2.0〜4.0g/10分のQ値を有することが好ましい。なお、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比[Mw/Mn]は、以下の条件(以下、「分子量分布の測定方法」と言うこともある)で測定した時の値をいう。Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で定義されるものである。
【0109】
1−4.エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の組成
エチレン・α−オレフィン共重合体(B)成分は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体である。ここで用いられる共重合成分であるα−オレフィンとしては、前述のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)で用いたものと同様である。
【0110】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)におけるエチレンとα−オレフィンの割合は、エチレン約80〜100重量%、α−オレフィン約0〜20重量%であり、好ましくはエチレン約85〜99.9重量%、α−オレフィン約0.1〜15重量%であり、より好ましくはエチレン約90〜99.5重量%、α−オレフィン約0.5〜10重量%であり、更に好ましくはエチレン約90〜99重量%、α−オレフィン約1〜10重量%である。エチレン含量がこの範囲内であれば、ポリエチレン系樹脂組成物や該成形体の剛性と衝撃強度のバランスがよい。
【0111】
1−5.エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の製法
エチレン・α−オレフィン共重合体(B)は、オレフィン重合用触媒を用いてエチレンを単独重合または上述のα−オレフィンと共重合する方法によって実施される。
オレフィン重合用触媒としては、今日様々な種類のものが知られており、該触媒成分の構成および重合条件や後処理条件の工夫の範囲内において上記エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が準備可能であれば何ら制限されるものではないが、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の製造に好適な、工業レベルにおける経済性を満足する技術例として、以下の(i)〜(ii)で説明する遷移金属を含む具体的なオレフィン重合用触媒の例を挙げることができる。
(i)チーグラー触媒
エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の製造に好適なオレフィン重合用触媒の例として、遷移金属化合物と典型金属のアルキル化合物等の組み合わせからなるオレフィン配位重合触媒としてのチーグラー・ナッタ触媒が挙げられる。とりわけマグネシウム化合物にチタニウム化合物を担持させた固体触媒成分と有機アルミニウム化合物を組み合わせたいわゆるMg−Ti系チーグラー触媒(例えば、「触媒活用大辞典;2004年工業調査会発行」、「出願系統図―オレフィン重合触媒の変遷―;1995年発明協会発行」等を参照)は安価で高活性かつ重合プロセス適性に優れることから好適である。
【0112】
(ii)メタロセン触媒
エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の製造に好適な重合触媒の例として、メタロセン系遷移金属化合物と助触媒成分からなるオレフィン重合触媒であるメタロセン触媒(例えば、「メタロセン触媒による次世代ポリマー工業化技術(上・下巻);1994年インターリサーチ(株)発行」等を参照)は、比較的安価で高活性かつ重合プロセス適性に優れ、更には分子量分布および共重合組成分布が狭いエチレン系重合体が得られることから使用される。
【0113】
II.オレフィン系樹脂組成物
以下に、主に本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)と、A以外の他のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)からなる樹脂組成物であって、主にフィルム用途に適したオレフィン系樹脂組成物について、詳述する。
具体的には、フィルム用、シート用のオレフィン系樹脂組成物としては、本発明の特定のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)を1〜49重量%、他のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)を99〜51重量%、好ましくは(A)を3〜35重量%、(B)を75重量%〜97重量%、場合により更に好ましくは他のオレフィン系樹脂成分(C)を1〜30重量%添加してなる組成物が挙げられる。
【0114】
1.MFR
上記成分(A)及び(B)からなる、フィルム用のオレフィン系樹脂組成物のMFRは、0.01〜20g/10分の範囲であることが必要であり、好ましくは0.05〜10g/10分であり、より好ましくは0.10〜5g/10分である。
MFRが0.01g/10分より低いと、流動性が悪く、押出機のモーター負荷が高くなりすぎ、一方、MFRが20g/10分より大きくなると、バブルが安定せず、成形し難くなると共に、フィルムの強度が低くなる。
なお、オレフィン系樹脂組成物のMFRは、JIS K 7210に準拠し、190℃、21.18N(2.16kg)荷重の条件で測定される値であるが、おおよそのMFRは成分(A)、(B)のそれぞれのMFRと割合から、加成則に従って算出することが出来る。
【0115】
2.密度
上記成分(A)及び(B)からなる、本発明のオレフィン系樹脂組成物の密度は、0.910〜0.950g/cmの範囲であることが必要であり、好ましくは0.910〜0.945g/cmであり、より好ましくは0.915〜0.940g/cmである。
オレフィン系樹脂組成物の密度が0.910g/cmより低いと、フィルムの剛性が低くなり、自動製袋機適性が悪化する。また、オレフィン系樹脂組成物の密度が0.950g/cmより高いと、フィルムの強度が低下する。
なお、オレフィン系脂組成物の密度は、成分(A)、(B)のそれぞれの密度と割合から、加成則に従って算出することが出来る。
【0116】
3.成分(A)、(B)のMFRの関係
上記成分(A)と(B)からなる、本発明のオレフィン系樹脂組成物を作成するにあたっては、上記成分(A)と(B)のMFRの関係として、MFR>MFR、または20>MFR/MFR>1.0であることが好ましく、より好ましくは15.0>MFR/MFR>1.0であり、より好ましくは10.0>MFR/MFR>1.0である。
上記成分(A)と(B)のMFRの関係がMFR>MFRであると、上記成分(A)の添加によりバブルがより安定する。また、20>MFR/MFR>1.0であることにより、上記成分(B)の添加によるインフレーション成形時にバブルが安定し、加工特性が向上する。
【0117】
4.成分(A)、(B)の[Mw/Mn]の関係
上記成分(A)と(B)からなる、本発明のオレフィン系樹脂組成物を作成するにあたっては、上記成分(A)と(B)の[Mw/Mn]の関係として、[Mw/Mn]<[Mw/Mn]であることが好ましい。
上記成分(A)、(B)の[Mw/Mn]の関係が[Mw/Mn]<[Mw/Mn]であると、上記成分(B)の添加によるインフレーション成形時のバブルが安定し、加工特性が向上する。
【0118】
6.その他の配合物等
本発明においては、本発明の特徴を損なわない範囲において、必要に応じ、帯電防止剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、核剤、滑剤、防曇剤、有機あるいは無機顔料、紫外線防止剤、分散剤などの公知の添加剤を、添加することが出来る。
【0119】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、上記のエチレン・α−共重合体(A)、他のオレフィン系樹脂、必要に応じて、添加又は配合される各種の添加剤及び樹脂成分を、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダー等で加熱混練し、ペレット化してもよい。
【0120】
III.エチレン・α−オレフィン共重合体(A)又はオレフィン系樹脂組成物の用途
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)は、特に成形加工特性と機械的強度の点で優れており、他のオレフィン系樹脂に添加する樹脂改質材として使用することができるし、単独の重合体としてもフィルム等への成形が可能であるため、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体(A)、又はそれを含有したオレフィン系樹脂組成物は、公知の成形方法、たとえばインフレーション成形法やTダイフィルム成形法などの押出成形法、射出成型法、圧縮成型法などにより、各種成形体に成形され利用される。
本発明の共重合体(A)又はポリエチレン系樹脂組成物の成形体は、上記共重合体(A)又は上記[II]に記載された本発明のポリエチレン系樹脂組成物を成形することによって製造され、その成形の方法は、従来知られている成形方法のいずれをも参照することが可能である。
【0121】
本発明の成形体の成形方法については、本発明のポリエチレン系樹脂組成物の優れた成形加工特性や機械的諸特性、透明性を有効に活用できる方法であれば特に制限されるものではないが、本発明のポリエチレン系樹脂組成物の主に意図したる用途の一例であるフィルム、袋、シートの場合、その好ましい成形方法、成形条件、用途として、各種のインフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、カレンダー成形法、多層共押出成形機やラミネート処理による多層フィルム成形法等および各種用途を具体的に挙げることができる。
【0122】
このようにして得られる製品のフィルム(又はシート)の厚みは特に制限されず、成形方法・条件により好適な厚みは異なる。たとえば、インフレーション成形の場合、5〜300μm程度であり、Tダイ成形の場合、5μm〜5mm程度のフィルム(又はシート)とすることができる。更に、本発明のポリエチレン系樹脂組成物の用途として、他のポリエチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂組成物や、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂に適量ブレンドして、成形加工性向上や、機械的強度向上等の改質材として使用できる。
【実施例】
【0123】
以下においては、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明し、本発明の卓越性と本発明の構成における優位性を実証するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において使用した測定方法は、以下の通りである。また、以下の触媒合成工程および重合工程は、すべて精製窒素雰囲気下で行い、かつ、使用した溶媒は、モレキュラーシーブ4Aで脱水精製したものを用いた。
【0124】
[フィルムの評価方法]
(1)引張弾性率:
JIS K7127−1999に準拠して、フィルムの加工方向(MD方向)とフィルムの幅方向(TD方向)の1%変形したときの引張弾性率を測定した。
(2)ダート落下衝撃強度(DDI)
JIS K 7124 1 A法に準拠して測定した。
[樹脂の評価方法]
(1)溶融張力
東洋精機製作所製キャピログラフを用い、炉内で190℃で加熱安定された樹脂を内径2.095mm、長さ8mmのオリフィスから1cm/minのピストン速度で押し出し、押し出された溶融樹脂を4m/minの速度で引っ張り、その時に生じた抵抗力を測定し、溶融張力値とした。
【0125】
[インフレーションフィルムの成形条件]
以下の50mmφ押出機を有するインフレーションフィルム製膜機(成形装置)を用いて、下記の成形条件で、インフレーションフィルムを成形し、評価した。
装置:インフレーション成形装置
押出機スクリュー径:50mmφ
ダイ径:75mmφ
押出量:15kg/hr
ダイリップギャップ:3.0mm
引取速度:12.0m/分
ブローアップ比:2.0
成形樹脂温度:170−190℃(実施例に記載)
フィルム厚み:50μm
【0126】
〔実施例1〕
(1)架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物の合成;
ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを、特開2013−227271号公報[0140]〜[0143]記載の方法に従い合成した。
【0127】
(i)メタロセン化合物A:ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドの合成
(1−1)4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデンの合成
500mlフラスコに、4−トリメチルシリルフェニルボロン酸10.0g(51.5mmol)とジメトキシエタン200mlを加え溶液とした後、リン酸カリウム27.3g(128mmol)、水100ml、4−ブロモインデン8.37g(43.0mmol)、トリフェニルホスフィン0.22g(0.86mmol)、PdCl(PPh 0.300g(0.430mmol)を順に加え、12時間攪拌還流した。室温まで冷却し水100mlを加えた。有機相を分離した後、水相を酢酸エチル100mlで2回抽出し、得られた有機相を混合して食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加え有機相を乾
燥させた。硫酸ナトリウムを濾過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデンの黄色液体9.0g(収率79%)を得た。
【0128】
(1−2)(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルシランの合成
200mlフラスコに、4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデン16.2g(61.2mmol)とTHF100mlを加え溶液とした後、−78℃に冷却してn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.5M)29.4ml(173.5mmol)を加え、室温に戻して4時間攪拌した。別途用意した300mlフラスコにジメチルジクロロシラン14.8ml(122mmol)とTHF20mlを加え溶液とし、−78℃に冷却して先の反応溶液を加えた。室温に戻して12時間攪拌した。揮発物を減圧留去で除くことで黄色溶液21.8gが得られた。この黄色溶液にTHF80mlを加えて溶液とし、−30℃でCpNa/THF溶液(2M)36.7ml(73.5mmol)を加えた。室温に戻して1時間攪拌し、氷水100mlを加えた。酢酸エチル100mlで2回抽出し、得られた有機相を混合して食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを加え有機相を乾燥させた。硫酸ナトリウムを濾過し、溶媒を減圧留去して、シリカゲルカラムで精製し、(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルシランの黄色液体12.0g(収率51%)を得た。
【0129】
(1−3)ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドの合成
300mlフラスコに、(4−(4−トリメチルシリルフェニル)インデニル)(シクロペンタジエニル)ジメチルシラン1.20g(3.00mmol)、ジエチルエーテル20mlを加え、−70℃まで冷却した。ここに2.5mol/Lのn−ブチルリチウム−n−ヘキサン溶液2.60ml(6.60mmol)を滴下した。滴下後、室温に戻し2時間撹拌した。反応液の溶媒を減圧で留去し、ジクロロメタン30mlを加え、ドライアイス−メタノール浴で−70℃まで冷却した。そこに、四塩化ジルコニウム0.770g(3.30mmol)を加えた。その後、徐々に室温に戻しながら一夜撹拌した。反応液をろ過して得られたろ液から溶媒を減圧で留去することで、黄色粉末がえら得た。この粉末をトルエン10mlで再結晶し、ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリルフェニル)インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドを黄色結晶として0.500g(収率31%)得た。
【0130】
H−NMR値(CDCl):δ0.21(s,3H),δ0.23(s,9H),δ0.43(s,3H),δ5.48(m,1H),δ5.51(m,1H),δ5.81(d,1H),δ6.60(m,1H),δ6.66(m,1H),δ6.95(dd,1H),δ7.13(s,1H),δ7.39(dd,2H),δ7.57(d,2H),δ7.95(d,2H)。
【0131】
(2)オレフィン重合用触媒の合成;
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに400℃で5時間焼成したシリカ30グラムを入れ、次いで脱水トルエン195mlを追加してスラリーとした。別途用意した200ml二口フラスコに窒素雰囲気下で、(1)で合成したジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド820ミリグラムを入れ、脱水トルエン161mlで溶解した後、更に室温でアルベマール社製の20%メチルアルミノキサン/トルエン溶液49.7mlを加え30分間撹拌した。シリカのトルエンスラリー液の入った500ml三口フラスコを40℃のオイルバスで加熱および撹拌しながら、上記ジルコノセン錯体とメチルアルミノキサンの反応物のトルエン溶液を全量加えた。40℃で1時間撹拌した後、40℃に加熱したまま15分静沈して上澄み224mlを除去し、次いでトルエン溶媒を減圧留去して粉状触媒を得た。
(3)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
上記(2)で得た粉状触媒を使用してエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。すなわち、温度75℃、ヘキセン/エチレンモル比0.46%、水素/エチレンモル比0.29%、窒素濃度を26mol%、全圧を0.8MPaに準備された気相連続重合装置(内容積100L、流動床直径10cm、流動床種ポリマ−(分散剤)1.8kg)に該粉状触媒を0.62g/時間の速さで間欠的に供給しながらガス組成と温度を一定にして重合を行った。また、系内の清浄性を保つためトリエチルアルミニウム(TEA)のヘキサン稀釈溶液0.03mol/Lを15.7ml/hrでガス循環ラインに供給した。その結果、生成ポリエチレンの平均生成速度は338g/時間となった。累積5kg以上のポリエチレンを生成した後に得られたエチレン・1−ヘキセン共重合体のMFRと密度は各々0.3g/10分、0.921g/cmであった。結果を表3に示した。
【0132】
〔実施例2〕
エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)で得た粉状触媒を使用して、表2に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0133】
〔実施例3〕
エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)で得た粉状触媒を使用して、表2に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0134】
〔実施例4〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに400℃で5時間焼成したシリカ30グラムを入れ、次いで脱水トルエン195mlを追加してスラリーとした。別途用意した200ml二口フラスコに窒素雰囲気下で、実施例1(1)で合成したジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド410ミリグラムを入れ、脱水トルエン80.4mlで溶解した後、更に室温でアルベマール社製の20%メチルアルミノキサン/トルエン溶液48.2mlを加え30分間撹拌した。シリカのトルエンスラリー液の入った500ml三口フラスコを40℃のオイルバスで加熱および撹拌しながら、上記ジルコノセン錯体とメチルアルミノキサンの反応物のトルエン溶液を全量加えた。40℃で1時間撹拌した後、40℃に加熱したまま15分静沈して上澄み224mlを除去し、次いでトルエン溶媒を減圧留去して粉状触媒を得た。この粉状触媒に室温でトルエン25重量部を含浸させて流動性のよい粉状触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表2に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0135】
〔実施例5〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
実施例4(1)でトルエン25重量部の代わりに、テトラリン28重量部を含浸させて流動性のよい粉状触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表2に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0136】
〔実施例6〕
エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
表2に記載の条件以外は、実施例5(2)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0137】
〔実施例7〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに400℃で5時間焼成したシリカ30グラムを入れ、次いで脱水トルエン195mlを追加してスラリーとした。別途用意した200ml二口フラスコに窒素雰囲気下で、実施例1(1)で合成したジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド412ミリグラムを入れ、脱水トルエン80.7mlで溶解した後、更に室温でアルベマール社製の20%メチルアルミノキサン/トルエン溶液78.9mlを加え30分間撹拌した。シリカのトルエンスラリー液の入った500ml三口フラスコを40℃のオイルバスで加熱および撹拌しながら、上記ジルコノセン錯体とメチルアルミノキサンの反応物のトルエン溶液を全量加えた。40℃で1時間撹拌した後、40℃に加熱したまま15分静沈して上澄み221mlを除去し、次いでトルエン溶媒を減圧留去して粉状触媒を得た。この粉状触媒に室温で流動パラフィン(MORESCO社製;商品名モレスコホワイトP−120)9重量部を含浸させ、よく混合して流動性のよい粉状触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表2に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0138】
〔実施例8〕
エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
表2に記載の条件以外は、実施例7(2)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0139】
〔実施例9〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド820ミリグラムの代わりに、ジメチルシリレン(3−t−ブチル−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド682ミリグラムを使用した以外は、実施例1(2)と同様にして粉状触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表2に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0140】
〔実施例10〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド820ミリグラムの代わりに、ジメチルシリレン(3−メチル−4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドジメチルシリレン(3−t−ブチル−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド841ミリグラムを使用した以外は、実施例1(2)と同様にして粉状触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表1に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0141】
〔実施例11〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
表1に記載の条件以外は、実施例7(1)と同様にして粉状触媒を得た。ただし、流動パラフィンは使用しなかった。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
上記(2)で得た粉状触媒を使用して、表1に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。ただし、使用した窒素の露点は−59℃と高い値であった。結果を表3に示した。
【0142】
〔実施例12〕エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例11(1)の粉状触媒と脱水流動パラフィン(含水量3ppm以下)とのスラリー触媒(粉状触媒濃度15%)を粉状触媒の代わりに使用して、表1に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0143】
〔実施例13〕エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例12で、エチレン分圧1.5MPa(すなわち約3.1倍)、TEA供給量0.05mmol/hrとし、表1に記載の条件以外は、実施例12と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0144】
〔比較例1〕
エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
特開2012−214781号公報の実施例8a(1)に記載のオレフィン重合用触媒及びエチレン系重合体(B−8)の製造方法と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0145】
〔比較例2〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
流動パラフィンを使用しなかった以外は、実施例7(1)と同様にして粉状触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表1に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0146】
〔比較例3〕
(1)オレフィン重合用触媒の処理
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに、比較例2(1)で得た粉状触媒のうち32gを入れ、脱水ヘキサン195mlと脱水流動パラフィン(MORESCO社製;商品名モレスコホワイトP−120)13.5gの混合液を室温で加えて10分撹拌した後、40℃で溶媒を減圧留去して再び粉状触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表1に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0147】
〔比較例4〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成;
ジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドの代わりに、ジメチルシリレンビスインデニルジルコニウムジクロリド338ミリグラムを使用した以外は、比較例1と同様にして粉状のオレフィン重合用触媒を得た。
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
実施例1(2)の粉状触媒の代わりに、上記(1)で得た粉状触媒を使用して、表2に記載の条件以外は、実施例1(3)と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0148】
〔比較例5〕
長鎖分岐を有する市販のエチレン系重合体(住友化学社製CU5001;MFR=0.3g/10分、密度0.922g/cm)の分析結果を表3に示した。
【0149】
〔比較例6〕
エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
表1に記載の条件以外は、特開2012−214781号公報の実施例1a(1)に記載のエチレン系重合体(A−1)の製造方法と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0150】
〔比較例7〕
エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造;
表1に記載の条件以外は、特開2012−214781号公報の実施例1a(1)に記載のエチレン系重合体(A−1)の製造方法と同様にしてエチレン・1−ヘキセン気相連続共重合を行った。結果を表3に示した。
【0151】
〔参考例1〕
市販の高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製LF240;MFR=0.7g/10分、密度0.924g/cm)の分析結果を表3に示した。
【0152】
【表2】
【0153】
【表3】
【0154】
【表4】
【0155】
〔成形実験〕
本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体の優れた成形加工特性を確認するために溶融張力の測定を行った。その結果を表3に、また溶融張力(MT)とMFRとの関係を図6に示した。図6におけるMFRに対するプロットから明らかなように、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体である実施例1〜実施例13で得られた重合体の溶融張力は、本発明ではない比較例1〜比較例7の重合体に比べて高い溶融張力を有しており、フィルム成形性や中空成形性等に優れることが分かるであろう。
【0156】
また、実施例1、6、10、及び11〜13の共重合体よりなるフィルムを作成し、ダートドロップインパクト強度(DDI)を測定した結果を、比較例の結果と併せて表4に示す。この結果、本発明の共重合体よりなるフィルムは、溶融張力が9.0以上かつDDIが160以上であり、溶融張力とともに優れた衝撃強度を併せ持つことが示された。
【0157】
なお、表3において、比較例5の重合体は、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体と同等の溶融張力を示したが、Mw/Mnが大きく、gが小さ過ぎたり、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体の要件である条件(6)や条件(7)を満たさないため、成形体の強度が本発明に比べて劣る。このことを示すため、次のフィルム成形評価を実施した。
すなわち、ほぼ同じMFRと密度を有する実施例1と比較例8の重合体各々30%を市販のエチレン系重合体(日本ポリエチレン社製UF230;MFR=1.1g/10分、密度0.921g/cm。エチレン・1−ブテン共重合体)にブレンドし、上述の条件にてインフレーションフィルム成形を実施した。その結果、実施例1で得られたフィルムのダートドロップインパクト強度(DDI)が285gであったのに対し、比較例8のフィルムは240gと低かった。 以上から、本発明における構成の要件の合理性と有意性、及び本発明の従来技術に対する優越性が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0158】
以上から明らかなように、本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、成形加工特性に優れ、同時に、衝撃強度と剛性等の機械的強度にも優れるので、薄肉化された成形製品を経済的に有利に提供することが可能である。
したがって、このような望ましい特性を有する成形製品を経済的に有利に提供することのできる本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体の工業的価値は極めて大きい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7