特許第6569680号(P6569680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569680
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】プライマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 115/02 20060101AFI20190826BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20190826BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20190826BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20190826BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C09D115/02
   C09D5/00 D
   C09D7/63
   C09D7/65
   C09D175/04
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-547768(P2016-547768)
(86)(22)【出願日】2015年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2015071202
(87)【国際公開番号】WO2016039029
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年7月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-182541(P2014-182541)
(32)【優先日】2014年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】福井 宏
(72)【発明者】
【氏名】福島 圭佑
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−234304(JP,A)
【文献】 特開2012−052022(JP,A)
【文献】 特開2014−122302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩化ゴム、(B)チオール基を含有するシランカップリング剤、(C)NH基を有する多官能イソシアネート、(D)NHを有さない多官能イソシアヌレート、(E)2価または4価の有機錫系触媒、および(F)溶剤を主成分とし、
前記(B)チオール基を含有するシランカップリング剤が有するSH基と、前記(C)NH基を有する多官能イソシアネートが有するNCO基との数の比が0.6〜1.5:1.0であり、
50mm×50mm、厚さ3mmの陽極酸化処理を施したアルミニウム基板の表面に塗布し、23℃、相対湿度(RH):50%の条件下、30分間放置して硬化させた後、JIS A 1439:2010 532項に基づいてH型試験片を作成し、さらに変成シリコーン系シーリング材を塗布して得られた試験片を23±2℃で72時間養生した後、50℃環境において前記試験片に垂直方向へ30%の伸張を加えたときに、前記変成シリコーン系シーリング材の層との間に剥離が無い層を形成することができ、
前記アルミニウム基板の表面に塗布し、23℃、相対湿度(RH):50%の条件下、30分間放置して硬化させた後、さらに変成シリコーン系シーリング材を3mm厚に塗布して得られた試験片を20℃で72時間養生し、さらに50℃で168時間養生した後、50℃の温水に168時間浸漬し、前記変成シリコーン系シーリング材の層にナイフカットによる手剥離試験を施したときに、前記変成シリコーン系シーリング材の層との間に剥離が無い層を形成することができる、
プライマー組成物。
【請求項2】
前記(D)NHを有さない多官能イソシアヌレートがHDI/TDIイソシアヌレート化合物を含む、請求項に記載のプライマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、プラスチック、コンクリート等からなる各種部材(例えば、アルミサッシ、塩ビ製配管、モルタル、コンクリートなどの建築用部材)に対してシーリング材を施工する場合、部材への密着力を強化すること等を目的として、予めプライマー組成物を塗布し、その後、シーリング材を塗布することが、従来、行われている。
【0003】
これに関連する従来法として、例えば特許文献1には、加水分解性シリル基を有するビニル系共重合体(A)100重量部に対して、架橋剤としてイソシアナート基を2個以上含有する化合物(B)0.1〜80重量部と、有機金属化合物(C)0.1〜30重量部含有することを特徴とするプラスチック用塗料組成物が記載されている。そして、このような組成物は、常温または加熱で硬化性を有し、アクリルシリコン樹脂塗料の優れた耐汚染性と密着性、耐溶剤性、耐衝撃性、加工性を同時に有する塗装物を提供できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−155801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような各種部材の表面にプライマー組成物を塗布し、その後、変成シリコーン系シーリング材を塗布した場合、プライマー組成物の皮膜における表面のぬれ性が低く、シーリング材に対する接着性が低くなる場合があった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明の目的は、変成シリコーン系シーリング材との接着性が高いプライマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(4)である。
(1)(A)塩化ゴム、(B)シランカップリング剤、(C)NH基を有する多官能イソシアネート、(D)NHを有さない多官能イソシアヌレート、(E)触媒、および(F)溶剤を主成分とするプライマー組成物。
(2)(B)シランカップリング剤が有するSH基と、(C)NH基を有する多官能イソシアネートが有するNCO基との数の比が0.5〜1.5:1.0である、上記(1)に記載のプライマー組成物。
(3)前記(B)シランカップリング剤がチオール基または芳香族アミンを含有するものである、上記(1)または(2)に記載のプライマー組成物。
(4)前記(D)NHを有さない多官能イソシアヌレートがHDI/TDIイソシアヌレート化合物を含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプライマー組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、変成シリコーン系シーリング材との接着性が高いプライマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について説明する。
本発明は、(A)塩化ゴム、(B)シランカップリング剤、(C)NH基を有する多官能イソシアネート、(D)NHを有さない多官能イソシアヌレート、(E)触媒、および(F)溶剤を主成分とするプライマー組成物である。
このようなプライマー組成物を、以下では「本発明の組成物」ともいう。
【0010】
<(A)塩化ゴム>
本発明の組成物が含有する(A)塩化ゴムについて説明する。
本発明の組成物において(A)塩化ゴムは、天然ゴムや合成ゴム等の原料を四塩化炭素等の塩素に不活性な塩素系の溶剤に溶解させて塩素化を行う方法や、ゴムラテックスを塩素化する方法等により得られるゴムである。塩化ゴムとしては、市販品を用いることもできる。具体的には、例えば、ペルグートS20、ペルグートS170(いずれも住化バイエル社製)が、難接着性の塗装面に対する接着性を特に向上でき、また、入手が容易であるという点から好適に挙げられる。
【0011】
本発明の組成物における(A)塩化ゴムの含有率は1〜10質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましく、5〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0012】
<(B)シランカップリング剤>
本発明の組成物が含有する(B)シランカップリング剤について説明する。
本発明の組成物において(B)シランカップリング剤として、例えば、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、(ポリ)スルフィド基、ビニル基、メタクリロキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、ハロゲンおよびシクロプロピル基、スチリル基からなる群より選択される少なくとも1つの有機官能基を持つシランカップリング剤が挙げられる。
(B)シランカップリング剤は、チオール基または芳香族アミンを含有するものであることが好ましい。
【0013】
(B)シランカップリング剤として、より具体的には、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト基含有シラン化合物;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等の(ポリ)スルフィド基含有シラン化合物;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニル基含有シラン化合物;γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ基含有シラン化合物;
【0014】
β−カルボキシエチルトリエトキシシラン、β−カルボキシエチルフェニルビス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−β−(カルボキシメチル)アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のカルボキシシラン化合物;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートエチルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートエチルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートエチルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートエチルメチルジメトキシシラン等のイソシアネート基含有シラン化合物;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲン含有シラン化合物;メチルシリルエステル等のシリルエステル;オルソケイ酸エステル等のシラン化合物等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
中でも、接着性をより向上できるという点で、メルカプト基含有シラン化合物、アミノ基含有シラン化合物が好ましい。
【0016】
(B)シランカップリング剤は、市販品を用いてもよく、製造してもよい。製造条件は特に限定されず、公知の方法、条件で行うことができる。
【0017】
本発明の組成物における(B)シランカップリング剤の含有率は、1〜10質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。
【0018】
<(C)NH基を有する多官能イソシアネート>
本発明の組成物が含有する(C)NH基を有する多官能イソシアネートについて説明する。
本発明の組成物において(C)NH基を有する多官能イソシアネートは、1分子中に1個以上のNH基を有し、さらに1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する化合物である。
ここで、初期接着性に優れる点から1分子中のNH基の数は2〜3であることが好ましい。
また、初期接着性に優れる点から1分子中のイソシアネート基の数は3〜7個であることが好ましい。
【0019】
(C)NH基を有する多官能イソシアネートは、下記式(I)で表されるビウレット結合を含むものであることが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
式(I)において、R1、R2およびR3は、各々、炭素原子数2〜6の酸素原子を有してもよい鎖状脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基であり、それぞれは同一であっても、異なっていてもよい。
【0022】
式(I)で表される、分子中にビウレット結合を含む化合物として、次式(I−1)で表されるHDIビウレットが好適例として挙げられる。
【0023】
【化2】
【0024】
また、(C)NH基を有する多官能イソシアネートは、下記式(II)で表されるアロファネート結合を含むものであることが好ましい。
【0025】
【化3】
【0026】
式(II)において、R4、R5およびR6は、各々、炭素原子数2〜6の酸素原子を有してもよい鎖状脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基であり、それぞれは同一であっても、異なっていてもよい。
【0027】
式(II)で表される、分子中にビウレット結合を含む化合物として、次式(II−1)で表されるHDIアロファネートが好適例として挙げられる。
【0028】
【化4】
【0029】
さらに、(C)NH基を有する多官能イソシアネートは、1分子中に1個以上のNH基を有するものであるので、例えばアダクト体であることが好ましい。アダクト体とは、例えばイソシアネートモノマーと2官能以上の低分子活性水素含有化合物とを反応させてなる2官能以上のイソシアネート化合物をいい、具体的には、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させた化合物、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させた化合物、トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアネートとを反応させた化合物、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとを反応させた化合物、1,6−ヘキサンジオールとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させた化合物などが挙げられる。
【0030】
(C)NH基を有する多官能イソシアネートとして、次式(III−1)で表される、TMP(トリメチロールプロパン)とHDI(トリレンジイソシアネート)とのアダクト体(TMP HDIアダクト)が好適例として挙げられる。
【0031】
【化5】
【0032】
また、(C)NH基を有する多官能イソシアネートとして、次式(III−2)で表される、TMP(トリメチロールプロパン)とXDI(キシリレンジイソシアネート)とのアダクト体(TMP XDIアダクト)が好適例として挙げられる。
【0033】
【化6】
【0034】
さらに、(C)NH基を有する多官能イソシアネートとして、次式(III−3)で表される、TMP(トリメチロールプロパン)と水添XDI(キシリレンジイソシアネート)とのアダクト体(TMP 水添XDIアダクト)が好適例として挙げられる。
【0035】
【化7】
【0036】
本発明の組成物における(C)NH基を有する多官能イソシアネートの含有率は、1〜15質量%であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の組成物において、(B)シランカップリング剤と(C)NH基を有する多官能イソシアネートとの量比は、(B)シランカップリング剤が有するSH基と、(C)NH基を有する多官能イソシアネートが有するNCO基との数の比が0.5〜1.5:1.0となるように調整することが好ましく、0.6〜1.5:1.0となるように調整することがより好ましい。
【0038】
<(D)NH基を有さない多官能イソシアヌレート>
本発明の組成物が含有する(D)NH基を有さない多官能イソシアヌレートについて説明する。
本発明の組成物において(D)NH基を有さない多官能イソシアヌレートは、1分子中1個以上のイソシアヌレート環と3個以上のイソシアネート基とを有する化合物である。1分子中のイソシアネート基の数は3〜7個であることが好ましい。
【0039】
(D)NH基を有さない多官能イソシアヌレートとして、例えば、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート、トリレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートとのイソシアヌレートが挙げられる。
【0040】
(D)NH基を有さない多官能イソシアヌレートはトリレンジイソシアネートのイソシアヌレート、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート、およびトリレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートとのイソシアヌレートからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0041】
トリレンジイソシアネート(TDI)のイソシアヌレート(「TDIイソシアヌレート」ともいう)として、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化8】
【0043】
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアヌレート(「HDIイソシアヌレート」ともいう)として、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【化9】
【0045】
イソホロンジイソシアネート(IPDI)のイソシアヌレートとして、例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
【化10】
【0047】
トリレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートとのイソシアヌレート(「HDI/TDIイソシアヌレート」ともいう)として、例えば、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化11】
【0049】
(D)NH基を有さない多官能イソシアヌレートは、市販品を用いてもよく、製造してもよい。製造条件は特に限定されず、公知の方法、条件で行うことができる。
【0050】
本発明の組成物における(D)NH基を有さない多官能イソシアヌレートの含有率は、10〜25質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましく、12〜16質量%であることがさらに好ましい。
【0051】
<(E)触媒>
本発明の組成物が含有する(E)触媒について説明する。
本実施形態の組成物に含有される触媒(E)としては、プライマーの硬化を促進するものであれば特に制限されない。金属系触媒、錫系触媒、アミン系触媒としては、有機金属化合物、第3級アミン類、第3級アミン類とカルボン酸等の塩類などが挙げられる。具体的には、有機金属化合物としては、例えば、オクチル酸錫、ブタン酸錫ステアリン酸錫、ナフテン酸錫、カプリル酸錫、オレイン酸錫、オクタン酸オクチル錫等の2価の有機錫化合物;ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジステアレート、ジブチル錫ジオレエート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバーサテート、ジフェニル錫ジアセテート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジオキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物等の4価の有機錫化合物;ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、錫系キレート化合物、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アセチルアセトンコバルト、アセチルアセトン鉄、アセチルアセトン銅、アセチルアセトンマグネシウム、アセチルアセトンビスマス、アセチルアセトンニッケル、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトンマンガン等の各種金属のキレート化合物;テトラ−n−ブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類;その他、オクチル酸鉛やオクチル酸ジルコニウム等のマンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ジルコニウム、鉛、ビスマス等の錫以外の各種金属と、オクチル酸、ステアリン酸、ナフテン酸等の各種有機酸との金属有機酸塩などが挙げられる。アミン類としては、例えば、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミンのような第1級アミン;ジブチルアミンのような第2級アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、キシリレンジアミンのようなポリアミン;トリエチレンジアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンのような環状アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンのようなアミノアルコール化合物;2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールのようなアミノフェノール化合物等のアミン化合物およびそのカルボン酸塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセタートのような第4級アンモニウム塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量アミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物等が挙げられる。また、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の第3級アミン類、或いはこれらのアミン類とカルボン酸等の塩類などが挙げられる。これらの触媒は、それぞれ1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
中でも2価または4価の有機錫系触媒が好ましく、ジブチル錫オキサイドやジオクチル錫オキサイド等のジアルキル錫オキサイドや、オクチル酸錫等のジアルキル酸錫が好ましい。
【0053】
上記錫系触媒は、2価または4価のどちらか一方を用いてもよいし、両方を併用して用いることもできる。
【0054】
本発明の組成物における(E)触媒の含有率は、0.005〜2.0質量%であることが好ましく、0.05〜2.0質量%であることがより好ましく、0.05〜0.10質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
<(F)溶剤>
本発明の組成物が含有する(F)溶剤について説明する。
本発明の組成物において(F)溶剤は、他の成分に対して不活性であればよく、各種の溶剤を用いることができる。具体的には、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられ、2種以上を混合して用いてもよい。なお、上記溶剤は、充分に乾燥または脱水してから用いることが好ましい。これらのうち、酢酸エチルやトルエンが、沸点が低く、乾きが速い等の点から好ましい。
【0056】
本発明の組成物における(F)溶剤の含有率は、50〜85質量%であることが好ましく、65〜85質量%であることがより好ましい。
【0057】
本発明の組成物は、(A)塩化ゴム、(B)シランカップリング剤、(C)NH基を有する多官能イソシアネート、(D)NHを有さない多官能イソシアヌレート、(E)触媒、および(F)溶剤を主成分として含む。
ここで「主成分」とは、含有率が70質量%以上であることを意味する。すなわち、本発明の組成物において、(A)塩化ゴム、(B)シランカップリング剤、(C)NH基を有する多官能イソシアネート、(D)NHを有さない多官能イソシアヌレート、(E)触媒、および(F)溶剤の合計の含有率は70質量%以上である。この含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、100質量%である、すなわち、本発明の組成物は、実質的に(A)塩化ゴム、(B)シランカップリング剤、(C)NH基を有する多官能イソシアネート、(D)NHを有さない多官能イソシアヌレート、(E)触媒、および(F)溶剤から構成されることがさらに好ましい。ここで「実質的になる」とは、原料や製造過程から不可避的に含まれる不純物や破損物は含まれ得るが、それ以外は含まないことを意味する。
【0058】
本発明の組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、種々の充填剤、可塑剤、揺変剤、脱水剤、軟化剤、安定剤、着色剤、タレ防止剤、物性調整剤、難燃剤、補強剤、揺変剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料・顔料等の公知で種々の添加剤を配合することができる。
充填剤としては、各種形状の有機または無機のものがあり、具体的には、例えば、塩素化ゴム、炭酸カルシウム、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;けいそう土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;あるいはカーボンブラック、あるいはこれらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル処理物等を用いることができる。
【0059】
本発明の組成物は、上記各成分を混合して得ることができる。混合する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ボールミルを用いる方法が挙げられる。
【0060】
本発明の組成物の使用方法は、通常のプライマー組成物と同様である。即ち、本発明の組成物を基材に塗布し、適当な時間放置して乾燥させた後、シーリング材を塗布して、通常の方法で接着させればよい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されない。
【0062】
<硬化剤成分の調製>
実施例1〜16および比較例1〜17の各々において、各成分を第1表に示す質量比(質量部)で配合し、十分に混合して、各プライマー組成物を調製した。
そして、下記の方法で初期接着性および耐水接着性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0063】
<初期接着性の評価>
50mm×50mm、厚さ3mmの陽極酸化処理を施したアルミニウム基板を用意した。そして、この基板の表面へ実施例および比較例の各々におけるプライマー組成物を塗布し、23℃、相対湿度(RH):50%の条件下、30分間放置して硬化させた後、JIS A 1439:2010 532項に基づいてH型試験片を作成、さらに変成シリコーン系シーリング材(商品名:スーパーII、横浜ゴム社製)を塗布して試験片を得た。
次に、得られた試験片を23±2℃で72時間養生した後、50℃環境において試験片に垂直方向へ30%の伸張を加え、シーリング材の層とプライマー組成物の層との間に剥離が無かったものを初期接着性が優れるとして「○」と評価し、一方、シーリング材の層とプライマー組成物の層との間の剥離面積が接着面全体の0%超50%以下で有ったものを「△」、剥離面積が接着面全体の50%超で有ったものを耐水接着性が劣るとして「×」と評価した。
【0064】
<耐水接着性>
50mm×50mm、厚さ3mmの陽極酸化処理を施したアルミニウム基板を用意した。この基板の表面へ、実施例および比較例の各々におけるプライマー組成物を塗布し、23℃、相対湿度(RH):50%の条件下、30分間放置して硬化させた後、さらに変成シリコーン系シーリング材(商品名:スーパーII、横浜ゴム社製)を3mm厚に塗布して試験片を得た。
次に、得られた試験片を20℃で72時間養生し、さらに50℃で168時間養生した後、50℃の温水に168時間浸漬した。
次に、シーリング材の層をナイフでカットし、カット部分を手で摘んで引張り、その剥離状態を観察(ナイフカットによる手剥離試験)し、シーリング材の層とプライマー組成物の層との間に剥離が無かった(0%)ものを耐水接着性が優れるとして「○」と評価し、一方、シーリング材の層とプライマー組成物の層との間の剥離面積が接着面全体の0%超50%以下で有ったものを「△」、剥離面積が接着面全体の50%超で有ったものを耐水接着性が劣るとして「×」と評価した。
【0065】
第1表に示されている各成分は、以下のとおりである。
・塩化ゴム:ペルグートS170、バイエル社製
・シランカップリング剤:メルカプトシラン、KBM−803、信越化学工業社製
・NH基を有する多官能イソシアネート1:HDIビウレット、タケネート D−165N、三井化学社製
・NH基を有する多官能イソシアネート2:TMP HDIアダクト、タケネート D−160N、三井化学社製
・NH基を有する多官能イソシアネート3:HDIアロファネート、デュラネート D−101、旭化成社製
・NH基を有する多官能イソシアネート4:TMP XDIアダクト、タケネート D−110N、三井化学社製
・NH基を有する多官能イソシアネート5:TMP 水添XDIアダクト、タケネート D−120N、三井化学社製
・NH基を有さない2官能イソシアネート1:HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、デュラネート 50M HDI、旭化成社製
・NH基を有さない2官能イソシアネート2:MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、ミリオネートMT、日本ポリウレタン工業社製
・NH基を有さない2官能イソシアネート3:TDI(トリレンジイソシアネート)、コロネートT−80、日本ポリウレタン工業社製
・NH基を有さない多官能イソシアヌレート1:TDI/HDIイソシアヌレート、デスモジュール HL BA、住化バイエルウレタン社製
・NH基を有さない多官能イソシアヌレート2:HDIイソシアヌレート、タケネート D−170N、三井化学社製
・NH基を有さない多官能イソシアヌレート3:TMP 水添XDIイソシアヌレート、タケネート D−127N、三井化学社製
・触媒1:ジブチル錫オキサイド、MS−CAT02、日本化学産業社製
・触媒2:オクチル酸第一錫、スタノクト、三菱化学社製
・溶剤:酢酸エチル、昭和電工社製
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
実施例1〜36のプライマー組成物は、いずれも本発明の組成物に該当する。これらの耐水接着性および初期接着性は良好であった。中でも(B)シランカップリング剤が有するSH基と、(C)NH基を有する多官能イソシアネートが有するNCO基との数の比が0.5〜1.5:1.0である実施例1〜16、実施例18〜19、実施例22〜23、実施例26〜27、実施例30〜31、実施例34〜35は、初期接着性および耐水接着性ともに優れていた。
これに対して比較例1〜11は(C)NH基を有する多官能イソシアネートを含まず、代わりに(X)NH基を有さない2官能イソシアネートを含むものである。この場合、初期接着性が不良であった。
比較例12〜17は(C)NH基を有する多官能イソシアネートを含まないものである。また、(D)NH基を有さない多官能イソシヌレートを複数種類含むものである。この場合、初期接着性が不良であった。