【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、下記の実施例および比較例において、スラリー(分散液)のpH、遊離脂肪酸の含有量A(%)、水可溶性塩の含有量B(%)、粒度要約値Cは次のとおりにして測定を行なった。これらの結果を表1にまとめた。
【0038】
1)スラリー(分散液)のpH:
鉄石鹸スラリー20gを200mlビーカーに秤取り、均一になるように攪拌しながらpHを測定した。
【0039】
2)遊離脂肪酸の含有量A(%):
鉄石鹸5gをビーカーに秤取り、ジエチルエーテル−エタノール混合溶媒(1:1)50gを加え、30秒間攪拌した後に30分間静置した。その後、5Bのろ紙を使用してろ過を行ない、N/10の水酸化カリウム滴定液を用いてろ液を滴定し、下記式に従って遊離脂肪酸量を計算した。同様の操作を脂肪酸ブランクでも行なった。
遊離脂肪酸含有量=(VA−VB)×f×M/W/100
ただし、
VA:サンプルでの滴下量(ml)
VB:ブランクでの滴下量(ml)
f:N/10の水酸化カリウム滴定液のファクター
M:使用した脂肪酸の分子量
W:鉄石鹸のサンプル量(g)
【0040】
3)水可溶性塩の含有量B(%):
鉄石鹸2gを三角フラスコに秤取り、水を50g加えた後、空冷管を取り付けてウォーターバス上で振り混ぜながら1時間煮沸する。その後、ろ紙を用いて100mlビーカーにろ過する。三角フラスコ内の残留物に水10mlを加え、ろ過を行う操作を3回繰り返す。ウォーターバス上で100mlビーカーの水を揮発させた後、105±2℃の恒温乾燥機で1時間乾燥し、デシケーター内で放冷した後、重量をはかる。
水可溶性塩の含有量B(%)=[残渣(g)/試料採取量(g)]×100
【0041】
4)粒度要約値C:
粒度(D10、D50、D90);
粒度分布測定装置(機器名「マイクロトラックMT−3000」日機装(株)製)で測定した(原理:レーザー回折・散乱法)。
測定する粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%、50%、90%となる点の粒子径をそれぞれ10%径(D10)、50%径(D50)、90%径(D90)(μm)として求めた。
粒度要約値C=(D90−D10)/D50(但し、1. 0≦D50≦40. 0)・・・(1)式
D10:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における50%積算径(μm)
D90:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
【0042】
(実施例1)
5Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、60℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を75.4g加え、同温度(60℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、60℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを0.63に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe
2(SO
4)
3水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを1.4とした。
滴下終了後、60℃に保持して10分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0043】
(実施例2)
5Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、65℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を75.4g加え、同温度(65℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、65℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを1.7に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe
2(SO
4)
3水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.0とした。
滴下終了後、65℃に保持して10分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0044】
(実施例3)
5Lセパラブルフラスコにパルミチン酸(中和価219mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、65℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を81.3g加え、同温度(65℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、65℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを2.2に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe
2(SO
4)
3水溶液]546.3gを60分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.4とした。
滴下終了後、65℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたパルミチン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のパルミチン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0045】
(実施例4)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価208mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、65℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(65℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、65℃に保持したまま、塩酸(試薬)を適定量加えてpHを3.6に調整した25%塩化鉄(III)水溶液[FeCl
3水溶液]210.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを3.8とした。
滴下終了後、65℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0046】
(実施例5)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、70℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を75.3g加え、同温度(70℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、70℃に保持したまま、塩酸(試薬)を適定量加えてpHを2.5に調整した25%塩化鉄(III)水溶液[FeCl
3水溶液]205.4gを60分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.9とした。
滴下終了後、70℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0047】
(比較例1)
キシダ化学(株)製、ステアリン酸鉄(III)試薬を用いた。
【0048】
(比較例2)
5Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、85℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(85℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、85℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを1.8に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe
2(SO
4)
3水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.7とした。
滴下終了後、85℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸のブロック形状物に水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたブロック形状物を棚段乾燥し、ミキサーで粉砕して顆粒状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0049】
(比較例3)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、90℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(90℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、90℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを2.3に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe
2(SO
4)
3水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを1.6とした。
滴下終了後、90℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸のブロック形状物に水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたブロック形状物を棚段乾燥し、ミキサーで粉砕して顆粒状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0050】
(比較例4)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価208mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、70℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(70℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、70℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを5.3に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe
2(SO
4)
3水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを6.4とした。
滴下終了後、70℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0051】
(比較例5)
特許文献1の実施例1に準拠してステアリン酸鉄の合成を行った。
2Lビーカー中、水酸化ナトリウム(試薬、特級)の水500g溶液に、ステアリン酸(NV=204;中和価)75gを加え、90℃まで加熱攪拌して当該ステアリン酸を鹸化して透明ゴム状のステアリン酸ナトリウムを得た。
次に、この反応混合物に緩慢に0.4Mの塩化鉄(III)水溶液222mlを加え、複分解反応を行った。懸濁状の赤い生成物を得た後、反応液に含有された水分を濾除し、初歩合成反応を完成した。
しかる後、0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液156mlと精製水344mlを反応液に加え、90℃まで加熱攪拌して生成物に残留したステアリン酸を鹸化した。しかる後、さらに0.4Mの塩化鉄(III)水溶液55mlを加え、懸濁状のステアリン酸鉄塩を生成した後、0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液93.6mlを加え、残留のステアリン酸と鹸化反応させた後、0.4Mの塩化鉄(III)水溶液33mlを加えて複分解反応を行った。その後、さらに0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液50mlを加え、鹸化反応を行った後、0.4Mの塩化鉄(III)水溶液18mlを加え、目的生成物であるステアリン酸鉄(III)を得た。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
次に、前記実施例、比較例で評価した表1に示す10種類の鉄石鹸(III)粒子をそれぞれ3.2g用い、180℃の温度下、2軸混練機(ラボプラストミル)により無添加低密度ポリエチレン((株)プライムポリマー製、MIRASON 16P)60.0gと5分間混練した後、熱プレスにより1mm厚のシート状に成形した。
【0054】
(実施例6)
実施例1にて得られたステアリン酸鉄石鹸(III)粒子3.2gに対して、複分解法によって得られた、粒度要約値Cが1.8、凝集度Eが12.5%であるステアリン酸カルシウムを0.32g加えた組成物を用いて、上記と同様に、1mm厚のシートを成形した。
得られたシートについて以下の評価を行なった。
【0055】
〔白色度と鮮明度の総合等級〕
得られたシートについて、日本電色工業(株)製、Z−100DPのカラー測定器で白色度(WI)と明度(L)を測定し、5等級で判定した。
なお、測定は、任意に5箇所選定して行った。ここで、1等級は鮮明度と白色度が最も高い場合で、5等級は鮮明度と白色度が最も低い場合である。等級判定の結果を下記表2に示した。
【0056】
〔MFR値〕
得られたシートについて、劣化促進試験機アイスーパーSUV−W161型(岩崎電気(株)製)を用いて照射テストを行った。紫外線照度150mW/cm
2、60時間照射した。試験後、シートを細かく裁断しメルトマスフローレート(MFR、単位:g/10分)値をJIS K7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18N、温度190℃の条件で5回測定した。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1〜5では、本発明で規定する温度およびpHの条件下で、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と鉄塩水溶液とを反応させることによって、本発明で規定する遊離脂肪酸の含有量A、水可溶性塩の含有量B、および粒度要約値Cを有する鉄石鹸粒子が得られている。また、実施例1〜5の鉄石鹸粒子を熱可塑性樹脂である低密度ポリエチレンに添加した際、総合等級が良好であり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られた。
さらに、実施例6では、複分解法のステアリン酸カルシウムとの組み合わせで、鉄石鹸粒子の分散性がさらに向上し、より高い流動性向上が見られた。
【0059】
一方、比較例1のステアリン酸鉄(III)試薬(キシダ化学(株)製)は、遊離脂肪酸の含有量Aが多いことから、ポリエチレンに添加した際に総合等級が悪くなり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られなかった。
比較例2、比較例3のステアリン酸鉄(III)試作品6、7は、複分解反応温度を結晶転移開始温度よりも高い温度で行っているため、得られた鉄石鹸がスラリー生成中に凝集、合一し安定性が悪くなり、未反応脂肪酸が取りこまれ、遊離脂肪酸が著しく高くなった。また、顆粒状の鉄石鹸となって、粒度も粗大となったことから、分散性が著しく悪くなり、MFRでも高い流動性が得られず、数値のばらつきも大きくなった。
比較例4のステアリン酸鉄(III)試作品8は、遊離脂肪酸の含有量Aが多いことから、ポリエチレンに添加した際に総合等級が悪くなり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られなかった。
比較例5のステアリン酸鉄(III)試作品9は、水可溶性塩の含有量B(%)が多いことから、ポリエチレンに添加した際に総合等級が悪くなり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られなかった。