特許第6569684号(P6569684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

特許6569684鉄石鹸、その製造方法およびその鉄石鹸を含有する熱可塑性樹脂組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569684
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】鉄石鹸、その製造方法およびその鉄石鹸を含有する熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 9/00 20060101AFI20190826BHJP
   C11D 1/04 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C11D9/00
   C11D1/04
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-560199(P2016-560199)
(86)(22)【出願日】2015年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2015082067
(87)【国際公開番号】WO2016080329
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2018年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-234065(P2014-234065)
(32)【優先日】2014年11月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−323396(JP,A)
【文献】 特開平06−271499(JP,A)
【文献】 特開平02−178250(JP,A)
【文献】 特表平06−504079(JP,A)
【文献】 特開2012−121880(JP,A)
【文献】 特表2012−511495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
C07C51/00
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離脂肪酸の含有量A(%)が0.01≦A≦8.0、水可溶性塩の含有量B(%)が0.01≦B≦0.5、下記(1)式に示す粒度要約値Cが0.1≦C≦5.0であり、炭素数12〜22の直鎖飽和脂肪酸と鉄(III)との塩であることを特徴とする鉄(III)石鹸。
粒度要約値C=(D90−D10)/D50(但し、1. 0≦D50≦40. 0)・・・(1)式
D10:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における50%積算径(μm)
D90:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
【請求項2】
下記工程を有することを特徴とする、請求項1に記載の鉄(III)石鹸を製造する方法。
製造する鉄(III)石鹸の結晶転移開始温度以下の温度において、炭素数12〜22の直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と、pHが0.1〜5.5である三価の鉄塩水溶液とを反応させて鉄(III)石鹸スラリーを調製する工程、
調製された前記鉄(III)石鹸スラリーのpHを0.1〜6.0に調整する工程。
【請求項3】
熱可塑性樹脂100質量部に対し、請求項1記載の鉄(III)石鹸0.01〜10質量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、前記鉄(III)石鹸100質量部に対し、脂肪酸カルシウム石鹸0.1〜100質量部を含有すること特徴とする請求項3記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸カルシウム石鹸は、前記(1)式の粒度要約値CがC≦2.0であり、下記(2)式に示す凝集度E(%)がE≦20であることを特徴とする請求項4記載の熱可塑性樹脂組成物。
凝集度E=〔(篩目350μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(1/1)+〔(篩目250μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(3/5)+〔(篩目150μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(1/5)〕・・・(2)式
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄石鹸、その製造方法およびその鉄石鹸を含有する熱可塑性樹脂組成物に関し、詳細には、熱可塑性樹脂に対して高い相溶性および分散性を有しており、また光分解触媒や無機粉体などの分散剤として好適に使用することができる鉄石鹸、その鉄石鹸を高収率で生成することができる製造方法、その鉄石鹸を含有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属石鹸は、樹脂加工分野、電子印刷分野、粉末冶金分野、化粧品分野、塗料分野、セメント分野など、多くの分野において幅広く利用されている。現在行われている代表的な金属石鹸の製造方法としては、脂肪酸と無機金属酸化物または無機金属水酸化物とを反応させる方法(直接法)、あるいは水系中で脂肪酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩の溶液と無機金属塩類とを反応させる方法(複分解法)などが挙げられる。
金属石鹸の中でも鉄石鹸は、光分解触媒や無機粉体などの分散剤として樹脂加工分野、粉末冶金分野で使用されている。一般的に、鉄石鹸は水系中で脂肪酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩の溶液と無機鉄塩を反応させる複分解法、あるいは脂肪酸と鉄アルコキシドとを反応させる交換法により工業的に製造されている。特に樹脂加工分野や粉末冶金分野では高い分散性が求められており、そのような観点から、複分解法によって得られる鉄石鹸が好適に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1の「発明が解決しようとする課題」の欄には、複分解法ではステアリン酸を完全にステアリン酸鉄に変換することができないため、生成物に7〜10%の未反応のステアリン酸ナトリウムが残存することが記載されている。また、鉄(III)石鹸は構造が不安定であるため複分解反応中に加水分解が起こり、遊離の脂肪酸が生成されるといった問題がある。脂肪酸塩や遊離の脂肪酸が生じると、鉄(III)石鹸の純度が低下するという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1には、脂肪酸を水酸化アルカリと鹸化反応を行なった後、得られた脂肪酸アルカリ金属塩を酸性鉄塩と反応させて複分解反応を行うことにより脂肪酸鉄塩類を製造する製造法であって、未反応の脂肪酸を減少するよう、反応系に前記水酸化アルカリと酸性鉄塩を交替に脂肪酸に対して大過剰で複数回添加し、前記鹸化反応と複分解反応を交替に90℃の温度にて複数回行うことを特徴とする脂肪酸鉄塩類の製造法が記載されており、色調がよく、粉末が微細であると共に、純度が高い脂肪酸鉄塩類が得られることが記載されている。
しかしながら、本製造法では、脂肪酸に対して大過剰の水酸化アルカリおよび酸性鉄塩を添加していることから、得られる脂肪酸鉄塩中に過剰の水可溶性塩が生成される。具体的には、反応系には、脂肪酸に対して過剰に加えられた水酸化ナトリウム、塩化鉄、複分解反応で生成した塩化ナトリウムが残存し、更に未反応の水酸化ナトリウムと塩化鉄とが反応して塩基性鉄塩が生成する。これらの未反応原料や副生成物は、例えば熱可塑性樹脂中に分散させる場合、凝集性が高いことから分散不良の要因となる問題があり、また鉄石鹸の高純度化を達成できないという問題もある。
【0005】
一方、特許文献2には、トリアルコキシ第二鉄と長鎖脂肪酸を不活性ガス雰囲気下、非プロトン性極性溶媒の存在下に交換法により反応させることを特徴とするトリソープタイプの長鎖脂肪酸第二鉄の製造法が記載されている。
しかしなから、本製造法では、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテルなどの非プロトン性極性溶媒を多量に使用して反応させる。また、トリソープタイプの長鎖脂肪酸第二鉄の純度を高める目的で、トリアルコキシ第二鉄の1モル部当たり長鎖脂肪酸を3〜300モル部、好ましくは6〜100モル部の大過剰加えて反応させていることから、脂肪酸鉄塩中に大量の遊離脂肪酸が残存し、大量の遊離脂肪酸を洗浄するのに多量の非プロトン性極性溶媒を使用する。したがって、多量の非プロトン性極性溶媒を使用することにより、環境へ多大な負荷を与えるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−271499号公報
【特許文献2】特開昭62−120339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂に対して高い相溶性および分散性を有しており、また光分解触媒や無機粉体などの分散剤として好適に使用することができる鉄石鹸、その鉄石鹸を高収率で生成することができる製造方法、およびその鉄石鹸を含有する熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、遊離脂肪酸の含有量、水可溶性塩の含有量、粒度要約値がそれぞれ所定の範囲で規定された鉄石鹸が熱可塑性樹脂に対して高い相溶性および分散性を有しており、また光分解触媒や無機粉体などの分散剤として好適に使用することができる鉄石鹸であることを見出すとともに、直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と3価の鉄塩水溶液とを反応させる際のpHを調整することによって、上記鉄石鹸が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、遊離脂肪酸の含有量A(%)が0.01≦A≦8.0、水可溶性塩の含有量B(%)が0.01≦B≦0.5、下記(1)式に示す粒度要約値Cが0.1≦C≦5.0であり、炭素数12〜22の直鎖飽和脂肪酸と鉄(III)との塩であることを特徴とする鉄(III)石鹸である。
粒度要約値C=(D90−D10)/D50(但し、1. 0≦D50≦40. 0)・・・(1)式
D10:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における50%積算径(μm)
D90:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
以下、本発明に係る「鉄(III)石鹸」を単に「鉄石鹸」と表記する。
【0010】
また本発明は、下記工程を有することを特徴とする、上記鉄石鹸を製造する方法である。
製造する鉄石鹸の結晶転移開始温度以下の温度において、炭素数12〜22の直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と、pHが0.1〜5.5である三価の鉄塩水溶液とを反応させて鉄石鹸スラリーを調製する工程、
調製された前記鉄石鹸スラリーのpHを0.1〜6.0に調整する工程。
【0011】
さらに本発明は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、本発明の鉄石鹸0.01〜10質量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに、前記鉄石鹸100質量部に対し、脂肪酸カルシウム石鹸0.1〜100質量部を含有していてもよい。
また、前記脂肪酸カルシウム石鹸は、前記(1)式の粒度要約値CがC≦2.0であり、下記(2)式に示す凝集度E(%)がE≦20であってもよい。
凝集度E=〔(篩目350μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(1/1)+〔(篩目250μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(3/5)+〔(篩目150μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(1/5)〕・・・(2)式
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄石鹸は、熱可塑性樹脂に対して高い相溶性および分散性を有しており、また光分解触媒や無機粉体などの分散剤として好適に使用することができる。
また本発明の鉄石鹸の製造方法は、本発明の鉄石鹸を高収率で生成することができる。
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の鉄石鹸が高い分散性で含有されているので、光分解させる際に全体的に均一に分解させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
まず、本発明の鉄石鹸を説明し、その鉄石鹸を高収率で生成することができる本発明の鉄石鹸の製造方法、その鉄石鹸を含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物を順次説明する。
【0014】
〔鉄石鹸〕
本発明の鉄石鹸は、遊離脂肪酸の含有量A(%)が0.01≦A≦8.0であり、好ましくは0.01≦A≦6.0、特に好ましくは0.01≦A≦4.0である。含有量Aが多すぎると、鉄石鹸を熱可塑性樹脂中に分散させる際、樹脂中でブリードアウトするなど分散性が低下するおそれがある。また、鉄石鹸中の鉄含有量が著しく低下し、樹脂の光分解性能が下がり、光分解され難くなるおそれがある。
なお、遊離脂肪酸の含有量A(%)の測定は、アルカリ溶液を用いた滴定により行なうことができる。
【0015】
本発明の鉄石鹸は、水可溶性塩の含有量B(%)が0.01≦B≦0.5であり、好ましくは0.01≦B≦0.3、特に好ましくは0.01≦B≦0.2である。含有量Bが多すぎると、例えば熱可塑性樹脂に添加した際に水可溶性塩の吸湿性などにより分散性が低下するおそれがある。
なお、水可溶性塩の含有量Bは、試料を水で煮沸したときの質量差から求めることができる。
【0016】
本発明の鉄石鹸は、下記(1)式に示す粒度要約値Cが0.1≦C≦5.0であり、好ましくは0.1≦C≦4.0、特に好ましくは0.1≦≦3.0である。粒度要約値Cが大きすぎると、例えば熱可塑性樹脂に鉄石鹸を添加した際に粒度分布が広いことから、均一分散性が損なわれるおそれがある。また、粒度要約値Cが小さすぎると、歩留りが悪くなり、生産性が低下するため、コスト的に不利となるおそれがある。
このように、粗大粒子が少なく、特定の粒度分布を持った鉄石鹸は、熱可塑性樹脂に添加して溶融混練した際の分散性が高くなり、光分解触媒として高い効果が得られやすい。
なお、粒度要約値Cは、マイクロトラックレーザー回折法により測定した粒子径から算出することができる。
【0017】
粒度要約値C=(D90−D10)/D50(但し、1. 0≦D50≦40. 0)・・・(1)式
D10:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における50%積算径(μm)
D90:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
【0018】
なお、粒度要約値Cの調整は、脂肪酸アルカリ金属塩の濃度、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と三価の鉄塩水溶液との反応時の温度、三価の鉄塩水溶液を脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下する際の滴下速度をそれぞれ適宜調整することによって行うことができる。また、粒度分布が広い、つまり粒度要約値Cの値が大きいものについては、後処理において、100メッシュ、200メッシュ、330メッシュ等の篩を用いて分級することによって行なうことができる。
【0019】
〔鉄石鹸の製造方法〕
本発明の鉄石鹸の製造方法は、直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と、三価の鉄塩水溶液とを混合して反応させ、鉄石鹸スラリーを調製する工程と、調製された前記鉄石鹸スラリーのpHを所定範囲に調整する工程とを有する。
【0020】
直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液の調製に用いられる脂肪酸塩としては、炭素数12〜22の直鎖飽和脂肪酸のアルカリ金属塩が挙げられる。このような脂肪酸塩の例としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸などに代表される単体脂肪酸のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、あるいは、牛脂脂肪酸、豚脂脂肪酸、大豆油脂肪酸、椰子油脂肪酸、パーム油脂肪酸などに代表される動植物由来の直鎖飽和混合脂肪酸のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩が挙げられる。これらの脂肪酸塩は単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
炭素数12未満の直鎖飽和脂肪酸のアルカリ金属塩を用いた場合、得られる鉄石鹸の水に対する溶解度が高くなるので、収率が著しく低下するおそれがある。また、熱可塑性樹脂に添加し加熱して溶融混練した場合、相溶性が低く分散性が低下するそれもある。一方、炭素数が22よりも長鎖の直鎖飽和脂肪酸のアルカリ金属塩を用いた場合、水に対する溶解度が著しく低くなって水溶液濃度を極端に低減する必要があり、生産効率が低下するおそれがある。
【0021】
直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液における直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩の含有量は、例えば、0.1〜20質量%である。含有量が少なすぎると、得られる鉄石鹸量が反応液量に対して著しく少なく、生産効率が低下するおそれがある。また、含有量が多すぎると、反応中あるいは反応後の鉄石鹸分散液の濃度が高すぎ、反応が進行しにくくなって、鉄(III)石鹸の純度が低下するおそれがある。より効率的に鉄(III)石鹸の純度が高い鉄石鹸を製造する場合、水溶液中の上記脂肪酸のアルカリ金属塩の好ましい含有量は1〜15質量%であり、特に好ましい含有量は3〜15質量%である。
【0022】
三価の鉄塩水溶液の調製に用いられる鉄塩の例としては、例えば、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
さらに、所定の濃度の鉄塩水溶液を調整するに際し、塩酸、硫酸などの無機酸を所定量加えてpHを0.1〜5.5、好ましくは0.1〜5.0、特に好ましくは0.5〜4.0に調整する。
【0024】
三価の鉄塩水溶液における鉄塩の含有量は、例えば、0.1〜40質量%である。含有量が少なすぎると、得られる鉄石鹸量が反応液量に対して著しく少なく、生産効率が低下するおそれがある。また、含有量が多すぎると、得られる鉄石鹸粒子同士の凝集が進みやすく、均一な鉄石鹸スラリーを得ることが困難になるおそれがある。得られる鉄石鹸粒子同士の凝集が抑制され、均一な鉄石鹸スラリーを安定して製造する場合、鉄塩水溶液中の鉄塩の好ましい含有量は0.5〜30質量%であり、特に好ましい含有量は1.0〜30質量%である。
【0025】
直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と、三価の鉄塩水溶液との反応は、鉄塩に対する直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩の当量比(直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩/鉄塩)が0.5〜3.0の範囲になるように調整しながら行うことが望ましく、これにより鉄石鹸スラリーのpHを0.1〜6.0に調整するのが容易となる。
【0026】
本発明において、直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と、三価の鉄塩水溶液とを、製造する鉄石鹸の結晶転移開始温度以下の温度において混合し、反応させることが必要である。
ここで、結晶転移開始温度とは、鉄石鹸の結晶構造が変化し始める温度のことであり、例えば、ステアリン酸鉄(III)の示差熱分析(DSC)による熱吸収グラフにおいて、吸熱開始前のベースラインの延長線と、吸熱開始後の勾配カーブの変極点における接線との交点を結晶転移開始温度とする。
ステアリン酸鉄(III)の結晶転移開始温度は84℃である。その他、ベヘニン酸鉄(III)は85℃、パルミチン酸鉄(III)は83℃、ミリスチ酸鉄(III)は81℃、ラウリン酸鉄(III)は79℃である。また、例えば、ステアリン酸とパルミチン酸が65:35の質量比で混合した混合脂肪酸からなる鉄(III)石鹸では、83℃となる。
【0027】
直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と、三価の鉄塩水溶液との反応は、直鎖飽和脂肪酸アルカリ金属塩水溶液が完全に溶解する温度以上で反応させることが好ましい。具体的には、製造する鉄石鹸の結晶転移開始温度よりも30℃低い温度以上で反応させることが好ましい。例えば、ステアリン酸鉄(III)を製造する場合、54℃以上で反応させることが好ましい。
【0028】
なお、示差熱分析(DSC)の測定は、サンプル10mgで、窒素気流下(60ml/min)、0℃から150℃まで昇温速度2℃/minで行う。
【0029】
実際の両水溶液の混合時における反応温度は、得られる鉄石鹸の脂肪酸鎖により異なるが、例えば、ステアリン酸鉄(III)の製造の場合、60〜79℃が好ましく、特に65〜75℃が好ましい。反応温度が低すぎると、ステアリン酸アルカリ金属塩水溶液中におけるステアリン酸アルカリ金属塩の水への溶解度が低下するので、目標物質たるステアリン酸鉄(III)は得られるものの、最終的に得られる鉄石鹸量が反応溶液量に対して低く生産効率が低下するおそれがある。反応温度が高すぎると、複分解反応中に生成する鉄石鹸スラリーの粒子同士の凝集および融着が起こり、微細な粒子の鉄石鹸が得られ難くなるのみならず、多量の脂肪酸アルカリ金属塩が凝集・融着して、鉄石鹸内部に残存するおそれがある。
【0030】
上記方法によって、鉄石鹸スラリーが得られる。この鉄石鹸スラリーはそのまま、あるいは遠心脱水機、フィルタープレス、真空回転濾過機などにより溶媒を分離し、必要に応じて、洗浄を行い、副生する無機塩を除去した後に、回転乾燥機、気流乾燥装置、通気式乾燥機、噴霧式乾燥機、流動層型乾燥装置などにより乾燥させる。乾燥方法は、連続式または回分式、あるいは常圧または真空下のいずれでもよい。
さらに、乾燥させた鉄石鹸を必要に応じて解砕する。解砕方法は、特に限定されず、例えばピンミル、ジェットミル、アトマイザー等によることができる。解砕された鉄石鹸粒子は分級される。すなわち、振動を与えて篩い分けを行う多段篩装置等を用いて分級を行ない、粒度分布を調整する。このようにして、遊離脂肪酸、水可溶性塩の各含有量が少なく、粒度要約値が所定の範囲であり、熱可塑性樹脂に溶融分散されやすい鉄石鹸粒子を得ることができる。
【0031】
本発明で得られる鉄石鹸スラリーのpHは0.1〜6.0、好ましくは0.1〜4.0に調整される。鉄石鹸スラリーのpHが高すぎると、鉄1モルに対し脂肪酸が3モル結合した鉄石鹸(III)になりにくく、一部が加水分解して鉄1モルに対して脂肪酸が2モル結合した鉄石鹸(ジソープ)が生成するおそれがある。また鉄石鹸スラリーのpHが低すぎると、得られた鉄石鹸が分解されやすくなり、遊離脂肪酸の量が多くなるおそれがある。
なお、鉄石鹸スラリーが得られた後、反応温度および鉄石鹸スラリーのpHを上記範囲に維持した状態にて、10分〜2時間、熟成させることが好ましい。
【0032】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の鉄石鹸は、熱可塑性樹脂に含有させて、その熱可塑性樹脂を分解をする目的で使用することが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、本発明の鉄石鹸とを含有する。かかる熱可塑性樹脂としては、非極性樹脂、極性樹脂のいずれであってもよく、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィンが挙げられ、ポリオレフィンとしては、例えばポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンが挙げられる。また、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、エチレン/ビニルアルコールコポリマー、エチレン/アクリル酸メチルコポリマー、ポリメタクリル酸メチルなども挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これらの熱可塑性樹脂に対して加熱条件下で鉄石鹸を溶融混合して得ることができる。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における鉄石鹸の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜8質量部である。鉄石鹸の含有量が少なすぎる場合は、鉄石鹸の特性が得られ難くなり、含有量が多すぎる場合は、熱可塑性樹脂を顕著に劣化させ易くなる。
【0034】
熱可塑性樹脂中に鉄石鹸を高分散させる分散助剤として、脂肪酸カルシウム石鹸、好ましくは複分解法によって得られた脂肪酸カルシウム石鹸を適宜用いることができる。具体的には、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、べへニン酸カルシウムが挙げられ、好ましくはステアリン酸カルシウムである。以下、複分解法によって得られた脂肪酸カルシウム石鹸を複分解脂肪酸カルシウム石鹸ともいう。
【0035】
鉄石鹸に対する複分解脂肪酸カルシウム石鹸の添加量は、鉄石鹸100質量部に対し、0.01〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜100質量部である。複分解脂肪酸カルシウム石鹸の添加量が少なすぎる場合は、鉄石鹸の分散性を向上させる特性が得られ難くなる。また、添加量が多すぎる場合は、熱可塑性樹脂中における鉄石鹸の光分解触媒や無機粉体などの分散剤としての機能が得られ難くなる。
【0036】
複分解脂肪酸カルシウム石鹸としては、上記(1)式の粒度要約値CがC≦2.0であり、80℃の環境下に10分放置した前記複分解脂肪酸カルシウム石鹸(脂肪酸金属塩粒子)において、パウダーテスターで測定される下記(2)式の凝集度E(%)がE≦20であることが好ましい。
これらの値を満たす複分解脂肪酸カルシウム石鹸は、鉄石鹸への分散・被覆性が高くなり熱可塑性樹脂に添加した際に分散性向上に更に顕著に寄与することができる。
凝集度E=〔(篩目350μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(1/1)+〔(篩目250μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(3/5)+〔(篩目150μmの篩に残存する脂肪酸金属塩粒子の質量)/2〕×100×(1/5)〕・・・(2)式
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、下記の実施例および比較例において、スラリー(分散液)のpH、遊離脂肪酸の含有量A(%)、水可溶性塩の含有量B(%)、粒度要約値Cは次のとおりにして測定を行なった。これらの結果を表1にまとめた。
【0038】
1)スラリー(分散液)のpH:
鉄石鹸スラリー20gを200mlビーカーに秤取り、均一になるように攪拌しながらpHを測定した。
【0039】
2)遊離脂肪酸の含有量A(%):
鉄石鹸5gをビーカーに秤取り、ジエチルエーテル−エタノール混合溶媒(1:1)50gを加え、30秒間攪拌した後に30分間静置した。その後、5Bのろ紙を使用してろ過を行ない、N/10の水酸化カリウム滴定液を用いてろ液を滴定し、下記式に従って遊離脂肪酸量を計算した。同様の操作を脂肪酸ブランクでも行なった。
遊離脂肪酸含有量=(VA−VB)×f×M/W/100
ただし、
VA:サンプルでの滴下量(ml)
VB:ブランクでの滴下量(ml)
f:N/10の水酸化カリウム滴定液のファクター
M:使用した脂肪酸の分子量
W:鉄石鹸のサンプル量(g)
【0040】
3)水可溶性塩の含有量B(%):
鉄石鹸2gを三角フラスコに秤取り、水を50g加えた後、空冷管を取り付けてウォーターバス上で振り混ぜながら1時間煮沸する。その後、ろ紙を用いて100mlビーカーにろ過する。三角フラスコ内の残留物に水10mlを加え、ろ過を行う操作を3回繰り返す。ウォーターバス上で100mlビーカーの水を揮発させた後、105±2℃の恒温乾燥機で1時間乾燥し、デシケーター内で放冷した後、重量をはかる。
水可溶性塩の含有量B(%)=[残渣(g)/試料採取量(g)]×100
【0041】
4)粒度要約値C:
粒度(D10、D50、D90);
粒度分布測定装置(機器名「マイクロトラックMT−3000」日機装(株)製)で測定した(原理:レーザー回折・散乱法)。
測定する粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%、50%、90%となる点の粒子径をそれぞれ10%径(D10)、50%径(D50)、90%径(D90)(μm)として求めた。
粒度要約値C=(D90−D10)/D50(但し、1. 0≦D50≦40. 0)・・・(1)式
D10:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における10%積算径(μm)
D50:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における50%積算径(μm)
D90:脂肪酸金属塩粒子の体積基準における90%積算径(μm)
【0042】
(実施例1)
5Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、60℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を75.4g加え、同温度(60℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、60℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを0.63に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe(SO水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを1.4とした。
滴下終了後、60℃に保持して10分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0043】
(実施例2)
5Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、65℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を75.4g加え、同温度(65℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、65℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを1.7に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe(SO水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.0とした。
滴下終了後、65℃に保持して10分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0044】
(実施例3)
5Lセパラブルフラスコにパルミチン酸(中和価219mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、65℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を81.3g加え、同温度(65℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、65℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを2.2に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe(SO水溶液]546.3gを60分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.4とした。
滴下終了後、65℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたパルミチン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のパルミチン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0045】
(実施例4)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価208mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、65℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(65℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、65℃に保持したまま、塩酸(試薬)を適定量加えてpHを3.6に調整した25%塩化鉄(III)水溶液[FeCl水溶液]210.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを3.8とした。
滴下終了後、65℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0046】
(実施例5)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、70℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を75.3g加え、同温度(70℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、70℃に保持したまま、塩酸(試薬)を適定量加えてpHを2.5に調整した25%塩化鉄(III)水溶液[FeCl水溶液]205.4gを60分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.9とした。
滴下終了後、70℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0047】
(比較例1)
キシダ化学(株)製、ステアリン酸鉄(III)試薬を用いた。
【0048】
(比較例2)
5Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、85℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(85℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、85℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを1.8に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe(SO水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを2.7とした。
滴下終了後、85℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸のブロック形状物に水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたブロック形状物を棚段乾燥し、ミキサーで粉砕して顆粒状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0049】
(比較例3)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価203mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、90℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(90℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、90℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを2.3に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe(SO水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを1.6とした。
滴下終了後、90℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸のブロック形状物に水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたブロック形状物を棚段乾燥し、ミキサーで粉砕して顆粒状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0050】
(比較例4)
3Lセパラブルフラスコにステアリン酸(中和価208mgKOH/g)を250g、水を2700g仕込み、70℃まで昇温した。次いで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を77.2g加え、同温度(70℃)にて1時間攪拌し、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得た。
その後、70℃に保持したまま、硫酸(試薬)を適定量加えてpHを5.3に調整した25%硫酸鉄(III)水溶液[Fe(SO水溶液]506.4gを40分かけて脂肪酸アルカリ金属塩水溶液に滴下し、鉄石鹸スラリーのpHを6.4とした。
滴下終了後、70℃に保持して20分間攪拌して熟成した。得られたステアリン酸鉄石鹸の水分散スラリーに水1500gを加え、50℃以下まで冷却した。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0051】
(比較例5)
特許文献1の実施例1に準拠してステアリン酸鉄の合成を行った。
2Lビーカー中、水酸化ナトリウム(試薬、特級)の水500g溶液に、ステアリン酸(NV=204;中和価)75gを加え、90℃まで加熱攪拌して当該ステアリン酸を鹸化して透明ゴム状のステアリン酸ナトリウムを得た。
次に、この反応混合物に緩慢に0.4Mの塩化鉄(III)水溶液222mlを加え、複分解反応を行った。懸濁状の赤い生成物を得た後、反応液に含有された水分を濾除し、初歩合成反応を完成した。
しかる後、0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液156mlと精製水344mlを反応液に加え、90℃まで加熱攪拌して生成物に残留したステアリン酸を鹸化した。しかる後、さらに0.4Mの塩化鉄(III)水溶液55mlを加え、懸濁状のステアリン酸鉄塩を生成した後、0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液93.6mlを加え、残留のステアリン酸と鹸化反応させた後、0.4Mの塩化鉄(III)水溶液33mlを加えて複分解反応を行った。その後、さらに0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液50mlを加え、鹸化反応を行った後、0.4Mの塩化鉄(III)水溶液18mlを加え、目的生成物であるステアリン酸鉄(III)を得た。その後、吸引濾過機でろ過し、1000gの水で2回水洗し、得られたケーキをミクロンドライヤーで乾燥・粉砕してパウダー状のステアリン酸鉄石鹸粒子を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
次に、前記実施例、比較例で評価した表1に示す10種類の鉄石鹸(III)粒子をそれぞれ3.2g用い、180℃の温度下、2軸混練機(ラボプラストミル)により無添加低密度ポリエチレン((株)プライムポリマー製、MIRASON 16P)60.0gと5分間混練した後、熱プレスにより1mm厚のシート状に成形した。
【0054】
(実施例6)
実施例1にて得られたステアリン酸鉄石鹸(III)粒子3.2gに対して、複分解法によって得られた、粒度要約値Cが1.8、凝集度Eが12.5%であるステアリン酸カルシウムを0.32g加えた組成物を用いて、上記と同様に、1mm厚のシートを成形した。
得られたシートについて以下の評価を行なった。
【0055】
〔白色度と鮮明度の総合等級〕
得られたシートについて、日本電色工業(株)製、Z−100DPのカラー測定器で白色度(WI)と明度(L)を測定し、5等級で判定した。
なお、測定は、任意に5箇所選定して行った。ここで、1等級は鮮明度と白色度が最も高い場合で、5等級は鮮明度と白色度が最も低い場合である。等級判定の結果を下記表2に示した。
【0056】
〔MFR値〕
得られたシートについて、劣化促進試験機アイスーパーSUV−W161型(岩崎電気(株)製)を用いて照射テストを行った。紫外線照度150mW/cm、60時間照射した。試験後、シートを細かく裁断しメルトマスフローレート(MFR、単位:g/10分)値をJIS K7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18N、温度190℃の条件で5回測定した。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1〜5では、本発明で規定する温度およびpHの条件下で、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液と鉄塩水溶液とを反応させることによって、本発明で規定する遊離脂肪酸の含有量A、水可溶性塩の含有量B、および粒度要約値Cを有する鉄石鹸粒子が得られている。また、実施例1〜5の鉄石鹸粒子を熱可塑性樹脂である低密度ポリエチレンに添加した際、総合等級が良好であり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られた。
さらに、実施例6では、複分解法のステアリン酸カルシウムとの組み合わせで、鉄石鹸粒子の分散性がさらに向上し、より高い流動性向上が見られた。
【0059】
一方、比較例1のステアリン酸鉄(III)試薬(キシダ化学(株)製)は、遊離脂肪酸の含有量Aが多いことから、ポリエチレンに添加した際に総合等級が悪くなり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られなかった。
比較例2、比較例3のステアリン酸鉄(III)試作品6、7は、複分解反応温度を結晶転移開始温度よりも高い温度で行っているため、得られた鉄石鹸がスラリー生成中に凝集、合一し安定性が悪くなり、未反応脂肪酸が取りこまれ、遊離脂肪酸が著しく高くなった。また、顆粒状の鉄石鹸となって、粒度も粗大となったことから、分散性が著しく悪くなり、MFRでも高い流動性が得られず、数値のばらつきも大きくなった。
比較例4のステアリン酸鉄(III)試作品8は、遊離脂肪酸の含有量Aが多いことから、ポリエチレンに添加した際に総合等級が悪くなり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られなかった。
比較例5のステアリン酸鉄(III)試作品9は、水可溶性塩の含有量B(%)が多いことから、ポリエチレンに添加した際に総合等級が悪くなり、ポリエチレンの分解促進に伴う流動性向上(MFR値)が得られなかった。