(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
楽曲のメロディに含まれる各音それぞれの基音周波数と、前記楽曲のメロディに含まれる各音に合わせて歌われた歌声を示す歌声波形データにおける各音それぞれの基音周波数と、の差を示すピッチ変動データを、演奏者による前記楽曲の演奏開始前から記憶しているメモリと、
前記演奏者が前記楽曲の演奏開始後に歌わなくても、前記メモリから取得されるピッチ変動データと、演奏のために前記演奏者により指定された音高に応じた演奏指定ピッチデータと、に基づいてキャリア信号となる信号を出力する音源と、
を備える電子楽器。
前記メモリは、前記歌声波形データに基づいて生成されている前記歌声の特徴を示す複数の振幅データであって、複数の周波数帯域それぞれに応じた複数の振幅データを、前記演奏者による前記楽曲の演奏開始前から記憶しており、
前記キャリア信号を、前記メモリから取得される前記複数の振幅データに基づいて変更することにより生成された第2波形データを出力する出力装置、
を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の電子楽器。
前記子音振幅波形データは、前記楽曲のメロディに含まれる各音に合わせて歌われた歌声を示す歌声波形データにおける各音それぞれの基音周波数を、ピッチ検出器が検出しなかった区間の振幅に基づいて生成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の電子楽器。
前記楽曲の演奏開始時を起点とする時間経過に従い、前記ピッチ変動データを前記メモリから読み出すマイコン、を備える、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電子楽器。
楽曲のメロディに含まれる各音それぞれの基音周波数と、前記楽曲のメロディに含まれる各音に合わせて歌われた歌声を示す歌声波形データにおける各音それぞれの基音周波数と、の差を示すピッチ変動データを、演奏者による前記楽曲の演奏開始前から記憶しているメモリを備えた電子楽器のコンピュータに、
前記演奏者が前記楽曲の演奏開始後に歌わなくても、前記メモリから取得されるピッチ変動データと、演奏のために前記演奏者により指定された音高に応じた演奏指定ピッチデータと、に基づいてキャリア信号となる信号を出力させる楽音発生方法。
楽曲のメロディに含まれる各音それぞれの基音周波数と、前記楽曲のメロディに含まれる各音に合わせて歌われた歌声を示す歌声波形データにおける各音それぞれの基音周波数と、の差を示すピッチ変動データを、演奏者による前記楽曲の演奏開始前から記憶しているメモリを備えた電子楽器のコンピュータに、
前記演奏者が前記楽曲の演奏開始後に歌わなくても、前記メモリから取得されるピッチ変動データと、演奏のために前記演奏者により指定された音高に応じた演奏指定ピッチデータと、に基づいてキャリア信号となる信号を出力させるプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、電子楽器100の実施形態のブロック図である。電子楽器100は、メモリ101、鍵盤操作子102、音源103、ボコーダ復調装置104、サウンドシステム105、マイクロコンピュータ107(以下「マイコン107」と記載)、及びスイッチ群108を備える。
【0012】
メモリ101は、実際に歌唱された楽曲の音声データである歌声波形データに含まれる各音の複数の周波数帯域夫々に対応する振幅の時系列データである第2振幅データ111と、楽曲の歌唱の例えば模範データであるメロディに含まれる各音の母音区間の基音周波数と上記歌声波形データに含まれる各音の母音区間の基音周波数との差を示す時系列データであるピッチ変動データ112と、上記歌声波形データの各音の子音区間に対応する時系列データである子音振幅データ113とを記憶する。第2振幅データ111は、ボコーダ復調装置105の上記複数の周波数帯域成分夫々を通過させるバンドパスフィルタ群の各バンドパスフィルタの利得を制御する時系列データである。ピッチ変動データ112は、メロディに含まれる各音の母音区間に対して予め設定されている例えば模範となる音高の基音周波数データと、実際の歌唱から得られる歌声波形データに含まれる各音の母音区間の基音周波数データとの差分データを、時系列に沿って抽出したデータである。子音振幅データ113は、上記歌声波形データに含まれる各音の子音区間のノイズ振幅データの時系列である。
【0013】
鍵盤操作子102は、ユーザの演奏操作により指定された音高を示す演奏指定ピッチデータ110を時系列で入力する。
【0014】
マイコン107は、ピッチ変更処理として、鍵盤操作子102から入力された演奏指定ピッチデータ110の時系列を、メモリ101から順次入力するピッチ変動データ112の時系列に基づいて変更することにより変更済ピッチデータ115の時系列を生成する。
【0015】
続いて、マイコン107は、第1出力処理として、上記変更済ピッチデータ115を音源103に出力すると共に、鍵盤操作子102における押鍵又は離鍵の操作に対応する押鍵・離鍵指示114の時系列を生成して音源103に出力する。
【0016】
一方、マイコン107は、ノイズ生成指示処理として、鍵盤操作子102の操作に対応する歌声波形データに含まれる各音の子音区間、例えば各音の発音タイミングに先行する所定の短時間区間では、ピッチ変動データ112を音源103に出力する代わりに、メモリ101から上記子音区間のタイミングで順次読み込まれる子音振幅データ113を、ノイズ発生器106に出力する。
【0017】
更に、マイコン107は、振幅変更処理の一部の処理として、歌声波形データに含まれる各音の複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第2振幅データ111の時系列を、メモリ101から読み込んでボコーダ復調装置104に出力する。
【0018】
音源103は、マイコン107による上記第1出力処理の制御により、マイコン107から入力する押鍵・離鍵指示114に基づいて発音開始と発音停止を制御しながら、マイコン107から入力する変更済ピッチデータ115に対応する基音周波数に対応するピッチを有する波形データを、ピッチ変更済第1波形データ109として出力する。この場合、音源103は、ピッチ変更済第1波形データ109をその後に接続されるボコーダ復調装置104を励起させるためのキャリア信号として発振する発振器として動作する。このため、ピッチ変更済第1波形データ109は、歌声波形データに含まれる各音の母音区間では、キャリア信号としてよく使用される三角波の倍音周波数成分又は任意の楽器の倍音周波数成分を含み、上記変更済ピッチデータ115に対応するピッチで繰り返す連続波形となる。
【0019】
また、歌声波形データの各音の発音タイミングの開始時等に存在する子音区間では、音源103が出力を行う前に、ノイズ発生器106が、マイコン107による前述したノイズ生成指示処理の制御により、マイコン107から入力する子音振幅データ113に対応する振幅を有する子音ノイズ(例えばホワイトノイズ)を生成し、子音区間波形データとしてピッチ変更済第1波形データ109に重畳させる。
【0020】
ボコーダ復調装置104は、マイコン107による前述した振幅変更処理の制御により、音源103が出力したピッチ変更済第1波形データ109から得られる複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第1振幅データを、マイコン107から出力される、歌声波形データに含まれる各音の複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第2振幅データ111に基づいて変更させる。ここで、ボコーダ復調装置104は、前述した歌声波形データの各音の子音区間ではピッチ変更済第1波形データ109に含まれる子音ノイズデータによって励起され、それに続く各音の母音区間では変更済ピッチデータ115に対応するピッチを有するピッチ変更済第1波形データ109によって励起されることになる。
【0021】
そして、ボコーダ復調装置104は、マイコン107から指定される第2出力処理として、上記複数の第1振幅データが夫々変更されることにより得られる第2波形データ116を、サウンドシステム105に出力し、そこから放音させる。
【0022】
スイッチ群108は、ユーザが楽曲のレッスン(教習)を行うときに、様々な指示をマイコン107に対して入力する入力部として機能する。
【0023】
マイコン107は、電子楽器100の全体の制御を実行する。マイコン107は、特には図示しないCPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、
図1の101、102,103、104、106、及び108の各部に対する入出力を行うインタフェース回路、及びこれらを相互に接続するバス等を備えたマイクロコンピュータである。マイコン107では、CPUが、ROMに記憶された楽曲演奏処理プログラムを、RAMをワークメモリとして実行することにより、上述した楽曲演奏のための制御処理を実現する。
【0024】
以上の電子楽器100によって、音源103が生成した歌唱する音声のピッチ変動のニュアンスが反映されたメロディ楽器音などのピッチ変更済第1波形データ109に対して人の歌声のニュアンスが付加された第2波形データ116を出力し放音することが可能となる。
【0025】
図2は、
図1のボコーダ復調装置104の詳細構成を示すブロック図である。ボコーダ復調装置104は、
図1の音源103又はノイズ発生器106が出力するピッチ変更済第1波形データ109をキャリア信号として入力し、複数の周波数帯域のそれぞれを通過させる複数のバンドパスフィルタ(BPF#1、BPF#2、BPF#3、・・・、BPF#n)からなるバンドパスフィルタ群201を備える。
【0026】
また、ボコーダ復調装置104は、各バンドパスフィルタ(BPF#1、BPF#2、BPF#3、・・・、BPF#n)の各出力である第1振幅データ204(#1〜#n)に、マイコン107から入力する#1〜#nの各第2振幅データ111の値を乗算する複数の乗算器(×#1〜×#n)からなる乗算器群202を備える。
【0027】
更に、ボコーダ復調装置104は、乗算器群202の各乗算器(×#1〜×#n)の出力を加算して
図1の第2波形データ116を出力する加算器203を備える。
【0028】
上述した
図2のボコーダ復調装置104により、各第2振幅データ111に基づいてフィルタリング特性が制御されるバンドパスフィルタ群201によって、楽曲の歌唱音声に対応する音声スペクトルエンベロープ特性(フォルマント特性)を、入力されるピッチ変更済第1波形データ109に付加することが可能となる。
【0029】
図3は、
図1のメモリ101のデータ構成例を示す図である。楽曲の歌詞音声の時間経過を例えば10msec毎に区切った時間(time)毎に、後述する
図4のボコーダ変調装置401から出力される#1、#2、#3、・・・、#nの各第2振幅データ111(
図1)が記憶される。また、上記時間経過毎に、楽譜上のメロディの各音の母音区間において例えば模範となるピッチに対して、実際にそのメロディを歌ったときの歌声波形データの各音のピッチのずれであるピッチ変動データ112が記憶される。更に、歌声波形データの各音の子音区間に対応する子音振幅データ113が記憶される。
【0030】
図4は、第2振幅データ群111、ピッチ変動データ112、及び子音振幅データ113を生成する音声変調装置400のブロック図である。音声変調装置400は、ボコーダ変調装置401、ピッチ検出器402、減算器403、及び子音検出器407を備える。
【0031】
ボコーダ変調装置401は、予め或る楽曲のメロディを歌唱させてマイクロフォンから得られる歌声波形データ404を入力して、第2振幅データ群111を生成し、
図1のメモリ101に記憶させる。
【0032】
ピッチ検出器402は、上述のメロディの実際の歌唱に基づく歌声波形データ404から、各音の母音区間の基音周波数(ピッチ)406を抽出する。
【0033】
減算器403は、ピッチ検出器402が抽出した上述のメロディの実際の歌唱に基づく歌声波形データ404に含まれる各音の母音区間の基音周波数406から、上記メロディに含まれる各音の母音区間に対して予め設定されている例えば模範となる基音周波数405を減算することにより、ピッチ変動データ112の時系列を算出する。
【0034】
子音検出器407は、上記歌声波形データ404の各音が存在する区間であって、ピッチ検出器402が基本周波数406を検出しなかった区間を子音区間として判定し、その区間の平均振幅を算出し、その値を子音振幅データ113として出力する。
【0035】
図5は、
図4のボコーダ変調装置401の詳細を示すブロック図である。ボコーダ変調装置401は、
図4の歌声波形データ404を入力し、複数の周波数帯域のそれぞれを通過させる複数のバンドパスフィルタ(BPF#1、BPF#2、BPF#3、・・・、BPF#n)からなるバンドパスフィルタ群501を備える。このバンドパスフィルタ群501は、
図1のボコーダ復調装置104の
図2のバンドパスフィルタ群201と同じ特性のものである。
【0036】
また、ボコーダ変調装置401は、複数のエンベロープフォロア(EF#1、EF#2、EF#3、・・・、EF#n)からなるエンベロープフォロア群502を備える。各エンベロープフォロア(EF#1、EF#2、EF#3、・・・、EF#n)は、各バンドパスフィルタ(BPF#1、BPF#2、BPF#3、・・・、BPF#n)の各出力の時間変化のエンベロープデータをそれぞれ抽出し、それぞれ一定時間(例えば10msec(ミリ秒))毎にサンプリングして、各第2振幅データ111(#1〜#n)として出力する。エンベロープフォロア(EF#1、EF#2、EF#3、・・・、EF#n)は例えば、各バンドパスフィルタ(BPF#1、BPF#2、BPF#3、・・・、BPF#n)の各出力の振幅の絶対値を算出し、各算出値をそれぞれ入力して時間変化のエンベロープ特性を抽出するために十分に低い周波数成分のみを通過させるローパスフィルタである。
【0037】
図6は、
図4の音声変調装置400におけるピッチ変動データ112の生成のしくみを説明する図である。例えば実際に人間が歌唱した歌声波形データ404の各音の母音区間の基本周波数は、楽譜が示すメロディの各音の母音区間の例えば模範となる基音周波数405に対して、周波数が変動していて、それが歌い手の個性や心地よさになっている。そこで、本実施形態では、予め得られているメロディに含まれる各音の母音区間の基音周波数405と、メロディが実際に歌唱されて得られた歌声波形データ404からピッチ検出器402により検出された各音の母音区間の基音周波数406との差分が算出されることで、ピッチ変動データ112が生成される。
上記歌声波形データ404は、演奏者が操作子を指定して演奏する前に、予め人間が歌唱した歌声をメモリ101に記憶したものでもよいが、音声合成技術を用いて機械が出力した歌声データをメモリ101に記憶したものでもよい。また、上記歌声波形データ404は、演奏者が操作子を指定して演奏しながら歌唱する場合は、図示しないマイクにより演奏者が歌う歌声をリアルタイムに取得し、メモリ101に記憶したものでもよい。
【0038】
図7は、
図1のマイコン107が実行する電子楽器の楽音発生処理の例を示すフローチャートである。この楽音発生処理は、前述したように、マイコン107において、内部のCPUが、内部のROMに記憶された
図7のフローチャートとして例示される楽音発生処理プログラムをRAMをワークメモリとして実行する動作として実現される。
【0039】
ユーザが
図1のスイッチ群108からレッスンの開始を指示すると、
図7のフローチャートの処理が開始され、鍵盤処理(ステップS701)、ピッチ更新処理(ステップS702)、及びボコーダ復調処理(ステップS703)が、繰り返し実行される。ユーザが
図1のスイッチ群108からレッスンの終了を指示する
図7のフローチャートの処理が終了する。
【0040】
図8は、
図7のステップS701の鍵盤処理の詳細例を示すフローチャートである。まず、
図1の鍵盤操作子102において、押鍵があったか否かが判定される(ステップS801)。
【0041】
ステップS801の判定がYESならば、押鍵された音高の演奏指定ピッチデータ110に対してピッチ変動データ112を加算して得られる変更済ピッチデータ115が示すピッチを有するピッチ変更済第1波形データ109を出力するよう、
図1の音源103に発音開始(ノートオン)指示が出力される(ステップS802)。ステップS801の判定がNOならば、ステップS802の処理はスキップされる。
【0042】
次に、離鍵があったか否かが判定される(ステップS803)。
【0043】
ステップS803の判定がYESならば、離鍵された音高のキャリア波形を消音するよう、
図1の音源103に発音終了(ノートオフ)指示が出力される。
【0044】
その後、
図8のフローチャートで例示される
図7のステップS701の鍵盤処理が終了する。
【0045】
図9は、
図7のステップS702のピッチ更新処理の詳細例を示すフローチャートである。この処理においては、楽曲の開始時を起点とする時間経過(
図5のtime)に従い、メモリ101から、ピッチ変動データ112(
図5参照)が読み出され、押鍵されている音高の演奏指定ピッチデータ110に加算されることにより、変更済ピッチデータ115が生成される(ステップS901)。
【0046】
次に、変更済ピッチデータ115によるピッチ変更指示が、音源103に対して指示される(ステップS902)。その後、
図9のフローチャートで例示される
図7のステップS702のピッチ更新処理が終了する。
【0047】
図10は、
図7のステップS703のボコーダ復調処理の詳細例を示すフローチャートである。
図1の楽曲の進行時間に該当する時間に対応する各周波数帯域の第2振幅データ111の組(#1〜#n)(
図3参照)が読み出され、
図1のボコーダ復調装置104内の
図2の乗算器群202内の各乗算器(×#1〜×#n)に出力される(ステップS1001)。なお、楽曲の進行時間は例えば、ユーザがレッスン開始を指示した時点から、マイコン107が内蔵するタイマによって計時されている。ここで、上記進行時間に該当する時間が
図5に例示されるメモリ101に記憶されていない場合には、上記進行時間の時間値の前後のメモリ101に記憶されている時間の振幅データからの補間演算により、上記進行時間の時間値に対応する振幅データが演算されてよい。
【0048】
ボコーダ復調装置104内の加算器203に対して、
図2の乗算器群202内の各乗算器の出力を加算させ、その加算結果を第2波形データ116として出力させる(ステップS1002)。その後、
図10のフローチャートで例示される
図7のステップS703のボコーダ復調処理が終了する。
【0049】
以上説明した実施形態により、
図1のピッチ変更済第1波形データ109に対してボコーダ復調装置104によってメロディを歌う音声から得られる歌声波形データ404におけるピッチ変動のニュアンスを反映させた第2波形データ116を得ることが可能となる。このとき、入力音声の波形(フォルマント)の変化だけではなく、そのピッチ変動も再現できるため、より人間の歌唱音声に近い表現力を持つ音源装置とすることができる。
【0050】
また、本実施形態では、歌唱音声を鍵盤操作子で演奏することを目的とし、声のフォルマンとを再現するためのフィルタ群(分析フィルタ、声道分析フィルタ)を用いているが、管楽器や弦楽器等の自然楽器をデジタルフィルタ群でモデリングした構成に応用すれば、鍵盤操作子の操作に合わせて、管楽器や弦楽器のピッチ変動を模倣することにより、自然楽器の表現により近い演奏が可能になる。
【0051】
歌詞音声は、予め録音された歌唱音声をPCM(パルスコード変調)データで内蔵し、その音声を発音させる方法も考えられるが、この方式では音声データが大きくなることや、演奏者が弾き間違えたときに、間違えたなりの音高で発音させることが比較的難しい。また、歌詞データを内蔵し、そのデータを元に音声合成された音声信号を発音させる方法があるが、この方式の欠点として、音声合成には多くの計算量とデータが必要となるため、リアルタイムの制御が困難である。
【0052】
本実施形態によるボコーダ方式で合成するものとすることで、周波数毎の振幅変化を予め分析しておくことで、分析フィルタ群を不要とできるので、PCMデータで内蔵しておくよりも、回路規模や計算量、データ量を削減することができる。更に、間違った鍵盤操作子102を弾いた場合、歌詞音声をPCM音声データで保持していた場合は、その音声を間違った鍵盤操作子で指定されるピッチに合わせるためのピッチ変換を行う必要があるが、ボコーダ方式にすることで、ピッチ変換もキャリアのピッチを変えるだけなので、容易であるという利点もある。
【0053】
図1のボコーダ復調装置104は、マイコン107との協調制御によって、メモリ101から音声スペクトルエンベロープデータの時系列を順次読み出して入力しながら、ピッチ変更済第1波形データ109に対して、音声スペクトルエンベロープ特性を有するフィルタリング処理を実行し、このフィルタリング処理の実行された第2波形データ116を出力するフィルタ部として機能する。ここで、フィルタ部は、ボコーダ復調装置104のほかに、線形予測分析又はスペクトル最尤推定に基づいて得られる線形予測合成フィルタ、偏相関分析に基づいて得られるPARCOR合成フィルタ、又は線スペクトル対分析に基づいて得られるLSP合成フィルタなどのデジタルフィルタによって実現することも可能である。このとき、音声スペクトルエンベロープデータは、上述のデジタルフィルタのための線形予測係数データ、PARCOR係数データ、又はLSP係数データのいずれかのパラメータ群であってよい。
【0054】
上述の実施形態では、楽曲の歌詞音声に対応する音声スペクトルエンベロープデータ及びピッチ変動データは、メモリ101に予め記憶させたが、ユーザの演奏操作に合わせてユーザが発声する楽曲の歌詞音声から音声スペクトルエンベロープデータ及びピッチ変動データが、リアルタイムで入力されるようにしてもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、押鍵毎に、その音高にピッチ変動データが加算されるようにしたが、押鍵と押鍵の間の音符の移行期間で、ピッチ変動データが適用されて発音が実施されるようにしてもよい。
【0056】
更に、上述の実施形態では、マイコン107は、例えば
図9のピッチ更新処理において、押鍵されている音高の演奏指定ピッチデータ110にメモリ101から読み出したピッチ変動データ112そのものを加算することにより、変更済ピッチデータ115を生成した。このとき、マイコン107は、ピッチ変動データ112そのものではなく、例えばユーザによるスイッチ群108(
図1)の操作に基づいて、ピッチ変動データ112に所定の係数を乗じた結果を演奏指定ピッチデータ110に加算するようにしてもよい。このときの係数の値が例えば「1」であれば、音源103から出力されるピッチ変更済第1波形データ109には、実際の歌唱に基づくピッチ変動がそのまま反映され、実際の歌唱と同じ抑揚が付加される。一方、上記係数の値が例えば1以上であれば、ピッチ変更済第1波形データ109には、実際の歌唱よりも大きなピッチ変動が反映され、実際の歌唱よりも感情豊かな抑揚を付加することができる。
【0057】
その他、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0058】
以上の実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
指定される複数の操作子と、
制御部と、を備え、前記制御部は、
指定された操作子が対応している第1波形データのピッチを、メロディに含まれる各音の基音周波数と、歌声波形データに含まれる各音の基音周波数との差を示すピッチ変動データに基づいて変更するピッチ変更処理と、
前記ピッチ変更処理により前記第1波形データのピッチが変更されたピッチ変更済第1波形データを音源に出力させる第1出力処理と、
前記第1出力処理により前記音源に出力させた前記ピッチ変更済第1波形データから得られる複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第1振幅データを、前記歌声波形データから得られる前記複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第2振幅データに基づいて変更させる振幅変更処理と、
前記振幅変更処理により前記複数の第1振幅データが夫々変更されることにより得られる第2波形データを出力させる第2出力処理と、を実行する電子楽器。
(付記2)
前記歌声波形データは、前記メロディに含まれる各音に合わせて歌詞が歌われた歌声の波形データである、ことを特徴とする付記1に記載の電子楽器。
(付記3)
前記歌声波形データは、前記複数の操作子のうちの少なくともいずれか1つの操作子の指定に合わせて演奏者が歌うことにより得られる歌声の波形データであり、
前記制御部は、前記複数の操作子のうちの少なくともいずれか1つの操作子の指定に応じて、前記演奏者が歌う前記歌声に基づいた前記第2波形データを前記第2出力処理により出力させる、ことを特徴とする付記1に記載の電子楽器。
(付記4)
前記第2波形データは、前記複数の第1振幅データと、前記複数の第2振幅データの値とをそれぞれ乗算し、前記それぞれ乗算して得られる各値を加算することにより得られることを特徴とする付記1乃至3の何れかに記載の電子楽器。
(付記5)
前記ピッチ変動データは、演奏者が指定する係数に応じて変更可能であることを特徴とする付記1乃至4の何れかに記載の電子楽器。
(付記6)
前記ピッチ変更済第1波形データは、前記歌声波形データに含まれる各音の子音区間において前記振幅変更処理に入力される子音区間波形データを含むことを特徴とする付記1乃至5の何れかに記載の電子楽器。
(付記7)
指定される複数の操作子と、制御部とを備えた電子楽器において、前記制御部に、
指定された操作子が対応している第1波形データのピッチを、メロディに含まれる各音の基音周波数と、歌声波形データに含まれる各音の基音周波数との差を示すピッチ変動データに基づいて変更するピッチ変更処理と、
前記ピッチ変更処理により前記第1波形データのピッチが変更されたピッチ変更済第1波形データを音源に出力させる第1出力処理と、
前記第1出力処理により前記音源に出力させた前記ピッチ変更済第1波形データから得られる複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第1振幅データを、前記歌声波形データから得られる前記複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第2振幅データに基づいて変更させる振幅変更処理と、
前記振幅変更処理により前記複数の第1振幅データが夫々変更されることにより得られる第2波形データを出力させる第2出力処理と、を実行させる電子楽器の楽音発生方法。
(付記8)
指定される複数の操作子と、制御部とを備えた電子楽器を制御するコンピュータに、
指定された操作子が対応している第1波形データのピッチを、メロディに含まれる各音の基音周波数と、歌声波形データに含まれる各音の基音周波数との差を示すピッチ変動データに基づいて変更するピッチ変更処理と、
前記ピッチ変更処理により前記第1波形データのピッチが変更されたピッチ変更済第1波形データを音源に出力させる第1出力処理と、
前記第1出力処理により前記音源に出力させた前記ピッチ変更済第1波形データから得られる複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第1振幅データを、前記歌声波形データから得られる前記複数の周波数帯域夫々に対応する複数の第2振幅データに基づいて変更させる振幅変更処理と、
前記振幅変更処理により前記複数の第1振幅データが夫々変更されることにより得られる第2波形データを出力させる第2出力処理と、
を実行させるためのプログラム。