特許第6569770号(P6569770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569770
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】レンズの染色方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20190826BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20190826BHJP
   D06P 5/20 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   G02C7/02
   D06P5/00 D
   D06P5/20 C
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-89051(P2018-89051)
(22)【出願日】2018年5月7日
(62)【分割の表示】特願2013-266362(P2013-266362)の分割
【原出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2018-132782(P2018-132782A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2018年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 稔
(72)【発明者】
【氏名】長田 雅義
【審査官】 植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−336582(JP,A)
【文献】 特開2009−166849(JP,A)
【文献】 特開2003−107410(JP,A)
【文献】 特開平11−208005(JP,A)
【文献】 実開昭62−177667(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
D06P 5/00
D06P 5/20
D06P 3/00
B65D81/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを染色するためのレンズの染色方法において、
基体に昇華性の染料を付着させる基体作製ステップと、
前記基体作製ステップによって作製された前記基体を、レンズ染色用基体梱包部材に梱包し、レンズ染色用基体梱包物を作成する梱包ステップと、
レンズの染色を実施するレンズ染色実施先に、前記レンズ染色用基体梱包物を送付する送付ステップと、
前記レンズ染色実施先において、前記レンズ染色用基体梱包物を開封し、前記基体を取り出す開封ステップと、
取り出した前記基体をレンズと対向させ、前記基体を加熱することによって、前記基体に付着された前記染料を昇華させ、前記染料をレンズに蒸着させる蒸着ステップと、
前記染料が蒸着されたレンズを加熱することによって、前記染料を定着させる定着ステップと、
を有し、
前記レンズ染色用基体梱包部材は、前記基体の前記染料の変化を抑制するための変化抑制部と、
前記レンズ染色用基体梱包部材の内側に前記基体の前記染料が移染することを抑制するための移染抑制部と、
を備えることを特徴とするレンズの染色方法。
【請求項2】
請求項1のレンズの染色方法において、
前記移染抑制部は、少なくともポリプロピレンを含んでいることを特徴とするレンズの染色方法。
【請求項3】
請求項1又は2のレンズの染色方法において、
前記変化抑制部は、前記基体の前記染料の変化を抑制するために、紫外線を遮断するための金属部を含むことを特徴とするレンズの染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ンズの染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズを染色する方法として、例えば、気相転写染色方法がある。気相転写染色方法は、昇華性染料を含有する染色用インク(染料)を紙やガラス等の基体上に付着(出力)させ、これを真空中でレンズと非接触に置き、昇華性染料をレンズ側に飛ばして染色を行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、例えば、気相転写染色方法を実施する場合に、染色用インク、基体をそれぞれ、各販売先に送付していた。そして、各販売先は、販売先において、それぞれ、染色用インク付着部材(例えば、インジェクトプリンタ等)を用いて、染色用インクを基体に付着し、染色用インクを付着した基体を用いて、レンズを染色していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−215306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、販売先が染色用インクを基体に付着する際に、基体へ染色用インクを付着する際の環境(例えば、温度や湿度等)、プリンタ等の種類や個体差によって、染色用インクの付着量にばらつきが発生する場合があった。
【0006】
本開示は、上記問題点を鑑み、レンズの染色を良好に行うことができるレンズ染色方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 本開示のレンズ染色方法は、レンズを染色するためのレンズの染色方法において、基体に昇華性の染料を付着させる基体作製ステップと、前記基体作製ステップによって作製された前記基体を、レンズ染色用基体梱包部材に梱包し、レンズ染色用基体梱包物を作成する梱包ステップと、レンズの染色を実施するレンズ染色実施先に、前記レンズ染色用基体梱包物を送付する送付ステップと、前記レンズ染色実施先において、前記レンズ染色用基体梱包物を開封し、前記基体を取り出す開封ステップと、取り出した前記基体をレンズと対向させ、前記基体を加熱することによって、前記基体に付着された前記染料を昇華させ、前記染料をレンズに蒸着させる蒸着ステップと、前記染料が蒸着されたレンズを加熱することによって、前記染料を定着させる定着ステップと、を有し、前記レンズ染色用基体梱包部材は、前記基体の前記染料の変化を抑制するための変化抑制部と、前記レンズ染色用基体梱包部材の内側に前記基体の前記染料が移染することを抑制するための移染抑制部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る技術によると、レンズの染色を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】レンズ染色用の染料が付着されたレンズ染色用基体について説明する図である。
図2】レンズ染色用基体に染料を付着させるための染料付着部について説明する図である。
図3】レンズ染色用基体梱包物の構成の一例について説明する図である。
図4】レンズ染色用基体の梱包方法の一例について説明する図である。
図5】レンズ染色用基体梱包部材の構成の一例について説明する図である。
図6】使用する染色装置等を示した染色システム概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示に係るレンズ染色用基体梱包物、レンズ染色用基体梱包部材、レンズ染色用梱包方法、及びレンズの染色方法を実施するための形態の一つの例を図面に基づいて説明する。図1図6は本実施形態に係るレンズ染色用基体梱包物、レンズ染色用基体梱包部材、レンズ染色用梱包方法について説明するための図である。
【0012】
<概要>
本実施形態において、レンズ染色用基体梱包物を例に挙げて、説明する。もちろん、本開示に係る技術は、レンズ染色用基体梱包部材、レンズ染色用梱包方法、及びレンズの染色方法にも適用することができる。本実施形態に係るレンズ染色用基体梱包物20は、レンズの染色用の染料が付着された基体(レンズ染色用基体)1と、レンズ染色用基体1を梱包するためのレンズ染色用基体梱包部材21と、を備える。
【0013】
例えば、レンズ染色用基体1における基体2は、紙、金属、ガラス等が用いられる。例えば、レンズ染色用基体梱包部材21は、袋、容器等が挙げられる。例えば、レンズ染色用基体梱包部材21は、変化抑制部23と、移染抑制部24と、を備える。
【0014】
例えば、変化抑制部23は、基体の染料の変化を抑制する。例えば、変化抑制部23は、レンズ染色用基体1の染料の変化を抑制するために、紫外線を遮断するための金属部を含んでいる。例えば、金属部は、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、銀、金、ステンレス、等が挙げられる。もちろん、変化抑制部23は、紫外線を遮断するための金属部に限定されない。変化抑制部23は、紫外線遮断性を有するものであればよい。例えば、紫外線を遮断するようなフィルタ、ポリイミドのシート等が用いられる。
【0015】
例えば、移染抑制部24は、レンズ染色用基体梱包部材21の内側にレンズ染色用基体1の染料が移染することを抑制する。例えば、移染抑制部24は、少なくともポリプロピレンを含んでいる。もちろん、移染抑制部24は、レンズ染色用基体梱包部材21の内側にレンズ染色用基体1の染料が移染することを抑制するような、移染抑制性を有するものであればよい。例えば、移染抑制部24は、少なくともポリエチレンを含んでいるものであってもよい。
【0016】
また、例えば、レンズ染色用基体梱包物20は、さらに、移染抑制部24とレンズ染色用基体1との間に、少なくとも気体部Sを備えてもよい。例えば、気体部Sは、空気、窒素等が挙げられる。このように、レンズ染色用基体梱包物20が気体部Sを備えることによって、レンズ染色用基体1が梱包された状態で、圧力がかけられても、レンズ染色用基体1とレンズ染色用基体梱包部材21の間にスペースが形成される。このため、レンズ染色用基体1にレンズ染色用基体梱包部材21が強く押し付けられることが少なくなり、レンズ染色用基体梱包部材21に染料が移染されづらくなる。
【0017】
また、例えば、レンズ染色用基体梱包物20は、さらに、レンズ染色用基体1の形状を維持させるための形状維持部材25を備えてもよい。例えば、形状維持部材25は、合紙、型板等が挙げられる。このように、レンズ染色用基体梱包物20が形状維持部材25を備えることによって、レンズ染色用基体1の形状を維持させることができる。また、レンズ染色用基体梱包部材21に染料が移染することを抑制することができる。
【0018】
なお、本実施形態において、レンズ染色用基体梱包物20には、少なくとも2つ以上のレンズ染色用基体1が梱包される。もちろん、梱包されるレンズ染色用基体1は、1つであってもよい。
【0019】
例えば、本実施形態において、レンズ染色用基体1が梱包される際に、複数のレンズ染色用基体1が、レンズの染色用の染料が付着された面が同一方向に向けられて、梱包されるようにしてもよい。このように梱包することによって、レンズ染色用基体1を送付している際に、異なるレンズ染色用基体1の間で染料が混合してしまうことが抑制される。これによって、レンズの染色時において、色ムラが生じることや異なる色となってしまうことが抑制される。
【0020】
例えば、本実施形態において、レンズ染色用基体1が梱包される際に、複数のレンズ染色用基体1の各々に付着されたレンズの染色用の染料が同一の色を有するように梱包してもよい。このように梱包することによって、異なるレンズ染色用基体1の間で染料が混合されることを抑制することができる。このため、レンズの染色時において、色ムラが生じることや異なる色となってしまうことが抑制される。
【0021】
例えば、レンズ染色用基体1が梱包されたレンズ染色用基体梱包物20は、レンズの染色を実施するレンズ染色実施先(販売先)に、送付される。販売先において、送付されてきたレンズ染色用基体梱包物20が開封され、レンズ染色用基体1が取り出される。レンズ染色用基体1がレンズと対向させて配置され、レンズ染色用基体1が加熱されることによって、レンズ染色用基体1に付着された染料が昇華され、染料がレンズに蒸着される。染料が蒸着されたレンズが加熱されることによって、染料がレンズに定着される。以上のようにして、販売先において、レンズの染色が行われる。
【0022】
このように、レンズ染色用基体1が梱包されたレンズ染色用基体梱包物20を販売先に、送付することによって、販売先でレンズ染色用基体1を作成する手間や時間を省くことができる。これによって、染色用基体1が販売元で作成されているため、レンズ染色用の染料の付着量のばらつきを抑制することができ、レンズ染色用基体1を用いてレンズ染色を行った際に、所望の染色を行うことができる。
【0023】
また、レンズ染色用基体梱包部材21において、移染抑制部24が備えられていることによって、レンズ染色用の染料を付着したレンズ染色用基体1が、販売先に送付されている間に、染色用インクが梱包部材に移染してしまうことを抑制できる。このため、レンズの染色用の染料が付着されたレンズ染色用基体1が良好に送付される。
【0024】
<実施例>
以下、典型的な実施例の1つについて、図面を参照して説明する。図1は、染色用の染料が付着された基体(レンズ染色用基体)1について説明する図である。例えば、レンズ染色用基体(以下、染色用基体)1は、真空中でレンズと非接触に配置され、染色用基体1に付着された染料を電磁波によって加熱することで、染料を昇華させて、レンズ面に蒸着し、大気圧下又は加圧下にて加熱することによって、染色を行う際に用いられる。
【0025】
<染色用基体>
図1を参照して、本実施例における染色用基体1について説明する。図1の上側が正面図、下側が平面図である。なお、図1の正面図では、各層を分かり易く示すために、染色用基体1の厚み方向(正面図における上下方向)の長さを、実際の長さよりも長くしている。図1に例示した染色用基体1では、既に染料が付着されて染料層4が形成されている。例えば、染色用基体1は、主に、基体(べース)2、染料層4を備える。また、さらに、染色用基体1は、電磁波吸収層6を備えてもよい。図1に例示した染色用基体1では、染色用基体1は、基体2、染料層4、電磁波吸収層6を備える。
【0026】
例えば、基体2は、紙、金属板(例えば、アルミ、鉄、銅、等)、ガラス、等を用いる構成が挙げられる。以下の説明においては、基体2は、紙を例に挙げて説明する。基体2は、他の層(電磁波吸収層6等)を保持する基材となる。また、本実施例においては、例えば、基体2は、シート状の基体が用いられる。
【0027】
例えば、染色層4は、後述する染料付着部10によって、基体2に形成される。例えば、本実施例において、染色層4は、少なくとも赤、青、黄、3色の染料が使用される。もちろん、これら以外の色が使用されてもよい。これらの3色の染料は、後述するインクジェットプリンタ11によって基体2に付着される。例えば、染料は、少なくとも昇華性を有する。また、例えば、染料は、昇華時の熱に耐え得る耐熱性を有するものが用いられることが好ましい。一例として、本実施例では、キノフタロン系昇華性染料またはアントラキノン系昇華性染料が用いられる(例えば、染料の一例については、特開2004−326018号公報、特開2003−185982号公報等を参照されたし)。
【0028】
例えば、電磁波吸収層6は、少なくとも染色用基体1において染料が付着される側の面の反対側(図2の正面図における上側)に形成される層である。電磁波吸収層6は、基体2に比べて高い電磁波吸収率を有する。詳細には、電磁波吸収層6は、少なくとも電磁波発生部(図6参照)31が発生させる波長の電磁波を、基体2よりも高い吸収率で吸収できればよい。一例として、本実施例では、耐熱性樹脂材料(本実施形態ではポリアミドイミド樹脂)と、黒色または濃色(本実施例では黒色)の顔料とを含有する着色インクの乾燥塗膜によって、電磁波吸収層6が形成されている。この場合、電磁波吸収層6は十分な耐熱性を保持し、且つ、紙である基体2にシワが生じることが抑制される。着色インクを基体2の面に付着(塗布)させる方法には、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、スプレー、筆、ローラ等を用いる方法等を採用できる。もちろん、電磁波吸収層6は、耐熱性樹脂材料を含んでいなく、黒色または濃色の顔料とを含有する着色インクの乾燥塗膜によって、形成されていてもよい。なお、他の材料および方法を用いて電磁波吸収層6を形成することも可能である。なお、電磁波吸収層6が形成される領域は、染色用基体1における一方の面又は両面のいずれに形成される構成が挙げられる。また、電磁波吸収層6が形成される領域は、染色用基体1における一部を占める領域に形成されてもよいし、面の全ての領域に形成されもよい。
【0029】
なお、本実施例における染色用基体に、染料保持層を設ける構成としてもよい。例えば、染料保持層は、染料が付着される側の面に形成される。なお、染料保持層が形成される領域は、少なくとも染料層4が形成される領域を含む領域であればよい。また、染料保持層の材料には種々の材料を用いることができる。例えば、ポリエチレンオキシドまたはポリエチレングリコールを含む親水性高分子材料が、染料保持層の材料として用いられる構成が挙げられる。このように、染料保持層を設けることによって、基体2の表面に染料が直接付着される場合に比べて、安定した状態で染料が保持される。特に、基体2が金属製である場合に、基体2の表面に染料を直接付着させると、染料の滲み、広がり等によって染料が保持され難いため、染料保持層を設けるのがよりよい。
【0030】
<染色用基体の作成>
図2は、基体2に染料を付着させるための染料付着部10について説明する図である。染料付着部10は、レンズを染色するための染料(昇華性染料)が付着された染色用基体1を作製する。
【0031】
本実施例の染料付着部10は、一例として、インクジェットプリンタ11を用いて染料を染色用基体1に付着(本実施例では印刷)させる。従って、染料付着部10は、作業者が所望する色合いの染料を、より正確に染色用基体1に付着させることができる。つまり、染色用基体1に付着させる染料の分量、色相、グラデーションの程度等の正確性が向上する。また、作業者は、染料を容易に取り扱うことができる。さらに、インクジェットプリンタ11を用いることで、使用する染料が削減される。
【0032】
本実施例では、インクジェットプリンタ11の駆動制御に用いられる印刷データは、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)12によって作成される。作業者は、例えば、PC12にインストールされたドローソフト等を用いることで、染色用基体1に付着させる染料の色相、彩度、明度、グラデーションの有無および程度等を容易に調整することができる。作業者は、PC12のメモリ、インクジェットプリンタ11のメモリ、USBメモリ等に印刷データ保存させることで、染料を同一の色合いで複数の染色用基体1に繰り返し付着させることもできる。また、作業者は、メーカー等によって予め作成された複数の印刷データの中から1つを選択し、インクジェットプリンタ11に印刷を実行させることも可能である。
【0033】
なお、インクジェットプリンタ11を用いずに染料を染色用基体1に付着させることも可能である。例えば、染料付着部10は、ローラ、ディスペンサー等を駆動することや、スクリーン等を用いた印刷によって、染料を染色用基体1に付着させてもよい。また、染料付着部10を用いずに、作業者自身が筆またはローラ等を用いて染料を染色用基体1に付着させてもよい。
【0034】
染色用基体1を作成する際、例えば、染色用基体1の作成者(以下、作成者)は、インクジェットプリンタ11に基体2をセットする。作成者は、PC12を操作し、予め設定しておいた色相及び濃度にて印刷を行う。印刷された基体2の表面には、図1に示すように染料層4が円形状に印刷される。例えば、基体2上への染色層の数は、任意に設定することができる。本実施例においては、染料層4は、基体2上に2つ印刷される構成を例としてあげている。また、印刷される染料層4の直径は実際に染色をするレンズ径よりも長めの方が好ましい。染料層4の直径がレンズ径よりも短い場合、レンズの着色側全面に十分染料が行き渡らない可能性があるからである。
【0035】
また、染色用基体1の作製に使用される基体2のサイズは特にこだわる必要はなく、インジェクトプリンタ11に使用可能な紙のサイズを使用すればよい。また、基体2のサイズは、インジェクトプリンタ11より出力後、後述する染色用治具に合うように余計な余白部分をある程度取り除いて使用してもよい。また、本実施例では、染料層4の形状は円形としているが、これに限るものではなく、レンズの染色させたい領域に染料が行き渡るような大きさ、形状であればよい。
【0036】
<染色用基体の梱包>
作成された染色用基体1は、梱包されて、レンズ染色用基体梱包物(以下、梱包物と記載)20として、染色を実施する各販売先に送付される。以下、染色用基体1が梱包された染色用基体梱包物について説明する。図3は、染色用基体梱包物20の構成の一例について説明する図である。図4は、染色用基体1の梱包方法の一例について説明する図である。
【0037】
本実施例において、例えば、主に、梱包物20は、レンズ染色用基体梱包部材(以下、梱包部材)21、染色用基体1、形状維持部材25、固定部材26、等によって構成される。例えば、梱包部材21としては、袋、容器等が挙げられる。もちろん、梱包部材21としては、染色用基体1を梱包できる構成であればよい。本実施例においては、梱包部材21として袋を用いた場合を例に挙げて説明する(詳細は後述する)。なお、本実施例においては、複数の染色用基体1が梱包された場合を例に挙げて説明する。また、梱包物20において、染色用基体1と梱包部材21(より詳細には、梱包部材21の移染抑制部)との間には、気体部Sが設けられる。
【0038】
図4に示されるように、例えば、染色用基体1は、染色用基体梱包部材(以下、梱包部材)21に収容され、気体を注入した状態(梱包部材21の内部に気体部Sを形成した状態)で、梱包部材21の開口部21aが熱溶着等によって封止されることによって、梱包(密閉)される。例えば、梱包部材21に収容される場合において、所定の数(例えば、1、2、10等)の染色用基体1が2つの形状維持部材25によって挟みこまれ、固定部材26によって固定されて、梱包部材21に収容される。以上のように、梱包されることによって、梱包物20が形成される。
【0039】
例えば、本実施例において、少なくとも2つ以上の染色用基体1が梱包される場合に、複数の染色用基体1が、レンズの染色用の染料が付着された面が同一方向に向けられて、梱包されている。このように、複数の染色用基体1を同一の方向を向けることによって、染色用基体1同士で移染が生じることを抑制することができる。これによって、異なる染色用基体1の間で染料が混合して、レンズ染色時において、色ムラや異なる色となってしまうことが抑制される。なお、本実施例においては、梱包物20において、複数の染色用基体1を同一の方向を向けて梱包される構成としたがこれに限定されない。例えば、複数の染色用基体1は、異なる方向に向けられて梱包される構成としてもよい。また、例えば、複数の染色用基体1は、同一の方向に向けられた部分と、異なる方向に向けられた部分と、が混在して梱包される構成としてもよい。
【0040】
例えば、本実施例において、少なくとも2つ以上の染色用基体1が梱包される場合に、複数の染色用基体の各々に付着された染料の色が同一の色を有するように、梱包されている。このように、梱包物20に梱包されている複数の染色用基体1が同一の色の染料を有する染色用基体1であることによって、染色用気体1間で染料の色が混合することを抑制することができる。これによって、レンズが染色された際のレンズの色が、所望する色と異なる色となってしまうことが抑制される。なお、本実施例においては、染料の色が同一の色を有する染色用基体1をまとめて梱包する構成としたがこれに限定されない。例えば、梱包物20に梱包されている複数の染色用基体1が異なるの色の染料を有する染色用基体1である構成としてもよい。また、例えば、梱包物20に梱包されている複数の染色用基体1が類似する色の染料を有する染色用基体1である構成としてもよい。
【0041】
以上のようにして、梱包物20が構成されている。このように、予め、レンズ染色用染料を付着した染色用基体1を作成し、染色用基体1を梱包部材21に梱包して、梱包物20として販売先へ送付することによって、販売先で染色用基体1を作成する必要がなくなる。これによって、販売先で染色用基体1を作成する手間や時間を省くことができる。また、予め、染色用基体1が販売元で作成されていることによって、染色用染料の付着量のばらつきを抑制することができ、染色用基体1を用いてレンズ染色を行った際に、所望の染色を行うことができる。
【0042】
以下、梱包物20を形成する各部材について説明する。
【0043】
<レンズ染色用基体梱包部材>
図5は、梱包部材の構成の一例について説明する図である。例えば、主に、梱包部材21は、保護部材22、変化抑制部23と、移染抑制部24、等によって構成されている。
【0044】
例えば、保護部材22は、変化抑制部23、移染抑制部24、梱包部材の内容物等を傷、汚れ、薬品等から保護するために用いられる。
【0045】
例えば、保護部材22としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロンフィルム等が用いられる。もちろん、保護部材22としては、変化抑制部23、移染抑制部24、梱包部材の内容物等を保護可能な構成であればよい。なお、例えば、保護部材21は、層状に形成される構成や、斑状に形成される構成等が挙げられる。例えば、保護部材21が層状に形成されている場合に、1つの層から形成されていてもよいし、複数の層によって形成されていてもよい。なお、保護部材21は、梱包部材21を保護するための単一の材料のみから形成されたものでもよいし、梱包部材21を保護するための材料と他の材料とが混合されたものであってもよい。本実施例においては、PETが用いられる。なお、本実施例においては、梱包部材21が保護部材21を備える構成としたがこれに限定されない。例えば、梱包部材21において、保護部材21が設けられない構成であってもよい。
【0046】
例えば、変化抑制部23は、染色用基体1の染料の変化(例えば、退色、染料水分量変化、染料粘性変化等)を抑制する。例えば、変化抑制部23は、染色用基体1の染料の変化を抑制するために、紫外線を遮断する部材で構成される。例えば、紫外線を遮断する部材としては、染色用基体1の染料の変化を抑制するために、金属部を含んでいる。例えば、金属部としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、金、銀、ステンレス等が挙げられる。また、変化抑制部23は、染色用基体1の染料の変化を抑制するために、気体の透過を遮断する部材を用いることが好ましい。もちろん、変化抑制部23は、染色用基体1の染料の変化を抑制するために、紫外線を遮断すること又は気体の透過を遮断することの少なくとも一方を実施可能な部材であればよい。なお、例えば、変化抑制部23は、層状に形成される構成や、斑状に形成される構成等が挙げられる。例えば、変化抑制部23が層状に形成されている場合に、1つの層から形成されていてもよいし、複数の層によって形成されていてもよい。なお、変化抑制部23は、染色用基体1の染料の変化を抑制するための単一の材料のみから形成されたものでもよいし、染色用基体1の染料の変化を抑制するための材料と他の材料とが混合されたものであってもよい。
【0047】
本実施例において、例えば、変化抑制部23は、アルミニウムが用いられている。アルミニウムは、コストがかからず、加工が行いやすいため、よりよい。また、アルミニウムは、紫外線を遮断する且つ空気を遮断することができる。このような構成を用いることによって、染色用基体1の染料の変化が抑制される。なお、本実施例においては、染色用基体1の染料の変化を抑制する部材として、金属を用いているがこれに限定されない。例えば、染色用基体1の染料の変化を抑制することができる部材であれば、金属以外の部材が用いられる構成としてもよい。例えば、紫外線を遮断するようなフィルタや、ポリイミドのシート等が用いられる。なお、シートを用いる場合、シートとしては、ポリイミドシートに限定されない。例えば、シートとしては、耐熱性があること(例えば、250℃以上)、染料との親和性が小さいこと、真空中で加熱しても染色に影響するような不純物が出ないこと、の少なくともいずれかの性質を有するものであればよい。
【0048】
例えば、移染抑制部24は、梱包部材21の内側に染色用基体1の染料が移染することを抑制する。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等が含まれる材料が用いられる構成が挙げられる。もちろん、移染抑制部24は、染色用基体1の染料が移染することを抑制することができる部材であればよい。例えば、移染抑制部24は、染色用基体1の染料に対して、親和性が低いものを選択することが好ましい。また、例えば、移染抑制部24は、染色用基体1の染料に対して、染料の粒子が移染抑制部24に入りにくくするため、密度が高いものを選択することが好ましい。なお、例えば、移染抑制部24は、層状に形成される構成や、斑状に形成される構成等が挙げられる。例えば、移染抑制部24が層状に形成されている場合に、1つの層から形成されていてもよいし、複数の層によって形成されていてもよい。なお、移染抑制部24は、染色用基体1の染料の移染を抑制するための単一の材料のみから形成されたものでもよいし、染色用基体1の染料の移染を抑制するための材料と他の材料とが混合されたものであってもよい。
【0049】
例えば、本実施例においては、移染抑制部24としては、ポリプロピレンが用いられる。ポリプロピレンは、後述する実験において比較された材料の内で、染色用基体1の染料が移染することを抑制するための材料として、より適していると判断されたものである(詳細は後述する実験例を参照)。なお、移染抑制部24は、染色用基体1の染料が移染することを抑制するための単一の材料(例えば、ポリプロピレン)のみから形成されたものでもよいし、染色用基体1の染料が移染することを抑制するための材料と他の材料とが混合されたものであってもよい。
【0050】
例えば、ポリプロピレンには、無延伸ポリプロピレン(Cast Polypropylene)と2軸延伸ポリプロピレン(Oriented Polypropylene)等が存在する。本実施例においては、移染抑制部24として、無延伸ポリプロピレン(以下、CPPと記載)が用いられる。CPPは、丈夫で、破損しづらい特性をもっている。このため、染色用基体1が送付される際に、梱包部材21が破損する可能性が低くなる。
【0051】
以上のように、変化抑制部23又は移染抑制部24の少なくとも一方が設けられることによって、染色用基体1を良好に送付することができる。これによって、梱包物20の送付先(販売先)は、染色用基体1を用いてレンズ染色を行うことによって、レンズ染色時の色ムラや変色等を抑制することができる。すなわち、販売先は、所望の色にレンズを染色することができる。
【0052】
なお、本実施例において、梱包部材21は、外部と接する外側から、保護部材22、変化抑制部23、移染抑制部24、の順序で形成されている。移染抑制部24が、梱包部材21のもっとも内側に形成されていることによって、染色用基体1の染料が梱包部材21の内側に移染することを抑制することができる。なお、本実施例においては、梱包部材21は、外部と接する外側から、保護部材22、変化抑制部23、移染抑制部24、の順序で形成される構成を例に挙げたがこれに限定されない。例えば、梱包部材21は、変化抑制部23、移染抑制部24、の順序を入れ換えた構成であってもよい。この場合、梱包部材21は、外部と接する外側から、保護部材22、移染抑制部24、変化抑制部23、の順序で形成される。
【0053】
なお、例えば、変化抑制部23及び移染抑制部24は、梱包部材21において、梱包部材21の全体の領域に形成してもよい。例えば、変化抑制部23及び移染抑制部24は、梱包部材21の一部の領域に形成してもよい。例えば、変化抑制部23及び移染抑制部24を、梱包部材の一部の領域に形成する場合、染色用基体1において、少なくとも、染料が付着されている領域と接触する梱包部材21の領域に、形成される構成が挙げられる。もちろん、変化抑制部23又は移染抑制部24の一方は梱包部材の全体の領域に形成し、もう一方は梱包部材の一部の領域に形成してもよい。
【0054】
なお、本実施例においては、保護部材21、変化抑制部23、移染抑制部24は、別々の部材によって構成されているが、これに限定されない。例えば、保護部材21、変化抑制部23、移染抑制部24、の少なくともいずれかが兼用される部材を用いる構成であってもよい。
【0055】
<気体部>
例えば、気体部Sに充填されるものは、窒素、空気、等が挙げられる。このように、染色用基体1と梱包部材21との間に気体部Sが設けられていることによって、染色用基体1が梱包された状態において、外部より圧力がかけられた場合に、染色用基体1と梱包部材21の間にスペースが形成されやすい。このため、染色用基体1に梱包部材21が強く押し付けられることが少なくなり、染料が梱包部材21に移染されづらくなる。なお、気体部としては、水分量の少ない気体(例えば、窒素、乾燥させた空気等)を用いるとよりよい。この場合、水分量が少ないため、染料へ水分が吸収されることによって、染料の色が変化すること、染料が移染されやすくなること等を抑制することができる。
【0056】
なお、気体部Sは、染色用基体1と梱包部材21との間に設けられる構成に限定されない。例えば、さらに、気体部Sは、染色用基体と染色用基体の間に設けられる構成としてもよい。また、例えば、さらに、気体部Sは、染色用基体1と形状維持部材25との間に設けられる構成としてもよい。
【0057】
なお、本実施例においては、梱包物20に気体部Sが設けられる構成としたがこれに限定されない。気体部Sが梱包物20に設けられていない構成であってもよい。
【0058】
<形状維持部材及び固定部材>
例えば、形状維持部材25は、染色用基体1の形状を維持させるために用いられる。例えば、染料を付着した基体(特に、金属板や紙等)2では、染料が付着された面に関して、染料の水分量が影響し、乾燥した際に基体2が縮む場合がある。しかしながら、染料が付着されていない面では、基体2が縮むことがない。この結果、一方の面だけに縮む方向の力が加わり、基体2が丸まることがある。
【0059】
例えば、形状維持部材25は、染色用基体1の形状の維持を容易にサポートできるように、染色用基体の剛性よりも形状維持部材25の剛性の強い部材が用いられる。例えば、形状維持部材25としては、合紙、型板、棒等の部材が挙げられる。もちろん、形状維持部材25は、染色用基体1の形状の維持をサポートできる構成であればよく、染色用基体1の剛性よりも形状維持部材25の剛性の弱い部材を用いる構成としてもよい。このように、形状維持部材25が配置されることによって、染色用基体1の形状の変化が抑制される。
【0060】
例えば、固定部材26は、染色用基体1と形状維持部材25とを固定するために用いられる。例えば、固定部材26としては、クラフトテープ、ファスナー等が用いられる。
【0061】
なお、本実施例においては、2つの形状維持部材25を用いる構成としたがこれに限定されない。形状維持部材25は、染色用基体1の形状の維持をサポートできるような数(例えば、1、2、3等)を用いればよい。
【0062】
なお、本実施例において、形状維持部材25は、染色用基体1を挟みこむように配置される構成としたが、これに限定されない。例えば、複数の染色用基体1を梱包する際に、染色用基体1と染色用基体1との間に配置される構成としてもよい。また、例えば、染色用基体1を挟みこむように、且つ、染色用基体1の間にも配置される構成としてもよい。
【0063】
なお、本実施例においては、染色用基体1の両面に形状維持部材25が配置される構成としたが、これに限定されない。例えば、形状維持部材1は、染色用基体1の一方の面にのみ配置される構成としてもよい。
例えば、形状維持部材を1つを用いる場合、染色用基体1の一方の面にのみ配置される構成としてもよいし、例えば、染色用基体1を挟みこむように、且つ、染色用基体1の間にも配置される構成としてもよい。
【0064】
なお、形状維持部材25としては、形状維持部材25に染料が移染しづらい部材を用いるとよりよい。形状維持部材25に染料が移染しづらい部材を用いることによって、染色用基体1の染料が梱包部材21に移染することを抑制することができる。
【0065】
なお、本実施例においては、形状維持部材25を用いる構成としたが、形状維持部材25を用いない構成であってもよい。また、本実施例においては、固定部材26を用いる構成としたが、固定部材26を用いない構成であってもよい。もちろん、形状維持部材25又は固定部材26の少なくとも一方が用いられる構成であってもよい。
【0066】
以上のようにして、作成された梱包物20は、レンズの染色を実施するレンズ染色実施先(販売先)に送付される。販売先は、送付されてきた梱包物20を開封し、染色用基体1を取り出す。販売先は、梱包部材21より取り出した染色用基体1を用いて、レンズ染色を行う。以下、レンズの染色方法について説明する。
【0067】
<染色システム>
図6は使用する染色装置等を示した染色システム概略図である。以下では、樹脂体の1つであるプラスチックレンズ8を気相転写染色法で染色し、染色プラスチックレンズを製造する場合を例示して説明を行う。
【0068】
なお、本実施例によると、例えば、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR−39))、ポリウレタン系樹脂、アリル系樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネート及びその共重合体、ジアリルフタレート及びその共重合体)、フマル酸系樹脂(例えば、ベンジルフマレート共重合体)、スチレン系樹脂、ポリメチルアクリレート系樹脂、繊維系樹脂(例えば、セルロースプロピオネート)、チオウレタン系またはチオエポキシ等の高屈折材料等を材質としたプラスチックレンズ8を染色することもできる。
【0069】
本実施例における染色用基体(以下、基体)1を用いた染色システム100について説明する。図6を参照して、本実施例における染色システム100の概略構成について説明する。本実施例の染色システム100は、蒸着部30、および染料定着部50を備える。
【0070】
蒸着部30は、染色用基体1に付着された染料を電磁波によって加熱することで、染料をプラスチックレンズ8に向けて昇華させる。その結果、染料がプラスチックレンズ8に蒸着される。なお、プラスチックレンズ8には、後述する定着工程による染料の定着を容易にするための受容膜等、各種の層が形成されていてもよい。本実施例の蒸着部30は、電磁波発生部31、蒸着用治具32、ポンプ36、およびバルブ37を備える。
【0071】
電磁波発生部31は、染色用基体1の電磁波吸収層6によって吸収される電磁波を発生させる。一例として、本実施例では、赤外線を発生させるハロゲンランプが電磁波発生部31として使用されている。しかし、電磁波発生部31は、後述の電磁波吸収層4によって吸収され易い電磁波を発生させるものであればよい。従って、ハロゲンランプの代わりに、紫外線、マイクロ波等の他の波長の電磁波を発生させる構成を使用してもよい。蒸着部30は、電磁波を染色用基体1に照射することで、短時間で染料の温度を上昇させることができる。
【0072】
また、染色用基体1の染料を昇華させる場合、高熱となった鉄板等を染色用基体1に接触させることで染料を加熱することも考えられる。しかし、染色用基体1と鉄板等とを均一に(例えば、隙間無く)接触させることは難しい。接触状態が均一でなければ、染料が均一に加熱されずに色ムラ等が生じる可能性がある。これに対し、本実施例の蒸着部30は、染色用基体1から離間した電磁波発生部31からの電磁波によって、染料を均一に加熱させることができる。
【0073】
蒸着用治具32は、染色用基体1とプラスチックレンズ8を保持する。本実施例の蒸着用治具32は、レンズ支持部33および基体支持部34を備える。レンズ支持部33は、円筒状の基部と、基部の内側に配置された載置台とを備える。プラスチックレンズ8は、基部に囲まれた状態で、レンズ支持部33の載置台によって支持される。基体支持部34は、円筒状の基部の上端に位置し、プラスチックレンズ8よりも上方で染色用基体1を支持する。詳細は図示しないが、染色用基体1の外周縁部が基体支持部34上に載置されると、環状の基体押さえ部材が染色用基体1の外周縁部の上から載置される。その結果、染色用基体1の位置が固定される。なお、本実施例では、基体支持部34に保持された染色用基体1の上面に、さらに板状のガラスが載置されることで、基体支持部34がより確実に保持される。ガラスは赤外線の大部分を透過させる。
【0074】
染色用基体1は、染料が付着した面がプラスチックレンズ8に対向するように配置される。本実施例では、プラスチックレンズ8の上方で染色用基体1が支持されるので、染色用基体1は、染料付着面が下方を向くように基体支持部34に載置される。なお、染色用基体1の染料付着面とプラスチックレンズ8の間の距離が狭すぎると、染料の分散が十分に行われず、色ムラ等が生じる傾向がある。また、染色用基体1の染料付着面とプラスチックレンズ8の間の距離が広すぎると、分散した染料が再度終結して色ムラが生じる可能性があり、蒸着される染料の濃度も薄くなる。従って、染色用基体1とプラスチックレンズ8の間の距離を適切な距離(例えば、5mm〜30mm)とすることが望ましい。
【0075】
ポンプ36は、蒸着部30の内部の気体を外部に排出し、蒸着部30の内部の気圧を低下させる。蒸着時における蒸着部30の内部の気圧は、例えば、133Pa〜6.66KPa程度とすればよい。バルブ37は、蒸着部30の内部空間の開放および閉鎖を切り替える。
【0076】
染料定着部50は、染料が蒸着されたプラスチックレンズ8を加熱することで、染料をプラスチックレンズ8に定着させる。本実施例では、オーブンが染料定着部50として用いられる。オーブンを用いると、プラスチックレンズ8の温度が長い時間をかけて徐々に上昇するので、温度差が発生し難い。よって、染料が均等にプラスチックレンズ8に定着し易い。
【0077】
なお、染料定着部50の構成を変更することも可能である。例えば、染料定着部50は、レーザをプラスチックレンズ8上で走査させることで、プラスチックレンズ8を加熱してもよい。この場合、染料定着部50は、プラスチックレンズ8の部位に応じて意図的に温度差を生じさせることも可能である。例えば、染料定着部50は、グラデーションのある染色を施す場合等に、目的とするグラデーションの状態に応じてレーザの走査を制御してもよい。染料定着部50は、プラスチックレンズ8の各部位の温度が望ましい温度となるように、プラスチックレンズ8の厚み等に応じてレーザの走査を制御してもよい。また、染料定着部50は、電磁波をプラスチックレンズ8に直接照射することでプラスチックレンズを加熱してもよい。
【0078】
また、蒸着部30、および染料定着部50の各々で行われる工程が、1つの装置によって実行されてもよい。例えば、蒸着部30によって行われる蒸着工程と、染料定着部50によって行われる定着工程とを共に実行する染色装置が用いられてもよい。この場合、例えば、蒸着工程における染色用基体1の加熱と、定着工程におけるプラスチックレンズ8の加熱とを、同一の加熱手段(例えば赤外線ヒータ等)が実行してもよい。また、染色装置は、複数の工程(例えば、蒸着工程から定着工程まで)を一連の流れで自動的に行ってもよい。
【0079】
以上のようにして、染色用基体1を用いて、プラスチックレンズ8の染色が行われる。このように、販売先(販売相手)は、送付されてきた染色用基体1を受け取り、レンズ染色を実施する際に、染色用基体1を用いることによって、所望の色にレンズを染色することができる。
【0080】
<実験例>
この実験例では、少なくとも赤、青、黄、3色の染料を使用した。染料は、昇華性を有し、且つ昇華時の熱に耐え得る必要があるため、キノフタロン系昇華性染料またはアントラキノン系昇華性染料を用いた。これらの3色の染料は、インクジェットプリンタによって基体に付着させ、染色用基体を作成した。なお、染料を付着させた基体としては、紙を用いた。
【0081】
このようにして作成した染色用基体を、PE(ポリエチレン)フィルムと、PP(ポリプロピレン)フィルムと、それぞれ重ね合わせた状態でアルミパウチ(アルミニウムの材質の袋)に真空封入した。そして、40℃の環境下において、2日間保持した。2日間保持後、それぞれのフィルムへの移染の度合いを目視により確認した。確認結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、40℃において2日間保持した場合において、PEフィルム及びPPフィルムともに、フィルムへの移染は見られなかった。しかしながら、PEフィルムにおいて、染料がPEフィルムを通り抜けて(染料抜け)、アルミパウチに移染していることが確認された。また、PPフィルムにおいて、染料がPEフィルムを通り抜けて(染料抜け)、アルミパウチにわずかに移染していることが確認された。すなわち、PPフィルムと、PEフィルムとを比較した場合、両方に染料がフィルムに移染していなかったが、PEフィルムのほうがPPフィルムよりも染料抜けをしていた。この結果、PPフィルムは、PEフィルムよりも染料の移染を抑制できる可能性が高いといえる。
【符号の説明】
【0084】
1 レンズ染色用基体
2 基体
4 染料層
6 電磁波吸収層
20 レンズ染色用基体梱包物
21 レンズ染色用基体梱包部材
22 保護部材
23 変化抑制部
24 移染抑制部
25 形状維持部材
26 固定部材



図1
図2
図3
図4
図5
図6