特許第6569820号(P6569820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569820
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】電力素子の駆動回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20190826BHJP
   H03K 17/14 20060101ALI20190826BHJP
   H03K 17/567 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   H02M1/08 A
   H03K17/14
   H03K17/567
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-544971(P2018-544971)
(86)(22)【出願日】2017年10月3日
(86)【国際出願番号】JP2017036046
(87)【国際公開番号】WO2018070307
(87)【国際公開日】20180419
【審査請求日】2018年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2016-203151(P2016-203151)
(32)【優先日】2016年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112003
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100145344
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和徳
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英知
【審査官】 柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5011585(JP,B2)
【文献】 国際公開第2001/022584(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H03K 17/14
H03K 17/567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電極に印加される駆動信号に応じて第1の主電極と第2の主電極との間に流れる主電流を制御する電力素子をオン・オフ駆動する駆動回路であって、
直列に接続された第1の半導体スイッチ素子と第2の半導体スイッチ素子とを備えて電源端子と接地端子との間に設けられ、前記第1の半導体スイッチ素子と前記第2の半導体スイッチ素子との直列接続点を前記電力素子の制御電極に接続した第1の直列回路と、
負の温度特性を有する半導体素子を間にして直列に接続された第3の半導体スイッチ素子と第4の半導体スイッチ素子とを備え、前記電源端子と前記接地端子との間に設けられると共に、接地端子側に設けられた前記第4の半導体スイッチ素子と前記半導体素子との直列接続点を前記電力素子の第2の主電極に接続した第2の直列回路と、
制御信号に応じて前記第1〜第4の半導体スイッチ素子のそれぞれを互いに関連させてオン・オフさせて前記電力素子のオン・オフを制御する制御回路と
を具備したことを特徴とする電力素子の駆動回路。
【請求項2】
前記負の温度特性を有する半導体素子は、温度の上昇に伴って順方向電圧が低下するダイオードであって、
前記第2の直列回路は、前記電力素子の動作電圧閾値の変化に合わせて前記第3の半導体スイッチ素子のオフ時に前記電力素子の第2の主電極に加える電圧を変化させるものである請求項1に記載の電力素子の駆動回路。
【請求項3】
前記制御回路は、前記電力素子をオン・オフ駆動する通常動作時には、前記第1および第4の半導体スイッチ素子をそれぞれオンすると共に、前記第2および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオフさせて前記電力素子をターン・オンさせ、
前記第1および第4の半導体スイッチ素子をそれぞれオフすると共に、前記第2および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオンさせて前記電力素子をターン・オフさせるものである請求項1に記載の電力素子の駆動回路。
【請求項4】
前記制御回路は、前記電力素子を強制的にオフさせるときには、前記第1および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオンさせると共に、前記第2および第4の半導体スイッチ素子をそれぞれオフさせるものである請求項1に記載の電力素子の駆動回路。
【請求項5】
前記制御回路は、前記電力素子を強制的にオフさせるときには、前記第2および第4のスイッチ素子をそれぞれオンさせると共に、前記第1および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオフさせるものである請求項1に記載の電力素子の駆動回路。
【請求項6】
前記電力素子は、前記制御電極をゲート、前記第1の主電極をコレクタ、および前記第2の主電極をエミッタとするIGBTであって、
前記第1〜第4の半導体スイッチ素子のそれぞれは、前記制御回路から各ゲートに印加される電圧に応じてオン・オフするMOS-FETである請求項1に記載の電力素子の駆動回路。
【請求項7】
前記電力素子は、前記制御電極をゲート、前記第1の主電極をソース、および前記第2の主電極をドレインとするN型のパワーMOS-FETであって、
前記第1〜第4の半導体スイッチ素子のそれぞれは、前記制御回路から各ゲートに印加される電圧に応じてオン・オフするMOS-FETである請求項1に記載の電力素子の駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBT等の電力素子をオン・オフ駆動する駆動回路に係り、特に温度依存性を有する電力素子の動作電圧閾値の影響を受けることなく前記電力素子の電力変換効率の向上を図ることのできる簡易な構成の電力素子の駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、IGBT等からなる電力素子2をオン・オフ駆動する従来の駆動回路1の一例を示す概略構成である。この駆動回路1は、IGBT(電力素子)2のゲートに印加する駆動信号をオン・オフし、該IGBT2のコレクタ・エミッタ間に流れる主電流を制御する役割を担う。このIGBT2のオン・オフにより、主電源3とIGBT2との間に接続された負荷(RL)に対する供給電流Icが制御される。
【0003】
概略的には駆動回路1は、直列に接続されて電源4の電源端子(Vcc)と接地端子(GND)との間に設けられた第1の半導体スイッチ素子Q1と第2の半導体スイッチ素子Q2とを備える。更に駆動回路1は、直列に接続されて電源4の電源端子(Vcc)と接地端子(GND)との間に設けられた第3の半導体スイッチ素子Q3と第4の半導体スイッチ素子Q4とを備える。第1および第2の半導体スイッチ素子Q1,Q2は、その直列接続点(ノードP1)をゲート抵抗RGを介してIGBT2のゲートに接続したものである。また第3および第4の半導体スイッチ素子Q3,Q4は、その直列接続点(ノードP2)をIGBT2のエミッタに接続したものである。
【0004】
これらの第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4のそれぞれは、例えばMOS-FETからなり、制御回路5の制御の下で互いに関連してオン・オフされることでIGBT2をオン・オフ駆動するスイッチ・マトリックス回路を構成する。尚、制御回路5は、外部から与えられる制御信号SGに応じて第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4のそれぞれを、互いに関連させてオン・オフさせてIGBT2のオン・オフを制御する。
【0005】
図7は、制御信号SGに応じた駆動回路1の各部の状態変化と、IGBT2の電圧変化を表す動作タイミングを示している。尚、図7においてV(P1)はノードP1の電圧変化、V(E)はIGBT2のエミッタ(ノードP2)の電圧変化、V(G)はIGBT2のゲートの電圧変化、そしてVgeはIGBT2のゲート・エミッタ間電圧の変化をそれぞれ示している。
【0006】
図7に示すように駆動回路1は、制御信号SGに応じてIGBT2のゲート・エミッタ間電圧Vgeを正バイアスまたは負バイアスすることでIGBT2をオン・オフ駆動する。即ち、駆動回路1は、第1および第4の半導体スイッチ素子Q1,Q4をオンにすると共に、第2および第3の半導体スイッチ素子Q2,Q3をオフにすることで、ノードP1の電圧を電源電圧Vccに設定し、ノードP2の電圧を接地端子(GND)の電圧(0V)に設定する。そして駆動回路1は、エミッタが0Vに設定されたIGBT2のゲートに、ゲート抵抗RGを介してノードP1の電圧(電源電圧Vcc)を加えることでIGBT2を正バイアスする。IGBT2は、そのゲート・エミッタ間の正バイアス(+Vcc)によってターン・オンする。
【0007】
また駆動回路1は、第1および第4の半導体スイッチ素子Q1,Q4をオフにすると共に、第2および第3の半導体スイッチ素子Q2,Q3をオンにすることで、ノードP1の電圧を0Vに設定すると共に、ノードP2の電圧を電源電圧Vccに設定する、そして駆動回路1は、エミッタが電源電圧Vccに設定されたIGBT2のゲートを、ゲート抵抗RGを介して接地することでIGBT2を負バイアスする。IGBT2は、そのゲート・エミッタ間の負バイアス(−Vcc)によってターン・オフする。このように構成された駆動回路1については、例えば特許文献1に詳しく紹介される通りである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5011585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで特許文献1に開示される駆動回路1は、電源4が出力する正の電源電圧Vccだけを用いてIGBT2を正バイアスまたは負バイアスしてIGBT2をオン・オフすることができ、負の電源を必要としない点で優れている。しかしながらこの従来の駆動回路1は、ノードP1の電圧V(P1)をゲート抵抗RGを介してIGBT2のゲートに印加し、これによってIGBT2のゲート容量を充放電する構成である。この為、IGBT2のターン・オン時、およびターン・オフ時におけるスイッチング損失が大きいと言う不具合がある。
【0010】
この点、特許文献1には、第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4をオン・オフするタイミングにずれを持たせることで、IGBT2のターン・オン時、およびターン・オフ時におけるスイッチング損失を軽減することが開示されている。しかしながら第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4をそれぞれオン・オフするタイミングにずれを持たせる場合には、制御回路5の構成が複雑化すると言う新たな問題が発生する。
【0011】
また従来の駆動回路1においては、IGBT2のオフ時には、IGBT2に一定の負のバイアス電圧(−Vcc)を加えているだけである。この為、IGBT2をターン・オンするに際してIGBT2の動作電圧閾値Vthが温度変化していると、ゲート抵抗RGを通してIGBT2のゲート容量を充電に要する時間、いわゆるゲート・チャージ時間が変化することが否めない。するとゲート・チャージ時間の変化に伴ってIGBT2をターン・オンするタイミングにずれが生じ、IGBT2が不本意なタイミングでオン動作することになる。換言すればIGBT2のオン・オフ動作条件の温度依存性の影響を受けて該IGBT2のオン・オフ動作のタイミングが変化することが否めない。
【0012】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、上述したゲート抵抗を用いることなく電力素子を最適にオン・オフ制御することができ、特に電力素子の誤オン動作を防止すると共に、電力素子のスイッチング損失を低減することのできる集積回路化に適した簡易な構成の電力素子の駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、制御電極に印加される駆動信号に応じて第1の主電極と第2の主電極との間に流れる主電流を制御する電力素子、例えばIGBTまたはN型のパワーMOS-FETをオン・オフ駆動する電力素子の駆動回路に関する。
【0014】
特に本発明に係る電力素子の駆動回路は、
直列に接続された第1の半導体スイッチ素子と第2の半導体スイッチ素子とを備えて電源端子と接地端子との間に設けられ、前記第1および第2の半導体スイッチ素子との直列接続点を前記電力素子の制御電極に接続した第1の直列回路と、
負の温度特性を有する半導体素子、例えばダイオードを間にして直列に接続された第3の半導体スイッチ素子と第4の半導体スイッチ素子とを備え、前記電源端子と前記接地端子との間に設けられる共に、前記接地端子側に設けられた前記第4の半導体スイッチ素子と前記負の温度特性を有する半導体素子との直列接続点を前記電力素子の第2の主電極に接続した第2の直列回路と、
制御信号に応じて前記第1〜第4の半導体スイッチ素子のそれぞれを互いに関連させてオン・オフさせて前記電力素子のオン・オフを制御する制御回路と
を備えたことを特徴としている。
【0015】
ちなみに前記負の温度特性を有する半導体素子は、例えば温度の上昇に伴って順方向電圧が低下するダイオードからなる。そして前記第2の直列回路は、前記電力素子の動作電圧閾値の温度変化に合わせて前記第3の半導体スイッチ素子のオン時に前記電力素子の第2の主電極に加える電圧を温度変化させる役割を担う。
【0016】
好ましくは前記制御回路は、前記電力素子をオン・オフ駆動する通常動作時には、前記第1および第4の半導体スイッチ素子をそれぞれオンすると共に、前記第2および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオフさせて前記電力素子をターン・オンさせ、更に前記第1および第4の半導体スイッチ素子をそれぞれオフすると共に、前記第2および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオンさせて前記電力素子をターン・オフさせるように構成される。
【0017】
また前記制御回路は、前記電力素子を強制的にオフさせる短絡遮断時には、前記第1および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオンさせると共に、前記第2および第4の半導体スイッチ素子をそれぞれオフさせるように構成される。或いは前記制御回路は、前記電力素子を強制的にオフさせる短絡遮断時には、前記第2および第4のスイッチ素子をそれぞれオンさせると共に、前記第1および第3の半導体スイッチ素子をそれぞれオフさせるように構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第2の直列回路に設けられたダイオードの負の温度特性を利用することで、前記電力素子の動作温度に応じた動作電圧閾値の変化に合わせて該電力素子の第2の主電極に加える電圧を温度変化させることができる。具体的には前記第2の直列回路は、IGBTの動作電圧閾値Vthの温度変化に合わせて前記第3の半導体スイッチ素子のオン時に前記IGBTのエミッタに加える電圧を温度変化させることができる。従って電力素子(IGBT)の動作電圧閾値Vthの温度変化に拘わることなく、該電力素子を最適な条件でターン・オンすることができ、電力素子(IGBT)の誤オン動作を防止することができる。
【0019】
また同時にIGBTのオフ動作時における該IGBTのゲート・エミッタ間電圧を、温度変化に拘わることなく一定に保つことができる。従ってIGBTのターン・オン時における該IGBTのゲート容量の充電に要する時間(ゲート・チャージ時間)のばらつきを抑えることができる。従ってIGBTのオン・オフを利用した電力変換回路における電力変換効率の向上を図ることが可能となる。
【0020】
従って本発明によれば、電力素子の動作温度に拘わることなく、前述した第1〜第4の半導体スイッチ素子の互いに関連したオン・オフ動作に伴って前記電力素子を確実にターン・オンすることが可能となる。従って図6に例示した従来の駆動回路におけるゲート抵抗を用いることなく、前記電力素子(IGBT)のターン・オン時およびターン・オフ時における該電力素子でのスイッチング損失を低減することが可能となる。
【0021】
しかも本発明によれば、上述したようにゲート抵抗を用いることがなく、またIGBTの温度特性をダイオードを用いて補償するので、電力素子の駆動回路をコンパクトに集積回路化することが可能となる。更には回路構成自体を簡素化してその製造コストの低価格を図ることが可能となる等の実用上多大なる効果が奏せられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る電力素子の駆動回路の概要を示す概略構成図。
図2図1に示す駆動回路の具体的な構成例を示す図。
図3図2に示す駆動回路における制御回路の別の構成例を示す図。
図4図2に示す駆動回路における制御回路の更に別の構成例を示す図。
図5図1に示す駆動回路の別の具体的な構成例を示す図。
図6】従来の電力素子の駆動回路の一例を示す概略構成図。
図7】従来の電力素子の駆動回路による電力素子のオン・オフ駆動形態を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明に係る電力素子の駆動回路10について説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る電力素子の駆動回路10の概要を示す概略構成図であり、図6に示した従来の駆動回路1と同一部分には同一符号を付して示してある。
【0025】
この駆動回路10は、直列に接続されて電源端子(Vcc)と接地端子(GND)との間に設けられた第1の半導体スイッチ素子Q1および第2の半導体スイッチ素子Q2からなる第1の直列回路を備える。この第1の直列回路は、第1および第2の半導体スイッチ素子Q1,Q2の直列接続点(ノードP1)をIGBT2のゲートに接続して設けられる。更に駆動回路10は、負の温度特性を有する半導体素子としてのダイオードDを間にして直列に接続された第3の半導体スイッチ素子Q3と第4の半導体スイッチ素子Q4とを有する第2の直列回路を備える。この第2の直列回路もまた電源端子(Vcc)と接地端子(GND)との間に設けられる。この第2の直列回路は、接地端子側に設けられた第4の半導体スイッチ素子Q4とダイオードDとの直列接続点(ノードP2)をIGBT2のエミッタに接続して設けられる。
【0026】
ちなみに第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1, Q2,Q3,Q4のそれぞれは、例えばMOS-FETからなる。具体的には第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1, Q2,Q3,Q4は、基本的には互いに同じスイッチ特性を有する同一の電流容量で、且つ同一の耐圧を有するスイッチング用のMOS-FETからなる。これらの第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1, Q2,Q3,Q4は、制御回路5の制御の下で互いに関連してオン・オフ制御されることで、IGBT2をオン・オフ駆動するスイッチ・マトリックス回路を形成する。
【0027】
特にこのスイッチ・マトリックス回路は、図6に示した従来の駆動回路1におけるゲート抵抗RGを用いることなく、第1および第2の半導体スイッチ素子Q1,Q2の直列接続点であるノードP1の電圧をIGBT2のゲートに直接印加する。更にスイッチ・マトリックス回路は、第4の半導体スイッチ素子Q4とダイオードDのカソードとの接続点であるノードP2の電圧をIGBT2のエミッタに印加するように構成したことを特徴としている。
【0028】
ところで駆動回路10は、基本的にはIGBT2をオン・オフ駆動する通常動作時には、第1および第4の半導体スイッチ素子Q1,Q4をそれぞれオンすると共に、第2および第3の半導体スイッチ素子Q2,Q3をそれぞれオフすることでIGBT2をターン・オンさせる。このIGBT2のターン・オン時には、IGBT2のエミッタが0Vに設定され、そのゲートに電源電圧Vccが印加される。この結果、IGBT2は、そのゲート・エミッタ間に電源電圧Vccが印加されて正バイアスされた状態となる。
【0029】
また駆動回路10は、第1および第4の半導体スイッチ素子Q1,Q4をそれぞれオフすると共に、第2および第3の半導体スイッチ素子Q2,Q3をそれぞれオンさせることでIGBT2をターン・オフさせる。このIGBT2のターン・オフ時には、IGBT2のゲートが0Vに設定され、そのエミッタにはダイオードDを介して電源電圧Vccが印加される。この結果、IGBT2は、そのゲート・エミッタ間に負の電源電圧(−Vcc)が印加され、負バイアスされた状態となる。
【0030】
ところでIGBT2は、その動作電圧閾値Vthが温度の上昇に伴って低下すると言う負の温度特性を有している。これに対してダイオードDは、その順方向電圧Vfが温度の上昇に伴って低下する負の温度特性を有する半導体素子である。従ってダイオードDを備えて構成された第2の直列回路は、第3の半導体スイッチ素子Q3がオンであるとき、電源電圧VccにダイオードDの順方向電圧Vfを加えた電圧(Vcc−Vf)をノードP2に生起する。そしてこのノードP2の電圧(Vcc−Vf)がIGBT2のエミッタに印加されるので、IGBT2はそのゲート・エミッタ間に負の電源電圧(−Vcc+Vf)が印加されることで負バイアスされた状態となる。
【0031】
即ち、第3の半導体スイッチ素子Q3がオンでありIGBT2がオフ状態であるとき、温度変化によりIGBT2の動作電圧閾値Vthが変化した場合、これに伴ってノードP2からIGBT2のエミッタに加えられる電圧も変化する。換言すればIGBT2の動作電圧閾値Vthの温度変化に合わせて、IGBT2を負バイアスする電圧(−Vcc+Vf)も変化する。またこの状態においては、IGBT2のゲートにはノードP1の電圧(0V)が直接加えられる。従ってIGBT2は、負バイアスされた状態で、そのオフ時の状態を安定に維持する。
【0032】
従ってIGBT2を正バイアスしてターン・オンさせる際、IGBT2のゲート・チャージに要する時間が、IGBT2の動作電圧閾値Vthの変化、並びにゲート抵抗RGの影響を受けることなく一定に保たれる。この結果、IGBT2のターン・オンするタイミングにずれが生じることがなくなり、その誤オン動作を確実に防ぐことが可能となる。またこれに伴ってIGBT2のターン・オン時およびターン・オフ時におけるスイッチング損失を低減し、IGBT2のオン・オフを利用した電力変換器における変換効率の向上を図ることが可能となる。
【0033】
尚、第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4を互いに関連させてオン・オフする制御回路5は、例えば図2に示すように構成される。具体的には制御回路5は、制御信号SGを反転させて第1および第4の半導体スイッチ素子Q1,Q4をオン・オフする駆動信号を生成する第1のインバータ回路5aを備える。この第1のインバータ回路5aが出力する駆動信号は、第1および第4の半導体スイッチ素子Q1,Q4をオン・オフするべく、電源4の電源電圧Vccまたは接地端子の電圧(0V)の2値をとる。
【0034】
更に制御回路5は、第1のインバータ回路5aの出力を反転して第2および第3の半導体スイッチ素子Q2,Q3をオン・オフする駆動信号を生成する第2のインバータ回路5bを備える。この第2のインバータ回路5bが出力する駆動信号もまた、電源4の電源電圧Vccまたは接地端子の電圧(0V)の2値をとる。
【0035】
このように構成された制御回路5によれば、直列に接続された第1および第2の半導体スイッチ素子Q1,Q2は、第1および第2のインバータ回路5a,5bの出力を受けて互いに相反してオン・オフする。また直列に接続された第3および第4の半導体スイッチ素子Q3,Q4もまた、第1および第2のインバータ回路5a,5bの出力を受けて互いに相反してオン・オフする。そして制御回路5による第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4の互いに関連したオン・オフ制御により、IGBT2のターン・オンおよびターン・オフが制御され、これによってIGBT2がオン・オフ駆動される。
【0036】
ところでIGBT2を介して電流Icが供給される負荷側において短絡が検出された場合には、IGBT2を強制的にオフさせて過大な短絡電流からIGBT2や負荷(RL)を保護し、更には駆動回路1,10を保護することが行われる。
【0037】
この短絡遮断によるIGBT2の保護動作は、例えば第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3をそれぞれオンすると共に、第2および第4の半導体スイッチ素子Q2,Q4をそれぞれオフにすることによって達せられる。具体的には短絡遮断検出時に第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3をそれぞれ強制的にオンする場合には、例えば図3に示すように制御回路5を構成し、短絡検出信号COに応じて第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4に対するオン・オフ信号を切り替えるようにすれば良い。
【0038】
この図3に示す制御回路5は、短絡検出信号COに応じてゲートが開成される4つのアンド回路51a,51b,51c,51dを備える。これらアンド回路51a,51b,51c,51dは、短絡検出信号COが印加されないとき、換言すれば短絡検出信号COがローレベル(L)であり、IGBT2を通常動作させるとき、インバータ回路52を介してそれぞれ開成される。そしてアンド回路51a,51b,51c,51dは、制御信号SGまたはインバータ回路53を介して制御信号SGを反転した信号を、ドライブ回路54a,54b,54c,54dにそれぞれ与える。尚、これらのドライブ回路54a,54b,54c,54dは、第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4をそれぞれオン・オフするに必要な出力電圧を生成するものである。
【0039】
これに対して短絡検出信号COが印加されたとき、換言すれば短絡検出信号COがハイレベル(H)になった時、アンド回路51a,51b,51c,51dがそれぞれ閉じられる。そして短絡検出信号COがオア回路55a,55cを介してドライブ回路54a,54cにそれぞれ与られると共に、インバータ回路52により反転された短絡検出信号COが、アンド回路51b,51dを介してドライブ回路54b,54dにそれぞれ与えられる。
【0040】
従って短絡検出信号COが与えられたときには第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3がそれぞれ強制的にオンされ、同時に第2および第4の半導体スイッチ素子Q2,Q4がそれぞれ強制的にオフされる。この結果、IGBT2のゲート電圧V(G)が電源電圧Vccに設定されると共に、該IGBT2のエミッタ電圧V(E)は電圧(Vcc−Vf)に設定される。するとIGBT2のゲート・エミッタ間がダイオードDの順方向電圧Vf分だけ負バイアスされ、IGBT2が強制的にオフに設定される。そしてIGBT2の強制的なオフに伴って負荷(RL)に流れる電流Icが遮断され、負荷短絡に伴う過電流からIGBT2等が保護される。
【0041】
このように構成された駆動回路10によれば、第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3をそれぞれオンし、IGBT2のゲートに加わる電圧を電源電圧Vccにし、およびIGBT2のエミッタに加わる電圧を電圧(Vcc−Vf)に設定する。この際、IGBT2のゲート容量の充電に要する時間、IGBT2のゲート・エミッタ間電圧Vgeが負電圧となり、IGBT2がターン・オフする。そしてIGBT2のターン・オフに伴ってIGBT2のゲート容量が第1の半導体スイッチ素子Q1を介して放電される。そしてIGBT2のゲート・エミッタ間電圧Vgeが電圧(−Vf)に保たれるので、IGBT2は負バイアスされてオフ状態を維持する。
【0042】
従って短絡遮断検出時に第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3をそれぞれ強制的にオンする場合であっても、従来のようにゲート抵抗RGを介するIGBT2のゲート容量の充放電がないので、IGBT2のターン・オフ時におけるスイッチング損失を低減することができる。従って駆動回路10での消費電力を小さくすることができる。
【0043】
尚、短絡遮断における上述した第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3の強制的なオンに代えて、第2および第4の半導体スイッチ素子Q2,Q4を強制的にオンすることも可能である。この場合、第2および第4の半導体スイッチ素子Q2,Q4の強制的にオンに連動させて第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3を強制的にオフすることは言うまでもない。
【0044】
このようにして第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3をオフにし、同時に第2および第4の半導体スイッチ素子Q2,Q4をオンにすれば、IGBT2のゲート電圧V(G)が接地電位(0V)に設定されると共に、該IGBT2のエミッタ電圧V(E)もまた接地電圧(0V)に設定される。この結果、IGBT2のゲート・エミッタ間電圧Vgeが0Vとなり、該IGBT2が強制的にオフとなる。そしてIGBT2の強制的なオフに伴って負荷(RL)に流れる電流Icが遮断され、負荷短絡に伴う過電流からIGBT2等が保護される。
【0045】
尚、短絡検出信号COが与えられたときに上述した如く第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3をそれぞれ強制的にオンする場合には、制御回路5を、例えば図4に示すように構成すれば良い。図4に示す制御回路5は、短絡検出信号COを、オア回路55b,55dを介してドライブ回路54b,54dに与えると共に、インバータ回路52により反転された短絡検出信号COを、アンド回路51a,51cを介してドライブ回路54a,54cにそれぞれ与えるように構成される。
【0046】
このように構成された駆動回路10によれば、オン抵抗Ronが小さい第2および第4の半導体スイッチ素子Q2,Q4をオンするだけなので、IGBT2のターン・オフ時におけるスイッチング損失を更に小さくすることができる。そしてIGBT2のゲート容量のゲート抵抗RGを介する充放電を伴うことがない分、駆動回路10での消費電力を小さくすることができる。
【0047】
しかも従来の制御回路1において用いられていたゲート抵抗RGを省いた上で第1の半導体スイッチ素子Q1の小型化を図ることができる。従って駆動回路10を集積回路化する上でチップ面積を小さくすることができる。また半導体チップ上にMOS-FET等と並べてゲート抵抗RGを形成する必要がないので、その製造コストを低く抑えることが可能となる等の効果が奏せられる。
【0048】
ところで上述した説明においては、第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3としてP型のMOS-FETを用い、第2および第4の半導体スイッチ素子Q2,Q4としてN型のMOS-FETを用いた例について示した。しかし図5に例示するように、第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4のそれぞれにN型のMOS-FETを用いてスイッチ・マトリックス回路を構成することも可能である。この場合においても第1の半導体スイッチ素子Q1として、第2〜第4の半導体スイッチ素子Q2,Q3,Q4よりもオン抵抗Ronの大きいMOS-FETを用いることは言うまでもない。
【0049】
この場合、N型のMOS-FETからなる第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3のオン動作条件が、図2に示した駆動回路10におけるP型のMOS-FETからなる第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3のオン動作条件とは異なる。即ち、第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3は、第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4のオン・オフに伴って変化するノードP1,P2の電圧を基準電位としてオン・オフ動作する。
【0050】
従ってこの場合には、図5に示すように制御信号SGを反転するインバータ回路5cの入力と出力とをレベルシフト回路5d,5eを介して第1および第3の半導体スイッチ素子Q1,Q3の各ゲートにそれぞれ印加するように制御回路5を構成すれば良い。このように第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4としてN型のMOS-FETを用いてスイッチ・マトリックス回路を構成した駆動回路10においても、第1および第2の半導体スイッチ素子Q1,Q2の直列接続点であるノードP1の電圧をIGBT2のゲートに直接印加するので、前述した実施形態と同様な効果が奏せられる。
【0051】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば特に図示しないが第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4としてP型のMOS-FETをそれぞれ用いることも勿論可能である。また第1および第2の半導体スイッチ素子Q1,Q2としてN型のMOS-FETを用い、第3および第4の半導体スイッチ素子Q3,Q4としてP型のMOS-FETを用いることも勿論可能である。
【0052】
また前述したように電力素子としてパワーMOS-FETを駆動する場合にも本発明を適用可能なことは勿論である。更には第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4としてバイポーラ・トランジスタを用いても良いことは言うまでもない。更には制御回路5については、スイッチ・マトリックス回路の構成や、スイッチ・マトリックス回路を構成する第1〜第4の半導体スイッチ素子Q1,Q2,Q3,Q4に対するオン・オフ駆動形態等に応じて種々変化可能である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
1,10 駆動回路
2 電力素子(IGBT)
3 主電源
4 電源(Vcc)
5 制御回路(CONT)
Q1 第1の半導体スイッチ素子(MOS-FET)
Q2 第2の半導体スイッチ素子(MOS-FET)
Q3 第3の半導体スイッチ素子(MOS-FET)
Q4 第4の半導体スイッチ素子(MOS-FET)
D 負の温度特性を有する半導体素子(ダイオード)
RG ゲート抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7