特許第6569864号(P6569864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569864
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】集魚灯装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 79/00 20060101AFI20190826BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20190826BHJP
   F21V 9/00 20180101ALI20190826BHJP
   F21Y 105/12 20160101ALN20190826BHJP
   F21Y 113/13 20160101ALN20190826BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20190826BHJP
【FI】
   A01K79/00 H
   F21S2/00 642
   F21V9/00
   F21Y105:12
   F21Y113:13
   F21Y115:10
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-27757(P2016-27757)
(22)【出願日】2016年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-143782(P2017-143782A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】百々 征貴
(72)【発明者】
【氏名】本池 達也
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−503651(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/104937(WO,A1)
【文献】 特開2013−106550(JP,A)
【文献】 特開2017−050283(JP,A)
【文献】 特開2012−064888(JP,A)
【文献】 特開2009−260320(JP,A)
【文献】 特表2011−530282(JP,A)
【文献】 特開2010−153044(JP,A)
【文献】 米国特許第06203170(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 79/00
F21S 2/00
F21V 9/30
F21Y 105/12
F21Y 113/13
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のLEDを有する光源部を備えた集魚灯装置において、
前記光源部は、450nm以下にピーク波長を有するLED素子を備えるともに、当該LED素子からの出射光によって励起されて、480nm〜600nmの範囲内において、半値幅が100nm以上で発光する緑色蛍光体が設けられたLEDを備えていることを特徴とする集魚灯装置。
【請求項2】
前記光源部は、更に白色発光LEDを備えていることを特徴とする請求項1に記載の集魚灯装置。
【請求項3】
前記光源部において、同一平面上に配列されたLEDの短手方向をX方向、長手方向をY方向としたとき、前記光源部から出射される光は、X方向が90度〜120度、Y方向が50度〜70度の指向性を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の集魚灯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)を用いた集魚灯装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サンマやイカなどを効率的に漁獲するため、これら対象とする魚種を誘引するために集魚灯が広く用いられている。このような集魚灯には、これまで白熱電球やメタルハライドランプ等が主に使用されていたが、より低い消費電力で長寿命な集魚灯を実現するため、近年では、発光ダイオード(LED)を用いた集魚灯の開発が進んでいる。
【0003】
例えば、特表2013−503651号公報(特許文献1)には、発光波長が450〜470nmの青色LEDチップに、発光波長が570〜590nmの黄色蛍光体を塗布して白色光を出射する集魚灯が記載されている。さらに、漁獲量を高めるため、発光波長が450〜470nmの青色LEDチップに、発光波長が480〜550nmの緑色蛍光体を塗布して青緑色光を出射する集魚灯を設けることが記載されている。
【0004】
また、特開2007−060989号公報(特許文献2)には、発光波長が480〜510nmの青緑色LEDと、発光波長が520〜560nmの緑色発光LEDと、白色LEDとを混在させ、各ダイオードの発光出力の比率を調整することで、水質条件によらず効果的な集魚が可能なLED集魚灯装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013−503651号公報
【特許文献2】特開2007−060989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、漁獲に好ましい光の波長帯は、対象魚の視感度の違いによって異なる。一般的に、イカは480〜494nm付近、サンマやイワシは505nm付近、カレイは520nm付近に視感度があると推定されている。
また生息域の水深にも関係があり、海水の表層近くに生息する表層魚は波長510nmに最大感度があるとされており、深海魚ではより短波長域の波長480nm付近に最大感度があるとされている。これは海水に対しての光の透過率が影響しているためである。
そのため、幅広い対象魚に対して有効な光源は、比較的ブロードな発光スペクトルを有していることが望ましい。しかしながら、LEDは半値幅が狭いため、有効に作用する対象魚の範囲が限定的になりやすい、という問題がある。
【0007】
また、上記特許文献1に開示されたLEDの発光波長450nm〜470nmの光は、海水の懸濁物に吸収されやすく、水深の深い領域まで光を届かせることが困難であった。このように、水中では長波長側の光は吸収されやすく、海中のスペクトル分布は、海水表層から深海に向かうにつれて短波長光の比率が大きくなる。さらに、海水中に含まれる懸濁物の影響を考慮すると、従来のLED集魚灯では水深の深い領域まで十分に光を届かせることは困難であった。ここでいう懸濁物とは、例えばプランクトン等の生物性懸濁物や、海底堆積物の巻上りによる非生物性懸濁物が挙げられる。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、発光ダイオード(LED)を用いた集魚灯装置において、幅広い対象魚に対して有効な光を出射すると共に、懸濁物が存在する海水に対して、より深い領域へ光照射することのできる集魚灯装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、複数のLEDを有する光源部を備えた集魚灯装置において、前記光源部は、450nm以下にピーク波長を有するLED素子を備えるともに、当該LED素子からの出射光によって励起されて、480nm〜600nmの範囲内において、半値幅が100nm以上で発光する緑色蛍光体が設けられたLEDを備えていることを特徴とする。
また、前記光源部は、更に白色発光LEDを備えていることを特徴とする。
また、前記光源部において、同一平面上に配列されたLEDの短手方向をX方向、長手方向をY方向としたとき、前記光源部から出射される光は、X方向が略90度〜120度、Y方向が略50度〜70度の指向性を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明の光源ユニットによれば、発光波長450nm以下、例えば、430nm付近にピーク波長を有するLED素子を用いたことにより、懸濁物で濁った海水に対してより深い領域まで光照射することが可能となる。
また、用いられる蛍光体が、480nm〜600nmの波長範囲において、半値幅が100nm以上の青緑色の発光をすることから、大多数の対象魚の感度波長が入る600nm以下の波長域において、ワイドレンジの発光スペクトルを有することとなり、幅広い対象魚に対して有効な光照射を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の集魚灯装置の側面図(A),下面図(B)
図2図1のA部の拡大図で、下面図(A),B−B断面図(B)
図3】LEDの断面図
図4】光源部の側面図
図5】光源部の正面図
図6】本発明と従来技術のスペクトル図
図7】水中での光照射による波長と消散係数の関係を示す表1
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明の集魚灯装置1が示されており、この集魚灯装置1においては、複数のLED2が配列された光源部3が筐体4内に収容されていて、この筐体4には透光性部材からなる光出射部5が設けられている。そして、前記光源部3には複数のフィンで構成されたヒートシンク6が設けられている。
図2に示されるように、光源部3では、共通する基板7上に複数のLED2が配列されている。このLED2は、450nm以下の短波長にピーク波長を有するLED素子21を備えていて、本実施形態では、430nmのピーク波長を有する。
そして、図2(B)に示すように、LED2の前面には透光性材料からなる光出射部(カバー)5が設けられている。
【0013】
図3に詳細が示されるように、基板7上に設けられたLED素子21には、その周囲を取り囲むように緑色蛍光体22が設けられていて、全体としてLED2を構成している。この蛍光体22は、LED素子21からの450nm以下の波長の光の一部を変換して、480nm〜600nmの波長範囲において、半値幅が100nm以上となる青緑色の発光をするように設計されている。
これにより、光源部3からの出射光は、蛍光への変換に利用されなかったLED光と、該LED光によって変換された蛍光とが混在して青緑色の光が出射される。そして、この結果、図6に示されるように、光源部3からの出射光は、450nm以下(例えば430nm)にピーク波長を有するとともに、480nm〜600nmの波長範囲において、半値幅が100nm以上となる発光スペクトルを有するものとなる。
【0014】
また、前記光源部3においては、図2に示されるように、前記した青緑色域の光を出射するLED2(以下、第一LEDという)と、白色域の光を出射するLED8(以下、第二LEDという)とが混在している配置とすることができる。図2の例では、第一LED2が並列配置されている間に第二LED8が配置されている。
この白色光の第二LEDは、集魚作用は必ずしもないが、作業者によっては、船舶上の作業時の照明用途としての活用や、漁獲時に対象魚のエサを引き寄せる際の活用を考えているということであり、作業現場において装備することの要請がある。その意味では、第一LED及び第二LEDは、漁獲時にどちらか一方を点灯させ、点灯切換を行うものではあるが、その使用用途や点灯制御方法についてはこれに限られるものではない。
【0015】
また、このような集魚灯装置は、より水深の深い領域を照射するために、光源部3からの配光も適宜調整されている。
図4に示されるように、LED2が同一平面上に配列された光源部3の短手方向をX方向、長手方向をY方向と定義したとき、前記光源部3から出射される光は、X方向が略90度〜120度、Y方向が略50度〜70度の指向性を有していることが好ましい。
当該集魚灯装置は、出射波長の異なる第一LEDと第二LEDを搭載していることから、X方向の指向性を90度〜120度と広く設定することにより、短い光源幅で広い範囲を光照射する上で好ましい。また、Y方向の指向性を50度〜70度と狭められていることにより、より水深の深い領域まで高い光量を確保する際に好適である。
【0016】
本発明の集魚灯装置の一具体例を挙げると以下のようである。
<筐体>
装置筐体:材質はアルミニウム合金、寸法は325.7mm×145.7mm×56mm、凹形状の収容部を備える。
収容部:寸法は270mm×90mm×30mm。
ヒートシンク:厚み3mmのフィンを筐体の側面に設けている。
<光源部>
基板:サイズは268mm×58mm、LED設置数102(第一LEDは96個、第二LEDは16個)
第一LED:1mm角素子、(ピーク波長430nm)、パッケージで□3.1mm、緑色蛍光体(半値の波長域490〜590nm)
第二LED:1mm角素子、(ピーク波長450nm)、パッケージで□7mm、白色蛍光体(半値の波長域500〜650nm)
【0017】
本発明の前述したLED素子と蛍光体とからなるLEDを備えていることで、図6に示されるように、450nm以下の、例えば、430nmにピーク波長を有するとともに、波長480nm〜600nmの範囲内において、半値幅が100nm以上で発光する連続したスペクトルを有する光を出射するので、海水に対してより深い領域まで光照射することが可能となるとともに、大多数の対象魚の感度波長が入る600nm以下の波長域において、ワイドレンジの発光スペクトルを有することとなり、幅広い対象魚に対して有効な光照射を可能とする。
【0018】
図6には、同時に、従来技術による発光スペクトルが点線で示されていて、このスペクトルによれば、450nm以上の近傍にピーク波長を有するので、水深の深いところまで光が到達せず、また、最も幅広い対象魚が感知する480nm〜600nmの波長領域で、狭い半値幅であるために、対象魚が限定されてしまう。
【0019】
ここで、水中での光の消散度合について記載すると以下のようである。
即ち、光の入射光束(F)が、水中で距離(L)だけ透過した際に、水中内の散乱(d)と吸収(a)によって減衰された光束(F)との関係は、次式で表される。
F/F=e^(−CL)
C(拡散係数)=d(散乱)+a(吸収)
ここで、消散係数(C)とは、水中の懸濁粒子や水自身による散乱・吸収などによって減衰する光量を示す指標となるものである。懸濁物を有する水中への光照射において、波長λと消散係数Cの関係を図7の表1に示す。
【0020】
表1から分かるように、450nmよりも短波長域で、消散係数(C)がより低減することが分かる。また一方で、400nm以下の範囲では水の吸収率が高くなるため、それに伴い消散係数(C)は増大傾向になる。
以上の点から、水深の深い領域を照射する波長域としては、400nm〜440nmの範囲が適していることが分かる。また懸濁物として植物プランクトンが多い場合は440nmの光が吸収されやすくなることから、より好ましくは、410〜435nm付近にピーク波長を有していることが望ましい。
【0021】
以上のように、本発明では、LEDからの発光スペクトルが、450nm以下の、例えば、430nmにピーク波長を有することにより、より深い水域にまで光が到達し、更に、480nm〜600nmの波長域での半値幅が100nm以上の連続スペクトルを有することで、幅広い対象魚に対して感度を有する高領域の光照射が可能となるものである。
【符号の説明】
【0022】
1 集魚灯装置
2 (第一)LED
21 LED素子
22 蛍光体
3 光源部
4 筐体
5 光出射部(カバー)
6 ヒートシンク
7 基板
8 第二LED


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7