(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6569942
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】パワーステアリング装置のポンプ取付構造
(51)【国際特許分類】
F04C 2/344 20060101AFI20190826BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
F04C2/344 331M
F04C15/00 J
F04C15/00 K
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-182719(P2015-182719)
(22)【出願日】2015年9月16日
(65)【公開番号】特開2017-57782(P2017-57782A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】宮永 俊作
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健吾
【審査官】
岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−180798(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3154209(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容部を有するハウジングと、
前記ハウジングに軸支され、エンジンの動力によって回転する駆動軸と、
前記収容部内で、前記駆動軸と一体に回転するロータと、
前記収容部内で、前記ロータの外周面を囲う環状のカムリングと、
前記ロータの外周面に形成された複数のスロットに出没可能に挿入され、前記ロータ及び前記カムリングの間に複数のポンプ室を形成する複数のベーンと、を有するパワーステアリングポンプと、
前記駆動軸に固定され、前記駆動軸と一体に回転する駆動ギアと、
前記駆動ギアと噛み合って、前記エンジンの動力を前記駆動ギアに伝達するサプライギアと、を有する動力伝達機構と、を備え、
前記駆動軸の回転中心は、前記ハウジングのインロー中心と前記サプライギアの回転中心とを通る直線上であって、前記サプライギアの回転中心から遠退く方向に前記インロー中心から偏心した位置に設定されている
ことを特徴とするパワーステアリング装置のポンプ取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置のポンプ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動軸と一体となって回転するロータと、ロータの外周面を囲う環状のカムリングと、ロータの外周面に形成された複数のスロットに出没可能に挿入され、ロータ及びカムリングの間に複数のポンプ室を形成する複数のベーン等を備えたパワーステアリングポンプが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−180798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなパワーステアリングポンプにおいて、駆動軸へエンジンの動力を伝達するため、駆動軸に駆動ギアを固定し、エンジンの動力によって回転するサプライギアに駆動ギアを噛合させる場合がある。また、ポンプ容量の増大等と目的として、ハウジングのインロー中心に対して駆動軸の回転中心(シャフト中心)を偏心(オフセット)して配置する場合がある。しかし、パワーステアリングポンプの組付け誤差(ポンプ取付けがた)等によりハウジングが正規位置から回転して固定され、シャフト中心がサプライギアの回転中心に対して正規位置からずれて設定された場合、インロー中心に対するシャフト中心の偏心方向によっては、駆動ギアとサプライギアとを好適に噛み合わせることができず、これらのギアの異常な摩耗や異音の発生を招くおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、組付け誤差等によりシャフト中心がサプライギアの回転中心に対して正規位置からずれて設定された場合であっても、駆動ギアやサプライギアの異常な摩耗や異音の発生を防止することが可能なポンプ取付構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明に係るパワーステアリング装置のポンプ取付構造は、パワーステアリングポンプと動力伝達機構とを備える。
【0007】
パワーステアリングポンプは、ハウジングと駆動軸とロータとカムリングと複数のベーンと動力伝達機構とを有する。ハウジングは、収容部を有する。駆動軸は、ハウジングに軸支され、エンジンの動力によって回転する。ロータは、収容部内で、駆動軸と一体に回転する。カムリングは、収容部内で、ロータの外周面を囲う環状のものである。複数のベーンは、ロータの外周面に形成された複数のスロットに出没可能に挿入され、ロータ及びカムリングの間に複数のポンプ室を形成する。
【0008】
動力伝達機構は、駆動ギアとサプライギアとを有する。駆動ギアは、駆動軸に固定され、駆動軸と一体に回転する。サプライギアは、駆動ギアと噛み合って、エンジンの動力を駆動ギアに伝達する。
【0009】
駆動軸の回転中心は、ハウジングのインロー中心とサプライギアの回転中心とを通る直線上であって、サプライギアの回転中心から遠退く方向にハウジングのインロー中心から偏心した位置に設定されている。
【0010】
上記構成では、駆動軸の回転中心(シャフト中心)がハウジングのインロー中心から偏心しているので、ポンプ容量を増大させることができる。
【0011】
また、シャフト中心が、インロー中心とサプライギアの回転中心とを通る直線上であって、サプライギアの回転中心から遠退く方向にインロー中心から偏心しているので、パワーステアリングポンプの組付け誤差等によりシャフト中心がサプライギアの回転中心に対して設計上の正規位置からずれて設定された場合であっても、サプライギアの回転中心からシャフト中心までの中心間距離の正規距離(シャフト中心が正規位置に設定された場合の中心間距離)からの変動を最小限に抑えることができる。従って、駆動ギアとサプライギアとを正規位置の場合と同様に好適に噛み合わせることができ、駆動ギアやサプライギアの異常な摩耗や異音の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパワーステアリングポンプは、回転方向が左右で異なる場合であっても、構成部品を共通化することでコストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るパワーステアリングポンプを備えるパワーステアリング装置の要部を示す径方向断面図である。
【
図2】
図1のパワーステアリングポンプの径方向断面図である。
【
図3】
図1のパワーステアリング装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2に示すように、パワーステアリング装置1は、操舵アシストを油圧で行う装置であり、油圧の発生源としてコンベンショナルタイプのパワーステアリングポンプ2を備えている。
【0016】
パワーステアリングポンプ2は、ハウジング4と、ポンプ要素5と、駆動軸6等を備える。ハウジング4は、フロントボディ3と、リアボディ(図示省略)とから構成される。ステアリング装置1の本体10には、ハウジング4の一部が挿入される円柱状空間であるインロー11(
図3参照)と、2箇所のボルト穴D(
図3参照)とが形成される。ハウジング4は、その一部がインロー11に挿入された状態で、ボルト穴Dを挿通するボルトによって本体10に締結固定される。組付け誤差を吸収するため、ボルト穴Dの内径はボルトの外径よりも大きく形成される。
【0017】
フロントボディ3は、ポンプ収容部7と、軸挿入部(図示省略)と、シール挿入部(図示省略)と、ベアリング挿入部(図示省略)等を有する。
【0018】
ポンプ収容部(収容部)7は、有底の円柱状空間であり、ポンプ収容部7には、ポンプ要素5等が収容される。軸挿入部は、ポンプ収容部7と同軸に連続する円柱状空間であり。軸挿入部には、ブッシュ(図示省略)を介して駆動軸6が回転可能に挿入される。シール挿入部は、軸挿入部と同軸に連続する円柱状空間であり、シール挿入部には、油漏れを防ぐシール部材(図示省略)が挿入される。ベアリング挿入部は、シール挿入部と同軸に連続する円柱状空間であり、ベアリング挿入部には、ベアリング(図示省略)を介して駆動軸6が回転可能に挿入される。
【0019】
リアボディは、フロントボディ3のポンプ収容部7を閉塞する蓋であり、軸挿入部(図示省略)等を有する。軸挿入部は、有底の円柱状空間であり、軸挿入部には、駆動軸6が回転可能に挿入される。
【0020】
ポンプ要素5は、ロータ17、カムリング18、及び複数のベーン19等を備え、フロントボディ3のポンプ収容部7に収容されている。
【0021】
ロータ17は、外形の径方向断面が略真円である回転体であり、回転中心となる貫通孔21と、複数のベーン19が出没可能に各々挿入される複数のスロット22等を有する。ロータ17は、フロントボディ3のポンプ収容部7内で、貫通孔21に挿入された駆動軸6とスプライン結合されており、駆動軸6と一体に回転する。複数のスロット22は、ロータ17の外周面に等間隔に形成され、軸方向に延びる溝である。各スロット22には、ベーン19が出没可能に挿入される。各スロット22の内径側端部には、背圧室22aが形成されている。
【0022】
カムリング18は、外周面の径方向断面が略真円であって、内周面の径方向断面が略楕円である円環状部材であり、内周面がロータ17に外接するようにロータ17の外形よりも大きく設定されている。カムリング18は、内周面の内側にロータ17を収容すると共に、ポンプ収容部7に収容され、複数(本実施形態では駆動軸6を挟んで対峙する2つ)のピン23によってフロントボディ3に対して回転不能に固定されている。
【0023】
複数のベーン19は、ロータ17の外周面に形成された複数のスロット22に出没可能に挿入され、ロータ17とカムリング18との間に複数のポンプ室26を形成する。各ベーン19は、スロット22の背圧室22aに供給された作動油によって、径方向外側に付勢されている。これにより、各ベーン19の径方向外側の端部は、カムリング18の内周面に当接している。
【0024】
ハウジング4の内面には、1対の吸入ポート32,33と1対の吐出ポート34,35とが形成されている。吸入ポート32と吐出ポート34と吸入ポート33と吐出ポート35とは、駆動軸6を中心として略45度ずつずれて配置され、2つの吸入ポート32,33と2つの吐出ポート34,35とは、駆動軸6を挟んでそれぞれ対峙する。吸入ポート32,33は、ロータ17の回転に伴ってその容積が徐々に拡大する位置でポンプ室26と連通し、吐出ポート34,35は、ロータ17の回転に伴ってその容積が徐々に減少する位置でポンプ室26と連通する。
【0025】
吸入ポート32,33は、作動油の貯留タンク(図示省略)と連通し、ロータ17の回転に伴うベーン19の移動により容積の拡大するポンプ室26に、貯留タンクから供給された作動油が吸入ポート32,33を介して吸入される。吐出ポート34,35は、パワーステアリングシリンダ(図示省略)と連通し、ロータ17の回転に伴うベーン19の移動により容積の減少するポンプ室26の作動油が、吐出ポート34,35を介してパワーステアリングシリンダへ吐出される。
【0026】
図3に示すように、パワーステアリング装置1は、エンジン(図示省略)の動力を駆動軸6に伝達する動力伝達機構70を備えている。
【0027】
動力伝達機構70は、クランクギア71と、アイドルギア72と、サプライギア73と、駆動ギア74等を備えている。
【0028】
クランクギア71は、エンジンを構成するクランクシャフト(図示省略)と一体に回転する平歯車である。アイドルギア72は、同軸に配置された2つの平歯車が互いに固定された歯車であり、大歯車72aと小歯車72bとからなる。大歯車72aは、クランクギア71と噛み合っており、クランクギア71の回転に伴って回転する。サプライギア73は、アイドルギア72の小歯車72bと噛み合っており、アイドルギア72の回転に伴って回転する。
【0029】
駆動ギア74は、サプライギア73と噛み合っており、サプライギア73の回転に伴って回転する。エンジンの動力は、クランクギア71からアイドルギア72及びサプライギア73を介して駆動ギア74へ伝達される。駆動ギア74は、駆動軸6と同軸になるように駆動軸6に固定されており、駆動軸6と一体に回転する。これにより、駆動ギア74は、エンジンの動力を駆動軸6に伝達する。
【0030】
駆動軸6及び駆動ギア74の回転中心(シャフト中心)の設計上の位置(正規位置)Aは、インロー11の中心(ハウジング4のインロー中心)Bとサプライギア73の回転中心(サプライギア中心)Cとを通る直線L上であって、サプライギア中心Cから遠退く方向にインロー中心Bから偏心した位置に設定されている。
【0031】
このように、シャフト中心Aがインロー中心Bから偏心しているので、ポンプ容量を増大させることができる。
【0032】
また、上述したように、ハウジング4(
図1参照)の組付け誤差を吸収するため、ボルト穴Dの内径はボルトの外径よりも大きく形成されている。このため、ハウジング4は、設計上の正規位置から、インロー中心Bを中心として僅かに回転した位置に変位して取付けられる可能性があり、これに伴って、シャフト中心もサプライギア中心Cに対して正規位置Aからずれて設定される可能性がある。
【0033】
例えば、ハウジング4がインロー中心Bを中心として右方向に所定角度θ(例えば、0.7°)回転(右回転)して変位した場合、シャフト中心も正規位置Aから所定角度θだけ右回転して位置A1へ変位し、反対に、ハウジング4がインロー中心Bを中心として左方向に所定角度θ(例えば、0.7°)回転(左回転)して変位した場合、シャフト中心も正規位置Aから所定角度θだけ左回転して位置A2へ変位する。
【0034】
ここで、インロー中心Bに対するシャフト中心の偏心方向によっては、ハウジング4の組付け誤差によってシャフト中心が正規位置Aから変位した場合に、サプライギア中心Cからシャフト中心(変位したシャフト中心)までの中心間距離が正規距離(シャフト中心が正規位置Aに設定された場合の中心間距離)から大きく変動する可能性がある。
【0035】
これに対し、本実施形態では、上述のようにシャフト中心の正規位置Aを、インロー中心Bとサプライギア中心Cとを通る直線L上であって、サプライギア中心Cから遠退く方向にインロー中心Bから偏心した位置に設定しているので、シャフト中心が正規位置Aから位置A1や位置A2へ変位した場合であっても、サプライギア中心Cからシャフト中心(A1,A2)までの中心間距離の正規距離からの変動を最小限に抑えることができる。従って、駆動ギア74とサプライギア73とを正規位置Aの場合と同様に好適に噛み合わせることができ、駆動ギア74やサプライギア73の異常な摩耗や異音の発生を防止することができる。
【0036】
なお、上記実施形態では、コンベンショナルタイプのパワーステアリングポンプについて説明したが、可変容量タイプのパワーステアリングポンプに本発明を適用してもよい。
【0037】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係るポンプ取付構造は、トラック等の車両のパワーステアリング装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
2 パワーステアリングポンプ
3 フロントボディ
4 ハウジング
6 駆動軸
7 ポンプ収容部(収容部)
11 インロー
17 ロータ
18 カムリング
19 ベーン
22 スロット
26 ポンプ室
70 動力伝達機構
73 サプライギア
74 駆動ギア