(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1電力変換装置の動作状況について、ニューラル・ネットワークを用いて診断を行い、前記第1電力変換装置に対してフィードバック制御を行う電力変換装置の制御方法であって、
第1ニューラル・ネットワークを用いて第1ニューラル・ネットワーク構成データの実体を生成する第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程と、前記第1電力変換装置に関係する物理量を測定して第1測定値を取得し、該第1測定値に基づいて前記第1ニューラル・ネットワーク構成データを更新することを複数回繰り返して第1学習を行う第1学習工程と、を含む実機学習ステップと、
前記第1ニューラル・ネットワークを用いて第2ニューラル・ネットワーク構成データの実体を生成する第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程と、前記第1電力変換装置と同じ構成を有する第2電力変換装置の模擬運転を行いつつ、前記第2電力変換装置に関係する物理量を測定して第2測定値を取得し、該第2測定値に基づいて前記第2ニューラル・ネットワーク構成データを更新することを複数回繰り返して第2学習を行う第2学習工程と、を含む模擬運転学習ステップと、
前記第2学習が反映された前記第2ニューラル・ネットワーク構成データを診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データとして、該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データ及び前記第1学習が反映された前記第1ニューラル・ネットワーク構成データに基づき前記第1電力変換装置の動作状況を診断する診断工程を含む評価診断ステップと、
前記評価診断ステップによって得られる診断データに基づき、前記第1電力変換装置に対するフィードバック制御に関するフィードバックデータを生成するフィードバックデータ生成工程と、該フィードバックデータに基づいて前記第1電力変換装置の動作を変更する動作変更工程を有するフィードバック制御ステップと、を有することを特徴とする電力変換装置の制御方法。
第1電力変換装置の動作状況について、ニューラル・ネットワークを用いて診断を行い、前記第1電力変換装置に対してフィードバック制御を行う電力変換装置の制御方法であって、
第1ニューラル・ネットワークを用いて第1ニューラル・ネットワーク構成データの実体を生成する第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程と、前記第1電力変換装置に関係する物理量を測定して第1測定値を取得し、該第1測定値に基づいて前記第1ニューラル・ネットワーク構成データを更新することを複数回繰り返して第1学習を行う第1学習工程と、を含む実機学習ステップと、
(a)前記第1ニューラル・ネットワークを用いて第i試験モード(iは自然数)に係る第2ニューラル・ネットワーク構成データの実体を生成する第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程と、(b)前記第1電力変換装置と同じ構成を有する第2電力変換装置を用いて前記第i試験モードによる模擬運転を行いつつ、前記第2電力変換装置に関係する物理量を測定して第2測定値を取得し、該第2測定値に基づいて前記第i試験モードに係る第2ニューラル・ネットワーク構成データを更新することを複数回繰り返して第2学習を行う第2学習工程と、及び、(c)前記第2学習が反映された当該第i試験モードに係る第2ニューラル・ネットワーク構成データを基準データベースに格納する基準データベース格納工程とを、iが1からm(mは2以上の整数)まで、iの数を増やしながらm回実行して、m個の前記第2ニューラル・ネットワーク構成データからなる前記基準データベースを構築する基準データベース構築ステップと、
前記基準データベースに格納されているm個の前記第2ニューラル・ネットワーク構成データの中から、評価診断を行う試験モードに対応するニューラル・ネットワーク構成データを診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データとして少なくともいずれか1つを選出する診断テンプレート選出工程と、該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データ及び前記第1学習が反映された前記第1ニューラル・ネットワーク構成データに基づき前記第1電力変換装置の動作状況を診断する診断工程と、を含む評価診断ステップと、
前記評価診断ステップによって得られる診断データに基づき、前記第1電力変換装置に対するフィードバック制御に関するフィードバックデータを生成するフィードバックデータ生成工程と、該フィードバックデータに基づいて前記第1電力変換装置の動作を変更する動作変更工程を有するフィードバック制御ステップと、を有することを特徴とする電力変換装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の電力変換装置の制御方法について、図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、図面及び明細書において、”ニューラル・ネットワーク”を単に”NN”と、”データベース”を単に”DB”と、”デューティー比”を”Duty比”とそれぞれ表記する場合がある。
【0025】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る電力変換装置の制御方法
実施形態1に係る電力変換装置の制御方法は、大まかに捉えると、実機100に含まれる第1電力変換装置110の動作状況についてニューラル・ネットワークを用いて診断を行い、第1電力変換装置110に対してフィードバック制御を行う電力変換装置の制御方法であって、実機学習ステップS100、模擬運転学習ステップS200、評価診断ステップS300及びフィードバック制御ステップS500を有する(
図1及び
図2参照。)。
実機学習ステップS100は実機100において実施され、同様に模擬運転学習ステップS200は模擬運転装置200において実施される。その後、評価診断ステップS300において、模擬運転学習ステップS200における学習(第2学習)が反映された第2ニューラル・ネットワーク構成データND2(後述する)を診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT(後述する)として、該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT及び実機学習ステップS100における学習(第1学習)が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1(後述する)に基づき診断を行う。しかる後、フィードバック制御ステップS500において、評価診断ステップS300によって得られる診断データに基づき、第1電力変換装置110に対するフィードバック制御に関するフィードバックデータを生成し、該フィードバックデータに基づいて第1電力変換装置110の動作を変更する(
図2参照。)。
【0026】
実施形態1における「第1電力変換装置」は、実機100に含まれる装置であって、交流電源から直流電源への変換、直流電源から交流電源への変換、直流電源における電圧の変換等の電力変換の機能を有する装置である。具体的にはコンバーター(AC/DC電源)、インバーター(DC/A電源)、DC/DCコンバーター、各種整流器等の回路を含み、所定の電力変換の機能を有するユニット、装置、設備等であり、例えば、家庭用蓄電池システム、非常用電源、パワーコンディショナー等の単機能のものの他、それらの機能を一部に含む各種装置などを挙げることができる。
【0027】
「ニューラル・ネットワーク」とは、脳の神経回路網をコンピューター(PC、マイコン、DSP等)の上に模したもので、実施形態1においては、所定のネットワーク構造を有する観念的な存在を指すものとする。本発明におけるニューラル・ネットワークの基本的な構造としては階層構造型、相互結合型等が特に限定なく含まれるが、実施形態1においては階層構造型のニューラル・ネットワークを採用するものとする。
【0028】
「階層構造型のニューラル・ネットワーク」においては、脳細胞のニューロンに模したユニットUT
kjが複数個並んでいる。これらのユニットUT
kjは、入力層、中間層及び出力層のうちの何れかの層に属している。階層構造型のニューラル・ネットワークにおいて、入力層及び出力層は基本的にそれぞれ1層ずつ備わっているが、中間層は1層以上あれば何層備わっていてもよい。このように、階層構造型のニューラル・ネットワークは多段の層からなり、各層の中には少なくとも1個以上のユニットUT
kjが属するという階層構造を採っている(
図3参照。)。
【0029】
階層構造型ニューラル・ネットワークにおける層の数、各層が有するユニットの数等が定まると、ニューラル・ネットワークの基本的な形が定まる。実施形態1においてはこれらの情報によって定まるニューラル・ネットワークの形を「ニューラル・ネットワークの基本アーキテクチャ」と言う。
ニューラル・ネットワークを構成する各ユニットUT
kjは、あたかも神経細胞の軸索の如き仮想的な線によって、前後の層の各ユニットと互いに接続されている(
図3参照。)。
ニューラル・ネットワークに対し信号が入力されると、かかる信号は入力層に属するユニット群から中間層に属するユニット群を介して出力層に属するユニット群へと片方向に伝達される。
【0030】
次に「ユニット」の詳細を説明する。入力層、中間層、及び出力層の各々を第1層、第2層、及び第3層としたとき、
図4(a)は、第k層(k=2,3,・・・)に属する第j(jは自然数)ユニットUT
kjの構成の詳細を表している。第k層に属する第jユニットUT
kjは、結合部SM
kj及び伝達部TF
kjを備えている。結合部SM
kjは、式(1)のように、第(k−1)層の全ユニットからの出力o
k−1iを重み付けしたものを入力し、それらの線形和x
kjを出力する。
【数1】
なお、式(1)において、第(k−1)層の第iユニットから第k層の第jユニットへの出力の重み付け係数を、W
k−1,ki,jと表記している。また、第(k−1)層の第iユニットUT
k−1iの出力をo
k−1iと表記している。伝達部TF
kjは、式(2)のように、結合部SM
kjの出力である線形和x
kjを入力とし、伝達関数f(x
kj)を経て、o
kj=f(x
kj)として出力する。伝達関数f(x
kj)としては、
図4(b)で示すシグモイド関数、
図4(c)で示すステップ関数等を用いることができる。例えば、シグモイド関数の場合には、式(2)を用いる。
【数2】
【0031】
次に、実施形態1に係る電力変換装置の制御方法を構成する各ステップについて説明する。
【0032】
(1)実機学習ステップS100
実機学習ステップS100は、実機100側において実施され、第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S110と、第1学習工程S120とを含む(
図1及び
図2参照。)。
【0033】
(i)第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S110
まず、第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S110において、第1ニューラル・ネットワークNN1を用いて第1ニューラル・ネットワーク構成データND1の実体を生成する。
【0034】
「第1ニューラル・ネットワークNN1」とは、例えば、入力層、2層の中間層(第1中間層及び第2中間層とする)及び出力層を備え、入力層に属するユニット数は2個、第1中間層に属するユニット数は4個、第2中間層に属するユニット数は4個、及び、出力層に属するユニット数は1個といったように「基本アーキテクチャ」の形が一義的に定められた観念的なニューラル・ネットワークをいう。
ニューラル・ネットワークの基本アーキテクチャに関する定義は、
図5(a)に示すように、テーブルTB1として保持しておくこともできる。例えば、上記例の第1ニューラル・ネットワークNN1は、NN番号列=001となっている行に記入されているような構造であると定義することができる。
【0035】
「ニューラル・ネットワーク構成データ」とは、ニューラル・ネットワークをコンピューターのソフトウェア上に再現する(枠組みを再現するだけでなく、学習状態も含めて再現する)ために必要な情報を備えたデータである。ニューラル・ネットワーク構成データのデータ構造は、設計方針に応じて様々な形態を採ることができる。
第1ニューラル・ネットワーク構成データND1のデータ構造を表すテンプレートは、第1ニューラル・ネットワークの基本アーキテクチャを念頭に置きつつ、ソフトウェア上で定義される。
図5(b)に示した例の場合、層番号k及び当該層内のユニット番号jで特定されるユニットUT
kj毎に(図(b)では1行の単位)、重み付け係数W
k−1,ki,jを格納する変数、線形和S
k,jを格納する変数、及び、伝達関数のタイプを格納する変数が定義される。
そして、これらの変数群(1行の単位)が、第1層から第4層までそれぞれの層が属する各ユニットについてそれぞれ定義される。このテンプレートの中には、層の数、ユニットの数といった基本アーキテクチャに関する情報も間接的に含まれている。なお、これらの変数は、構造体として定義(宣言)されてもよいし、配列として定義(宣言)されてもよい。
【0036】
「第1ニューラル・ネットワークNN1を用いて第1ニューラル・ネットワーク構成データND1の実体を生成する」とは、第1電力変換装置110に対応して設けられたコンピューター(第1電力変換装置110に含まれるマイコン等でもよいし、第1電力変換装置の外部に設けられたPC、マイコン、DSP等であってもよい。)のソフトウェア上で、上記のように定義(宣言)された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1のテンプレートに基づき、変数に値が格納できるように、実体(インスタンス)を生成することをいう。
上記のように定義されたテンプレートに基づきデータとしての実体が生成され、当該実体に具体的な値が与えられると、「ニューラル・ネットワーク構成データ」と言われるデータが発生することとなる。
【0037】
なお、生成された実体に対して、第1学習工程の実施に先立ち、各変数《上記例ではW
k−1,ki,j、ΣW
k−1,ki,j・o
k−1i(=S
k,j)等》に初期値を代入して、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1の初期状態を確立しておいてもよい。
【0038】
第1ニューラル・ネットワークNN1の規模は、診断対象である第1電力変換装置が何であるか、診断(後述)の観点、実施形態1に係る電力変換装置の診断方法を実施するコンピューターの能力等に応じ、適宜設定する。
【0039】
(ii)第1学習工程S120
第1学習工程S120では、第1電力変換装置110に関係する物理量を測定して第1測定値M1を取得し、該第1測定値M1に基づいて第1ニューラル・ネットワーク構成データND1を更新することを複数回繰り返して第1学習を行う。
【0040】
まず、第1電力変換装置110に関係する物理量を測定して第1測定値M1を取得する。
第1電力変換装置110に関係する物理量」とは、例えば第1電力変換装置110に接続された電力供給源がバッテリーである場合には、第1電力変換装置へ入出力されるバッテリーの電圧及び電流、負荷の電圧及び電流、バッテリーBATの温度又は第1電力変換装置110の温度、バッテリーの放電時間及び充電時間といった物理量を挙げることができる。実施形態1における「第1電力変換装置110に関係する物理量」は、上記に限定されることなく、診断対象又は/及びフィードバック制御すべき対象(第1電力変換装置)が何であるのか/何が含まれるのか、どのような観点で診断及びフィードバック制御(後述)を行うのか等に応じて適宜選択することができる。
「第1測定値M1」は、基本的には上記したような物理量を測定して取得した値であるが、所定の時点における瞬間的な値(例:所定の時点におけるバッテリー電圧)であってもよいし、放電時間のように時間軸との関係で得られる値(例:運転中に充放電が繰り返される中、放電モードに入った時点から当該放電モードを終了した時点までの時間)であってもよいし、バッテリーの設計諸元(例:容量他)のように仕様の上で当初から固定されている値を第1測定値として扱ってもよい。
【0041】
次に、取得した該第1測定値M1に基づいて第1ニューラル・ネットワーク構成データND1を更新する。すなわち、第1測定値M1に基づいて、いわゆる「学習」と呼ばれる作業を行い、結果的に、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1の内容を更新する。
「学習」は、発明の趣旨から逸脱しない限りにおいて、どのような手法によるものでもよいが、実施形態1では、階層構造型のニューラル・ネットワークに適していること、計算方法(又はアルゴリズム)が比較的簡素で体系化されていること、ネットワークの関数近似能力が理論的に確認されていること等の理由により誤差逆伝搬法(バックプロパゲーション法)によって第1学習を行う。
「誤差逆伝搬法」による学習は、例えば実施形態1に当てはめて説明すると、第1ニューラル・ネットワークNN1の出力層に属する各ユニットの出力側に所定の値(教師信号)を与えつつ、取得した第1測定値に基づく値(学習データ)を第1ニューラル・ネットワークの入力層に属するユニットに入力したうえで、出力層に属するユニットの出力と教師信号との差が所定の閾値以下となるように、出力層側から入力層側に向かって順次、ユニット間に設けられた各重み付け係数W
k−1,ki,jをそれぞれ変更しながら調整していくというものである。
かかる学習が実行されると、結果的に、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1の重み付け係数W
k−1,ki,j、線形和S
k,jなどの値が都度更新されることとなる。
【0042】
第1学習工程では、このような第1ニューラル・ネットワーク構成データND1の更新を伴う学習を複数回繰り返し実行する。学習の繰り返し回数が多ければ多いほど重み付け係数等が収斂するため、実機100の実態(動作状況等)を濃く反映させることができ診断の精度向上に繋がる。一方で、学習回数が多い分だけコンピューターの負担が大きくなる。したがって、1回の第1学習工程S120における繰り返し学習回数は、実用面を考慮しながら適宜設定する。
【0043】
第1学習工程S120は、診断及びフィードバック制御の狙い、意図、ニューラル・ネットワークの仕様等に応じたタイミングで適宜実施することが可能である。例えば、実機100においてバッテリーに電力が充電されるタイミング、逆にバッテリーから電力が放電されるタイミングなどにおいて実施することができる。日頃から第1学習工程S120を行わせることにより、電力変換装置110が電気的にどのように振る舞って動作をしてきたのかが繰り返しニューラル・ネットワークに刷り込まれ、動作状況が色濃く反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1を確立することができる。
【0044】
(iii)参考までに、第1学習工程S120を実施した場合のニューラル・ネットワークの状態の変化を、
図6に一例として示す。
ここで、
図6における円形の図形はユニットを表しており、円形の大きさは当該ユニットに入力された線形和S
k,jの大きさに応じて大きくなるよう表記している。同様に
図6における線はユニット間を結ぶネットワークを表しており、線の太さは重み付け係数W
k−1,ki,jに応じて太くなるよう表記している。実施形態1においては、このようにニューラル・ネットワークの状態を、ニューラル・ネットワーク構成データ(線形和、重み付け係数等)に基づいてイメージとして表現して可視化したものを「マップ」と言う。
【0045】
第1学習工程S120を実施する前の第1ニューラル・ネットワーク構成データに基づくマップを
図6(a)に示す。学習を実施する前は、いずれのユニットにおける線形和も及びいずれのネットワークにおける重み付け係数も、初期値又はNullの状態となっているので、ここではいずれの円形も同じ大きさの円とし、同様に、いずれの線も同じ太さの線となっている。
第1学習工程S120を実施した後の第1ニューラル・ネットワーク構成データに基づくマップの例を、
図6(b)及び
図6(c)に示す。例えば、平均的な環境下で通常の運転が行われた電力変換装置に対応した第1ニューラル・ネットワーク構成データによれば
図6(b)で示すような形のマップとなる。また、比較的厳しい環境下で比較的ストレスが掛かった運転が行われた電力変換装置に対応した第1ニューラル・ネットワーク構成データによれば、
図6(c)で示すような形のマップとなる。
図6(b)及び
図6(c)からも分るように、同じようなタイミングで同じような物理量の測定をしながら学習を重ねてきたとしても、当該実機の電力変換装置装置の事情(使用のされ方、動作状況等)が異なれば、学習によって確立されるニューラル・ネットワークのマップも異なるイメージとなる(換言すれば、第1ニューラル・ネットワーク構成データの値も異なってくる)ということが理解できる。
【0046】
以上、(i)第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S110及び(ii)第1学習工程S120を行うことにより、実機学習ステップS100が実施されて、実機100における学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’(以下、単にND1’と言うこともある。)を確立することができる。
【0047】
(2)模擬運転学習ステップS200
模擬運転学習ステップS200は、フィールドに置かれている実機100と同等の模擬運転環境を別途準備し、かかる模擬運転環境において各種試験モードによる模擬運転を行ってニューラル・ネットワークに学習させ、実機100の電力変換装置110の動作状況を把握し診断する上で重要な参照情報となる第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’(以下、単にND2’と言うこともある。)を得るステップである。
【0048】
模擬運転学習ステップS200は、第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S210と、第2学習工程S220とを含む(
図1及び
図2参照。)。
【0049】
(i)模擬運転装置200
模擬運転学習ステップS200は、第1電力変換装置110と同じ構成を有する第2電力変換装置210の模擬運転を行うことができる環境において実施されるステップであり、例えば、模擬運転装置200において実施される(
図2参照。)。
模擬運転装置200としては、第1電力変換装置110を含む実機100と同等の装置をそのまま模擬運転装置200として導入してもよいし、実機そのものでなくても、第2電力変換装置210に対して実機100と同様な運転環境(温度、湿度、振動、電磁波等)、同様な入出力(信号や電力の入出力)等が提供され、その結果、該第2電力変換装置210が第1電力変換装置110と同様な環境において同様な振る舞いや動作を模すことができるものであれば、そのような治具に類するものを導入してもよい。
【0050】
(ii)第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S210
まず、第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S210において、第1ニューラル・ネットワークNN1を用いて第2ニューラル・ネットワーク構成データND2の実体を生成する。
「第1ニューラル・ネットワークNN1を用いて第2ニューラル・ネットワーク構成データND2の実体を生成する」とは、上記と同様に、第2電力変換装置210に対応して設けられたコンピューターのソフトウェア上で、第2ニューラル・ネットワーク構成データND2のテンプレートに基づき実体を生成することをいう。
この工程は、基本的に、実機100側で実施される第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S110と同様であるが、注目すべき点は、第2ニューラル・ネットワーク構成データの実体を生成する上で念頭に置くニューラル・ネットワークが、実機100側で用いた第1ニューラル・ネットワークNN1と同じもの(同じ基本アーキテクチャを有するもの)を用いることである。後述する評価診断ステップS300において、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1と、第2ニューラル・ネットワーク構成データND2(診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データ)とをいわば同じ土俵で比較・照合することができるようにするためである。
【0051】
(iii)第2学習工程S220
次の第2学習工程S220では、第1電力変換装置110と同じ構成を有する第2電力変換装置210の模擬運転を行いつつ、第2電力変換装置210に関係する物理量を測定して第2測定値M2を取得し、該第2測定値M2に基づいて第2ニューラル・ネットワーク構成データND2を更新することを複数回繰り返して第2学習を行う。
【0052】
ここでの「第2電力変換装置210に関係する物理量」の内容、第2測定値M2の取得の仕方、「学習」と呼ばれる作業を行い第2ニューラル・ネットワーク構成データND2の内容を更新する点、学習の手法等は、実機100で実施される第1学習工程S120におけるそれらと同様の内容・条件とする。
【0053】
「模擬運転」としては、診断したい内容に応じて、環境(温度、湿度、ノイズ等)、運転条件(印加する電圧、電流等の大小、タイミング、頻度、入出力点数等)を適宜変えて試験モードを設定し模擬運転を行うことができる。例えば、下記のような試験モードの下での模擬運転を行うことができる。
(a)第2電力変換装置210に対してストレスを掛ける試験モード
第2電力変換装置210において、例えばバッテリーへの充電と放電の切り替えを通常よりも頻繁に行う、負荷における電源投入/電源断を頻繁に行う、負荷から大きな電源ノイズを混入させる等、第2電力変換装置210の内部の回路群に対し比較的ストレスが掛かるような試験モードによる模擬運転である。
(b)経年劣化を助長させる試験モード
第2電力変換装置210の内部の回路群及びそれに用いられる素子の劣化を助長させる劣化加速の試験モードによる模擬運転である。例えば、第2電力変換装置210の動作環境温度を規格一杯の高温に設定し、入出力に対し電圧及び電流を規格の幅一杯に振って入出力させるといった試験モードとすることもできる。
(c)通常の運転条件の試験モード
勿論、電力変換装置に対し比較的ストレスが掛からない環境下で、平均的な環境下で通常の運転を行うこともできる。
【0054】
学習回数、学習頻度、学習期間等については、フィールドに設置された実機100における第1学習工程S120とは異なり、模擬運転装置200における第2学習工程S220では、試験モードの内容に応じて柔軟に設定することができる。条件が許せば、早期に学習を深めニューラル・ネットワークの形状を収斂させるために加速的な学習をすることも可能である。
学習回数も適宜設定することができる。一般に、診断に耐えうる程度に重み付け係数等が十分収斂させるにはできるだけ多い回数で学習することが好ましい。
【0055】
(iv)参考までに、第2学習工程S220を実施した場合のニューラル・ネットワークの変化を、
図7に一例として示す。表記の方法は
図6と同様である。
図7で示すように、第2学習工程S220を実施することにより、当初、初期状態であったニューラル・ネットワーク(
図7(a)参照。)が、第2学習が反映され形が変化したニューラル・ネットワークとなる(
図7(b)参照。)。
【0056】
以上、(ii)第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S210及び(iii)第2学習工程S220を行うことにより、模擬運転学習ステップS200が実施されて、模擬運転環境(模擬運転装置200)における学習が反映された第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を確立することができる。
【0057】
(3)評価診断ステップS300
図1及び
図2に示すように、上記実機学習ステップS100による学習結果と、上記模擬運転学習ステップS200による学習結果と、を受けて評価診断ステップS300が実施される。評価診断ステップS300には少なくとも診断工程S320が含まれる。
【0058】
(i)診断工程S320の概要
診断工程S320では、第2学習が反映された第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTとして、該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT及び第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づき第1電力変換装置110の動作状況を診断する。
【0059】
ここで、「第2学習が反映された第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTとして」とは、第2学習が反映された第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTとして扱うという意味である(以下、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTを単にNDTと言うこともある。)。ソフトウェア上の実現方法としては、例えば、NDTの実体に対しND2’のデータの中身(値)をコピーすることによって実現しても構わないし、単にNDTのポインタ(ptr)が、ND2’の実体を指すように設定することによって実現しても構わない。いずれにしてもND2’として取り出されるデータの中身と、NDTとして取り出されるデータの中身は同じものである。
【0060】
(ii)ニューラル・ネットワーク構成データ同士の比較・照合、類似度の評価
続いて、NDTとND1’とを比較・照合してニューラル・ネットワーク同士の類似度を評価し、第1電力変換装置110の動作状況を診断する。
【0061】
比較・照合して類似度を評価する方法は、以下の(a)及び(b)による方法を採ることができる。
【0062】
(a)データの値による比較・照合
診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTに格納されているデータの値と、第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に格納されているデータの値とを取り出して互いに比較・照合して類似度を評価することができる。具体的には、例えば以下のイ)、ロ)のような方法がある。
【0063】
イ)閾値を用いた比較・照合
線形和S
k,j(マップでは円形に相当。)の値に着目してND1’のデータとNDTのデータを比較・照合する場合を以下に説明する。仮に、第1閾値をSth1とし、第1閾値よりも小さい値をもつ第2閾値をSth2とする(
図8参照。)。
ND1’に含まれる総てのユニットに係る線形和S
k,jと、第1閾値Sth1と、を比較し、S
k,j>Sth1を満たすユニットのみをスクリーニングする。スクリーニングをパスしたユニットの位置情報(層番号k,ユニット番号j)をそれぞれ控える。一方、NDTについても同様の条件でスクリーニングを行う。そして、ND1’及びNDTにおいてそれぞれスクリーニングをパスしたユニットの位置が一致している(スクリーニングをパスしたユニットの位置がND1’とNDTとで一致している)場合には、実機で学習して得たND1’と模擬運転により学習したNDTとは第1の類似度にあると評価する。
さらに高い精度で類似度を把握したいときは、S
k,j>Sth2となる条件でスクリーニングを行い、同様にND1’及びNDTのそれぞれにおいてスクリーニングをパスしたユニットの位置が一致している場合には、実機で学習して得たND1’と模擬運転により学習したNDTとは第2の類似度(第1の類似度よりも高い類似度)にあると評価することもできる。
【0064】
ロ)大小のプロポーションに着目した比較・照合
同様に、線形和S
k,jに着目して比較・照合する場合を以下に説明する。まず、ND1’において、同一層内で最大のS
k,j値をもつユニットを抽出する。一方で、最小のS
k,j値をもつユニットを抽出する。抽出されたユニットの位置情報(層番号k,ユニット番号j)をそれぞれ控える。NDTにおいても同様の処理を行う。
そして、抽出された最大のユニットの位置と、最小のユニットの位置が、ND1’及びNDTにおいて一致している場合には、実機で学習して得たND1’と模擬運転により学習したNDTとは第1の類似度にあると評価する。
上記は簡易的な方法であるが、更に精度を上げるべく、ND1’及びNDTのそれぞれについて、最大となるS
k,jと最小となるS
k,jとの比率を算出して、比率の乖離度によって類似度の水準を評価することもできる。
【0065】
上記イ)及びロ)では、線形和S
k,j(マップでは円形に相当。)について比較・照合を行う例を示したが、重み付け係数W
k−1,ki,j(マップでは線に相当。)についても同様の方法で比較・照合することができる。
また、比較・照合の方法、類似度の算出方法は上記に限られるものではない。
【0066】
(b)マップによる比較・照合
第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づき第1マップMAP1を作成し、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTに基づき第2マップMAP2を作成して、マップのパターン同士を比較・照合して類似度を評価することもできる。この方法による比較・照合については、[実施形態2]の項で詳細に述べる。
【0067】
(iii)類似度に応じた第1電力変換装置の動作状況の診断
上記のように、ND1’及びNDTに基づいた両ニューラル・ネットワークの比較・照合及び類似度の評価を終えた後、診断工程S320ではかかる類似度に応じて第1電力変換装置110の動作状況を診断する。
【0068】
診断される「動作状況」としては、例えば次のような観点を挙げることができる。過去に、第1電力変換装置110はどういった環境で、どのような入力及び出力が行われ、にどのようなストレスが掛かったのか。過去に、第1電力変換装置110を構成する回路群のうち主にどの部分について、ストレスが掛かって素子等の経年劣化が進んでいるのか等。
【0069】
診断工程S320における、類似度に応じた第1電力変換装置の動作状況の診断は、例えば次のように行う。
まず、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’と、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT(ND2’から取り出されてNDTとして扱われる)との間の類似度を把握する。
そして、類似度がやや高い場合、当該第1電力変換装置110は、模擬運転を行った当該試験モードに似た環境・運転条件で動作してきた可能性があるものと推定する。
また、類似度が上記よりも更に高い場合、又は、類似度が極めて高く両ニューラル・ネットワークの形がほぼ同一であると判断できる場合には、当該第1電力変換装置110は模擬運転を行った当該試験モードとほぼ同様の環境・運転条件で動作してきたものであると高い確率で推定する。
上記のように、様々な試験モードによる第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’について取り出して、実機100側の第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’との類似度を上記のように評価していきながら、最も類似度が高い第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’に対応した(模擬運転による)試験モードを特定する。このように特定されたところで、実際の第1電力変換装置110においては、該特定した試験モードと同等の環境・運転条件で動作してきたことが、相当程度の精度で推定することができる。
こうして、当該第1電力変換装置110の「動作状況」を可視化して把握し、実機毎の実情に即した診断を行うことができる。
【0070】
また、例えば、上記した「(b)経年劣化を助長させる試験モード」による第2ニューラル・ネットワーク構成データND2(後にNDTとして扱われる)を模擬運転学習ステップS200で準備した上で、実機100側の第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’と当該NDTを比較したところ、類似度が所定の水準よりも高いと判断された場合には、第1電力変換装置110のうち関係する回路、素子等の経年劣化が進んでいる兆候として捉えることもできる。こうした診断結果が出た場合には、次回の実機メンテナンスの際には第1電力変換装置110の該当する回路、素子等を中心に点検交換を行う等の予防保全を行うこともできる。
【0071】
(4)フィードバック制御ステップS500
図1及び
図2に示すように、上記評価診断ステップS300による評価診断結果を受けて、フィードバック制御ステップS500が実施される。フィードバック制御ステップS500には少なくともフィードバックデータ生成工程S510及び動作変更工程S520が含まれる。
【0072】
(i)フィードバックデータ生成工程S510
フィードバックデータ生成工程S510では、評価診断ステップS300によって得られる診断データに基づき、第1電力変換装置110に対するフィードバック制御に関するフィードバックデータを生成する(
図1、
図2等参照。)。
【0073】
「診断データ」は、上記した評価診断ステップS300を実施することにより得られるデータであって、第1電力変換装置110の動作状況についての何かしら程度を示すものであれば、連続的数値で表すことができるものであっても、段階的なもの(水準と言ってもよい)として表すことができるものであっても、如何なるものでもよい。
例えば、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’と診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTとの間の類似度の高低を「診断データ」として扱うこととしてもよい((3)(iii)類似度に応じた第1電力変換装置の動作状況の診断の段落も参照。)。
【0074】
「フィードバックデータ」は、制御対象である第1電力変換装置110(又はそれに含まれている回路、デバイス等)の動作を変更するために必要な信号であってもよいし、大小の量が把握できるデータであってもよい。
「フィードバックデータ」が信号である場合には、例えば、いわゆるenable/disableの2段階の信号でもよいし、単純にタイミングを示す信号であってもよい。また、「フィードバックデータ」が大小の量が把握できるデータである場合には、動作変更工程S520においてフィードバック制御を行う際に、目標量に対する偏差として扱うことができるデータであってもよい。このデータは、後に実施例1(
図23等。)でも例示するようにデジタルのデータが扱いやすいが、デジタルのデータに限るものではなく、アナログのデータ(例えば、電圧の大小をもって制御に付す場合など。)であってもよい。
【0075】
「診断データ」に基づいてどのように「フィードバックデータ」を生成するのかという点は、制御対象(第1電力変換装置110又はそれに含まれている回路、デバイス等)が具体的に何であるか、評価診断ステップS300で注目している第1電力変換装置110の動作状況が何であるか(具体的には、評価診断で用いた第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を作成したときどのような試験モードで模擬運転を行ったのかと関係する。)に依る。制御の目的に応じて、「診断データ」と「フィードバックデータ」との対応関係を適宜作り込むことができる。具体的な例は実施例1及び実施例2で後述する。
【0076】
(ii)動作変更工程S520
動作変更工程S520では、フィードバックデータに基づいて第1電力変換装置110の動作を変更する(
図1、
図2等参照。)。
【0077】
動作変更工程S520において動作変更される「制御対象」は、第1電力変換装置110又はそれに含まれている回路、デバイス等である。例えば、特定の機能を有する回路(コンバーター、インバーター、各種整流回路等)、第1電力変換装置110に含まれているパワーMOSFET等の能動素子等を挙げることができる。
動作変更工程S520では、かかる制御対象に対し、上記した「フィードバックデータ」に基づいて、動作の変更を掛ける制御を行う。ここでの「動作変更」には、いわゆる制御信号(制御量)を変える(例えば、パルスのDuty比を変える、印加電圧を変える、電流量を変える等。)だけでなく、オン/オフの動作タイミングを変える等による動作変更もこれに含まれる。
【0078】
以上のようにしてフィードバックデータ生成工程S510及び動作変更工程S520を実施することにより、第1電力変換装置110のフィードバック制御を行うことができる。
【0079】
なお、実施形態1における「フィードバック制御」は、広義のフィードバック制御をいう。フィードバックのタイミング、制御系の応答の速さ等の観点をとってみても様々な態様で実施形態1に適用することができる。例えば、評価診断ステップS300の結果が得られた後から動作変更工程S520が実施(つまりフィードバック制御)されるまでの間隔は、短くてもよいし(例えば、実機のメンテナンスが行われその日のうちにメンテナンスの場でフィードバック制御されてもよいし、ほぼリアルタイムでフィードバック制御されてもよい)、長くてもよい(日数をおいてでもよい)。
【0080】
2.実施形態1に係る電力変換装置の制御方法の効果
(1)実施形態1に係る電力変換装置の制御方法は、第1電力変換装置110に関係する物理量を測定して第1測定値M1を取得し、該第1測定値M1に基づいて第1ニューラル・ネットワーク構成データND1を更新することを複数回繰り返して第1学習を行う第1学習工程S120、模擬運転による第2学習が反映された第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTとして、該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT及び第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づき第1電力変換装置の動作状況を診断する診断工程S320、並びに、診断データに基づき生成したフィードバックデータに基づいて第1電力変換装置110の動作を変更する動作変更工程S520を有する。このような構成によれば、実機100の電力変換装置における過去の「動作状況」を、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’を手掛かりとして可視化して把握することができ、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’と診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTに基づいて診断することができ、かかる診断結果に基づいてフィードバックデータを生成して第1電力変換装置110の動作変更を行なうことができるため、実機毎の実情に応じて的確に電力変換装置を制御することが可能となる。
さらに、実機100の電力変換装置における過去の「動作状況」についての診断を踏まえ、動作変更工程S520を行うことにより、電力変換装置を安全に安定的に動作し続けさせることが可能となる。
【0081】
例えば、フィードバック制御の「制御対象」が電力変換装置に実装されている駆動部である場合を取り上げて以下説明する。なお、駆動部は入力パルスによって駆動され、パルスのDuty比に応じて出力されるエネルギーが変化するものとする。ここで、模擬運転学習ステップS200において、経年劣化を助長させる試験モードの下で模擬運転して第2ニューラル・ネットワーク構成データND2(後にNDTとして取り扱われる)を準備したとする。次に、評価診断ステップS300において、実機100で学習した第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’と該NDTとを比較・照合した結果、両者の類似度が所定の水準よりも高いものと把握され、このことから、当該駆動部の特定の回路部分又は駆動にかかる能動素子が経年劣化の傾向(第1の傾向)にあり、大きなエネルギーを注入した駆動をこれ以上続けたならば当該回路部分又は能動素子の経年劣化が更に進むものとの診断結果が得られたとする。これらの結果を受け、フィードバック制御ステップS500においては、ND1’とNDTとの間の類似度で表される「診断データ」に応じて、Duty比の変更分(偏差)を「フィードバックデータ」として生成し、かかる「フィードバックデータ」を加味したDuty比のパルスを駆動回路に入力させるようにして、以降の駆動を行うようにする。そうすると、当該回路部分、能動素子又はそれらによって駆動される出力段はDuty比が軽減されたパルスで駆動されるため、当該回路部分、能動素子又はそれらによって駆動される出力段に与えられるエネルギーが軽減され(いわば控えめの駆動がおこなわれることになる。)、電力変換の効率は多少落ちるものの安全な運転が維持され、回路部分又は能動素子の長寿命が促進される。こうして、実機100の電力変換装置における過去の「動作状況」についての診断を踏まえ、動作変更工程S520を行うことにより、電力変換装置を安全に安定的に動作し続けさせることが可能となる。
【0082】
特に、仕様において、ユーザーの任意の設定により、通常の電力変換を行う通常運転モードの他に、多少電力変換の効率が落ちたとしても永きに渡って安定的に動作をし続けさせる長寿命運転モード、高い効率で電力変換を行う高効率運転モードなどが設けられているような電力変換装置の製品においては、本実施形態1に係る制御方法は有用である。
【0083】
(2)また、実施形態1に係る電力変換装置の制御方法においては、ニューラル・ネットワークとして、入力層、1つ以上の中間層及び出力層を有する階層構造型のニューラル・ネットワークを用い、第1学習工程及び第2学習工程においては、誤差逆伝搬法によって第1学習及び第2学習を行う。
このように階層構造型のニューラル・ネットワークを用い、かつ誤差逆伝搬法による学習を行うことから、相互結合型などの他の型のニューラル・ネットワークを前提とした電力変換装置の制御方法よりも、ニューラル・ネットワーク構成データのサイズを比較的小さくすることができ、かつ、演算も比較的軽くすることができ、結果、多大なCPU資源を必要とせず、学習も短時間で行うことができるため、商業上/実用上有利な電力変換装置の制御方法を提供することができる。
【0084】
[実施形態2]
1.実施形態2に係る電力変換装置の制御方法
実施形態2に係る電力変換装置の制御方法は、基本的に実施形態1に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するが、診断工程S320において、ニューラル・ネットワーク構成データをマップ化して診断を行う点において実施形態1に係る電力変換装置の制御方法とは異なる。
すなわち、実施形態1に係る電力変換装置の制御方法は、
図9に示すように、診断工程S320にあっては、第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づき第1マップMAP1を作成し、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTに基づき第2マップMAP2を作成し、第1マップMAP1のパターンと第2マップMAP2のパターンとを比較又は照合してパターンの類似度を評価し、該類似度に応じて第1電力変換装置110の動作状況を診断し、それに基づいてフィードバック制御ステップS500を実施する構成となっている。
【0085】
(1)マップの表現方法
「マップ」は、ニューラル・ネットワークの状態を何等かの形で写像的にイメージとして可視化したものであり、平面的な表現であっても立体的な表現であっても構わない。以下、平面的に展開して表現されたマップを前提に説明を続ける。
例えば、上記で触れた
図6及び
図7はマップである。円形はユニットUT
kjを、円形を結ぶ線はユニット間を結ぶネットワークを、円形の大きさは当該ユニットに入力された線形和S
k,jを、線の太さは重み付け係数W
k−1,ki,jを、それぞれ表現している。なお、大きさ/太さを異ならせるのみならず、色を異ならせる、線の種類を異ならせる(点線、破線、実線、二重線等)といった表現方法を、単独で用いる又はこれらを併用することによってもマップを表現することができる。
【0086】
(2)マップを用いた診断
(i)第1マップMAP1の作成
まず、第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づき第1マップMAP1を作成する。ユニットUT
kjを配置する場合を例にとると、ND1’のデータ(S
k,j)の値の大きさに応じて円形の大きさを決め、当該円形を予め定められた当該ユニットの位置(ここでは第k層、第jの位置)に配置する。
同様に、ネットワークに対応する線を配置する場合には、ND1’のデータ(重み付け係数W
k−1,ki,j)の値の大きさに応じて図形としての線の太さを決め、当該線を予め定められた当該ネットワークの位置に配置する。
総てのユニット及びネットワークに対応して円形及び線を配置すると第1マップMAP1が完成する。
【0087】
(ii)第2マップMAP2の作成
上記した第1マップの作成要領と同様に、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTに基づき第2マップMAP2を作成する。
【0088】
(iii)第1マップMAP1と第2マップMAP2との比較・照合
ND1’及びNDTが可視化されて第1マップMAP1及び第2マップMAP2が作成されたところで、双方のマップを比較・照合し、双方のマップの形において類似した傾向がみられるかどうか検討し類似度を評価する。
【0089】
比較・照合の方法は、次の(a)〜(c)をはじめ様々な方法を採ることができる。
(a)画像処理技術(一般に製造ライン等で用いられているパターンマッチングや、顔認証等で用いられている認識技術)を用いて、第1マップMAP1と第2マップMAP2との比較・照合を行うことができる。
例えば
図10で示すように、まず、カメラで第2マップMAP2(診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データ)の画像を取り込み、取り込んだ画像データに対して二値化処理を施す(例えば
図10(a)のような二値化処理を施す。)。一方、第1マップMAP1についても同様の二値化処理を施す(
図10(b)参照。)。これら二値化処理を施した双方の画像を照合することによってパターンマッチング処理を行う。
双方の画像が一致している場合には、双方のマップは「極めて高い類似度」である(ほぼ同一)と評価する。双方の画像が完全に一致していなくても、照合の厳粛度を下げることでほぼ一致と判断できる場合がある。この場合は「比較的高い類似度」であると評価する。上記では二値化した画像のパターンマッチング処理による類似度の評価を行う例を説明したが、これに限らない。例えば、
図10に×で示したような特徴点を抽出しておき、特徴点の情報を基に双方のマップの類似度を評価することもできる。
【0090】
(b)円形の大きさについて、閾値、大小のプロポーション等に着目して双方のマップを比較・照合することができる。
カメラから円形の面積を把握し、当該面積の値に基づき[実施形態1の1.(3)(ii)(a)データの値による比較・照合]の項で説明した方法と同様に、閾値を用いた方法(上記方法と同様に当該円形の面積が所定の閾値を上回っているかどうかを判定。
図8参照。)、大小のプロポーション等に着目した方法(面積が最大の円形と最小の円形を抽出することによる判定。)によって、類似度を評価することができる(詳細は上記項を参照。)。
【0091】
(c)人間の目視によって第1マップMAP1と第2マップMAP2との比較・照合を行うことができる。一例であるが、まず双方のマップを俯瞰し、円に着目して円の大小の分布上の特徴を把握する。最大の円の位置、最小の円の位置等、大小の特徴の現れるユニットの位置に共通点があるかどうかを把握し、共通点が多い場合には双方のマップの類似度が高いと評価することができる。さらに、上記方法でも触れたように大きい円のユニットと小さい円のユニットとの大小の比率が、双方のマップにおいて近い比率となっているかどうか(比率の乖離度)によっても類似度を評価することができる。
【0092】
なお、上記では、
図10を示しながら、ユニットの大きさ(線形和の値の大きさを表す円形の大きさ)に着目して説明をしたが、ネットワークの太さ(重み付け係数の値の大きさを表す線の太さ)についても同様の方法で比較・照合を行うことができる。また、線形和の値の大きさの方はマップを用いて比較・照合し、重み付け係数の値の大きさの方はデータの値を直接用いて比較・照合するといった、方法の使い分けをしてもよい。
【0093】
(iv)MAP1単体による評価、診断
上記では、双方のマップ(MAP1及びMAP2)による評価の例を説明したが、ND1’に基づくマップMAP1単体のみを用いて実機100の動作状況を評価することもできる。
例えば、
図6(c)では、第1層(入力層)の第2ユニットUT
12の円形が大きくなっており、この第2ユニットUT
12には比較的大きな値による入力が頻繁にあったことが把握でき、この入力に対応した物理量は比較的大きな値である場合が多かったものと推定することができる。また、UT
12〜UT
23の間、UT
11〜UT
22の間では線が太くなっており、この間においては、比較的多く頻繁に信号が伝達したことが把握することができ、UT
12〜UT
23の間、UT
11〜UT
22の間には、関連性が高いものと推定することができる。
【0094】
2.実施形態2に係る電力変換装置の制御方法の効果
(1)実施形態2に係る電力変換装置の制御方法においては、第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づき第1マップMAP1を作成し、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTに基づき第2マップMAP2を作成する。このように、実際の実機100の上で学習を積み重ねた上で得られるニューラル・ネットワークの状態を、当該第1電力変換装置110の過去の「動作状況(どのように振る舞い、動作してきたのか)」の情報として写像し、「マップ」として可視化している。よって、この第1マップMAP1を見ることにより、かかる「動作状況」をイメージとして把握することができる。
【0095】
(2)また、実施形態2に係る電力変換装置の制御方法においては、第1マップのパターンと第2マップのパターンとを比較又は照合してパターンの類似度を評価し、該類似度に応じて第1電力変換装置の動作状況を診断する。
このように可視化された双方のマップのパターンを互いに比較・照合することから、マップの一致/不一致といった2値的な評価による診断だけではなく、パターンの「類似度」という2値の中間的な領域(双方のマップのパターンが同一である、及び、全く類似していない、の中間に位置する類似関係にあるもの)の評価を行うことができる。よって、2値的な断定的な故障診断ではなく、実機100においては当該試験モードと同様の環境・運転条件で動作してきた「可能性がある」、といった「傾向又は可能性の高さ」を含む情報に基づいて診断を行い、程度を加減したフィードバック制御に資することができる。
【0096】
(3)また、実施形態2に係る電力変換装置の制御方法によれば、上記したように「マップ」として可視化することから、診断工程S320をパターンマッチング等の画像処理技術によって自動化することができる。また、診断工程S320の一部を人間が目視で行うことも比較的容易となる(あたかも医師が複数のMRT画像を目視で把握して疾病の「傾向又は可能性の強さ」を診断するが如く。)。
【0097】
なお、実施形態2に係る電力変換装置の制御方法は、上記した構成以外は実施形態1に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するため、実施形態1に係る電力変換装置の制御方法が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0098】
[実施形態3]
1.実施形態3に係る電力変換装置の制御方法
実施形態3に係る電力変換装置の制御方法は、基本的に実施形態1に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するが、基準データベース構築ステップS400を有し、基準データベースに格納されているm個の第2ニューラル・ネットワーク構成データの中から、診断を行おうとする第2ニューラル・ネットワーク構成データを選出して診断に付すという点において実施形態1に係る電力変換装置の制御方法とは異なる。
すなわち、実施形態3に係る電力変換装置の制御方法は、
図11及び
図12に示すように、基準データベース構築ステップS400においては、(a)第1ニューラル・ネットワークNN1を用いて第i試験モード(iは自然数)に係る第2ニューラル・ネットワーク構成データND2の実体を生成する第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成工程S210と、(b)第1電力変換装置110と同じ構成を有する第2電力変換装置210を用いて第i試験モードによる模擬運転を行いつつ、第2電力変換装置210に関係する物理量を測定して第2測定値M2を取得し、該第2測定値M2に基づいて第i試験モードに係る第2ニューラル・ネットワーク構成データを更新することを複数回繰り返して第2学習を行う第2学習工程S420と、及び、(c)第2学習が反映された当該第i試験モードに係る第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を基準データベースに格納する基準データベース格納工程とを1つの工程ブロックとしている。そしてこれら1つの工程ブロックについて、iが1からm(mは2以上の整数)まで、iの数を増やしながらm回実行して、m個の第2ニューラル・ネットワーク構成データからなる基準データベース(
図12において基準DBと表記。)を構築する構成となっている。
また同じく
図11及び
図12に示すように、評価診断ステップS300においては、基準データベース(
図12においては基準DBと表記。)に格納されているm個の第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’の中から、評価診断を行う試験モードに対応するニューラル・ネットワーク構成データを診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTとして少なくともいずれか1つを選出する診断テンプレート選出工程S310を実施し、その後は、実施形態1に係る電力変換装置の制御方法と同様に、該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT及び第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づき第1電力変換装置110の動作状況を診断する診断工程S320を実施するものとなっている。
【0099】
実施形態3に係る電力変換装置の制御方法においては、様々なバリエーションによる条件《第i試験モード(iは1からmまでの2以上の整数)》の下で模擬運転を行うことにより、m個の第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を取り揃える。
試験モードのバリエーションとしては、診断したい内容や意図に応じて、[実施形態1の1.(2)(iii)第2学習工程S220]の項で触れたように、(a)第2電力変換装置210に対してストレスを掛ける試験モード、(b)経年劣化を助長させる試験モード、(c)通常の運転条件の試験モード等を適宜設定することができる。
【0100】
基準データベース(基準DB)は、m種類の第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を格納し、それらを適宜選出(選択)して個別にデータを取り出すことができればいかなる構成であってもよい。例えば、第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’
iを個々にレコードとして格納することができ、それらのレコードをポインタ(ptr)によってリスト管理するようなデータ構造を採ることもできる(
図13参照。)。
【0101】
2.実施形態3に係る電力変換装置の制御方法の効果
実施形態3に係る電力変換装置の制御方法方法は、基本的に実施形態1に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するため、実施形態1に係る電力変換装置の制御方法が有する効果と同様の効果を有する。
これに加え、実施形態3に係る電力変換装置の制御方法は「第1電力変換装置・・に関係する物理量を測定して・・第1ニューラル・ネットワーク構成データを更新する・・実機学習ステップ、第i試験モードによる模擬運転を行いつつ・・第2学習を行う第2学習工程・・をiの数を増やしながらm回実行して・・基準データベースを構築する基準データベース構築ステップ、基準データベースに格納されているm個の第2ニューラル・ネットワーク構成データの中から、評価診断を行う試験モードに対応するニューラル・ネットワーク構成データを診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データとして少なくともいずれか1つを選出する診断テンプレート選出工程と、該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データ及び第1学習が反映された第1ニューラル・ネットワーク構成データに基づき前記第1電力変換装置の動作状況を診断する診断工程と、を含む評価診断ステップ、及び、診断データに基づき生成したフィードバックデータに基づいて第1電力変換装置の動作を変更する動作変更工程」を有する。
このような構成によれば、様々な試験モードの模擬運転の下で、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データの候補となる多くの第2ニューラル・ネットワーク構成データをデータベースとして取り揃えることができる。そして、データベースに格納された多くの可能性のある選択肢(m個の第2ニューラル・ネットワーク構成データ)の中から、診断対象となる実機の電力変換装置の動作状況により類似した(合致した)第1ニューラル・ネットワーク構成データを探し当てることができる。こうすることで、より的確な、より精度の高い診断を行うことができ、ひいては、第1電力変換装置の動作状況に応じたより的確な制御を行うことができる。
【0102】
なお、
図14に示すように、m個の第2ニューラル・ネットワーク構成データND2
iをそれぞれ診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT
iとし、それぞれの診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT
iと第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’とに基づいて、それぞれの診断プレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT
iと第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’とに基づくニューラル・ネットワークの類似度をそれぞれ評価し、該評価したm個の類似度を参照して総合的に評価診断を行うこととしてもよい。
【0103】
また、
図12及び
図14においてはマップを用いて診断を行う様子は記載されていないが、実施形態3においても、第1学習が反映された前記第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’に基づく第1マップMAP1及び、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTに基づく第2マップMAP2を用いた診断を同様に適用することができ、この場合、実施形態2に係る電力変換装置の制御方法が有する効果と同様の効果を有する。
【0104】
[実施形態4]
実施形態4に係る電力変換装置の制御方法は、基本的に実施形態3に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するが、基準データベースに格納されているm個の第2ニューラル・ネットワーク構成データの中から、当該診断により適切な第2ニューラル・ネットワーク構成データを更にn個に絞り込む点において実施形態3に係る電力変換装置の制御方法とは異なる。
すなわち、実施形態4に係る電力変換装置の制御方法は、
図15に示すように、評価診断ステップS300にあっては、実施形態3に記載の診断テンプレート選出工程S310に替えて、基準データベースに格納されているm個の第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’のうち当該診断にふさわしい第2ニューラル・ネットワーク構成データをn個選出し(nは2以上の整数、かつ、n≦m)、該n個の第2ニューラル・ネットワーク構成データの中から、評価診断を行う試験モードに対応するニューラル・ネットワーク構成データを診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDTとして少なくともいずれか1つを選出する第2の診断テンプレート選出工程S315(図示せず。)を含む構成となっている。
【0105】
例えば、第1電力変換装置110が主に特定の季節に使用される傾向があることが分っている場合には、基準データベースに格納されているm個の第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’のうち、診断する季節に適したニューラル・ネットワーク構成データ群をn個選出したうえで、診断工程S320に付すことができる。
事前に、基準データベース構築ステップS400において、夏用、冬用及び春秋用の第2ニューラル・ネットワーク構成データ群をそれぞれ準備しておき、第2の診断テンプレート選出工程S315においては、診断する「季節」に合致した第2ニューラル・ネットワーク構成データ群のみをn個選出する。こうすることで、総ての季節のデータを含むm個の総てのパターンについて比較・照合して診断を行うよりも、より効率的な診断を行うことができる。また、診断に係る季節にふさわしい第2ニューラル・ネットワーク構成データを選出して絞り込むため、より的確な診断を行うことができ、より精度の高い診断を行うことができ、ひいては、第1電力変換装置の動作状況に応じたより的確な制御を行うことができる。
【0106】
さらに、同様に、第1電力変換装置110に接続される負荷が特定の電気設備、電気製品(例えば、暖房器具といったように)であることが分っている場合には、負荷の種類(上記例では暖房器具)に応じたn個の第2ニューラル・ネットワーク構成データ群を選出して診断することもできる。
こうすることで、上記例では総ての種類の負荷についてm個の総てのパターンについて当たって診断を行うよりも、より効率的な診断を行うことができる。上記例で述べると、接続される負荷の種類によって第1電力変換装置110の事情(動作状況)は異なってくることから、実施形態4に係る電力変換装置の診断方法によれば、診断に係る装置にふさわしい第2ニューラル・ネットワーク構成データを選出して絞り込むことにより、より的確な診断を行うことができ、第1電力変換装置の動作状況に応じたより的確な制御を行うことができる。
【0107】
なお、上記では診断を行う「季節」が何時かとの観点で第2ニューラル・ネットワーク構成データ群を選出する例を説明したが、実機100側においても、各季節毎にそれぞれ第1ニューラル・ネットワーク構成データND1を生成して保持しておき、診断を行う季節に応じた第1ニューラル・ネットワーク構成データと、季節に応じたn個の第2ニューラル・ネットワーク構成データ群とに基づいて診断を行うようにしてもよい。
また、上記例の負荷の種類に応じた診断では、一の基準データベース内に、異なる負荷の種類に対応する第2ニューラル・ネットワーク構成データ群がそれぞれ含まれている場合を想定して説明したが、異なる負荷の種類毎に別々に基準データベースを構築してもよい。
【0108】
実施形態4に係る電力変換装置の制御方法によれば、m個の第2ニューラル・ネットワーク構成データを診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データとしてn個選出して、診断テンプレートの数を絞り込むことから、m個の総てのパターンについて当たる診断を行うよりも、より効率的な診断を行うことができる。また、診断にふさわしい第2ニューラル・ネットワーク構成データを選出して絞り込むため、より的確な診断を行うことができ、第1電力変換装置の動作状況に応じたより的確な制御を行うことができる。
【0109】
なお、実施形態4に電力変換装置の制御方法によれば、上記した構成以外は実施形態3に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するため、実施形態3に係る電力変換装置の制御方法が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0110】
[実施形態5]
実施形態5に係る電力変換装置の制御方法は、基本的に実施形態1に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するが、同一の実機100における異なる時点での第1ニューラル・ネットワーク構成データ(ND11’及びND12’)をそれぞれ取得して診断を行う点において実施形態1に係る電力変換装置の制御方法とは異なる。
すなわち、実施形態5に係る電力変換装置の制御方法は、
図16に示すように、実機学習ステップS100にあっては、実機100における第1学習が進んだ第1時刻t1における第1ニューラル・ネットワーク構成データND11’を取得して時間情報に関連付けながら保持し、実機100における第1学習が更に進んだ、第1時刻t1よりも後の第2時刻t2における第1ニューラル・ネットワーク構成データND12’を取得して時間情報に関連付けながら保持し、評価診断ステップS300にあっては、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT、第1時刻における第1ニューラル・ネットワーク構成データND11’、及び、第2時刻における第1ニューラル・ネットワーク構成データND12’に基づき第1電力変換装置110の動作状況を診断し、それに基づいてフィードバック制御ステップS500を実施する構成となっている。
【0111】
実施形態5に係る電力変換装置の制御方法は、実機100の定期メンテナンス等などなど定期的に第1電力変換装置110を診断し、実機の電力変換装置における過去の「動作状況」についての診断を踏まえ、電力変換装置を安全に安定的に動作し続けさせるようなフィードバック制御を行いたい場合に特に有用である。
例えば、第1時刻t1における第1ニューラル・ネットワーク構成データND11’と、第2時刻t2における第1ニューラル・ネットワーク構成データND12’とのそれぞれの状態(形)を比較し、ND11’に対してND12’が大きく変化したことが検出された場合には、何かしらの変動があったものとの推測の下、ニューラル・ネットワークの変化した形、変化した箇所(ユニット、ネットワーク)、変化の度合いに応じてフィードバックデータを生成することにより、第1電力変換装置の動作状況に応じたより的確な制御を行うことができる。
【0112】
また、第2時刻t2における第1ニューラル・ネットワーク構成データND12’の状態(形)が、何れかの第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’の状態(形)と相似していると認識できる場合には、ND11’、ND12’及び当該ND2’の3つのニューラル・ネットワーク構成データを互いに比較することで、経年変化に向かう進行度合いを推測することができ、またそれらの予兆を捉えることができる。
すなわち、ND11’とND12’との間の類似度をS1、ND12’とND2’との類似度をS2としたとき、S2>S1のときには、ND2’を取得する際に模擬運転した試験モードに対応した経年変化が進んでおり、次回の定期メンテナンスまでに予防保全が必要であると診断することもできる。また、S1及びS2の相対的な大小関係を評価することにより、当該経年変化の進行度合い(あまり進行していない、急激に進行した等。)を診断し、それに基づいた適切なフィードバック制御を行うこともできる。
【0113】
実施形態5に係る電力変換装置の診断方法によれば、診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データNDT、第1時刻t1における第1ニューラル・ネットワーク構成データND11’、及び、第2時刻t2における第1ニューラル・ネットワーク構成データND12’に基づき第1電力変換装置110の動作状況を診断すること、換言すると、同一実機における異なる時期のニューラル・ネットワークを時系列の変化を捉えて比較・照合して診断することにより、第1電力変換装置110を構成する部分の経年変化の進行度合いを推測することができ、それに基づいた適切なフィードバック制御を行うことができる。
【0114】
なお、実施形態5に電力変換装置の制御方法は、上記した構成以外は実施形態1に係る電力変換装置の制御方法と同様の構成を有するため、実施形態1に係る電力変換装置の制御方法が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0115】
なお、
図16においてはマップを用いて診断を行う様子、及び基準データベースを用いて診断を行う様子は記載されていない。しかし、実施形態5においても、マップを用いた診断、並びに、実施形態3及び実施形態4における基準データベースを用いた診断を同様に適用することができ、実施形態2〜4に係る電力変換装置の制御方法が有する効果と同様の効果を有する。
【0116】
[実施形態6]
本発明に係る電力変換装置の制御方法を実施するシステムの一例を、以下、実施形態6として説明する。
【0117】
本発明に係る電力変換装置の制御方法を実施するための電力変換装置の制御システムは、
図17に示すように、実機100に含まれる第1電力変換装置110の動作状況について、ニューラル・ネットワークを用いて診断を行う電力変換装置診断システムであって、(i)第1電力変換装置110、(ii)第1ニューラル・ネットワークを用いて第1ニューラル・ネットワーク構成データの実体を生成する第1ニューラル・ネットワーク構成データ生成部と、第1電力変換装置に関係する物理量を測定して第1測定値を取得し、該第1測定値に基づいて第1ニューラル・ネットワーク構成データを更新することを複数回繰り返して第1学習を行う第1学習部とを含む第1学習装置120、及び(iii)外部と少なくとも第1ニューラル・ネットワーク構成データについて通信する通信装置180、をそれぞれ有する実機100と、(iv)第1電力変換装置110と同じ構成を有する第2電力変換装置210、並びに、(v)(a)第1ニューラル・ネットワークを用いて第i試験モード(iは自然数)に係る第2ニューラル・ネットワーク構成データの実体を生成する第2ニューラル・ネットワーク構成データ生成部と、(b)第2電力変換装置を用いて第i試験モードによる模擬運転を行いつつ、第2電力変換装置210に関係する物理量を測定して第2測定値を取得し、該第2測定値に基づいて第i試験モードに係る第2ニューラル・ネットワーク構成データを更新することを複数回繰り返して第2学習を行う第2学習部(
図17においては第2学習装置220で示す。)と、及び、(c)第2学習が反映された当該第i試験モードに係る第2ニューラル・ネットワーク構成データを基準データベース(基準DB)に格納する基準データベース格納部(図示せず。)とを、iが1からm(mは2以上の整数)まで、iの数を増やしながらm回実行して、m個の第2ニューラル・ネットワーク構成データからなる基準データベース(基準DB)を構築する基準データベース構築部(図示せず。)と、をそれぞれ有する模擬運転装置200と、(vi)基準データベースに格納されているm個の第2ニューラル・ネットワーク構成データの中から、評価診断を行う試験モードに対応するニューラル・ネットワーク構成データを診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データとして少なくともいずれか1つを選出する基準データベースアクセス部320、(vii)外部と少なくとも第1ニューラル・ネットワーク構成データについて通信する通信部310、(viii)該診断テンプレートに係るニューラル・ネットワーク構成データ及び第1学習が反映された前記第1ニューラル・ネットワーク構成データに基づき第1電力変換装置の動作状況を診断する診断部330、(ix)診断部330によって得られる診断データに基づき、第1電力変換装置110に対するフィードバック制御に関するフィードバックデータを生成するフィードバックデータ生成部350、及び、(x)少なくとも該フィードバックデータを外部に送信する第2通信部315、をそれぞれ有する評価診断装置300と、を備え、実機100においては、更に、(xi)少なくとも評価診断装置300の第2通信部315から送信されるフィードバックデータを受信する第2通信部185と、(xii)該受信したフィードバックデータに基づいて第1電力変換装置110の動作を変更する動作変更部150を有する電力変換装置制御システムである。
【0118】
評価診断装置300は、例えばPCによって実現してもよい。また、模擬運転装置の一部となっている基準データベース(基準DB)は、PCの上に構築してもよい。
【0119】
また、実機100と評価診断装置300との間の第1ニューラル・ネットワーク構成データ、フィードバックデータ等の情報のやり取りは、双方の間の直接通信によるものでもよいし、
図17に示すように、中継機器400を介する通信によってもよい。また、専用回線による通信であってもよいし、
図17においてCMMで示すようにクラウドによるものであってもよい。また、無線によるものであっても有線によるものであってもよい。また、CD−ROM等のメディアを介するやり取りであってもよい。
【0120】
さらにまた、模擬運転装置200、評価診断装置300及び基準データベースは、電力変換装置メーカー側に設けられてもよい。電力変換装置メーカー側で模擬運転及び評価診断を行うことにより、メンテナンスや予防保全に資するフィードバック制御のために必要な詳細な情報を入手することができ、柔軟性に富んだサービスを顧客に提供することができる。
【0121】
[実施例1]
(実機側の構成)
図18(a)に示すように、第1電力変換装置110としてバッテリーバックアップ電源装置を用い、当該第1電力変換装置110に対し所定の商用電源、バッテリー及BATび負荷Lを接続し、これら全体を実機100として本発明を実施した。
実施例1に用いる第1電力変換装置110は、コンセントCNT1、コンセントCNT2、端子T1、端子T2及び端子T3を備える。また、当該第1電力変換装置110は、交流電源と直流電源との間で相互に電力の変換を行う双方向変換部116、当該双方変換部116の制御を始めとして第1電力変換装置110全体の制御を行いつつ、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1、実機学習ステップを実行するためのプログラム等を保持し、当該プログラムを実行するマイコン部112、測定される物理量として外部から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D部114、外部との間で通信等を行う外部インターフェース部(外部I/F部115)、並びに、商用電源と負荷Lと双方向変換部116との間の接続/非接続を制御するスイッチS1及びスイッチS2を備える。
双方向変換部116は、交流電源を直流電源に変換しバッテリーBATを充電する電力を供給するコンバーター回路113a、直流電源を交流電源に変換しバッテリーLから放電された電力を負荷Lに供給するインバーター回路113b、並びに、スイッチS1及びスイッチS2の間のノードとコンバーター回路113a又はインバーター回路113bとの間を選択的に接続するスイッチS3を有する。
コンバーター回路113aは、
図18(b)に示すように、トランスTR1の一次側に接続された複数の能動素子(パワーMOSFET、IGBT等)117a〜117dからなる駆動部117と、マイコン部112からの信号に基づいて駆動部117の複数の能動素子(117a〜117d)のゲートにパルス状の制御信号を与える電力制御部111と、トランスTR1の二次側に接続された複数のダイオード(D1〜D4)からなるブリッジ回路と、該ダイオードブリッジ回路に接続されたコイルL1及びキャパシタC1からなる平滑回路とを有する。トランスTR1、ブリッジ回路及び平滑回路は、駆動部117の後段を構成する。
別の観点で説明すると、第1電力変換装置110は、
図19及び
図20の機能ブロック図に示すように、マイコン部112に実装されたフィードバックデータ生成部350及び動作変更部150、並びにコンバーター回路113aに実装された電力制御部111及び駆動部117を備える。電力制御部111はPWM(Pulse Width Modulation)に用いるパルスを発生するための回路(例えば、三角波発生回路、Vref発生回路、比較器等によって構成される。)を有し、駆動部117は、PWMパルス発生部から出力されたパルスによって駆動され、後段に出力されるエネルギーがパルスのDuty比に応じて変化するよう構成されている。
実施例1では、CNT1に商用電源(AC100V、単相)を、CNT2に所定の負荷(電気製品)を、T1には所定のバッテリーBATを、T2には該バッテリーBATの近傍にセンサー部を配置した温度検出器THを、それぞれ接続した。
【0122】
(第1ニューラル・ネットワーク)
第1ニューラル・ネットワークNN1は、
図21に示すような、入力層(5個のユニット)、2個の中間層(それぞれ4個のユニット)、及び出力層(2個のユニット)からなる階層構造を基本アーキテクチャとし、バッテリーBATの電圧及び電流、負荷Lの電圧及び電流、並びに、バッテリーBATの温度を入力因子とするユニットによって入力層を構成し、かつ、バッテリーBATの放電時間及び充電時間を出力因子とするユニットによって出力層を構成した。伝達関数はシグモイド関数を用いた。
【0123】
第1電力変換装置110に関係する物理量として、上記入力因子及び出力因子に対応して、バッテリーBATの電圧及び電流、負荷Lの電圧及び電流、バッテリーBATの温度、並びに、バッテリーBATの放電時間及び充電時間を採用した。このうち、バッテリーBATの電圧及び電流、負荷Lの電圧及び電流、並びにバッテリーBATの温度の物理量は実際に測定して得た値を「第1測定値」とし、また、バッテリーBATの放電時間及び充電時間はマイコンのプログラムが把握している放電時間及び充電時間を「第1測定値」とみなし、これらの「第1測定値」を正規化した上で第1ニューラル・ネットワークNN1に適用した。
【0124】
(第1学習)
第1ニューラル・ネットワーク構成データND1は、上記基本アーキテクチャに対応したデータ構造として定義して、マイコン部112の上のソフトウェアとして実装した(図示せず。)。同様に、実機学習ステップS100を実施するためのアルゴリズムを含むプログラムをマイコン部112の上のソフトウェアとして実装した(図示せず。)。学習は、バッテリーBATの充電時間及び放電時間を教師信号とした誤差逆伝搬法を用いて行った。
【0125】
実機100において、夏季の酷暑の環境下において負荷(電気製品)の連続運転をさせつつ、所定の期間(少なくとも1週間以上の間)バッテリーに電力が充電されるタイミング及び逆にバッテリーから電力が放電されるタイミングで第1学習を行い、第1ニューラル・ネットワーク構成データND1’を得た。
【0126】
(模擬運転装置側の構成)
一方、模擬運転装置側には、第1電力変換装置110と同じ構成を有する第2電力変換装置210を用いた(図示しない。)。実機100側と同様に、第1ニューラル・ネットワークNN1の基本アーキテクチャに基づいた第2ニューラル・ネットワーク構成データND2と、基準データベース構築ステップS400を実施するためのアルゴリズムを含むプログラムを第2電力変換装置210に搭載されたマイコン部の上のソフトウェアとして実装した。学習は第1学習と同様の手法で行った。
また、第2電力変換装置210に対して実際の実機100と同様な運転環境、入出力等を提供することができる模擬環境提供治具(図示しない。)を用いた。模擬環境提供治具は、バッテリーBAT及び負荷Lに対し、充電及び放電を繰り返しできるような回路で構成し、また、バッテリーBATの条件は直流電源(図示しない。)などを使用して変動できるようにした。
【0127】
次の各試験モードの下で模擬運転を行ってそれぞれ第2学習を行い、第2学習が反映された複数の第2ニューラル・ネットワーク構成データND2’を得て基準データベースを構築した。
(第1試験モード)経年劣化を助長させる試験モード
環境温度を規格一杯の高温に設定し、入出力に対し電圧及び電流を規格の幅一杯に振って入出力させた。
(第2試験モード)通常の運転条件による運転を行ったと仮定した試験モード
【0128】
(評価診断)
実機100における実機学習ステップS100によって形成された第1ニューラル・ネットワークのマップの形は、
図22(a)に示すようなMAP1となった。
一方、模擬運転装置200における模擬運転学習ステップS200によって形成された第1試験モード及び第2試験モードに対応した第2ニューラル・ネットワークのマップの形は、それぞれ、
図21(b)及び
図21(c)に示すようなMAP21及びMAP22となった。
【0129】
実機100側の第1マップMAP1では入力層5番目のユニットが相対的に大きく、他のユニットは相対的に小さい。一方で、MAP22の形はMAP1と然程類似していない。一方、MAP21の形は、MAP1と「第1の類似度」の水準で類似をしている。こうして、評価診断ステップS300によって、MAP1はMAP21と水準「第1の類似度」で類似している、という「診断データ」が得られた。
【0130】
(フィードバック制御)
図23に、実施例1のフィードバックデータ生成工程S510で用いる診断データ〜フィードバックデータの変換テーブルを示す。テーブルでは、評価診断ステップS300の結果である類似度が水準として区分され、それに対応するように、第1電力変換装置110の動作に関するフィードバックデータ(具体的にはPWMパルスのDuty比の偏差。)が設定されている。
ここで、実施例1の例では、上記したように診断データは「第1の類似度」であることから、テーブル上の診断データに対応するフィードバックデータは「5%」である。こうして、評価診断ステップS300によって得られる診断データ「第1の類似度」に基づき、第1電力変換装置110に対するフィードバック制御に関するフィードバックデータ「5%」が生成された。
【0131】
次に、動作変更工程S520における、第1電力変換装置110の動作の変更について説明する。
図19に示すように、動作変更部150は、PWMパルスの標準のDuty比のデータと、フィードバックデータ(いわゆる偏差)とが入力され、それらが加味されたいわゆる制御信号が出力される構成となっている。ここで、標準のDuty比のデータは50%であり、上記したとおりフィードバックデータは5%であるから、これらのデータが動作変更部150に入力されて加味された結果、動作変更部150よりDuty比45%が出力された。すると、それまでDuty比50%のPWMパルスにより駆動されていた電力制御部、駆動部及び後段は、当該動作変更工程S520を実行することにより、Duty比45%のPWMパルスによる駆動に動作変更がされた。こうして、フィードバックデータに基づいてDuty比を下げるような駆動を行うように第1電力変換装置110の動作変更が行われた。
このようにして、動作変更工程S520を実施する前に比べて、後段に与えられるエネルギーが軽減された。
【0132】
(作用・効果)
以上の実施例1からも分るように、本発明の電力変換装置の制御方法においては、第1電力変換装置110に、能動素子が実装された駆動部117が含まれている場合であって、評価診断ステップS300で、駆動部117に関する診断結果が、第1の傾向があるものと診断された場合には(例えば駆動部117に関係する回路(後段)、又は、駆動部117に含まれる能動素子117a〜117dにおいて経年劣化が進んでいる傾向があると診断された場合には)、フィードバック制御ステップS500の動作変更工程S520で、能動素子を駆動するパルス(PWMパルス)のデューティー比を下げることにより第1電力変換装置110の動作を変更した。
これにより、駆動部117駆動部117それ以降、PWMパルスのDuty比を50%で引き続き駆動するのではなく、Duty比を45%に抑えた駆動に動作変更することにより、駆動部117に関係する回路(後段)、又は、駆動部117に含まれる能動素子117a〜117dに与えられるエネルギーが軽減され(いわば控えめの駆動がおこなわれることになる。)、電力変換の効率は多少落ちるものの安全な運転が維持され、上記した回路又は能動素子の長寿命が促進される。こうして、実機100の電力変換装置における過去の「動作状況」についての診断を踏まえ、動作変更工程S520を行うことにより、電力変換装置を安全に安定的に動作し続けさせることが可能となることを確認した。
【0133】
[実施例2]
(模擬運転装置側の構成)
実施例2は、基本的には実施例1と同様の構成により実施したが、模擬運転学習ステップS200における模擬運転を実施例1とは異なる第3試験モードで行い、フィードバック制御ステップS500においてPWMパルスのデューティー比を上げる制御を行った点が異なる。
【0134】
第3試験モードは、駆動部117が外部に与えるエネルギーの伝達効率が低下していくような状況を提供する試験モードである。具体的には、例えば、駆動部117に関係する回路(後段)、又は、駆動部117に含まれる能動素子117a〜117dの内部インピーダンスの上昇、能動素子の出力波形の立上り/立下りが鈍る等の状況を提供する試験モードである。模擬運転装置200における第3試験モードに対応したニューラル・ネットワークのマップMAP23は、
図24B(b)に示す形となった。
【0135】
(評価診断)
実機100におけるニューラル・ネットワークのマップMAP1が
図24(a)となったところ、MAP1はMAP23と比較的類似していると把握された。よって、駆動部117が外部に与えるエネルギーの伝達効率が低下している傾向がある(第2の傾向)ものと評価された。その類似度は所定の水準となっており、当該類似度に応じて所定の「診断データ」を得た(図示しない。)。
【0136】
(フィードバック制御)
実施例2における診断データ〜フィードバックデータの変換テーブルは、類似度が上がるにつれてPWMパルスのDuty比を上げる方向の数字となるようなDuty比の偏差を設定したテーブルを準備した(図示しない。)。
ここで、実機100のニューラル・ネットワークのマップMAP1の形が、第3試験モードによるMAP24と所定の類似度である場合に、上記変換テーブルで定められた偏差をもってPWM用パルスのDuty比を上げて、電力制御部113、駆動部117及び後段を駆動した。
【0137】
以上の実施例2からも分るように、本発明の電力変換装置の制御方法においては、第1電力変換装置110に、能動素子が実装された駆動部117が含まれている場合であって、評価診断ステップS300で、駆動部117に関する診断結果が、第2の傾向があるものと診断された場合には(例えば駆動部117が外部に与えるエネルギーの伝達効率が低下している傾向があると診断された場合には)、フィードバック制御ステップS500の動作変更工程S520で、能動素子を駆動するパルス(PWMパルス)のデューティー比を上げることにより第1電力変換装置110の動作を変更した。
例えば、ユーザーの任意の設定により、通常よりも高い効率で電力変換を行う高効率運転モードが許容されている場合であって、駆動部117の接続先のパワーを維持することの方がより安全に安定的な動作につながるようなシステム仕様の場合、実施例2に従って実機100の電力変換装置における過去の「動作状況」についての診断を踏まえ、動作変更工程S520を行うことにより、電力変換装置を含む実機を安全に安定的に動作し続けさせることが可能となることを確認した。
【0138】
以上、本発明を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0139】
(1)実施形態1〜6において記載した適用対象、構成要素の実現の仕方、学習又は診断が実施される場所、学習回数等の数、
図23のテーブルにおける診断データの水準の区分の仕方及び該区分に対応したPWMパルスのDuty比の偏差の設定の仕方、等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0140】
(2)実施例1及び実施例2においては、Duty比を下げる又は上げることでフィードバック制御を行ったがこれに限られるものではない。例えば電流制限用の抵抗又はインピーダンスの値を変更することでフィードバック制御を行ってもよい。
【0141】
(3)実施形態1〜6並びに実施例1及び実施例2においては、実機100の電力変換装置における過去の「動作状況」についての診断を踏まえ、例えばPWMパルスのDuty比を変更する等に動作変更工程S520を行うことによりフィードバック制御を行ったが、かかる制御を行うことにより、例えば駆動部117に関係する回路(後段)、又は、駆動部117に含まれる能動素子の状態が回復することも考えられる。そのような状況で、次の回の診断において第1の傾向又は第2の傾向(上記では、経年劣化が進んでいる傾向、駆動部117が外部に与えるエネルギーの伝達効率が低下している傾向等)が解消されたと診断された場合には、PWMパルスのDuty比を依然の比に戻すという制御を行ってもよい。
【0142】
(4)実施形態1〜6においては、第1ニューラル・ネットワークの入力因子又は出力因子として、バッテリー及び負荷に関係する諸物理量を念頭に置いて説明をしてきたが、これに限られるものではない。これらとは異なる物理量を入力因子又は出力因子として適用することもできる。また、各実施形態で説明した第1ニューラル・ネットワークとは異なる基本アーキテクチャを用いることもできる。
【0143】
(5)実施形態1〜6において、実機学習ステップが実行されるソフトウェアは、第1電力変換装置110の内部に搭載されたマイコンのCPU上に実装されている構成を念頭に置いて説明してきたが、これに限られるものではない。実機100又は第1電力変換装置110の運転に合わせて適宜第1学習が行われるものであれば、当該ソフトウェアは、第1電力変換装置110の内部ではなく、その外部のコンピューター上に実装されてもよい。例えば、実機100に設けられた別のコンピューター上に実装されているものでもよいし、実機100の外部に設けられたコンピューター上に実装されているものでもよい。このように外部に設けられたコンピューターが実機学習ステップの実行を行うことにより電力変換装置110に搭載されたマイコンの処理負担を軽減することができる。
【0144】
(6)実施形態1〜6において、第1学習工程S120を行うタイミングとして、バッテリーに電力が充電されるタイミング、逆にバッテリーから電力が放電されるタイミングを例に挙げて説明してきたが、これに限られるものではない。接続した負荷(電気設備、電気製品等)への電源投入、電源断のタイミングなどに特に集中的に学習を行うこともできる。これらのタイミングは、電力変換装置を構成する各種回路にストレスが掛かるタイミングであることから効果的な学習が期待できる。
【0145】
(7)実施形態1〜6において電力変換装置110は、家庭用蓄電池システム、非常用電源、パワーコンディショナー等を念頭に置いて説明をしたが、これらに限られるものではない。実施形態1〜6に係る電力変換装置の診断方法は、産業用、家庭用、運輸用等の電力変換装置の全般に適用することができる。