特許第6570000号(P6570000)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6570000キャリア物質、これを用いる海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570000
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】キャリア物質、これを用いる海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   E21C50/00
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-1227(P2018-1227)
(22)【出願日】2018年1月9日
(65)【公開番号】特開2019-120063(P2019-120063A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2018年3月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】大林 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 肇一
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−052491(JP,A)
【文献】 特開2003−214082(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/038148(WO,A1)
【文献】 特開2015−086535(JP,A)
【文献】 特開2015−001099(JP,A)
【文献】 特開2003−269070(JP,A)
【文献】 特開2012−193578(JP,A)
【文献】 国際公開第91/010808(WO,A1)
【文献】 特開平02−229390(JP,A)
【文献】 特開2000−248874(JP,A)
【文献】 特開昭52−088501(JP,A)
【文献】 米国特許第08783364(US,B2)
【文献】 特開2017−071673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 25/00−37/26
E21C 45/00−45/08
E21C 50/00−50/02
E21B 1/00−19/24
E21B 44/00−44/10
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B65G 47/80
B65G 47/84−47/86
B65G 47/90−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底有価物質の揚鉱に使用するものであり、平均粒径が0.01mm〜10mm、真密度が0.01〜8g/cm粒状体と、粘性流動体の混合物であり、該粒状体は、海底有価物質以外のもので、使用前に予め粘性流動体に混合されることを特徴とするキャリア物質。
【請求項2】
該粘性流動体は、5℃における粘度が1,000mPa・s以上であることを特徴とする請求項1記載のキャリア物質。
【請求項3】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路内、上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路内、又は内管が上昇管、外管が下降管であるか又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる二重管の管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、平均粒径が0.01mm〜10mm、真密度が0.01〜8g/cm粒状体と、粘性流動体の混合物であり、該粒状体は、海底有価物質以外のもので、使用前に予め粘性流動体に混合されることを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法。
【請求項4】
該粘性流動体は、5℃における粘度が1,000mPa・s以上であることを特徴とする請求項記載の海底有価物質の揚鉱方法。
【請求項5】
環状の管路を用いる揚鉱方法であって、該海底有価物質を含むキャリア物質は、海上側の管路外に取り出し、該キャリア物質から該海底有価物質を分離することを特徴とする請求項3又は4に記載の揚鉱方法。
【請求項6】
U字状の管路を用いる揚鉱方法であって、海上において、該海底有価物質を回収した後のキャリア物質は、組成調整された後、該下降管に戻されることを特徴とする請求項3又は4に記載の揚鉱方法。
【請求項7】
下降管の長さを上昇管の長さより大とし、該上昇管に満たされたキャリア物質のヘッドより、該下降管に満たされたキャリア物質のヘッドを大とすることを特徴とする請求項記載の揚鉱方法。
【請求項8】
海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路、又は内管が上昇管、外管が下降管であるか又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる二重管と、
該環状の管路内、該U字状、又は該二重管の管路内に充填されるキャリア物質と、
該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、
該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、
該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、該キャリア物質は、平均粒径が0.01mm〜10mm、真密度が0.01〜8g/cm粒状体と、粘性流動体の混合物であり、該粒状体は、海底有価物質以外のもので、使用前に予め粘性流動体に混合されること特徴とする海底有価物質の揚鉱装置。
【請求項9】
海上側に設けられた分離装置を更に有することを特徴とする請求項8に記載の揚鉱装置。
【請求項10】
U字状の管路を備える揚鉱装置であって、海底有価物質を分離回収した後のキャリア物質を組成調整する組成調整装置を、海上側に設置することを特徴とする請求項記載の揚鉱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底鉱物資源である有価物質を海上に輸送、運搬するキャリア物質、これを用いる揚鉱方法及び揚鉱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底鉱物資源等の有価物質を海上に輸送、運搬する揚鉱方法及び揚鉱装置としては、種々の技術が開示されている。特開2003−269070号公報には、一方が下降管、他方が上昇管となるU字管を海底から海面にかけて鉛直保持し、上昇管の上端開口から下降管の上端開口に海水を輸送するとU字管内で海水が循環流動し、深海底で採掘された鉱物塊を上昇管の底部に送り込むと、上昇管を上昇する海水に載って鉱物塊が海面に浮上することが開示されている。この方法によれば、鉱物塊の浮上に要する駆動力は、上昇管の上端開口から送り出された海水を下降管の上端開口に搬送するポンプの推力だけでよいため、設備構成が大幅に簡略化され、揚鉱作業自体も容易となる。
【0003】
特開2005−255391号公報には、ガスハイドレードペレット等の粒状の被搬送物をスラリー母液によって流動化しながら搬送するスラリー搬送システムであって、粒状体にスラリー母液を投入し、それを流動化させ、管路内を流れるスラリー母液に合流させて搬送する方法が開示されている。この方法によれば、被搬送物をスラリー輸送する管路やポンプの閉塞を回避する。
【0004】
特開2011−196047号公報には、海上に配置される揚鉱基地と、揚鉱基地から海底まで配設され、海底で採掘された有価物を含む海底海水を揚鉱基地に移送する揚鉱用の移送管と、有価物と海底海水を分離するセパレータと、揚鉱基地から海底まで配設され、有価物が分離された海水を海底に戻す循環用の移送管と、有価物が分離された海水を循環用の移送管に送り込む循環ポンプと、海底に配置され、有価物を海底海水と共に吸込口から吸入して揚鉱用の移送管に送り込む水中ポンプと、循環用の移送管によって海底に戻される海水を駆動水にして水中ポンプを駆動させるハイドロモーターと、を有する揚鉱装置と、を含む揚鉱システム及び揚鉱方法が開示されている。この方法によれば、海底の採掘した有価物を移送管内に投入する設備構造を簡素化できる。このため、深海の過酷な環境下においても安定して揚鉱することが可能となる。
【0005】
特公平8−26740号公報には、深海鉱物質源原鉱のかさ比重より大きい比重を有する、例えばフェロシリコン、重晶石等、海水及び添加剤を含む重液を、一方が下降管、他方が上昇管となるU字管において、粉砕された原鉱をその重液から生じる浮力によって上昇管を経て海上に揚鉱する方法が開示されている。この方法によれば、従来技術による揚鉱方法よりも遥かに小さい動力で揚鉱できる。
【0006】
特開2000−227100号公報には、コンプレッサーを使用しないで、気体と液体を共に深海へ圧送するポンプを稼働させて、気体と液体を高圧化して、深海の気液分離室へ圧送し、液体は気液分離室の下部から外部に放流し、気体は上部からサイフォンを経て他端の気泡押出口から、自動的に気泡となってエアリフトパイプに入り、気泡は自動的に上昇してエアリフト効果を起こし、同時に下端に接続した吸引パイプの吸引口に吸引力を起こし、海底等の深部の資源を吸引し、資源が上昇する速度で上部まで引揚げる、気液ポンプとエアリフトの機構を組合わせた深底資源吸引揚装置が開示されている。これにより、低速回転で、高圧送力を有し、騒音振動が少ない、エネルギーのロスの小さい、高圧力を有し、深海で、簡単な構造と操作で、強力なエアリフト効果と吸引力によって、深海から資源を引揚げることができる。
【0007】
特開2015−168971号公報には、管路内に海水が満たされて下部が海底側まで延設され且つ上部が海上若しくはその近傍まで到達する揚鉱管を用い、その揚鉱管の下部開口から採掘したスラリー状の鉱物を導入するとともに、海水を海底側で電気分解して発生させた水素ガスを前記揚鉱管の下部開口から導入し、その導入した水素ガスの浮上力でスラリー状の鉱物を海上若しくはその近傍まで運搬することを特徴とする海底鉱物の揚鉱方法が開示されている。この方法によれば、低コスト且つ簡便で定常的に採掘鉱物を海底から海上に運搬することができる。
【0008】
このような従来の揚鉱方法は、大別すれば、ポンプ等により管内に液体又は気体の流れを生じさせ、その掃流力により輸送・運搬するポンプ圧送方式、鉛直の管路に下方から気体を混入して上昇流を生じさせ、その掃流力により上方に輸送・運搬するエアリフト方式、海底有価物のかさ比重より比重の大きな重液を用いる浮力方式によるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−269070号公報
【特許文献2】特開2005−255391号公報
【特許文献3】特開2011−196047号公報
【特許文献4】特公平8−26740号公報
【特許文献5】特開2000−227100号公報
【特許文献6】特開2015−168971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のポンプ圧送方式は、主に海水をキャリア物質として使用しており、高密度ないし粗粒な粒状体の揚鉱には揚鉱効率が極端に悪く不適である。また、ポンプの性能に制限され、特に揚程が短く、長距離の輸送・運搬には不適であるという問題がある。なお、特開2005−255391号公報には、スラリー母液の詳細な記載はない。また、従来のエアリフト方式は、ポンプ圧送方式と同様に、高密度ないし粗粒な粒状体の揚鉱には揚鉱効率が極端に悪く不適である。また、重液による浮力方式は、海底有価物質の粒度が小さくなると、分離精度が急激に低下する。また、重液による汚染対策や機械部分の摩耗対策が必要となるという問題がある。
【0011】
従って、本発明の目的は、高密度又は粗粒な海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できるキャリア物質、これを用いる海底有価物質の揚鉱方法及び揚鉱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するものであり、海底有価物質の揚鉱に使用するものであり、粒状体を含有する粘性流動体であることを特徴とするキャリア物質を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路内、又は海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法であって、該キャリア物質は、粒状体を含有する粘性流動体であることを特徴とする海底有価物質の揚鉱方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路、又は海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側で連結したU字状の管路と、該環状の管路内、又はU字状の管路内に充填されるキャリア物質と、該キャリア物質を循環させる圧送ポンプと、該管路の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口と、該管路の海上側に設けられた海底有価物質を回収する回収口と、を有し、該キャリア物質は、粒状体を含有する粘性流動体であること特徴とする海底有価物質の揚鉱装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、海底有価物質の揚鉱に、粒状体を含有する粘性流動体を使用すれば、φ30mm以上の粒状体又は塊状体である海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できる。また、本発明によれば、管路にキャリア物質として粒状体を含有する粘性流動体を充填して循環させ、この循環系に海底有価物質を取り込み、運搬するため、粗粒な粒状体や塊状体である海底有価物質の揚鉱が可能となる。また、管路は、環状(ループ状)又はU字状であり、キャリア物質はその管路内を循環するため、廃棄物は生じない。また、揚程が大きい場合でも、ポンプには管内壁の摩擦損失以外の負荷が生じないため、効率的に長距離輸送が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態の揚鉱装置の概略図である。
図2】第1の実施の形態の揚鉱装置における海上側装置の概略図である。
図3】第1の実施の形態の揚鉱装置における集鉱方法を説明する図である。
図4】本発明の第2の実施の形態における揚鉱装置の概略図である。
図5】参考例で使用した実験装置の簡略図である。
図6】試料1(珪砂配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図7】試料1(珪砂配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す図である。
図8】試料1(珪砂配合)及びアルミ完全球φ40を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図9】試料1(珪砂配合)及びアルミ完全球φ40を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す図である。
図10】試料2(発泡ビーズ配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図11】試料2(発泡ビーズ配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す図である。
図12】試料3(鉄粉配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図13】試料3(鉄粉配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す図である。
図14】試料3(鉄粉配合)及びアルミ完全球φ40を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図15】試料3(鉄粉配合)及びアルミ完全球φ40を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す図である。
図16】試料4(マヨネーズ+珪砂)及びステンレス完全球φ32を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図17】試料4(マヨネーズ+珪砂)及びステンレス完全球φ32を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す図である。
図18】試料4(マヨネーズ+珪砂)及びステンレス完全球φ40を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す図である。
図19】試料4(マヨネーズ+珪砂)及びステンレス完全球φ40を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す図である。
図20】試料5(珪砂配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降距離の関係を示す他の図である。
図21】試料5(珪砂配合)及びアルミ完全球φ32を使用した沈降時間と沈降速度の関係を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のキャリア物質は、海底有価物質の揚鉱に使用するものであり、粒状体を含有する粘性流動体である。海底有価物質の揚鉱としては、キャリア物質を充填する海底から海上に達する上昇管を、少なくとも有した揚鉱装置を使用する揚鉱方法が挙げられる。キャリア物質とは、海底有価物質を運搬・輸送する輸送媒体のことである。
【0018】
海底有価物質としては、深さ数百から数千メートルの海底に存在するマンガンクラスト、マンガンノジュール、コバルトリッチクラスト、硫化物鉱床(熱水鉱床)、レアアース泥又はメタンハイドレードYから採取される粒状又は粉状の鉱石Xが挙げられる。粒状又は粉状の鉱石Xは0.75mm以上の粗粒であってもよく、粒子密度が3g/cm以上の高密度なものであってもよい。
【0019】
本発明のキャリア物質は、粒状体と粘性流動体の混合物である。粒状体は、海底有価物質以外のものであり、使用する前に予め粘性流動体に含有されるものである。粒状体としては、平均粒径が0.01mm〜10mm、好ましくは、0.1〜8mmであり、真密度が0.01〜8g/cmである。平均粒径は、粒度分布から求められる公知の算出方法を用いて算出される。このような粒状体としては、岩石由来、植物・生物由来、樹脂素材、繊維素材のいずれでもよく、また、その混合物であってもよい。具体的には、発泡ビーズ、ガラスビーズ、珪砂などの砂、シルト・礫、木材、鉄粉などの金属粉が挙げられる。粒状体の配合量としては、粘性流動体100重量部に対して、0.1〜80重量部、好ましくは、0.3〜60重量部、更に好ましくは0.5〜50重量部である。発泡ビーズのような低真密度の場合、粘性流動体100重量部に対して、0.1〜3.0重量部、好ましくは、0.3〜2.5重量部であり、鉄粉のような高真密度の場合、5〜80重量部、好ましくは、8〜60重量部、特に好ましくは10〜50重量部である。
【0020】
本発明において、粘性流動体としては、5℃の粘度(JIS Z8803)が、1,000mPa・s以上、好ましくは1,300mPa・s以上、特に好ましくは2,000mPa・s以上、更に好ましくは3000mPa・s以上である。5℃の粘度としたのは、海水温度が海水表面から数十m以上の深度においては、概ね5℃と安定しており、下降管及び上昇管のほとんどは、5℃の環境下に晒されるためである。なお、粘性流動体の5℃の粘度の上限値は、10万mPa・sである。これ以上粘度が高くなると固体に近くなり、現実的に圧送が困難となる。
【0021】
粘性流動体は、水系、油系及びエマルジョン系であってもよいが、水系及びエマルジョン系が好ましく、特に高分子溶液等の水系が、安価で済み、取り扱いにおいて都合がよい点で好ましい。高分子溶液は、懸濁液を含む。高分子溶液における高分子は、天然物又は合成物いずれも使用できるが、合成物とすることが、少ない配合量で流動化物を得ることができる点で好ましい。また、エマルジョン系としては、油又は水と乳化剤の混合物であるマヨネーズが挙げられる。
【0022】
高分子溶液における高分子としては、一般に増粘剤、吸水剤と称されるものが使用でき、例えば、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ヒドロキシエチルセルロースナトリウム(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、ガム類、ペクチン、アルギン酸金属塩、アルギン酸エステル等が挙げられる。ガム類としては、グアーガム、キンサンタンガム、ジェランガム、ダイユータンガム等が挙げられる。また、アルギン酸金属塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。これらの化合物は、1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
増粘剤と称される高分子水溶液の場合、キャリア物質の5℃の粘度が1,000mPa・sのものは、25℃の粘度が1,000mPa・sであり、キャリア物質の5℃の粘度が2,000mPa・sのものは、25℃の粘度が2,000mPa・sであり、キャリア物質の5℃の粘度が2,500mPa・sのものは、25℃の粘度が2,500mPa・sである。このような高分子水溶液における粘度は、5℃と25℃において、ほとんど変わらないものであった。粘度5℃の粘度及び25℃の粘度は、5℃又は25℃の雰囲気下、振動式音叉型粘度計(JIS Z8803)で測定することができる。
【0024】
高分子溶液は、水と高分子の混合物であるが、高分子濃度は、5℃の粘度が好ましくは1,000mPa・s以上、特に1,300mPa・s以上となる配合量であり、例えば、0.05重量%〜5重量%、好ましくは0.1重量%〜3重量%、特に好ましくは0.5重量%〜2重量%である。高分子溶液には、安定剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
【0025】
本発明において、粒状体は、粘性流動体中、均一に分散した状態で使用することが好ましい。なお、粒状体として鉄粉を使用する場合、キレート剤を配合することが、鉄粉の酸化による高分子溶液の粘度低下を抑制することができる点で好ましい。
【0026】
本発明のキャリア物質を海底有価物質の揚鉱に使用すれば、深さ数千メートルの海底から鉱物資源である粒状の有価物質を海上まで高い揚鉱効率、具体的には60%以上、好ましくは80%以上で、輸送・運搬することができる。揚鉱効率とは、揚鉱速度をキャリア物質流送速度で除した値を言う。建築分野においては、コンクリート高圧ポンプの吐出量は、約30m/時間であり、これを仮に2台稼動させると、管径0.5mで、流送量60m/時間、流送速度305.6m/時間となる。商業ベースで設定される揚鉱効率80%の場合、沈降速度60m/時間となり、1台のポンプが故障したとしても、揚鉱効率60%を確保できる。すなわち、本発明において、キャリア物質の沈降抑制能の基準として3種類を設定することができる。一番下位の基準はポンプ台数を増やす必要がある沈降速度100m/時間以下で、揚鉱効率が67%に対応する。中位の基準はコストが見合う沈降速度60m/時間以下で、揚鉱効率が商業ベースで設定される80%以上に対応する。更に上位の基準は沈降速度15m/時間以下で、揚鉱効率が95%以上に対応する。
【0027】
本発明のキャリア物質が海底有価物質の沈降を抑制する作用力としては、粘性抵抗、浮力及び有効支持力が挙げられる。この内、浮力及び粘性抵抗は、粘性流動体が担い、有効支持力は、粒状体が担うことになる。流送時には、粘性抵抗が主体となり、停止時には、粘性抵抗の不足分を有効支持力が補うことになる。停止時とは、揚鉱装置稼働中、種々の理由による停止状態となる場合のことである。通常、1時間以内の復帰とするため、有価物質は数十m沈降することになるが、この程度の沈降であれば、再度の復帰で大部分の有価物質が上昇流に乗ることができる。
【0028】
次に、本発明の第1の実施の形態における揚鉱方法及び揚鉱装置について、図1を参照して説明する。第1の実施の形態における揚鉱方法における管路は環状(ループ)のものである。すなわち、本例の揚鉱方法は、海上より海底に達する下降管と、海底から海上に達する上昇管を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路内をキャリア物質で充填し、該キャリア物質をポンプにより循環させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する方法である。なお、図1図4中、キャリア物質に含まれる粒状体の描写は省略した。
【0029】
この方法を実施する揚鉱装置10は、海上より海底に達する下降管1と、海底から海上に達する上昇管2を海底側と海上側でそれぞれ連結した環状の管路11と、環状の管路11内に充填されるキャリア物質3と、キャリア物質3を循環させる圧送ポンプ4と、管路11の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口5と、管路11の海上側に設けられた海底有価物質Xを回収する回収口6を有する。なお、海上側の施設は、通常、揚鉱船や揚鉱フロートなどのプラットフォーム8に設置される(図2参照)。
【0030】
環状(ループ)の管路としては、可撓性を有していてもよい管であり、例えば、一般的な配管が挙げられる。環状の管路において、上昇管の下端と下降管の下端は、連結され連続した管であればよく、上昇管2と下降管1がそれぞれ独立の別管で、接続管で接続されたものの他、二重管であってもよい。二重管の場合、内管が上昇管、外管が下降管であるか、又はその逆の内管が下降管、外管が上昇管となる。また、別管の上昇管2と下降管1は互の内側面が溶着された一体ものであってもよい。管の内径としては、有価物質Xである粒状体の最大径の2倍以上であるものが、管内閉塞を防止し、輸送・運搬の効率を高めることができる点で好ましい。
【0031】
このような、キャリア物質3は、粒状体を含む粘性流動体であるため、輸送・運搬したい粒状又は粉状の海底有価物質の相対的な位置を極力、保持した状態で管内を流動する性質を有する。すなわち、循環状態において、キャリア物質3は、流動性を有し、且つ粒状又は粉状の海底有価物質(沈降物質)を高い揚鉱効率で揚鉱する。また、ポンプが一時停止した静置状態において、キャリア物質3は、粘性抵抗、浮力及び有効支持力の沈降を抑制する作用によって粒状又は粉状の海底有価物質(沈降物質)の沈降を抑制する。
【0032】
環状の管路11には、キャリア物質3を循環させるポンプ4を有する。ポンプ4は圧送ポンプであり、管路系内であれば、設置場所は特に制限されない。また、ポンプ4は、環状の管路系内に設置されるため、海底の搬入口5と、海上の回収口6とに大きな高低差があったとしても、ポンプ4には管内壁の摩擦損失以外の負荷が生じないため、キャリア物質3又は海底有価物含有のキャリア物質3を、効率的に長距離圧送することが可能となる。
【0033】
環状の管路11は、管路11の海底側に設けられた海底有価物質を搬入する搬入口5を有する。搬入口5は、公知の集鉱機から採取される粒状の鉱石が、搬入される場所である。搬入口5としては、二重扉又は回転扉を設けることが、管路に充填されたキャリア物質3の漏れを防止できる点で好ましい。図3は搬入口5に設置された回転扉5aを示したものである。回転扉5aは、回転軸51を中心に有する側面視が十字(クロス)形状のドアパネル52を有し、搬入口5近傍において回動自在に設置されている。搬入口5周りには、十字(クロス)形状の中、I字形状部分のドアパネルが密に接触する部分円弧形状の上部ケーシング55と部分円弧形状の下部ケーシング53を有している。また、符号54は、下部ケーシング53の上端から斜め上方に延びる板状体であり、搬入口を拡げて鉱石Xの搬入を容易にしている。回転扉5aによれば、ドアパネル52が回転中、管路11と外部は常に遮断されており、管路11内の圧力を保持したまま、鉱石Xを管路11内に搬入することができる。
【0034】
また、環状の管路11には、管路11の海上側に設けられた海底有価物質Xを回収する回収口6を有する。回収口6には、搬入口5と同様に、二重扉又は回転扉を設けてもよい。また、回収口6には、図2に示すような海上側の装置6aを設置してもよい。すなわち、海上側の装置6aは、圧送ポンプ4、分離槽61、粉砕装置62、選鉱装置63及び調整槽64を有する。分離槽61は、分離槽の側面に上昇管2が接続され、分離槽の上端は調整槽64の上端と接続され、分離槽の下端は粉砕装置62に接続されている。すなわち、分離槽61は、重力沈降分離法を採用するものであり、分離槽の下端から有価物質Xを含むキャリア物質3を回収し、分離槽の上端から有価物質Xを含まないキャリア物質3を循環させる。粉砕装置62は、キャリア物質3中の有価物質Xを粉砕するものであり、公知の砕石装置が使用できる。選鉱装置63は、粉砕された有価物質Xを不要鉱物Xと有用鉱物Xに分離するものであり、公知の選鉱装置が使用できる。なお、図2に示す海上側の装置6aにおいて、粉砕装置62、選鉱装置63及び調整槽64は任意の構成要素であり、設置を省略してもよい。
【0035】
次に、図1の揚鉱装置10を使用した海底有価物質の揚鉱方法について説明する。先ず、図1の揚鉱装置10において、圧送ポンプ4を稼働させる。これにより、環状の管路11内をキャリア物質3が循環する。次いで、不図示の集鉱機を稼働させ、例えば、千mの海底の鉱床Yから粒状の鉱石Xを採取し、これを管路11の搬入口5から管路11内に搬入する。搬入口5から搬入された粒状の鉱石Xは、循環するキャリア物質3と同伴して、上昇管2内を上昇運搬される。採取された粒状の鉱石Xは、キャリア物質3が粒状体含有粘性流動体であるため、粗粒物であっても、また高密度粒子であっても、粒状の鉱石Xの相対的な位置を極力、保持した状態で管内11を流動すると共に、キャリア物質3から大きく沈降することなく、高い揚鉱効率で輸送・運搬される。海上に運搬された鉱石Xは、搬出口6からキャリア物質3と共に、分離槽61に導入され、分離槽61で分離されて、鉱石Xを含むキャリア物質3と、鉱石Xを含まないキャリア物質3に分離され、鉱石Xを含むキャリア物質3は、粉砕装置62に導入されて粉砕され、粉砕された有価物質Xは、更に選鉱装置63に導入され、不要鉱物Xと有用鉱物Xに分離される。不要鉱物Xには、キャリア物質を構成する粒状体も含まれ、この粒状体は再使用できる。一方、分離槽61で分離された鉱石Xを含まないキャリア物質3は、調整装置64に送られ、組成調整されて下降管1に送られる。組成調整されたキャリア物質は、再び下降管1を通り循環する。粉砕装置62及び選鉱装置63で回収された残ったキャリア物質は、調整装置64又は下降管1に戻してもよい。
【0036】
本第1の実施の形態における揚鉱装置及び揚鉱方法によれば、環状の管路内をキャリア物質である粒状体含有粘性流動体が循環するため、有価物質である粗粒な粒状体や高密度な粒状体を高い揚鉱効率で揚鉱でき、千m程度の長距離輸送が可能であり、且つ廃棄物を出さない。
【0037】
次に、本発明の第2の実施の形態における揚鉱装置及び揚鉱方法について、図4を参照して説明する。図4の揚鉱装置において、図1の揚鉱装置と同一の構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について主に説明する。すなわち、図4の揚鉱装置10aにおいて、図1の揚鉱装置10と異なる点は、管路11aを、下降管1aと上昇管2aを海底側で連結し、海上側で連結しないU字状とした点、上昇管2aと下降管1a間に、キャリア物質を下降管1aに戻すための戻り配管22を設けた点、下降管1aの長さを上昇管2aの長さより大とし、上昇管2aに満たされたキャリア物質のヘッドより、下降管1aに満たされたキャリア物質のヘッドを大とした点である。
【0038】
すなわち、図4の揚鉱装置10aは、下降管1aと上昇管2aを海底側で連結したU字状の管路11aと、U字状の管路11a内に充填されるキャリア物質3と、管路の海底側に設けられた海底有価物質Xを搬入する搬入口5と、管路11aの海上側に設けられた海底有価物質Xを回収する回収口6と、キャリア物質3の組成を調整する調整装置64aと、を有し、下降管1aの長さを上昇管2aの長さより大とし、上昇管2aに満たされたキャリア物質のヘッドより、下降管1aに満たされたキャリア物質のヘッドを大としたものである。戻り配管22の一端は、海上側の上昇管2aに接続され、他端は、下降管1aの上端に接続せず、流入可能となるように望んでいる。本例のキャリア物質3は、第1の実施の形態における揚鉱装置10のキャリア物質3と同様である。なお、戻り配管22に設置されるポンプ4aは、戻りキャリア物質を下降管1aへ戻すポンプである。
【0039】
揚鉱装置10aにおいて、海上側で鉱石を回収するための装置は、図2と同様のものが使用できる。この場合、分離槽61の上端と図4の調整装置64aと接続してもよい。すなわち、分離槽61の上端から回収されるキャリア物質3は、図4の調整装置64aに流入させてもよい。
【0040】
また、図4の揚鉱装置10aの戻り配管22には、調整装置64aが設置されている。調整装置64aは、下降管1aに供給するキャリア物質3の組成や量を調整する。すなわち、下降管1aに供給されるキャリア物質3に対して、新たに追加補給したり、キャリア物質中の一部の成分の補給などを行う。なお、この調整は、調整装置64aの手前において、キャリア物質を採取、分析しその結果を基に行うか、あるいは集積された事前データを基に行われる。調整装置64aにより組成調整されたキャリア物質は、下降管1aに戻され、循環使用される。
【0041】
揚鉱装置10aにおいて、下降管1aの長さを上昇管2aの長さより大とし、上昇管2aに満たされたキャリア物質のヘッドよりH分、下降管1aに満たされたキャリア物質のヘッドを大としたものである。ヘッド差Hは、海上の揚鉱船上に組まれた櫓の高さに相当し、通常数十mは採れる。これにより、通常循環時、U字状の管路内の圧送ポンプ4は不要となる。従って、圧送ポンプ4は、管路内閉塞等の非常時にのみ使用すればよいことになる。
【0042】
次に、図4の揚鉱装置10aを使用した海底有価物質の揚鉱方法について説明する。図4の揚鉱装置10aのU字状の管路11a内には、キャリア物質3が充填されている。先ず、圧送ポンプ4aを稼働させる。これにより、U字状の管路11a内をキャリア物質3が循環する。次いで、不図示の集鉱機を稼働させ、例えば、千mの海底の鉱床Yから粒状の鉱石Xを採取し、これを管路11の搬入口5から管路11a内に搬入する。搬入口5から搬入された粒状の鉱石Xは、循環するキャリア物質3と同伴して、上昇管2a内を上昇運搬される。すなわち、キャリア物質3の粘性抵抗、浮力及び有効支持力により、採取された粒状の鉱石Xは、粗粒物であっても、また高密度粒子であっても、粒状の鉱石Xの相対的な位置を極力、保持した状態で管内11を流動すると共に、保持位置のキャリア物質3から大きく沈降することなく、高い揚鉱効率で、輸送・運搬される。上昇管2aの上端開口から取り出された鉱石X含有のキャリア物質3は、図2の揚鉱装置10の海上側の装置6aに送られ、鉱石Xとキャリア物質3に分離回収される。回収されたキャリア物質3は、調整装置64aにより、組成調整された後、戻り配管22を通り、下降管1aに戻される。下降管1aは、上昇管2aのヘッドよりH分高いため、圧送ポンプ4aを稼働させなくとも、管路内のキャリア物質3は循環する。
【0043】
本第2の実施の形態における揚鉱装置及び揚鉱方法によれば、圧送ポンプ4aを稼働させなくとも、環状の管路内をキャリア物質が循環するため、鉛直方向及び水平方向にも輸送、運搬でき、粗粒な粒状体や高密度な粒状体の揚鉱ができ、千m程度の長距離輸送が可能であり、且つ廃棄物を出さない。また、揚鉱装置の停止状態におけるキャリア物質の有価物質に対する沈降抑制能は、第1の実施の形態における揚鉱装置の場合と同様である。
【0044】
本発明は、上記実施の形態例に限定されず、種々の変形を採ることができる。すなわち、第1の実施の形態の揚鉱装置10において、分離槽61は、上記実施の形態例に限定されず、メッシュ状の分離網を使用してもよい。また、第2の実施の形態の揚鉱装置10aにおいて、上昇管2aと下降管1aの長さを同じとしてもよい。すなわち、上昇管2aと下降管1aのヘッド差は、ゼロであってもよい。この場合、圧送ポンプを管路に設置し、この圧送ポンプでキャリア物質を循環することになる。また、本発明において、環状及びU字状の管路に対し、公知の振動装置により振動を与えてもよい。これにより、キャリア物質の流動を高めることができる。また、管路内を循環するキャリア物質中に、公知のマイクロバブル発生装置からマイクロバブルを管路の下から混入させてもよい。このエアリフト効果により、キャリア物質の上昇輸送が促進される。
【0045】
参考例1(沈降試験その1)
図5に示す試験装置を使用し、各種キャリア物質の模擬有価物質に対する沈降距離及び沈降速度を求めた。以下、キャリア物質を「試料」とも称し、模擬有価物質を「沈降物質」とも称する。
【0046】
<模擬有価物質(沈降物質)>
直径32mm又は直径40mmのアルミニウム製の完全球を使用した。アルミニウム製の直径32mmの完全球の密度は2.57g/cm、直径40mmのものが密度2.80g/cmであった。この模擬有価物質は、海底有価物質の鉱石Xと同等若しくはそれ以上の大きさと比重を有するものであった。完全球とは断面が真円に近い球を言う。
【0047】
<キャリア物質(試料)>
下記の試料1〜4の4種類を使用した。
i 試料1;CMC1.5%の高分子溶液に珪砂を、高分子溶液100重量部に対して、無配合(試料1−1)、10重量部(試料1−2)、30重量部(試料1−3)、50重量部(試料1−4)で配合した。珪砂は、平均粒径0.5mm、真密度2.6g/cm(宇部珪砂6号)を使用した。
ii 試料2;CMC1.5%の高分子溶液に発泡ビーズを、高分子溶液100重量部に対して、1.0重量部(試料2−2)、2.0重量部(試料2−3)で配合した。発泡ビーズは、平均粒径1.27mm、真密度0.011g/cmのものを使用した。
iii 試料3;CMC1.5%の高分子溶液に鉄粉を、高分子溶液100重量部に対して、30重量部(試料3−2)で配合した。鉄粉は、平均粒径0.08mm、真密度7.87g/cmを使用した。
なお、CMCは、カルボキシメチルセルロース架橋体であり、濃度は重量%である。CMC1.5%の高分子溶液は、振動式音叉型粘度計(JIS Z8803)を使用して、5℃と25℃の粘度(mPa・s)を計測した。その結果、いずれも同じで、2,000mPa・sであった。
【0048】
【表1】
【0049】
<試験容器>
図5は使用した試験容器の模式図である。試験容器として、内径160mm、高さ500mmの上部開口の円筒状のアクリル製容器を使用した。図5中、符号hは試料の液面高さ、Dは沈降物質の球径、Zは沈降距離を示す。
【0050】
<試験方法>
キャリア物質の使用温度は、海底温度に相当する5℃であるが、高分子溶液の5℃と25℃の粘度が同じであるため、温度の影響はほとんどないと判断し、室温(25℃)で行った。また、試料は、粒状体が粘性流動体中、均一分散されている状態で使用した。先ず、試料を任意の液面高さとなるように入れた。沈降物質を手で持ったまま液面下に埋没させ、沈降物質の上部が液面と接する高さに引き上げた。液面が静止状態になるまで20秒程度待ってから沈降物質を静かに離した。この時、直ぐに試料から手を抜かずに暫く待ってから手を引き抜いた。これは粘性の高い試料の場合、沈降物質である球の沈降に影響を与える可能性があるからである。次いで、着底するまでの時間を計測した。次いで、試料の液面高さを最初とは異なる任意の高さとなるように継ぎ足し、同様の測定を行った。更に継ぎ足しによって液面高さを変え、同様の測定を行い、これを繰り返し行った。最終速度の結果を表2に、経過時間と沈降距離の関係を図6、8、10、12及び14に、経過時間と沈降速度の関係を図7、9、11、13及び15に示した。
【0051】
図6及び図7は、CMC1.5%+珪砂(アルミ完全球φ32mm)の結果を、図8及び図9は、CMC1.5%+珪砂(アルミ完全球φ40mm)の結果を、図10及び図11は、CMC1.5%+発泡ビーズ(アルミ完全球φ32mm)の結果を、図12及び図13は、CMC1.5%+鉄粉(アルミ完全球φ32mm)の結果を、図14及び図15は、CMC1.5%+鉄粉(アルミ完全球φ40mm)の結果を、図16及び図17は、マヨネーズ+珪砂(アルミ完全球φ32mm)の結果を、図18及び図19は、マヨネーズ+珪砂(アルミ完全球φ40mm)の結果を、図20及び図21は、CMC1.0%+珪砂(アルミ完全球φ32mm)の結果を、それぞれ示す。なお、図12図15は、参考までに、珪砂入り試料1-2および試料1-3の結果を併記した。図中、試料番号の「試料」の記載は省略し、数字による記号のみの記載とした。その他の図も同様である。図7、9、11、13及び15に示す沈降速度Vは、V=(Zi+1−Z)/(ti+1−t)で求めた。また、最終速度とは、ひとつの試料における最終測定結果とそのひとつ前の測定結果で求まる沈降速度で、概ね沈降距離が約400mm〜500mmの区間における平均沈降速度に対応する。従って、十分に沈降した後に達する終端速度とは厳密には異なるが、経過時間と沈降距離の関係を見る限り、最終速度は終端速度に近い値であると推定される。
【0052】
【表2】
【0053】
参考例2(沈降試験その2)
沈降物質及びキャリア物質を下記のものとした以外は、参考例1と同様の方法で、沈降試験を行った。最終速度の結果を表3に、経過時間と沈降距離の関係を図16及び図18に、経過時間と沈降速度の関係を図17及び図19に示した。
【0054】
<模擬有価物質(沈降物質)>
直径32mm又は直径40mmのステンレス製の完全球を使用した。ステンレス製の直径32mmの完全球の密度は8.16g/cm、直径40mmのものが密度7.95g/cmであった。
【0055】
<キャリア物質(試料)>
iv 試料4;市販のマヨネーズに珪砂を、マヨネーズ100重量部に対して、無配合(試料4−1)、30重量部(試料4−2)で配合した。マヨネーズの5℃の粘度は1,700mPa・sであり、25℃の粘度は、1,800mPa・sであった。
【0056】
【表3】
注1)最終速度とそのひとつ前の段階の沈降速度の平均値で示す。
【0057】
参考例3(沈降試験その3)
沈降物質として、直径32mmのアルミニウム製の完全球を使用した。また、キャリア物質として、下記の試料を使用した。経過時間と沈降距離の関係を図20に、経過時間と沈降速度の関係を図21に示した。
【0058】
<キャリア物質(試料)>
v 試料5;CMC1.0%の高分子溶液に珪砂を、高分子溶液100重量部に対して、5重量部〜50重量部まで、5重量部毎に10個の試料を作成した(試料5−2〜試料5−11)。
【0059】
参考例1によれば、CMC濃度1.5重量%に珪砂、発泡ビーズ又は鉄粉を配合したものは、キャリア物質内において、模擬有価物質であるφ32mm又はφ40mmのアルミニウム又はステンレス完全球の沈降速度は、60m/時間を下回っている。これにより、海底有価物質の揚鉱に、試料1〜3のキャリア物質を使用すれば、塊状体である海底有価物質を高い揚鉱効率で揚鉱できる。
【0060】
参考例2によれば、試料4は、キャリア物質内において、模擬有価物質であるφ32mm又はφ40mmのアルミニウム又はステンレス完全球の沈降速度は、100m/時間を下回っている。これにより、海底有価物質の揚鉱に、試料4のキャリア物質を使用すれば、ポンプ台数を増やすこともあるが、塊状体であるものの海底有価物質を揚鉱できる。
【0061】
図20及び図21によれば、CMC濃度1.0重量%では、CMC濃度1.5重量%に比較して粘性抵抗が小さいために最終速度が100m/時間を超えている。しかし、図18によれば、珪砂の配合量が25重量部以上となると、最終速度が200m/時間を下回り、沈降物質の沈降を抑制する効果が顕著に表れた。このことは、粒状体である珪砂が沈降物質を支持する有効支持力が有効に作用したものと考えられる。
【0062】
本発明は上記実施の形態例に限定されず、種々の変形を採ることができる。例えば、揚鉱装置は、少なくとも海底から海上に達する上昇管を少なくとも有するものであればよく、該上昇管内にキャリア物質を充填させた揚鉱装置が挙げられ、また、該揚鉱装置を使用し、圧送ポンプを稼動させ、海底有価物質を該キャリア物質に混入させ、該キャリア物質と同伴により上昇運搬し、海上側において海底有価物質を回収する揚鉱方法が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、深さ数千メートルの海底から鉱物資源である粒状の有価物質を海上まで効率良く、輸送・運搬することができる。なお、揚程に関して、建築分野においては、4インチ管使用での生コンの圧送実績は、中継点なしの90m/h、12MPaの高圧圧送で、水平900m、鉛直200mを達成しており、本発明のI字、U字又は循環の管路であれば、鉛直1000mを超える揚程でも容易に圧送できる。
【符号の説明】
【0064】
1、1a 下降管
2、2a 上昇管
3 キャリア物質
4、4a ポンプ
5 搬入口
6 回収口
10、10a 揚鉱装置
11 環状の管路
11a U字の管路
X 粒状の鉱石(海底有価物質)
Y 鉱床
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21