(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記にて簡単なハニカムコアサンドイッチ構造体について説明したが、実際には細々としたいくつかの工程を含む。工程が複雑化すると、製品コストに影響を与える。工程が複雑化することにより、不具合の発生リスクが高くなる。したがって、工程を少しでも減らすことが重要となる。
【0010】
上記細々としたいくつかの工程には、スプライス処理やスタビライズ処理がある。スプライス処理後には加熱成形される。スタビライズ処理後には加熱成形される。
【0011】
本願発明者は、スプライス処理後およびスタビライズ処理後の加熱成形工程を省略することを検討した。
【0012】
本発明は上記課題を解決するものであり、ハニカムコアサンドイッチ構造体の製造工程を簡略化できる圧力パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、ハニカムコアサンドイッチ構造体を真空引きし、加熱加圧して成形するための脱着可能な圧力パッドである。ハニカムコアサンドイッチ構造体は、ハニカムコアと、前記ハニカムコアの上下に設けられた繊維強化プラスチックとからなる。圧力パッドは、前記ハニカムコアサンドイッチ構造体の上部に対向する天面部と、前記ハニカムコアサンドイッチ構造体の側部に対向する側面部と、前記ハニカムコアサンドイッチ構造体の縁部に対向する周縁部と、を有する。ハニカムコアサンドイッチ構造体は、ハニカムコアサンドイッチ構造体の外形に対応する形状を有し、熱硬化する非シリコン系の合成ゴムからなる圧力パッド本体と、前記圧力パッド本体表面に接着される離型フィルムと、前記圧力パッド本体に内装される繊維強化プラスチックよりなるインナーシェルと、を備える。
【0014】
非シリコン系合成ゴムは、繊維強化プラスチックとの親和性が高い。加熱加圧成形により、圧力パッド本体と、離型フィルムと、インナーシェルとが一体成形される。すなわち製造容易である。
【0015】
また、インナーシェルは製品製造時(圧力パッド使用時)に外部からの圧力に対抗する。これにより、従来工程の幾つかを省略できる。
【0016】
好ましくは、前記側面部の下部と前記周縁部を跨ぐ位置に、第1インナーシェルが介挿され、前記第1インナーシェルは、熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなり、前記熱可塑性樹脂の軟化温度は、前記合成ゴムの硬化温度より低い。
【0017】
これにより、圧力パッド使用時(製品製造時)において、第1インナーシェルは、比較的低温時には軟化せず外部からの側面への圧力に対抗する。比較的高温時には軟化しながら変形し、ハニカムコアサンドイッチ構造体の寸法誤差に追従する。
【0018】
更に、好ましくは、前記天面部に対応する位置に、第2インナーシェルが介挿され、前記第2インナーシェルは、熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなり、前記熱可塑性樹脂の軟化温度は、前記合成ゴムの硬化温度より高い。
【0019】
これにより、圧力パッド使用時(製品製造時)において、第2インナーシェルは、軟化せず、外部からの天面への圧力に対抗する。
【0020】
更に、好ましくは、前記天面部に対応する位置に、第2インナーシェルが介挿され、前記第2インナーシェルは、熱硬化性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなり、前記合成ゴムの硬化温度域と前記熱硬化性樹脂の硬化温度域とが重なる。
【0021】
これにより、圧力パッド使用時(製品製造時)において、第2インナーシェルは、硬化状態を維持し、外部からの天面への圧力に対抗する。
【0022】
更に好ましくは、前記第2インナーシェルは炭素繊維よりなるトウを介して外部に連通している。
【0023】
これにより、圧力パッド製造時(製品製造時)において発生する有機溶剤ガスを排出する。
【0024】
上記課題を解決する本発明は、圧力パッドの製造方法である。治具台上に、成形前のハニカムコアサンドイッチ構造体またはハニカムコアサンドイッチ構造体相当の型を設置し、前記ハニカムコアサンドイッチ構造または前記型を覆うように、前記合成ゴムと、前記離型フィルムと、前記インナーシェルとを配置し、更に、真空バックにより被覆し、真空引きして加熱加圧する。
【0025】
製品製造に用いるオートクレーブ装置を用いて、製品製造と類似した工程を経て、圧力パッドを一体成形することができる。すなわち、容易に製造できる。
【0026】
好ましくは、前記治具台は自由曲面を有する。
【0027】
治具台が自由表面を有する場合、製造容易に係る効果が顕著となる。
【0028】
上記課題を解決する本発明は、ハニカムコアサンドイッチ構造体の製造方法である。治具台上に、成型前のハニカムコアサンドイッチ構造体を設置し、前記ハニカムコアサンドイッチ構造を覆うように、上記圧力パッドを装着し、更に、真空バックにより被覆し、前記ハニカムコアサンドイッチ構造を真空引きして加熱加圧し、前記真空バックおよび前記圧力パッドを取り外す。
【0029】
これにより、従来工程の幾つかを省略できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明にかかる圧力パッドを用いれば、ハニカムコアサンドイッチ構造体の製造工程を簡略化できる。
【0031】
本発明にかかる圧力パッドは製造容易である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<概要>
本願発明の概要について説明する。本願対象は、ハニカムコアサンドイッチ構造体を含む。
【0034】
図1は、ハニカムコアサンドイッチ構造体概略である。部分断面斜視図で表すとともに、ハニカムコアを抜粋し拡大している。
【0035】
ハニカムサンドイッチ構造は、ハニカムコアと、ハニカムコア下面に設けられた繊維強化プラスチック下部と、ハニカムコア上面に設けられた繊維強化プラスチック上部とからなる。繊維強化プラスチック上部および繊維強化プラスチック下部は、プリプレグシートが積層されて形成される。
【0036】
なお、ハニカムコアは、上下方向からの力には強く、側面方向からの力に弱い。そのため、一般的に、側面を傾斜させ、側面方向からの力を直接受けないようにすることもある。説明の便宜上、短辺側を上とし、長辺側を下とする。
【0037】
図2は、従来工程概略と本願工程概略の比較図である。まず、従来工程概略について説明する。まず、ハニカムコアを加熱して成形する(コアヒートフォーム)。その後、スプライス処理やスタビライズ処理をおこなう。
【0038】
図3はスプライス処理概要の説明図である。ただし、模擬処理を示す。ハニカムコアサンドイッチ構造体の寸法が大きいと、一つのハニカムコアでコアを形成することが難しい。したがって発泡接着剤を用いて複数のハニカムコアを接合し一体とする。しかしながら、この状態でFRPシートを積層し、オートクレーブ装置内で加熱加圧すると、対応箇所に沿って凹みが発生することがある。これを防ぐために、当該箇所の補強が必要になる。
【0039】
図4はスタビライズ処理概要の説明図である。ハニカムコアは、上下方向からの力には強く、側面方向からの力に弱い。オートクレーブ装置内で加熱加圧すると、側面(とくに側面下側)が大きく変形し損傷するおそれがある。これを防ぐための補強が必要である。
【0040】
スプライス処理後には加熱成形される。スタビライズ処理後には加熱成形される。これにより確実に補強される。
【0041】
その後、プリプレグシートを積層する。積層完了後、未硬化のハニカムコアサンドイッチ構造体1を治具台30とともにバギングし、オートクレーブ装置に搬送し、加熱加圧する。これにより樹脂が硬化しハニカムコアサンドイッチ構造体(製品2)が成形される。
【0042】
図5は、オートクレーブ装置における加熱加圧プロファイル例である。横軸は時間である。ただし、一例であり本願はこれに限定されない。
【0043】
まず、真空バッグ内を−0.1MPaに減圧する。減圧状態で加熱を開始する。さらに、減圧を維持しつつ、加圧を開始する。加圧を増しながら減圧状態を徐々に大気圧に戻す。このときの温度を120℃(±10℃)程度とする(第1加熱段階)。また、0.3MPaまで加圧する。
【0044】
さらに、数十分〜数時間かけて、180℃(±20℃)程度とし、数時間維持する(第2加熱段階)。たとえばエポキシ樹脂の場合160℃超にて硬化が開始する。その後、また1時間程度かけて60℃以下まで冷却し、除圧を始める。
【0045】
治具台とともにオートクレーブ装置から搬出し、製品2を脱型する。
【0046】
図2に戻り、本願工程概略について説明する。本願工程は従来工程とほぼ同様であるが、本願工程は、圧力パッド10を用いることにより、スプライスライン処理後およびスタビライズ処理後の加熱成形を省略することを特徴とする。
【0047】
<圧力パッド(第1実施形態)>
〜圧力パッド構成概要〜
図6は、圧力パッド10の概略構成を示す部分断面斜視図である。
【0048】
圧力パッド10は、未硬化のハニカムコアサンドイッチ構造体(積層体1)に装着し、硬化後のハニカムコアサンドイッチ構造体(製品2)から取り外すよう使用する。すなわち製品に脱着可能である。
【0049】
したがって、圧力パッド10は製品2に対応する形状を有する。すなわち、天面部11と、側面部12と、周縁部13とを有する。
【0050】
圧力パッド10がハニカムコアサンドイッチ構造体1に装着された状態において、天面部11はハニカムコアサンドイッチ構造体1の上部に対向し、側面部12はハニカムコアサンドイッチ構造体1の側部に対向し、周縁部13はハニカムコアサンドイッチ構造体1の縁部に対向する。圧力パッド周縁部13はハニカムコアサンドイッチ構造体1の縁部より一回り大きく、圧力パッド10は治具台30とともにハニカムコアサンドイッチ構造体1を完全に被覆する。
【0051】
天面部11は略平板状であり、側面部12は天面部11周縁から下方に連設され、周縁部13は側面部12下端から張り出す様に水平に連設されている。その結果、中空空間を備えた帽子のような形状となる。
【0052】
圧力パッド10は、圧力パッド本体16と、離型フィルム17と、インナーシェル18,19とを備える。インナーシェル(第1インナーシェル)18は側面部12下部と周縁部13を跨ぐ位置に介挿されている。インナーシェル(第2インナーシェル)19は天面部に対応する位置に介挿されている。
【0053】
〜構成詳細〜
図7は、圧力パッド10の詳細構成を示す断面図である。
【0054】
圧力パッド本体16は、ハニカムコアサンドイッチ構造体1の外形に対応する形状を有する。熱硬化する非シリコン系の合成ゴムからなる。ただし、非シリコン系の合成ゴムには、物性に影響しない程度に微量のシリコン成分を含む場合もある。
【0055】
硬化温度については、製品製造に用いるオートクレーブ装置において、熱硬化することが好ましい。たとえば、180℃(±20℃)程度で熱硬化することが好ましい。さらに、200℃(±20℃)程度の耐熱性を有することが好ましい。
【0056】
試作モデルでは、エアテックインターナショナル社の製品名「エアパッドゴム」を用いた。エアパッドゴムは、未硬化非シリコン系の合成ゴムであり、加熱により176℃とし、加圧により0.6MPaとし、約2時間で硬化し、204℃の耐熱性を有する。
【0057】
なお、高い耐熱性を有する合成ゴムとして、アクリルゴムACM,ANM、エチレン酢酸ビニルゴムEVA、エピクロルヒドリンゴムCO,ECOなどがある。
【0058】
離型フィルム17は、圧力パッド本体16両表面に接着されている。フッ素系フィルムが好ましい。試作モデルでは、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)フィルムを用いた。
【0059】
インナーシェル18は、熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなり、熱可塑性樹脂は比較的低温(たとえば60〜100℃)で軟化することが好ましい。たとえば、アクリル樹脂PMMA、ポリプロピレン樹脂PPなどを想定する。
【0060】
インナーシェル19は、熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなり、熱可塑性樹脂は比較的高温(たとえば180〜220℃)で軟化することが好ましい。たとえば、ポリカーボネート樹脂PC、ナイロン6樹脂(ポリアミド)PA6、ポリエーテルイミド樹脂PEI、ポリエチレンテレフタラート樹脂PET、ポリフェニレンサルファイド樹脂PPS、ポリエーテルエーテルケトン樹脂PEEKなどを想定する。
【0061】
圧力パッド本体(合成ゴム)の硬化温度と、インナーシェル(熱可塑性樹脂)の軟化温度の関係については、製造方法にて詳述する。
【0062】
〜圧力パッド製造方法〜
圧力パッド10の製造方法は、ハニカムコアサンドイッチ構造体製品2の製造方法と類似している。
【0063】
治具台30上に、ハニカムコアサンドイッチ構造体相当の型を設置し、型を覆う様に、離型フィルム17、未硬化合成ゴム16、セミプレグ18,19、未硬化合成ゴム16、離型フィルム17の順に積層する(
図7参照)。
【0064】
積層完了後、未硬化の圧力パッド10を治具台30とともに真空バックによりバギングし、オートクレーブ装置に搬送し、加熱加圧する。
【0065】
このとき、第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂の軟化温度は、合成ゴム16の硬化温度より低い。また、第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂の軟化温度は、合成ゴム16の硬化温度より高い。したがって、オートクレーブ装置にて第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂の軟化温度以上(比較的高温)になる様に加熱する。
【0066】
試作モデルでは、加熱により200℃とし、加圧により0.6MPaとし、約2時間維持し、降温減圧させた。合成ゴム16、第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂、第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂の状態変化について説明する。
【0067】
常温において合成ゴムは半硬化(通称Bステージ)であるが、180℃で硬化する。200℃でも硬化を継続する。一連の加熱により確実に硬化する。降温後も硬化状態が維持される(固化)。
【0068】
第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂は比較的低温(たとえば60〜100℃)で軟化し、加熱の間、軟化状態を維持する。降温時に軟化温度以下となると、固化する。
【0069】
第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂はたとえば200℃で軟化し、降温により固化する。
【0070】
すなわち、一連の加熱加圧により、まず、第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂が軟化し、合成ゴム16が硬化し、第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂が軟化する。
【0071】
降温により、第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂は固化し、第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂が固化する。合成ゴム16は硬化したままである。
【0072】
〜圧力パッド製造方法効果〜
このとき、合成ゴムは非シリコン系であるため、繊維強化プラスチックとの親和性が高く、一連の加熱加温により圧力パッド本体16と、インナーシェル18,19とが一体成形される。
【0073】
また、合成ゴムの接着性により、一連の加熱加温により、合成ゴム16と離型フィルム17も一体となる。
【0074】
以上のように、製品製造に用いるオートクレーブ装置を用いて、製品製造と類似した工程を経て、圧力パッドを一体成形することができる。すなわち、容易に製造できる。
【0075】
第1インナーシェル18、第2インナーシェル19とも、熱可塑性樹脂を用いるため、第2実施形態(後述)と比べても、加熱時間を短縮でき、トウ(TOW)追加工程も不要であり、製造容易性は顕著になる。
【0076】
また、特に治具台30が既存である場合や自由曲面を有する場合には、上記圧力パッド10の製造容易性は顕著になる(後述)。
【0077】
ところで、本願主題はハニカムコアサンドイッチ構造体の製造工程を簡略化するものである。一見すると、圧力パッド10製造工程が付加され、本願主題に逆行しているようにも思われる。しかし、圧力パッド10は製造容易であり、かつ、繰り返しの使用が可能なため、圧力パッド10製造は、全体工程に対しほとんど負担とならない。
【0078】
〜圧力パッド製造方法変形例〜
上記実施形態においては、第2インナーシェルとなるセミプレグを積層し、一体成形したが、変形例として、あらかじめ、セミプレグを加熱して、軟化および固化を経た第2インナーシェルを成形し、別途成形された第2インナーシェル19を積層時に介挿してもよい。
【0079】
変形例の場合、合成ゴム16の硬化温度に着目し、オートクレーブ装置にて、加熱により180℃(上記実施形態より低温)とし、加圧により0.6MPaとし、約2時間維持する。このとき、第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂は軟化せず固化状態を維持する。当然、降温後も固化状態を維持する。
【0080】
変形例においては、別途第2インナーシェル19を成形する手間はあるものの、本製品製造工程を含めた全体工程から判断すれば、実施形態同様の製造容易性を維持する。また、変形例により製造された圧力パッドも実施形態の圧力パッド10と同構成となり、同様に使用が可能である。
【0081】
〜圧力パッド使用方法(製品製造)概要〜
図2に戻り、本願工程概略について説明する。本願製品製造工程は従来製品製造工程とほぼ同様であるが、本願製品製造工程は、圧力パッド10を用いることにより、スプライスライン処理後およびスタビライズ処理後の加熱成形を省略することを特徴とする。
【0082】
なお、製品に用いるFRPはエポキシ樹脂等、熱硬化性樹脂であることを前提として以下説明するが、熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂は加熱により軟化するが、冷却により固化する。
【0083】
図8〜
図10は、製品製造工程における各状態を説明する図面である。圧力パッド10の試作モデルが図示されている。
【0084】
図8は、施工前の状態である。治具台30が記載されている。まず、ハニカムコアを加熱して成形する(コアヒートフォーム)。その後、スプライス処理やスタビライズ処理をおこなう。ただし、スプライスライン処理後およびスタビライズ処理後の加熱成形を省略する。
【0085】
その後、ハニカムコアを設置し、プリプレグシートを積層し、未硬化のハニカムコアサンドイッチ構造体(積層体1)とする。積層完了後、圧力パッド10を積層体1に装着し(
図9の状態)、積層体1を治具台30とともに真空バッグによりバギングし(
図10の状態)、オートクレーブ装置に搬送し、加熱加圧プロファイル(
図5)に基づいて加熱加圧する。これにより樹脂が硬化しハニカムコアサンドイッチ構造体(製品2)が成形される。
【0086】
治具台30とともにオートクレーブ装置から搬出し、製品2を脱型する。脱型には、圧力パッド10を製品2から取り外すことも含む。さらに、離型フィルム17により、圧力パッド10を製品2から容易に取り外すことができ、真空バッグも容易に取り外すことができる。
【0087】
〜圧力パッド使用時の作用効果〜
・作用効果1
図5における加熱加圧プロファイルにおいて、第1加熱段階と第2加熱段階が記載されている。第1加熱段階では積層体1の硬化はほとんどされていない。ハニカムコアの側面下側の損傷は、第1加熱段階、とくに増圧時に最も発生しやすい。
【0088】
第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂は、軟化温度(たとえば60〜100℃)未満では固化状態を維持している。したがって、外部からの圧力に確実に対抗できる。一方で、スタビライズ処理のための補強も、製品の加熱成形と同時に加熱成形される。したがって、従来工程におけるスタビライズ処理後の加熱成形工程が不要となり、製品製造工程の簡素化を図ることができる。
【0089】
・作用効果2
第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂は、比較的低温な軟化温度で、軟化する。一方で、第1インナーシェル18は合成ゴム16内に拘束されており、第1インナーシェル18が極端に変形するわけではない。すなわち、第1インナーシェル18は合成ゴム16とともに適度に変形する。なお、合成ゴム16は硬化後も適度な弾性を有する。
【0090】
ところで、未硬化のハニカムコアサンドイッチ構造体(積層体1)に積層工程における寸法誤差を伴う。一方、圧力パッド10は繰り返し使うことを想定している。その結果、圧力パッド10は積層体1の寸法誤差に対応できない様にも思われる。
【0091】
これに対し、合成ゴム16および第1インナーシェル18は第2加熱段階以降(もしくは軟化温度以上)では、適度に変形して積層体1の寸法誤差に追従しつつ、外部からの圧力に対抗する。その間に、積層体1の硬化が進み、積層体1自身が外部からの圧力に対抗できるようになる。
【0092】
僅かであれば積層体1の寸法誤差を許容できることにより、寸法管理の手間が軽減される。寸法管理自体が不要になるわけではないが、過度の寸法管理から解放される結果、この点でも、製品製造工程の簡素化を図ることができる。
【0093】
・作用効果3
第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂の軟化温度は比較的高温である。言い換えると、製品製造工程の加熱加圧プロファイル(
図5)における温度では軟化せず、固化状態を維持している。したがって、外部からの圧力に確実に対抗できる。一方で、スプライス処理のための補強も、製品の加熱成形と同時に加熱成形される。したがって、従来工程におけるスプライス処理後の加熱成形工程が不要となり、製品製造工程の簡素化を図ることができる。
【0094】
・作用効果4
上記において説明を省略したが、従来工程において、未硬化のハニカムコアサンドイッチ構造体1を治具台30上に固定する処理が必須である。
【0095】
これに対し、圧力パッド周縁部13はハニカムコアサンドイッチ構造体1の縁部より一回り大きく、圧力パッド周縁部13が治具台30に密着することにより、ハニカムコアサンドイッチ構造体1の縁部を治具台30に押さえつけことができる。すなわち、圧力パッド10装着により未硬化のハニカムコアサンドイッチ構造体1を治具台30上に固定できる。したがって、従来工程における治具台への固定処理が不要となり、製品製造工程の簡素化を図ることができる。
【0096】
〜使用時変形例〜
上記実施形態においては、圧力パッド10装着によりスプライス処理後の加熱成形工程およびスタビライズ処理後の加熱成形工程を省略したが、スプライス処理時補強およびスタビライズ処理時の補強は行った。これに対し、変形例として、スプライス処理時の補強およびスタビライズ処理時の補強を省略してもよい。
【0097】
圧力パッド10において、第1インナーシェル18は側方からの圧力から積層体1を保護する(上記作用効果1および2)。第2インナーシェル19は上方からの圧力から積層体1を保護する(上記作用効果3)。したがって、スプライス処理時の補強およびスタビライズ処理時の補強が不要となり、製品製造工程の簡素化を図ることができる。
【0098】
〜効果まとめ〜
製品製造時に圧力パッド10を用いることにより、以下の効果が得られる。
【0099】
インナーシェル18,19が外部からの圧力に対抗することにより、スプライスライン処理後およびスタビライズ処理後の加熱成形を省略することができる。さらには、スプライス処理時の補強およびスタビライズ処理時の補強を省略してもよい。
【0100】
第1インナーシェル18が微小変形し寸法誤差に追従することにより、積層体1の寸法誤差管理手間を軽減できる。圧力パッド周縁部13が治具台30に密着することにより、治具台への固定処理を省略できる。
【0101】
これらにより、製品製造工程の簡素化を図ることができる。
【0102】
また、圧力パッド10は製品製造類似の工程を経て、一体成形により容易に製造できる。また、圧力パッド10は繰り返し使用可能である。したがって、圧力パッド10製造は、全体工程に対しほとんど負担とならず、上記効果を阻害しない。
【0103】
上記実施形態において、治具台30が既存である場合や自由曲面を有する場合に限定されないが、治具台30が既存である場合や自由曲面を有する場合には上記硬化は顕著になる(後述)。
【0104】
<圧力パッド(第2実施形態)>
〜圧力パッド構成〜
第2実施形態における圧力パッド20は、第1実施形態における圧力パッド10の第2インナーシェル19を変更するものである。
【0105】
すなわち、第1実施形態の第2インナーシェル19は熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなるのに対し、第2実施形態の第2インナーシェル29は熱硬化性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなる。
【0106】
天面部11と、側面部12と、周縁部13とから形成される形状や、圧力パッド本体16と、離型フィルム17と、インナーシェル18からなる構成は、第1実施形態と共通する。
【0107】
第2インナーシェル29は炭素繊維よりなるトウ(TOW)21を介して外部に連通している。
【0108】
合成ゴム16の硬化温度域と熱硬化性樹脂29の硬化温度域とは重なる。例えば、合成ゴム16は180℃(±20℃)程度で熱硬化するのに対し、熱硬化性樹脂29も180℃(±20℃)程度で熱硬化する。さらに、熱硬化性樹脂29は、200℃(±20℃)程度の耐熱性を有することが好ましい。
【0109】
熱硬化性樹脂29の具体例として、エポキシ樹脂EP、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等を想定する。
【0110】
〜圧力パッド製造方法〜
第2実施形態における圧力パッド20の製造方法は、第1実施形態における圧力パッド10の製造方法とほぼ共通する。
【0111】
治具台30上に、ハニカムコアサンドイッチ構造体相当の型を設置し、型を覆う様に、離型フィルム17、未硬化合成ゴム16、セミプレグ18、プレプレグ29、トウ21、未硬化合成ゴム16、離型フィルム17の順に積層する。
【0112】
図11は、プレプレグ29を積層するとともに、プレプレグ29が外部と連通可能となるように、プレプレグ29の四方にトウ21を配設した状態を説明する図である。
【0113】
積層完了後、未硬化の圧力パッド10を治具台30とともに真空バックによりバギングし、オートクレーブ装置に搬送し、加熱加圧する。
【0114】
このとき、第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂の軟化温度は、合成ゴム16の硬化温度より低い。第2インナーシェル19の熱硬化性樹脂の硬化温度域と、合成ゴム16の硬化温度域とは重なる(おおよそ同じ)。したがって、オートクレーブ装置にて合成ゴム16の硬化温度以上になる様に加熱する。
【0115】
試作モデルでは、加熱により180℃とし、加圧により0.6MPaとし、約2時間維持し、降温減圧させた。
【0116】
第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂は比較的低温(たとえば60〜100℃)で軟化し、加熱の間、軟化状態を維持する。
【0117】
合成ゴム16と第2インナーシェル19の熱硬化性樹脂とはおよそ180℃程度で硬化する。
【0118】
加熱時に第2インナーシェル19の熱硬化性樹脂から発生する有機溶剤ガスは、トウ21を介して排出される。
【0119】
降温により、第1インナーシェル18の熱可塑性樹脂は固化する。合成ゴム16は硬化したままであり、第2インナーシェル19の熱硬化性樹脂は硬化したままである。
【0120】
第1実施形態における熱可塑性樹脂19と同様に第2実施形態の熱硬化性樹脂29も合成ゴム16との親和性がよい。一連の加熱加温により圧力パッド本体16と、インナーシェル18,29とが一体成形される。また、合成ゴムの接着性により、一連の加熱加温により、合成ゴム16と離型フィルム17も一体となる。すなわち製造容易である。
【0121】
〜圧力パッド使用方法〜
第2実施形態における圧力パッド20の使用方法は、第1実施形態における圧力パッド10の使用方法とほぼ共通する。
【0122】
すなわち、未硬化のハニカムコアサンドイッチ構造体(積層体)1に、圧力パッド20を装着し、オートクレーブ装置により加熱加圧成形し、脱型時に圧力パッド20を製品2から取り外す。
【0123】
圧力パッド20使用による作用効果も圧力パッド10使用による作用効果とほぼ共通する。
【0124】
ただし、第1実施形態における第2インナーシェル19の熱可塑性樹脂は比較的高温で軟化するため、製品製造工程の加熱加圧プロファイルでは固化状態を維持するのに対し、第2実施形態における第2インナーシェル29の熱硬化性樹脂は、硬化状態を維持する。
【0125】
これにより、外部からの圧力に確実に対抗でき、従来工程におけるスプライス処理後の加熱成形工程が不要となる点は、同じである(作用効果3)。
【0126】
<圧力パッド(変形例)>
〜変形例1〜
図12は変形例1に係る圧力パッドである。第1実施形態および第2実施形態では、第1インナーシェル18および第2インナーシェル19,29を備えているのに対し、変形例1に係る圧力パッドは、第1インナーシェル18のみを備え、第2インナーシェル19,29がない。
【0127】
製品が比較的小型でコア分割不要な場合や、スプライス処理が充分された場合などは、第2インナーシェル19,29が不要となる。
【0128】
〜変形例2〜
図13は変形例2に係る圧力パッドである。第1実施形態および第2実施形態では、第1インナーシェル18および第2インナーシェル19,29を備えているのに対し、変形例2に係る圧力パッドは、第2インナーシェル19,29のみを備え、第1インナーシェル18がない。第2インナーシェル19,29には、第1実施形態における熱可塑性樹脂19を用いてもよいし、第2実施形態における熱硬化性樹脂29を用いてもよい。
【0129】
製品が比較的肉薄(嵩高がない)の場合は、側面変形のおそれが少なく、第1インナーシェル18が不要となる。
<治具>
本願は、治具台30が既存である場合や自由曲面を有する場合に限定されるものではない(新設や平面や単純曲面を含んでもよい)が、治具台30が既存である場合や自由曲面を有する場合には、本願効果が顕著となる。
【0130】
自由曲面とは、空間に交点と曲率をいくつか設定し、高次方程式でそれぞれの交点を補間して表現される曲面である。球面や円柱面などのように単純な数式で表わすことのできる単純曲面とは異なる。
【0131】
なお、航空機や自動車など工業製品は自由曲面を有する。また、
図8に示す試作モデルに用いた治具台は、自由曲面を有する。
【0132】
自由曲面に対応するように、数値データに基づいて圧力パッドを詳細に設計することは手間がかかる。既存治具台の場合、自由曲面の設計データを確認できず、計測により再取得する場合もあり得る。
【0133】
本願圧力パッドは、自由曲面を有する既存治具台上において製造するため、必然的に既存治具台の自由曲面形状に追従する。したがって、設計段階の詳細な検討は不要となり、また、自由曲面の設計データがなくても製造可能である。
【0134】
また、製品が自由曲面を有する場合、寸法誤差が出やすく、寸法管理が厳格になる傾向がある。本願圧力パッドは、寸法誤差を緩和できる。過度の寸法管理から解放される結果、製品製造工程の簡素化を図ることができる。
圧力パッド10は製品2に対応する形状を有し、天面部11と、側面部12と、周縁部13とを有する。圧力パッド10は、圧力パッド本体16と、離型フィルム17と、インナーシェル18,19とを備える。圧力パッド本体16は非シリコン系合成ゴムよりなる。第1インナーシェル18は側面部12下部と周縁部13を跨ぐ位置に介挿される。熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなり、熱可塑性樹脂は比較的低温で軟化する。第2インナーシェル19は天面部に対応する位置に介挿される。熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチックよりなり、熱可塑性樹脂は比較的高温で軟化する。