特許第6570172号(P6570172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6570172-導電性樹脂組成物及び樹脂成形体 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570172
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20190826BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20190826BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20190826BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C08J5/00
   C08L23/06
   C08K3/22
   C08L91/06
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-131210(P2015-131210)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-50306(P2016-50306A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2018年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-176511(P2014-176511)
(32)【優先日】2014年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591182101
【氏名又は名称】三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和則
(72)【発明者】
【氏名】尾高 悦秀
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 幸夫
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−040346(JP,A)
【文献】 特開昭63−046244(JP,A)
【文献】 特開2011−121992(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/022920(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
C08L 23/06
C08K 3/22
C08L 91/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂成形体は、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)、高密度ポリエチレン樹脂(B)、及び導電性物質(C)を含有し、該(A)成分の粘度平均分子量[g/mol]が100万以上1100万以下であり、該(B)成分の粘度平均分子量[g/mol]が20万以上100万未満であり、該成形体中の該(A)成分の含有量が、該(A)成分と該(B)成分との合計を100質量%とした場合、70質量%超90質量%未満であり、該(C)成分が金属ドープ酸化亜鉛を含み、
前記(A)、(B)及び(C)成分を含有する粉体状混合物を得る工程と、該粉体状混合物を加熱圧縮成形又は押出成形する工程を有することにより、該(A)成分と該(B)成分とが、少なくとも該(B)成分からなる連続相を有する相分離構造を形成し、該(C)成分を該(B)成分からなる連続相に存在させることを特徴とする、
樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記(A)、(B)及び(C)成分をドライブレンドする方法、又は溶液混合法を用いて前記粉体状混合物を得ることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記相分離構造が、前記(B)成分からなる連続相中に前記(A)成分からなる非連続相が分散された海島構造である、請求項1又は2に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記(C)成分の嵩比容積が、200〜1000[ml/100g]である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂成形体中の前記(C)成分の含有量が2〜20質量%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂成形体が更にワックス成分(D)を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂成形体が摺動部材である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
成形温度が160℃〜240℃である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂成形体が更に色調整剤として白色微粒子を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項10】
前記白色微粒子がシリカである、請求項9に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレンは、熱可塑性樹脂の中でも機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性、及び摺動性が高い材料として知られており、さらに、食品に対する安全性も有している。そのため、超高分子量ポリエチレンを含む樹脂組成物の成形体は食品や医薬品分野の製造装置等にも用いられる摺動部材として有用である。さらに当該樹脂組成物に帯電防止性能を付与することで、埃等の付着を防止し、衛生面にも優れた樹脂成形体を提供することができる。
樹脂組成物及び成形体に帯電防止性能を付与するための導電性物質としては、カーボン系材料(カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ)が多用されている。しかしながら、これらカーボン系材料は少量添加で優れた導電性能を付与できるものの、着色が生じること、及び食品衛生法上は人体への影響が懸念されている物質であることから使用用途に制限があり、医薬品や食品用途への適用は極めて困難であった。
【0003】
帯電防止性能を付与するための導電性物質としては、カーボン系材料の他には導電性酸化スズ等の各種金属粒子が知られている。しかしながら、樹脂組成物及びその成形体に十分な帯電防止性能を付与するためにはその添加量を増加せざるを得ない。フィラー類が高充填された樹脂成形体の強度は自ずと低下するので、上記金属粒子を多量に含有する樹脂組成物からなる成形体は成形加工性が低下し、及び脆性破壊耐性が不十分になるという課題があった。さらに、これら金属粒子を多量に含有する製品の使用は人体への安全性に対しても問題があった。
【0004】
帯電防止性能を付与するために、導電性物質として低分子系の界面活性剤を用いるという技術も多数開発されているが、製品表面の摩擦による摩耗、あるいは清掃によって、帯電防止性能が容易に失われてしまう。また一度失われた帯電防止性能が回復するためには時間がかかるという問題も孕んでいる。すなわち当該技術は、永続的な帯電防止性能を付与するものではないため使用に制限があった。
【0005】
永続的な帯電防止性能を付与するために、導電性物質として高分子系の界面活性剤や導電性ポリマー等の高分子系材料を用いる技術も開発されている。しかしながら、これらはいずれも高分子ベースの材料であるため、樹脂組成物及びその成形体に十分な帯電防止性能を付与するためには多量添加する必要がある。その結果、当該樹脂組成物に用いられる樹脂成分本来の性能を損なってしまうという問題や、樹脂組成物の成形性、成形体の切削加工性を大幅に低下させるなどの問題が生じていた。また当該高分子系の材料は、その多くが吸水性であるため、製造上の問題もあった。
【0006】
そこで、他の導電性物質の適用が種々検討されている。例えば特許文献1には、透明性が高く、ヘイズが低く、かつ導電性が高い薄膜を形成しうる、アルミニウムドープ酸化亜鉛粒子が開示されている。特許文献2には、超高分子量ポリエチレンと導電性金属酸化物等の導電性粉末の乾式混合物を成形して得られる半導電性超高分子量ポリエチレン成形品が開示されている。
【0007】
また、2種以上の非相溶の樹脂成分を用いて相分離構造を形成することで、樹脂組成物中に帯電防止剤を安定に分散させ、帯電防止性能を高める方法も検討されている。例えば特許文献3には、所定の体積固有抵抗率を有するポリマーからなる永久帯電防止剤(A)と、表層用ポリオレフィン樹脂(B)とを含む帯電防止樹脂組成物(C)からなり、表層用ポリオレフィン樹脂(B)を海部分とし、永久帯電防止剤(A)を島部分とする海島状の相分離構造を有する帯電防止層を積層した帯電防止性ポリオレフィンフィルムが開示されている。また特許文献4には、非相溶性の熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂から選ばれる樹脂及び/又はエラストマーから選ばれる二成分系のいずれか一方に、シリカ系、金属酸化物系等の充填剤を含む共連続構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−062219号公報
【特許文献2】特開2011−121992号公報
【特許文献3】特開2006−247934号公報
【特許文献4】特開2010−155953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら通常、樹脂組成物に導電性物質などを添加すると、該樹脂組成物に用いられる樹脂成分本来の性能が損なわれ、得られる成形体の機械強度や成形加工性等が低下しやすいという問題がある。これに対し特許文献1〜4には、導電性物質を含む樹脂組成物において、樹脂成分本来の性能の維持と、導電性との両立については開示がなく、課題の示唆もない。
【0010】
特許文献2に開示された成形品に用いられる導電性粉末は、帯電防止性能を付与するためには一般に添加量を多くする必要があり、当該導電性粉末を高充填した成形品の機械物性は大幅に低下することが予想される。したがって特許文献2に開示された成形品は摺動部材としては適しておらず、また安全性の観点から、医薬品や食品関連用途への展開も困難である。
【0011】
特許文献3に開示された帯電防止性ポリオレフィンフィルムでは、帯電防止層において海島構造を利用しているが、該帯電防止層は帯電防止剤を島部分に存在させたフィルム状の成形体であり、射出成形等の、より広範な成形方法に対応した樹脂組成物への応用は困難である。
【0012】
特許文献4に開示された共連続構造体は、充填剤として導電性物質を用い、該導電性物質を連続相(海)に存在させることが記載されている。しかしながら当該連続相はいずれも非晶性の樹脂からなるため、当該共連続構造体の機械強度は低いことが予想され、耐久性や耐摩耗性等が要求される機械部品等の部材には適していないと考えられる。
【0013】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、樹脂組成物に配合される樹脂成分本来の特性を維持しつつ、優れた導電性を安定して発現しうる導電性樹脂組成物、及びこれを成形して得られる樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するにあたり本発明者らは、特定の成分を配合した、相分離構造を有する導電性樹脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0015】
すなわち本発明は、下記[1]〜[8]に関する。
[1]超高分子量ポリエチレン樹脂(A)、高密度ポリエチレン樹脂(B)、及び導電性物質(C)を含有する導電性樹脂組成物であって、該(A)成分の粘度平均分子量[g/mol]が100万以上1100万以下であり、該(B)成分の粘度平均分子量[g/mol]が20万以上100万未満であり、該組成物中の該(A)成分の含有量が、該(A)成分と該(B)成分との合計を100質量%とした場合、70質量%超90質量%未満であり、該(C)成分が金属ドープ酸化亜鉛を含み、該(A)成分と該(B)成分とが、少なくとも該(B)成分からなる連続相を有する相分離構造を形成し、該(C)成分が該(B)成分からなる連続相に存在していることを特徴とする、導電性樹脂組成物。
[2]前記相分離構造が、前記(B)成分からなる連続相中に前記(A)成分からなる非連続相が分散された海島構造である、[1]に記載の導電性樹脂組成物。
[3]前記(C)成分の嵩比容積が、200〜1000[ml/100g]である、[1]又は[2]に記載の導電性樹脂組成物。
[4]前記導電性樹脂組成物中の前記(C)成分の含有量が2〜20質量%である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
[5]更にワックス成分(D)を含有する、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物。
[6]前記(A)、(B)及び(C)成分を含有する粉体状混合物を加熱圧縮成形又は押出成形する工程を有する、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
[7]前記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体。
[8]摺動部材である、[7]に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導電性樹脂組成物は、該樹脂組成物に配合されるポリエチレン樹脂本来の特性を維持しつつ、優れた導電性を安定して発現する。そのため、本発明の導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体は、機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性、及び摺動性が高く、かつ安定した帯電防止性能を有する。当該樹脂成形体は、中でも帯電防止性能と摺動性とを両立する観点から、各種摺動部材、例えば、搬送レールやガイド等、特に食品分野の搬送システム内のレールやガイド、医薬分野等の錠剤スライダー等への適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例4で得られた導電性樹脂組成物の樹脂成形体の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[導電性樹脂組成物]
本発明の導電性樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」ともいう)は、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)、高密度ポリエチレン樹脂(B)、及び導電性物質(C)を含有する導電性樹脂組成物であって、該(A)成分の粘度平均分子量[g/mol]が100万以上1100万以下であり、該(B)成分の粘度平均分子量[g/mol]が20万以上100万未満であり、該組成物中の該(A)成分の含有量が、該(A)成分と該(B)成分との合計を100質量%とした場合、70質量%超90質量%未満であり、該(C)成分が金属ドープ酸化亜鉛を含み、該(A)成分と該(B)成分とが、少なくとも該(B)成分からなる連続相を有する相分離構造を形成し、該(C)成分が該(B)成分からなる連続相に存在していることを特徴とする。
なお本発明において「導電性樹脂組成物」とは、樹脂成形体とした際の体積固有抵抗値[Ω・cm]及び表面抵抗値[Ω/cm]が、100V印加時においていずれも1012オーダー以下である樹脂組成物をいう。
【0019】
本発明の導電性樹脂組成物は、上述の超高分子量ポリエチレン樹脂(A)と高密度ポリエチレン樹脂(B)とが、少なくとも高密度ポリエチレン樹脂(B)からなる連続相を有する相分離構造を形成している。当該相分離構造は、海島構造でも共連続構造でもよい。
本発明において海島構造とは、相分離構造ドメインのうちの1種が連続相を形成しており、他のドメインが非連続相を形成している相分離構造のことをいう。また本発明において共連続構造とは、相分離構造ドメインのうちの2種の樹脂が連続相を形成している相分離構造のことを指すものとする。本発明の樹脂組成物においては中でも、安定した導電性を発現する観点から、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)と高密度ポリエチレン樹脂(B)とが海島構造となっていることが好ましい。
【0020】
更には、本発明の樹脂組成物においては、導電性物質(C)が金属ドープ酸化亜鉛を含み、該導電性物質(C)が実質的に高密度ポリエチレン樹脂(B)からなる連続相に存在していることを特徴とする。
超高分子量ポリエチレン樹脂(A)と高密度ポリエチレン樹脂(B)とが相分離構造(海島構造)を明瞭に形成していること、導電性樹脂組成物における(C)成分が実質的に高密度ポリエチレン樹脂(B)からなる連続相に存在することは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や高倍率マイクロスコープ等により観察することができる。
【0021】
上記特徴を有する本発明の樹脂組成物が、該樹脂組成物に配合されるポリエチレン樹脂本来の特性を維持しつつ、優れた導電性を安定して発現しうる理由については次のように考えられる。
本発明に用いる超高分子量ポリエチレン樹脂(A)及び高密度ポリエチレン樹脂(B)は、互いに異なる粘度平均分子量[g/mol]を有しており、これに伴って異なる溶融粘度を有する。そのため、2種類のポリエチレン樹脂(A)、(B)は加熱溶融時においても互いに相溶せず、相分離構造を形成することができる。
ここで例えば、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)及び高密度ポリエチレン樹脂(B)を含む粉体状混合物を圧縮成形等において加熱した際には、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)に比して、溶融粘度がより低い高密度ポリエチレン樹脂(B)が先に溶融して、相分離構造における連続相を形成する。したがって溶融した連続相中に、導電性物質(C)を選択的に存在させることができる。導電性物質(C)が非連続相ではなく連続相に存在することで、導電性物質(C)の含有量を低減しても高い導電性を安定して発現できる。
また、樹脂組成物中の高密度ポリエチレン樹脂(B)の含有量を上記所定の範囲まで少なくすることにより、該高密度ポリエチレン樹脂(B)からなる連続相中の導電性物質(C)の濃度を高められるので、導電性物質(C)の含有量を低減しても高い導電性を安定して発現できる。
一例として例えば、以上のような製造方法を取る際において、本発明の樹脂組成物では多量の導電性物質を含有させる必要がないため、ポリエチレン樹脂本来の機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性、及び摺動性を維持することが可能となる。
以下、本発明の樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0022】
<超高分子量ポリエチレン樹脂(A)>
本発明に用いる超高分子量ポリエチレン樹脂(A)(以下「(A)成分」ともいう)は、粘度平均分子量[g/mol]が100万以上1100万以下である。(A)成分の粘度平均分子量が100万未満であると得られる樹脂成形体の機械的強度や摺動性の点で劣り、1100万を超えると成形性が劣る。(A)成分の粘度平均分子量が高いと溶融粘度が高くなるので、これよりも溶融粘度の低い高密度ポリエチレン樹脂(B)との相分離構造を形成することができる。また、(A)成分を配合した樹脂組成物は、(A)成分が本来有する優れた機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性、及び摺動性を発現する。
上記観点から、(A)成分の粘度平均分子量[g/mol]は、好ましくは300万以上、より好ましくは400万以上であり、好ましくは1060万以下、より好ましくは950万以下である。
なお本発明において、粘度平均分子量は、下記で表されるMargolieの式にて求められる値である。
M=5.37・104[η]1.49
上記式において、Mは粘度平均分子量[g/mol]、[η]は固有粘度(単位:[dl/g])を示す。
市販の超高分子量ポリエチレン樹脂としては、例えばティコナ社製の超高分子量ポリエチレン「GUR」、旭化成ケミカルズ(株)製の「サンファインTM」、三井化学(株)製の「ハイゼックスミリオン」などを用いることができる。これらは1種を単独で用いることもでき、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
【0023】
<高密度ポリエチレン樹脂(B)>
本発明に用いる高密度ポリエチレン樹脂(B)(以下「(B)成分」ともいう)は、粘度平均分子量[g/mol]が20万以上100万未満である。(B)成分の粘度平均分子量が20万未満であると本発明の樹脂組成物の成形性が低下し、及び海島構造等の相分離構造を形成し難くなる。また、該粘度平均分子量が100万以上であると海島構造等の相分離構造を形成し難くなる。
(B)成分は前記(A)成分よりも粘度平均分子量が低いことから、溶融粘度も(A)成分より低い。このため、圧縮成形等において加熱した際、(A)成分に比して溶融粘度が低い(B)成分が先に溶融して相分離構造における連続相を形成することができ、かつ、後述する導電性物質(C)を、溶融した連続相中に選択的に存在させることができる。
上記観点から、(B)成分の粘度平均分子量[g/mol]は、好ましくは25万以上、より好ましくは30万以上であり、好ましくは90万以下、より好ましくは80万以下、特に好ましくは65万以下である。なお本発明における粘度平均分子量は、前記と同じである。
市販の高密度ポリエチレン樹脂としては、例えばティコナ社製の高密度ポリエチレン「GHR8110」、旭化成ケミカルズ(株)製の「サンファインSH800」、三井化学(株)製の「ハイゼックス」等を用いることができる。これらは1種を単独で用いることもでき、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の導電性樹脂組成物においては、上記のように(A)成分と該(B)成分とが、少なくとも該(B)成分からなる連続相を有する相分離構造を形成する。当該相分離構造は、安定した導電性を発現する観点から、(B)成分からなる連続相中に(A)成分からなる非連続相が分散された海島構造であることが好ましい。また溶融粘度の非常に高い(A)成分が非連続相を形成し、(A)成分に比べ溶融粘度の低い(B)成分が連続相を形成するため、安定した相分離構造を形成するためには、(A)成分と(B)成分との粘度平均分子量差は大きい方が好ましい。
上記観点から、(A)成分と(B)成分との粘度平均分子量差は、通常80万[g/mol]以上、好ましくは300万[g/mol]以上であり、より好ましくは300万[g/mol]以上、更に好ましくは500万[g/mol]以上であり、海島構造を形成する点から、好ましくは1000万[g/mol]以下である。
また上記観点から、(A)成分と(B)成分の粘度平均分子量の組み合わせは、好ましくは(A)成分が300万〜1060万[g/mol]でかつ (B)成分が25万〜90万[g/mol]の範囲、より好ましくは(A)成分が400万〜1060万[g/mol]でかつ(B)成分が30万〜80万[g/mol]の範囲、さらに好ましくは(A)成分が500万〜950万[g/mol]でかつ(B)成分が30万〜65万[g/mol]の範囲である。
【0025】
<導電性物質(C)>
本発明に用いる導電性物質(C)(以下「(C)成分」ともいう)は、金属ドープ酸化亜鉛を含むことを特徴とする。中でも、導電性物質(C)は金属ドープ酸化亜鉛のみからなることが好ましい。金属ドープ酸化亜鉛は導電性が高いため、樹脂組成物中の含有量を低減することができる。また、酸化亜鉛は抗菌作用を有することから、本発明の導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体は食品や医薬品分野の製品にも適用できる。
金属ドープ酸化亜鉛に用いられる金属としては、酸化亜鉛へのドープが可能であり、かつ導電性を有するものであれば特に制限なく用いることができ、具体的には、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の第13族元素;ゲルマニウム、スズ等の第14族元素;鉄等が挙げられる。中でも良好な分散性の点から、金属ドープ酸化亜鉛としてはアルミニウムドープ酸化亜鉛及びガリウムドープ酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらは1種を単独で用いることもでき、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
中でもアルミニウムドープ酸化亜鉛は、アルミニウムと酸化亜鉛から構成されているため、食品衛生面や人体への安全性の点でより好ましい。
【0026】
金属ドープ酸化亜鉛の金属ドープ量は、所望の導電性を発現することができれば特に制限はないが、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0027】
(C)成分の形状としては、前記(B)成分からなる連続相に均一に存在させる観点から、粒子状であることが好ましい。粒子の粒径としては10nm以上、100μm未満のものを用いることができるが、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)及び高密度ポリエチレン樹脂(B)の粉末の粒径よりも小さいことが好ましい。従って通常、該粒子の粒径は50μm以下であり、中でも10μm以下が好ましく、更には8μm以下、特に6μm以下であることが好ましい。ここでいう粒子の粒径とは、体積平均径である。
【0028】
本発明に用いる(C)成分の嵩比容積は、高い導電性を安定して発現する観点からは大きい方が好ましく、通常、100〜2000[ml/100g]のものを用いることができる。中でも、導電性物質(C)の分散性及び導電性発現の観点から、当該嵩比容積は200〜1000[ml/100g]が好ましく、200〜900[ml/100g]がより好ましい。
導電性物質(C)が空間的に占有する体積、すなわち導電性粒子の嵩比容積が高いと、高い導電性を安定して発現することができる。そのため本発明の樹脂組成物においては、相分離構造を利用することに加えて、嵩比容積の高い(C)成分を用いることにより(C)成分の含有量をさらに低減することができる。上記嵩比容積は、10MPa圧粉体の100gあたりの容積である。
【0029】
(C)成分の比表面積は、高い導電性を安定して発現する観点から比表面積が大きい方が好ましく、通常、1m/g以上、100m/g以下のものを用いることができる。導電性樹脂組成物への分散性及び凝集性の観点からは、当該比表面積は4〜60m/gが好ましく、導電性、及び導電性樹脂組成物の色調への影響を少なくする観点から、4〜50m/gがより好ましい。
上記金属ドープ酸化亜鉛の比表面積は、BET法により測定される値である。
【0030】
本発明の樹脂組成物において、該(A)成分と該(B)成分との合計を100質量%とした場合の該(A)成分の含有量は、70質量%超90質量%未満である。該(A)成分が70質量%以下であると連続相を形成する(B)成分が多くなることから、該連続相における(C)成分の濃度が低くなり、その結果、導電性が低下する。また該(A)成分が90質量%以上であると連続相における(C)成分の濃度は高くなるが、(B)成分が少ないことから連続相を形成しなくなり、導電性が低下する。上記観点から、該組成物中の該(A)成分の含有量は、該(A)成分と該(B)成分との合計を100質量%とした場合、好ましくは75質量%以上であり、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
本発明の樹脂組成物においては、(A)成分と(B)成分の含有量比を所定の範囲とすることにより、(C)成分の濃度が低い場合、又は(C)成分の嵩比容積が小さい場合にも安定した導電性を発現することができる。
【0031】
また本発明の樹脂組成物中の(A)、(B)成分の合計含有量は、ポリエチレン樹脂本来の特性を付与する観点から、好ましくは80〜98質量%、より好ましくは85〜96質量%である。
【0032】
本発明の樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、好ましくは2〜20質量%である。当該含有量が2質量%以上であれば所望の導電性を付与しやすく、20質量%以下であれば、導電性樹脂組成物の成形性及び機械物性の低下を避けることができる。導電性樹脂組成物の成形性及び機械物性の観点からは、当該含有量は15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。また食品衛生の観点からは、(C)成分の含有量は4質量%以下がより好ましい。
【0033】
<その他の成分>
本発明の導電性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の各種樹脂添加剤を配合することができる。具体的には例えば、滑剤、潤滑剤としてワックス成分、パラフィン系オイル、その他合成オイル、シリコーン系オイル、フッ素系オイルなど;色調整剤としてシリカなど;着色剤として有機又は無機着色剤など;安定剤としてヒンダードフェノール系などの酸化防止剤、銅系、リン系、硫黄系などの熱安定剤、光安定剤(UV吸収剤)など;難燃剤として無機系難燃剤、ハロゲン系、リン系の難燃剤、滴下(ドリップ)防止剤としてのフッ素樹脂など;物性改良剤として造核剤、耐衝撃性改良剤、発泡剤など;成形性、加工性改良剤として可塑剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤など;強化材としてカーボン繊維、ガラス繊維等の強化フィラ−、有機系、高分子系の強化フィラ−、その他無機系充填剤など;が挙げられる。これらは1種を単独で用いることもでき、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
また本発明の効果を損なわない範囲で(A)、(B)成分以外の熱可塑性樹脂、例えば低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、テフロン(登録商標)樹脂などを添加してもよい。中でも、色調を調整する観点、成形性、離型性、切削性及び研磨性向上の観点から、ワックス成分、色調整剤、及び着色剤から選ばれる少なくとも1種を配合することが好ましく、ワックス成分及び着色剤を配合することがより好ましい。
【0034】
〔ワックス成分(D)〕
本発明の導電性樹脂組成物は、更にワックス成分(D)を含有することが好ましい。ワックス成分(D)を含有することによって、導電性樹脂組成物の成形性、離型性、切削性及び研磨性の向上が期待できる。
本発明に用いるワックス成分(D)としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の固体ワックスが挙げられる。中でも、成形性の点から、ポリオレフィン系ワックス及びフッ素系ワックスから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリオレフィン系ワックスがより好ましい。これらは1種を単独で用いることもでき、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
またポリオレフィン系ワックスは、粘度平均分子量が1,000〜10,000[g/mol]であることが好ましい。粘度平均分子量の測定方法は前述の(A)、(B)成分と同じである。
【0035】
ポリオレフィン系ワックスの具体例としては、ポリエチレンワックスである三井化学(株)製「エクセレックス」、三井化学(株)製「ハイワックス」、クラリアント社製「リコワックス」等が挙げられる。
【0036】
当該(D)成分を用いる場合には、本発明の樹脂組成物における(D)成分の含有量は、得られる樹脂成形体の機械物性を維持する観点、及び成形性、離型性、切削性、研磨性の観点から、好ましくは0.1〜10質量%であり、1〜5質量%がより好ましい。
【0037】
〔色調整剤〕
本発明の導電性樹脂組成物は、更に色調整剤を含有してもよい。これにより、導電性樹脂組成物を製造する際に生じる若干の変色を抑制し、均一で安定した淡色(白色)の着色がなされる。したがって、更に他の着色剤を添加し、所望の(濃色の)色調を有する導電性樹脂組成物、及びこれを成形して得られる樹脂成形体を提供することができる。
色調整剤としては、上記性能を付与することができる物質であれば特に制限はないが、色調整の観点、及び樹脂組成物中における分散性の観点から、白色微粒子であることが好ましく、シリカがより好ましい。
なお、本発明に用いるシリカは、石英のような結晶性シリカだけでなく、ケイ酸をゲル化したシリカゲル(SiO純度99.5%以上)のような非結晶性シリカをも含む。
中でも二酸化珪素(SiO)の純度が高い方が、得られる導電性樹脂組成物の適用用途が広がり、また淡色の着色効果が顕著となるので好ましい。
【0038】
本発明に用いる色調整剤の平均2次粒子径は所望する樹脂組成物となるよう、適宜選択して決定すればよいが、通常、0.1〜50μmである。色調整剤の平均2次粒子径がこの範囲にあることにより、樹脂組成物の製造において混合が容易であり、凝集等の発生による分散性の低下がなく、均一な着色効果が期待できる。中でも好ましい色調整剤の平均2次粒子径は、1〜10μmである。
【0039】
本発明に用いる色調整剤として、市販のシリカを用いることもできる。市販のシリカとしては、例えば、富士シリシア化学(株)製の「サイリシア350」、「サイリシア730」や、エボニック(株)製の「アエロジル」等が挙げられる。これらは1種を単独で用いることもでき、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
【0040】
色調整剤を用いる場合には、本発明の樹脂組成物における色調整剤の含有量は、通常、0.1〜10質量%であり、0.5〜5.0質量%が好ましい。色調整剤の配合量が0.1質量%以上であれば均一な着色効果が得られ、10質量%以下であれば色調整剤の分散性や機械物性が低下しない。
【0041】
〔着色剤〕
本発明の導電性樹脂組成物は、更に着色剤を含有してもよい。着色剤は、顔料及び染料等を、用途及び着色目的に応じて適宜選択することができる。顔料と染料とは併用してもよい。
【0042】
顔料としては、有機顔料、無機顔料のいずれも用いることができる。
有機顔料としては、例えばカラーインデックス(The Society of Dyers and Colourists社発行)において顔料に分類されている化合物であればよい。例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185等のイエロー系顔料;C.I.ピグメントレッド1、C.I.ピグメント2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド177等のレッド系顔料;C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6等のブルー系顔料;C.I.ピグメントバイオレット23:19、C.I.ピグメントグリーン36;等が挙げられる。
【0043】
無機顔料としては、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、白雲母、リトポン、アルミナ白、モリブデン白、鉛白(炭酸亜鉛)、硫化亜鉛、硫酸亜鉛、シリカ三酸化アンチモン、燐酸チタン、炭酸鉛、水酸化鉛、塩基性モリブデン酸亜鉛、塩基性モリブデン酸カルシウム、酸化亜鉛/二酸化チタン複合酸化物、酸化アルミニウム/酸化マグネシウム複合酸化物、酸化カルシウム/酸化ジルコニウム複合酸化物等の白色無機顔料;等が挙げられる。
【0044】
染料としては特に限定はなく、カラーインデックス(The Society of Dyers and Colourists社発行)において染料に分類されている化合物であればよい。例えば、赤色や青色、緑色、黄色、橙色、紫色、茶色、黒色の水溶性の酸性染料や含金属染料、塩基性染料、カチオン染料、直接染料、反応染料、及び水不溶性の分散染料や硫化染料、建染染料等が挙げられる。該染料は、有機染料、無機染料のいずれでもよい。
【0045】
上記着色剤は1種を単独で用いることもでき、任意の割合で2種以上を併用してもよい。
本発明の導電性樹脂組成物における着色剤の含有量は、通常、0.001〜1質量%であり、好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0046】
[導電性樹脂組成物の製造方法]
本発明の導電性樹脂組成物の製造方法は任意であり、従来公知の方法を適宜選択することができる。中でも、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)、高密度ポリエチレン樹脂(B)及び導電性物質(C)、並びに必要に応じその他の成分を混合し、得られた粉体状混合物を、加熱圧縮成形又は押出成形する工程を有する方法が好ましい。この方法により、本発明の特徴である相分離構造を有する樹脂組成物を容易かつ工業的に安価に製造できる。
【0047】
超高分子量ポリエチレン樹脂(A)、高密度ポリエチレン樹脂(B)及び導電性物質(C)の混合方法は任意であるが、均一に混合する観点から、例えば粉体状の(A)、(B)及び(C)成分をタンブラーミキサーやヘンシェルミキサー等を用いてドライブレンドする方法が挙げられる。又は、上記成分を適当な溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素やその誘導体、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類)に添加し、溶液状態ないしは不溶解成分を含む懸濁状態で混合したのち溶媒を除去する溶液混合法を用いることもできる。
【0048】
得られた粉体状混合物の成形方法は任意であるが、加熱圧縮成形又は押出成形方法として、一般的な加熱圧縮成形又はラム押出成形を用いることができる。成形温度は160℃〜240℃、成形圧力は5〜30kg/cmの範囲で成形可能である。特に樹脂成分の熱劣化による変色の観点から、成形温度は低い方が望ましい。
上述した製造方法において、ドライブレンドされた2種のポリエチレン樹脂(A)、(B)は、その溶融粘度の差によって圧縮成形等において加熱された際、超高分子量ポリエチレン樹脂(A)に比して高密度ポリエチレン樹脂(B)が先に溶融して連続相を形成し、溶融後の該連続相中に導電性物質(C)を選択的に存在させることができる。このため、導電性物質(C)の含有量を低減しても十分な導電性が安定して発現する。また、当該含有量の低減と相まって非連続相となった超高分子量ポリエチレン樹脂(A)が存在することによって、本発明の導電性樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂本来の機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性、及び摺動性の発現が可能となる。
【0049】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、上記導電性樹脂組成物を成形して得られる。当該樹脂成形体は導電性を有することから帯電防止性能を有し、かつ、ポリエチレン樹脂本来の高い機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性、及び摺動性を有する。そのため当該樹脂成形体は、中でも帯電防止性能と摺動性とを両立する観点から、各種摺動部材への適用が期待できる。
本発明の樹脂成形体の具体的な用途としては、例えば、食品搬送機用途として、搬送レールやガイド、スターホイール、搬送スクリュー、ネックガイド、コンベアローラーや原料投シュートなどのスライダー材やスクレイパーなどが挙げられる。また、医薬系の用途として錠剤類のスライダーなど;電子部品等の搬送材、レールやガイド材、または搬送ローラーなど;埃塵の静電気による付着防止効果の点から、日常生活用品の搬送装置ガイドレールなど;にも使用可能である。
特に本発明の樹脂成形体を摺動部材に適用すると、樹脂製の成形体であること、及び安定した永久帯電防止性能が発現されることによって、埃等の付着が抑制され、搬送物を静電気や堆積した埃や塵等で汚染や損傷することなく搬送できことが期待される。また、高い耐摩耗性を有することから長い製品寿命が期待され、さらには部品交換や清掃などのメンテナンスの低減が見込まれる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない範囲において、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各種測定及び評価は下記方法により行った。
【0051】
<粘度平均分子量の測定>
粘度平均分子量は、下記で表されるMargolieの式から求めた。
M=5.37・104[η]1.49
上記式において、Mは粘度平均分子量[g/mol]、[η]は固有粘度(単位:[dl/g])を示す。
【0052】
<体積固有抵抗及び表面抵抗の測定>
実施例及び比較例で得られた樹脂成形体を機械加工して100mm×100mm×5mmの板状試験片を作製し、抵抗率計((株)エ―ディーシー製「アドバンテストR8340A」)を用いて、印加電圧10V、100V、250V、500Vにおける抵抗値をASTM D257に準拠して測定した。印加電圧100Vにおける体積固有抵抗値[Ω・cm]及び表面抵抗値[Ω/cm]が、いずれも1012オーダー以下であれば導電性が良好であることを示す。
【0053】
<比重測定>
実施例及び比較例で得られた樹脂成形体を用いて、ASTM D792に準拠して測定した(n=2)。
【0054】
<機械物性>
実施例及び比較例で得られた樹脂成形体を機械加工して試験片を作製し、引張試験、圧縮試験、曲げ試験、シャルピー衝撃試験、及び硬度測定を行った。引張試験(n=5)はASTM D638、圧縮試験(n=3)はASTM D695、曲げ試験(n=3)はASTM D790にそれぞれ準拠して測定した。またシャルピー衝撃試験(ダブルノッチ付、n=5)はJIS K7111、硬度測定(ショアD、n=5)はASTM D2240にそれぞれ準拠して測定した。
【0055】
<相分離構造の観察>
実施例で得られた樹脂成形体を走査型電子顕微鏡で観察し、相分離構造の有無、及び、導電性物質(C)がいずれの相に存在しているかについて確認した。
【0056】
観察の結果、実施例で得られた樹脂成形体はいずれも相分離構造((B)成分からなる連続相中に(A)成分からなる島状の非連続相が分散された海島構造)を形成しており、かつ、(C)成分は(B)成分からなる連続相に存在していることが確認された。
【0057】
実施例1(導電性樹脂組成物及び樹脂成形体の製造及び評価)
超高分子量ポリエチレン樹脂(A1)(ティコナ社製「GUR4113」)8.138kg、高密度ポリエチレン樹脂(B1)(ティコナ社製「GHR8110」)2.713kg、導電性物質(C1)としてアルミニウムドープ酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製「23−K」)1.25kg、固体潤滑剤(D2)としてポリオレフィン系ワックス(三井化学(株)製「エクセレックス20700F」)0.375kg、及び着色剤として白色顔料(酸化チタン)25gをヘンシェルミキサーで混合した。得られた粉体混合物25.0kgを成形型に投入し、温度200℃、圧力28.6kg/cmで圧縮成形することにより、白色の板状の樹脂成形体を得た。
得られた樹脂成形体を機械加工して試験片を作製し、前述の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
実施例2〜16
導電性樹脂組成物の組成を表1に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性樹脂組成物及び樹脂成形体を作製し、前述の評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
また、実施例4で得られた樹脂成形体の切片を前述の方法で顕微鏡観察した写真を図1に示す。実施例4で得られた樹脂成形体は海島構造を形成しており、かつ導電性物質(C)であるアルミニウムドープ酸化亜鉛(図1において白く見える部分)が、連続相(海)を形成する高密度ポリエチレン樹脂(B)中に分散していることが確認された。
【0060】
実施例17
表1に記載の導電性樹脂組成物の各成分(計5kg)をヘンシェルミキサーで混合した。得られた粉体混合物を160〜180℃でラム押出成形することにより、淡灰色の押出レールを得た。得られたレールの押出表面の体積固有抵抗及び表面抵抗を抵抗率計((株)エ―ディーシー製「アドバンテストR8340A」)で測定した。結果を表1に示す。
【0061】
比較例1〜7
導電性樹脂組成物の組成を表2に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で導電性樹脂組成物及び樹脂成形体を作製し、前述の評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
なお、表1及び表2に示す各成分は以下の通りである。
<超高分子量ポリエチレン樹脂(A)>
(A1):ティコナ社製「GUR4113」、粘度平均分子量390万[g/mol]
(A2):ティコナ社製「GUR4170」、粘度平均分子量1050万[g/mol]
(A3):ティコナ社製「GUR4150」、粘度平均分子量920万[g/mol]
(A4):ティコナ社製「GUR4120」、粘度平均分子量500万[g/mol]
【0063】
<高密度ポリエチレン樹脂(B)>
(B1):ティコナ社製「GHR8110」、粘度平均分子量61万[g/mol]
(B2):旭化成(株)製「SH800」、粘度平均分子量25万[g/mol]
【0064】
<導電性物質(C)>
(C1):アルミニウムドープ酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製「23−K」標準品、ドープ量:0.1質量%、嵩比容積(カタログ値):200〜300ml/100g、比表面積(BET、カタログ値):4〜10m/g)
(C2):アルミニウムドープ酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製「23−K」分級品(粒度10μm未満)、ドープ量:0.1質量%、嵩比容積:300ml/100g、比表面積(BET):5.8m/g)
(C3):アルミニウムドープ酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製「23−K」表面アルキル修飾品、ドープ量:0.1質量%、嵩比容積(カタログ値):200〜300ml/100g)
(C4):アルミニウムドープ酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製「バゼットCK」標準品、ドープ量:0.1質量%、嵩比容積(カタログ値):700〜850ml/100g)、比表面積(BET、カタログ値):30〜50m/g)
(C5):ガリウムドープ酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製「バゼットGK」、ドープ量:0.1質量%、嵩比容積(カタログ値):>850ml/100g、比表面積(BET、カタログ値):30〜50m/g)
【0065】
<ワックス成分(D)>
(D1):高密度ポリエチレン系ワックス(三井化学(株)製「ハイワックス200PF」)
(D2):低分子量ポリオレフィン系ワックス(三井化学(株)製「エクセレックス20700F」)
【0066】
<色調整剤>
サイリシア350:粉末状シリカ(富士シリシア化学(株)製)
サイリシア730:粉末状シリカ(富士シリシア化学(株)製)
【0067】
<着色剤>
白色顔料:酸化チタン
緑色顔料:上原産業社製緑色顔料
青色顔料:食品添加用青色顔料
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の導電性樹脂組成物は、該樹脂組成物に配合されるポリエチレン樹脂本来の特性を維持しつつ、優れた導電性を安定して発現する。そのため、本発明の導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体は、機械強度、耐衝撃性、耐摩耗性、及び摺動性が高く、かつ安定した帯電防止性能を有する。当該樹脂成形体は、中でも帯電防止性能と摺動性とを両立する観点から、各種摺動部材、例えば、搬送レールやガイド等、特に食品分野の搬送システム内のレールやガイド、医薬分野等の錠剤スライダー等への適用が期待できる。
図1