特許第6570175号(P6570175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6570175直流スパッタ用スパッタリングターゲットおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570175
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】直流スパッタ用スパッタリングターゲットおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190826BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   H01B1/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-161146(P2015-161146)
(22)【出願日】2015年8月18日
(65)【公開番号】特開2017-39965(P2017-39965A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】海野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】柴山 卓眞
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0014151(US,A1)
【文献】 特開平10−183335(JP,A)
【文献】 特表2018−507323(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/005690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H01B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性酸化物であるMgOと導電性物質であるカーボンナノチューブとを含み、
ターゲットにおけるカーボンナノチューブの濃度が5〜30mol%であり、
比抵抗が0.003〜0.5Ω・cmであり、全体として導電性を有し、
スパッタにより、NaCl型結晶構造を有する薄膜を形成することを特徴とする直流スパッタ用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
MgOに、比抵抗0.01〜0.0001Ω・cmの多層カーボンナノチューブを添加して混合して混合粉を得る工程1と、
前記混合粉をホットプレス法、常圧焼結法、熱間等方圧加圧法、または放電プラズマ焼結法により1400〜1600℃で焼結してターゲットを形成する工程2とを有する、直流スパッタ用スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電性酸化物であるMgOを主成分とするスパッタリングターゲット(以下単に「ターゲット」ともいう。)であって、直流(DC)スパッタが可能なターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板上への薄膜形成技術としてスパッタリング法が知られている。このスパッタリング法では、真空容器内に導入されたアルゴン等の希ガス元素がプラズマ化し、このプラズマ化された希ガス元素がターゲットに衝突することによって、スパッタ粒子がターゲットから飛び出し、これが基板上に堆積して薄膜が形成される。
【0003】
このようなスパッタリング法のうち、酸化膜や窒化膜を形成する手法としては、絶縁物の酸化物や窒化物系のターゲットを用いて、印加する電源に高周波(RF)を利用するRFスパッタが一般的である。また、スパッタ空間に酸素や窒素等の反応性ガスを混入させ、ターゲットの構成成分との反応生成物による成膜を行う反応性スパッタも知られている。
【0004】
しかしながら、RFスパッタは、成膜速度が遅く、素子作製の生産効率の低下を招き、また、大面積基板には不向きであり、基板が加熱される、生産コストが高い等の課題を有していた。
一方、反応性スパッタは、成膜速度は速いもの、反応性ガスの導入切り替え等の煩雑な工程を要し、成膜の均一性に劣る、アーキングが発生しやすい等の課題を有していた。
このため、非導電性の酸化物や窒化物を効率的に均一に成膜することができる方法が望まれている。
【0005】
ところで、ターゲットが導電性である場合は、最も簡便なスパッタリング法である、ターゲットに印加する電源に直流(DC;Direct Current)を利用するDCスパッタが可能である。
したがって、非導電性物質に導電性物質を添加して、ターゲット全体としては導電性物質とすることにより、これをDCスパッタのターゲットとして用いることが可能となる。
【0006】
例えば、特許文献1には、絶縁体であるMgOと導電性化合物であるTiC、VC、WC又はTiNとを主成分としたターゲットにより、DCスパッタによるMgO膜の成膜が可能となることが記載されている。
特許文献2には、MgOに、これと同じNaCl型の結晶構造を持ち、かつ格子定数が近い導電性のTiOを添加したターゲットでは、DCスパッタによる成膜が可能となることが記載されている。
特許文献3には、MgOに導電性のTiOが固溶した相からなるセラミックス焼結体が記載され、真空薄膜形成法により該セラミックス焼結体の薄膜を形成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/005690号
【特許文献2】国際公開第2014/156497号
【特許文献3】特公平8−5708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたような導電性化合物をターゲットに添加する場合には、以下のような問題がある。例えば、WCは、結晶系が六方晶系で、結晶構造はWC型構造を有しており、立方晶系でNaCl型構造であるMgOとは、結晶系及び結晶構造が異なる。さらに、MgOの結晶の格子定数が4.208Åであるのに対して、WCでは2.906Åであり、ミスフィット率(両物質の格子定数の差分をMgOの格子定数で割った比率)の差異は30.9%にも及ぶ。このミスフィット率が高いと、MgOにWCを添加した場合、MgOの結晶系及び結晶構造が変化し、MgO自体の特性が変化するおそれがある。
【0009】
一方、上記特許文献1に記載されたその他の導電性物質であるTiC、VC及びTiNはいずれも結晶系が立方晶系で、その結晶構造はMgOと同じNaCl型構造である。
また、TiCの格子定数は4.318ÅでMgOとのミスフィット率は2.61%、VCの格子定数は4.118ÅでMgOとのミスフィット率は2.14%、TiNの格子定数は4.249ÅでMgOとのミスフィット率は0.97%と、いずれも3%以下であり、上記の各導電性物質WCより小さく、MgOに含まれた状態のターゲットをスパッタして成膜する際に、薄膜中におけるMgOとの整合性の問題はないとも考えられる。
【0010】
しかしながら、上記三つの化合物のうち、最もミスフィット率の小さいTiNの粉末25mol%をMgO粉75mol%に混合して焼結させ、加工したターゲットを用いて、基板上にDCスパッタして薄膜を形成し、X線回折装置(XRD)により、結晶方位を測定したところ、MgOやTiNのピーク以外に、Ti2N、TiN0.43、TiN0.6等の異相が現れる。すなわち、TiNはMgOとのミスフィット率が小さいにもかかわらず、薄膜中に、本来のMgOの結晶方位とは異なる結晶方位のものを形成することが分かっている。
【0011】
この原因として、これらの導電性物質がMgOのような酸化物ではなく、窒化物や炭化物であることが考えられる。
一方、上記特許文献2、3では、導電性物質にTiOを使用したターゲットが記載されているが、さらに高性能なターゲットとして、DCスパッタが可能で、かつ、MgOとのミスフィット率が3%以下と十分に低く、形成された薄膜において、MgO自体の結晶構造が変化することがないターゲットが要望されている。
【0012】
また、これらのいかなる導電性物質が添加されても、ターゲット全体としてはMgO単体からなるターゲットとは異なる性質を持ち、ターゲットがスパッタされて生成する薄膜の性質も異なってくるという問題が生ずるので、MgO自体の特性が変化することがないターゲットが要望されている。
【0013】
本発明は、上述した背景技術に鑑みてなされたものであり、MgOを主成分とするスパッタリングターゲットであって、DCスパッタが可能であり、MgO単体と同じ結晶構造を有する薄膜を基板上に形成することができるスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る直流スパッタ用スパッタリングターゲットは、非導電性酸化物であるMgOと導電性物質であるカーボンナノチューブ(以下「CNT」という。)とを含み、ターゲットにおけるカーボンナノチューブの濃度が5〜30mol%であり、比抵抗が0.003〜0.5Ω・cmであり、全体として導電性を有し、スパッタにより、NaCl型結晶構造を有する薄膜を形成することを特徴とする。
MgOにこのような濃度でCNTを添加することにより、ターゲット全体が導電性を有し、DCスパッタが可能なターゲットを構成することができる。
【0015】
本発明に係る直流スパッタ用スパッタリングターゲットの製造方法は、MgOに、比抵抗0.01〜0.0001Ω・cmの多層カーボンナノチューブを添加して混合して混合粉を得る工程1と、前記混合粉をホットプレス法、常圧焼結法、熱間等方圧加圧法、または放電プラズマ焼結法により1400〜1600℃で焼結してターゲットを形成する工程2とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非導電性酸化物であるMgOを主成分とするターゲットであっても、所定量のCNTを導電性物質として添加することにより、DCスパッタが可能となり、かつ、MgO単体と同じ結晶構造を有する薄膜をスパッタにより基板上に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係るスパッタリングターゲットは、非導電性酸化物であるMgOと導電性物質であるCNTとを含み、全体として導電性を有することを特徴とする。
このように、MgOを主成分とするターゲットに、導電性物質としてCNTを添加することにより、ターゲット全体としては導電性を有するものとなり、DCスパッタが可能なターゲットが得られる。
【0019】
また、本発明に係るターゲットをスパッタして基板上に形成した薄膜は、その性状及び形態が、MgO単体からなるターゲットを用いて形成した薄膜と同等である。この理由として、CNTは、物質としてはカーボンであるため、チャンバー内に若干吸入させた酸素と反応し、一酸化炭素ないしは二酸化炭素のいずれかの気体成分を生成して、チャンバー外に流出するためと考えられる。
【0020】
ここで、CNTは、直径0.7〜70nm、長さ数10μm以下のチューブ状の炭素の結晶であり、1グラムあたり100〜1000m2の大きな表面積を持つ物質である。CNTは、炭素原子が六角形に規則正しく結合した蜂の巣状の構造をしており、その六員環ネットワークが構成するグラフェンシートが単層又は多層の同軸管状に形成されたものである。本発明では、CNTとして、単層、多層のいずれのCNTを用いることもできるが、比抵抗の小さい多層ナノチューブを用いることが好ましい。
【0021】
CNTは、比抵抗が0.01〜0.0001Ω・cmと、導電性であり、非導電性物質であるMgOに添加した場合においても、ターゲット全体に導電性を付与することが可能である。
【0022】
CNTの添加量が多いほど、ターゲットの比抵抗が低下することが確認されている。具体的には、前記ターゲットにおけるCNTの濃度は5〜30mol%であることが好ましい。
CNTの濃度が5mol%未満では、ターゲット全体の比抵抗を、安定したDCスパッタを行うための目安となる0.1Ω・cm以下とすることが困難になることがある。一方、30mol%を超えると、CNTのC源が薄膜に残存し、薄膜の特性が、MgO単体の薄膜と異なってくることがある。
【0023】
上記したとおり、本発明に係るターゲットは、全体として導電性を有し、その比抵抗率は0.003〜0.5Ω・cm程度であり、具体的には0.05〜0.1Ω・cmである。
【0024】
よって、本発明に係るターゲットは、DCスパッタ用として好適に用いることができ、MgO単体と同様のNaCl結晶構造を有する薄膜をスパッタにより形成することができる。
【0025】
また、本発明に係るターゲットにはCNTに加えて、必要に応じて、FeO及びTiOなどの導電性酸化物を添加してもよい。FeO及びTiOのいずれも、MgOと同じNaCl型の結晶構造を持ち、格子定数も近く、導電性を有する。また、FeO及びTiOはいずれも、MgOと同様に金属酸化物であることから、ターゲット中にこれらの導電性酸化物を添加することで、MgO単体と同等の結晶構造を形成しやすくなる。
ターゲットにおけるFeOの添加量は、通常20〜60mol%であり、TiOの添加量は、通常20〜60mol%である。FeO及びTiOの添加量が上記範囲を超えると、MgOの結晶格子と異なる相が増え、ミスフィット率が高くなる場合がある。
【0026】
本発明に係るターゲットの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、実施例にも示すように、MgO粉にCNT粉を添加して得られた混合粉を1400〜1600℃の温度で焼結させることにより作製することができる。
ここで、焼結とは、ホットプレス法、常圧焼結法、HIP法(熱間等方圧加圧法)、SPS法(放電プラズマ焼結法)等粉末を高温で固めることをいう。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
MgO粉に、CNT粉を濃度5mol%となるように添加し、ボールミルにて4時間撹拌して得られた混合粉を、ホットプレス炉にて焼結させ、直径3インチ、厚さ5mmのターゲットを作製した。
このターゲットの四探針抵抗測定による比抵抗は0.10Ω・cmであった。
このターゲットを用いて、スパッタリング装置にて、スパッタ基板にはシリカガラスを使用して、出力50WでDCスパッタを行ったところ、アーキングその他の異常もなく、成膜速度は2.4nm/分で、安定してスパッタすることができた。
また、前記スパッタによりシリカガラス基板上に生成した薄膜についてXRD測定を行ったところ、2本の明瞭なX線回折ピークが得られ、その回折角はMgOの基準ピークの回折角と一致することが確認された。
【0028】
[実施例2]
CNT粉の濃度を30mol%とし、それ以外については、実施例1と同様にして、ターゲットの作製及び評価を行った。
このターゲットの比抵抗は0.006Ω・cmであった。
また、アーキングその他の異常もなく、成膜速度は4.5nm/分で、安定してスパッタすることができた。
また、スパッタにより生成した薄膜のXRD測定においても、2本の明瞭なX線回折ピークが得られ、その回折角はMgOの基準ピークの回折角と一致することが確認された。
【0029】
[比較例1]
MgO粉をそのままホットプレス炉にて焼結させ、直径3インチ、厚さ5mmのターゲットを作製し、実施例1と同様にして、ターゲットの評価を行った。
このターゲットの比抵抗は、ほぼ無限大であったため、スパッタリング装置にて、出力50WでDCスパッタを行うことができなかった。
なお、RFスパッタを行ったところ、アーキングその他の異常もなく、成膜速度は0.6nm/分で、安定してスパッタすることができた。
また、前記RFスパッタにより生成した薄膜のXRD測定では、数本の明瞭なX線回折ピークが得られ、その回折角はMgOの基準ピークの回折角と一致することが確認された。
【0030】
[比較例2]
MgO粉に、TiO粉を濃度20mol%となるように添加し、ボールミルにて4時間撹拌して得られた混合粉を、ホットプレス炉にて焼結させ、直径3インチ、厚さ5mmのターゲットを作製した。
このターゲットの四探針抵抗測定による比抵抗は0.09Ω・cmであった。
このターゲットを用いて、スパッタリング装置にて、スパッタ基板にはシリカガラスを使用して、出力50WでDCスパッタを行ったところ、アーキングその他の異常はなく安定してスパッタすることはできたが、成膜速度は1.9nm/分であった。
また、前記スパッタによりシリカガラス基板上に生成した薄膜についてXRD測定を行ったところ、2本の明瞭なX線回折ピークが得られ、その回折角はMgOの基準ピークの回折角と一致することが確認された。
【0031】
[比較例3]
TiO粉の濃度を50mol%とし、それ以外については、比較例2と同様にして、ターゲットの作製及び評価を行った。
このターゲットの比抵抗は3.2mΩ・cmであった。
また、アーキングその他の異常もなく、安定してスパッタすることができたが、成膜速度は1.9nm/分であった。
比較例2及び3の結果から、CNTを使用せず、TiOのみを添加したターゲットでは、本発明のターゲットと比べて、比抵抗には大きな差異はないが、成膜速度では劣ることがわかった。