特許第6570176号(P6570176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6570176多価カルボン酸およびそれを含有する多価カルボン酸組成物、エポキシ樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、それらの硬化物並びに光半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570176
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】多価カルボン酸およびそれを含有する多価カルボン酸組成物、エポキシ樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、それらの硬化物並びに光半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/10 20060101AFI20190826BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20190826BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20190826BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20190826BHJP
   H01L 23/08 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C08K5/10
   C08L101/00
   H01L23/30 F
   H01L23/08 A
【請求項の数】7
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-163898(P2015-163898)
(22)【出願日】2015年8月21日
(65)【公開番号】特開2017-39894(P2017-39894A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青木 静
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 正人
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直佑
(72)【発明者】
【氏名】川田 義浩
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050978(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/002404(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/067092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 5/10
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1a)で表される、室温で固形である多価カルボン酸を含有する熱硬化性樹脂用硬化剤であって、P〜Pのうち、少なくとも一つが下記式(1c)で表されることを特徴とする熱硬化性樹脂用硬化剤。
【化1】
式(1a)中、P〜Pは、ヒドロキシル基又は炭素数1〜15のカルボキシル基を含有する有機基をそれぞれ表す。式(1a)中、複数存在するP〜Pは同一であっても異なっていても構わないが、複数存在するP〜P中、少なくとも1つ以上は下記式(
1b)または(1c)である。
【化2】
式(1a)〜(1c)中、*印はその場所で結合していることを意味する。式(1b)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはカルボキシル基を表す。
式(1c)中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、mは整数で1〜9をそれぞれ表し、式(1c)中、複数存在するRは同一であっても異なっていても構わない。
【請求項2】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤、並びに、トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物を含有していてもよいことを特徴とする熱硬化性樹脂用硬化剤であり、請求項1に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤:(トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物)が重量比で99:1〜10:90であることを特徴とする熱硬化性樹脂用硬化剤。
【請求項3】
ICIコーンプレート粘度が100〜200℃の範囲で0.01Pa・s〜10Pa・sの範囲にあることを特徴とする、請求項2に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤を含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が30℃以上である熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項に記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化してなる硬化物。
【請求項6】
請求項に記載の硬化物によって封止された光半導体装置。
【請求項7】
請求項に記載の硬化物を反射材として使用した光半導体装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物のガラス転移温度を十分高めることができ、成形性に優れ、硬化物への着色が少ない熱硬化性樹脂用硬化剤、それを用いた熱硬化性樹脂組成物、および、かかる熱硬化性樹脂組成物を封止材あるいは反射材として使用した光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂組成物を半導体の封止材として利用したり、半導体用反射材として利用したりする場合、熱硬化性樹脂組成物が光半導体の発する光を吸収すると光半導体の照度が低下するため、熱硬化性樹脂組成物は高い透過率を有し、着色の少ないものが望ましい。したがって、熱硬化性樹脂組成物に配合される硬化剤にも、高い透過率と着色の少ないことが要求される。また、耐熱性、成型性、信頼性の観点から、硬化物のガラス転移温度が一定温度以上であること重要であり、成形性の観点から硬化剤の軟化点や粘度についても一定の範囲にあることが重要である。
【0003】
熱硬化性樹脂用硬化剤として使用される酸無水物は、揮発性があること、また低融点であることから、金型成形には向かないことが問題となっていた。
【0004】
テトラカルボン酸無水物については、高融点(150℃以上)であるため、液状樹脂組成物としては扱い難く、成形性に劣ることから、液状の樹脂を成形させる用途への使用の困難さを考慮すると、本発明の目的とする用途には向かない。
【0005】
カルボン酸をエポキシ樹脂用硬化剤として使用する例も知られているが、比較的融点が高く(150℃以上)上記と同様の課題があり、それだけでなく加熱すると着色しやすいため高い透過率を確保することが極めて困難であることから本発明の目的とする用途には向かない。
【0006】
同様に、ポリカルボン酸化合物についても、高融点(150℃以上)であること、結晶性が高く樹脂混練が難しいこと、また着色があることが問題となり本発明の目的とする用途では使用できない。
そのため、従来知られている材料として、上記課題を解決できる化合物を見出せていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特許第3765946号公報
【特許文献2】国際公開第2005/049597号
【特許文献3】国際公開第2005/121202号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
硬化物のガラス転移温度を十分高めることができ、成形性に優れ、硬化物への着色が少ない多価カルボン酸、それを用いた熱硬化性樹脂組成物、および、かかる熱硬化性樹脂組成物を封止材あるいは反射材として使用した半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、硬化性樹脂組成物が本願式(1a)で表されるイソシアヌル環を有する多価カルボン酸を含有することで、硬化物とした際に十分なガラス転移温度を有し、成形性に優れ、硬化物にした際の着色が少ないことを見出したものである。
【0010】
即ち、本願発明は下記(1)〜(9)に関する。
(1)下記式(1a)で表される多価カルボン酸を含有する熱硬化性樹脂用硬化剤。
【化1】
式(1a)中、P〜Pは、ヒドロキシル基又は炭素数1〜15のカルボキシル基を含有する有機基をそれぞれ表す。式(1a)中、複数存在するP〜Pは同一であっても異なっていても構わないが、複数存在するP〜P中、少なくとも1つ以上は下記式(1b)または(1c)である。
【化2】
式(1a)〜(1c)中、*印はその場所で結合していることを意味する。
式(1b)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはカルボキシル基を表す。
式(1c)中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、mは整数で1〜9をそれぞれ表し、式(1c)中、複数存在するRは同一であっても異なっていても構わない。
(2)(1)に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤のP〜Pのうち、少なくとも一つが下記式で表されることを特徴とする熱硬化性樹脂用硬化剤。
【化3】
式(1c)中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、mは整数で1〜9をそれぞれ表し、式(1c)中、複数存在するRは同一であっても異なっていても構わない。
(3)(1)に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤、並びに、トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物を含有していてもよいことを特徴とする熱硬化性樹脂用硬化剤であり、請求項1に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤:(トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物)が重量比で99:1〜10:90であることを特徴とする熱硬化性樹脂用硬化剤。
(4)ICIコーンプレート粘度が100〜200℃の範囲で0.01Pa・s〜10Pa・sの範囲にあることを特徴とする、(3)に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤。
(5)軟化点が20℃〜150℃の範囲にあることを特徴とする、(3)又は(4)のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤。
(6)(1)〜(5)のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂用硬化剤を含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)が30℃以上である熱硬化性樹脂組成物。
(7)(6)に記載の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化してなる硬化物。
(8)(7)に記載の硬化物によって封止された光半導体装置。
(9)(7)に記載の硬化物を反射材として使用した光半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、硬化物の十分なガラス転移温度を有し、成形性に優れ、硬化物にした際の着色が少ない多価カルボン酸、それを用いた熱硬化性樹脂組成物、およびその熱硬化性樹脂組成物を封止材あるいは反射材として使用した光半導体装置を提供できる。さらに、軟化点を抑えることで取扱いが容易になるとともに、十分な混練が可能となり硬化物性に優れる硬化物を提供することが可能となる。また硬化物の強靭性、樹脂の反応性にも優れた熱硬化性樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤、熱硬化性樹脂組成物は、下記式(1a)で表される多価カルボン酸(A)を含有することを特徴とする。
【化4】
式(1a)中、P〜Pは、ヒドロキシル基又は炭素数1〜10のカルボキシル基を含有する有機基をそれぞれ表す。式(1a)中、複数存在するP〜Pは同一であっても異なっていても構わないが、複数存在するP〜P中、少なくとも1つは下記式(1b)および/または(1c)である。少なくとも2つであると硬化物の機械強度が優れるため好ましい。
【化5】
式(1b)〜(1c)中、*印はその場所で(1a)のP〜Pに隣接する炭素原子と結合していることを意味する。
式(1b)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはカルボキシル基を表す。
式(1c)中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、mは整数で1〜9をそれぞれ表し、式(1c)中、複数存在するRは同一であっても異なっていても構わない。Rの中の炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。mは、得られる硬化物の耐熱性の観点から、1〜5が好ましく、1〜2が特に好ましい。
即ち、上記式(1a)で表される化合物において、複数存在するP〜P中、全水酸基を100モル%とした場合、25モル%以上は下記式(1b)および/または(1c)である。また、少なくとも50モル%が下記式(1b)および/または(1c)を含有する有機基であると硬化物の機械強度が優れるため好ましい。
また、上記式(1a)の含有割合は下記式(5)と下記式(6)〜(7)の反応により得られた多価カルボン酸樹脂中、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定で60面積%以上であることが好ましく、70面積%以上であることがより好ましい。
【0013】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤は、上記式(1a)で表される多価カルボン酸と共に、上記式(1d)の多量体の多価カルボン酸を含有させることができる。多量体が含有することで、得られた硬化物が強靭性を備えることができることから好ましい。
【化6】
式(1d)中、P〜Pはヒドロキシル基、上記式(1b)ないし(1c)等の炭素数1〜10のカルボキシル基を含有する有機基、下記式(1e)または下記式(1f)をそれぞれ表す。複数存在するP〜Pは同一であっても異なっていても構わないが、複数存在するP〜P中、少なくとも1つ以上は下記式(1e)および/または(1f)を示す。
【化7】
式(1e)〜(1f)中、*印はその場所で(1d)のP〜Pに隣接する炭素原子と結合していることを意味する。
式(1e)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはカルボキシル基を表す。
式(1f)中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、mは整数で1〜9をそれぞれ表し、式(1f)中、複数存在するRは同一であっても異なっていても構わない。Rの中の炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。mは、得られる硬化物の耐熱性の観点から、1〜5が好ましく、1〜2が特に好ましい。
2量体としては、多価カルボン酸中、上記式(1e)または上記式(1f)が1つ存在し、*印の場所で(1d)のP〜Pに隣接する炭素原子と結合しており、残りのP〜Pがヒドロキシル基、上記式(1b)ないし(1c)等の炭素数1〜10のカルボキシル基を含有する有機基である構造が挙げられる。
さらに、3量体は上記式(1d)および/または式(1e)が2つ存在し、*印の場所で(1d)のP〜Pに隣接する炭素原子と結合しており、残りのP〜Pがヒドロキシル基、上記式(1b)ないし(1c)等の炭素数1〜10のカルボキシル基を含有する有機基である構造が挙げられる。
上記2量体の含有割合は下記式(5)と下記式(6)〜(7)の反応により得られた多価カルボン酸樹脂中、GPCによる測定で1〜30面積%であることが好ましく、10〜20面積%であることがより好ましい。
また、上記3量体の含有割合は下記式(5)と下記式(6)〜(7)の反応により得られた多価カルボン酸樹脂中、GPCによる測定で1〜10面積%であることが好ましく、3〜8面積%であることがより好ましい。
【0014】
式(1a)中、複数存在するP〜Pはそれぞれ互いに同一であっても異なっていても構わない。
【0015】
式(1a)で表される多価カルボン酸(A)は、下記式(5)で表される、ジトリメチロールプロパンと、下記式(6)〜(7)で表される化合物から選ばれる1種以上のカルボン酸無水物化合物との付加反応により得ることができる。
【0016】
【化8】
【0017】
【化9】
【化10】
【0018】
式(6)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはカルボキシル基を表す。
式(7)中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を、mは整数で1〜9をそれぞれ表し、式(1c)中、複数存在するRは同一であっても異なっていても構わない。Rの中の炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。mは、得られる硬化物の耐熱性の観点から、1〜5が好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0019】
式(6)で表される化合物のうち、下記(8)〜(10)で表される化合物が特に好ましい。
【0020】
【化11】
【0021】
式(7)で表される化合物のうち、下記式(11)〜(13)で表される化合物が特に好ましい。
【0022】
【化12】
【化13】
【化14】
【0023】
本発明の多価カルボン酸(A)の製造は、溶媒中でも無溶剤でも行うことができる。溶剤としては、前述の式(5)で表されるジトリメチロールプロパンと式(6)および/または(7)で表されるカルボン酸無水物化合物と反応しない溶剤であれば特に制限なく使用できる。使用しうる溶剤としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトニトリルの様な非プロトン性極性溶媒、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素等が挙げられ、これらの中で、芳香族炭化水素やケトン類が好ましい。
これらの溶剤は1種又は2種以上を混合して用いても良い。溶剤を用いる場合の使用量は、前述の式(5)で表されるジトリメチロールプロパンと式(6)および/または(7)で表されるカルボン酸無水物化合物の合計100質量部に対して、0.5〜300質量部が好ましい。
【0024】
本発明の多価カルボン酸(A)は室温(25℃)にて固体であることが多いため、溶剤中で合成することが作業性の観点から好ましい。
【0025】
本発明の多価カルボン酸(A)は無触媒でも、触媒を用いても製造する事ができる。触媒を用いる場合、用い得る触媒は、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸等の酸性化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等の複素環式化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルプロピルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルセチルアンモニウムヒドロキシド、トリオクチルメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムアセテート、トリオクチルメチルアンモニウムアセテート等の4級アンモニウム塩、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラメチル等のオルトチタン酸類、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸マンガン、オクチル酸カルシウム、オクチル酸ナトリウム、オクチル酸カリウム等の金属石鹸類が挙げられる。
触媒を用いる場合、1種または2種以上を混合して用いることもできる。
触媒を用いる場合の使用量は、前述の式(5)で表されるジトリメチロールプロパンと式(6)および/または(7)で表されるカルボン酸無水物化合物の合計100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましい。
触媒の添加方法は、直接添加するか、可溶性の溶剤等に溶解させた状態で使用する。この際、メタノール、エタノール等のアルコール性の溶媒や水を用いることは、未反応の、式(6)および/または(7)で表されるカルボン酸無水物化合物と反応してしまうため、避けることが好ましい。
本発明においては、得られる熱硬化性樹脂組成物(C)の硬化物において、透明性、耐熱透明性を向上させる観点からはオクチル酸亜鉛等のカルボン酸亜鉛を触媒として好ましく使用することができ、得られる多価カルボン酸(A)又は熱硬化性樹脂組成物(C)の着色を低減させる観点からは無触媒で反応を行うことが好ましい。
中でも、透明性、耐硫化性に優れる硬化物を得るために、特にステアリン酸カルシウム、カルボン酸亜鉛(2−エチルヘキサン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、ミスチリン酸亜鉛)やリン酸エステル亜鉛(オクチルリン酸亜鉛、ステアリルリン酸亜鉛等)等の亜鉛化合物が好ましく使用できる。
【0026】
本発明の多価カルボン酸(A)の製造時の反応温度は、触媒量、使用溶剤にもよるが、通常20〜160℃、好ましくは50〜150℃、特に好ましくは60〜145℃である。又、反応時間の総計は通常1〜20時間、好ましくは3〜18時間である。反応は2段階以上で行なっても良く、例えば20〜100℃で1〜8時間反応させた後に、100〜160℃で1〜12時間などで反応させても良い。これは特に式(6)で表されるカルボン酸無水物化合物は揮発性の高いものが多く、そのようなものを用いる場合、あらかじめ20〜100℃で反応させた後に、100〜160℃で反応させることで、揮発を抑えることができる。これにより、大気中への有害物質の拡散を抑制するだけでなく、設計どおりの多価カルボン酸(A)を得ることができる。
【0027】
触媒を用いて製造を行なった場合は必要に応じてクエンチ、および/又は水洗を行なうことで触媒を除くことができるが、そのまま残存させ、多価カルボン酸(A)および/又は熱硬化性樹脂組成物(C)を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化促進剤として利用することもできる。
水洗工程を行なう場合、使用している溶剤の種類によっては水と分離可能な溶剤を加えることが好ましい。好ましい溶剤としては例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンのようなケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、ブタン酸イソプロピルなどのエステル類、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンのような炭化水素等が例示できる。
反応や水洗に溶剤を用いた場合、減圧濃縮などによって除くことができる。
【0028】
製造された本発明の多価カルボン酸(A)の酸価(JIS K−2501に記載の方法で測定)は150〜415mgKOH/gのものが好ましく、185〜375mgKOH/gのものがより好ましく、特に200〜320mgKOH/gのものが好ましい。酸価が150mgKOH/g以上であれば硬化物の機械特性が向上するため好ましく、415mgKOH/g以下であれば、その硬化物が硬くなり過ぎず、弾性率が適度なものとなり好ましい。
また、本発明の多価カルボン酸(A)の官能基当量は、135〜312g/eqのものが好ましく、150〜300g/eqのものがより好ましく、特に180〜280g/eqが好ましい。
【0029】
本発明の多価カルボン酸(A)を用いることで、優れた耐久性を実現することができるとともに、混練に適した熱硬化性樹脂用硬化剤を得ることが可能となる。本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤はICIコーンプレート粘度が100〜200℃の範囲で、0.01〜10Pa・sであること、および室温で固形であることから、液状の場合にはプレポリマー化などの前処理なしでは不可能であった混練が、前処理なしで可能となる。また固形であるため、タブレットとして成形しやすい点にも特徴を有している。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤においては、ICIコーンプレート粘度が100〜200℃の範囲で、0.01〜10Pa・sであることを特徴とする。
当該範囲に調整することにより、常温(25℃)で固形となり、成形が容易となり、ボイド等の不具合を効果的に防止することができるようになるためである。また、このような低粘度の熱硬化性樹脂用硬化剤、熱硬化性樹脂組成物に設定することで、従来結晶性を有するため軟化点あるいは融点が高く、混練が困難であった各成分が硬化剤に十分に溶融・分散するため、結晶が崩れ、主剤となるエポキシ樹脂と十分混練されることとなり、各成分が効果的に配列し、優れた物性を有する硬化物を得ることができる。軟化点においては、40〜130℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましく、特には70〜100℃であることが好ましい。このような軟化点にあることで、十分な混練を行うことが可能となる。
また、本発明の多価カルボン酸組成物、熱硬化性樹脂用硬化剤は、軟化点が20〜150℃であることが好ましく、50〜130℃であることがより好ましい。
当該範囲に調整することにより、各種成分をミキサー等によって容易に撹拌、混合することができ、それをされにミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等によって混練または溶融混練し、冷却、粉砕することが可能となる。
【0031】
次に本発明の熱硬化性樹脂組成物について説明する。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記式(1)で表される多価カルボン酸(A)とその他の成分を含む樹脂組成物である。本発明の多価カルボン酸組成物においては、熱硬化性樹脂用硬化剤を含有させることができる。好適な熱硬化性樹脂用硬化剤としては、トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物が挙げられる。
【0032】
トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸が存在すると架橋密度の高い硬化物が得られるため、高いガラス転移温度を有する硬化物を得ることができる。しかしながら、トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、および水添ピロメリット酸無水物などのカルボン酸あるいは酸無水物は、結晶性を有するため軟化点あるいは融点が高く、具体的な融点は150℃〜300℃であるため、成型する際に問題となることがある。一方、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ジエチルグルタル酸については、融点が室温以下であるため、成形する際に問題となる。トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸のうち、着色しにくさの点で、シクロヘキサントリカルボン酸、およびシクロヘキサントリカルボン酸無水物、水添ピロメリット酸、水添ピロメリット酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸が好ましく、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸がさらに好ましい。
シクロヘキサントリカルボン酸無水物としては、シクロヘキサン‐1、2、4‐トリカルボン酸‐1、2‐無水物が、シクロヘキサン‐1、2、3‐トリカルボン酸‐1、2‐無水物が挙げられる。本発明では、これらの酸無水物を組み合わせて使用することもできるが、シクロヘキサン‐1、2、4‐トリカルボン酸‐1、2‐無水物が好ましい。
【0033】
トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物の合計が、熱硬化性樹脂組成物に占める割合が1重量%〜90重量%であることを特徴とする。1重量%より低いとガラス転移温度が十分に高くならず、90重量%より高いと融点が高すぎるか低すぎるために取扱いが困難になる。より好ましくは1〜50重量%であり、さらに好ましくは1〜30重量%である。
【0034】
また、本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤の成分として含有させることができる末端カルボン酸のオリゴエステルは、下記式(14)で表される。
具体的な構造式としては、下記式(14)
【化15】
(式中、複数存在するPは0〜6の酸素原子、窒素原子、リン原子を含んでもよい、炭素数2〜20の多価アルコールの残基を、Rは炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を示す。複数存在するn、kは独立して存在し、平均で1〜6を示す。またnの総計は2以上12以下である。)
の構造を有し、分子内にエステル構造(好ましくは2つのエステル構造)を有する化合物である。また末端に複数のカルボキシル基を有する化合物である。
中でも、前記式(14)の末端カルボン酸のオリゴエステルが炭素数6以上の2〜6官能の多価アルコールと飽和脂肪族環状酸無水物とのエステル化反応により得られた化合物であることが好ましい。
より具体的には、前記式(14)に記載の末端カルボン酸のオリゴエステルにおいて、連結基Rは炭素数4〜10のシクロアルカン骨格、もしくはノルボルナン骨格が好ましく、シクロアルカン骨格においては置換、もしくは無置換のシクロヘキサン構造、特にメチル基を具備するメチルシクロヘキサン構造がその硬化物における光学特性から好ましい。またノルボルナン骨格としてはノルボルナン、メチルノルボルナン構造が好ましい。ここで、置換されたものにおいて適用できる置換基としては、炭素数1〜3のアルキル基、カルボキシル基等が挙げられる。
連結基Pは炭素数2〜10の多価アルコールの残基(反応に用いた多価アルコールから水酸基を除いた残基)であるが、分岐鎖状の架橋基、もしくはシクロアルキル基が好ましく、特にPは下記(a)又は(b)で定義される2価の架橋基であることが好ましい。
(a)炭素数6〜20の分岐構造を有する鎖状アルキル鎖であり、該鎖状アルキル鎖が炭素数3〜12の直鎖の主鎖と、2〜4個の側鎖を有し、かつその側鎖の少なくとも1つが炭素数2〜10である架橋基、
又は、
(b)シクロ環上にメチル基を有してもよい、トリシクロデカンジメタノール又はペンタシクロペンタデカンジメタノール、から選ばれる少なくとも1種の架橋多環ジオールから、2つの水酸基を取り除いた2価の架橋基
但し、Pが(b)の場合、好ましいものは連結基Rが炭素数4〜10のシクロアルカン骨格又はノルボルナン骨格のときは、後述する式(2A)において置換基Rが水素原子以外の基を表すことがより好ましい。
尚、上記オリゴエステルの軟化点は通常50℃以上であるが、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。上限値に特に制限はないが通常500℃以下であり、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明における上記特に好ましい末端カルボン酸のオリゴエステルは、炭素数6以上の2〜6官能の多価アルコールと飽和脂肪族環状酸無水物とを、付加反応させることにより得ることができる。
本発明における末端カルボン酸のオリゴエステルは、2種の末端カルボン酸のオリゴエステルを含む組成物であってもよい。末端カルボン酸のオリゴエステルを少なくとも2種含む末端カルボン酸のオリゴエステル組成物を得る方法としては、上記方法で得られた単一の末端カルボン酸のオリゴエステルを少なくとも2種を混合する方法、または、上記の末端カルボン酸のオリゴエステルを合成する際に、上記飽和脂肪族環状酸無水物として、下記で選ばれる飽和脂肪族環状酸無水物から少なくとも2種の混合物を使用するか、前記多価アルコールを2種使用して、付加反応を行う方法がある。
【0036】
末端カルボン酸のオリゴエステルの合成に用いる飽和脂肪族環状酸無水物としては、シクロヘキサン構造を有し、該シクロヘキサン環上にメチル基置換又はカルボキシル基置換を有し、又は無置換であり、シクロヘキサン環に結合した酸無水物基を分子内に1つ以上(好ましくは1つ)有する化合物を挙げることができる。
具体的にはヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、およびシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、および水添ピロメリット酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸無水物が挙げられる。
【0037】
本発明における末端カルボン酸のオリゴエステルの合成に用いる炭素数6以上の2〜6官能の多価アルコールとしては、具体的には、前記式(14)中の架橋基Pの末端に水酸基を付けた末端カルボン酸のオリゴエステルを挙げることができる。
前記式(14)において、Pで表される架橋基は、好ましくは前記(a)または(b)で定義される2価の架橋基であり、それらについて以下に具体的に説明する。
前記(a)で定義される2価の架橋基は、炭素数6〜20の分岐構造を有する2価のアルコール(ジオール)から、水酸基を除いた2価の鎖状アルキル鎖であり、ジオールの2個のアルコール性水酸基に挟まれたアルキル鎖を主鎖とし、該アルキル鎖から分岐したアルキル鎖(側鎖という)を有する構造である。該側鎖は、主鎖を構成するいずれの炭素原子から分岐していてもよく、例えばアルコール性水酸基が結合していた炭素原子(主鎖の末端炭素原子)から分岐している場合も含む。該構造を有する架橋基であれば何れでもよく、このような架橋基の具体例を下記式(a1)に示す。
【化16】
前記式中、*印で式(14)におけるPの両側の酸素原子と結合する。
上記(a)で定義されるアルキレン架橋基は、主鎖アルキレン基に対し、アルキル分岐鎖(側鎖)を有する構造であれば特に制限はないが、主鎖の炭素数が3以上の主鎖であり、少なくとも1個のアルキル側鎖を有するものが好ましく、またアルキル側鎖を2つ以上有するものが特に好ましい。より好ましいものとしては、炭素数3〜12の直鎖の主鎖と、2〜4個の側鎖を有し、かつその側鎖の少なくとも1つが炭素数2〜10である架橋基を挙げることができる。この場合、側鎖の少なくとも2つが炭素数2〜10である架橋基は更に好ましい。また、2〜4個の側鎖は主鎖の異なる炭素原子から分岐していることが好ましい。
より具体的な化合物としては前記式(a1)に記載した架橋基において、*印の位置にヒドロキシル基が結合した化合物を挙げることができる。
原料として使用する多価アルコールの中では、少なくとも2個の側鎖を有し、該側鎖の中で少なくとも2個が炭素数2〜4の側鎖である多価アルコールが好ましい。
このような骨格の中で特に好ましい多価アルコールとしては2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられ、特に2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールが挙げられる。
【0038】
前記(b)で定義される架橋基としては、下記式(b1)で表される2価の基を挙げることができる。
【化17】
前記(b)で定義される架橋基の場合の、架橋多環ジオール残基としては、トリシクロデカン構造、ペンタシクロペンタデカン構造を主骨格とするジオール残基であり、下記式(b2)で表される。
【0039】
【化18】
式中、複数存在するRはそれぞれ独立して、水素原子、もしくはメチル基を表す。これらの中で、Rが全て水素原子である架橋基が好ましい。
具体的にはトリシクロデカンジメタノール、メチルトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールなどが挙げられる。
【0040】
酸無水物と多価アルコールの反応としては一般に酸や塩基を触媒とする付加反応であるが、本発明においては特に無触媒での反応が好ましい。
触媒を用いる場合、使用しうる触媒としては、例えば塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸等の酸性化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等の複素環式化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルプロピルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルセチルアンモニウムヒドロキシド、トリオクチルメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムアセテート、トリオクチルメチルアンモニウムアセテート等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの触媒は1種又は2種以上を混合して用いても良い。これらの中で、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジンが好ましい。
【0041】
触媒の使用量には、特に制限はないが、原料の総重量100重量部に対して、通常0.001〜5重量部を、必要により使用するのが好ましい。
本反応においては無溶剤での反応が好ましいが、有機溶剤を使用しても構わない。有機溶剤の使用量としては、反応基質である前記酸無水物と前記多価アルコールの総量1部に対し、重量比で0.005〜1部であり、好ましくは0.005〜0.7部、より好ましくは0.005〜0.5部(すなわち50重量%以下)である。有機溶剤の使用量が上記反応基質1重量部に対して、重量比で1部を超える場合、反応の進行が極度に遅くなることから好ましくない。使用できる有機溶剤の具体的な例としてはヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等のアルカン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、アノン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、蟻酸メチルなどのエステル化合物などが使用できる。
【0042】
本反応は20℃程度の温度でも十分に反応は進行する。反応時間の問題から反応温度は30〜200℃が好ましく、より好ましくは40〜200℃、特に好ましくは40〜150℃である。特に本反応を無溶剤で行う場合は、酸無水物の揮発があるため、100℃以下での反応が好ましく、30〜100℃または40〜100℃での反応が特に好ましい。
【0043】
前記酸無水物と前記多価アルコールとの反応比率は理論的には等モルでの反応が好ましいが、必要に応じて変更可能である。
反応させる際の具体的な両者の仕込み比率としては、その官能基当量で、該酸無水物基1当量に対して、該多価アルコールを、その水酸基当量で、0.001〜2当量、より好ましくは0.01〜1.5当量、さらに好ましくは0.1〜1.2当量となる割合で仕込むのが好ましい。
本発明においては得られる末端カルボン酸のオリゴエステルが固形であることが好ましく、固形の樹脂状末端カルボン酸のオリゴエステルを得るためには、理想的には等モル当量以上の多価アルコールを使用することが好ましいが、フィラーを添加するため流動性が重要となり、この流動性を確保する為に、その粘度バランスから、固形を保つ範囲(軟化点50℃以上)で多少のバランスを崩しても構わない。
具体的には、酸無水物当量に対し、アルコール性水酸基の当量比において0.85〜1.20モル当量が好ましく、特に0.90〜1.1.0モル当量が好ましい。
【0044】
反応時間は反応温度、触媒量等にもよるが、工業生産という観点から、長時間の反応は多大なエネルギーを消費することになるため好ましくはない。また短すぎる反応時間はその反応が急激であることを意味し、安全性の面から好ましく無い。好ましい範囲としては1〜48時間、好ましくは1〜36時間、より好ましくは1〜24時間、更に好ましくは2〜10時間程度である。
【0045】
反応終了後、触媒を用いた場合は、それぞれ中和、水洗、吸着などによって触媒の除去を行い、溶剤を留去することで目的とする末端カルボン酸のオリゴエステルが得られる。一方、無触媒で反応を行った場合は必要に応じて溶剤を留去することで目的とする末端カルボン酸のオリゴエステルが得られる。また、溶剤を使用した場合には、溶剤を除去することで目的とする末端カルボン酸のオリゴエステルが得られる。さらに無溶剤、無触媒の場合はそのまま取り出すことで製品とすることができる。
【0046】
最も好適な製造方法としては、前記酸無水物、前記多価アルコールを、無触媒の条件下、40〜150℃で反応させ、溶剤を除去したのち取り出すという手法である。
【0047】
このようにして得られる前記末端カルボン酸のオリゴエステルまたは該末端カルボン酸のオリゴエステルを含む組成物は、通常、無色〜淡黄色の固形の樹脂状を示す(場合によっては結晶化する)。該末端カルボン酸のオリゴエステルの軟化点は50〜190℃であることが好ましく、55〜150℃であることがより好ましく、60〜120℃であることが特に好ましい。このような軟化点を有する末端カルボン酸のオリゴエステルを液状とすることなく直接熱硬化性樹脂組成物中に混ぜることで、極めて高い反射率保持率を有することとなり、耐熱試験にかけた際にも反射率が低下し難い反射部材を提供することが可能となる。
通常、架橋基が、(a)で定義される側鎖を有するアルキレン基である場合、無色〜淡黄色の固形の樹脂状を示す。
本発明においては、末端カルボン酸のオリゴエステルを含む熱硬化性樹脂組成物を使用する最適な方法が、トランスファーで成形であることから、末端カルボン酸のオリゴエステルは固形の樹脂状である。
架橋基が(b)で定義される架橋基の場合、脂肪族炭化水素基が炭素数4〜10のシクロアルカン骨格又はノルボルナン骨格であるとき、脂環式の置換基の全てが水素原子の末端カルボン酸のオリゴエステルは、硬化時の着色が見られ、特に厳しい光学用途には好適ではない。脂肪族炭化水素基が炭素数4〜10のシクロアルカン骨格又はノルボルナン骨格であるとき、置換基がメチル基またはカルボキシル基の化合物ではそのような着色は少なく、その光学特性が向上する。
前記(a)で定義される架橋基の化合物においても、脂肪族炭化水素基が炭素数4〜10のシクロアルカン骨格又はノルボルナン骨格であるとき、置換基がメチル基またはカルボキシル基の化合物の場合の方が、光学特性が向上し、好ましい。
すなわち、本発明の末端カルボン酸のオリゴエステル組成物として、炭素数4〜10のシクロアルカン骨格又はノルボルナン骨格であるとき、置換基は好ましくはメチル基もしくはカルボキシル基、又は両者を有する式(14)の末端カルボン酸のオリゴエステルを含む組成物が好ましい。該末端カルボン酸のオリゴエステルを2種以上含む末端カルボン酸のオリゴエステル組成物の場合、少なくとも当該置換基が水素原子でない式(1)の末端カルボン酸のオリゴエステル(当該置換基が前記アルキル基、好ましくはメチル基、又はカルボキシル基の末端カルボン酸のオリゴエステル)、を、末端カルボン酸のオリゴエステルの総量に対して、50モル%以上含む組成物が好ましい。より好ましくは、当該置換基が水素原子でない式(14)の末端カルボン酸のオリゴエステルを70モル%以上、最も好ましくは90モル%以上含む末端カルボン酸のオリゴエステル組成物が好ましい。残部が、Rが水素原子である下記式(2A)の末端カルボン酸のオリゴエステルである。
本発明において好適な末端カルボン酸のオリゴエステルとしては、下記式(2A)で表される末端カルボン酸のオリゴエステルが用いられる。
【化19】
(上記式中、Pは上記と同じ意味を表し、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基またはカルボキシル基を表す。)
ここで、上記式(2A)においては、上記に記載の通りの理由により、Rが炭素数1〜3のアルキル基またはカルボキシル基を好適に使用できる。
末端カルボン酸オリゴエステルは、数平均分子量Mnが300以上である末端カルボン酸のオリゴエステルであることが好ましい。
【0048】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物においては、上記式(1a)で表される多価カルボン酸とトリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物の混合物における官能基当量が250g/eq.以下であることが好ましく、240g/eq.以下であることがより好ましく、230g/eq.以下であることが特に好ましい。このような範囲であることで、トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物の化合物量の効果が有効に発揮され、耐熱性に優れた硬化物を得ることが可能となる。
また、重量比としては、上記式(1a)で表される多価カルボン酸:(トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物)が99:1〜10:90であることが好ましく、90:10〜20:80がより好ましい。上記比率にあることで、極めて耐熱性に優れるとともに、粘度も低く十分に混練することが可能となることから硬化物性にも優れる熱硬化性樹脂組成物となる。
また、上記式(1a)で表される多価カルボン酸(A)及び、トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物とを含む熱硬化性樹脂用硬化剤であり、トリメリット酸、無水トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、ピロメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物、グルタル酸、およびジエチルグルタル酸から選ばれる1種または2種以上の化合物の合計が、熱硬化性樹脂組成物に占める割合が1重量%〜90重量%であることが好ましい。当該重量%であることで、混練性および成型性が向上し、硬化物性にも優れる熱硬化性樹脂組成物となる。
【0049】
併用しうる硬化剤としては、例えばアミン系化合物、不飽和環構造を有する酸無水物系化合物、オルガノシロキサン骨格を有する酸無水物、アミド系化合物、フェノール系化合物、カルボン酸系化合物などが挙げられる。用いうる硬化剤の具体例としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンより合成されるポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ブタンテトラカルボン酸無水物、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、テルペンジフェノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシアセトフェノン、o−ヒドロキシアセトフェノン、ジシクロペンタジエン、フルフラール、4,4’−ビス(クロロメチル)−1,1’−ビフェニル、4,4’−ビス(メトキシメチル)−1,1’−ビフェニル、1,4’−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4’−ビス(メトキシメチル)ベンゼン等との重縮合物及びこれらの変性物、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類、イミダゾール、トリフルオロボラン−アミン錯体、グアニジン誘導体、テルペンとフェノール類の縮合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0050】
本発明における熱硬化性樹脂組成物とは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂等を含有する組成物であり、本発明においては、エポキシ樹脂を使用することが望ましい。
【0051】
エポキシ樹脂としては、従来の熱硬化性樹脂組成物やエポキシ樹脂組成物として通常配合されているものであれば、特に制限されることなく用いることができる。例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換ビスフェノール等のジグリシジルエーテル、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる脂環式エポキシ樹脂、ジグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、シルセスキオキサン化合物等が挙げられ、これらは単独でも二種以上併用してもよい。これらエポキシ樹脂のうち、高い耐熱性を有するものが好ましいことから、具体的には、溶融粘度、得られる硬化物の着色およびガラス転移温度等の観点から、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートが好ましい。
【0052】
エポキシ樹脂と本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤の配合比は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、当該エポキシ基と反応可能な熱硬化性樹脂用硬化剤中の活性基(酸無水物基や水酸基)が0.5〜1.5当量(カルボン酸を1官能、酸無水物を1官能と考える)が好ましく、特に好ましくは0.5〜1.2当量である。エポキシ基1当量に対して、0.5当量に満たない場合、あるいは1.5当量を超える場合、いずれも硬化が不完全となり良好な硬化物性が得られない恐れがあるほか、着色しやすくなる問題もある。
【0053】
本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を添加することができる。硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6(2'−メチルイミダゾール(1'))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2'−ウンデシルイミダゾール(1'))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2'−エチル,4−メチルイミダゾール(1'))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2'−メチルイミダゾール(1'))エチル−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールイソシアヌル酸の2:3付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−3,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−3,5−ジシアノエトキシメチルイミダゾールの各種イミダゾール類、及び、それらイミダゾール類とフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、マレイン酸、蓚酸等の末端カルボン酸のオリゴエステルとの塩類、ジシアンジアミド等のアミド類、1,8−ジアザ−ビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7等のジアザ化合物及びそれらのテトラフェニルボレート、フェノールノボラック等の塩類、前記末端カルボン酸のオリゴエステル類、又はホスフィン酸類との塩類、テトラブチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム塩(好ましくはC1〜C20アルキルアンモニウム塩、トリフェニルホスフィン、トリ(トルイル)ホスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のホスフィン類やホスホニウム化合物、2,4,6−トリスアミノメチルフェノール等のフェノール類、アミンアダクト、オクチル酸スズ、オクタン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト等の金属化合物等、及びこれら硬化促進剤をマイクロカプセルにしたマイクロカプセル型硬化促進剤等が挙げられる。これら硬化促進剤のどれを用いるかは、例えば透明性、硬化速度、作業条件といった得られる透明樹脂組成物に要求される特性によって適宜選択される。本発明において好ましいものとしては、ホスホニウム化合物(より好ましくは4級ホスホニウム)またはステアリン酸亜鉛が挙げられる。
硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対し通常0.001〜15重量部、好ましくは0.01〜5重量部の範囲で使用される。
【0054】
必要に応じて、上述した添加剤以外の添加剤として、一般によく使用されるエポキシ樹脂用添加剤、例えば、顔料、染料、蛍光増白剤、補強材、充填剤、核剤、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、流動性調整剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤を添加してもよい。
【0055】
成形時の高温条件下における熱硬化性樹脂用硬化剤の溶融粘度が、従来の酸無水物硬化剤等より高いことが望ましく、具体的には、成型温度領域である100℃〜200℃で0.01Pa・s〜10Pa・sにすることが望ましい。0.01Pa・sより小さいと、バリが生じやすい。一方、10Pa・sより大きいと生産性が低下する。
本実施形態においては、150℃における熱硬化性樹脂用硬化剤のICI粘度が0.01Pa・s〜10Pa・sであることが好ましく、0.05Pa・s〜5Pa・sであることがより好ましい。
【0056】
軟化点は20℃〜150℃の範囲にあることが望ましい。より具体的には、30℃〜130℃の範囲にあることが好ましく、40℃〜120℃の範囲にあることがより好ましい。
【0057】
硬化物のガラス転移温度は、成形温度よりも高いことが望ましい。硬化物のガラス転移温度が成形温度以下であると、金型の中にある硬化物は低弾性のゴム状態であるため、ゴム状硬化物を金型から取り出すことになり、イジェクターを押し込む際に、変形するなどして不具合が生じるおそれがある。具体的には、ガラス転移温度は30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。
ここで、本願発明において、硬化物のガラス転移温度は、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましい。
【0058】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記した各種成分を均一に分散混合することで得られる。その方法については特に限定されないが、各種成分をミキサー等によって十分均一に撹拌、混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等によって混練または溶融混練し、冷却、粉砕する方法を挙げることができる。混練または溶融混練の条件は、成分の種類や配合量により決定すればよく、特に限定されないが、20〜100℃の範囲で5〜40分間混練することがより好ましい。混練温度が20℃未満であると、各成分の分散性が低下し、十分に混練させることが困難であり、100℃よりも高温であると、樹脂組成物の架橋反応が進行し、樹脂組成物が硬化してしまう恐れがある。
【0059】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、加熱成型前、0〜30℃の室温において加圧(タブレット)成型可能であることが望ましい。加圧成型は、例えば、0.01〜10MPa、1〜5秒程度の条件下で行う方法が挙げられる。また、加圧(タブレット)成型時に用いる金型は、特に限定されないが、例えば、セラミックス系材料やフッ素系樹脂材料等からなる杵型(上金型)と臼型(下金型)とで構成されるものを用いることが好ましい。
【0060】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高いガラス転移温度および高い透過率を必要とする光半導体封止材料、光半導体用反射材などの用途において有用である。
【0061】
光反射用として使用する場合において、製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明の熱硬化性樹脂組成物をトランスファー成型によって製造することが好ましい。本発明の熱硬化性樹脂組成物を金型に注入し、例えば、金型温度150〜190℃、成形圧力2〜20MPaの条件下で、60〜800秒間硬化させた後に金型から取り出し、アフターキュア温度150℃〜180℃で1〜5時間にわたって熱硬化させる。
(半導体装置)
本発明の半導体装置は、代表的な構造について具体例を例示すると、国際公開第2012−124147号に記載の通り、基板上に円筒状の中空部を有する光反射防止部材を配置し、円筒状の中空部の内部空間において基板上に光半導体素子を配置する。そして、光半導体素子の一端部と基板をワイヤーで繋げ、上記中空部に封止樹脂が封入された構成を有している。
【0062】
以下、本発明を実施例により詳述するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。また合成例において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)、ICI粘度、軟化点の各測定は以下の通り行った。
1)GPC
カラムは、Shodex SYSTEM−21カラム(KF−803L、KF−802.5(×2本)、KF−802)、連結溶離液はテトラヒドロフラン、流速は1ml/min.カラム温度は40℃、また検出はRI(Reflective index)で行い、検量線はShodex製標準ポリスチレンを使用した。また官能基当量はGPCより算出した比率より算出し、カルボン酸、酸無水物をそれぞれ1当量として値を求めた。
2)ICI粘度
150℃におけるコーンプレート法における溶融粘度を測定した。
3)軟化点
JIS K−7234に準じた方法で測定した。
【0063】
合成例1(熱硬化性樹脂用硬化剤A−1)
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、窒素パージを施しながらジトリメチロールプロパン(パーストープ製)75.1部、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物(新日本理化(株)製、リカシッドMHT)131.2部、グルタル酸無水物47.9部、メチルエチルケトン(MEK)254.2部を加え、80℃で9時間加熱撹拌を行うことで(15)式で示される化合物のMEK溶液を得た。その後、150℃1時間の条件で溶媒を除去し、熱硬化性樹脂用硬化剤を得た。
得られた硬化剤は無色、固形であった。また、官能基当量は214g/eq.であった。ICI粘度は、150℃において0.62Pa・sであった。軟化点は、74.9℃であった。
【化20】
(式(15)中、*印はその場所で結合していることを意味する。)
また、得られたGPCチャートを下記に示す。
【0064】
熱硬化性光反射用樹脂組成物の調製(実施例1)
TEPIC−S(日産化学株式会社製トリグリシジルイソシアヌレート)、ヒシコーリンPX−4MP(日本化学工業株式会社製硬化触媒)を使用して、表1に示した配合表に従って各成分を配合し、ミキサーによって十分混練した後、ミキシングロールにより所定条件で溶融混練し、冷却、粉砕を行い、実施例1の熱硬化性樹脂組成物を調製した。なお、表1中の各成分の配合量の単位は重量部であり、空欄は当該成分を使用していないことを表す。
【0065】
熱硬化性樹脂組成物の評価
各実施例の樹脂組成物について、下記に示す方法により硬化物のDMA、TMA、透過率を測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
(a)DMA
粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)については、下記のように作成した試験片を用いて、JIS K7244、JIS K7244−4に記載の方法に従って、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製DMS6100粘弾性測定装置を使用して下記条件で測定した。ガラス転移温度(Tg)は、貯蔵弾性率(E´)と損失弾性率(E´´)の商で表される損失係数(tanδ=E´´/E´)の極大点を示す際の温度を示す。
(DMA試験片作成方法)
各実施例及び各比較例の樹脂組成物を、成型型温度150℃ 、成型圧力10.4MPa 、キュア時間300秒の条件でトランスファー成型した後、150℃で3時間ポストキュアすることにより、長さ50.0mm、幅5.0mm、厚み0.5mmのテストピースを作製した。
(DMA測定条件)
初期張力:0.1N
周波数:10Hz
測定モード:引張振動
測定温度:30℃〜280℃
昇温速度:2℃/min
【0067】
(b)熱機械分析(TMA)
熱機械分析(TMA)は、下記のように作成した試験片を用いて、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製TMA/SS6100装置を使用して、下記条件で測定した。なお、は、得られたデータの線膨張係数の変化点として定義される。
(TMA試験片作成方法)
各実施例及び各比較例の樹脂組成物を、成型型温度150℃、成型圧力10.4MPa 、キュア時間300秒の条件でトランスファー成型した後、150℃で3時間ポストキュアすることにより、厚み4.0mmのテストピースを作製した。
(TMA測定条件)
昇温条件:2℃/分
測定モード:圧縮
【0068】
(c)透過率
各実施例及び各比較例の樹脂組成物を、成型型温度150℃ 、成型圧力10.4MPa 、キュア時間300秒の条件でトランスファー成型した後、150℃で3時間ポストキュアすることにより、厚み1.0mmのテストピースを作製した。ついで、積分球型分光光度計UV−3600型(株式会社島津製作所製)にて波長460nmにおける反射率を測定し、各テストピースの着色を評価した。
【0069】
【表1】
【0070】
以上の結果から、本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤を用いた熱硬化性樹脂組成物は、ガラス転移温度が十分に高く、硬化物の着色が少ない硬化物を与えることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化剤は、溶融粘度が低く、成形性に優れ、前記熱硬化性樹脂用硬化剤を用いた熱硬化性樹脂組成物は、ガラス転移温度が十分に高く、着色の少ない硬化物を与えることから、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、光半導体の封止材あるいは光反射材の材料として有用である。ガラス転移温度が十分に高いことは、成形性および信頼性にとって重要である。また、着色が少ないことは、封止材として使用した場合には透過率を高めることができ、反射材として使用した場合には、反射率を高めることができる。