(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の磁気記録媒体および磁気記録再生装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
「磁気記録媒体」
図1は、本発明の実施形態に係る磁気記録媒体の一例を示す断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態の磁気記録媒体11は、非磁性基板1上に、磁性層2と保護層3と潤滑剤層4とが、この順序で積層されたものである。
【0025】
本実施形態においては、非磁性基板1と磁性層2との間に、密着層(不図示)と軟磁性下地層(不図示)とシード層(不図示)と配向制御層(不図示)とがこの順序で積層されている場合を例に挙げて説明する。密着層、軟磁性下地層、シード層、配向制御層は、必要に応じて設けられるものであり、これらのうちの一部または全部は設けられていなくてもよい。
【0026】
非磁性基板1としては、Alなどの金属材料、またはAl合金などの合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成されたものなどを用いることができる。また、非磁性基板1としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなるものを用いてもよいし、この非金属材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金の膜を形成したものを用いてもよい。
【0027】
密着層は、非磁性基板1と密着層上に設けられる軟磁性下地層とを接して配置した場合における非磁性基板1の腐食の進行を防止するものである。密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択できる。密着層の厚みは、密着層を設けることによる効果が十分に得られるように2nm以上であることが好ましい。
密着層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0028】
軟磁性下地層は、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性下地層は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。軟磁性下地層がAFC結合した構造を有していることにより、外部からの磁界に対しての耐性、並びに垂直磁気記録特有の問題であるWATE(Wide Area Tack Erasure)現象に対しての耐性を高めることができる。
【0029】
軟磁性下地層の膜厚は、15〜80nmの範囲であることが好ましく、20〜50nmの範囲であることが更に好ましい。軟磁性下地層の膜厚が15nm未満であると、磁気ヘッドからの磁束を十分に吸収することができず、書き込みが不十分となり、記録再生特性が悪化する恐れがあるため、好ましくない。一方、軟磁性下地層の膜厚が80nmを超えると、生産性が著しく低下するため好ましくない。
【0030】
第1および第2軟磁性膜は、CoFe合金からなるものであることが好ましい。第1および第2軟磁性膜がCoFe合金からなるものである場合、高い飽和磁束密度Bs(1.4(T)以上)を実現できる。また、第1および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れか1種以上を添加することが好ましい。これにより、第1および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、軟磁性下地層上に形成されるシード層の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性下地層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0031】
シード層は、その上に設けられる配向制御層および磁性層2の配向および結晶サイズを制御する。シード層が設けられていることにより、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分が大きくなるとともに、磁性層2の磁化の方向がより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定される。
【0032】
シード層は、NiW合金からなるものであることが好ましい。シード層がNiW合金からなるものである場合、必要に応じてNiW合金にB、Mn、Ru、Pt、Mo、Taなどの他の元素を添加してもよい。
シード層の膜厚は、2〜20nmの範囲であることが好ましい。シード層の膜厚が2nm未満であると、シード層を設けたことによる効果が十分に得られない場合がある。一方、シード層の膜厚が20nmを超えると、結晶サイズが大きくなるために好ましくない。
シード層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0033】
配向制御層は、磁性層2の配向が良好なものとなるように制御するものである。配向制御層は、Ru又はRu合金からなるものであることが好ましい。
配向制御層の膜厚は、5〜30nmの範囲であることが好ましい。配向制御層の膜厚を30nm以下とすることで、磁気ヘッドと軟磁性下地層との間の距離が小さくなり、磁気ヘッドからの磁束を急峻にすることができる。また、配向制御層の膜厚を5nm以上とすることで、磁性層2の配向を良好に制御できる。
【0034】
配向制御層は、1層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。配向制御層が複数層からなるものである場合、全ての配向制御層が同じ材料からなるものであってもよいし、少なくとも一部が異なる材料からなるものであってもよい。
配向制御層は、スパッタリング法により形成できる。
【0035】
磁性層2は、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた磁性膜からなる。磁性層2は、CoとPtを含むものであり、更にSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zrなどを含むものであってもよい。
磁性層2に含有される酸化物としては、SiO
2、SiO、Cr
2O
3、CoO、Ta
2O
3、TiO
2などが挙げられる。
【0036】
磁性層2は、1層からなるものであってもよいし、組成の異なる複数層からなるものであってもよい。
例えば、磁性層2が第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造のものであることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などを好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、SiO
2−TiO
2などを好適に用いることができる。
【0037】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
第1磁性層が上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0038】
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造のものであることが好ましい。
また、第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造のものであることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。第3磁性層がCo、Cr、Ptの他に上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性及び熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0039】
磁性層2の厚みは、5〜25nmとすることが好ましい。磁性層2の厚みが上記未満であると、十分な再生出力が得られず、熱揺らぎ特性も低下する。また、磁性層2の厚さが上記範囲を超えた場合には、磁性層2中の磁性粒子の肥大化が生じ、記録再生時におけるノイズが増大し、信号/ノイズ比(S/N比)や記録特性(OW)に代表される記録再生特性が悪化するため好ましくない。
【0040】
磁性層2が複数層からなるものである場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層2が第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層間に非磁性層を適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができ、S/N比をより向上させることができる。
【0041】
磁性層の間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re、Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Zr、Bの中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の元素を表す。)などを好適に用いることができる。
【0042】
磁性層の間に設けられる非磁性層としては、酸化物、金属窒化物、又は金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO
2、Al
2O
3、Ta
2O
5、Cr
2O
3、MgO、Y
2O
3、TiO
2などを用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si
3N
4、TaN、CrNなどを用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiCなどを用いることができる。
【0043】
磁性層の間に設けられる非磁性層の厚みは、0.1〜1nmとすることが好ましい。非磁性層の厚みを上記の範囲とすることで、S/N比をより向上させることができる。
非磁性層は、スパッタリング法により形成できる。
【0044】
また、磁性層2は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましい。磁性層2は、面内磁気記録であってもよい。
磁性層2は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法など従来の公知のいかなる方法によって形成してもよい。磁性層2は、通常、スパッタリング法により形成される。
【0045】
(保護層)
保護層3は、磁性層2を保護するものである。保護層3は、窒化炭素からなる。保護層3は、炭素と10原子%〜90原子%の範囲内の窒素とを含む最表面(保護層の潤滑剤層側の最表面、保護層3と潤滑剤層4との界面)を有する。保護層3中の窒素含有量は、均一であってもよいし、例えば、最表面が最も多く、深さが深くなるのに伴って少なくなる濃度勾配を有するものであってもよい。保護層3は、一層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。
保護層3の最表面の窒素含有量が上記範囲であると、保護層3と潤滑剤層4を形成している後述する化合物Aおよび化合物Bとが、高い結合力で結合される。
【0046】
保護層3の最表面に含まれる窒素原子は、後述する化合物Aおよび化合物Bに含まれる水酸基と強固な結合を形成する。保護層3の最表面の窒素含有量が10原子%以上であると、保護層3の最表面に含まれる窒素原子と、化合物Aおよび化合物Bに含まれる水酸基との結合数を十分に確保でき、保護層3と潤滑剤層4とが高い結合力で結合される。保護層3の最表面の窒素含有量は、保護層3に含まれる窒素原子と、化合物Aおよび化合物Bに含まれる水酸基との結合数を確保するために、20原子%以上であることが好ましい。
【0047】
保護層3の最表面に含まれる炭素原子は、後述する化合物Aに含まれる六員環(−C
6H
4−)と強固な結合を形成する。保護層3の最表面の窒素含有量が90原子%以下であると、保護層3の最表面に含まれる炭素原子数が十分に確保される。したがって、保護層3に含まれる炭素原子と、化合物Aに含まれる六員環との結合数を十分に確保でき、保護層3と潤滑剤層4とが高い結合力で結合される。保護層3の最表面の窒素含有量は、保護層3に含まれる炭素原子と、化合物Aに含まれる六員環との結合数を確保するために、80原子%以下であることが好ましい。
【0048】
本実施形態において、保護層3中の窒素含有量が均一である場合、潤滑剤層側の最表面が「炭素と10原子%〜90原子%の範囲内の窒素とを含む」保護層とは、保護層3を形成する際に使用した原料から算出した保護層3中の窒素含有量、公知の方法を用いて測定した保護層3中の窒素含有量、公知の方法を用いて測定した保護層3の潤滑剤層側の最表面の窒素含有量のいずれかが、10原子%〜90原子%の範囲内である保護層を意味する。
【0049】
また、保護層3中の窒素含有量が均一でない場合、潤滑剤層側の最表面が「炭素と10原子%〜90原子%の範囲内の窒素とを含む」保護層とは、保護層の潤滑剤層側の表面を、例えば、X線光電子分光法(XPS/ESCA)で測定し、最表面の窒素含有量が、10原子%〜90原子%の範囲内である保護層を意味する。
【0050】
保護層3の膜厚は1nm〜10nmの範囲内であることが好ましい。保護層3の膜厚が10nm以下であると、本実施形態の磁気記録媒体11を備える磁気記録再生装置における磁気的スペーシングを十分に低減することができ、さらなる記録密度の向上に対応できる。なお、磁気的スペーシングとは、磁気ヘッドと磁性層4との間の距離のことを意味する。磁気的スペーシングを狭くするほど、磁気記録再生装置の電磁変換特性を向上させることができる。保護層3の膜厚が1nm以上であると、磁性層2を保護する効果が高くなり、耐久性を向上させることができる。
【0051】
保護層3は、例えば、磁性層2上に、スパッタ法、CVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法などにより、炭素と窒素とを含む原料を用いて形成できる。この場合、原料に含有させる炭素および窒素濃度を制御することによって、保護層の最表面の窒素含有量を10原子%〜90原子%の範囲内とすることができる。
【0052】
保護層3は、例えば、従来公知の方法により炭素膜(または水素化炭素膜)を形成し、その潤滑剤層4側表面を、窒化処理(水素化炭素膜の場合は、脱水素化および窒化処理)することにより形成してもよい。炭素膜の表面を窒化(または水素化炭素膜の表面を脱水素化および窒化)処理する方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、炭素膜または水素化炭素膜に窒素イオンを注入する方法、炭素膜上または水素化炭素膜上を窒素プラズマに暴露する方法などが挙げられる。これらの方法により形成した保護層3は、最表面の窒素含有量が最も多く、深さが深くなるのに伴って少なくなる濃度勾配を有する。
【0053】
(潤滑剤層)
潤滑剤層4は、磁気記録媒体11の汚染を防止するとともに、磁気記録媒体11上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体11の耐久性を向上させるものである。
本発明者は、上述したように、潤滑剤層の材料の最適化に関して、磁気記録媒体の表面エネルギーに着目した。そして、磁気記録媒体の表面におけるトータルの表面エネルギーであるγ
total(γ
total=γ
AB+γ
LW)を低減できる潤滑剤層について検討した。
【0054】
γ
ABは、Lewis acid−baseの相互作用から成り立つ表面エネルギーである。γ
ABにより、保護層および潤滑剤層に存在する電子の均衡状態を見積もることが出来る。一般的に、保護層(Lewis base)は電子のdonorであり、潤滑剤層(Lewis acid)は電子のacceptorである。γ
ABの値が低いということは、保護層と潤滑剤層との相互作用が十分に発揮されている状態であるといえる。したがって、γ
ABの値が低いということは、潤滑剤層と保護層との結合性が高いと考えることができる。
【0055】
γ
LWは、ロンドン分散力またはDipole−Dipole量子論からなるファンデルワールス力を示す表面エネルギーである。γ
LWにより、潤滑剤層を形成している化合物の分散性を見積もることが出来る。γ
LWの値が低いということは、潤滑剤層の被覆性が十分に発揮されている状態であるといえる。したがって、γ
LWの値が低いということは、保護層の露出を妨げる効果が高い(被覆率が高い)と考えることができる。
【0056】
γ
AB、γ
LWは次の手順で算出した。先ず、3種類の溶媒(溶媒A、溶媒B、溶媒C)を用いて、磁気記録媒体の保護層上の接触角を測定した。
接触角は公知の方法で測定できる。すなわち、磁気記録媒体の保護層表面に一定量の溶媒を滴下し、一定時間経過後の水滴と保護層表面とのなす角度を接触角計で測定する。
なお、本発明では、溶媒Aとして水、溶媒Bとしてヨウ化メチレン(Methylene Iodide)、溶媒Cとしてエチレングリコール(Ethylene Glycol)を使用した。溶媒Aを用いた場合の接触角をθ
A、溶媒Bを用いた場合の接触角をθ
B、溶媒Cを用いた場合の接触角をθ
Cとした。
【0057】
γ
AB、γ
LWの算出に用いる式、パラメータは下記のとおりである。
下記の式において「γ
1+」などの符号における数字の1は、溶媒のパラメータであることを示し、「γ
2+」などの符号における数字の2は潤滑剤のパラメータであることを示す。また、「γ
1+」などの符号における「+」はVan Ossの方法の電子受容性の寄与を示すパラメータであることを示し、「γ
1−」などの符号における「−」はVan Ossの方法の電子供与性の寄与を示すパラメータであることを示す。
γ
total、γ
AB、γ
LWは、γ
1、γ
1LW、γ
1+、γ
1−が公知である溶媒A〜溶媒Cを用いて、下記の連立方程式を解くことにより求めた。
【0058】
γ
AB=2(γ
1+γ
2−)
1/2+2(γ
1−γ
2+)
1/2
γ
LW=2(γ
1LWγ
2LW)
1/2
γ
1A(1+COSθ
A)=2(γ
1ALWγ
2LW)
1/2+2(γ
1A+γ
2−)
1/2+2(γ
1A−γ
2+)
1/2
γ
1B(1+COSθ
B)=2(γ
1BLWγ
2LW)
1/2+2(γ
1B+γ
2−)
1/2+2(γ
1B−γ
2+)
1/2
γ
1C(1+COSθ
C)=2(γ
1CLWγ
2LW)
1/2+2(γ
1C+γ
2−)
1/2+2(γ
1C−γ
2+)
1/2
【0059】
水:γ
1A=72.8、γ
1ALW=21.8、γ
1A+=25.5、γ
1A−=25.5
ヨウ化メチレン:γ
1B=50.8、γ
1BLW=50.8、γ
1B+=0、γ
1B−=0
エチレングリコール:γ
1C=48.0、γ
1CLW=29.0、γ
1C+=1.92、γ
1C−=47.0
【0060】
本実施形態の磁気記録媒体の潤滑剤層は、上記の方法により算出した磁気記録媒体の表面におけるトータルの表面エネルギー(γ
total)が26.3mJ/m
2以下のものである。トータルの表面エネルギー(γ
total)は、25.0mJ/m
2以下であることが好ましく、24.0mJ/m
2以下であることがより好ましい。表面エネルギー(γ
total)が26.3mJ/m
2以下であると、保護層の表面が高い被覆率かつ高い結合性で潤滑剤層に被覆された磁気記録媒体となる。
【0061】
本実施形態の磁気記録媒体11では、潤滑剤層4が、保護層3の最表面に接して形成されている。
潤滑剤層4は、一般式(1)に示す平均分子量が1500〜2000の範囲内である化合物Aと、一般式(2)に示す平均分子量が1300〜2400の範囲内である化合物Bとを含む。この化合物Aは、好適な数のOH官能基、六員環を有し、かつ好適な範囲の平均分子量である。また、化合物Bは、好適な数のOH官能基を有し、かつ好適な範囲の平均分子量である。このことから、これらを好適な質量比で混合し、保護層の表面を高い被覆率かつ高い結合性で被覆した潤滑剤層4は、高温高湿環境下での膜厚減少率が低い、耐環境性の高いものとなる。
【0062】
R1−C
6H
4OCH
2CH(OH)CH
2OCH
2−R2−CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OH ‥‥(1)
(一般式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルコキシ基である。R2は、−CF
2O(CF
2CF
2O)x(CF
2O)yCF
2−(x、yのカッコ内は、この順に、または逆に、またはランダムにつなげて良い(x、yは、それぞれ0〜15の実数である。)。)。)
HOCH
2CF
2CF
2O(CF
2CF
2CF
2O)mCF
2CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OH ‥‥(2)
(一般式(2)中、mは整数である。)
【0063】
「化合物A」
上記一般式(1)に示す化合物Aは、主に、保護層3の表面における潤滑剤層4の被覆性向上に寄与する。潤滑剤層4が化合物Aを含むことにより、γ
LWの値が低くなり、表面エネルギー(γ
total)が低くなりやすくなる。
【0064】
化合物Aでは、末端に近い位置に配置された大きい環状骨格を有する六員環(−C
6H
4−)が、保護層3の最表面に含まれる炭素原子と強固な結合を形成する。また、化合物Aでは、R1の反対側の末端に位置する水酸基を2つ有する−CH(OH)CH
2OHからなる末端基と、他のもう一つの水酸基が、保護層3の最表面に含まれる窒素原子と強固な結合を形成する。化合物Aは、一方の末端に近い位置と他方の末端とで保護層3の最表面に結合するため、面方向に広がって配置されやすく、保護層3に対する優れた被覆性を有し、かつ良好な結合性を有する。
【0065】
一般式(1)に示す化合物Aにおいて、R1は、炭素数1〜4のアルコキシ基である。R1が炭素数1〜4のアルコキシ基であるため、化合物Aに含まれる六員環(−C
6H
4−)が化合物Aの末端に近い位置に配置される。化合物AにおけるR1の炭素数少ない程、六員環の位置が末端に近い位置となり、六員環の位置と−CH(OH)CH
2OHからなる末端基とが遠くなる。その結果、化合物Aが保護層3の最表面上に面方向に広がりやすくなり、被覆性が向上する。したがって、化合物AにおけるR1は、炭素数が少ない程好ましく、炭素数が1であることが最も好ましい。
【0066】
一般式(1)に示す化合物Aにおいて、R2中のx、yはそれぞれ0〜15の実数であり、それぞれ3〜7の実数であることが好ましい。R2中のx、yは、それぞれ平均分子量が1500〜2000の範囲内となるように調整される。
【0067】
潤滑剤層4は、化合物Aの平均分子量が大きい程、高温多湿環境下での安定性に優れるものとなり、化合物Aの劣化に伴う潤滑剤層4の厚みの減少が生じにくい。化合物Aの平均分子量が1500以上であるので、高温高湿環境下で使用することによる潤滑剤層4の厚みの減少を抑制でき、優れた耐久性が得られる。化合物Aの平均分子量が1800超えであると、より一層、耐食性に優れた潤滑剤層4が得られる。また、化合物Aの平均分子量が2000以下であるので、粘性が抑えられ、潤滑剤層4がアイランド状または網目状になりにくく、優れた被覆性が得られる。
【0068】
一般式(1)に示す化合物Aは、例えば、特許文献4に開示されているように、片方の末端に水酸基を有し、他方の末端にヒドロキシアルキル基を有する直鎖フルオロポリエーテルと、エポキシ基を有するフェノキシ化合物とを反応させることにより得られる。
【0069】
化合物Aの市販のものとしては、例えば、ART−1(商品名:松村石油研究所(MORESCO)社製)が挙げられる。ART−1(商品名)は、一般式(1)中のR1が炭素数1のアルコキシ基であり、R2中のx、yがそれぞれ3〜7の実数であり、平均分子量が1500〜2000の範囲内となるようにx、yが調整されたものである。
【0070】
「化合物B」
上記一般式(2)に示す化合物Bは、主に、保護層と潤滑剤層との結合力に寄与する。潤滑剤層が化合物Bを含むことにより、γ
ABの値が低くなり、表面エネルギー(γ
total)が低くなりやすくなる。
【0071】
化合物Bは、3つの水酸基を有するものであり、一方の末端に水酸基を2つ有する−CH(OH)CH
2OHからなる末端基が配置され、他方の末端に水酸基を1つ有する−CH
2OHからなる末端基が配置されている。化合物Bの一方または他方の末端に配置されている合計3つの水酸基は、保護層3の最表面の窒素原子と強固な結合を形成する。化合物Bは、一方または他方の末端に配置されている合計3つの水酸基が保護層3の最表面に結合するため、保護層3に対する優れた結合性を有する。
【0072】
一般式(2)に示す化合物Bにおいてmは整数である。mは、平均分子量が1300〜2400の範囲内となるように調整される。
潤滑剤層4は、化合物Bの平均分子量が大きい程、高温多湿環境下での安定性に優れるものとなり、化合物Bの劣化に伴う潤滑剤層4の厚みの減少が生じにくい。化合物Bの平均分子量が1300以上であるので、高温高湿環境下で使用することによる潤滑剤層4の厚みの減少を抑制でき、優れた耐久性が得られる。化合物Bの平均分子量が1700超えであると、より一層、耐食性に優れた潤滑剤層4が得られる。また、化合物Bの平均分子量が2400以下であるので、粘性が抑えられ、潤滑剤層4がアイランド状または網目状になりにくく、優れた被覆性が得られる。
【0073】
化合物Bの市販のものとしては、例えば、D3OH(商品名:松村石油研究所(MORESCO)社製)が挙げられる。D3OH(商品名)は、一般式(3)中のmの値を、平均分子量が1300〜2400の範囲内となるように調整されたものである。
【0074】
(質量比(A/B))
潤滑剤層4は、一般式(2)に示す化合物Bの質量に対する一般式(1)に示す化合物Aの質量の比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内のものであり、0.25〜2.3の範囲内であることが好ましい。質量比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内であるので、以下に示すように、保護層3に対する被覆性および結合性の優れた潤滑剤層4となる。その結果、潤滑剤層4の隙間からの環境物質の侵入による磁気記録媒体11の汚染を防止できる。
【0075】
すなわち、質量比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内であると、潤滑剤層4の表面エネルギー(γ
total)が低くなり、潤滑剤層4がアイランド状または網目状になりにくくなる。また、保護層3の最表面に含まれる窒素原子と化合物Aおよび化合物Bに含まれる水酸基との結合数を確保できるとともに、保護層3の最表面に含まれる炭素原子と化合物Aに含まれる六員環との結合数を十分に確保できる。よって、保護層3と潤滑剤層4とが高い結合力で結合される。また、化合物A同士の間に形成された隙間が、十分な量の化合物Bによって埋められる。より詳細には、化合物Aは、大きい環状骨格を有するため、面方向に広がって配置されやすく、網目状となりやすい。よって、化合物A同士の間には隙間が形成されやすい。これに対し、化合物Bは、環状骨格を有さない直鎖型である。このため、化合物A同士の間に形成された隙間に化合物Bが入り込み、化合物A同士の隙間が埋められる。
【0076】
質量比(A/B)が3.0を超えると、化合物Bが不足するため、潤滑剤層4が網目状となりやすくなり、保護層3に対する被覆性が不十分になる。また、質量比(A/B)が0.2未満になると、化合物Bが多くなり、保護層3を構成する炭素原子と潤滑剤との結合力が低下し、潤滑剤層4がアイランド状となり、保護層3に対する被覆性が不十分になる。
【0077】
(潤滑剤層の膜厚)
潤滑剤層4の平均膜厚は、0.5nm(5Å)〜2nm(20Å)の範囲内であり、1nm〜1.9nmの範囲内であることが好ましい。
潤滑剤層4の平均膜厚が0.5nm以上であるので、潤滑剤層4がアイランド状または網目状とならず、長期に亘って保護層3の表面に対する高い被覆性および結合性を維持できる。潤滑剤層4の平均膜厚が厚いほど、γ
ABおよびγ
LWの値が低くなるため、表面エネルギー(γ
total)が低くなる。したがって、潤滑剤層4の平均膜厚が厚いほど、潤滑剤層4によって保護層3の表面を高い被覆性かつ高い結合性で被覆でき、耐久性に優れる。また、潤滑剤層4の平均膜厚が2nm以下であるので、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくすることができ、磁気記録媒体11の記録密度を高くできる。
【0078】
(潤滑剤層の形成方法)
潤滑剤層4は、例えば、非磁性基板1上に保護層3までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、製造途中の磁気記録媒体の保護層3上に、潤滑剤層形成用溶液を塗布することによって形成できる。
【0079】
潤滑剤層形成用溶液は、例えば、化合物Aおよび化合物Bを、上述した質量比の範囲内となるように混合し、溶媒で希釈して塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑剤層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレルXF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒などが挙げられる。
潤滑剤層形成用溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法やディップ法などが挙げられる。
【0080】
ディップ法をとしては、例えば、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑剤層形成用溶液中に、保護層3までの各層が形成された非磁性基板1を浸漬し、その後、浸漬槽から非磁性基板1を所定の速度で引き上げる方法が挙げられる。ディップ法を用いることで、潤滑剤層形成用溶液を非磁性基板1の保護層3上の表面に均一に塗布することができ、保護層3上に均一な膜厚の潤滑剤層4を形成できる。
【0081】
本実施形態の磁気記録媒体11は、非磁性基板1上に、少なくとも磁性層2と保護層3と潤滑剤層4とをこの順序で有する。そして、保護層3の潤滑剤層4側の最表面が炭素と10原子%〜90原子%の範囲内の窒素とを含み、潤滑剤層4が、化合物Aと化合物Bとを含み、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)が0.2〜3.0の範囲内のものである。このことにより、平均膜厚が0.5nm〜2nmの十分に薄い厚みであっても、表面エネルギー(γ
total)が低く、長期に亘って保護層の表面に対する高い被覆性および結合性を維持できる潤滑剤層4となる。具体的には、本実施形態の磁気記録媒体11は、温度65℃、湿度80%の高温高湿環境下に3週間保持した場合の潤滑剤層4の膜厚の減少率が3%以下であり、耐環境性に優れる。
【0082】
よって、本実施形態の磁気記録媒体11では、潤滑剤層4の隙間から潤滑剤層4の下層に侵入した環境物質が、潤滑剤層4の下層に存在するイオン成分を凝集させて、磁気記録媒体11を汚染することを、長期に亘って防止できる。
また、本実施形態の磁気記録媒体11は、厚みが薄くても磁気記録媒体11の表面の汚染を効果的に防止できる潤滑剤層4を有しているので、潤滑剤層4を十分薄くすることにより、さらなる記録密度の向上を実現しうるものとなる。
また、本実施形態の磁気記録媒体11は、磁気記録媒体11の汚染がより顕著となる高温高湿環境下で使用しても、汚染されにくく、耐環境性に優れ、長期間にわたって安定した磁気記録再生特性が得られる。
【0083】
「磁気記録再生装置」
次に、本実施形態の磁気記録再生装置の一例について説明する。
図2は、本発明の実施形態である磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
本実施形態の磁気記録再生装置101は、
図1に示す磁気記録媒体11と、媒体駆動部123と、磁気ヘッド124と、ヘッド移動部126と、記録再生信号処理部128とを具備したものである。
【0084】
媒体駆動部123は、磁気記録媒体11を記録方向に駆動するものである。磁気ヘッド124は、磁気記録媒体11に情報の記録再生を行うものであり、記録部と再生部とを有する。ヘッド移動部126は、磁気ヘッド124を磁気記録媒体11に対して相対運動させるものである。記録再生信号処理部128は、磁気ヘッド124からの記録再生信号の処理を行うものである。
【0085】
本実施形態の磁気記録再生装置101では、十分に厚みの薄い潤滑剤層4によって、長期間にわたって高い被覆性かつ結合性で保護層3の表面が被覆されるため、磁気記録媒体上に存在する汚染物質が少ない磁気記録媒体11を具備している。したがって、磁気記録媒体11上に存在する汚染物質が、磁気記録再生装置101の磁気ヘッド124に転写されて、記録再生特性が低下したり、浮上安定性が損なわれたりすることが、長期間にわたって防止される。よって、本発明の磁気記録再生装置101は、安定した磁気記録再生特性を有する。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜選択した条件にて実施することができる。
(実施例)
洗浄済みのガラス基板(HOYA社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10
−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した。
【0087】
その後、このガラス基板の上に、スパッタリング法によりCrターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。
次いで、スパッタリング法により、密着層の上に軟磁性下地層を形成した。軟磁性下地層としては、第1軟磁性層と中間層と第2軟磁性層とを成膜した。まず、Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20原子%、Zr含有量5原子%、Ta含有量5原子%、残部Co}のターゲットを用いて、100℃以下の基板温度で、層厚25nmの第1軟磁性層を成膜した。次に、第1軟磁性層の上に、層厚0.7nmのRuからなる中間層を成膜した。その後、中間層の上に、層厚25nmのCo−20Fe−5Zr−5Taからなる第2軟磁性層を成膜した。
【0088】
次に、軟磁性下地層の上に、スパッタリング法によりNi−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲットを用いて、層厚5nmのシード層を成膜した。
その後、シード層の上に、スパッタリング法により第1の配向制御層として、スパッタ圧力を0.8Paとして層厚10nmのRu層を成膜した。次に、第1の配向制御層上に、スパッタリング法により第2の配向制御層として、スパッタ圧力を1.5Paとして層厚10nmのRu層を成膜した。
【0089】
続いて、第2の配向制御層の上に、スパッタリング法により91(Co15Cr16Pt)−6(SiO
2)−3(TiO
2){Cr含有量15原子%、Pt含有量16原子%、残部Coの合金を91mol%、SiO
2からなる酸化物を6mol%、TiO
2からなる酸化物を3mol%}からなる第1磁性層を、スパッタ圧力を2Paとして層厚9nmで成膜した。
【0090】
次に、第1磁性層の上に、スパッタリング法により88(Co30Cr)−12(TiO
2){Cr含有量30原子%、残部Coの合金を88mol%、TiO
2からなる酸化物を12mol%}からなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
その後、非磁性層の上に、スパッタリング法により92(Co11Cr18Pt)−5(SiO
2)−3(TiO
2){Cr含有量11原子%、Pt含有量18原子%、残部Coの合金を92mol%、SiO
2からなる酸化物を5mol%、TiO
2からなる酸化物を3mol%}からなる第2磁性層を、スパッタ圧力を2Paとして層厚6nmで成膜した。
【0091】
その後、第2磁性層の上に、スパッタリング法によりRuからなる非磁性層を層厚0.3nmで成膜した。
次いで、非磁性層の上に、スパッタリング法によりCo−20Cr−14Pt−3B{Cr含有量20原子%、Pt含有量14原子%、B含有量3原子%、残部Co}からなるターゲットを用いて、スパッタ圧力を0.6Paとして第3磁性層を層厚7nmで成膜した。
次に、イオンビーム法により窒化炭素(窒素含有量は20原子%)からなる層厚3nmの保護層を形成した。
【0092】
次に、表1および以下に示す化合物を、以下に示す溶剤に溶解させて潤滑剤層形成用溶液を作成した。そして、得られた潤滑剤層形成用溶液をディップコート装置の浸漬槽に入れ、保護層までの各層が形成された非磁性基板を浸漬した。その後、浸漬槽から非磁性基板を一定の速度で引き上げることにより、非磁性基板の保護層上の表面に潤滑剤層形成用溶液を塗布し、潤滑剤層を形成した。以上の工程を行うことにより、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体を得た。
【0093】
「化合物A」ART−1(商品名:MORESCO社製)平均分子量が約1700である。
「化合物B」D3OH(商品名:MORESCO社製)平均分子量が約1900である。
「その他の化合物」D4OH(商品名:MORESCO社製)
D4OHは、下記一般式(3)のpが4〜30の範囲内であり、平均分子量が約2500である。
「溶剤」バートレルXF(商品名:三井デュポンフロロケミカル社製)
【0094】
【化1】
(一般式(3)中、pは4〜30の範囲内である。)
【0095】
実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体について、潤滑剤層の平均膜厚をフーリエ変換赤外分光法(FT−IR)により測定した。その結果を表1に示す。
また、潤滑剤層に含まれる化合物Aと化合物Bとの質量比(A:B)、化合物Bに対する化合物Aの質量比(A/B)を表1に示す。
【0096】
また、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体について、潤滑剤層のγ
AB(結合性)、γ
LW(被覆性)を前述の方法で測定し、(γ
total(γ
AB+γ
LW)を算出して評価した。磁気記録媒体の表面(保護層上)の接触角の測定には、溶媒として、水、ヨウ化メチレン、エチレングリコールの3種類を使用した。評価結果を表1に示す。
また、実施例1〜実施例13、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体を、湿度65℃、温度80%の高温高湿環境下で3週間保持し、FT−IRを用いて潤滑剤層の平均膜厚を測定した。その後、高温高湿環境下で保持する前と後の潤滑剤層の平均膜厚を用いて、膜厚の減少率を算出した。その結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示すように、実施例1〜実施例13の磁気記録媒体は、比較例1〜比較例6の磁気記録媒体と比較して、磁気記録媒体の表面におけるトータルの表面エネルギー(γ
total(γ
AB+γ
LW))が低いものであった。また、これらの磁気記録媒体は、高温高湿環境下での潤滑剤層の膜厚の減少率が3%以下であり、高い耐環境性が得られた。これらの結果は、実施例1〜実施例13の磁気記録媒体の潤滑剤層が、保護層に対する被覆性および結合性が優れていることによるものと推定される。
【0099】
これに対し、比較例1では化合物Aが多すぎるため、比較例2では化合物Bが多すぎるため、表面エネルギー(γ
total(γ
AB+γ
LW))が高くなった。このため、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足し、潤滑剤層の膜厚の減少率が3%を超えたものと推定される。
また、比較例3は、潤滑剤層の平均膜厚が薄すぎるため、表面エネルギー(γ
total(γ
AB+γ
LW))が高くなった。このため、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足し、潤滑剤層の膜厚の減少率が3%を超えたものと推定される。
【0100】
また、比較例4では化合物Bを含まないため、比較例5では化合物Aを含まないため、表面エネルギー(γ
total(γ
AB+γ
LW))が高くなった。このため、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足し、潤滑剤層の膜厚の減少率が3%を超えたものと推定される。
また、比較例6では化合物がOH基を4つ有する構造の潤滑剤であるため、表面エネルギー(γ
total(γ
AB+γ
LW))が高くなった。このため、潤滑剤層による保護層の表面に対する被覆率および結合性が不足し、潤滑剤層の膜厚の減少率が3%を超えたものと推定される。