(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570201
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】非発熱部のあるマイクロヒータ
(51)【国際特許分類】
H05B 3/02 20060101AFI20190826BHJP
H05B 3/48 20060101ALI20190826BHJP
H05B 3/18 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
H05B3/02 A
H05B3/48
H05B3/18
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-247670(P2017-247670)
(22)【出願日】2017年12月25日
(65)【公開番号】特開2019-114445(P2019-114445A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2018年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140454
【氏名又は名称】株式会社岡崎製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100130144
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健壱
(72)【発明者】
【氏名】酒井 直人
(72)【発明者】
【氏名】西川 豪人
【審査官】
西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−220325(JP,A)
【文献】
特開2013−218947(JP,A)
【文献】
実開平06−005185(JP,U)
【文献】
特開平11−176563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02− 3/18
H05B 3/40− 3/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に外径の変化がない金属鞘管と、
前記金属鞘管内に収容され、ニクロムを材質とし通電によりジュール熱を発生する発熱線と、
前記金属鞘管内に収容され、銅を材質とし前記発熱線と略同径の非発熱線と、
前記金属鞘管内に収容され、金属を材質とし内径が該発熱線及び該非発熱線と略同径の繋ぎ管と、
前記金属鞘管と前記発熱線、前記非発熱線、前記繋ぎ管との間に充填されている無機絶縁材粉末と、を有し、
前記発熱線の一端と前記非発熱線の一端とは前記繋ぎ管内で接触して導通しており、該発熱線の該非発熱線と接触する端部のみと、該非発熱線の少なくとも該発熱線と接触する端部とが前記繋ぎ管内にあって、該繋ぎ管の内面は、内部にある該発熱線と該非発熱線の外面とに接触していて、該非発熱線の存在する部分が、該発熱線の該繋ぎ管の外にある部分より発熱量の少ない非発熱部となっていることを特徴とする非発熱部のあるマイクロヒータ。
【請求項2】
前記繋ぎ管内にある前記非発熱線は、該非発熱線の前記発熱線と接触する端部のみである請求項1に記載の非発熱部のあるマイクロヒータ。
【請求項3】
前記繋ぎ管内にある前記非発熱線は、該非発熱線の全長である請求項1に記載の非発熱部のあるマイクロヒータ。
【請求項4】
前記繋ぎ管の材質は、ニッケルまたは銅である請求項1記載の非発熱部のあるマイクロヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属鞘管内に無機絶縁材粉末を介在させて、通電によりジュール熱を発生する発熱線を収容したマイクロヒータのうち、非発熱部のあるマイクロヒータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロヒータは、金属鞘管内に無機絶縁材粉末を介在させて、通電によりジュール熱を発生する発熱線を収容した可撓性のあるヒータで、基本的な構造として、
図6と
図7に示す2種類がある。
図6は従来のマイクロヒータの基本的一般的な第1の構成を示す断面図、
図7は従来のマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図である。
【0003】
図6(a)、
図7(a)は長手方向断面図であり、
図6(b)、
図7(b)は其々、
図6(a)のE−E断面、
図7(a)のF−F断面の図である。但し、端末スリーブ9及び電気を供給するリード線80、81の絶縁被覆13,15は外形で描いており、また、見易くするために、
図6(b)、
図7(b)は
図6(a)、
図7(a)より大きい縮尺で描いている。
【0004】
図6に示すマイクロヒータ10では、金属鞘管5の内に発熱線6が無機絶縁材粉末12を介在して収容されており、その両端には端末スリーブ9が設けられていて、端末スリーブ9にはリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、16が繋がれている。端末スリーブ9の金属外枠内において、発熱線6の末端と導体14、16の先端とが接続されており、また、無機絶縁材粉末12に湿分が侵入して絶縁抵抗が低下しないようにシールが設けられている。
【0005】
図7に示すマイクロヒータ20は、
図6のマイクロヒータ10と異なり、往復した発熱線6が金属鞘管5内に無機絶縁材粉末12を介在して収容されており、このため、端末スリーブ9は片側にのみ設けられている。端末スリーブ9の役割は
図6の端末スリーブ9と同じで、金属外枠内で発熱線6の末端とリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、16の先端とが接続されており、また、無機絶縁材粉末12に湿分が侵入して絶縁抵抗が低下しないようにシールが設けられている。
【0006】
図6、
図7のマイクロヒータ10、20の発熱線6の材質としては、特殊な例外を除き、電気抗率が大きく発熱量の多いニクロムが用いられる。また、端末スリーブ9の内部の具体的構造は、特許文献1の
図1に示されているものが代表的である。同図に示されているように、金属製外枠(符号11)内における発熱線(符号22)の末端とリード線の導体(符号13)は、絶縁材(符号14、17)を介在して同外枠(符号11)内に収容されており、金属製外枠(符号11)端部にはシール(符号15)が設けられている。なお、
図6の構造における各端末スリーブ9では、特許文献1の
図1の発熱線(符号22)と導体(符号13)は各1本となる。ここで、括弧内の符号は、特許文献1の
図1に示されている符号である。
【0007】
加熱対象物と端末シールが離れている場合、例えば、加熱対象物が容器内にある場合、
図6、
図7の端末スリーブ9は通常、容器外に置かれ、発熱線6と無機絶縁材粉末12を収容した金属鞘管5が容器内で加熱対象物まで敷設される。この場合、金属鞘管5内の全長に亘って発熱線6がある
図6、
図7のマイクロヒータ10、20では、加熱が必要ない部分も加熱することになり、マイクロヒータ10、20の不要な電力の消費、また、加熱対象物以外の耐熱温度が低い容器内機器を加熱することによる当該機器の損傷などの弊害が生じる。
【0008】
加熱対象物と端末シールが離れている場合のこのような弊害を避けるために、従来、加熱対象物に接触して加熱する部分のみ発熱し、他の部分は発熱しない構造とした
図8、
図9に示すマイクロヒータ11、21が用いられる場合も多い。
図8は従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第1の構成を示す断面図、
図9は従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図で、
図8、
図9は、
図6、
図7と同様、端末スリーブ9及びリード線80、81の絶縁被覆13,15を外形で示している。
【0009】
図6、
図7のマイクロヒータ10、20では高電気抵抗率であるニクロムを材質とする発熱線6が全長に亘って発熱するのに対し、
図8、
図9のマイクロヒータ11、21は、ニクロム線を材質とする発熱線6が収容された発熱部、電気抵抗率が小さいために発熱量の小さい銅を材質とする非発熱線7が収容された非発熱部、及びニクロムと銅の合金部19が存在する中間発熱部に分けることができる。この非発熱線7と合金部19が存在する以外は、
図6、
図7のマイクロヒータ10、20と同じ構造で、同じ構成部品は同じ符号を使用して
図8、
図9に示している。
【0010】
図8、
図9のマイクロヒータ11、21において、加熱対象物に接触して加熱する部分のみを発熱部にすることにより、無駄な消費電力が抑制され、また不要な加熱による機器の損傷を避けることができる。
【0011】
図6乃至
図9に示される、金属鞘管5に無機絶縁材粉末12を介在させて発熱線6、非発熱線7等の金属線を収容した部分はマイクロヒータケーブルと称されることが多く、以下、マイクロヒータケーブルはこの部分を指す。マイクロヒータケーブルは、特許文献2の
図7、
図8に示されるように仕上がり径より太いものを先ず作り、これをダイス引きやスエージングにより縮径して同文献の
図6に示される所定の径のマイクロヒータケーブルに仕上げられる。
【0012】
図8、
図9の非発熱部のあるマイクロヒータでは、縮径前の仕上がり径より太いマイクロケーブルを作る際に収容する金属線は、ニクロムを材質とする仕上がり径より太い発熱線6の両端に略同径の銅を材質とする非発熱線7を突合せ溶接したものである。
【0013】
発熱線6と非発熱線7の突合せ溶接において、発熱線6の材質であるニクロムと非発熱線7の材質の銅との合金部が不可避に生じ、この合金部が縮径後、伸張された合金部19となって、当該部の存在する部分がニクロムと銅の中間的な抵抗を持つ中間発熱部となる。
【0014】
なお、銅線であってもジュール熱の発生は零ではない。単位長さ当りの発熱量は印加電流の2乗と単位長さ当りの抵抗値に比例するので、同じ電流が流れる繋がれた2種類の線の単位長さ当りの発熱量は単位長さ当りの抵抗値に比例する。2種類の線が同径であれば、単位長さ当りの抵抗値は電気抵抗率に比例することから、単位長さ当りの発熱量は電気抵抗率に比例する。
図8、
図9の非発熱部は、銅の電気抵抗率はニクロムの約1.6%であるので、単位長さ当りの発熱量が、発熱部の単位長さ当りの発熱量の約1.6%になっている。このように非発熱線、非発熱部であっても、発熱線、発熱部に比べて微小ではあるが発熱がある。以下においても、発熱線、発熱部に比べて発熱が微小である線、部分を、其々、非発熱線、非発熱部と言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−257582号公報
【特許文献2】特開2017−112079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
よく知られているように、異種金属の溶接は難しい。前述ように、
図8、
図9に示した従来の非発熱部のあるマイクロヒータでは、材質がニクロムの発熱線6と銅を材質とする非発熱線7の縮径前の突合せ溶接が必要である。
【0017】
この突合せ溶接部において、
図10(b)に示すような合金部19の膨らみと非発熱線7の凹み22が生じることが多い。この原因としては、銅の融点はニクロムより低く、また銅の熱伝導率は高いので、突合せ溶接時、ニクロムの融点まで昇温される前に銅は広範囲に溶融し、表面張力によって溶融した銅が未だ固体のニクロム側に移動し、溶接後は概略、
図10(a)に示す形、つまり、合金部19の非発熱線7側が全周に膨らみ、非発熱線7の合金部19との境近くに全周に凹み23が生じた形になると考えられ、これを仕上がり径に縮径すると概略、
図10(b)の合金部19の膨らみと非発熱線7の凹み22となる。
【0018】
ニクロムの発熱線6、銅の非発熱線7の熱膨張率と、無機絶縁材粉末12、金属鞘管5の熱膨張率が異なるために、マイクロヒータの使用時に発熱線6、非発熱線7には引張り、圧縮応力が生じる。この応力は、金属鞘管5との温度差が大きくなる昇温時、降温時に特に大きくなり、昇降温を繰り返すと、銅の非発熱線7の凹み22により径が細くなっている箇所で断線が生じることがあるという問題が、従来の非加熱部のあるマイクロヒータにはあった。なお、凹みを無くすために溶接部の昇温が十分行われないと、発熱線6と非発熱線7の導通が不十分になり、接触抵抗の存在によって使用時に当部の温度が過度に上昇し、それによる発熱線6、非発熱線7の蒸発などによる断線という別の問題が発生する。
【0019】
非発熱線7の凹み22により径が細くなって使用時に断線が生じることがある問題の対策として、銅とニクロムの中間的な熱伝導率もしくは融点を持つ、ニッケルを主成分とする合金線、銅を主成分とする合金線、あるいは銅にニッケルがクラッドされた線などを発熱線と非発熱線の中継線とする場合もあった。この場合、ニクロムを材質とする発熱線に短い中継線を突合せ溶接し、この中継線に銅の非発熱線を突合せ溶接するので、非発熱線の凹みは小さくなる。しかし凹みが全く無くなることはなく、断線問題の完全な解消には至らない。また、この方法では、中継線の電気抵抗率は通常、ニクロムと銅の中間的な値になるため、中継線が
図8、
図9に示す中間発熱部になって、中間発熱部が長くなる問題が生じる。中間発熱部が長くなると当部での無駄な消費電力が増し、加熱すべきでない箇所が加熱される可能性が高まるという弊害が付随して生じるのである。
【0020】
本発明は、従来の非発熱部のあるマイクロヒータにおける、異種金属の溶接で生じる非発熱線の凹みに起因する断線問題に鑑みてなされたもので、非発熱線に凹みのない非発熱部のあるマイクロヒータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(第1の態様)
本発明による非発熱部のあるマイクロヒータは、
軸方向に外径の変化がない金属鞘管と、
金属鞘管内に収容され、ニクロムを材質とし通電によりジュール熱を発生する発熱線と、
金属鞘管内に収容され、銅を材質とし発熱線と略同径の非発熱線と、
金属鞘管内に収容され、金属を材質とし内径が発熱線及び非発熱線と略同径の繋ぎ管と、
金属鞘管と発熱線、非発熱線、繋ぎ管との間に充填されている無機絶縁材粉末と、を有し、
発熱線の一端と非発熱線の一端とは繋ぎ管内で接触して導通しており、発熱線の非発熱線と接触する端部のみと、非発熱線の少なくとも発熱線と接触する端部とが繋ぎ管内にあって、繋ぎ管の内面は、内部にある発熱線と非発熱線の外面と
に接触していて、非発熱線の存在する部分が、発熱線の繋ぎ管の外にある部分より発熱量の少ない非発熱部となっていることを特徴とするものである。
【0022】
前出のようにマイクロヒータケーブルの製作では、仕上がり径より太いものを先ず作り、これをダイス引きやスエージングにより縮径して所定の径のマイクロヒータケーブルに仕上げられる。非発熱部のないマイクロヒータでは縮径率を小さくして長尺のマイクロヒータケーブルを作り、これを切断して多本数のマイクロヒータが製作されるのに対して、非発熱部のあるマイクロヒータでは、発熱部の位置が使用する場所によって異なるため、また、発熱部と非発熱部があることから長尺のマイクロヒータケーブルを切断して多本数のマイクロヒータを製作するということができないため、通常、縮径率は2分の1から3分の1程度である。
【0023】
本発明による非発熱部のあるマイクロヒータケーブルの製作における縮径率も2分の1から3分の1程度になるが、縮径前の発熱線、非発熱線及び繋ぎ管を、発熱線の一端と発熱線と略同径の非発熱線の一端とが接触した状態、ならびに、発熱線と非発熱線が辛うじて挿入できる内径の繋ぎ管内に、発熱線の非発熱線と接触する端部、及び少なくとも非発熱線の発熱線と接触する端部が繋ぎ管内部にある状態で仮止め溶接したものとすることにより、縮径後、縮径時の外力により繋ぎ管が絞られて、発熱線の一端と非発熱線の一端とが接触して導通した状態に、繋ぎ管内に、発熱線の非発熱線と接触する端部、及び少なくとも非発熱線の発熱線と接触する端部がある状態に、また、繋ぎ管の内面と発熱線、非発熱線の外面との間に縮径前に若干に隙間あったとしても縮径によって密着した状態に固定される。
【0024】
縮径前の発熱線、非発熱線及び繋ぎ管は仮止め溶接でよいので、スポット溶接が使用できること、従来のような全断面が完全な溶融状態となるまでの昇温が不要であることなどから、従来の非発熱部のあるマイクロヒータのように非発熱線に凹みが生じることはなく、発熱線、繋ぎ管にも凹みは生じない。そのため、従来の非発熱部のあるマイクロヒータのような非発熱線の凹みに起因する断線が発生する懸念がない。
【0025】
加えて、発熱線と非発熱線の接触が不十分で接触抵抗が残っていたとしても、繋ぎ管の内面は管内の発熱線と非発熱線の表面と密着しているので、電流は繋ぎ管にも流れ、使用時にそこに過度な温度上昇が生じることはない。
【0026】
前出のように、単位長さ当りの発熱量は単位長さ当りの抵抗値に比例する。繋ぎ管内に非発熱線のある部分の抵抗値は、非発熱線と繋ぎ管の抵抗が並列接続された抵抗値であるので、その単位長さ当りの抵抗値は繋ぎ管外の非発熱線の単位長さ当りの抵抗値より小さい。このことは、繋ぎ管内に非発熱線のある部分は非発熱部に属し、その単位長さ当りの発熱量は繋ぎ管外の非発熱線のそれより小さいことを示している。
【0027】
他方、繋ぎ管内に発熱線のある部分の抵抗値は、発熱線と繋ぎ管の抵抗が並列接続された抵抗値であるので、その単位長さ当りの抵抗値は、繋ぎ管外の発熱線の単位長さ当りの抵抗値より小さく、また通常、繋ぎ管外の非発熱線の単位長さ当りの抵抗値より大きい。したがって、繋ぎ管内に発熱線のある部分の単位長さ当りの発熱量は繋ぎ管外の発熱線と非発熱線の中間的な量になり、繋ぎ管内に発熱線のある部分は中間発熱部になる。
【0028】
中間発熱部には、無駄な電力を消費し、また加熱すべきでない箇所が加熱される可能性が高まるという弊害があるが、本発明の非発熱部のあるマイクロヒータでは、繋ぎ管内への発熱線の挿入長を短くすることにより、中間発熱部を短くできるので、こうすることにより、中間発熱部の弊害を小さく抑えることができる。
【0029】
(第2の態様)
本発明の非発熱部のあるマイクロヒータにおいて、繋ぎ管内にある非発熱線は、非発熱線の発熱線と接触する端部のみとしてよい。この場合、非発熱線の凹みに起因する断線が発生する懸念がなく、また接触抵抗による過度な温度上昇が生じることもない第1の態様での効果は、そのまま引き継がれる。
【0030】
(第3の態様)
さらに、繋ぎ管内にある非発熱線は、非発熱線の全長としてもよい。この場合も非発熱線の凹みに起因する断線が発生する懸念がなく、また、接触抵抗による過度な温度上昇が生じることもない。加えて、非発熱線の全長が繋ぎ管内にあるので、非発熱部の単位長さ当りの発熱量は上述のように、繋ぎ管に覆われていない非発熱線の場合に比べて小さくなり、その分、無駄な発熱や電力消費が無くなる。
【0031】
(第4の態様)
繋ぎ管の材質は、ニッケルまたは銅であることが望ましい。ニッケルの細管、銅の細管は市販されていて入手が容易であり、繋ぎ管の材質をニッケルまたは銅とすることは経済的な利点がある。
繋ぎ管の材質を銅にすると、銅の電気抵抗率は低いため、中間発熱部になる繋ぎ管内に発熱線のある部分が少ない発熱量となり、非発熱部になる繋ぎ管内に非発熱線のある部分も少ない発熱量となる。そのため無駄な発熱や電力消費が減少する効果が大きい。
また、ニッケルの電気抵抗率は銅より高いが銅に近い低さであり、繋ぎ管の材質をニッケルとすることにより、銅ほどではないにしても無駄な発熱や電力消費を抑制する効果が大きい。
【発明の効果】
【0032】
以上のとおり、本発明による非発熱部のあるマイクロヒータは、非発熱線に、従来生じることがあった発熱線との溶接部近くの凹みによる径の減少を無くすことができ、使用時に発生する応力によって、そこが断線する懸念がない。加えて、発熱線と非発熱線の接触が不十分で接触抵抗が残っていたとしても、電流は繋ぎ管にも流れるので、使用時にそこに過度な温度上昇が生じることはないという付随的効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第1実施形態を示す断面図
【
図2】本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第2実施形態を示す断面図
【
図3】本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第3実施形態を示す断面図
【
図4】本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第4実施形態を示す断面図
【
図5】本発明の第1実施形態における発熱線と非発熱線の境界部を示す断面図
【
図6】従来のマイクロヒータの基本的な第1の構成を示す断面図
【
図7】従来のマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図
【
図8】従来の非発熱部のあるマイクロヒータ基本的な第1の構成を示す断面図
【
図9】従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第2の構成を示す断面図
【
図10】従来の非発熱部のあるマイクロヒータの基本的な第1の構成における発熱線と非発熱線の境界部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を実施するための第1乃至第4の4つの実施形態について説明する。
【0035】
(第1実施形態)
図1は本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第1実施形態を示す断面図で、
図1(a)は長手方向断面図であり、
図1(b)(c)は其々、
図1(a)のA−A断面、B−B断面である。但し、
図1(a)の端末スリーブ9とリード線80、81の絶縁被覆13,15は外形で描いており、見易くするために、
図1(b)(c)は
図1(a)より大きい縮尺で描いている。また、図中の符号は、
図6乃至
図9に示した従来のマイクロヒータと同じ機能の構成部品は、
図6乃至
図9と同じ符号を付しており、これは後掲載の
図5も同様である。
【0036】
この第1実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ1は、金属鞘管5内に無機絶縁材粉末12を介在させて、ニクロムを材質とし通電によりジュール熱を発生する発熱線6と、銅を材質とし発熱線6と略同径の非発熱線7と、ニッケルを材質とし内径が発熱線6及び非発熱線7と略同径の繋ぎ管8とが収容されたもので、発熱線6の一端と非発熱線7の一端は接触して導通しており、発熱線6の非発熱線7と接触する端部、及び非発熱線7の発熱線6と接触する端部が繋ぎ管8内にあり、繋ぎ管8の内面は、内部にある発熱線6と非発熱線7の外面と接触している。
【0037】
この繋ぎ管8以外の、金属鞘管5、無機絶縁材粉末12、ならびに金属鞘管5の両端部に端末スリーブ9が設けられていて、端末スリーブ9には通電のためのリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、16が繋がれている構造は、
図8に示した従来の非発熱部のあるマイクロヒータ11と同じである。なお、端末スリーブ9内の構造は、本特許出願と同一出願人による特許文献1の
図1おいて符号22で示されている発熱線と符号13で示されている導体を各1本とした構造である。
【0038】
本実施形態でも従来と同様、金属鞘管5内に無機絶縁材粉末12を介在して発熱線6、非発熱線7及び繋ぎ管8を収容したマイクロヒータケーブルと言われる部分の製作において、前出のように、仕上がり径より太いものを先ず作り、これをダイス引きやスエージングにより径を2分の1乃至3分の1に縮径して所定の外径のマイクロヒータケーブルに仕上げられる。
【0039】
縮径前の発熱線6、非発熱線7及び繋ぎ管8を、発熱線6の一端と非発熱線7の一端とが接触した状態、ならびに、発熱線6と非発熱線7が辛うじて挿入できる内径の繋ぎ管8内に、発熱線6の非発熱線7と接触する端部、及び非発熱線7の発熱線6と接触する端部がある状態で仮止め溶接したものとすることにより、縮径後、
図1に示す形になる。
【0040】
縮径前の発熱線6、非発熱線7及び繋ぎ管8は仮止め溶接でよいので、スポット溶接が使用できること、従来のような全断面が完全な溶融状態となるまでの昇温が不要であることなどから、従来の非発熱部のあるマイクロヒータのように非発熱線に凹みが生じることはなく、発熱線6、繋ぎ管8にも凹みは生じない。そのため、従来の非発熱部のあるマイクロヒータのような非発熱線の凹みに起因する断線が発生する懸念がない。
【0041】
また、縮径前に、繋ぎ管8の内面と発熱線6、非発熱線7に外面とに若干に隙間あったとしても、縮径によって密着した状態になる。そのため、発熱線6と非発熱線7の接触が不十分で接触抵抗が残っていたとしても、繋ぎ管8の内面は管内の発熱線6と非発熱線7の表面と密着しているので、電流は繋ぎ管8にも流れ、使用時に接触抵抗があることによる過度な温度上昇が発生することがないという付随的長所も有する。
【0042】
単位長さ当りの発熱量は単位長さ当りの抵抗値に比例する。繋ぎ管8内に非発熱線7のある部分の抵抗値は、非発熱線7と繋ぎ管8の抵抗が並列接続された抵抗値であるので、その単位長さ当りの抵抗値は繋ぎ管8外の非発熱線7の単位長さ当りの抵抗値より小さい。このことは、繋ぎ管8内に非発熱線7のある部分は非発熱部に属し、その単位長さ当りの発熱量は繋ぎ管8外の非発熱線7のそれより小さいことを示している。したがって、非発熱線7のある部分すべてが非発熱部になる。
【0043】
他方、繋ぎ管8内に発熱線6のある部分の抵抗値は、ニクロムの発熱線6とニッケルの繋ぎ管8の抵抗が並列接続された抵抗値であるので、その単位長さ当りの抵抗値は、繋ぎ管8外のニクロムの発熱線6の単位長さ当りの抵抗値より小さく、また通常、繋ぎ管8外の非発熱線7の単位長さ当りの抵抗値より大きい。したがって、繋ぎ管8内に発熱線6のある部分の単位長さ当りの発熱量は繋ぎ管8外の発熱線6と非発熱線7の中間的な量になり、繋ぎ管8内に発熱線6のある部分は中間発熱部になり、繋ぎ管8外に発熱線6がある部分が発熱部になっている。
【0044】
中間発熱部には、無駄な電力を消費し、また加熱すべきでない箇所が加熱される可能性が高まるという弊害があるが、本発明の非発熱部のあるマイクロヒータ1では、
図1に示す如く繋ぎ管8内への発熱線6の挿入長を短くすることにより、中間発熱部を短くし、これによって中間発熱部の弊害を小さく、実質的には無害にしている。
【0045】
本実施形態の材質に関し、発熱線6、非発熱線7及び繋ぎ管8は既述のとおりで、発熱線6には従来と同様、電気抵抗率が高く発熱量の多いニクロムを使用して発熱部の発熱量を従来のマイクロヒータと同等にし、また、非発熱線7に電気抵抗率が低い銅を使用して非発熱部の発熱量を低く抑えて無駄な電力消費を制限しているのも従来と同様である。
【0046】
また、繋ぎ管8の材質に関し、ニッケルの細管、銅の細管は市販されていて入手が容易であり、繋ぎ管8の材質をニッケルまたは銅とすることは経済的な利点がある。本実施形態では繋ぎ管8の材質がニッケルであるが、ニッケルの電気抵抗率は銅に近い低さであるので、中間発熱部になる繋ぎ管8内に発熱線6のある部分、非発熱部になる繋ぎ管8内に非発熱線7のある部分の発熱量が低くなって無駄な発熱や電力消費が銅ほどではないが低く抑制される利点がある。
【0047】
繋ぎ管8の材質は経済的利点のある銅にしてもよい。銅の電気抵抗率はニッケルよりさらに低いため、無駄な発熱や電力消費がニッケルを材質とした場合より減少する。
【0048】
他の材質は、金属鞘管5がSUS316、無機絶縁材粉末12がマグネシアである。この2つの材質はこれに限ったものではなく、温度等の使用条件によって材質を変えてもよい。
【0049】
断面形状に関し、本実施形態の金属鞘管5の外径は3.2mm、内径は2.56mmで、発熱線6と非発熱線7の外径は0.77mm、繋ぎ管8の厚さは0.3mmで、繋ぎ管8の外径は1.37mmである。この金属鞘管5の内径、発熱線6と非発熱線7の外径は其々、
図6に示した従来の金属鞘管5の外径が3.2mmのマイクロヒータ10及び
図8に示した従来の金属鞘管5の外径が3.2mmの非発熱部のあるマイクロヒータ11の、金属鞘管5の標準的な内径、発熱線6及び非発熱線7の標準的な外径と略同じに合わせている。
【0050】
図5は本発明の第1実施形態における発熱線と非発熱線の境界部を示す断面図で、
図5(a)はマイクロヒータケーブル製作時の縮径前の断面、
図5(b)は縮径後の断面、
図5(c)は
図5(b)の鎖線で囲んだ部分の拡大図である。この
図5は、縮径前の発熱線6、非発熱線7及び繋ぎ管8の仮止め溶接をレーザースポット溶接で行なった1例を示している。図中の符号18が繋ぎ管8と発熱線6とのスポット溶接による仮止め部である。縮径の方法により、発熱線6と非発熱線7の接触が担保されない場合は、符号24で示す発熱線6と非発熱線7の接触を保つための仮止めスポット溶接を追加し、このスポット溶接部が発熱線6、非発熱線7の外径より盛り上がった場合は、盛り上がった部分をベルタ研磨で削除する。なお、
図5(b)にはスポット溶接部18、24は縮尺的に困難であるので図示していない。もちろん、繋ぎ管8と非発熱線7との仮止めスポット溶接も加えて行ってもよい。
【0051】
この繋ぎ管8の変形として、外径を発熱線6、非発熱線7と略同じにし、内径が小さくなった分、発熱線6、非発熱線7の繋ぎ管8の管内に入る箇所を細くしてもよい。
【0052】
(第2実施形態)
図2は本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第2実施形態を示す断面図で、長手方向の断面図を図示している。繋ぎ管8の管内に非発熱線7のある部分の径方向断面は、
図1(c)と同じである。なお、
図6乃至
図9に示した従来のマイクロヒータと同じ機能の構成部品は
図6乃至
図9と同じ符号を付している。
【0053】
図2に示す本実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ2と第1実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ1との違いは、非発熱線7の全長が繋ぎ管8の管内にある点である。こうすることによって、非発熱部の単位長さ当りの発熱量は既述のように、第1実施形態の繋ぎ管8に覆われていない非発熱線7の場合に比べて小さくなり、第1実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ1よりさらに無駄な発熱や電力消費が無くなる。
【0054】
その他の特徴、効果、材質及び断面寸法は第1実施形態と同じであり、説明を割愛する。
【0055】
(第3実施形態)
図3は本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第3実施形態を示す断面図で、
図3(a)は長手方向断面図であり、
図3(b)(c)は其々、
図3(a)のC−C断面、D−D断面である。但し、
図3(a)の端末スリーブ9とリード線80、81の絶縁被覆13,15は外形で描いており、見易くするために、
図3(b)(c)は
図3(a)より大きい縮尺で描いているのは
図1と同様である。また、図中の符号は、
図6乃至
図9に示した従来のマイクロヒータと同じ機能の構成部品は、
図6乃至
図9と同じ符号を付している。
【0056】
図3(a)中の繋ぎ管8の管内に非発熱線7のある部分の径方向断面は、
図1(c)と同じである。なお、
図6乃至
図9に示した従来のマイクロヒータと同じ機能の構成部品は
図6乃至
図9と同じ符号を付している。
【0057】
図3に示す第3実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ3と第1実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ1との違いは、発熱線6、非発熱線7が、金属鞘管5内で
図9に示した従来の非発熱部のあるマイクロヒータ21と同様、往復している点と、そのために、端末スリーブ9が片側にのみ設けられている点と、断面寸法の比率が異なる点である。
【0058】
端末スリーブ9内の構造は、特許文献1の
図1に示されている構造であり、端末スリーブ9に、通電のためのリード線80、81の絶縁被覆13,15から剥き出された導体14、15が繋がれている構造は、
図9に示した従来の非発熱部のあるマイクロヒータ21と同じである。
【0059】
断面形状に関し、本実施形態の金属鞘管5の外径は3.2mm、内径は2.56mmで、発熱線6と非発熱線7の外径は0.31mm、繋ぎ管8の厚さは0.15mmで、繋ぎ管8の外径は0.61mmである。この金属鞘管5の内径、発熱線6の外径は其々、
図7に示した従来の金属鞘管5の外径が3.2mmのマイクロヒータ20及び
図9に示した従来の金属鞘管5の外径が3.2mmの非発熱部のあるマイクロヒータ21の、金属鞘管5の標準的な内径、発熱線6及び非発熱線7の標準的な外径と略同じに合わせている。
【0060】
その他の特徴、効果及び材質は第1実施形態と同じであり、発熱線6と非発熱線7の境界部の形も
図5と同じであるので、これらについては説明を割愛する。
【0061】
(第4実施形態)
図4は本発明による非発熱部のあるマイクロヒータの第4実施形態を示す断面図で、長手方向の断面図を図示している。繋ぎ管8の管内に非発熱線7のある部分の径方向断面は、
図3(c)と同じである。なお、
図6乃至
図9に示した従来のマイクロヒータと同じ機能の構成部品は
図6乃至
図9と同じ符号を付している。
【0062】
図4に示す本実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ4と第3実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ3との違いは、非発熱線7の全長が繋ぎ管8の管内にある点である。こうすることによって、非発熱部の単位長さ当りの発熱量は既述のように、第3実施形態の繋ぎ管8に覆われていない非発熱線7の場合に比べて小さくなり、第3実施形態の非発熱部のあるマイクロヒータ3よりさらに無駄な発熱や電力消費が無くなる。
【0063】
その他の特徴、効果、材質及び断面寸法は第1実施形態と同じであり、説明を割愛する。
【0064】
以上、4つの実施形態でのマイクロヒータケーブルの仕上がり径つまり金属鞘管5の外径は3.2mmであるが、従来、工業界で使用されてきたマイクロヒータケーブルの主流は、1.6mm乃至6.4mmであり、本発明の非発熱部のあるマイクロヒータのマイクロヒータケーブルも従来と同様のこれらの外径としてもよく、外径に合わせて発熱線6と非発熱線7の径、繋ぎ管8の内外径が変えられる。
【0065】
なお、マイクロヒータケーブルの全長、発熱部の位置と長さについては、端末スリーブと加熱対象物との距離や、加熱対象物の大きさなどの使用条件によって決められるもので、予め定まった制約はない。
【符号の説明】
【0066】
1 非発熱部のあるマイクロヒータ(第1実施形態)
2 非発熱部のあるマイクロヒータ(第2実施形態)
3 非発熱部のあるマイクロヒータ(第3実施形態)
4 非発熱部のあるマイクロヒータ(第4実施形態)
5 金属鞘管
6 発熱線
7 非発熱線
8 繋ぎ管
9 端末スリーブ
12 無機絶縁材粉末
80、81 リード線
13、15 リード線の絶縁被覆
14、16 リード線の導体