(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
【0012】
<燃料供給ポンプ>
図1は、燃料供給ポンプ100の一部を断面視した斜視図である。
図2は、
図1に示した燃料供給ポンプ100のフランジ4の一部を拡大した半断面図である。
燃料供給ポンプ100は、燃料タンク(図示略)から加圧室内に供給された燃料をプランジャ8の運動によって加圧し、燃料吐出弁12を介してコモンレールに送る、車両用、特に小型車又は商用車用のポンプである。コモンレールに圧送された高圧燃料は、インジェクタに所定量分配される。
図1に示す燃料供給ポンプ100は、プランジャ8が1本のポンプであるが、本発明においては、プランジャ8の数量を限定する必要はなく、複数の加圧室及び複数のプランジャ8が並列に配置された、いわゆる列型のポンプであってもよい。
燃料供給ポンプ100は、燃料タンクから燃料を汲み上げるフィードポンプ1と、フィードポンプ1から送られてくる燃料を加圧し、高圧をかけた状態の燃料をコモンレールに送るポンプ本体部2と、加圧室に送る燃料の流量を調整する調量弁(図示略)と、を備えている。
【0013】
[フィードポンプ及び調量弁]
フィードポンプ1は、燃料タンク内に貯留されている燃料を汲み上げて、調量弁に送るものである。フィードポンプ1は、駆動ギアと従動ギアとを有するギアポンプであり、このフィードポンプ1が駆動することにより、燃料タンクから燃料が吸い上げられ、調量弁に送られる。
調量弁は、フィードポンプ1から送られてきた燃料をポンプ本体部2の燃料加圧室91に送る際に、その流量を調整する。調量弁を設けることにより、エンジンの燃料消費量に応じて流量を調整して燃料加圧室91に送ることができる。
【0014】
[ポンプ本体部]
図1、
図2に示すように、ポンプ本体部2は、主としてハウジング3と、フランジ4と、カムシャフト5と、2つのシール部材6と、タペット装置7と、プランジャ8と、シリンダヘッド9と、スプリング10と、燃料吸入弁11と、燃料吐出弁12と、弁装置13と、を備えている。
【0015】
(ハウジング)
ハウジング3は、カムシャフト5、タペット装置7、プランジャ8、シリンダヘッド9、スプリング10、燃料吸入弁11及び燃料吐出弁12の各機構を収容するものである。
ハウジング3には、カムシャフト5を収容する第1の収容空間31と、タペット装置7及びシリンダヘッド9を収容する第2の収容空間32とが形成されている。
第1の収容空間31は、カムシャフト5の軸線方向に延びるように形成された空間であり、カムシャフト5が挿入される。第1の収容空間31は、ハウジング3におけるフィードポンプ1が取り付けられている面から、この面に対向する面に向けて貫通するように形成されている。第1の収容空間31の、フィードポンプ1が取り付けられている面に対向する面には、フランジ4が取り付けられる。
第2の収容空間32は、プランジャ8の軸線方向に延び、円柱状に形成されている。第1の収容空間31及び第2の収容空間32は、互いに延びる方向がほぼ直交するように形成されており、第2の収容空間32は、一方が第1の収容空間31に連通しており、他方が第1の収容空間31とは異なる面に向けて貫通している。
【0016】
(フランジ)
図2に示すように、フランジ4は、カムシャフト5の軸部53を回転自在に支持するものであり、ハウジング3の、フィードポンプ1が取り付けられていない側に取り付けられている。また、フランジ4は、燃料供給ポンプ100とは反対側において、エンジン(図示せず)に隣接している。
フランジ4の内部には、カムシャフト5が挿入される軸孔41が形成されている。さらにフランジ4には、その外周面42から内周面43まで延びて軸孔41に開口していて、フランジ4の外部とフランジ4の内部とを連通する連通孔44が形成されている。これにより、フランジ4内部への、連通孔44を通じた空気の通流が可能になる。
連通孔44内には、
図2に示すように、弁装置13が設けられている。
【0017】
(カムシャフト)
図1、
図2に示すように、カムシャフト5は、エンジンの駆動軸に連結機構(図示せず)を介して連結されており、駆動軸からの駆動力によって自身が回転し、タペット装置7を介してプランジャ8を往復直線運動させる回転軸である。カムシャフト5は、軸受51を介してハウジング3に、軸受52を介してフランジ4にそれぞれ回転自在に支持されている。
図1に示すように、カムシャフト5は、軸線回りに回転する軸部53と、軸部53に設けられたカム部54とを備えている。
軸部53は、略円柱状に形成され、エンジンからの駆動力によって回転する。
カム部54は、1つ又は複数のカム山を有し、軸部53に固定されており、軸部53の回転とともに軸部53の軸線回りに回転する。カム部54における軸線方向の両端部は、軸線に対して直交する方向に延在する平面上の端面を有している。
カムシャフト5は、カム部54が第2の収容空間32の下方に位置するように、第1の収容空間31内に配置されている。
なお、カム部54は、軸部53と一体に形成されていてもよい。
【0018】
(シール部材)
図2に示すように、2つのシール部材6は、フランジ4とカムシャフト5との間に設け
られている。具体的には、2つのシール部材6は、フランジ4の内周面43と、カムシャフト5の外周面との間に、カムシャフト5の軸線方向に互いに間隔をあけて、カムシャフト5が摺動可能であるように設けられている。2つのシール部材6の間には空間Sが形成されている。2つのシール部材6は、カムシャフト5の軸線方向において、フランジ4の連通孔44を間に挟んで配置されている。つまり、連通孔44は、フランジ4の外部と空間Sとを連通可能にしている。
シール部材6は、燃料供給ポンプ100内部の圧送される燃料及びエンジン内部のエンジンオイルのような潤滑油の漏出を防ぐ。
具体的には、ハウジング3寄りに設けられているシール部材6aは、フランジ4とカムシャフト5との間をシールして、燃料供給ポンプ100内における潤滑油として機能する燃料が燃料供給ポンプ100外部へ漏出することを防止する。
また、カムシャフト5の軸線方向において、シール部材6aに対して外側に設けられているシール部材6bは、フランジ4とカムシャフト5との間をシールしてエンジンの各構成要素の潤滑油が、燃料供給ポンプ100内へ漏出することを防止する。
シール部材6a,6bにより、燃料供給ポンプ100内の燃料とエンジン内の潤滑油との混合が防止されている。
【0019】
(タペット装置)
タペット装置7は、カム部54の回転運動をプランジャ8の往復直線運動に変換するものであり、
図1に示すように、プランジャ8とカム部54との間に介在し、第2の収容空間32内に配置されている。タペット装置7は、ローラ71とタペット本体部72とから構成され、タペット本体部72は、ローラ71を摺動保持するローラ保持部と第2の収容空間32の内周面と摺動する円筒部とを備えている。
【0020】
(プランジャ)
プランジャ8は、シリンダヘッド9内の燃料加圧室91の一部を構成し、シリンダヘッド9に形成された空間92に摺動自在に保持されている。この空間92は、シリンダヘッド9の上方と側方に開口している。プランジャ8は、ハウジング3内でのタペット装置7の往復直線運動とともに往復直線運動し、燃料加圧室91内の燃料に高い圧力をかけるものである。プランジャ8の上端部は、燃料加圧室91の壁面の一部を構成し、その下端部は、スプリング10のスプリングシート101に係止されている。このスプリングシート101との係止により、プランジャ8はタペット装置7側に引き下げられている。
【0021】
(シリンダヘッド)
シリンダヘッド9は、その一部がハウジング3の第2の収容空間32内に収容されている。この被収容部93内に形成された空間92内にプランジャ8が挿入されている。プランジャ8は、空間92内でその軸線方向に沿って摺動自在である。この空間92は、プランジャ8及び燃料吸入弁11とともに燃料に高い圧力をかけるための燃料加圧室91を形成している。
燃料加圧室91は、燃料吸入弁11を介して取り込んだ燃料をプランジャ8が高速で往復直線運動することにより、効率的に加圧することができるようになっている。プランジャ8の往復直線運動によって加圧された燃料は、燃料吐出弁12を介してコモンレールに圧送される。
【0022】
(スプリング)
スプリング10は、自身の弾性から生まれる付勢力によりプランジャ8を下方に付勢する。スプリング10は、ハウジング3の第2の収容空間32内に配置されており、一端がシリンダヘッド9に当接し、他端がスプリングシート101に接続されている。
【0023】
(燃料吸入弁)
燃料吸入弁11は、調量弁を介して送られてくる燃料を燃料加圧室91に供給するための弁であり、シリンダヘッド9の空間92における上方の開口部近傍に配置されている。
【0024】
(燃料吐出弁)
燃料吐出弁12は、高圧の燃料をコモンレールに送るための弁であり、シリンダヘッド9の空間92における側方の開口部付近に配置されている。
【0025】
(弁装置)
図3は、一部を断面視した弁装置13の斜視図である。
図2、
図3に示すように、弁装置13は、フランジ4に形成された連通孔44に挿入、固定されており、フランジ4の外側からカムシャフト5側への空気の通流を許容し、カムシャフト5側からフランジ4の外側への空気の逆流を阻止する弁である。
弁装置13は、弁ハウジング131と、弁体132と、弁体132を付勢する付勢部材133と、を備えている。弁装置13は、フランジ4とは別体に構成されている。
【0026】
弁ハウジング131は、弁体132及び付勢部材133を収容するものであり、その内部に、貫通孔134及び弁座135が形成されている。貫通孔134及び弁座135は、連通孔44と同心状に形成されている。弁座135は、貫通孔134の途中に形成されている。弁座135の内周面は、フランジ4側からカムシャフト5側に向かって拡径するようなテーパ状に形成されている。
弁ハウジング131のカムシャフト5側の端部には、弁ハウジング131の内壁部から弁ハウジング131内部に向かって突出し、付勢部材133の一端を支持する突出部136が設けられている。突出部136は、貫通孔134を部分的に塞いでいるだけであり、弁装置13の開弁状態において、空気は貫通孔134を通流可能とされ、突出部136が空気の流れを遮断することはない。
【0027】
弁体132は、弁ハウジング131内に設けられた球体であり、弁座135に着座して貫通孔134を閉じる位置(閉弁位置)と、弁座135から離間して貫通孔134を開く位置(開弁位置)との間で往復移動自在とされている。
【0028】
付勢部材133は、例えば、コイルばねから形成されており、一端が弁体132に連結され、他端が突出部136に連結されている。付勢部材133は、自然長に対して縮められた状態、すなわち、弾性変形された状態で貫通孔134内に設けられており、付勢部材133の復元力(弾性力)で弁体132が弁座135に着座し、貫通孔134を塞いでいる。
【0029】
<弁装置の閉弁、開弁動作>
次に、
図4に基づいて、弁装置13の閉弁、開弁動作について説明する。
図4(a)は、弁装置13の閉弁状態、
図4(b)は、弁装置13の開弁状態を示したものであり、矢印によってフランジ4の外部からの空気の流れを概念的に示している。
エンジンの停止時(又は燃料供給ポンプ100の低出力運転時)、弁装置13の弁体132にフランジ4の外側からカムシャフト5側に向かって作用する圧力(正圧及び/又は負圧)は、弁体132を弁座135に向かって押し付ける付勢部材133の付勢力よりも小さい。そのため、
図4(a)に示すように、弁装置13の弁体132は、付勢部材133の付勢力により弁座135に着座した状態となり弁装置13の貫通孔134は、弁体132によって閉鎖されて、弁装置13は閉弁状態にある。その結果、塵埃等の異物が、シール部材6a,6bの間の空間S内に侵入することを防止できる。
【0030】
エンジンの運転時に燃料供給ポンプ100が駆動していると、カムシャフト5が回転して、シール部材6a,6bの内周面と、カムシャフト5の外周面との間に空気のポンプ作
用が生じる。ここで「空気のポンプ作用」とは、カムシャフト5の回転により、連通孔44を通じて空気をシール6a,6b側に吸い込む作用のことである。具体的には、シール部材6aにおいては、ポンプ本体部2の内部に向かって空気が吸い込まれ、シール部材6bにおいては、エンジンの内部に向かって空気が吸い込まれる。このシール部材6a,6bにおける空気のポンプ作用発生時には、シール部材6a,6bの間の空間S内に、フランジ4の外部の圧力に対して負圧が形成される。
フランジ4の外部の圧力(正圧)及び空間S内に形成された負圧が、弁体132を弁座135に押し付ける付勢部材133の付勢力を上回った場合、
図4(b)に示すように、弁体132は弁座135から離れ、開弁状態になる。これにより、矢印により概念的に示すように、空気が弁装置13の貫通孔134を通って、空間S内に侵入する。
【0031】
エンジンの運転状況に応じて、例えばカムシャフト5の回転が低下して、ポンプ作用が抑制された場合、空間S内の負圧は低下するので、吸い込まれる空気は減少し、フランジ4の外部の圧力及び空間S内に形成された負圧を、付勢部材133の付勢力が上回る。これにより、弁体132は弁座135に押し付けられ、弁装置13は、再び閉弁状態になる。
【0032】
<変形例>
なお、弁装置は、上記の構成に限られるものではない。次に、
図5に基づいて、弁装置の変形例について説明する。なお、上記の実施の形態と同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
図5は、弁装置が設けられるフランジ4Aの一部を拡大した断面図である。
図5に示すように、フランジ4Aには、外周面から内周面43まで延びて、カムシャフト5の軸孔41に開口していて、フランジ4Aの外部と内部とを連通する連通孔44Aが形成されている。
弁装置13Aは、連通孔44Aに形成され、フランジ4の外部(大気)側から空気が流入する空気流入部45Aと、連通孔44Aに空気流入部45Aに連続して形成され、空気流入部45A側の端部に弁座47Aを有する収容部46Aとを備えている。空気流入部45A及び収容部46Aは互いに同心状に形成されている。空気流入部45Aの内径は、収容部46Aの内径よりも小さく設定されている。
弁座47Aは、空気流入部45A側から収容部46A側に向かうにつれて拡径するようにテーパ状に形成されている。
【0033】
弁装置13Aは、さらに、弁体132Aと、付勢部材133Aとを備えている。
弁体132Aは、連通孔44Aの収容部46A内に設けられた球体であり、弁座47Aに着座して空気流入部45Aを閉じる位置(閉弁位置)と、弁座47Aから離間して空気流入部45Aを開く位置(開弁位置)との間で往復移動自在とされている。
付勢部材133Aは、例えば、コイルばねから形成されており、一端が弁体132Aに連結され、他端が収容部46Aの内壁に連結されている。付勢部材133Aは、自然長に対して縮められた状態、すなわち、弾性変形された状態で収容部46A内に設けられており、付勢部材133Aの復元力(弾性力)で弁体132Aが弁座47Aに着座し、空気流入部45Aを塞いでいる。
【0034】
<作用、効果>
以上のような構成を有する燃料供給ポンプ100によれば、2つのシール部材6a,6bの間の空間Sと、フランジ4,4Aの外部とを連通する連通孔44,44A内に、連通孔44,44Aを開閉する弁装置13,13Aが設けられているので、通常は、連通孔44,44Aが閉鎖され、異物がカムシャフト5とシール部材6a,6bとの間に侵入することを防止できる。これにより、異物混入によるシール部材6a,6bのシール性の低下を抑制することができる。
また、弁装置13,13Aが、連通孔44,44Aを開閉する弁体132,132Aと、弁体132,132Aを弁座135,47Aに着座させて閉弁状態とする閉弁方向に付勢する付勢部材133,133Aとを備えていることにより、エンジンの運転状況に応じて、連通孔44,44Aの開閉が可能になり、連通孔44,44Aを通じた異物の不必要な侵入を阻止することができる。
【0035】
<その他>
なお、本発明は上記の実施の形態に限られるものではなく、弁装置13の貫通孔134内において弁座135の上流側、又は、フランジ4Aの連通孔44Aの空気流入部45Aに、異物を捕捉するフィルタ部材が設けられていてもよい。
また、連通孔44,44Aは、フランジ4,4Aの外周面にわたって複数形成されていてもよい。