(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸部の誘導加熱開始から誘導加熱終了に至るまでの時間と、クランクシャフトの軸方向ののびの相関関係を記憶した記憶手段を有し、前記記憶手段の記憶に基づいて移動手段が個々の誘導加熱コイル体を移動させることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの高周波焼入装置。
クランクシャフトの軸方向の伸縮を検出する検出手段を有し、前記検出手段の検出結果に応じて前記移動手段が個々の誘導加熱コイル体を個別に移動させることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの高周波焼入装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、同時に熱処理を実施する箇所が増えるほど、昇温時におけるクランクシャフト全体の歪が大きくなる。すなわち、各ピン部又は各ジャーナル部が膨張し、
図6に示す様に、クランクシャフトは主に長手方向(
図6において矢印で示す軸方向)に伸びる。そのため、誘導加熱コイルの位置が固定されていると、誘導加熱コイルに対して各ピン部又は各ジャーナル部がクランクシャフトの軸方向に位置ずれしてしまう。その結果、膨張したクランクシャフトが、位置が変動しない誘導加熱コイル体に接触し、さらに過度に押圧する。そのため、固定部材やスペーサの寿命が短くなる恐れがある。具体的には、各ピン部や各ジャーナル部を接続する接続部が、誘導加熱コイル体に接触し、ワークであるクランクシャフトや誘導加熱コイル体を破損させる恐れがある。
【0008】
一方、従来のクランクシャフトの高周波誘導加熱装置には、昇温時におけるクランクシャフトの軸方向の伸びによって生じるクランクシャフトや誘導加熱コイル体を保護する構成を備えたものは存在しない。前述の特許文献1に開示されている発明は、熱処理後のクランクシャフトの歪を低減させるものであり、昇温時における歪(クランクシャフトの伸び)を低減するものではない。
【0009】
そこで本発明は、クランクシャフトを焼入する際に、膨張したクランクシャフトの歪の影響を受けにくいクランクシャフトの高周波焼入装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、軸方向に伸縮可能に両端が支持されたクランクシャフトの複数の軸部を同時に焼入するクランクシャフトの高周波焼入装置であって、誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルを固定した固定部材を備えた複数の誘導加熱コイル体を有し、前記誘導加熱コイルは、高周波電流が供給される導体で構成されており、軸部に誘導加熱コイルを近接対向させた状態の前記複数の誘導加熱コイル体を、誘導加熱時及び冷却時におけるクランクシャフトの伸縮に応じて個別にクランクシャフトの軸方向に移動させる移動手段を有することを特徴とするクランクシャフトの高周波焼入装置である。
【0011】
焼入の加熱工程において、クランクシャフトの複数箇所が同時に昇温して、クランクシャフトが軸方向に膨張した際における各軸部の変位量は相違する。すなわち、例えばクランクシャフトの一端が固定され、他端が変位可能に支持されている場合には、固定された一端に近い側の軸部の変位量ほど小さく、他端に近い側の軸部の変位量ほど大きくなる。そのため、クランシャフトが膨張して伸長した際に、各誘導加熱コイル体を一様にクランクシャフトの軸方向に移動させても、各軸部に各誘導加熱コイル体が適切に移動しない。すなわち、各軸部に対して各誘導加熱コイル体が適切に対向しなくなる。
焼入の冷却工程においても、クランクシャフトが収縮する際の各軸部の変位量は相違するため、各誘導加熱コイル体を一様にクランクシャフトの軸方向に移動させても、各軸部に対して各誘導加熱コイル体が適切に対向しなくなる。
【0012】
しかし、請求項1に記載の発明では、軸部に誘導加熱コイルを近接対向させた状態の前記複数の誘導加熱コイル体を、クランクシャフトの伸縮に応じて個別にクランクシャフトの軸方向に移動させる移動手段を有するので、各誘導加熱コイル体の誘導加熱コイルが、対応する軸部に適切に対向するように各誘導加熱コイル体を移動させることができる。
すなわち、高周波焼入の加熱工程及び冷却工程において、クランクシャフトが軸方向に伸縮しても、各軸部に対して各誘導加熱コイル体の誘導加熱コイルが適切に対向するように、各誘導加熱コイル体が移動する。そのため、各誘導加熱コイル体に対してクランクシャフトが接触したり、押圧されることを防止又は抑制することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、軸部の誘導加熱開始から誘導加熱終了に至るまでの時間と、クランクシャフトの軸方向ののびの相関関係を記憶した記憶手段を有し、前記記憶手段の記憶に基づいて移動手段が個々の誘導加熱コイル体を移動させることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの高周波焼入装置である。
【0014】
誘導加熱対象のクランクシャフトは、各軸部の温度が上昇するほど、軸方向の伸びが増大する。すなわち、各軸部の温度上昇と、クランクシャフトの軸方向の伸びの量の間には相関関係がある。また、誘導加熱する時間が長くなるほど各軸部の温度は上昇する。よって、誘導加熱時間とクランクシャフトの軸方向ののびの間には相関関係がある。
請求項2に記載の発明は、この誘導加熱時間とクランクシャフトの軸方向の伸縮の相関関係を利用している。
請求項2に記載の発明では、クランクシャフトと各誘導加熱コイル体とが衝突するのを防止又は抑制することができる。また、クランクシャフトの実際の伸びを検出する必要がなく、検出手段が不要である。
請求項2に記載の発明では、昇温する各軸部の困難な温度検出をする必要がない。
【0015】
同様に、冷却工程において各軸部の温度が下がるほど、クランクシャフトの軸方向の収縮量が増大する。すなわち、各軸部の温度下降と、クランクシャフトの軸方向の収縮量の間にも相関関係がある。よって、軸部の冷却開始から冷却終了に至るまでの時間と、クランクシャフトの軸方向の収縮の相関関係を記憶手段に記憶しておき、記憶手段の記憶に基づいて移動手段が個々の誘導加熱コイル体を移動させることもできる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、クランクシャフトの軸方向の伸縮を検出する検出手段を有し、前記検出手段の検出結果に応じて前記移動手段が個々の誘導加熱コイル体を個別に移動させることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフトの高周波焼入装置である。
【0017】
請求項3に記載の発明では、検出手段によって、クランクシャフトの軸方向の伸びを検出することができる。また、検出手段の検出結果に応じて、移動手段が個々の誘導加熱コイル体を個別に移動させるので、クランクシャフトの各軸部に追従するように各誘導加熱コイル体を個々に移動させることができる。そのため、各誘導加熱コイル体は、クランクシャフトに接触したり、当接するのを防止又は抑制することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、クランクシャフトの軸方向の伸縮を検出する検出手段を有し、複数のクランクシャフトの焼入実施中の伸縮量と経過時間の関係を取得してその平均値を算出し、さらに当該平均値を中心に所定の幅を設定する制御手段を有し、前記制御手段は、前記複数のクランクシャフト以外のクランクシャフトの焼入実施時に、当該クランクシャフトの伸縮量が、前記所定の幅の範囲に収まっているか否かを判定し、前記制御手段によってクランクシャフトの伸縮量が、所定の幅に収まっていないと判定された際に、警報を発する警報装置を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクランクシャフトの高周波焼入装置である。
【0019】
請求項4に記載の発明では、検出手段によって、クランクシャフトの軸方向の伸びを検出することができる。
また、クランクシャフトの伸縮量が、制御手段によって設定された所定の幅の範囲に収まっていなければ、警報装置が警報を発するので、作業者は異常を認識することができる。そして、適切なメンテナンスを実施することにより、当該クランクシャフトの次に焼入するクランクシャフトを、良好に焼入することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のクランクシャフトの高周波焼入装置は、クランクシャフトの各軸部を同時に高周波焼入する際に、クランクシャフトの歪量に応じて各軸部を焼入する誘導加熱コイル体をクランクシャフトの軸方向に移動させることができ、ワークであるクランクシャフトと各誘導加熱コイル体を良好に保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。
焼入対象であるクランクシャフトWは、複数のジャーナル部、複数のピン部、及び接続部11を有する。以下ではジャーナル部を軸部(w1乃至w5)と称する。本実施形態では、各ジャーナル部(軸部w1乃至w5)を焼入する場合について説明する。
【0023】
図1に示す様に、クランクシャフトWは、一端側(ドライブ側)がチャック60で把持されており、他端側(テール側)がセンタピン61で支持されている。チャック60は、図示しない駆動装置に接続されている。すなわち、クランクシャフトWは、回転可能に両端が支持されている。また、クランクシャフトWの他端側を支持するセンタピン61は、クランクシャフトWの軸方向(長手方向)の伸縮に応じて追従移動が可能である。すなわち、センタピン61は、クランクシャフトWの軸方向に移動させる図示しない移動機構を有している。
【0024】
センタピン61には、変位センサ5(近接センサ)が設けられている。変位センサ5は、固定部5aと可動部5bを有する。固定部5aは、床面等に固定された不動の部材(図示せず)に固定されている。可動部5bは、センタピン61に装着されている。固定部5aと可動部5bは、クランクシャフトWの軸方向に並んでいる。可動部5bが移動すると、可動部5bと固定部5aの距離が変動し、センタピン61が移動したことを検出することができる。また、変位センサ5は、センタピン61の移動距離(移動量)も検出することができる。すなわち、変位センサ5は、クランクシャフトWの常温時のセンタピン61の位置を基準位置とし、この基準位置からの移動量(ずれ)を検出する機能を有する。
【0025】
図1に示す様に、各軸部w1乃至w5を焼入する高周波焼入装置1は、誘導加熱コイル体2、トランス3、移動装置4(移動手段)を有する。また、高周波焼入装置1は、制御装置15(
図7)を有する。
【0026】
誘導加熱コイル体2は、
図2に示す様に、加熱コイル6、側板7、8、冷却ジャケット9、10等を有する。
加熱コイル6は、銅や銅合金等の良導体からなる管状部材で構成されている。加熱コイル6は、いわゆる半開放形に形成されている。すなわち、加熱コイル6は、誘導加熱対象(軸部w1等)に対して半径方向に接近及び離間が可能である。加熱コイル6は、図示しない高周波電源から供給される高周波電流を通電可能である。また、管部材で構成された加熱コイル6の内部には、冷却液が循環供給可能である。
加熱コイル6の両側には側板7、8が配置されている。すなわち、側板7、8は、加熱コイル6を挟持しており、誘導加熱コイル体2の筐体を構成している。
冷却ジャケット9、10は、加熱コイル6の下方に配置されており、側板7、8に固定されている。冷却ジャケット9、10は、冷却水を噴射可能な多数の噴射孔を有する。冷却ジャケット9、10は、軸部w1乃至w5に対して、冷却水を噴射供給可能である。
【0027】
トランス3(変圧器)は、図示しない高周波電源と加熱コイル6の間に配置されている。図示していないが、トランス3の一次側は高周波電源に接続されており、二次側の一部が加熱コイル6側と近接している。トランス3と誘導加熱コイル体2は、各々接続端子を有しており、互いの接続端子同士が接続された状態で一体に固定されている。
【0028】
移動装置4は、固定部4a(ボールネジ)と可動部4b(ナット)とサーボモータ(図示せず)を有する。固定部4aは、図示しない不動の部材に固定されており位置は変動しないが、サーボモータで回転駆動される。可動部4bは、固定部4aに係合しており、固定部4aが回転駆動されると、固定部4aに対して移動可能である。可動部4bは、固定部4aに対して微細な動作が可能であり、クランクシャフトWの軸方向(長手方向)に沿って往復移動が可能である。
【0029】
制御装置15は、演算処理部16(CPU)を有し、移動装置4の動作を司る機能を有している。
【0030】
次に、クランクシャフトWの各軸部w1乃至w5の焼入の際における移動装置4の動作について説明する。
【0031】
クランクシャフトWの軸部w1乃至w5には、誘導加熱コイル体2が近接配置されている。
図2では、近接状態を把握し易くするために、1つの軸部にのみ誘導加熱コイル体2が配置されている状態を示している。各加熱コイル6a乃至6eと、各軸部w1乃至w5の距離は、側板7、8に固定されたスペーサ(図示せず)によって所定範囲内に収まるように設定されている。
また、図示しない駆動装置によってクランクシャフトWを回転駆動すると、焼入(誘導加熱工程と冷却工程)の準備が完了する。
【0032】
そして、図示しない高周波電源から加熱コイル6a〜6eに高周波電流を供給し、クランクシャフトWの焼入(誘導加熱工程)を開始する。クランクシャフトWの軸部w1乃至w5が昇温すると、クランクシャフトWは軸方向に膨張し、センタピン61が移動する。
そのため、変位センサ5の固定部5aに対して可動部5bが接近し、変位センサ5は、クランクシャフトWが伸びたことを検出すると共に、その伸び量を検出し、検出信号を制御装置15に送信する。
【0033】
制御装置15では、以下の動作が実施される。
クランクシャフトWが伸びたことを変位センサ5が検出すると、制御装置15は、直ちに各移動装置4を駆動させる。その際、制御装置15の演算処理部16は、センタピン61に最も近い側の軸部w1に近接対向する誘導加熱コイル体2aの移動量が最も多く、チャック60に最も近い側の軸部w5に近接対向する誘導加熱コイル体2eの移動量が最も少なくなるように、各移動装置4の移動量を演算する。
【0034】
具体的には、変位センサ5がクランクシャフトWの伸びを検出し、その伸び量をEとすると、各移動装置4は次の様に各誘導加熱コイル体を移動させる。
軸部w1に近接対向する第1誘導加熱コイル体2aに設けられた移動装置4は、第1誘導加熱コイル体2aを5E/5(5分の5E、すなわちE)だけ移動させる。
軸部w2に近接対向する第2誘導加熱コイル体2bに設けられた移動装置4は、第2誘導加熱コイル体2bを4E/5(5分の4E)だけ移動させる。
軸部w3に近接対向する第3誘導加熱コイル体2cに設けられた移動装置4は、第3誘導加熱コイル体2cを3E/5(5分の3E)だけ移動させる。
軸部w4に近接対向する第4誘導加熱コイル体2dに設けられた移動装置4は、第4誘導加熱コイル体2dを2E/5(5分の2E)だけ移動させる。
軸部w5に近接対向する第5誘導加熱コイル体2eに設けられた移動装置4は、第5誘導加熱コイル体2eをE/5(5分のE)だけ移動させる。
【0035】
すなわち、クランクシャフトWにおけるチャック60で把持された部位は、回転軸が伸びる方向の位置が固定されている上に、各軸部w1〜w5は、各々が加熱されて膨張し伸長する。そのため、クランクシャフトWにおけるチャック60で把持された部位に近い軸部ほどチャック60からの変位量が少なく、チャック60で把持された部位から離れた軸部ほど変位量が累積されて多くなるため、軸部w1に近接対向する第1誘導加熱コイル体2aの移動量を最も多くし、軸部w5に近接対向する第5誘導加熱コイル体2eの移動量を最も少なくする。
【0036】
焼入において、誘導加熱工程が終了すると、速やかに冷却工程が実施される。冷却工程では、各軸部w1乃至w5に対して、冷却ジャケット9、10から冷却水が噴射供給される。各軸部w1乃至w5は、冷却水によって冷却され、温度がMs点(マルテンサイト変態点)まで速やかに降下する。
【0037】
その際、クランクシャフトWは収縮し、各軸部w1乃至w5の位置が変動する。変位センサ5は、クランクシャフトWの収縮を検出し、検出信号を制御装置に送信する。変位センサ5から検出信号を受けた制御装置は、各移動装置4を駆動し、各軸部w1乃至w5に対向する各誘導加熱コイル体2a〜2eを移動させる。
【0038】
具体的には、変位センサ5がクランクシャフトWの収縮を検出し、その収縮量をFとすると、各移動装置4は次の様に各誘導加熱コイル体を移動させる。
軸部w1に近接対向する第1誘導加熱コイル体2aに設けられた移動装置4は、第1誘導加熱コイル体2aを5F/5(5分の5F、すなわちF)だけ移動させる。
軸部w2に近接対向する第2誘導加熱コイル体2bに設けられた移動装置4は、第2誘導加熱コイル体2bを4F/5(5分の4F)だけ移動させる。
軸部w3に近接対向する第3誘導加熱コイル体2cに設けられた移動装置4は、第3誘導加熱コイル体2cを3F/5(5分の3F)だけ移動させる。
軸部w4に近接対向する第4誘導加熱コイル体2dに設けられた移動装置4は、第4誘導加熱コイル体2dを2F/5(5分の2F)だけ移動させる。
軸部w5に近接対向する第5誘導加熱コイル体2eに設けられた移動装置4は、第5誘導加熱コイル体2eをF/5(5分のF)だけ移動させる。
【0039】
すなわち、クランクシャフトWにおけるチャック60で把持された部位は、回転軸が収縮する方向の位置が固定されている上に、各軸部w1〜w5は、各々が冷却されて収縮する。そのため、クランクシャフトWにおけるチャック60で把持された部位に近い軸部ほどチャック60からの変位量が少なく、チャック60で把持された部位から離れた軸部ほど変位量が累積されて多くなるため、軸部w1に近接対向する第1誘導加熱コイル体2aの移動量を最も多くし、軸部w5に近接対向する第5誘導加熱コイル体2eの移動量を最も少なくする。
【0040】
以上、説明した様に、クランクシャフトWの誘導加熱工程と冷却工程において、各誘導加熱コイル体2a〜2e(各加熱コイル6a〜6e)が各軸部w1〜w5に追従する様に、各移動装置4は各誘導加熱コイル体2a〜2e(各加熱コイル6a〜6e)を移動させる。これにより、各誘導加熱コイル体2a〜2eとクランクシャフトWとが、強く押圧されて破損する事態を回避することができる。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態では、第1実施形態と同様の構成の高周波焼入装置1を使用するが、変位センサ5は使用しない。また、制御装置15は、演算処理部16の他、記憶部17(メモリ)を有する。
すなわち、クランクシャフトWの誘導加熱を開始してから焼入温度に達するまでの間のクランクシャフトWの伸びを計測する試験を予め実施しておき、クランクシャフトWの温度上昇(経過時間)とクランクシャフトWの伸びの相関関係を記憶部17に記憶しておく。
そして、クランクシャフトWの温度上昇(経過時間)に応じて各移動装置4を動作させ、各誘導加熱コイル体2a乃至2eを移動させる。
【0042】
換言すると、誘導加熱を開始してからの経過時間と、クランクシャフトWの伸びの相関関係が制御装置15の記憶部17に記憶されている。また、記憶部17の記憶内容に基づいて、各移動装置4を作動させるプログラムが、制御装置15の演算処理部16によって実行される。
【0043】
その結果、誘導加熱の開始タイミングに合わせて、各移動装置4によって、各誘導加熱コイル体2a乃至2eがクランクシャフトWの軸方向に移動する。すなわち、各誘導加熱コイル体2a乃至2eは、予め設定されたプログラム通りに移動し、各軸部w1乃至w5に対する適切な対向位置を維持しながら各軸部w1乃至w5を誘導加熱する。
【0044】
焼入温度に達した各軸部w1乃至w5を冷却する際においても、各誘導加熱コイル体2a乃至2eは、予め設定されたプログラム通りに移動し、各軸部w1乃至w5に対する適切な対向位置を維持しながら冷却ジャケット9,10から冷却液を噴射供給して各軸部w1乃至w5を冷却する。
【0045】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
第3実施形態では、第1実施形態と同様の高周波焼入装置1を使用し、さらに制御装置15は記憶部17を有している。記憶部17は、データの追加や書き換えが可能なメモリであり、変位センサ5で検出された変位量(検出値)を記憶することができる。
また、制御装置15には、警報装置18が設けられている。警報装置18は、制御装置15の指令によって動作する。
【0046】
第3実施形態では、高周波焼入装置1は、初期に長さ測定モードを実施し、引き続き監視モードを実施する。長さ測定モード及び監視モードの実施は、制御装置15が司っている。
長さ測定モードとは、サンプルとして最初の複数(例えば3〜5本)のクランクシャフトWの伸びに関するデータを取得し、伸びの傾向を調べるモードである。
監視モードとは、長さ測定モードを実施した後に実施されるモードであり、長さ測定モードで取得した伸びのデータと、上記サンプル以外のクランクシャフトWの実際の伸びとを比較するモードである。
【0047】
まず、長さ測定モードでは、制御装置15が、変位センサ5によって検出されたクランクシャフトWの伸びの傾向を記憶部17に記憶する。具体的には、加熱コイル6a〜6eの誘導加熱を開始してから終了するまでのクランクシャフトW全体の伸びを変位センサ5で検出し、時間経過と伸びの関係を記憶部17に記憶する。複数(例えば3〜5本)のクランクシャフトWについて、時間経過と伸びの関係を記憶部17に記憶する。
【0048】
そして、演算処理部16は、記憶部17に記憶された複数の伸びの平均値を算出する。さらに、演算処理部16は、算出した平均値を中心に所定の幅(例えば0.1mm〜10mm)を設定する。
【0049】
図8は、クランクシャフトWの誘導加熱時における時間経過とクランクシャフトWの伸びの関係を示すグラフであり、演算処理部16が算出した平均値のグラフを実線で示している。
図8に示す様に、実線で示す平均値のグラフを中心に、破線で示す上限値と下限値が設定されている。上記の所定の幅とは、
図8において破線で示す上限値と下限値の差である。
【0050】
次に、監視モードでは、長さ測定モードで設定された伸びの上限値と下限値の間に、今現在誘導加熱中のクランクシャフトWの伸びが収まっているか否かが監視される。
【0051】
具体的には、クランクシャフトWの誘導加熱を実施する際に、第1実施形態や第2実施形態に記載した手順で各移動装置4を動作させると共に、制御装置15が、各加熱コイル6a〜6eが各軸部w1〜w5の移動に追従しているか否かを監視する。すなわち制御装置15は、当該クランクシャフトWの伸びが、長さ測定モードで設定された上限値と下限値の間(所定の幅の範囲)に収まっているか否かを監視する。
【0052】
図8において一点鎖線で示す様に、クランクシャフトWの伸びが、上限値と下限値の間に収まっていれば、各加熱コイル6a〜6eが各軸部w1〜w5の移動に追従しているとみなすことができる。
【0053】
仮に、クランクシャフトWの伸びが、上限値と下限値の間に収まっていなければ、各加熱コイル6a〜6eが各軸部w1〜w5の移動に追従しておらず、この場合には、制御装置15は、警報装置18(
図7)を作動させて警報を発する。これにより、作業者が異常を認識することができる。
【0054】
さらに、今回の異常が、本ピースだけの問題であるのか、長さ測定モードで設定した上限値と下限値の設定に問題があったのかを分析する。上限値と下限値の設定に問題があった場合には、上限値と下限値を修正する。例えば、本ピースの伸びを、サンプルの伸びと合わせて平均値を算出する。又は、上限値と下限値の所定の幅を広く(例えば、0.1mm〜10mm等)する。
【0055】
この様にすることによって、当該高周波焼入装置1による、これ以降に焼入されるクランクシャフトWや、誘導加熱コイル体2a〜2eが破損するのを防止することができる。
【0056】
焼入の冷却工程においても、誘導加熱工程と同様に平均値を算出し、上限値と下限値を設定するのが好ましい。
【0057】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
第4実施形態では、第3実施形態と同様の焼入装置1を使用する。
【0058】
第4実施形態では、制御装置15の演算処理部16が、変位センサ5による検出結果と、記憶部17に予め記憶された所定長さとを対比し、移動装置4を動作させるか否かを判断する。
すなわち、記憶部17には、予め実験によって求められた第1乃至第5所定長さが記憶されている。第1乃至第5所定長さとは、変位センサ5で検出されたクランクシャフトW全体の伸び量と対比する長さである。演算処理部16は、第1乃至第5所定長さと、変位センサ5で検出された伸び量とを比較し、いずれが大きいかを判定する機能を有する。制御装置15は、各移動装置4の動作を制御することができる。すなわち、制御装置15によって各移動装置4の動作が司られており、制御装置15の指令によって各移動装置4が動作し、焼入装置1の各誘導加熱コイル体2a乃至2eを移動させることができる。
【0059】
図1に示す様に、クランクシャフトWの各軸部w1乃至w5には、各々誘導加熱コイル体2a乃至2eが配置されている。各誘導加熱コイル体2a乃至2eの幅寸法は、近接対向する各軸部w1乃至w5の長さよりも若干短い。そのため、各誘導加熱コイル体2a乃至2eを、各軸部w1乃至w5に対して接続部11に衝突することなく容易に近接対向させることができる。
【0060】
次に、クランクシャフトWの各軸部w1乃至w5の焼入の際における移動装置4の動作について説明する。
【0061】
クランクシャフトWの軸部w1乃至w5には、誘導加熱コイル体2が近接配置されている。
図2では、近接状態を把握し易くするために、1つの軸部にのみ誘導加熱コイル体2が配置されている状態を示している。各加熱コイル6a乃至6eと、各軸部w1乃至w5の距離は、側板7、8に固定されたスペーサ(図示せず)によって所定範囲内に収まるように設定されている。
また、図示しない駆動装置によってクランクシャフトWを回転駆動すると、焼入の準備が完了する。
【0062】
以下、
図4の流れ図に沿って説明する。
誘導加熱を開始する前に、変位センサ5を作動させる(ステップ1)。
【0063】
そして、図示しない高周波電源をON状態とし、加熱コイル6a乃至6eに高周波電流を通電する(ステップ2)。加熱コイル6a乃至6eに近接した各軸部w1乃至w5には、高周波の誘導電流が励起され、各軸部w1乃至w5が誘導加熱されて昇温する。各軸部w1乃至w5は、昇温して膨張し、クランクシャフトWの軸方向(長手方向)に伸長する。
【0064】
ステップ3において、変位センサ5が検出したクランクシャフトW全体の伸び量と、制御装置15の記憶部17に記憶された第1所定長さを比較する。
クランクシャフトW全体の伸び量が、第1所定長さを超えていなければ、ステップ3を繰り返す。伸び量が、予め設定された第1所定長さを超えると、センタピン61側(テール側)に最も近い第1誘導加熱コイル体2aを第1所定長さだけ移動させる(ステップ4)。すなわち、軸部w1の移動及び伸びに追従するように、第1誘導加熱コイル体2aをセンタピン61側へ移動させる。第1所定長さとは、例えば、0.2〜0.3mmである。
【0065】
ステップ5において、変位センサ5が検出したクランクシャフトW全体の伸び量と、制御装置15の記憶部17に記憶された第2所定長さを比較する。第2所定長さは、第1所定長さの2倍の長さである。
クランクシャフトW全体の伸び量が、第2所定長さを超えていなければ、ステップ5を繰り返す。伸び量が、予め設定された第2所定長さを超えると、第1誘導加熱コイル体2aと、第1誘導加熱コイル体2aに隣接した第2誘導加熱コイル体2bを第1所定長さだけ移動させる(ステップ6)。すなわち、軸部w1,w2の移動及び伸びに追従するように、誘導加熱コイル体2a、2bをセンタピン61側へ移動させる。第1所定長さとは、例えば、0.2〜0.3mmである。
【0066】
ステップ7において、変位センサ5が検出したクランクシャフトW全体の伸び量と、制御装置15の記憶部17に記憶された第3所定長さを比較する。第3所定長さは、第1所定長さの3倍の長さである。
クランクシャフトW全体の伸び量が、第3所定長さを超えていなければ、ステップ7を繰り返す。伸び量が、予め設定された第3所定長さを超えると、第1〜第3誘導加熱コイル体2a〜2cを各々第1所定長さだけ移動させる(ステップ8)。すなわち、軸部w1〜w3の移動及び伸びに追従するように、各誘導加熱コイル体2a〜2cをセンタピン61側へ移動させる。第1所定長さとは、例えば、0.2〜0.3mmである。
【0067】
ステップ9において、変位センサ5が検出したクランクシャフトW全体の伸び量と、制御装置15の記憶部17に記憶された第4所定長さを比較する。第4所定長さは、第1所定長さの4倍の長さである。
クランクシャフトW全体の伸び量が、第4所定長さを超えていなければ、ステップ9を繰り返す。伸び量が、予め設定された第4所定長さを超えると、第1〜第4誘導加熱コイル体2a〜2dを各々第1所定長さだけ移動させる(ステップ10)。すなわち、軸部w1〜w4の移動及び伸びに追従するように、各誘導加熱コイル体2a〜2dをセンタピン61側へ移動させる。第1所定長さとは、例えば、0.2〜0.3mmである。
【0068】
ステップ11において、変位センサ5が検出したクランクシャフトW全体の伸び量と、制御装置15の記憶部17に記憶された第5所定長さを比較する。第5所定長さは、第1所定長さの5倍の長さである。
クランクシャフトW全体の伸び量が、第5所定長さを超えていなければ、ステップ11を繰り返す。伸び量が、予め設定された第5所定長さを超えると、第1〜第5誘導加熱コイル体2a〜2eを各々第1所定長さだけ移動させる(ステップ12)。すなわち、軸部w1〜w5の移動及び伸びに追従するように、各誘導加熱コイル体2a〜2eをセンタピン61側へ移動させる。第1所定長さとは、例えば、0.2〜0.3mmである。
【0069】
図4に示すステップ3、5、7、9、11の実施タイミングは、各軸部w1乃至w5の温度と対応しており、各軸部w1乃至w5が昇温するにつれて、ステップ3、5、7、9、11が順に実施される。そして、ステップ12を実施する段階では、各軸部w1乃至w5は焼入温度を超えている。誘導加熱工程が終了すると、図示しない高周波電源をOFF状態とし、各加熱コイル6a乃至6eへの高周波電流の通電を停止する。
【0070】
以上、説明した様に、チャック60側(固定側)の第5誘導加熱コイル体2eは、ステップ12に至るまで移動せず、センタピン61側(可動側)の第1誘導加熱コイル体2aは、ステップ4、6、8、10、12で各々第1所定長さだけ移動している。すなわち、センタピン61側の軸部w1は、最も変位量が大きく、チャック60側の軸部w5は、最も変位量が小さい。そのため、各誘導加熱コイル体2a乃至2eの移動量にも差異を設けている。
【0071】
図4に示す流れ図に沿って各誘導加熱コイル体2a乃至2eを各移動装置4で移動させると、各誘導加熱コイル体2a乃至2eが、クランクシャフトWの接続部11に衝突することがなく、軸部w1乃至w5に良好に近接対向した状態を維持することができる。すなわち、各軸部w1乃至w5を良好に誘導加熱することができる。
【0072】
次に、
図5に示す流れ図に沿って、各軸部w1乃至w5を冷却する場合について説明する。
【0073】
ステップ31において、冷却ジャケット9、10からの冷却水の噴射供給を開始する。変位センサ5は、誘導加熱が終了した際におけるセンタピン61の位置を基準位置としている。すなわち、制御装置15の記憶部17には、この誘導加熱が終了した際におけるセンタピン61の位置が記憶される。
【0074】
ステップ32では、クランクシャフトWの縮み量が、第1所定長さを超えているか否かが判定される。縮み量が第1所定長さを超えていなければ、ステップ32を繰り返す。縮み量が第1所定長さを超えていると、ステップ33に移行する。ステップ33では、第1誘導加熱コイル体2aが、移動装置4によって第1所定長さだけチャック60側へ移動する。
【0075】
ステップ34では、クランクシャフトWの縮み量が、第2所定長さを超えているか否かが判定される。縮み量が第2所定長さを超えていなければ、ステップ34を繰り返す。縮み量が第2所定長さを超えていると、ステップ35に移行する。ステップ35では、第1、第2誘導加熱コイル体2a、2bが、各々の移動装置4によって第1所定長さだけチャック60側へ移動する。
【0076】
ステップ36では、クランクシャフトWの縮み量が、第3所定長さを超えているか否かが判定される。縮み量が第3所定長さを超えていなければ、ステップ36を繰り返す。縮み量が第3所定長さを超えていると、ステップ37に移行する。ステップ37では、第1〜第3誘導加熱コイル体2a〜2cが、各々の移動装置4によって第1所定長さだけチャック60側へ移動する。
【0077】
ステップ38では、クランクシャフトWの縮み量が、第4所定長さを超えているか否かが判定される。縮み量が第4所定長さを超えていなければ、ステップ38を繰り返す。縮み量が第4所定長さを超えていると、ステップ39に移行する。ステップ39では、第1〜第4誘導加熱コイル体2a〜2dが、各々の移動装置4によって第1所定長さだけチャック60側へ移動する。
【0078】
ステップ40では、クランクシャフトWの縮み量が、第5所定長さを超えているか否かが判定される。縮み量が第5所定長さを超えていなければ、ステップ40を繰り返す。縮み量が第5所定長さを超えていると、ステップ41に移行する。ステップ41では、第1〜第5誘導加熱コイル体2a〜2eが、各々の移動装置4によって第1所定長さだけチャック60側へ移動する。
【0079】
図5に示すステップ33、35、37、39、41の実施タイミングは、各軸部w1乃至w5の温度と対応しており、各軸部w1乃至w5の温度が降下するにつれて、ステップ33、35、37、39、41が順に実施される。そして、ステップ41を実施する段階では、各軸部w1乃至w5の温度は、Ms点以下に下がっている。冷却工程が終了すると、冷却ジャケット9、10を停止する。
【0080】
以上、説明した様に、チャック60側(固定側)の第5誘導加熱コイル体2eは、ステップ41に至るまで移動せず、センタピン61側(可動側)の第1誘導加熱コイル体2aは、ステップ33、35、37、39、41で各々第1所定長さだけ移動している。すなわち、センタピン61側の軸部w1は、最も変位量が大きく、チャック60側の軸部w5は、最も変位量が小さい。そのため、各誘導加熱コイル体2a乃至2eの移動量にも差異を設けている。
【0081】
図5に示す流れ図に沿って各誘導加熱コイル体2a乃至2eを各移動装置4で移動させると、各誘導加熱コイル体2a乃至2eが、クランクシャフトWの接続部11に衝突することがなく、軸部w1乃至w5に良好に近接対向した状態を維持することができる。すなわち、冷却ジャケット9、10から噴射された冷却水が良好に各軸部w1乃至w5に到達し、各軸部w1乃至w5を冷却することができる。
【0082】
以上では、クランクシャフトWの伸長又は収縮に応じて、各誘導加熱コイル体2a乃至2eの挙動を示したが、各誘導加熱コイル体2a乃至2eを次の様に移動させてもよい。すなわち、各誘導加熱コイル体2a乃至2eを、誘導加熱中はセンタピン61側へ常に移動させる。その際における移動量は、第1誘導加熱コイル体2aの移動速度は、第5誘導加熱コイル体2eの移動速度の5倍であり、同様に、第2、第3、第4誘導加熱コイル体2b、2c、2dの移動速度は、第5誘導加熱コイル体2eの移動速度の各々4倍、3倍、2倍である。よって、各移動装置4は、各々異なる速度で第1乃至第5誘導加熱コイル体2a乃至2eを移動させる。
【0083】
以上では、クランクシャフトWの軸部としてジャーナル部を例にとって説明したが、ピン部を焼入する場合においてもジャーナル部と同様に本発明を実施することができる。
【0084】
また、上記いずれの実施形態においても、クランクシャフトWの一端がチャック60で把持されて軸方向に移動不能に固定されており、他端がセンタピン61で軸方向に移動可能に支持されている場合を示したが、クランクシャフトWの両端が軸方向に移動可能に支持されていてもよい。この場合には、クランクシャフトWが伸縮することによる各軸部w1乃至w5の軸方向の移動に応じて各軸部w1乃至w5に対向配置された各誘導加熱コイル体2a乃至2eの移動方向及び移動量を適宜設定する。