(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
難黒鉛化性炭素質材料、バインダー、及び分散剤を含む非水電解質二次電池用負極電極であって、前記負極電極は、水銀圧入法により求められる平均細孔直径が50〜500nmであり、水銀圧入法により求められる細孔表面積が3〜30m2/gであり、そしてBET法により求められる比表面積が1〜15m2/gであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極電極。
水銀圧入法により求められる50nm以下の細孔直径を有する細孔の体積が、全細孔体積に対して18体積%未満である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極電極。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[1]非水電解質二次電池用負極電極
本発明の非水電解質二次電池用負極電極は、難黒鉛化性炭素質材料、バインダー、及び分散剤を含み、水銀圧入法により求める平均細孔直径が50〜500nmであり、水銀圧入法により求める細孔表面積が3〜30m
2/gであり、そしてBET法により求められる比表面積が1〜15m
2/gである。
【0008】
《平均細孔直径》
非水電解質二次電池用負極電極の平均細孔直径は50〜500nmであり、好ましくは50〜400nmであり、より好ましくは50〜350nmである。一般に、2nm以下の細孔はミクロ孔と称され、2〜50nmの細孔はメソ孔と称され、そして50nm以上の細孔はマクロ孔と称される。平均細孔直径は、ガス吸着法又は水銀圧入法で測定することが可能であるが、本明細書において、平均細孔直径は水銀圧入法で測定されるものを意味する。
平均細孔直径が前記範囲であることにより、特に本発明の非水電解質二次電池は優れた入出力特性を示すことができる。
【0009】
《細孔表面積》
非水電解質二次電池用負極電極の細孔表面積は、3〜30m
2/gであり、好ましくは3.5〜26m
2/gであり、より好ましくは4.0〜22m
2/gである。細孔表面積が前記の範囲であることにより、優れた入出力特性を示すことができる。なお、細孔表面積は、ガス吸着法又は水銀圧入法で測定することが可能であるが、本明細書において、平均細孔直径は水銀圧入法で測定されるものを意味する。
【0010】
《比表面積》
非水電解質二次電池用負極電極の比表面積は、1〜15m
2/gであり、好ましくは1.5〜14m
2/gであり、より好ましくは2〜13m
2/gである。非水電解質二次電池用負極電極の比表面積が前記の範囲であることにより、二次電池は優れた保存特性及び初期特性を示す。
【0011】
《水銀圧入法により求められる50nm以下の細孔直径を有する細孔の体積》
本発明の非水電解質二次電池用負極電極の、水銀圧入法により求められる50nm以下の細孔直径を有する細孔の体積(以下、「水銀小細孔体積」と称することがある)は、得に限定されるものではないが、好ましくは全細孔体積に対して18体積%以下であり、より好ましくは15体積%であり、更に好ましくは10体積%である。50nm以下の細孔直径を有する細孔の体積の割合が、前記範囲であることにより、本発明の負極電極を用いる二次電池は、更に優れた入出力特性を示すことができる。
細孔体積も、ガス吸着法又は水銀圧入法で測定することが可能であるが、本明細書において、細孔体積は水銀圧入法で測定されるものを意味する。
【0012】
《難黒鉛化性炭素質材料》
難黒鉛化性炭素とは3000℃程度の超高温で加熱しても黒鉛化しない非黒鉛質炭素のことを指す。本発明の負極電極に含まれる難黒鉛化性炭素質材料は、負極電極が前記の物性を示す限りにおいて、特に限定されるものではないが、平均粒子径及びブタノール真密度が後述の物性を示すものが好ましい。
【0013】
《平均粒子径》
難黒鉛化性炭素質材料の平均粒子径は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば3.5μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは2.5μm以下である。平均粒子径が小さいことにより、負極電極の塗工厚みを薄くすることが可能であり、それによって入出力特性が向上する。また、平均粒子径が大きい場合、粒子内でのリチウムの拡散自由行程が増加するため、急速な充放電が困難となる。
平均粒子径の下限は、限定されるものではないが、好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは0.7μmであり、更に好ましくは0.8μm以上である。平均粒子径が0.5μm未満の場合、微粉が増加することによって、比表面積が増加する。従って、電解液との反応性が高くなり充電しても放電しない容量である不可逆容量が増加し、正極の容量が無駄になる割合が増加するため好ましくない。また、粒子径が小さすぎると、炭素質材料が凝集しやすくなり、電極の作製が困難になることがある。
【0014】
《ブタノール真密度》
難黒鉛化性炭素質材料のブタノール真密度は、1.55〜1.75g/cm
3である。真密度の上限は、好ましくは1.72g/cm
3以下であり、より好ましくは1.70g/cm
3以下である。真密度の下限は、好ましくは1.57g/cm
3以上であり、より好ましくは1.59g/cm
3以上である。真密度が1.75g/cm
3を超える炭素質材料は、リチウムを格納できるサイズの細孔が少なくドープ及び脱ドープ容量が小さくなることがある。また、真密度の増加は炭素六角平面の選択的配向性を伴うため、リチウムのドープ及び脱ドープ時に炭素質材料が膨張収縮を伴う場合が多いため好ましくない。一方、真密度が1.55g/cm
3未満の炭素質材料は、細孔内に電解液が侵入し、リチウムの格納サイトとして安定な構造を維持できないことがある。更に、電極密度が低下するため体積エネルギー密度の低下をもたらすことがある。
【0015】
《難黒鉛化性炭素質材料の製造方法》
本発明の難黒鉛化性炭素質材料は、従来の非水電解質二次電池用炭素負極材料と類似の製造法をベースにしつつ、各工程を最適化することで良好に製造することができる。例えば、(1)炭素前駆体製造工程、(2)炭素前駆体を非酸化性ガス、不活性ガスもしくは減圧雰囲気で、300℃から900℃で熱処理する、予備焼成工程、及び(3)熱処理して得た炭素質前駆体を粉砕する、粉砕工程、及び(4)非酸化性ガス雰囲気下で900℃から1600℃で焼成する、本焼成工程、(5)湿式粉砕工程を、適宜組み合わせて、製造することができる。
【0016】
(炭素前駆体)
本発明の炭素質材料は、炭素前駆体から製造されるものである。炭素前駆体として、石油ピッチ若しくはタール、石炭ピッチ若しくはタール、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂を挙げることができる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、又はポリエーテルエーテルケトンを挙げることができる。更に、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を挙げることができる。
なお、本明細書において、「炭素前駆体」は、未処理の炭素質の段階から、最終的に得られる非水電解質二次電池用炭素質材料の前段階までの炭素質を意味する。すなわち、最終工程の終了していないすべての炭素質を意味する。
また、本明細書において、「熱に対し非溶融性の炭素前駆体」は、予備焼成、又は本焼成によって溶融しない樹脂を意味する。すなわち、石油ピッチ若しくはタール、石炭ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂の場合、後述の不融化処理を行った炭素質前駆体を意味する。一方、熱硬化性樹脂は、そのままで予備焼成、又は本焼成を行っても溶融しないため、不融化処理を必要としない。
本発明の炭素質材料は、難黒鉛化性炭素質材料であるため、石油ピッチ若しくはタール、石炭ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂は、製造過程において、熱に対し不融とするための不融化処理を行う必要がある。不融化処理は、酸化によって炭素前駆体に架橋を形成させることによって行うことができる。すなわち、不融化処理は、本発明の分野において、公知の方法によって行うことができる。
以下に、例として石油又は石炭ピッチを炭素源とした難黒鉛化性炭素質材料の製造方法を記載する。
【0017】
(多孔性ピッチ成型工程)
石油系又は石炭系のピッチ等に対し、添加剤として沸点200℃以上の2乃至3環の芳香族化合物又はその混合物を加えて加熱混合した後、成形しピッチ成形体を得る。次にピッチに対し低溶解度を有し、且つ添加剤に対して高溶解度を有する溶剤で、ピッチ成形体から添加剤を抽出除去し、多孔性ピッチを得る。前記の芳香族添加剤の目的は、成形後のピッチ成形体から前記添加剤を抽出除去して成形体を多孔質とし、酸化による架橋処理を容易にし、また炭素化後に得られる炭素質材料を多孔質にすることにある。このような添加剤は、例えばナフタレン、メチルナフタレン、フェニルナフタレン、ベンジルナフタレン、メチルアントラセン、フェナンスレン、又はビフェニル等の1種又は2種以上の混合物から選択することができる。ピッチに対する添加量は、ピッチ100重量部に対し、30〜70重量部の範囲が好ましい。ピッチと添加剤の混合は、均一な混合を達成するため、加熱し溶融状態で行う。ピッチと添加剤の混合物は、添加剤を混合物から容易に抽出できるようにするため、粒径1mm以下の粒子に成形することが好ましい。成形は溶融状態で行ってもよく、また混合物を冷却後粉砕することにより行ってもよい。ピッチと添加剤の混合物から添加剤を抽出除去するための溶剤としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、又はヘプタン等の脂肪族炭化水素、ナフサ、又はケロシン等の脂肪族炭化水素主体の混合物、メタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等の脂肪族アルコール類が好適である。このような溶剤でピッチと添加剤の混合物成形体から添加剤を抽出することによって、成形体の形状を維持したまま添加剤を成形体から除去することができる。この際に成形体中に添加剤の抜け穴が形成され、均一な多孔性を有するピッチ成形体が得られるものと推定される。
この多孔性ピッチ成型工程において、ナフタレンなどの芳香族添加剤を増加させることにより、マクロ孔が増加し、そして表面積の増加につながる。すなわち、芳香族添加剤を増加させることによって、表面積が増加し、入出力特性を改善させることができる。
【0018】
(不融化工程)
得られた多孔性ピッチを架橋するため、次に酸化剤を用いて、好ましくは120〜400℃の温度で酸化する。酸化剤としては、O
2、O
3、NO
2、それらを空気若しくは窒素等で希釈した混合ガス、又は空気等の酸化性気体、あるいは硫酸、硝酸、過酸化水素水等の酸化性液体を用いることができる。酸化剤として、空気又は空気と他のガス例えば燃焼ガス等との混合ガスのような酸素を含むガスを用いて、120〜400℃で酸化して架橋処理を行うことが簡便であり、経済的にも有利である。この場合、ピッチ等の軟化点が低いと、酸化時にピッチが溶融して酸化が困難となるので、使用するピッチ等は軟化点が150℃以上であることが好ましい。
【0019】
(予備焼成工程)
予備焼成工程は、炭素源を300℃以上900℃未満で焼成することによって行う。予備焼成は、揮発分、例えばCO
2、CO、CH
4、及びH
2などと、タール分とを除去し、本焼成において、それらの発生を軽減し、焼成器の負担を軽減することができる。予備焼成温度が500℃未満であると脱タールが不十分となり、粉砕後の本焼成工程で発生するタール分やガスが多く、粒子表面に付着する可能性があり、粉砕したときの表面性を保てず電池性能の低下を引き起こすので好ましくない。一方、予備焼成温度が900℃以上であるとタール発生温度領域を超えることになり、使用するエネルギー効率が低下するため好ましくない。更に、発生したタールが二次分解反応を引き起こしそれらが炭素前駆体に付着し、性能の低下を引き起こすことがあるので好ましくない。粉砕工程は、不融化工程の後に行ってもよいが、予備焼成後に行う方が好ましい。予備焼成温度が高すぎると炭素化が進んで粒子が硬くなりすぎ、予備焼成後に粉砕を行う場合、粉砕機の内部を削り取ってしまうなど粉砕が困難になる場合があるため好ましくない。
予備焼成は、不活性ガス雰囲気中で行い、不活性ガスとしては、窒素、又はアルゴンなどを挙げることができる。また、予備焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10KPa以下で行うことができる。予備焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.5〜10時間で行うことができ、1〜5時間がより好ましい。
ブタノール真密度が1.55〜1.75g/cm
3となる炭素前駆体の予備焼成では、発生するタール分が多く、急速に昇温すると粒子が発泡したり、タールがバインダーとなって粒子同士が融着してしまう。ゆえに、ブタノール真密度が1.55〜1.75g/cm
3となる炭素前駆体の予備焼成を実施する場合、予備焼成の昇温速度は緩やかにすることが望ましい。例えば、昇温速度は5℃/h以上300℃/h以下であることが好ましく、10℃/h以上200℃/h以下がより好ましく、20℃/h以上100℃/h以下が更に好ましい。
【0020】
(粉砕工程)
粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されるものではなく、例えばジェットミル、ボールミル、ビーズミル、ハンマーミル、又はロッドミルなどを使用することができるが、微粉の発生が少ないという点で分級機能を備えたジェットミルが好ましい。一方、ボールミル、ハンマーミル、又はロッドミルなどを用いる場合は、粉砕後に分級を行うことで微粉を除くことができる。
分級として、篩による分級、湿式分級、又は乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、又は遠心分級などの原理を利用した分級機を挙げることができる。また、乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、又は遠心分級の原理を利用した分級機を挙げることができる。
粉砕工程において、粉砕と分級は1つの装置を用いて行うこともできる。例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミルを用いて、粉砕と分級を行うことができる。
更に、粉砕機と分級機とが独立した装置を用いることもできる。この場合、粉砕と分級とを連続して行うこともできるが、粉砕と分級とを不連続に行うこともできる。
更に、粉砕工程は複数回が製造工程に含まれてよい。すなわち予備焼成工程後に粉砕し、また本焼成後に粉砕することも含まれる。本焼成工程で粒径が小さすぎると、歩留まりが悪くなることがある。そのため粗く粉砕して本焼成した後、細かく粉砕することがある。
【0021】
(本焼成工程)
本焼成工程は、通常の本焼成の手順に従って行うことができ、本焼成を行うことにより、非水電解質二次電池負極用炭素質材料を得ることができる。本焼成の温度は、900〜1600℃である。本焼成温度が900℃未満では、炭素質材料に官能基が多く残存してH/Cの値が高くなり、リチウムとの反応により不可逆容量が増加するため好ましくない。本発明の本焼成温度の下限は900℃以上であり、より好ましくは1000℃以上であり、特に好ましくは1100℃以上である。一方、本焼成温度が1600℃を超えると炭素六角平面の選択的配向性が高まり放電容量が低下するため好ましくない。本発明の本焼成温度の上限は1600℃以下であり、より好ましくは1500℃以下であり、特に好ましくは1450℃以下である。
本焼成は、非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガスとしては、ヘリウム、窒素又はアルゴンなどを挙げることができこれらを単独或いは混合して用いることができる。更には塩素などのハロゲンガスを上記非酸化性ガスと混合したガス雰囲気中で本焼成を行うことも可能である。また、本焼成は、減圧下で行うこともでき、例えば、10KPa以下で行うことも可能である。本焼成の時間も特に限定されるものではないが、例えば0.1〜10時間で行うことができ、0.2〜8時間が好ましく、0.4〜6時間がより好ましい。
【0022】
(湿式粉砕工程)
本発明に用いる難黒鉛化性炭素質材料は、限定されるものではないが、湿式粉砕工程によって、粉砕されたものが好ましい。湿式粉砕により、得られる炭素質粒子の凝集を防ぐことが可能であり、特に細かな粒子径を有する難黒鉛化性炭素質材料を得ることができる。粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されるものではなく、例えばボールミル、ビーズミル、コロイドミルなどを使用することができるが、使用するメディアの粒径が小さいことから、ビーズミルが好ましい。
ビーズミルに使用するメディアの材質としては特に限定されるものではなく、ガラス、ジルコニア、アルミナなどを使用することができるが、粉砕性の観点からジルコニアの使用が好ましい。使用するビーズ径は目的の粒径が得られる限り特に限定されるものではないが、処理速度の観点からφ0.3〜2.0mm、より好ましくはφ0.5〜1.0mmが好ましい。ビーズの充填率としては特に制限されないが、60〜90重量%が好ましく、70〜85重量%であることがより好ましい。ビーズミルに投入するスラリーの固形分濃度は特に制限されないが、メディアからのコンタミの低減および処理量の観点から、10〜70重量%が好ましく、20〜60重量%であることがより好ましい。
【0023】
《バインダー》
本発明の負極電極に含まれるバインダーは、電解液と反応しないものであり、得られる負極電極が前記の物性を示す限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、及びSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物などを挙げることができる。PVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得るために好ましい。PVDFを溶解しスラリーを形成するためにN−メチルピロリドン(NMP)などの極性溶媒が好ましく用いられるが、SBRなどの水性エマルジョンやCMCを水に溶解して用いることもできる。また、水系バインダーも、本発明において好ましく用いることができる。例えば、溶媒に水を用いたSBRなどの水性エマルジョンとCMCの混合物は、後述するが粉砕工程において溶媒に水を使うことができ、電極合剤を安価に製造することができ好ましい。バインダーの添加量が多すぎると、得られる電極の抵抗が大きくなるため、電池の内部抵抗が大きくなり電池特性を低下させるので好ましくない。また、バインダーの添加量が少なすぎると、負極材料粒子相互及び集電材との結合が不十分となり好ましくない。バインダーの好ましい添加量は、使用するバインダーの種類によっても異なるが、PVDF系のバインダーでは好ましくは3〜13重量%であり、更に好ましくは3〜10重量%である。一方、溶媒に水を使用するバインダーでは、SBRとCMCとの混合物など、複数のバインダーを混合して使用することが多く、使用する全バインダーの総量として0.5〜7重量%が好ましく、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0024】
《分散剤》
本発明の負極電極に含まれる分散剤は、負極電極が前記の物性を示す限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、界面活性剤(例えば、カオーセラ、ポイズ又はポエム)、又はこれらの混合物を挙げることができる。本発明の負極電極の製造において、分散剤を用いることによって、難黒鉛化性炭素質材料を均一なスラリーとすることが可能である。均一なスラリーを集電体に塗布することにより、安定した性能の負極電極を製造することができる。
【0025】
《負極電極の製造》
本発明の非水電解質二次電池用負極電極は、難黒鉛化性炭素質材料に、バインダー及び分散剤を添加し適当な溶媒を適量添加、混練し、電極合剤とした後に、金属板などからなる集電体に塗布・乾燥後、加圧成形することにより製造することができる。負極集電体としては、例えば、SUS、銅、ニッケル又はカーボンを用いるができ、中でも、銅又はSUSが好ましい。更に、高い導電性が必要な場合は、導電助剤を用いてもよい。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、又はカーボンファイバーなどを用いることができ、添加量は使用する導電助剤の種類によっても異なるが、添加する量が少なすぎると期待する導電性が得られないので好ましくなく、多すぎると電極合剤中の分散が悪くなるので好ましくない。このような観点から、添加する導電助剤の好ましい割合は0.5〜15重量%(ここで、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100重量%とする)であり、更に好ましくは0.5〜7重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%である。
【0026】
電極活物質層は集電板の両面に形成するのが基本であるが、必要に応じて片面でもよい。電極活物質層が厚いほど、集電板やセパレータなどが少なくて済むため高容量化には好ましいが、対極と対向する電極面積が広いほど入出力特性の向上に有利なため活物質層が厚すぎると入出力特性が低下するため好ましくない。好ましい活物質層(片面当たり)の厚みは、限定されるものではなく、10μm〜100μmの範囲内でもよい。しかしながら、より好ましくは10〜80μmであり、更に好ましくは20〜75μm、特に好ましくは20〜60μmである。
【0027】
[2]非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の非水電解質二次電池負極を含む限りにおいて、特に限定されるものではない。正極材料、セパレータ、及び電解液などの電池を構成する他の材料は、非水溶媒二次電池として従来使用され、あるいは提案されている種々の材料を使用することが可能である。
【0028】
(正極)
正極材料(正極活物質)としては、層状酸化物系(LiMO
2と表されるもので、Mは金属:例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、又はLiNi
xCo
yMo
zO
2(ここでx、y、zは組成比を表す)、オリビン系(LiMPO
4で表され、Mは金属:例えばLiFePO
4など)、スピネル系(LiM
2O
4で表され、Mは金属:例えばLiMn
2O
4など)の複合金属カルコゲン化合物が好ましく、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。
また、コバルト酸リチウムのコバルトの一部をニッケルとマンガンで置換し、コバルト、ニッケル、マンガンの3つを使用することで材料の安定性を高めた三元系〔Li(Ni−Mn−Co)O
2〕や前記三元系のマンガンの代わりにアルミニウムを使用するNCA系材料〔Li(Ni−Co−Al)O
2〕が知られており、これらの材料を、正極活物質として使用することができる。
【0029】
正極電極は、前記正極活物質を含み、更に導電助剤、バインダー、又はその両方を含んでもよい。正極活物質層における正極活物質と、他の材料との混合比は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではなく、適宜決定することができる。
正極電極は、更に導電助剤及び/又はバインダーを含むことができる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はカーボンファイバーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、バインダーとしては、例えば、PTFE又はPVDF等のフッ素含有バインダーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、正極活物質層の厚さは、限定されないが、様々な用途を考慮すれば10μm〜100μmの範囲内でもよい。しかしながら、より好ましくは10〜80μmであり、更に好ましくは20〜75μm、特に好ましくは20〜60μmである。
正極活物質層を付与する集電体としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンを用いるができ、中でも、アルミニウム又はSUSが好ましい。
【0030】
(電解液)
これら正極と負極との組み合わせで用いられる非水溶媒型電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解することにより形成される。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、又は1,3−ジオキソランなどの有機溶媒の一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiAsF
6、LiCl、LiBr、LiB(C
6H
5)
4、又はLiN(SO
3CF
3)
2などが用いられる。
【0031】
(セパレータ)
二次電池は、一般に上記のようにして形成した正極層と負極層とを必要に応じて不織布、その他の多孔質材料などからなる透液性セパレータを介して対向させ電解液中に浸漬させることにより形成される。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透過性セパレータを用いることができる。あるいはセパレータの代わりに、もしくはセパレータと一緒に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に負極電極の物性値(「平均細孔直径」「細孔表面積」、「細孔容積」、及び「比表面積」)の測定法、及び炭素質材料の物性値(「ブタノール真密度」、及び「平均粒子径」)の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載するこれらの物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0033】
《水銀圧入法による細孔容積》
水銀ポロシメーター(例えば、MICROMERITICS社製「AUTOPORE IV 9500」)を用いて細孔容積を測定することができる。負極を約7.5×7.5mm
2サイズに切断し、試料容器に入れ、2.67Pa以下の圧力で30分間脱気する。次いで、水銀を試料容器内に導入し、徐々に加圧して水銀を電極の細孔へ圧入する(最高圧力=414MPa)。このときの圧力と水銀の圧入量との関係から以下の各計算式を用いて電極の細孔容積分布を測定する。具体的には、細孔直径89μmに相当する圧力(0.01MPa)から最高圧力(414MPa:細孔直径3nm相当)までに電極に圧入された水銀の体積を測定する。細孔直径の算出は、直径(D)の円筒形の細孔に水銀を圧力(P)で圧入する場合、水銀の表面張力を「γ」とし、水銀と細孔壁との接触角を「θ」とすると、表面張力と細孔断面に働く圧力の釣り合いから、次式:−πDγcosθ=π(D/2)2・Pが成り立つ。従って
D=(−4γcosθ)/P
となる。
本明細書においては、水銀の表面張力を484dyne/cmとし、水銀と炭素との接触角を130度とし、圧力PをMPaとし、そして細孔直径Dをμmで表示し、下記式:
D=1.27/P
により圧力Pと細孔直径Dの関係を求めた。例えば、本発明における細孔直径50nm〜300nmの範囲の細孔容積とは、水銀圧入圧4.2MPaから25.4MPaまでに圧入された水銀の体積Vに相当する。
【0034】
《水銀圧入法による平均細孔直径》
平均細孔直径は、前記「水銀圧入法による細孔容積」により得られた測定値を用いて、下記式:
D
Av=4×I
Total/A
Total
(ここで、Iは容積であり、Aは表面積である)
により求めた。
【0035】
《水銀圧入法による細孔表面積》
細孔の形状を円筒形と仮定すると、体積はV=πD
2L/4、側面積A=πDLとなりD=4V/Aと表せる。ある測定区間(細孔径区間)での体積増加dVが、あるひとつの平均細孔径を有する円筒細孔によるものと仮定すれば、その区間で増加した比表面積はdA=4dV/Dav(Davは平均細孔径)と求められる。平均細孔径が50〜10000nmにおける積算比表面積ΣAを計算することで細孔表面積を求めた。
【0036】
《50nm以下の細孔体積の割合》
50nm以下の細孔体積の割合は、前記「水銀圧入法による細孔容積」により得られた測定値を用い、3〜50nmの細孔容積を3〜10000nmの細孔容積で除すことにより算出した。
【0037】
《BET比表面積》
JIS Z8830に定められた方法に準拠し、比表面積(SSA)を測定した。概要を以下に記す。BETの式から誘導された近似式v
m=1/(v(1−x))を用いて液体窒素温度における、窒素吸着による1点法(相対圧力x=0.2)によりv
mを求め、次式により試料の比表面積を計算した:
【数1】
(ここで、v
mは試料表面に単分子層を形成するに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、xは相対圧力である。)
具体的には、カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン社製「MONOSORB」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における負極電極への窒素の吸着量を測定した。集電箔から剥がした負極電極を試料管に充填し、窒素ガスを20モル%濃度で含有するヘリウムガスを流しながら、試料管を−196℃に冷却し、負極電極に窒素を吸着させる。次に試験管を室温に戻す。このとき試料から脱離してくる窒素量を熱伝導度型検出器で測定し、吸着ガス量vとした。
【0038】
《レーザー回折法による平均粒子径》
試料約0.01gに対し、分散剤(カチオン系界面活性剤「SNウェット366」(サンノプコ社製))を適量加え、試料に分散剤を馴染ませる。次に、純水30mLを加え、超音波洗浄機で約5分間分散させたのち、粒径分布測定器(マイクロトラック・ベル製「Microtrac MT3300EXII」)で、粒径0.02〜2000μmの範囲の粒径分布を求めた。測定条件において、透過性は吸収、溶媒屈折率は1.333、形状は非球形を選択した。得られた粒径分布から、累積容積が50%となる粒径をもって平均粒子径D
v50(μm)とした。
【0039】
《ブタノール真密度》
JIS R7212に定められた方法に準拠し、ブタノールを用いて測定した。概要を以下に記す。内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m
1)を正確に量る。次に、その底部に試料を約10mmの厚さになるように平らに入れた後、その質量(m
2)を正確に量る。これに1−ブタノールを静かに加えて、底から20mm程度の深さにする。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して2.0〜2.7kPaとする。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後取り出して、更に1−ブタノールで満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1−ブタノールの液面を標線に合わせる。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後、質量(m
4)を正確に量る。次に同じ比重びんに1−ブタノールだけを満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後、質量(m
3)を量る。また、使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重びんにとり、前と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m
5)を量る。真密度(ρ
Bt)は次の式により計算する。
【数2】
(ここでdは水の30℃における比重(0.9946)である。)
【0040】
《実施例1》
軟化点208℃、H/C原子比0.65の石油系ピッチ670gと、ナフタレン330gとを、撹拌翼および出口ノズルのついた耐圧容器に仕込み、200℃で加熱溶融混合を行った後、150℃に冷却し、耐圧容器内を窒素ガスにより加圧して、内容物を出口ノズルから押出し、直径約500μmの紐状成型体を得た。次いで、この紐状成型体を直径(D)と長さ(L)の比(L/D)が約1.5になるように粉砕し、得られた破砕物を0.53重量%のポリビニルアルコール(ケン化度88%)水溶液中に投入し、95℃で撹拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体スラリーを得た。大部分の水をろ過により取り除き、水洗した後、球状ピッチ成形体の約6倍量の重量のn−ヘキサンでピッチ成形体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、218℃まで昇温し、218℃に2時間保持して酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。次に多孔性球状酸化ピッチ7000gを直径130mmの縦型管状炉に入れて、550℃まで50℃/hの速度で昇温し、550℃で1時間保持して予備炭素化を実施し、炭素前駆体を得た。予備炭素化は流量50L/minの窒素雰囲気下で行った。
得られた炭素前駆体をジェットミル(ホソカワミクロン株式会社/100−AFG)で粉砕し、平均粒径10μmの粉末状炭素前駆体とした。続いて、この粉末状炭素前駆体500gを横型管状炉に入れ、流量100L/minの窒素雰囲気下、250℃/hの昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持して、本焼成を行った。更に、湿式ビーズミル(フロイントターボ株式会社、OBミル)にてビーズ径0.8mmのジルコニア製ビーズを用い、ビーズの充填率70%で粉砕し、平均粒径1.7μmの炭素質材料1を得た。
炭素質材料1に結着剤としてSBR(スチレンブタジエンゴム)を負極全体に対して2重量%となるように、また分散剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を1重量%となるように水中で混合することによりスラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ18μmの銅箔からなる集電体に塗布し、乾燥および13MPaの圧力でプレスすることにより負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
【0041】
《実施例2》
難黒鉛化性炭素質材料の平均粒径を1.5μmとした以外は、実施例1と同様にして負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
【0042】
《実施例3》
難黒鉛化性炭素質材料の平均粒径を1.9μmとした以外は、実施例1と同様にして負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
【0043】
《実施例4》
仮焼成温度を480℃とし、粉砕機をジェットミル(ホソカワミクロン株式会社/200AFG−CR)に変更し、サイクロンを通さず、バグフィルターで平均粒径2.4μmの粉末状炭素前駆体をすべて回収し、湿式粉砕を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
【0044】
《実施例5》
難黒鉛化性炭素質材料の平均粒径を0.9μmとしたこと、およびCMC(カルボキシメチルセルロース)を2重量%とした以外は、実施例1と同様にして負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
【0045】
《比較例1》
石油系ピッチ690gと、ナフタレン310gに変更したこと、および酸化温度を270℃、湿式粉砕処理を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
【0046】
《比較例2》
負極活物質に活性炭を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
【0047】
《比較例3》
負極活物質にアセチレンブラックを用いたこと、およびSBRを8重量%、CMCを10重量%とした以外は、実施例1と同様にして負極を調製した。得られた炭素質材料及び負極電極の物性を表1に示す。
実施例及び比較例で得られた電極を用いて、以下の(a)の操作により非水電解質二次電池を作成し、そして電池性能の評価を行った。
【0048】
(a)試験電池の作製
本発明の炭素質材料は非水電解質二次電池の負極電極を構成するのに適しているが、電池活物質の放電容量(脱ドープ量)及び不可逆容量(非脱ドープ量)を、対極の性能のバラツキに影響されることなく精度良く評価するために、特性の安定したリチウム金属を対極として、上記で得られた電極を用いてリチウムイオン二次電池を構成し、その特性を評価した。
リチウム極の調製は、Ar雰囲気中のグローブボックス内で行った。予め2016サイズのコイン型電池用缶の外蓋に直径16mmのステンレススチール網円盤をスポット溶接した後、厚さ0.8mmの金属リチウム薄板を直径15mmの円盤状に打ち抜いたものをステンレススチール網円盤に圧着し、電極(対極)とした。
このようにして製造した電極の対を用い、電解液としてはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを容量比で1:2:2で混合した混合溶媒に1.4mol/Lの割合でLiPF
6を加えたものを使用し、直径19mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細細孔膜のセパレータとして、ポリエチレン製のガスケットを用いて、Arグローブボックス中で、2016サイズのコイン型非水電解質系リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0049】
(b)電池容量の測定
上記構成のリチウムイオン二次電池について、充放電試験装置(東洋システム製「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行った。炭素極へのリチウムのドープ反応を定電流定電圧法により行い、脱ドープ反応を定電流法で行った。ここで、正極にリチウムカルコゲン化合物を使用した電池では、炭素極へのリチウムのドープ反応が「充電」であり、本発明の試験電池のように対極にリチウム金属を使用した電池では、炭素極へのドープ反応が「放電」と呼ぶことになり、用いる対極により同じ炭素極へのリチウムのドープ反応の呼び方が異なる。そこでここでは、便宜上炭素極へのリチウムのドープ反応を「充電」と記述することにする。逆に「放電」とは試験電池では充電反応であるが、炭素質材料からのリチウムの脱ドープ反応であるため便宜上「放電」と記述することにする。ここで採用した充電方法は定電流定電圧法であり、具体的には端子電圧が0.025mVになるまで0.5mA/cm
2で定電流充電を行い、端子電圧が0.025mVに達した後、端子電圧0.025mVで定電圧充電を行い電流値が20μAに達するまで充電を継続した。このとき、供給した電気量を電極の炭素質材料の質量で除した値を炭素質材料の単位質量当たりの充電容量(mAh/g)と定義した。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は0.5mA/cm
2で定電流放電を行い、終止電圧を1.5Vとした。このとき放電した電気量を電極の炭素質材料の質量で除した値を炭素質材料の単位質量当たりの放電容量(mAh/g)と定義する。不可逆容量は、充電容量−放電容量として計算される。同一試料を用いて作製した試験電池についてのn=3の測定値を平均して充放電容量及び不可逆容量を決定した。
【0050】
(c)50%充電状態の入力特性測定セルの作成方法
コバルト酸リチウム(LiCoO
2,日本化学工業製「セルシードC−5H」)94質量部、カーボンブラック3質量部、ポリフッ化ビニリデン(クレハ製KF#1300)3質量部にNMPを加えてペースト状にし、アルミニウム箔上に均一に塗布した。乾燥した後、塗工電極を直径14mmの円板上に打ち抜く。なお、(c)で測定した負極活物質の充電容量の95%となるよう正極電極中のコバルト酸リチウムの量を調整した。コバルト酸リチウムの容量を150mAh/gとして計算した。
このようにして調製した電極の対を用い、電解液としてはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを容量比で1:2:2で混合した混合溶媒に1.4mol/Lの割合でLiPF
6を加えたものを使用し、直径19mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細細孔膜のセパレータとして、ポリエチレン製のガスケットを用いて、Arグローブボックス中で、2032サイズのコイン型非水電解質系リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0051】
(d)50%充電状態の入力特性
はじめに2回充放電を繰り返してエージングを行う。エージングにおける電流値のCレートへの換算は、先に規定したコバルト酸リチウムの電気容量と質量から算出した。充電は定電流定電圧により行う。充電条件は4.2Vになるまで一定の電流0.2C(1時間で充電するために必要な電流値が1Cと定義される)で充電を行い、その後、電圧を4.2Vに保持するように(定電圧に保持しながら)電流値を減衰させて、電流値が(1/100)Cに達するまで充電を継続する。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は電池電圧が2.75Vに達するまで一定の電流0.2Cで行った。2回目の充放電は電流値をそれぞれ0.4Cとした。
次に、容量がSOC(State of Charge)50%に達するまで、0.4Cで充電した後、充電後試験環境を−20℃とし、十分保持した後、0.5C、1C、2Cの順で放充電を交互に10秒間行った。各電流値で放充電した際の1秒目の電圧と電流の関係から、上限電圧を4.2Vとした際の電流値を外挿し、得られた上限電圧、電流値から入力値を算出した。
【0052】
(e)保存特性の測定方法
実施例、比較例で得た電極を25℃50%空気雰囲気下の恒温恒湿槽内で1週間保存した。保存後の電極を前記(a)と同様の方法で電池を作製し、前記(b)と同様の方法で電池容量を測定した。保存前の初期効率から保存後の初期効率を差し引いた値を「保存後の効率低下率」として算出した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に電極の物性および電池性能を示す。
実施例1〜5の負極を用いた非水電解質二次電池は−10℃入力密度比が高く、一週間後の不可逆容量の増加が小さく電極の保存特性が優れていた。一方、平均細孔直径が450nm以上の比較例1の負極を用いた非水電解質二次電池は、優れた‐10℃入力密度比を得ることはできなかった。粒径が実施例に比べ大きいため、電極内部の平均細孔直径が大きくなり細孔表面積が低下し、リチウムイオン移動に寄与する反応面積が減少し入力密度比が低下したと推測される。またBET法から計算した窒素比表面積15m
2/gより大きい比較例2の負極を用いた非水電解質二次電池は1週間後の不可逆容量が増加し、保存特性の優れた二次電池は得られなかった。比較例2は電極の比表面積(電極のSSA)が大きいため、大気中の酸素との反応によって活物質表面に生成した表面官能基、および吸着によって存在する電極内の水分とリチウムイオンが反応し不可逆容量が増加したものと推測する。また、細孔表面積及び比表面積が大きい比較例3の負極電極は、効率が低く、保存特性及び入出力特性も劣っていた。