特許第6570450号(P6570450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6570450-多孔質触媒ウォッシュコート 図000004
  • 特許6570450-多孔質触媒ウォッシュコート 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570450
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】多孔質触媒ウォッシュコート
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20190826BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20190826BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20190826BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20190826BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20190826BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20190826BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20190826BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   B01J37/02 301D
   B01J35/10 301F
   B01J35/04 301P
   B01D53/86 222
   B01D53/94 222
   B01D53/94 400
   B01D53/90ZAB
   B01J37/08
   F01N3/28 301P
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-561476(P2015-561476)
(86)(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公表番号】特表2016-510689(P2016-510689A)
(43)【公表日】2016年4月11日
(86)【国際出願番号】US2014019549
(87)【国際公開番号】WO2014137827
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2017年2月24日
(31)【優先権主張番号】13/786,870
(32)【優先日】2013年3月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シンション
(72)【発明者】
【氏名】シナー,エスラ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,チュンチョワン
(72)【発明者】
【氏名】トラン,パスカリン,ハリソン
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−245850(JP,A)
【文献】 特開2006−110485(JP,A)
【文献】 特開2012−213774(JP,A)
【文献】 特表2006−503702(JP,A)
【文献】 特開平07−241471(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0183221(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0151233(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0044521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒ウォッシュコートが、水中油型マクロエマルションを、少なくとも1種の触媒を含むウォッシュコートスラリーに取り込むことと、前記マクロエマルションを取り込んだ前記スラリーでキャリア基材をウォッシュコートすることと、前記ウォッシュコートされたキャリア基材をか焼することと、を含むプロセスによって生成され、前記マクロエマルション中の油粒子の30%〜100%が直径15μm〜100μmであり、前記触媒ウォッシュコート内の孔の30〜100%が、少なくとも一次元において15μm〜100μmの大きさである、キャリア基材上に触媒ウォッシュコートを含む触媒物品。
【請求項2】
前記触媒ウォッシュコート内の前記孔の70〜100%が、少なくとも一次元において15μm〜100μmの大きさである、請求項1に記載の触媒物品。
【請求項3】
前記触媒ウォッシュコート内の前記孔の70〜100%が、少なくとも一次元において15μm〜50μmの大きさである、請求項1又は2に記載の触媒物品。
【請求項4】
前記キャリア基材が、セラミックまたは金属ハニカム基材である、請求項1〜のいずれか1項に記載の触媒物品。
【請求項5】
前記触媒ウォッシュコートが、貴金属基(precious group)金属触媒、卑金属触媒、SCR触媒、及び/またはゼオライトを含む1つ以上の触媒を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の触媒物品。
【請求項6】
前記1つ以上の触媒が支持物質に含浸される、請求項に記載の触媒物品。
【請求項7】
前記マクロエマルションが、C6〜C40の範囲の炭素鎖長を有する油もしくは炭化水素、またはC6〜C40の範囲の炭素鎖長を有する油もしくは炭化水素の混合物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の触媒物品。
【請求項8】
前記マクロエマルションが、鉱油、ヘキサン、またはそれらの混合物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の触媒物品。
【請求項9】
前記マクロエマルションが、HLB8〜16を有する非イオン性界面活性剤を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の触媒物品。
【請求項10】
前記非イオン性界面活性剤が、オクチルフェノールエトキシレート、第2級アルコールエトキシレート、分岐第2級アルコールエチオキシレート、獣脂アミンのジエトキシレート、直鎖第1級アルコールのエトキシレート、及びポリオキシエチレン界面活性剤からなる群から選択される、請求項に記載の触媒物品。
【請求項11】
前記非イオン性界面活性剤が、オクチルフェノールエトキシル化界面活性剤である、請求項に記載の触媒物品。
【請求項12】
排気ガス排出の削減のための使用のための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の触媒物品。
【請求項13】
前記触媒ウォッシュコートがガソリン及びディーゼルエンジンの排気流中の、炭化水素、一酸化炭素、または窒素酸化物の酸化のための触媒を含む、請求項12に記載の触媒物品。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の触媒物品と流体流連通する排気ガスの源と、前記触媒物品と流体流連通する、煤煙フィルタ、触媒煤煙フィルタ、及び第2の触媒物品のうちの少なくとも1つと、を備える、排気ガス排出の削減のためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒ウォッシュコートの分野及び触媒ウォッシュコートを作製する方法に関する。本発明は、触媒ウォッシュコートでコーティングされた触媒物品、及び排気ガス削減のために触媒物品を使用するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
触媒コンバータにおいて、基材は、触媒(複数可)、触媒支持体等を含有する触媒ウォッシュコートでコーティングされる。触媒作用を最大化するために、ウォッシュコートにおいて高表面積が望ましい。他の望ましいウォッシュコート特性は、熱安定性、及び触媒との接触を最適化するためにガスの高貫流を可能にする孔径分布を含む。)特に、ウォッシュコートにおける微粒子の使用は、低減した多孔性及び低下した触媒活性を有する高密度ウォッシュコート層をもたらし得る。さらに、高密度非多孔質ウォッシュコートは、熱処理中に割れることがあり、接着の欠如及び耐久性の欠陥をもたらし得る。
【0003】
増加した多孔性を有する触媒ウォッシュコート、具体的には、触媒コンバータ等の触媒物品の製造に容易に取り込まれる簡単な方法を使用して生成することのできる触媒ウォッシュコートの必要性が存在する。本発明は、これらの必要性に対処する。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、本発明は、触媒ウォッシュコートにおける多孔性を増加させるための方法に関する。本方法は、水性水中油型(O/W)マクロエマルションを、触媒(複数可)及びウォッシュコートの他の成分を含有するウォッシュコートスラリーに取り込むことと、キャリア基材をウォッシュコートスラリーでウォッシュコートすることと、ウォッシュコートされたキャリア基材をか焼してマクロエマルションを除去することと、を含む。か焼すると、油、水、及びマクロエマルションの他の有機成分が燃焼され、エマルションの油マクロ粒子は、か焼されたウォッシュコート内にマクロ孔を残す。1つ以上の実施形態では、O/Wマクロエマルションは、油または他の疎水性炭化水素、水または他の水相、及び8〜16または10〜12の親水性親油性バランス(HLB)を有する界面活性剤を含む。1つ以上の特定の実施形態では、O/Wマクロエマルションは、鉱油、非イオン性界面活性剤(HLB10〜12)、及び水を含む。
【0005】
第2の態様では、本発明は、触媒ウォッシュコート内の孔の少なくとも約30%(すなわち30〜100%)が、少なくとも一次元において約15μm〜100μmの大きさであるか、孔が実質的に球形である場合、約15μm〜100μmの直径である、触媒ウォッシュコート組成物に関する。特定の具体的な実施形態では、触媒ウォッシュコート内の孔の少なくとも約70%(すなわち、70〜100%)は、少なくとも一次元において約15μm〜100μmの大きさであるか、または孔が実質的に球形である場合、約15μm〜100μmの直径である。さらに具体的な実施形態では、触媒ウォッシュコート内の孔の少なくとも約30%(すなわち30〜100%)、約60%(すなわち60〜100%)、または少なくとも約70%(すなわち70〜100%)が、少なくとも一次元において約15μm〜50μmの大きさであるか、または孔が実質的に球形の場合、約15μm〜50μmの直径である。
【0006】
特定の実施形態では、触媒及び触媒物品の触媒ウォッシュコートの他の固形成分は、排気ガス排出の削減における使用のために選択され得る。削減される排出物は、好適な触媒が利用できる任意の種類であり得る。触媒は、ウォッシュコートスラリーとしての製剤化の能力を有するべきである。例えば、特定の具体的な実施形態では、触媒ウォッシュコートは、ガソリン及びディーゼルエンジン中の、炭化水素、一酸化炭素、及び窒素酸化物(NOx)の酸化のための触媒を含み得る。代替の実施形態では、触媒ウォッシュコートは、排気ガス排出において、NOxの貯蔵還元のための触媒(NSR触媒)、またはNOxから窒素への選択的触媒還元のための触媒(SCR触媒)を含み得る。さらに具体的な実施形態では、ウォッシュコートの触媒成分は、臭化メチル、一酸化炭素、ベンゼン、及び、メタン、トルエン、キシレン、酢酸、メタノール等の揮発性有機成分(VOC)等の、工業プロセスからの排気ガス排出の削減のために選択され得る。
【0007】
さらなる態様では、本発明は、触媒物品が、上記の触媒ウォッシュコートの実施形態及び態様のいずれかに従う触媒ウォッシュコートでコーティングされたキャリア基材を含む、排気ガス排出の削減における使用のための触媒物品に関する。1つ以上の実施形態では、キャリア基材は、平行なガス流経路が流体入口から流体出口まで構造体を通って延びるハニカム構造を有する、セラミックまたは金属構造体である。経路を通って流れる排気ガスが触媒ウォッシュコートと接触するように、経路の壁は、触媒ウォッシュコートでコーティングされる。キャリア基材は、複数の長手方向に延びる経路を有する、壁流モノリスであり得る。経路は、開放入口端及び閉鎖出口端を有する入口経路、ならびに閉鎖入口端及び解放出口端を有する出口経路を含む。経路を形成する壁は多孔質であり、排気ガスが入口経路から出口経路へと横切ってモノリスを出て、それによって壁上の触媒ウォッシュコートを通って流れることを可能にする。1つ以上の実施形態では、セラミックまたは金属キャリア基材は、ペッレット形態、波板形態、または触媒ウォッシュコートでコーティングされたモノリス形態であり得る。
【0008】
なおもさらなる態様では、本発明は、本発明の前述の態様及び実施形態のいずれかに従う触媒物品を使用する、排気ガス排出を削減するための方法に関する。触媒ウォッシュコートが所望の触媒転換を生成し、かつ排気ガスの選択された成分または成分(複数)を削減するのに効果的な様式で排気ガスと接触するように、削減される排出物を含有する排気ガスは、触媒物品と接触する。
【0009】
なおも別の態様では、本発明は、システムが前述の実施形態及び態様のいずれかに従う触媒物品を含む、排気ガス排出の削減のためのシステムに関する。システムは、上記の実施形態及び態様のいずれかに従う触媒物品、ならびに、煤煙フィルタ、触媒煤煙フィルタ、及び/または所望であれば追加の従来の触媒物品のうちの1つ以上を含み得る。排気ガス排出の削減のためのシステムの構成要素は、排気ガスの源と、及び互いと、流体流接触する。特定の実施形態では、排気ガス流は、その源から、本発明の触媒物品及びシステムの他の構成要素との連続接触へと流れて、排気ガス排出の削減を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】従来の触媒ウォッシュコート、すなわち、マクロエマルションを用いて調製されない触媒ウォッシュコートでウォッシュコートされ、か焼された、ハニカムキャリア基材のX線マイクロトモグラフィ(XMT)画像である。
図1B】本発明に従う触媒ウォッシュコート、すなわち、マクロエマルションを用いて調製された触媒ウォッシュコートでウォッシュコートされ、か焼された、ハニカムキャリア基材のX線マイクロトモグラフィ(XMT)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のいくつかの例示的な実施形態を説明する前に、本発明は、以下の説明において述べられる構造またはプロセス工程の詳細に、限定されないということが理解されるべきである。本発明は、他の実施形態、及び様々な方法で実践されるまたは実行されることが可能である。
【0012】
本明細書を通しての、「一(one)実施形態」、「特定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」、または「一(an)実施形態」への言及は、本実施形態との関連で記載される、特定の特性、構造、物質、または特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるということを意味する。よって、本明細書を通した様々な箇所での「1つ以上の実施形態では」、「特定の実施形態では」、「一(one)実施形態では」、または「一(an)実施形態では」等の句の出現は、必ずしも本発明の同じ実施形態を指していない。さらには、特定の特性、構造、物質、または特徴は、1つ以上の実施形態において、任意の好適な様式で組み合わされ得る。
【0013】
本明細書で使用される場合、ウォッシュコートの孔に関連する「触媒ウォッシュコート内」という用語は、ウォッシュコート組成物の固形粒子間にあるウォッシュコートの孔を指す。ウォッシュコート組成物の固形粒子は、触媒、耐火金属酸化物支持体、酸素貯蔵成分、促進剤、結合剤等を含む。これらの固形粒子は、粒子自体内に内部孔システムを有し得る。支持粒子の孔は、触媒及び他の成分を固形粒子に含浸させるために使用される。ウォッシュコート組成物の固形粒子の孔は、典型的に、ナノメートルの範囲内または最大で1〜2μmの寸法を有する、ミクロ孔である。対照的に、本発明の「触媒ウォッシュコート内の」孔は、ウォッシュコートの固形粒子間にあり、かつ少なくとも一次元で少なくとも15μmの大きさを有するマクロ孔である。
【0014】
本明細書で使用される場合、「マクロ孔」及び「マクロ多孔質」という用語は、少なくとも一次元で約15μm以上の大きさを有する孔を有する物質を指す。マクロ孔が実質的に球形である場合、マクロ孔の直径は約15μm以上である。「ミクロ孔」及び「ミクロ多孔質」という用語は、少なくとも一次元で約10μm未満の大きさを有する孔を有する物質を指す。ミクロ孔が実質的に球形である場合、ミクロ孔の直径は約10μm未満である。
【0015】
同様に、本明細書で使用される場合、エマルションに関する「マクロ粒子」という用語は、約15μm以上の直径を有するエマルションの油相粒子を指す。エマルションに関する「ミクロ粒子」という用語は、約10μm未満の直径を有するエマルションの油相粒子を指す。
【0016】
本明細書で使用する場合、「ウォッシュコート」という用語は、排気ガス汚染物質の除去をもたらすために処理されているガス流によって接触される、ハニカム型基材またはワイヤメッシュ等の、基材キャリア物質に適用される触媒または他の物質の、薄い、接着性コーティングの分野における、通常の意味を有する。ウォッシュコートは、触媒及び/またはキャリアの特定の固形含有量を含有するスラリーを液体溶媒中で調製することによって形成され、これはその後、基材上にコーティングされ乾燥させられてウォッシュコート層を提供する。
【0017】
本明細書で使用される場合、触媒に関する「支持体」という用語は、会合、分散、含浸、または他の好適な方法によって、白金族金属、安定化剤、促進剤、結合剤等を受容する物質を指す。支持体の例には、耐火金属酸化物、高表面積耐火金属酸化物、及び酸素貯蔵成分を含有する物質が挙げられるがこれらに限定されない。高表面積耐火金属酸化物支持体は、アルミナ、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−セリア−ジルコニア、ランタナ−アルミナ、ランタナ−ジルコニア−アルミナ、バリア−アルミナ、バリアランタナ−アルミナ、バリアランタナ−ネオジミアアルミナ、及びアルミナ−セリアからなる群から選択される、活性化合物を含む。酸素貯蔵成分を含有する物質の例には、セリア−ジルコニア、セリア−ジクロニア−ランタナ、ジクロニア−プラセオジミア、イットリア−ジルコニア、ジルコニア−ネオジミア、及びジルコニア−ランタナが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、支持体は、100%(すなわち>純度99%)の公称希土類金属含有量を有するバルクセリア等の、バルク希土類金属酸化物を含む。
【0018】
本明細書で使用される場合、排気ガス流の処理に関する、「削減する」、「削減」等の用語は、排気ガス中の汚染物質及び/または有毒成分の除去または低減を指す。
【0019】
第1の態様では、本発明は、触媒ウォッシュコートにおける多孔性の増加方法に関する。方法は、水性水中油型(O/W)マクロエマルションを、触媒(複数可)及びウォッシュコートの他の成分を含有するウォッシュコートスラリーに取り込むことと、キャリア基材をウォッシュコートスラリーでウォッシュコートすることと、ウォッシュコートされたキャリア基材をか焼してマクロエマルションを除去することと、を含む。か焼すると、油、水、及びマクロエマルションの他の有機成分が燃焼され、エマルションの油マクロ粒子は、か焼されたウォッシュコート内にマクロ孔を残す。マクロエマルションを製造するために、分散液を生成するために撹拌している間に、油相に界面活性剤を加える。その後、混合物が乱流となるように撹拌の増加した速度を用いて、水相をゆっくりと分散液に加える。激しい乱流撹拌を、所望のO/Wエマルションを生成するのに十分な水相が加えられるまで、及び安定したO/Wマクロエマルションを生成するために必要に応じて追加の時間の間、継続する。安定したO/Wマクロエマルションを得るために、水相:油:界面活性剤の比率は、油粒子の約30〜100%が、マクロエマルション中で直径約15μm以上となるように、選択される。
【0020】
O/Wマクロエマルションはその後、撹拌を伴って触媒ウォッシュコートスラリーに取り込まれる。触媒ウォッシュコートスラリーは、意図される最終用途によって決定される通りの、当分野で既知の任意の触媒ウォッシュコートスラリーであり得る。この様式で、O/Wマクロエマルションの水相は、水性触媒ウォッシュコートスラリーに取り込まれ、油マクロ粒子は触媒ウォッシュコートスラリーの固形粒子間に液滴を形成する。触媒ウォッシュコートスラリーは、その後、キャリア基材に適用されキャリア基材の表面上に層を形成して、当分野で慣習的な方法を使用してか焼される。か焼の時間及び温度は、O/Wマクロエマルションの油成分(及びウォッシュコートスラリーの水性成分)が燃焼されるように選択される。これは、O/Wマクロエマルション中の油粒子の大きさ及び数をおよそ表す、か焼されたウォッシュコート内に孔を作成する。これは、マクロエマルションの油粒子がマクロ粒子の一部を含むため、マクロ孔の同様の一部が、か焼されたウォッシュコート内に形成されるからである。か焼されたウォッシュコート内のマクロ孔の数及び大きさは、油及び界面活性剤の選択(油粒径分布に影響する)によって、ならびに触媒ウォッシュコートスラリーに取り込まれるO/Wマクロエマルションの量(形成される孔の数に影響する)によって、調節することができる。
【0021】
O/Wマクロエマルションの油相は、マクロエマルションの形成に好適な、任意の油もしくは他の炭化水素、またはそれらの混合物であり得る。油または他の炭化水素の炭素鎖長は、より大きい分子(すなわちより長い炭素鎖長)がより大きい油粒子を生成するように、エマルション中の粒子の大きさに関連する。しかしながら、より短い炭素鎖長を有する油は、か焼によってより容易に除去される。したがって、実行者は、マクロエマルションにおけるマクロ粒子の所望の割合を達成するために、適切な炭素鎖長の、油または他の炭化水素を選択することができ、かつ、それを触媒ウォッシュコートから除去するために、か焼の温度及び時間を調節することができる。1つ以上の実施形態では、油または他の炭化水素は、C6〜C40、C10〜C40の炭素鎖長を有するか、または、この範囲内の炭素鎖長を有する炭化水素の混合物である。例えば、油/炭化水素相は、鉱油(C15〜C40アルカンの混合物)、ヘキサン(C6)、またはそれらの混合物であり得る。
【0022】
O/Wマクロエマルションの界面活性剤は、O/Wエマルションの生成のために当分野で既知の、任意の界面活性剤であり得る。アニオン性、カチオン性、非イオン性、及び両性の界面活性剤が使用され得る。1つ以上の実施形態では、界面活性剤は、8〜16または10〜12のHLBを有する、非イオン性界面活性剤である。触媒用途における非イオン性界面活性剤の使用は、触媒活性を危殆化させ得る、触媒ウォッシュコートへのNa、Cl、Br、及びS等の汚染種の導入を、回避する利点を有する。界面活性剤の鎖長は、より長い鎖長がより大きい油粒子の形成を支持するように、エマルションの油粒子の大きさに影響を与える。したがって、実行者は、マクロエマルション中の油マクロ粒子の所望の割合を達成するために、適切な鎖長の界面活性剤を選択することができる。例えば、好適な界面活性剤には、オクチルフェノールエトキシレート(例えばTRITON X界面活性剤)、第2級アルコールエトキシレート(例えばTERGITOL 15−Sシリーズ界面活性剤)、分岐第2級アルコールエチオキシレート(例えばTERGITOL TMNシリーズ界面活性剤)、獣脂アミンのジエトキシレート(例えばSURFONIC Tシリーズ界面活性剤)、直鎖第1級アルコールのエトキシレート(例えばSURFONIC Lシリーズ界面活性剤)、及びポリオキシエチレン界面活性剤(例えばTWEEN界面活性剤)が挙げられる。具体的で非限定的な実施例では、界面活性剤は、TRITON X−45(HLB9.8)、TRITON X−114(HLB12.3)、TERGITOL 15−S−5(HLB10.5)、TERGITOL 15−S−7(HLB12.1)、TERGITOL 15−S−12(HLB14.5)、TERGITOL TMN−6(HLB13.1)、SURFONIC T−20(HLB 15.3)、及びSURFONIC L24−22(HLB16.6)からなる群から選択される、非イオン性界面活性剤である。概して、HLB10〜12を有する界面活性剤は、鉱油を利用するマクロエマルションに最も好適である。界面活性剤に最も好適なHLBは、マクロエマルションにおいて使用される具体的な油に依存する。
【0023】
O/Wマクロエマルションの水相は、典型的に、脱イオン水等の水である。
【0024】
O/Wマクロエマルションにおいて、油または他の炭化水素、水相、及び界面活性剤は、安定なO/Wマクロエマルションの形成を促進する割合で存在する。水相は典型的に過剰であり、界面活性剤の量は、所望の大きさの油粒子が水相中で生成されて安定化されるように、油の量に基づいて選択される(すなわち、界面活性剤の量は、存在する油の量を安定してエマルション化するのに十分な量である)。1つ以上の実施形態では、O/Wマクロエマルションは、直径約15μm〜100μmの油相粒子を少なくとも約30%(すなわち30〜100%)含有するように、調製される。特定の具体的な実施形態では、油相粒子の少なくとも約70%(すなわち70〜100%)は、直径約15μm〜100μmである。さらなる具体的な実施形態では、油相粒子の少なくとも約30%(すなわち30〜100%)、少なくとも約60%(すなわち60〜100%)、または少なくとも約70%(すなわち70〜100%)は、直径約15μm〜50μmである。
【0025】
1つ以上の実施形態では、O/Wマクロエマルションは、58〜62%の水、30〜40%の鉱油、及び4〜6%のTRITON X−45またはTRITON X−114を含む。1つ以上のさらなる実施形態では、O/Wマクロエマルションは、約60%の脱イオン水、約35%の鉱油、及び約5%のTRITON X−45を含む。
【0026】
触媒ウォッシュコートスラリーは、キャリア基材をウォッシュコートするのに好適な、当分野で既知の任意の触媒ウォッシュコートスラリーであり得る。スラリーは、貴金属基(precious group)金属触媒、卑金属触媒、SCR触媒、及び/またはゼオライトを含む、1つ以上の選択された触媒を含み得る。1つ以上の触媒は、耐火金属酸化物(例えば、アルミナ、希土類金属酸化物、ジルコニア、チタニア、及びそれらの組み合わせ)またはセリア等の酸素貯蔵成分を含む、支持体物質に含浸され得る。ウォッシュコートスラリーは、促進剤及び結合剤等の、触媒ウォッシュコートの他の成分をさらに含み得る。
【0027】
O/Wマクロエマルションは、か焼されたウォッシュコートにおいて所望の程度のマクロ多孔性を得るために選択される量で、触媒ウォッシュコートスラリーに取り込まれる。か焼されたウォッシュコートにおけるマクロ多孔性の程度は、ミクロ粒子に比較したマクロエマルション中の油マクロ粒子の割合、及び触媒ウォッシュコートスラリーに加えられるO/Wマクロエマルションの量によって判断される。1つ以上の実施形態では、O/Wマクロエマルションは、触媒ウォッシュコートスラリーの約2%〜約50%を構成する。他の実施形態では、O/Wマクロエマルションは、触媒ウォッシュコートスラリーの約2%〜約15%を構成する。さらなる実施形態では、O/Wマクロエマルションは、触媒ウォッシュコートスラリーの約5%を構成する。
【0028】
O/Wマクロエマルションを触媒ウォッシュコートスラリーと混合した後に、キャリアを触媒ウォッシュコートスラリーに浸漬すること等の慣習的な方法を使用して、触媒ウォッシュコートがキャリア基材上に形成される。キャリア基材は、既知のキャリア基材のうちの任意のものであり得、かつ、触媒物品の意図される最終用途に従って選択される。例えば、キャリア基材はセラミックまたは金属であり得る。キャリア基材は、経路がそこを通る流体流に開放となるように、基材の入口または出口面からそこを通って延びる、微細で平行なガス流経路を有する、ハニカム型のモノリス基材であり得る。経路は、本質的にその流体入口からその流体出口への直線路であり、かつ、経路を通って流れるガスが触媒物質と接触するように触媒物質がウォッシュコートとしてコーティングされる壁によって画定される。壁流キャリア基材は、本発明のマクロ多孔質ウォッシュコートのためのキャリア基材として特に有用であり、これは、排気ガスが、モノリスを出る前に、ウォッシュコート及び経路の壁を通って隣接する経路へと流れるように、これらの基材の平行経路の壁が多孔質であるためである。セラミック基材は、任意の好適な耐火物質、例えば、コーディエライト、コーディエライト−α−アルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、スポジュメン、アルミナ−シリカ−マグネシア、ケイ酸ジルコン、ケイ線石、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト、α−アルミナ、アルミノケイ酸等、から製造され得る。金属基材は、1つ以上の金属または金属合金で構成され得、かつ、ペレット、波板、またはモノリス形態等の、様々な形状であり得る。金属基材の具体的な例には、耐熱性、卑金属合金、特に鉄が有意または主要な成分であるものが挙げられる。かかる合金は、ニッケル、クロム、及びアルミニウムのうちの1つ以上を含み得る。
【0029】
ウォッシュコートされたキャリア基材は、その後、触媒を熱処理するため及びO/Wマクロエマルションの成分を除去するための両方に十分な時間及び温度を使用して、か焼される。300℃〜700℃の間の温度で、空気中で1時間〜4時間が、本目的に概して十分である。1つ以上の実施形態では、触媒ウォッシュコート/O/Wマクロエマルションでウォッシュコートされたキャリア基材を、1〜2時間400〜500℃でか焼する。
【0030】
上記のプロセスは、キャリア基材上に触媒ウォッシュコート組成物(触媒物品)を生成し、ここにおいて、触媒ウォッシュコート内の孔の少なくとも約30%(すなわち30〜100%)が、少なくとも一次元において約15μm〜100μmの大きさであるか、約15μm〜100μmの直径である。特定の具体的な実施形態では、触媒ウォッシュコート内の孔の少なくとも約70%(すなわち70〜100%)は、少なくとも一次元において約15μm〜100μmの大きさであるか、または約15μm〜100μmの直径である。さらに具体的な実施形態では、触媒ウォッシュコート内の孔の、少なくとも約30%(すなわち30〜100%)、約60%(すなわち60〜100%)、または少なくとも約70%(すなわち70〜100%)は、少なくとも一次元において約15μm〜50μmの大きさであるか、または約15μm〜50μmの直径である。
【0031】
マクロ多孔質触媒ウォッシュコートを有する触媒物品は、排気ガス排出の削減に有用である。触媒がウォッシュコートスラリーとして製剤され得るならば、削減される排出物は、そのための好適な触媒が利用できる、任意の種類であり得る。例えば、特定の具体的な実施形態では、触媒物品のウォッシュコートは、ガソリン及びディーゼルエンジンの排気流中の、炭化水素、一酸化炭素、及び窒素酸化物(NOx)の酸化のための触媒を含み得る。代替の実施形態では、触媒物品のウォッシュコートは、ガソリン及びディーゼルエンジンの排気流中の、NOxの貯蔵還元のための触媒(NSR触媒)、またはNOxから窒素への選択的触媒還元のための触媒(SCR触媒)を含み得る。さらに具体的な実施形態では、触媒物品のウォッシュコートは、臭化メチル、一酸化炭素、ベンゼン、及びメタン、トルエン、キシレン、酢酸、メタノール等を含む揮発性有機成分(VOC)等の、工業プロセスからの排気ガス排出の削減のための触媒を含み得る。触媒ウォッシュコートが所望の触媒転換を生成し、かつ排気ガスの選択された成分もしくは成分(複数)を削減するのに効果的な様式で排気ガスと接触するように、削減される排気ガスは、触媒物品と接触する。排気ガス中の汚染物質及び毒素の触媒転換は、改善された貫流及び触媒との表面積接触によって、本発明の触媒ウォッシュコートのマクロ多孔性によって改善される。
【0032】
本発明に従う触媒物品は、排気ガスの削減のためのシステムに含まれ得る。本発明の触媒物品に加え、かかるシステムは、煤煙フィルタ、触媒煤煙フィルタ、及び所望であれば追加の従来の触媒物品のうちの1つ以上を、さらに含み得る。排気ガス流が、その源から、本発明の触媒物品及びシステムの他の構成要素との連続接触へと流れて、排気ガス排出の削減を達成するように、排気ガス排出の削減のためのシステムの構成要素は、排気ガスの源と、及び互いと、流体流連通する。
【実施例】
【0033】
以下の物質を使用して、水中油型エマルションを調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
鉱油をガラスビーカー内で秤量し、磁気撹拌棒で撹拌しながら界面活性剤を加えた。脱イオン水は、別個のビーカー内で秤量した。油/界面活性剤混合物の撹拌の速度を増加したため、乱流が渦を形成した。全ての水が加えられるまで、油/界面活性剤混合物に水をゆっくりと滴下し、さらに10分間混合を続行してO/Wマクロエマルションを得た。O/Wマクロエマルションの粒径分布の分析は、それが、直径約15μm以上の油粒子を最小限の約30%含有するということを示した。
【0036】
次に、O/Wエマルションを以下のように触媒スラリーに取り込んだ。
【0037】
【表2】
【0038】
触媒スラリーを、手で容器を振って混合することによって完全に混合した。エマルションを同様に完全に混合して、完全に混合している間に、特定の量でスラリーに加えた。コーディエライトキャリア基材を、触媒/O/Wエマルションスラリーでウォッシュコートして、500℃で2時間か焼した。
【0039】
比較のために、同じ組成物を有する触媒スラリーを調製したが、O/Wエマルションとは混合しなかった。この比較スラリーもまた、コーディエライトキャリア基材上にウォッシュコートして、500℃で2時間か焼した。
【0040】
生じたウォッシュコートのXMT画像を、図1A及び図1Bに示す。図1Aは、マクロエマルションの取り込みを伴わないウォッシュコートを示す。右側のパネルは、経路の縦断面であり、ここにおいて、ウォッシュコートは平行経路のより暗い壁のそれぞれの側のより明るい層として見られる。ウォッシュコート層は、薄くかつ高密度であり、多孔性をほとんど有さない。対照的に、図1Bは、O/Wマクロエマルションで調製されたウォッシュコートを示す。ウォッシュコート層は、マクロ多孔質の大きさ範囲内の多数の孔を有し、より厚く、スポンジ状に見える。
【0041】
本明細書の発明は、具体的な実施形態への参照を用いて説明されてきたが、これらの実施形態は、本発明の原理及び適用の、単なる例示であるということが理解されるべきである。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変形が本発明の方法及び装置になされ得るということが、当業者には明らかであろう。よって、本発明は、添付の請求項及びそれらの等価物の範囲内の、修正及び変形を含むことが意図される。
図1A
図1B