(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電柱100間に架設されたメッセンジャーワイヤー101に沿ってスパイラルハンガー102と呼ばれる螺旋状のケーブル支持具を配置し、このスパイラルハンガー102内を通すことにより、電柱100間にケーブルを渡す延線方法が知られている。
【0003】
図8は、このような従来の延線方法を示している。2本の電柱100の間にメッセンジャーワイヤー101が張設されており、このメッセンジャーワイヤー101に螺旋状に巻きつけるようにスパイラルハンガー102が配置されている。スパイラルハンガー102は、
図8から分かるように、メッセンジャーワイヤー101との間に隙間を空けて巻き付けられている。
【0004】
電柱100間にケーブルを渡す際、先ず、上述のメッセンジャーワイヤー101とスパイラルハンガー102との間の隙間にガイドワイヤー103が通される。このとき、ガイドワイヤー103がスパイラルハンガー102から外れないように、ガイドワイヤー103の先端には、先導具104が取り付けられている。この先導具104により、スパイラルハンガー102から外れることなく安定して進むことができる。
【0005】
このようにして電柱100間に渡したガイドワイヤー103の先端に、延線されるケーブルの先端が連結される。そして、ガイドワイヤー103を引き戻すことにより、ケーブルを電柱100間に渡すことが可能となる。このような技術については、特許文献1に記載がある。
【0006】
上述のような方法を用いると、延線すべきケーブルを下方に垂れ下がらせることなく確実に電柱間に渡すことができるので、下方の設備などと干渉することなく安全に作業を行うことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高圧配電線の幹線部及び幹線部分と連系する5径間以上の分岐部分には、雷害対策を目的とした架空地線(GW:グランドワイヤー)が施設されている。
【0009】
この架空地線は、電柱頭部に取り付けられた架空地線取付金物の先端に施設される。この架空地線を取り替える際、上述のようなスパイラルハンガーを利用した方法を用いることができる。
【0010】
ところで、架空地線の約1メートル下方には、高圧線が架設されている。このため、錆などの経年劣化による取替工事の際は、周囲の設備への干渉の可能性を考慮して、停電状態で作業が行われることが多い。
【0011】
しかしながら、今日の電力に大きく依存した社会情勢においては、たとえ短時間であっても送電を停止することは、産業その他の分野に多大な影響を及ぼすことになる。
【0012】
そこで、本発明では、張線作業の効率を向上させる張線装置と、この張線装置を用いて、スパイラルハンガー使用による作業性を損なうことなく高圧線との電気的接触を防止し、無停電においても安全に作業を行うことのできる架空地線取替方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の張線装置は、掴線器を揺動可能に軸支する支持アームを一端に有したスライド軸を、軸方向にスライド操作可能に保持するスライド部と、前記スライド部を電柱側に固定するクランプ部とを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の張線装置は、上記構成に加えて、前記支持アームは、前記スライド軸の軸周りに回動可能であり、且つ、所定の回動位置でロック可能な回動部を介して前記スライド軸の前記一端に取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の架空地線取替方法は、スパイラルハンガー及び上記構成の張線装置を用いて、2本の電柱間の高圧線上方に架設された旧架空地線を取り替える架空地線取替方法であって、前記電柱の一方側で、前記高圧線と前記旧架空地線との間の高さ位置に、支持棒を略水平に取り付ける支持棒取付工程と、前記支持棒取付工程にて固定された前記支持棒の先端に、上下方向に垂下させるようにガイドパイプを固定するガイドパイプ固定工程と、前記ガイドパイプ固定工程にて固定されたガイドパイプ内を通して下方から新設架空地線を上方へ送る送上工程と、架設されている前記旧架空地線に沿って渡された前記スパイラルハンガー内を挿通させて前記電柱の他方側から送られたガイドワイヤーの先端に、前記送上工程により持ち上げられた前記新設架空地線の先端を連結する連結工程と、前記連結工程により連結した前記ガイドワイヤーを引き戻して前記新設架空地線を前記電柱の他方側に引き延ばす引延工程と前記引延工程により引き延ばした前記新設架空地線の先端を前記電柱の他方側に固定すると共に、前記電柱の一方側で前記張線装置を用いて張力を加える張設工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、掴線器が支持アームに対して揺動可能に軸支されている。これにより、掴線器をスライド軸側に折り返して配置できるので、省スペースで掴線器を保持するとともに、スライド軸を操作して高圧線に接近・干渉することなく、そのまま張線作業を行うことができる。
【0017】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、回動部における回動によって、支持アームがスライド軸に対して軸回転可能となる。これにより、クランプ部及びスライド部を多様な取付角度で設置できる。
【0018】
また、本発明によれば、上記効果に加えて、架空地線を柱上に持ち上げる際、支持棒により保持されたガイドパイプ内を通して送られるので、目的とする高さ位置よりも低い位置に高圧線が設置されていても、電気的接触を防止し、安全に作業を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る架空地線取替方法及び、これに用いられる装置類について説明する。最初に、
図1を参照して架空地線取り替え作業の概略を説明し、続いて、
図2以降を参照しながら周辺の装置類について説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る架空地線取替方法において、電柱50の上端部周辺の様子を示した斜視図である。
【0022】
本実施の形態に係る架空地線取替方法では、スパイラルハンガー53を用いて2本の電柱50間に新設架空地線52が張設される。
図1では、新設架空地線52を一点鎖線で示している。
【0023】
電柱50の先端には、架空地線取付金物55が取り付けられており、その先端に旧架空地線51が張設されている。この旧架空地線51の約1メートル下方には高圧線54が張設されている。
【0024】
ここでは、このような電柱50(一方側)に隣接する作業対象となる電柱については図示をせず、便宜的に電柱50a(他方側)と呼ぶことにする。
【0025】
先ず、電柱50、50a間にスパイラルハンガー53が敷設される。電柱50側からスパイラルハンガー53が旧架空地線51に沿わせて電柱50a側に送られる。この作業は、旧架空地線51の高さに配置されたバケット車上で行われるが、図示は省略している。
【0026】
次に、渡されたスパイラルハンガー53内に挿通させるようにして、ガイドワイヤー18(
図7を用いて後述する)が電柱50a側から電柱50側へ送られる。本実施の形態では、スパイラルハンガー53を電柱50側から挿通し、ガイドワイヤー18を電柱50a側から挿通する例を示した。作業効率を考慮するとこのような作業が望ましいが、スパイラルハンガー53及びガイドワイヤー18を同じ側から挿通しても構わない。
【0027】
次に、支持棒12が架空地線取付金物55に対して取り付けられる(支持棒取付工程)。これにより、
図1に示すように、高圧線54と旧架空地線51との間の高さ位置に支持棒12が配置される。
【0028】
これに続いて、高圧線54よりも低い位置で、電柱50に対して支持棒14が取り付けられる。
【0029】
そして、上方の支持棒12に設けられたガイドパイプホルダー12aと、下方の支持棒14に設けられたガイドパイプホルダー14aとによってガイドパイプ16が固定される(ガイドパイプ固定工程)。このガイドパイプ16は絶縁材で形成されているので、高圧線54と接触することがあっても、感電を防止することができる。本実施の形態では、上方の支持棒12を先に取り付ける例を示しているが、作業環境によっては下方から固定する場合もある。
【0030】
次に、新設架空地線52の先端が柱上に送られる(送上工程)。このとき、支持棒12
、14に固定されたガイドパイプ16内を通して下方から上方へ新設架空地線52が送られる。
【0031】
電柱50の柱上に達した新設架空地線52の先端は、電柱50側に位置しているガイドワイヤー18の先端に連結される(連結工程)。
【0032】
そして、ガイドワイヤー18が電柱50a側に引き戻されることで、連結された新設架空地線52が電柱50aまで引き延ばされる(引延工程)。
【0033】
電柱50aまで達した新設架空地線52の先端は、電柱50a側に固定され、電柱50側で張り上げられる(張設工程)。このとき、
図1に示されているように、架空地線取付金物55に取り付けられている張線装置1により張力が加えられる。この張線装置1には掴線器10が揺動可能に連結されている。これら張線装置1及び掴線器10の構成については、
図2を用いて後述する。
【0034】
以上のように、新設架空地線52が張設された後、旧架空地線51が撤去される。撤去作業においては、支持棒12、14により固定されたガイドパイプ16を通して旧架空地線51が地上に下ろされる。その後、支持棒12、14及びガイドパイプ16等の工具類が撤去されて作業が終了する。
【0035】
続いて、電柱50の周辺の装置類について説明する。
【0036】
図2は、本実施の形態に係る張線装置1の全体斜視図である。この張線装置1に連結される掴線器10は点線で示してある。
【0037】
図2に示すように、張線装置1は、スライド部2とクランプ部8とが一体に構成されている。スライド部2は、スライド軸として設けられているラック2aを軸方向にスライド操作するための構成である。
【0038】
ラック2aの一端には回動部3が設けられている(この回動部3については、後に
図4を用いて詳述する。)。そして、回動部3を介して掴線器10を支持する支持アーム6が設けられている。掴線器10は支持アーム6に対して揺動可能に軸支されている。
【0039】
このような構成のスライド部2及び掴線器10をクランプ部8によって架空地線取付金物55に取り付けることができる。
【0040】
図3は、
図2の張線装置1の底面側から見た斜視図であり、スライド部2の内部が確認できるように一部破断させて示している。
図3に示すように、張線装置1のスライド機構は、ラック2aとピニオンギア2cとの組み合わせで構成されている。外部に突き出した入力軸2bに対して回転力を与えると、ピニオンギア2cと一体に配置されたウォームギア2dを介してラック2aを軸方向に移動させることができる。
【0041】
なお、本実施の形態では、ピニオンギアとラックによりスライド機構を構成した例を示したが、スライド軸自身が軸回転をしないような構成であれば、ラック2aの代わりにネジ軸を用い、ピニオンギア2cの代わりにナットを用いることも可能である。
【0042】
図4は、
図2の張線装置1の回動部3の周辺を拡大した斜視図である。回動部3はラック2aの一端に固定された固定部4と、固定部4に対して相対的に動くことのできる可動部5とから構成されており、
図4では、可動部5が固定部4から軸方向に離間した状態が示されている。固定部4には可動部5側に向かって係合凸部4aが突設されている。また
、可動部5側には、係合凸部4aと係合可能な係合凹部5aが複数箇所形成されている。具体的には、軸回りに90度(所定の回動位置)の間隔を空けて4箇所の係合凹部5aが形成されている。これにより、可動部5側を固定部4に対して90度刻みで任意の回動位置にロックすることができる。
【0043】
このように構成されていると、作業環境によってクランプ部8を
図1のように設置することができず、傾いた姿勢で取り付けざるを得ない場合であっても、掴線器10を作業に適した位置に配置することが可能である。
【0044】
また、180度回転させると、張力を加える方向を反転させることが可能となる。電柱50の一方側からバケットを配置して作業が行われるので、常に作業者側にスライド部2を配置することができるので、作業効率が著しく向上する。
【0045】
なお、
図2から
図4の張線装置1では、掴線器10をラック2aから遠ざける方向に向けた回動位置に伸ばして操作することもできる。しかし、ラック2a側へ折り曲げるように掴線器10を配置することにより、コンパクトに纏まるので、作業スペースを広く活用できると共に、入力軸2bの近くに掴線器10を配置することができるので、視認性も向上する。
【0046】
図5は、
図1において架空地線取付金物55に取り付けられた支持棒12の全体斜視図である。この支持棒12の先端には架空地線取付金物55を挟持するためのクランプ部12bが設けられている。このクランプ部12bは本体側(棒側)とユニバーサルジョイント部12cによって繋がっている。これにより本体側に対して角度を付けて狭持作業を行うことができ、作業効率が向上する。
【0047】
図6は、
図1において高圧線54よりも下方位置で、電柱50の側面に取り付けられた支持棒14と、これを固定する支持棒取付座20とを示した斜視図である。支持棒14の先端には六角ジョイント14bが設けられている。この六角ジョイント14bは、支持棒取付座20に形成された六角穴20aに挿入され、プランジャー20bによりロックできる。このような支持棒取付座20がベルト20cで電柱50に固定される。
【0048】
図5、6に示したように、本実施の形態に係る構成では、高圧線54の上下位置で支持棒12、14によってガイドパイプが固定されているので、高圧線54との間に安定して空間を維持することができ、活線状態においても安全が確保される。
【0049】
以上のように、本実施の形態では、高圧線54の上下ともに支持棒12、14を設けた構成を示したが、少なくとも、高圧線54よりも上方に支持棒12を配置するだけで、作業の安全性が格段に上昇する。
【0050】
図7は、バケット56とこれに設置されるリール22とが示されている。ここでは、説明の便宜のため、バケット56を支えるアームなどの構造については図示を省略している。
【0051】
リール22は、
図1を用いた作業手順の説明の際に述べた、ガイドワイヤー18を収容及び繰り出すことができる。2〜3径間に引き渡す長さであればバケット56上に配置して作業が行えるので、上述のような高圧線54との干渉の恐れもなく、作業効率が向上する。
【0052】
図7に示すリール22には、バケット56に係止できるフック24a、24bが設けられている。そして、これらフック24a、24bは、ガイドワイヤー18を収容する巻き
取り部26を挟んで両側に設けられている。これにより、フック24a、24bの何れにおいてもバケット56に取り付けることが可能である。
図7(a)はフック24aにより取り付けられた状態を示しており、
図7(b)はそれとは逆側のフック24bによって取り付けられた状態を示している。よって、ガイドワイヤー18を送り出したい方向に合わせて設置状態を選択できるので、バケット56を移動させることなく、作業方向を変えることができる。