特許第6570513号(P6570513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6570513持続的眼内放出のためのマイクロスフェア薬剤送達システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570513
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】持続的眼内放出のためのマイクロスフェア薬剤送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/00 20060101AFI20190826BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190826BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20190826BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20190826BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   A61K9/00
   A61P27/02
   A61K45/00
   A61P27/06
   A61K31/20
   A61K31/381
   A61K47/36
   A61K47/38
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61P43/00 171
【請求項の数】29
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-506317(P2016-506317)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-515618(P2016-515618A)
(43)【公表日】2016年5月30日
(86)【国際出願番号】US2014027885
(87)【国際公開番号】WO2014165308
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2017年3月14日
(31)【優先権主張番号】61/807,092
(32)【優先日】2013年4月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591018268
【氏名又は名称】アラーガン、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】リュー ホイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジンピン
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ パトリック エム
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−517330(JP,A)
【文献】 特表2012−521997(JP,A)
【文献】 特開平02−000702(JP,A)
【文献】 特開平11−189527(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/126720(WO,A1)
【文献】 特開2005−097275(JP,A)
【文献】 特開2003−313119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61K 31/20
A61K 31/381
A61K 45/00
A61P 27/02
A61P 27/06
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼症状の治療に効果的であり、前眼房に設置するための薬剤送達システムであって、前記システムが、複数の生分解性マイクロスフェア及び眼科的に許容されるキャリアを含み、前記生分解性マイクロスフェアが、106μm以上かつ180μm以下の直径を有し、及び生分解性ポリマーマトリックス及び眼症状の治療に効果的な治療薬を含み、そのような薬剤送達システムが、106μm未満のマイクロスフィア及び180μmを超えるマイクロスフェアを含有せず、前記薬剤送達システムが、治療に効果的な治療薬量を、前記システムが哺乳類の目に設置された後少なくとも1週間の間放出する、薬剤送達システム。
【請求項2】
前記薬剤送達システムに存在する前記マイクロスフェアの平均径が、100μmから150μmの間にある、請求項1に記載の薬剤送達システム。
【請求項3】
前記薬剤送達システムに存在する前記マイクロスフェアの平均径が、110μmから150μmの間にある、請求項2に記載の薬剤送達システム。
【請求項4】
前記薬剤送達システムに存在する前記マイクロスフェアの平均径が、136μmから159.8μmの間にある、請求項3に記載の薬剤送達システム。
【請求項5】
前記眼症状が、緑内障、眼圧亢進、血管新生、または炎症である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の薬剤送達システム。
【請求項6】
前記治療薬が、プロスタミド、プロスタグランジン、ステロイド系抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、α2アドレナリン受容体のアゴニスト、またはチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項5に記載の薬剤送達システム。
【請求項7】
前記眼症状が、緑内障または患者の目の炎症であり、前記治療薬がビマトプロスト、ステロイド系抗炎症剤、または非ステロイド系抗炎症剤である、請求項6に記載の薬剤送達システム。
【請求項8】
前記眼症状が、緑内障または眼圧亢進であり、前記治療薬が、ビマトプロストであり、前記薬剤送達システムが、ビマトプロスト以外の治療薬を含まない、請求項7に記載の薬剤送達システム。
【請求項9】
前記眼科的に許容されるキャリアが、ヒアルロン酸を含有する水溶液またはゲル、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチル・セルロース(HEC)、カルボキシメチル・セルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチル・セルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP、polyvinylproline)、またはプルロニックポリマーである、請求項5〜8のいずれかに記載の薬剤送達システム。
【請求項10】
前記眼科的に許容されるキャリアが、2.5%w/vのヒアルロン酸ナトリウムを含有する水溶性ゲルである、請求項9に記載の薬剤送達システム。
【請求項11】
前記生分解性ポリマーマトリックスが、ポリ(D、L−ラクチド)、ポリ(D、L−ラクチド−コ−グリコリド)、またはそれらの混合物である、請求項9または10に記載の薬剤送達システム。
【請求項12】
前記ポリ(D、L−ラクチド)及び/またはポリ(D、L−ラクチド−コ−グリコリド)が、各々RESOMER(登録商標)R203S、R203H、RG752H、RG755、RG502H、RG752S、R202H、R202S、及びRG753Sから独立して選ばれる、請求項11に記載の薬剤送達システム。
【請求項13】
前記生分解性ポリマーマトリックスが、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む、請求項12に記載の薬剤送達システム。
【請求項14】
前記PEGが、PEG3350、PEG4400、またはPEG8000である、請求項13に記載の薬剤送達システム。
【請求項15】
前記治療薬がビマトプロストであり及び前記眼症状が緑内障である、請求項12〜14のいずれかに記載の薬剤送達システム。
【請求項16】
前記薬剤送達システムに存在する前記マイクロスフェアが、表1に定義されるいずれかの処方物を含む、請求項15に記載の薬剤送達システム。
【請求項17】
哺乳類の目に薬剤送達システムを注入する装置であり、いわゆるカニューレを構成する装置であり、カニューレは近位端、鋭い遠位端、及びそれを貫いて延びるルーメンを持ち、及び前記カニューレはさらに、請求項6で定義される薬剤送達システムを構成し、前記薬剤送達システムは、前記カニューレの前記ルーメン内に配置される、注入装置。
【請求項18】
患者の前眼房に設置した場合、少なくとも1週間の間眼症状の少なくとも一つの症状を軽減するための請求項6に記載の薬剤送達システム。
【請求項19】
前記眼症状が、緑内障、眼圧亢進、または炎症であり、前記薬剤送達システムが、患者の目の前房に設置後2週間またはそれ以上の間、前記眼症状の少なくとも一つの症状を軽減するのに効果的である、請求項18に記載の薬剤送達システム。
【請求項20】
前記薬剤送達システム中の前記マイクロスフェアが、目の角膜と虹彩の間の角度(前房角)に適合しており、投与後、少なくとも48時間以上前眼房に保持される、請求項19に記載の薬剤送達システム。
【請求項21】
前記マイクロスフェアの投与が、目の充血又は炎症を起こさず、または現存する目の充血又は炎症を増進しない、請求項20に記載の薬剤送達システム。
【請求項22】
患者が、ヒトまたはヒト以外の哺乳類である、請求項21に記載の薬剤送達システム。
【請求項23】
前記前眼房への前記薬剤送達システムの設置が、前記前眼房への前記薬剤送達システムの注入を含む、請求項22に記載の薬剤送達システム。
【請求項24】
前眼房に設置するための生分解性マイクロスフェアの集合体を作る方法であって、
前記方法が、
a)生分解性ポリマーまたは二つまたはそれ以上の生分解性ポリマーの組み合わせと相当量の治療薬を有機溶媒または有機溶媒混合物に溶解して、第一溶液を形成し、
b)飽和または非飽和量の治療薬を、ポリビニルアルコールの水溶液に添加して、第二溶液を形成し、
c)前記第一溶液を、一定速度の攪拌の下で前記第二溶液に滴下しながら添加して、エマルジョンを形成し、
d)一定速度の攪拌の下で、有機溶媒を気化させて、懸濁液を形成し、
e)前記懸濁液を、第一ふるいのメッシュサイズが第二ふるいのメッシュサイズより大きい、二つのふるいに通してろ過し、それによって、粒径が、第一ふるいのメッシュサイズより小さく、第二ふるいのメッシュサイズより大きい粒子を収集し、
前記第一及び第二ふるいが、各々180μm及び106μmのメッシュサイズを有し、
f)収集した粒子を遠心分離機にかけ、ペレットを得て、
g)前記ペレットを凍結乾燥し、その結果としてマイクロスフェア集合体を得る
ことを含む、方法。
【請求項25】
ステップgで得られた前記マイクロスフェアの集合体の平均径が、110μmから150μmの間である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項24〜25のいずれかに記載の生分解性マイクロスフェア集合体の作成方法であって、ペレットの凍結乾燥前に、ステップfで得られるペレットの水洗浄をさらに含む、方法。
【請求項27】
請求項24〜26のいずれかに記載の生分解性マイクロスフェア集合体の作成方法であって、前記治療薬が、緑内障または目の炎症の治療に効果的である、方法。
【請求項28】
前記治療薬が、プロスタミドまたは非ステロイド系抗炎症剤である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記治療薬が、ビマトプロストまたは以下の化学式を有する組成物である、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2013年4月1日出願の米国特許仮出願第61/807,092号(United States Provisional Application Serial No.61/807,092,filed April 1,2013)の関連出願であり、米国特許法第119条の下でこの仮出願に基づく優先権を主張し、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、充血を起こさずに、前眼房に長期間(約1〜12か月)にわたり効果的に保持される、直径40μmから200μmの微小球(マイクロスフェア)の集合体から成る生分解性薬剤送達システムに関する。一般に、このマイクロスフェアは、眼症状の治療に効果的な薬剤、及び前眼房への投与に使用する薬剤の継続的かつ持続的な放出(>7日)を提供する生分解性ポリマーマトリックスを含む。当該薬剤は、生分解性ポリマーマトリックスで包まれても及び/またはその中に分散されていてもよい。また、これらのマイクロスフェアを含有する医薬組成物、マイクロスフェアの製造法、及び緑内障、眼圧亢進、炎症などの眼症状を治療するために前眼房(または必要に応じて硝子体)に当該マイクロスフェアを投与する方法、を記述する。
【0003】
前眼房または後眼房への薬剤の局所送達のために、これまでマイクロスフェア及び押出成形インプラントが使用されているが、従来のマイクロスフェア及び押出成形インプラントは、いくつかの欠点を克服できていない。眼内治療法に通常使用される従来のマイクロスフェアは、約1〜30μmの粒径幅を持つ。しかしながら、我々は、このサイズのマイクロスフェアは、眼の中に、貪食を起こすことによるものとみられる重大な炎症を起こすために耐性が悪い、ということを見出した。結果として、このサイズのマイクロスフェアが、前眼房またはテノン嚢下スペースのような眼球領域に注入されるときには、深刻な充血が起こる可能性がある。さらに、直径約30または40μm未満のマイクロスフェアは、房内投与後に、前眼房に効果的に保持されない。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、直径約30μm未満のマイクロスフェアは、20〜30μmの幅の空孔を持つ3次元スポンジ状構造である小柱網を介して、前眼房から早期に排除されると考えられる。
【0004】
また前眼房への投与に対応した押出成形インプラントが研究されてきた。しかしながら、当該プラントは、小さなゲージ針(25ゲージ以下)を通して目に適合させるために非常に小さくなくてはならない。当該プラントはまた、角膜内皮細胞に触れることなく角膜と虹彩が形成する角度に合わせるために、十分に小さくなくてはならない。このことは、インプラントの大きさを制約し及び潜在的な薬剤負荷を大きく損ねる。これら大きさの制約は、非常に強力な化合物のみにインプラントの使用を制限する。さらに、これらのインプラントを注入デバイスの中に作り、計量し、切断し、及び載せるには、技術的に非常な困難を伴う。
【0005】
本投与法における典型的なPLGA押出成形インプラントの他の欠点は、膨潤である。一つのインプラントが前眼房に注入された後、元の大きさの2〜3倍に膨潤する可能性がある。膨潤したインプラントは、角膜内皮細胞に損傷を与えるであろうし、この治療に適した患者数を深刻に制限してしまうかもしれない。
【0006】
従って、本開示は、上記のほとんどの副作用の場合にも、少量で、薬剤の房内投与に使用できる生分解性「マイクロスフェア」薬剤送達システムを記述する。本システムは、生分解性であり、薬剤を含有し、40μmから200μmに至る直径(従って粒子径)を有し、60μmから150μmの間の平均直径である、球状(または実質的に球)の粒子(微粒子)の集合体から成る。一つの実施形態において、当該薬剤送達システムにおけるマイクロスフェアは、約100μmから約180μmの間の直径を有し、約100μmから約150μmの間の平均(直)径を持つ。
【0007】
粒子サイズ要件は、眼内粒子の貪食能を最小化または排除することを保証し、小柱網に広がった粒子の即時の排出を防ぐ。それに、その粒子サイズによらず、小さなゲージ針(25ゲージ以下)を使用して、前眼房内や他の眼内領域にマイクロスフェアを簡単に注入することができる。さらに、棒状インプラントの直径と長さの制約を克服するため、はるかに多い量の投与が可能である。20μLの注射器を通して、数ミリグラムまでの薬剤投与が可能である。比較として、押出成形インプラントの最も積極的な投与量が、1mg未満である。当該マイクロスフェアは、水和物である典型的なインプラントのようには膨潤しないので、より多くの総ポリマー量投与が可能である。マイクロスフェアはまた、投与量の容易な調整を可能にし、及び無菌処理技術を使用してグラム量からキログラム量までを容易に製造できる。また、適切なポリマーやポリマーの組み合わせを持つマイクロスフェアは、薬剤が眼の対象部位に効果的に到達できているか否かの日常管理を必要とせず、前眼部の眼症状をより効果的に治療するための、治療薬の前眼房への直接的で持続的な放出を可能にする。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、充血(目の充血)や痛みを伴う炎症を引き起こすこと無く、治療薬の前眼房への持続的及び局所的な送達に効果的な薬剤送達システムを提供する。
【0009】
当該薬剤送達システムは、眼症状の治療に効果的であって、及び複数の生分解性マイクロスフェアと眼科的に許容されるキャリアを含む、またはから成る。当該生分解性マイクロスフェアは、生分解性ポリマーマトリックス及び眼症状の治療に効果的な治療薬を含む、またはから成る。当該治療薬は、ポリマーマトリックス内に分散していてもまたはマトリックスでカプセル化されていてもよい。当該治療薬含有マイクロスフェアは、例えば、水中油滴(O/W型)エマルジョンのようなエマルジョンプロセスなど、特定サイズのマイクロスフェアを選択するための手順を含む乳化プロセスによって製造できる。
【0010】
当該薬剤送達システムの要件を満たすためには、送達システムのマイクロスフェアの直径(または粒子径)は、40μmを超え200μm未満でなければならない。本発明の一形態において、眼内領域(前房)に注入される当該マイクロスフェアは、直径が100μm以上で、150μm以下である。他の形態において、眼内領域(前房)に注入される当該マイクロスフェアは、直径が約106μm以上で、約180以下である。200μmを超えたマイクロスフェアは、早期に沈殿する傾向にあり、微粉末よりさらに小さいゲージ針で注入することはより困難である。さらに、200μmをはるかに超える粒子サイズのマイクロスフェア集合体は、眼の血管内皮細胞を刺激する可能性がある。
【0011】
本発明のいくつかの形態において、薬剤送達システムにおける本マイクロスフェア集合体は、その平均径(または平均粒径)およびその集合体の分散(粒度分布)の面から定義されてよく、モード径及びメジアン径といった中央の傾向を示す他の測定値が使用されてもよい。ここで、モード径とは、微粒子の集団の中で最も多く出現する直径であり、及びメジアン径は、その微粒子の50%がそれ以下と同じになる直径である。平均径(mean diameter)とは平均直径(average diameter)である。
【0012】
多分散性の測定には、半値幅(FWHM)、d90/d10、d75/d25、及びd90−d10(スパン)が含まれる。半値幅は、粒子の異なるサイズ分布から、最大値の50%に水平の線を描画して、分布曲線の二つの交点の差から取得される。粒子の異なるサイズ分布から導かれる他の測定値には、平均径及びモード径が含まれる。d90及びd10は、粒度分布最大値の90%及び10%未満の直径である。d50値は、メジアン径であり、または粒度分布最大値の50%未満の直径であり、そしてd75及びd25は、粒度分布最大値のそれぞれ75%及び25%未満の直径である。
【0013】
マイクロスフェア集合体のサイズと多分散性は、レーザー光散乱法を用いて測定することができる。マイクロスフェア集合体のサイズと多分散性の測定に適した装置は、例えば、マルバーン社(Malvern Instruments Ltd.)から市販されている。エマルジョン法によって生産されるような、治療薬含有マイクロスフェアは、球形または実質的に球形であろう。例えば、マイクロスフェアのサンプルをそのような測定装置により測定し報告されている粒子径は、本質的に、微粒子の直径を表している。
【0014】
従って、本発明の一実施形態において、当薬剤送達システム中の本マイクロスフェアの平均径(または粒子径)は、40μmから200μmの間、60μmから140μmの間、100μmから150μmの間、または110μmから150μmの間である。特定の実施形態において、当該マイクロスフェアの平均径は、約136μm、約140μm、約147μm、または約150μmである。これらの実施形態のそれぞれにおいて、当該薬剤送達システムは、直径40μm未満のマイクロスフェア及び直径200μmを超えるマイクロスフェアを含まない。特定の実施形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアは、単峰状の粒度分布を持ち、及び当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの直径は、平均径から約10、20、30、40、50、または60μmを超えて逸脱しない。
【0015】
このように、本発明のいくつかの実施形態は、複数の生分解性マイクロスフェア及び眼科的に許容されるキャリアから成る薬剤送達システムを提供する。マイクロスフェアは、生分解性ポリマーマトリックス及び眼症状の治療に効果的な治療薬から成り、ここで当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの直径は、40μm以上及び200μm以下である。より特定的には、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの直径は、60μm以上及び150μm以下である。例えば、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの直径は、約100μm以上及び約180μm以下である。他のバリエーションにおいては、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの直径は、100μm以上及び150μm以下である。
【0016】
他の実施形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアのモード径は、40μmから200μmの間、60μmから140μmの間、または130μmから140μmの間である。特定の実施形態において、当該マイクロスフェアのモード径は、約136μm、約140μm、約147μm、または約150μmである。
【0017】
他の実施形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアのメジアン径は、40μmから200μmの間、60μmから140μmの間、または130μmから140μmの間である。特定の実施形態において、当該マイクロスフェアのメジアン径は、約136μm、約140μm、約147μm、または約150μmである。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアは、単峰状の粒度分布を持っていてよい。
【0019】
いくつかの実施形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアのスパン(d90−d10)は、約5、10、20、30、40、50、または60μmを超えない。いくつかの形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの多分散性は、d90/d10のパーセンタイル比で測定され、約5、4、3、2、または1.5を超えない。他の形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの多分散性は、FWHMで測定され、約10、20、30、40、50、または60μmを超えない。
【0020】
特定の実施形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアは、単峰状の粒度分布を有し、及び当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの直径は、平均径から約10、20、30、40、50、または約60μmを超えて逸脱しない。
【0021】
他の実施形態において、当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアは、単峰状の粒度分布を有し、及び当該薬剤送達システムの本マイクロスフェアの直径は、モード径から約10、20、30、40、50、または約60μmを超えて逸脱しない。
【0022】
有用な実施形態において、当該薬剤送達システムのマイクロスフェアの直径は、40μm以上及び200μm以下で、平均径が100μmから150μmの間にある。
【0023】
他の有用な実施形態において、当該薬剤送達システムのマイクロスフェアの直径は、約60μm以上及び200μm以下である。従って、当該薬剤送達システムは、約60μm未満の直径のマイクロスフェアまたは200μmを超える直径のマイクロスフェアを含まない。
【0024】
いくつかの実施形態において、当該薬剤送達システムのマイクロスフェアの直径は、約100μm以上及び約180μm以下である。
【0025】
特定の実施形態において、当該薬剤送達システムのマイクロスフェアの直径は、約106μm以上及び約180μm以下である。
【0026】
いくつかの実施形態において、当該薬剤送達システムのマイクロスフェアの直径は、約130μm以上及び約150μm以下である。
【0027】
いくつかの実施形態は、例えば、患者の前眼房症状を含む眼症状を治療するための本発明に基づく薬剤送達システムの使用法に関し、眼症状で影響された眼に薬剤送達システムを設置する方法に関する。前眼房症状とは、眼周囲筋、まぶたや眼の組織、液体、または毛様体筋、水晶体嚢の後部壁の前方に位置する構造体のような、前眼房(眼の前方部)領域または部位に悪影響を与えまたは発症させる病気や症状である。このように、前眼房症状は主に、前眼房領域または部位の血管を新生化し、神経を支配する機能を持ち、結膜、角膜、前房、房水、虹彩、毛様体、水晶体または水晶体被膜と血管と神経に悪影響を与え、発症させる。
【0028】
従って、本開示に記述される薬剤送達システムで潜在的に治療できる眼症状の非限定的な例としては、前眼房の炎症を含む眼の炎症、無水晶体症、偽水晶体眼、虹彩ルベオーシス、例えば虹彩や角膜の場合を含む眼の新生血管形成、乱視、眼瞼痙攣、ウイルスや真菌感染症などの感染症、結膜炎、角膜疾患、角膜潰瘍、ドライアイ(乾性角結膜炎)、眼瞼疾患、涙器疾患、涙管閉塞、近視、老眼、瞳孔障害、斜視、眼圧亢進(別名高眼圧症)及び緑内障を含む。緑内障治療の臨床目標は前眼房の水圧を下げる(つまり、眼内圧を下げること)ことであるから、緑内障は前眼症状と考えることができる。緑内障は、眼圧亢進(上昇)によって特徴付けられる目の病気である。
【0029】
従って、一つの実施形態は、必要に応じた患者の眼症状の治療法であり、患者の前眼房に本発明に従った薬剤送達システムを設置(例えば、注入により)することから成り、それによって眼症状の少なくとも一つの徴候または症状を軽減または緩和する。これら方法の適切な注入量は、約10μL(マイクロリットル)から約50μLまで変動してよい。10μLまたは20μLの注入量は、良耐用であり、許容される。
【0030】
当該マイクロスフェアが目に設置されている患者は、長期にわたり薬剤の追加投与を必要とせず、眼症状の治療に効果のある薬を、治療に効果的な量で受け取る。例えば、いくつかの実施形態において、患者は、前眼房に当該薬剤送達システムを設置後、治療に有効な量の薬剤を、少なくとも約1週間、少なくとも約1か月、少なくとも約2か月、少なくとも約3か月または少なくとも約6か月間受け取る。このような長期間の放出は、治療の成功を促進し、症状の急速な回復をもたらし、そして日々の薬剤利用の必要性を排除するであろう。
【0031】
充血や炎症を引き起こすことなく、前眼房内に直接治療に有効な量の薬剤を、長期間提供できることは、水晶体、角膜内皮細胞、虹彩毛様体、シュレム管、及び小柱網を含む目の前房部の組織及び構造に関連して悪影響を与えている眼症状の治療をより効果的にする。重要なことは、前眼房部への持続的薬剤放出システムの設置は、小柱網を通しての房水の排出を減らすことで、眼圧亢進(高眼圧症)治療に効果的な手段を提供することである。従って、本開示に従うマイクロスフェアは、眼症状の治療に効果的な治療薬(例えば、緑内障または、より一般に、眼圧亢進などのため)及び治療薬のカプセル化に関連するかまたはしない生分解性ポリマーマトリックスを含む。当該マイクロスフェアは、眼症状治療のために、長期間(例えば、1〜6か月間)前眼房に設置されてよい。
【0032】
当該薬剤送達システム及び/または本発明に従うマイクロスフェアはさらに、一つまたはそれ以上の緩衝剤、緊張剤、防腐剤、またはポリエチレングリコールのような、一つまたはそれ以上の薬学上許容される添加剤から、随意に成る。
【0033】
好適な緩衝剤は、非限定で、アルカリ及びアルカリ土類炭酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、コハク酸塩など、酢酸、及びリン酸ナトリウム、クエン酸、ホウ酸、酢酸、重炭酸、炭酸などを含む。これらの薬剤は、システムのpHが2から9の間に及びより好ましくは約4から約8の間に維持されるのに十分な量で、有益な存在となる。
【0034】
好適な防腐剤は、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、ホウ酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、パラベン、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエタノールなど及びそれらの混合物を含む。
【0035】
有用な等張化剤として、グリセリン、糖アルコール、キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトール、マンニトール、塩、塩化カリウム、及び/または塩化ナトリウムを含む。
【0036】
有用なポリエチレングリコールは、約300から約40,000の分子量を有する。マイクロスフェア処方物に含まれてもよいポリエチレングリコールの具体例として、ポリエチレングリコール3350(PEG3350)、PEG4400、及びPEG8000がある。他の例として、分子量が約20,000(PEG20K)のポリエチレングリコールは、使用してよい。
【0037】
本発明に従って、当該マイクロスフェアに含まれ、それゆえに当該薬剤送達システムに含まれる当該治療薬は、眼症状の治療に効果的な物である。特定の実施形態において、治療薬、したがって当該薬剤送達システムは、患者の眼圧亢進(高眼圧症)、緑内障及び眼内炎症の治療に効果的である。一つの実施形態において、当該治療薬は、高眼圧や目の炎症を抑え、及び緩和するのに効果的である。
【0038】
有効な治療薬は、非限定的であるが、プロスタグランジン、プロスタグランジン・プロドラッグ、蛋白質、ペプチド(分子質量が2kDa未満のポリペプチド)、プロスタミド、シクロスポリンA、β遮断薬、α作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤Rhoキナーゼ阻害剤、スクアラミン、駆虫薬、抗真菌薬、抗ヒスタミン薬、抗生物質、チロシンキナーゼ阻害剤、α2アドレナリン受容体作動薬、免疫抑制剤、β遮断薬、抗ムスカリン剤、ステロイド系抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、抗悪性腫瘍剤、抗ウイルス剤、抗酸化剤、及び上述と下述される他の治療薬が含まれてよい。当該治療剤は、薬剤の化学式によっては、遊離塩基または遊離酸形成物であってよいし、または薬学上許容される塩形成物であってもよい。
【0039】
薬学上許容される塩形成物とは、化合物に所望される生物学的活性を保持し及びそれらが投与される患者に、望ましくない毒性影響が最小限であるかまたは無毒である塩または錯体である。
【0040】
プロスタミドは、例えば、ウッドワードらによって(Woodward et al.,2007)、British Journal of Pharmacology 150:342−352に記述されている。高眼圧症または眼圧亢進を抑える有用なプロスタミドには、例えば、米国特許(U.S.Patent Nos.5,834,498,7,799,336)、及び米国特許出願公開(U.S.Patent Application Publication 2002/0198249)に記載されている物を含めてよい。有用なプロスタミドの一例は、ビマトプロスト(CAS番号155206−00−1)である。他の有用なプロスタミドの例は、CAS番号215863−14−2に表される化合物で、以下の化学式を持つ。
【0041】
いくつかの実施形態において、当該マイクロスフェアは、以下の化学式(I)を持つプラスミドを含有してよい。
または薬学上許容される塩でよく、ここで上記破線部の結合は、シスまたはトランス配置であり得る単結合または二重結合を表し、Aは、2から6個の炭素原子を有するアルキレンまたはアルケニレンラジカルであり、ここでラジカルは、一つまたはそれ以上の酸化物ラジカルの割り込みがあってよく、アルキルラジカルが1から6個の炭素原子から成るところの、一つまたはそれ以上のヒドロキシ、オキソ、アルキロキシ、またはアルキルカルボキシ基に置換されていてよい。Bは、3から7個の炭素原子を持つシクロアルキルラジカル、またはヒドロカルビルアリール及びヘテロ原子が窒素、酸素、硫黄の原子から成る群から選ばれるところの、4から10個の炭素原子を持つヘテロアリールラジカルから選ばれるアリールラジカルである。Xは、−N(R42であって、ここでR4は、水素と1から6個の炭素原子を持つ低級アルキルラジカルから成る群から独立して選ばれる。Zは、=Oまたは2個の水素ラジカルを表す。R1及びR2の内の一つは、=O、−OHまたは−O(CO)R6基であり、及び他の一つは、−OHまたは−O(CO)R6であるか、またはR1が=O及びR2がHである。ここでR6は、1から20個の炭素原子を持つ飽和または非飽和の非環状炭化水素基であるか、または、−(CH2m7で、mが、0または1から10までの整数であるところのR7が、3から7個の炭素原子を持つシクロアルキルラジカル、またはヒドロカルビルアリールまたは、上記で定義されるヘテロアリールラジカルである。
【0042】
有用なプロスタグランジン・プロドラッグは、非限定的だが、ラタノプロスト及びトラボプロストを含む。
【0043】
有用なステロイド系抗炎症剤は、副腎皮質ステロイド、21‐アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾン、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロロプレドニゾン、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチコステロン、コーチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、エノキソロン、フルアザコート、フルクロロナイド、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロン・アセトニド、フルオシノニド、フルオコルチン・ブチル、フルオコルトロン、フルオロメトロン、フルペロロン・アセテート、フルプレドニデン・アセテート、フルプレドニソロン、フルドロキシコルチド、プロピオン酸フルチカゾン、ホルモコータル、ハルシノニド、ハロベタゾール・プロピオン酸、ハロメタゾン、ハロプレドン酢酸、ハイドロコルタメート、ヒドロコルチゾン、ロテプレドノールエタボン酸エステル、マジプレドン、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、フランカルボン酸モメタゾン、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾロン25−ジエチルアミノアセテート、プレドニゾロンナトリウムリン酸、プレドニゾン、プレドニバル、プレドニリデン、リメキソロン、チキソコルトール、トリアムシノロン、トリアムシノロン・アセトニド、トリアムシノロン・ベネトナイド、トリアムシノロン・ヘキサアセトニド及びそれらのいずれの誘導体をも含む。
【0044】
有用な非ステロイド性抗炎症剤は、ケトロラク、アスピリン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、スプロフェン、及びそれらの組み合わせを含む。
【0045】
有用なタンパク質は、抗体、DARPins(designed ankyrin repeat proteins)及びアンチカリンを含む。特定の例として、抗VEGF抗体、抗VEGF DARPins、及び抗VEGFアンチカリン、眼内血管新生の抑制及び軽減に有用ないずれのもの、及び眼内新生血管に関連した眼症状の治療に有用なものを含む。
【0046】
有用な抗ヒスタミン剤は、非限定的であるが、ロラタジン(loradatine)、ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ブロムフェニラミン、シプロヘプタジン、テルフェナジン、クレマスチン、トリプロリジン、カルビノキサミン、ジフェニルピラリン、フェニンダミン、アザタジン、トリペレンナミン、デキスブロムフェニルアミン、デキスブロムフェニルアミン、メトジラジン、及びトリメプラジン(trimprazine)、ドキシラミン、フェニラミン、ピリラミン、クロルシクリジン(chiorcyclizine)、トンジルアミン、及びそれらの誘導体を含む。
【0047】
有用な抗生物質は、非限定的だが、セファゾリン、セフラジン、セファクロル、セファピリン、セフチゾキシム、セフォペラゾン、セフォテタン、セフォタキシム、セフォタキシム、セファドロキシル、セフタジジム、セファレキシン、セファロチン、セファマンドール、セフォキシチン、セフォニシド、セホラニド、セフトリアキソン、セファドロキシル、セフラジン、セフロキシム、アンピシリン、アモキシシリン、サイクラシリン、アンピシリン、ペニシリンG、ペニシリンVカリウム、ピペラシリン、オキサシリン、バカンピシリン、クロキサシリン、チカルシリン、アズロシリン、カルベニシリン、メチシリン、ナフシリン、エリスロマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、アズトレオナム、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン塩酸塩、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ゲンタマイシン、リンコマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、硫酸ポリミキシンB、コリスティメタート、コリスチン、アジスロマイシン、オーグメンチン、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、及びそれらの誘導体を含む。
【0048】
有用なβブロッカーは、アセブトロール、アテノロール、ラベタロール、メトプロロール、プロプラノロール、チモロール、及びそれらの誘導体を含む。
【0049】
有用な抗腫瘍剤は、アドリアマイシン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン(duanorubicin)、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、カルボプラチン、カルムスチン(BCNU)、メチル−CCNU、シスプラチン、エトポシド、インターフェロン、カンプトテシン及びその誘導体、フェネステリン、タキソールとその誘導体、タキソテールとその誘導体、ビンブラスチン、ビンクリスチン、タモキシフェン、エトポシド、ピポスルファン、シクロホスファミド、及びフルタミド、及びそれらの誘導体を含む。
【0050】
有用な免疫抑制剤は、シクロスポリン、アザチオプリン、タクロリムス、及びそれらの類似体を含む。
【0051】
有用な抗ウイルス剤には、インターフェロンγ、ジドブジン、アマンタジン塩酸塩、リバビリン、アシクロビル、バラシクロビル(valciclovir)、ジデオキシシチジン、ホスホノギ酸、ガンシクロビル、及びそれらの誘導体を含む。
【0052】
有用な抗酸化剤は、アスコルビン酸、α−トコフェロール、マンニトール、還元型グルタチオン、様々なカロテノイド、システイン、尿酸、タウリン、チロシン、スーパーオキシドジスムターゼ、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン(cryotpxanthin)、アスタキサンチン、リコピン、N−アセチル−システイン、カルノシン、γ−グルタミルシステイン、ケルセチン、ラクトフェリン、ジヒドロリポ酸、クエン酸、イチョウ葉エキス、茶カテキン、ビルベリー抽出物、ビタミンEまたはビタミンEのエステル、パルミチン酸レチノール、及びそれらの誘導体を含む。
【0053】
有用なα2アドレナリン受容体作動薬は、ブリモニジン(遊離塩基または酒石酸塩)を含む。
【0054】
ステロイド系抗炎症剤や非ステロイド系抗炎症剤などの抗炎症剤による治療の恩恵を受ける可能性がある眼症状は、目の炎症及び目の炎症によって媒介される痛みを伴う症状を含む。炎症は、目の前部または前眼部の炎症であり得る。
【0055】
チロシンキナーゼ阻害薬による治療の恩恵を受ける眼症状は、非限定的だが、角膜と虹彩の場合を含む血管新生(新しい血管の異常形成)を含む。
【0056】
プロスタミドまたはプロスタグランジンによる治療の恩恵にあずかる患者は、眼圧亢進(高眼圧症)及び、より具体的には緑内障に苦しんでいる患者を含む。有利なことに、本発明のマイクロスフェアは、ほとんど、あるいはまったく眼充血(目の充血)を起こさずに長期間(例えば、3または6か月以上)にわたり眼内圧を下げることで、高圧症の目に緩和的な効果をもたらす。例えば、本発明の一つの実施形態は、患者の前眼房に本発明に従う薬剤送達システムを注入し、それゆえに1、2、3、または6か月以上において眼内圧を下げることから成る、患者の眼圧亢進を抑える方法を提供する。本方法の一つの形態において、当該薬剤送達システムに存在するマイクロスフェアは、プロスタミドまたはプロスタグランジンから成り、及び40μmから200μmの間の直径を持つ。
【0057】
本発明の他の実施形態は、O/W型エマルジョンのプロセスを使用したマイクロスフェアの製造法を提供し、当該プロセスは以下から成る。
a)生分解性ポリマーまたは生分解性ポリマーの組み合わせと相当量の治療薬を有機溶媒または有機溶媒混合物に溶解して、溶液を形成し、
b)飽和または非飽和量の治療薬を、ポリビニルアルコールの水溶液に添加して第二溶液を形成し、
c)前記第一溶液を、一定速度の攪拌の下で前記第二溶液に滴下し、エマルジョンを形成し、
d)一定速度の攪拌の下で、有機溶媒を気化させ、懸濁液を形成し、
e)前記懸濁液を、第一ふるいのメッシュサイズが第二ふるいのメッシュサイズより大きい、二つのふるいに通してろ過し、
f)粒径が、第一ふるいのメッシュサイズより小さく、第二ふるいのメッシュサイズより大きい粒子を収集し、
g)収集した粒子を遠心分離機にかけ、沈殿ペレットを得て、
h)前記ペレットを凍結乾燥し、マイクロスフェア製剤を形成する。
【0058】
ステップgは、二回の洗浄ステップから成り得て、前記ペレットは二回水洗(超純水などで)され、界面活性剤残渣及びポリマー残物を取り除く。当該方法のいくつかの形態において、ステップcの攪拌速度は、約10から約60rpmである。他の形態において、当該攪拌速度は、約300rpmである。
【0059】
マイクロスフェア調製の平均径及び多分散性は、適切ないかなる装置のレーザー回析によっても決定できる。一例は、マルバーン・マスターサイザー2000(Malvern Mastersizer2000)(マルバーン、英国)である。
【0060】
いくつかの実施形態において、当該マイクロスフェアは、眼症状の治療に互いに効果的な2種またはそれ以上の薬剤を含んでよい。他の実施形態において、当該マイクロスフェアは、単一の薬剤から成る。
【0061】
当該マイクロスフェアは、約5重量%から約50重量%の薬剤から成る。いくつかの実施形態において、当該マイクロスフェアは、約5重量%から約30重量%の薬剤から成る。複数の治療薬が含まれる場合、それらを組み合わせた重量が、薬剤の総重量を構成する。
【0062】
前述のように、当該マイクロスフェアは、生分解性ポリマーマトリックス、眼症状の治療に効果的な薬剤、及び随意で、薬学上許容される添加物を含んでよい、またはから成る。当該生分解性ポリマーマトリックスには、ポリ(D、L−ラクチド)、ポリ(D、L-ラクチド-コグリコリド)、ポリ(オルソエステル)、ポリ(フォスファジン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、天然高分子またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる、またはから成り得る。有用な自然発生のポリマーは、ゼラチン及びコラーゲンを含む。あるマイクロスフェアは、ポリ(D、L−ラクチド)とポリ(D、L-ラクチド-コ-グリコリド)の両方を含んでよい。
【0063】
ポリビニルアルコールに限定しない興味深い他のポリマーとして、ポリ無水物、ポリアミン、ポリエステルアミド、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリリン酸エステル(polyphosphesters)、ポリエーテル、ポリエステル、ポリブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオルト炭酸塩、ポリホスファゼン、コハク酸塩及び、ポリりんご酸、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン(polyvinypyrrolidone)、多糖類、コポリマー、ターポリマー、及び生体適合性であって生分解性でもあってよいポリマーの組み合わせを含む。
【0064】
当該マイクロスフェアに使用するのに適切な生分解性ポリマーは、実質的に目に機能的または生理的干渉をしない生分解性であるものを含む。そのような好ましい材料は、少なくとも部分的に及びより好ましくは、実質的に完全な生分解性であるか生分解可能なものである。当該ポリマーのさらに好ましい性質として、薬剤と相溶すること、本発明の薬剤送達システムに適用するポリマーとして使いやすいこと、少なくとも約6時間、好ましくは約1日の生理的環境半減期、硝子体の粘度を増加させないこと、及び水に不溶であることを含む。
【0065】
マトリックスの形成を包含する生分解性ポリマー材料は、望ましくは酸素または加水分解に対して不安定な部材である。水溶性ポリマーは、加水分解性または生分解性の架橋部と架橋し、有用な水不溶性ポリマーを与える。ポリマーの安定度は、モノマーの選択、ホモポリマーまたはコポリマーが使用されているかどうか、ポリマーの混合を行っているか、及びそのポリマーが酸の末端基を持っているかどうかによって、広く変動しうる。
【0066】
ポリラクチド、またはPLAは、ポリ(D−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)、及びポリ(D、L−ラクチド)を含み、CAS番号26680−10−4に特定されるものでよく、そして以下の化学式に表されるものでよい。
【0067】
ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)またはPLGAは、ポリ(D、L-ラクチド-コ-グリコリド)、及びCAS番号26780−50−7に特定されるもの、及び以下の化学式に表されるものを含む。

ここで、x=ラクチドの繰り返し単位数、及びy=グリコリドの繰り返し単位数である。従って、ポリ(D、L-ラクチド-コ-グリコリド)は、一つまたはそれ以上のD、L−ラクチドの繰り返し単位のブロック及び一つまたはそれ以上のグリコリドの繰り返し単位のブロックから成り、それぞれのブロックの大きさ及び数は変動してよい。
【0068】
ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)コポリマーの各モノマー(繰り返し単位)のモル%は、0−100%、15−85%、約25−75%、または約35−65%であってよい。いくつかの実施形態において、D、L-ラクチドのグリコリドに対する比率は、約50:50または約75:25であってよい。
【0069】
当該ポリマーマトリックスに含まれるPLA及び/またはPLGAポリマーは、エステルまたは遊離のカルボン酸末端基から成ってよい。
【0070】
PLA及びPLGAポリマーは、RESOMER(登録商標)の製品ラインの中にあって、エボニックインダストリーズAG、独(Evonik Industries AG,Germany)から市販されている。異なるRESOMER(登録商標)ポリマー及びそれらの組み合わせは、薬剤の異なる放出速度をもたらすであろう。
【0071】
RESOMER(登録商標)R203Hは、酸末端基を持ち、及び25℃の0.1%含有のクロロホルム溶液の測定で、0.25−0.35dl/gの固有粘度を持つポリ(D、L−ラクチド)である。
【0072】
RESOMER(登録商標)R203Sは、エステル末端基を持ち、及び25℃の0.1%含有のクロロホルム溶液の測定で、0.25−0.35dl/gの固有粘度を持つポリ(D、L−ラクチド)である。
【0073】
RESOMER(登録商標)R202Hは、酸末端基を持ち、及び25℃の0.1%含有のクロロホルム溶液の測定で、0.16−0.24dl/gの固有粘度を持つポリ(D、L−ラクチド)である。
【0074】
RESOMER(登録商標)R202Sは、エステル末端基を持ち、及び25℃の0.1%含有のクロロホルム溶液の測定で、0.16−0.24dl/gの固有粘度を持つポリ(D、L−ラクチド)である。
【0075】
RESOMER(登録商標)RG502は、エステル末端基を持ち、及び(25℃、0.1%含有のクロロホルム溶液の測定)0.16−0.24dl/gの固有粘度を持ち、及びD、L-ラクチドのグリコリドに対する比率は、約50:50であるポリ(D、L−ラクチド-コ-グリコリド)である。
【0076】
RESOMER(登録商標)RG502Hは、酸末端基を持ち、及び(25℃、0.1%含有のクロロホルム溶液の測定)0.16−0.24dl/gの固有粘度を持ち、及びD、L-ラクチドのグリコリドに対する比率は、約50:50であるポリ(D、L−ラクチド-コ-グリコリド)である。
【0077】
RESOMER(登録商標)RG753Sは、エステル末端基を持ち、及び(25℃、0.1%含有のクロロホルム溶液の測定)0.32−0.44dl/gの固有粘度を持ち、及びD、L-ラクチドのグリコリドに対する比率は、約75:25であるポリ(D、L−ラクチド-コ-グリコリド)である。
【0078】
RESOMER(登録商標)RG752Sは、エステル末端基を持ち、及び(25℃、0.1%含有のクロロホルム溶液の測定)0.16−0.24dl/gの固有粘度を持ち、及びD、L-ラクチドのグリコリドに対する比率は、約75:25であるポリ(D、L-ラクチド-コ-グリコリド)である。
【0079】
RESOMER(登録商標)RG752Hは、酸末端基を持ち、及び(25℃、0.1%含有のクロロホルム溶液の測定)0.14−0.22dl/gの固有粘度を持ち、及びD、L-ラクチドのグリコリドに対する比率は、約75:25であるポリ(D、L−ラクチド-コ-グリコリド)である。
【0080】
上述のように、本発明に従う薬剤送達システムは、複数のマイクロスフェアと眼科的に許容されるキャリアとから成る。眼科的に許容されるキャリアは、目に対する生体適合性があり、目にほとんどあるいはまったく障害を引き起こさない担体(例えば、液体、オイル、またはゲル)である。二つまたはそれ以上のそのようなキャリアは、当該薬剤送達システムに含まれてよい。当該マイクロスフェアは、前記のキャリアに懸濁されていてよい。したがって、当該薬剤送達システムは、ゲルまたは懸濁液の形態にあることができる。
【0081】
眼科的に許容されるキャリアは、非限定的だが、滅菌水、一つまたはそれ以上の緩衝剤から成り及びpHが約4から約8、または約7.0から約7.8である水溶液、及びヒアルロン酸(またはアルカリまたはヒアルロン酸ナトリウムのようなヒアルロン酸のアルカリ土類金属塩)、ヒドロキシエチル・セルロース(HEC)、カルボキシメチル・セルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチル・セルロース(hydrocypropylmethyl cellulose,HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP,polyvinylproline)、またはプルロニックポリマーから成る水溶液(またはゲル)を含む。
【0082】
本発明のこれらの及び追加的な態様および実施形態は、以下の記述、図面、及び実施例を参照して、より理解されうる。
【0083】
定義
本記述の目的に対して、単語の文脈が別の意味を示さない限り、我々は、この章で定義される以下の用語を使用する。
【0084】
用語「生分解性」は、生体組織または生体系と互換的な意味をなす。生体適合インプラントは、ほとんどまたは全く毒性が無く、無害で、または生理学的反応がなく、そして免疫反応を引き起こさない。
【0085】
用語「患者」は、特有の眼症状の治療が必要である、ヒトまたは霊長類、猿、馬、犬、ウサギ、ラット、マウス、モルモット、または豚などのヒト以外の哺乳類を指す。
【0086】
ここで使用される用語「眼症状」は、目の正常な機能を損なった、一つまたはそれ以上の目の組織、器官、または眼内領域の疾患または症状を指す。目の前房部は、眼球の前部1/3を指し、角膜の前表面と水晶体の間にある構造を含む。目の後房部は、眼球の後方2/3(水晶体の後方)を指し、そして硝子体、網膜、視神経乳頭、脈絡膜、及び毛様体扁平部を含む。
【0087】
「目」は視覚に対応した感覚器官であり、眼球、または目玉を含み、光を受けとり、視覚情報を中枢神経系に送信する眼窩感覚器である。大まかに言いえば、目は、眼球とそれを構成する組織及び液体、眼周囲筋肉(斜筋と大腿直筋)及び眼球に隣接する視神経部分を含む。
【0088】
前眼房とは、虹彩と角膜表面(角膜内皮細胞)の間の目の内側のスペースを指す。
【0089】
前眼房角とは、虹彩の前面と角膜の後面の接合部を指す。
【0090】
用語「房内」とは、目の前房を指す。
【0091】
用語「生分解性ポリマーマトリックスに関連して」とは、マトリックスと混合してまたはマトリックスに分散されて、及び/またはマトリックスに取り囲まれて、を意味することができる。
【0092】
用語「生分解性ポリマー」とは、一つのポリマーまたは生体内で分解するポリマーを指し、及び生体内でのポリマー溶解または治療薬の放出と同時にまたはその後に徐々に起こるポリマー溶解を指す。用語「生分解性」及び「生分解可能な」は、本明細書では同じ意味で、互換的に使用される。生分解性ポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーであってよい。
【0093】
「治療する」及び「処置」は、本明細書で記述されるような薬剤送達システムの投与によって生み出されるいかなる目または眼組織における恩恵または治療効果をも含み、その効果は、眼症状の一つまたはそれ以上の徴候及び/または症状を軽減しまたは、視覚機能及び/または個々の目(複数可)の視覚的な質を健康な状態に改善することができる。一つまたはそれ以上の症状の軽減は、非限定的だが、眼痛、炎症、眼内圧、または不快感の軽減を含んでよい。治療によって改善の方向に影響を受ける徴候及び症状は、具体的な症状に依存する。
【0094】
「治療薬」、「活薬剤」「治療に効果的な薬剤」及び「眼症状の治療に効果的な治療薬」とは、少なくとも一つの眼症状の徴候または症状をやわらげる、軽減する、または取り除く薬学上許容される薬剤(薬剤成分)を指す。
【0095】
本明細書で使用される用語「治療に効果的な量」とは、目または目の一つの領域またはその薬剤が投与される患部に重大な被害または副作用を引き起こさずに、一つの眼症状を治療するのに必要な薬剤のレベルまたは量を指す。
【0096】
本明細書で使用する「眼領域」及び「目の内領域」とは、一般に眼球のどの部分をも指し、目の前房および後房部を含み、及び非限定的だが、一般に含まれるのは、眼球に見られるいずれもの機能的(例えば、視覚に対して)または構造的組織、または眼球の内外部に部分的にまたは完全につながる組織または細胞層である。目の内領域の具体的な例は、前眼房、後眼房、硝子体、脈絡膜、脈絡、結膜、結膜下スペース、テノン嚢下スペース、上強膜空間、角膜スペース、エピ角膜スペース、強膜、毛様体扁平部、外科的誘導による無血管領域、黄斑、網膜、虹彩と毛様体(焦点調節に関与する毛様体筋の目の内側円周の組織、及び房水を作り出す毛様体のプロセス)を含む。
【0097】
本明細書で使用する「眼症状」とは、目の病気、不快感または医学的な症状であり、目または患部の一部または眼内領域に悪影響を与えるかまたは疾患を引き起こす。大まかに言うと、目は、眼球及び眼球を構成する組織と液体、眼周囲筋肉(斜筋と大腿直筋)及び眼球内または横にある視神経部分を含む。
【0098】
「累積放出プロファイル」は、眼内領域または生体内サイトから時間を経てまたは生体外の特定放出媒体から時間を経て放出される活薬剤の累積総パーセントを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0099】
図1A図1AおよびBは、実施例1で選択されたマイクロスフェア処方物におけるビマトプロストの37℃のリン酸緩衝食塩水中への累積放出パーセント(累積放出プロファイル)を示す。
図1B図1AおよびBは、実施例1で選択されたマイクロスフェア処方物におけるビマトプロストの37℃のリン酸緩衝食塩水中への累積放出パーセント(累積放出プロファイル)を示す。
図2】実施例2に記載されるように、ビマトプロスト負荷マイクロスフェア(API、処方番号10)が投与された犬の眼内圧(IOP)の低下を示す。
図3】実施例3に従い、サルの目の前房(IC)スペースのプラセボPLAマイクロスフェアの写真を示す。このマイクロスフェアの平均粒径は、140μmであった。
図4】実施例4に記載されるように、平均粒径35μmのPLGAマイクロスフェアのプラセボ懸濁液の10μLを犬の目の前房スペースに注入し、1日後、2日後、および4日後の犬の目における重篤で長期の充血を示す。
図5】実施例5に記載されるように、注入1週間後の犬の目の前房角に置かれたプラセボ・マイクロスフェア(ビマトプロスト無しの処方番号10)を示す。この場合、平均粒径136μmのプラセボ・マイクロスフェアの約1mgを25G・UTW針から注入した。目の充血や炎症は見られなかった。
図6】サルの目の前房角に落ち着いた、実施例6のマイクロスフェアの上面図を示す。
図7】2つのサルの目の側面図を示す。注入された目(左)は、実施例6に従ったマイクロスフェアが、角膜内皮に最小の接触で前房角に合わせて設置されている状態を示し、対照眼(右)は、空きペースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0100】
本発明は、ヒトまたはヒト以外の哺乳類の目の前房(房内スペース)への注入用に設定されたマイクロスフェア含有薬剤送達システムを提供する。当該システムは、目に重大な腫れ、炎症、または充血を引き起こすことなく、直接に薬剤の前眼房への持続的(>7日)な放出を提供できる。
【0101】
本発明の基礎は、直径が40μmを超え200μm未満のマイクロスフェアが、前眼房への投与に最適であるという発見である。それらのマイクロスフェアは、小柱網を通じての急速な排出を防ぐのに十分な大きさで、しかも過剰な目の充血を引き起こすことなく、前房内の前房角度内によく収まるのに十分小さい。前眼房内での快適な保持は、より急速に排出されるより小さな粒子に比べて良好な患者の耐性を伴って、当該マイクロスフェアが長期間にわたり薬剤の放出を維持することを可能にする。200μmを超える大きさのマイクロスフェアは、前眼房の注射で推奨される小さなゲージ針での注入はより困難であろうし、及びその大きさのために角膜内皮に接触し、望ましくない影響を引き起こすであろう。
【0102】
本開示に従うマイクロスフェアの眼投与を通して行われる制御された及び持続的な薬剤投与は、望ましくない眼症状の治療に及び視力、機能、及び/または一般に目の健康の改善に効果的であろう。本発明によるマイクロスフェアは、緑内障の治療に使用するのに特に適している。それは、マイクロスフェアが、治療に効果的な抗緑内障薬(例えばプロスタミドなど)の量を、前眼房に1か月から12か月にわたる長期間にわたり継続的に放出できるからである。当該マイクロスフェアは、治療薬(または治療薬の組み合わせ)及び長期にわたり目に治療薬を放出するために処方された生分解性ポリマーマトリックスを含む、またはから成る。当該治療薬剤は、特定の眼症状の治療に効果的で及びその期間は、1か月、2か月、3か月、または6か月と長期である。
【0103】
いくつかの実施形態において、当該マイクロスフェアは、一つまたはそれ以上の望ましくない眼症状を治療しまたは予防するために、目(例えば前眼房など)の領域に治療に効果的な薬剤量を与える。従って、注射や局所投与の反復で患者を拘束するよりも、一回の投与で、必要な場所で長期間保持され、治療薬の効果が発揮される。
【0104】
本発明のマイクロスフェアは、直径が40μmを超え及び200μm未満が好ましい。一つの実施形態において、当該マイクロスフェアは、直径が40μmを超え及び150μm未満である。他の実施形態において、当該マイクロスフェアは、直径が約106μmを超え及び約180μm未満である。より小さな粒子との比較で、マイクロスフェアのこれらサイズは、前眼房への投与に理想的である。なぜなら、それらは、小柱網を介して急速に除去される可能性が低く、そして目に望ましくない炎症及び充血を招く可能性のある貪食をしにくくしているからである。示された制限直径を維持することは、マイクロスフェアが小さなゲージ針を通して容易に注入でき、そして視野の曇り無しに前眼房角に落ち着くことを可能にする。
【0105】
当該生分解性ポリマーマトリックスは、約1週間よりも長い期間、治療薬のある量の放出を維持するために、効果的な割合で分解するよう設計されている。例えば、生分解性ポリマーマトリックスは、マイクロスフェアが前眼房に設置されてから、約1か月(30日)、2か月、3か月、または6か月またはそれ以上の期間において、治療薬の継続的な放出を提供する。
【0106】
当該生分解性ポリマーマトリックスは、一つまたはそれ以上の生分解性ポリマーから成ってよい。例えば、前記マトリックスは、それらの末端基、固有粘度、及び/または繰り返し単位の一つが他のそれと異なる第一及び第二ポリマーから成る。他の実施形態において、当該マイクロスフェアは、第一、第二、及び第三の生分解性ポリマーから成る。一つまたはそれ以上の生分解性ポリマーは、酸末端を持っていてよい。例えば、当該マイクロスフェアは、エステル末端を持つ第一生分解性ポリマー及び酸末端を持つ異なる第二生分解性ポリマーから成ってよい。独立してまたは組み合わせで使用される有用な生分解性ポリマーは、ポリ(D、L-ラクチド)ポリマー及びポリ(D、L-ラクチド-コ-グリコリド)コポリマーを包含する。また、当該マイクロスフェアは、ポリエチレングリコール(PEG)を含有していてよい。有用なポリエチレングリコールは、PEG3350、PEG4400、およびPEG8000を包含する。
【0107】
当該マイクロスフェアは、一体化されていてよい。すなわち、活性薬剤または薬剤がポリマーマトリックスに均一に分散されているかまたはカプセル化されており、活性薬剤の保有体がポリマーマトリックスでカプセル化されている、そうした一体物であってよい。さらに、治療薬は、マトリックス中に不均一パターンで分散されていてよい。例えば、当該マイクロスフェアは、ある部分が、他の部分に比べて相対的に高い濃度の治療薬を保持するような部分を含む。
【0108】
一つの眼症状の治療において、使用される治療薬の投与量は、治療する症状及び治療薬の活性に依存するであろう。マイクロスフェアの場合、必要であれば、20マイクロリッター(μL)の注射器を通して、数mgまでの投与量が可能である。マイクロスフェアは、投与量の調整が容易である。注入されるマイクロスフェアの容量は、5μLから200μLまで変動してよい。典型的な容量は、約10μLから約50μLであり、及び約10μLまたは20μLが適切である。ほとんどの場合、眼症状を治療するための目へのマイクロスフェアの送達量は、一回の注入あたり約0.1mgから約10mgのマイクロスフェアになる。例えば、一回の眼内注射では、約0.5mgまたは約1mg、または約0.5mgから約5mgのマイクロスフェアを含む。ヒト以外の患者に対しては、当該マイクロスフェアの総重量は、治療される哺乳類のサイズ、治療薬の薬理学的特性、及び眼症状の性質によって、増減で調整されてよい。注入の調製においては、マイクロスフェアは、いかなる有効濃度においても適切な搬送体(すなわち、眼科的に許容されるキャリア)に保持される。適切な搬送体には、水溶液及びヒアルロン酸ゲルを含む。ヒアルロン酸またはゲル中のヒアルロン酸(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)の濃度は、例えば、0.1%から5%w/vの間で変動可能である。例えば、マイクロスフェアを格納し及び注入するための適切な搬送体は、ヒアルロン酸ナトリウムのゲルの2.5%w/v水溶液である。搬送体中の適切なマイクロスフェアの濃度は、治療薬の所望の投与量に応じて変動してよいが、例えば、10μLの搬送体中に、約5%(w/w)マイクロスフェア、または約0.5mgマイクロスフェアとすることができる。
【0109】
マイクロスフェアに含ませる治療薬は、必要な効果的投与量およびマイクロスフェアからの所望の放出速度によって、幅広く変化する。通常、治療薬は、マイクロスフェアの約2重量%から30重量%の間である。いくつかの例では、治療薬は、少なくともマイクロスフェアの約5重量%、より一般には少なくとも約10重量%、またはマイクロスフェアの約25重量%で構成される。いくつかの実施形態において、当該マイクロスフェアは、治療薬約5重量%から約50重量%の間、より具体的には治療薬約5重量%から30重量%から成る。
【0110】
当該マイクロスフェア中の治療薬組成物の投与量は、一般に、約0.001mgから約10mg/目/眼内投与の範囲内にあるが、薬剤の活性及びその溶解度に応じて異なる。
【0111】
当該マイクロスフェアは、多様な方法によって、前眼房に注入される。推奨される投与法は、注射器または針またはカニューレを備えた装置を使用した前房内注入によって行われる。適切なサイズの針、例えば、22ゲージ、25ゲージ、27ゲージ、28ゲージ、または30ゲージ針を備えた注射器装置が効果的に使用され、患者の前眼房に組成物が注入される。
【0112】
一つの実施形態において、当該マイクロスフェアは、(製薬的に活性な)一つの治療薬から成る。例えば、唯一の治療薬としてプロスタミドから成ってもよい。
【0113】
他の実施形態において、当該マイクロスフェアは、二つ以上の治療薬から成る。
【0114】
それとは別に、一回のマイクロスフェアの注入には、異なる治療薬組成物または複数の組成物を互いに含む二つ以上のマイクロスフェアのバッチを含めてよい。さらに、眼症状治療のデュアル療法の試みのための前記方法には、マイクロスフェアの前眼房への投与に加えて、組成物の目への局所投与によるステップのように、目の追加的治療薬投与による一つ以上の追加ステップを含めてよい。
【0115】
塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの電解質は、マイクロスフェアに含有してよい。その一方で、またはさらに、PEG3350、4400、または8000のようなポリエチレングリコールもまた、マイクロスフェアの特性を改善するためにその処方物に含有してよい。
【0116】
本明細書に記述されるマイクロスフェアの製造には、多様な技術が採用される。有用な技術には、噴霧乾燥、微小流体技術、及びO/W型そして油中油滴(O/O型)エマルジョンを含むエマルジョン法を含めてよい。プロスタミド、ビマトプロスト、及び生分解性ポリマーマトリックスから成る生分解性マイクロスフェアの調製に対応するエマルジョン法が、例えば、米国特許(US Patent 7,993,634)及び米国特許出願公開(US Application Publication 2006/0246145)に記述される。本発明において、必要な最大及び最小粒径を持つマイクロスフェアを特定して選別するために、エマルジョンのプロセスとの組み合わせで、ふるいが使用される。一般に、当該方法は、所望の最大及び最小サイズパラメーターに合致するマイクロスフェア集合体を得るために、相対的に異なったメッシュサイズを持つ2種類のふるいを使用する。主なマイクロスフェア集合体(例えば、上記のエマルジョン法により生成する)は、第一ふるいを通してろ過され、第一ふるいのメッシュサイズより大きい粒子が取り除かれる。次いで、第一ふるいでろ過されたマイクロスフェアは、第二ふるいでろ過され、第二ふるいのメッシュサイズより大きいマイクロスフェアが収集される。したがって、このプロセスでは、第一ふるいのメッシュサイズは、第二ふるいのメッシュサイズより大きいものが選ばれる。この2ステップふるいプロセスで、第一メッシュサイズより小さく、第二ふるいのメッシュサイズより大きい粒径のマイクロスフェアの集合体が得られる。適切な組み合わせのふるいの選択により、前房内投与に適した、所望の最大と最小サイズの分画に合致したマイクロスフェアの集合体を生成することが可能である。200μmより小さく及び40μmを超える粒径を持つマイクロスフェア集合体を得るために、多くののふるい組み合わせが可能である。本発明のいくつかの形態において、粒径が200μmより小さく及び40μmを超えることを保証するのは有用である。本方法の有用な形態において、第一ふるいのメッシュサイズが180μmであり、及び第二ふるいのメッシュサイズが106μmである。それゆえに本方法で得られるマイクロスフェアは106μmを超えかつ180μmより小さい粒径を持つ。他の形態において、第一ふるいのメッシュサイズが106μmであり、及び第二ふるいのメッシュサイズが40μmである。他のふるい組み合わせは、本開示で記述され及び推奨される範囲内の所望の最大及び最小粒径を持つマイクロスフェア集合体を調整するために使用してよい。106μmと180μmのふるい組み合わせで得られたマイクロスフェアは、薬剤の負荷能力、放出動態能力、前眼房中の保持力、及び注入の容易さに対して、特に有用であろう。
【0117】
所望の最大及び最小粒径を持つマイクロスフェアの選択可能な選別方法には、微粒子流体技術、ミクロふるい法、沈降法、及び多様な分別方法を含める。
【0118】
本方法にはまた、当該マイクロスフェアの最終滅菌ステップを含めてよい。前記方法は、滅菌量のガンマ放射、電子ビーム放射への本マイクロスフェアの暴露、及び/または他の最終滅菌製品を含めてよい。一つの実施形態において、約25kGy投与のガンマ放射に、当該マイクロスフェアを暴露するステップを含めてよい。
【0119】
本開示に従って、本発明は、以下の実施形態(1〜32)を包含するが、それに限定されるものではない。
【0120】
実施形態1:眼症状の治療に効果的な薬剤送達システムで、前記システムは、複数の生分解性マイクロスフェア及び眼科的に許容されるキャリアから構成され、前記生分解性マイクロスフェアは、40μm以上及び200μm以下の直径を有し、及び生分解性ポリマーマトリックスと眼症状の治療に効果的な治療薬を含有している。ここで当該薬剤送達システムは、直径が40μmより小さく及び200μmを超えるマイクロスフェアを含まず、及び当該システムが哺乳動物の目に設置された後少なくとも1週間において治療に効果的な治療薬量を放出する。
【0121】
実施形態2:実施形態1に記載の薬剤送達システムであって、ここで前記薬剤送達システムに存在するマイクロスフェアは、エマルジョンプロセスにより製造される。
【0122】
実施形態3:実施形態2に記載の薬剤送達システムであって、ここで前記薬剤送達システムに存在する複数の生分解性マイクロスフェアは、106μm未満及び180μmを超える直径を有さず、当該薬剤送達システムは、直径が106μmより小さく及び180μmを超えるマイクロスフェアを含まない。
【0123】
実施形態4:実施形態3に記載の薬剤送達システムであって、ここで前記薬剤送達システムに存在する生分解性マイクロスフェアの平均径は、100μmから150μmの間にある。
【0124】
実施形態5:実施形態4に記載の薬剤送達システムであって、ここで前記薬剤送達システムに存在する生分解性マイクロスフェアの平均径は、110μmから150μmの間にある。
【0125】
実施形態6:実施形態4または5に記載の薬剤送達システムであって、ここで眼症状が緑内障、眼圧亢進、血管新生または炎症である。
【0126】
実施形態7:実施形態6に記載の薬剤送達システムであって、ここで治療薬が、プロスタミド、プロスタグランジン、蛋白質、DARPin、アンチカリン、ステロイド系抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、α2アドレナリン受容体のアゴニスト、またはチロシンキナーゼ阻害剤である。
【0127】
実施形態8:実施形態7に記載の薬剤送達システムであって、ここで眼症状が、緑内障、眼圧亢進、または炎症であり及び治療薬が、ビマトプロスト、ステロイド系抗炎症剤、または非ステロイド系抗炎症剤である。
【0128】
実施形態9:実施形態8に記載の薬剤送達システムであって、ここで眼症状が、緑内障、または眼圧亢進であり及び治療薬がビマトプロストであり及び前記薬剤送達システムが、ビマトプロスト以外の治療薬を含まない。
【0129】
実施形態10:実施形態6〜9のいずれかに記載の薬剤送達システムであって、ここで眼科的に許容されるキャリアが、ヒアルロン酸を含有する水溶液またはゲル、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチル・セルロース(HEC)、カルボキシメチル・セルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチル・セルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP,polyvinylproline)、またはプルロニックポリマーである。
【0130】
実施形態11:実施形態10に記載の薬剤送達システムであって、ここで眼科的に許容されるキャリアが、2.5%w/vのヒアルロン酸ナトリウムを含有する水溶性ゲルである。
【0131】
実施形態12:実施形態10または11に記載の薬剤送達システムであって、ここで生分解性ポリマーマトリックスが、ポリ(D、L−ラクチド)、ポリ(D、L−ラクチド−コ−グリコリド)、またはそれらの混合物である。
【0132】
実施形態13:実施形態12に記載の薬剤送達システムであって、ここで前記ポリ(D、L−ラクチド)及び/またはポリ(D、L−ラクチド−コ−グリコリド)が、各々RESOMER(登録商標)R203S、R203H、RG752H、RG755、RG502H、RG752S、R202H、R202S、及びRG753Sから成る群から独立して選ばれる。
【0133】
実施形態14:実施形態13に記載の薬剤送達システムであって、ここで生分解性ポリマーマトリックスが、さらにポリエチレングリコール(PEG)から成る。
【0134】
実施形態15:実施形態14に記載の薬剤送達システムであって、ここで前記PEGが、PEG3350、PEG4400、またはPEG8000である。
【0135】
実施形態16:実施形態13〜15のいずれかに記載の薬剤送達システムであって、ここで治療薬がビマトプロスト及び眼症状が緑内障である。
【0136】
実施形態17:実施形態16に記載の薬剤送達システムであって、ここで前記薬剤送達システムに存在するマイクロスフェアが、表1に定義されるいずれかの処方物から成る。
【0137】
実施形態18:哺乳類の目に薬剤送達システムを注入する装置で、いわゆるカニューレを構成する装置で、カニューレは近位端、鋭い遠位端、及びそれを貫いて延びるルーメンを持ち、前記カニューレはさらに、実施形態1〜17のいずれかの形態で定義された薬剤送達システムを構成し、ここで当該薬剤送達システムは、カニューレのルーメン内に配置される。
【0138】
実施形態19:処置が必要な患者の目における眼症状の治療法であって、当該方法は、実施形態1〜17のいずれかの形態に記載の薬剤送達システムを患者の前眼房に設置することから成る方法で、少なくとも1週間で眼症状の少なくとも一つの症状を軽減する。
【0139】
実施形態20:実施形態19に記載の方法であって、ここで眼症状が、緑内障、眼圧亢進、または目の炎症であり、及び当該薬剤送達システムは、患者の前眼房に設置された後、2週間またはそれ以上の期間で眼症状の少なくとも一つの症状を軽減するのに効果的である。
【0140】
実施形態21:実施形態20に記載の方法であって、ここで前記薬剤送達システムにあるマイクロスフェアは、目の角膜と虹彩間の角度(前眼房角)に沿って設置され、投与から少なくとも48時間の間は、前眼房に保持される。
【0141】
実施形態22:実施形態21に記載の方法であって、ここで前記マイクロスフェアの投与は、目に充血や炎症を起こさず、または充血や炎症の増進を起こさない。
【0142】
実施形態23:実施形態22に記載の方法であって、ここで患者は、ヒトまたはヒト以外の哺乳類である。
【0143】
実施形態24:生分解性マイクロスフェアの集合体を作る方法であって、当該プロセスは、以下を含む。
a)生分解性ポリマーまたは二つ以上の生分解性ポリマーの組み合わせと相当量の治療薬を、有機溶媒または有機溶媒混合物に溶解して、溶液を形成し、
b)飽和または非飽和量の治療薬を、ポリビニルアルコールの水溶液に添加して第二溶液を形成し、
c)前記第一溶液を、一定速度の攪拌の下で前記第二溶液に滴下してエマルジョンを形成し、
d)一定速度の攪拌の下で、有機溶媒を気化させ、懸濁液を形成し、
e)前記懸濁液を、第一ふるいのメッシュサイズが第二ふるいのメッシュサイズより大きい、二つのふるいに通してろ過し、それによって、粒径が、第一ふるいのメッシュサイズより小さく、第二ふるいのメッシュサイズより大きい粒子を収集し、
f)収集した粒子を遠心分離機にかけ、沈殿ペレットを得て、
g)前記ペレットを凍結乾燥して、その結果としてマイクロスフェア集合体を得る。
【0144】
実施形態25:実施形態24の方法であって、ここで、第一及び第二ふるいは、各々180μm及び106μmのメッシュサイズを有する。
【0145】
実施形態26:実施形態25の方法であって、ここで、ステップgで得られたマイクロスフェア集合体の平均径は、100μmから150μmの間である。
【0146】
実施形態27:実施形態26の方法であって、ここで、ステップgで得られたマイクロスフェア集合体の平均径は、110μmから150μmの間である。
【0147】
実施形態28:実施形態24〜27のいずれかの形態に記載の生分解性マイクロスフェア集合体の作成方法であって、さらにペレットの凍結乾燥前に、ステップfで得られるペレットの水洗浄から成る。
【0148】
実施形態29:実施形態24〜27のいずれかの形態に記載の生分解性マイクロスフェア集合体の作成方法であって、ここで治療薬が、眼圧(IOP)を下げ、目の炎症を軽減し、または目の緑内障の治療に効果的である。
【0149】
実施形態30:実施形態29の方法であって、治療薬が、プロスタミドまたはステロイド系抗炎症剤である。
【0150】
実施形態31:実施形態30の方法であって、治療薬が、ビマトプロストまたは以下の化学式を有する化合物である。
【0151】
実施形態32:実施形態24〜31のいずれかの方法によって製造されるマイクロスフェア集合体。
【実施例】
【0152】
実施例1:ビマトプロスト含有生分解性マイクロスフェアの製造及び試験
ビマトプロスト(100mg)及びPLGAポリマーRESOME(登録商標)RG752S(300mg)をエチルアセテート(2.4mL)とメタノール(0.2mL)の混合有機溶媒に溶解し、薬剤/ポリマー溶液を得た。1%PVAと0.1%ビマトプロスト水溶液の40mLを300rpmで適度に攪拌しながら、前記薬剤/ポリマー溶液を滴下で添加した。得られた懸濁液を、有機溶媒を脱気するために、ドラフトチャンバー内の室温で3〜4時間攪拌した。薬剤を含んだPLGA粒子が硬くなった後、懸濁液を、180μm及び106μmのふるいでろ過した。
【0153】
180μm未満でかつ106μmを超えた粒子を収集した。収集した懸濁液を、15分間、2000rpmの遠心分離にかけ、上澄みを取り除き、そして凍結乾燥によって、最終的に白いマイクロスフェアを得た。その特徴として、マイクロスフェアの平均径は136μm、及びビマトプロスト含有率は11.1%w/wである、ということが示された。
【0154】
ポリエチレングリコールをさらに含むマイクロスフェアを調合するために、特定量のPEGを、RESOMER(登録商標)とビマトプロストを混合した有機溶媒に加えて、薬剤/ポリマー溶液を形成した。
【0155】
様々なRESOMER(登録商標)ポリマー及びポリマーの組み合わせを使用した上記方法に従って調合したビマトプロスト・マイクロスフェア処方物の例を、表1に記載した。丸括弧の値は、薬剤/ポリマー組成物において各構成の重量比の重量を示す。
【0156】
10mlのリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)に約15mgのマイクロスフェアを懸濁しながら、インビトロで、マイクロスフェア調合物からのビマトプロストの放出量を測定した(離型剤)。この放出媒体を、37℃の水槽(Model25 Reciprocal Shaking Water Bath, Precision Scientific,Ontario NY)中で、40rpmの速さで振とうを加えながら、養生した。所定の時間間隔で、サンプルを遠心分離し、そして上澄みを完全に取り除き、HPLC分析のために保管した。各々の所定時間後に、当該マイクロスフェアを、新鮮な放出媒体中で再懸濁した。処方物の各バッチに対して3通りの評価を行い、その結果を平均値(n=3)で表した。
【0157】
経時での、処方番号9及び10からのビマトプロスト放出率を、図1A及びBにそれぞれ示した(サンプル中に存在する初期総量に対するパーセントとしての累積ビマトプロスト放出量、すなわち累積放出パーセントをプロットした)。
表1、実施例1に沿って調合されたビマトプロスト・マイクロスフェア処方物
【表1】
【0158】
実施例2:犬におけるビマトプロスト・マイクロスフェア研究
処方番号10を選び、犬の研究用に調合した(表2)。注射用処方物は、ヒアルロン酸(HA)ゲル(2.5%w/v水溶液)中に5%マイクロスフェアを含ませた。各々の犬に対して、20μlの懸濁液を、左目の眼房(API)に注入する一方で、右目(他眼)は、対照眼として未処置のままにした。注入された粘性ゲル処方物は、73μgのビマトプロストを閉じ込めた約1mgのマイクロスフェアを含有していた。インビトロ放出プロファイルに基づいて、前記マイクロスフェアは、一日あたり約290ngのビマトプロストを目に与えると見積もられた。眼圧(IOP)を、有効期間の限度まで毎週測定した。実施したその他観察には、スペキュラーマイクロスコープ(角膜内皮顕微鏡検査)及び隅角鏡付のスリットランプ(細隙燈顕微鏡検査)を含ませた。2か月の観察に基づく結果では、当該マイクロスフェアは、耐性は良好であった。2か月以上の期間での平均で、未処置の目のIOPは、約16mm Hgであった一方で、処置した目のIOPは約11mm Hgであり、その差は、およそ30%であった(図2)。
表2、処方番号10、ビマトプロスト含有マイクロスフェアの犬のインビボ試験
【表2】
【0159】
実施例3:マイクロスフェアの目の前房角への設置
平均径140μmを有するプラセボ・マイクロスフェア(30μL、1.5mg)を、サルの前眼房に注入した。注入3日後に撮られた図3の写真は、マイクロスフェアが角膜と虹彩の間の角度(前房角)にうまく適合していることを示す。4か月後も、有害な影響は観察されなかった。
【0160】
実施例4:マイクロスフェアの犬の前眼房への注入
犬の前眼房に、平均径約35μmのマイクロスフェアを注入した場合には、深刻な充血が観察された(前房内投与、図4)。その他の欠点は、これらのマイクロスフェアが、前房内投与後に前眼房に保持されなかったことである。マイクロスフェアが小柱網を通って前房から排出されたことが判明した。小柱網は、メッシュサイズ20〜30μmに至る3次元のスポンジ状構造である。注入一日後には、マイクロスフェアは、肉眼及びスリップランプ検査で、房水内に見えなくなった。
【0161】
実施例5:マイクロスフェアの犬の前眼房への注入
図5は、プラセボ・マイクロスフェア(医薬品なしの処方番号10)が、注入1週間後に犬の前房角に沿って留まっていることを示す。この場合、平均径136μmを有するプラセボ・マイクロスフェア(約1mg)を、25ゲージUTW針を通して注入した。この場合、1か月後でも充血や炎症は観察されなかった。
【0162】
実施例6:ラタノプロスト含有マイクロスフェアの犬及びサルの前眼房への注入
いくつかのラタノプロスト含有マイクロスフェア処方物を製造し、犬の前眼房内でテストした。特に、二つのラタノプロスト含有マイクロスフェア処方物、処方番号16及び17、を評価した。注入された処方物は、2.5%(w/v)ヒアルロン酸ゲル水溶液に5%(w/w)のマイクロスフェアを含有していた。合計10μLの処方物を、各犬の一つの目の前房に注入した。処方番号16及び17の処方物の平均径は、各々141μm及び159.8μmであった。合計500μg(25%薬剤負荷)のマイクロスフェア中に合計125μgのラタノプロストが与えられた。一処方物あたり2匹の犬を試験した。それらの犬を、眼内圧(IOP)、目の肉眼観察(GOO)、及びスリットランプで、少なくとも2か月追跡した。両マイクロスフェア処方物とも、目の中で2か月後も良好に受け入れられていることを見出した。角膜は透明で、そして処置されたどの目にも、炎症は検出されなかった。
【0163】
処方番号16及び17を、サルにも投与した。それらの設置および配置を図6及び図7に示した。図6は、当該マイクロスフェアが、前眼房に保持され、そして小柱網を通して排出されていないことを示している。図7は、眼の前房角に沿って設置されている当該マイクロスフェアを側面図で説明している。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7