特許第6570514号(P6570514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6570514炭素源から発酵法によりアニリン誘導体を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570514
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】炭素源から発酵法によりアニリン誘導体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/22 20060101AFI20190826BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20190826BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   C12P13/22 CZNA
   C12P13/00
   C12N15/52 Z
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-508802(P2016-508802)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2015058295
(87)【国際公開番号】WO2015141791
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-58570(P2014-58570)
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】小西 一誠
(72)【発明者】
【氏名】高谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】桝尾 俊介
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2001/023542(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/077244(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/118829(WO,A1)
【文献】 J. Am. Chem. Soc., 2003, Vol.125, p.935-939
【文献】 Biotechnol. Lett., 2013, Vol.35, p.751-756
【文献】 Genome Biology, 2009, Vol.10, R51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/00−13/24
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
コリスミ酸から4-アミノフェニルピルビン酸を生合成する機能を有する微生物に、少なくとも3つの外来遺伝子を導入することによって、所定培養条件下、1.8g/L以上の4-アミノフェニルアラニン(4APhe)を生産することができる微生物を作製し;そして
該微生物の生育及び/又は維持に適した条件下、該微生物を炭素源と接触させて、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニリン誘導体を製造する;
を含む、前記アニリン誘導体の製造方法であって、前記少なくとも3つの外来遺伝子は、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)由来のpapA、papB、及びpapCである、方法
【請求項2】
前記papA、papB、及びpapCは、それぞれ、配列番号7、9、5で示す塩基配列からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微生物を作製する工程において、さらに、フェニルアラニン合成酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子を破壊する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記破壊された遺伝子は、pheAである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記微生物を作製する工程において、aroG、aro10及びpalから成る群から選ばれる少なくとも1つの外来遺伝子をさらに導入する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記微生物は、大腸菌、バチルス属、コリネバクテリウム属、シュードモナス属又はザイモモナス属の細菌、及びサッカロミケス(Saccharomyces)属又はシゾサッカロミケス(Schizosaccharomyces)属の酵母から成る群から選ばれる、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記微生物は大腸菌である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素源は、D-グルコース、スクロース、オリゴ糖、多糖、でんぷん、セルロース、米ぬか、廃糖蜜、トウモロコシ分解液、及びセルロース分解液からなる群から選ばれる、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素源から発酵法によりアニリン誘導体を製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、遺伝子工学的手法を用いて、コリスミ酸から4-アミノフェニルピルビン酸を生合成する機能を付与された微生物を作製し、かかる微生物を用いた発酵法により、グルコースの如き炭素源から4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニリン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油由来の二酸化炭素による地球温暖化問題を引き金として、石油に依存しすぎた社会構造を変えていこうという機運が世界中で高まっている。この流れに伴い、バイオプロセス技術を活用した「バイオリファイナリー」の動きが活発化しており、世界各国で研究が加速されているが、残念ながら、アニリン誘導体を含む芳香族化合物のバイオ合成に関する研究成果は未だほとんど得られていないのが実情であるが、化学産業における芳香族化合物の重要性に鑑み、芳香族ポリマー合成などの研究が鋭意進められている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1には、天然分子である4-アミノケイ皮酸(4ACA)を用いたポリマー合成に関する技術が開示され、4-アミノケイ皮酸から高耐熱ポリマーが得られることが報告されている。
【0004】
また、以下の非特許文献1に開示されるように、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)のバイオ合成については、シキミ酸を経由する代謝経路が明らかになっている(同書第2818頁Fig.1参照)が、アンモニアリアーゼが生体内で機能し、4-アミノフェニルアラニンから4-アミノケイ皮酸へと変換されるということは開示されておらず、教示もされていない。
【0005】
以下の非特許文献2には、酵母ロドトルラ・グルチニスJN-1 (Rhodotorula glutinis)のフェニルアラニン・アンモニアリアーゼ(以下、Rgpalと略記する。)の遺伝子が単離され、該酵母は寄託番号M2011490としてCCTCC (China Center For Type Culture Collection)に寄託されたこと、また、該遺伝子の部位特異的突然変異誘発により最適pH変異体を作製したことが記載されている。さらに、非特許文献2の著者らを発明者とする中国特許出願明細書(以下の特許文献2)は2013年4月24日に公表されているので、かかるRgpalの配列自体は公知ではある。しかしながら、かかる酵素が4-アミノフェニルアラニンを基質として4-アミノケイ皮酸を生成しうることは開示されていない。
【0006】
このように、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)は、4-アミノケイ皮酸(4ACA)の前駆体である点で、重要な物質である。
また、以下の非特許文献3には、図1に示すように、コリスミ酸が、PapA(4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸シンターゼ)により4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)に変換され、ADCが、PapB(4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸ムターゼ)により4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)に変換され、ADPが、PapC(4-アミノ-4-デオキシプレフェネート脱水素酵素)により4-アミノフェニルピルビン酸に変換されることが開示されている。
また、4-アミノフェニルピルビン酸は、微生物の内因性酵素の働きによって4-アミノフェニルアラニン(4APhe)に変換されると考えられている。
【0007】
また、以下の特許文献3には、アミノデオキシコリスミ酸シンターゼのクラスに属する酵素によって少なくとも触媒される、4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)の生合成が、4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)及び4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)を含む発酵培養液を得ながら、高められたレベルの活性で4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸シンターゼを持った宿主微生物中インビボで発酵により行われること、かつ、これらの化合物が、一緒にか又は個別にかのどちらかで、発酵培養液から回収されることが開示されている。
【0008】
しかしながら、従来知られていたpap系遺伝子、すなわち、抗生物質生産経路において知られていた3種のキー酵素(例えば、ストレプトマイセス・ベネズエラエ(Streptomyces venezuelae)のPapA、PapB、PapC)を単純に用いた場合、発酵法による4-アミノフェニルアラニン(4APhe)の生産性は0.2g/L程度に過ぎず、従来知られていたpap系の組み合わせを種々検討してもせいぜい0.9g/L程度に留まるものであった。
このような低い生産量は、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)を含むアニリン誘導体をグルコース等の炭素源から発酵法により工業的に大量に製造しようとする際の障害であった(図1参照)。
【0009】
以上のように、発酵法により4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)を含むアニリン誘導体をグルコース等の炭素源から発酵法により工業的に大量に得ることが可能な製造方法は未だ確立されておらず、その開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2013/073519号
【特許文献2】CN103060352A明細書
【特許文献3】特表2008-501326号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】He, et al., Microbiology (2001)
【非特許文献2】Zhou, et al., Biotechnol Lett (2013) 35:751-756
【非特許文献3】J. AM. CHEM. SOC. 2003, 125, 935-939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記したように、従来知られていたpap系遺伝子、すなわち、抗生物質生産経路において知られていた3種のキー酵素(例えば、ストレプトマイセス・ベネズエラエ(Streptomyces venezuelae)のPapA、PapB、PapC)を単純に用いた場合、発酵法による4-アミノフェニルアラニン(4APhe)の生産性は0.2g/L程度に過ぎず、従来知られていたpap系の組み合わせを種々検討してもせいぜい0.9g/L程度に留まるものであった。本願発明者らは、従来のpap系遺伝子を用いた0.2〜0.9g/Lの4APheを生産した形質転換体に、4-アミノケイ皮酸(4ACA)合成に関与する酵素遺伝子を導入したが、4ACAを合成することはできなかった。
かかる従来技術の現状に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、グルコースの如き炭素源から発酵法により4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)を含むアニリン誘導体を工業的に大量に得ることが可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)の生産性を高めるべく、ゲノムデータベースを用いてストレプトマイセス・ベネズエラエ(Streptomyces venezuelae)のPapA、PapB、PapCと相同性を有する蛋白質をコードする新規pap様遺伝子を探索したところ、大腸菌と同じプロテオバクテリア門に属するシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)SBW25株(De Leij F et al.(1995) Appl Environ Microbiol 61:3443-3453)PFLU1770、PFLU1771、PFLU1772が、それぞれ、前記34%(PapC)、44%(PapA)、28%(PapB)の相同性を示し、これらの遺伝子を発現させた組換え大腸菌を作製して4−アミノフェニルアラニン(4APhe)の発酵に供したところ、飛躍的に生産性が向上し、1.8g/Lの4APheを生産することができた。すなわち、4APheのグラムオーダーの生産は従来技術では達成できなかったものであった。
【0014】
驚くべきことに、前記したように、従来のpap系遺伝子を用いた0.2〜0.9g/Lの4APheを生産した形質転換体に4-アミノケイ皮酸(4ACA)合成に関与する酵素遺伝子を導入したとしても、4ACAを合成することはできなかったものの、1.8g/Lの4APheを生産した形質転換体に当該酵素遺伝子を導入した場合に、4ACAを初めて合成することができた。本願発明者らは、大腸菌におけるコリスミ酸から4-アミノピルビン酸までの変換が、従来技術においては効率よく進んでいなかったところ、かかる遺伝子改変によりが、これを効率よく進めることができ、その結果、4APheの生産量が高まり、4APheの生産量がしきい値を超えることで、従来達成されていなかった4ACAの製造が可能になったものと推定している。かかる発見に基づき、本発明者らは、鋭意研究し実験を繰り返した結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]以下の工程:
コリスミ酸から4-アミノフェニルピルビン酸を生合成する機能を有する微生物において、少なくとも3つの外来遺伝子を導入することによって、所定培養条件下、1.8g/L以上の4-アミノフェニルアラニン(4APhe)を生産することができる微生物を作製し;そして該微生物の生育及び/又は維持に適した条件下、該微生物を炭素源と接触させて、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニリン誘導体を製造する;
を含む、前記アニリン誘導体の製造方法。
【0016】
[2]前記少なくとも3つの外来遺伝子は、papA、papB、及びpapCである、前記[1]に記載の方法。
【0017】
[3]前記papA、papB、及びpapCが、それぞれ、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)由来である、前記[2]に記載の方法。
【0018】
[4]前記papA、papB、及びpapCは、それぞれ、配列番号7、9、5で示す配列からなる、前記[3]に記載の方法。
【0019】
[5]前記微生物を作製する工程において、さらに、フェニルアラニン合成酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子を破壊する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
【0020】
[6]前記破壊された遺伝子は、pheAである、前記[5]に記載の方法。
【0021】
[7]前記微生物を作製する工程において、aroG、aro10及びpalから成る群から選ばれる少なくとも1つの外来遺伝子をさらに導入する、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
【0022】
[8]前記微生物は、大腸菌、バチルス属、コリネバクテリウム属、シュードモナス属又はザイモモナス属の細菌、及びサッカロミケス(Saccharomyces)属又はシゾサッカロミケス(Schizosaccharomyces)属の酵母から成る群から選ばれる、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
【0023】
[9]前記微生物は大腸菌である、前記[8]に記載の方法。
【0024】
[10]前記炭素源は、D-グルコース、スクロース、オリゴ糖、多糖、でんぷん、セルロース、米ぬか、廃糖蜜、トウモロコシ分解液、及びセルロース分解液からなる群から選ばれる、前記[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る方法により炭素源から発酵法により4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニリン誘導体を工業的に大量に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】グルコースからコリスミ酸、4-アミノフェニルピルビン酸を経て、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、4-アミノフェネチルエタノール(4APE)に至る経路を示す概略図。
図2】発酵培地の組成を示す表である。
図3】PFABCΔAro株による4APhe生産を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
別段の定めなき限り、本明細書で使用されるすべての技術的又は科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様又は等価な方法又は物質を、開示される方法又は組成物の実施において使用することができるが、例示的な方法、装置、物質等を本明細書に記載する。
【0028】
用語「微生物」には、古細菌ドメイン、細菌ドメイン、及び真核生物ドメインに由来する原核微生物種及び真核微生物種が含まれ、後者には、酵母、糸状菌、原虫、藻類、又はより高度な原生生物が含まれる。
本実施形態においては、コリスミ酸から4-アミノフェニルピルビン酸を生合成する機能を有する微生物であればいずれでも構わないが、大腸菌、バチルス属、コリネバクテリウム属、シュードモナス属又はザイモモナス属の細菌、及びサッカロミケス(Saccharomyces)属又はシゾサッカロミケス(Schizosaccharomyces)属の酵母から成る群から選ばれるものが好ましく、迅速な生育能力や発酵管理の容易さの観点から、大腸菌が特に好ましい。
【0029】
用語「組換え微生物」と「組換え宿主細胞」は、本明細書中互換的に使用され、内因性のポリヌクレオチドを発現若しくは過剰発現し、又はベクター中に含められるものなどの異種のポリヌクレオチドを発現するように遺伝的に改変された微生物、あるいは内在性遺伝子の発現の変化を有する微生物を指す。「変化」とは、遺伝子の発現、又は1つ若しくは複数のポリペプチド若しくはポリペプチドサブユニットをコードするRNA分子若しくは等価なRNA分子のレベル、又は1つ若しくは複数のポリペプチド若しくはポリペプチドサブユニットの活性が上方制御又は下方制御され、その結果、発現、レベル、又は活性が、変化のない状態で観察されるものより大きい又は小さいことを意味する。
【0030】
遺伝子配列に関して、用語「発現」は、遺伝子の転写、及び適切な場合、得られたmRNA転写産物のタンパク質への翻訳を指す。したがって、脈絡から明らかとなるように、タンパク質の発現は、オープンリーディングフレーム配列の転写及び翻訳から生じる。宿主細胞における所望の産物の発現レベルは、細胞中に存在する対応するmRNAの量、又は選択された配列によってコードされる所望の産物の量に基づいて求めることができる。例えば、選択された配列から転写されたmRNAは、PCR又はノーザンハイブリダイゼーションによって定量化することができる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)参照)。選択された配列によってコードされるタンパク質は、様々な方法、例えば、タンパク質に反応して認識し、結合する抗体を使用して、ELISAによって、タンパク質の生物活性をアッセイすることによって、またはそのような活性に依存しないアッセイ、例えば、ウエスタンブロッティングもしくはラジオイムノアッセイなどを使用することによって定量化することができる。Sambrook et al.上掲参照。ポリヌクレオチドは、一般に、所望の代謝産物を産生するための代謝経路に関与する標的酵素をコードする。
【0031】
用語「組換え微生物」及び「組換え宿主細胞」は、特定の組換え微生物を指すだけでなく、そのような微生物の子孫又は潜在的な子孫をも指すと理解される。突然変異又は環境的な影響のために、世代を継ぐうちにある特定の改変が起こり得るので、そのような子孫は、実際には親細胞と同一でない場合があるが、本明細書で使用する場合、この用語の範囲内に依然として含まれる。
【0032】
用語「操作する」は、微生物において検出可能な変化を生じる、微生物の任意の処置を指し、この処置は、それだけに限らないが、微生物に対して異種のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを挿入すること、並びに微生物に固有のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを突然変異させることを含む。
【0033】
用語「代謝的に操作された」または「代謝的な操作」は、所望の代謝産物の産生のための、生合成遺伝子、オペロンに関連する遺伝子、及びそのようなポリヌクレオチドの制御要素の合理的な経路設計及びアセンブリーを伴う。「代謝的に操作された」は、所望の経路に至る中間体と競合する競合代謝経路の低下、破壊又はノックアウトを含めた遺伝子操作及び適切な培養条件を使用した、転写、翻訳、タンパク質の安定性、及びタンパク質の機能性の調節および最適化による、代謝フラックスの最適化をさらに含むことができる。
【0034】
用語「代謝的に操作された微生物」及び「改変された微生物」は、本明細書で互換的に使用され、特定の対象細胞を指すだけでなく、そのような細胞の子孫又は潜在的な子孫も指す。突然変異または環境的な影響のために、世代を継ぐうちにある特定の改変が起こり得るので、そのような子孫は、実際には親細胞と同一でない場合があるが、本明細書で使用する場合、この用語の範囲内に依然として含まれる。
【0035】
用語「生合成経路」は、「代謝経路」とも呼ばれ、1つの化学種を別の化学種に変換するための一連の同化又は異化の生化学反応を指す。遺伝子産物が、並行して、又は連続して、同じ基質上で作用し、同じ産物を産生するか、又は同じ基質と代謝産物最終生成物との間の代謝中間体(すなわち、代謝産物)上で作用し、若しくはこの代謝中間体を産生する場合、この遺伝子産物は同じ「代謝経路」に属する。
【0036】
用語「異種の(外来)」は、分子、特に、酵素及びポリヌクレオチドを参照して本明細書で使用する場合、分子が由来した生物、又は自然において見出される生物以外の生物において発現される分子を示し、発現レベルとは無関係であり、この発現レベルは、天然の微生物における分子の発現レベルより低く、等しく、又は高くなり得る。
【0037】
用語「天然の」又は「内因性の」は、分子、特に、酵素及びポリヌクレオチドを参照して本明細書で使用する場合、分子が由来した生物、又は自然において見出される生物において発現される分子を示し、発現レベルとは無関係であり、この発現レベルは、天然の微生物における分子の発現レベルより低く、等しく、又は高くなり得る。天然の酵素又はポリヌクレオチドの発現は、組換え微生物において改変することができることが理解される。
【0038】
用語「供給原料」は、微生物又は発酵過程に供給される原料、又は原料の混合物として定義され、これから他の産物を作製することができる。例えば、バイオマス又はバイオマスに由来する炭素化合物などの炭素源は、発酵過程において生物燃料を産生する微生物のための供給原料である。供給原料は、炭素源以外の栄養分を含有することができる。
【0039】
用語「炭素源」は一般に、原核生物増殖又は真核細胞増殖のために、炭素の供給源として使用されるのに適した物質を指す。炭素源として、それだけに限らないが、バイオマス加水分解産物、デンプン、スクロース、セルロース、ヘミセルロース、キシロース、リグニン、並びにこれらの基質の単量体成分が挙げられる。炭素源は、それだけに限らないが、ポリマー、炭水化物、酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アミノ酸、ペプチドなどを含めた、様々な形態での様々な有機化合物を含むことができる。これらとして、例えば、様々な単糖、例えば、グルコース、デキストロース(D-グルコース)、マルトース、オリゴ糖、多糖、飽和若しくは不飽和脂肪酸、コハク酸、乳酸、酢酸、エタノール、米ぬか、廃糖蜜、トウモロコシ分解液、セルロース分解液、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0040】
用語「基質」又は「適当な基質」は、酵素の作用によって別の化合物に変換され、又は変換されることを意味する任意の物質又は化合物を指す。この用語は、1種の化合物だけではなく、化合物の組合せ、例えば、少なくとも1つの基質、又はその誘導体を含有する溶液、混合物、他の物質なども含む。さらに、用語「基質」は、任意のバイオマス由来の糖などの出発材料として使用するのに適した炭素源を提供する化合物だけでなく、本明細書に記載されるような代謝的に操作された微生物と関連する経路において使用される中間体及び最終生成物代謝産物も包含する。
【0041】
用語「発酵」又は「発酵法」は、微生物が、供給原料及び栄養分などの原料を含有する培地中で培養される過程として定義され、微生物は、供給原料などの原料を産物に変換する。
【0042】
用語「所定培養条件」とは、以下の実施例において定義する発酵培養条件をいう。
【0043】
用語「ポリヌクレオチド」は、用語「核酸」と互換的に本明細書で使用され、ヌクレオチド、ヌクレオシド、又はこれらの類似体を含めた2つ以上の単量体からなる有機ポリマーを指し、これらは、それだけに限らないが、任意の長さの一本鎖又は二本鎖の、センス又はアンチセンスデオキシリボ核酸(DNA)、及び適切な場合、siRNAを含めた、任意の長さの一本鎖又は二本鎖の、センス又はアンチセンスリボ核酸(RNA)を含む。用語「ヌクレオチド」は、プリン又はピリミジン塩基及びリン酸基に結合したリボース又はデオキシリボース糖からなり、核酸の塩基構造単位である、任意のいくつかの化合物を指す。用語「ヌクレオシド」は、デオキシリボース又はリボースと結合したプリン又はピリミジン塩基からなり、特に核酸中に見出される化合物(グアノシン又はアデノシン)を指す。用語「ヌクレオチド類似体」又は「ヌクレオシド類似体」はそれぞれ、1つ又は複数の個々の原子が、異なる原子又は異なる官能基で置換されたヌクレオチド又はヌクレオシドを指す。したがって、用語ポリヌクレオチドは、任意の長さの核酸、DNA、RNA、これらの類似体及び断片を含む。3つ以上のヌクレオチドのポリヌクレオチドは、ヌクレオチドオリゴマー又はオリゴヌクレオチドとも呼ばれる。
【0044】
本明細書に記載されるポリヌクレオチドには、「遺伝子」が含まれ、本明細書に記載される核酸分子には、「ベクター」又は「プラスミド」が含まれることが理解される。したがって、用語「遺伝子」は、「構造遺伝子」とも呼ばれ、1つ又は複数のタンパク質、又は酵素の全て又は一部を構成する、アミノ酸の特定の配列をコードするポリヌクレオチドを指し、プロモーター配列などの制御(転写されていない)DNA配列を含むことができ、この配列は、例えば、遺伝子が発現される条件を決定する。遺伝子の転写された領域は、イントロン、5’−非翻訳領域(UTR)、及び3’-UTR、並びにコード配列を含めた非翻訳領域を含むことができる。
【0045】
用語「ベクター」は、核酸が、生物、細胞、又は細胞成分間を伝搬及び/又は移動することができる任意の手段である。ベクターとして、ウイルス、バクテリオファージ、プロ−ウイルス、プラスミド、ファージミド、トランスポゾン、及び人工の染色体、例えば、YAC(酵母人工染色体)、BAC(細菌性人工染色体)、及びPLAC(植物人工染色体)などが挙げられ、これは「エピソーム」であり、すなわち、自発的に複製し、宿主細胞の染色体に組み込むことができる。ベクターは、裸のRNAポリヌクレオチド、裸のDNAポリヌクレオチド、同じ鎖内にDNA及びRNAの両方からなるポリヌクレオチド、ポリリシン結合DNA若しくはRNA、ペプチド結合DNA若しくはRNA、リポソーム結合DNAなどであってもよく、これは、本質的にエピソームではなく、又はベクターは、上記ポリヌクレオチドコンストラクトのうちの1つ又は複数を含む生物、例えば、アグロバクテリウム又は細菌などとすることができる。
【0046】
用語「形質転換」は、ベクターが宿主細胞中に導入される過程を指す。形質転換(又はトランスダクション、又はトランスフェクション)は、化学物質形質転換(例えば、酢酸リチウム形質転換)、電気穿孔、マイクロインジェクション、微粒子銃(又は粒子ボンバードメント媒介送達)、又はアグロバクテリウム媒介形質転換を含めたいくつかの手段のうちの任意の1つによって実現することができる。
【0047】
用語「酵素」は、本明細書で使用する場合、1つ又は複数の化学的又は生化学的な反応を触媒又は促進する任意の物質を指し、これは通常、完全又は部分的にポリペプチドからなる酵素を含むが、ポリヌクレオチドを含む異なる分子からなる酵素を含むことができる。
【0048】
用語「タンパク質」又は「ポリペプチド」は、本明細書で使用する場合、2つ以上のアミノ酸単量体及び/又はその類似体からなる有機ポリマーを示す。本明細書で使用する場合、用語「アミノ酸」又は「アミノ酸単量体」は、グリシン及びD又はLの両光学異性体を含めた任意の天然及び/又は合成アミノ酸を指す。用語「アミノ酸類似体」は、1つ又は複数の個々の原子が、異なる原子、又は異なる官能基で置換されたアミノ酸を指す。したがって、用語ポリペプチドは、全長のタンパク質、及びペプチド、並びにこれらの類似体及び断片を含めた、任意の長さのアミノ酸ポリマーを含む。3つ以上のアミノ酸のポリペプチドは、タンパク質オリゴマー又はオリゴペプチドとも呼ばれる。
【0049】
前記したように、本発明の第一の態様は、以下の工程:
コリスミ酸から4-アミノフェニルピルビン酸を生合成する機能を有する微生物において、少なくとも3つの外来遺伝子を導入することによって、所定培養条件下、1.8g/L以上の4-アミノフェニルアラニン(4APhe)を生産することができる微生物を作製し;そして
該微生物の生育及び/又は維持に適した条件下、該微生物を炭素源と接触させて、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニリン誘導体を製造する;
を含む、前記アニリン誘導体の製造方法である。
【0050】
前記少なくとも3つの外来遺伝子は、好ましくはpapA、papB、及びpapCであり、より好ましくは該papA、papB、及びpapCは、それぞれ、シュードモナスフルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)由来であり、さらに好ましくは該papA、papB、及びpapCは、それぞれ、配列番号7、9、5に示すヌクレオチド配列からなる。
但し、本発明においては、前記少なくとも3つの外来遺伝子がコードするアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号8、10、6に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、PapA、PapB、及びPapC酵素活性を有する蛋白質が包含され、かかる配列同一性は、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%であることができる。
ここで、「配列同一性」とは、ポリペプチド配列(若しくはアミノ酸配列)又はポリヌクレオチド配列(若しくは塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同士又は各塩基同士の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものである。同一性は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の同一性を測定する方法は数多く知られており、「配列同一性」なる用語は、当業者には周知である。
【0051】
さらに、本発明においては、前記少なくとも3つの外来遺伝子がコードするアミノ酸配列には、配列番号8、10、6に示すアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PapA、PapB、及びPapC酵素活性を有する蛋白質が包含される。ここで、「数個」とは、多くとも10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個であることができる。
変異DNAは、例えば、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法により調製することができる。具体的には、配列番号8、10、6に示すアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらDNAに変異を導入することにより、変異DNAを取得することができる。ここで、遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Sambrook,J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989等に記載の方法に準じて行うことができる。この変異DNAを適切な発現系を用いて発現させることにより、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質を得ることができる。
【0052】
さらにまた、本発明においては、前記少なくとも3つの外来遺伝子は、配列番号7、9、5に示すヌクレオチド配列と相補的な塩基配列からなる核酸と高ストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ、PapA、PapB、及びPapC酵素活性を有する蛋白質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸が包含される。
本明細書において、「ストリンジェント(stringent)条件」とは、ポリヌクレオチドと、ゲノムDNAとの選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、その他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、又はハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシーは増加する。更に、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。従って、「ストリンジェント条件」とは、各塩基配列間の同一性の程度が、例えば、全体の平均で約90%以上であるような、高い同一性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、「ストリンジェント条件」とは、約45℃にて6.0×SSCでハイブリダイゼーションを行った後に、50℃で2.0×SSCで洗浄することを指す。ストリンジェンシーの選択のため、洗浄工程における塩濃度を、例えば、低ストリンジェントとしての約2.0×SSC、50℃から、高ストリンジェンシトとしての約0.1×SSC、50℃まで選択することができる。さらに、洗浄工程の温度を低ストリンジェント条件の室温、約22℃から、高ストリンジェント条件の約65℃まで増大させることができる。ハイブリダイゼーションは、当業界で公知の方法やそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0053】
本実施形態においては、前記微生物を作製する工程において、さらに、フェニルアラニン合成酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子、例えば、pheAを破壊することが好ましい。また、aroG、aro10及びpalから成る群から選ばれる少なくとも1つの外来遺伝子をさらに導入することが好ましい。
【0054】
以下、発明に係る代謝経路に関係する酵素について説明する。
コリスミ酸から4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)の生合成は、K.S. Anderson et al., JACS 113 (1991) 3198-3200から公知である。Parsons et al., Biochem 42(2003) 5684-5693の第5690頁には、それにとってADCが明らかに不満足な基質であるフェナジン生合成PhzDタンパク質の影響下でADCが辛うじて加水分解されるにすぎないと記載されている。また、ADC合成は自然界でコリスミ酸からのフォレート(folate)合成での第1工程であるので、アミノデオキシコリスミ酸シンターゼ酵素は自然界で豊富に入手可能である。それらはすべてのフォレート原栄養株有機体中に、例えば、バクテリア、酵母、植物、及び低級真核生物中に存在すると推測される。アミノデオキシコリスミ酸シンターゼ酵素は、p-アミノベンゾエート合成にも関与していることが知られている。
本発明においては、コリスミ酸から4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)への変換活性が確認されていなかったpapA様遺伝子(PfpapA)を用いた。
【0055】
4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)から4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)への生合成経路は、例えば、Teng et al., J. Am. Chem. Soc. 107(1985) 5008-5009から公知であるが、ADPの生合成及び回収は、それがADCについて公知であるように、恐らく生成物ADPが不安定であると考えられるので、記載されたことがなかった。この文献は、Blanc et al., Mol. Mic. 23(1997) 191-202の開示と同様に、4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)と4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)の、それぞれ、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)への可能な生合成経路を示しているが、生成物ADC及びADPの、それぞれ、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)への発酵経路及び回収は全く示唆されていない。前記したように、特許文献3には、アミノデオキシコリスミ酸シンターゼのクラスに属する酵素によって少なくとも触媒される、4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)の生合成が、4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)及び4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)を含む発酵培養液を得ながら、高められたレベルの活性で4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸シンターゼを持った宿主微生物中インビボで発酵により行われること、かつ、これらの化合物が、一緒に又は個別に、発酵培養液から回収されることが開示されている。
本発明においては、4-アミノ-4-デオキシコリスミ酸(ADC)から4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)への変換活性が確認されていなかったpapB様遺伝子(PfpapB)を用いた。
【0056】
4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)から4-アミノフェニルピルビン酸への生合成経路には、4-アミノ-4-デオキシプレフェネート脱水素酵素が関与する。4-アミノ-4-デオキシプレフェネート脱水素酵素とは、ADPの酸化的な脱炭酸を行う酵素であり、ADPの1位のカルボキシ基を脱離させ、芳香環を有する4-アミノフェニルピルビン酸を生成する酵素である。本発明においては、4-アミノ-4-デオキシプレフェネート(ADP)から4-アミノフェニルピルビン酸への変換活性が確認されていなかったpapC様遺伝子(PfpapC)を用いた。
【0057】
4-アミノフェニルピルビン酸から4-アミノフェニルアラニン(4APhe)への生合成経路には、アミノトランスフェラーゼが関与する。アミノトランスフェラーゼとは、アミノ酸のアミノ基をα-ケト酸に転移する酵素であり、チロシンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼなどが芳香族アミノ酸の生合成に関与することが明らかとなっている。この際、アミノ基供与体としてグルタミン酸を利用する。本発明においては、4-アミノフェニルピルビン酸から4-アミノフェニルアラニン(4APhe)への変換において、宿主微生物の内因性酵素を使用した。
【0058】
4-アミノフェニルアラニン(4APhe)から4-アミノケイ皮酸(4ACA)への生合成経路には、アンモニアリアーゼが関与する。アンモニアリアーゼとは、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、チロシンアンモニリアーゼ、ヒスチヂンアンモニアリアーゼなどの芳香族アミノ酸のα-アミノ基を脱離させα-β不飽和カルボン酸とアンモニアを生じる酵素をさすものであり、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/)寄託番号NP_187645.1、NCBI寄託番号DQ013364.1、NCBI寄託番号EGU13302.1、NCBI寄託番号KF770992.1などの植物や微生物に由来するものが望ましい。
フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(Pal)は、フェニルアラニンをケイ皮酸に変換する活性を有する酵素であり、これまでにアラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)のPal4遺伝子(野生型、及び変異型のF126E、F126D)、又はロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)由来のPAL遺伝子(RgPal)を発現させた大腸菌を用いて休止菌体反応を行い、4APheを4ACAに変換することに成功している。
本発明においては、4-アミノフェニルアラニン(4APhe)から4-アミノケイ皮酸(4ACA)への変換においてRgPalを使用した。
【0059】
4-アミノフェニルピルビン酸から2-(4-アミノフェニル)アルデヒドへの生合成経路には、脱炭酸酵素が関与する。脱炭酸酵素とは、ピルビン酸誘導体のカルボキシル基を脱離させアルデヒド誘導体と二酸化炭素を生じる酵素をさし、特に、フェニルピルビン酸をはじめとする芳香族ピルビン酸誘導体を基質として利用可能なものが用いられる。酵母由来のフェニルピルビン酸脱炭酸酵素(NCBI寄託番号NM_001180688.3)がこの目的のために用いられ、NCBI寄託番号XP_002498188、NCBI寄託番号XP_444902.1などの類縁の酵素を利用することも可能である。
本発明においては、4-アミノフェニルピルビン酸から2-(4-アミノフェニル)アルデヒドへの変換において、フェニルピルビン酸をフェニルアセトアルデヒドに変換するフェニルピルビン酸脱炭酸酵素であることが明らかとなっている酵母のAro10を用いた。
【0060】
2-(4-アミノフェニル)アルデヒドから4-アミノフェニル酢酸への生合成経路には、アルデヒド脱水素酵素が関与する。アルデヒド脱水素酵素とは、NAD+又はNADP+を補酵素としてアルデヒドを酸化しカルボン酸を与えるものであり、原核生物や真核生物に由来するものが用いられる。特に、フェニルアセトアルデヒドをはじめとする芳香族アルデヒドを基質として利用可能なものが用いられる。特に、酵母由来のフェニルアセトアルデヒド脱水素酵素であるNCBI寄託番号NP_013893.1、NCBI寄託番号NP_013892.1、これらと類縁の酵素がこの目的のために用いられる。
【0061】
2-(4-アミノフェニル)アルデヒドから4-アミノフェネチルエタノール(4APE)への生合成経路には、アルコール脱水素酵素が関与する。アルコール脱水素酵素とは、NADH又はNADPHを補酵素としてアルデヒドを還元しアルコールを与えるものであり、原核生物や真核生物に由来するものが用いられる。特に、フェニルアセトアルデヒドをはじめとする芳香族アルデヒドを基質として利用可能なものが用いられる。特に、酵母由来のアルコール脱水素酵素であるNCBI寄託番号NP_014555.1、NCBI寄託番号NP_014032.1、NCBI寄託番号NP_013800.1、NCBI寄託番号NP_011258.1、NCBI寄託番号NP_009703.1、これらと類縁の酵素がこの目的のために用いられる。アニリン誘導体の生産宿主が発現している生産宿主由来のものも利用可能である。
本発明においては、2-(4-アミノフェニル)アルデヒドから4-ミノフェネチルエタノール(4APE)への変換において、宿主微生物の内因性酵素を使用した。
【0062】
また、大腸菌のAroGおよびAroFは芳香族アミノ酸の生合成経路において初発の反応を触媒する酵素の一つであり、3−デオキシアラビオノヘプツロソン酸7−リン酸の合成において使用される酵素である。AroGの酵素活性はフェニルアラニンにより阻害されることが知られる。フィードバック阻害に耐性を示す変異型のAroGは、大腸菌を用いた芳香族アミノ酸及びその類縁体の高生産に利用されているが、AroG4はこの変異型のAroGのひとつである。そこで、以下の実施例において、AroG4を導入した。
また、大腸菌のPheAはフェニルアラニン合成系の酵素であり、コリスミ酸(chorismate)をフェニルピルビン酸(phenylpyruvate)に変換する活性を有する。コリスミ酸はPapAの基質でもあることから、pheA遺伝子を破壊することでPapAの基質であるコリスミ酸の宿主細胞内濃度が上昇すると予想される。そこで、以下の実施例において、pheA遺伝子を破壊した。
【実施例】
【0063】
以下の実施例等により本発明を具体的に説明する。
[発酵培地の組成]
発酵培地の組成を図2に示す。発酵には、以下の培養条件を使用し、これを本明細書における「所定培養条件」とした。
【0064】
[所定培養条件]
(前培養)
4 ml の液体以下のLB培地を試験管に加え、これに大腸菌のグリセロールストックを100μl添加し、37oC、120 rpm で6時間培養した。
(培地組成(/L))
LB培地組成を以下の表1に示す。オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した培地を使用した。
【表1】
【0065】
(本培養)
50 ml の試験管に5 mlの前記発酵培地を加え、これに前培養液を500μl添加し37oC、120 rpm で12 時間培養した。その後、IPTGを終濃度0.1 mMとなるよう添加し、さらに12 時間培養した。フラスコを用いた培養は、500 ml の羽根つきフラスコに、終濃度10 g/l となるようグルコースを添加した100 ml の前記発酵培地を加え、これに前培養液を500μl 添加し30oCで培養した。尚、発現用宿主として大腸菌NST37(DE3)[ATCC 31882、米国特許第4,681,852号、遺伝子型aroG, aroF, pheA, tyrR, tyrA, trpE]又はその誘導体を使用した際には、培地にチロシン及びトリプトファンを0.05 g/l となるように添加した。IPTGによる発現誘導後、培養12時間ごとに5 g/l となるようグルコースを添加した。培養36時間後に評価対象化合物である4APheの生産量を調べた。
【0066】
[菌株の作製]
(pheA遺伝子破壊株の作製)
Baba, T. et al. Mol. Syst. Biol. 2, 2006.0008 (2006)に報告された手順に従って、pheA遺伝子のORFの外側50bpと相同な配列及びFRT配列を含むプライマーセット(配列番号4:5'-gtgaaaacagtacgggtactgtactaaagtcacttaaggaaacaaacatggaagttcctattctctagaaagtataggaacttctggacagcaagcgaaccggaattgc-3';及び配列番号3:5'-gatgattcacatcatccggcaccttttcatcaggttggatcaacaggcacgaagttcctatactttctagagagaataggaacttctcagaagaactcgtcaagaaggcg -3')を用いて、pZE21MCS(Lutz and Bujard, Nucl. Acids Res. (1997) 25 (6): 1203-1210)を鋳型としてカナマイシン耐性遺伝子を増幅した。得られた遺伝子断片を破壊用カセットとした。NST37株[ATCC 31882、米国特許第4,681,852号、遺伝子型aroG, aroF, pheA, tyrR, tyrA, trpE]のゲノム上のpheA遺伝子を含む領域をRed(登録商標)/ET(登録商標)Recombinationにより破壊用カセットに置き換えることでpheA遺伝子破壊株を取得した。遺伝子破壊株のゲノム上のカナマイシン耐性遺伝子はFLP-FRT recombination system により取り除いた。得られたpheA遺伝子破壊株をNST37(DE3)/ΔpheA株と命名した。また、この株はフェニルアラニンを含まないM9培地では生育できなかった。
【0067】
(aroG4、aroF発現用プラスミドの構築)
GeneScript社の人工遺伝子合成サービスを利用し、末端にEcoRIとHindIII切断部位を有するaroG4遺伝子を含むDNA断片(配列番号1、APPL. ENVIRON. MICROBIOL, 63, 761-762(1997))を合成した。これをT4 DNA Polymeraseを用いて平滑化した後、予めEcoRVで切断したクロラムフェニコール耐性遺伝子を有するpACYC184(ニッポン・ジーン社)に連結した。得られたプラスミドをpACYC-aroG4とした。これをNST37(DE3)/ΔpheAに導入し、NST37(DE3)/ΔpheA/pACYC-aroG4株を作製した。
【0068】
(PFLU1770、PFLU1771、PFLU1772発現用プラスミドの構築)
ゲノムデータベースを用いてストレプトマイセス・ベネズエラエ(Streptomyces venezuelae)のPapABCと相同性を示すタンパク質をコードする遺伝子を探索したところ、大腸菌と同じプロテオバクテリア門に属するシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)SBW25株(De Leij F et al.(1995) Appl Environ Microbiol 61:3443-3453)のPFLU1770、PFLU1771、PFLU1772がそれぞれ34% (PapC)、44% (PapA)、28% (PapB)の相同性を示した。そこで、これらの遺伝子を発現させた組み換え大腸菌を作製し、4APheの生産量を調べることとした。
GeneScript社の人工遺伝子合成サービスを利用し、大腸菌と同じプロテオバクテリア門に属するシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescence)SBW25株のPFLU1770遺伝子(配列番号5、PfPapC遺伝子)、PFLU1771遺伝子(配列番号7、PfPapA遺伝子)、及びPFLU1772遺伝子(配列番号9、PfPapB遺伝子)を合成した。その際、各遺伝子の塩基配列のコドンを大腸菌での発現用に最適化した。pUC57(Genescript社)に連結された各遺伝子を、各種制限酵素を用いて切り出し、pETduet-1(Novagen社)、pRSFduet-1(Novagen社)又はpCDFduet-1(Novagen社)に連結することで、pET-PFLU1771、pRSF-PFLU1771、pCDF-PFLU1771、pET-PFLU1770_1772、pRSF-PFLU1770_1772、及びpCDF-PFLU1770_1772を構築した。すなわち、PFLU1771(PfpapA)を人工遺伝子合成し、pETduet-1に導入してpET-PFLU1771を作製した。また、PFLU1770(PfpapC)とPFLU1772(PfpapB)を人工遺伝子合成し、pCDFduet-1に挿入してpCDF-PFLU1770_1772を作製した。
【0069】
(SvpapABC、SppapBC発現プラスミドの構築)
以下の3つのプラスミドを作製した。この際、PCRの鋳型としては、ストレプトマイセス・ベネズエラエ(Streptomyces venezuelae)(ATCC寄託番号10712)及びストレプトマイセス・プリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespiralis)(ATCC寄託番号25486)の全DNAを用いた。
【0070】
pET-svpapA:以下のプライマー対(配列番号11:5’-gacacatatgcgcacgcttctgatcgac-3’と配列番号12:5’-gacgatatcatcgggcgcccgccacggc-3’)を用いてPCRによりsvPapAの遺伝子(He et al., Microbiol, 147: 2817-2829 (2001))を含むDNA断片を増幅した。これを制限酵素NdeIとEcoRVを用いて消化し、同じ酵素で処理したpETduet-1と連結してpET-svpapAを得た。
【0071】
pRSF-svpapBC:以下のプライマー対(配列番号13:5’-gagccatgggcaccgagcagaacgagctg -3’と配列番号14:5’-cagaagcttcaccgccggtcctcggccgtc -3’)を用いてPCRによりsvPapBの遺伝子(He et al., Microbiol, 147: 2817-2829 (2001))を含むDNA断片を増幅した。これを制限酵素NcoIとHindIIIを用いて消化し、同じ酵素で処理したpRSFduet-1と連結してプラスミドを得た。得られたプラスミドのNdeI-XhoI部位に、以下のプライマー対(配列番号15:5’-cagagacatatgagcggcttcccccgcag -3’と配列番号16:5’-gactcgagtcatcggtccttctcgccttcg -3’)を用いてPCRにより増幅して得たsvPapCの遺伝子(He et al., Microbiol, 147: 2817-2829 (2001))を含むDNA断片を連結して、pRSF-svpapBCを得た。
【0072】
pRSF-sppapBC:以下のプライマー対(配列番号17:5’-cagccatgggcaccccgcccgccatcccc -3’と配列番号18:5’- cagaagcttcacgacacggccccccgcg-3’)を用いてPCRによりspPapBの遺伝子(Blanc et al., Mol. Nicrobiol. 23: 191-202 (1997))を含むDNA断片を増幅した。これを制限酵素NcoIとHindIIIを用いて消化し、同じ酵素で処理したpRSFduet-1と連結してプラスミドを得た。得られたプラスミドのNdeI-EcoRV部位に、以下のプライマー対(配列番号19:5’-cagagacatatgaggggtggttcggtgttcg -3’と配列番号20:5’-cagatatcagtgcagggcggtgaacatc -3’)を用いてPCRにより増幅して得たspPapCの遺伝子(Blanc et al., Mol. Nicrobiol. 23: 191-202 (1997))を含むDNA断片を連結してpRSF-sppapBCを得た。
【0073】
(Aro10発現用プラスミドの構築)
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)S288C(ATCC 204508)のゲノムを鋳型として、以下のプライマー対(配列番号21:5’-gagccatggcacctgttacaattga-3’と配列番号22:5’-gacggatcctattttttatttcttttaaagtgc -3’)を用いてPCRによりAro10の遺伝子(配列番号23)を増幅した。これを制限酵素NcoIとBamHIを用いて消化し、同じ酵素で処理したpRSF-duet1に連結してpRSF-aro10を得た。
【0074】
(pET-PFLU1771_Rgpalの作製)
以下のプライマー対(配列番号25:5’-gacggatccgatggccccctccgtcgactc-3’と配列番号26:5’-gctgaattcttatgccatcatcttgacgag-3’)を用いてPCRにより用いて酵母ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)由来のPAL遺伝子(配列番号27)(RgPAL遺伝子)を含むDNA断片を増幅した。これを制限酵素BamHIとEcoRIを用いて消化し、同じ酵素で処理したpET-PFLU1771に連結してpET-PFLU1771_Rgpalを得た。
【0075】
(pRSF-Rgpalの作製)
以下のプライマー対(配列番号25と配列番号26)を用いてPCRによりRgPAL遺伝子を含むDNA断片を増幅した。これを制限酵素BamHIとEcoRIを用いて消化し、同じ酵素で処理したpRSFduet-1に連結してpRSF-Rgpalを得た。
【0076】
[ジャーファーメンターを用いた培養]
4APhe生産用培地を500 ml 含む、1.0 L 容ジャーファーメンター (BMJ-1:Biotto) に、LB培地で培養した前培養液を1/10 量接種した。空気を0.6 L/min で通気し、撹拌速度は500 r.p.m に設定した。O. D.が0.4-0.5に達した時点で終濃度0.1 mMとなるようIPTGを添加した。フィード制御システムBF510 (エイブル・バイオット社)を用いグルコーススタットでの培養を行った。この際、1時間ごとにグルコース濃度を測定し、測定値が1.5 g/l を下回わると培養槽にグルコースが1 g、塩化アンモニウムが0.2 g 添加されるようにBF510を設定した。
【0077】
[試料の各種分析法]
細胞濃度は、分光光度計 (UVmini-1240) を用いて600 nm で測定した。グルコース濃度の測定はグルコーステストキット (Wako) を用いて、比色定量により行った。培地中の4APheの濃度測定には、HPLC (1200 infinity series: Hewlett Packerd)を用い、210、254及び280 nm の波長の吸光度を指標に測定した。
【0078】
[実施例1]
前記pET-PFLU1771と前記pCDF-PFLU1770_1772を、大腸菌NST37(DE3)/ΔpheA/pACYC-aroG4に導入してPFABCΔAro株を得た。IPTG濃度を0.1 mMとして各株を上述の「所定培養条件」の下で培養し、培養36時間後の4APheの生産量を調べた。その結果、PFABCΔAro株は1.8 g/Lの4APheを生産した。
【0079】
[比較例1]
実施例1と同様の手法で、ストレプトマイセス・プリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespiralis)のpapABC(pET-spPapAとpRSF-spPapBC)を用いた場合には、0.2 g/Lの4APheが得られた。また、ストレプトマイセス・ベネズエラエ(Streptomyces venezuelae)のpapA(pET-svpapA)とストレプトマイセス・プリスチナエスピラリスのpapBC(pRSF-sppapBC)を用いた場合に、0.9 g/Lの4APheが得ることはできたが、実施例1の結果に及ばなかった。
【0080】
[実施例2:PFABCΔAro株のジャーファーメンターでの培養]
上述の[ジャーファーメンターを用いた培養]に示した方法を用いて、PFABCΔAro株を用いて培養を行ったところ、図3に示すように、最大4.0 g/L の4APhe (対糖収率:15%)を生産することに成功した。生産量が変化しなくなる培養44時間での対糖収率は13%であった。
【0081】
[実施例3:4-アミノケイ皮酸(4ACA)の生産]
前記pET-PFLU1771_Rgpal、前記pCDF-PFLU1770_1772、前記pRSF-Rgpalの3つのプラスミドを大腸菌NST37(DE3)/ΔpheA/pACYC-aroG4に導入した。得られた株を、ジャーファーメンターを用いて培養したところ、3 mg/Lの4ACAが生産されていた。
【0082】
[比較例2]
これに反し、実施例3と同一培養条件下で、従来のpap系遺伝子を用いた場合、4ACAを生産することはできなかった。
【0083】
[実施例4:4-アミノフェネチルエタノール(4APE)の生産]
酵母のAro10を用いて4APEを発酵生産させることを試みた。pRSF-aro10をPFABCΔAroに導入して得られた株を培養した。この際、IPTG濃度0.1 mM又は0.3 mMのいずれにおいても、培養24時間後に4APEの蓄積が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る方法により炭素源から発酵法により4-アミノフェニルアラニン(4APhe)、4-アミノケイ皮酸(4ACA)、2-(4-アミノフェニル)アルデヒド、4-アミノフェニル酢酸、及び4-アミノフェネチルエタノール(4APE)からなる群から選ばれる少なくとも1つのアニリン誘導体を工業的に大量に製造することが可能となる。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]