(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電性酸化物を50〜95質量%に対し、Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物からなる群から選択された酸化物を5〜50質量%を前記導電性酸化物の少なくとも表面に担持させるように混合した後、1〜100%水素の不活性ガス雰囲気下で800〜1300℃の熱処理を行う工程を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸素還元触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
燃料電池や空気電池は、空気中の酸素等を酸化剤とし、燃料となる化合物と負極活物質との化学反応により発生するエネルギーを電気エネルギーとして取り出す電気化学エネルギーデバイスである。燃料電池や空気電池は、Liイオン電池等の2次電池よりも高い理論エネルギー容量を有し、自動車車載用電源、家庭や工場等の定置式分散電源、又は、携帯電子機器用の電源等として利用することができる。
【0003】
燃料電池や空気電池の酸素極側では、酸素が還元される電気化学反応が起きる。酸素還元反応は比較的低温では進行し難く、一般的には白金(Pt)等の貴金属触媒により反応を促進させることができる。しかしながら、燃料電池や空気電池のエネルギー変換効率は未だ十分でない。また、酸素還元反応は高い電位領域で起こるためPt等の貴金属でも溶解劣化してしまい、長期安定性及び信頼性確保に問題がある。さらに、Pt等の貴金属を主成分とする触媒は高価であり、燃料電池や空気電池のシステム全体の価格を押し上げその広範な普及を阻んでいる。したがって、白金等の貴金属を用いない安価な触媒であって、高い酸素還元能を有する触媒の開発が望まれている。
【0004】
Ptを含まない触媒としては有機金属錯体や、窒素化カーボン、遷移金属カルコゲナイド、遷移金属炭素化物、遷移金属窒素化物等が知られているが、いずれも触媒活性や耐久性の面において不十分であり、Pt系触媒を上回る性能は得られていない。
【0005】
その中でも、4
族、5
族元素の遷移金属酸化物の一部が酸素還元反応に対して活性を有することが非特許文献1、2に開示されている。また、非特許文献3、特許文献1においては、構造欠陥の一部が酸素還元反応の活性点として機能する可能性が指摘されている。さらに、非特許文献4、5及び特許文献1には、電極構成時に導電性カーボン等を付与することが開示されている。
【0006】
燃料電池や空気電池の空気極触媒上での酸素還元反応は、電極からの電子移動を伴う反応であるため、良好な酸素還元触媒性能を得るためには、電子が電極から触媒上の反応活性点近傍まで速やかに移動する必要がある。また、反応物質である酸素やプロトンが速やかに反応活性点まで届けられることが必要である。しかしながら、非特許文献1から3、特許文献1に記載の4
族、5
族元素の遷移金属酸化物は、一般的に絶縁体的な電子状態を有するため導電性が乏しく、速やかに反応を行うことが難しい。そのため、低い電流値で電池を動作させる場合には比較的高性能を示すものの、高い電流領域では動作電圧が低下してしまう問題がある。
【0007】
また、非特許文献4、5及び特許文献1に記載の方法でも活性点近傍に有効な電子伝導経路をナノレベルで構築・制御することが難しく、性能は低い状態にとどまっている。また、多量の導電性カーボンの導入は、触媒活性点への酸素の供給を阻害するものであり、導電性の付与と酸素の効果的輸送を両立することにより、酸素還元性能を向上させることが求められている。
【0008】
このような問題に対し、特許文献2では、遷移金属酸化物に酸素欠陥を導入し、又は、遷移金属酸化物に酸素欠陥を導入し、かつ、酸素原子の一部を窒素原子で置換することにより、表面の導電性を向上させる技術が開示されている。そして、酸素還元反応の活性点となる構造欠陥の近傍に、導電性カーボンを配置し良好な伝導経路を導入することにより、酸素還元性能を向上させている。
【0009】
さらに、非特許文献6には、NbCl
5とTiCl
4をエタノールに溶解させて得た溶液を、メソポーラスC
3N
4に滴下して浸透させた後、焼成することでC
3N
4を分解し、窒化物ナノ粒子とした後、当該窒化物を酸化することで、ニオブ添加酸化チタン(TiO
2:Nb)を作製する技術が開示されている。そして、当該ニオブ添加酸化チタン(TiO
2:Nb)は安定であり、酸化後にも良好な導電性を保つため、白金代替触媒として有用であると記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(酸素還元触媒の構成)
本実施形態に係る酸素還元触媒は、導電性酸化物と、導電性酸化物の少なくとも表面に設けられた、酸素空孔を有する、Ti、Zr、Nb及びTaからなる群から選択された少なくとも1種以上の遷移金属の酸化物とを含む。本実施形態に係る酸素還元触媒において、導電性酸化物は母材として機能することができ、導電性を有しつつ、カーボンのような材料に対して安定性が良好である。また、導電性酸化物の少なくとも表面に、酸素空孔を有する、Ti、Zr、Nb及びTaからなる群から選択された少なくとも1種以上の遷移金属の酸化物が設けられているため、当該酸素空孔が酸素還元反応の活性点として有効に機能する。そして、当該活性点である酸素空孔の近傍に上記導電性酸化物が存在するため、導電性酸化物が伝導経路となり、酸素還元性能を向上させることができる。さらに、本発明では遷移金属の酸化物として、4
族、5
族元素であるTi、Zr、Nb及びTaを用いているため、酸素還元反応の活性点として機能する酸素空孔を形成し易く、製造効率が良好となる。
【0026】
本実施形態に係る酸素還元触媒は、遷移金属の酸化物が、0<x≦0.2としたとき、TiO
2-x、ZrO
2-x、NbO
2-x、又は、TaO
2-xで表される酸化物であってもよい。Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物として、高次のTiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5があるが、これらは絶縁体である。また、Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物として、低次のTi
4O
7、ZrO、NbO、TaOがあるが、これらは導電性を有するが酸素還元触媒に用いた場合、すぐに酸素と反応し、反応がそこで終了してしまうため、酸素還元反応が起こらない。すなわち、これら低次のTi
4O
7、ZrO、NbO、TaOでは酸素還元活性が低い。そこで、本実施形態では、これら高次のTiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5と、低次のTi
4O
7、ZrO、NbO、TaOとの中間の酸化物である、TiO
2-x、ZrO
2-x、NbO
2-x、又は、TaO
2-xで表される酸化物(0<x≦0.2)を用いている。当該酸化物は、TiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5のような高次の酸化物ではないため、ある程度の導電性を有しながら、酸素還元反応の活性点として機能する酸素空孔を備えるため、酸素還元反応性が良好となる。
【0027】
本発明において、酸素空孔を有するTi、Zr、Nb、Taの遷移金属の酸化物とは、Ti、Zr、Nb、Taの遷移金属の最高酸化物状態から、酸素原子が欠損した状態となっている酸化物を示す。なお、酸素空孔の量は不活性ガス融解赤外線吸収法による元素分析等により算出することができ、これにより酸素空孔の有無も判断できる。
【0028】
酸素空孔を有する遷移金属の酸化物について、Ti、Zr、Nb、Taの遷移金属の酸化物をそれぞれ単独で用いた場合の酸素還元触媒の特性について比較する。酸素空孔を有する遷移金属の酸化物としては、(1)Tiの酸化物又はZrの酸化物、(2)Nbの酸化物、(3)Taの酸化物の順で、より良好な活性が得られる。また、(1)Taの酸化物、(2)Nbの酸化物、(3)Zrの酸化物、(4)Tiの酸化物の順で、より良好な安定性が得られる。
【0029】
本実施形態に係る酸素還元触媒は、遷移金属の酸化物の大きさについて、反応表面積を大きくするために小さいほうが好ましく、例えば1nmから100nmの範囲であることが好ましい。
【0030】
本実施形態に係る酸素還元触媒の導電性酸化物は特に限定されず、例えば、インジウム/スズ酸化物(ITO)、アンチモン/スズ酸化物(ATO)、LaCoO
3やLaNiO
3のようなペロブスカイト型酸化物等の一般に知られている種々の導電性酸化物を用いることができる。また、導電性酸化物が、Ti、Zr、Nb及びTaからなる群から選択された少なくとも1種以上の遷移金属の酸化物であってもよい。上述のように、本実施形態に係る酸素還元触媒において、導電性酸化物は母材として機能することができるが、当該導電性酸化物の少なくとも表面に設ける酸素空孔を有する酸化物が、Ti、Zr、Nb及びTaからなる群から選択された少なくとも1種以上の遷移金属の酸化物であるため、この遷移金属の酸化物と同種の遷移金属を用いることで、導電性酸化物と、酸素空孔を有する酸化物とを別々に作製することなく、一度に作製することができる。このため、製造効率を向上させることができる。さらに、このように一度に作製することで、導電性酸化物と、酸素空孔を有する酸化物とを複合化させることができ、より酸素還元性能を向上させることができる。
【0031】
本実施形態に係る酸素還元触媒は、このように導電性酸化物と酸素空孔を有する遷移金属の酸化物とを同時に形成して複合化させてもよく、導電性酸化物と、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物とを別々に準備した後、導電性酸化物の少なくとも表面に酸素空孔を有する遷移金属の酸化物を設けてもよい。
【0032】
本実施形態に係る酸素還元触媒は、導電性酸化物が、Ti
4O
7、Ti
3O
5、Ti
2O
3、TiO、Ti
3O
2、ZrO、NbO又はTaOであってもよい。このような構成によれば、母材として機能する導電性酸化物の導電性が高くなり、より酸素還元性能を向上させることができる。
【0033】
本実施形態に係る酸素還元触媒は、導電性酸化物として単独の物質を用いることもでき、複数の物質を混合して用いることもできる。また、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物として単独の物質を用いることもでき、複数の物質を混合して用いることもできる。
【0034】
導電性酸化物と酸素還元触媒との組み合わせについては特に限定されないが、同種の元素を含むもの同士の組み合わせがより好ましい。このような構成によれば、導電性酸化物と、その表面に設けられた酸素還元触媒との境界が形成され難くなり、より良好な複合化構造となるため、酸素還元性能がより向上する。具体的には、導電性酸化物がTiの酸化物で構成されているときは、酸素還元触媒も主にTiの酸化物で構成されているのがより好ましい。また、導電性酸化物がZrの酸化物で構成されているときは、酸素還元触媒も主にZrの酸化物で構成されているのがより好ましい。また、導電性酸化物がNbの酸化物で構成されているときは、酸素還元触媒も主にNbの酸化物で構成されているのがより好ましい。また、導電性酸化物がTaの酸化物で構成されているときは、酸素還元触媒も主にTaの酸化物で構成されているのがより好ましい。
【0035】
本実施形態において、導電性酸化物を成形する形態は特に限定されず、例えば、板状、球状、繊維状、層状、多孔質状等であってもよい。また、酸素空孔を有する酸化物は、導電性酸化物の表面だけでなく、更に内部に設けられていてもよい。導電性酸化物が多孔質状に成形されている場合は、酸素空孔を有する酸化物が各孔の表面にも設けられていることが好ましい。
【0036】
(酸素還元触媒の製造方法)
次に、本実施形態に係る酸素還元触媒の製造方法について説明する。まず、(1)導電性酸化物、及び、(2)Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物からなる群から選択された酸化物を準備する。次に、(1)導電性酸化物が50〜95質量%、(2)Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物からなる群から選択された酸化物が5〜50質量%となるように調合した後、ボールミル等を用いて、Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物からなる群から選択された酸化物が、導電性酸化物の少なくとも表面に担持するように1〜10時間混合する。続いて、1〜100%水素の不活性ガス雰囲気下で、1〜50時間、800〜1300℃の熱処理を行い、上記混合物の還元処理を行う。このようにして、導電性酸化物と、導電性酸化物の少なくとも表面に設けられた、酸素空孔を有する、Ti、Zr、Nb及びTaからなる群から選択された少なくとも1種以上の遷移金属の酸化物とを含む酸素還元触媒が得られる。
【0037】
上記製造方法において、(1)導電性酸化物として、例えばTiO
2を用いた場合、熱処理後に得られる酸素還元触媒の母材となる導電性酸化物はTi
4O
7、Ti
3O
5、Ti
2O
3、TiO、Ti
3O
2などとなる。また(1)導電性酸化物として、例えばZrO
2を用いた場合、熱処理後に得られる酸素還元触媒の母材となる導電性酸化物はZrOなどとなる。また(1)導電性酸化物として、例えばNb
2O
5を用いた場合、熱処理後に得られる酸素還元触媒の母材となる導電性酸化物はNbOなどとなる。(1)導電性酸化物として、例えばTa
2O
5を用いた場合、熱処理後に得られる酸素還元触媒の母材となる導電性酸化物はTaOなどとなる。
【0038】
また、(2)Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物からなる群から選択された酸化物は、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物を決定する。ZrO
2を用いた場合は、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物がZrO
2-xとなる。Nb
2O
5を用いた場合は、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物がNbO
2-xとなる。Ta
2O
5を用いた場合は、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物がTaO
2-xとなる。
【0039】
上記製造方法において、ボールミル等による混合により、(1)導電性酸化物に(2)Ti、Zr、Nb及びTaの酸化物からなる群から選択された酸化物に起因する複合化物を担持させる。具体的には、例えば、(1)TiO
2を50〜95質量%、(2)Nb
2O
5を5〜50質量%で調合してボールミル等で混合することで、TiO
2にTiNbOなる複合化物を担持させる。続いて、この状態で1〜100%水素の不活性ガス雰囲気下で800〜1300℃の熱処理を行うことで、混合物が還元処理されて、導電性酸化物であるTi
4O
7の少なくとも表面に、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物であるNbO
2-xが設けられた酸素還元触媒が作製される。なお、NbO
2-xの表記は、ここでは、活性点として形成されているものは複合酸化物TiNbOであるが、その複合酸化物に酸素空孔があるため局所的に金属イオンが最高酸化数より低くなっている状態を示している。また、このとき、1〜100%水素の不活性ガス雰囲気下で熱処理を行うことで、酸素分圧を抑えた状態で還元されるため、遷移金属の酸化物に良好に酸素空孔を設けることができる。
【0040】
(燃料電池、空気電池)
本実施形態に係る酸素還元触媒を用いて空気極を作製することができる。当該空気極は、燃料電池や空気電池に用いることができる。該燃料電池の電解液としては、酸性溶液、アルカリ溶液、中性溶液、有機系溶媒のいかなる性質をもつ電解液も使用することができる。燃料電池の燃料としては特に制限されず、水素、メタノール又は水素化合物等を用いることができる。空気電池の場合も同様に電解液や負極活物質は特に限定されない。また、Liを含む物質を負極とするLi空気電池の空気極として利用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
まず、TiO
2(粒径:100nm、添川化学社製)を準備した。次に、Nb
2O
5(粒径:1μm、高純度化学研究所社製)、Ta
2O
5(粒径:10nm、高純度化学研究所社製)、ZrO
2(粒径:20nm、TECNAN社製)をそれぞれ準備した。次に、(1)TiO
2が80質量%、(2)ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5がそれぞれ20質量%となるように調合した後、ジルコニア製のボールを備えたフリッチュ社製PLP−7遊星型ボールミルプレミアムラインで3時間混合した。続いて、4%水素の窒素ガス雰囲気下(4%H
2/N
2)で、40時間、1050℃の焼成を行い、上記各混合物の還元処理を行い、酸素還元触媒を作製した。また、TiO
2のみを用いて、上記と同条件でボールミル及び焼成の各処理を行った。
【0043】
(粉末X線回折)
実施例で作製した各酸素還元触媒について、ボールミル後且つ熱処理前のもの(焼成前と表記)、及び、40時間で1050℃の焼成後のもの(40hと表記)について、それぞれ、XRD(Ultima IV X-RAY DIFFRACTION METER、Rigaku社製)を用いて粉末X線回折の測定を行った。測定結果を
図1に示す。粉末X線回折の測定により、(2)としてZrO
2を用いたものについてZrO
2-x構造を含む複合酸化物相が形成されていることが確認された。また、(2)としてNb
2O
5を用いたものについてNbO
2-x構造を含む酸化物相が形成されていることが確認された。また、(2)としてTa
2O
5を用いたものについてTaO
2-x構造を含む酸化物相が形成されていることが確認された。また、TiO
2のみを用いたものについてTiO
2-x構造を持つ酸化物相が形成されていることが確認された。
【0044】
(XPS測定)
実施例で作製した40時間で1050℃の焼成後の各酸素還元触媒について、XPS測定装置(アルバック−ファイ社、型式PHI Quantum−2000)にてXPS測定を行った。測定結果を
図3〜5に示す。
【0045】
(酸素還元能評価)
上記実施例で作製した各酸素還元触媒について、酸化物熱処理前のものと、40時間熱処理後のものとを、それぞれ10mg採取し、5質量%ナフィオン(登録商標)16.6μLと1−ヘキサノール溶液428.4μLの混合溶液に加えて、触媒インクを調製した。次に、触媒インクを超音波処理により分散した後、鏡面処理したグラッシーカーボン(GC、φ5.2mm、東海カーボン社製)に担体を含んだ触媒担体量0.15mgを目安に滴下し、60℃の恒温槽で乾燥して作用極とした。
【0046】
・酸素還元能評価試験1
次に、酸素還元能評価試験1として、電解質を0.1mol/dm
3のH
2SO
4とし、温度を30±5℃とし、窒素で飽和した三電極式セルを準備した。参照極を可逆水素電極(RHE)、対極をグラッシーカーボンプレートとした。前処理として酸素雰囲気でCyclic Voltammetry(CV)を走査速度150mV/s、0.05〜1.2Vvs.RHEの範囲で300サイクル行った。その後、Slow Scan Voltammetry (SSV)を走査速度5mV/s、0.2〜1.2Vvs.RHEの範囲で酸素、窒素雰囲気にてそれぞれ3サイクル行った。3サイクル目のSSVから得た酸素雰囲気の電流密度から窒素雰囲気でのバックグラウンドの電流密度を引いて酸素還元電流密度i
ORRを算出した。算出結果を用いて、
図2に、触媒の担体を含む単位質量当たりのORR(酸素還元反応)の電流と電位との関係を示す。
図2によれば、酸化物熱処理前の触媒では、元素の種類によらず、どれも同様に電流が流れなかった。また、焼成後のものは、いずれも0.9Vvs.RHEから既に酸素還元し始めており、活性が高いことがわかる。また、特にTiO
2+Nb
2O
5の組み合わせで作製した酸素還元触媒を用いたものが最も酸素還元能が高いことがわかった。
また、
図2によれば、熱処理を行うことで混合物全体に複合化が行われて、酸素空孔を有する遷移金属の酸化物が少なくとも導電性酸化物であるTi
4O
7の表面に生成していることがわかる。これは、酸素還元反応は触媒表面でしか起こり得ず、
図2のように触媒能を持つことそのものが、活性点(酸素空孔)が表面にあることを示しているためである。
さらに、
図3〜5によれば、各酸素還元触媒において、いずれの元素(Nb、Zr、Ta)も空孔のない酸化物(Nb
2O
5、ZrO
2、Ta
2O
5)よりもピークが低エネルギー側にシフトしており、還元状態にあることを示した。
【0047】
・酸素還元能評価試験2
上記実施例のうち、TiO
2とNb
2O
5とで作製した酸素還元触媒(
図2の(4)の酸素還元触媒)を用いて、上記酸素還元能評価試験1と同様の評価を2回行い(1st、2nd)、酸素還元電流密度i
ORRを算出した。算出結果を用いて、
図6に、触媒の担体を含む単位質量当たりのORR(酸素還元反応)の電流と電位との関係を示す。
図6によれば、TiO
2とNb
2O
5とで作製した酸素還元触媒を用いたときの開始電位が1.1Vとなり、Ptを酸素還元触媒として用いた場合(開始電位1.05V)に比べて良好な結果となった。
【0048】
・酸素還元能評価試験3
上記実施例のうち、TiO
2とNb
2O
5とで作製した酸素還元触媒(
図2の(4)の酸素還元触媒)について、起動停止試験を、電解質を0.1mol/dm
3のH
2SO
4とし、30℃(室温を想定)、試験電圧1.0〜1.5Vvs.RHE、電位走査速度500mV/sの三角波を用いて20000サイクル行った。次に、当該酸素還元触媒について、上記酸素還元能評価試験1と同様の評価を0サイクル、20000サイクル後のサンプルについてそれぞれ行い、酸素還元電流密度i
ORRを算出した。算出結果を用いて、
図7に、触媒の担体を含む単位質量当たりのORR(酸素還元反応)の電流と電位との関係を示す。
図7によれば、20000サイクル後であっても酸素還元触媒の酸素還元能が劣化していないことがわかる。
【0049】
・酸素還元能評価試験4
上記実施例のうち、TiO
2とNb
2O
5とで作製した酸素還元触媒(
図2の(4)の酸素還元触媒)について、起動停止試験を、電解質を0.1mol/dm
3のH
2SO
4とし、80℃(実際の燃料電池の操業条件を想定)、試験電圧1.0〜1.5Vvs.RHE、電位走査速度500mV/sの三角波を用いて20000サイクル行った。次に、当該酸素還元触媒について、上記酸素還元能評価試験1と同様の評価を0サイクル、3000サイクル、5000サイクル、10000サイクル、20000サイクル後のサンプルについてそれぞれ行い、酸素還元電流密度i
ORRを算出した。算出結果を用いて、
図8に、触媒の担体を含む各サイクルに対するORR(酸素還元反応)の電流と電気量との関係を示す。
図8によれば、活性は各サイクル後のサンプルでほぼ一定であり、電気量も各サイクル後のサンプル間でほとんど変わらないことがわかる。
【0050】
・酸素還元能評価試験5
上記実施例のうち、TiO
2とNb
2O
5とで作製した酸素還元触媒(
図2の(4)の酸素還元触媒)について、起動停止試験を、電解質を0.1mol/dm
3のH
2SO
4とし、80℃(実際の燃料電池の操業条件を想定)、試験電圧1.0〜1.5Vvs.RHE、電位走査速度500mV/sの三角波を用いて20000サイクル行った。次に、当該酸素還元触媒について、上記酸素還元能評価試験1と同様の評価を0サイクル、5000サイクル、10000サイクル、20000サイクル後のサンプルについてそれぞれ行い、酸素還元電流密度i
ORRを算出した。
図9に、触媒の担体を含む各サイクルにおける、0.7Vvs.RHEにおける0サイクル時の酸素還元電流密度に対する、各サイクル時の酸素還元電流密度の比の関係を示す。
図9によれば、0サイクル目の酸素還元電流密度(0.7Vvs.RHE)に対して、サイクルが増えても、実施例の酸素還元触媒の触媒能は劣化しないことがわかる。
【0051】
・酸素還元能評価試験6
上記実施例のうち、TiO
2とNb
2O
5とで作製した酸素還元触媒(
図2の(4)の酸素還元触媒)について、負荷応答試験を、電解質を0.1mol/dm
3のH
2SO
4とし、80℃(実際の燃料電池の操業条件を想定)、試験電圧0.6〜1.0Vvs.RHE、それぞれの電圧保持時間3秒の矩形波を用いて20000サイクル行った。次に、当該酸素還元触媒について、上記酸素還元能評価試験1と同様の評価を0サイクル、1000サイクル、2500サイクル、5000サイクル、10000サイクル、20000サイクル後のサンプルについてそれぞれ行い、酸素還元電流密度i
ORRを算出した。
図10に、触媒の担体を含む各サイクルに対する0.7Vvs.RHEにおける0サイクル時の酸素還元電流密度に対する、各サイクル時の酸素還元電流密度の比を示す。
図10によれば、0サイクル目の酸素還元電流密度(0.7Vvs.RHE)に対して、サイクルが増えても、実施例の酸素還元触媒の触媒能は劣化しないことがわかる。