(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570688
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】分子クラスタ化合物からの金属酸化物ナノ粒子の合成
(51)【国際特許分類】
C01G 9/02 20060101AFI20190826BHJP
C01B 13/18 20060101ALI20190826BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20190826BHJP
【FI】
C01G9/02 B
C01B13/18
B82Y30/00
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-55987(P2018-55987)
(22)【出願日】2018年3月23日
(62)【分割の表示】特願2016-542370(P2016-542370)の分割
【原出願日】2014年9月11日
(65)【公開番号】特開2018-135266(P2018-135266A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2018年4月16日
(31)【優先権主張番号】61/877,787
(32)【優先日】2013年9月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピケット,ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエルス,スティーブン マシュー
(72)【発明者】
【氏名】マサラ,オンブレッタ
(72)【発明者】
【氏名】グレスティ,ナタリー
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−505347(JP,A)
【文献】
特表2010−540709(JP,A)
【文献】
特開2009−173882(JP,A)
【文献】
FABIEN GRASSET; YANN MOLARD; STPHANE CORDIER; ET AL,WHEN METAL ATOM CLUSTERS MEET ZNO NANOCRYSTALS: A ((N-C4H9)4N)2MO6BR14@ZNO HYBRID,ADVANCED MATERIALS,2008年 5月 5日,VOL:20, NR:9,PAGE(S):1710 - 1715,URL,http://dx.doi.org/10.1002/adma.200701845
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
B82Y 30/00
C01B 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IIB族金属酸化物結晶コアと、
IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物と、
を含んでおり、
IIB族金属酸化物結晶コアは、IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物に配置されている、ナノ粒子。
【請求項2】
IIB族金属酸化物結晶コアに配置された半導体材料の1又は複数の層を更に含む、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
半導体材料は、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS、HgSe、HgTe、Zn3N2、Zn3P2、Zn3As2、Cd3N2、Cd3P2、Cd3As2、BN、BP、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、B4C、Al4C3、Ga4C、Al2S3、Al2Se3、Al2Te3、Ga2S3、Ga2Se3、Ga2Te3、In2S3、In2Se3、In2Te3、PbS、PbSe、PbTe、SnS、SnSe、SnTe、NiS、CrS、CuInS2、CuInSe2、AgInS2、又はそれらのドープされた材料からなる群から選択される、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
キャッピングリガンドを含む最外層を更に含んでおり、当該キャッピングリガンドは、ホスフィン、ホスフィンオキシド、アルキルホスホン酸、アルキルアミン、アリールアミン、ピリジン、チオール、長鎖脂肪酸及びチオフェンからなる群から選択される、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項5】
溶媒と、
複数のナノ粒子と、
を含んでおり、当該複数のナノ粒子の各々は、
IIB族金属酸化物結晶コアと、
IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物と、
を含んでおり、
IIB族金属酸化物結晶コアは、IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物上に配置されている、インク組成物。
【請求項6】
IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物のIIB族金属とIIB族金属酸化物結晶コアのIIB族金属は、同じである、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項7】
IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物のIIB族金属は、IIB族金属酸化物結晶コアのIIB族金属と同じではない、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項8】
ホスフィン、ホスフィンオキシド、アルキルホスホン酸、アルキルアミン、アリールアミン、ピリジン、チオール、長鎖脂肪酸及びチオフェンからなる群から選択されるキャッピングリガンドからなる最外層を更に含む、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項9】
IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物は、亜鉛オキシマト分子クラスタ化合物である、請求項5に記載のインク組成物。
【請求項10】
亜鉛オキシマト分子クラスタ化合物は、ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)である、請求項9に記載のインク組成物。
【請求項11】
IIB族金属オキシマト分子クラスタ化合物は、亜鉛オキシマト分子クラスタ化合物である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項12】
亜鉛オキシマト分子クラスタ化合物は、ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)である、請求項11に記載のナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物量子ドットの合成に関する。より具体的には、本発明は、II−VIクラスタ化合物を用いたIIB族酸化物量子ドットの合成に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物半導体については、例えば、電界効果トランジスタ(FET)及び透明導電酸化物(TCO)での使用に関連して、電子工業における技術的関心が増加している。特に、IIB族酸化物の利用は、例えば、レーザーダイオードで、透明導電酸化物として、フォトダイオードで、光起電力電池で、フォトトランジスタで、反射防止膜で、電池で見い出されている。
【0003】
IIB族酸化物の中でも、重金属フリーなZnOについては、その非毒性の性質から、民生品について重大な関心が持たれている。ZnOの正確なバンドギャップ(ある研究は、計算モデルに応じて3.10乃至3.26eVの範囲内の値であると報告しているが[F. Li, C. Liu, Z. Ma and L. Zhao, Optical Mater., 2012, 34, 1062]、別の研究は、異なる方法を用いて室温で3.28eVのバンドギャップを報告している[A.P. Roth, J.B. Webb and D.F. Williams, Solid State Commun., 1981, 39, 1269]。)については議論があるが、室温における広いバンドギャップと高い光学利得とは、光電子工学用途においてZnOを有望な材料にしている。更に、そのUV放射を吸収する能力は、日焼け止めのようなパーソナルケア用途で利用されてきた。
【0004】
量子ドット(QD)は、半導体材料の発光性ナノ粒子であり、その直径は、典型的には、1乃至20nmの範囲である。その光吸収及びフォトルミネッセンスは、その粒子サイズを操作することで調整できる。QDの独特な光学特性及び電子特性は、量子閉じ込め効果から生じる。QDの直径が減少すると、電子及び正孔の波動関数が量子を閉じ込めて、原子又は分子で観察されるものと同様な離散的なエネルギレベルを引き起こし、その結果、QD直径の減少によって半導体のバンドギャップは増加する。
【0005】
粒子サイズが減少すると、ZnOのようなQD材料は光学的に透明になって、幾つかの用途について利益をもたらす。例えば、日焼け止めに使用されている場合、ZnOのQDは、より大きなZnOナノ粒子と同じレベルのUV吸収をもたらすかも知れないが、白い残留物を肌に残さない。更に、QDの吸収係数が高いことで、微少量の材料で強い吸収が可能となる。
【0006】
ZnOナノ粒子を合成する方法は、幾つかの報告の主題とされており、プラズマ熱分解、焼結合成、沈降反応、クエン酸ゲル合成、及びゾルゲル処理などの手法が用いられている[S.C. Pillai, J.M. Kelly, R. Ramesh and D.E. McCormack, J. Mater. Chem. C, 2013, 1, 3268]。しかしながら、このような手法は大抵の場合、QD用途で必要とされる小さな粒子サイズ、及び/又は、狭いサイズ分布、及び/又は溶解性を有するナノ粒子を作ることはできない。
【0007】
QD形態でのZnOナノ粒子を製造することは、吸収を調節可能とし、フォトルミネセンス(PL)スペクトルが狭い放射特徴を与えるが、形態とサイズ分布が一様である粒子をもたらす方法を必要とする。1993年、Murrayらは、臨界温度を超えて温度が高い前駆体溶液に温度が低い前駆体溶液を注入して粒子成長を開始させることで、カドミウムカルコゲニドQDをコロイド合成することを報告した[C.B. Murray, D.J. Norris and M.G. Bawendi, J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 8706]。続いて溶液を急速に冷却することで、更なる核形成が抑制され、粒子成長が低温で起こる。この手法は、「ホットインジェクション」として知られており、ラボベンチスケールで行われる場合にてサイズ分布が狭い粒子をもたらし、所望の構造と光学特性を有するQD開発の最先端にあった。しかしながら、グラムスケール又はより大きいなスケールでの反応では、大量の溶液を別の溶液に急速に注入することで温度差が生じて、粒子サイズ分布が損なわれる。故に、商業的に拡張可能な合成手法を開発することに継続的な努力が注ぎ込まれている。インジェクションを用いない手法の例としては、Omataらは、加水分解とその後の亜鉛アルコキシドとベンジルアミン間の脱水縮合反応との組合せによる3乃至7nmのZnOのQDの合成を説明した[T. Omata, K. Takahashi, S. Hashimoto, Y. Maeda, K. Nose, S. Otsuka-Yao-Matsuo and K. Kanaori, J. Colloid Interf. Sci., 2011, 355, 274]。その方法は、(反応温度に応じて)吸収と放射が調節可能であり、小さくて、単分散であるナノ粒子を生じたが、ミリグラムスケールで行うことしかできないであろう。
【0008】
単一源前駆体(SSP)ナノ粒子の合成は、ナノ粒子に組み込まれる種のイオンを含む前駆体を熱分解することを含んでいる。SSPは、金属酸化物ナノ粒子を合成するのに使用されてきた。しかしながら、ZnOナノ粒子の場合、SSP法は、QD形態を超えた大きさのナノ粒子を生じる。更に、従来法の大半は、コロイド溶液中にZnOを形成するためにSSPを使用していないので、ナノ粒子は、大抵の場合キャッピングされておらず、故に、加工を容易とするために溶液に分散させることは容易ではない。例えば、Palve及びGarjeは、SSPであるZnCl
2(benzsczH)
2とZnCl
2(cinnamsczH)
2を、515℃の炉内で熱分解してZnOナノ粒子を合成することを説明している。ここで、(benzsczH)
2=ベンズアルデヒドセミカルバゾン(benzaldehyde semicarbazone)であり、(cinnamsczH)
2=シンナムアルデヒドセミカルバゾン(cinnamaldehyde semicarbazone)である[A.M. Palve and S.C. Garje, Synth. React. Inorg., Met.-Org., Nano-Met. Chem., 2010, 40, 153]。ナノ粒子の大きさは、X線回折(XRD)と透過型電子顕微鏡(TEM)で確認されたが、粒子は、QDよりも著しく大きく、短手軸に沿って50乃至100nm程度であり、ふぞろいな板状の形態を有していた。加えて、ナノ粒子は、キャッピングされておらず、それ故に、溶液を用いた処理方法に適用し難い。別の例では、亜鉛オキシマト(zinc oximato)クラスタ化合物が使用されて、ソフト化学(chimie douce)条件下でナノ結晶ZnOが形成された[J.J. Schneider, R.C. Hoffmann, J. Engstler, A. Dilfor, A. Klyszcz, E. Erdem, P. Jakes and R.A. Eichel, J. Mater. Chem., 2009, 19, 1449]。TEMは小さなグレインサイズ(10乃至15nm程度)を明らかにしたが、ZnOは、離散した粒子ではなく連続的な膜として形成された。
【0009】
量子ドットのオーダーの小さいナノ粒子は見つけられているものの、溶液を用いた商業的な堆積プロセスの要求を全く満たしていなかった。Buryらは、60℃のトルエンでSSP[(
tBuZnOH)
6]を分解して2nmのZnOナノ粒子を合成することを説明した[W. Bury, E. Krajewska, M. Dulkiewicz, K.Sokolowski, I. Justyniak, Z. Kaszkur, K.J. Kurzydlowski, T. Plocinski and J. Lewinski, Chem. Commun., 2011, 47, 5467]。しかしながら、ナノ粒子は、溶液から分離されず、熱を更に加えると成長及び凝集することが分かった。2乃至10nmのZnOナノ粒子は、150℃で亜鉛オキシマト錯体[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)([2-(methoxyimino)propanato]zinc(II))を分解して、多層カーボンナノチューブの表面に形成されている[J. Khanderi, R.C. Hoffmann, A. Gurlo and J.J. Schneider, J. Mater. Chem., 2009, 19, 5039]。しかしながら、その合成は、今までのところ、実験室外(ex situ)で報告されてはいない。
【0010】
コロイド溶液中のSSPを用いてZnOナノ粒子を合成する一例では、110乃至200℃の間の範囲の温度でトリオクチルアミンに、亜鉛ケト酸オキシメート/オクチルアミン(zinc ketoacidoximate/octylamine)をホットインジェクションすることで、3.9乃至7nmの量子ドットを成長させている[Y.S. Wang, J. Cryst. Growth, 2006, 291, 398]。同様に、Hambrockらは、SSPである[MeZnOSiMe
3]
4からの2乃至3nmのZnOナノ粒子のホットインジェクション合成を説明している[J. Hambrock, S. Rabe, K. Merz, A. Birkner, A. Wohlfart, R.A. Fisher and M. Driess, J. Mater. Chem., 2003, 13, 1731]。表面がキャッピングされており、溶液処理可能なナノ粒子が得られるにも拘わらず、それらのホットインジェクション合成は、商業的な大きさに拡大するのが困難である。
【0011】
その他のIIB族酸化物ナノ粒子の合成は、従来技術においてあまり報告されていない。CdOは、n型半導体であり、光電子デバイス、蛍光体、顔料、触媒、電池の電極としての利用が見いだされている。35nmの擬球形(pseudo-spherical)CdOナノ粒子は、植物(Achillea wilhelmsii)抽出物の存在下でCdCl
2水溶液をインキュベーションすることを含む、光合成法を用いて作製されている[J.K. Andeani and S. Moheenzadeh, J. Chem., 2013, 147613]。QDの形態では、約9nmのCdOナノ粒子が、マッフル炉にて900℃でCdO粉末を焼結して急冷法を行うことによって調製された[H.S. Virk and P. Sharma, J. Nano Res., 2010, 10, 69]。QDはキャッピングされていないので、乏しい溶解性を示す可能性が高い。CdOと同様に、HgOには、触媒、顔料及びバッテリ電極での用途が見いだされている。Edrissiらは、HgOナノ粒子を形成する2つの方法を説明した[M. Edrissi, M. Soleymani and S. Tajik, Mater. Technol., 2013, 28, 129]。第1の方法は、溶解度差法を含んでおり、HgCl
2とオレイン酸の存在下でMg(OH)
2をより溶け難いHg(OH)
2に変換し、それが分解して、反応条件下で3.0乃至7.4nmのHgOナノ粒子が形成された。第2の方法は、炉内でHg(DDTT)
2を熱分解して2.4乃至4.8nmの粒子をもたらす。最初の方法は、キャッピングされたナノ粒子を生成するが、サイズの分布は比較的大きく、これは、粒子の光学特性の均一性を乏しくすることに繋がる。後の方法では、ナノ粒子はキャッピングされておらず、溶解特性が乏しいと予想される。
【0012】
従って、溶解性が良好で、高い光学特性を実現し、単離可能なナノ粒子を与え、商業的規模に拡大できるIIB族酸化物ナノ粒子の合成方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0013】
本明細書では、IIB族酸化物ナノ粒子を形成する方法が説明されており、当該方法では、II−VI分子クラスタ化合物の存在下でコロイド反応溶液中にてナノ粒子が成長する。幾つかの実施形態では、分子クラスタ化合物が予め作製されてよい。或いは、分子クラスタ化合物は、インサイチューで生成されてよい。クラスタ化合物は、(i)成長するナノ粒子に組み込まれるIIB族金属及び酸素の両方のイオンを、(ii)IIB族金属又は酸素の何れか一方のイオンを、又は、(iii)酸素とIIB族金属の何れでもないイオンを含んでいてよい。記載された方法は、ZnO
2、CdO及びHgOナノ粒子、それらのドープされた種や合金種を合成するのに使用されてよい。
【0014】
調製手順中、IIB族金属及び酸素を含む1又は複数の前駆体が、コロイド反応溶液に加えられてよい。コロイド反応溶液は、キャッピング剤として働くリガンドと共にルイス塩基配位性溶媒又は非配位性溶媒を含んでよい。随意選択的に、活性化剤がコロイド反応溶液に加えられてよい。コロイド反応溶液は、第1温度で混合されて、その後、ナノ粒子成長を開始する第2温度又は温度範囲で加熱されてよい。コロイド反応溶液は、その後、高められた温度で維持されて、ナノ粒子成長がもたらされる。
【0015】
得られたナノ粒子は、分子クラスタ化合物に配置された金属酸化物半導体層を特徴とする。ナノ粒子の形状は限定されず、球状、棒状、円盤状、テトラポット状、星状又は弾丸状であって、直径は1乃至100nmの範囲であってよい。幾つかの実施形態では、ナノ粒子は量子ドット(QD)であって、直径は1乃至20nmの範囲、例えば、1乃至10nmである。
【0016】
上記の概要は、本発明における可能な実施形態の各々を又は全ての特徴を纏めることを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、亜鉛オキシマトクラスタの存在下でHDA中にて合成されたZnOナノ粒子(実施例1)のUV−可視光吸収とフォトルミネセンス(PL)のスペクトルを示す。
【0018】
【
図2】
図2は、亜鉛オキシマトクラスタの存在下でHDA中にて合成されたZnOナノ粒子(実施例1)の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示しており、QD形態のナノ粒子としてふさわしい、直径が<10nmである擬球形粒子を見せている。
【0019】
【
図3】
図3は、亜鉛オキシマトクラスタの存在下で酢酸亜鉛(II)及びオクタノール前駆体を用いてHDA/TOPO中にて合成されたZnOナノ粒子(実施例2)のUV−可視光吸収スペクトルを示す。
【0020】
【
図4】
図4は、亜鉛オキシマトクラスタの存在下で酢酸亜鉛(II)及びオクタノール前駆体を用いてHDA/TOPO中にて合成されたZnOナノ粒子(実施例3)のUV−可視光吸収スペクトルを示す。
【0021】
【
図5】
図5は、亜鉛オキシマトクラスタの存在下で酢酸亜鉛(II)及びオクタノール前駆体を用いてHDA/TOPO中にて合成されたZnOナノ粒子(実施例3)のX線回折パターンを示しており、紅亜鉛鉱相ZnOと合致している。注意:低角(2θ<30°)反射は、キャッピング剤に対応している。
【0022】
【
図6】
図6は、亜鉛オキシマトクラスタの存在下でHDA/TOPO中にて合成されたZnOナノ粒子(実施例4)のUV−可視光吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書に記載された方法は、シードとして働くII−VI分子クラスタの存在下でコロイド反応液中にて成長するIIB族金属酸化物ナノ粒子の合成に関する。ここで、分子クラスタは、3以上の金属原子及びそれらに関連するリガンドであって、十分に明確な化学構造を有しており、分子クラスタ化合物の全ての分子は、同じ相対分子式を有するものを意味していると理解されるべきである。故に、分子クラスタは、お互いに同一であって、分子式で表現できる。
【0024】
分子クラスタシーディング法は、許可されている米国特許第7,803,423号(その内容の全体は、引用を以て本明細書の一部となる)に記載されており、第1イオンと、第2イオンを含む前駆体化合物とを含む前駆体化合物を使用する。それらは、分子クラスタ化合物の集まりの存在下で反応してナノ粒子を形成する。分子クラスタ化合物は、ナノ粒子の成長が始まる「シード」、即ち核生成サイトをもたらす。分子クラスタが全て同じである(即ち、それらの化学式は全て同じである)ので、分子クラスタ化合物は、同じ核生成サイトの集まりをもたらす。核生成サイトの一致性は、得られるナノ粒子の高い単分散性をもたらす。分子クラスタシーディング法は、「ホットインジェクション」手法で要求されるような高温核生成工程の必要を回避する。クラスタは、ナノ粒子成長のテンプレートとして働く。分子シーディング法の主な利点は、容易に拡張して商業的な量のQDを生成できる一方で、高い単分散性と純度を維持することである。
【0025】
本明細書に記載されている分子シーディング法は、QDサイズの範囲(1乃至20nm)であって、量子閉じ込め効果を示すナノ粒子を合成するのに使用できる。故に、本明細書に記載されている方法は、電子デバイス用途に適しており、溶液処理可能なIIB族金属酸化物ナノ粒子を、比較的廉価で大規模に作製することを容易にする。本明細書に記載のように調製された金属酸化物ナノ粒子は、分子クラスタ化合物に配置された金属酸化物結晶コアを有する。
【0026】
幾つかの実施形態においては、分子クラスタ化合物及び結果として生じるナノ粒子の結晶相には適合性があって、その分子クラスタにてそのコアナノ粒子材料の成長が可能であるのが好ましい。
【0027】
幾つかの実施形態では、反応溶液に加えられる前に、分子クラスタ化合物が予め作製される。代替的な実施形態では、分子クラスタ化合物は、粒子成長をもたらすために前駆体を加える前にインサイチューで生成される。
【0028】
ナノ粒子の前駆体のナノ粒子材料への変換は、適切な任意の溶媒中で行われてよい。反応が分子シーディング経路を介して進む場合、クラスタ化合物の分子の完全性(integrity)を維持することが重要であることは理解されるであろう。従って、クラスタ化合物とナノ粒子前駆体とが溶媒に導入されると、溶媒の温度は、クラスタ化合物の十分な溶解と混合(それは望ましいが、存在している化合物が完全に溶解している必要はない)を確かとするために十分に高い必要があるが、溶液の温度は、クラスタ化合物の分子の完全性を阻害するほど高くてはならない。クラスタ分子と前駆体の組成物が十分に溶媒に溶解すると、そのように形成された溶液の温度は、ナノ粒子成長を開始させるほど十分に高い温度又は温度範囲まで上昇する。温度が上昇すると、更なる量の前駆体が、滴下によって或いは固体又は気体として反応に加えられてよい。溶液はその後、所望の特性を有するナノ粒子を形成するのに必要な期間、この温度又は温度範囲に維持されてよい。
【0029】
広範な適切な溶媒が利用できる。使用される特定の溶媒は通常、反応種の性質、即ち、ナノ粒子前駆体及び/又はクラスタ化合物の性質と、及び/又は、形成されるナノ粒子の種類とに少なくとも部分的には依存する。典型的な溶媒には、トリオクチルホスフィン(TOP)などのホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)などのホスフィンオキシド、ヘキサセシルアミン(HED)などのアミン、オクタチオールなどチオールのようなルイス塩基型の配位性溶媒、或いは、アルカン及びアルケン、ポリアクリル酸のような高分子電解質、ポリアリルアミンやジエチレングリコールなどの非配位性溶媒がある。非配位性溶媒が使用される場合、反応は通常、「キャッピング剤」として働く追加の配位剤(coordinating agent)の存在下で進行するであろう。
【0030】
ナノ粒子における最終的な無機表面原子の配位は、不完全であり、粒子の表面には、反応性が高く、完全に配位していない原子の「ダングリングボンド」があり、粒子の凝集を引き起こし得る。この問題は、保護有機基を用いて「ベア(bare)」な表面原子を不動態化(キャッピングする)ことで克服される。最外層(キャッピング剤)は更に、粒子の凝集を抑制することを助けて、周囲の化学的環境からの保護をもたらす。加えて、特定の溶媒についての溶解性を与えて、インク又はスラリーへのQDの処理可能性を促進する。インク又はスラリーは、インクジェット、スピンコーティング、スリットコーティング、ドクターブレードなど従来のプリント又はコーティング技術を用いて堆積できる。
【0031】
蛍光発光用途では、有機的にキャッピングされたコロイドQDコアのフォトルミネッセンス量子収率(QY)は一般的に低い。これは、表面欠陥とダングリングボンドによって励起子の再結合が起こることによる。サイズ調整可能なバンドギャップの制御を維持する一方で、QDの構造的及び電気的アーキテクチャを変更することは、バンドギャップが異なっている半導体材料の1又は複数の「シェル」層をナノ粒子の表面にエピタキシャル成長させることで達成できる。コア/シェル構造は、例えばCdO/ZnOのように、バンドギャップがより広い材料をコア表面に成長させることで達成される。シェル形成は、表面欠陥とダングリングボンドを除去し、チャージキャリアと周囲環境との間の相互作用を抑制することで、QYを顕著に改善して安定性を高める。安定性の更なる改善は、CdO/ZnSe/ZnOのようなコア/マルチシェル構造のようにシェル層を追加することで、ZnO/CdO/ZnOのような量子ドット−量子井戸構造によって、或いは、CdO/Cd
1−xZn
xSe
1−yO
yのようなコア/組成傾斜シェル(compositionally graded shell)構造によって達成可能である。
【0032】
随意選択的に、QD合成が活性化剤の存在下で進行して、分子クラスタの分解温度が下げられてよい。適切な活性化剤には、オクタノールのようなアルコール、HDAのようなアミンがあるが、これらに限定されない。反応の経過中、反応溶液からアリコートを取って、UV−可視光吸収及び/又はPLスペクトルを測定することで、粒子成長が監視されてよい。
【0033】
ナノ粒子の形状は、球状、棒状、円盤状、テトラポット状、星状又は弾丸状であってよいが、これらに限定されない。ナノ粒子の形状は、当業者に知られている任意の手段によって、例えば、反応リガンド及び/又は処理条件を変更することで制御できる。
【0034】
<方法の種類>
本発明の方法は、IIB族金属酸化物ナノ粒子:ZnO、CdO及びHgO、それらのドープされた種及び合金種の合成を述べるものである。ある実施形態では、金属酸化物(M
1O)ナノ粒子は、II−VIクラスタの存在下で成長し、ここで、II=M
1であり、VI=Oである。本明細書で使用されているように、II=M
1なる表現は、分子クラスタに含まれるMが、酸化物MOに含まれているものと同じMであることを意味している。非限定的な例では、ZnOナノ粒子は、ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)(diaquabis[2-(methoximino)propanato]zinc(II))、[Zn(OC(O)C(Me)N(OMe))
2]・2H
2Oのような、亜鉛と酸素を含むクラスタ化合物の存在下で成長する。
【0035】
第2の実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は、II−VIクラスタの存在下で成長し、ここで、II=M
1であり、VI≠Oである。非限定的な例では、CdOナノ粒子は、[Et
3NH]
4[Cd
10S
4(SPh)
16]のような、カドミウムと硫黄を含むクラスタ化合物の存在下で成長する。
【0036】
第3の実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は、II−VIクラスタの存在下で成長し、ここで、II≠M
1であり、VI=Oである。本明細書で使用されているように、II≠M
1なる表現は、分子クラスタに含まれるMが、酸化物MOに含まれているものと同じMではないことを意味している。非限定的な例では、CdOナノ粒子は、ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)(diaquabis[2-(methoximino)propanato]zinc(II))、[Zn(OC(O)C(Me)N(OMe))
2]・2H
2Oのような、亜鉛と酸素を含むクラスタ化合物の存在下で成長する。
【0037】
第4の実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は、II−VIクラスタの存在下で成長し、ここで、II≠M
1であり、VI≠Oである。非限定的な例では、HgOナノ粒子は、[Et
3NH]
4[Cd
10Se
4(SPh)
16]のような、カドミウムとセレンを含むクラスタ化合物の存在下で成長する。
【0038】
好ましい更なる実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は、第1乃至第4実施形態にて記載したII−VIクラスタの存在下で成長し、クラスタは、ドープされた又は合金のナノ粒子を形成する2以上のIIB族金属及び/又は2以上のカルコゲンのイオンを含んでいる。例としては、Zn
1−xCd
xOやZnO
1−yS
yがあるが、これらに限定されない。
【0039】
好ましい更なる実施形態では、金属酸化物ナノ粒子は、第1乃至第4実施形態にて記載したII−VIクラスタの存在下と追加の金属イオンの存在下とで成長し、ドープされた金属酸化物ナノ粒子が形成される。トーパント金属は、周期表のIIB族から選ばれてよいが、その他の任意の族から選ばれてもよい。ナノ粒子材料の例には、ZnO:Al及びCdO:Inがあるが、これらに限定されない。
【0040】
随意選択的に、半導体材料の1又は複数の層が、金属酸化物ナノ粒子の表面にエピタキシャル成長してシェルを形成して、表面欠陥とダングリングボンドを排除し、チャージキャリアと周囲環境との間の相互作用を抑制することで、蛍光QYを改善し安定性を高めてよい。シェル材料は大抵の場合、コア材料の格子タイプと同じものであろう。即ち、各シェル材料は、コアにエピタキシャル成長できるようにコア材料と適合する近い格子を有しているであろうが、シェル材料は、この適合性に必ずしも限定されない。コアに成長するシェルに使用される材料は、大抵の場合コア材料よりも広いバンドギャップを有しているが、この適合性を有する材料に必ずしも限定されない。適切なシェル材料には、以下のものがあるが、これらに限定されない。
【0041】
IIA−VIB(2−16)材料は、周期表の第2族の第1元素と周期表の第16族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTeがあるが、これらに限定されない。
【0042】
IIB−VIB(12−16)材料は、周期表の第12族の第1元素と周期表の第16族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS、HgSe、HgTeがあるが、これらに限定されない。
【0043】
II−V材料は、周期表の第12族の第1元素と周期表の第15族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、Zn
3N
2、Zn
3P
2、Zn
3As
2、Cd
3N
2、Cd
3P
2、Cd
3As
2があるが、これらに限定されない。
【0044】
III−V材料は、周期表の第13族の第1元素と周期表の第15族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、BN,BP,AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSbがあるが、これらに限定されない。
【0045】
III−IV材料は、周期表の第13族の第1元素と周期表の第14族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、B
4C、Al
4C
3、Ga
4Cがあるが、これらに限定されない。
【0046】
III−VI材料は、周期表の第13族の第1元素と周期表の第16族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、Al
2S
3、Al
2Se
3、Al
2Te
3、Ga
2S
3、Ga
2Se
3、Ga
2Te
3、In
2S
3、In
2Se
3、In
2Te
3があるが、これらに限定されない。
【0047】
IV−VI材料は、周期表の第14族の第1元素と周期表の第16族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、PbS、PbSe、PbTe、SnS、SnSe、SnTeがあるが、これらに限定されない。
【0048】
ナノ粒子材料は、周期表のdブロックの第1元素と周期表の第16族の第2元素とからなり、また、それらの三元材料、四元材料、ドープされた材料も含んでいる。ナノ粒子材料の例には、NiS、CrS、CuInS
2、CuInSe
2、AgInS
2があるが、これらに限定されない。
【0049】
好ましい実施形態では、ナノ粒子の最外表面は、「キャッピング剤」として知られている有機リガンドの層で覆われている。キャッピング剤は、ナノ粒子の表面を不動態化して、表面欠陥とダングリングボンドを排除し、溶解性をもたらして、ナノ粒子の溶液処理を容易にする。このようなキャッピング剤は、典型的にはルイス塩基であって、そのタイプの単座又は多座配位リガンドを含んでおり、ホスフィン(例えば、TOP、トリフェニルホスフィン、t−ブチルホスフィン)、ホスフィンオキシド(例えば、TOPO)、アルキルホスホン酸、アルキルアミン(例えば、HDA、オクチルアミン)、アリールアミン、ピリジン、チオール(例えば、オクタンチオール)、長鎖脂肪酸、及びチオフェンなどがあるが、オレイン酸や、ナノ粒子の周囲の保護シースを形成する有機高分子のような広範なその他の剤が使用できる。
【0050】
特に好ましい実施形態では、本明細書に記載された方法が使用されて、形状とサイズ分布が一様なナノ粒子が作製される。ナノ粒子の形状は、球状、棒状、円盤状、テトラポット状、星状又は弾丸状であってよいが、これらに限定されない。ナノ粒子の形状は、当業者に知られている任意の手段によって、例えば、反応条件又はリガンドを変更することで制御できる。好ましい実施形態では、(短手方向に沿った)ナノ粒子の直径は、1乃至100nmの範囲に、より好ましくは1乃至20nmの範囲に、最も好ましくは1乃至10nmの範囲にある。
【0051】
<調整方法の説明>
好ましい実施形態では、予め作製されたクラスタ化合物が高沸点溶媒と混合される。別の好ましい実施形態では、適切な前駆体が溶媒に加えられて、インサイチューで分子クラスタが形成される。反応溶液が非配位性である場合には、キャッピング剤が反応溶液に加えられる。幾つかの実施形態では、更なる金属前駆体及び酸化物前駆体が、別個の前駆体又は単一源の前駆体の何れかの形態として加えられる。金属及び酸化物前駆体に対する分子クラスタ材料のモル比は、適切な任意なものであってよい。好ましくは、モル比は、1:0(つまり、金属及び酸化物前駆体が存在しない)乃至1:10,000の範囲、より好ましくは1:0乃至1:1,000の範囲、最も好ましくは1:0乃至1:250の範囲にある。随意選択的に、活性化剤が反応溶液に加えられて、クラスタの分解温度が下げられる。
【0052】
反応物は、粒子成長が起こらない十分に低い第1温度で撹拌される。溶液はその後、一定の速さで第2温度に加熱され、第2温度にて粒子成長が開始する。適切な温度にて、更なる量の金属及び酸化物前駆体が加えられて、粒子成長を支援し、粒子がオストワルド成長で消費されることが抑制されてよい。所望の粒子サイズが得られると、反応は、溶液を冷却することで止められる。
【0053】
<分子クラスタ化合物>
調整方法は、II−VI分子クラスタ化合物の存在下でIIB族金属酸化物ナノ粒子を成長させることを含む。適切な分子クラスタ化合物の例とそれらの合成については、米国特許第7,803,423号に記載されており、当該特許の内容の全体は、引用を以て本明細書の一部となる。
【0054】
ある実施形態では、クラスタ化合物は、IIB族金属(M)イオンと酸素(O)イオンとを含んでおり、それらは、金属酸化物(MO)ナノ粒子に組み込まれる。
【0055】
別の実施形態では、クラスタ化合物は、金属酸化物(MO)ナノ粒子に組み込まれるIIB族金属(M)イオン又は酸素(O)イオンを含んでいるが、両方は組み込まれない。
【0056】
更なる実施形態では、クラスタ化合物は、金属酸化物(MO)ナノ粒子に組み込まれるIIB族金属(M)イオンと酸素(O)イオンのどちらも含んでいない。
【0057】
幾つかの実施形態では、II−VIクラスタは酸素を含んでいる。適切なクラスタ化合物の例には、オキシマトクラスタ、例えば、[Zn(OC(O)C(Me)N(OMe))
2]・2H
2Oがあるが、これに限定されない。
【0058】
他の実施形態では、II−VIクラスタは硫黄を含んでいる。適切なクラスタ化合物の例には、[Et
3NH]
4[Cd
10S
4(SPh)
16];[RMS
tBu]
5(R=Me,Et,Ph);[X]
4[S
4M
10(SR)
16](X=Me
3NH
+,Li
+,Et
3NH
+);[M
4(SPh)
12]
+[X]
2−(X=Me
4N
+,Li
+);[Zn(SEt)Et]
10;[MeMSiPr];[O(ClO
3)CdSR]
5(R=PPh
3,
iPr);[Cd
10S
4(EPh)
12(PR
3)
4](E=S,Se,Te)があるが、これらに限定されない。
【0059】
更なる実施形態では、II−VIクラスタはセレンを含んでいる。適切なクラスタ化合物の例には、[Me
3NH]
4[Cd
10Se
4(SPh)
16]、[Et
3NH]
4[Cd
10Se
4(SPh)
16];[RMSe
tBu]
5(R=Me,Et,Ph);[X]
4[Se
4M
10(SR)
16](X=Me
3NH
+,Li
+,Et
3NH
+);[Hg
10Se
4(SePh)(PPh
2nPr)
4];[Hg
32Se
14(SePh)
36];[Cd
10Se
4(SePh)
36(PPh
3)
4];[MeMSe
iPr];[Cd
10Se
4(EPh)
12(PR
3)
4](E=S,Se,Te);[Cd
8Se(SePh)
12C
l4]
2−;[Ph
12Se
18Cd
10(PEt
3)
3]があるが、これらに限定されない。
【0060】
更なる実施形態では、II−VIクラスタはテルルを含んでいる。適切なクラスタ化合物の例には、[Hg
4Te
12][N(CH
2CH
2Et)
4]
4;[RMTe
tBu]
5(R=Me,Et,Ph);[X]
4[Te
4M
10(SR)
16](X=Me
3NH
+,Li
+,Et
3NH
+);[MeMTe
iPr];[Cd
10Te
4(EPh)
12(PR
3)
4](E=S,Se,Te);[CdTe
12]
4−;[HgTe
12]
4−;[Ph
12Te
18Cd
10(PEt
3)
3]があるが、これらに限定されない。
【0061】
<金属源>
IIB族金属(M)前駆体は、有機金属化合物、無機塩、配位化合物、又は元素源を含んでよいが、これらに限定されない。例としては、ZnEt
2、CdMe
2、HgMe
2などの式MR
2(R=アルキル又はアリール)である有機金属化合物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩(M(NO
3)
2のような無機塩、アセチルアセトン(M(CH
3C(O)CHC(O)CH
3)
2)、シュウ酸塩(MC
2O
4)、水酸化物(MG(OH)
2)、メトキシ(M(OCH
3)
2、ステアレート(M(CH
3(CH
2)
15CH
2CO
2)
2)等の脂肪酸のような配位化合物、Zn、Cd、Hgのような元素源がある。
【0062】
<酸素源>
金属前駆体が酸素源としても働く場合(例えば、金属前駆体がステアリン酸金属のような脂肪酸である場合)、酸素を含む更なる前駆体は必要とされないだろう。IIB族金属前駆体が酸素を含んでいない場合、金属前駆体が酸素前駆体と共に加えられてよい。酸素前駆体としては、過酸化物、塩基、無機塩、配位化合物、アルコール、又は酸素元素がこれらに限定されない。より具体的例には、H
2O
2のような過酸化物、NaOH等の水酸化物のような塩基、Na
2Oのような無機塩、NO
2のような配位化合物、第一級アルコール、第二級アルコール又は第三級アルコールのようなアルコールがある。
【0063】
ナノ粒子が、IIB族金属合金酸化物を含有する材料がドープされたものである場合、1又は複数のクラスタ化合物を含む当業者に知られている適切な化合物によって、1又は複数のドーパント源が与えられてよい。ドーパント源は、固相、液相及び/又は気相にて反応溶液に加えられてよい。
【0064】
<溶媒>
適切な溶媒には、ホスフィン(例えばTOP)、ホスフィンオキシド(例えばTOPO)又はアミン(例えばHDA)のようなルイス塩基型の配位性溶媒、或いは、アルカン、アルケン(例えば1−オクタデセン)、又は伝熱流体(例えばサーミノール(登録商標)66)のような非配位性有機溶媒がある。
【0065】
ナノ粒子の成長が非配位性溶媒中で行われる場合、キャッピング剤が反応溶液に加えられてよい。このようなキャッピング剤は典型的には、典型的にはルイス塩基であって、そのタイプの単座又は多座配位リガンドを含んでおり、ホスフィン(例えば、TOP、トリフェニルホスフィン、t−ブチルホスフィン)、ホスフィンオキシド(例えば、TOPO)、アルキルホスホン酸、アルキルアミン(例えば、HDA、オクチルアミン)、アリールアミン、ピリジン、チオール(例えば、オクタンチオール)、長鎖脂肪酸、及びチオフェンなどがあるが、オレイン酸や、ナノ粒子の周囲の保護シースを形成する有機高分子のような広範なその他の剤が使用できる。
【0066】
QDの最外層(キャッピング剤)は、更なる官能基を有する配位リガンドで構成されてよい。当該官能基は、他の無機、有機又は生物由来物質との化学結合として使用されて、官能基は、QD表面から離れるように向いて、利用可能なその他の分子と結合/反応するのに利用できる。利用可能なその他の分子には、第一級及び/又は第二級アミン、アルコール、カルボキシル酸、アジド、ヒドロキシル基などがあるが、これらに限定されない。最外層(キャッピング剤)はまた、重合可能であって、粒子の周囲に高分子を形成するのに使用できる更なる官能基を有する配位リガンドを含んでよい。
【0067】
最外層(キャッピング剤)はまた、最外の無機層に直接結合している有機単位(organic unit)で構成されてよい。有機単位は、粒子の表面に結合していない官能基を有しており、当該官能基は、粒子の周囲に高分子を形成するために、或いは更なる反応に使用されてよい。
【0068】
<活性化剤>
随意選択的に、QD合成は活性化剤の存在下で進行して、分子クラスタ化合物の分解温度が下げられて、より低温でナノ粒子成長が促進される。当業者に知られた任意の活性化剤が使用されてよく、オクタノールのようなアルコール、HDAやオクチルアミンのようなアミンなどがあるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、活性化剤はHDAである。
【0069】
本発明の第1の態様では、金属酸化物ナノ粒子を形成する方法が提供される。当該方法は、分子クラスタ化合物の集まりの存在下で、金属及び酸素を含むナノ粒子前駆体を反応させる工程を含む。
【0070】
本発明の第1の態様による方法では、分子クラスタ化合物と金属酸化物ナノ粒子は、結晶相を同じくしてよい。分子クラスタ化合物は、インサイチューで作製されてよい。分子クラスタ化合物は、II−VI分子クラスタ化合物であってよい。分子クラスタ化合物と金属酸化物ナノ粒子前駆体の両方は、同じIIB族金属と酸素とを含んでよい。分子クラスタ化合物は、酸素を含んでいなくてよい。分子クラスタ化合物は、ナノ粒子前駆体の金属と同一のIIB族金属を含んでいなくてよい。クラスタ化合物は、オキシマトクラスタであってよい。金属酸化物ナノ粒子は、IIB族金属を含んでよい。金属酸化物ナノ粒子は、ZnO、CdO又はHgOを含んでよい。金属酸化物ナノ粒子は、分子クラスタ化合物の原子でドープされ、又は合金化されてよい。金属酸化物ナノ粒子は、分子クラスタ化合物にて成長してよい。金属酸化物ナノ粒子は、IIB族金属と酸素を含んでよい。IIB族金属及び酸素は、単一源前駆体として加えられてよい。本発明の第1態様による方法では、反応させる工程は、活性化剤の存在下でナノ粒子前駆体を反応させる工程を含んでよい。金属酸化物ナノ粒子は、量子ドットであってよい。
【0071】
本発明の第2の態様では、分子クラスタ化合物に配置された金属酸化物結晶コアを備えるナノ粒子がもたらされる。
【0072】
本発明の第2の態様では、分子クラスタ化合物と金属酸化物結晶コアは、結晶相を同じくしてよい。分子クラスタ化合物は、II−VI分子クラスタ化合物であってよい。分子クラスタ化合物と金属酸化物結晶コアの両方は、同じIIB族金属と酸素とを含んでよい。分子クラスタ化合物は、酸素を含んでいなくてもよい。分子クラスタ化合物は、金属酸化物結晶コアの金属と同一のIIB族金属を含んでいなくてもよい。
【実施例】
【0073】
II−VI分子クラスタの存在下でのIIB族金属酸化物ナノ粒子の合成が、以下の実施例で説明される。
【0074】
<ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)クラスタの調整>
この亜鉛クラスタを、ほぼ米国特許第7,588,828号に記載されたようにして調製した。当該特許は、引用を以て本明細書の一部となる。ピルビン酸ナトリウム(6.8g、62mmol)とメトキシルアミン塩酸塩(5.12g、61mmol)とを50mLの水に混合し、白色の濁った懸濁液を形成した。炭酸ナトリウム(3.2g、30mmol)を少しずつ加えると、ガスが放出した。ガスの放出が終わると、澄んだ溶液が残った。硝酸亜鉛六水和物(4.46g、15mmol)を加えて、溶液を24時間撹拌した。なお、最初の7時間については、溶液は5℃で冷たく維持された。遠心分離によって白い固体を収集し、アセトンで洗浄し、真空乾燥機で一晩乾燥させた。収量:1.12g。
【0075】
<実施例1:ヘキサデシルアミンでのZnOナノ粒子の合成>
HDA(10g、41mmol)を真空下で120℃で脱ガスした。ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)クラスタ(100mg、0.30mmol)を加えると、直ちに溶解して、澄んだ溶液が形成された。150℃に昇温して、30分間維持した。200℃に昇温して、30分間維持した後、溶液を室温に冷ました。白い固体の生成物を、メタノールで析出して、遠心分離で単離した。UV
absは、約355nmであり、PL
max=370nmであった(
図1)。透過型電子顕微鏡(TEM、
図2)像は、直径が<10nmである擬球形の粒子を示しており、それらは、量子ドット形態のナノ粒子に合致している。
【0076】
<実施例2:酢酸亜鉛及びオクタノール前駆体を用いた、ヘキサデシルアミン及びトリオクチルホスフィンオキシドでのZnOナノ粒子の合成>
HDA(7g、29mmol)及びTOPO(3g、7.8mmol)を真空下で1時間、110℃で脱ガスした。ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)クラスタ(100mg、0.30mmol)を加えて、溶液を200℃に加熱した。35分後、温度を75℃に下げて、溶液を2時間半アニールして、その後、一晩で室温に冷却した。溶液を80℃に再加熱し、酢酸亜鉛(II)(100mg、0.55mmol)を加えた。180℃に昇温して、30分間維持した。1−オクタノールの1−オクタデセン溶液(3.05M、2mL、6.1mmol)をゆっくり注入した。その添加を完了すると、温度を30分間維持し、その後、溶液を室温に冷ました。白い固体の生成物を、メタノールで析出して、遠心分離で単離した。UV
absは、約335nmであった(
図3)。
【0077】
<実施例3:酢酸亜鉛及びオクタノール前駆体を用いた、ヘキサデシルアミン及びトリオクチルホスフィンオキシドでのZnOナノ粒子の高濃度合成>
HDA(7g、29mmol)及びTOPO(3g、7.8mmol)を真空下で30分間、110℃で脱ガスした。70℃で、ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)クラスタ(200mg、0.60mmol)及び酢酸亜鉛(II)(200mg、1.1mmol)を加えて、引き続き、溶液を20分間で200℃に加熱した。1−オクタノール(1.7mL、13mmol)を液滴で、1分間を超えて注入した。添加が完了すると、温度を40分間維持し、その後、溶液を70℃に冷ました。白色/黄色の固体の生成物を、メタノールで析出して、遠心分離で単離した。UV
absは、約338nmであった(
図5)。X線回折(XRD)パターン(
図5)は、紅亜鉛鉱相ZnOナノ粒子と合致している。注意:低角(2θ<30°)反射は、キャッピング剤に対応している。
【0078】
<実施例4:ヘキサデシルアミン及びトリオクチルホスフィンオキシドでのZnOナノ粒子の合成>
HDA(7g、29mmol)及びTOPO(3g、7.8mmol)を真空下で30分間、110℃で脱ガスした。70℃で、ジアクアビス[2−(メトキシイミノ)プロパナト]亜鉛(II)クラスタを加えて、引き続いて、20分間で溶液を200℃に加熱した。温度を40分間維持し、その後、溶液を70℃に冷ました。白い固体の生成物を、メタノールで析出して、遠心分離で単離した。UV
absは、約335nmであった(
図6)。
【0079】
先の記載と好ましい及びその他の実施形態は説明を目的としており、出願人が思い付いた発明概念の範囲又は適用を限定又は制限することを意図したものではない。開示されている主題の任意の実施形態又は態様に基づいて上述した特徴は、開示されている主題のその他の任意の実施形態又は態様において、単独で、或いは、開示されているその他の特徴と共に用いられてよいことは、本発明の利益と共に理解されるであろう。
【0080】
本明細書に含まれている発明概念の開示と引き換えに、出願人は、添付の特許請求の範囲で与えられる特許の権利の全てを所望する。それ故に、添付の特許請求の範囲は、当該特許請求の範囲又はその均等物に含まれる完全な範囲で、全ての変更及び修正を含むと考えられる。