(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0034】
上述したように、積層型の蒸着マスクを製造する従来の方法によると、樹脂フィルムの開口部の周縁にバリが生成される場合がある。本発明者は、バリが生成される要因について検討を重ね、以下のような知見を得た。
【0035】
従来の方法では、
図26(c)および(d)を参照しながら説明したように、エタノールなどの液体88の表面張力によって樹脂フィルム81をガラス基板90に密着させた状態で、樹脂フィルム81の所定の領域(以下、「レーザ照射領域」と略する)にレーザ光Lを照射し、開口部89を形成する。本発明者が検討したところ、この方法では、樹脂フィルム81をガラス基板90に密着させる際に、ガラス基板90と樹脂フィルム81との界面に部分的に気泡が生じ、局所的に密着性が低くなるおそれがあることが分かった。さらに、本発明者は、樹脂フィルム81のあるレーザ照射領域の下方に気泡が存在していると、高い精度で開口部89を形成することが困難になるだけでなく、そのレーザ照射領域にバリが生成され易くなることを見出した。
図25を参照して詳しく説明する。
【0036】
図25(a)〜(d)は、ガラス基板90と樹脂フィルム81との間の気泡によってバリが生成される様子を説明するための模式的な断面図である。
図25では金属層および液体の図示を省略している。
【0037】
図25(a)に示すように、ガラス基板90などのサポート材上に、(例えば液体を介して)樹脂フィルム81を密着させる場合、ガラス基板90と樹脂フィルム81との間に部分的に隙間(気泡)94が生じ得る。この状態で、レーザアブレーション法により、樹脂フィルム81の加工(以下、単に「レーザ加工」と呼ぶことがある)を行うと、
図25(b)に示すように、樹脂フィルム81のうち気泡94上に位置する部分に、開口部を形成するためのレーザ照射領域92が配置される可能性がある。レーザ照射領域92には、例えば樹脂フィルム81の表面に焦点を合わせて、複数回のショットが行われる。
【0038】
レーザアブレーションは、固体の表面にレーザ光を照射したとき、レーザ光のエネルギーによって固体表面の構成物質が急激に放出される現象をいう。ここでは、放出される速度をアブレーション速度という。レーザ加工の際に、レーザ照射領域92において、エネルギーの分布に依存してアブレーション速度に分布が生じ、樹脂フィルム81の一部のみに先に貫通孔が形成される可能性がある。そうすると、
図25(c)に示すように、樹脂フィルム81のうち薄膜化された他の部分98は、樹脂フィルム81の裏側(すなわち、樹脂フィルム81とガラス基板90との間にある気泡94内)に折り返されてしまい、それ以上レーザ光Lで照射されなくなる。この結果、薄膜化された部分98が除去されずに残された状態で、開口部89が形成されてしまう。本明細書では、樹脂フィルム81のうち薄膜化された状態で残された部分98を「バリ」と呼ぶ。
【0039】
バリ98が樹脂フィルム81の裏面側に突出していると、蒸着マスクを蒸着対象基板に設置するときに、蒸着マスクの一部が蒸着対象基板から浮いてしまうことがある。このため、開口部89に対応した形状の蒸着パターンが得られない可能性がある。
【0040】
なお、レーザ加工後に樹脂フィルム81のバリ98を取り除く処理(バリ取り工程)が行われることもある。例えば樹脂フィルム81の裏面を拭き取ること(ワイピング)が試みられている。しかしながら、バリ取り工程によって、樹脂フィルム81に生じたバリ98を全て取り除くことは難しい。また、
図25(d)に例示するように、ワイピングによって、一部のバリ98が開口部89の内部に突出するように戻され、蒸着工程でシャドウイングを引き起こす可能性もある。
【0041】
本発明者は、上記知見に基づいて、サポート材に支持された樹脂層に、バリの発生を抑制しつつ、所望のサイズの開口部を高い精度で形成し得る新規な方法を見出し、本願発明に想到した。
【0042】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0043】
(第1の実施形態)
<蒸着マスクの構造>
図1(a)および(b)を参照しながら、本発明の第1の実施形態による蒸着マスク100を説明する。
図1(a)および(b)は、それぞれ蒸着マスク100を模式的に示す平面図および断面図である。
図1(b)は、
図1(a)中のA−A線に沿った断面を示している。なお、
図1は、蒸着マスク100の一例を模式的に示すものであり、各構成要素のサイズ、個数、配置関係、長さの比率などは図示する例に限定されないことはいうまでもない。後述する他の図面でも同様である。
【0044】
蒸着マスク100は、
図1(a)および(b)に示すように、樹脂層10と、樹脂層10の主面上に設けられた磁性金属層(以下、単に「金属層」と略する)20とを備える。つまり、蒸着マスク100は、樹脂層10と金属層20とが積層された構造を有する。
【0045】
金属層20は、マスク部20aと、マスク部20aを包囲するように配置された周辺部20bとを有している。マスク部20aは、金属膜が存在している中実部20a
(1)と、金属膜が存在していない非中実部20a
(2)とを含む。樹脂層10は、マスク部20aの非中実部20a
(2)に配置された複数の開口部13を有している。以下では、樹脂層10および金属層20を含む積層体30を「マスク体」と呼ぶことがある。マスク体30の周縁部には、フレーム40が設けられている。
【0046】
後述するように、蒸着マスク100を用いて蒸着工程を行う際、蒸着マスク100は、金属層20が蒸着源側、樹脂層10がワーク(蒸着対象物)側に位置するように配置される。金属層20は磁性体であるので、磁気チャックを用いることにより、蒸着工程において蒸着マスク100をワーク上に簡便に保持および固定することができる。
【0047】
以下、樹脂層10、金属層20およびフレーム40のそれぞれについて、より詳細に説明する。
【0048】
樹脂層10には複数の開口部13が形成されている。複数の開口部13は、ワークに形成されるべき蒸着パターンに対応したサイズ、形状および位置に形成されている。
図1に示している例では、複数の開口部13は、樹脂層10のうちフレーム40と重ならない領域に、マトリクス状に配置されている。
【0049】
後述するように、樹脂層10は、ガラス基板などの支持基板上に、樹脂材料を含む溶液(例えば可溶型ポリイミド溶液)または樹脂材料の前駆体を含む溶液(例えばポリイミド前駆体溶液)を付与し、熱処理を行うことによって形成された層である。ここでいう熱処理は、可溶型ポリイミド溶液を用いる場合には乾燥工程(例えば100℃以上)、ポリイミド前駆体溶液を用いる場合には乾燥および焼成工程(例えば300℃以上)を行うための熱処理を含む。
【0050】
また、本実施形態では、複数の開口部13は、支持基板上で樹脂層10に対してレーザ加工を行うことによって形成されている。支持基板と樹脂層10とは密着されており、両者の間には気泡が存在していない(あるいはほとんど存在していない)ため、樹脂層10のレーザ加工工程においてバリの発生が抑制される。従って、本実施形態の樹脂層10は、バリをほとんど有していない。あるいは、バリを有しているとしても、その数(単位面積当たりの個数)は従来よりも大幅に低減されている。
【0051】
さらに、本実施形態では、樹脂層10は、フレーム40から層面内方向の張力を受けていない。従来の製造方法では、樹脂フィルム(または樹脂フィルムと金属膜との積層膜)を架張機等によって、特定の層面内方向に引っ張った状態でフレームに固定される(以下、「架張工程」と呼ぶ)。この場合、フレームに固定された樹脂フィルムは、室温では、架張工程で付与された張力をフレームから受けることになる。これに対し、本実施形態では、後述するように、外部から樹脂層10に層面内方向の張力を付与しない状態で、フレーム40の取付け工程を行う。このため、樹脂層10は、フレーム40から層面内方向の張力を受けていない。なお、本明細書では、「フレーム40から層面内方向の張力を受けている」とは、架張工程で付与された張力(例えば10N以上200N以下、単位断面積あたりの張力0.1N/mm
2以上30N/mm
2以下)を受けていることを指すものとする。つまり、架張工程を行わずに製造された蒸着マスクにおいて、フレームと樹脂層との線熱膨張率の違いによって、(熱応力に由来する)張力が樹脂層にかかる場合を含まない。
【0052】
樹脂層10の材料としては、例えばポリイミドを好適に用いることができる。ポリイミドは、強度、耐薬品性および耐熱性に優れる。樹脂層10の材料として、ポリパラキシレン、ビスマレイミド、シリカハイブリッドポリイミドなどの他の樹脂材料を用いてもよい。樹脂層10を形成している樹脂膜の線熱膨張係数αR(ppm/℃)は、蒸着対象となる基板の線熱膨張係数と同程度であることが好ましい。このような樹脂層10は、樹脂材料、焼成条件などの形成条件などによって形成され得る。樹脂層10の形成方法については後述する。
【0053】
樹脂層10の厚さは、特に限定されない。ただし、樹脂層10が厚すぎると、蒸着膜の一部が所望の厚さよりも薄く形成されてしまうことがある(「シャドウイング」と呼ばれる)。シャドウイングの発生を抑制する観点からは、樹脂層10の厚さは、25μm以下であることが好ましい。また、3μm以上であれば、支持基板上に付与された樹脂材料(またはその前駆体)を含む溶液に対して熱処理を行うことによって、より均一な厚さの樹脂層10を形成できる。また、樹脂層10自体の強度および洗浄耐性の観点からも、樹脂層10の厚さは3μm以上であることが好ましい。
【0054】
金属層20は、前述したように、マスク部20aと、マスク部20aを包囲するように配置された周辺部20bとを有している。本実施形態では、周辺部20bはフレーム40と重なる部分であり、マスク部20aはフレーム40と重ならない(フレーム40の内部に位置する)部分である。周辺部20bには、例えばスポット溶接などによってフレーム40が固定されている。
【0055】
図1に示す例では、マスク部20aの中実部(金属膜が存在している部分)20a
(1)は、離散的に配置された複数の島状部24を含んでいる。複数の島状部24の間、および島状部24と周辺部20bとの間には金属膜が存在しておらず、非中実部20a
(2)となる。金属層20の非中実部20a
(2)には樹脂層10が露出している。樹脂層10の露出した部分に、複数の開口部13が配置されている。
【0056】
この例では、蒸着マスク100の法線方向から見たとき、各開口部13は複数の島状部24の間に配置されている。すなわち、島状部24と開口部13とは重なっていない。複数の島状部24の個数、配置方法などは特に限定されないが、例えば、1つまたは複数の開口部13を包囲するように、所定のピッチで配置されていてもよい。開口部13の配列ピッチと、島状部24の配列ピッチとは同程度であってもよい。
【0057】
金属層20の材料としては、種々の磁性金属材料を用いることができる。例えばNi、Cr、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などの線熱膨張係数αMの比較的大きい材料を用いてもよいし、例えばFe−Ni系合金(インバー)、Fe−Ni−Co系合金など線熱膨張係数αMの比較的小さい材料を用いてもよい。
【0058】
なお、特許文献1に開示されているような従来の蒸着マスクでは、金属層のスリットのサイズはできるだけ小さくなるように設計されており、マスク部に占める中実部の面積率は比較的高い(特許文献1の
図1では70%超)。このため、金属層の材料として、線熱膨張係数αMの小さい材料(例えばαM:6ppm/℃未満)が用いられていた。蒸着工程での蒸着マスクの形状安定性を確保するためである。これに対し、本実施形態では、従来は使用できなかった線熱膨張係数αMの高い金属を用いることも可能である。
図1に示す金属層20は、離散的に配置された島状部24を含む島状構造を有しているので、線熱膨張係数αMの高い金属材料を用いた場合でも、樹脂層10と金属層20との間に発生する熱応力を低減できる。また、島状部24の面積率を抑えることにより、そのような熱応力をさらに小さくできる。従って、線熱膨張係数αMに関わらず種々の金属材料を用いることが可能になり、金属材料の選択の自由度を高めることができる。
【0059】
金属材料の線熱膨張係数αMが、蒸着対象となる基板の線熱膨張係数αWおよび樹脂層10の樹脂膜の線熱膨張係数αR(αRはαWと略等しくなるように設定されている)よりも大きい場合、蒸着温度によっては、これらの熱膨張係数の差に起因して生じる熱応力によって樹脂層10が変形し、位置ずれが生じるおそれがある。なお、ここでいう「位置ずれ」は、熱応力による樹脂層10の変形によって、開口部13の形状が変形したり、開口部13の位置が蒸着パターンを形成すべき位置からずれたりすることを指す。このため、樹脂層10の変形による位置ずれが生じないように、マスク部20aに占める中実部(ここでは島状部24)20a
(1)の面積率SMを調整することが好ましい。すなわち、金属層20を法線方向からみたとき、マスク部20a内における、複数の島状部24が占める面積の割合をSM(%)とすると、αM×SMの値がαRとほぼ等しくなるようにSMを調整することが好ましい。具体的には、αM・SM/αRが例えば0.90以上1.10以下になるように調整される。例えば蒸着対象となる基板および樹脂層10の線熱膨張係数αRが4ppm/℃であり、金属材料として線熱膨張係数αMが14ppm/℃のNiを用いる場合には、SMは30%程度に設定され得る。
【0060】
中実部20a
(1)の面積率SMは50%以下であってもよい。これにより、蒸着工程において、金属層20と樹脂層10との熱膨張の差によって樹脂層10にかかる熱応力を小さくできるので、より効果的に開口部13の位置ずれを抑制できる。なお、SMが50%以下であっても、島状部24のサイズ、個数および配置方法を調整することにより、蒸着工程において蒸着マスク100をワーク上に保持および固定する機能を十分確保できる。
【0061】
金属層20は、樹脂層10上に形成されためっき層であってもよいし、金属箔であってもよい。
【0062】
金属層20の厚さdは、特に限定されない。ただし、金属層20が薄すぎると、磁気チャックの磁界から受ける被吸着力が小さくなり、蒸着工程において、蒸着マスク100をワーク上に保持することが困難になることがある。このため、金属層20の厚さは5μm以上であることが好ましい。一方、島状部24を含む金属層20をより容易に形成するためには、金属層20は例えば20μm以下、好ましくは10μm以下であってもよい。蒸着工程におけるシャドウイングを抑制する観点からも、金属層20の厚さdは20μm以下であることが好ましい。
【0063】
島状部24の幅wと島状部24の高さ(すなわち金属層20の厚さd)との比w/dは、1未満であることが好ましく、より好ましくは1/2以下である。特にαM>αRの場合には、島状部24の幅wを島状部24の高さd未満に抑えることにより、蒸着マスク100を保持するための被吸着力を確保しつつ、金属材料と蒸着対象基板との熱膨張の違いによる開口部13の位置ずれをより効果的に抑制できる。この観点から、島状部24の幅wは例えば5μm以上10μm以下であってもよい。
【0064】
島状部24は、角柱、円柱などの柱状であってもよい。あるいは、島状部24はテーパ形状を有していてもよく、例えば円錐台であってもよい。複数の島状部24は、形状、サイズなどの異なる複数種類の島状部を含んでいてもよい。例えば、島状部24の幅を、開口部13近傍で小さく、フレーム40近傍で大きくしてもよい。
【0065】
フレーム40は、例えば磁性金属から形成されている。あるいは、金属以外の材料、例えば樹脂(プラスチック)で形成されていてもよい。従来の蒸着マスクでは、架張工程によってフレームに固定された積層膜(樹脂膜および金属膜)からの張力でフレームが変形・破断しないように、フレームには適度な剛性が求められていた。このため、例えば厚さ20mmのインバーからなるフレームが使用されていた。これに対し、本実施形態では、樹脂層10および金属層20に張力をかけずに(架張工程を行わずに)フレーム40の取り付けを行うので、フレーム40には架張工程に起因する張力がかからない。従って、従来よりも剛性の小さいフレーム40を用いることも可能であり、フレーム40の材料の選択の自由度が高い。また、フレーム40を従来よりも薄くすることも可能である。従来よりも薄いフレームまたは樹脂製のフレームを用いると、軽量でハンドリング性に優れた蒸着マスク100が得られる。
【0066】
<蒸着マスクの他の構造例>
本実施形態の金属層20は、中実部20a
(1)および非中実部20a
(2)を含むマスク部20aと、マスク部20aを包囲するように配置された周辺部20bとを有していればよく、
図1に示すような島状構造を有していなくてもよい。
【0067】
以下、
図2〜
図9を参照しながら、本実施形態による蒸着マスクの他の例を説明する。
図2〜
図9において、
図1と同様の構成要素には同じ参照符号を付している。以下の説明では、蒸着マスク100と異なる点のみを説明する。
【0068】
図2(a)および(b)は、それぞれ、本実施形態の他の蒸着マスク200を模式的に示す断面図および平面図である。
図2(b)は、
図2(a)中のA−A線に沿った断面を示している。
【0069】
蒸着マスク200では、金属層20は、フレーム40が固定される周辺部20bと、複数のスリット(開口部)23を有するマスク部20aとを有している。すなわち、マスク部20aの非中実部20a
(2)は複数のスリット23である。マスク部20aの中実部20a
(1)と周辺部20bとは分離しておらず、一体的に形成されている。
図2に示す例では、列方向に延びるスリット23が行方向に複数並んでいる。蒸着マスク200の法線方向から見たとき、各スリット23は、樹脂層10の各開口部13よりも大きなサイズを有しており、各スリット23内に2以上の開口部13(
図2中に例示している個数に限定されないのはいうまでもない)が位置している。
【0070】
図3(a)および(b)は、それぞれ、本実施形態の他の蒸着マスク300を模式的に示す断面図および平面図である。
図3(b)は、
図3(a)中のA−A線に沿った断面を示している。
【0071】
蒸着マスク300では、金属層20は、フレーム40が固定される周辺部20bと、開口25が形成されたマスク部20aとを有している。すなわち、マスク部20aの非中実部20a
(2)は開口25である。開口25内には、例えば1つのデバイス(例えば有機ELディスプレイ)の形成に用いられる複数の開口部13が位置している。中実部20a
(1)は、複数の開口部13の周囲にのみ額縁状に形成されている。また、中実部20a
(1)と周辺部20bとは一体的に形成されている。
【0072】
図4(a)および(b)は、それぞれ、本実施形態の他の蒸着マスク400を模式的に示す断面図および平面図である。
図4(b)は、
図4(a)中のA−A線に沿った断面を示している。
【0073】
蒸着マスク400では、金属層20は、フレーム40が固定される周辺部20bと、複数の貫通孔(開口部)27を有するマスク部20aとを有している。すなわち、マスク部20aの非中実部20a
(2)は複数の貫通孔27である。
図4に示す例では、貫通孔27はマトリクス状に配列されており、各貫通孔27は、樹脂層10の各開口部13よりも大きなサイズを有している。各貫通孔27内には1つずつ開口部13が位置している。マスク部20aの中実部20a
(1)は格子状であり、周辺部20bとは一体的に形成されている。
【0074】
蒸着マスク200、300、400では、金属層20の中実部20a
(1)は、マスク部20aの幅全体に亘って延び、周辺部20bに接続されている。このため、蒸着工程において、金属層20の熱膨張による開口部13の位置ずれを抑制する観点からは、金属層20の材料として線熱膨張係数αMの比較的小さい材料(例えばαM:6ppm/℃未満)を用いることが好ましい。線熱膨張係数αMの小さい金属材料を用いる場合には、金属層20の中実部20a
(1)は、マスク部20aの面積全体の1/2超を占めていてもよい(SM>50%)。線熱膨張係数αMは例えば蒸着対象基板の線熱膨張係数または樹脂層10の樹脂膜の線熱膨張係数αRと同程度であってもよい。なお、蒸着工程における温度上昇が小さい(例えば3℃未満)場合、および/または蒸着工程で生じる位置ずれ量を考慮して金属層20および樹脂層10の設計を行う場合には、Niなどの前述した線熱膨張係数αMの比較的大きい材料を用いることも可能である。
【0075】
また、蒸着マスク200において、金属層20の中実部20a
(1)のうち、隣接する2つのスリット23の間に位置する部分の幅(面積)は、蒸着工程におけるシャドウイングを抑制し得る範囲内に設定されることが好ましい。詳細は後述する。
【0076】
本実施形態の蒸着マスクにおける金属層20の構造は、
図1〜
図4に示す例に限定されない。
図5(a)および(b)は、それぞれ、金属層20の他の例を示す平面図である。図示するように、金属層20のマスク部20aは、スリット23または開口25と、スリット23または開口25の内側に配置された島状部24との両方を有していてもよい。
【0077】
本実施形態の蒸着マスクは、1つのデバイス(例えば有機ELディスプレイ)に対応する単位領域Uが二次元的に配列された構造を有していてもよい。このような構造を有する蒸着マスクは、1つの蒸着対象基板上に、複数のデバイスを形成するために好適に使用され得る。
【0078】
図6〜
図9は、それぞれ、本実施形態のさらに他の蒸着マスク101、201、301、401を例示する平面図である。これらの蒸着マスクは、法線方向から見たとき、間隔を空けて配列された複数(ここでは6つ)の単位領域Uを有している。各単位領域Uにおいて、樹脂層10は複数の開口部13を有しており、金属層20のマスク部20aは、それぞれ、蒸着マスク100、200、300、400(
図1〜
図4)のマスク部20aと同様の形状を有している。図示していないが、金属層の周辺部20b上に、これらの単位領域Uを包囲するようにフレームが設けられる。なお、単位領域Uの数および配列方法、各単位領域U内の開口部13の個数および配列方法などは、製造しようとするデバイスの構成によって決まり、図示する例に限定されない。
【0079】
<蒸着マスクの製造方法>
図10〜
図16を参照しながら、蒸着マスク101の製造方法を例に、本実施形態の蒸着マスクの製造方法を説明する。
図10〜
図16の(a)および(b)は、それぞれ、蒸着マスク101の製造方法の一例を示す工程平面図および工程断面図である。
【0080】
まず、
図10に示すように、支持基板60を用意し、支持基板60上に樹脂層10を形成する。支持基板60として、例えばガラス基板が好適に用いられ得る。ガラス基板のサイズおよび厚さは特に限定されない。ここでは、620mm×375mmのサイズを有し、厚さが0.5mmのガラス基板を用いる。
【0081】
樹脂層10は次のようにして形成される。まず、支持基板60上に、樹脂材料の前駆体を含む溶液(例えばポリイミド前駆体溶液)または樹脂材料を含む溶液(例えば可溶型ポリイミド溶液)を付与する。溶液の付与方法としては、スピンコート法、スリットコーター法などの公知の方法を用いることができる。ここでは、樹脂材料としてポリイミドを用い、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を含む溶液(ポリイミド前駆体溶液)をスピンコート法で支持基板60上に塗布する。続いて、乾燥および焼成を行うことにより、樹脂層10としてポリイミド層を形成する。焼成温度は300℃以上、例えば400℃以上500℃以下に設定され得る。焼成条件は、樹脂膜の線熱膨張係数αRが蒸着対象となる基板の線熱膨張係数αW(例えば3〜5ppm/℃)と同程度になるように調整されることが好ましい。
【0082】
焼成温度が450℃である場合、樹脂膜の線熱膨張係数αRを、蒸着対象となる基板の線熱膨張係数αWと同程度に小さく抑えるための温度プロファイルは、例えば下記(1)〜(3)の少なくとも1つを満たすように設定されてもよい。
(1)最初に500℃近くまで温度を上昇させて約10〜60分間放置し、その後、450℃で焼成する。
(2)450℃程度で焼成した後に、さらに30分以上その温度を維持する。
(3)温度上昇の大きなステップ(温度を大幅に上げて、その温度を長い時間維持するステップ)を含む温度プロファイルを用いる。この温度プロファイルの一例として、支持基板60が設置されたチャンバー内の温度を、5〜120分ごとに10〜200℃ずつ段階的に所定の焼成温度まで上昇させるプロファイルが挙げられる。
【0083】
ポリイミド前駆体溶液の代わりに、溶媒可溶型のポリイミド(重合体)を含む溶液(可溶型ポリイミド溶液)を支持基板60上に塗布し、乾燥させることによって樹脂層10を形成してもよい。乾燥温度は、溶媒の沸点によって適宜選択され、特に限定しないが、例えば100℃〜320℃、好適には120℃〜250℃である。乾燥時間は1秒〜360分程度である。
【0084】
続いて、樹脂層10上に導電性金属膜21を形成する。導電性金属膜21は、蒸着、スパッタ法、無電解めっきなどの公知の方法で形成される。導電性金属膜21は導電性を有する膜であればよく、Cu膜、Al膜、Ti膜などを用いることができる。導電性金属膜21は、後述する金属層を電解めっき法で形成する際のシード層として機能すればよく、金属層よりも十分薄くてよい(例えば金属層の厚さの1/10以下)。ここでは、導電性金属膜21として、Cu膜(厚さ0.1μm)を形成する。
【0085】
次に、
図11に示すように、導電性金属膜21上にフォトレジスト膜を形成し、露光および現像を行うことによってフォトレジスト膜のパターニングを行い、マスク部20a(
図1)の非中実部に対応する形状を有するレジスト層70を得る。本実施形態では、レジスト層70は、複数の島状部24(
図1)に対応する複数の開口71を有する。これにより、導電性金属膜21の一部(レジスト層70の周囲および開口71内に位置する部分)がレジスト層70によって露出される。
【0086】
続いて、
図12に示すように、レジスト層70の周囲および開口71内に、導電性金属膜21を電極とする電解めっき法により、主金属膜22を形成する。主金属膜22の材料および厚さは、前述した金属層20の材料および厚さと同じであってもよい。ここでは、主金属膜22としてNi層(厚さ10μm)を形成する。
【0087】
なお、導電性金属膜21を形成しなくてもよい。この場合、樹脂層10上にレジスト層70を形成した後、樹脂層10のうちレジスト層70によって露出した部分上に、無電解めっき法により金属層20(ここではNi層)を形成することができる。
【0088】
続いて、
図13に示すように、レジスト層70を剥離し、その後、導電性金属膜21のうち主金属膜22で覆われていない部分をエッチングにより除去する。導電性金属膜21のエッチングは、導電性金属膜21の金属を腐食し、主金属膜22の金属を腐食しない(例えばエッチレート比が100:1以上)エッチング液を用いて行う。ここでは、エッチング液として、和光純薬工業のCuE−3000Mを用いる。これにより、導電性金属膜21および主金属膜22からなり、樹脂層10の一部を露出する金属層20が形成される。金属層20は、周辺部20bと、複数の島状部24とを有する。樹脂層10のうち周辺部20bの内部に位置し、かつ、島状部24と接していない部分が露出する。
【0089】
なお、この例では、金属層20は、主金属膜22と導電性金属膜21との積層構造を有する。しかしながら、導電性金属膜21は主金属膜22よりも十分に薄いため、島状部24の面積率SMを算出する際には、金属材料の線熱膨張係数αMとして、主金属膜22の材料の線熱膨張係数を用いればよい。
【0090】
次に、
図14に示すように、例えばレーザアブレーション法により、樹脂層10のうち金属層20から露出した部分に複数の開口部13を形成する(レーザ加工工程)。このようにして、金属層20および樹脂層10を含むマスク体30を得る。
【0091】
樹脂層10のレーザ加工には、パルスレーザを用いる。ここでは、YAGレーザを用い、波長が355nm(3倍波)のレーザ光L1を樹脂層10の所定の領域に照射する。レーザ光L1のエネルギー密度は例えば0.36J/cm
2に設定される。前述したように、樹脂層10のレーザ加工は、樹脂層10の表面にレーザ光L1の焦点を合わせて、複数回のショットを行うことによって行われる。ショット周波数は例えば60Hzに設定される。なお、レーザ加工の条件(レーザ光の波長、照射条件など)は、上記に限定されず、樹脂層10を加工し得るように適宜選択される。
【0092】
本実施形態では、支持基板60上に焼成(または乾燥)することによって形成された樹脂層10に対してレーザ加工を行う。支持基板60と樹脂層10との間には気泡が存在しないため、従来よりも高い精度で所望のサイズの開口部13を形成することが可能であり、バリ(
図25参照)の発生も抑制される。
【0093】
続いて、
図15に示すように、マスク体30にフレーム40を固定する(フレーム取り付け工程)。ここでは、金属層20の周辺部20b上にフレーム40を載置し、周辺部20bとフレーム40とを接合する。フレーム40は、例えばインバーなどの磁性金属で形成されている。ここでは、支持基板60側からレーザ光L2を照射することによって、金属層20の周辺部20bとフレーム40とを溶接する(スポット溶接)。スポット溶接のピッチは適宜選択され得る。この例では、支持基板60の法線方向から見たとき、フレーム40の内縁部と金属層20の周辺部20bの内縁部とが略整合しているが、周辺部20bの一部がフレーム40の内側に露出していてもよい。あるいは、フレーム40は、周辺部20b全体および樹脂層10の一部を覆っていてもよい。
【0094】
前述のように、本実施形態では、樹脂層10および金属層20を所定の層面内方向に引っ張ってフレーム40に固定する工程(架張工程)を行わないので、従来よりも剛性の小さいフレーム40を用いることが可能である。このため、フレーム40は、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などの樹脂から形成されていてもよい。また、マスク体30とフレーム40との接合方法は、レーザ溶接に限定されない。例えば接着剤を用いて金属層20の周辺部20bとフレーム40とを接合してもよい。
【0095】
次に、
図16に示すように、樹脂層10を支持基板60から剥離する。樹脂層10の剥離は、例えばレーザリフトオフ法により行うことができる。樹脂層10と支持基板60との密着力が比較的弱い場合には、ナイフエッジなどを用いて機械的に剥離を行ってもよい。
【0096】
ここでは、例えばXeClエキシマレーザを用い、支持基板60側からレーザ光(波長:308nm)を照射することによって、樹脂層10を支持基板60から剥離する。なお、レーザ光は、支持基板60を透過し、かつ、樹脂層10で吸収される波長の光であればよく、他のエキシマレーザあるいはYAGレーザなどの高出力レーザを用いてもよい。このようにして、蒸着マスク101が製造される。
【0097】
この後、必要に応じて、金属層20を電磁コイルで磁化させる着磁工程を行い、金属層20の残留磁束密度を例えば10mT以上1000mT以下に調整する。なお、着磁工程を行わなくてもよい。着磁工程を行わなくても、金属層20は磁性体であるので、磁気チャックを用いることにより、蒸着工程において蒸着マスク101をワーク上に保持することができる。
【0098】
上記では、蒸着マスク101を形成する方法を例に説明したが、他の蒸着マスク100、200、201、300、301についても、上記と同様の方法で製造され得る。ただし、レジスト層70の形状を、これらの蒸着マスクのマスク部20aにおける非中実部に対応する形状に変える必要がある。具体的には、蒸着マスク200、201を製造する際には、複数のスリット23に対応する複数の島状パターンを有するレジスト層70を形成すればよい。蒸着マスク300、301を製造する際には、1つまたは複数の開口25に対応する島状パターンを有するレジスト層70を形成すればよい。
【0099】
<蒸着マスクの他の製造方法>
図17および
図18を参照しながら、本実施形態の蒸着マスクの他の製造方法を説明する。
図17および
図18では、
図10〜
図16と同じ構成要素には同じ参照符号を付している。また、以下の説明では、
図10〜
図16を参照しながら前述した方法と異なる点を中心に説明し、各層の形成方法、材料、厚さ等が上記方法と同様である場合には説明を省略している。
【0100】
図10〜
図16を参照しながら前述した方法では、金属層20をめっき法で形成したが、金属箔をパターニングすることによって金属層20を形成してもよい。
【0101】
図17(a)〜(f)は、蒸着マスクの他の製造方法を例示する工程断面図である。ここでは、蒸着マスク101を製造する方法を例に説明するが、他の蒸着マスク100、200、201、300、301、400、401も同様の方法で製造される。
【0102】
まず、
図17(a)に示すように、支持基板60上に樹脂層10を形成する。樹脂層10の形成方法は、
図10を参照しながら前述した方法と同様である。ここでは、ポリイミド前駆体溶液を支持基板60上に塗布し、焼成することによって樹脂層10を形成する。次いで、樹脂層10の上面に金属箔20’を接着剤で貼り合わせる(ドライラミネートまたは熱ラミネート)。金属箔20’として、厚さが例えば5μm以上10μm以下のNi膜、Cr膜などを用いることができる。
【0103】
次に、
図17(b)に示すように、金属箔20’上にフォトレジスト膜を形成し、露光および現像を行うことによって、フォトレジスト膜のパターニングを行う。このようにして、マスク部の非中実部に対応する形状を有するレジスト層70を得る。レジスト層70の平面形状は、
図11(a)に示す形状と同じである。
【0104】
続いて、
図17(c)に示すように、レジスト層70をマスクとして金属箔20’のパターニングを行う。この後、レジスト層70を剥離する。このようにして、周辺部20bおよび島状部24を含む金属層20を得る。
【0105】
次いで、
図17(d)に示すように、レーザ加工により、樹脂層10に複数の開口部13を形成する。続いて、
図17(e)に示すように、例えばスポット溶接を行うことにより、金属層20の周辺部20bにフレーム40を固定する。この後、
図17(f)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、支持基板60からマスク体30を剥離する。このようにして、蒸着マスク101を得る。
【0106】
図10〜
図16あるいは
図17を参照して説明した方法では、いずれも、樹脂層10に開口部13を形成する工程(レーザ加工工程)の後でフレーム40の取り付け工程を行っているが、フレーム40の取り付け工程は、樹脂層10のレーザ加工工程よりも前に行ってもよい。
【0107】
図18(a)〜(e)は、本実施形態の蒸着マスクの製造方法のさらに他の例を説明するための工程断面図である。ここでは、蒸着マスク100の製造方法を例に説明するが、他の蒸着マスク101、200、201、300、301、400、401も同様の方法で製造される。
【0108】
まず、
図18(a)に示すように、支持基板60上に樹脂層10を形成する。樹脂層10は、上述した方法と同様に、可溶型ポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液の塗布および熱処理によって形成される。
【0109】
次いで、
図18(b)に示すように、樹脂層10上に、所定のパターンを有する金属層20を形成する。金属層20は、電解めっきまたは無電解めっきによって形成されてもよいし(
図12参照)、金属箔のパターニングによって形成されてもよい(
図17参照)。
【0110】
続いて、
図18(c)に示すように、例えばスポット溶接によって、金属層20の周辺部20bにフレーム40を固定する。
【0111】
次いで、
図18(d)に示すように、樹脂層10のレーザ加工を行い、樹脂層10に開口部13を形成する。この後、
図18(e)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、樹脂層10を支持基板60から剥離する。このようにして、蒸着マスク100が製造される。
【0112】
<本実施形態の製造方法による効果>
本実施形態の蒸着マスクの製造方法によると、樹脂材料を含む溶液または樹脂材料の前駆体を含む溶液を支持基板60の表面に付与し、熱処理を行うことによって樹脂層10を形成する。このように形成された樹脂層10は、支持基板60に密着しており、樹脂層10と支持基板60との界面に気泡は生じない。従って、支持基板60上で樹脂層10に複数の開口部13を形成することにより、所望のサイズの開口部13を従来よりも高い精度で形成でき、なおかつ、バリ98(
図25参照)の発生を抑制できる。
【0113】
また、本実施形態では、支持基板60上で樹脂層10および金属層20を形成し、支持基板60に支持された状態の金属層20にフレーム40を取り付ける。従って、樹脂層10および金属層20を引っ張ってフレームに接合させる架張工程を行わない。大掛かりな架張機を用いた架張工程が不要になるので、製造コストを低減できるメリットがある。また、架張工程を行わないので、フレーム40から、樹脂層10および金属層20に所定の層面内方向の張力が付与されない。従って、従来よりもフレーム40の剛性を小さくすることが可能になり、フレーム40の材料選択の自由度、および、フレーム幅、厚さ等の設計の自由度が大きくなる。
【0114】
さらに、特許文献1などに記載の従来方法では、架張工程によって樹脂フィルムをフレームに固定した後で、樹脂フィルムに対するレーザ加工が行われる。これに対し、本実施形態では、フレーム40の取り付け工程は、樹脂層10のレーザ加工前に行ってもよいし、レーザ加工後に行ってもよい。レーザ加工後にフレーム40の取り付け工程を行う場合には、次のようなメリットがある。フレーム40が取り付けられる前の、支持基板60によって支持されたマスク体30(レーザ加工前のマスク体を含む)は、フレーム40が取り付けられた後のマスク体30よりも軽量で取り扱いやすいので、レーザ加工機への設置、搬送等の作業が容易になる。また、フレーム40が取り付けられていないので、樹脂層10にレーザ光L1を照射しやすく、樹脂層10を加工し易い。さらに、特許文献1の方法では、樹脂層のレーザ加工がうまくいかなかったときに、フレームから積層マスクを剥離する必要があるが、フレーム40を取り付ける前にレーザ加工を行う場合には、そのような剥離工程は不要である。
【0115】
また、従来は、架張工程において金属層を樹脂フィルムとともに引っ張っていたので、張力を付与できないような島状構造の金属層を用いるといった発想は無かった。これに対し、本実施形態の方法は、架張工程を行わないため、島状構造の金属層20を有する蒸着マスクの製造にも好適に適用できる。島状構造を採用することにより、中実部の面積率SMの極端に小さい金属層20を実現できるようになり、線熱膨張係数αMの大きい金属材料を使用することも可能になる。従って、金属層20の形状および金属材料の選択の自由度を従来よりも高めることができる。
【0116】
ところで、蒸着工程における蒸着マスクの温度上昇の大きさ、すなわち、製造時の蒸着マスクの温度T1と、蒸着工程における蒸着マスクの温度T2との差ΔT(℃)(=T2−T1)は、蒸着方法、蒸着装置等によって変わる。温度差ΔTが比較的小さく抑えられる場合、ΔTは3℃未満、例えば1℃程度である。一方、ΔTは3℃〜15℃程度になることもある。なお、本実施形態における製造時の温度T1は、製造装置(例えば、樹脂層10の加工に使用するレーザ加工機、フレーム取り付け工程に使用する溶接機など)が設置されている環境温度であり、例えば室温である。蒸着工程における温度T2は、蒸着源の位置をワークに対して相対的に移動させながら(走査しながら)蒸着を行う場合には、蒸着マスクのうち、蒸着が行われている部分の温度を指す。本実施形態では、ΔTが比較的大きい場合(例えば3℃超)、必要に応じて、次の方法で、位置ずれを抑制することが可能である。まず、蒸着マスクの温度上昇(ΔT)を予め測定する。次いで、ΔTの測定結果に基づいて、熱膨張によって発生する位置ずれ量を算出する。位置ずれ量は、開口部13の位置と蒸着位置とのずれ、および、開口部13自体の変形による開口部13の形状と所望の蒸着パターンとのずれを含む。この位置ずれ量を相殺するように、樹脂層10の開口部13と、金属層20の島状部24(またはスリット23、開口25)とをずらして形成し、さらに、開口部13のサイズを所望の蒸着パターンよりも所定量だけ小さく形成する。なお、位置ずれ量を算出する代わりに、実際に蒸着を行って位置ずれ量を測定してもよい。本実施形態では、金属層20の形状(中実部の形状および面積率を含む)の選択の自由度が高いので、このような位置ずれ抑制方法をより効果的に適用でき、十分な位置精度を確保できる。
【0117】
<蒸着工程におけるシャドウイングの抑制>
蒸着マスク200、201(
図2、
図6)に例示したように、金属層20がスリット構造を有する場合、隣接する2つのスリット23の間に位置する部分の幅(面積)は、蒸着工程におけるシャドウイングを抑制し得る範囲内に設定されることが好ましい。以下、図面を参照しながら説明する。
【0118】
図19(a)は、蒸着対象となる基板50上に有機半導体材料を蒸着する工程を説明するための拡大断面図である。有機ELディスプレイの赤画素の画素電極(図示せず)上に赤色光を発する発光層を形成する場合を例示している。
図19(b)は、赤画素の発光層の形成に使用する蒸着マスク201Rの一部を示す平面図である。
【0119】
図19(b)に示すように、蒸着マスク201Rは、赤画素の発光層を形成するための複数の開口部13Rを有している。開口部13Rは、X方向、およびX方向に直交するY方向に配列されている。開口部13RのX方向およびY方向の配列ピッチは、それぞれ、有機ELディスプレイにおけるX方向およびY方向の画素ピッチPx、Pyに対応している。これらの画素ピッチによって規定される単位領域を「画素領域」と称する。また、隣接する2つの開口部13の間には、金属層20の中実部28が配置されている。この例では、中実部28は、画素領域を一方向(ここではY方向)に横切るように延びている。
【0120】
蒸着工程では、
図19(a)に示すように、蒸着マスク201Rを蒸着対象となる基板50上に載置して蒸着を行い、各開口部13R内に有機半導体材料を蒸着させる。この例では、蒸着源52が基板50に対して相対的に左から右に移動しながら(つまり走査方向は左から右)蒸着が行われる。蒸着材料は、蒸着源52から、蒸着マスク201Rの法線方向にだけでなく、斜め方向(法線方向に対して傾斜した方向)にも放出される。ここでは、蒸着材料の広がり角をθとする。また、蒸着マスク201Rの法線方向をD1、方向D1に対して走査方向に(つまり右側に)θ傾斜した方向をD2、走査方向と反対方向に(つまり左側に)θ傾斜した方向をD3とする。θは例えば45度である。
【0121】
図19(a)には、樹脂層10のある開口部13R内に蒸着膜51が堆積される期間の始期(時刻t
0)における蒸着源52の位置と、終期(時刻t
1)における蒸着源52の位置とが示されている。時刻t
0は、蒸着源52から放出された蒸着材料が開口部13内に到達し始める時刻であり、このとき、蒸着源52から方向D2に延びる仮想直線55は、開口部13Rの蒸着源52側のエッジをちょうど通る。また、時刻t
1は、蒸着源52から放出された蒸着材料が開口部13内に到達しなくなる時刻であり、このとき、蒸着源52から方向D3に延びる仮想直線56は、開口部13の蒸着源52側のエッジをちょうど通る。
【0122】
時刻t
0における蒸着材料の到達点(仮想直線55と基板50の表面との交点)P1から時刻t
1における蒸着材料の到達点(仮想直線56と基板50の表面との交点)P2までの間の領域では、蒸着膜51は所望の厚さで形成される。しかしながら、破線28’に示すように、中実部の一部が、仮想直線55、56と基板50とで規定される領域(蒸着源52から蒸発した蒸着原料が飛散する領域)57内に存在すると、蒸着原料の一部は中実部28’で遮られて基板50上に到達しなくなる。この結果、開口部13R内に形成される蒸着膜51が部分的に薄くなる。この部分(所望の厚さよりも薄く形成された部分)は、シャドウと呼ばれる。これに対し、実線28で示すように、中実部が領域57の外側に配置されていると、シャドウの発生を抑制でき、開口部13R内の領域全体に亘って所望の厚さの発光層を形成できる。このように、シャドウの発生を抑制するには、中実部28の位置および幅(X方向の幅)28wを調整することが好ましい。幅28wの上限値は、画素ピッチ、開口部13Rの大きさなどによって変わる。本発明者が、有機ELディスプレイのパネルサイズ:対角4.1インチ、解像度:400ppi(ピクセル・パー・インチ)、蒸着材料の広がり角θ:45度の条件で、シミュレーションにより検討したところ、画素領域全体に占める中実部28の面積の割合が10.0%以下となるように中実部28の幅28wを設定すれば、シャドウの発生を抑制できることが分かった。また、パネルサイズ:対角4.3インチ、解像度:257ppi、蒸着材料の広がり角θ:45度の条件で同様のシミュレーションを行うことにより、中実部28の面積の割合が30.0%以下となるように中実部28の幅28wを設定すれば、シャドウの発生を抑制できることが分かった。一方、上記割合が小さすぎると、蒸着マスク201Rと基板50との密着性が低くなる可能性がある。このため、上記割合は1.0%以上であることが好ましい。
【0123】
なお、ここでは、蒸着マスク201Rで説明したが、青色または緑色を発光する発光層を形成するための開口部(上記開口部13Rとサイズは異なるが配列ピッチは同じである)を有する他の蒸着マスクでも同様である。
【0124】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態による蒸着マスクを説明する。
【0125】
本実施形態の蒸着マスクは、
図1〜
図9を参照しながら前述した第1の実施形態の蒸着マスクと同様の断面構造および平面構造を有している(図示を省略する)。ただし、本実施形態では、樹脂層10は、フレーム40から層面内方向の張力を受けている点で、第1の実施形態と異なっている。
【0126】
図20(a)〜(e)は、本実施形態の蒸着マスクの製造方法を説明するための工程断面図である。
図20では、
図10〜
図17と同様の構成要素には同じ参照符号を付している。以下の説明では、基本的に第1の実施形態とは異なる点のみを説明し、各層の形成方法、材料、厚さ等が上記方法と同様である場合には説明を省略している。
【0127】
まず、
図20(a)に示すように、支持基板60上に樹脂層10を形成する。樹脂層10は、上述した方法と同様に、可溶型ポリイミド溶液またはポリイミド前駆体溶液の塗布および熱処理によって形成される。
【0128】
次いで、
図20(b)に示すように、樹脂層10上に、所定のパターンを有する金属層20を形成する。金属層20は、電界めっきまたは無電解めっきによって形成されてもよいし(
図12参照)、金属箔のパターニングによって形成されてもよい(
図17参照)。図示する例では、複数のスリット23を有するマスク部20aと、その周囲に位置する周辺部20bとを有する金属層20を形成する。なお、金属層20の形状は特に限定されず、
図1、
図3または
図4に例示される他の形状を有していてもよい。
【0129】
続いて、
図20(c)に示すように、支持基板60に支持された樹脂層10に対してレーザ加工を行い、樹脂層10に開口部13を形成する。開口部13のサイズおよび位置は、樹脂膜の熱膨張および後述する架張工程で付与される張力による変形を考慮して設定される。このようにして、マスク体30を得る。次いで、
図20(d)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、樹脂層10を支持基板60から剥離する。
【0130】
次に、
図20(e)に示すように、樹脂層10および金属層20からなるマスク体30を所定の層面内方向に引っ張った状態で、金属層20の周辺部20bにフレーム40を固定する。具体的には、まず、フレーム40の一面40a(マスク体30に接合される面)を上方に向けた状態で、フレーム40を架張溶接機に固定する。次いで、フレーム40の面40a上に、金属層20を下方にしてマスク体30を載置する。続いて、マスク体30の対向する2つの縁部(ここでは第1方向41に対向する縁部)を架張溶接機の保持部(クランプ)で保持し、第1方向41に平行に一定の張力を付与する。同時に、第1方向41に直交する第2方向に対向する2つの縁部もクランプで保持し、第2方向に平行に一定の張力を付与する。一例として、マスク体30の第1方向の幅:400mm、第2方向の幅:700mm、厚さ(樹脂層10および金属層20の合計厚さ):20μmのとき、第1方向および第2方向にそれぞれ100Nの張力を付与する。
【0131】
このとき、金属層20が島状構造を有する場合には、樹脂層10には張力が付与されるが、金属層20のマスク部20aには張力が付与されない。マスク部20aの中実部が、周辺部20bと分離されているからである。一方、
図20に示す例のように、金属層20の中実部がマスク部20aの幅全体に亘って形成され、周辺部20bと一体的に形成されている(例えば金属層20がスリット構造を有する)場合には、樹脂層10および金属層20の両方に張力が付与される。張力の大きさは、張力によるマスク体30の弾性変形量(金属層20が島状構造を有する場合には樹脂層10の弾性変形量)が、蒸着温度におけるマスク体30(または樹脂層10)の熱膨張量以上となるように設定される。なお、支持基板60上に形成されるマスク体30のサイズは、張力が付与された状態で、金属層20の周辺部20bとフレーム40とが重なるように、予め設計されている。続いて、マスク体30の樹脂層10側からレーザ光L2を照射し、金属層20とフレーム40とを接合する。ここでは、間隔を空けて複数箇所でスポット溶接を行う。このようにして、蒸着マスクが得られる。
【0132】
上記方法で製造された蒸着マスクでは、蒸着工程で使用されていないときには、樹脂層10(あるいは、樹脂層10および金属層20)は、フレーム40から層面内方向の張力を受けている。このため、蒸着工程において樹脂層10(および金属層20)に熱膨張が生じても、熱膨張によって開口部13の位置ずれが生じることを抑制できる。
【0133】
本実施形態では、金属層20の材料として、比較的線熱膨張係数αMの小さい材料が好適に用いられる。また、フレーム40は金属から形成されていることが好ましい。ただし、金属層20が島状構造を有する場合、完成した蒸着マスクでは、フレーム40は樹脂層10からの張力で変形しなければよいので、フレーム40の剛性は小さくてもよい。従って、前述の実施形態と同様に、金属のみでなく、樹脂から形成されたフレーム40を用いることも可能である。
【0134】
本実施形態の蒸着マスクの製造方法によると、第1の実施形態と同様に、支持基板60に密着している樹脂層10に対してレーザ加工を行うので、所望のサイズの開口部13を従来よりも高い精度で形成でき、なおかつ、バリ98(
図25参照)の発生を抑制できる。
【0135】
また、本実施形態では、蒸着工程における温度上昇、樹脂層10および金属層20の熱膨張係数などを考慮して、樹脂層10に所定の張力を付与することができる。このため、蒸着工程において、蒸着マスクの熱膨張に起因する開口部13の位置ずれを抑制できる。
【0136】
本実施形態の製造方法は、
図1〜
図9に例示した種々の蒸着マスクの製造に適用され得る。
図20では、スリット構造を有する金属層20を備えた蒸着マスクの製造方法を示したが、島状構造および開口を有する金属層20を備えた蒸着マスクも同様の方法で製造され得る。
【0137】
なお、
図20に示す方法では、支持基板60上で金属層20を形成しているが、樹脂層10を支持基板60から剥離した後で金属層20を形成してもよい。
【0138】
図21(a)〜(c)は、本実施形態の他の製造方法を示す工程断面図である。まず、
図21(a)に示すように、支持基板60上に樹脂層10を形成する。次いで、
図21(b)に示すように、樹脂層10のレーザ加工を行い、開口部13を形成する。この後、
図21(c)に示すように、樹脂層10を支持基板60から剥離し、樹脂フィルム10’を得る。続いて、図示しないが、樹脂フィルム10’上に金属層を形成し、フレームと接合させることにより、蒸着マスクが製造される。
【0139】
(有機半導体素子の製造方法)
本発明の実施形態による蒸着マスクは、有機半導体素子の製造方法における蒸着工程に好適に用いられる。
【0140】
以下、有機EL表示装置の製造方法を例として説明を行う。
【0141】
図22は、トップエミッション方式の有機EL表示装置500を模式的に示す断面図である。
【0142】
図22に示すように、有機EL表示装置500は、アクティブマトリクス基板(TFT基板)510および封止基板520を備え、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbを有する。
【0143】
TFT基板510は、絶縁基板と、絶縁基板上に形成されたTFT回路とを含む(いずれも不図示)。TFT回路を覆うように、平坦化膜511が設けられている。平坦化膜511は、有機絶縁材料から形成されている。
【0144】
平坦化膜511上に、下部電極512R、512Gおよび512Bが設けられている。下部電極512R、512Gおよび512Bは、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbにそれぞれ形成されている。下部電極512R、512Gおよび512Bは、TFT回路に接続されており、陽極として機能する。隣接する画素間に、下部電極512R、512Gおよび512Bの端部を覆うバンク513が設けられている。バンク513は、絶縁材料から形成されている。
【0145】
赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbの下部電極512R、512Gおよび512B上に、有機EL層514R、514Gおよび514Bがそれぞれ設けられている。有機EL層514R、514Gおよび514Bのそれぞれは、有機半導体材料から形成された複数の層を含む積層構造を有する。この積層構造は、例えば、下部電極512R、512Gおよび512B側から、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層および電子注入層をこの順で含んでいる。赤画素Prの有機EL層514Rは、赤色光を発する発光層を含む。緑画素Pgの有機EL層514Gは、緑色光を発する発光層を含む。青画素Pbの有機EL層514Bは、青色光を発する発光層を含む。
【0146】
有機EL層514R、514Gおよび514B上に、上部電極515が設けられている。上部電極515は、透明導電材料を用いて表示領域全体にわたって連続するように(つまり赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbに共通に)形成されており、陰極として機能する。上部電極515上に、保護層516が設けられている。保護層516は、有機絶縁材料から形成されている。
【0147】
TFT基板510の上述した構造は、TFT基板510に対して透明樹脂層517によって接着された封止基板520によって封止されている。
【0148】
有機EL表示装置500は、本発明の実施形態による蒸着マスクを用いて以下のようにして製造され得る。
図23(a)〜(d)および
図24(a)〜(d)は、有機EL表示装置500の製造工程を示す工程断面図である。なお、以下では、赤画素用の蒸着マスク101R、緑画素用の蒸着マスク101G、青画素用の蒸着マスク101Bを順に用いてワーク上に有機半導体材料を蒸着する(TFT基板510上に有機EL層514R、514Gおよび514Bを形成する)工程を中心に説明を行う。
【0149】
まず、
図23(a)に示すように、絶縁基板上に、TFT回路、平坦化膜511、下部電極512R、512G、512Bおよびバンク513が形成されたTFT基板510を用意する。TFT回路、平坦化膜511、下部電極512R、512G、512Bおよびバンク513を形成する工程は、公知の種々の方法により実行され得る。
【0150】
次に、
図23(b)に示すように、真空蒸着装置内に保持された蒸着マスク101Rに、搬送装置によりTFT基板510を近接させて配置する。このとき、樹脂層10の開口部13Rが赤画素Prの下部電極512Rに重なるように、蒸着マスク101RとTFT基板510とが位置合わせされる。また、TFT基板510に対して蒸着マスク101Rとは反対側に配置された不図示の磁気チャックにより、蒸着マスク101RをTFT基板510に対して密着させる。
【0151】
続いて、
図23(c)に示すように、真空蒸着により、赤画素Prの下部電極512R上に、有機半導体材料を順次堆積し、赤色光を発する発光層を含む有機EL層514Rを形成する。
【0152】
次に、
図23(d)に示すように、蒸着マスク101Rに代えて、蒸着マスク101Gを真空蒸着装置内に設置する。樹脂層10の開口部13Gが緑画素Pgの下部電極512Gに重なるように、蒸着マスク101GとTFT基板510との位置合わせを行う。また、磁気チャックにより、蒸着マスク101GをTFT基板510に対して密着させる。
【0153】
続いて、
図24(a)に示すように、真空蒸着により、緑画素Pgの下部電極512G上に、有機半導体材料を順次堆積し、緑色光を発する発光層を含む有機EL層514Gを形成する。
【0154】
次に、
図24(b)に示すように、蒸着マスク101Gに代えて、蒸着マスク101Bを真空蒸着装置内に設置する。樹脂層10の開口部13Bが青画素Pbの下部電極512Bに重なるように、蒸着マスク101BとTFT基板510との位置合わせを行う。また、磁気チャックにより、蒸着マスク101BをTFT基板510に対して密着させる。
【0155】
続いて、
図24(c)に示すように、真空蒸着により、青画素Pbの下部電極512B上に、有機半導体材料を順次堆積し、青色光を発する発光層を含む有機EL層514Bを形成する。
【0156】
次に、
図24(d)に示すように、有機EL層514R、514Gおよび514B上に、上部電極515および保護層516を順次形成する。上部電極515および保護層516の形成は、公知の種々の方法により実行され得る。このようにして、TFT基板510が得られる。
【0157】
その後、TFT基板510に対して封止基板520を透明樹脂層517により接着することにより、
図22に示した有機EL表示装置500が完成する。
【0158】
なお、ここでは、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbの有機EL層514R、514Gおよび514Bにそれぞれ対応する3枚の蒸着マスク101R、101G、101Bを用いたが、1枚の蒸着マスクを順次ずらすことによって、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbに対応する有機EL層514R、514Gおよび514Bを形成してもよい。また、有機EL表示装置500において、封止基板520に代えて封止フィルムを用いてもよい。あるいは、封止基板(または封止フィルム)を使用せずに、TFT基板510に薄膜封止(TFE:Thin Film Encapsulation)構造を設けてもよい。薄膜封止構造は、例えば、窒化シリコン膜などの複数の無機絶縁膜を含む。薄膜封止構造は有機絶縁膜をさらに含んでもよい。
【0159】
なお、上記の説明では、トップエミッション方式の有機EL表示装置500を例示したが、本実施形態の蒸着マスクがボトムエミッション方式の有機EL表示装置の製造にも用いられることはいうまでもない。
【0160】
また、本実施形態の蒸着マスクを用いて製造される有機EL表示装置は、必ずしもリジッドなデバイスでなくてもよい。本実施形態の蒸着マスクは、フレキシブルな有機EL表示装置の製造にも好適に用いられる。フレキシブルな有機EL表示装置の製造方法においては、支持基板(例えばガラス基板)上に形成されたポリマ層(例えばポリイミド層)上に、TFT回路などが形成され、保護層の形成後にポリマ層がその上の積層構造ごと支持基板から剥離(例えばレーザリフトオフ法が用いられる)される。
【0161】
また、本実施形態の蒸着マスクは、有機EL表示装置以外の有機半導体素子の製造にも用いられ、特に、高精細な蒸着パターンの形成が必要とされる有機半導体素子の製造に好適に用いられる。