【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、多数の気泡を有する樹脂発泡体であって、ポリビニルアセタールと可塑剤を含有し、測定周波数1Hzでの動的粘弾性測定による損失正接tanδが0〜50℃の範囲において0.5以上のピークを有し、かつ、23℃圧縮永久歪が85%以下である樹脂発泡体である。
以下に本発明を詳述する。
【0006】
本発明者らは、ポリビニルアセタールと可塑剤を含有する樹脂発泡体は、損失正接tanδが0〜50℃の範囲において0.5以上のピークを有しながら、23℃圧縮永久歪を85%以下とすることができ、優れた衝撃吸収性、制振性と、板ズレが生じにくい低流動性とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明の樹脂発泡体は、ポリビニルアセタールと可塑剤を含有する。
上記ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタールであれば特に限定されないが、ポリビニルブチラールが好適である。また、必要に応じて2種以上のポリビニルアセタールを併用してもよい。
【0008】
上記ポリビニルアセタールのアセタール化度の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は85モル%であり、より好ましい下限は60モル%、より好ましい上限は75モル%である。
上記ポリビニルアセタールは、水酸基量の好ましい下限が15モル%、好ましい上限が40モル%である。水酸基量がこの範囲内であると、可塑剤との相溶性が高くなる。
なお、上記アセタール化度及び水酸基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0009】
上記ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。
上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度70〜99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。上記ポリビニルアルコールの鹸化度は、80〜99.8モル%であることが好ましい。
上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は4000である。上記ポリビニルアルコールの重合度が500以上であると、得られる樹脂発泡体の取り扱い性が優れるものとなる。上記ポリビニルアルコールの重合度が4000以下であると、樹脂発泡体の成形が容易になる。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は1000、より好ましい上限は3600である。
【0010】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1〜10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、得られる樹脂発泡体の損失係数を高く設計しやすいという観点からは、炭素数が2〜10のアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒドがより好ましく、n−ブチルアルデヒドが特に好ましい。
【0011】
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。上記可塑剤は液状可塑剤であることが好ましい。
【0012】
上記一塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、グリコールと一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。
上記グリコールとしては、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。上記一塩基性有機酸としては、例えば、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールジカプロン酸エステル、トリエチレングリコールジ−2−エチル酪酸エステル、トリエチレングリコールジ−n−オクチル酸エステル、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキシル酸エステル等が好適である。
【0013】
上記多塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。なかでも、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル、ジブチルカルビトールアジピン酸エステル等が好適である。
【0014】
上記有機エステル可塑剤は特に限定されず、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ−n−オクタノエート、トリエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,3−プロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,4−ブチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、アジピン酸エステル、炭素数4〜9のアルキルアルコール及び炭素数4〜9の環状アルコールから作製された混合型アジピン酸エステル、アジピン酸ヘキシル等の炭素数6〜8のアジピン酸エステル等が挙げられる。
【0015】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0016】
更に、上記可塑剤として、加水分解を起こしにくいため、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)を含有することが好ましい。テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)を含有することがより好ましい。トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)を含有することが更に好ましい。
【0017】
本発明の樹脂発泡体における上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限が5重量部、好ましい上限が60重量部である。上記可塑剤の含有量がこの範囲内であると、高い衝撃吸収性や制振性を発揮することができ、樹脂発泡体から可塑剤がブリードアウトすることもない。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は20重量部、より好ましい上限は55重量部である。
【0018】
本発明の樹脂発泡体は、上記ポリビニルアセタールと可塑剤の他に、例えば、接着力調整剤、熱線吸収剤、紫外線遮蔽剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤等の添加剤を含有してもよい。また、得られる樹脂発泡体の外観を調整するために、カーボンブラック等の顔料や染料等を含有してもよい。
【0019】
本発明の樹脂発泡体は、架橋剤により架橋されていることが好ましい。架橋されることにより、23℃圧縮永久歪をより低下させ、常温下での流動性をより低下させることができる。
上記架橋剤としては、上記ポリビニルアセタールの側鎖に含まれる水酸基、アセチル基、アセタール基等と反応してポリビニルアセタール間を架橋することができる化合物であれば特に限定されない。具体的には例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、ホウ酸化合物等が挙げられる。また、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)等の多官能(メタ)アクリレート化合物も架橋剤として用いることができる。
【0020】
なお、上記架橋剤として多官能(メタ)アクリレート化合物を用いる場合には、光重合開始剤を併用することが好ましい。光重合開始剤を併用することにより、樹脂発泡体を均一かつ確実に架橋させることができる。
上記光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン等の従来公知の化合物を用いることができる。
【0021】
本発明の樹脂発泡体は、測定周波数1Hzでの動的粘弾性測定による損失正接tanδが0〜50℃の範囲において0.5以上のピークを有し、かつ、23℃圧縮永久歪が85%以下である。
上記損失正接tanδは、貯蔵剪断弾性率(G’)と損失剪断弾性率(G’’)の比(G’’/G’)であり、材料が変形する際に材料がどのくらいエネルギーを吸収するか(熱に変わるか)を示す。上記損失正接tanδが0〜50℃の範囲において0.5以上のピークを有することにより、本発明の樹脂発泡体は、優れた衝撃吸収性、制振性を発揮することができる。上記損失正接tanδは、0〜50℃の範囲において0.7以上のピークを有することが好ましい。
本発明の樹脂発泡体は、測定周波数1Hzでの動的粘弾性測定による損失正接tanδが0.4以上である温度範囲が25℃以上であることが好ましい。これにより、更に優れた衝撃吸収性、制振性を発揮することができる。
【0022】
本明細書において23℃圧縮永久歪とは、試験片を圧縮板によって規定の割合で圧縮し、23℃の環境下で規定時間保持することで生じる、試験片の「残留歪み」を意味する。上記23℃圧縮永久歪が85%以下であることにより、本発明の樹脂発泡体は、常温下での流動性が抑えられ、例えば樹脂発泡体と他の部材とを積層した積層体を立て掛けたときにでも板ズレが生じるのを防止することができる。上記23℃圧縮永久歪は、50%以下であることが好ましい。上記23℃圧縮永久歪の下限は特に限定されないが、実質的には5%程度が下限である。
なお、23℃圧縮永久歪は、JIS K 6262に準じる方法により測定することができる。
【0023】
上記損失正接tanδや23℃圧縮永久歪は、樹脂発泡体の発泡状態を調整することにより達成することができる。具体的には例えば、樹脂発泡体の連続気泡率を20%以上とすることが好ましい。連続気泡率が20%以上とすることにより、得られる樹脂発泡体の損失正接tanδや23℃圧縮永久歪を所期の範囲に調整することができ、優れた衝撃吸収性、制振性と、常温下での低流動性とを両立させることができる。上記連続気泡率が25%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましく、50%以上であることが特に好ましい。上記連続気泡率の上限は特に限定されないが、98%程度が実質的な上限である。
なお、本明細書において連続気泡とは、樹脂発泡体を形成する気泡がお互いにつながっているものを意味する。
また、上記連続気泡率は、寸法測定によって得られる樹脂発泡体の見掛け体積に対する、樹脂発泡体の外部にまで連結している気泡の容積割合で定義され、JIS K 7138記載のピクノメータ法などにより測定することができる。
【0024】
本発明の樹脂発泡体は、平均気泡径の好ましい下限が100μm、好ましい上限が1000μmである。上記平均気泡径がこの範囲内にあることにより、より優れた衝撃吸収性、制振性と低流動性とを発揮することができる。上記平均気泡径のより好ましい下限は120μm、より好ましい上限は500μm、更に好ましい下限は200μmである。
なお、上記平均気泡径は、気泡の断面観察写真より気泡壁部と空隙部とを観察して、空隙部のサイズを測定する方法により測定することができる。
【0025】
本発明の樹脂発泡体は、気泡の平均アスペクト比が2以下であることが好ましい。上記気泡の平均アスペクト比が2以下であることにより、より優れた衝撃吸収性、制振性と低流動性とを発揮することができる。上記気泡の平均アスペクト比は、1.5以下であることがより好ましい。
なお、上記気泡の平均アスペクト比は、気泡の断面観察写真より空隙部の長径と短径とを測定してその比を計算する方法により測定することができる。
【0026】
本発明の樹脂発泡体は、見掛け密度が300kg/m
3以下であることが好ましい。上記見掛け密度が300kg/m
3以下であることにより、より優れた衝撃吸収性、制振性と低流動性とを発揮することができる。上記見掛け密度は、200kg/m
3以下であることがより好ましい。上記見掛け密度の下限は特に限定されないが、50kg/m
3程度が実質的な下限である。
【0027】
本発明の樹脂発泡体を製造する方法は特に限定されないが、例えば、上記ポリビニルアセタール、可塑剤及び必要に応じて添加する添加剤に熱分解型発泡剤を配合して樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を発泡温度にまで加熱して熱分解型発泡剤を分解させる方法が好適である。本発明の樹脂発泡体を架橋させる場合には、上記樹脂組成物に上記架橋剤を配合する。
【0028】
ここで、連続気泡率を20%以上とし、損失正接tanδや23℃圧縮永久歪を所期の範囲に調整して優れた衝撃吸収性、制振性と、常温下での低流動性とを両立させるためには、製造時における熱分解型発泡剤の種類と配合量、及び、発泡温度の設定が極めて重要である。なかでも、発泡温度の設定は、高い連続気泡率を達成するために必須である。
上記発泡温度は、180℃以上であることが好ましい。180℃以上の温度では、発泡時に上記樹脂組成物が十分に軟化して気泡同士が連通しやすくなるため、連続気泡が発生し易くなるものと考えられる。ポリビニルアセタール以外の樹脂からなる樹脂組成物では、発泡温度を高くしてもこのような連続気泡率の上昇は認められないことから、ポリビニルアセタールと可塑剤とを含有する樹脂組成物に独特の現象のようである。
【0029】
上記熱分解型発泡剤としては、分解温度が120〜240℃程度であるものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。なお、上記連続気泡率をより高くできることから、発泡温度を180℃以上としたときに、上記熱分解型発泡剤の分解温度に対して発泡温度が高くなるように熱分解型発泡剤を選択することが好ましい。より具体的には、上記熱分解型発泡剤の分解温度に対して発泡温度が20℃以上高いものが好ましく、50℃以上高いものがより好ましく、80℃以上高いものが更に好ましい。
なお、上記連続気泡率をより高くできることから、発泡前の原料である樹脂組成物の成形温度に対して、分解温度が20℃以上高い熱分解型発泡剤を用いることが好ましく、50℃以上高い熱分解型発泡剤を用いることがより好ましい。
【0030】
上記熱分解型発泡剤としては、具体的には例えば、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、尿素、炭酸水素ナトリウム、及び、これらの混合物等が挙げられる。
上記熱分解型発泡剤のうち市販のものとしては、例えば、セルマイクシリーズ(三協化成社製)やビニホールシリーズ、セルラーシリーズ、ネオセルボンシリーズ(以上、永和化成工業社製)等が挙げられる。
【0031】
上記樹脂組成物中の上記熱分解型発泡剤の配合量は特に限定されないが、上記ポリビニルアセタール100重量部に対する好ましい下限は2重量部、好ましい上限は20重量部である。上記熱分解型発泡剤の配合量がこの範囲内であれば、連続気泡率が10%以上の発泡体を製造することができる。上記熱分解型発泡剤の配合量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0032】
本発明の樹脂発泡体は、上記構成を有することにより、優れた衝撃吸収性、制振性と、常温下での低流動性とを両立させることができる。このため、本発明の樹脂発泡体は、例えば、自動車や航空機、船舶等の車両用部材、建築部材、電子部品、カーペットの裏材等の生活部材、家庭用、業務用の電気製品等のあらゆる用途に用いることができる。