(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
O含有量(質量%)を[O]、Al含有量(質量%)を[Al]、Fe含有量(質量%)を[Fe]としたとき、63[O]+5[Al]+3[Fe]が13.0以上25.0以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の時計部品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る時計部品を備えた腕時計を示す図である。
【0017】
腕時計5は、
図1に示すように、腕時計ケース1を備えている。この腕時計ケース1の12時側と6時側とには、時計バンド2が取り付けられている。腕時計ケース1の3時側には、リューズ3が設けられている。腕時計ケース1の上部開口部には、時計ガラス(風防)4が取り付けられている。腕時計ケース1の内部に指針7が収納されている。腕時計ケース1、時計バンド2及びリューズ3は、いずれも本発明の実施形態の一例であり、下記のチタン合金を含む。
【0018】
本実施形態に係る時計部品に含まれるチタン合金の化学組成について詳述する。後述のように、本実施形態に係る時計部品は、熱間圧延、焼鈍、切断、スケールの除去、熱間鍛造、機械加工及び鏡面研磨等を経て製造される。従って、チタン合金の化学組成は、時計部品の特性のみならず、これらの処理に好適なものである。以下の説明において、チタン合金に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る時計部品に含まれるチタン合金は、Al:1.0〜3.5%、Fe:0.1〜0.4%、O:0.00〜0.15%、C:0.00〜0.10%、Sn:0.00〜0.20%、Si:0.00〜0.15%、及び残部:Ti及び不純物からなる。
【0019】
(Al:1.0〜3.5%)
Alは、鏡面研磨、特に乾式研磨時の温度上昇に伴う硬度の低下を抑制する。Al含有量が1.0%未満では、鏡面研磨時に十分な硬度が得られず、優れた鏡面性が得られない。従って、Al含有量は1.0%以上であり、好ましくは1.5%以上である。一方、Al含有量が3.5%超では、硬度が過大(例えば、ビッカース硬度Hv5.0が260超)となり、十分な加工性が得られない。従って、Al含有量は3.5%以下であり、好ましくは3.0%以下である。
【0020】
(Fe:0.1〜0.4%)
Feは、β安定化元素であり、β相の生成に伴うピン止め効果によりα相の結晶粒の成長を抑制する。詳細は後述するが、α相の結晶粒が小さいほど凹凸が目立ちにくく鏡面性が高い。Fe含有量が0.1%未満では、α相の結晶粒の成長を十分に抑制することができず、優れた鏡面性が得られない。従って、Fe含有量は0.1%以上であり、好ましくは0.15%以上である。一方、Feはβ安定化度が高く、わずかな添加量の差によりβ相分率に大きく影響し、β相分率が20%となる温度T
β20が大きく変動する。温度T
β20が鍛造温度を下回ると、針状組織が形成し、α相のアスペクト比の平均値が3.0を超える場合が考えられる、もしくは、β相密度の変動係数が0.30を超えてしまう場合が考えられる。従って、Fe含有量は0.4%以下であり、好ましくは0.35%以下である。
【0021】
(O:0.00〜0.15%)
Oは、必須元素ではなく、例えば不純物として含有される。Oは、硬度を過度に高めて加工性を低下させる。Oは、室温程度の温度での硬度を上昇させるが、Alと比較して鏡面研磨時の温度上昇に伴う硬度の低下が顕著であり、鏡面研磨時の硬度にあまり寄与しない。このため、O含有量は低ければ低いほどよい。特に、O含有量が0.15%超で、加工性の低下が顕著である。従って、O含有量は0.15%以下であり、好ましくは0.13%以下である。O含有量の低減にはコストがかかり、0.05%未満まで低減しようとすると、コストが著しく上昇する。このため、O含有量は0.05%以上としてもよい。
【0022】
(C:0.00〜0.10%)
Cは、必須元素ではなく、例えば不純物として含有される。Cは、TiCを生成し、鏡面性を低下させる。このため、C含有量は低ければ低いほどよい。特に、C含有量が0.1%超で、鏡面性の低下が顕著である。従って、C含有量は0.1%以下であり、好ましくは0.08%以下である。C含有量の低減にはコストがかかり、0.0005%未満まで低減しようとすると、コストが著しく上昇する。このため、C含有量は0.0005%以上としてもよい。
【0023】
(Sn:0.00〜0.20%)
Snは、必須元素ではないが、Alと同様に、鏡面研磨、特に乾式研磨時の温度上昇に伴う硬度の低下を抑制する。従って、Snが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、Sn含有量は好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。一方、Sn含有量が0.20%超では、加工性に悪影響を与える可能性がある。従って、Sn含有量は0.20%以下であり、好ましくは0.15%以下である。
【0024】
(Si:0.00〜0.15%)
Siは、必須元素ではないが、Feと同様に、結晶粒の成長を抑制し、鏡面性を向上する。また、SiはFeよりも偏析しにくい。従って、Siが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、Si含有量は好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。一方、Si含有量が0.15%超では、Siの偏析により鏡面性に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、Si含有量は0.15%以下であり、好ましくは0.12%以下である。
【0025】
O含有量(質量%)を[O]、Al含有量(質量%)を[Al]、Fe含有量(質量%)を[Fe]としたとき、好ましくは下記の式1であらわされるパラメータQの値は13.0以上25.0以下である。パラメータQの値が13.0未満では、十分な硬度(例えば、200以上のビッカース硬度Hv)が得られず、鏡面性が低下することがある。パラメータQの値が25.0超では、硬度が過大(例えば、ビッカース硬度Hvが260超)となり、十分な加工性が得られないことがある。
Q=63[O]+5[Al]+3[Fe] ・・・(式1)
【0026】
(残部:Ti及び不純物)
残部は、Ti及び不純物である。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、例えばC、N、H、Cr、Ni、Cu、V、Moが例示される。これらC、N、H、Cr、Ni、Cu、V、Moの合計量が0.4%以下であることが望ましい。
【0027】
次に、本実施形態に係る時計部品に含まれるチタン合金の組織について詳述する。本実施形態に係るチタン合金部材は、α相母相中にβ相が分散した金属組織を有し、望ましくはα相面積率が90%以上であるα−β型チタン合金(二相組織)である。本実施形態では、α相の結晶粒の平均粒径が15.0μm以下であり、α相の結晶粒の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下であり、α相中に分散したβ相の結晶粒の数密度の変動係数が0.30以下である。
【0028】
(α相の結晶粒の平均粒径:15.0μm以下)
α相の結晶粒の平均粒径が15.0μm超では、凹凸が目立ちやすく、優れた鏡面性が得られない。従って、α相の結晶粒の平均粒径は15.0μm以下であり、好ましくは12.0μm以下である。α相の結晶粒の平均粒径は、例えば金属組織観察用の試料を用いて撮影された光学顕微鏡写真から線分法により取得できる。例えば200倍の倍率で撮影された300μm×200μmの光学顕微鏡写真を準備し、この光学顕微鏡写真の縦横に5本ずつ線分を引く。線分ごとに当該線分を横切るα相の結晶粒の結晶粒界の数を用いて平均粒径を算出し、合計で10本の線分に対応する平均粒径の算術平均値をもってα相の結晶粒の平均粒径とする。なお、結晶粒界の数を数える際、双晶境界の数を含めないものとする。また、前記撮影にあたっては、鏡面研磨された試料断面をフッ硝酸水溶液でエッチングすることにより、α相は白色、β相は黒色を呈するため、容易にα相とβ相を識別できる。なお、β相にFeが濃化する性質を利用して、EPMAでα相とβ相を判別することも可能である。例えば、母相であるα相と比較して、Feの強度が1.5倍以上である領域をβ相と判断することができる。
【0029】
(α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数:2.0本以上10.0本以下)
母相と双晶の界面(双晶境界)には、結晶粒界と同様な結晶の不連続面が存在するため、双晶が多く存在するほど、結晶粒径が小さくなった場合と同等の効果が、実質的に得られる。すなわち、研磨時の凹凸が小さくなり、優れた鏡面性が得られる。α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数が2.0本以下の場合、目立った効果が得られない。そのため、α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数は2.0本以上が好ましく、3.0本以上がさらに好ましい。一方、α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数が10.0本を超える場合、硬度が高くなりすぎ、加工性が低下する。そのため、α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数は10.0本以下が好ましく、8.0本以下がさらに好ましい。なお、変形双晶数の測定は、金属組織観察用の試料から任意に選ばれた視野120μm×80μmの光学顕微鏡写真を準備し、その視野内で観察されるすべてのα相の結晶粒を対象に変形双晶の本数を数える。その算術平均値でもってα相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数を求める。
【0030】
(α相の結晶粒の平均アスペクト比:1.0以上3.0以下)
α相の結晶粒のアスペクト比は、当該α相の結晶粒の長軸の長さを短軸の長さで除算して得られる商である。ここで、「長軸」とは、α相の結晶粒の粒界(輪郭)上の任意の2点を結ぶ線分のうちで、長さが最大になるものをいい、「短軸」とは、長軸に直交し、かつ粒界(輪郭)上の任意の2点を結ぶ線分のうちで、長さが最大になるものをいう。α相の結晶粒の平均アスペクト比が4.0超では、形状異方性が高いα相の結晶粒に付随する凹凸が目立ちやすく、優れた鏡面性が得られない。従って、α相の結晶粒の平均アスペクト比は3.0以下であり、好ましくは2.5以下である。また、長軸と短軸が等しい場合は、アスペクト比が1.0になる。アスペクト比は、その定義上、1.0未満になることはない。なお、チタン合金部材は熱間鍛造を経て製造されるため、組織を観察する断面によってα相の結晶粒の平均アスペクト比に無視できない程度の相違があり得る。このため、α相の結晶粒の平均アスペクト比としては、互いに直交する3つの断面間の平均値を用いる。断面ごとの平均アスペクト比は、例えば200倍の倍率で撮影された300μm×200μmの光学顕微鏡写真内で面積が最大のものから50個のα相の結晶粒を抽出し、これらのアスペクト比の平均値を算出することで取得する。
【0031】
図2に、針状組織からなるα+β型二相合金におけるα相の組織の光学顕微鏡写真を示し、
図3に、本実施形態に係るチタン合金部材のα相の組織を示す光学顕微鏡写真を示す。針状組織は凹凸が目立ちやすく、優れた鏡面性が得られない。本実施形態に係るチタン合金部材におけるα相の結晶粒は、針状組織と区別するため、平均アスペクト比は3.0以下である。
【0032】
(α相中に分散したβ相の結晶粒の数密度の変動係数:0.30以下)
ここで、α相中に分散したβ相の結晶粒の数密度の変動係数の求め方を、
図4〜6を参照にして説明する。
図4は、発明の実施形態に係るチタン合金部材のα相の組織における、β相分布の均一性(β粒の均一分散)を説明するための光学顕微鏡写真であり、β相の結晶粒の数密度の変動係数は0.30以下である。
図5は、Ti熱延板を仮想した、β粒が層状に分布している場合を示す模式図であり、β相の結晶粒が層状に分布し、β相の結晶粒の数密度の変動係数は1.0である。
図6は、β粒が局所的に集中している場合を示す模式図であり、β相の結晶粒の数密度の変動係数は約1.7である。
【0033】
α相中に分散したβ相の結晶粒の数密度の変動係数は、β相の分布の均一性を示す指標であり、次のようにして算出される。先ず、
図7(1)に示すように、200倍の倍率で撮影された300μm(横)×200μm(縦)の光学顕微鏡写真を縦に10等分、横に10等分し、100枡に分割する。次いで、各枡ごとにβ粒の数密度(各枡に存在するβ粒の数を枡の面積で除した値)を求める。この時、円相当径で0.5μm以上のβ粒を対象とし、二つ以上の枡にまたがって存在するβ粒はそれぞれの枡に0.5個存在しているものとして数える。例えば、
図7(2)に示すように、拡大した縦横3×3個の枡において、円相当径が0.5μm未満のβ粒10は、鏡面性を向上させる効果に劣るため、β粒の数に計上しない。また、二つの枡にまたがって存在するβ粒11は、それぞれの枡に0.5個存在しているものとして数える。例えば
図7(2)に拡大して示した縦横3×3個の各枡のβ粒の数密度(個数/μm
2)は、
図7(3)のようになる。その後、
図7(1)に示した100枡間のβ粒の数密度の相加平均及び標準偏差を計算する。そして、標準偏差を相加平均で除して得られる商をα相中に分散したβ相の結晶粒の数密度の変動係数とする。α相中に分散したβ相の結晶粒の数密度の変動係数が0.30超では、β相の分布の不均一さに起因して鏡面研磨時に凹凸が生じやすく、優れた鏡面性が得られない。従って、α相中に分散したβ相の結晶粒の数密度の変動係数は0.30以下であり、好ましくは0.25以下である。
【0034】
[製造方法]
次に、本発明の実施形態に係る時計部品の製造方法の一例について説明する。この製造方法では、先ず、上記の化学組成のチタン合金素材の熱間圧延及び室温までの冷却を行って熱延材を得る。次いで、熱延材の焼鈍及び室温までの冷却を行って熱延焼鈍材を得る。その後、その後、熱延焼鈍材のサイズの調整、スケールの除去及び熱間鍛造を行う。熱間鍛造は2〜10回繰り返し、繰り返しの度に室温まで冷却する。続いて、機械加工及び鏡面研磨を行う。このような方法により、本発明の実施形態に係る時計部品を製造することができる。
【0035】
(熱間圧延)
チタン合金素材は、例えば原料の溶解、鋳造及び鍛造により得ることができる。熱間圧延は、α及びβの二相域(β変態温度T
β100よりも低い温度域)で開始する。二相域で熱間圧延を行うことで、六方最密充填構造(hexagonal
close-packed:hcp)のc軸が熱延焼鈍材の表面に垂直な方向に配向し、面内での異方性が小さくなる。異方性の低下は鏡面性の向上に極めて有効である。β変態温度T
β100もしくはβ変態温度T
β100より高温で熱間圧延を開始すると、針状組織の割合が高くなり、平均値が1.0以上3.0以下のアスペクト比を備えたα相の結晶粒が得られない。
【0036】
(焼鈍)
熱延材の焼鈍は、600℃以上、β相分率が20%となる温度T
β20以下の温度域で、30分以上240分以下の条件で行う。焼鈍温度が600℃未満では、焼鈍によって再結晶を完了させることができず、加工組織が残存し、α相の結晶粒の平均アスペクト比が3.0を超えたり、β相分布が不均一な加工組織が残存し、優れた鏡面性が得られない。一方、焼鈍温度が温度T
β20超では、針状組織の割合が高くなり、α相の結晶粒の平均アスペクト比が3.0を超える、もしくは、β相の結晶粒の数密度の変動係数が0.3を超えてしまう。また、α相の結晶粒が15μmを超えてしまう恐れがある。焼鈍時間が30分未満では、焼鈍によって再結晶を完了させることができず、加工組織が残存し、α相の結晶粒の平均アスペクト比が3.0を超えたり、β相分布が不均一な加工組織が残存し、優れた鏡面性が得られない。焼鈍時間が240分超では、α相の結晶粒の平均粒径が15μm超となり、優れた鏡面性が得られない。また、焼鈍が長時間になるほどスケールが厚くなり、歩留まりが低下する。
【0037】
(サイズの調整、スケールの除去)
熱延焼鈍材を熱間鍛造に用いる金型に適したサイズに加工する。時計ケースを製造する場合は熱延焼鈍材(厚板)からブランク材を切り出す。時計バンドを製造する場合は、熱延焼鈍材(丸棒)の線引き又は圧延を行う。その後、酸洗又は切削により熱延焼鈍材の圧延面に存在するスケールを除去する。酸洗及び切削の両方によりスケールを除去してもよい。
【0038】
(熱間鍛造)
基本的には、所定の焼鈍を行うことでα相の結晶粒の平均粒径および平均アスペクト比は本発明を満たすことができるが、熱間鍛造なしではβ相の結晶粒の数密度の変動係数が本発明を満たさなくなる。熱間鍛造の温度が750℃未満では、材料の変形抵抗が大きく、工具の欠損や摩耗を助長する。一方、熱間鍛造の温度が温度T
β20超では、針状組織の割合が高くなり、α相の結晶粒のアスペクト比の平均値が3.0を超える、もしくは、β相の結晶粒の数密度の変動係数が0.3を超えてしまう。鍛造回数が多いほど、β相の分布が均一になりやすく、α相の結晶粒のアスペクト比を小さくしやすい。
【0039】
β変態温度T
β100及びβ相分率が20%となる温度T
β20は、状態図から取得することができる。状態図は、例えばCALPHAD(Computer Coupling of Phase Diagrams and Thermochemistry)法により取得することができ、例えば、そのためにThermo−Calc Software AB社の統合型熱力学計算システムであるThermo−Calc及び所定のデータベース(TI3)を用いることができる。
【0040】
熱間鍛造後、室温まで冷却する。その際、鍛造温度から500℃に至るまでの平均冷却速度が、20℃/s未満では、冷却中にβ相が生成し、その後の加熱でβ相の分布が均一になりにくく、β相の結晶粒の数密度の変動係数を0.3以下にすることができない。また、冷却中にAl及びFeが拡散し、これらの濃度のむらが生じ、鏡面研磨後の表面状態にもむらが生じる。水冷を行う場合の平均冷却速度は、対象物のサイズにも依存するが、概ね300℃/sであり、空冷を行う場合の平均冷却速度は、概ね3℃/sであるので、水冷を行うことが好ましい。
【0041】
そして、熱間鍛造と室温までの冷却を繰り返し行う。1回のみの鍛造では、β相の結晶粒の数密度の変動係数を0.3以下にすることができなかったり、α相の結晶粒の平均アスペクト比を3.0以下にすることができなかったりする。一方、鍛造及び冷却を11回以上繰り返しても、組織の変化は小さく、徒に歩留まりの低下及び製造コストの増加を招くことがある。冷却後の再加熱中にβ相が均一分散する。
【0042】
α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数を2.0本以上とするためには、最終鍛造時の最大減面率を0.10以上にする必要がある。一方、α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数を10.0本以下とするためには、最終鍛造時の最大減面率を0.50以下にする必要がある。ここで、減面率は、材料の或る断面における鍛造前の断面積A
1と鍛造後の断面積A
2より{(A
1−A
2)/A
1}で計算できる。本発明では最終鍛造の圧縮方向に平行な断面のうち、最も減面率が大きな断面における減面率を最大減面率とする。
【0043】
(機械加工)
熱間鍛造後には切削等の機械加工を行う。例えば、腕時計ケースを製造する場合には、リューズを取り付けるための穴あけや時計バンドを取り付けるための穴あけを行う。
【0044】
(鏡面研磨)
機械加工後には鏡面研磨を行う。湿式研磨、乾式研磨のどちらを行ってもよいが、ダレの抑制の観点から乾式研磨が湿式研磨よりも好ましい。乾式研磨では湿式研磨よりも温度が高くなりやすいが、本実施形態では、適切な量のAlが含有されているため、温度上昇に伴う硬度の低下が抑制される。鏡面研磨の具体的方法は特に規定しないが、例えば、麻系、草系、布系等の研磨用ホイールやサンドペーパーを目的によって使い分けながら行う。
【0045】
このようにして時計部品を製造することができる。
【0046】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0048】
この実施例では、表1に示す化学組成を有する複数の素材を準備した。表1中の空欄は、当該元素の含有量が検出限界未満であったことを示し、残部はTi及び不純物である。表1中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0049】
【表1】
【0050】
次いで、表2−1〜2−2に示す条件で素材の熱間圧延、焼鈍及び熱間鍛造を行い、時計部品形状を模擬した評価用サンプルを作製し、その後に乾式研磨を行った。乾式研磨では、研磨紙の粗い番手から細かい番手へと順に研磨し、その後バフ研磨仕上げし、鏡面を得た。表2−1〜2−2中の下線は、その条件が本発明に係る時計部品の製造に適した範囲から外れていることを示す。
【0051】
【表2-1】
【0052】
【表2-2】
【0053】
そして、乾式研磨後に鏡面性の評価を行った。鏡面性の評価では、写像性を表すパラメータであるDOI(Distinctness of Image)を用いた。DOI測定はASTM D 5767に準拠し、入射光の角度は20°で行った。DOIはたとえば、Rhopoint Instruments社製アピアランスアナライザーRhopoint IQ Flex20などを用いて測定することが出来る。鏡面性はDOIが高いほど良く、DOIが60以上の試料を鏡面性の合格ラインとした。また、鏡面性の評価を行った部材を任意の断面で切断し、鏡面研磨、エッチング後、光学顕微鏡写真を撮影し、この写真を用いて、α相の平均粒径、α相の平均アスペクト比、β相の数密度の変動係数及びα相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数を測定した。また、ビッカース硬さ試験により硬度(Hv5.0)を測定した。
【0054】
これらの結果を表3−1〜3−2に示す。表3−1〜3−2中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れているか、その評価が本発明で得ようとする範囲から外れていることを示す。なお、表3−1〜3−2中、粒径:α相の結晶粒の平均粒径、アスペクト比:α相の結晶粒の平均アスペクト比、β粒密度の変動係数:β相の結晶粒の数密度の変動係数である。
【0055】
【表3-1】
【0056】
【表3-2】
【0057】
表3−1〜3−2に示すように、実施例1〜23では、本発明範囲内にあるため、優れた鏡面性及び加工性を両立することができた。α相の結晶粒1個あたりの平均変形双晶数が2.0〜10.0本の実施例1〜21において、特に良好な結果が得られた。
【0058】
比較例1〜2では、O含有量が高すぎるため、硬度が高すぎて加工性が低い。比較例3では、Al含有量が低すぎるため、硬度が低すぎて鏡面性が低い。比較例4では、Al含有量が高すぎるため、硬度が高すぎて加工性が低い。比較例5では、Fe含有量が低すぎるため、α相の平均粒径が大きすぎ、鏡面性が低い。比較例6では、Fe含有量が高すぎるため、偏析により局所的に針状組織が存在し、β相の数密度の変動係数が高すぎ、鏡面性が低い。比較例7では、O含有量が高すぎ、Fe含有量が低すぎるため、α相の平均粒径が大きすぎ、硬度が低すぎて鏡面性が低い。比較例8では、O含有量及びFe含有量が高すぎるため、硬度が高すぎて加工性が低い。比較例9では、Al含有量及びFe含有量が高すぎるため、β相の数密度の変動係数が高すぎ、鏡面性が低く、硬度が高すぎて加工性が低い。
比較例10では、Fe含有量が高すぎるため、β相の数密度の変動係数が高すぎ、鏡面性が低い。
比較例11〜12では、Al含有量が高すぎ、Fe含有量が低すぎるため、α相の平均粒径が大きすぎ、鏡面性が低く、硬度が高すぎて加工性が低い。比較例13では、O含有量が高すぎ、Al含有量が低すぎるため、鏡面性が低い。比較例14では、O含有量及びAl含有量が高すぎ、Fe含有量が低すぎるため、α相の平均粒径が大きすぎ、鏡面性が低く、硬度が高すぎて加工性が低い。比較例15では、C含有量が高すぎるため、TiCが生成し、鏡面性が低い。
【0059】
比較例16では、熱延温度が高すぎ、α相の平均アスペクト比が大きすぎ、β相の数密度の変動係数が高すぎるため、鏡面性が低い。比較例17では、焼鈍温度が低すぎ、α相の平均アスペクト比が大きすぎるため、鏡面性が低い。比較例18では、焼鈍温度が高すぎ、α相の平均粒径が大きすぎ、α相の平均アスペクト比が大きすぎ、β相の数密度の変動係数が高すぎるため、鏡面性が低い。比較例19では、焼鈍時間が短すぎ、α相の平均アスペクト比が大きすぎるため、鏡面性が低い。比較例20では、焼鈍時間が長すぎ、α相の平均粒径が大きすぎるため、鏡面性が低い。比較例21では、鍛造温度が低すぎるため、金型に損傷が生じて試料を作製できなかった。比較例22では、鍛造温度が高すぎ、α相の平均アスペクト比が大きすぎ、β相の数密度の変動係数が高すぎるため、鏡面性が低い。比較例23では、鍛造回数が少なすぎ、α相の平均アスペクト比が大きすぎ、β相の数密度の変動係数が高すぎるため、鏡面性が低い。比較例24では、鍛造後の平均冷却速度が低すぎ、β相の数密度の変動係数が高すぎるため、鏡面性が低い。比較例25〜26では、鍛造を行わず、β相の数密度の変動係数が高すぎるため、鏡面性が低い。