【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。また、実施例および比較例における電気化学評価、粉末X線回折測定および硫黄原子含有量分析は、以下の方法および手順により行った。
【0029】
実施例1:
(1)酸素還元触媒の作製
一硫化コバルト(CoS)(和光純薬工業製)0.5gを秤量し、石英インナーケースに入れ、回転焼成炉(モトヤマ社製)を用いて窒素ガス(ガス流量95mL/分)および酸素ガス(ガス流量5mL/分)の混合ガス雰囲気下で昇温速度10℃/分で600℃まで昇温し、600℃において12時間焼成を行った。次に、焼成して得られた焼成物を純水中に入れて、マグネティックスターラーを用いて室温、14時間200rpmの条件で撹拌して水洗処理した。水洗処理されたものをろ過して得た粉末を、90℃で2時間乾燥させて酸素還元触媒(1)を得た。
【0030】
(2)電気化学評価
(触媒電極作製)
酸素還元触媒を含む触媒層を備える燃料電池用電極(以下「触媒電極」)の作製は次のように行った。得られた酸素還元触媒(1)15mg、2−プロパノール1.0mL、イオン交換水1.0mLおよびナフィオン(NAFION(登録商標)、5%ナフィオン水溶液、和光純薬工業製)62μLを含む溶液に超音波を照射して攪拌し、懸濁液を得た。この懸濁液20μLをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、70℃で1時間乾燥して、酸素還元触媒活性測定用の触媒電極を得た。
(酸素還元触媒活性測定)
酸素還元触媒(1)の酸素還元活性触媒能の電気化学評価を次のように行った。上記触媒電極作製において作製した触媒電極を、酸素ガス雰囲気および窒素ガス雰囲気のそれぞれにおいて、30℃0.5mol/dm
3の硫酸水溶液中、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流―電位曲線を測定した。また、酸素ガス雰囲気で分極していない状態の自然電位(開回路電位)を得た。その際、同濃度の硫酸水溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
前記電気化学評価で得た電流―電位曲線のうち酸素ガス雰囲気での還元電流曲線と窒素ガス雰囲気での還元電流曲線との差分から10μAにおける電極電位(以下、単に電極電位とも記す。)を得た。また、前記電極電位と前記自然電位を用いて酸素還元触媒(1)の酸素還元触媒能を評価した。酸素還元活性の指標として得られた自然電位を表1に示す。
【0031】
(3)粉末X線回折(XRD)測定
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、酸素還元触媒(1)の粉末X線回折測定を行った。X線回折測定条件としては、Cu−Kα線(出力45kV、40mA)を用いて回折角2θ=10〜70°の範囲で測定を行い、酸素還元触媒(1)のX線回折スペクトルを得た。得られたX線回折(XRD)スペクトルを
図1に示す。XRDスペクトルにおいて四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)の結晶構造のみが確認された。回折ピークのうち、四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ○および△で示す。
四酸化三コバルト(Co
3O
4)結晶に対応するピークのうちの最も強い回折ピークの強度(H1)および一酸化コバルト(CoO)結晶に対応するピークのうちの最も強い回折ピークの強度(H2)を求め、下記の計算式により、作製した酸素還元触媒中における四酸化三コバルト(Co
3O
4)の含有量を求めた。同様に、一酸化コバルト(CoO)の含有量を求めた。なお、回折ピークの強度は、装置付属のソフトウェアHighScore Plusを用いてバックグラウンド指定処理(処理条件、バックグラウンド指定:自動、粒状度:20、ベンディングファクタ:17)したうえで、回折ピークの強度とした。
四酸化三コバルト含有率(%)={H1/(H1+H2)}×100
一酸化コバルト含有率(%)={H2/(H1+H2)}×100
酸素還元触媒(1)のXRDスペクトルでは、確認された上記各回折ピーク強度が表1記載のとおりに観測され、四酸化三コバルト含有率および一酸化コバルト含有率がそれぞれ82.9%、17.1%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピークの強度、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、および自然電位を併せて表1に示す。
【0032】
(4)硫黄原子含有量
酸素還元触媒(1)10mgをセラミックるつぼに秤量し、助燃剤としてタングステン粉およびスズ粉を適当量加えて、炭素・硫黄分析装置(型番:EMIA−920V、堀場製作所製)を用いて酸素ガス気流下で昇温して赤外線吸収法で測定した。ここで得られた硫黄原子含有量(質量%)を表1に併せて示す。
【0033】
実施例2:
(酸素還元触媒の作製)
焼成する時間を6時間に変更した以外は、実施例1と同様にして酸素還元触媒(2)を得た。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。酸素還元触媒(2)のXRDスペクトルを
図2に示す。XRDスペクトルにおいて四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)の結晶構造のみが確認された。回折ピークのうち、四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ○および△で示す。
酸素還元触媒(2)のXRDスペクトルでは、確認された上記各回折ピーク強度が表1記載のとおりに得られ、四酸化三コバルト含有率および一酸化コバルト含有率がそれぞれ74.7%、25.3%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピークの強度、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を併せて表1に示す。
【0034】
実施例3:
(酸素還元触媒の作製)
焼成する時間を3時間に変更した以外は、実施例1と同様にして酸素還元触媒(3)を得た。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。酸素還元触媒(3)のXRDスペクトルを
図3に示す。XRDスペクトルにおいて四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)の結晶構造のみが確認された。回折ピークのうち、四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ○および△で示す。
酸素還元触媒(3)のXRDスペクトルでは、確認された上記各回折ピーク強度が表1記載のとおりに得られ、四酸化三コバルト含有率および一酸化コバルト含有率が62.3%、37.7%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピークの強度、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を併せて表1に示す。
【0035】
実施例4:
(酸素還元触媒の作製)
焼成において用いた混合ガス雰囲気を、窒素ガス(ガス流量97mL/分)および酸素ガス(ガス流量3mL/分)の混合ガス雰囲気に変更した以外は、実施例3と同様にして酸素還元触媒(4)を得た。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。酸素還元触媒(4)のXRDスペクトルを
図4に示す。XRDスペクトルにおいて四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)の結晶構造のみが確認された。回折ピークのうち、四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ○および△で示す。
酸素還元触媒(4)のXRDスペクトルでは、確認された上記各回折ピーク強度が表1記載のとおりに得られ、四酸化三コバルト含有率および一酸化コバルト含有率がそれぞれ20.4%、79.6%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピークの強度、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を併せて表1に示す。
【0036】
比較例1:
(酸素還元触媒の作製)
焼成において用いた混合ガス雰囲気を、窒素ガス(ガス流量99mL/分)および酸素ガス(ガス流量1mL/分)の混合ガス雰囲気に変更した以外は、実施例3と同様にして酸素還元触媒(c1)を得た。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。得られたXRDスペクトルを
図5に示す。XRDスペクトルにおいて一酸化コバルト(CoO)、Co
9S
8および一硫化コバルト(CoS)の結晶構造のみが確認された。回折ピークのうち、一酸化コバルト(CoO)、Co
9S
8および一硫化コバルト(CoS)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ△、●および▲で示す。確認された結晶の最も強い回折ピークの強度が表1記載のとおりに得られた。一酸化コバルト含有率は100%と求められた。酸素還元触媒(c1)のXRDスペクトルでは四酸化三コバルト(Co
3O
4)の結晶構造は確認されず、四酸化三コバルト含有率は0%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピークの強度、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を併せて表1に示す。
【0037】
比較例2:
(酸素還元触媒の作製)
焼成において用いた混合ガス雰囲気を、窒素ガス(ガス流量100mL/分)および酸素ガス(ガス流量0.5mL/分)の混合ガス雰囲気に変更した以外は、実施例3と同様にして酸素還元触媒(c2)を得た。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。得られたXRDスペクトルを
図6に示す。XRDスペクトルにおいて、一酸化コバルト(CoO)、Co
9S
8および一硫化コバルト(CoS)の結晶構造のみが確認された。回折ピークのうち、一酸化コバルト(CoO)、Co
9S
8および一硫化コバルト(CoS)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ△、●および▲で示す。確認された上記各回折ピークの強度が表1記載のとおりに得られた。一酸化コバルト含有率は100%と求められた。酸素還元触媒(c2)のXRDスペクトルでは四酸化三コバルト(Co
3O
4)の結晶構造は確認されず、四酸化三コバルト含有率は0%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピーク強度、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を併せて表1に示す。
【0038】
比較例3:
(酸素還元触媒の作製)
焼成する温度を400℃に変更した以外は、比較例2と同様にして酸素還元触媒(c3)を得た。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。得られたXRDスペクトルを
図7に示す。XRDスペクトルにおいて、Co
9S
8、一硫化コバルト(CoS)および四硫化三コバルト(Co
3S
4)の結晶構造が確認された。回折ピークのうち、Co
9S
8、一硫化コバルト(CoS)および四硫化三コバルト(Co
3S
4)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ●、▲および■で示す。確認された結晶の最も強い回折ピークの強度が表1記載のとおりに得られた。酸素還元触媒(c3)のXRDスペクトルでは四酸化三コバルト(Co
3O
4)の結晶構造は確認されず、四酸化三コバルト含有率および一酸化コバルト含有率はともに0%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピーク強度、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を併せて表1に示す。
【0039】
比較例4:
(酸素還元触媒)
実施例1で原料として用いた一硫化コバルト(CoS)をそのまま酸素還元触媒(c4)として用いた。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。得られたXRDスペクトルを
図8に示す。XRDスペクトルにおいて、Co
9S
8、一硫化コバルト(CoS)および四硫化三コバルト(Co
3S
4)の結晶構造のみが確認された。回折ピークのうち、Co
9S
8、一硫化コバルト(CoS)および四硫化三コバルト(Co
3S
4)にそれぞれ対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークをそれぞれ●、▲および■で示す。確認された上記各回折ピークの強度が表1記載のとおりに得られた。酸素還元触媒(c4)のXRDスペクトルでは四酸化三コバルト(Co
3O
4)および一酸化コバルト(CoO)の結晶構造はいずれも確認されず、四酸化三コバルト含有率および一酸化コバルト含有率はともに0%と求められた。XRD測定において確認された上記各回折ピーク強度と、四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位、および硫黄原子含有量とを併せて表1に示す。
【0040】
比較例5:
(酸素還元触媒)
市販の四酸化三コバルト(Co
3O
4)(キシダ化学製、有機元素分析用グレード)をそのまま酸素還元触媒(c5)として用いた。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。
酸素還元触媒(c5)のXRDスペクトルを
図9に示す。XRDスペクトルにおいて、四酸化三コバルト(Co
3O
4)に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークを○で示す。酸素還元触媒(c5)のXRDスペクトルでは、四酸化三コバルト(Co
3O
4)のみが確認され、四酸化三コバルト含有率は100%と求められた。一酸化コバルト含有率は0%と求められた。
酸素還元触媒(c5)の四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を表1に併せて示す。
【0041】
比較例6:
(酸素還元触媒)
市販の一酸化コバルト(CoO)(和光純薬工業製)をそのまま酸素還元触媒(c6)として用いた。
(電気化学測定、XRD測定、硫黄原子含有量)
電気化学測定、XRD測定および硫黄原子含有量は、それぞれ実施例1と同様に測定および分析を行った。
酸素還元触媒(c6)のXRDスペクトルを
図10に示す。XRDスペクトルにおいて、一酸化コバルト(CoO)に対応するピークのうちの最も強い回折強度のピークを△で示す。酸素還元触媒(c6)のXRDスペクトルでは、一酸化コバルト(CoO)のみが確認され、一酸化コバルト含有率は100%と求められ、四酸化三コバルト含有率は0%と求められた。
酸素還元触媒(c6)の四酸化三コバルト含有率、一酸化コバルト含有率、自然電位および硫黄原子含有量を表1に併せて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例の結果より、四酸化三コバルト(Co
3O
4)の結晶構造を有するとともに、硫黄原子含有量が1.0〜15.0質量%の範囲の酸素還元触媒は、自然電位が高い。