(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570823
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】データ転送システム、及びシステムを構成するワイヤレスマイクロフォンと受信機
(51)【国際特許分類】
H04B 1/38 20150101AFI20190826BHJP
H04L 29/08 20060101ALI20190826BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20190826BHJP
H04B 1/16 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
H04B1/38
H04L13/00 307C
H04B1/04 K
H04B1/16 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-224595(P2014-224595)
(22)【出願日】2014年11月4日
(65)【公開番号】特開2016-92588(P2016-92588A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】古野 宏晃
【審査官】
佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−184163(JP,A)
【文献】
特開2001−244911(JP,A)
【文献】
特開2002−135156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/38
H04B 1/04
H04B 1/16
H04L 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤレスマイクロフォンと受信機との間で、所定の転送レートに従って処理されたデジタル音声信号を送受信するデータ転送システムにおいて、
前記ワイヤレスマイクロフォンには、
転送レート決定の処理を開始するための決定開始部と、
前記決定開始部からの指令に基づいて検出信号を受信機に対して発信する検出信号発信部と、
受信機からの転送レート値を受信する転送レート受信部が設けられ、
前記受信機には、
ワイヤレスマイクロフォンからの検出信号を受信する検出信号受信部と、
受信した検出信号のマルチパスによる伝搬遅延時間を測定する遅延検出部と、
遅延検出部が測定した検出信号の遅延量に従って、ワイヤレスマイクロフォンと受信機間の転送レートを決定する転送レート決定部と、
転送レート決定部において決定された転送レート値をワイヤレスマイクロフォンに送信する転送レート送信部が設けられ、
前記ワイヤレスマイクロフォンは、受信機から通知された転送レート値に従って、デジタル音声信号の圧縮処理を行うことを特徴とするデータ転送システム。
【請求項2】
前記決定開始部が、ワイヤレスマイクロフォンの電源投入スイッチと連動するものであることを特徴とする請求項1に記載のデータ転送システム。
【請求項3】
所定の転送レートに従って処理されたデジタル音声信号を送信するワイヤレスマイクロフォンにおいて、
転送レート決定の処理を開始するための決定開始部と、
前記決定開始部からの指令に基づいて検出信号を受信機に対して発信する検出信号発信部と、
受信機からの転送レート値を受信する転送レート受信部が設けられ、
受信機から通知された転送レート値に従って、デジタル音声信号の圧縮処理を行うことを特徴とするワイヤレスマイクロフォン。
【請求項4】
ワイヤレスマイクロフォンにおいて所定の転送レートに従って処理されたデジタル音声信号を受信する受信機において、
ワイヤレスマイクロフォンからの転送レート決定用の検出信号を受信する検出信号受信部と、
受信した検出信号のマルチパスによる伝搬遅延時間を測定する遅延検出部と、
遅延検出部が測定した検出信号の遅延量に従って、ワイヤレスマイクロフォンと受信機間の転送レートを決定する転送レート決定部と、
転送レート決定部において決定された転送レート値をワイヤレスマイクロフォンに送信する転送レート送信部が設けられていることを特徴とする受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルワイヤレスマイクなどの無線通信装置におけるデータ転送システムに関するものであって、特に、マルチパスなどの符号間干渉を抑制するための技術に係る。
【背景技術】
【0002】
従来のデジタルワイヤレスマイクは、データ転送レートが固定されている。そのため、
マルチパスなどにより符号間干渉が発生すると、データの転送ができなくなり、音声を出力できないという問題点があった。マルチパスなどによる符号間干渉を解消する技術としては、例えば、特許文献1や特許文献2に示すように、各種のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−88464号公報
【特許文献2】特開2007−194706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明は、一定周期時間内におけるパケット損失に基づいて、無線LAN通信における最適な転送レートを定めるものである。すなわち、スループット性能を、送信完了のパケット数と転送レートから計算した時間とにより、スループット性能=完了パケット数/時間として算出し、その結果に応じて転送レートを定めるものである。しかし、この従来技術は、データの再送信が可能な無線LANなどには有効でも、再送信を行うと音声が出力できなくなるワイヤレスマイクなどには適用できなかった。
【0005】
特許文献2の発明は、マルチパスによるエラー発生の可能性のある電波伝搬環境に応じて映像や画像データの圧縮率を可変とし、かつこれに伴ってクロック周波数を変化させ、マルチパスによる伝搬行路差をエラーとならない範囲にして通信するものである。しかし、この従来技術も、受信信号にエラーが発生し信号品質が低下したことを検出して転送レートを変更するものであるから、音声データの転送に適用した場合には、音声出力が途切れる問題があった。
【0006】
本発明の目的は、使用する空間の電波伝搬特性を測定することにより、マルチパスが発生しても、符号間干渉が発生しないデータ転送レートを自動的に設定することのできるデータ転送システムと、そのシステムを構成する送信機及び受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のデータ転送システムは、次のような構成を有することを特徴とする。
(1)
ワイヤレスマイクロフォンと受信機との間で、所定の転送レートに従って処理されたデジタル音声信号を送受信するデータ転送システムである。
(2)
ワイヤレスマイクロフォンには、
(2−1) 転送レート決定の処理を開始するための決定開始部と、
(2−2) 前記決定開始部からの指令に基づいて検出信号を受信機に対して発信する検出信号発信部と、
(2−3) 受信機からの転送レート値を受信する転送レート受信部が設けられている。
(3) 受信機には、
(3−1)
ワイヤレスマイクロフォンからの検出信号を受信する検出信号受信部と、
(3−2) 受信した検出信号のマルチパスによる伝搬遅延時間を測定する遅延検出部と、
(3−3) 遅延検出部が測定した検出信号の遅延量に従って、
ワイヤレスマイクロフォンと受信機間の転送レートを決定する転送レート決定部と、
(3−4) 転送レート決定部において決定された転送レート値を
ワイヤレスマイクロフォンに送信する転送レート送信部が設けられている。
(4)
ワイヤレスマイクロフォンは、受信機から通知された転送レート値に従って、デジタル音声信号の圧縮処理を行う。
【0008】
前記データ転送システムを構成する送信機あるいは受信機も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、送信機から発信した遅延検出信号を受信機が受信した際に、受信機における前記遅延検出信号の伝搬遅延時間を測定し、その遅延時間に基づいて転送レートを設定し、これを送信機に送信することにより、送信機において音声信号の転送レートを決定するものである。その結果、本発明によれば、音声信号の転送に先立って、電波の伝搬環境に適した転送レートを決定することができるので、音声信号の送信中に音声出力が途切れたり、異音が発生するなどの不都合が解消される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のデータ転送システムの一実施形態を示すブロック図。
【
図2】
図1の実施の形態における送信機の音声信号処理部の構成を示すブロック図。
【
図3】
図1の実施の形態における受信機の音声信号処理部の構成を示すブロック図。
【
図4】
図1の実施形態における転送レート決定の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をワイヤレスマイクロフォンに適用した実施形態を、
図1に従って具体的に説明する。
図1において、符号1はワイヤレスマイクロフォン、2はその受信機である。
【0012】
[1.音声信号の処理部]
ワイヤレスマイクロフォン1には音声信号入力部11が設けられ、この音声信号入力部11において、ユーザが発生した音声がアナログの電気信号に変換される。音声信号入力部11の出力側には、アナログ電気信号に変換された音声信号を送信用のデジタル信号に変換する音声信号処理部12が設けられている。
【0013】
この音声信号処理部12は、
図2に示すように、アナログ音声信号を増幅する増幅器121と、デジタル変換するA/Dコンバータ122と、A/Dコンバータ122から入力されたデジタル音声信号を圧縮して低ビットレートのデジタルストリームに変換するコーデック123を備えている。また、圧縮されたオーディオデータに無線伝送に必要な同期データやエラー処理用データを加えたうえ暗号化処理を行う通信路符号化処理部124と、通信路符号化処理を行ったデジタルストリームをデジタル無線伝送するための変調信号を生成するデジタル変調器125を備えている。
【0014】
音声信号処理部12の出力側には音声信号送信部13が設けられ、音声信号処理部12のデジタル変調器125において生成された変調信号は、音声信号送信部13に設けられたRFブロックに入力され、RFブロックは変調された搬送波を必要な送信電力まで増幅して送信する。
【0015】
受信機2は、RFブロックを有する音声信号受信部21と、音声信号受信部21で受信したデジタル信号をアナログ音声信号に変換してスピーカなどの出力装置3に出力する音声処理部22を有する。
【0016】
音声処理部22は、
図3に示すように、RFブロックで受信した信号を通信路符号化されたデジタルストリームに変換するデジタル復調器221と、同期処理、暗号処理、エラー処理、オーディオデータ抽出処理を行う通信路復号化処理部222と、ワイヤレスマイクロフォン1側で低転送レートに圧縮された信号を伸張するコーデック223を有する。
【0017】
コーデック223により再生されたデジタル音声信号は、D/Aコンバータ224と増幅器225を経由して、アナログ音声信号として出力装置3から出力するか、AES/EBUのような標準的なオーディオインターフェースでデジタル出力する。
【0018】
[2.転送レートの決定処理部]
ワイヤレスマイクロフォン1には、転送レート決定の処理を開始するための決定開始部14が設けられている。この決定開始部14は、ワイヤレスマイクロフォン1の電源投入スイッチや、あるいは転送レート決定の処理を開始するための専用のスイッチと連動するものであって、これらのスイッチを投入することにより、ワイヤレスマイクロフォン1を転送レート決定モードに移行させる。
【0019】
決定開始部14の出力側には、検出信号発信部15が設けられている。この検出信号発信部15は、決定開始部14からの指令に基づいて、特定のデータパターンや、パルス性の信号から成る検出信号を受信機2に対して発信する。
【0020】
受信機2には、ワイヤレスマイクロフォン1からの検出信号を受信する検出信号受信部23が設けられている。この検出信号受信部23の出力側には、受信した検出信号のマルチパスによる伝搬遅延時間を測定する遅延検出部24が設けられている。この遅延検出部24は、同一の検出信号が複数検出された場合に、複数の検出信号間の遅延量を測定するのであって、その遅延量が適正範囲内にあるか否か、遅延量が適正範囲を超える場合にはどの程度のレベルであるかを判定する。
【0021】
遅延検出部24の出力側には、転送レート決定部25が設けられている。この転送レート決定部25は、遅延検出部24から送られた検出信号の遅延量に従って、ワイヤレスマイクロフォン1と受信機2間の転送レートを決定する。すなわち、転送レート決定部25は予め複数の転送レート値を登録したレジスタなどの記憶部を備えており、遅延検出部24において、検出信号の遅延が発見されない場合には、記憶部から最速の転送レートを選択し、検出信号に遅延が検出された場合には、その遅延のレベルに対応した転送レートを記憶部から選択する。
【0022】
転送レート決定部25において決定された転送レート値は、転送レート送信部26を介してワイヤレスマイクロフォン1に設けられた転送レート受信部16に送信される。転送レート受信部16は、ワイヤレスマイクロフォン1の音声信号処理部12及び音声信号送信部13に接続されている。この受信機2から通知された転送レートに基づいて、音声信号処理部12のコーデック123及び通信路符号化処理部124におけるデジタル音声信号の圧縮処理と、音声信号送信部13からの無線データの伝送速度が決定される。
【0023】
転送レート決定部25において決定された転送レート値は、受信機2の音声信号受信部21と音声信号処理部22にも出力される。すなわち、音声信号受信部21においては、決定された転送レート値に応じた伝送速度に基づいてRFブロックの受信処理が行われ、音声信号処理部22においては、この転送レートに従って通信路復号化処理部222及びコーデック223により音声信号の復号化及び伸張処理が行われる。
【0024】
[3.実施形態の作用]
図4(a)〜(e)は、前記のような構成を有する本実施形態のデータ転送システムの動作を示すフローチャートである。
【0025】
図4(a)に示すように、転送レート決定の決定開始部14である電源投入スイッチや、あるいは転送レート決定用のスイッチを投入することにより、ワイヤレスマイクロフォン1を転送レート決定モードに移行させる。この決定開始部14からの指令に基づいて、検出信号発信部15は、特定のデータパターンや、パルス性の信号から成る検出信号を受信機2に対して発信する。
【0026】
図4(b)に示すように、受信機2の検出信号受信部23がワイヤレスマイクロフォン1からの検出信号を受信すると、その遅延検出部24が受信した検出信号のマルチパスによる伝搬遅延時間を測定し、その遅延量が適正範囲内にあるか否か、遅延量が適正範囲を超える場合にはどの程度のレベルであるかを判定する。この遅延検出部24から送られた検出信号の遅延量に従って、転送レート決定部25はワイヤレスマイクロフォン1と受信機2間の転送レートを決定する。
【0027】
図4(c)に示すように、転送レート決定部25において決定された転送レート値は、転送レート送信部26を介してワイヤレスマイクロフォン1に設けられた転送レート受信部16に送信される。
【0028】
図4(d)に示すように、ワイヤレスマイクロフォン1の転送レート受信部16が転送レート値を受信し、この受信機2から通知された転送レートに基づいて、音声信号処理部12のコーデック123及び通信路符号化処理部124におけるデジタル音声信号の圧縮処理と、音声信号送信部13からの無線データの伝送速度が決定される。
【0029】
図4(e)に示すように、ワイヤレスマイクロフォン1は、受信機2から通知された転送レートに基づいて処理されたデータ転送レートに従って、音声信号を受信機2に送信する。受信機2の音声信号受信部21においては、決定された転送レート値に応じた伝送速度に基づいてRFブロックの受信処理が行われ、音声信号処理部22においては、この転送レートに従って通信路復号化処理部222及びコーデック223により音声信号の復号化及び伸張処理が行われる。
【0030】
[4.実施形態の効果]
本実施形態によれば、ワイヤレスマイクロフォン1と受信機2の双方向通信と、ワイヤレスマイクロフォンを使用する空間の電波伝搬特性を検出する機能、及び、最適なデータ転送レートを決定する機能を持つことにより、使用する空間に合わせたデータ転送レートを設定できるので、マルチパスによる通信障害を低減することができる効果を有する。
【0031】
特に、本発明は、マルチパスによる通信障害を、通信データである音声信号とは別に用意した検出信号の遅延量に基づいて予め検出するので、音声信号の通信時には最適な転送レットが決定されることになり、送信する音声信号を利用して電波伝搬特性を決定する従来技術に比較して、音声信号の通信時おける音切れなどの障害を効果的に防止できる。
【0032】
[5.他の実施形態]
本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、次のような他の実施形態も包含する。
【0033】
(1)図示の実施形態は、ワイヤレスマイクロフォンを例に挙げたが、本発明を適用する通信装置としては、ワイヤレスマイクロフォンに限定されず、双方向で音声信号を授受する他の通信装置にも適用可能である。その場合、双方の通信装置に、検出信号発信部と転送レートの決定部を設けることができる。
【0034】
(2)複数のワイヤレスマイクロフォンを使用する場合、各ワイヤレスマイクロフォンと受信機との位置が異なり、マルチパスの経路も異なるような場合には、各ワイヤレスマイクロフォンから発信する検出信号のパターンや周波数を異なるものとしたり、検出信号にIDを付すことで、各ワイヤレスマイクロフォンと受信機との遅延量を別々に検出することもできる。その場合、ワイヤレスマイクロフォンごとに異なる最適な転送レートを受信機から送信することもできる。
【符号の説明】
【0035】
1…ワイヤレスマイクロフォン
11…音声信号入力部
12…音声信号処理部
121…増幅器
122…A/Dコンバータ
123…コーデック
124…通信路符号化処理部
125…デジタル変調器
13…音声信号送信部
14…転送レート決定開始部
15…検出信号発信部
16…転送レート受信部
2…受信機
21…音声信号受信部
22…音声信号処理部
221…デジタル復調器
222…通信路復号化処理部
223…コーデック
224…D/Aコンバータ
225…増幅器
23…検出信号受信部
24…遅延検出部
25…転送レート決定部
26…転送レート送信部
3…出力装置