(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ブレーキロータと、このブレーキロータに接触させる摩擦部材と、この摩擦部材を前記ブレーキロータに接触させる摩擦部材操作手段と、この摩擦部材操作手段を駆動する電動モータと、前記電動モータによりブレーキ力を制御する制御装置とを備える電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記電動モータにおける複数の励磁コイルの発熱量の均衡度合を推定する熱均衡度合推定手段と、
前記複数の励磁コイルのうち特定の励磁コイルの発熱量が、他の励磁コイルの発熱量より多いと前記熱均衡度合推定手段で推定されたとき、前記特定の励磁コイルの発熱量を下げる熱負荷均衡手段と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記摩擦部材を前記ブレーキロータに押し付けることにより発生するブレーキ力の推定値を求めるブレーキ力推定手段を備え、前記制御装置は、目標ブレーキ力に対して前記ブレーキ力を追従制御する許容誤差を設定する許容誤差設定手段を有し、
前記熱負荷均衡手段は、前記許容誤差設定手段で設定された前記許容誤差の範囲内で、前記特定の励磁コイルの電流の絶対値が元の値よりも小さくなる通電位相となるよう、前記ブレーキ力を変動させる電動ブレーキ装置。
請求項2に記載の電動ブレーキ装置において、前記許容誤差設定手段は、前記目標ブレーキ力または前記ブレーキ力が大きくなるほど前記許容誤差が大きくなるよう、前記許容誤差を変動させる電動ブレーキ装置。
請求項2または請求項3に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記電動ブレーキ装置を搭載する車両の車速情報を取得する車速情報取得手段を備え、前記許容誤差設定手段は、前記車速情報取得手段で取得する車速が低くなるほど前記許容誤差が大きくなるよう、前記許容誤差を変動させる電動ブレーキ装置。
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記熱均衡度合推定手段は、各励磁コイルにおける電流の推定値の二乗に比例する値の積算値から、前記各励磁コイルの発熱量の均衡度合を推定する電動ブレーキ装置。
請求項5に記載の電動ブレーキ装置において、定められた励磁コイルにおける前記積算値とその他の励磁コイルにおける前記積算値の差分、および前記差分の比率のうちいずれか1つまたは両方の値が閾値を超過したと前記熱均衡度合推定手段が判断すると、前記熱負荷均衡手段は特定の励磁コイルの発熱量を下げる電動ブレーキ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2のような電動ブレーキ装置において、電動モータのコイルに異常が発生するとブレーキ機能が低下する等の恐れがある。この電動モータは車両に対する搭載スペースが非常に限られており、また電動モータのサイズが増加することによる車両のバネ下重量の増加が乗員の乗り心地の悪化を招く問題がある。このため、モータコイルの銅損を下げて発熱量を下げる設計は困難となる場合がある。
【0005】
上記の事態を回避するために、モータコイルの温度管理が求められる。例えば、特許文献4に示すような、銅の抵抗値の温度依存特性を用いてモータコイル温度を推定する手法や、例えば、特許文献3に示すような、モータコイルにサーミスタ等の感温素子を配置する手法が一般的に用いられる。
【0006】
しかしながら、例えば、電動ブレーキに用いる電動式アクチュエータのようなシステムのサーボモータにおいては、電流が所定のコイルに集中して発熱に偏りが生じ、正確なコイル温度が把握できない場合がある。また、正確にコイル温度が把握できたとしても、前記の電流の集中により特定のコイルのみ熱負荷が集中して余裕がなくなり、熱に対する耐久性が低下する可能性がある。
【0007】
この発明の目的は、電動ブレーキ装置の電動モータについて、熱に対する耐久性の向上を図ることができる電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータ8と、このブレーキロータ8に接触させる摩擦部材9と、この摩擦部材9を前記ブレーキロータ8に接触させる摩擦部材操作手段6と、この摩擦部材操作手段6を駆動する電動モータ4と、前記電動モータ4によりブレーキ力を制御する制御装置2とを備える電動ブレーキ装置において、
前記制御装置2は、
前記電動モータ4における複数の励磁コイル4cの発熱量の均衡度合を推定する熱均衡度合推定手段19と、
前記複数の励磁コイル4cのうち特定の励磁コイル4cの発熱量が、他の励磁コイル4cの発熱量より多いと前記熱均衡度合推定手段19で推定されたとき、前記特定の励磁コイル4cの発熱量を下げる熱負荷均衡手段23とを有することを特徴とする。
前記励磁コイル4cは、電動モータ4において回転のための磁極を構成するコイルである。
前記発熱量の均衡度合とは、各励磁コイル4cの損失がばらつくことに起因する、各励磁コイル4cに生じる発熱量の相対的な差である。
【0009】
この構成によると、ブレーキ力を一定に保持する場合、モータ相電流は常に一定に印加され続ける。このため、各励磁コイル4cの損失がばらつき、各励磁コイル4cに発熱量の差が生じる。そこで熱均衡度合推定手段19は、複数の励磁コイル4cの発熱量の均衡度合を推定する。熱負荷均衡手段23は、熱均衡度合推定手段19により特定の励磁コイル4cの発熱量が他の励磁コイル4cの発熱量よりも多いと推定されたとき、前記特定の励磁コイル4cの発熱量を下げる。これにより、電動モータ4の熱に対する耐久性の向上を図ることができる。したがって、電動モータ4につき、定格トルクの向上または最大トルクの出力限界時間の延長を行うことが可能となる。また、トルクに対する銅損の設計要件を引き下げ、電動モータ4の小型・軽量化を図ることが可能となる。
【0010】
前記摩擦部材9を前記ブレーキロータ8に押し付けることにより発生するブレーキ力の推定値を求めるブレーキ力推定手段Saを備え、前記制御装置2は、目標ブレーキ力に対して前記ブレーキ力を追従制御する許容誤差を設定する許容誤差設定手段24を有し、
前記熱負荷均衡手段23は、前記許容誤差設定手段24で設定された前記許容誤差の範囲内で、前記特定の励磁コイル4cの電流の絶対値が元の値よりも小さくなる通電位相となるよう、前記ブレーキ力を変動させるものとしても良い。
【0011】
この場合、許容誤差設定手段24は、目標ブレーキ力を無視して電動モータ4を動作させて良い範囲(許容誤差の範囲)を設定する。熱負荷均衡手段23は、この許容誤差の範囲内で、特定の励磁コイル4cの電流の絶対値が元の値よりも小さくなる通電位相となるよう、前記ブレーキ力を僅かに変動させることで特定の励磁コイル4cの発熱量を下げる。このように目標ブレーキ力に対して許容誤差の範囲内でブレーキ力を僅かに変動させることで、各励磁コイル4cの発熱量(熱負荷)を均等化できる。
【0012】
前記許容誤差設定手段24は、前記目標ブレーキ力または前記ブレーキ力が大きくなるほど前記許容誤差が大きくなるよう、前記許容誤差を変動させても良い。この場合、電動モータ4が発熱し易い大きなブレーキ力の場合に、熱負荷均衡手段23がブレーキ力を変動させる制御を実行し易く、電動モータ4が発熱し難いブレーキ力が低い場合に前記制御を実行し難いように木目細かい制御を行うことができる。これにより、想定外のブレーキ力変動が発生し難いため好適である。
【0013】
前記制御装置2は、前記電動ブレーキ装置DBを搭載する車両の車速情報を取得する車速情報取得手段26を備え、前記許容誤差設定手段24は、前記車速情報取得手段26で取得する車速が低くなるほど前記許容誤差が大きくなるよう、前記許容誤差を変動させるようにしても良い。この場合、例えば、車両の中低速走行時に許容誤差を大きくして、熱負荷均衡手段23がブレーキ力を変動させる制御を実行し易くでき、精度の高いブレーキ力制御が求められる車両の高速走行時は、許容誤差を小さくして前記制御を実行し難いように木目細かい制御を行うことができる。
【0014】
前記熱均衡度合推定手段19は、各励磁コイル4cにおける電流の推定値の二乗に比例する値の積算値から、前記各励磁コイル4cの発熱量の均衡度合を推定するようにしても良い。ある所定のブレーキ力を維持する場合において、励磁コイル4cの銅損は電流の二乗に比例するため、熱均衡度合推定手段19は、各励磁コイル4cにおける電流の推定値の二乗に比例する値の積算値から、各励磁コイル4cの発熱量の均衡度合を推定する。
【0015】
定められた励磁コイル4cにおける前記積算値とその他の励磁コイル4cにおける前記積算値の差分、および前記差分の比率のうちいずれか1つまたは両方の値が閾値を超過したと前記熱均衡度合推定手段19が判断すると、前記熱負荷均衡手段23は特定の励磁コイル4cの発熱量を下げるようにしても良い。
前記閾値は、例えば、試験やシミュレーションの結果により定められる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータと、このブレーキロータに接触させる摩擦部材と、この摩擦部材を前記ブレーキロータに接触させる摩擦部材操作手段と、この摩擦部材操作手段を駆動する電動モータと、前記電動モータによりブレーキ力を制御する制御装置とを備える電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記電動モータにおける複数の励磁コイルの発熱量の均衡度合を推定する熱均衡度合推定手段と、前記複数の励磁コイルのうち特定の励磁コイルの発熱量が、他の励磁コイルの発熱量より多いと前記熱均衡度合推定手段で推定されたとき、前記特定の励磁コイルの発熱量を下げる熱負荷均衡手段とを有する。このため、電動ブレーキ装置の電動モータについて、熱に対する耐久性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を
図1ないし
図6と共に説明する。
図1に示すように、電動ブレーキ装置DBは、電動ブレーキアクチュエータ1と、制御装置2とを有する。電動ブレーキ装置DBは車両に搭載される。この場合、図示しないが、例えば、車輪毎に電動ブレーキ装置DBがそれぞれ設けられる。制御装置2に、電源装置3と、制御装置2の上位制御手段である上位ECU17とが接続されている。先ず、電動ブレーキアクチュエータ1について説明する。
【0019】
図2に示すように、電動ブレーキアクチュエータ1は、電動モータ4と、この電動モータ4の回転を減速する減速機構5と、摩擦部材操作手段である直動機構6と、駐車ブレーキであるパーキングブレーキ機構7と、ブレーキロータ8と、摩擦部材9とを有する。電動モータ4、減速機構5、および直動機構6は、例えば、図示外のハウジング等に組み込まれる。電動モータ4は3相の同期モータ等からなる。
【0020】
減速機構5は、電動モータ4の回転を、回転軸10に固定された3次歯車11に減速して伝える機構であり、1次歯車12、中間歯車13、および3次歯車11を含む。この例では、減速機構5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた1次歯車12の回転を、中間歯車13により減速して、回転軸10の端部に固定された3次歯車11に伝達可能としている。
【0021】
摩擦部材操作手段である直動機構6は、減速機構5で出力される回転運動を送りねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦部材9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ矢符A1にて表記する軸方向に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦部材9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機構5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦部材9の押圧力に変換されることにより、直動機構6の軸力であるブレーキ力を発生させる。なお複数の電動モータ装置DB(
図1)を車両に搭載した状態で、車両の外側をアウトボード側といい、車両の中央側をインボード側という。
【0022】
パーキングブレーキ機構7のアクチュエータ16として、例えば、リニアソレノイドが適用される。アクチュエータ16によりロック部材(ソレノイドピン)15を進出させて中間歯車13に形成された係止孔(図示せず)に嵌まり込ませることで係止し、中間歯車13の回転を禁止することで、パーキングロック状態にする。ロック部材15を前記係止孔から離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、アンロック状態にする。
【0023】
図1に示す制御装置等について説明する。
上位ECU17として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニットが適用される。また上位ECU17は、各電動ブレーキ装置DBの統合制御機能を有する。上位ECU17から例えばブレーキ力等の目標値(目標ブレーキ力)が、制御装置2の制御演算器18に入力される。前記目標ブレーキ力は、ブレーキ力に相当する値であれば良く、例えば、ブレーキ力センサの値や、所望のブレーキ力が発生するモータ角度であっても良い。
【0024】
電源装置3は、各電動ブレーキ装置DBにおける電動モータ4および制御装置2にそれぞれ電力を供給する。
制御装置2は、制御演算器18、熱均衡度合推定手段である励磁コイル温度均衡補正器(後述する)19、モータドライバ20、および、電流センサ21等を有する。制御演算器18、励磁コイル温度均衡補正器19は、例えば、マイクロコンピュータ等のプロセッサ、またはASIC,FPGA,DSP等のハードウェアモジュールで実装しても良い。
【0025】
制御演算器18は、基本制御部22と、熱負荷均衡手段である通電位相調整部23(後述する)と、許容誤差設定手段24(後述する)とを有する。基本制御部22は、各種センサ25の値から、上位ECU17からの制御目標を達成するよう、モータドライバ20の制御信号を生成する。モータドライバ20は、電源装置3の直流電力を電動モータ4の駆動に用いる三相の交流電力に変換する。このモータドライバ20は、例えば、MOSFETのようなスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路等を構成しても良い。またモータドライバ20は、前記スイッチ素子を瞬時に駆動するようなプリドライバを含んでも良い。
【0026】
電流センサ21は、三相の励磁コイル4cに流す電流をそれぞれ求める電流検出手段である。電流センサ21は、前記各種センサ25の一つであって、例えば、送電経路の周囲に発生する磁界を検出する電流センサを用いても良く、シャント抵抗と作動アンプを用いて電圧降下量を検出する電流センサを用いても良く、電動モータ4の電流と電圧の特性方程式に基づく推定をしても良い。また、三相電流を測定するうえで、例えば、三相のうちいずれか二相のみ電流を計測し、残り一相は三相電流の総和は零となる特性を用いて求めても良い。
【0027】
電動モータ4は、ブラシレスDCモータが高速、小型、および高精度を両立する電動サーボシステムには好適である。このブラシレスDCモータの場合、電動モータ4の励磁コイル4cは、一つのティースに集中して巻く集中巻でも良く、複数のティースにまたがる分布巻でも良い。両者を比較すると、集中巻は小型化が可能なことから搭載スペースの限られた電動ブレーキ装置に好適であり、分布巻は高効率および低トルクリプルとすることが可能である。
【0028】
各種センサ25として、ブレーキ力推定手段であるブレーキ力センサSa、ロータ角度センサSb、温度センサSc等を用いることができる。ブレーキ力センサSaは、この電動ブレーキ装置DBの動作により生じる、この電動ブレーキ装置DB自体または車輪に生じる影響をセンシングした検出値、および電動ブレーキアクチュエータ1の特性から、実際に発生しているブレーキ力を推定できる手段であれば良い。その他、ブレーキ力センサSaは、例えば、電動ブレーキアクチュエータ1の荷重を検出する荷重センサであっても良い。
【0029】
前記荷重センサは、例えば、磁気式のセンサが適用される。
図2に示すように、摩擦部材9がブレーキロータ8を押圧するとき、直動部14にインボード側への反力が作用する。磁気式のセンサからなる荷重センサは、このブレーキ力の反力を軸方向の変位量として磁気的に検出する。ブレーキ力推定手段は、前記ブレーキ力の反力とセンサ出力との関係を試験等で予め設定しておくことにより、荷重センサのセンサ出力に基づいて、ブレーキ力を推定し得る。なお、荷重センサとして、磁気式以外の光学式、渦電流式、または静電容量式のセンサを適用することも可能である。
【0030】
図1に示すように、ロータ角度センサSbとして、例えば、レゾルバや磁気エンコーダ等のようなセンサを電動モータ4に搭載しても良く、回転中のコイル電圧を用いてロータ角度をいわゆるセンサレスで推定しても良い。磁気エンコーダ等のセンサを用いる場合、高精度にロータ角度を検出することが可能であり、ロータ角度をセンサレスで推定する場合、省スペース化およびコスト低減を図るうえで有利となる。温度センサScは、各励磁コイル4cの温度を推定するセンサであって、例えば、サーミスタ等が適用される。
【0031】
この実施形態では、特に、制御装置2に励磁コイル温度均衡補正器19を設け、さらに制御演算器18に、熱負荷均衡手段である通電位相調整部23と、許容誤差設定手段24とを設けている。励磁コイル温度均衡補正器19は、電流センサ21の値等から電動モータ4における複数(この例ではu,v,w相)の励磁コイル4cの発熱量の均衡度合を推定する。この励磁コイル温度均衡補正器19は、複数の励磁コイル4cのうち特定の励磁コイル4cの発熱量が、他の励磁コイル4c,4cの発熱量より多いと推定すると、電動モータ4の通電位相をずらすよう通電位相調整部23に要求信号を出す。通電位相調整部23は、前記要求信号を受けて許容誤差設定手段24で設定された許容誤差の範囲内で電動モータ4を回転させ、通電位相を調整する。
【0032】
図3は、この電動ブレーキ装置において、電気角一周期における、電気角位相と三相電流および損失との関係を示す図である。以後、
図1も適宜参照しつつ説明する。
図3の上図は、三相電流、下図は全銅損中において、所定の相の銅損が占める割合つまり損失比率を示す。この損失比率は、各相の励磁コイル4cの発熱のし易さを表す。u相の励磁コイル4cの相電流i
u、v相の励磁コイル4cの相電流i
v、w相の励磁コイル4cの相電流i
wとすると、ある電気角において、各相の損失比率は以下のように表される。
u相の損失比率:i
u2/(i
u2+i
v2+i
w2)
v相の損失比率:i
v2/(i
u2+i
v2+i
w2)
w相の損失比率:i
w2/(i
u2+i
v2+i
w2)
【0033】
図4は、この電動ブレーキ装置において、励磁コイル4cの損失低減のため調整すべき電気角の範囲を導出する例を示す図である。同図は、後述する
図5のステップS9におけるw相の電気角θ
wの範囲の導出例を示す。
図4は、横軸が電気角、縦軸が各相の損失比率であり
図3と同じ図である。この導出例において、現在の電気角がθ
eであり、w相の損失低減のための更新した後の電気角をθ
wとする。
【0034】
<条件1>電気角θ
wにおける損失比率i
w2(θ
w)は、現在の損失比率i
w2(θ
e)より小さくならなければならない。この条件1を満たす範囲が
図4中の範囲(1)にて与えられる。熱負荷を平滑化するために電動モータ4の電気角を調整するが、電気角調整前より電気角調整後の熱負荷が確実に低くなる範囲はどこかを探す。
【0035】
<条件2>電気角をθ
e→θ
wとすることにより発生するブレーキ力の許容誤差の絶対値は、所定値以下でなければならない。すなわち、電気角θ
wは現在の電気角θ
eを概ね中心とする所定範囲内でなければならない。換言すれば、電動モータ4の電気角を調整できる範囲は、ブレーキ力の許容誤差の範囲内でなければならない。許容誤差設定手段24は、目標ブレーキ力に対してブレーキ力を追従制御する前記許容誤差を設定する。条件2を満たす範囲が、
図4中の範囲(2)にて与えられる。
【0036】
<条件3>全体のコイル温度を均衡化するためには、他のu,v相の熱負荷の状況を考慮し、熱負荷の高い方の損失が熱負荷の低い方の損失よりも小さくなるようにすると好適と考えられる。すなわち修正後のそれぞれの損失比率i
u2(θ
w)、i
v2(θ
w)において、現状の熱負荷とは逆の損失比率関係があれば良い。この条件3を満たす範囲は、
図4中の範囲(3)にて与えられる。
【0037】
以上の全条件(条件1〜条件3)を満たす範囲が、
図4中の最下部に記載の範囲にて与えられる。この範囲内において損失比率i
w2(θ
w)を最小とする電気角θ
wは、
図4中の横軸下部のθ
wとなる。
【0038】
図5は、この電動ブレーキ装置の励磁コイル4cの温度均衡処理を示すフローチャートである。本処理開始後、制御演算器18は、現在の電気角θ
e(κ)を取得し(ステップS1)、各相電流I(κ)を取得する(ステップS2)。次に励磁コイル温度均衡補正器19は、各相の推定損失P(κ)を演算する(ステップS3)。具体的には、ある所定のブレーキ力を維持する場合において、励磁コイル4cの銅損は電流の二乗に比例するため、励磁コイル温度均衡補正器19は、電流センサ21で検出される電流の二乗ないし電流の二乗に比例する値の積算値から、励磁コイル4cの損失を推定しても良い。また各相の推定損失P(κ)を演算するとき、所定の値P
sを減算しても良い。前記所定の値P
sは、予め、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0039】
次に、励磁コイル温度均衡補正器19は、演算した各相の推定損失P(κ)から損失比率R(κ)を演算する(ステップS4)。前記の推定損失のうち、ある特定の励磁コイル4cの推定損失が所定の閾値を上まった場合(ステップS5:no)、通電位相調整部23は、前記特定の励磁コイル4cの熱負荷を低減する措置を行う(ステップS14等)。特定の励磁コイル4cの推定損失が所定の閾値を上まわらなければ(ステップS5:yes)、基本制御部22による通常のブレーキ力制御を行う(ステップS15)。その後本処理を終了する。ステップS5において、前記推定損失の複数の励磁コイル間の差分ないし比率を用いても良い。前記閾値は、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0040】
特定の励磁コイル4cの推定損失が所定の閾値を上まった場合(ステップS5:no)、許容誤差設定手段24は、現在の目標ブレーキ力に対して、許容されるブレーキ力の許容誤差F
δを取得し、通電位相調整部23は、許容誤差F
δを満足する変動電気角θ
δを取得する(ステップS6)。このとき許容誤差F
δの値については、電動モータ4が発熱し易い大きなブレーキ力の場合において通電位相調整部23がブレーキ力を変動させる制御を実行し、電動モータ4が発熱し難いブレーキ力が低い場合に前記制御を実行し難いように、F
δを可変とすると、想定外のブレーキ力変動が発生し難いため好適である。
【0041】
その後、励磁コイル温度均衡補正器19は、最も熱負荷が高い最大要素(特定の励磁コイル4c)を求める(ステップS7)。前述のように、現在の電気角に対して目標電気角を更新するうえで、条件1:更新後の電気角における銅損が低下すること、条件2:ブレーキ力の指令(目標ブレーキ力)を無視して電動モータ4を動作させて良い範囲内(=所定のブレーキ力許容誤差範囲内)であることが条件となる。また、これらの条件に加えて、ステップS8〜S10のように、特定の励磁コイル以外の励磁コイル4c(この例ではu相,v相の励磁コイル4c)の推定損失の関係を考慮し、条件3:推定損失の高い方の励磁コイル4cの損失が低くなる、よう補正を行うと好適である。
【0042】
具体的には、w相の励磁コイル4cの熱負荷がu相,v相の励磁コイル4c,4cの熱負荷よりも高いとき、励磁コイル温度均衡補正器19は、二番目、三番目に熱負荷が高い相を求める(ステップS8)。なおステップS8以降の処理は、u,v相の励磁コイル4c,4cが最も高い場合についても基本的に同じであるため、u,v相の励磁コイル4c,4cに該当する部分は図示を省略する。
【0043】
二番目に熱負荷が高い相が、u相のとき(ステップS8:no)、v相のとき(ステップS8:yes)それぞれにつき、前述の条件1,2,3を全て満たす電気角θ
wの範囲を決定する(ステップS9、10)。このとき、前記条件3を含めることで、当該の条件が両立しない場合がある(ステップS11:no)。この場合、励磁コイル温度均衡補正器19は、条件1および2から、更新後の電気角を求めることができる(ステップS12)。その後ステップS14に移行する。
【0044】
条件1,2,3を全て満たす電気角θ
wが存在する場合(ステップS11:yes)、励磁コイル温度均衡補正器19は、損失比率i
w2(θ
w)が最小となる電気角θ
wを決定する(ステップS13)。その後、通電位相調整部23は、電気角θ
w→電気角θ
eとなるよう目標ブレーキ力を補正し(ステップS14)、ブレーキ力を制御する(ステップS15)。その後本処理を終了する。
【0045】
図6は、この電動ブレーキ装置の制御を実施した動作例を示す図である。
図6(a)に示すように、制御演算器18は、目標ブレーキ力F
rに対してブレーキ力F
bを追従制御している。電動モータ4が発熱し易い大きなブレーキ力において一定に維持しているとき、通電位相調整部23は、前記許容誤差の範囲内において時間t1(t1は例えば数ミリ秒〜数十ミリ秒)の間、ブレーキ力を僅かに変動させる。これにより、
図6(b)に示すように、一定に印加され続けるモータ相電流をそれぞれ変化させ、
図6(c)に示すように、特定の励磁コイル4cの発熱量を下げ、励磁コイル4cの熱負荷を均等化し得る。
【0046】
これに対して
図7は、従来例の電動ブレーキ装置の制御を実施した動作例を示す図である。この例では、
図7(a)に示すように、目標ブレーキ力F
rに対してブレーキ力F
bを追従制御しているが、所定のブレーキ力F
bを維持することで、
図7(b)に示すように、モータ相電流は一定に印加され続ける。そうすると、
図7(c)に示すように、特定の励磁コイルの発熱量つまりコイル銅損の積算値が増加し易い。
【0047】
以上説明した電動ブレーキ装置によると、ブレーキ力を一定の保持する場合、モータ相電流は常に一定に印加され続ける。このため、各励磁コイルの損失がばらつき、各励磁コイルに発熱量の差が生じる。そこで本実施形態に係る電動ブレーキ装置DBの励磁コイル温度均衡補正器19は、複数の励磁コイル4cの発熱量の均衡度合を推定する。通電位相調整部23は、励磁コイル温度均衡補正器19により特定の励磁コイル4cの発熱量が他の励磁コイル4cの発熱量よりも多いと推定されたとき、前記特定の励磁コイル4cの発熱量を下げる。これにより、電動モータ4の熱に対する耐久性の向上を図ることができる。したがって、電動モータ4につき、定格トルクの向上または最大トルクの出力限界時間の延長を行うことが可能となる。また、トルクに対する銅損の設計要件を引き下げ、電動モータ4の小型・軽量化を図ることが可能となる。
【0048】
許容誤差設定手段24は、目標ブレーキ力またはブレーキ力が大きくなるほど許容誤差が大きくなるよう、前記許容誤差を変動させる。この場合、電動モータ4が発熱し易い大きなブレーキ力の場合に、通電位相調整部23がブレーキ力を変動させる制御を実行し易く、電動モータ4が発熱し難いブレーキ力が低い場合に前記制御を実行し難いように木目細かい制御を行うことができる。これにより、想定外のブレーキ力変動が発生し難いため、車両の乗員に乗り心地上の悪化を感じさせることなく好適である。
【0049】
他の実施形態について説明する。
図1に示すように、電動ブレーキ装置DBを搭載する車両の車速情報を取得する車速情報取得手段26を、例えば、制御演算器18に設けても良い。前記車速情報は、例えば、上位ECU17を介して、車速情報取得手段26に入力される。この場合において、許容誤差推定手段24は、車速情報取得手段26で取得する車速が低くなるほど許容誤差が大きくなるよう、前記許容誤差を変動させても良い。この場合、例えば、車両の中低速走行時に許容誤差を大きくして、通電位相調整部23がブレーキ力を変動させる制御を実行し易くでき、精度の高いブレーキ力制御が求められる車両の高速走行時は、許容誤差を小さくして前記制御を実行し難いように木目細かい制御を行うことができる。
【0050】
電動モータとして、例えば、ブラシやスリップリング等を用いたDCモータやステッピングモータを適用しても良い。
直動機構は、遊星ローラねじ、ボールランプ等の機構であっても良い。
減速機構は、平行歯車、ウォーム歯車、遊星歯車等を用いても良い。また機能的には安価な構成としてベルト等を用いることもできる。
前記各種センサは、必要に応じてセンサレス推定を用いても良い。一般に、センサレス推定の場合、センサを用いたものよりコスト低減を図れるものの精度に劣る。
【0051】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。