【実施例】
【0022】
以下本発明を
図1〜4に示す基本となる構成に基づいて具体的に説明する。図中符号1で示すものが本発明の「介護用クッション」であって、このものは一例として、全体形状としては平面視湾曲状とした細長状であり、例えば要介護者Mの肩部を支えながら頭部を円滑に保持するように用いられる。
具体的に介護用クッション1は、袋状の表皮材2と、この表皮材2の内側に充填されるクッション材3とを具えて成るものであり、要介護者Mの身体部位を支持する本体部5に対し、その内側に入り込むポケット部6を具えている。
以下、介護用クッション1を構成する各部材について詳細に説明する。
【0023】
まず表皮材2は、ポリエステル等適宜の布材により構成されるものであり、布材は従来のクッションに採用されるものを用いる。この表皮材2は本体部5を構成するための本体部表皮材20と、ポケット部6を構成するためのポケット部表皮材21とを具えて成る。なお本体部表皮材20とポケット部表皮材21とを同一の素材としてもよいし、別の素材としてもよい。またこれら本体部表皮材20とポケット部表皮材21とは、同一の布材によって構成してもよいし、それぞれ別の布で作り、これらを縫製して一体化するようにしてもよい。
【0024】
なお表皮材2は製造にあたって型抜きされるものであり、その形状は一例として、平面視弧状の本体部表皮材20に対し、一例として
図2(c)に示すように平面視台形状のポケット部表皮材21がツノ状に突出するように設けられたものとされる。
そして上下一対の表皮材2を、本体部5の表側になる面を対向させて重ね合わせるとともに、その周囲(周端部付近)を、その一部を除いて縫合したのち、未縫合部分から、表皮材2を引き出して反転させて袋状に構成する。この際、ポケット部表皮材21は本体部5の内側に配置されることになり、結果として、本体部5の内側に入り込むようにポケット部6が形成される。
次いで上下一対の表皮材2の間に適量のクッション材3が充填され、最後に未縫合部を縫合して本体部5が形成される。
【0025】
ここで前記クッション材3は、クッション効果を発現する粒塊状物であり、適宜の流動性を確保することができるとともに、蒸れを防ぐことができる素材により形成されるものである。クッション材3は従来の市販のクッションに採用されるものを用いる。
この実施例では一例として、φ1〜3mm程度のポリスチレン発泡材から成る球状ビーズ3aと、10mm角の通気ウレタンキューブ3bと、の双方を用いるようにした。なお球状ビーズ3aと通気ウレタンキューブ3bとの混合比は、一例として50:50〜25:75とされるものであり、蒸れ難さ、流動性の確保、価格等を総合的に考慮した配合比が選択される。
【0026】
もちろんクッション材3として、前記球状ビーズ3aあるいは通気ウレタンキューブ3bのいずれか一方のみを用いるようにしてもよく、更にクッション材3とともにクッション効果を発現しない粒塊状物を表皮材2内に充填するようにしてもよい。
なお表皮材2内におけるクッション材3の流動性を確保することにより、本体部5内でその配置位置を変更して、表皮材2の形状に制約されながらも全体形状の変更が可能となるものである。
またクッション材3は粒塊状物に限定することはなく、たとえば綿材でも、後述するようにポケット部6に挿入された手で掴んだり指でつまんで綿材の一部が本体部5内で移動できるものであれば採用を否定しない。
なお前記表皮材2、クッション材3の素材としては、水洗い及び熱風乾燥が可能な素材を採用することが衛生面特に介護施設や病院等の要求面でより好ましい。その場合には、球状ビーズ3aの代わりに、ポリプロピレン素材の小径パイプビーズ(例えば、株式会社小川コルマ社製 P.Pミニパイプ)など乾燥温度に耐えうる素材のビーズを適用することができる。
【0027】
次に介護用クッション1の構造について詳しく説明する。
まず本体部5は、要介護者Mの身体部位を支持する部位であり、この実施例では一例として前述したように平面視湾曲状とした細長状のものとしたが、これに限定されるものではなく、例えば後ほど他の実施例で述べるような適宜の形状が取り得るものである。
【0028】
またポケット部6は、本体部5の内部に手または指を挿入するような操作を可能とする部位である。更にポケット部6は、前記クッション材3と接触可能とされ、このポケット部6を構成しているポケット部表皮材21は、前記本体部5を構成している本体部表皮材20の内面に非固定とされるものであり、ポケット部6が本体部5の内側で可動性を有するように構成される。
なお、本体部表皮材20とポケット部表皮材21とを一枚の布で一体に作った場合には、ポケット部6を本体部5の内側に入り込むようにした際、連通部が折り返したようになったポケット入口61を構成するようにできる。このため、介護者Cがポケット入口61をすぐに発見しやすくなり、また手を入れやすくできるので、介護者Cのサポートしやすさが格段と向上する。
更に
図1に示すように、表裏の本体部表皮材20を縫製する部位にポケット部6を設ける場合には、
図2(c)に示すように表面の本体部表皮材20と裏面の本体部表皮材20布の各一枚のみで制作が容易にでき、また、縫製のラインに沿って外観としても一体感が得られる。
ここで、表面の本体部表皮材20と裏面の本体部表皮材20との各一体の布によって表皮材2を構成する場合には、縫製部に設けられるポケット部6は要介護者Mの人体に水平に近くなるように展開することとなり、介護者Cの手が要介護者Mの人体に沿うような、自然な方向にポケット部6を形成することができる。
【0029】
またポケット部表皮材21を、本体部表皮材20に比べて伸縮性の大きい素材を適用したものとすることで、ポケット部6に挿入された手でポケット部表皮材21を押して、本体部5の内部でポケット部表皮材21を伸張させることにより、本体部5の内部の広範囲に渡ってポケット部6の作用効果を発揮させるようにすることもできる。
【0030】
なおこの実施例では、前記ポケット部表皮材21が平面視台形上であることから、ポケット部6は奥拡がり状に形成される。またポケット入口61は、製造手法に因み横拡がり状に形成されている。
ここで奥広がり状とは、ポケット部6の奥側の一部または全部がポケット入口61の幅より広くなっていることをいう
ものであり、図示のように中が広い台
形とされる。更にポケット部6の奥行きは限定しないが、手首まで入る程度の深さがあれば体位変換の際に介護者Cの腕にかかる負担を少なくすることができ、サポートしやすく望ましい。
またこの実施例では
図2(a)に示すように、ポケット部6を平面視弧状の本体部5の外弧部の二カ所に形成するようにしたが、後ほど他の実施例で述べるような適宜の箇所に適宜の数設けるようにしてもよい。
【0031】
そして前記ポケット部6を構成するポケット部表皮材21は、上述したように本体部5内に反転して押し込まれた状態でポケット部6として機能する、一方、本体部5から裏返し状にして引き出された状態で裏返し張出部7として機能するものである。
具体的にはこの引き出し状態において、裏返し張出部7の内側は本体部5と連通した状態となるため、裏返し張出部7内に、本体部5に充填されていたクッション材3を移動させることが可能となるものである。すなわち本体部5は実質的に減容されて嵩が減ることとなる。
【0032】
次に上述のようにして構成された介護用クッション1の使用形態について説明する。
〔体位変換〕
まず介護者Cによる要介護者Mの体位変換の形態について説明する(
図3参照)。
この場合、
図2(a)に示されるようにポケット部6が形成された介護用クッション1を用い、介護者Cは
図3(b)に示すようにポケット入口61に手または指を挿入するものであり、ポケット部表皮材21の寸法設定にもよるが、概ね手首あたりまでがポケット部6内に位置することとなる。そして要介護者Mの体の下へと介護用クッション1を差し入れるものであり、この際、要介護者Mの身体荷重の下方に直接手を入れることが可能となる。
またポケット部6が奥拡がり状に形成されているから、ポケット部6(ポケット入口61)に手を差し入れた際の安定感等がより得られ易く、更にポケット部6全域に広げた手を位置させることができる。
更にまたポケット部6(ポケット入口61)が適宜の数設けられることにより、操作により適した部位に手を差し入れることができる。
【0033】
次いで
図3(c)に示すように、引き上げるようにして要介護者Mの体位変換を促すものであり、いわば荷重のかかる側から直接的に(介護用クッション1の内部のより近くから)身体部分を持ち上げるような操作がなされることとなる。更に介護者Cの力は、要介護者Mを包み込むような状態となる本体部5全域の広い面積から要介護者Mに作用することとなる。
そしてこのような体位変換の手法は、介護者Cにとっては力加減を調整し易く、一方、要介護者Mにとっては受ける力が自然に身体に伝わり、安心感と、無理のない体位変換が行われるものである。
【0034】
なおここまでで体位変換を完了とせずに、引き続いて更に要介護者Mの体位の安定維持を図るようにすることもできる。
具体的には図示は省略するが、例えば
図3(d)に示すように体位変換した要介護者Mの体位を安定維持する場合、体位変化に用いた介護用クッション1を要介護者Mの肩から腰にかけての位置にずらす。この際、本体部5内においてはクッション材3がどうしても偏在してしまうが、介護者Cは、ポケット部6に挿入した手により本体部5の内部においてクッション材3を移動させる調整を行うことができる。このため、要介護者Mの体位変換から適切なポジショニングを行う操作までの動作を一連の動作として実現することができる。
【0035】
この際、更にポケット入口61からポケット部表皮材21を裏返し状に引き出して裏返し張出部7とすることにより、後述する体位の安定維持で述べるように、本体部5内のクッション材3の体積を減量させ、要介護者Mの状況に応じた更に適切な形状を選択することができ、ここまでの動作が一例の動きとして可能となることによって、より適切な体位変換と体位の安定維持を一体に実現できるのである。
【0036】
〔体位の安定維持〕
次に要介護者Mの体位の安定維持の形態について説明する(
図4参照)。要介護者Mの体位の安定的な維持に当たっては、表皮材2の外側から介護用クッション1を部分的に押圧して独立粒塊状のクッション材3を偏在させたり、ポケット部6に手を差し入れてポケット部表皮材21越しにクッション材3の位置を動かすことにより、支持作用を行う本体部5を容易に要介護者Mの体位になじんだ形状とすることができる。
なおこのような手法では、表皮材2内でクッション材3が移動するとはいえ、表皮材2の形状に因む内容積は決まっていることから、部位によってはまだ圧力が強くなってしまう等、理想的な形状を得難い場合も予想される。このような場合には、本発明の介護用クッション1にあっては、
図4(b)、(c)に示すようにポケット入口61からポケット部表皮材21を裏返し状に引き出して裏返し張出部7とするとともに、本体部5に充填されていたクッション材3を裏返し張出部7内に移動させることができるから、本体部5内のクッション材3の体積を減容させ、要介護者Mの状況に応じた更に適切な形状を選択することができる。
なおこのような要介護者Mの体位の安定維持を図るにあたっては、後述する他の実施例で示すような、形状を異ならせた複数の介護用クッション1を
図7に示すように組み合わせることにより、より繊細な耐圧分散と体位の安定維持を実現することができる。
【0037】
〔他の実施例〕
本発明の介護用クッション1は、
図1〜4に示すとともに、上述のように説明した実施例を基本となる実施例とするものであるが、本発明の技術的思想に基づいて以下に示すような実施例を採ることもできる。
まず介護用クッション1に設置されるポケット部6の位置は、上述の基本となる実施例では表裏の本体部表皮材20を縫製する部位としたが、上述のポケット部6の作用効果を発現させることのできる部位であれば、本体部5の側周の適宜の個所とすることができる。具体的には介護用クッション1が使用される状態において、要介護者Mに接触させる頻度が少ない位置とすることが好ましい。つまり、介護用クッション1は、通常は使用形態に応じた形状をしており、その使用形態において要介護者Mに頻繁に接触させる部分が設計上想定されているため、その部分以外の位置にポケット部6を配置すればよい。
そして、複数のポケット部6を形成する場合には、要介護者Mの体位変換等の作業をし易い位置に配置すればよい。例えば本体部5の側周であって、要介護者Mの身体を支持する面の左右または上下に対向する位置へとポケット部6を複数設ければ、体位変換を行うときに人体を支える左右または上下のバランスが取りやすくでき、配置の向きを変える場合にも対応しやすい。
ここで本体部5の側周とは、本発明の介護用クッション1が底面、上面、側周面の区別が明確に成されるものではないため、本体部5の表面を全域を意味するものとする。
以下、第二〜第十の実施例について具体的に説明する。
【0038】
まず第二の実施例としての介護用クッション1Aは
図5(a)に示すように、本体部5の形状を平面視で矩形状としたものであり、いわば一般的な枕のような形態のものである。
【0039】
また
図5(b)に示す第三の実施例としての介護用クッション1Bは、第二の実施例として示した介護用クッション1Aと同様に平面視矩形状の本体部5とするものであるが、ポケット部6を要介護者Mの身体を支持する面の上下に対向する一対を二カ所、合計四カ所に形成するようにしたものである。
【0040】
また
図5(c)に示す第四の実施例としての介護用クッション1Cは、本体部5を比較的長細状とし、ポケット部6を要介護者Mの身体を支持する面の左右に対向する一対を一カ所に形成するようにしたものである。
【0041】
また
図5(d)に示す第五の実施例としての介護用クッション1Dは、本体部5を平面視正方形状の座布団様とし、その各辺に一または複数のポケット部6を形成するようにしたものである。具体的にはポケット部6を要介護者Mの身体を支持する面の上下に対向する一対を二カ所、左右に対向する一対を一カ所、合計六カ所に形成するようにしたものである。
【0042】
また
図5(e)に示す
参考例としての介護用クッション1Eは、ポケット部6の形状を異ならせたものであり、ポケット入口61から奥(本体部5の中心)に向かって屈曲するような形状としたものである。
【0043】
また
図6(f)に示す第
六の実施例としての介護用クッション1Fは、本体部5の所定の方向に沿って仕切51を設けることにより、本体部5を複数の本体部要素50が連結された状態のものとしたものである。更にこの実施例は、ポケット部6を要介護者Mの身体を支持する面の左右に対向する一対を二カ所、合計四カ所に形成するようにしたものである。
【0044】
また
図6(g)に示す第
七の実施例としての介護用クッション1Gは、介護用クッション1Fの変形例であり、左右に対向するように設けられた四カ所のポケット部6に加え、4分割された仕切51のうち中央二つの本体部分の上下に対向する位置にもポケット部6をそれぞれ形成したものである。これにより中央部分の本体部のクッション材を外に出すようにして調整ができる。
【0045】
また
図6(h)に示す第
八の実施例としての介護用クッション1Hは、ポケット部6の形成位置を、上下方向において、例えば上方に偏るような形態とするものであり、このようにポケット部6の高さ方向の位置も適宜の位置とすることができる。
なおこの場合、前出の上下一対の表皮材2を重ね合わせるとともに、その周囲を縫合する製造手法は採り難いため、本体部表皮材20とポケット部表皮材21とを別部材として構成し、これらを一体化するような製造形態を採ることができる。なお、図の断面で本体部5の中心位置かそれよりも要介護者Mの体により近い位置にポケット部6を設けることにより、介護者Cは要介護者Mの体をポケット部6に挿入した手により感じながらサポートすることができ、更に本体部5の内部においてクッション材3を移動させて行われる圧力の調整も、体により近い位置で行うことができる。
【0046】
また
図6(j)に示す第
九の実施例としての介護用クッション1Jは、ポケット部6を構成するにあたり、ポケット部6の配置態様を異ならせたものであり、上述の介護用クッション1A〜Hにおけるポケット部6が平面視台形状であったのに対し、側面視台形状となるようにしたものである。この場合、ポケット入口61は垂直状になるものであるが、ポケット入口61が適宜斜めになるようにポケット部6を形成することもできる。
【0047】
また上述した実施例では、介護用クッション1をクッション、枕、座布団と比較的小型のものとして構成したものについて説明したが、より大型化したマットレス状のものとして構成することも可能である。
【0048】
なお上述した実施例では、ポケット入口61が常時開放状態にあるものとしたが、ファスナーやボタンなどを用いて一時的に閉じることができるようにすることは否定しない。