特許第6570902号(P6570902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570902
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 3/00 20060101AFI20190826BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20190826BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20190826BHJP
   F24F 11/79 20180101ALI20190826BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   F24F3/00
   F24F5/00 K
   F24F11/74
   F24F11/79
   F24F7/06 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-133712(P2015-133712)
(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2017-15341(P2017-15341A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安食 純也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 利秀
(72)【発明者】
【氏名】橋野 彰
(72)【発明者】
【氏名】西田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】山内 麻梨絵
【審査官】 河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−190624(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0083824(US,A1)
【文献】 特開2008−076029(JP,A)
【文献】 特開2015−001352(JP,A)
【文献】 特開2015−034641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 3/00
F24F 5/00
F24F 7/06
F24F 11/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並んで配置された複数のラックに収容された電子機器から排出された排出空気を吸入して冷却し、冷却した空調空気を前記電子機器に供給する空調機と、
前記複数のラックが配置される機器室と前記機器室の外に配置された前記空調機との間の空間のうち、少なくとも前記複数のラックに挟まれた空間であって前記電子機器が冷却に用いる空気を吸入する吸入空間と対向する位置に配置され、前記空調機から前記空調空気が流入し、内部空間が複数に独立したチャンバ部と、
が設けられ、
前記チャンバ部は、前記機器室との仕切りとなる側壁における前記吸入空間と対向する位置に、前記空調空気を前記吸入空間が延びる方向に向かって吹き出させる吹出部を有し、
前記チャンバ部の内部空間のそれぞれに前記空調空気を流入させる前記空調機が配置され、前記チャンバ部の内部空間における圧力は、前記空調機から流入させる前記空調空気の流量を制御して所望の状態に調整可能とされていることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
複数の前記内部空間は水平方向に配置されていることを特徴とする請求項記載の空調システム。
【請求項3】
複数の前記内部空間は上下方向に配置されていることを特徴とする請求項記載の空調システム。
【請求項4】
前記チャンバ部は、前記機器室と隣接する位置であって、前記吸入空間と対向する位置と隣接する位置に延びていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の空調システム。
【請求項5】
前記吹出部から吹き出される前記空調空気の吹き出し流量、流速、および、吹出し方向の少なくとも1つを変更する変更部と、
前記機器室における温度分布を測定する温度測定部と、
前記温度測定部により測定された温度分布に基づいて、前記変更部を制御する制御部と、
が更に設けられていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化社会の進展に伴い、様々なサービスを提供する情報通信装置(以後「ICT装置」とも表記する。)などが配置されたデータセンタの建設が進められている。データセンタでは、ICT装置を安定して動作させるために、ICT装置が設置されるサーバルーム内を常にICT装置の動作に適した温度に維持する管理が行われている。この温度の維持管理は、データセンタに設けられた空調システムにより行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、サーバルームの側壁から、ICT装置が設置された複数のラック列の間の空間に沿って空調空気を吹き出す技術が開示されている。このようにすることで、空調空気をサーバルームへ供給するために必要な空調機構の動力削減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5263840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術では、サーバルームに吹出される空調空気の風量や風速の調整可能な範囲が、ラック列の配置による制限を受けやすいという問題があった。つまり、上記の技術では、複数のラック列の間の空間に沿って空調空気を吹き出すことができる空調システムの室内機の配置位置には限りがあるため、この制限により空調システムによるICT装置の冷却性の向上には限りがあるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、空調機器の配置自由度を高めるとともに、ICT装置の冷却性向上を図ることができる空調システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の空調システムは、並んで配置された複数のラックに収容された電子機器から排出された排出空気を吸入して冷却し、冷却した空調空気を前記電子機器に供給する空調機と、前記複数のラックが配置される機器室と前記機器室の外に配置された前記空調機との間の空間のうち、少なくとも前記複数のラックに挟まれた空間であって前記電子機器が冷却に用いる空気を吸入する吸入空間と対向する位置に配置され、前記空調機から前記空調空気が流入するチャンバ部と、が設けられ、前記チャンバ部は、前記機器室との仕切りとなる側壁における前記吸入空間と対向する位置に、前記空調空気を前記吸入空間が延びる方向に向かって吹き出させる吹出部を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の空調システムによれば、複数のラックが配置される機器室と空調機との間にチャンバ部を設けることにより、ラックの配列に拘束されることなく空調機の配置位置を定めることが可能となる。つまり、空調空気を空調機からチャンバ部に供給し、チャンバ部の吹出部からラックに挟まれた空間である吸入空間に向かって吹出させているため、吸入空間の位置と、空調機の配置位置とが一致していなくても空調空気を吸入空間へ供給することができる。そのため、空調機の配置自由度が高くなると共に、空調機を選択する際の大きさの許容範囲や、用いる空調機の台数の選択範囲も広くなる。
【0009】
さらに、一つの吸入空間に対して、複数の空調機から空調空気を供給することも可能となり、吸入空間と空調機とが一対一に対応して配置されている場合と比較して、電子機器の冷却性を高めやすくなる。
【0010】
その他に、複数の空調機のうちの一部が停止しても、吸入空間へ空調空気の吹き出しを継続することが可能であるため、吸入空間と空調機とが一対一に対応して配置されている場合と比較して、冷却の信頼性向上を図り易くなる。空調機の停止には、故障による停止の他にも、保守管理のための停止も含めることができる。
【0011】
上記発明においては、内部空間が複数に独立した前記チャンバ部が設けられ、前記空調空気を流入させる前記空調機が配置され、前記チャンバ部の内部空間における圧力は、前記空調機から流入させる前記空調空気の流量を制御して所望の状態に調整可能とされていることが好ましい。
【0012】
このように内部空間が複数に独立したチャンバ部を設けて、チャンバ部の内部空間に供給する空調空気の流量を制御して所望の圧力に調整可能とすることにより、電子機器に対してより適切な冷却を行いつつ、消費電力の削減を図り易くなる。つまり、チャンバ部の吹出部から吸入空間に向かって吹き出される空調空気の風量や風速を制御する複数のパラメータの一つとして、チャンバ部の内部空間の静圧を上げることができる。上述の構成を採用することにより、チャンバ部における複数の内部空間の静圧を、それぞれ異なる値とすることが容易となる。その結果として、チャンバ部の吹出部から吸入空間に向かって吹き出される空調空気の風量や風速を制御しやすくなり、電子機器を冷却するのに必要な空調空気を吸入空間に向かって吹き出すように制御しやすくなる。
【0013】
上記発明において、複数の前記内部空間は水平方向に配置されていることが更に好ましい。このように複数の内部空間が水平方向に配置されていることにより、水平方向において、吹出部から吹き出される空調空気の風量や風速を調節することが可能となる。つまり、水平方向に配置された複数の内部空間のそれぞれにおいて、独立して静圧が調整可能となるため、水平方向において、吹き出される空調空気の風量や風速の調節が容易となる。そのため、例えば、複数の吸入空間のそれぞれへ吹き込まれる空調空気の風量や風速の調節も可能となる。
【0014】
上記発明において、複数の前記内部空間は上下方向に配置されていることが更に好ましい。このように複数の内部空間が上下方向に配置されていることにより、上下方向において、吹出し部から吹き出される空調空気の風量や風速を調節することが可能となる。つまり、上下方向に配置された複数の内部空間のそれぞれにおいて、独立して静圧が調整可能となるため、上下方向において、吹き出される空調空気の風量や風速の調節が容易となる。そのため、例えば、吸入空間に対する上側と下側へ吹き込まれる空調空気の風量や風速の調節も可能となる。
【0015】
上記発明において前記チャンバ部は、前記機器室と隣接する位置であって、前記吸入空間と対向する位置と隣接する位置に延びていることが好ましい。
このようにチャンバ部を機器室と隣接する位置で合って、吸入空間と対向する位置と隣接する位置に延びていること、例えば、吸入空間と対向する位置から機器室と隣接しつつ吸入空間が延びる方向に延びた形状とすることにより、空調機を配置できる範囲をさらに広げることができる。その結果、空調機の配置の自由度が更に高くすることができ、配置できる空調機の台数を増やすことができる。
【0016】
上記発明においては、前記吹出部から吹き出される前記空調空気の吹き出し流量、流速、および、吹出し方向の少なくとも1つを変更する変更部と、前記機器室における温度分布を測定する温度測定部と、前記温度測定部により測定された温度分布に基づいて、前記変更部を制御する制御部と、が更に設けられていることが好ましい。
【0017】
このように、機器室における温度分布に基づいて、吹出部から吹き出される空調空気の流量、流速、および吹出し方向の少なくとも1つを変更可能とすることにより、電子機器に対してより適切な冷却を行いつつ、消費電力の削減を図り易くなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の空調システムによれば、複数のラックが配置される機器室と空調機との間にチャンバ部を設けることにより、ラックの配列に拘束されることなく空調機の配置位置を定めることが可能となるため、空調機器の配置自由度を高めることができ、さらにICT装置の冷却性向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る空調システムを説明する摸式図である。
図2図1の空調システムの構成を説明するA−A’断面視図である。
図3】空調機、チャンバ部およびラック架の位置関係を説明する部分拡大図である。
図4】上側吹出部およびサーバ側吹出部の配置を説明する部分拡大図である。
図5】チャンバ部の別の実施例を説明する模式図である。
図6】チャンバ部の更に別の実施例を説明する模式図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る空調システムにおける制御部の構成を説明するブロック図である。
図8】制御部における内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態に係る空調システム1について、図1から図6を参照しながら説明する。本実施形態では、本発明をデータセンタのサーバルーム(機器室)50における室内温度を、サーバルーム50に配置されるICT機器(電子機器)61の動作に適した温度に制御する空調システム1である例に適用して説明する。本実施形態の空調システム1には、図1および図2に示すように、空調部10と、チャンバ部20と、還気部30と、が主に設けられている
ここで、空調システム1の冷却対象であるICT装置61が収容されるサーバルーム50について説明する。サーバルーム50はICT装置61などを内部に収納する空間であり、その周囲には、サーバルーム50へ出入りする際の経路となる前室51や、チャンバ部20などが配置されている。サーバルーム50の内部には、ICT装置61である業務サーバ、データサーバ、Webサーバなどの各種サーバ装置や、ルータ、スイッチングハブなどの通信機器や、各種サーバ装置および通信機器などに電力を配電する電源コンセント62(以下、「PDU62」とも表記する。)などを収容する複数のラック71が配置されている。
【0021】
ラック71は、上述のサーバ装置などのICT装置61を交換可能に収容するものであり、例えば、複数のICT装置61を上下方向に並んで状態で収容するものである。なお、ラック71の具体的な構成としては公知の構成を用いることができ、特にその構成を限定するものではない。
【0022】
ラック71に収容されるICT装置61は、動作によって発生する熱をサーバルーム50から取り入れた空気、つまり、空調システム1から供給された空調空気で冷却する構成を有している。空調空気は、一方の端部からICT装置61の内部に取り入れられ、発生した熱を吸収する。熱を吸収した空気は温度が上昇した排出空気となり、ICT装置61の他方の端部から排出される。ICT装置61は、空調空気を取り入れる面および排出空気が排出される面が揃うようにラック71に配置される。
【0023】
複数のラック71は、一方向に延びるラック架72を形成するように並んで配置されている。さらに、二つのラック架72が組となるようにサーバルーム50内に配置されている。一つのラック架72では、それぞれのラック71における空調空気を取り入れる面および排出空気が排出される面が揃うようにラック71が配置されている。さらに、平行に並ぶラック架72の組は、組を構成するラック架72に挟まれた空間であるホットアイルHAに、上述の排出空気が排出される面が向くように配置されている。さらに、組を構成するラック架72の外側の空間であるコールドアイル(吸入空間)CAに、上述の空調空気を取り入れる面が向くように配置されている。
【0024】
次いで、空調システム1を構成する空調部10、チャンバ部20、および還気部30について説明する。
空調部10は、上述のICT装置61で発生した熱を吸収した排出空気を吸い込み、排出空気を所望の温度に冷却した空調空気をサーバルーム50へ供給するものである。空調部10には、熱源部11と、空調機13と、空調機室16と、が主に設けられている。
【0025】
熱源部11は、排出空気の冷却に用いられる冷熱を生成するものである。熱源部11と空調機13との間は、熱を運搬する冷媒が循環する構成が設けられている。生成された冷熱は、冷媒により空調機13へ運搬される。空調機13において排出空気の熱を吸収した冷媒は、熱源部11へ運搬される。なお、本実施形態では、熱源部11が冷水を生成するチラーであり、冷媒が循環する構成が冷水循環部12である中央熱源方式に適用して説明するが、排出空気を冷却する方式や構成などは、蒸気圧縮式の空調装置などのように、公知の方式や構成を用いることができ、特に限定するものではない。
【0026】
空調機13は、排出空気と冷媒との間で熱交換を行うものであり、熱交換により所望の温度まで冷却された空気である空調空気をサーバルーム50のICT装置61に供給するものである。空調機13には、排出空気と冷媒との間の熱交換を行う熱交換器14、および、空調空気をサーバルーム50へ向けて送出する送風ファン15が少なくとも含まれている。
【0027】
空調機13の配置台数は、例えば、配置する空調機13の定格容量の合計と、サーバルーム50に収容されるICT装置61が発生する最大熱量の合計とに基づいて定めることができる。また、空調機13の配置位置は、後述する空調機室16およびチャンバ部20の配置関係、空調機13の配置可能な空間の有無、空調機13のメンテナンス作業に必要な空間の有無などに基づいて定めることができる。
【0028】
空調機室16は空調機13を収容する空間であり、チャンバ部20および還気部30と隣接して空気の流通が可能とされた空間である。空調機室16は、サーバルーム50との間にチャンバ部20を挟む位置であって、ラック架72の端部と対向する位置、言い換えると、端部からコールドアイルCAを望むことが可能な位置に設けられた空間である。本実施形態では、ラック架72の一方の端部、具体的には、前室51が設けられている側の端部と対向する位置に空調機室16が設けられている例に適用して説明する。
【0029】
空調機室16におけるサーバルーム50側の端部上方は、還気部30と空気が流通可能につながり、チャンバ部20と隣接する端部には、空調機13が配置されている。空調機室16とチャンバ部20とは、空調機13を介して空気が流通可能とされている。
【0030】
チャンバ部20は、サーバルーム50と空調機室16との間の空間のうち、ラック架72に挟まれた空間であってICT装置61が冷却に用いる空気を吸入するコールドアイルCAと対向する位置に配置された空間である。さらにチャンバ部20は、空調機13から吹き出された空調空気が流入する空間であり、流入した空調空気によってサーバルーム50と比較して内部の静圧が高くなるようにされている。
【0031】
チャンバ部20には、図3および図4に示すように、コールドアイルCAが延びる方向に向かって、言い換えるとラック架72が延びる方向に向かって空調空気を吹き出させる上側吹出部21およびサーバ側吹出部22が設けられている。上側吹出部21およびサーバ側吹出部22は、チャンバ部20におけるサーバルーム50との仕切りとなる側壁であって、コールドアイルCAの端部と対向する位置に設けられている。
【0032】
上側吹出部21は、サーバ側吹出部22よりも上側、かつ、ラック架72の上端よりも上方の位置に設けられた吹出し孔である。本実施形態では、ラック架72の上側およびコールドアイルCAの上端側に3つの上側吹出部21が並んで配置され、ホットアイルHAに対応する位置をあけて、再び3つの上側吹出部21が並んで配置されている例に適用して説明する。
【0033】
サーバ側吹出部22は、上側吹出部21よりも下側、かつ、ラック架72の上端から床面までの間の位置に設けられた吹出し孔である。本実施形態では、ラック架72の上端から床面までの間の位置に2つのサーバ側吹出部22が上下に並んで配置されている例に適用して説明する。
【0034】
還気部30は、図2および図4に示すように、サーバルーム50の上方に設けられた空間であり、ホットアイルHAへ排気された排気空気を空調機室16へ導く流路である。還気部30における空調機室16側の端部は、チャンバ部20の上側を通り抜けて空調機室16の上端と排気空気の流通が可能につながっている。また、それ以外の端部は、排気空気がサーバルーム50に流入しないように閉塞されている。
【0035】
還気部30には、ホットアイルHAの排気空気が還気部30に流入する開口部31が設けられている。開口部31は、還気部30におけるサーバルーム50との仕切りとなる底面であって、ホットアイルHAと対向する領域に設けられた貫通孔である。開口部31は、ホットアイルHAの上方に設けられると共に、ホットアイルHAが延びる方向に離散的に配置されている。開口部31の配置間隔は、空調機室16から離れるに伴い狭くなり、開口部31の開口面積は、空調機室16から離れるに伴い大きくなるようにされている。
【0036】
さらに、還気部30とホットアイルHAとの間には、図2および図4に示すように、ホットアイルHAとコールドアイルCAとを仕切ると共に、ホットアイルHAの排気空気を還気部30に導くホットアイルキャッピング32が設けられている。ホットアイルキャッピング32は、ラック架72の上端から還気部30に向かって延びる側面部分と、ホットアイルHAの空調機室16側の一方の端部および他方の端部を閉塞する端部部分とから構成されている。ホットアイルキャッピング32の側面部分は、ラック架72の上端のうち、ホットアイルHA側に寄った位置に設けられている。
【0037】
次に、上記の構成からなる空調システム1におけるICT装置61の冷却について説明する。
ICT装置61は、図3および図4に示すように、コールドアイルCA側の面から空調空気を内部に取入れ、その動作により発生した熱を取り入れた空調空気に吸収することにより冷却を行う。熱を吸収して温度が上昇した空調空気は排出空気として、ホットアイルHA側の面から排出する。
【0038】
ICT装置61から排出された排出空気は、ホットアイルHAから上方へ移動して開口部31から還気部30に流入する。還気部30に流入した排出空気は、図2に示すように、空調機室16に向かって流れて空調機室16に流入する。その後、排出空気は空調機13に吸入されて、熱交換器14において冷媒と熱交換して冷却される。
【0039】
空調機13の熱交換器14には、熱源部11から冷熱を供給する冷媒が循環するように構成されており、排出空気が持つ熱が冷媒に吸収されることにより冷却される。冷却された排出空気は空調空気となり送風ファン15によりチャンバ部20へ吹き出される。
【0040】
チャンバ部20は、空調機13から空調空気が供給されるため、サーバルーム50と比較して静圧が高くなる。チャンバ部20とサーバルーム50との間の圧力差により、空調空気は上側吹出部21およびサーバ側吹出部22からサーバルーム50に吹き出す。
【0041】
図3および図4に示すように、上側吹出部21から吹き出した空調空気は、コールドアイルCAの上側、および、ラック架72の上側の空間をコールドアイルCA(またはラック架72)が延びる方向に沿って流れる。また、サーバ側吹出部22から吹き出した空調空気は、ラック架72の間の空間をコールドアイルCA(またはラック架72)が延びる方向に沿って流れる。上側吹出部21およびサーバ側吹出部22からサーバルーム50へ供給された空調空気は、再びICT装置61に取り入れられ、冷却に用いられる。
【0042】
上記の構成の空調システム1によれば、複数のラック架72が配置されるサーバルーム50と空調機室16との間にチャンバ部20を設けることにより、ラック架72の配列に拘束されることなく空調機13の配置位置を定めることが可能となる。つまり、空調空気を空調機13からチャンバ部20に供給し、チャンバ部20の上側吹出部21およびサーバ側吹出部22からコールドアイルCAなどに向かって吹出させているため、コールドアイルCAの位置と、空調機13の配置位置とが一致していなくても空調空気をコールドアイルCAへ供給することができる。そのため、空調機13の配置自由度が高くなると共に、空調機13を選択する際の大きさの許容範囲や、用いる空調機13の台数の選択範囲も広くなる。
【0043】
さらに、一つのコールドアイルCAに対して、複数の空調機13から空調空気を供給することも可能となり、コールドアイルCAと空調機13とが一対一に対応して配置されている場合と比較して、ICT装置61の冷却性を高めやすくなる。
【0044】
その他に、複数の空調機13のうちの一部が停止しても、コールドアイルCAへ空調空気の吹き出しを継続することが可能であるため、コールドアイルCAと空調機13とが一対一に対応して配置されている場合と比較して、冷却の信頼性向上を図り易くなる。空調機13の停止には、故障による停止の他にも、保守管理のための停止も含めることができる。
【0045】
また、本実施形態の空調システム1では、床下空間を通じて空調空気をサーバルーム50に吹き出す場合と比較して、送風動力の削減を図ることができる。つまり、床下空間を通じて空調空気をサーバルーム50に吹き出す場合では、本実施形態の空調システム1と比較して、空調機13と床下空間との間の開口部で発生する圧力損失が大きく、より多くの空調空気を送り出す送風動力が必要となっていた。
【0046】
さらに、本実施形態の空調システム1では、床下空間を通じて空調空気をサーバルーム50に吹き出す場合と比較して、空調空気の供給を行いやすくすることができる。つまり、上記開口部の近傍に位置する床開口は、床下での動圧(風速)が大きくなるため、本実施形態の空調システム1と比較して、サーバルーム50へ空調空気を供給しにくい、サーバルーム50に供給した空調空気が床下に逆流するおそれがあった。
【0047】
なお、上述の実施形態では、前室51により区切られている部分を除き、内部空間が連続したチャンバ部20が設けられている例に適用して説明したが、図5に示すように、内部が区切られることにより、水平方向に複数の内部空間を有するチャンバ部20Aが設けられてもよい。図5ではチャンバ部20に2つの内部空間が設けられている例が示されているが、内部空間の数は、2つに限定されるものではなく、それ以上の数の内部空間が設けられていてもよい。
【0048】
チャンバ部20Aの複数の内部空間は、それぞれ独立しており、隣接する内部空間の間で空調空気の流通は遮断されている。チャンバ部20Aの内部空間には、それぞれ、空調機13や、上側吹出部21およびサーバ側吹出部22などが設けられている。
【0049】
このように複数の内部空間が独立したチャンバ部20Aを設けて、チャンバ部20Aに供給する空調空気の流量を制御して所望の圧力(例えば、所望の静圧)に調整可能とすることにより、ICT機器61に対してより適切な冷却を行いつつ、消費電力の削減を図り易くなる。つまり、チャンバ部20Aの上側吹出部21およびサーバ側吹出部22からコールドアイルCAに向かって吹き出される空調空気の風量や風速を制御する複数のパラメータの一つとして、チャンバ部20A内の静圧を上げることができる。
【0050】
上述の構成を採用することにより、チャンバ部20Aにおける内部空間の静圧を、それぞれ異なる値とすることが容易となる。その結果として、チャンバ部20Aの上側吹出部21およびサーバ側吹出部22からコールドアイルCAに向かって吹き出される空調空気の風量や風速を制御しやすくなり、ICT機器61を冷却するのに必要な空調空気をコールドアイルCAに向かって吹き出すように制御しやすくなる。
【0051】
さらに、チャンバ部20Aの内部空間が水平方向に配置されていることにより、水平方向において、上側吹出部21およびサーバ側吹出部22から吹き出される空調空気の風量や風速を調節することが可能となる。つまり、水平方向に配置されたチャンバ部20Aの内部空間のそれぞれにおいて、独立して静圧が調整可能となるため、水平方向において、吹き出される空調空気の風量や風速の調節が容易となる。そのため、例えば、複数のコールドアイルCAのそれぞれへ吹き込まれる空調空気の風量や風速の調節も可能となる。
【0052】
なお、チャンバ部20Aに供給する空調空気の流量を制御する方法としては、空調機13の運転台数を増減させる制御を用いてもよいし、空調機13の送風ファン15の回転数を増減させる制御を用いてもよく、特に限定するものではない。
【0053】
さらに、上述の構成のように、チャンバ部20Aの内部空間を水平方向に配置する代わりに、上下方向に配置してもよい。この場合、上側に配置されたチャンバ部20Aの内部空間(以降「上側の内部空間」とも表記する。)には、上側吹出部21が設けられ、下側に配置されたチャンバ部20Aの内部空間(以降「下側の内部空間」とも表記する。)には、サーバ側吹出部22が設けられる。なお、上下2段に並ぶサーバ側吹出部22のうち上側のものは、上側の内部空間に設けられ、下側のサーバ側吹出部22は、下側の内部空間に設けられていてもよい。
【0054】
空調機13は、上側の内部空間および下側の内部空間のいずれか一方に空調空気を供給するように配置されている。例えば、上側の内部空間に配置される空調機13の台数と、下側の内部空間に配置される空調機13の台数との比として、2:1を挙げることができる。なお、上述の空調機13の台数の比は例示であり、他の比の値であってもよく、特にこの比の値に限定されるものではない。
【0055】
このようにチャンバ部20Aの内部空間が上下方向に配置されていることにより、上下方向において、上側吹出部21およびサーバ側吹出部22から吹き出される空調空気の風量や風速を調節することが可能となる。つまり、上側の内部空間および下側の内部空間のそれぞれにおいて、独立して静圧が調整可能となるため、上側の内部空間に設けられた吹出部と、下側の内部空間に設けられた吹出部とに対して、吹き出される空調空気の風量や風速が異なるように調節することができる。そのため、例えば、コールドアイルCAに対する上側と下側へ吹き込まれる空調空気の風量や風速の調節も可能となる。
【0056】
また、上述の実施形態では、チャンバ部20がサーバルーム50と隣接する位置であって、コールドアイルCAの端部(前室51側の端部)と対向する位置にのみ配置されている例に適用して説明したが、図6に示すように、チャンバ部20BがコールドアイルCAの端部(前室51側の端部)と対向する位置から、その他の隣接する位置(コールドアイルCAの延びる方向と平行な位置)にL字状に延びて設けられていてもよい。
【0057】
この場合、空調機13はL字状に形成されたチャンバ部20Bにおける任意の場所に設けることができる。その一方で、上側吹出部21およびサーバ側吹出部22は、チャンバ部20と同様に、チャンバ部20BにおけるコールドアイルCAの端部と対向する側面にのみ設けられる。
【0058】
このようにチャンバ部20Bの形状をコールドアイルCAと対向する位置からサーバルーム50と隣接しつつサーバルーム50が延びる方向に延びた形状とすることにより、空調機13を配置できる範囲をさらに広げることができる。その結果、空調機13の配置の自由度が更に高くすることができ、配置できる空調機13の台数を増やすことができる。
【0059】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図7および図8を参照しながら説明する。本実施形態の空調システムの基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、上側吹出部およびサーバ側吹出部から吹き出される空調空気の風量などが制御される点が異なっている。よって、本実施形態においては、図7および図8を用いて空調空気の吹き出し風量の制御について主に説明し、第1の実施形態と同じ構成等については説明を省略する。
【0060】
本実施形態の空調システム1は、第1の実施形態の空調システム1の構成を備えているとともに、更に図7に示すように、温度を測定する温度センサ(温度測定部)81と、空調空気の風量(流量)を少なくとも変更する変更部85と、変更部85を制御する制御部90と、が少なくとも設けられている。
【0061】
温度センサ81は、サーバルーム50内に分散して配置される温度を測定するセンサであり、測定したサーバルーム50内の温度情報は、制御部90に出力される。温度センサ81が配置される場所としては、サーバルーム50のコールドアイルCAや、ホットアイルHAや、ラック架72に収容されたICT装置61の近傍などを例示することができる。
【0062】
なお、温度センサ81の配置は、サーバルーム50における温度分布が把握できる配置であればよく、詳細な配置位置を限定するものではない。また、温度センサ81の構成や、温度を測定する方式についても、特に限定するものではない。
【0063】
変更部85は、上側吹出部21およびサーバ側吹出部22におけるルーバー等の風量を制御する部材を駆動することにより、吹き出される空調空気の風量を制御するものである。制御部90としては、後述する制御部90から入力される制御信号に基づいて、電動モータや、アクチュエータなどの駆動部を用いて風量を制御する部材を駆動するものを例示することができ、その構造や駆動形式を特に限定するものではない。
【0064】
制御部90は、温度センサ81から取得した温度情報に基づいて、吹出される空調空気の風量を制御するものである。制御部90は、CPU(中央演算処理ユニット)、ROM、RAM、入出力インタフェース等を有するコンピュータシステムである。ROM等に記憶されている制御プログラムは、CPUを少なくとも演算部91として機能させるものであり、ROMなどを記憶部92として機能させるものであり、入出力インタフェース等を少なくとも入出力部93として機能させるものである。
【0065】
演算部91は、温度センサ81から入力された温度情報に基づいて、空調空気の風量を制御する演算を行うとともに、演算結果に基づいて変更部85を駆動させる制御信号を生成するものである。演算部91における制御の詳細については後述する。
【0066】
記憶部92は、空調空気の風量制御の演算で用いられる第1閾値、および第1閾値よりも値が小さな第2閾値が予め記憶されているものである。さらに記憶部92には、サーバルーム50に分散して配置された温度センサ81と、当該温度センサ81の配置位置に対して温度変化の影響が大きな上側吹出部21や、サーバ側吹出部22との対応関係を表すマップが予め記憶されている。
【0067】
入出力部93は、温度センサ81において測定された温度情報が入力され、入力された温度情報を演算部91へ出力するものである。さらに入出力部93は、演算部91で生成された制御信号が入力され、入力された制御信号を変更部85へ出力するものである。
【0068】
次に、上記構成の空調システム1における空調空気の風量制御について図8を参照しながら説明する。
空調機13からサーバルーム50へ空調空気の吹き出しが開始されると、制御部90は図8に示すフローチャートにしたがって制御処理を開始する。まず、制御部90の演算部91は、入出力部93を介して複数の温度センサ81により測定された温度情報を取得する処理を行う(温度取得ステップ:S11)。
【0069】
さらに演算部91は、記憶部92からサーバルーム50に収容されたICT装置61における上限の環境温度に関する第1閾値を取得する処理を行う(第1閾値取得ステップ:S12)。次いで、演算部91は取得した温度情報と第1閾値とを対比して、第1閾値以上の温度を測定した温度センサ81の有無を判定する処理を行う(上限判定ステップ:S13)。
【0070】
第1閾値以上の温度を測定した温度センサ81があると判定された場合(YESの場合)には、演算部91は、当該温度センサ81の周辺温度を下げることが可能な上側吹出部21や、サーバ側吹出部22を特定する処理を行う(吹出部特定ステップ:S14)。具体的には、記憶部92に記憶されたマップに基づき、上側吹出部21や、サーバ側吹出部22を特定する処理が行われる。
【0071】
その後、演算部91は、特定した上側吹出部21やサーバ側吹出部22に対して吹出される空調空気の風量を1ステップ増やす制御処理を行い(風量増加ステップ:S15)、上述のS11に戻り上述の制御を繰り返し行う。
【0072】
S13の判定において、第1閾値以上の温度を測定した温度センサ81がないと判定された場合(NOの場合)には、演算部91は、記憶部92から消費電力の削減の観点から定められた下限の環境温度に関する第2閾値を取得する処理を行う(第2閾値取得ステップ:S16)。次いで、演算部91は取得した温度情報と第2閾値とを対比して、第2閾値以下の温度を測定した温度センサ81の有無を判定する処理を行う(下限判定ステップ:S17)。
【0073】
第2閾値以下の温度を測定した温度センサ81があると判定された場合(YESの場合)には、演算部91は、当該温度センサ81の周辺温度を上げることが可能な上側吹出部21や、サーバ側吹出部22を特定する処理を行う(吹出部特定ステップ:S18)。具体的には、記憶部92に記憶されたマップに基づき、上側吹出部21や、サーバ側吹出部22を特定する処理が行われる。
【0074】
その後、演算部91は、特定した上側吹出部21やサーバ側吹出部22に対して吹出される空調空気の風量を1ステップ減らす制御処理を行い(風量減少ステップ:S19)、上述のS11に戻り上述の制御を繰り返し行う。また、S17の判定処理において、第2閾値以下の温度を測定した温度センサ81がないと判定された場合(NOの場合)にも、上述のS11に戻り上述の制御が行われる。
【0075】
上記の構成によれば、サーバルーム50における温度分布に基づいて、上側吹出部21や、サーバ側吹出部22から吹き出される空調空気の風量を変更可能とすることにより、ICT装置61に対してより適切な冷却を行いつつ、消費電力の削減を図り易くなる。
【0076】
なお、上述の実施形態では、空調空気の風量(流量)を制御する例に適用して説明したが、風量に限られるものではなく、例えば、風速や吹出し方向を制御するものであってもよいし、これらの組み合わせであってもよく、特に限定するものではない。
【0077】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記の実施の形態においては、データセンタのサーバルームを対象とした空調システムの例に適用して説明したが、このサーバルームを対象とした空調システムに限られることなく、電子機器などのように作動することにより熱を発生する機器が収容される空間を冷却する空調システムに適用することができるものである。
【符号の説明】
【0078】
1…空調システム、13…空調機、21…上側吹出部、22…サーバ側吹出部、50…サーバルーム(機器室)、20,20A,20B…チャンバ部、30…還気部、61…ICT機器(電子機器)、71…ラック、81…温度センサ(温度測定部)、85…変更部、90…制御部、CA…コールドアイル(吸入空間)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8