(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
保護カバー付き書籍の製造方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載された書籍保護カバーを書籍に取り付ける工程と、前記書籍保護カバーを熱収縮させる工程とを有する保護カバー付き書籍の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る書籍保護カバー(以下保護カバーと略称する)を示した斜視図であり、書籍に被せる前の状態を示している。
【0026】
保護カバー1は熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとを備えた積層フィルムである。保護カバー1は、書籍の表表紙を覆う表表紙カバー部2と、書籍の背部を覆う背側カバー部3と、書籍の裏表紙を覆う裏表紙カバー部4と、表表紙カバー部2の内側に折り返された表表紙折返し部5と、裏表紙カバー部4の内側に折り返された裏表紙折返し部6とを有している。なお、本明細書中では、書籍としては、表表紙、背部、及び裏表紙を有するものであれば特に限定されず、本のみならず、ノート、手帳、アルバムなどが包含されている。
【0027】
保護カバー1は、前記表表紙カバー部2の内側に折り返されている部分(表表紙折返し部5)、および、前記裏表紙カバー部4の内側に折り返されている部分(裏表紙折返し部6)において、袋状に形成されている。具体的には、表表紙折返し部5はヒートシール(
図1中、記号×を付した部分)によって、表表紙折返し部5の上縁と表表紙カバー部2の上縁とが接着され、かつ、表表紙折返し部5の下縁と表表紙カバー部2の下縁とが接着されており、裏表紙折返し部6もヒートシールによって、裏表紙折返し部6の上縁と裏表紙カバー部4の上縁とが接着され、かつ、裏表紙折返し部6の下縁と裏表紙カバー部4の下縁とが接着されている。
【0028】
図2は、上記ヒートシールを行う前の本発明に係る保護カバーの平面図を示している。保護カバー1において、表表紙カバー部2、裏表紙カバー部4、表表紙折返し部5、及び裏表紙折返し部6の少なくとも一部では、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている(
図2の灰色部分(a1、a2))。保護カバー1にシワやタルミが発生したり、書籍の表表紙や裏表紙に反りが発生したりすることなく、書籍に保護カバー1を密着させることができるのであれば、背側カバー部3以外(表表紙カバー部2、裏表紙カバー部4、表表紙折返し部5、及び裏表紙折返し部6)の一部の領域では熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されていなくても構わない。例えば、表表紙カバー部2の背側カバー部3近傍における一部の領域や裏表紙カバー部4の背側カバー部3近傍における一部の領域では熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されていなくても構わない。表表紙カバー部2、裏表紙カバー部4、表表紙折返し部5、及び裏表紙折返し部6の合計面積の70%以上で熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されていることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%(背側カバー部3以外は、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている、すなわち、表表紙カバー部2、裏表紙カバー部4、表表紙折返し部5、及び裏表紙折返し部6の全領域で、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている)である。本発明に係る保護カバーの熱収縮前後における各部位の寸法、熱収縮性フィルム及び非熱収縮性シートの詳細などについては後述する。
【0029】
背側カバー部3は、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されていなくても、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが一部接着されていてもよい。例えば、背側カバー部3の表表紙カバー部2近傍における一部の領域や背側カバー部3の裏表紙カバー部4近傍における一部の領域において、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されていてもよく、
図3のように、背側カバー部3において、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとがストライプ状(
図3のa3)に接着されていてもよい。背側カバー部3の50%以下の面積で熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されていることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下である。なお、
図2においては、背側カバー部3では、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとは接着されておらず、背側カバー部3以外では、全領域で熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着された保護カバー1としている。
【0030】
この保護カバー1を書籍に取り付け、その後、保護カバー1を熱収縮させることによって、保護カバー付き書籍を製造する。
【0031】
図4は上記保護カバー1を熱収縮させることによって、包装対象となる書籍7に保護カバー1を密着させた状態を示す斜視図である。なお、書籍7における符号7aは表表紙、7bは背部、7cは裏表紙、7dは小口を示している。また、8は書籍7に付随している書籍カバーであり、8aは表表紙カバー見返し、8bは裏表紙カバー見返し、9は帯である。
【0032】
保護カバー1及び書籍7は、書籍包装用のシュリンク装置(図示しない)に投入される。このシュリンク装置は、保護カバー1を書籍7に取り付ける工程と、保護カバー1をヒータによって熱収縮させる工程とを経時的に実行するように構成されている。
【0033】
熱収縮工程によって、非熱収縮性シートが熱収縮性フィルムに接着されていない背側カバー部3が熱収縮する。その結果、保護カバー1は書籍7の表表紙7a、裏表紙7cに密着するが、小口7dについては包装の対象となっていないため、シュリンク包装を行った後でも書籍の中身を自由に見ることができる。
【0034】
なお、書籍7には通常、書籍カバー8、帯9が付装されているため、保護カバー1は表紙とともにこれらを含めて包装する。
【0035】
また、この保護カバー1には、簡単に取り外しができるように、例えば背側カバー部3にノッチを入れてもよく、また、縦方向にミシン目を入れることもできる。
【0036】
なお、保護カバー1には例えば販売店名の文字やロゴ、装飾のための着色や図柄、分類のための記号等を印刷することができる。
【0037】
[熱収縮前の保護カバーの各部位の寸法について]
包装対象の書籍の厚さをTとするとき、保護カバー1における非熱収縮性シートが熱収縮性フィルムに接着されていない部分の横長さt′は1.1T〜4Tであることが好ましい。保護カバー1を熱収縮させると保護カバー1が書籍に密着するが、保護カバー1の横長さt′が上記範囲内である場合、熱収縮を行うことによって、書籍と保護カバー1との間に緩みが生じたり、書籍に密着させた保護カバー1にシワやタルミが発生したり、書籍の表紙に反りが発生したりすることなく、保護カバー1を書籍に密着させることができる。t′が1.1T未満であると熱収縮後に書籍の表紙に反りが発生するおそれがあり、t′が4Tを超えると、保護カバー1の熱収縮を行っても書籍と保護カバー1との間に緩みが生じたり、書籍に密着させた保護カバー1にシワやタルミが発生したりして、保護カバー1を書籍に密着させることができないおそれがある。
【0038】
包装対象の書籍の表紙幅(書籍の表表紙、背部、及び裏表紙の横長さの合計)をLとするとき、保護カバー1の表表紙カバー部2、背側カバー部3、及び裏表紙カバー部4の横幅の合計(以下、横幅l′という)は1.01L〜1.2Lであることが好ましい。横幅l′が上記範囲内である場合、横幅l′の長さは書籍の表紙幅Lの長さと比べて余裕があるため、書籍に保護カバー1を容易に取り付けることができる。横幅l′は、表表紙折返し部5の横長さw3及び裏表紙折返し部6の横長さw4を変更することによって容易に調整することができる。
【0039】
包装対象の書籍の縦長さをHとするとき、保護カバー1の縦長さh′は1.01H〜1.15Hであることが好ましい。包装対象の書籍の横長さをWとするとき、表表紙カバー部2の全体又は大部分にあたる、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている領域の横長さw1は1.01W〜1.15Wであることが好ましく、裏表紙カバー部4の全体又は大部分にあたる、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている領域の横長さw2は1.01W〜1.15Wであることが好ましい。表表紙折返し部5の横長さw3は0.2W〜0.7Wであることが好ましく、裏表紙折返し部6の横長さw4も0.2W〜0.7Wであることが好ましい。
【0040】
[熱収縮後の保護カバーの各部位の寸法について]
保護カバー1における熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されていない部分の熱収縮後の横長さT′は、1.01T〜2Tであることが好ましい。横長さT′が上記範囲内である場合、書籍と保護カバー1との間に緩みが生じたり、書籍に密着させた保護カバー1にシワやタルミが発生したり、書籍の表紙に反りが発生したりすることなく、保護カバー1を書籍に密着させることができる。
【0041】
保護カバー1の表表紙カバー部2、背側カバー部3、及び裏表紙カバー部4の熱収縮後における横幅の合計(以下、横幅L′という)は、1.01L〜1.2Lであることが好ましい。保護カバー1の横幅L′が上記範囲内である場合、書籍と保護カバー1との間に緩みが生じたり、書籍に密着させた保護カバー1にシワやタルミが発生したり、書籍の表紙に反りが発生したりすることなく、保護カバー1を書籍に密着させることができる。
【0042】
保護カバー1の横長さw1、横長さw2、横長さw3、及び横長さw4は、いずれも熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている領域の寸法であるため、熱収縮前後で寸法はほとんど変化しない。なお、熱収縮後の表表紙カバー部2の全体又は大部分にあたる、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている領域の横長さ、熱収縮後の裏表紙カバー部4の全体又は大部分にあたる、熱収縮性フィルムと非熱収縮性シートとが接着されている領域の横長さ、熱収縮後の表表紙折返し部5の横長さ、熱収縮後の裏表紙折返し部6の横長さを順にW1、W2、W3、W4と表す。また、熱収縮後における保護カバー1の縦長さH′も同様に熱収縮前後で寸法はほとんど変化せず、縦長さH′は熱収縮前の保護カバー1の縦長さh′とほぼ同じ長さである。保護カバー1の縦長さH′は1.01H〜1.15Hであることが好ましく、横長さW1及びW2は1.01W〜1.15Wであることが好ましく、横長さW3及びW4は0.2W〜0.7Wであることが好ましい。
【0043】
[熱収縮性フィルム]
熱収縮性フィルムとしては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルムなどが挙げられ、ポリエステル系フィルムが好ましい。ポリエステル系フィルム(以下、熱収縮性ポリエステル系フィルムという)の詳細については後述する。
【0044】
(熱収縮性フィルムの物性)
本発明で用いられる熱収縮性フィルムは、90℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、以下の式により算出したフィルムの長手方向(主収縮方向)の熱収縮率が、10%以上60%以下であることが好ましく、20%以上55%以下であることがより好ましく、30%以上50%以下であることがより好ましい。90℃における長手方向の熱収縮率が10%未満であると、収縮量が小さすぎるために、書籍と保護カバー1との間に緩みが生じたり、書籍に密着させた保護カバー1にシワやタルミが発生するおそれがあり、一方、90℃における長手方向の熱収縮率が60%を超えると、熱収縮後においてカバーを施した書籍の表表紙や裏表紙に反りが発生するおそれがある。また、熱収縮性フィルムの幅方向の熱収縮率が30%未満であることが好ましく、より好ましくは15%以下である。保護カバーを書籍に取り付ける際には、フィルムの幅方向が書籍の縦長さ方向となるように取り付けるのが好ましい。
【0045】
90℃における熱収縮率は以下のように測定する。まず、フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、90℃±0.5℃の温水中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの長手方向および幅方向の寸法を測定し、以下の式を用いて、長手方向および幅方向の熱収縮率を求める。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
【0046】
熱収縮性フィルムの厚みは、特に限定されず、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、60μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。熱収縮性フィルムが薄すぎると破れ易く、また、厚すぎると熱収縮性フィルムの収縮応力が大きくなり、熱収縮後においてカバーを施した書籍の表紙に反りが発生するおそれがある。
【0047】
熱収縮性フィルムは一層のみであることが好ましいが、シワやタルミなどが発生することなく綺麗に書籍へと密着させることができる保護カバー1となるのであれば、複数層の熱収縮性フィルムを備えた保護カバー1でもよい。
【0048】
<熱収縮性ポリエステル系フィルム>
(熱収縮性ポリエステル系フィルムの構成)
本発明で好適に用いられる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成ユニットとすることが好ましい。「主たる」というのは、ポリエステルの全構成ユニットを100モル%として、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含むことが好ましく、55モル%以上がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましい。エチレンテレフタレートユニットの含有率が50モル%未満の場合には、得られる保護カバーの耐熱性や耐衝撃性が不十分となる場合がある。なお、本明細書において「ユニット」とは、1つの多価アルコール分子および1つの多価カルボン酸分子から誘導されるポリマーを構成する繰り返し単位のことであり、また、ε−カプロラクトンの場合は、ラクトン環の開環で得られる構成単位を示す。
【0049】
このポリエステルは、エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニット及び/又はテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットが含まれていることが好ましい。エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニットとは、テレフタル酸とエチレングリコール以外の多価アルコールとからなるエステルユニットであり、テレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットとは、エチレングリコールとテレフタル酸以外の多価カルボン酸とからなるエステルユニットである。
【0050】
エチレングリコール以外の多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール等の脂環式ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の脂肪族多価アルコール;等が挙げられる。
【0051】
また、テレフタル酸以外の多価カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等や、通常ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸及びそれらの酸無水物等の芳香族多価カルボン酸;等が挙げられる。
【0052】
エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニット及びテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットの合計量が、上記全構成ユニット100モル%中、10モル%以上であることが好ましく、13モル%以上であることがより好ましい。エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニット及び/又はテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットは、非晶質成分となり得る。本発明においては、保護カバーの収縮仕上がり性等の観点から、ポリエステルの構成ユニット中に非晶ユニットが含まれる(熱収縮性ポリエステル系フィルムの結晶化度が100%ではない)のが好ましい。そのためには、多価アルコールとして、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが用いられることが好ましく、ネオペンチルグリコール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールの少なくとも一方が用いられるのがより好ましい。
【0053】
非晶ユニットとしては、例えば、イソフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸とネオペンチルグリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールからなるモノマーユニット、イソフタル酸とブタンジオールからなるモノマーユニット等が挙げられる。
【0054】
また、エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニット及びテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットの合計量が、上記全構成ユニット100モル%中、30モル%以下であることが好ましく、27モル%以下であることがより好ましい。エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニット及びテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットの合計量が30モル%を超えると、得られるフィルムの耐熱性や耐衝撃性が不十分となるおそれや、フィルムの耐溶剤性が低下して、保護カバーに文字等を印刷する場合、その印刷工程でインキの溶媒(酢酸エチル等)によってフィルムの白化が起きたり、フィルムの耐破れ性が低下したりするおそれがある。
【0055】
ここで、上記の「非晶質成分となり得る」の用語の解釈について詳細に説明する。
【0056】
本発明において、非晶ユニットからなる「非晶性ポリマー」とは、具体的にはDSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有さないポリマーを指す。非晶性ポリマーは実質的に結晶化が進行しておらず、結晶状態をとりえないか、結晶化しても結晶化度が極めて低いものである。
【0057】
また、本発明において、結晶ユニットからなる「結晶性ポリマー」とは上記の「非晶性ポリマー」ではないもの、即ち、DSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有するポリマーを指す。結晶性ポリマーは、ポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化しているものである。
【0058】
一般的には、モノマーユニットが多数結合した状態であるポリマーについて、ポリマーの立体規則性が低い、ポリマーの対象性が悪い、ポリマーの側鎖が大きい、ポリマーの枝分かれが多い、ポリマー同士の分子間凝集力が小さい、などの諸条件を有する場合、非晶性ポリマーとなる。しかし存在状態によっては、結晶化が十分に進行し、結晶性ポリマーとなる場合がある。例えば、側鎖が大きいポリマーであっても、ポリマーが単一のモノマーユニットから構成される場合、結晶化が十分に進行し、結晶性となり得る。そのため、同一のモノマーユニットを用いてポリマーを作製しても、結晶性ポリマーになる場合もあれば、非晶性ポリマーになる場合もあるため、本発明では「非晶質成分となり得る」という表現を用いている。
【0059】
フィルムの易滑性を向上させるために、有機滑剤、無機滑剤等の微粒子を含有せしめることも好ましい。必要に応じて、安定剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤等の添加剤を含有するものであってもよい。滑り性を付与する微粒子としては、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、テレフタル酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、フッ化リチウム等の公知の不活性外部粒子、ポリエステル樹脂の溶融製膜に際して不溶な高融点有機化合物、架橋ポリマー、ポリエステル合成時に使用する金属化合物触媒、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等によってポリエステル製造時にポリマー内部に形成される内部粒子等が挙げられる。上記微粒子は、フィルム中、0.005〜0.9質量%が好ましく、平均粒径としては0.001〜3.5μmが好ましい。
【0060】
熱収縮性ポリエステル系フィルムとしては、市販品を使用してもよく、上記市販品としては、例えば、大和製罐株式会社製大和ベルファイン(登録商標)HS202などが挙げられる。
【0061】
(熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法)
熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す所定の方法により一軸延伸または二軸延伸することによって得ることができる。なお、ポリエステルは、前記した好適なジカルボン酸成分と多価アルコール成分とを公知の方法で重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用することもできる。
【0062】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0063】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0064】
本発明の目的を達成するには、フィルムの主収縮方向はフィルム縦(長手)方向、横(幅)方向のどちらでも構わないし、縦横バランス収縮タイプでも構わない。以下では、最初に横延伸、次に縦延伸を実施する横延伸−縦延伸法について説明するが、順番を逆にする縦延伸−横延伸であっても、主収縮方向が変わるだけなので構わない。
【0065】
まず、横方向の延伸を行う。横方向の延伸は、テンター(第1テンター)内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、65℃〜85℃で3.5〜5倍程度行うことが好ましい。横方向の延伸を行う前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が70℃〜100℃になるまで行うとよい。
【0066】
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。第1テンターの横延伸ゾーンと中間熱処理ゾーンで温度差がある場合、中間熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込み、横延伸ゾーンの温度が安定しないためにフィルム品質が安定しなくなることがあるので、横延伸後で中間熱処理前のフィルムを、所定時間をかけて中間ゾーンを通過させた後に、中間熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや中間熱処理ゾーンからの熱風を遮断すると、安定した品質のフィルムが得られる。中間ゾーンの通過時間は、1秒〜5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。また、中間ゾーンは長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0067】
中間ゾーンの通過後は、縦延伸前の中間熱処理を行っても行わなくてもどちらでも構わない。しかし、横延伸後の中間熱処理の温度を高くすると、保護カバーの折畳み性に寄与する分子配向が緩和され結晶化が進むため、保護カバーの折畳み性は若干悪くなる。また、厚み斑も大きくなる。この観点から、中間熱処理は140℃以下で行うことが好ましい。また、中間熱処理ゾーンの通過時間は20秒以下が好ましい。中間熱処理ゾーンは長い方が好ましいが、20秒程度で充分である。これにより横一軸延伸フィルムが得られる。
【0068】
本発明では、続いて縦延伸を行っても行わなくてもよいが、行った方がフィルムの引張り破壊強度が向上するので好ましい。よって、横一軸延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入するとよい。縦延伸に当たっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃〜110℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸する際に延伸し難くなり(すなわち、破断が生じやすくなり)好ましくない。またフィルム温度が110℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、連続生産によるロールの汚れ方が早くなり好ましくない。
【0069】
フィルムの温度が前記範囲になったら、縦延伸を行う。縦延伸倍率は、主収縮方向を縦方向にするか、横方向にするかで異なる。引張り破壊強度を向上させる観点から、主収縮方向を縦方向にする場合は、縦延伸倍率を2〜5倍とするとよい。一方、引張り破壊強度を向上させる観点から、主収縮方向を横方向にする場合は、縦延伸倍率を1.2〜1.8倍とするとよい。
【0070】
縦延伸後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、最終熱処理を行う前に、表面温度が20〜40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。縦延伸後に急冷することで、フィルムの分子配向が安定化し、製品となった後のフィルムの自然収縮率が小さくなるため、好ましい。
【0071】
次に、縦延伸および冷却後のフィルムを、熱処理のための第2テンターへと導入し、熱処理を行う。熱処理温度は、65℃〜100℃が好ましい。熱処理温度が65℃より低いと熱処理の意味をなさない。一方、熱処理温度が100℃より高いと、熱収縮率が小さくなってしまうおそれがある。熱処理温度は、70〜95℃であることがより好ましく、75〜90℃であることがさらに好ましい。
【0072】
後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、本発明に用いる熱収縮性ポリエステルフィルムのフィルムロールが得られる。
【0073】
[非熱収縮性シート]
非熱収縮性シートとしては、熱収縮性が低いシートであれば特に限定されず、例えば、非熱収縮性フィルム、紙、不織布などを用いることができ、好ましくは非熱収縮性フィルムである。
【0074】
非熱収縮性シートを熱収縮性フィルムに接着させる方法としては公知の方法を用いることができ、ドライラミネート接着剤・ホットメルト接着剤などの接着剤を使用した接着、シート自体の熱融着、高周波融着、超音波融着、ミシン縫などの縫着などの各種手段を非収縮性シートの素材により適宜選択することができる。
【0075】
<非熱収縮性フィルム>
非熱収縮性フィルムとしては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルムなどが挙げられ、ポリエステル系フィルム(以下、非熱収縮性ポリエステル系フィルムという)又はポリオレフィン系フィルム(特にポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム)が好ましい。
【0076】
非熱収縮性ポリエステル系フィルムは熱収縮性ポリエステル系フィルムと同様に作製することができ、公知の方法を用いることができる。非熱収縮性ポリエステル系フィルムと熱収縮性ポリエステル系フィルムとの違いは、その熱収縮率が異なる点であり、例えば、ポリエステル系フィルムを製造する際に、熱処理温度を105〜150℃程度と比較的高く設定するなど製造条件等を適宜設定することにより、非熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造することが可能である。熱処理温度は、120〜140℃であることがより好ましい。
【0077】
非熱収縮性フィルムとしては、市販品を使用してもよく、上記市販品としては、例えば、ポリエチレンフィルムとしてはフィルム東洋紡社製リックス(登録商標)フィルムL6101、L4102、ポリエチレンテレフタレートフィルムとしては東洋紡社製東洋紡エステル(登録商標)フィルムE5102、OPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルムとしては東洋紡社製パイレン(登録商標)フィルムP2161、CPP(未延伸ポリプロピレン)フィルムとしては東洋紡社製パイレン(登録商標)フィルムP1128、ONY(二軸延伸ポリアミド)フィルムとしては東洋紡社製ハーデン(登録商標)フィルムN1102などが挙げられる。また、非熱収縮性フィルムとしては、ポリエステル系フィルムにヒートシール層が積層された市販品を使用してもよく、上記市販品としては、例えば、非熱収縮性ポリエステル系フィルムにヒートシール層が積層された東洋紡社製東洋紡エステル(登録商標)E7700、帝人デュポンフィルム社製マイラー(登録商標)850などが挙げられる。
【0078】
(非熱収縮性シートの物性)
本発明で用いられる非熱収縮性シートは、90℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、上記の式により算出したフィルムの長手方向(主収縮方向)の熱収縮率が、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。また、非熱収縮性シートの幅方向の熱収縮率は3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
【0079】
非熱収縮性シートの厚さは、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。
【0080】
非熱収縮性シートは一層のみであることが好ましいが、シワやタルミなどが発生することなく綺麗に書籍へと密着させることができる保護カバー1となるのであれば、複数層の非熱収縮性シートを備えた保護カバー1でもよい。
【0081】
[その他]
また、保護カバー1の少なくとも一層に紫外線吸収剤が含まれていてもよく、保護カバー1は、300nm〜375nmの波長の光の透過率が50%以下であることが好ましい。紫外線吸収剤が含まれた保護カバー1を用いることによって、時間が経つにつれて、紫外線により書籍が変色(黄ばみ)するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0082】
(フィルムの90℃熱収縮率)
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、90℃±0.5℃の温水中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの長手方向および幅方向の寸法を測定し、以下の式を用いて、長手方向および幅方向の熱収縮率を求める。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
【0083】
(熱収縮性ポリエステルフィルムFの製膜)
ポリエステルA〜Dは以下の表1に記載の酸成分と多価アルコール成分とを公知の方法で反応させて得られたポリエステルであり、ポリエステルDに含有されている滑剤は富士シリシア社製サイリシア(登録商標)266である。上記ポリエステルA〜Dを用いて熱収縮性ポリエステルフィルムFを作製した。以下に熱収縮性ポリエステルフィルムFの製膜方法について記載する。
【0084】
【表1】
【0085】
上記ポリエステルA〜Dを質量比5:66:24:5で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ240μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。しかる後、その未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、横延伸ゾーンからの熱風および中間熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている。
【0086】
そして、テンターに導かれた未延伸フィルムを、フィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後、横延伸ゾーンで横方向に70℃で4倍に延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、80℃の温度で8秒間に亘って熱処理することによって厚み36μmの横一軸延伸フィルムを得た。
【0087】
さらに、その横延伸したフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後に3倍に延伸した。しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0088】
そして、冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で90℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理した後に冷却し、両縁部を裁断除去することによって、厚みが約13μmの二軸延伸フィルムを所定の長さに亘って連続的に製膜して熱収縮性ポリエステルフィルムFを得た。
【0089】
フィルムFを形成する樹脂組成物はポリエステル樹脂からなる。また、フィルムFにおいて、エチレングリコール以外の多価アルコール由来のユニット及びテレフタル酸以外の多価カルボン酸由来のユニットの合計量が、全構成ユニット100モル%中20モル%であり、ネオペンチルグリコール及びジエチレングリコールが含まれているため、フィルムFには非晶質成分が含まれている。また、フィルムFの90℃熱収縮率は、縦方向が40%、横方向が10%である。
【0090】
(非熱収縮性フィルム)
非熱収縮性フィルムとして、市販品である60μmの東洋紡社製リックス(登録商標)フィルムL6101を用いた。東洋紡社製L6101はリニアローデンシティポリエチレン(LLDPE)を主原料としたフィルムであり、東洋紡社製L6101の90℃熱収縮率は、縦方向が0.3%、横方向が0.4%である。
【0091】
(比較例1)
包装対象の本として縦148mm、横105mm、厚さ14mmの本を用意した。そして、上記熱収縮性ポリエステルフィルムFにヒートシールを行って、本の表表紙の内側に折り返されている部分、および、本の裏表紙の内側に折り返されている部分において、袋状に形成された
図1に示す形状の保護カバーを作製し、その後、保護カバーを本に取り付けた。次に、保護カバーを取り付けた本をシュリンク装置に投入し、続いて、保護カバーを120℃で10秒間熱収縮させ本の表紙に密着させたところ、表表紙、裏表紙に反りが発生した状態となった。熱収縮前における保護カバーの横幅l′は256mm、横長さw3及びw4は68mm、縦長さh′は153mmであった。また、熱収縮後における保護カバーの横幅L′は160mm、横長さW3及びW4は41mm、縦長さH′は140mmであった。
【0092】
(実施例1)
比較例1において、表表紙カバー部及び表表紙折返し部(
図2中のa1)並びに裏表紙カバー部及び裏表紙折返し部(
図2中のa2)において、上記非熱収縮性フィルムと上記熱収縮性ポリエステルフィルムFとをドライラミネートにより接着させた積層フィルムに保護カバーを代えた以外は比較例1と同様にして、保護カバーを熱収縮させ本の表紙に密着させたところ、シワやタルミなどが発生することなく、本の表紙を保護カバーで密着包装することができた。上記ドライラミネートを行う際に、ポリエステル系接着剤LX−701及びイソシアネート系硬化剤KY−90(共にDICグラフィックス社製)を用いた。また、表表紙、裏表紙に反りが発生することもなかった。熱収縮前における保護カバーの横幅l′は256mm、横長さt′は40mm、横長さw1及びw2は108mm、横長さw3及びw4は68mm、縦長さh′は153mmであった。また、熱収縮後における保護カバーの横幅L′は230mm、横長さT′は20mm、横長さW1及びW2は105mm、横長さW3及びW4は66mm、縦長さH′は150mmであった。