(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
交通路構造物に生じた歪みの測定値には、歪みを測定するセンサが配置された測定位置を車両が通過することによって生じた歪み成分と、その他の原因によって生じた歪み成分とが混在する。後者の歪み成分には、車両の走行に伴い生じた歪み成分ではあるものの、測定位置以外の位置の車両の走行に伴い生じた歪み成分が含まれることもある。交通路構造物を走行した車両を検出する上で不要な歪み成分は、この検出において有用な歪み成分と比較して、微小且つランダムに出現することが多い。
本発明の目的は、車両の走行に伴い交通路構造物に生じた歪みの測定値に基づき、交通路を走行した車両を検出する上で有用な成分を精度良く特定するためのデータを生成することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明のデータ生成装置は、
車両が交通路を走行する
ときに前記交通路を構成する構造物の測定位置において生じる歪みの時系列データを用いて車両
の走行を検出する車両検出システムに用いられ
る歪みの時系列データを生成するデータ生成装置であって、
車両の車軸が当該車両の走行方向における前記測定位置を通過するときに前記測定位置に生じる歪みの方向を第1の方向とし、前記第1の方向と反対の歪みの方向を第2の方向とするとき、前記
測定位置における歪みの測定値の時系列データを取得する測定値取得手段と、前記
測定値取得手段が取得した時系列データが示す歪みの変動量が所定の基準を満たす期間において、前記測定値が
前記第2の方向における最大の
歪みを示す時刻と
当該時刻における歪みの測定値との組み合わせ、又は当該時刻と
当該時刻における歪み
の測定値との組み合わせに基づいて所定の規則に従い特定される時刻と歪みとの組み合わせを示す基準点を設定し、当該基準点を用いて補間演算を行うことにより、
前記測定位置における前記第2の方向における歪みの時系列データを生成する基準値生成手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明のデータ生成装置において、前記基準点を第1の基準点と
するとき、前記基準値生成手段は、前記
測定値取得手段が取得した時系列データを時間軸上で複数の期間に区分して、当該複数の期間のうちの前記変動量が所定の基準を満たす期間においては、当該期間内の時刻と当該期間における歪みの測定値の統計量との組み合わせを示す第2の基準点に設定し、前記第1の基準点、及び前記第2の基準点を用いて前記補間演算を行ってもよい。
【0008】
本発明のデータ生成装置において、
前記基準値生成手段が生成した前記
第2の方向における歪みの時系列データに基づいて、前記
測定値取得手段が取得した時系列データを補正する補正手段を備えてもよい。
このデータ生成装置において、前記補正された時系列データが示す歪みのうちの
前記第2の方向における歪みの分布に基づいて、ノイズ分布を特定するノイズ分布特定手段と、前記補正された時系列データにおける、前記ノイズ分布に属さない
前記第1の方向における歪みの出現頻度に基づき、前記車両が歪み計の配置位置を通過した通過期間を特定する
通過期間特定手段とを備えてもよい。
【0009】
また、本発明のデータ生成方法は、
車両が交通路を走行する
ときに前記交通路を構成する構造物の測定位置において生じる歪みの時系列データを用いて車両
の走行を検出する車両検出システムに用いられ
る歪みの時系列データを生成するデータ生成方法であって、
車両の車軸が当該車両の走行方向における前記測定位置を通過するときに前記測定位置に生じる歪みの方向を第1の方向とし、前記第1の方向と反対の歪みの方向を第2の方向とするとき、前記
測定位置における歪みの測定値の時系列データを取得するステップと、前記
取得するステップにおいて取得した時系列データが示す歪みの変動量が所定の基準を満たす期間において、前記測定値が
前記第2の方向における最大の
歪みを示す時刻と
当該時刻における歪みの測定値との組み合わせ、又は当該時刻と
当該時刻における歪み
の測定値との組み合わせに基づいて所定の規則に従い特定される時刻と歪みとの組み合わせを示す基準点を設定し、当該基準点を用いて補間演算を行うことにより、
前記測定位置における前記第2の方向における歪みの時系列データを生成するステップとを備える
ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明のプログラムは、
車両が交通路を走行する
ときに前記交通路を構成する構造物の測定位置において生じる歪みの時系列データを用いて車両
の走行を検出する車両検出システムに用いられ
る歪みの時系列データを生成するコンピュータに、
車両の車軸が当該車両の走行方向における前記測定位置を通過するときに前記測定位置に生じる歪みの方向を第1の方向とし、前記第1の方向と反対の歪みの方向を第2の方向とするとき、前記
測定位置における歪みの測定値の時系列データを取得するステップと、前記
取得するステップにおいて取得した時系列データが示す歪みの変動量が所定の基準を満たす期間において、前記測定値が
前記第2の方向における最大の
歪みを示す時刻と
当該時刻における歪みの測定値との組み合わせ、又は当該時刻と
当該時刻における歪み
の測定値との組み合わせに基づいて所定の規則に従い特定される時刻と歪みとの組み合わせを示す基準点を設定し、当該基準点を用いて補間演算を行うことにより、
前記測定位置における前記第2の方向における歪みの時系列データを生成するステップとを実行させるためのプログラムである。
【0011】
また、本発明の記録媒体は、
車両が交通路を走行する
ときに前記交通路を構成する構造物の測定位置において生じる歪みの時系列データを用いて車両
の走行を検出する車両検出システムに用いられ
る歪みの時系列データを生成するコンピュータに、
車両の車軸が当該車両の走行方向における前記測定位置を通過するときに前記測定位置に生じる歪みの方向を第1の方向とし、前記第1の方向と反対の歪みの方向を第2の方向とするとき、前記
測定位置における歪みの測定値の時系列データを取得するステップと、前記
取得するステップにおいて取得した時系列データが示す歪みの変動量が所定の基準を満たす期間において、前記測定値が
前記第2の方向における最大の
歪みを示す時刻と
当該時刻における歪みの測定値との組み合わせ、又は当該時刻と
当該時刻における歪み
の測定値との組み合わせに基づいて所定の規則に従い特定される時刻と歪みとの組み合わせを示す基準点を設定し、当該基準点を用いて補間演算を行うことにより、
前記測定位置における前記第2の方向における歪みの時系列データを生成するステップとを実行させるためのプログラムを持続的に記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車両の走行に伴い交通路構造物に生じた歪みの測定値に基づき、交通路を走行した車両を検出する上で有用な成分を精度良く特定するためのデータを生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下の説明で参照する各図において、各部材、各領域等を認識可能な大きさとするために、実際とは縮尺を異ならせている場合がある。以下では、交通路構造物が、車両が走行する床版が形成された橋梁である場合を説明する。
【0015】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る車両検出システム1の全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように車両検出システム1は、車両検出装置10と、複数の歪み計を含む歪み計群20とを備える。車両検出装置10は、歪み計群20に含まれる各歪み計により逐次測定された歪みの測定値に基づいて、橋梁を走行する車両の有無の検出、更には、車軸重量、車軸数、速度、及び車種の特定等の各種の処理を行う。
【0016】
以下では、車両検出装置10が、橋梁200(
図2参照)に配置された歪み計211,212に基づいて、橋梁200を走行した車両300を検出する場合を説明する。歪み計211,212は、例えば、歪みを検出するセンサ、及び当該センサからの信号を増幅する増幅器を備える。本実施形態において歪みとは、物質の形状の変形であり、局所的には引っ張り又は圧縮を示す。歪みを検出するセンサは、例えば歪みゲージであるが、FBG(Fiber Bragg Grating)光ファイバセンサ等が用いられてもよい。以下の説明において、車両300は3軸車、より具体的には、前2軸・後1軸の車両(例えばトラック)であるものとする。
【0017】
図2は、橋梁200の構造及び歪み計211,212の配置位置を説明する図である。
図2において上段には橋梁200の橋桁(主桁)を水平方向から見た断面の構成が、下段には橋梁200を上方から平面視した図が示されている。
橋梁200は、鋼材で形成された箱桁橋である。橋梁200の橋桁は、上フランジ210、及び下フランジ250が、橋軸方向に沿って配列した1対のウェブ230,240で上下に連結された箱形となっている。上フランジ210の上面には、上フランジ210に密着するように、車両300が走行する床版220(例えば鋼床版)が形成されている。
【0018】
歪み計211,212は、軸検知用のセンサで、床版220に生じた歪みを測定(計測)する。歪み計211,212は、上フランジ210の下面において、ウェブ230とウェブ240との間の位置に、橋軸方向に互いに所定の間隔を空けて配置される。歪み計211,212は、およそ6〜10mの間隔を空けて配置される。車両検出システム1においては、歪み計211,212の配置位置を歪み(活荷重)の測定位置とし、車両300が当該測定位置を通過したことに起因する歪みを測定する。
【0019】
図3は、橋梁200の測定位置に作用する引っ張り歪みを説明する図である。引っ張り歪みとは、引っ張りを示す歪みのことをいう。これに対し、圧縮を示す歪みのことを、圧縮歪みという。また、本実施形態では、引っ張り歪みの測定値を正の値で表し、圧縮歪みの測定値を負の値で表す。
図3に示すように、歪み計211の位置を車両300の車軸が通過するとき、この通過に伴い、床版220(上フランジ210も同様。)が下に凸となるようにたわむ。このたわみにより、床版220の上面には圧縮歪みが、下面には引っ張り歪みが生じる。歪み計211は、この引っ張り歪みを測定する。歪み計212も同様に、歪み計212の位置を車両300の車軸が通過するときに、引っ張り歪みを測定する。
【0020】
ところで、車両300が橋梁200を走行するときには、
図3で説明した引っ張り歪みだけでなく、圧縮歪み(沈み込み)が歪み計211,212によって測定されることがある。この圧縮歪みは、
図3で説明した車両300の測定位置の通過に伴って生じる歪みとは異なり、例えば、橋梁200又は橋桁の全体に生じる。
【0021】
図4は、橋梁200の測定位置に作用する圧縮歪みを説明する図である。
図5は、測定位置に作用する圧縮歪みの時系列の変化を示すグラフである。
図5のグラフにおいて、横軸は時間軸であり、縦軸は歪みの測定値を示す。
図4の上段に示すように、橋梁200の橋桁において、上フランジ210(床版220)、ウェブ230、下フランジ250、及びウェブ240を、内側に空洞を有する弾性体Dとみなす。この場合において、車両300の車軸が、ウェブ230よりも歪み計211,212側に進入したとき、弾性体Dには、
図4の下段に示す歪みが生じる。即ち、弾性体Dにおいては、上辺に相当する上フランジ210(床版220)の部分に下に凸となる圧縮歪みが生じ、下辺に相当する下フランジ250の部分に引っ張り歪みが生じる。この圧縮歪みの時系列の変化は、
図5の実線のグラフで表される。
図5に示す期間Tは、車両300が歪み計211,212の配置位置の付近を通過する期間である。期間Tにおいて、最大の引っ張り歪みは、
図5の破線のグラフで表されるように「+ε1」であるが、これは、「−ε2」の圧縮歪みの影響を受けた測定値である。このような圧縮歪みの存在が、車両の検出を含む各処理の精度を低下させる原因となることがある。
なお、
図4で説明したような沈み込みは、「鋼床版構造の歪み計測(特にトラフリブ下面や横リブ)」や、「コンクリート床版の下面での歪み計測」においてよく発生する。
【0022】
そこで、車両検出装置10は、歪み計211,212により測定された歪みの測定値の時系列データから、この圧縮歪みの成分を低減(又は除去)させる機能を有する。
【0023】
図1に戻って、車両検出システム1の構成の説明を続ける。車両検出装置10は、ハードウェア回路として、制御部110と、インタフェース120と、記憶部130と、表示部140と、操作部150とを備える。
制御部110は、演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を有するプロセッサである。CPUは、ROM又は記憶部130に記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、車両検出装置10の各部を制御する。制御部110は、橋梁200の歪みの時系列データを生成するデータ生成装置として機能する。
【0024】
インタフェース120は、歪み計211,212により測定された歪みの測定値のデータを取得する。例えば、制御部110は、100Hzのサンプリング周波数、即ち10msのサンプリング間隔で、歪みの測定値のデータをサンプリングする。そして、制御部110は、歪みの測定値の時系列データを記憶部130に記憶(蓄積)させる。この歪みの測定値の時系列データは、複数の時点の各時点で測定された歪みの測定値を、測定時期に従って時系列の順番で並べたデータである。
【0025】
記憶部130は、例えばハードディスク装置を備え、制御部110により実行されるプログラムや、歪みの測定値の時系列データを含む各種のデータを記憶する。表示部140は、例えば液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。操作部150は、例えばキーボード及びマウスを備え、車両検出システム1の管理を行う管理者の操作を受け付ける。
【0026】
制御部110は、車両の検出に関する機能として、測定値取得手段111と、基準値生成手段112と、補正手段113と、処理手段114とに相当する機能を実現する。
測定値取得手段111は、歪み計211,212を用いて測定された、橋梁200(床版220)の歪みの測定値の時系列データを取得する。
【0027】
基準値生成手段112は、測定値取得手段111により取得された時系列データが示す歪みの変動量が所定の基準を満たす期間において、測定値が最大の圧縮を示す時刻と歪みとの組み合わせを示す基準点を設定する。ここにおいて、所定の基準は、歪みの変動量が相対的に大きいことを示し、例えば、歪みの変動量が閾値を超えていることを示す。基準値生成手段112は、設定した基準点を用いて補間演算を行うことにより、歪みの基準値の時系列データを生成する。歪みの基準値の時系列データは、
図4で説明した圧縮歪みの時系列の変化を示す曲線(以下「基準線」という。)を表すデータである。
【0028】
補正手段113は、基準値生成手段112により生成された基準値の時系列データに基づいて、測定値取得手段111により取得された測定値の時系列データを補正する。この補正により、測定値に含まれていた圧縮歪みの影響が低減又は除去された、歪みの補正値の時系列データが得られる。
処理手段114は、補正手段113により生成された歪みの補正値の時系列データに基づいて、車両300の検出を含む所定の処理を行う。
【0029】
次に、本実施形態の動作を説明する。
図6は、車両検出装置10が実行する処理を示すフローチャートである。
図7A〜Fの各図は、
図6に示す処理ステップの処理の具体例を説明する図である。
図7A〜Fに示す各グラフは、
図5のグラフと同様、横軸が時間軸で、縦軸が歪みの測定値を表している。実際には、歪みの測定値には、他の車両の走行等を原因としたノイズ成分が定常的に含まれるが、
図5で説明した圧縮歪みよりも十分に小さいとし、本実施形態では考慮しないものとする。
【0030】
まず、制御部110は、歪み計211,212を用いて測定された歪みの測定値の時系列データを、インタフェース120を介して、又は記憶部130から取得する(ステップS1)。ここでは、制御部110は、
図7Aのグラフで表される時系列データを取得する。
なお、ステップS1で取得される時系列データには、任意の時間長の期間における測定値が含まれる。
【0031】
次に、制御部110は、取得した歪みの測定値の時系列データを、時間軸上で複数の期間に区分し、当該複数の期間の各々にウィンドウを割り当てる(ステップS2)。ウィンドウは、
図7Bに示すように、時間長がΔT、歪みの範囲がΔεの数値範囲を示す。ΔTは、例えば1秒であるが、1秒以外の時間であってもよい。ここでは、制御部110は、
図7Bに示すように、ウィンドウW1,W2,・・・,W11を時系列順に割り当てる。制御部110は、例えば、各期間の歪みの測定値がウィンドウ内に所定数以上含まれるように各ウィンドウを配置する。ここでは、制御部110は、各期間において圧縮歪みが最大となる測定点がウィンドウ内に含まれるようにΔTを調整する必要がある。
【0032】
次に、制御部110は、未処理のウィンドウのうち、時間軸上で最も過去側の一のウィンドウに着目する(ステップS3)。ここでは、制御部110は、ウィンドウW1に着目する。次に、制御部110は、着目したウィンドウにおいて、歪みの時間的な変動が閾値を超えているかどうかを判定する(ステップS4)。歪みの時間的な変動は、例えば、ウィンドウ内での歪みの測定値の最大値と最小値との差、又は歪みの測定値の移動平均(つまり単位時間毎の平均値)の時間的な変化によって特定される。また、歪みの時間的な変動は、ウィンドウ内に、当該ウィンドウが割り当てられた期間の全ての歪みの測定値が含まれるか否かによって特定されてもよい。このように、歪みの時間的な変動を特定するための基準は様々である。
【0033】
ウィンドウW1においては、歪みの時間的な変動が相対的に小さく、測定値が概ね一定である。この場合、制御部110はステップS4で「NO」と判定する。そして、制御部110は、着目したウィンドウ内に含まれる歪みの測定値に基づいて、当該ウィンドウが割り当てられた期間に生じた歪みの基準点を設定する(ステップS5)。ステップS5では、制御部110は、この期間内の時刻と当該期間における歪みの測定値の統計量との組み合わせを示す基準点(本発明の第2の基準点に対応。)を設定する。測定値の統計量は、ここでは、平均値であるが、中央値等であってもよい。また、制御部110は、基準点の時刻を、ウィンドウが割り当てられた期間の中心の時刻としているが、このウィンドウ内の別の時刻としてもよい。この結果、制御部110は、
図7Cに示す基準点P1を設定する。
【0034】
次に、制御部110は、全てのウィンドウを処理済みかどうかを判定する(ステップS6)。ここでは、制御部110は、ステップS6で「NO」と判定し、ステップS3の処理に戻る。
続いて、制御部110は、ウィンドウW2、W3,W4においても、ステップS4,5の処理を実行して、基準点P2,P3,P4をそれぞれ設定する。次に、制御部110は、ウィンドウW5に着目する。この場合、制御部110は、歪みの時間的な変動が相対的に大きく、歪みの時間的な変動が閾値を超えていると判定する(ステップS4;YES)。このときには、制御部110は、ステップS5の処理ではウィンドウW5において基準点を設定せずに、ステップS6の処理に進む。制御部110は、ウィンドウW6に着目した場合も、ステップS4で「NO」と判定する。このため、制御部110は、ステップS5の処理では基準点を設定しない。ウィンドウW7〜W11においては、歪みの時間的な変動が閾値以下であるから、制御部110は、ステップS4,5の処理を実行して、基準点P7〜P11をそれぞれ設定する。
【0035】
ウィンドウW1〜W11について処理すると、制御部110は、ステップS6で「YES」と判定する。次に、制御部110は、ステップS4で「YES」と判定したウィンドウ(つまり、歪みの時間的な変動が相対的に大きい期間)のうちの最大圧縮点が属するウィンドウを特定し、最大圧縮点を、特定したウィンドウにおける基準点(本発明の第1の基準点に相当。)に設定する(ステップS7)。最大圧縮点とは、ステップS1で取得された時系列データに含まれる測定点のうち、圧縮歪みが最大、即ち歪みの測定値が負方向に最大となる点のことをいう。ここでは、制御部110は、
図7Dに示すように、ウィンドウW6に含まれる歪みの最大圧縮点を、基準点P6に設定する。
【0036】
次に、制御部110は、ステップS5,S7で設定した基準点を用いて補間演算を行うことにより、基準線を特定する(ステップS8)。ここでは、制御部110は、多項式補間の一つである三次スプライン補間処理を行うことにより、歪みの基準値の時系列データを生成し、基準線を特定する。これにより、
図7Eに示す基準線Lが特定される。
【0037】
基準線Lは、
図4で説明した圧縮歪みの時系列の変化を表した(近似した)曲線である。具体的には、ウィンドウW1〜W4,W7〜W11の期間においては、歪みの時間的な変動が相対的に小さいので、圧縮歪みが生じていないか、又は十分に小さいとみなすことができる。ウィンドウW6においては、最大圧縮点が属しているが、この圧縮歪みの主な原因は
図4で説明した原因と推定される。ウィンドウW5においては、歪みの時間的な変動が相対的に大きいので、圧縮歪みの影響が現われていると推定される。ウィンドウW5において基準点は設定されていないが、補間演算によって基準線Lが特定されているので、やはり圧縮歪みの時系列の変化を表した曲線を表す。
【0038】
次に、制御部110は、ステップS8で特定した基準線に基づいて、ステップS1で取得した歪みの測定値の時系列データを補正する(ステップS9)。具体的には、制御部110は、複数の時点の各時点について、歪みの測定値から基準値を差し引く。即ち、ステップS9の補正は、基準線Lによって表される歪みをゼロとするように、歪みの測定値を変換する処理である。ステップS9の補正により、
図7Fのグラフで表される、歪みの補正値の時系列データが得られる。
図7Fのグラフから分かるように、
図5で説明した圧縮歪みの影響が低減され、例えば、最大の引っ張り歪みが、「+ε1」よりも大きい「+εa」(≒+ε1+ε2)となる。
【0039】
次に、制御部110は、ステップS9で得た歪みの補正値の時系列データに基づいて、所定の処理を実行する(ステップS10)。ステップS10の処理は、車両の有無の検出を含み、更に、走行した車両の車軸重量、車軸数、速度、車種等の、車両の状態を特定する処理を含む。ステップS10の処理は、歪みの補正値の時系列データを用いる点を除いて、従来と同じ手法で行われてよい。
【0040】
以上説明したように、車両検出システム1によれば、橋梁200の床版220に生じる圧縮歪みの影響が低減される。この結果、車両検出システム1によれば、橋梁200を走行する車両300を検出する上で有用な成分を精度良く特定することができる。
また、車両検出システム1によれば、温度歪みや振動等の原因で生じた歪みの影響を低減させることができる。
図4,5では、橋梁200を走行した車両を検出する上で不要な歪みが、圧縮歪みである場合を説明した。しかし、温度歪みや振動等の原因で生じた歪み、或いは、測定位置以外の位置の車両の走行に起因した歪みが、引っ張り歪みとして出現する場合もある。この場合でも、車両検出システム1において、
図6で説明した方法で測定値の時系列データを補正する処理が行われることにより、橋梁200を走行する車両300を検出する上で有用な成分を精度良く特定することができる。
【0041】
[第2実施形態]
上述した第1実施形態では考慮しなかったが、歪み計211,212を用いて測定される歪みには、ノイズ成分が定常的に含まれる。
図8は、歪み計が測定する歪みの時系列の変化の一例を示すグラフである。
図8に示すように、ノイズ成分による歪みは微小である。よって、例えば、歪みの測定値に対する閾値を設定し、当該閾値以下の歪みについてはノイズ成分とみなす、といった手法をとられることがある。しかし、この手法では、
図8にC1,C2で示したような、多くのノイズ成分に対して引っ張り歪みが僅かに大きい測定値については、ノイズ成分に属するか、又は車両の走行に伴い生じた歪みであるかを正確に判別することが難しい。
【0042】
そこで、この第2実施形態では、ノイズ成分を含む歪みの測定値から、車両の測定位置の通過に伴って生じた歪みを精度良く特定する手法を提案する。
本実施形態において、上述した第1実施形態と同じ符号を付した要素については、上述した第1実施形態と同一であるものとする。上述した第1実施形態で説明した要素と対応する要素については、符号の末尾に「A」と付して表す。
【0043】
図9は、本実施形態に係る車両検出システム1Aの全体構成を示すブロック図である。
図9に示すように車両検出システム1Aは、車両検出装置10Aと、複数の歪み計からなる歪み計群20とを備える。車両検出装置10Aのハードウェア構成、及び歪み計群20の構成は、上述した第1実施形態と同じ構成である。
【0044】
制御部110Aは、車両の検出に関する機能として、測定値取得手段111と、基準値生成手段112と、補正手段113と、ノイズ分布特定手段115と、処理手段114Aとに相当する機能を実現する。
ノイズ分布特定手段115は、補正手段113により生成された歪みの補正値の時系列データが示す歪みのうちの圧縮歪みの分布に基づいて、ノイズ分布を特定する。
処理手段114Aは、通過期間特定手段1141を含む。通過期間特定手段1141は、歪みの補正値の時系列データにおける、ノイズ分布特定手段115により特定されたノイズ分布に属さない引っ張りを示す歪みの出現頻度に基づき、車両300が測定位置を通過した通過期間を特定する。
【0045】
次に、本実施形態の動作を説明する。
図10は、車両検出装置10Aが実行する処理を示すフローチャートである。
図11A,Bは、
図10に示す処理ステップの処理の具体例を説明する図である。
図11A,Bに示す各グラフは、
図6と同様、横軸が時間軸で、縦軸が歪みの測定値を表している。
まず、制御部110Aは、歪みの補正値の時系列データを取得する(ステップS11)。ここでは、制御部110Aは、
図8のグラフで表される歪みの補正値の時系列データを取得する。
【0046】
次に、制御部110Aは、ステップS11で取得した歪みの補正値の時系列データを、時間軸上で複数の期間に区分する(ステップS12)。ここではステップS12において区分される期間の時間長を3秒間とするが、これとは異なる時間長でもよい。制御部110Aは、
図11Bに示すように、歪みの補正値の時系列データを、時系列順に期間T1,T2,・・・,T11に区分する。
【0047】
次に、制御部110Aは、未処理の期間のうち、時間軸上で最も過去側の期間に着目する(ステップS13)。まず、制御部110Aは、期間T1に着目する。次に、制御部110Aは、着目した期間において、圧縮歪みの分布に基づいてノイズ分布を特定する(ステップS14)。ステップS14では、制御部110Aは、まず、着目した期間の歪みの補正値の時系列データを用いて、各補正値の出現頻度を、補正値の全体数に占める割合によって算出する。
図11Aに示すように、ノイズ成分を示す歪みは定常的に発生するから、その出現頻度が高い。更に、振動に起因するノイズ成分は、微小であり、且つ測定値が正となる引っ張り歪みと、測定値が負となる圧縮歪みとが、ほぼ均等に発生する。これらを考慮すると、ノイズ成分の出現頻度の分布は、
図11Aに範囲Xで示すような、正規分布を示すとみなすことができる。また、歪みの補正値に現われる圧縮歪みは、それらの全てをノイズ成分とみなすことができる。このため、測定値が負である圧縮歪みの分布を正側に反転することにより、
図11Aに範囲Xで示すような、正規分布を示すノイズ成分の出現頻度が特定される。
上述した考えに従い、ステップS14では、制御部110Aは、着目した期間の圧縮歪みの分散を算出し、負側のノイズ分布を特定した後、特定したノイズ分布を正側に反転することにより、正負の両側におけるノイズ分布を特定する。
【0048】
次に、制御部110Aは、ステップS13で着目した期間において、ノイズ分布に属さない歪みの出現頻度が閾値を超えているかどうかを判定する(ステップS15)。ステップS15では、制御部110Aは、着目した期間に含まれる補正値の全体数に対する、ノイズ分布に属さない補正値の数の割合が、閾値を超えているかどうかを判定する。ここでは、制御部110Aは、ステップS14で算出した分散から標準偏差を算出し、この標準偏差の3倍以上の隔たりを持つ補正値の数を計数し、計数した数が閾値を超えているかどうかを判定する。閾値は、例えば4%であるが、4%以外の値であってもよい。
【0049】
期間T1においては歪みの測定値のほぼ全てがノイズ成分である。よって、制御部110Aは、ステップS15で「NO」と判定する。そして、制御部110Aは、全ての期間について処理済みかどうかを判定する(ステップS17)。ここでは、制御部110Aは、ステップS17で「NO」と判定し、ステップS13の処理に戻る。
【0050】
制御部110Aは、期間T2〜T4の各期間においても、ノイズ分布に属さない歪みの出現頻度が閾値以下であると判定する(ステップS15;NO)。制御部110Aは、期間T5に着目した場合は、ノイズ分布に属さない歪みの出現頻度が閾値を超えていると判定する(ステップS15;YES)。車両300の車軸が測定位置を通過したときには、ノイズ分布に属さない補正値がある程度多くなる。よって、制御部110Aは、ステップS15で「YES」と判定した場合は、着目した期間(ここでは期間T5)を、車両300の通過期間と特定する(ステップS16)。同様に、制御部110Aは、期間T6においても、車両300の通過期間と特定する。制御部110Aは、期間T7〜T11の各期間においては、車両300の通過期間と特定しない。
【0051】
期間T1〜T11について処理した後、制御部110Aは、ステップS17で「YES」と判定する。次に、制御部110Aは、ステップS16で特定した車両300の通過期間の歪みの補正値の時系列データに基づいて、所定の処理を実行する(ステップS18)。ここでは、制御部110Aは、通過期間における歪みの測定値を用いて、ステップS10で説明した処理を行う。ステップS18において、制御部110Aは、通過期間以外の期間については無視してよいため、処理の効率が上がる。
【0052】
以上説明したように、車両検出システム1Aでは、橋梁200の床版220に生じた圧縮歪みの分布に基づいて、ノイズ分布を特定する。このため、車両検出システム1Aによれば、測定位置を通過した車両の活加重に起因する歪みが、ノイズ成分に対して十分に大きくないような場合でも、橋梁200を走行した車両300を検出する上で有用な成分を精度良く特定することができる。
【0053】
[変形例]
上述した実施形態は本発明の一実施形態であって、様々に変形されてもよい。以下に、上述した実施形態の変形例を示す。なお、以下に示す変形例は適宜、組み合わされてもよい。
(変形例1)
上述した第1実施形態では、制御部110(基準値生成手段112)は、最大圧縮点に基準点を設定していた。これに代えて、制御部110は、最大圧縮点が測定された時刻とその歪みとの組み合わせに基づいて所定の規則に従い特定される時刻と歪みとの組み合わせを示す基準点を設定してもよい。
例えば、最大圧縮点を示す測定値が、圧縮方向のノイズ成分の影響を受けている可能性がある。このため、制御部110は、最大圧縮点よりも所定量だけ引っ張り方向にずらした点を基準点に設定してもよい。この際に、制御部110は、上述した第2実施形態で説明した方法でノイズ分布を特定し、特定したノイズ分布に応じた量だけ最大圧縮点からずらした点を、基準点としてもよい。また、制御部110は、最大圧縮点を含むウィンドウにおいて、測定値が小さい順に、換言すると負方向に大きい順に所定割合(例えば10%)の数の測定値の平均値を計算し、最大圧縮点から引っ張り方向にこの平均値の分だけずらした点を、基準点としてもよい。また、制御部110は、最大圧縮点の測定値に予め決められた値を加算した点を、基準点としてもよい。即ち、制御部110は、最大圧縮点の圧縮歪みに応じた基準点を設定すればよい。
また、制御部110は、歪みの時間的な変動が閾値以下の期間においても、歪みの統計量に基づいて特定される点から所定量だけ引っ張り方向にずらして、基準点を設定してもよい。
また、制御部110は、測定値の時間的な変動が閾値を超えたウィンドウのうち、最大圧縮点が属さないウィンドウ(例えば、
図7CのウィンドウW5)においても、基準点を設定してもよい。即ち、制御部110は、全てのウィンドウにおいて、基準点を設定してもよい。この場合、制御部110は、例えば、着目したウィンドウ内で最大の圧縮を示した点、又は当該ウィンドウが割り当てられた期間の測定値の平均値が示す点を、基準点に設定する。
【0054】
(変形例2)
上述した第1実施形態では、制御部110は、歪みの測定値と基準線との差分を計算して、歪みの測定値の時系列データを補正していた。これに代えて、制御部110は、歪みの測定値の時系列データを補正しなくてもよい。この場合、制御部110は、歪みの測定値の時系列データを補正する処理を行う外部装置に、生成した歪みの基準値の時系列データ(基準線を示すデータ)を出力してもよい。即ち、
図1で説明した補正手段113及び処理手段114の機能が、制御部110で実現されなくてもよい。
【0055】
(変形例3)
上述した第1実施形態において、制御部110がステップS2において割り当てる複数のウィンドウは、時間軸上の重なりを持たない。これに代えて、制御部110は、時間軸上の重なりを持つように複数のウィンドウを割り当ててもよい。
また、上述した第2実施形態において、制御部110AがステップS12において区分する複数の期間は時間軸上の重なりを持たない。これに代えて、制御部110は、時間軸上の重なりを持つように複数の期間の割り当てを行ってもよい。
【0056】
(変形例4)
車両検出システム1において、歪みの測定値の時系列データを複数の期間に区分し、各期間にウィンドウを割り当てる処理が行われなくてもよい。車両検出システム1では、歪みの変動量が相対的に大きい期間を、所定の基準に基づいて特定して、当該機関の基準点を設定すればよい。
車両検出システム1Aにおいて、歪みの補正値の時系列データを複数の期間に区分する処理が行われなくてもよい。車両検出システム1Aでは、任意の期間における、歪みの補正値の時系列データが示す歪みのうちの圧縮を示す歪みの分布に基づいて、ノイズ分布を特定すればよい。
【0057】
(変形例5)
上述した第2実施形態の車両検出システム1Aでは、歪みの補正値の時系列データに基づいて、車両300の通過期間を特定した。これに代えて、車両検出システム1Aでは、歪みの補正値ではなく、歪みの測定値の時系列データに基づいて、車両300の通過期間を特定してもよい。例えば、交通路構造物の構造、或いは歪み計の配置位置等によっては、上述した第1実施形態で説明した圧縮歪みの影響を無視できる場合もあり得る。このような場合は、車両検出システム1Aでは、歪みの測定値の時系列データを補正しなくてもよい。なお、この場合に車両検出システム1Aの構成及び動作は、上述した第2実施形態の「歪みの補正値」を「歪みの測定値」に置き換えることによって説明することができる。
【0058】
(変形例6)
上述した実施形態で説明した橋梁の構造、橋桁を構成する部材(橋梁部材)、歪み計の配置位置、及び使用した各数値は一例であり、適宜変更することができる。なお、歪み計211,212は、床版220に生じた歪みを測定可能であればよく、
図2で説明した配置位置以外の位置に配置されていてもよい。
【0059】
(変形例7)
上述した実施形態においては、車両検出システム1,1Aが検出する車両が走行する交通路構造物が橋梁であるものとしたが、例えば、高架橋等の橋梁以外の交通路構造物の上の走行する車両が検出されてもよい。
なお、車両検出システム1,1Aにより検出される車両の種別はトラック等の自動車に限られない。例えば、線路の上を走行する鉄道車両が車両検出システム1,1Aにより検出されてもよい。
【0060】
(変形例8)
制御部110又は110Aが実現する各機能は、1又は複数のハードウェア回路により実現されてもよいし、1又は複数のプログラムを実行することにより実現されてもよいし、これらの組み合わせにより実現されてもよい。制御部110又は110Aの機能がプログラムを用いて実現される場合、このプログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスク(HDD(Hard Disk Drive)、FD(Flexible Disk))等)、光記録媒体(光ディスク等)、光磁気記録媒体、半導体メモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶した状態で提供されてもよいし、ネットワークを介して配信されてもよい。また、本発明は、データ生成方法として把握することも可能である。
本願の発明は、上述した実施形態に限定されることなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。