【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために本発明のディジタル温度電圧補償型発振器は、
図1に示すように、電圧制御型発振器1と、一対の温度電圧センサたる発振周波数f1を生成するリングオシレータ2a及び発振周波数f2を生成するリングオシレータ2bと、前記各周波数f1,f2を所定時間カウントして周波数カウントデータF1,F2を生成する周波数カウントデータ生成部3と、前記周波数カウントデータF1,F2と外部制御ディジタルデータFxに基づいて温度電圧補償ディジタルデータVcdを生成する温度電圧補償回路4と、前記温度電圧補償ディジタルデータVcdをアナログ信号に変換して周波数制御電圧VcとするDAC(D/A変換器)7と、外部周波数制御電圧供給端子106を介して入力されたアナログ信号である外部制御電圧EVCを前記外部制御ディジタルデータFxに変換するADC(A/D変換器)102とを備えたICからなり、前記周波数制御電圧Vcによって前記電圧制御型発振器1の発振周波数fxを制御するものである。なお、外部から供給される周波数制御電圧であるアナログ信号の前記外部制御電圧EVCは、外部周波数制御電圧供給部101,103,105から供給される。また、前記発振周波数fxを有する発振信号は、バッファ8から分周器9を経て前記周波数カウントデータ生成部3に基準クロック信号fgとして入力する一方、バッファ10を介して外部に出力されて前記外部周波数制御電圧供給部101,103,105のPLL101に入力する。
【0013】
このディジタル温度電圧補償型発振器は、水晶振動子を用いた電圧制御型発振器1を使用する場合は、
図5に示すように電圧制御型発振回路12に水晶振動子11が外付けされるが、この外付けされる水晶振動子を除いて、電圧制御型発振器1は半導体ICに内蔵され、内部電源電圧VAは外部電源を安定化させる安定化電源100から供給される。したがって、前記各リングオシレータ2a,2bが検出するのは環境温度の変化にともない変化する前記半導体ICの内部温度であり、検出する電源電圧は前記内部電源電圧VAである。
【0014】
また、外部制御電圧EVCを供給する外部周波数制御電圧供給部は、PLL(Phase Locked Loop)101と、GPS(Global Positioning System)レシーバ103、もしくはNTP(Network Time Protocol)サーバ105とからなる。前記PLL101は公知の構成で、バッファ8,10を介した電圧制御型発振器1の発振周波数fxの出力信号が入力する分周器(Divider)、位相比較器(Phase Comparater)、ディジタルループフィルタ(Digital Loop Filter)、D/A変換器(DAC)、アンチエイリアシングフィルタ(Anti Aliasing Filter)からなる。そして、前記位相比較器には、GPSレシーバ103やNTPサーバ105から基準信号frefが供給されるものである。
【0015】
また、
図2に示すように、外部周波数制御電圧供給部101,103,105の構成は同一であるが、外部周波数制御電圧供給端子106からADC(A/D変換器)102に供給されたアナログ信号である外部制御電圧EVCが、前記ADC(A/D変換器)102によって外部制御ディジタルデータVcd2に変換され、この外部制御ディジタルデータVcd2が温度電圧補償回路4で生成された温度電圧補償ディジタルデータVcd1と加算器104で加算されて、最終的な温度電圧補償ディジタルデータVcdが出力されよう構成することもできる。
【0016】
上記両構成ともに、外部制御電圧EVCを加味した温度電圧補償ディジタルデータVcdに基づく周波数制御電圧Vcによって、電圧制御型発振器1の発振周波数fxを制御することができる。したがって、ICや電圧制御型発振器1の経年変化によって、環境温度変化や内部電源電圧VA変化に対応した所望の発振周波数fxが生成されなくなった場合、例えば所望の発振周波数より低い発振周波数が生成されるようになった場合には、GPSレシーバ103やNTPサーバ105からの基準信号frefに基づきPLL101で生成される外部制御電圧EVCを適宜高くすることによって、所望の発振周波数fxが生成されるよう制御することができる。
【0017】
ここで、GPSレシーバ103やNTPサーバ105からの基準信号frefが途絶えたホールドオーバー時には、
図1の構成では、
図3に示すように、PLL101が出力コード保持機能を有していることにより、外部制御電圧EVCは特定電位を維持することになるが、前記外部制御電圧EVCから生成された外部制御ディジタルデータFxは温度電圧補償回路4に入力されて、周波数カウントデータF1,F2とともに、前記外部制御ディジタルデータFxも変数として温度電圧補償ディジタルデータVcdを生成しているので、この温度電圧補償ディジタルデータVcdによる温度電圧補償は有効に維持される。
【0018】
一方、
図2の構成では、
図4に示すように、PLL101が出力コード保持機能を有していることにより、外部制御電圧EVCは特定電位を維持することになるが、外部制御電圧EVCから生成された外部制御ディジタルデータVcd2は、温度電圧補償回路4に入力されないので、内部で生成された温度電圧補償ディジタルデータVcd1のみが有効な温度電圧補償作用を奏する状態となる。このため、温度電圧補償ディジタルデータVcdによる温度電圧補償は、
図1の構成よりは精度が劣るものとなるが、発振周波数fxの安定状態を維持することに不都合はない。
【0019】
より詳細には、本発明の請求項1に係るディジタル温度電圧補償型発振器は、環境温度及び電源電圧の変化によって周波数が変化する第1の発振周波数fxを生成するととも
に周波数制御電圧Vcによって前記発振周波数fxの制御が可能な電圧制御型発振器1と、前記環境温度の変化に対して前記電圧制御型発振器1の第1の発振周波数fxよりも変化率が大きい第2の発振周波数f1を生成する温度電圧センサ2aと、前記電源電圧の変化に対して前記電圧制御型発振器1の第1の発振周波数fxよりも変化率が大きい第3の発振周波数f2を生成する温度電圧センサ2bからなる、互いの温度特性及び電源電圧特性が異なる前記環境温度の変化及び電源電圧の変化を検出する一対の温度電圧センサ2a,2bと、この一対の温度電圧センサ2a,2bの第2及び第3の発振周波数f1,f2を所定時間カウントして第2及び第3の発振周波数f1,f2に基づく周波数カウントデータF1,F2を生成する周波数カウントデータ生成部3と、前記電圧制御型発振器1で生成する第1の発振周波数fxの環境温度及び電源電圧の変化に対する補償をするための温度電圧補償ディジタルデータVcdを、前記各周波数カウントデータF1,F2
と、
前記温度電圧補償ディジタルデータVcdと、外部から供給された外部制御電圧EVCに対応する外部制御ディジタルデータFx
と、前記第1の発振周波数fxの関係から導いた多項式近似式で生成する温度電圧補償回路4と、この温度電圧補償回路4に外部制御ディジタルデータFxに対応するアナログ電圧である外部制御電圧EVCを外部から供給する外部周波数制御電圧供給端子106と、前記外部制御電圧EVCを前記外部制御ディジタルデータFxに変換して前記温度電圧補償回路4に出力するADC(A/D変換器)102と、前記温度電圧補償ディジタルデータVcdをアナログ電圧で表される前記周波数制御電圧Vcに変換して前記電圧制御型発振器1に出力するDAC(D/A変換器)7とを有し、前記
多項式近似式は、あらかじめ前記環境温度及び前記電源電圧を変化させつつ、前記温度電圧補償ディジタルデータVcdを変えることにより生成す
ることを特徴としたものである。
【0020】
ここで、
図10に基づいて、請求項1発明における温度電圧補償ディジタルデータVcd(
図1参照、
図5ではFXC)による温度電圧補償の原理について説明する。電圧制御型発振器1の第1の発振周波数fxは、環境温度と電源電圧によって変化する。一方、一対の温度電圧センサ2a,2bの第2及び第3の発振周波数f1,f2は、前記第1の発振周波数fxと同様に、環境温度変化と電源電圧変化により周波数変動を生じる。そして、前記発振周波数f1,f2が使用領域において極を持たなければ、前記発振周波数f1,f2から環境温度及び電源電圧は一義的に定まる。
すなわち、環境温度をT、電源電圧をVとし、温度電圧センサ2a,2bの発振周波数f1,f2に基づく周波数カウントデータであるディジタルデータをF1,F2とすると、F1,F2はT,Vの関数であるから次のように表される。
F1=g1(T,V) (1)
F2=g2(T,V) (2)
また、電圧制御型発振器1の発振周波数fxもT,Vの関数であるから次のように表される。
fx=gx(T,V) (3)
ここで、一対の温度電圧センサ2a,2bの出力から上記(1),(2)式の連立方程式を解くと、TとVが求められる。
T=h1(F1,F2) (4)
V=h2(F1,F2) (5)
よって、(3)式は次のように表される。
fx=gx(T,V)
=gx(h1(F1,F2),h2(F1,F2))
=f (F1,F2)
したがって、fxはF1,F2の関数として表すことができる。
このように、環境温度及び電源電圧で表される前記発振周波数fxを、前記発振周波数f1,f2を変数として表すことができるので、前記発振周波数fxの補償量である温度電圧補償ディジタルデータVcd(
図1参照、
図5ではFXC)も発振周波数f1,f2で表すことができる。そして、この補償量を発振周波数fxから差し引けば、環境温度と電源電圧に対して一定の周波数を得ることができる。なお、カウントデータ生成部3におけるカウント時間をtとすると、F1=f1×t、F2=f2×tである(
図7参照)。
【0021】
ところが、
図11に示すように、電圧制御型発振器1に入力す
る周波数制御電圧Vcが変化すると、前記電圧制御型発振器1の発振周波数fxの温度特性や電源電圧特性が変化してしまうため、
図10に示す発振周波数fxの曲面形状が変化し、前記発振周波数fxに対する温度電圧補償が困難になる。前記周波数制御電圧Vcの変化に対応した前記発振周波数fxの補償量を求めるには、上述した温度電圧補償に加えて、前記周波数制御電圧Vcも加味した温度電圧補償を行うことが必要である。このため、本発明では、周波数制御電圧Vcの変化も考慮して温度電圧補償ディジタルデータVcd(
図1参照、
図5ではFXC)を求めるものである。
【0022】
そして、温度電圧補償ディジタルデータVcd(
図1参照、
図5ではFXC)を求めるための多項式近似式の演算に必要な係数は、次のようにして求める。すなわち、ディジタル温度電圧補償型発振器を恒温槽内に配置して、環境温度を変化させつつ、電源電圧を変化させながら、外部制御電圧EVCに任意の電圧値(例えば1/2×VDD’、VDD’は外部ICの電源電圧)を入力しておき
、温度電圧補償ディジタルデータVcd(
図1参照、
図5ではFXC)を変えた時の温度電圧補償ディジタルデータVcd(
図1参照、
図5ではFXC)と、周波数カウントデータF1,F2と、発振周波数fxの関係を示すデータを採取し、発振周波数fxを外部制御ディジタルデータFxに対応させる(
図13参照)ことで、このデータを基に最小二乗法を用いて発振周波数fxが所望の周波数となるような係数を求めるものである。
【0023】
このように、本発明の請求項1に係るディジタル温度電圧補償型発振器は、第1の発振周波数fx及び一定の周波数を得るために前記fxから差し引くための温度電圧補償ディジタルデータVcd(
図1参照、
図5ではFXC)と第2及び第3の発振周波数f1,f2との関係に着目し、さらに周波数制御電圧Vcの変化も考慮して、環境温度と電源電圧の値を求めることなく、各発振周波数f1,f2を所定時間カウント(所定時間でのf1,f2のサイクル数をカウント)してなる各周波数カウントデータF1,F2と、外部制御ディジタルデータFxと発振周波数fxの関係を用いて温度電圧補償ディジタルデータVcdを求めることを特徴とする。したがって、環境温度と電源電圧とを求めないので、真値を把握する必要がなくなり、精度向上に繋がるという利点がある。また、環境温度と電源電圧を求める演算回路が不要になるという付随的な利点もある。
【0024】
また、前記目的を達成するために本発明の請求項2に係るディジタル温度電圧補償型発振器は、環境温度及び電源電圧の変化によって周波数が変化する第1の発振周波数fxを生成するととも
に周波数制御電圧Vcによって前記発振周波数fxの制御が可能な電圧制御型発振器1と、前記環境温度の変化に対して前記電圧制御型発振器1の第1の発振周波数fxよりも変化率が大きい第2の発振周波数f1を生成する温度電圧センサ2aと、前記電源電圧の変化に対して前記電圧制御型発振器1の第1の発振周波数fxよりも変化率が大きい第3の発振周波数f2を生成する温度電圧センサ2bからなる、互いの温度特性及び電源電圧特性が異なる前記環境温度の変化及び電源電圧の変化を検出する一対の温度電圧センサ2a,2bと、この一対の温度電圧センサ2a,2bの第2及び第3の発振周波数f1,f2を所定時間カウントして第2及び第3の発振周波数f1,f2に基づく周波数カウントデータF1,F2を生成する周波数カウントデータ生成部3と、前記電圧制御型発振器1で生成する第1の発振周波数fxの環境温度及び電源電圧の変化に対する補償をするための温度電圧補償ディジタルデータVcd1(
図2参照、
図14ではFXC)を、前記各周波数カウントデータF1,F2
と、
前記温度電圧補償ディジタルデータVcd1と、前記第1の発振周波数fxの関係から導いた多項式近似式で生成する温度電圧補償回路4と、生成された前記温度電圧補償ディジタルデータVcd1(
図2参照、
図14ではFXC)に加算する外部制御ディジタルデータVcd2に対応するアナログ電圧である外部制御電圧EVCが供給される外部周波数制御電圧供給端子106と、前記外部制御電圧EVCを前記外部制御ディジタルデータVcd2に変換するADC(A/D変換器)102と、温度電圧補償ディジタルデータVcd1と外部制御ディジタルデータVcd2が加算されてなる最終的な温度電圧補償ディジタルデータVcdをアナログ電圧で表される前記第1の周波数制御電圧Vcに変換して前記電圧制御型発振器1に出力するDAC(D/A変換器)7とを有し、前記
多項式近似式は、あらかじめ前記環境温度及び前記電源電圧を変化させつつ、前記温度電圧補償ディジタルデータVcd1を変えることにより生成す
ることを特徴としたものである。
【0025】
この請求項2発明における温度電圧補償ディジタルデータVcd1(
図2参照、
図14ではFXC)による温度補償の原理は、上述の請求項1発明と同じである。また、温度電圧補償ディジタルデータVcd1(
図2参照、
図14ではFXC)を求めるための多項式近似式の演算に必要な係数の求め方も基本的には同じである。すなわち、ディジタル温度電圧補償型発振器を恒温槽内に配置して、環境温度を変化させつつ、電源電圧を変化させながら、外部制御電圧EVCに任意の電圧値(例えば1/2×VDD’、VDD’は外部ICの電源電圧)を入力しておき
、温度電圧補償ディジタルデータVcd1(
図2参照、
図14ではFXC)を変えた時の、この温度電圧補償ディジタルデータVcd1(
図2参照、
図14ではFXC)と、周波数カウントデータF1,F2と、発振周波数fxの関係を示すデータを採取し、このデータを基に最小二乗法を用いて発振周波数fxが所望の周波数となるような係数を求めるものである。
【0026】
さらに、前記目的を達成するために本発明の請求項3に係るディジタル温度電圧補償型発振器は、前記請求項1発明または前記請求項2発明の構成において、前記一対の温度電圧センサは温度依存性が高い第1のリングオシレータ2aと電源電圧依存性が高い第2のリングオシレータ2bからなる一方、前記温度電圧補償回路4は温度電圧補償演算回路41を備え、前記周波数カウントデータ生成部3は、各別のカウンタ32a,32bによって前記電圧制御型発振器1から供給される基準クロック信号fgで設定されるカウント時間tで前記各リングオシレータ2a,2bの発振周波数f1,f2をカウントして、前記各発振周波数f1,f2にそれぞれ対応する各周波数カウントデータF1,F2を生成し、前記温度電圧補償演算回路41は、あらかじめメモリ42に格納された各周波数カウントデータF1,F2と第1の発振周波数fxに係る多項式近似式の各係数を呼び出して、温度電圧補償ディジタルデータFXC(
図5,
図14参照)を演算するものである。
【0027】
さらにまた、前記目的を達成するために本発明の請求項4に係るディジタル温度電圧補償型発振器は、前記請求項3発明の構成において、前記温度電圧補償回路4は、前記温度電圧補償演算回路41に加えて残差データ補間回路43を備え、この残差データ補間回路43は、多項式近似後の残差を補償するための残差補正データ(多項式近似で表現できない高次成分や個体差を意味する)に対して、ディジタル温度電圧補償型発振器の環境温度範囲内及び電源電圧変化範囲内の離散する環境温度及び電源電圧で
残差補正データの変化点を抽出し、この抽出した残差補正データを前記残差データ補間回路43のメモリ44にあらかじめ格納しておき、この格納している残差補正データに基づいて、曲面補間法または平面補間法によって前記周波数カウントデータF1,F2における残差補正データFiを求め、その結果を前記温度電圧補償ディジタルデータFXC(
図5,
図14参照)に加算して、残差補正した温度電圧補償ディジタルデータVcd(請求項2発明ではVcd1、
図5、
図14参照)とするものである。
【0028】
図12は上述した温度電圧補償の手順と、電圧制御型発振器1の発振周波数fxの周波数偏差の関係を示すものである。
図12(a)は前記電圧制御型発振器1の周波数温度電源電圧特性の一例を示すもので、
図12(b)に示す第1段階の温度電圧補償である多項式近似式で求めた温度電圧補償ディジタルデータFXCで補償した(多項式フィッテイング)後には、
図12(c)に示す周波数偏差となる。
図12(d)は前記温度電圧補償ディジタルデータFXCと多項式近似後の残差を補償するための残差補正データFiを示すもので、この残差補正データFiを用いて第2段階の温度電圧補償である前記温度電圧補償ディジタルデータFXCの残差補正を行った後には、
図12(e)に示す周波数偏差となる。なお、
図12(c)及び(e)は、環境温度25℃、電源電圧3.3V時の周波数で正規化したものである。