(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高電圧導入部と前記真空容器の中心を結ぶ直線に垂直かつ前記真空容器の中心を通る面に対して前記絶縁体構造物と対称となるように、前記絶縁体構造物が構成する前記真空容器の内側面の一部に対向する前記真空容器の内側面に、前記遮蔽物を有する前記絶縁体構造物、
をさらに備えた請求項1ないし10のいずれか1項に記載の核融合中性子発生装置。
陽極を有し大気圧より低い圧力に保たれた真空容器と電気的に絶縁され、前記真空容器の内部に設けられた陰極と、前記真空容器と電気的に絶縁され、イオン化した燃料ガスを前記陽極と前記陰極間の電界により加速させるよう、電圧印加手段から供給された電力を前記陰極に与えることにより前記陰極に負電位を生じさせる高電圧導入部と、を備え、イオン化した燃料ガスを加速させて核融合反応を起こさせる核融合中性子発生装置の核融合中性子発生方法であって、
前記真空容器の内側面の少なくとも一部を構成するように絶縁体構造物を設けるステップと、
前記高電圧導入部側の三重点と前記陽極側の三重点との沿面距離が空間距離よりも長い距離を有するように前記真空容器の内側面側に遮蔽物を設けるステップと、
を有する核融合中性子発生方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る核融合中性子発生装置は、少なくとも真空容器の内側面の一部を構成する絶縁体構造物であって、絶縁体構造物に設けられた遮蔽物により陰極側の三重点と陽極側の三重点との沿面距離を空間距離よりも長くすることにより、高電圧導入部の軸方向に沿う方向に延びるように絶縁体構造物を設けることなく高電圧導入部との沿面放電を抑制するものである。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。また、
図2は、本発明の第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10の他の例を示す構成図である。
図1および
図2には、真空容器11が円筒形状を有する場合における、円筒の軸に平行な面で切った真空容器11の断面図の一例を概略的に示した。
【0015】
核融合中性子発生装置10は、
図1に示すように、陽極を兼ねた真空容器11、真空容器11の内部に配置された陰極12、陰極12に所定の高電圧を印加するための高電圧導入部13および高電圧印加手段14、および少なくとも真空容器11の内側面の一部を構成するとともに真空容器11のフランジを兼ねる絶縁体構造物15を有する。
【0016】
真空容器11は、大気圧より低い圧力に保たれ、内部に重水素、3重水素、またはこれらの混合ガスから構成された燃料ガスが導入されている。真空容器11の形状は、球形、円筒形、6面体など任意の形状が選択可能である。真空容器11は、たとえばアルミニウムやSUS304などのステンレス、チタンなどの導電性の物質で構成されてもよいし、ガラスなどの絶縁性の物質で構成されていてもよい。
【0017】
陽極は、真空容器11の内壁と陰極12との間に設けられ、導電性の物質により構成される。陽極の形状は、陰極12の形状に応じて任意に選択可能である。真空容器11の内壁がアルミニウム、ステンレスまたはステンレスなどの導電性の物質である場合、真空容器11は陽極を兼ねることができる。
【0018】
以下の説明では、真空容器11が円筒形状を有し、真空容器11の内壁がSUS304などの導電性の物質で構成され、真空容器11の内壁が陽極を兼ねる場合の例について示す。
【0019】
陰極12は、陽極を兼ねた真空容器11と電気的に絶縁されるように陽極の内側に設けられ、導電性の材質により構成されたかご状の電極である。かご状の陰極12の幾何学的透過率は、90%以上であることが好ましい。また陰極12の形状は、円筒形状や球形状、リング形状などの形状とすることが可能である。陰極12の材質としては、チタンやタンタルなどの導電性があり高融点の材質であれば、各種の材質を用いることができる。以下の説明では、陰極12が純タングステンにより構成され、幾何学的透過率95%の円筒形状を有する場合の例について示す。すなわち、以下では、陽極を兼ねた円筒形状の真空容器11と、円筒形状の陰極12とが同心軸状に設けられており、電圧を印加した際に、周方向に対称な電場分布となる場合の例について説明する。
【0020】
なお、陽極と陰極12との間には、導電性の材質からなるかご状の電極である中間電極を設けてもよい。この場合、かご状の中間電極の幾何学的透過率は、90%以上であることが好ましい。また、中間電極の形状は円筒形状や球形状、リング形状などの形状とすることが可能である。中間電極は、陽極と陰極12との間の空間に少なくとも1個以上配置可能である。
【0021】
高電圧導入部13は、導電性材料により構成され、陰極12を支持する。高電圧導入部13は、陽極を兼ねた真空容器11と電気的に絶縁され、ケーブル14aを介して真空容器11の外側にある高電圧印加手段14から供給された電力を陰極12に与えることにより、陰極12に負電位を生じさせる。高電圧導入部13は、
図1の断面図に示すように、周囲を絶縁体構造物15で囲まれており、この絶縁体構造物15により真空容器11と陰極12とは電気的に絶縁されている。高電圧導入部13は、真空に関しても、真空容器11の外側(大気圧側)と内側(真空側)とをシールしている。また、
図2に示すように、高電圧導入部13は、たとえばアルミナなどの絶縁性の材料で囲ってもよい。
【0022】
高電圧印加手段14は、高電圧導入部13を介して陰極12に負極性の高電圧を印可するための電源である。
【0023】
ここで、核融合中性子発生装置10における核融合反応発生の流れについて簡単に説明する。まず、高電圧印加手段14により、陽極を兼ねた真空容器11と陰極12との間に負極性の電圧を印加する。なお、真空容器11は接地されている。陰極12と陽極を兼ねた真空容器11との間の負の電圧によって、円筒形状の真空容器11の円径方向内向きの電場が生じる。この電場により、陽極を兼ねた真空容器11と陰極12との間でグロー放電が生じ、燃料ガスイオンが生成される。陰極12と真空容器11との間の空間で生成されたイオンは、陰極12に向かって加速される。加速されたイオンは、かご状の陰極12の隙間を通過して陰極12の内側に収束される。そして加速、収束されたイオンどうしによる衝突や、イオンと燃料ガスとの衝突等によって核融合反応が生じる。たとえば、燃料ガスに重水素を用いた場合、核融合反応によって中性子や陽子が発生する。
【0024】
絶縁体構造物15は、絶縁性の材料により構成される。絶縁体構造物15は、真空容器11と高電圧導入部13とが交わる面に設けられるとともに、真空容器11の内側面の少なくとも一部を構成する。絶縁体構造物15の形状は、真空容器11の形状に応じて任意に選択可能である。たとえば、真空容器11が円筒形状である場合は、絶縁体構造物15は、
図1に示すように円柱形状を有する。また、絶縁体構造物15は、真空容器11のフランジを兼ねてもよい。もちろん、別途任意の材質のフランジと絶縁体構造物15とを組み合わせて使用することも可能である。
【0025】
絶縁体構造物15と高電圧導入部13とが接触する位置は、真空雰囲気とともに三重点(トリプルジャンクション)を形成する。絶縁体構造物15と陽極を兼ねた真空容器11とが接触する位置もまた、真空雰囲気とともに三重点(トリプルジャンクション)を形成する。以下の説明では、絶縁体構造物15と高電圧導入部13との接合部に形成される高電圧導入部13側の三重点を陰極側三重点TJcといい、絶縁体構造物15と陽極を兼ねた真空容器11との接合部の三重点を陽極側三重点TJaという。
図1に示す例では、陰極側三重点TJcはおよび陽極側三重点TJaは、それぞれ真空容器11の円筒の軸を中心とする円形状を有する。
【0026】
絶縁体構造物15の真空容器11の内側面側には、陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離が、空間距離よりも長い距離を有するように、遮蔽物16が設けられる。一方、絶縁体構造物15の真空容器11の外側面側、すなわち大気圧側の面は、任意の形状を選択可能である。絶縁体構造物15と遮蔽物16とは、同一の絶縁性材料から構成されてたとえば一体的に形成されてもよいし、それぞれ異なる絶縁性材料により構成されてもよい。
【0027】
また、この遮蔽物16を有する絶縁体構造物15は、真空容器11内の電界分布を均一化するように、高電圧導入部13と真空容器11の中心を結ぶ直線に垂直(たとえば円筒形状の真空容器11の軸に垂直)かつ真空容器11の中心を通る面に対して絶縁体構造物15と対称となるように、絶縁体構造物15に対向する真空容器11の内側面にさらに設けられてもよい(
図2の下側参照)。
【0028】
次に、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10および核融合中性子発生方法の動作の一例について説明する。
【0029】
真空中での絶縁物沿面放電は、三重点(トリプルジャンクション)と呼ばれる導体、絶縁体構造物、真空の3者の接合部からの電子放出が起点となって発生する。トリプルジャンクションでは電界強度が高くなり、電子が電界放出される。トリプルジャンクションから放出された2次電子は、絶縁体構造物表面に衝突し、2次電子を発生させる。この2次電子が絶縁体構造物表面で二次電子雪崩を引き起こし、沿面放電(絶縁破壊)を発生させてしまう。
【0030】
図3は、従来の核融合中性子発生装置100の一例を示す構成図である。また、
図4は、絶縁距離と沿面放電電圧との関係の一例を示す説明図である。
【0031】
図4に示すように、絶縁距離、すなわち接地部と高電圧部との沿面距離が大きいほど、沿面放電電圧が高くなることが知られている。このため、従来の核融合中性子発生装置100は、高電圧印加手段104から陰極102に電圧を印加するための高電圧導入部103と、陽極を兼ねた真空容器101との沿面距離をかせぐため、陰極102用の高電圧導入部103の軸方向に沿う方向に延びる絶縁体構造物105を高電圧導入部103に設けている。
【0032】
しかし、高電圧導入部103の軸方向に沿う方向に沿面距離、絶縁距離をかせぐように絶縁体構造物105を設けると、真空容器101から絶縁体構造物105が大きく突出してしまい、核融合中性子発生装置100は大型化してしまう。
【0033】
そこで、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、高電位部である陰極12および高電圧導入部13と、接地電位である真空容器11との間に絶縁体構造物15を設けるとともに、絶縁体構造物15の真空容器11の内側面側に遮蔽物16を設ける。
【0034】
図5は、第1実施形態に係る絶縁体構造物15および遮蔽物16を真空容器11内部から見た様子の一例を示す説明図である。
図5には、遮蔽物16が陰極側三重点TJcを囲むように真空容器11の内側面から突出した円環状のひだである場合の例を示した。
図5に示すように、陰極側三重点TJcはおよび陽極側三重点TJaは、それぞれ真空容器11の円筒の軸を中心とする円形状を有する。
【0035】
図6(a)は、従来の遮蔽物16がない場合の陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離20の一例を示す説明図であり、(b)は、第1実施形態に係る遮蔽物16が設けられた場合の陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離20の一例を示す説明図である。
【0036】
陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離20が空間距離よりも長い距離を有するように絶縁体構造物15の真空容器11の内側面側に遮蔽物16を設けることにより(
図6(b)参照)、遮蔽物16を設けない場合(
図6(a)参照)と比較して実効的な沿面距離20を長くとることができ、絶縁電圧を向上させることができる。
【0037】
図7(a)は第1実施形態に係る遮蔽物16の第1変形例を示す説明図であり、(b)は第1実施形態に係る遮蔽物16の第2変形例を示す説明図である。
【0038】
第1実施形態に係る遮蔽物16は、陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離20が空間距離よりも長い距離を有するように設けられればよく、その形状および配置位置は、複数の円形の島や(
図7(a)参照)円形の溝、複数の長円の島(
図7(b)参照)や長円の溝、あるいは陰極側三重点TJcを囲むように絶縁体構造物15の内側面をくぼませた円環状の溝など、様々な形状および配置位置を採用することができる。
【0039】
第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、高電圧導入部13と陽極を兼ねた真空容器11との間に絶縁体構造物15を設けるとともに、絶縁体構造物15の真空容器11の内側面側に、陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離20が空間距離よりも長い距離を有するように遮蔽物16を設ける。このため、高電圧導入部13の軸方向に沿う方向に沿面距離、絶縁距離をかせぐように絶縁体構造物15を設けることなく、陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの間での沿面放電を抑制することができる。したがって、本実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、高電圧導入部13の軸方向に沿う方向に設けられる絶縁体構造物を排して高電圧導入部13をたとえば数cm程度まで小型化しつつ、陽極と高電圧導入部13との沿面放電を抑制することができる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第2実施形態について説明する。
【0041】
図8は、本発明の第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。また、
図9は、本発明の第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10の他の例を示す構成図である。
【0042】
第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、電界強度が高いトリプルジャンクション近傍の電界を緩和する点で第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については
図1に示す第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
図8に示すように、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、たとえば陰極側三重点TJcの近傍と、陽極側三重点TJaの近傍と、の少なくとも一方を、ひだ状形状を有する遮蔽物16で遮蔽する。三重点を遮蔽するようにひだ状形状を有する遮蔽物16を配置することで、三重点の電界強度を緩和することができるとともに、陰極側三重点TJcからの電気力線の浸みだしを抑制することができる。
【0044】
また、
図9に示すように、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、高電圧導入部13の周辺の絶縁体構造物15の内側面をくぼませて、遮蔽物16として円環状の溝31を設けることにより、円環状の溝31に陰極側三重点TJcを内包させてもよい。この場合、陰極側三重点TJcは、円環状の溝31により遮蔽される。なお、くぼみの深さは任意の値を選択可能である。
【0045】
円環状の溝31によっても、陰極側三重点TJcを遮蔽することができ、陰極側三重点TJcの電界強度を緩和することができるとともに陰極側三重点TJcからの電気力線の浸みだしを抑制することができる。
【0046】
図10は、本発明の第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10の変形例を示す構成図である。
【0047】
図10に示すように、高電圧導入部13を囲むように、かつ一端が陰極12と接し他端が絶縁体構造物15と接し、かつ陰極12の外径L2より小さい外径L1を有する導電性材料32を設けてもよい。この導電性材料32は、擬似的な陰極12として機能し、陰極側三重点TJcの電界強度を緩和することができる。
【0048】
図5に示したひだ形状の遮蔽物16、
図7(a)、(b)に示した遮蔽物16などの第1実施形態に係る遮蔽物16と、三重点近傍のひだ形状の遮蔽物16、溝31、導電性材料32は、適宜組み合わせて用いることができる。
【0049】
第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、三重点での電界強度を緩和することで、沿面放電のきっかけとなる三重点からの電子放出を抑制することができる。また、陰極側三重点TJcからの電気力線の浸みだしを抑制することにより、接地部と高電圧部との間での局所的な気中放電発生を抑制できる。このため、第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、真空容器11の内部での沿面放電および局所的な気中放電発生を抑制することができる。
【0050】
(第3の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第3実施形態について説明する。
【0051】
図11は、本発明の第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。
【0052】
第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、絶縁体構造物15のひだ沿面での二次電子増幅を低減するよう、ひだ状形状の沿面に傾斜を持たせた点で第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については
図8−10に示す第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0053】
図11に示すように、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、ひだ形状の遮蔽物16の陰極側三重点TJcに対向する側の沿面が、たとえば
図11に示す例では真空容器11の円筒の軸に平行な面に対する角度θがマイナス90度以上プラス45度以内の傾斜を有する。ここで、角度θは、絶縁体構造物15がなす真空容器11の内側面に垂直な面から、ひだ形状の遮蔽物16の陰極側三重点TJcに対向する側の沿面の
図11の下側(真空容器11の中心側)が陽極側三重点TJaに近づく向きをプラスの向きとする。
【0054】
図12は、第3実施形態に係る遮蔽物16が有する傾斜により沿面で発生した2次電子雪崩の進展を抑制する様子の一例を示す説明図である。
図12に示すように、ひだ形状の遮蔽物16の沿面の傾斜と絶縁体構造物15のなす角度θをプラス45度以下とすることで、遮蔽物16が陰極側三重点TJcから生じた電子を止める壁として機能するとともに、絶縁体構造物15の沿面で発生した2次電子雪崩の進展を抑制することができる。
【0055】
図13(a)は、第3実施形態に係る遮蔽物16の変形例を示す説明図であり、(b)は、第3実施形態に係る遮蔽物16の傾斜角θを接触角φから求める例を示す説明図である。
図13(a)に示すように、第3実施形態に係る遮蔽物16の陰極側三重点TJcに対向する側の沿面の形状は、くぼんだ形状であってもよい。また、
図13(b)に示すように、沿面が平面的でない場合は、遮蔽物16の陰極側三重点TJc側の接触角φを90度から減じた角度をθとしてもよい。
【0056】
第1実施形態に係る遮蔽物16と、第2実施形態に係る三重点近傍のひだ形状の遮蔽物16、溝31、導電性材料32と、第3実施形態に係る傾斜した遮蔽物16とは、適宜組み合わせて用いることができる。
【0057】
第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。また、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第2実施形態に係る三重点近傍のひだ形状の遮蔽物16、溝31、導電性材料32またはこれらの組み合わせを用いることができ、この場合は第2実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。
【0058】
また、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、ひだ形状の遮蔽物16の陰極側三重点TJc側の沿面を傾斜させることにより、遮蔽物16が陰極側三重点TJcから生じた電子を止めることができるともに、絶縁体構造物15の沿面で発生した2次電子雪崩の進展を抑制することができる。
【0059】
(第4の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第4実施形態について説明する。
【0060】
図14は、本発明の第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。
【0061】
第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、絶縁体構造物15の表面のチャージアップを抑制するために、絶縁体構造物15上に荷電粒子収集用の導体41を設けた点で
図11に示す第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については
図11に示す第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0062】
荷電粒子収集導体41としては、たとえばチタンやタンタルなどの導電性の金属などを用いることができる。なお、荷電粒子収集導体41の形状は、球形状、リング形状など、遮蔽物16や真空容器11の形状に応じた任意の形状とすることが可能である。本実施形態では、
図14に示すように、第3実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、ひだ形状の遮蔽物16の陰極側三重点TJcに対向する側の沿面に固設された荷電粒子収集導体41を有する。ひだ形状の遮蔽物16が陰極側三重点TJcを囲むように設けられていることに伴い、荷電粒子収集導体41は、陰極側三重点TJcを囲む円筒形状を有する。
【0063】
円筒形状の荷電粒子収集導体41の内側面は、陰極側三重点TJcに対向し、導体が露出している。一方、円筒形状の荷電粒子収集導体41の外側面は、陰極側三重点TJcに背を向けており、絶縁体構造物15のひだ形状の遮蔽物16の沿面に埋め込まれて固設され、導体面が露出しないように配置されている。なお円筒形状の荷電粒子収集導体41は絶縁体構造物15のひだ形状の遮蔽物16の個数に応じて任意の数を配置可能である。荷電粒子収集導体41は、各々が電気的に絶縁されているとともに、陽極および陰極12に対しても電気的に絶縁されている。
【0064】
絶縁体構造物15は、三重点で発生した電子が流入し、二次電子発生により電子流出し、あるいは真空容器11内で生成されるプラズマから電子が流入することによって、表面がチャージアップしてしまう。この絶縁体構造物15の表面がチャージアップしてしまうと、沿面放電発生電圧が低下してしまう。
【0065】
第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、荷電粒子収集導体41を設けることにより、遮蔽物16の沿面での電子の移動を容易とし、絶縁体構造物15の表面のチャージアップを抑制することができる。また第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、荷電粒子収集導体41の導体面を陰極側三重点TJcに対向する側にのみ配置し、陽極側三重点TJaに対向する側には導体面を配置しない。このため、陰極側三重点TJcから流入した電子を荷電粒子収集導体41で収集してしまうことができるとともに、陽極側三重点TJaへの電子増幅を抑制することができる。さらに、陽極側三重点TJaには導体面を設けないことにより、真空容器11内で発生したイオンが荷電粒子収集導体41や絶縁体構造物15に衝突することで発生する二次電子雪崩増幅を低減することができる。
【0066】
したがって、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、絶縁体構造物15の沿面での電子の移動を容易にしてチャージアップを抑制することができるため、沿面放電や局所的な気中放電発生を低減することができる。
【0067】
また、第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1実施形態に係る遮蔽物16と、第2実施形態に係る三重点近傍のひだ形状の遮蔽物16、溝31、導電性材料32と、第3実施形態に係る傾斜した遮蔽物16と、を適宜組み合わせて用いることができ、第1−3実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。
【0068】
(第5の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第5実施形態について説明する。
【0069】
図15は、本発明の第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。
【0070】
第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、荷電粒子収集導体41の電荷を真空容器11の外部に取り除く電荷逃し手段42を備え点で
図14に示す第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については
図14に示す第4実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0071】
図15に示すように、第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、荷電粒子収集導体41の電荷を真空容器11の外部に逃す電荷逃し手段42を備えている。
【0072】
図16(a)は第5実施形態に係る電荷逃し手段42の第1例を示す説明図であり、(b)は電荷逃し手段42の第2例を示す説明図であり、(c)は電荷逃し手段42の第3例を示す説明図である。
【0073】
電荷逃し手段42は、電源V1−V3と抵抗R1−R3をそれぞれ組み合わせて荷電粒子収集導体41のそれぞれに独立に設けられてもよい(
図16(a)参照)。また、電荷逃し手段42は、抵抗により構成されて抵抗を介して荷電粒子収集導体41どうしを電気的に接続してもよいし(
図16(b)参照)、荷電粒子収集導体41どうしを等電位に接続してもよい(
図16(c)参照)。このように、電荷逃し手段42としては抵抗や高電圧電源などの任意の手段を選択可能であり、たとえば高電圧電源を用いて、複数の抵抗に電圧印加、分圧して各荷電粒子収集導体41に電圧を印加してもよい。
【0074】
また、電荷逃し手段42は、荷電粒子収集導体41が複数ある場合はこれらの間や、陰極12、真空容器11との間で平等な電界を発生させるように、荷電粒子収集導体41にかかる電位を調整するとよい。
【0075】
たとえば、本実施形態では陰極12が負電位、真空容器11が接地電位のため、各荷電粒子収集導体41には陰極12に印加した電位よりも絶対値で小さな値の負電位を印加するとよい。この場合、発生する電場の向きは真空容器11から陰極12に向かう方向である。
【0076】
第4実施形態に係る荷電粒子収集導体41は、電位が浮遊電位となってしまい、任意の値に設定することができない。このため、各荷電粒子収集導体41間や、陰極12、真空容器11との間で、局所的な電界が発生してしまう場合がある。局所的な電界が発生すると、電子雪崩が発生し、沿面放電や局所的な気中放電が生じる可能性がある。
【0077】
一方、第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、電荷逃し手段42を用いて、各荷電粒子収集導体41の電位を任意の値に設定することができる。このため、局所的な電界発生を抑制し、各荷電粒子収集導体41間や、陰極12、真空容器11との間で平等な電界を発生させることができる。したがって、第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10によれば、局所的な電界の発生を抑制することができ、電子雪崩発生による沿面放電や局所的な気中放電を低減することができる。
【0078】
また、第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1実施形態に係る遮蔽物16と、第2実施形態に係る三重点近傍のひだ形状の遮蔽物16、溝31、導電性材料32と、第3実施形態に係る傾斜した遮蔽物16と、を適宜組み合わせて用いることができ、第1−4実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。
【0079】
(第6の実施形態)
次に、本発明に係る核融合中性子発生装置および核融合中性子発生方法の第6実施形態について説明する。
【0080】
図17は、本発明の第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10の一例を示す構成図である。
【0081】
第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、真空容器11の外側の高電圧導入部13を覆う絶縁物質51を備え点で
図15に示す第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10と異なる。他の構成および作用については
図15に示す第5実施形態に係る核融合中性子発生装置10と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0082】
第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、
図17の破線で囲んだ円Aに示すように、高電圧導入部13のうち真空容器11の外側に露出した部分と、高電圧導入部13と高電圧印加手段14との接合部と、絶縁物質51で覆う。
【0083】
図17に示す例では、高電圧導入部13と高電圧印加手段14との接合箇所は、ケーブル14aと高電圧導入部13としての金属端子との接続部分を指す。絶縁物質51としては、たとえばアルミナなどのセラミックや絶縁油、絶縁性の樹脂など、任意の材料を用いることができる。絶縁物質51は、印加する電圧に対して選択した材料が固体絶縁破壊を起こさないように、適切な厚みを有することが好ましい。たとえば、絶縁物質51として絶縁性の樹脂を用いて高電位部をモールドする場合であって印加する電圧がマイナス100kVであれば、絶縁物質51は数cm程度の厚みを有すればよく、装置の小型化にはほとんど影響しない。
【0084】
第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、第1−5実施形態に係る核融合中性子発生装置10と適宜組み合わせることが可能であり、第1−5実施形態に係る核融合中性子発生装置10と同様の作用効果を奏する。
【0085】
また、第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、真空容器11の外側の高電位部を絶縁物質51で覆い、高電位部が露出しないようにすることができる。このため、高電位部と真空容器11の外側面との間の大気圧沿面放電や期中放電発生を未然に防ぐことができる。第6実施形態に係る核融合中性子発生装置10は、絶縁物質51の絶縁破壊電圧のみを考慮した絶縁設計を行えばよく、従来必要であった沿面放電、気中放電を防ぐための絶縁構造が不要となる。このため、大気圧側の高電圧導入部13のサイズを小型にすることができる。
【0086】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、高電圧導入部13と陽極を兼ねた真空容器11との間に絶縁体構造物15が設けられるとともに、絶縁体構造物15の真空容器11の内側面側に、陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離20が空間距離よりも長い距離を有するように遮蔽物16が設けられる。このため、高電圧導入部13の軸方向に沿う方向に沿面距離、絶縁距離をかせぐように絶縁体構造物15を設けることなく、陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの間での沿面放電を抑制することができる。したがって、高電圧導入部13の軸方向に沿う方向に設けられる絶縁体構造物を排して高電圧導入部13を小型化しつつ、陽極と高電圧導入部13との沿面放電を抑制することができる。
【0087】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0088】
たとえば、上記説明では真空容器11が円筒形状を有する場合の例を示したが、真空容器11の形状はこれに限られない。
【0089】
図18(a)は真空容器11の形状が円錐台である場合の一例を示す説明図であり、(b)は六角錐台である場合の一例を示す説明図であり、(c)は高電圧導入部13側を底とする円錐体である場合の一例を示す説明図である。
【0090】
絶縁体構造物15は、真空容器11と高電圧導入部13とが交わる面に設けられるとともに、真空容器11の内側面の少なくとも一部を構成すればよい。また、たとえばひだ形状の遮蔽物16は、陰極側三重点TJcと陽極側三重点TJaとの沿面距離20が空間距離よりも長い距離を有するように絶縁体構造物15の真空容器11の内側面側に設けられればよい。この限りにおいて、真空容器11はさまざまな形状を取り得る(たとえば
図18(a)―(c)参照)。
【0091】
また、上記説明のように真空容器11の形状が円筒である場合であっても、絶縁体構造物15は上記説明のような平面に限られず、絶縁体構造物15がなす真空容器11の内側面は曲面であってもよい(
図18(d)参照)。
【0092】
また、真空容器11は球状であってもよい。真空容器11が球状である場合は、陰極12の形状もまた球状であることが好ましい。この場合も、絶縁体構造物15は、真空容器11と高電圧導入部13とが交わる面に設けられるとともに、真空容器11の内側面の少なくとも一部を構成すればよい(
図18(e)参照)。また、真空容器11の側面が絶縁体構造物15により構成されて、真空容器11と高電圧導入部13とが交わる面と真空容器11の側面との両者を絶縁体構造物15が兼ねてもよい(
図18(f)参照)。