(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記豆腐ペースト添加用材料の添加前の前記こんにゃく糊の粘度が、前記豆腐ペースト添加用材料の添加後よりも低い、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
前記豆腐ペースト添加用材料の添加前の前記こんにゃく糊の粘度(65〜68℃)が、800mPa・s以下である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
前記豆腐ペースト添加用材料が、豆乳及び豆腐用凝固剤を含み、粘度(5℃)が450mPa・s以下である、請求項1乃至8のいずれかに記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
前記豆腐ペースト添加用材料が、水と、豆乳の豆腐用凝固剤による凝固物を含み、粘度(5℃)が450mPa・s以下である、請求項1乃至9のいずれかに記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
前記豆腐ペースト添加用材料の添加により、前記豆腐ペースト入りこんにゃく糊の温度が前記豆腐ペースト添加用材料の添加前のこんにゃく糊の温度よりも低下する、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
前記こんにゃく用アルカリ凝固剤が添加され、加熱処理された豆腐こんにゃくのpHが、10.4以下である請求項1乃至11のいずれか1項に記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
前記こんにゃく用アルカリ凝固剤が、非還元糖を1質量%〜30質量%、水酸化カルシウムを0.25質量%〜6.5質量%含む、請求項13に記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
前記豆腐ペースト入りこんにゃく糊を加熱滅菌する工程と、加熱滅菌処理されたこんにゃく糊に、前記こんにゃく用アルカリ凝固剤を無菌ろ過して添加し、無菌的に包装した後に加熱凝固させて豆腐こんにゃくを無菌的に得る工程とを有する、請求項13乃至16のいずれか1項に記載の豆腐こんにゃくの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明にかかる豆腐こんにゃくは、豆腐の成分、例えば、大豆由来のタンパク質やその他の豆乳に含まれる各種の成分が、こんにゃくの組織中に分散及び/または溶解状態で取り込まれた構造を有する凝固製品であり、かつこんにゃく本来の食感の特徴を製品の用途別に生かそうとするものである。
さらにはまた、本発明では、温水、好ましくは50℃以上の温水にこんにゃく粉を投入することで、各こんにゃく粉微粒子の中心部まで速やかに均一に吸水させた後に、極めて速いタイミングで豆腐ペーストを一気に入れるのである。この結果、豆腐ペースト添加用材料自体がこんにゃく粉微粒子の吸水及び溶解を妨げる事は無く、しかも個々のこんにゃく粉微粒子から溶媒である温水中に溶解するグルコマンナンが温水中に拡散することで温水の急速な粘度上昇が起こる前に、豆腐ペースト添加用材料を容易に均一に分散させることを可能とした。出来上がった豆腐こんにゃくの断面を拡大すると、透明に透き通ったこんにゃくの組織の中に多数の豆腐の粒子、すなわち豆乳由来の大豆たんぱく質凝集物の粒子が散らばっているのが観察される。
すなわち、こんにゃく用アルカリ凝固剤で加熱凝固させた場合のゲル強度が、こんにゃくゲルが主体となった組織によって高いレベルに維持されると同時に、こんにゃく本来の食感を有するのである。こんにゃく本来の食感には、「板こんにゃく」の様にしっかりとした破断強度を有し、歯切れの良さを特徴としたものと、「糸こんにゃく」や「しらたき」の様にしなやかさ、滑らかさを特徴としたものがある。本発明者らは、こんにゃく糊中に封じ込める大豆タンパク質と豆腐用凝固剤による凝集物の形態によって、これらの食感を自由に創造することを可能とした。
これこそ正に、十分に膨潤したこんにゃく糊の中に豆腐ペーストを混合する従来の品質を踏襲し、さらには、従来法の製造上の数々の難点を凌駕し、単一ラインでの製品化の幅を広げる新しい視点での技術開発であり、従来技術ではとうてい予測し得なかったものである。
【0011】
本発明における第1の課題である高品質な豆腐こんにゃくの大量生産技術の確立については以下の技術事項が必要とされる。
(1)こんにゃく粉の吸水及び溶解のスピードを速め、かつ、こんにゃく粉と温水の混合物への豆腐ペースト添加用材料投入の最適なタイミングを計り、迅速にこれらの混合を実施することで、空気の混入を極力抑えた均一な混合作業を確実に行う。
(2)高品質の豆腐こんにゃくの製造に適した豆腐ペースト添加用材料の開発により、豆腐こんにゃくの大量生産技術を更に向上させる。
本発明における第2の課題である無菌包装豆腐こんにゃく製造技術の確立に必要な技術事項は、超高粘度ゾルであるこんにゃく糊と豆腐ペースト添加用材料との混合物の最適な加熱滅菌システムの選択と、無菌化されたこんにゃく用アルカリ凝固剤の添加、混合、無菌包装、加熱凝固に至るシステムの構築にある。
【0012】
本発明は、従来法の最大の特徴である、こんにゃくとしての食感を損なうことがないという利点を生かしつつ、大量生産システムを構築することを第一義としている。そのために、一般的に従来法と言われている豆腐こんにゃくの製造法を再現し、そのテクスチャーについてテクスチュロメーターを用いて解析し、本発明品との比較を行った。その結果、後述する実験例1に示す通り、本発明品の破断強度は、従来品とほぼ同等であることを確認した。さらには、組織を拡大して観察した結果、本発明品と従来品は組織の形状においてほぼ同様であることを確認した。
本発明においては、こんにゃく粉の吸水、水への分散及び溶解を行う際に、温水を用いることでこんにゃく粉のダマの生成を抑え、さらには、崩れ易くしてこんにゃく粉を速やかに温水内に均一分散させて、こんにゃく粉と温水の混合物が調製される。こうして得られたこんにゃく粉と温水の混合物に豆腐ペースト添加用材料を添加、混合することにより、こんにゃく粉と温水の混合物に豆腐ペースト添加用材料を短時間で均一に分散させることが可能となる。その結果、従来法では少量生産でしか製造することの出来なかった豆腐こんにゃくの、製造時間を大幅に短縮した大量生産を可能とした。
【0013】
本発明においては、豆腐ペースト添加用材料の速やかな投入と、こんにゃく糊への分散のし易さを考慮し、豆腐ペースト添加用材料の粘度を下げておくことが好ましい。
豆乳と豆腐用凝固剤の混合物を豆腐ペースト添加用材料として用いる場合には、これらの混合物の粘度を低くして用いることが好ましい。
豆腐ペーストを豆腐ペースト添加用材料として用いる場合には、豆腐ペースト加工時に加水して、豆腐ペーストの粘度を下げておくことが好ましい。この方式は、豆腐こんにゃくの製造をバッチシステムにより行う場合における製造効率の向上を図ることができることは勿論のこと、豆腐こんにゃくの連続生産システムへの道を拓くものである。
豆腐ペースト用の豆腐を豆乳から調製する方法として、本発明においては、豆腐こんにゃくの製造目的に適した調製法として、豆乳用の速効性凝固剤である塩化マグネシウムを主体とした温凝固法を採用することができる。豆腐ペーストの製造に上述した温凝固法を用いることによって、豆腐製造の簡便さと同時に、豆腐ペースト調製の容易さを兼ね備え、美味しさとこんにゃく臭の抑制効果が最大限発揮されるシステムの構築を成すことができる。
豆乳と豆腐用凝固剤の混合物を豆腐ペースト添加用材料として用いる場合にも、豆腐用凝固剤として速効性凝固剤である塩化マグネシウムを用いることにより、こんにゃく糊中での加熱による大豆たんぱく質凝集物の効率良い形成を行うことができる。
【0014】
本発明の豆腐こんにゃくの製造方法は以下の工程(I)〜(III)を有する。
(I)こんにゃく粉と温水を用いて液状の混合物としてのこんにゃく糊を調製する工程。
(II)上記工程(I)で調製したこんにゃく糊に豆腐ペースト添加用材料を添加して、豆腐ペースト入りこんにゃく糊を調製する工程。
(II’)豆腐ペースト入りこんにゃく糊を膨潤させる工程。
(III)豆腐ペースト入りこんにゃく糊に、こんにゃく用アルカリ凝固剤を添加して加熱凝固させ、豆腐こんにゃくを調製する工程。
【0015】
工程(I)において、こんにゃく粉と温水を用いて液状の混合物としてのこんにゃく糊を調製する。
工程(I)において調製されるこんにゃく糊は、こんにゃく粉が温水を吸収して、温水中にこんにゃく粉の粒子か分散し、こんにゃく粉の少なくとも一部が温水に溶解した状態の、温水によって付与された温度を有する混合物である。このこんにゃく糊は、豆腐ペースト添加用材料との均一混合を容易とする低粘度、好ましくは測定温度:67〜68℃においては800mPa・s以下の粘度の状態で調製することができる。工程(I)において調製されるこんにゃく糊は、こんにゃく粉の全量と温水全量との混合が完了しており、上記の範囲の粘度を有していることが好ましい。
【0016】
工程(I)において使用するこんにゃく粉としては、通常用いられる特等粉、一等粉、或いは、ティマックマンナン(オリヒロ(株)製)等のこんにゃく精粉を用いることができる。こんにゃく精粉は50℃以上の温水に容易に溶解するため、温水添加直後に塊になったこんにゃく製粉が崩れ易く、バッチシステムであれば所定量のこんにゃく精粉の温水への添加と混合を速やかに終えることが出来る。同様の溶解速度を得ることができるものであれば、こんにゃく精粉以外のこんにゃく粉を用いることができる。
こんにゃく粉の溶解に用いる温水の温度は、50℃〜85℃の範囲から選択することが好ましい。温水の温度は、豆腐こんにゃくの目的とする硬さ等に応じて選択することができる。豆腐こんにゃく製品に対して、しっかりとした硬いこんにゃくの食感が要求される場合は、上記温度範囲の高温領域から温水の温度を選択することが好ましい。豆腐こんにゃく製品に対して、適度な硬さとしなやかさの食感が要求される場合には、上記温度範囲の低温領域から温水の温度を選択することが好ましい。更に、豆腐こんにゃく製品に対して、これらの硬さの中間の食感が要求される場合には、上記温度範囲の中間領域から温水の温度を選択することが好ましい。
豆腐こんにゃく製品の形態としては、板状、筒状、ブロック状等の他に、適度な硬さとしなやかさが要求される「しらたき」や「糸こんにゃく」等の麺状や線状の製品を挙げることができ、これらの製品に適した硬さやしなやかさを調節する方法の一つとして、温水の温度を選択する方法を必要に応じて選択することができる。
硬い食感の豆腐こんにゃくを得る場合には、温水の温度は、65〜85℃が好ましく、70℃〜82℃が更に好ましく、72〜80℃が特に好ましい。温水の温度が高い程こんにゃく粉の吸水性が高まり、塊となった粉もほぐれ易く、こんにゃく粉の温水への溶解速度を高くすることができる。また、温水の温度を高くすることで、最終製品の食感を、従来法により得られる製品に近づけることができるが、こんにゃく糊の調製時における操作性等を考慮すると、温水の温度は上記の各上限の温度以下に設定するとよい。
こんにゃく粉と温水の配合割合は、目的とする硬度の豆腐こんにゃくを得ることができるように設定することができ、例えば、こんにゃく粉と温水の合計質量に対して、こんにゃく粉の配合割合を2.0〜7.0質量%の範囲から選択することが好ましい。
こんにゃく粉と温水の混合時においてこんにゃく粉の分散及び/または溶解を促進する温度、例えば上記の各温度範囲から選択した温度に保持できるように、作業環境温度等に応じて保温機能または加温機能を有する容器や設備を用いて温水を保温または加温してもよい。こんにゃく粉の温水への分散、溶解作業中に温水の温度が低下してもよいが、この温度低下の範囲は温水の初期温度に対して2〜5℃程度の範囲に抑えておくことが、こんにゃく粉の温水への良好な溶解効率を得る上で好ましい。
従って、工程(I)で得られたこんにゃく糊は、温水の温度あるいはそれよりも若干低い温度を有する温こんにゃく糊であり、この温こんにゃく糊に、それよりも低い温度の豆腐ペースト添加用材料が工程(II)において添加され、豆腐ペースト入りこんにゃく糊が調製される。
【0017】
工程(II)において、こんにゃく粉と温水を用いて調製したこんにゃく糊に豆腐ペースト添加用材料を添加して、豆腐ペースト入りこんにゃく糊を調製する。
こんにゃく粉と温水を用いて調製した液状の混合物を更に攪拌混合すると、こんにゃく粉からのこんにゃく成分の温水への溶解が進み、粘度が上昇して糊状となり、こんにゃく糊となる。本発明においては、こんにゃく粉と温水の混合物が増粘せずに低粘度の状態のうちに、すなわち、豆腐ペースト添加用材料との均一混合に適した低粘度の状態であるうちに、豆腐ペースト添加用材料を添加する。こんにゃく粉と温水の混合物としてのこんにゃく糊の粘度(測定温度:65〜68℃、好ましくは67〜68℃)は、800mPa・s以下であることが好ましい。操作性を考慮すると、600mPa・s以下であることがより好ましく、400mPa・s以下であることが更に好ましい。
【0018】
豆腐ペースト添加用材料の添加時期は、温水の温度、こんにゃく粉の温水への配合割合、こんにゃく粉の温水への分散、溶解速度等に応じて設定することができる。
豆腐ペースト添加用材料の添加時期の設定には、こんにゃく粉の温水への添加完了直後からのこれらの混合物の粘度変化を予め測定しておき、豆腐ペースト添加用材料との均一な混合に好適な粘度を維持している経過時間を求め、この経過時間内に豆腐ペースト添加用材料の添加時期を設定する方法を好適に利用することができる。
このような方法としては、粘度測定時の温度が65〜68℃となるように、70℃またはその近傍の70℃を超える温度の温水を用いてこんにゃく粉の温水溶液を粘度測定用のサンプルとして調製し、こんにゃく粉の温水への添加開始からの経過時間における温水溶液の粘度の変化を測定し、粘度が800mPa・s以下である経過時間内に豆腐ペースト添加用材料の添加時期を設定する方法を簡便法として利用することができる。
後述する実験例2に示す通り、こんにゃく粉の配合割合の増加に伴って調製された温水溶液の粘度は増加し、また、同じこんにゃく粉の配合割合において、温水の温度を低下させるとこんにゃく粉の温水溶液の粘度も低下する。
従って、こんにゃく粉の温水との混合物としてのこんにゃく糊の粘度が、上記の簡便法により測定される条件(65〜68℃の測定温度において800mPa・s以下)を満たす場合には、同じこんにゃく粉の配合割合の混合物の調製温度が70℃よりも低い場合でも、その粘度は800mPa・sを超えることがなく、800mPa・sよりも低い粘度となる。一方、同じこんにゃく粉の配合割合を有するこんにゃく糊の調製温度が70℃を超える場合でも、上記の簡便法により測定される粘度が上記の条件(65〜68℃の測定温度において800mPa・s以下)を満たしていれば、豆腐ペースト添加用材料との均一混合に好適な低い粘度状態のこんにゃく糊を得ることができる。
温水の温度が50℃〜85℃であり、かつ、こんにゃく粉の温水への添加量(配合割合)がこれらの合計質量に対して2.0〜7.0質量%の範囲から選択される好ましい実施形態において、上記のようにして豆腐ペースト添加用材料の添加のタイミングを設定した場合、こんにゃく粉を温水に添加撹拌開始後、好ましくは10秒から40秒の間、より好ましくは20秒から30秒の間に豆腐ペースト添加用材料の添加を開始すれば良い。こんにゃく精粉を温水に添加撹拌開始後、できるだけ速やかに所定量の豆腐ペースト添加用材料の投入を終えることで、こんにゃく成分と豆腐ペースト添加用材料を容易に均一化させることができる。バッチシステムの場合にはこんにゃく精粉を温水に添加撹拌開始後50秒以内に豆腐ペースト添加用材料の投入を終えることが好ましい。
【0019】
こんにゃく粉を温水に速やかに分散、吸水させた後に、豆腐ペースト添加用材料を速やかに混合することこそが、アルカリ条件下でのこんにゃく独特の生臭さを抑え、しっかりとした食感を有する美味しい豆腐こんにゃくを製造するための重要ポイントである。
従来法においては、豆腐こんにゃくにおいてこんにゃく本来の食感を得るには、こんにゃく糊を十分に膨潤させてこんにゃく組織を形成するための基礎を固めてから豆腐ペーストを添加混合し、こんにゃく用アルカリ凝固剤を加えた加熱凝固を行うことが必要であると、考えられてきた。これに対して、本願発明では、こんにゃく粉を用いたこんにゃく糊の調製に、温水、好ましくは50℃以上の温水を用いることによって、こんにゃく粉内部まで極めて短時間の内に温水を浸透させることで分散時のダマの生成を防ぎ、速やかにこんにゃく粉を均一に分散させることを可能とした。さらに、グルコマンナンの膨潤が不十分で粘度上昇の緩慢な段階(好ましくは、800mPa・s以下)で、水分を含む低粘度の豆腐ペースト添加用材料、好ましくは450mPa・s以下、より好ましくは400mPa・s以下、更に好ましくは300mPa・s以下の粘度を有する豆腐ペースト添加用材料を一気に入れることで、これらの混合物の液温が低下して、好ましくは15℃以上低下してグルコマンナンの膨潤を緩慢にすると同時に溶媒である水の量が増えるので、こんにゃく粉と豆腐ペースト添加用材料を短時間の内に均一混合できるのである。
【0020】
工程(II)において使用する豆腐ペースト添加用材料は、こんにゃく糊中に豆乳由来の大豆たんぱく質の粒子状の多数の凝集物が分散した状態を形成するための材料である。豆腐ペースト添加用材料をこんにゃく糊に添加混合することにより、大豆を水とともに磨砕する工程を経て得られる豆乳中の各種成分と、豆腐用凝固剤による大豆たんぱく質の凝集物をこんにゃく糊中に分散させることができる。
豆腐ペースト添加用材料としては、豆腐ペースト(先に述べたタイプA1、A2)及び豆乳及び豆腐用凝固剤の組合せからなる材料(タイプB)を挙げることができ、これらから選択した少なくとも1つのタイプの豆腐ペースト添加用材料を用いることができる。
豆乳と豆腐用凝固剤の組合せからなる材料は、豆乳と豆腐用凝固剤をこんにゃく糊に直接添加して、こんにゃく糊中で、こんにゃく組織の形成を阻害せずに、豆乳に含まれる大豆たんぱく質の凝集物を形成するためのものである。豆乳と豆腐用凝固剤を直接こんにゃく糊に添加することにより、豆腐ペーストを用いた場合と同様の大豆タンパク質の凝集物である粒子の分散状態をこんにゃく糊中に得ることができる。
豆乳と豆腐用凝固剤をこんにゃく糊に添加する方法、すなわちタイプBの豆腐ペースト添加用材料をこんにゃく糊に添加する方法としては、これらを別々に用意して、こんにゃく糊に同時、あるいは順次に添加する方法、これらを予め混合してこんにゃく糊に添加する方法を用いることができる。この方法では、こんにゃく糊に添加される豆乳、豆腐用凝固剤、あるいはこれらの混合物に対しては、通常豆腐製造において行われる凝固のための加熱処理は行われない。
より均質な混合状態を得るには、豆乳と豆腐用凝固剤を混合した混合液を調製して、この混合液をできるかぎり速やかにこんにゃく糊に添加する方法を好ましく用いることができる。
【0021】
豆乳のタンパク質濃度は、目的とする大豆タンパク質の凝集物の分散状態をこんにゃく糊中に形成できる範囲であればよいが、3.5質量%〜6.5質量%の範囲にあることが好ましい。豆乳と豆腐用凝固剤の混合割合も、目的とする大豆タンパク質の凝集物の分散状態をこんにゃく糊中に形成できる範囲であればよいが、豆乳タンパク質1gに対する豆腐用凝固剤の添加量が、0.05〜0.1gの範囲となることが好ましい。
豆乳、豆腐用凝固剤、あるいはこれらの混合物の、こんにゃく糊への添加時の粘度は、これらの混合を容易とする粘度であればよく、450mPa・s以下であることが好ましく、300mPa・s以下であることが更に好ましい。
豆乳、豆腐用凝固剤、あるいはこれらの混合物の、こんにゃく糊との混合における温度は、こんにゃく糊の温度を下げて、急激な高粘度化を抑制できるこんにゃく糊の温度よりも低い温度であればよく、5〜30℃、好ましくは5〜25℃、より好ましくは5〜15℃の範囲から選択することができる。なお、タイプBの材料添加時のこんにゃく糊の温度は、45℃以上とすることができ、更には、45〜82℃を範囲とすることが好ましい。
タイプBの材料と、こんにゃく糊との混合割合も、目的とする大豆タンパク質の凝集物の分散状態をこんにゃく糊中に形成できる範囲内とすればよく、こんにゃく糊、豆乳及び豆腐用凝固剤の合計量に占める大豆タンパク質濃度が、0.5〜1.5質量%の範囲となるように調整することが好ましい。
なお、豆乳のたんぱく質濃度、あるいは豆乳と豆腐用凝固剤の混合物のタンパク質濃度は、加水によって調節してもよい。
豆腐用凝固剤としては、豆腐製造等において利用されている天然にがりや、精製された豆腐用凝固製剤を用いることができる。中でも、即効性の塩化マグネシウムまたは塩化マグネシウム(CaCl
2・6H
2O)を主体として含む凝固剤が好ましい。
豆乳と豆腐用凝固剤を混合すると、豆腐用凝固剤の作用によって、豆乳中の大豆たんぱく質の凝集が始まる。豆乳ペースト添加用材料として用いる際には、この大豆たんぱく質の凝集が開始されてこれらの混合物中に凝集物が形成されていてもよいが、こんにゃく糊中への分散混合が容易となるように、凝集物の形成による高粘度化が生じないうちにこんにゃく糊への投入を完了することがこのましい。
【0022】
先に述べた、タイプAとしての、多数の豆腐粒子の懸濁液としての豆腐ペーストを、豆腐ペースト添加用材料として用いることができ、こんにゃく糊に豆腐ペーストを添加混合することによっても、豆腐粒子が分散したこんにゃく糊を得ることができる。
豆腐ペーストは、大豆を水と共に磨砕して得られる豆乳中の各種成分と、豆腐用凝固剤による大豆タンパク質の凝集物を有し、かつ、粒子状の凝固物が水中に分散しているペーストである。
この豆腐ペースト製造用の原料としての豆腐は、通常の豆腐製造法で作られる豆腐であればよいが、豆腐用凝固剤として塩化マグネシウムを主体としたものがより好ましい。また、簡単な機器と操作で均一なペースト状とすることが出来るものが好ましい。豆腐ペースト製造用の豆腐としては、大豆タンパク質凝集物の塊の多数が豆乳由来の水分中に分散する懸濁液としての液状の豆腐製品、大豆タンパク質凝集物の比較的大きな塊が弱く結合した状態の固形豆腐製品、大豆タンパク質凝集物がしっかりと成型された状態の塊となっている固形豆腐製品等の各種の形態の豆腐製品を用いることができる。これらの各種の形態の豆腐は、豆乳のタンパク質濃度、凝固剤の投入量、加温や冷却の条件等を適宜変更することにより得ることができる。
いずれにしても、豆乳に含まれる大豆タンパク質が凝固剤により凝集して形成された凝固物が豆腐ペーストの原料に含まれていることが必要となる。これらの各種形態の豆腐を用い、必要に応じて攪拌混合や加水をして、大豆タンパク質凝集物の微小な塊が水分中に分散した懸濁液としての豆腐ペーストを得ることができる。豆腐ペーストは、少なくともその調製時から、こんにゃく粉と温水との混合物への添加完了までの間において、大豆タンパク質凝集物を含む塊の豆腐ペースト中での分散安定性を有するものであればよい。
なお、豆腐ペーストの含有する水分は、豆乳由来の水分のみからなるものでも、豆腐ペースト調製時の加水によって、豆乳由来の水分と加水により追加された水分とを合わせたものでもよい。また、豆腐ペーストの水分には、豆乳由来の水溶性成分が含まれる。
豆腐ペーストの粘度は5℃測定で450mPa・s以下であることが好ましく、更に好ましくは300mPa・s以下である。そのための豆腐は、ゲル化力を有する豆乳(タンパク質濃度3.5〜6.5質量%)に豆腐用凝固剤を加えて製造する通常の豆腐製造法で調製すれば良い。例えば、5〜15℃に冷却された豆乳(タンパク質濃度3.5〜6.5質量%)に豆腐用凝固剤を添加攪拌した後に、80〜85℃に加温して40〜60分間加温状態を維持して凝固させる方法で豆腐を得ることができる。また、ゲル化力を有するタンパク質濃度3.5〜6.5質量%の豆乳を80℃程度、例えば70℃〜80℃に加温し、豆腐用凝固剤を添加攪拌し、直ちに、凝固をさらに進行させるに必要な温度、80〜85℃程度で数分から数十分、好ましくは5〜10分間保持して加熱凝固を促進させた後に冷却して豆腐を得ることができる。こうして得られた豆腐は目的とする豆腐ペーストの調製に使用できるものであればそのまま用いても良い。
更に、水を含んだ状態で保持して数時間から一晩程度冷蔵し、その間に熟成させて用いてもよい。冷蔵による熟成を組み合わせることで大豆タンパク質の凝集がより促進され、目的とするこんにゃく臭の抑制効果が増す。また、凝固剤として塩化マグネシウム製剤、或いは、塩化マグネシウムを主成分とする天然ニガリを用いることが呈味の良さとこんにゃく臭抑制効果の点で好ましい。
【0023】
豆腐ペーストは、こんにゃく粉と温水の混合物に素早く投入し、目的とする混合物の粘度上昇の抑制効果を得るために必要な低粘度及びこんにゃく粉と温水の混合物よりも低い温度の状態で調製される。
低粘度の豆腐ペーストを得る方法としては、
(A)豆乳に凝固剤を加えて得られる大豆タンパク質凝集物の懸濁液を豆腐ペースト調製用の豆腐原料として用い、その粘度を豆乳中のタンパク質濃度、凝固剤の添加割合等を調整して低くし、加水を行わずにこの懸濁液を直接豆腐ペーストとして利用する方法、
(B)豆乳に凝固剤を加えて得られる大豆タンパク質凝集物の懸濁液を豆腐ペースト調製用の豆腐原料として用い、その粘度を、加水により低下させて、豆腐ペーストとして利用する方法、
(C)固形状の豆腐を豆腐ペースト調製用の豆腐原料として用い、この固形状の豆腐を水中で攪拌、粉砕して、目的とする低粘度の豆腐ペーストを得る方法、等を挙げることができる。
豆乳に凝固剤を加えて得られる混合物に加熱による凝固処理を行うことが好ましい。
上述のような方法で調製した豆腐原料に加水して水分含量を多くして調製する方法を用いる場合には、こんにゃく粉と温水の混合物に素早く豆腐ペーストを投入することを可能とするための加水による希釈によっても、大豆タンパク質の塩化マグネシウム等の凝固剤により得られる凝固物の凝集性を保持し、短時間で固液分離を生じることがないということが豆腐ペーストに求められる必須要件である。このような大豆タンパク質の凝集安定性の高い凝固物を得るには、凝固条件を上述したように設定する方法が好ましく用いられる。また、豆乳に対する豆腐用凝固剤の添加量を、通常の固形状の豆腐と同等乃至は高く設定し、例えば、豆乳(あるいは豆乳含有タンパク質)100質量部に対して、30〜40質量%の塩化マグネシウム水溶液0.8質量部〜1.0質量部の範囲から選択することが好ましい。
【0024】
上記の様にして製造した豆腐原料を用いて、簡単な機械的撹拌処理、例えば、バーミックス(Tapperware社製 スイス)、その他のスクリュータイプ攪拌機を用いて、均質で分離の起こり難い滑らかな豆腐ペーストを調製することが出来る。大豆タンパク質を含む凝固物の懸濁液を豆腐ペーストとして用いる場合には、使用時に豆腐ペースト100質量部に対して最大150質量部、好ましくは40〜80質量部、さらに好ましくは45〜60質量部の加水をして均質化した後に用いても良い。また、予め大豆タンパク質を含む凝固物の懸濁液に所定量の加水をした後に均質化処理をして用いるのがより好ましい。何れにしても、こんにゃく粉と温水との混合物に投入する時点での豆腐ペーストは、水中に大豆タンパク質を含む凝固物が分散した分散液であり、タンパク質濃度は2.0〜4.5質量%(TN×5.71)であり、粘度は品温5℃での測定値が450mPa・s以下であることが好ましく、400mPa・s以下であることがより好ましい。300mPa・s以下であることが更に好ましい。豆腐ペーストの粘度は低い程、こんにゃく糊への添加スピードを上げることができる。
本発明に用いる豆腐ペースト添加用材料の好ましい製造方法のその一は、
(a)豆乳と凝固剤を用いて豆腐ペースト調製用の豆腐原料を製造する工程と、
(b)豆腐ペースト調製用の豆腐原料から豆腐ペーストを調製する工程と、
を有する。
工程(a)としては、先に記載した(A)〜(C)に記載したように、
(a−1)豆乳に凝固剤を加えて、大豆タンパク質を含む凝固物の懸濁液を得る工程、または、
(a−2)豆乳に凝固剤を加えて、複数のあるいは一つの大きな塊からなる固形状の豆腐を得る工程、
を用いることができる。
工程(b)は、以下の各工程から選択することができる。
(b−1)工程(a−1)で得られた懸濁液が豆腐ペーストとして利用できる低粘度を有する場合は、そのまま、更に必要に応じて攪拌混合を行い、豆腐ペーストを得る工程。
(b−2)工程(a−1)で得られた懸濁液の水分含有量及び/または粘度を調整する必要がある場合は、加水を行って、更に必要に応じて攪拌混合を行い、水分含有量及び/または粘度を調整して豆腐ペーストを得る工程。
(b−3)工程(a−2)で得られた複数のあるいは一つの大きな塊からなる固形状の豆腐に加水するとともに、粉砕、攪拌混合して豆腐ペーストを得る工程。
なお、工程(b−3)では、加水は、固形状の豆腐の粉砕時及び粉砕物の攪拌混合時の少なくとも一方において行うことができる。
本発明は、古くから作られてきた豆腐こんにゃくの大量生産を可能とするための技術開発を目的としており、豆腐ペースト中には微細化された豆腐凝固物が認められるものである。豆腐ペーストは、微細化された様々なサイズ、形状の豆腐凝固物の混合系で、最大で700〜800μm程度のものを一部含んでも構わないが、長時間静置しても固液分離の起こらない安定した状態を保つことが、こんにゃく糊との一体化のためには必要不可欠である。
【0025】
温水にこんにゃく粉を添加開始してから30秒程度の早い時期に豆腐ペースト添加用材料を一気に加えることにより、粘度が低い段階でこんにゃく粉と温水の混合物であるこんにゃく糊と豆腐ペースト添加用材料の混合を行うことが出来、容易に豆腐ペースト添加用材料とこんにゃく成分との均一混合が可能となる。例えば、70℃の温水にこんにゃく粉を5.2質量%添加した混合物の場合では、豆腐ペースト添加用材料を投入する直前のこんにゃく粉と温水の混合物としてのこんにゃく糊の粘度を品温67℃で測定したところ100mPa・sであった。
以下に豆腐ペースト製造の好ましい実施形態について説明する。
タンパク質濃度3.5〜6.5質量%(TN×5.71)、好ましくは4.5〜6.0質量%の豆乳を使用し、凝固剤として塩化マグネシウム製剤、或いは、塩化マグネシウムを主成分とした天然ニガリを用いて、70〜80℃に温めた豆乳に、塩化マグネシウム(CaCl
2・6H
2O)として0.25〜0.4質量%、好ましくは0.30〜0.4質量%となるように添加、瞬時撹拌後直ちに冷却するか、80〜85℃で5〜20分間、好ましくは8〜10分間加熱して凝集を進行させた後に冷却し、そのまま数時間から一晩冷蔵して熟成させる。冷蔵熟成により、大豆タンパク質の塩化マグネシウムによる凝集物の安定性が増し、こんにゃく臭を抑える力は強くなる。
冷蔵状態の豆腐凝固物をそのままハンドミキサー等で均質化した後に冷水乃至は常温の水を20〜150質量%添加して希釈するか、或いは、豆腐凝固物に予め20〜150質量%程度の冷水乃至は常温の水を加えた後に、ハンドミキサー等で均質化して豆腐ペーストとする。水で希釈することで、こんにゃく粉と温水の混合物への投入が容易になり、さらには、こんにゃく粉と温水の混合物との混合が容易となるのである。豆腐ペーストの添加量は特に制限は無いが、豆腐成分を添加することによる効果をより十分なものとするためには、豆腐凝固物を水で希釈する前の状態から換算して、こんにゃく粉と温水の混合物との混合後の全体量に対して豆腐凝固物の割合が5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
こんにゃく粉と温水の混合物への豆腐ペースト添加時の豆腐ペーストの温度は、5〜30℃の範囲とすることが好ましく、10〜15℃とすることはより好ましい。
また、豆腐ペースト添加時のこんにゃく粉と温水の混合物の温度は、45〜82℃を範囲とすることが好ましい。
こんにゃく粉と温水の混合物よりも低温の豆腐ペーストを混合することにより、豆腐ペースト入りこんにゃく糊の温度は、こんにゃく粉と温水の混合物よりも低くなり、豆腐ペースト入りこんにゃく糊を更に攪拌混合する場合における増粘が抑制される。その結果、豆腐ペースト入りこんにゃく糊の攪拌混合を短時間かつ低エネルギー消費により行うことができる。
また、こんにゃく粉と温水の混合物としてのこんにゃく糊に、豆腐ペースト添加用材料側から水分が補充されることによっても、豆腐ペースト入りこんにゃく糊の粘度上昇の抑制または遅延が可能となり、これらの均一な混合を効果的に行うことができる。
こんにゃく糊の豆腐ペースト添加用材料添加前後における温度差は、10〜30℃の範囲に設定することが好ましい。
またさらには、本発明に用いる豆腐ペースト添加用材料の好ましい製造方法のその二は、タンパク質濃度3.5〜6.5%のゲル化力を有する豆乳に豆腐用凝固剤、好ましくは塩化マグネシウム製剤、或いは、塩化マグネシウムを主成分とした天然ニガリを添加し、直ちにこんにゃく粉と温水の混合物としての低粘度状態のこんにゃく糊に投入する。
こんにゃく粉と温水の混合物へ添加時の豆腐用凝固剤添加豆乳の温度は、5〜30℃の範囲とすることが好ましく、10〜15℃とすることはより好ましい。
また、豆腐用凝固剤添加豆乳添加時のこんにゃく粉と温水の混合物の温度は、45℃以上とすることができ、更には、45〜82℃を範囲とすることが好ましい。
こんにゃく粉と温水の混合物に豆腐用凝固剤添加の豆乳を添加、撹拌することにより、こんにゃく糊中で大豆タンパク質の塩化マグネシウムによる均質な凝集物が生成し、均等に分散させることができる。
この大豆タンパク質の凝集物は、こんにゃく粉を溶解させる温水の温度、豆乳中のタンパク質濃度、凝固剤濃度等によってサイズをコントロールすることが可能であり、その結果として最終製品である豆腐こんにゃくの食感を調製することができる。
【0026】
豆腐ペースト入りこんにゃく糊、或いは、豆腐用凝固剤添加豆乳入りこんにゃく糊を調製した後、必要に応じて、工程(II’)として、豆腐ペースト入りこんにゃく糊を膨潤させる。こんにゃく糊の膨潤は、常法により行うことができる。例えは、室温等の温度条件下で豆腐ペースト入りこんにゃく糊を放置することにより膨潤工程を行うことができる。なお、膨潤工程中において、必要に応じて攪拌処理を行ってもよい。
豆腐ペースト添加用材料を添加する前のこんにゃく糊よりも、豆腐ペースト添加用材料の温度を大幅に低くすることによって、豆腐ペースト添加用材料を添加混合することで、混合物の液温は急降下する。液温が急降下することでこんにゃく糊の粘度上昇速度や膨潤速度が抑制されるので、その後5〜10分間程度の撹拌を続け、分離がおこらなくなったら、通常はその状態で30〜60分間、好ましくは40分間程度放置して十分に膨潤させることが好ましい。
また、豆腐ペースト添加用材料を混合した後のこんにゃく糊を無菌化する場合は、室温に放置して十分に膨潤させた後に所定の加熱滅菌処理を行っても良いが、豆腐ペースト添加用材料の混合後のこんにゃく糊の分散状態が安定した時点で直ちに加熱滅菌処理を行うことで、膨潤工程を省略しても良い。
【0027】
工程(III)において、豆腐ペースト入りこんにゃく糊、或いは、豆腐用凝固剤添加豆乳入りこんにゃく糊に、常法により、こんにゃく用アルカリ凝固剤を練り込んだ後に加熱することにより、こんにゃく特有の歯切れの良さや、しなやかさ、滑らかさを有し、こんにゃく臭を抑えた豆腐こんにゃくを製造することが出来る。
こんにゃく用アルカリ凝固剤としては、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化バリウム、水酸化ナトリウム等を使用すれば良い。
【0028】
こんにゃく用アルカリ凝固剤としては、糖、凝固用アルカリ成分としての水酸化カルシウム及び水を含み、糖及び水酸化カルシウムが水に溶解している糖含有アルカリ性溶液が好適に利用できる。
糖含有アルカリ性溶液に含まれる非還元糖は、目的とする凝固剤としての効果に影響を与えず、かつ水酸化カルシウムの溶解度を向上させる機能を有する。
糖として還元糖を用いた場合、水酸化カルシウムが強塩基であるため、所謂褐変反応を起こす。そこで、このこんにゃく用アルカリ凝固剤として、非還元糖が用いられる。
非還元糖としては、入手が容易という点ではスクロース(ショ糖)、トレハロースを挙げることができる。スクロースは水酸化カルシウムの溶解能、ならびに糖と共に溶解する水酸化カルシウムのアルカリ性剤としての安定性が高いのでより好ましい。スクロースとして、市販のグラニュー糖、上白糖等の種々の砂糖製品が利用できる。上白糖には褐変の原因となる少量の転化糖(還元糖)が含まれている場合があり、グラニュー糖を用いるのが好ましい。
【0029】
アルカリ成分として用いる水酸化カルシウムとしては、食品用途して利用し得るものであれば特に限定されない。工業的な大量生産における製造コストの低減という観点からは、石灰岩から得られる消石灰が有用である。
こんにゃく用アルカリ凝固剤としてのアルカリ水溶液は、水酸化カルシウムを糖とともに水に添加して攪拌混合するか、あるいは、糖を溶解した糖水溶液に水酸化カルシウムの過剰量を加え攪拌混合し、その後不溶性の画分を除く方法等によって調製することができる。
水酸化カルシウムの糖の共存下における溶解度も水溶液の調製温度によって変化する。通常は同一糖濃度の水溶液中への水酸化カルシウムの溶解濃度は温度と反比例する。すなわち、より低い温度の方がより高い濃度で水酸化カルシウムを溶解させることができる。また、糖濃度や温度等の条件によっては水酸化カルシウムの溶解濃度を正確に予測できない場合があり、そのような場合は、過剰量の水酸化カルシウムを添加して、調製された水溶液中に残存する固形分を分離した後のアルカリ水溶液をこんにゃく用アルカリ凝固剤として利用することができる。この固形分の分離は、静置後の上清取得によって行えば良いが、さらに、遠心分離、膜ろ過、或いは、ろ過助剤の使用による清澄処理等の公知の分離方法で、浮遊している微細な粒子を取り除き、所謂透明な溶液として使用することはより好ましい。
【0030】
こんにゃく用アルカリ凝固剤としてのアルカリ水溶液を調製する際の糖の投入量としては、目的とする水酸化カルシウムの溶解濃度を達成できる量であればよいが、糖溶液が高濃度となると不溶性の水酸化カルシウムの沈降が阻害され、溶解させる水酸化カルシウムの濃度を調整する必要が生じる。また、35%となると添加した水酸化カルシウムが凝集して粘着性のある塊状となる等の障害が発生する場合がある。従って、水に対して2〜30質量%、好ましくは4〜20質量%、さらに好ましくは5〜15%の範囲から選択するとよい。
こんにゃく用アルカリ凝固剤としてのアルカリ水溶液に含まれる溶解状態にある水酸化カルシウムの濃度は、こんにゃく製造における使用温度において、目的とするこんにゃく用アルカリ凝固剤としての機能及び保存安定性を得ることができる量であればよいが、糖溶液に溶解させる水酸化カルシウム濃度が6.5%を超えると不溶性の水酸化カルシウムが沈降し難く、固液分離が困難となる場合がある。従って、0.25質量%〜6.5質量%の範囲が好ましい。
【0031】
こんにゃく用アルカリ凝固剤としてのアルカリ水溶液の調製温度は、こんにゃく製造における使用温度において、目的とするこんにゃく用アルカリ凝固剤としての機能及び保存安定性を得ることができる温度とすれば良く、特に制限はないが、5℃〜70℃、例えば9〜11℃の冷却温度や21〜25℃の通常の室温から選択することができる。
調製温度において得られる糖の共存下での水酸化カルシウムの投入量は、溶解度の2〜4倍程度(質量基準)の割合の量を投入することが好ましい。
こんにゃく用アルカリ凝固剤自体は、こんにゃく用アルカリ凝固剤としての目的とする凝固機能を得ることができるアルカリ性を有していればよいが、例えば12〜13、好ましくは12.0〜12.8、より好ましくは12.3〜12.8の範囲から選択したpHのアルカリ性とすることができる。
【0032】
こんにゃく用アルカリ凝固剤としての糖含有アルカリ性溶液は、50℃以下の水溶液の状態を保持する温度条件下において極めて安定であり、大量に調製して密封貯蔵し、必要に応じて希釈して使用することができ、こんにゃくの生産量に応じてその使用量を調節できるので、工業的な利用という点から価値が高い。
こんにゃく用アルカリ凝固剤としての糖含有アルカリ性溶液は、水酸化カルシウムに非還元糖を共存させたことにより、水酸化カルシウムの固形分を含まず、水酸化カルシウムを高濃度で含み、かつ、保存安定性に優れる。従って、大量製造したこんにゃく用アルカリ凝固剤をストックして必要に応じて使用することができ、更に、こんにゃく製造時における効率的な水酸化カルシウムの利用を達成することができる。
さらに、こんにゃく用アルカリ凝固剤としての糖含有アルカリ性溶液は、無菌濾過による簡便な処理によって無菌化を行うことができる。
【0033】
豆腐こんにゃくは、無菌包装製品とすることができる。
豆腐こんにゃくの無菌包装製品は、以下の方法により製造することができる。
まず、豆腐ペースト入りこんにゃく糊を加熱滅菌する。
豆腐ペースト入りこんにゃく糊の加熱滅菌方法としては、目的とする滅菌効果を得ることができる方法であれば良いが、間接加熱による滅菌システムを用いる場合には、例えば、掻き取り式や、スタテックミキサー内蔵のチューブ式等による熱交換機を挙げることができる。滅菌条件としては、130〜140℃で20〜200秒間の加熱処理により無菌化することができる。
次に、上述したこんにゃく用アルカリ凝固剤としての糖含有アルカリ性溶液(ショ糖溶液に溶解した水酸化カルシウム溶液)をポアーサイズ0.2μm程度の無菌フィルターでろ過し、加熱滅菌した豆腐ペースト含有こんにゃく糊に無菌的に添加する。混合は、無菌雰囲気下で行うことのできる連続式練機を用いればよく、次いで、無菌包装機で連続的に包装すればよい。この様にして得られた、無菌包装された無菌のこんにゃく用アルカリ凝固剤入りの無菌の豆腐こんにゃく糊を成型後、80℃前後で適当な時間加熱してゲル化させれば、無菌包装された豆腐こんにゃくが得られる。
本発明にかかる豆腐こんにゃくの無菌包装製品の製造方法の好ましい態様は、以下の各工程を有する。
(i)豆腐ペースト入りこんにゃく糊の加熱滅菌工程。
(ii)無菌化処理されたこんにゃく用アルカリ凝固剤の調製工程。
(iii)工程(i)で得られた加熱滅菌された豆腐ペースト入りこんにゃく糊と、工程(ii)で得られた無菌化処理されたこんにゃく用アルカリ凝固剤との無菌的な混合及び包装容器への密封充填工程。
(iv)工程(iii)で得られた包装容器中に無菌密封充填された混合物を、この無菌密封充填状態を維持して加熱し、包装後に内部の混合物をゲル化させて無菌豆腐こんにゃくを得るゲル化処理工程。
なお、上記の工程(i)においては豆腐ペースト入りこんにゃく糊の膨潤処理を行ってもよいが、膨潤処理を行わずに工程(iii)に豆腐ペースト入りこんにゃく糊が低粘度の内に無菌的に供給してもよい。
なお、上記工程(i)〜(iv)は無菌的な装置内で連続的に行うことができる。
豆腐こんにゃくの無菌包装製品は、上述した方法により無菌的に製造した豆腐こんにゃく単独を、或いは、豆腐こんにゃくに、魚のすり身、魚介類エキス、畜肉エキス、香辛料、調味料、香料、着色料等の少なくも1種を加えて、必要に応じて混合処理を行い、130℃〜140℃で200秒から20秒の間で加熱滅菌処理を行って、無菌包装製品とすることができる。豆腐こんにゃくの無菌包装製品のpHは、目的とする用途に応じて設定することができる。すなわち、本発明にかかる無菌包装製品では、保存性を得るための従来用いられている高pH領域とする必要はなく、無菌包装製品の用途に応じてpHを選択することができる。また、材料の配合によって付加価値の高い豆腐こんにゃくを得る際に、pHが低い方が目的とする豆腐こんにゃくの風味や色を得ることが容易である場合には、低いpHで無菌包装製品を製造することが可能である。例えば、無菌包装製品の最終pHを10.4以下とすることが可能となり、より付加価値の高い商品の開発が可能となる。
【0034】
この様に、本発明は現代の食生活に適応した美味しい、新しい豆腐こんにゃく製品の提供を目的とするものである。しかしながら、この目的を達成するために解決しなければならない最大の課題は、豆腐こんにゃく製造の目的に合致し、しかも従来法では極めて複雑で困難であった豆腐ペーストとこんにゃく糊の均一混合工程を、如何にシンプルなシステムに置き換えるかである。この新しい製造システムの開発こそが、品質の安定化とコストの低減を同時に可能とするのである。
本発明の重要ポイントは、水中でダマに成りやすく、吸水に時間のかかるこんにゃく粉をいかに素早く吸水させるかであり、次いで、豆腐ペースト投入開始と終了の時期を可能な限り短時間とするかである。すなわち、これら一連の操作をこんにゃく粉の主要成分であるグルコマンナンが膨潤して溶液中に溶け出し、混合溶液の粘度上昇が始まる前に終えることができるかである。このために、こんにゃく粉の溶解は古来よりの手法である温水を用いることでダマの生成を抑え、吸水を促進し、新しく導入した豆腐ペーストの粘度を抑えるという考え方で短時間での投入を可能とした。また、豆乳と、ニガリ等の豆腐用凝固剤の組み合わせで豆腐ペースト同様の効果を出させるという従来には全く無い発想の基に、これら一連の新規な製造システムを組み立てた。さらに、豆腐こんにゃくペーストの加熱滅菌処理と無菌こんにゃく用アルカリ凝固剤の添加、さらには、無菌包装を行う具体的手段の提供であるが、何れも現時点では公知文献は無い。
【実施例】
【0035】
(実験例1)
(1) サンプルA(伝統的製法による豆腐こんにゃく)
10℃に冷却した固形分濃度12.6質量%、タンパク質濃度5.9質量%(TN×5.71)の豆腐用豆乳−A500gに、30質量%の精製塩化マグネシウム製剤(富田製薬(株)製、食品添加物 MgCl
2・6H
2O)5.66gを添加混合、包装後85℃で50分間加熱、水冷し、一晩冷蔵した。これをバーミックス(Tapperware社製、 モデル133 スイス)を用いて撹拌、均一な豆腐ペースト(豆腐ペースト−I)を調製した。この豆腐ペーストの粘度はB型回転粘度計(東機産業(株)製、型式BM)を用いた5℃での測定で7,000mPa・s(高粘度)であった。
こんにゃく精粉(ティマックマンナン)5gを冷水(22℃)155gに添加混合、10分間撹拌し、90分間室温で放置し、十分膨潤したこんにゃく糊を崩し、豆腐ペースト(15℃)40gを加えて均一に分散するよう丹念に練り込み、こんにゃく糊に豆腐ペーストが均一に分散した段階で軟包材に入れ、消石灰(水酸化カルシウム:井上石灰工業(株)製、商品名:蒟太郎)を水に懸濁させた20gの懸濁液(消石灰:1.0質量%濃度)を加えて密封し、混練りした後に成型して80℃、60分間加熱した。これを水冷後一晩冷蔵し、サンプルAとした。
(2) サンプルB(本発明による豆腐ペースを用いた豆腐こんにゃく)
サンプルAで使用したものと同じ豆腐用豆乳−A500gを78℃に加温、これに40質量%の塩化マグネシウム溶液5gを添加、瞬時撹拌し、そのまま85℃で10分間加温した後に水冷した。これを一晩冷蔵した後に250gの水道水を加えて、バーミックスを用いて高速で5分間撹拌、豆腐ペースト(豆腐ペースト−II)とした。この豆腐ペーストの粘度は5℃での測定で125mPa・s(低粘度)であり、35メッシュ篩を通過した区分は99質量%、200メッシュ篩(篩目の開き0.074mm)を通過する区分は11質量%であった。
70℃のお湯135gを撹拌しながらこんにゃく精粉(ティマックマンナン)5gを10秒間で投入、撹拌を続けながらこんにゃく粉添加開始から30秒後に15℃の豆腐ペースト60gを一気に投入し、こんにゃく粉添加開始から50秒以内に豆腐ペースト(−II)の投入を終了して混合液を得た(品温52℃)。さらに混合液を6分間撹拌し(品温42℃)、その後40分間室温に放置し、十分に膨潤させた段階で軟包材に入れ、これに水に懸濁させた20gの消石灰懸濁液(消石灰:1.0質量%濃度)を加えて密封し、混練りした後に成型して、80℃、60分間加熱した。これを水冷後一晩冷蔵し、サンプルBとした。
(3) サンプルC(本発明による冷豆乳及びにがりを用いた豆腐こんにゃく)
温湯(80℃、155g)にこんにゃく粉(ティマックマンナン、5g)を添加、撹拌、温湯へのこんにゃく粉の添加30秒後に、豆乳A(タンパク質5.9質量%)を冷却した冷豆乳−1 40gに40質量%の塩化マグネシウム溶液0.5gを混合して得られた豆腐ペースト添加用材料としての混合物(8℃)を添加し、4分間撹拌後40分放置して、豆腐ペースト入りこんにゃく糊を得た。得られた豆腐ペースト入りこんにゃく糊に、水に懸濁させた20gの消石灰懸濁液(消石灰:1.0質量%濃度)を加えて密封し、混練りした後に成型して、80℃、60分間加熱した。これを水冷後一晩冷蔵し、サンプルCとした。
(4) サンプルD(本発明による冷豆乳及びにがりを用いた豆腐こんにゃく)
こんにゃく粉を添加する温湯を70℃とした以外は、サンプルCと同様にして豆腐こんにゃく(サンプルD)を得た。
(5) サンプルE(本発明による冷豆乳及びにがりを用いた豆腐こんにゃく)
こんにゃく粉を添加する温湯を60℃とした以外は、サンプルCと同様にして豆腐こんにゃく(サンプルE)を得た。
【0036】
(6) サンプルF(本発明による冷豆乳及びにがりを用いた豆腐こんにゃく)
こんにゃく粉を添加する温湯を50℃とした以外は、サンプルCと同様にして豆腐こんにゃく(サンプルF)を得た。
(7)サンプルG(本発明による冷豆乳及びにがりを用いた豆腐こんにゃく)
こんにゃく粉を添加する温湯を70℃とし、タンパク質濃度を5.0質量%とした冷豆乳−2を用い、ニガリ(40質量%MgCl
2・6H
2O)の添加量を0.43gとした以外はサンプルCと同様にして豆腐こんにゃく(サンプルG)を得た。
(8)サンプルH(本発明による冷豆乳及びにがりを用いた豆腐こんにゃく)
こんにゃく粉を添加する温湯を70℃とし、タンパク質濃度4.0質量%とした冷豆乳−3を用い、40質量%の塩化マグネシウム溶液の添加量を0.35gとした以外はサンプルCと同様にして豆腐こんにゃく(サンプルH)を得た。
(9)サンプルI(本発明による冷豆乳及びにがりを用いた豆腐こんにゃく)
こんにゃく粉を添加する温湯を70℃とし、タンパク質濃度3.5質量%とした冷豆乳−4を用い、40質量%の塩化マグネシウム溶液の添加量を0.3gとした以外はサンプルCと同様にして豆腐こんにゃく(サンプルI)を得た。
(10)サンプルJ(比較例1)
22℃の水155gを撹拌しながらこんにゃく精粉(ティマックマンナン)5gを投入、撹拌を続けながらこんにゃく粉添加開始から3分後に、サンプルAで使用の豆腐ペースト−I 40gを5分間かけて撹拌混合、さらに2分間撹拌した。その後90分間室温に放置し、十分に膨潤させた段階で軟包材に入れ、これに水に懸濁させた20gの消石灰懸濁液(消石灰:1.0質量%濃度)を加えて密封し、混練りした後に成型して、80℃、60分間加熱した。これを水冷後一晩冷蔵し、豆腐こんにゃく(サンプルJ)を得た。
(11)サンプルK(比較例2−豆乳入りこんにゃく)
22℃の水155gを撹拌しながらこんにゃく精粉(ティマックマンナン)5gを投入、撹拌を続けながらこんにゃく粉添加開始から3分後に、タンパク質濃度5.9質量%の冷豆乳40gを5分間かけて撹拌混合、さらに2分間撹拌した。その後90分間室温に放置し、十分に膨潤させた段階で軟包材に入れ、これに水に懸濁させた20gの消石灰懸濁液(消石灰:1.0質量%濃度)を加えて密封し、混練りした後に成型して、80℃、60分間加熱した。これを水冷後一晩冷蔵し、豆乳入りこんにゃく(サンプルK)を得た。
(12)サンプルL(比較例3−豆乳入りこんにゃく)
こんにゃく粉を添加する温水を70℃とし、タンパク質濃度5.9質量%の冷豆乳に塩化マグネシウム溶液を添加しない以外はサンプルCと同様にして豆乳入りこんにゃく(サンプルL)を得た。
【0037】
(4)実験例1における結果と考察
サンプルA〜Lのそれぞれの豆腐こんにゃくをスライスし、実体顕微鏡((株)モリテックス製、MSX−500Di)による観察を行った。さらに、室温に戻した各サンプル(試料片サイズ:厚さ16mm×幅40mm×長さ60mm)の破断荷重をクリープメーター((株)山電製、RE2−33005C型)により楔形プランジャー(先端厚み5mm×横幅30mm)を用いて測定した(測定速度1mm/sec)。得られた破断荷重の各測定値を表1に示す。
サンプルAは、伝統的手法を再現したもので、スライスした切片の拡大写真(×100)では空気の混入も確認され、こんにゃくの食感である歯切れの良さと、しなやかさが高い評価を得た。こんにゃく臭は良く抑えられており、破断荷重は1,589gfであった。
サンプルBをスライスした切片の拡大写真(×100)では、豆腐の微細粒子のサイズは最大で300×150μm程度で、大半は長辺が100μm以下であり、豆腐こんにゃく組織への良好な分散状態が得られ、気泡の取り込み量が少なく滑らかな感じが現れていた。食感としては、歯切れの良さとしなやかさが高く評価され、こんにゃく臭は良く抑えられていた。破断荷重は1,516gfとサンプルA,B共に同程度の高い値を示し、いずれも粘着性は認められなかった。
サンプルCをスライスした切片の拡大写真(×100)では、サンプルBに近いサイズの微細な形状の豆腐様凝集物がこんにゃく組織全体に拡がっているのが確認された。破断荷重は1,513gfとサンプルBと同程度の値で、歯切れの良さとしなやかさが感じられ、こんにゃく臭は良く抑えられていた。
サンプルDをスライスした切片の拡大写真(×100)では、最大径100μm程度の豆腐様凝集物が見られるものの、大半は最大径40μm以下の微粒子が均一に分散した状態であった。破断荷重は1,450gfであり、歯切れの良さとが感じられ、こんにゃく臭は良く抑えられていた。
サンプルEをスライスした切片の拡大写真(×100)では、極めて微細な豆腐様凝集物が均一に分散していた。破断荷重は1,314gfであり、歯切れの良さ、はやや低く評価されたが、こんにゃく臭は良く抑えられていた。
サンプルFをスライスした切片の拡大写真(×100)では、サンプルEに比べより微細な豆腐様凝集物が均一に分散しており、破断荷重は1,263gfであった。歯切れの良さ、しなやかさはやや低く評価されたが、こんにゃく臭は良く抑えられていた。
サンプルGをスライスした切片の拡大写真(×100)では、サンプルDに非常に近く、破断荷重は1,357gfであった。歯切れの良さ、しなやかさはやや低く評価されたが、こんにゃく臭は抑えられていた。
サンプルHをスライスした切片の拡大写真(×100)では、サンプルFに非常に近く、破断荷重は1,356gfであった。歯切れの良さ、しなやかさはやや低く評価されたが、こんにゃく臭は抑えられていた。
サンプルIをスライスした切片の拡大写真(×100)では、サンプルFとGを合わせた様な豆腐様凝集物が見られ
、破断荷重は1,250gfであった。歯切れの良さ、しなやかさはやや低く評価されたが、こんにゃく臭は抑えられていた。
サンプルJをスライスした切片の拡大写真(×100)では、極めて滑らかで透明感のあるこんにゃく組織中に微細な豆腐凝集物が均一に分散しており、破断荷重は1,175gfであった。歯切れの良さ、しなやかさは非常に低く評価され、こんにゃく臭の抑制効果も低く評価された。
サンプルKをスライスした切片の拡大写真(×100)では、組織全体に豆乳が均一に混入しており、微粒子状の物質は認められなかった。破断荷重は998gfであった。歯切れの良さ、しなやかさは非常に低く評価された。こんにゃく臭の抑制効果は低いと評価された。
サンプルLをスライスした切片の拡大写真(×100)では、組織全体にサンプルKと同様に豆乳が均一に混入しており、微粒子状の物質は認められなかった。破断荷重は1,045gfであった。歯切れの良さ、しなやかさは非常に低く評価された。こんにゃく臭の抑制効果は低いと評価された。
【0038】
【表1】
【0039】
(実験例2)
こんにゃく精粉(特等粉)を温水(70℃)に表2に示す割合で、それぞれ10秒以内で添加してこんにゃく精粉の温水溶液を調製し、その後20秒間攪拌した後、直ちに品温67℃においてB型粘度計(回転数60)で粘度を測定した。得られた結果を、表2に示す。
温水の温度を53℃とし、粘度測定時の品温を50℃として、上記と同様にしてこんにゃく精粉の温水溶液を調製し、その粘度を測定した。得られた結果を表2に示す。
表2に示す各こんにゃく精粉配合割合の温水溶液が表2に示す粘度を有している段階で豆腐ペーストの添加を行うことで、本発明にかかる豆腐こんにゃく製造用の豆腐ペースト入りこんにゃく糊の製造を行うことができた。
【0040】
【表2】
【0041】
(実施例1)
78℃とした固形分濃度12.3質量%の豆腐用豆乳(タンパク質濃度5.6質量%)500gに40質量%の塩化マグネシウム溶液(MgCl
2・6H
2O)5gを添加、瞬時混合後85℃で10分間加温、流水で冷却、これを繰り返し、豆腐11kgを調製し、一晩冷蔵した。10kgの豆腐に水道水5kgを加えてハンドタイプのスクリューミキサーで滑らかになるまで撹拌して豆腐ペーストを調製した。
70℃の温水38.61kgにこんにゃく精粉(ティマックマンナン)1.43kgをハンドタイプのスクリューミキサーで撹拌混合、こんにゃく粉添加開始から30秒後に豆腐ペースト17.16kgを一気に添加、混合し、さらに5分間撹拌を続けた。そのまま40分間室温で放置、1.0質量%濃度の消石灰懸濁液を、豆腐こんにゃく糊に対して10質量%となるように連続式練機(オリヒロ(株)製 M−30R−A型)を用いて練り込み、縦型充填包装機(オリヒロ(株)製 ONP−2030AS型)で200g包装とし、成型後80℃で60分間加熱した後、流水冷却を行って豆腐こんにゃくを得た。
この豆腐こんにゃくのpHは10.36であった。また、切断面を拡大観察したところ、多数の豆腐の微粒子が全体に満遍なく散らばっており、最大粒径は650×250μmであった。
こうして得られた豆腐こんにゃくを5mm幅にスライスした状態での食感にはこんにゃく特有の歯切れ感があり、こんにゃく臭は極めて弱く、麺状にカットしたものは、そうめんつゆ、冷やし中華タレ、温うどんつゆとの馴染み良く、喉越しの良さもあって高い評価を得た。
(実施例2)
80℃に加温した固形分濃度12.6質量%の豆腐用豆乳(タンパク質濃度5.9質量%)10kgに対して40質量%の塩化マグネシウム溶液100gの割合で混合、そのまま85℃のスチーム雰囲気下で10分間加温し、水冷後一晩冷蔵した。冷蔵豆腐35kgに水道水17.5kgを加えて、ホモディスパー(特殊機化工業(株)製、型番16C)で滑らかになるまで撹拌して豆腐ペーストを調製した。
70℃の温水95.1kgにこんやく精粉(ティマックマンナン)3.75kgをハンドタイプのスクリューミキサーで撹拌混合し、こんにゃく粉添加開始から30秒後に豆腐ペースト42.3kgを一気に添加、引き続き5分間撹拌を続け、そのまま40分間室温に放置した。この時の豆腐ペースト入りこんにゃく糊の粘度は、B型回転式粘度計(HAKKE Viscotester 7 pulas、使用ローター:l4、測定回転数:0.1rpm)による40℃での測定で1,067,240mPa・sであった。
これを掻き取り式熱交換機(岩井機械工業(株)製、サーモシリンダーK11W型)により135℃、60秒間の加熱滅菌処理を行い、予め無菌処理を行った軟包材に無菌的に回収した。予め無菌処理を行った耐熱性の軟包材に、クリーンベンチ内で無菌の豆腐ペースト入りこんにゃく糊を250g単位で詰めた。この250g詰めの豆腐ペースト入りこんにゃく糊に対し、予め0.22μmの無菌フィルター(東洋濾紙(株)製、型式A020A090C)により無菌ろ過処理を行った6質量%グラニュー糖溶液に溶解させたショ糖消石灰溶液(水酸化カルシウム1.0質量%濃度)25gを添加。そのまま密封して混練りし、成型した後に80℃で60分間の加熱を行って、無菌の豆腐こんにゃくを製造した。
この無菌豆腐こんにゃくのpHは10.40であり、スライス(5mm幅)してワサビ醤油で食したところ、こんにゃく臭は全く気にならず、クセの無い味で食べ易く、こんにゃくの歯切れのよい食感が好評であった。
【0042】
(実施例3)
78℃に加温した固形分濃度10.8質量%の豆腐用豆乳(タンパク質濃度4.9質量%)500gに40質量%の塩化マグネシウム溶液5gを添加混合、直ちに85℃、10分保持後流水冷却、上記操作を繰り返し、豆腐11kgを調製した。一晩冷蔵保存した豆腐10kgに水4kgを加えてホモディスパーで均質化した。この時の豆腐ペーストの粘度は、276mPa・s(5℃測定)であった。
68℃の温水34.7kgにこんにゃく精粉(ティマックマンナン)1.3kgをハンドタイプのスクリューミキサーで撹拌混合し、こんにゃく粉添加開始から30秒後に豆腐ペースト15kgを一気に添加、引き続き5分間撹拌を続け、そのまま40分間室温に放置した。1.0質量%濃度の消石灰懸濁液を、豆腐こんにゃく糊に対して10質量%となるように連続式練機を用いて練り込み、縦型充填包装機で200g包装とし、成型後80℃で60分間加熱した後、流水冷却を行って豆腐こんにゃくを得た。一晩冷蔵後破断荷重を実験例1に準じてクリープメーターで測定した結果は1,566gfと高く、歯切れの良いしっかりとしたこんにゃくの食感を有しており、こんにゃく臭も非常によく抑えられていた。
(実施例4)
81℃の温水38.8kgにこんにゃく精粉(ティマックマンナン)1.25kgを添加、ハンドタイプのスクリューミキサーで撹拌し、こんにゃく精粉添加開始30秒後に10℃の豆腐用豆乳(固形分濃度12.6質量%、タンパク質濃度5.9質量%)10kgに40質量%濃度の塩化マグネシウム溶液125gを添加、混合し、速やかに投入し、さらに、4分間撹拌混合した後に40分間静置した。この豆腐こんにゃく糊に対して1.0質量%濃度の消石灰懸濁液を10質量%となるように連続式練機を用いて練り込み、縦型充填包装機で300g包装とし、成型後80℃で60分間加熱した後、流水冷却を行って豆腐こんにゃくを得た。一晩冷蔵後破断荷重を実験例1に準じてクリープメーターで測定した破断荷重は1,528gfで、歯切れの良い食感を有し、しなやかさもあってこんにゃく臭が非常によく抑えられていた。