特許第6571006号(P6571006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6571006多層シート、太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571006
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】多層シート、太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20190826BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20190826BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20190826BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20190826BHJP
   B29C 48/18 20190101ALI20190826BHJP
   H01L 31/049 20140101ALI20190826BHJP
   B29K 27/12 20060101ALN20190826BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20190826BHJP
   B29K 69/00 20060101ALN20190826BHJP
   B29K 71/00 20060101ALN20190826BHJP
   B29K 77/00 20060101ALN20190826BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20190826BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20190826BHJP
【FI】
   B32B27/00 C
   B32B27/36
   B32B27/36 102
   B32B27/34
   B32B27/30 D
   B29C48/18
   H01L31/04 562
   B29K27:12
   B29K67:00
   B29K69:00
   B29K71:00
   B29K77:00
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】12
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-555007(P2015-555007)
(86)(22)【出願日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2014084351
(87)【国際公開番号】WO2015099059
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-272371(P2013-272371)
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】宮村 康史
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小茂田 含
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−207217(JP,A)
【文献】 特開2012−087292(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/065234(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/108816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C 48/00−48/96
H01L 31/049
B29K 27/12
B29K 67/00
B29K 69/00
B29K 71/00
B29K 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含有する樹脂組成物から形成される第1の樹脂層と、
ポリフッ化ビニリデン:50〜99質量%及びポリメタクリル酸メチル:1〜50質量%含む樹脂成分100質量部に対して、白色無機顔料を1〜40質量部含有するポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物から形成される第2の樹脂層と、
芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成される接着樹脂層と、を備え、
前記第1の樹脂層と前記第2の樹脂層とが、前記接着樹脂層を介して多層共押出により積層された多層シート。
【請求項2】
前記ポリエステル系ブロック共重合体は、前記ハードセグメントを5〜90質量%含有する請求項1記載の多層シート。
【請求項3】
前記接着樹脂層の軟化点が、60〜190℃である請求項1又は2記載の多層シート。
【請求項4】
前記接着樹脂層は、JIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.1〜30g/10分である請求項1〜3の何れか1項記載の多層シート。
【請求項5】
前記接着樹脂層の厚さが5〜50μmである請求項1〜4の何れか1項記載の多層シート。
【請求項6】
前記接着樹脂層は、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成されている請求項1〜5の何れか1項記載の多層シート。
【請求項7】
前記第1の樹脂層を構成する樹脂組成物は、難燃剤及び/又は耐候剤を含有している請求項1〜の何れか1項記載の多層シート。
【請求項8】
130〜260℃の温度範囲で、溶融共押出成形により製膜されたものである請求項1〜の何れか1項記載の多層シート。
【請求項9】
前記第1の樹脂層上に、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択された1種以上を樹脂成分として含有する樹脂層が積層されている請求項1〜の何れか1項記載の多層シート。
【請求項10】
請求項1〜の何れか1項記載の多層シートを用いた太陽電池用バックシート。
【請求項11】
前記第1の樹脂層の前記接着樹脂層が設けられている表面とは反対の表面側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体を樹脂成分として含有する樹脂層が積層されている請求項10記載の太陽電池用バックシート。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の太陽電池用バックシートを用いた太陽電池モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、多層シート、並びにこれを用いた太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、主に屋外で長期間使用されることから、機械的強度の確保と劣化防止が求められる。そのため、太陽電池モジュールは、一般に、太陽電池セルを合成樹脂で封止すると共に太陽光が照射される面を透明強化ガラスで覆い、裏面を太陽電池用バックシート(太陽電池モジュール用裏面保護シート)で保護した構造となっている。その際に用いられる太陽電池用バックシートとしては、例えば、複数の樹脂フィルムを積層した多層シートの構造が提案されている(例えば特許文献1〜5)。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐環境性能を向上させるために、特定密度のポリエチレン系樹脂を積層又は特定密度のポリエチレン系樹脂を熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに積層した構成の太陽電池用裏面保護シートが提案されている。
また、特許文献2には、外皮フィルムと防湿フィルムとをエチレン−酢酸ビニル共重合体系接着剤により積層一体化したバックシートが提案されている。この特許文献2に記載のバックシートでは、防湿フィルムに基材フィルムの表面に無機酸化物のコーティング膜を形成したフィルムを使用し、外皮フィルムにはフッ素樹脂フィルムを用いている。
【0004】
更に、特許文献3に記載の太陽電池モジュール用裏面保護シートでは、無機酸化物の蒸着膜を設けた基材フィルムの両面に、着色用添加剤と紫外線吸収剤と光安定化剤とを含む耐熱性のポリプロピレン系樹脂フィルムが積層されている。一方、特許文献4に記載の太陽電池モジュール用裏面保護シートでは、難燃性を向上させるために、ポリフェニレンエーテル製の基材シートの一方又は両方の面側に、ハロゲン質量比が50%以上であるフッ素樹脂層を積層している。
【0005】
これら多層シートからなる太陽電池用バックシートは、一般に、接着剤を介して複数のフィルムが積層されている。そして、特許文献5には、ポリエステル基材、ポリカーボネート系基材、フッ素系基材又はアクリル系基材を積層する際に、耐加水分解性、電気絶縁性及び水分バリア性を有するアクリル系接着剤を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−261085号公報
【特許文献2】特開2000−294813号公報
【特許文献3】特開2003−168814号公報
【特許文献4】特開2011−176193号公報
【特許文献5】特開2009−246360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来の多層シートは、太陽電池用バックシート及びこれを用いた太陽電池モジュールなどにおいて、耐候性、防湿性及びその他の諸特性を、それなりに充足し得るものではあるが、更なる向上が求められている。そして、多層共押出により作製された多層シートは、接着樹脂層の耐湿熱性が劣り、長時間の高温高湿環境において接着性が低下する傾向にある。
【0008】
そこで、本開示は、安価製法である多層共押出法によって作製することができ、接着樹脂層の長期耐湿熱性が高く、耐候性に優れた多層シートを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述の目的において鋭意実験検討を行った結果、以下に示す知見を得た。まず、本発明者は、ポリカーボネート系樹脂組成物、ポリアミド系樹脂組成物、ポリエステル系樹脂組成物、又は変性ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を含有する第1の樹脂層と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物から形成される第2の樹脂層とを積層することにより耐候性、耐熱性、防湿性、電気絶縁性及びその他太陽電池バックシートの要求される諸特性が向上することを見出した。
【0010】
次に、本発明者は、これらの樹脂層の積層方法について検討した。従来の多層シートのように、接着剤を介して複数のフィルムを貼り合せた場合、各樹脂フィルムの製膜、巻き取り、接着剤塗工、乾燥及び貼り合せの各工程を経ることになるため、加工費が大きくなる。これらの工程を省略する方法としては、例えば、押出機を用いて各層の樹脂をそれぞれ溶融し、溶融状態で合流させて接着する共押出製膜や接着層と被接着層を同時に製膜し貼り合せていく方法などが考えられる。
【0011】
しかしながら、共押出製膜などの方法は、一般的に、各層間の接着力の保持が難しく、また、共押出製膜で用いられる接着樹脂は耐熱性の確保が難しく、長期の安定使用には難がある。
【0012】
そこで本発明者は、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントするポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした接着樹脂層を介することで、上述の問題が解決することを見出した。
【0013】
すなわち、本開示は、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含有する樹脂組成物から形成される第1の樹脂層と、ポリフッ化ビニリデン:50〜99質量%及びポリメタクリル酸メチル:1〜50質量%含む樹脂成分100質量部に対して、白色無機顔料を1〜40質量部含有するポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物から形成される第2の樹脂層と、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成される接着樹脂層と、を備え、前記第1の樹脂層と前記第2の樹脂層とが、前記接着樹脂層を介して多層共押出により積層された多層シートを提供する。
この多層シートにおいて、前記接着樹脂層に用いられる前記ポリエステル系ブロック共重合体は、前記ハードセグメントを5〜90質量%含有してもよい。前記接着樹脂層としては、軟化点が60〜190℃の接着樹脂層を用いてもよい。前記接着樹脂層は、JIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.1〜30g/10分であってもよい。また、前記接着樹脂層の厚さは、例えば5〜50μmとすることができる。さらに、前記接着樹脂層は、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成されていてもよい
記第1の樹脂層を構成する樹脂組成物は、難燃剤及び/又は耐候剤を含有していてもよい。
一方、この多層シートは、例えば130〜260℃の温度範囲で、溶融共押出成形により製膜することができる。
更にこの多層シートでは、前記第1の樹脂層上に、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択された1種以上を樹脂成分として含有する樹脂層が積層されていてもよい。
【0014】
本開示に係る太陽電池用バックシートは、前述した多層シートを用いたものである。
この太陽電池用バックシートでは、前記第1の樹脂層の前記接着樹脂層が設けられている表面とは反対の表面側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体を樹脂成分として含有する樹脂層が積層されていてもよい。
また、本開示に係る太陽電池モジュールは、前記太陽電池用バックシートを用いたものである。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、安価製法である多層共押出法によって作製することができ、接着樹脂層の長期耐湿熱性が高く、耐候性に優れた多層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示に係る第1の実施形態の多層シートの構成を模式的に示す図である。
図2】本開示に係る第3の実施形態の太陽電池モジュールの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本開示は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<第1の実施形態>
先ず、本開示に係る第1の実施形態の多層シートについて説明する。図1は本実施形態の多層シート10の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の多層シート10では、第1の樹脂層1と、第2の樹脂層2と、接着樹脂層3とを備え、第1の樹脂層1と第2の樹脂層2とが、接着樹脂層3を介して多層共押出により積層されている。
ここで、第1の樹脂層1は、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含有する樹脂組成物から形成されている。第2の樹脂層2は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物から形成されている。そして、接着樹脂層は、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成されている。
以下、各樹脂層について詳述する。
【0019】
[第1の樹脂層]
第1の樹脂層1は、接着樹脂層3上に、第2の樹脂層2と対向して設けられ、多層シートにおける補強材としての役割を有する。
第1の樹脂層1は、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含有する樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を、主成分として含むことが好ましい。この場合の主成分とは、第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物の樹脂成分中、50質量%以上含まれる樹脂をいう。この樹脂組成物に主成分として含まれる樹脂の含有量は、当該樹脂組成物の樹脂成分に対して、50〜100質量%であることが好ましく、60〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることがさらに好ましい。
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物の主成分として用いることが可能な上述の各樹脂は、市販品を用いることができるが、それら各樹脂について以下に詳述する。
【0020】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)は、ジヒドロキシジアリール化合物と、ホスゲンやジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させて得られる重合体である。ポリカーボネート樹脂の原料は特に限定されない。
ジヒドロキシジアリール化合物としては、例えば、ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、ジヒドロキシジアリールエーテル類、ジヒドロキシジアリールスルフィド類、ジヒドロキシジアリールスルホキシド類、ジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0021】
ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別称:ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン等が挙げられる。
ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類の具体例としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。
ジヒドロキシジアリールエーテル類の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等が挙げられる。
ジヒドロキシジアリールスルフィド類の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等が挙げられる。
ジヒドロキシジアリールスルホキシド類の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等が挙げられる。
ジヒドロキシジアリールスルホン類の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0022】
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物にポリカーボネート樹脂が用いられる場合、原料として、上記ジヒドロキシジアリール化合物の具体例の1種又は2種以上を用いて重合されたポリカーボネート樹脂を用いることができる。
【0023】
ここで、ポリカーボネート樹脂は、その原料となるジヒドロキシジアリール化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別称:ビスフェノールA)が主たる成分として重合されたものであることが、耐熱性、耐湿熱性の点から好ましい。
なお、ここでいう主たる成分とは、ポリカーボネート樹脂に用いられる全ジヒドロキシジアリール化合物が、80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0024】
ポリカーボネート樹脂は複数種が用いられてもよい。その場合、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)が主たる成分として重合されたポリカーボネート樹脂を用いることが、耐熱性、耐湿熱性をより高められるという点でより好ましい。
【0025】
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂(PA樹脂)としては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ−ε−アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ε−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリンラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン2・6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4・6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6・6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン6・12)、ポリオクタメチレンドデカミド(ナイロン6・12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン8・6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン10・6)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン10・10)、ポリドデカメチレンドデカミド(ナイロン12・12)、メタキシレンジアミン−6ナイロン(MXD6、別称:ポリ(メタキシリレンアジパミド))等が挙げられる。
【0026】
また、ポリアミド樹脂は、共重合体であってもよい。共重合体のポリアミド樹脂としては、例えば、カプロラクタム/ラウリンラクタム共重合体、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ラウリンラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、及びカプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体等が挙げられる。これらのポリアミドには、フィルムの柔軟性改質成分として、芳香族スルホンアミド類、p−ヒドロキシ安息香酸及びエステル類等の可塑剤、低弾性率のエラストマー成分、並びにラクタム類が配合されていてもよい。
【0027】
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物にポリアミド樹脂が用いられる場合、ポリアミド樹脂として、メタキシレンジアミン−6ナイロン(MXD6、別称:ポリ(メタキシリレンアジパミド))を用いることが好ましい。
【0028】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)、及びポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。また、ポリエステル樹脂としては、ジオール系単量体と、ジカルボン酸系単量体とを共重合したものを用いることもできる。この場合のジオール系単量体としては、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びポリアルキレングリコール等が挙げられる。また、ジカルボン酸系単量体としては、例えば、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物にポリエステル樹脂が用いられる場合、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリエステル樹脂を用いることが好ましい。これらのうち、ポリブチレンテレフタレート(PBT)がより好ましい。
【0030】
(変性ポリフェニレンエーテル樹脂)
変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)は、芳香族ポリエーテル構造を有するポリフェニレンエーテル(PPE樹脂)と、他の合成樹脂とをアロイ化した樹脂である。PPE樹脂とアロイ化する他の合成樹脂は、特に限定されないが、ポリスチレン系樹脂が好ましい。PPE樹脂と他の合成樹脂との混合による変性が、製造容易の観点から好ましいが、フェノール系モノマーに他のモノマーを共重合させることによる変性等であってもよい。
【0031】
PPE樹脂としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−プロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−ブロムフェニレン−1,4−エーテル)、及びポリ(2−エチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
PPE樹脂とアロイ化するポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン(PS)、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、及びハイインパクトポリスチレン(HIPS)で代表されるスチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物に変性ポリフェニレンエーテル樹脂が用いられる場合、ポリフェニレンエーテル(PPE)と、ハイインパクトポリスチレンとを混合した変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物には、必要に応じて、難燃剤を配合することができる。第1の樹脂層1が難燃剤を含有することにより、本実施形態の多層シートを太陽電池用バックシートや太陽電池モジュールとしたときに、電気的な接続不良や劣化によりアーク放電が発生した場合でも、多層シートを着火し難くすることができる。
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物に配合する難燃剤は、特に限定されるものではなく、例えば、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、及び無機系難燃剤等を使用することができる。
【0035】
塩素系難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、及びパークロロシクロペンタデカン及びクロレンド酸等が挙げられる。
臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA(TBA)、デカブロモジフェニルオキサイド、TBAエポキシオリゴマー、TBAポリカーボネート、オクタブロモジフェニルエーテル、及びトリブロモフェノール等が挙げられる。
リン系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、及びトリスクロロプロピルホスフェート等が挙げられる。
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び三酸化アンチモン等が挙げられる。
【0036】
また、第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物には、紫外線吸収剤、光安定化剤及び酸化防止剤等の耐候剤が配合されていてもよい。これらの耐候剤を配合することにより、多層シート10の耐光性や耐久性を、更に向上させることができる。
耐候剤は、特に限定されない。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチレート系、アクリルニトリル系、金属錯塩系、超微粒子酸化チタン、及び超微粒子酸化亜鉛等を使用することができる。光安定化剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物及びヒンダートピペリジン系化合物等を使用することができる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系、硫黄系及び燐酸系等を使用することができる。
耐候剤はこれら以外にも、例えば、ポリマーを構成する主鎖若しくは側鎖に、前述したベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物からなる光安定化剤又はフェノール系等の酸化防止剤が化学結合しているポリマー型の紫外線吸収剤、光安定化剤又は酸化防止剤等を使用することもできる。
【0037】
第1の樹脂層1を形成する樹脂組成物に、紫外線吸収剤、光安定化剤及び酸化防止剤等の耐候剤を配合する場合、耐候剤が効果を発揮し、衝撃強度等の機械的特性を低下させないといった観点から、耐候剤の総量は、樹脂組成物全体の0.1〜10質量%とすることが好ましい。なお、耐候剤は、前述した難燃剤と併用することもできるが、単独で用いることもできる。
【0038】
第1の樹脂層1のJIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、成形性の観点から、0.5〜25g/10分であることが好ましく、1〜20g/10分であることがより好ましく、2〜15g/10分であることがさらに好ましい。また、第1の樹脂層1の厚さは、25〜500μmが好ましく、30〜400μmがより好ましく、35〜350μmがさらに好ましい。
【0039】
[第2の樹脂層]
第2の樹脂層2(以下、「ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2」ともいう。)は、第2の樹脂層2を構成する樹脂成分中の50質量%以上がポリフッ化ビニリデン樹脂であるポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物により構成されている。ポリフッ化ビニリデン樹脂は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物における樹脂成分中、50質量%以上(50〜100質量%)となる主成分である。ポリフッ化ビニリデン樹脂の含有量は、当該組成物における樹脂成分中、50〜99質量%が好ましく、60〜99質量%がより好ましく、70〜95質量%がさらに好ましい。
このポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に含まれるポリフッ化ビニリデン樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体が好適であるが、フッ化ビニリデンと他の単量体の共重合体であってもよい。
【0040】
ここで、フッ化ビニリデンと共重合体を形成する他の単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン、六フッ化イソブチレン及び各種フルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素化されたビニル化合物や、スチレン、エチレン、ブタジエン及びプロピレンなどの公知のビニル単量体が挙げられる。ただし、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2及び多層シート10全体における耐候性や光安定性を確保するため、ポリフッ化ビニリデン樹脂におけるフッ化ビニリデン以外の単量体の量は、50質量%以下であることが好ましい。
【0041】
前述したポリフッ化ビニリデン樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、懸濁重合又は乳化重合などの一般的な方法で重合することができる。例えば、密閉反応器に水などの溶媒、重合開始剤、懸濁剤(又は乳化剤)、連鎖移動剤などを仕込んだ後、反応器を脱気により減圧してガス状のフッ化ビニリデン単量体を導入し、反応温度を制御しながらフッ化ビニリデン単量体の重合を進めればよい。その際、重合開始剤としては、過硫酸塩のような無機過酸化物や有機過酸化物を用いることができ、具体的には、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート(NPP)やジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0042】
また、連鎖移動剤には、アセトン、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチル、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロエチルアルコール、ホルムアルデヒドジメチルアセタール、1,3−ブタジエンエポキサイド、1,4−ジオキサン、β−ブチルラクトン、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。各種連鎖移動剤の中でも、入手や取り扱いの容易さなどの観点から、アセトン及び酢酸エチルが好適である。更に、懸濁剤(又は乳化剤)には、部分ケン化ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル、アクリル酸系重合体及びゼラチンなどの水溶性ポリマーを使用することができる。
【0043】
一方、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物には、ポリフッ化ビニリデン樹脂以外の樹脂を配合することができ、その樹脂としては、柔軟性や加工性の観点から、ポリメタクリル酸エステル系樹脂が好適である。ここでいう「ポリメタクリル酸エステル系樹脂」は、ACH法、改質ACH法、直接法又はエチレン法などによって製造したメタクリル酸エステルを、ラジカル重合などでポリマー化したポリメタクリル酸エステルである。
【0044】
ポリメタクリル酸エステル系樹脂は、フィルムに製膜した際に他の樹脂との接着性を高める効果がある。ポリフッ化ビニリデン樹脂は他の素材との接着性に劣るが、ポリメタクリル酸エステル系樹脂を配合することにより、接着性を改善することができる。ただし、樹脂成分中のポリメタクリル酸エステル系樹脂量が50質量%を超えると、ポリフッ化ビニリデン樹脂量が少なくなるため、耐候性が低下する。また、ポリメタクリル酸エステル系樹脂量が1質量%未満であると、前述した添加効果が得られ難い。よって、ポリメタクリル酸エステル系樹脂をポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に配合する場合、ポリメタクリル酸エステル系樹脂の含有量は、当該組成物の樹脂成分中、1〜50質量%とすることが好ましく、1〜40質量%とすることがより好ましく、5〜30質量%とすることがさらに好ましい。
【0045】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に配合されるポリメタクリル酸エステル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体に基づくビニル重合体であれば、その構造などは特に限定されない。このメタクリル酸エステル単量体としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル及びメタクリル酸ヘキシルなどが挙げられる。なお、メタクリル酸エステル単量体におけるプロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基などのアルキル基は、直鎖であってもよく、枝分かれしてもよい。
上記メタクリル酸エステル単量体のうち、メタクリル酸メチルが好適であり、ポリメタクリル酸エステル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチルが好適である。
【0046】
また、第2の樹脂層2を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に配合されるポリメタクリル酸エステル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体の単独重合体や、複数のメタクリル酸エステル単量体の共重合体であってもよい。また、このポリメタクリル酸エステル系樹脂は、メタクリル酸エステル以外の公知のビニル化合物であるエチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル及びアクリル酸などに由来する構造単位を有してもよい。
【0047】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に樹脂成分としてポリフッ化ビニリデン樹脂及びポリメタクリル酸エステル系樹脂を含有する場合、ポリフッ化ビニリデン樹脂の含有量は、50〜95質量部が好ましく、60〜95質量部がより好ましく、70〜90質量部がさらに好ましい。また、この場合のポリメタクリル酸エステル系樹脂の含有量は、5〜50質量部が好ましく、5〜40質量部がより好ましく、10〜30質量部がさらに好ましい。
ポリフッ化ビニリデン樹脂の含有量を50〜95質量部とすることで、本実施形態の多層シート10を太陽電池用バックシートとして用いた場合に、十分な耐候性を得ることが可能となる。また、ポリメタクリル酸エステル系樹脂の含有量を5〜50質量部とすることで、接着樹脂層3との接着性を高めることが可能となる。
【0048】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物には、必要に応じて、光反射性を付与する目的で、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、塩基性炭酸鉛及び酸化亜鉛などの白色無機顔料を配合することもできる。本実施形態の多層シート10を、太陽電池用途に使用する場合は、各種白色無機顔料の中でも、屈折率及び着色力が大きく、光触媒作用が少ないルチル型結晶の二酸化チタンが好適である。
【0049】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物中の白色無機顔料の含有量が、第2の樹脂層2を構成する樹脂成分100質量部あたり1質量部未満の場合、目的とする光反射特性が得られない場合がある。また、その白色無機顔料の含有量が、第1の樹脂層を構成する樹脂成分100質量部あたり40質量部を超えると、組成物中の分散が不均一になったり、フィルムの製膜が困難になったりする場合がある。よって、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に白色無機顔料を配合する場合は、その白色無機顔料の含有量は、第2の樹脂層2を構成する樹脂成分100質量部に対して、1〜40質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましく、10〜25質量部がさらに好ましい。これにより、太陽光反射率が大きく、機械的強度、柔軟性が適正で取り扱い性が良好な多層シートが得られる。
【0050】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物には、前述した白色無機顔料と共に、調色用無機顔料が添加されていてもよい。調色用無機顔料には、クロム、亜鉛、鉄、ニッケル、アルミニウム、コバルト、マンガン及び銅などの金属材料の酸化物から、2種以上を選択し、焼成により固溶させた複合酸化物系顔料などを用いることができる。この複合酸化物系顔料は、単独で使用することもできるが、2種以上を混合して使用することもできる。
【0051】
そして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に調色用無機顔料が含有されている場合、第2の樹脂層2を構成する樹脂成分100質量部に対して、0.01〜7質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.5〜3質量部である。これにより、太陽電池モジュールの発電特性に影響がでない範囲で太陽光の反射率を調節し、太陽電池モジュールの外観及び色合いを変えることができる。
【0052】
前述したポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂と、必要に応じて、メタクリル酸エステル系樹脂、白色無機顔料、及び調色用無機顔料などを配合し、溶融混練することにより得ることができる。その際、溶融混練には、二軸押出機、連続及びバッチ式のニーダーなどの加熱装置を備えた各種混合機や混練機を使用することができるが、溶融混練に最適な装置は、汎用性の面から二軸押出機である。また、溶融混練の際には、必要に応じて、前述した効果に影響しない範囲で、分散剤を添加してもよい。
【0053】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂層(第2の樹脂層)2のJIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、成形性の観点から、0.5〜25g/10分であることが好ましく、1〜20g/10分であることがより好ましく、2〜15g/10分であることがさらに好ましい。また、第2の樹脂層2の厚さは、5〜50μmが好ましく、7〜45μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましい。
【0054】
[接着樹脂層]
接着樹脂層3は、前述の第1の樹脂層1と第2の樹脂層2との間に位置し、第1の樹脂層1と第2の樹脂層2との接着層としての役割を有する。
接着樹脂層3は、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成される。
【0055】
接着樹脂層3を形成する樹脂組成物(以下、「接着樹脂組成物」ともいう。)は、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を主成分として含むことが好ましい。この場合の主成分とは、接着樹脂組成物の樹脂成分中、50質量%以上含まれる樹脂をいう。この接着樹脂組成物に主成分として含まれるポリエステル系ブロック共重合体の含有量は、50〜100質量%であることが好ましく、65〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0056】
ポリエステル系ブロック共重合体は、ハードセグメントとして、芳香族ポリエステルの構造単位を有すると共に、ソフトセグメントとして、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルの構造単位を有する。
なお、「ハードセグメント」及び「ソフトセグメント」の各文言は、ブロック共重合体である熱可塑性エラストマーにおいて慣用されている意味と同じである。一般的に、「ハードセグメント」は、塑性変形を防止する架橋ゴムの架橋点の役目を果たす分子拘束部分を表し、「ソフトセグメント」は、ゴム弾性を示す柔軟性部分を表す。
【0057】
ポリエステル系ブロック共重合体は、当該共重合体中、芳香族ポリエステルの構造を有するハードセグメントを5〜90質量%含有していることが好ましい。ハードセグメントを5〜90質量%含有するポリエステル系ブロック共重合体を含む樹脂組成物から形成される接着樹脂層3であれば、第1の樹脂層1及び第2の樹脂層2に対する接着性を高めることが可能となる。この接着性を高める観点から、ポリエステル系ブロック共重合体において、ハードセグメントの含有量は5〜85質量%がより好ましく、5〜80質量%がさらに好ましく、10〜50質量%が特に好ましい。同様に、ポリエステル系ブロック共重合体におけるソフトセグメントの含有量は、当該共重合体中、10〜95質量%が好ましく、15〜90質量%がより好ましく、20〜90質量%がさらに好ましく、50〜85質量%が特に好ましい。また、接着樹脂層3の接着力を高める観点から、ポリエステル系ブロック共重合体において、ソフトセグメントの方がハードセグメントよりも多く含まれていることが好ましい。
ここで、ポリエステル系ブロック共重合体におけるハードセグメント及びソフトセグメントのそれぞれの含有量(質量%)は、NMRを用いて、水素原子の化学シフトとその含有量に基づいて算出される値である。
【0058】
上記ポリエステル系ブロック共重合体としては、ハードセグメントに芳香族ポリエステル単位を有すると共にソフトセグメントにポリエーテル単位を有するポリエステル・ポリエーテル型ブロック共重合体、ハードセグメントに芳香族ポリエステル単位を有すると共にソフトセグメントに脂肪族ポリエステル単位を有するポリエステル・ポリエステル型ブロック共重合体が好適である。
そして、接着樹脂層3は、ポリエステル系ブロック共重合体として、ポリエステル・ポリエーテル型ブロック共重合体、及び/又はポリエステル・ポリエステル型ブロック共重合体を含む樹脂組成物から形成されていることが好ましい。
【0059】
(ポリエステル系ブロック共重合体のハードセグメント)
ポリエステル系ブロック共重合体におけるハードセグメントは、芳香族ポリエステルの構造を有する部分であり、芳香族ポリエステルの構造のみで構成されていてもよく、芳香族ポリエステル以外の他の構造を含んでいてもよい。
芳香族ポリエステルの構造は、ハードセグメントにおける主たる構造であることが好ましい。この場合の主たる構造とは、ハードセグメント中、芳香族ポリエステルの構造が50質量%以上含まれる場合をいう。
【0060】
ハードセグメントに有する芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体とから形成される芳香族ポリエステルであることが好ましい。
【0061】
上記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、及び3−スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。上記芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、芳香族ジカルボン酸のアルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル及び酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体のうちの1種又は2種以上がハードセグメントの形成に用いられていてもよい。
【0062】
ハードセグメントの形成成分として用い得る上記ジオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、及び芳香族ジオール等が挙げられる。脂肪族ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオールであり、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びデカメチレングリコール等が挙げられる。脂環族ジオールの具体例としては、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、及びトリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。芳香族ジオールの具体例としては、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、及び4,4’−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニル等が挙げられる。上記ジオールのエステル形成性誘導体としては、例えば、ジオールのアセチル体及びアルカリ金属塩等が挙げられる。これらのジオール及びそのエステル形成性誘導体のうちの1種又は2種以上がハードセグメントの形成に用いられていてもよい。
【0063】
(ポリエステル系ブロック共重合体のソフトセグメント)
ポリエステル系ブロック共重合体におけるソフトセグメントは、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルの構造を有する部分であり、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルの構造のみで構成されていてもよく、他の構造部分を含んでいてもよい。
ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルの構造は、ソフトセグメントにおける主たる構造であることが好ましい。この場合の主たる構造とは、ソフトセグメント中、ポリエーテル又は脂肪族ポリエステルの構造が50質量%以上含まれる場合、又はポリエーテル及び脂肪族ポリエステルの両方の構造部分の総量で50質量%以上含まれる場合をいう。
【0064】
ソフトセグメントに有するポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール等が挙げられる。
また、ポリエステル系ブロック共重合体におけるソフトセグメントに有する脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、及びポリエチレンアジペート等が挙げられる。
これらのポリエーテル及び脂肪族ポリエステルは、1種又は2種以上をソフトセグメントに有していてもよい。
【0065】
ポリエステル系ブロック共重合体は、市販品を用いることもできる。この市販品としては、例えば、三菱化学株式会社製のポリエステル系熱可塑性エラストマーである商品名「プリマロイ(登録商標)」シリーズ、東洋紡株式会社製の熱可塑性ポリエステルエラストマーである商品名「ペルプレン(登録商標)」シリーズ、東レ・デュポン株式会社製の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーである商品名「ハイトレル(登録商標)」シリーズ等が挙げられる。
【0066】
接着樹脂層3は、軟化点が60〜190℃にあることが好ましい。軟化点が60〜190℃の接着樹脂層3を用いることで、第1の樹脂層1及び第2の樹脂層2への接着性を高めることが可能となる。接着樹脂層3の軟化点は、より好ましくは60〜180℃、さらに好ましくは70〜170℃である。
なお、本開示において、軟化点は、JIS K7206に規定される「ビカット軟化温度(VST)試験方法」に準拠した方法により、試験荷重10N、昇温速度50℃/hの条件下で測定された値である。
【0067】
接着樹脂層3のJIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、成形性と接着性の観点から、0.1〜30g/10分が好ましく、1〜30g/10分がより好ましく、3〜30g/10分がさらに好ましい。また、接着樹脂層3の厚さは、5〜50μmが好ましく、7〜45μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましい。
【0068】
[各層の厚さ]
前述した各層の厚さは、特に限定されるものではなく、用途や求められる特性に応じて、適宜設定することができる。例えば、第1の樹脂層1の厚さを50〜500μmとすると共に、第2の樹脂層2及び接着樹脂層3の厚さをそれぞれ5〜50μmとすることができる。
各樹脂層の厚さを上記数値範囲とすれば、本実施形態の多層シート10を太陽電池用バックシートとして、太陽電池モジュールに好適に用いることができる。
【0069】
[MFR]
本実施形態の多層シート10を構成する各樹脂層の上記メルトフローレート(MFR)は、上述の通り、第1の樹脂層1及び第2の樹脂層2のMFRは0.5〜25g/10分であることが好ましく、接着樹脂層3のMFRは、0.1〜30g/10分であることが好ましい。
各樹脂層のMFRを上記数値範囲とすることで、溶融共押出成形法によって製膜する場合に、流路内を流れる溶融状態の樹脂の流速分布が均一化し、等速で合流すると共にダイスから速度変動が小さい状態で樹脂が吐出されると考えられる。そのため、各層の厚さにバラツキが少なく、接着状態が良好な多層シートを製造することが可能となる。
【0070】
ここで、各樹脂層のMFRは、これらに含有される樹脂成分の重合度(あるいは分子量)を変えることなどにより調整することができる。具体的には、樹脂成分を重合する際の重合温度、重合開始剤の種類と量、及び連鎖移動剤の種類と量などによって調整操作することができる。また、各樹脂層のMFRが、前述した範囲内となるような市販の樹脂を用いてもよい。
【0071】
[製造方法]
次に、前述の如く構成された多層シート10の製造方法について説明する。
第1の樹脂層1と第2の樹脂層2とが接着樹脂層3を介して積層された多層シート10は、第1の樹脂層1、第2の樹脂層2、及び接着樹脂層3を多層共押出により製膜することで製造される。
より具体的には、本実施形態の多層シート10は、第1の樹脂層1、第2の樹脂層2、及び接着樹脂層3を構成する各樹脂組成物を、それぞれ別の押出機で溶融させた後、合流して一体化する共押出法により製膜することができる。
【0072】
材料の温度を例えば130〜260℃にして、溶融共押出成形することが好ましい。これにより、各層を構成する樹脂組成物を、安定した溶融流動状態にすると共に、熱分解などの発生を防止することができる。製膜時のより好適な材料温度は180〜250℃である。
【0073】
共押出はTダイ共押出法及びインフレーション共押出法などで行うことができる。また、押出機は、単軸押出機や二軸(多軸)押出機などを使用することができ、押出機のシリンダーやスクリューには、一般的なものを用いることができる。更に、二軸押出機の場合、二本の軸が平行なもの及びスクリュー軸が斜交したコニカルタイプのいずれでも使用することができ、スクリューフライトのかみ合い型、非かみ合い型、スクリュー回転が同方向のもの及び異方向のものいずれでもよい。
【0074】
スクリューデザインは、単軸押出機の場合には、ミキシング部としてダルメージ型、ローター型、フルートミキシング型など種々のものを用いることができ、これらのミキシング部を持たない形状でも溶融し、シート化することが可能である。また、二軸押出機では、ミキシング部として、ニーディングディスク、ローターセグメント、逆ねじフライトなどを配置したものでもよいが、これらを配置しないフルフライトスクリューでもよい。シリンダーは、ベント式及びノーベント式のいずれでも使用することができる。
【0075】
第1の樹脂層1、第2の樹脂層2、及び接着樹脂層3を構成する各樹脂組成物の合流、並びに多層シート10の製膜については、フィードブロックで合流させた後、フラットダイ(Tダイ)などに流入させて吐出した溶融状態のシートを、冷却しながら引き取る方法などを適用することができる。その際、フラットダイとしては、T型マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイ及びスクリューダイなどを使用することができる。また、マルチマニホールドダイに流入させて溶融状態のシートを吐出させる方法や、インフレーションダイから吐出させる方法などを適用してもよい。
【0076】
また、共押出法により製膜する場合、押出機からの材料の吐出速度を調整することで各樹脂層の厚さを、前述した範囲内に調整することができる。吐出速度の調整は、単軸押出機の場合は、スクリュー回転数を変更することにより行う。また、二軸押出機の場合には、フィーダーにより押出機に投入する原料の投入速度を変更したり、押出機のスクリュー回転数を変更したり、ギヤポンプの回転速度を変更したりすることで行うことができる。
【0077】
上述の共押出法により、成形温度等を調整することで、第1の樹脂層1及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層(第2の樹脂層)2が、それぞれ接着樹脂層3と融着された多層シート10とすることが好ましい。なお、共押出法以外に、例えば、個別に製膜された第1の樹脂層1、接着樹脂層3、及び第2の樹脂層2をこの順に積層し、これらの各樹脂層が溶融又は軟化する温度条件下で加圧して、各樹脂層の層間を融着することも可能である。
【0078】
共押出法では、第1の樹脂層1、第2の樹脂層2、及び接着樹脂層3を構成する各樹脂組成物を溶融状態とし、それらの溶融物を共押出法にて積層する。そのため、多層シート10は、第1の樹脂層1と接着樹脂層3との界面、及び第2の樹脂層2と接着樹脂層3との界面が、熱融着された状態とすることが可能である。
このように、多層シート10の各樹脂層間には、各樹脂層がそれぞれ溶融又は軟化した状態で接着することにより、各樹脂層間に、融着界面を形成することが可能である。
【0079】
第1の樹脂層1と、第2の樹脂層2とに融着界面を形成することが可能な接着樹脂層3とすることで、従来の有機溶剤等を含む溶剤型接着剤で懸念される各樹脂層1、2に対する溶剤による損傷のおそれをなくすことができる。また、例えば、ホットメルト接着剤等のような無溶剤型接着剤に比べて、高い接着力を容易に確保することができると共に100℃程度の高温においても接着力の低下が少ないものとすることができる。さらに、共押出法により積層することで、接着剤を用いる場合に比べて、製造工程を簡略化でき、製造コストを低減することができる。
【0080】
以上詳述したように、本実施形態の多層シート10は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2を用いているため、耐候性、耐熱性に優れる。また、第1の樹脂層1を特定の樹脂を含むものとし、さらに、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する接着樹脂層を用いているため、第1の樹脂層1と第2の樹脂層2との層間接着性を向上させることができる。その結果、太陽電池用バックシートとして好適な耐候性、耐熱性、機械的強度、弾性率、電気絶縁性及び防湿性に優れ、かつ層間接着性が良好な多層シートを実現することが可能となる。
【0081】
(第1の実施形態の変形例)
次に、本実施形態の変形例に係る多層シートについて説明する。本変形例の多層シートは、図示を省略するが、図1に示す多層シート10における第1の樹脂層1上に、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択された1種以上を樹脂成分として含有する樹脂層(第3の樹脂層)が設けられている。この第3の樹脂層は、第1の樹脂層の接着樹脂層が設けられている表面とは反対側の表面に設けられる。
【0082】
[第3の樹脂層]
第3の樹脂層として用いられるポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂は、それぞれ、前述の第1の樹脂層1の説明で述べたポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂と同様のものを用いることができる。
第3の樹脂層として用いられるポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、ポリメチルペンテン、及びポリシクロオレフィンなどが挙げられる。
【0083】
第3の樹脂層には、多層シートとは別途成形された樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムを多層シートにおける第1の樹脂層上に設けることで、第3の樹脂層が形成される。樹脂フィルムとしては市販品を用いることもできる。
樹脂フィルムにより第3の樹脂層を設ける場合、接着剤を介して、第1の樹脂層と第3の樹脂層とを接着することができる。この際の接着剤も市販品を用いることができ、例えば、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、合成ゴム系接着剤、及びシリコーン系接着剤等を用いることができる。
なお、第3の樹脂層は、第1の実施形態に係る多層シート10における第1の樹脂層1上に、押出成形によって製膜されることで形成されてもよく、多層シート10における各樹脂層の形成と共に、共押出により形成されてもよい。
【0084】
本変形例の多層シートでは、第1の樹脂層上に、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択された1種以上を樹脂成分として含有する第3の樹脂層が設けられているため、多層シートの電気絶縁性を向上させることができる。よって、第1の樹脂層を厚く成形し難い場合などにおいても、第1の樹脂層を比較的厚く成形することなく、多層シートの電気絶縁性を向上させることができる。
【0085】
(第2の実施形態)
次に、本開示の第2の実施形態に係る太陽電池用バックシート(以下、単にバックシートともいう。)について説明する。本実施形態のバックシートは、前述した第1の実施形態又はその変形例の多層シートを用いたものである。
【0086】
本実施形態のバックシートは、結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、化合物系及び有機系などの各形式の太陽電池に用いることが可能である。アモルファスシリコンなどを用いた薄膜太陽電池では、結晶系太陽電池と比べて、高度の防湿性が要求される場合がある。このような場合には、前述した第1の実施形態又はその変形例の多層シート上に、更に、例えば無機酸化物等からなる高い防湿性を有する防湿層や防湿コート層を設けてもよい。
【0087】
本実施形態のバックシートは、上記第1の樹脂層と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物から形成される第2の樹脂層とが、上記ポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成される接着樹脂層を介して積層された多層シートを使用している。こうした多層シートを用いるため、バックシートは、耐候性、耐熱性、機械的強度、弾性率、電気絶縁性及び防湿性等の太陽電池用バックシートに要求される諸特性に優れ、難燃性を有し、層間接着性も良好である。更にこれを共押出法による一括成形で積層一体化することもでき、安価な生産コストで実現できる。
【0088】
(第2の実施形態の変形例)
次に、第2の実施形態の変形例に係るバックシートについて説明する。本変形例のバックシートは、前述した第1の実施形態又はその変形例の多層シートを用いたものである。本変形例のバックシートは、多層シートにおける第1の樹脂層の接着樹脂層が設けられている表面とは反対の表面側にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を樹脂成分として含有する樹脂層(EVA樹脂層)が積層されている。
【0089】
本変形例に係るバックシートに第1の実施形態に係る多層シート10が用いられる場合、第1の樹脂層の接着樹脂層が設けられている表面とは反対の表面に、EVA樹脂層が積層される。
また、本変形例に係るバックシートに第1の実施形態の変形例に係る多層シートが用いられる場合、前述の第3の樹脂層上に、EVA樹脂層が積層される。
【0090】
[EVA樹脂層]
EVA樹脂層は、太陽電池モジュール用封止材として一般に使用されているEVA樹脂組成物により形成することができる。このようなEVA樹脂組成物としては、例えば、酢酸ビニル含有率が10〜30質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を主成分とし、EVA樹脂100質量部に対して、架橋剤として100℃以上でラジカルが発生する有機過酸化物を1〜5質量部配合したものなどが挙げられる。
【0091】
本変形例のバックシートでは、第1の樹脂層の接着樹脂層が設けられている表面側とは反対側の表面側にEVA樹脂層を設けたことにより、バックシートと封止材とを一体化した構造となっている。そのため、一般的な太陽電池モジュールの組み立て工程では、ガラス、封止材シート、セル、封止材シート、及びバックシートを順に積層するが、その際の封止材シートとバックシートとの積層作業を省略することができる。加えて、本変形例のバックシートでは、太陽電池モジュールにおける封止材とバックシートのずれを防止することができる。
なお、EVA樹脂層は、第2の樹脂層の接着樹脂層が設けられている表面とは反対の表面側に設けられていてもよい。
【0092】
(第3の実施形態)
次に、本開示の第3の実施形態に係る太陽電池モジュールについて説明する。本実施形態の太陽電池モジュールは、前述した第2の実施形態又はその変形例のバックシートを備える。図2は本実施形態の太陽電池モジュールの構造を模式的に示す断面図である。図2に示すように、本実施形態の太陽電池モジュール11は、光起電力素子である太陽電池セル15が、EVA樹脂などの合成樹脂からなる封止材13により封止されている。
【0093】
そして、太陽光16が照射される面(受光面)には、ガラスなどからなる透明基板12が積層され、裏面側(反受光面側)には前述した第2の実施形態のバックシート(多層シート10)が積層されており、これらの周囲には、フレーム14が設けられている。その際、バックシート(多層シート10)は、第1の樹脂層が封止材13側になるように、配置される。
【0094】
本実施形態の太陽電池モジュール11は、バックシート(多層シート10)に、PC樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、又は変性PPE樹脂を含有する樹脂組成物から形成される第1の樹脂層と、PVDF系樹脂組成物から形成される第2の樹脂層と、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成される接着樹脂層を介して、多層共押出により積層された多層シートを使用している。この多層シートが用いられるため、太陽電池モジュール11は、耐候性、耐熱性、機械的強度、弾性率、電気絶縁性及び防湿性に優れており、高い信頼性が得られる。
【0095】
なお、本実施形態は、以下のような構成もとることができる。
[1]ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含有する樹脂組成物から形成される第1の樹脂層と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物から形成される第2の樹脂層と、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテル及び脂肪族ポリエステルのうちの何れか一方又は両方をソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成される接着樹脂層と、を備え、前記第1の樹脂層と前記第2の樹脂層とが、前記接着樹脂層を介して多層共押出により積層された多層シート。
[2]前記ポリエステル系ブロック共重合体は、前記ハードセグメントを5〜90質量%含有する前記[1]に記載の多層シート。
[3]前記接着樹脂層の軟化点が、60〜190℃である前記[1]又は[2]に記載の多層シート。
[4]前記接着樹脂層は、JIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.1〜30g/10分である前記[1]〜[3]の何れか1つに記載の多層シート。
[5]前記接着樹脂層の厚さが5〜50μmである前記[1]〜[4]の何れか1つに記載の多層シート。
[6]前記接着樹脂層は、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリエステル系ブロック共重合体を含有する樹脂組成物から形成されている前記[1]〜[5]の何れか1つに記載の多層シート。
[7]前記第2の樹脂層を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン:50〜99質量%及びポリメタクリル酸メチル:1〜50質量%含む樹脂成分100質量部に対して、白色無機顔料を1〜40質量部含有する前記[1]〜[6]の何れか1つに記載の多層シート。
[8]前記第1の樹脂層を構成する樹脂組成物は、難燃剤及び耐候剤のうちの何れか一方又は両方を含有している前記[1]〜[7]の何れか1つに記載の多層シート。
[9]130〜260℃の温度範囲で、溶融共押出成形により製膜されたものである前記[1]〜[8]の何れか1つに記載の多層シート。
[10]前記第1の樹脂層上に、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリアミド樹脂からなる群より選択された1種以上を樹脂成分として含有する樹脂層が積層されている前記[1]〜[9]の何れか1つに記載の多層シート。
[11]前記[1]〜[10]の何れか1つに記載の多層シートを用いた太陽電池用バックシート。
[12]前記第1の樹脂層の前記接着樹脂層が設けられている表面とは反対の表面側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体を樹脂成分として含有する樹脂層が積層されている前記[11]に記載の太陽電池用バックシート。
[13]前記[11]又は[12]に記載の太陽電池用バックシートを備える太陽電池モジュール。
【実施例】
【0096】
以下、本開示に係る実施例及び比較例を挙げて、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらによって限定されない。なお、以下の説明においては、特に断りがない限り、MFRの値は、JIS K7210のA法に基づいて、230℃、2.16kg荷重で測定された値である。
【0097】
[実施例1]
<原料>
第1の樹脂層の原料には、ポリカーボネート樹脂(帝人株式会社製、商品名:パンライト(登録商標)L1225;MFR=10g/10分)を用いた。
接着樹脂層の原料には、ハードセグメントに芳香族ポリエステルの構造を32質量%有すると共に、ソフトセグメントにポリエーテルの構造を68質量%有するポリエステル系ブロック共重合体(三菱化学株式会社製、商品名:プリマロイ(登録商標)A1700、MFR:10g/10分、軟化点:74℃)を用いた。
【0098】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物から形成される第2の樹脂層の原料には、白色無機顔料としてルチル型結晶の二酸化チタン粉末:20質量部と、ポリフッ化ビニリデン樹脂(MFR:5g/10分):80質量部と、ポリメタクリル酸メチル樹脂(MFR:2g/10分):20質量部を配合したものを用いた(ブレンド材のMFR:4g/10分)。この配合材料をタンブラーにてドライブレンドし、スクリュー径30mm、L/D=40の二軸押出機によって混練して、第2の樹脂層の原料を準備した。
【0099】
<多層シートの製造>
多層共押出用設備として単軸押出機3台を3種3層のフィードブロックに接続し、更にこのフィードブロックで合流した3層の樹脂が、リップ幅600mmのコートハンガーダイに流入するように接続した。なお、単軸押出機3台の仕様は、以下の通りである。
・押出機1(第1の樹脂層用):スクリュー径90mm、L/D=30、スクリューはフルフライトスクリュー。
・押出機2(第2の樹脂層用):スクリュー径40mm、L/D=30、スクリューはフルフライトスクリュー。
・押出機3(接着樹脂層用):スクリュー径40mm、L/D=30、スクリューはフルフライトスクリュー。
【0100】
次に、前述した各樹脂層を形成する原料を、それぞれ押出機1〜3のホッパーに入れ、以下の条件で押出機を運転した。
・押出機1(第1の樹脂層用):スクリュー回転数100回転/分、吐出速度150kg/時間、押出機バレル設定温度230℃。
・押出機2(第2の樹脂層用):スクリュー回転数25回転/分、吐出速度15kg/時間、押出機バレル設定温度230℃。
・押出機3(接着樹脂層用):スクリュー回転数25回転/分、吐出速度15kg/時間、押出機バレル設定温度230℃。
【0101】
押出機1〜3から吐出させた樹脂は、フィードブロックにて合流し、リップ開度0.5mmに設定したコートハンガーダイから吐出させ、引取機に導入し、2本の冷却ロールで挟み込んで冷却して、多層シートを得た。得られた多層シートは、その後、巻取機に導入し、ロール状に巻き取った。この実施例1の多層シートにおける各層の厚さは、PC樹脂層(第1の樹脂層)が300μm、接着樹脂層が20μm、PVDF系樹脂層(第2の樹脂層)が20μmで、各層間は完全に接着していた。
【0102】
<太陽電池モジュールの製造>
次に、前述した方法で作製した実施例1の多層シ−トを使用して、太陽電池モジュールを製造した。具体的には、厚さ3mmのガラス板、厚さ400μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材シ−ト、直列配線を組んだ4枚の多結晶シリコンセル、封止材シート、バックシート(実施例1の多層シート)の順に積層し、真空ラミネータ中にて1気圧、135℃で10分間加圧、加熱して積層し、太陽電池モジュ−ルを製造した。
【0103】
<評価方法>
(1)多層シートの各層の接着力評価
JIS K6854−3に規定される「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第3部:T型はく離」に準拠し、実施例1の多層シートにおける各層間のはく離接着強さを室温(25℃)の下、測定した。このとき、サンプルの形状は、幅15mm×長さ(接着部)250mmの短冊状とし、剥離試験の際の引張速度を200mm/分とした。
また、この多層シートを、温度100℃の環境下に100時間放置した後のはく離接着強さ、並びに温度125℃かつ湿度100%の環境下に100時間放置した後のはく離接着強さについても評価した。
さらに、温度85℃かつ湿度85%の環境下に1000時間放置した後及び3000時間放置した後のはく離接着強さについても評価した。
【0104】
(2)太陽電池モジュールの耐候性評価
JIS C8990の10.13の高温高湿試験に準拠して、温度85℃、湿度85%、1000時間の環境試験を実施し、ソーラーシミュレーターにて試験前後の最大電力を測定し、最大電力の低下率を評価した。同様の測定を、3000時間経過後にも行った。加えて、3000時間経過後のモジュールの外観を観察した。
【0105】
[実施例2]
第1の樹脂層の原料として、メタキシレンジアミンとアジピン酸との重縮合反応から得られる結晶性のポリアミド樹脂:メタキシレンジアミン−6ナイロン(三菱ガス化学株式会社製、商品名:ナイロンMXD6、MFR:5g/10分)を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0106】
[実施例3]
第1の樹脂層の原料として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチック株式会社製、商品名:ジュラネックス(登録商標)700FP、MFR:7g/10分)を用いたこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0107】
[実施例4]
第1の樹脂層の原料として、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、商品名:ユピエース(登録商標)LN40、MFR:11g/10分)を用いたこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0108】
[実施例5]
第2の樹脂層の原料として、ポリフッ化ビニリデン樹脂:55質量部と、ポリメタクリル酸メチル樹脂:45質量部を準備したこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した(第2の樹脂層を形成するブレンド材のMFR:2g/10分)。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0109】
[実施例6]
第2の樹脂層の原料として、ポリフッ化ビニリデン樹脂:90質量部と、ポリメタクリル酸メチル樹脂:10質量部を準備したこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した(第2の樹脂層を形成するブレンド材のMFR:6g/10分)。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0110】
[実施例7]
接着樹脂層の原料として、ハードセグメントに芳香族ポリエステルの構造を19質量%有すると共に、ソフトセグメントにポリエーテルの構造を81質量%有するポリエステル系ブロック共重合体(三菱化学株式会社製、商品名:プリマロイ(登録商標)B1900NS、MFR:24g/10分、軟化点:92℃)を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0111】
[実施例8]
接着樹脂層の原料として、ハードセグメントに芳香族ポリエステルの構造を28質量%有すると共に、ソフトセグメントにポリエーテルの構造を72質量%有するポリエステル系ブロック共重合体(東洋紡株式会社製、商品名:ペルプレン(登録商標)P95C、MFR:17g/10分、軟化点:162℃)を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0112】
[実施例9]
実施例1と同様の原料を準備し、押出機1のスクリュー回転数を10回転/分、吐出速度15kg/時間に変更して、第1の樹脂層の厚みを30μmとした。その多層シートの第1の樹脂層上にウレタン系接着剤を塗布した後、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ320μm)を加熱及び加圧することにより接着し、第1の樹脂層、接着樹脂層及び第2の樹脂層を備える多層シートとPETフィルムとを一体化した、多層シートを作製したこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製し、評価した。また、この多層シートを用いて、実施例1と同様の方法で太陽電池モジュ−ルを作製し、評価した。
【0113】
[比較例1]
接着樹脂層の原料として、水添スチレン系熱可塑性エラストマーであるスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:タフテック(登録商標)M1943、MFR:8g/10分)を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。初期の剥離強度は十分であったが、温度85℃、湿度85%の環境下に1000時間、3000時間保持したところ、剥離強度は非常に小さいものとなった。また、太陽電池モジュールを作製し、環境試験を実施したところ、最大電力の低下率は大きいものであった。
【0114】
[比較例2]
接着樹脂層の原料として、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学株式会社製、商品名:ボンドファースト(登録商標)7B)を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。この比較例2の多層シートは、初期の剥離強度が非常に小さいものであったため、各種評価を行うことができなかった。
【0115】
[比較例3]
第1の樹脂層の原料として、高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン株式会社製、商品名:ノバテック(登録商標)HF560;MFR=7.0g/10分)を用いたこと以外は前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。この比較例3の多層シートは、初期の剥離強度が非常に小さいものであったため、各種評価を行うことができなかった。
【0116】
以上の評価結果を、下記表1及び表2にまとめて示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
実施例1〜9の多層シートでは、室温(25℃)、温度100℃の100時間後、並びに温度125℃かつ湿度100%の100時間後のはく離接着強さが、いずれも10N/15mmを超える値で材破(材料破壊)する結果となり、各層間で高い接着力を示した。なお、ここでいう「材破」とは、第1の樹脂層又は第2の樹脂層が剥離するよりも先に、材料破壊に至ったことをいう。
【0120】
また、実施例1〜9の多層シートでは、温度85℃かつ湿度85%の1000時間の環境試験後のはく離接着強さが10N/15mmを超える値で材破(材料破壊)する結果となり、長時間の環境試験後においても各層間で高い接着力を示した。さらにこの環境試験の3000時間後という長時間後においても、実施例1〜9の多層シートでは、剥離接着強さが著しく低下することなく、高い接着力が維持されることが確認された。
【0121】
さらに、実施例1〜9の多層シートをバックシートに使用して作製した太陽電池モジュールでは、高温高湿の環境試験後においても最大電力の低下率が小さかった。これは多層シートにおける各樹脂層間の接着強度が維持されていたことにより太陽電池モジュール内部への水分の浸透が少なく、太陽電池セルの特性が良好に維持されたためと考えられる。
【0122】
以上の結果から、本開示によれば、耐候性、耐熱性及び防湿性に優れ、かつ層間接着性が良好で、太陽電池用バックシートとして好適な多層シートを実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0123】
1 第1の樹脂層
2 第2の樹脂層
3 接着樹脂層
10 多層シート
11 太陽電池モジュール
12 透明基板
13 封止材
14 フレーム
15 太陽電池セル
16 太陽光
図1
図2